JP3841561B2 - 運動変換装置及び動力舵取装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転運動から直線運動へ、又は直線運動から回転運動への運動変換のために用いられる運動変換装置、及びこの装置を用いてなる動力舵取装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ステアリング操作に応じて操舵補助用の電動モータを駆動し、このモータの回転力を舵取機構に伝えて操舵補助を行わせる構成とした電動式の動力舵取(パワーステアリング)装置が実用化されている。この種の動力舵取装置の多くは、操向車輪(一般的には左右の前輪)に連結された舵取り軸(ラック・ピニオン式舵取機構におけるラック軸等)の周辺に操舵補助用のモータを配し、該モータの回転力を舵取り軸に直接的に伝え、該舵取り軸を軸長方向に移動させて舵取りを補助する構成としてある。
【0003】
このような構成の実現のためには、モータの回転を舵取り軸の軸長方向の移動に変換するための運動変換装置が必要であり、従来においては、例えば、特開昭61−191468号公報等に開示されている如く、ボールねじを利用した運動変換装置が広く用いられている。
【0004】
この運動変換装置は、舵取り軸の外周にねじ溝を形成する一方、該舵取り軸を支持するハウジングの内部に、前記ねじ溝に多数のボールを介して螺合するボールナットを軸方向の移動を拘束して配し、該ボールナットに操舵補助用のモータの回転力を伝えて回転させ、この回転に伴う前記ねじ溝の螺進を利用して、該ねじ溝が形成された舵取り軸を軸方向に移動させる構成としたものである。
【0005】
このような運動変換装置は、ボールナットの回転から舵取り軸の軸方向移動への運動変換が両者間に介在するボールの転動を伴って行われるから、高い伝動効率が得られる上、、舵取り軸の周辺の限られたスペースに、操舵補助用のモータを含めてコンパクトに構成することができ、配設スペースの削減要求に応え得るものとなっている。
【0006】
ところが、以上の如きボールねじ式の運動変換装置においては、舵取り軸外周のねじ溝の形成に高い精度が要求され、多大の加工工数を要するという問題があり、また舵取り軸とボールナットとの間での前記ボールを介した螺合状態の調整に多大の手間を要し、組み立て工数が増すという問題があった。
【0007】
また、ねじ溝と螺合する多数のボールは、前記ボールナットに付設された循環機構により循環せしめられる構成となっており、該ボールナットの構成が複雑となる問題があり、更に、前記循環機構中での循環に伴って各ボールの衝突音が発生することが避けられず、この衝突音が、耳障りな異音としてドライバに聴取されるという不具合があった。
【0008】
このような事情により電動式の動力舵取装置においては、操舵補助用のモータの回転を舵取り軸に伝える用途に用いるべく、ボールねじ式の運動変換装置における前述した問題を解消し得ると共に、ボールねじ式の運動変換装置と同等の高い伝動効率が得られ、コンパクトに構成し得る新規の運動変換装置の実現が切望されている。
【0009】
このような切望に応え得る運動変換装置として、例えば、特公昭59-12898号公報に開示されている運動変換装置がある。この装置は、軸長方向への移動自在に支持された移動軸と、軸回りの回転自在に支持され、前記移動軸の外側を同軸的に囲繞する回転筒と、該回転筒の内部に偏心保持され、回転自在な内輪を周方向の一か所にて移動軸の周面に係合させてある複数の送りリングとを備えて構成されている。送りリングとしては、前記移動軸の外径よりも十分に大きい内径を有する内輪と外輪との間に、ボール、コロ等の多数の転動体を備えたころがり軸受が用いられている。
【0010】
また特開昭59−9351号公報には、移動軸の外周面にねじ溝を形成し、このねじ溝に送りリングの内輪に周設された係合突起を係合させて、両者の係合を強化せしめた同様の運動変換装置が開示されている。
【0011】
これらの運動変換装置においては、回転筒が軸回りに回転した場合、該回転筒に保持された送りリングが内輪と移動軸との係合を保って回転し、該移動軸は、内輪との係合部における軸方向分力の作用により軸方向に移動せしめられ、回転筒の回転が移動軸の軸方向移動に変換される。
【0012】
このとき送りリングの転動は、内輪と外輪との間に介在するボール、コロ等の転動体を介して生じるから、前述した運動変換は、ボールねじ式の運動変換装置と略同等の伝動効率にてなされる。またこれらの転動体は、内輪と外輪との間に相互間の位置を変えることなく保持されているから、転動体同士の衝突が発生せず、静粛性を高めることができる。更に、回転筒は、その内側に複数の送りリング(軸受)を保持させただけの簡素な構成であり、ボールねじ式の運動変換装置に比較して構成の大幅な簡素化が達成される。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、以上の如く構成された運動変換装置においても、良好な運動変換動作を行わせるためには、前記送りリングと移動軸との間の係合状態の調整が不可欠である。
【0014】
特公昭59-12898号公報に開示された運動変換装置において、複数の送りリング5(1つのみ図示)は、図8に示す如く、回転筒6の該当位置に、前記送りリング5の外径に相当する幅を有して貫通形成された装着孔60に挿入され、夫々の装着孔60に一側から挿入されたブロック状の押圧部材61を外輪の同側半部に当接させて、これらの押圧部材61の夫々の装着孔60からの抜け出しを回転筒6に外嵌された筒状のばね62により一括して拘束して、各押圧部材61の当接位置の内側にて送りリング5の内輪を移動軸7に係合させる装着態様が採用されている。
【0015】
この構成においては、複数の送りリング5の夫々と移動軸7との係合状態は、各別の押圧部材61の内外面間の寸法(図中のX寸法)の精度によって定まり、係合状態の調整を行おうとする場合、送りリング5の外形に対応する内側面と、回転筒6の外形に対応する外側面とを有し、図示の如き異形断面をなす押圧部材61の寸法調整が要求され、多大の工数を要するという問題がある。
【0016】
また送りリング5と移動軸7との係合強度は、押圧部材61の外面に弾接する前記ばね62のばね力に依存することから、十分な係合強度を得ることは難しく、前述した動力舵取装置の如く、回転筒6と移動軸7との間にて大なる力の伝達を必要とする用途への適用が難しいという問題があった。
【0017】
係合強化は、前記特開昭59−9351号公報に開示されているように、移動軸の外周面にねじ溝を形成することにより改善し得るが、この公報に開示された構成においても、送りリングと移動軸との間にて適正な係合状態を得るためには、送りリングの一側に当接するスペーサの寸法調整を含めて、各部材の加工及び組み立て精度の向上が要求され、多大の工数を要するという問題がある。
【0018】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、組み立て状態での係合状態の調整が容易であり、回転筒に保持された送りリングと移動軸との間での強固な係合を確実に実現することができ、回転筒の回転運動から移動軸の直線運動への運動変換、又はこれと逆の運動変換を確実に行わせ得る簡素な構成の運動変換装置、及びこれを用いた動力舵取装置を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1発明に係る運動変換装置は、軸長方向への移動自在に支持され、その外周面にねじ溝が形成された移動軸と、軸回りの回転自在に支持され、前記移動軸の外側を同軸的に囲繞する回転筒と、前記ねじ溝のリード角と略等しい角度傾斜した軸心を有して前記回転筒の内部に偏心保持され、該回転筒に対して回転自在な内輪を周方向の一か所にて前記ねじ溝に係合させてある送りリングとを備え、前記ねじ溝を案内とする前記送りリングの転動により、前記回転筒の回転を前記移動軸の移動に、又は前記移動軸の移動を前記回転筒の回転に夫々変換する構成としてある運動変換装置において、前記送りリングは、前記回転筒の軸長方向に3つ以上並設してあり、両側の2つの送りリングは、これらの軸断面形状に相当する円形の開口を前記回転筒の両端面に有して該回転筒の軸心に対して同側に偏心して形成された各別の装着部に、外周面の全面を拘束して装着してあり、中央の送りリングは、該中央の送りリングの側面形状に相当するスリット状の開口を有して前記回転筒の中途部周壁に形成された装着部に前記スリット状の開口を経て装着してあり、前記中央の送りリングの前記ねじ溝との係合位置は、該中央の送りリングの装着部の開口の逆側であって、前記両側の送りリングの前記ねじ溝との係合位置と周方向に異なる位置に設定されており、前記中央の送りリングの径方向位置は、径方向に位置変更可能な部材により調整できるようにしてあることを特徴とする。
【0020】
本発明においては、回転筒に保持される3つ以上の送りリングの内、軸方向の両側に位置する2つの送りリングを、夫々の軸断面形状に対応する開口を回転筒の両端面に有して形成された装着部に嵌め込み、各別の装着部に外周面の全面を拘束して強固に固定し、これらの送りリングの内輪を高い剛性にて移動軸外周のねじ溝に係合させる一方、中央の送りリングを回転筒の該当位置にスリット状の開口を有して形成された装着部に装着し、両側の送りリングと異なる周方向位置にて移動軸外周のねじ溝に係合させ、この係合位置を径方向に位置変更が可能な部材により調整して、高い剛性下にて係合する両側の送りリングを支えとして係合状態を適正化する。
【0021】
本発明の第2発明に係る運動変換装置は、前記中央の送りリングの前記ねじ溝との係合位置は、前記両側の送りリングの前記ねじ溝との係合位置の反対側に設定してあり、前記中央の送りリングの径方向位置を変更して調整するための調整ねじが前記回転筒の周壁に取り付けられており、該調整ねじは、前記回転筒の周方向において前記中央の送りリングの係合位置と一致する位置に、その先端位置を径方向に位置変更可能に設けられており、該調整ねじを回転操作して前記中央の送りリングの外周を押圧し、該中央の送りリングを介して前記移動軸を、前記装着部の開口の側に向けて押圧することにより、前記中央の送りリング及び前記両側の送りリングと前記ねじ溝との係合状態を一括して調整できるようにしてあることを特徴とする。
【0022】
この発明においては、移動軸外周のねじ溝との係合状態を適正化すべく調整ねじを回転操作して中央の送りリングを押圧したとき、これと周方向に異なる位置に係合位置が設定された両側の送りリングの係合状態の適正化が一括してなされ、この調整に要する手間が削減される。
【0023】
更に本発明に係る動力舵取装置は、操舵に応じて駆動されるモータの回転力を舵取り軸に伝え、該舵取り軸を軸長方向に移動させて舵取りを補助する構成とした動力舵取装置において、前記モータから舵取り軸への伝動系に、第1発明又は第2発明に係る運動変換装置を用いてあることを特徴とする。
【0024】
本発明においては、操舵補助用のモータから舵取り軸への伝動系に、簡素な構成でありながら確実な運動変換がなされ、しかも動作音が小さい本発明に係る運動変換装置を使用し、前記モータを含めて舵取り軸の周辺にコンパクトに配置でき、静粛性の高い動力舵取装置を実現する。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明に係る運動変換装置を備えた動力舵取装置の要部の構成を示す一部破断正面図である。
【0026】
移動軸としてのラック軸2は、図示しない車体の左右方向に延設された筒形をなすラックハウジング20の内部に軸長方向への移動自在に支承してあり、該ラックハウジング20の両側に夫々突出するラック軸2の両端は、各別のタイロッドを介して図示しない左右の操向車輪に連結されている。
【0027】
ラックハウジング20の中途部には、これと軸心を交叉させてピニオンハウジング21が連設されている。ピニオンハウジング21の内部には、その軸心回りでの回転自在にピニオン軸22が支承されている。図1においてピニオン軸22は、ピニオンハウジング21の上部への突出端のみが示してあり、この突出端を介して図示しない舵輪(ステアリングホィール)に連結され、舵取りのための舵輪の操作に応じて軸回りに回転するようになしてある。
【0028】
ピニオンハウジング21の内部に延設されたピニオン軸22の下部には、図示しないピニオンが一体的に形成してある。また、ラックハウジング20内に支承されたラック軸2には、ピニオンハウジング21との交叉位置を含めた適長に亘って、図示しないラック歯が形成され、ピニオン軸22の下部の前記ピニオンに噛合させてある。而して、舵輪の操作に伴うピニオン軸22の回転が、前記ピニオン及びラック歯の噛合によりラック軸2の軸長方向の移動に変換され、ラックハウジング20内でのラック軸2の移動が、前記タイロッドを介して左右の操向車輪に伝達され、これらが前記舵輪の操作に応じて操舵されるラック・ピニオン式の舵取り機構が構成されている。
【0029】
図示の動力舵取装置は、以上の如く行われる操舵を電動モータの回転力により補助する構成となっている。操舵補助用のモータ3は、ラック軸2を囲繞するラックハウジング20の中途部を適長に亘って拡径して一体的に構成された円筒形のモータハウジング30の内部に、該モータハウジング30の内周面に固設されたステータ31と、該ステータ31の内側に同軸的に配されたロータ32とを備える3相ブラシレスモータとして構成されている。
【0030】
該ロータ32は、ラック軸2の外径よりも大なる内径を有する円筒体の外周に、前記ステータ31の内面にわずかな隙間を有して対向する磁極33を保持して構成されており、左右一対の玉軸受34,35により、モータハウジング30の軸心回りに回転自在に支承され、前記ステータ31への通電に応じて正逆両方向に回転するようになしてある。
【0031】
以上の如く生じるモータ3の回転は、回転部材としてのロータ32の一側に構成された本発明に係る運動変換装置1の動作により、前記ラック軸2に軸方向の移動に変換されて伝達されるようになしてある。
【0032】
運動変換装置1は、移動軸としてのラック軸2の外側を囲繞する回転筒10と、該回転筒10の内部に軸長方向に並べて保持された複数(図においては3つ)の送りリング11,11…と、前記回転筒10の内側を含む所定の長さ範囲に亘ってラック軸2の外周面に形成されたねじ溝12とを備えて構成されている。回転筒10は、その中途部を内輪として一体形成された4点接触玉軸受13を介して、モータハウジング30の同側への延長部に回転自在に支持され、前記ロータ32の一側端部に連結ブラケット36を介して同軸的に連結されており、前記モータ3の回転に応じて軸回りに回転するようになしてある。
【0033】
図2は、運動変換装置1の構成を示す一部破断側面図、図3は、図2の III−III 線による横断面図である。図2に示す如く、回転筒10に保持された送りリング11,11…は、外輪と内輪との間に多数のボールを保持し、内側に挿通されたラック軸2の外径よりも十分に大きい内径を有する玉軸受であり、前記回転筒10の内部に、これに対して傾斜した軸心を有して装着されている。各送りリング11の内輪の内周面には、ラック軸2の外周に形成されたねじ溝12の断面に対応する半円形の軸断面形状を有する係合突起 11aが全周に亘って周設されている。なお、図2中の 13aは、前記4点接触玉軸受13の内輪を構成する部分であり、ボール転動用の軌条が設けてある。
【0034】
送りリング11,11…の軸心の傾き角度は、ラック軸2の外周に形成された前記ねじ溝12のリード角と略等しく設定してあり、これらは、夫々の傾きが前記ねじ溝12の傾きと一致する周方向位置において、内輪に周設された係合突起 11aを介して前記ねじ溝12に係合させてある。また、回転筒10の両端部の2つの送りリング11,11と、中央部の1つの送りリング11とは、その傾き方向を逆として取り付けてあり、前記ねじ溝12との係合位置も、図3中にA及びBとして示す如く、半径方向に相対向する位置、即ち、周方向に略 180°位相をずらせた位置に設定してある。
【0035】
以上の如く構成された運動変換装置1において回転筒10は、操舵補助用のモータ3の回転に応じて軸回りに回転し、この回転に伴って回転筒10の内側に保持された3つの送りリング11,11,11が回転する。このとき、各送りリング11,11,11の内輪は、夫々の内周面に周設された係合突起 11aを介してラック軸2外周のねじ溝12と係合させてあることから、この係合状態を保ったまま、ねじ溝12に沿って転動することとなり、この転動に伴ってラック軸2には、各送りリング11の係合位置A,Bに前記ねじ溝12に沿った力が作用し、該ラック軸2は、前記力の軸方向分力により押圧されて軸長方向に移動する。
【0036】
このような運動変換装置1の動作により、操舵補助用のモータ3の回転は、ラックハウジング20の内部でのラック軸2の軸長方向の移動に変換され、この移動が、図示しないタイロッドを介して左右の操向車輪に伝達されることとなり、舵輪の操作に応じて前述の如く行われる操舵が、前記モータ3の発生力により補助される。
【0037】
運動変換装置1は、前述の如く構成されたモータ3と共に、ラック軸2の周囲に同軸的に、コンパクトに構成することができる。また、回転筒10の内側に複数の送りリング11,11…を保持させると共に、移動軸としてのラック軸2の外周面にねじ溝12を形成してなる簡素な構成であり、ボールねじ式の運動変換装置に比較して構成の大幅な簡素化が達成される。
【0038】
また、送りリング11,11…は、外輪と内輪との間に多数のボールを備える玉軸受であり、これらのボールは、相互間の位置を変えることなく転動し、相互に衝突する虞れがないから、ボールねじ式の運動変換装置に比して動作音が小さく、静粛な動作が可能となる。なお、送りリング11としては、内輪と外輪との間の転動体として、前記ボールに代えてコロを備えるころ軸受を用いることもできる。
【0039】
以上の如く運動変換装置1は、簡素な構成と静粛な動作とを併せて実現し得る優れた装置であるが、回転筒10の回転を移動軸としてのラック軸2の軸長方向の移動に効率良く変換するためには、回転筒10に装着された送りリング11,11,11と、ラック軸2の周面に形成されたねじ溝12との間に適正な係合状態が得られること、更には、この係合状態の適正化のための調整作業を容易に実施し得ることが重要である。
【0040】
本発明においては、回転筒10への送りリング11,11,11の装着を、以下に示す如く実現し、適正な係合状態を確実に得ると共に、このための調整作業を容易に行い得るようにしている。
【0041】
図2に示す如く回転筒10の両端部には、両側の送りリング11,11の装着部としての一対の装着孔14,15が、夫々の端面に開口を有し、また回転筒10の軸心に対して傾斜した軸心を有して形成されている。これらの装着孔14,15は、装着対象となる送りリング11の外径と略等しい内径を有する円孔であり、夫々の傾斜角度は、ラック軸2に形成された前記ねじ溝12のリード角に一致せしめられ、更に、傾斜角度が最大となる軸断面と直交する面内において、回転筒10の軸心に対して互いに同方向に所定長偏心させてある。図4は、回転筒10の端部近傍を、一部を破断して示す外観斜視図であり、装着孔14(又は装着孔15)の形成態様は、本図に明らかである。
【0042】
而して、回転筒10に保持される3つの送りリング11,11,11の内、両側の2つの送りリング11,11は、前述の如く形成された装着孔14,15の夫々に、両端部の開口を経て圧入され、各装着孔14,15の内面に係着された止め輪16,16との係合により、各装着孔14,15の底面に一側を突き当てた状態に固定されている。
【0043】
装着孔14,15は、回転筒10の軸心に対し、同側に所定長偏心し、前述した傾斜を有して形成されているから、以上の如き装着孔14,15に装着された両側の送りリング11,11は、回転筒10の内側に同軸的に位置するラック軸2外周のねじ溝12に対し、図3に示す如く、夫々の傾斜角がねじ溝12のリード角に一致する周方向位置において、半径方向の同側の係合位置Aにおいて係合せしめられる。このとき前記送りリング11,11の夫々は、これらに対応する円形断面を有する前記装着孔14,15への嵌め込みにより、外周面の全面が拘束されて固定されていることから、これらの送りリング11,11と、ラック軸2外周のねじ溝12との係合状態を強固に維持することができる。
【0044】
一方、回転筒10に保持される3つの送りリング11,11,11の内、中央の1つの送りリング11は、回転筒10の該当部位の外周面にスリット状の開口を有して形成された装着部17に装着されている。回転筒10の外周に現れる前記装着部17のスリット状の開口 17aの形状は、前記図4に示されており、回転筒10の軸心に対し、該回転筒10の端部に形成された前記装着孔14と異なる向きに略同角度だけ傾斜した矩形断面を有している。
【0045】
装着部17の開口 17aのサイズは、装着対象となる送りリング11の側断面形状に対応させてあり、中央の送りリング11は、回転筒10の外側から前記開口 17aの傾斜に沿わせて装着部17に押し込まれて装着されるようになしてある。図5は、中央の送りリング11の装着態様の説明図であり、前記図3と同様、装着部17の形成位置における回転筒10の横断面が略示されている。
【0046】
本図に示す如く装着部17は、回転筒10と共通の軸心を有し、送りリング11の外径に対応する半円形の底面を、前記開口 17aの逆側に備える凹部として形成されている。装着部17の底面の略中央には、同側の回転筒10の周壁を半径方向に貫通するねじ孔18が形成してあり、このねじ孔18には、係合調整手段としての調整ねじ4が螺合されている。
【0047】
中央の送りリング11は、以上の如く形成された装着部17に、前記開口 17aを経て押し込まれ、その内奥側の外周を装着部17の底面に突き当てた状態に装着されており、この状態で回転筒10の内側に挿通されるラック軸2外周のねじ溝12に対し、前記底面と同側の係合位置B、即ち、両側の送りリング11,11の係合位置Aと周方向に異なる位置において、内輪に周設された係合突起 11aを介して係合せしめられている。
【0048】
この係合状態は、装着部17の半円形の底面と、送りリング11の同側半部の外輪との当接により維持されるが、図5に示す如き軸断面を有する装着部17の内面形状を精度良く仕上げることは難しく、この精度管理により係合位置Bでの係合を良好に維持するためには、高い加工精度を必要とする。またこのようにして係合位置Bに係合不良が生じた場合、前記係合位置Aにおける両側の送りリング11,11の係合状態も良好に保てなくなる。
【0049】
装着部17の底面のねじ孔18に螺合せしめられた調整ねじ4の先端は、送りリング11の外面に臨ませてあり、この先端部は、回転筒10の外側から調整ねじ4を回転操作することにより、装着部17の内側への突出長さを増すことができる。このように調整ねじ4の突出長さを増した場合、これの先端に当接する送りリング11は、調整ねじ4の軸長方向、即ち、回転筒10の半径方向に押圧され、送りリング11の内面の係合突起 11aは、ラック軸2外周のねじ溝12に押し付けられ、前記係合位置Bにおける両者の係合状態が強化される。
【0050】
更に調整ねじ4を回転操作すると、該調整ねじ4が当接する中央の送りリング11を介してラック軸2が押圧され、該ラック軸2の他側半部が回転筒10の半径方向に変位し、同側のねじ溝12が、両端部に装着された送りリング11,11の内面に押し付けられ、前記係合位置Aにおける両者の係合状態が強化される。
【0051】
このように係合調整手段としての調整ねじ4を回転操作することにより、回転筒10に保持された3つの送りリング11,11,11と、ラック軸2の周面に形成されたねじ溝12との係合状態が一括して調整される。調整ねじ4の操作は、回転筒10の外側から行わせることができ、移動軸としてのラック軸2と組み合わせた状態での係合調整が可能である。両側の送りリング11,11は、前述の如く、夫々の装着孔14,15の内部に全周に亘って支持されており、前述の如く行われる係合調整に際しての作用力により位置ずれする虞れはなく、確実な調整が行える。
【0052】
このように運動変換装置1においては、移動軸としてのラック軸2外周のねじ溝12と、複数の送りリング11,11…との係合状態を、容易に、しかも確実に適正化することができ、モータ3からの伝動により生じる回転筒10の回転は、移動軸としてのラック軸2の軸長方向の移動に効率良く変換される。
【0053】
なお、図示の調整ねじ4の先端部には、コイルばね40が組み込まれており、送りリング11の外面との当接は、前記コイルばね40を介して生じるようになしてある。この構成により、ラック軸2の撓み等の外乱に追随して適正な係合状態を維持することができ、高効率での運動変換が可能となる。
【0054】
以上の実施の形態においては、回転筒10の内部に3つの送りリング11,11,11を保持させてある構成について述べたが、本発明に係る運動変換装置1は、送りリング11を3つ以上備える場合に同様に適用可能である。
【0055】
図6及び図7は、送りリング11を4つ備える運動変換装置1の実施の形態を示しており、(a)は側面図、(b)は正面断面図である。
【0056】
これらに示す運動変換装置1において、4つの送りリング11,11…の内、両側に位置する2つの送りリング11,11は、回転筒1の両端面にこれらの軸断面に相当する開口を有して形成された装着孔14,15に装着され、また中央に位置する2つの送りリング11,11は、回転筒1の該当位置の周壁にこれらの側面形状に相当するスリット状の開口 17a,17aを有して形成された装着部17に装着されている。
【0057】
図6に示す運動変換装置1においては、(b)に示す如く、両端の2つ送りリング11,11の係合位置Aと、中央の2つの送りリング11,11の係合位置Bとが、周方向に 180°位相をずらせて設定してあり、中央の2つの送りリング11,11の一方又は両方に、係合調整手段としての調整ねじ4が当接させてあり、この調整ねじ4を回転筒10の外側から回転操作し、中央の送りリング11,11を押圧することにより、4つの送りリング11,11…の係合状態の調整が一括して行えるようになしてある。
【0058】
これに対し、図7に示す運動変換装置1においては、(b)に示す如く、4つの送りリング11,11…の係合位置が、周方向に順次 120°の位相を隔てて設定してあり、中央の2つの送りリング11,11の両方に、係合調整手段としての調整ねじ4,4が当接させてあり、これらの調整ねじ4を、回転筒10の外側から相互に関連させて回転操作し、中央の2つの送りリング11,11を各別の方向に押圧することにより、4つの送りリング11,11…の係合状態の調整が一括して行えるようになしてある。
【0059】
なお、以上の実施の形態においては、ラックピニオン式の動力舵取装置において、移動軸としてのラック軸1に操舵補助用のモータ3の回転を伝達する用途への適用例について述べたが、本発明に係る運動変換装置1は、これに限らず、軸長方向への移動により舵取りを行わせる舵取り軸に操舵補助用のモータの回転を伝達する構成とした各種の形式の動力舵取装置に適用でき、更には、動力舵取装置に限らず、回転運動から直線運動へ、又は直線運動から回転運動への運動変換が必要な伝動系の全般に適用可能であることは言うまでもない。
【0060】
【発明の効果】
以上詳述した如く本発明に係る運動変換装置においては、軸回りに回転する回転筒に3つ以上の送りリングを保持させ、軸方向の両側に位置する2つの送りリングを、回転筒の両端面に形成された装着部への嵌め込みにより、中央の送りリングを回転筒の該当位置にスリット状の開口を有して形成された装着部への押し込みにより装着し、これらの内輪を移動軸の外周に形成されたねじ溝に係合させてあるから、各送りリングの装着のための加工及び組み立てが容易に行え、これらの工数の削減が図れると共に、外周の全面が拘束された両側の送りリングにより剛性を確保しつつ、中央の送りリングのねじ溝との係合位置を径方向に位置変更可能な部材により調整して係合状態を適正化することができ、回転筒に保持された送りリングと移動軸外周のねじ溝との間での強固な係合が確実に実現され、回転筒の回転運動から移動軸の直線運動への運動変換、又はこれと逆の運動変換を、高効率にて確実に行わせることができる。
【0061】
また、中央の送りリングの係合位置と両側の送りリングの係合位置とを反対側の位置に設定し、調整ねじを回転操作して中央の送りリングを押圧する構成としたから、中央の送りリング及び両側の送りリングの係合状態の適正化が一括してなされ、この調整に要する手間が削減される。
【0062】
更に本発明に係る動力舵取装置においては、以上の如き運動変換装置を、操舵補助用のモータの回転を舵取り軸の軸長方向移動に変換するために用いたから、モータから舵取り軸への伝動系を、舵取り軸の周辺にコンパクトに配置することができ、舵取り軸への伝動が、高い効率にて確実になされると共に、動作音が小さく静粛な装置を実現することができる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る運動変換装置を備えた動力舵取装置の要部の構成を示す一部破断正面図である。
【図2】運動変換装置の構成を示す一部破断側面図である。
【図3】図2の III−III 線による横断面図である。
【図4】回転筒の端部近傍の一部破断斜視図である。
【図5】中央の送りリングの装着態様の説明図である。
【図6】本発明に係る運動変換装置の他の実施の形態を示す図である。
【図7】本発明に係る運動変換装置の他の実施の形態を示す図である。
【図8】従来の運動変換装置における送りリングと移動軸との係合状態の説明図である。
【符号の説明】
1 運動変換装置
2 ラック軸
3 モータ
4 調整ねじ
10 回転筒
11 送りリング
12 ねじ溝
14 装着孔
15 装着孔
17 装着部
Claims (3)
- 軸長方向への移動自在に支持され、その外周面にねじ溝が形成された移動軸と、軸回りの回転自在に支持され、前記移動軸の外側を同軸的に囲繞する回転筒と、前記ねじ溝のリード角と略等しい角度傾斜した軸心を有して前記回転筒の内部に偏心保持され、該回転筒に対して回転自在な内輪を周方向の一か所にて前記ねじ溝に係合させてある送りリングとを備え、前記ねじ溝を案内とする前記送りリングの転動により、前記回転筒の回転を前記移動軸の移動に、又は前記移動軸の移動を前記回転筒の回転に夫々変換する構成としてある運動変換装置において、前記送りリングは、前記回転筒の軸長方向に3つ以上並設してあり、両側の2つの送りリングは、これらの軸断面形状に相当する円形の開口を前記回転筒の両端面に有して該回転筒の軸心に対して同側に偏心して形成された各別の装着部に、外周面の全面を拘束して装着してあり、中央の送りリングは、該中央の送りリングの側面形状に相当するスリット状の開口を有して前記回転筒の中途部周壁に形成された装着部に前記スリット状の開口を経て装着してあり、前記中央の送りリングの前記ねじ溝との係合位置は、該中央の送りリングの装着部の開口の逆側であって、前記両側の送りリングの前記ねじ溝との係合位置と周方向に異なる位置に設定されており、前記中央の送りリングの径方向位置は、径方向に位置変更可能な部材により調整できるようにしてあることを特徴とする運動変換装置。
- 前記中央の送りリングの前記ねじ溝との係合位置は、前記両側の送りリングの前記ねじ溝との係合位置の反対側に設定してあり、前記中央の送りリングの径方向位置を変更して調整するための調整ねじが前記回転筒の周壁に取り付けられており、該調整ねじは、前記回転筒の周方向において前記中央の送りリングの係合位置と一致する位置に、その先端位置を径方向に位置変更可能に設けられており、該調整ねじを回転操作して前記中央の送りリングの外周を押圧し、該中央の送りリングを介して前記移動軸を、前記装着部の開口の側に向けて押圧することにより、前記中央の送りリング及び前記両側の送りリングと前記ねじ溝との係合状態を一括して調整できるようにしてある請求項1記載の運動変換装置。
- 操舵に応じて駆動されるモータの回転力を舵取り軸に伝え、該舵取り軸を軸長方向に移動させて舵取りを補助する構成とした動力舵取装置において、前記モータから舵取り軸への伝動系に、請求項1又は請求項2記載の運動変換装置を用いてあることを特徴とする動力舵取装置。
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