JP3727290B2 - 腸溶性水系コーティング剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、腸溶性水系コーティング剤に関する。さらに詳しくは、(メタ)アクリル酸とアクリル酸アルキルエステルからなる共重合体を含有する腸溶性水系コーティング剤、該コーティング剤を含有する水系分散液、および該分散系を用いた腸溶性医薬品製剤の製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から腸溶性水系コーティング剤としては、カルボキシル基含有共重合体を含有する腸溶性水系コーティング剤が広く知られている。例えば、カルボキシル基を有するセルロース誘導体やアクリル酸あるいはメタクリル酸から構成される共重合体を含む腸溶性水系コーティング剤が使用されており、これらのコーティング剤によって得られた腸溶性製剤の表面の皮膜には、耐水性、耐胃液性が求められ、腸液においては有効に薬剤を放出する機能が求められている。
また腸溶性水系コーティング剤による腸溶性製剤の製法としては、上記の共重合体の水分散液にタルクや無水ケイ酸などの滑沢剤、ポリエチレングリコール、グリセリン脂肪酸エステルおよびクエン酸トリエチルなどの可塑剤、色素ならびに顔料などを含む水系分散液を、医薬品製剤の素錠に流動層式コーティング機などでスプレーコーティングすることなどによって、塗布および乾燥する方法が一般的である。
このような水系の腸溶性コーティングにおける可塑剤使用の利点は、得られる皮膜の柔軟性を高め、機械的破損を防ぐことと、ポリマーのガラス転移温度Tgを下げてポリマー粒子の変形・融着を助けることにより低温での腸溶性フィルムコーティングが行えることであり、耐熱性の低い薬剤の失活を防止するとともに、エネルギーコストを下げるメリットもある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、可塑剤の添加によりポリマーの粘着性が増大するため、たとえばパンコーティング装置で錠剤の腸溶性フィルムコーティングを行うと、錠剤上に形成される被膜が厚くなるにしたがい、錠剤同士が粘着し、その被膜の一部がはく離し、結果として被膜中にピンホールを有するコーティング錠剤となる。このような錠剤では耐胃液性が得られなくなり、腸溶性製剤とはならない。このようなトラブルを防ぐために、コーティング液の噴霧速度を下げる、パンの回転数を大きくする、コーティング中の乾燥空気温度を高く又は乾燥空気量を多くするなどの手段が有効であるが、コーティング時間が著しく長くなったり、成膜が不完全であったり、パンの回転数を大きくすると錠剤が摩損し、特にエッジ部分の損傷により均一な被膜が得られなくなるなどの問題がある。また、流動層コーティング装置を用いて顆粒を腸溶性フィルムコーティングする場合、コーティングが進むにしたがって、顆粒同士が付着しやすくなり、製品収率が著しく低下するだけでなく、錠剤の場合と同様に顆粒同志の粘着・はく離により被膜中にピンホールを生じ、耐胃液性が得られなくなる。このトラブルを防ぐためには、コーティング液の噴霧速度を下げる、コーティング中の乾燥空気温度又は流動空気量を高くするなどの手段が有効であるが、コーティング時間が著しく長くなったり、スプレーミストのダスティングにより成膜が不完全なものとなるなどの問題がある。
さらにまた、これら製剤の製造後、可塑剤とポリマーの相溶性が低いため、経時的に可塑剤が被膜から遊離し薬物との反応による安定性の低下や保存中に製剤同士の合着などの欠点を有していた。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の共重合体を用いることによって、可塑剤の使用なしで、あるいは少ない可塑剤量であっても、低温でのコーティングが可能であり、優れた耐水性および耐酸性を有し、かつ経時的にも安定である腸溶性水系コーティング剤を見いだし、本発明に到達した。
【0005】
すなわち本発明は、(メタ)アクリル酸(a)およびアルキル基の炭素数が2〜18のアクリル酸アルキルエステル(b)の合計が全構成単量体のうちの90重量%以上であり、重量比(a)/(b)が0.5〜0.9である共重合体(A)を含有する腸溶性水系コーティング剤;該コーティング剤を含有する水系分散液;並びに該分散液を用いた腸溶性医薬品製剤の製法である。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明において、(a)と(b)の合計は全構成単量体のうちの90%以上(以下において特に断らない限り%は重量%を表す)、好ましくは95%以上である。
(a)と(b)の合計が90%未満では、酸性では不溶となり耐酸性であるが、弱酸性から塩基性では溶解するという腸溶性本来の機能が低下する。
また、重量比(a)/(b)の下限は、通常0.5、好ましくは0.6、さらに好ましくは0.7であり、上限は通常0.9、好ましくは0.8である。
重量比(a)/(b)が、0.9を超えると、共重合体を含む腸溶性水系コーティング剤の最低造膜温度(以下、MFTと略記する)が高くなりやすくなるため、可塑剤の多量の添加、または高温条件でのコーティングによる製剤化をしなければならなくなる。また、重量比(a)/(b)が0.5未満のときは、MFTは低いが、弱酸性から塩基性の領域で溶解するという本来の腸溶性の性質が失われる。
【0007】
本発明において、(a)は(メタ)アクリル酸[(メタ)アクリル酸はアクリル酸またはメタクリル酸を表す。以下同様の表現を用いる]であり、好ましくはメタクリル酸である。
(b)は直鎖もしくは分岐アルキル基の炭素数が2〜18のアクリル酸アルキルエステルであり、アルキル基としては、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、n−ヘプチル基、iso−ヘプチル基、n−オクチル基、iso−オクチル基、n−ノニル基、iso−ノニル基、n−デシル基、iso−デシル基、n−ウンデシル基、iso−ウンデシル基、n−ドデシル基、iso−ドデシル基、n−トリデシル基、iso−トリデシル基、n−テトラデシル基、iso−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、iso−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、iso−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、iso−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、並びに、iso−オクタデシル基などが挙げられる。(b)のアルキル基の炭素数は、好ましくは2〜4、さらに好ましくは2(即ち、アクリル酸エチル)である。アルキル基の炭素数が1(即ち、アクリル酸メチル)の場合は共重合体を使用した腸溶性水系コーティング剤のMFTが高くなり、可塑剤の多量の添加または高温条件でのコーティングによる製剤化が余儀なくされる。また、経時的に加水分解物としてメタノールが発生し、医薬品用途としては有害である。またアルキル基の炭素数が18を超えるときは、MFTは低くなるが、皮膜に粘着性が発現し、スプレーコーティング時の製剤同士の合一もしくは剥離、あるいはコーティング機械などの生産設備への付着もしくは剥離がおこりやすい。また製剤の製造後、経時的に製剤の合着が起こやすい。
【0008】
(A)を構成するその他の単量体(c)としては、以下にあげるビニル単量体が例示される。
(c)には、アニオン性ビニル単量体(c1)、非イオン性ビニル系単量体(c2)およびカチオン性ビニル単量体(c3)が含まれる。
【0009】
アニオン性ビニル系単量体(c1);
(c11)カルボキシル基含有ビニル系単量体
不飽和モノカルボン酸[α−メチル(メタ)アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸など]、不飽和ジカルボン酸のモノアルキル(炭素数1〜8)エステル[マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステルなど];不飽和ジカルボン酸、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸など。
【0010】
(c12)スルホン酸基含有ビニル系単量体
炭素数2〜6のアルケンスルホン酸[ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸など]、炭素数6〜12の芳香族ビニル基含有スルホン酸[スチレンスルホン酸、α−メチルスチレンスルホン酸など]、スルホン酸基含有(メタ)アクリルエステル系単量体[スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸など]、スルホン酸基含有(メタ)アクリルアミド系単量体[2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−(メタ)アクリルアミド−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸など]、水酸基含有ビニル系スルホン酸[3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸など]、アルキル(炭素数3〜18)(メタ)アリルスルホコハク酸エステル[ドデシル(メタ)アリルスルホコハク酸エステルなど]など。
【0011】
(c13)硫酸エステル基含有ビニル系単量体
ポリ(n=2〜30)オキシアルキレン(エチレン、プロピレン、ブチレン:単独、ランダム、ブロックでもよい)モノ(メタ)アクリレートの硫酸エステル、ポリ(n=2〜30)オキシアルキレン(エチレン、プロピレン、ブチレン:単独、ランダム、ブロックでもよい)ビスフェノールAモノ(メタ)アクリレートの硫酸エステルなど。
【0012】
(c14)燐酸基含有ビニル系単量体
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル(炭素数2〜6)燐酸モノエステル(例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェートなど)、(メタ)アクリル酸アルキルホスホン酸類(例えば、2−アクリロイルオキシエチルホスホン酸など)など。
【0013】
非イオン性ビニル系単量体(c2);
(c21)アミド基含有ビニル系単量体
非置換、またはモノアルキル(炭素数1〜4)置換(メタ)アクリルアミド[(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−iso−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−iso−ブチル(メタ)アクリルアミドなど];ジアルキル(炭素数1〜4)置換(メタ)アクリルアミド[N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル,N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−n−ブチル(メタ)アクリルアミドなど];ヒドロキシアルキル(炭素数1〜4)置換(メタ)アクリルアミド[N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミドなど];N−ビニルカルボン酸アミド[N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−n−プロパンアミド、N−ビニル−iso−プロパンアミド、N−ビニル−n−ブタンアミド、N−ビニル−iso−ブタンアミド、N−ビニルヒドロキシアセトアミド、N−ビニル−2−ヒドロキシプロパンアミドなど]等。
【0014】
(c22)ヒドロキシル基含有ビニル系単量体;
ヒドロキシル基含有芳香族ビニル系単量体[ヒドロキシスチレンなど]、ヒドロキシアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなど]、炭素数3〜12のアルケノール[(メタ)アリルアルコール、クロチルアルコール、イソクロチルアルコール、オクテノール、ウンデセノールなど]、炭素数4〜12のアルケンジオール[1−ブテン−3−オール、2−ブテン−1−オール、2−ブテン−1,4−ジオールなど]、ヒドロキシアルキル(炭素数1〜6)アルケニル(炭素数3〜10)エーテル[2−ヒドロキシエチルプロペニルエーテルなど]、多価(3〜8価)アルコールのアルケニル(炭素数3〜10)エーテル[蔗糖(メタ)アリルエーテルなど]等。
【0015】
(c23)ポリアルキレングリコール鎖含有ビニル系単量体;
ポリアルキレングリコール(アルキレン基の炭素数2〜4、重合度2〜50)またはそのアルキル(炭素数1〜6)エーテルの(メタ)アクリレート[ポリエチレングリコール(分子量100〜300)モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(分子量130〜500)モノアクリレート、メトキシポリエチレングリコール(分子量110〜310)(メタ)アクリレート、ラウリルアルコールEO付加物(2〜30モル)(メタ)アクリレートなど]等。
【0016】
(c24)エポキシ基含有ビニル系単量体;
グルシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アリルエーテル等。
【0017】
(c25)ハロゲン含有ビニル系モノマー;
塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、塩化(メタ)アリル、ハロゲン化スチレン(ジクロルスチレンなど)等。
【0018】
(c26)ビニルエステル、ビニルエーテル、ビニルケトン類;
炭素数2〜12の飽和脂肪酸のビニルエステル[酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、オクタン酸ビニルなど];炭素数1〜12のアルキル、アリールもしくはアルコキシアルキルのビニルエーテル[ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルプロピルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニル2−エチルヘキシルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニル−2−メトキシエチルエーテル、ビニル−2−ブトキシエチルエーテルなど];炭素数1〜8のアルキルもしくはアリールのビニルケトン[ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルフェニルケトンなど]等。
【0019】
(c27)不飽和カルボン酸のエステル;
不飽和モノカルボン酸[アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸など]の炭素数1〜30のアルキル(但し、アクリル酸の炭素数2〜18のアルキルエステルは除く)、シクロアルキルエステル、シクロアラルキルエステル、例えば炭素数1〜30のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート[メチル(メタ)アクリレート、エチルメタアクリレート、n−プロピルメタアクリレート、iso−プロピルメタアクリレート、n−ブチルメタアクリレート、iso−ブチルメタアクリレート、t−ブチルメタアクリレート、2−エチルヘキシルメタアクリレート、ドデシルメタアクリレート、ヘキサデシルメタアクリレート、ヘプタデシルメタアクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなど]、不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマール酸、イタコン酸など)の炭素数1〜8のアルキルジエステル[ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルマレエート、ジオクチルマレエートなど]等。
【0020】
(c28)その他の非イオン系ビニル系単量体;
脂肪族ビニル系炭化水素、例えば、炭素数2〜20のアルケン[エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、ジイソブチレン、オクテン、ドデセン、オクタデセンなど]、炭素数4〜12のアルカジエン[ブタジエン、イソプレン、1,4−ペンタジエン、1,6−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなど]など、脂環式ビニル系炭化水素[シクロヘキセン、(ジ)シクロペンタジエン、ピネン、リモネン、インデン、ビニルシクロヘキセン、エチリデンビシクロヘプテンなど]、芳香族ビニル系炭化水素[スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン、クロチルベンゼン、ビニルナフタレンなど]、ニトリル基含有ビニル系単量体[(メタ)アクリロニトリル、シアノスチレンなど]、ニトロ基含有ビニル系単量体[ニトロスチレンなど]、その他のビニル系単量体[アセトキシスチレンなど]等。
【0021】
カチオン性のビニル系単量体(c3);
(c31)1〜3級アミノ基含有ビニル単量体:
1級アミノ基含有ビニル単量体、例えば、炭素数3〜6のアルケニルアミン[(メタ)アリルアミン、クロチルアミンなど]、アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[アミノエチル(メタ)アクリレートなど]、2級アミノ基含有ビニル単量体、例えば、アルキル(炭素数1〜6)アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[t−ブチルアミノエチルメタクリレート、メチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど]、炭素数6〜12のジアルケニルアミン[ジ(メタ)アリルアミンなど]、3級アミノ基含有ビニル単量体、例えば、ジアルキル(炭素数1〜4)アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリレート[ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど、ジアルキル(炭素数1〜4)アミノアルキル(炭素数2〜6)(メタ)アクリルアミド[ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミドなど]、3級アミノ基含有芳香族ビニル系単量体[N,N−ジメチルアミノスチレンなど]、含窒素複素環含有ビニル系単量体[モルホリノエチル(メタ)アクリレート、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルピロール、N−ビニルピロリドン、N−ビニルチオピロリドンなど]、およびこれらの塩酸塩、硫酸塩、燐酸塩、低級カルボン酸塩(炭素数1〜8)が挙げられる。
【0022】
(c32)第4級アンモニウム塩基含有ビニル単量体;
例えば、前述の(c1)に記載した3級アミノ基含有ビニル単量体を、4級化剤(炭素数1から12のアルキルクロライド、ジアルキル硫酸、ジアルキルカーボネート、およびベンジルクロライド等)を用いて4級化したものなどが挙げられる。具体的には、アルキル(メタ)アクリレート系第4級アンモニウム塩としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルメチルモルホリノアンモニウムクロライドなど;アルキル(メタ)アクリルアミド系第4級アンモニウム塩としては、例えば、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリエチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなど;その他の第4級アンモニウム塩基含有ビニル系単量体としては、例えば、ジメチルジアリルアンモニウムメチルサルフェート、トリメチルビニルフェニルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
【0023】
(c)のうちで好ましいものは、(c1)および(c2)、さらに好ましいものは(c2)、特に(c21)〜(c23)、および(c27)である。
(A)が単量体(c)を構成単量体とする場合は、全構成単量体の重量に基づいて、好ましくは0〜10%、さらに好ましくは0〜3%である。
【0024】
本発明における(A)において、モル比(a)/(b)は好ましくは0.6〜3.3、さらに好ましくは0.6〜1.7、特に好ましくは0.7〜1.0である。モル比が3.3以下であると耐水性の観点で好ましく、0.6以上であれば弱酸〜塩基性で溶解する腸溶性の観点で好ましい。
【0025】
本発明において、腸溶性水系コーティング剤の蒸発残留物は、直径9cmのガラス製シャーレに、腸溶性水系コーティング剤を1.0〜2.0g(Sg)秤取し、順風乾燥機で110℃で6時間蒸発乾燥させて得られるものである。
また、蒸発残留分濃度(Z%)は、上記シャーレで秤取した(Sg)試料に対する蒸発残留分の百分率(Z%)である。
本発明の腸溶性水系コーティング剤の蒸発残留物の重量平均分子量[以下Mwと略記する;ポリエチレングリコールを標準とするGPC(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー)による測定]は、好ましくは100,000〜500,000、さらに好ましくは100,000〜300,000である。
Mwがこの範囲であれば、コーティング膜の強度の観点で好ましい。
また、腸溶性水系コーティング剤の蒸発残留物当たりの酸価は、好ましくは218〜295mgKOH/g、さらに好ましくは250〜295mgKOH/gである。
酸価がこの範囲であれば、弱酸〜塩基性で溶解する腸溶性の観点で好ましい。
なお、酸価は、腸溶性水系コーティング剤約2.5g(Xg)を精密に秤取り、100mLの中性アセトンに溶解し、フェノールフタレン試液1滴を加え、0.1mol/L水酸化ナトリウム試液で滴定する(YmL)とき、次式で算出できる。
腸溶性水系コーティング剤の蒸発残留物当たりの酸価
=Y×5.611/X/Z×100
なお滴定終点は、15秒間ピンク色を示すまでとする。
また、腸溶性コーティング剤の蒸発残留物のガラス転移点は、好ましくは55〜100℃、さらに好ましくは75〜100℃である。
ガラス転移点がこの範囲であれば、コーティング膜の耐水性の観点で好ましい。なお、ガラス転移点はJIS K−7121の方法で測定できる。
腸溶性コーティング剤の蒸発残留物は、Mw、酸価およびガラス転移点が、いずれも上記の好ましい範囲内にあることが特に好ましい。
【0026】
(A)は、通常、水性分散体で得られ、好ましくは重量平均粒子径が0.01〜1μm、さらに好ましくは0.02〜0.6μmのエマルジョンである。
【0027】
(A)は、公知の重合方法、例えば乳化重合または懸濁重合などで得ることができ、好ましくは乳化重合によって得られる。
乳化重合は、水または水/親水性有機溶媒混合溶媒中で、重合開始剤、乳化剤(B)および必要により連鎖移動剤を用いて単量体を重合する方法が挙げられる。重合温度は通常30〜100℃、好ましくは50〜80℃である。
親水性有機溶媒としては、低級アルコール(メタノール、エタノール、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基など)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、エステル系溶媒(酢酸エチルなど)、グリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールなど)などを用いることができる。水/親水性有機溶媒混合溶媒における親水性有機溶媒の割合は、混合溶媒の重量に基づいて好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。
重合開始剤としては、例えば、水溶性過硫酸塩(過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど)、水溶性過酸化物(過酸化水素など)、レドックス開始剤(過酸化水素などの過酸化物と第一鉄塩、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸などの還元剤との組み合わせなど)が使用できる。
【0028】
乳化重合において使用できる乳化剤(B)としては、以下のアニオン性、カチオン性、ノニオン性および両性の界面活性剤、並びにこれらの2種以上の併用が挙げられる。
【0029】
アニオン性界面活性剤(B1)としては、炭素数8〜24の炭化水素基を有するエーテルカルボン酸またはその塩[ラウリルエーテル酢酸ナトリウム、(ポリ)オキシエチレン(重合度=1〜100)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム等]、炭素数8〜24の炭化水素基を有する硫酸エステルもしくはエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩[ラウリル硫酸ナトリウム、(ポリ)オキシエチレン(重合度=1〜100)ラウリル硫酸ナトリウム、(ポリ)オキシエチレン(重合度=1〜100)ラウリル硫酸トリエタノールアミン、(ポリ)オキシエチレン(重合度=1〜100)ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド硫酸ナトリウムなど]、炭素数8〜24の炭化水素基を有するスルホン酸塩[ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等]、炭素数8〜24の炭化水素基を1個もしくは2個有するスルホコハク酸エステル塩、炭素数8〜24の炭化水素基を有するリン酸エステルもしくはエーテルリン酸エステルおよびそれらの塩[ラウリルリン酸ナトリウム、(ポリ)オキシエチレン(重合度=1〜100)ラウリルエーテルリン酸ナトリウム等]、炭素数8〜24の炭化水素基を有する脂肪酸塩[ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸トリエタノールアミン等]および炭素数8〜24の炭化水素基を有するアシル化アミノ酸塩[ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシンナトリウム、ヤシ油脂肪酸サルコシントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸トリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム等]等が挙げられる。塩を構成するカチオンとしては、アルカリ金属(リチウム、ナトリウムおよびカリウム)カチオン、アルカリ土類金属(カルシウムおよびマグネシウムなど)カチオン、有機アミン(炭素数1〜20のアルキル基およびこれらのアルキル基とヒドロキシル基を有するアミン:ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミンなど)カチオン、またはアンモニウム(アンモニア、及び第四級アンモニウム、例えばテトラアルキルアンモニウムなど)カチオンからなる群から選ばれる1種以上のカチオンが含まれる。
(B1)のうちで好ましいのは、炭素数8〜24の炭化水素基を有する硫酸エステルもしくはエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩であり、さらに炭素数10〜18の炭化水素基を有するもの、特にラウリル硫酸ナトリウム(日局)および(ポリ)オキシエチレン(重合度=1〜30)ラウリル硫酸ナトリウムが好ましい。
【0030】
ノニオン性界面活性剤(B2)としては、脂肪族アルコール(炭素数8〜24)アルキレンオキシド(炭素数2〜8)付加物(重合度=1〜100)、多価(2〜10価またはそれ以上)アルコール脂肪酸(炭素数8〜24)エステル[モノステアリン酸グリセリン、モノラウリン酸ソルビタン等]、(ポリ)オキシアルキレン多価(2〜10価)アルコ−ル脂肪酸(炭素数8〜24)エステル[ポリエチレングリコールのラウリン酸ジエステル、ポリエチレングリコールのオレイン酸ジエステル、ポリエチレングリコールのステアリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンジステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレンモノラウリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンジラウリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレントリラウリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンジステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレントリステアリン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンモノオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレンジオレイン酸ソルビタン、ポリオキシエチレントリオレイン酸ソルビタン等]、脂肪酸(炭素数8〜24)アルカノールアミド[1:1型ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、1:1型ラウリン酸ジエタノールアミド等]、(ポリ)オキシアルキレン(炭素数2〜8、重合度=1〜100)アルキル(炭素数1〜22)フェニルエーテル、(ポリ)オキシアルキレン(炭素数2〜8、重合度=1〜100)アルキル(炭素数8〜24)アミンおよびアルキル(炭素数8〜24)ジアルキル(炭素数1〜6)アミンオキシド[ラウリルジメチルアミンオキシド等]等が挙げられる。
(B2)のうち好ましいのは、腸溶性製剤の表面の皮膜の可塑効果が発揮できるという観点で、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル、さらにポリオキシエチレン(重合度10〜50)脂肪酸(炭素数10〜22)ソルビタン、特に好ましいものはポリオキシエチレン(重合度20)モノヤシ油脂肪酸ソルビタン、ポリオキシエチレン(重合度20)モノステアリン酸ソルビタン、およびポリオキシエチレン(重合度20)モノオレイン酸ソルビタン(「ポリソルベート80」:日局)である。
【0031】
カチオン性界面活性剤(B3)としては、第4級アンモニウム塩型[塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム等]、アミン塩型[ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド乳酸塩、ジラウリルアミン塩酸塩、オレイルアミン乳酸塩等]等が挙げられる。
【0032】
両性界面活性剤(B4)としては、ベタイン型両性界面活性剤[ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルヒドロキシスルホベタイン、ラウロイルアミドエチルヒドロキシエチルカルボキシメチルベタインヒドロキシプロピルリン酸ナトリウム等]、アミノ酸型両性界面活性剤[β−ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等]が挙げられる。
【0033】
(B)のうちで好ましいものは、乳化力が大きいという観点で(B1)、および乳化力に加えて可塑化効果を付与できるという観点で(B2)、並びに(B1)と(B2)の併用である。(B1)と(B2)の併用の場合は、これらの合計量のうちの(B1)は、好ましくは50%以下、さらに好ましくは5〜30%である。
(B)の使用量は、(A)の製造に使用される単量体の合計重量を基準として好ましくは5%以下、さらに好ましくは4%以下、特に好ましくは2〜4%である。5%以下であれば、スプレーコーティング時の製剤同士の合一が防止し易い。
【0034】
なお、(A)の製造時に、後述の可塑剤(D)のうちの(D2)〜(D5)の1種以上を添加することもできる。この場合の乳化剤(B)と可塑剤(D)の合計は、(A)本来の性質を損なわないようにするには、(A)の重量を基準として15%以下が好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下となる量が特に好ましい。
【0035】
本発明の腸溶性水系コーティング剤は、通常20〜60%の蒸発残留分濃度を有するエマルジョンであり、粘度(B型粘度計による測定)は、25℃において通常1〜30mPa・sである。
【0036】
本発明における腸溶性水系コーティング剤のMFTは、好ましくは1〜22℃、さらに好ましくは5〜20℃、特に好ましくは10〜18℃である。
MFTが22℃以下であれば、皮膜の耐水性および耐酸性が発揮し易く、そのため、その後の可塑剤の添加は不要もしくは少量でよく、また、高温でのコーティングを行う必要がなくなる。またMFTが、1℃以上であれば、皮膜同士の融着が発生しにくい傾向にある。
MFTは、JIS K6828「合成樹脂エマルションの試験方法」に定義される方法で測定できる。
【0037】
本発明において、腸溶性水系コーティング剤は、さらに滑沢剤(C)および必要により可塑剤(D)などを添加させて腸溶性水系コーティング剤の水系分散液とすることができる。
滑沢剤(C)としては、炭素数10〜24の脂肪酸(塩)、ワックス類、有機系粉末および無機系粉末などが挙げられる。
炭素数10〜24の脂肪酸としては飽和もしくは不飽和の脂肪酸、例えばデカン酸、デセン酸、ウンデカン酸、ウンデセン酸、ラウリン酸、ドデセン酸、トリデカン酸、トリデセン酸、ミリスチン酸、テトラデセン酸、ペンタデカン酸、ペンタデセン酸、パルミチン酸、ヘキサデセン酸、マルガリン酸、ヘプタデセン酸、ステアリン酸、オクタデセン酸、オクタデカンジエン酸、ノナデカン酸、ノナデセン酸、エイコサン酸、エイコセン酸、ヘンエイコ酸、ベヘニン酸、ドコセン酸、トリコサン酸、トリコサジエン酸、テトラコサン酸、テトラコセン酸、テトラコサジエン酸など、並びにそれらの塩としてはアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム)塩びアミン(アンモニウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン)塩が挙げられる。具体的にはステアリン酸ナトリウムなどが挙げられる。ワックス類としては炭素数10〜30の脂肪酸と高級アルコールのエステルが挙げられ、具体的にはミツロウ、カルナバロウ、ラノリン、綿ロウなどが挙げられる。有機系粉末としては、合成系化合物では、テフロン(R)粉末、ポリエチレン粉末が挙げられ、天然系化合物では木粉、セルロース粉末、ゴム粉およびデンプンなど(平均粒子径1〜1000μm)が挙げられる。無機粉末としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、窒化物、炭素類が挙げられる。酸化物としては、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄などが挙げられ、水酸化物としては水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ホウ酸などが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイトなどが挙げられる。硫酸塩としては、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維などが挙げられる。ケイ酸塩としては、ケイ酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサリト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルンなどが挙げられる。窒化物としては、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素などが挙げられる。炭素類としては、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末などが挙げられる。これらの滑沢剤のうち、好ましいのは無機粉末、さらに好ましいのはケイ酸塩、特に好ましいのはタルクである。またのその使用量は、共重合体(A)の重量に基づいて5〜50%であり、好ましくは10〜30%である。
【0038】
可塑剤(D)としては、(A)を可塑化する作用のあるものであれば特に限定されず、例えば前述のノニオン性界面活性剤(B2)として挙げたものと同様のもの(D1)、およびその他の可塑剤(D2)〜(D5)が挙げられる。
(D1)のうち好ましいものは、腸溶性製剤の表面の皮膜の可塑効果が発揮できるという観点で、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸エステル、さらに好ましいものはポリオキシエチレン(重合度10〜50)脂肪酸(炭素数10〜22)ソルビタン、特に好ましいものはポリオキシエチレン(重合度20)モノヤシ油脂肪酸ソルビタン、ポリオキシエチレン(重合度20)モノステアリン酸ソルビタン、およびポリオキシエチレン(重合度20)モノオレイン酸ソルビタン(「ポリソルベート80」:日局)である。その他の可塑剤(D2)〜(D5)としては以下のものが挙げられる。
(D2)ポリアルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール(重合度2〜400)、およびポリプロピレングリコール(重合度2〜200)など;
(D3)油脂類、例えばオリブ油、ゴマ油、サフラワー油、大豆油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ヒマシ油、綿実油、落花生油、タートル油、卵黄油、カカオ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、牛脂、豚脂、硬化油、硬化ヒマシ油、ヌカ油など;
(D4)高級アルコール、例えば、天然系では、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノールが挙げられ、合成系では、ヘキサデシルアルコール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノールなど;
(D5)多価アルコール、例えば、2価アルコールとしてバチルアルコール、3価アルコールとしてグリセリン、4価アルコールとしてペンタエリスリトール、5価アルコールとしてブドウ糖、6価アルコールとしてソルビトール、8価アルコールとしてショ糖など;が挙げられる。
(D)の添加量は、(B)と(D)[上記の腸溶性水系コーティング剤が(D2)〜(D5)の1種以上を含有する場合、それらも含む]の合計が(A)の重量に基づいて、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは0.01〜5%、特に好ましくは1〜4%となる量であり、(B)に対して好ましくは50%以下となる量である。
【0039】
また本発明における水系分散液には、さらに、色材または結合材などを添加することもできる。これらの添加量は、(A)の重量に基づいて好ましくは0〜20%、さらに好ましくは0〜10%である。
色材としては、タール色素(ニトロ染料、アゾ染料、ニトロソ染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、キノリン染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、ピレン系染料、フタロシアニン系染料)、けい光染料(スチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、クマリン誘導体、ジアミノジベンゾチオフェンジオキシド類)、天然色素(カロチノイド系、フラボノイド系、フラビン系、キノン系、ポリフィリン系、ジケトン系、ペンタシアニジン系)、無機顔料(酸化チタン、タルク、黄酸化鉄、ベンガラ、黒酸化鉄、グンジョウ)、上記滑沢剤(C)の例示で既に挙げた無機粉末などが挙げられる。
滑沢剤(C)の無機粉末を色剤として使用した場合、上記無機粉末以外の(C)を別に添加してもよい。
結合材としては、セルロース誘導体(結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース)、合成化合物(ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール)、糖類(乳糖、ブドウ糖、寒天)などが挙げられる。
【0040】
水系分散液は、必要により、さらに水または前述の水/親水性有機溶媒混合物で希釈されていてもよい。水系分散液の蒸発残留分濃度は、通常5〜50%、好ましくは10〜30%である。また粘度は通常2〜70mPa・s、好ましくは4〜20mPa・sである。
また、水系分散液のMFTは、好ましくは23℃以下、さらに好ましくは20℃以下である。
【0041】
本発明における水系分散液を使用できる医薬品製剤としては、特に限定されるものではないが、特に、耐熱性の弱い薬剤を主成分とする製剤に有効であり、特に42℃を超えると失活する薬剤を主成分とする製剤に有効である。
医薬品製剤の形状としては、顆粒剤、丸剤、散剤、錠剤が挙げられる。薬剤成分としては、消化酵素(プロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチチターゼ、リボヌクレアーゼ)など、低融点あるいは熱分解しやすい成分として日局収載の以下の成分挙げられる。(アスコルビン酸、アスピリン、アセトアミノフェン、アミノ安息香酸エチル、安息香酸、アンチピリン、イオパノ酸、イソソルビド、イソプロピルアンチピリン、イブプロフェン、インドメタシン、エテンザミド、エタクリン酸、エチル炭酸キニーネ、エトスクシミド、エナント酸テストステロン、エナント酸メテノロン、エピリゾール、エルゴカルシフェロール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸アセブトロール、塩酸アルプレノロール、塩酸アマンタジン、塩酸インデノロール、塩酸L−エチルシステイン、塩酸エチルモルヒネ、塩酸エチレフリン、塩酸オクスプレノロール、塩酸クロコナゾール、塩酸シクロペントラート、塩酸ジブカイン、塩酸テトラカイン、塩酸トリメトキシノール、塩酸フェニレフリン、塩酸ベラパミル、塩酸メクロフェノキサート、オキセサゼイン、カプトプリル、カルバミン酸クロルフェネシン、カルモフール、キシリトール、グアノフェネシン、クエン酸クロミフェン、クエン酸ペントキシベリン、クエン酸ジエチルカルバマジン、クリノフィブラート、クロチアゼパム、クロトリマゾール、クロルプロパミド、ケトプロフェン、コレカルシフェロール、酢酸メテノロン、サリチル酸、ジアゼパム、シアナミド、シクロホスファミド、ジスルフィラム、ジフェンヒドラミン、ジメチジン、ジメンヒドリナート、臭化水素酸デキストロメトルファン、臭化ピリドスチグミン、臭化ブチルスコポラミン、酒石酸イフェンプロジル、シンフィブラート、チアマゾール、チオテパ、チニダゾール、トラピジル、トリメタジオン、トルナフタート、トルブタミド、トレピブトン、トロピカミド、ドロペロドール、ナドロール、ニコチン酸アミド、ビサコジル、ハロペリドール、ビホナゾール、フェナセチン、フェニルブタゾン、ブスルファン、フマル酸ホルモテロール、プラゼパム、フルジアゼパム、フルラゼパム、フルルビプロフェン、プログルミド、プロゲステロン、プロチオナミド、プロピオン酸テストステロン、プロピオン酸ドロスタノロン、ペルフェナジン、ベンズブロマロン、マレイン酸クロルフェニラミン、d−マレイン酸クロルフェニラミン、ミグレニン、ミコナゾール、メキタジン、メシル酸ガベキサート、メシル酸デフェロキサミン、メシル酸ベタヒスチン、メストラノール、メダゼパム、メチラポン、メチル硫酸ネオスチグミン、メトキサレン、メトクリプラミド、メナテトレノン、メフルシド、ユビデカレノン、ヨウ化エコチオパート、ヨードホルム、酪酸リボフラビン、リドカイン、l−メントール、アムホテリシンB、アルプロスタジルアルファデクス、エピネフリン、塩酸セフカペンピボキシル、酢酸ヒドロキソコバラミン、酢酸レチノール、酒石酸エルゴタミン、硝酸イソソルビド、セフチブテン、トリメタジオン、ナイスタチン、ニトログリセリン、バソプレシン、パンテチン、メシル酸ブロモクリプチン、メピチオスタンなど。)
【0042】
水分散液のコーティング方法としては特に限定されるものではなく、パンコーティング機、通気式パンコーティング機、流動層コーティング機または転動流動層コーティング機などでよい。一般に錠剤のコーティングにはパンコーティング機または通気式パンコーティング機を用い、顆粒剤及び散剤には流動層コーティング機又は転動流動層コーティング機が用いられている。スプレーされた水分散液の液滴が被コーティング物質の表面において、水の蒸発に伴って分散ポリマー粒子が最密充填される。この時の温度が最低造膜温度(MFT)以上であれば,ポリマー粒子は圧密及びポリマー粒子どうしの変形・融着により成膜が行われる。可塑剤が添加されていない場合、MFTは基本的にはポリマーの組成で決まり、ほぼポリマーのガラス転移温度(Tg)に相当する。したがって、水分散系のフィルムコーティングを行う場合、コーティング中は被コーティング物質の表面温度(錠剤、顆粒剤、散剤等の表面温度)をポリマーのガラス転移温度(Tg)以上に保つ必要がある。ただし、表面温度が高すぎる場合は水の速い蒸発により、また低すぎる場合は被コーティング物質への水の吸収や薬物等の溶解によってポリマー粒子の融着が不十分となり、成膜が不完全なものとなる。したがって、水分散液のコーティングにおいて、良好な腸溶性被膜を得るためには製品温度のコントロールが最も重要なコーティング要因であり、一般的には給気温度を40℃〜60℃とし,製品温度を42℃以下の範囲の一定温度、好ましくは30℃付近の一定温度となるように給気風量及びスプレー速度をコントロールする。耐酸性を得るためには、通常5〜200μmの膜厚であり、好ましくは10〜100μmである。コーティング量は被コーティング物質の形状により異なるが、一般に顆粒剤の場合、その核粒子の10〜30重量%、錠剤、カプセル剤の場合では3〜10%重量を被覆する。
【0043】
本発明における、腸溶性水系コーティング剤は、腸溶性医薬品製剤の用途のみでなく、造膜性が必要な塗料(紙加工用、自動車用、船舶用、鉄道用、建材用など)、化粧品(頭髪用、ネイル用、マスカラ)、食品(あめ類、チョコレート類、ガム類、清涼菓子類など)などの他の用途にも使用することができる。
【0044】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。部は重量部を示す。
また、本発明における腸溶性水系コーティング剤のMFTの測定には、JIS K6828「合成樹脂エマルションの試験方法」に定義される方法を用いる。さらに、耐酸性の評価および腸液における溶解性は、日本薬局方「一般試験法−崩壊試験法−腸溶性の製剤−第1液による試験および第2液による試験」に定義される方法を用いる。さらに、水分散液を素錠に塗布乾燥する前後での薬効成分の活性変化は、消化酵素を薬効成分の本質とする場合は、日本薬局方「一般試験法−消化力試験法」を用いる。さらに、顆粒剤の粒度測定には、日本薬局方「一般試験法−製剤の粒度の試験法」を用いる。
【0045】
実施例1〜5および比較例1〜3:
温度計、窒素導入官、環流冷却管、2個の滴下ロートおよび攪拌機の付いたガラス製フラスコに、水659部、表1または表2記載のアニオン性界面活性剤からなる乳化剤1.9部およびノニオン性界面活性剤からなる乳化剤を7.6部仕込んで溶解し、70℃に保って、表1または表2記載の単量体および連鎖移動剤を表1または表2記載の部数混合した混合液、並びに過硫酸ナトリウム0.8部を水40部に溶解した水溶液を、それぞれ別の滴下ロートから2時間かけて連続的に滴下し、滴下後さらに3時間加熱した後、冷却して、本発明の腸溶性水系コーティング剤(A1)〜(A5)、および比較の腸溶性水系コーティング剤(A6)〜(A8)を得た。
これらの分析値を表1および表2に示す。
【0046】
なお、表1および表2における略号は以下の通り。
MA:メタアクリル酸
EA:アクリル酸エチル
BA:アクリル酸ブチル
LS:ラウリル硫酸ナトリウム(日局)
PS:ポリソルベート80(日局)
PELS:ポリオキシエチレン(重合度=3)ラウリル硫酸ナトリウム
PEG:ポリオキシエチレングリコール(重合度=100)
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
実施例6
実施例1により得られた腸溶性水系コーティング剤(A1)490部に、水490部、タルク20部を加えた水系分散液(E1)を作成し、1mmのスクリーンを用いて押出造粒したパンクレアチン(日局)顆粒剤400部に下記条件でコーティングして、腸溶性顆粒剤(P1)を得た。(P1)は、日局崩壊試験第1液および第2液による試験に適合した。また消化力試験法において、塗布乾燥前の薬効成分の活性の95%を維持した。また(P1)では、コーティング品の製品収率(直径0.71mm〜1.40mmのコーティング顆粒収率)は97.3%であり、表3に示すように顆粒同士の合着(団粒)は全体のわずか0.6%であった。
【0050】
実施例7
実施例2により得られた腸溶性水系コーティング剤(A2)565部に、水495部、マクロゴール400 16.9部及びタルク50.6部を加えた水系分散液(E2)を作成し、FAD10mgを含有する直径6.7mmの錠剤3.0kgに下記条件でコーティングして腸溶性錠剤(P2)を得た。(P2)は、日局崩壊試験第1液および第2液による試験に適合した。錠剤上にピッキングは認められなかった。
【0051】
実施例8
実施例3により得られた腸溶性水系コーティング剤(A3)420部に、水410部及びタルク7.6部を加えた水系分散液(E3)を作成し、塩酸プロプラノロールを20%及び赤色102号Al−レーキを含有する赤色球形顆粒(平均粒径0.85mm)400gに下記条件でコーティングして腸溶性顆粒剤(P3)を得た。P3は、透明感のある赤色コーティング球形顆粒であり、日局崩壊試験第1液および第2液による試験に適合した。また(P3)では、コーティング品の製品収率(直径0.71mm〜1.18mmのコーティング顆粒収率)は99.7%であり、表4に示すように顆粒同志の合着(団粒)は全体のわずか0.1%であった。
【0052】
比較例4
比較例1により得られた腸溶性水系コーティング剤(A6)を用いる以外は、実施例6と同様にして水系分散液(E4)を調製し、さらに実施例6と同様にして、腸溶性顆粒(P4)を得た。(P4)では顆粒表面に多数の亀裂が観測され、第一液による試験に不適合であった。また、良品収率も58.4%と低く、多くの顆粒同志の合着(団粒)が認められた(団粒率 37.5%:表3に記載)。
【0053】
比較例5
比較例2により得られた腸溶性水系コーティング剤(A7)を用いる以外は、実施例7と同様にして水系分散液(E5)を調製し、さらに実施例7と同様にして、腸溶性錠剤(P5)を得た。(P5)は、日局崩壊試験第1液による試験において6錠中2錠が吸水による著しい膨潤が認められた。また、錠剤被膜中にピッキングの結果生じたピンホールを有するコーティング錠剤が認められた。
【0054】
比較例6
比較例3により得られた腸溶性水系コーティング剤(A8)を用いる以外は、実施例8と同様にして水系分散液(E6)を調製し、さらに実施例8と同様にして、腸溶性顆粒(P6)を得た。(P6)では顆粒表面に多数の亀裂が観測され、第一液による試験に不適合であった。また、良品収率も62.0%と低く、表4に示したように、多くの顆粒同志の合着(団粒)が認められた(団粒率 37.6%)。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
【発明の効果】
本発明の腸溶性水系コーティング剤に関する。さらに詳しくは、(メタ)アクリル酸とアクリル酸アルキルエステルからなる共重合体を含む腸溶性水系コーティング剤、該コーティング剤を含む水分散液、および該水分散液を用いた腸溶性医薬品製剤の製法は、可塑剤の使用なしで、あるいは、少ない可塑剤量であっても、低温でのコーティングが可能であり、優れた耐水性、耐酸性を有し、かつ経時的にも安定であるという効果を奏する。
Claims (8)
- (メタ)アクリル酸(a)およびアルキル基の炭素数が2〜18のアクリル酸アルキルエステル(b)の合計が全構成単量体のうちの90重量%以上であり、重量比(a)/(b)が0.5〜0.8である共重合体(A)を含有する腸溶性水系コーティング剤。
- (b)が、アルキル基の炭素数が2〜4のアクリル酸アルキルエステルである請求項1記載の腸溶性水系コーティング剤。
- モル比(a)/(b)が、0.6〜3.3である請求項1または2記載の腸溶性水系コーティング剤。
- 腸溶性水系コーティング剤の蒸発残留物が、下記(I)〜(III)を満たす請求項1〜3のいずれか記載の腸溶性水系コーティング剤。
(I)重量平均分子量が100,000〜500,000である。
(II)酸価が218〜295mgKOH/gである。
(III)ガラス転移温度が55〜100℃である。 - 最低造膜温度が1〜22℃である請求項1〜4いずれか記載の腸溶性水系コーティング剤。
- さらに、乳化剤(B)を、(A)の重量を基準として5重量%以下含有する請求項1〜5のいずれか記載の腸溶性水系コーティング剤。
- 請求項6記載のコーティング剤、滑沢剤(C)および/または可塑剤(D)を含有し、乳化剤(B)および可塑剤(D)の合計が、(A)の重量を基準として15重量%以下である腸溶性コーティング剤水系分散液。
- 請求項7記載の水系分散液を、医薬品製剤の素錠の品温が42℃以下で塗布および乾燥することを特徴とする腸溶性医薬品製剤の製法。
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