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JP3722343B2 - 感熱記録型平版印刷版原版及び平版印刷版の製造方法 - Google Patents

感熱記録型平版印刷版原版及び平版印刷版の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は平版印刷版原版と平版印刷版の製造方法に関し、特に、赤外線レーザー、サーマルヘッド等の熱により書き込み可能であり、特にコンピュータ等のデジタル信号から直接製版できるいわゆるダイレクト製版用可能で、現像処理の不要な感熱記録型平版印刷版原版と熱により直接画像形成が可能な平版印刷版の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、近赤外から赤外に発光領域を持つ固体レーザ・半導体レーザの発達に伴い、コンピュータのディジタルデータから直接製版するシステムとして、これらの赤外線レーザーを用いるものが注目されている。
従来、ディジタル化された画像データーからリスフィルムを介さずに印刷版を直接製版する方法としては、▲1▼電子写真法によるもの、▲2▼青色又は緑色を発光する比較的小出力のレーザで書き込める高感度フォトポリマーを用いる方法、▲3▼銀塩又は銀塩と他のシステムとの複合系を用いる方法、▲4▼ヒートモードレーザ露光により酸を発生させ、その酸を触媒として後加熱により熱硬化画像を得る方法等が知られている。これらの方法は印刷工程の合理化上極めて有用ではあるが、プロセスや処理が煩雑であったり、大がかりな装置を必要とするなどの問題があり、さらに、印刷版の製造には、露光工程の後に、支持体表面の上に設けられた記録層を画像状に除去するための湿式による現像工程や現像処理された印刷版を水洗水で水洗したり、界面活性剤を含有するリンス液、アラビアガム、澱粉誘導体を含む不感脂化液で処理する後処理工程が含まれため、上記のような湿式現像処理を必要とせず、露光後にそのまま印刷に使用できる印刷版用原版が望まれている。
【0003】
画像露光後に現像処理を必要としない印刷版用原版については、例えば、USP5,258,263号に、露光領域で硬化又は不溶化が促進される感光性親水層と感光性疎水層とを支持体上に積層した平版印刷プレートが開示されている。しかし、このプレートは感光層の非露光部が印刷過程で取り除かれる、いわゆる印刷機上現像タイプの印刷版であり、湿し水や印刷インクを汚染する欠点を持つ。
【0004】
また、特開平7−186562(EP652,483)号公報には、熱と酸の作用によりカルボン酸を発生させるポリマーと赤外線吸収色素とを含有する平版印刷版用原版が開示されている。この平版印刷版用原版は、それ自体が疎水性の記録層であり、加熱により酸を発生させてその部分を親水化させることにより画像形成をするため、現像工程を必要としないが、親水化させた領域の親水性が不充分なため、印刷時に汚れが生じ易いという問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、加熱により、または光熱変換により生じた熱により高感度で画像を形成することができる記録層を有し、赤外線を放射するレーザ又はサーマルヘッドを用いて記録することにより、デジタルデータから直接製版可能であり、かつ画像露光後湿式現像処理やこすり等の特別な処理を必要としない、感熱記録型の平版印刷版原版及びそれを用いた平版印刷版の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討の結果、樹脂中の親水性官能基が熱により特定の多価金属キレート化合物との相互作用によってキレート交換して架橋反応を生起することに着目し、この反応により親水性官能基を有する樹脂の親水性が失われ、親水性から疎水性への変化がおこることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の平版印刷版原版は、支持体上に、(a)金属錯体化合物と、(b)熱の作用により該金属錯体化合物から生じた金属に配位可能でかつ親水性の基を分子内に2個以上有し、さらに主鎖間が架橋されている親水性高分子と、を含有する記録層を有することを特徴とする。
【0007】
この記録層に、さらに(c)光熱変換物質を含有すること、及び/又は、(d)熱可塑性ポリマーを含有することが好ましい態様である。
また、本発明の平版印刷版の製造方法は、支持体上に、(a)金属錯体化合物と、(b)熱の作用により該金属錯体化合物から生じた金属に配位可能でかつ親水性の基を分子内に2個以上有しさらに主鎖間が架橋されている親水性高分子と、(c)光熱変換物質と、を含有する記録層を有する感熱記録型平版印刷版原版に、赤外線レーザ光を画像状に露光することで、表面に疎水性領域を形成することを特徴とする。
【0008】
本発明の平版印刷版原版によれば、(b)親水性の基を分子内に2個以上有しさらに主鎖間が架橋されている親水性高分子における、熱により金属錯体化合物から生じる金属に配位可能な前記親水性の基が、該(a)金属錯体化合物から放出された金属と、キレートによる架橋反応を起こし、当該領域が疎水性領域、即ち、親インク性の領域となり、キレート反応を生じない領域は親水性高分子の表面特性がそのまま保持されて湿し水が付着する親水性領域となり、現像工程を経ずにそのまま印刷に使用しうる平版印刷版が形成される。
【0009】
その作用機構は明らかではないが、(a)金属錯体化合物が、(b)熱の作用により該金属錯体化合物から生じた金属に配位可能でかつ親水性の基を分子内に2個以上有しさらに主鎖間が架橋されている親水性高分子における該2個の親水基との間でキレートによる架橋反応を起こし、その架橋反応により、親水基が封鎖されるとともに、架橋構造の形成により吸水性が低下して、樹脂の親水性が失われ、加熱された領域のみが疎水性領域となると考えられる。
【0010】
ここで記録層に(c)光熱変換物質を含有することで、赤外線レーザーなどの光による書き込みが可能となる。
また、この記録層に、さらに(d)熱可塑性ポリマーを含有することで、熱によるポリマーの溶融、融着が起こり、疎水化効果が向上する。さらに、親水性から疎水性への極性変換を増強させるため(a)金属錯体化合物は、この(d)熱可塑性ポリマー、具体的な剤型としては、特に熱溶融性疎水性ポリマー粒子中に含まれていることが好ましい。
【0011】
親水性の官能基を有する高分子化合物は、多価金属カチオンと錯体を形成して、疎水性となる。また、金属錯体化合物は加熱により金属を放出する。本発明によれば、記録層中に存在する金属錯体化合物が加熱により金属を放出し、ここで生じた金属が親水性ポリマーとキレート化反応を起こして錯体を形成し、疎水化するので、加熱領域のみが疎水性の親インク領域となり、それ以外は親水性領域となるため、そのまま感熱記録型無処理刷版を形成できる。
この金属錯体化合物による疎水化反応について、反応機構を下記に模式的に記載する。
【0012】
【化1】
Figure 0003722343
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の平版印刷版原版(以下、適宜、単に原版と称する)の記録層に含まれる(a)金属錯体化合物(以下、適宜、(a)金属錯体と称する)の形態としては、(a−1)金属ジケテネート類、(a−2)金属アルコキサイド類、(a−3)金属カルボン酸塩類、(a−4)アルキル金属類などが挙げられるが、特に(a−1)金属ジケテネート類が好ましい。
【0014】
(a−1)金属ジケテネート類を形成するキレート部の具体例としては、2,4−ペンタジオネート(アセチルアセトネート)、フルオロペンタジオネート、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート、ベンゾイルアセトネート、テノイルトリフルオロアセトネートや1,3−ジフェニル−1,3−プロパンジオネートなどや、メチルアセトアセテート、エチルアセトアセテート、メタクリルオキシエチルアセトアセテートやアリルアセトアセテートなどが挙げられる。
【0015】
また、中心金属としては周期表の第2周期から第6周期の原子が挙げられ、なかでも第3周期から第5周期の金属および半導体原子が好ましい。第3周期金属のAl、Si、Mg、第4周期金属のCa、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、第5周期金属のZr、In、Snが特に好ましい。
【0016】
(a−1)金属ジケテネート類の具体例としては、アルミニウム、鉄(III )、マンガン、コバルト、ニッケル、チタン、銅、ジルコニウムのアセチルアセトネート(ペンタンジオネート)、エチルアセトアセトネート(ヘキサンジオネート)、プロピルアセトアセトネート(ヘプタンジオネート)、テトラメチルヘプタンジオネート、ベンゾイルアセトネート類などが挙げられるが、これらの中で特に好ましいものは鉄(III )アセチルアセトナート、アルミニウムアセチルアセトナート、チタンアセチルアセトナートである。
【0017】
また、(a−2)金属アルコキサイド類としては、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラステアロイルチタネート、ブチルチタネートダイマー、アルミニウムオキシドイソプロピレート、テトラ−n−ブトキシジルコニウム等が挙げられる。
(a−3)金属カルボン酸塩類としては、アルミニウムオキシドオクテート、アルミニウムオキシドステアレート、オクチル酸ジルコニル、ステアリン酸ジルコニルが挙げられる。
その他の例として、(a−1)金属ジケテネート類、(a−3)金属カルボン酸塩類及び(a−4)アルキル金属類が混合した配位子を有する化合物、例えば、ジプロポキシ−ビス(アセチルアセトナト)チタン、ジプロポキシチタン−ビス(エチルアセトアセテート)、ジプロポキシチタン−ビス(ラクテート)、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、イソプロピルトリステアロイルチタネート、アルミニウムジ−ブトキシドモノメチルアセトアセテート等も使用しうる。
【0018】
(a)金属錯体の使用量は、(b)熱の作用により該金属錯体から生じた金属に配位可能でかつ親水性の基を分子内に2個以上有し、さらに主鎖間が架橋されている親水性高分子に対して5〜300%(重量)の範囲、より好ましくは10〜200%の範囲である。使用量が5%より少ない場合は疎水化の程度が不十分となり形成される画像に欠陥を生じるおそれがあり、300%より多い場合は、過剰の金属錯体が画像形成に悪影響を及ぼすことがある。
【0019】
次に、(b)熱の作用により該金属錯体から生じた金属に配位可能でかつ親水性の基を分子内に2個以上有し、さらに主鎖間が架橋されている親水性高分子(以下、適宜、(b)架橋親水性高分子と称する)について説明する。
本発明で使用される(b)架橋親水性高分子としては、たとえば、水酸基,カルボン酸基,スルホン酸基,リン酸基,ホスホン酸基,もしくはそれらの塩より選ばれる少なくとも2つの親水性官能基を分子内に有し、且つ、高分子の主鎖間が架橋された構造を有する高分子であれば公知のいずれのものを使用することができる。
【0020】
本発明に用いるこの親水性高分子は、主鎖間が架橋されていることが必要であるが、表面が親水性であり、且つ、記録層が長期間にわたり湿し水により損なわれないという観点からは、分子間で三次元架橋構造を有することが耐刷性の観点から好ましい。このような(b)架橋親水性高分子としては、炭素−炭素結合から構成され、複数の主鎖間が架橋による網目構造を有する高分子に、側鎖としてカルボキシル基、スルホン酸基,リン酸基,ホスホン酸基,またはこれらの塩、水酸基等の親水性官能基を一種類以上かつ複数個含有する高分子が好ましく、具体的には、ポリ(メタ)アクリレート系、ポリオキシアルキレン系、ポリウレタン系、エポキシ開環付加重合系、ポリ(メタ)アクリル酸系、ポリ(メタ)アクリルアミド系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアミン系、ポリビニル系、多糖類系或いはその複合系等の高分子が例示出来る。
【0021】
また、(b)架橋親水性高分子中には、先の親水性官能基のほかに、アミド基やポリオキシアルキレン基などを有していてもよい。またこれらの高分子に架橋構造を形成するためにアミノ基、グリシジル基、重合性不飽和二重結合、光架橋性二重結合などの一つを含んでいることが好ましい。
【0022】
本発明に係る(b)架橋親水性高分子の具体例を以下に例示する。(b)架橋親水性高分子としては、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ、アミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ、アミン塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、3−ビニルプロピオン酸若しくはそのアルカリ、アミン塩、ビニルスルフォン酸若しくはそのアルカリ、アミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリルアミン若しくはその鉱酸塩等の水酸基、カルボキシル基あるいはその塩、スルホン酸基あるいはその塩、リン酸あるいはその塩、アミド基、アミノ基、エーテル基といった親水性基を有する親水性モノマーの中から少なくとも一種を用いて親水性単一重合体若しくは共重合体を合成したものを用いることができる。
【0023】
これらの(b)架橋親水性高分子を含む記録層の製造方法について詳細に述べれば、分子内に少なくとも2つの水酸基、カルボキシル基、アミノ基或いはその塩、エポキシ基といった官能基を有する親水性高分子に、これらの官能基を利用して、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基等の付加重合性二重結合、或いはシンナモイル基、シンナミリデン基、シアノシンナミリデン基,p−フェニレンジアクリレート基等の環形成基を導入して不飽和基含有ポリマーを得る。これに、必要により、該不飽和基と共重合し得る単官能、多官能モノマーと後述の重合開始剤と後述の他の成分とを加え、適当な溶媒に溶解し、ドープを調整する。これに必要な併用成分を加えて、以下に説明する支持体上にコーティングし、乾燥後或いは乾燥を兼ねて三次元架橋させ、記録層を形成することができる。
【0024】
また、水酸基、アミノ基、カルボキシル基といった活性水素を含有する親水性官能基を有する(b)架橋親水性高分子は、イソシアネート化合物或いはブロックポリイソシアネート化合物および後述の他の成分と共に、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどの活性水素非含有溶剤中に添加し、ドープを調合し支持体に塗布し乾燥後或いは乾燥を兼ねて反応させ三次元架橋させ、記録層を形成することができる。本発明の(b)親水性高分子の共重合成分として、グリシジル(メタ)アクリレートなどのグリシジル基、(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基を有するモノマーを併用することができる。グリシジル基を有する親水性バインダーポリマーは、架橋剤として、1,2−エタンジカルボン酸、アジピン酸といったα,ω−アルカン若しくはアルケンジカルボン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、トリメリット酸等のポリカルボン酸、1,2−エタンジアミン、ジエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、α,ω−ビス−(3−アミノプロピル)−ポリエチレングリコルエーテル等のポリアミン化合物、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のオリゴアルキレンまたはポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリストール、ソルビトール等のポリヒドロキシ化合物を用い、これらとの開環反応を利用して三次元架橋構造を形成することができる。
【0025】
官能基としてカルボキシル基、アミノ基を有する親水性バインダーポリマーは、架橋剤として、エチレンまたはプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレンまたはポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等のポリエポキシ化合物を用いたエポキシ開環反応等を利用して三次元架橋構造を形成することができる。
(b)架橋親水性高分子が、セルロース誘導体などの多糖類やポリビニルアルコールあるいはその部分鹸化物、グリシドールホモ若しくはコポリマー若しくはこれらをベースとした高分子である場合、これらが含有する水酸基を利用し、前述の架橋反応し得る官能基を導入し、前述と同様の方法で三次元架橋構造をもたらすことが出来る。
【0026】
以上述べた中でも、(b)架橋親水性高分子としては、(メタ)アクリル酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、イタコン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン酸塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミンもしくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、ビニルスルホン酸もしくはそのアルカリ金属塩およびアミン塩、2−スルホエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリルアミンもしくはそのハロゲン化水素酸塩等の、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸、アミノ基もしくはそれらの塩、水酸基、アミド基およびエーテル基などの親水性基を有する親水性モノマーから選ばれる少なくとも一種を用いて合成した親水性ホモもしくはコポリマー、あるいは、ポリオキシメチレングリコールまたはポリオキシエチレングリコールから構成された親水性高分子を前記と同様の三次元架橋したものが好ましい。
【0027】
本発明に用い得る(b)架橋親水性高分子に好適な公知の架橋構造を有する高分子としては、例えば、(1)WO98/40212号に記載の金属コロイドを含む架橋されたポリマーよりなる親水層を構成する高分子、(2)特許登録公報2592225号に記載の有機親水性ポリマーとシランカップリング剤との縮合物よりなる親水層を構成する高分子、(3)特開平10−6468号公報および特開平10−58636号公報に記載された、架橋された有機ポリマーよりなる親水層を構成する高分子などを挙げることができ、特に、(3)の架橋された有機ポリマーよりなる親水層に例示された親水性高分子が好ましく用いられる。
【0028】
本発明の平版印刷版原版の記録層に、前記の二成分に加えて(c)光熱変換物質を配合することで、サーマルヘッドなどによる加熱に加えて、さらに、赤外線レーザーなどの活性光による書き込みが可能となる。この観点から、本発明の平版印刷版用原版には、(c)光熱変換物質を含有させることが好ましい。本発明に使用しうる(c)光熱変換物質としては、紫外線、可視光線、赤外線、白色光線等の光を吸収して熱に変換し得る物質ならば全て使用でき、例えば、カーボンブラック、カーボングラファイト、顔料、フタロシアニン系顔料、鉄粉、黒鉛粉末、酸化鉄粉、酸化鉛、酸化銀、酸化クロム、硫化鉄、硫化クロム等が挙げられる。特に、好ましいのは、波長760nmから1200nmの赤外線を有効に吸収する染料、顔料、または金属である。
【0029】
染料としては、市販の染料及び文献(例えば、「染料便覧」有機合成化学協会編集、昭和45年刊)に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
好ましい染料としては、例えば、特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭59−202829号、特開昭60−78787号等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号等に記載されているスクワリリウム色素、英国特許434,875号記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0030】
また、米国特許第5,156,938号記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号記載の置換アリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号(米国特許第4,327,169号)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号公報に開示されているピリリウム化合物も好ましく用いられる。
また、好ましい別の染料の例として、米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体が挙げられる。
【0031】
本発明において使用される顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。
顔料の種類としては、黒色顔料、黄色顔料、オレンジ色顔料、褐色顔料、赤色顔料、紫色顔料、青色顔料、緑色顔料、蛍光顔料、金属粉顔料、その他、ポリマー結合色素が挙げられる。具体的には、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が使用できる。これらの顔料のうち好ましいものはカーボンブラックである。
【0032】
これら顔料は表面処理をせずに用いてもよく、表面処理を施して用いてもよい。表面処理の方法には樹脂やワックスを表面コートする方法、界面活性剤を付着させる方法、反応性物質(例えば、シランカップリング剤、エポキシ化合物、ポリイソシアネート等)を顔料表面に結合させる方法等が考えられる。上記の表面処理方法は、「金属石鹸の性質と応用」(幸書房)、「印刷インキ技術」(CMC出版、1984年刊)及び「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている。
【0033】
これらの染料又は顔料は、記録層を構成する材料全固形分の0.1〜30重量%の割合で使用することが好ましい。顔料又は染料の添加量が0.1重量%未満であると感度が低くなり、また30重量%を越えると印刷時非画像部に汚れが発生する。
【0034】
また、本発明の平版印刷版原版の記録層には、さらに(d)熱可塑性ポリマーを含有することが好ましい。この(d)熱可塑性ポリマーを添加することで、熱によるポリマーの溶融、融着が起こり、疎水化効果の向上が期待される。溶融、融着効果を発現しやすくなるため、(d)熱可塑性ポリマーは微粒子という形態をとることが好ましい。
【0035】
この溶融、融着効果を発現しやすくするためには、ポリマーのガラス転移温度が150℃以下、更に好ましくは120℃以下のものを使用するのがよい。ガラス転移温度が150℃以上の場合はポリマーの熱融着が起こりにくく、比較的小出力のレーザーでは強固な画像を形成するのが困難である。ガラス転移温度の下限については特に制限はないが、10℃程度以上であることが好ましい。ガラス転移温度が低すぎる場合は、このポリマーの微粒子を含有する塗液を基板に塗布、乾燥して記録層を形成する過程で、バインダー樹脂による微粒子の隔離が不完全な場合微粒子同士の融着が起こり、良好に粒子の分散した記録層を形成できないおそれがある。
【0036】
本発明への使用に好適な(d)熱可塑性ポリマーの具体的な例としては、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルカルバゾールなど、またはそれらの共重合体が挙げられ、ポリエチレンが最も好適に使用される。(d)熱可塑性ポリマーの分子量は5,000〜1,000,000の範囲から選択することができる。
この(d)熱可塑性ポリマーが微粒子の形態をとる場合、その粒径は0.01μm〜50μmが好ましく、より好適には0.05μm〜10μmの範囲、そして最も好適には0.05μm〜2μmの範囲である。ポリマー粒子が大きくなればなるほど、熱記録材料の解像力は小さくなり、逆に小さくなりすぎると、親水性、疎水性のディスクリミネーションが低下し画像形成性が悪化する傾向にある。
【0037】
このようなポリマー粒子は水性コーテイング液中に分散体として存在することが安定性の観点から好ましく、このようなポリマー粒子の水性分散液は、米国特許第3,476,937号に開示されている方法により製造できる。熱可塑性重合体の水性分散液を製造するために特に適する他の方法としては、(1)疎水性の熱可塑性重合体を水非混和性有機溶媒の中に溶解させ、(2)このようにして得られた溶液を水または水性媒体中に分散させ、そして、(3)有機溶媒を蒸発により除去する工程を含む方法が挙げられる。
【0038】
記録層中に含有される疎水性の熱可塑性ポリマー微粒子の配合量は、好適には1重量%〜80重量%の範囲、より好適には5重量%〜55重量%の範囲、そして最も好適には10重量%〜40重量%の範囲である。配合量が少なすぎる場合には、露光部分における疎水性の向上性の観点から、このポリマーを添加する効果が不充分であり、一方、疎水性の熱可塑性ポリマー微粒子の配合量が多すぎると、非露光部である親水性層に影響を与え、非画像領域中でのインキ受容性が生じ、非画像部の汚れが発生するおそれがでてくる。
【0039】
このような(d)熱可塑性ポリマー微粒子を配合した記録層によれば、画像を形成しようとするパターン領域を直接加熱するか、光を熱に転換させることができるようなパターンの領域を含有するオリジナルと接触させながら露光することにより、記録層中の画像様の加熱或いは露光領域において、疎水性の熱可塑性ポリマー微粒子が軟化または融解し、加熱終了後に露光領域で凝固し、それによりこれらの領域における疎水性が向上する。
【0040】
本発明では、上述の2つの必須成分、及び好ましい配合成分のほか、必要に応じて、本発明の効果を行わない限りにおいて、種々の公知の添加剤を配合してもよい。
例えば、記録層の機械的強度および多孔性を増加させるために、コロイド状シリカを配合することができる。使用されるコロイド状シリカは、例えば平均粒子径が40nm以下のものが用いられ、具体的には、例えば20nmの平均粒子寸法を有するコロイド状シリカの市販の水性分散液の形態のものをそのまま記録層の塗布液に配合して使用することができる。さらに、コロイド状シリカより大きい粒子径を有する不活性粒子、例えば J. Colloid and Interface Sci.、26巻、1968、62〜69頁に記載されている如きステベル(Stoeber)に従い製造されたシリカ、またはアルミナ粒子、または二酸化チタンもしくは他の重金属酸化物の粒子であって、少なくとも100nmの平均直径を有する粒子も同様に用いることができる。これらの微粒子を記録層の配合することにより、層の表面には顕微鏡的寸法の均一な平らでない凹凸が形成され、それらは背景部(非画像領域即ち、親水性領域)において湿し水のための貯蔵場所として作用する。
【0041】
その他、本発明における記録層には、印刷条件に対する安定性を広げるため、特開昭62−251740号公報や特開平3−208514号公報に記載されているような非イオン界面活性剤、特開昭59−121044号公報、特開平4−13149号公報に記載されているような両性界面活性剤を添加することができる。また、必要に応じ、塗膜の柔軟性等を付与するために、例えば、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸又はメタクリル酸のオリゴマー及びポリマー等の可塑剤を配合することもできる。
【0042】
本発明の平版印刷版用原版は、通常上記各成分を溶媒に溶かして、適当な支持体上に塗布することにより製造することができる。ここで使用する溶媒としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、トルエン、水等を挙げることができるがこれに限定されるものではない。
【0043】
これらの溶媒は単独又は混合して使用される。溶媒中の上記成分(添加剤を含む全固形分)の濃度は、好ましくは1〜50重量%である。また塗布、乾燥後に得られる支持体上の塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、平版印刷版用原版についていえば一般的に0.5〜5.0g/m2が好ましい。塗布する方法としては、種々の方法を用いることができるが、例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げることができる。
【0044】
本発明に使用される支持体は寸度的に安定な板状物であることが好ましく、例えば、紙、プラスチック(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等)がラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、プラスチックフィルム(例えば、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等)、上記の如き金属がラミネート若しくは蒸着された紙若しくはプラスチックフィルム等を挙げることができる。好ましくは、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、酢酸セルロースフィルム、およびポリオレフィン(例えばポリエチレン)コーテイング紙が挙げられ、支持体を例えばコポリ(塩化ビニリデン/メタクリル酸メチル/イタコン酸)のラテックスおよびシリカを含有する第一の下塗り層でコーテイングして親水性層と連続する下塗り層と支持体との接着性を改良することができる。
本発明においては、記録層を構成する高分子が親水性高分子であるため、支持体表面を親水性とする必要はない。
【0045】
以上のようにして、本発明の平版印刷版用原版を作成することができる。この平版印刷版用原版は、感熱型の記録層を有するため、サーマルヘッドなどの熱により記録を行うが、記録層中に(c)光熱変換物質を配合することにより、光による書き込みが可能となる。この光による記録は、適当なパターンを形成したフィルターを介して全面露光を行う方法をとることもできるが、波長760nmから1200nmの赤外線を放射する固体レーザ及び半導体レーザにより画像露光する方法が好ましい。このレーザー露光によれば、コンピューターのデジタル定法から直接所望の画像様の記録が可能となる。
【0046】
本発明においては、記録後に記録層上に親インク性の疎水領域(画像部)と湿し水を保持する親水領域(非画像部)が形成されるため、記録後の記録層の溶解、現像処理を行う必要がなく、レーザ照後すぐに印刷機に印刷版を装着し印刷を行うことができる。
【0047】
本発明の平版印刷版原版を用いて平版印刷版を製造する場合の、代表的な方法としては、支持体上に、(a)金属錯体化合物と、(b)熱の作用により該金属錯体から生じた金属に配位可能でかつ親水性の基を分子内に2個以上有しさらに主鎖間が架橋されている親水性高分子と、(c)光熱変換物質と、を含有する記録層を有する感熱記録型平版印刷版原版に、赤外線レーザ光を画像状に露光する方法が挙げられる。
このような処理によって得られた平版印刷版はオフセット印刷機等にかけられて、多数枚の印刷に用いられる。
【0048】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
〔親水性ポリマーの製造例〕
ポリアクリル酸(分子量25000和光純薬製)18.0gをジメチルアセトアミドに溶解し2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(以下、MOIと略記する)5.5gとジブチル錫ジラウレート0.1gを添加し3時間反応した。次いで水酸化ナトリウムでカルボキシル基の80当量%を部分中和し、アセトンを加えポリマーを沈殿させ、よく洗浄して精製し親水性ポリマー(P−1)を得た。
【0050】
〔金属錯体分散液の作成〕
金属錯体であるアセチルアセトンアルミ錯体(アルミキレートA,川研ファインケミカル社製)4.0g、ポリビニルアルコール(PVA-405、クラレ(株)製)10重量%水溶液6.0g、水 20g,ガラスビーズ 10gをペントシェイカーを使用して15分間攪拌し、金属錯体分散液を作成した。
【0051】
〔印刷原版の作成〕
次に上記の組成からなる記録層塗布液を調製した.
Figure 0003722343
【0052】
【化2】
Figure 0003722343
【0053】
次にこの記録層塗布液をワイヤーバー14を用いて200μm厚のポリエチレンテレフタレート支持体上に塗布し、100℃で1分乾燥した後、UV光で全面露光(1000カウント:アイロタリープリンター,アイグラフィック社製)することにより、架橋した高分子からなる記録層を有する感熱記録型平版印刷版原版を得た。記録層の膜厚は3.7μmであった。
【0054】
(実施例2〜5)
【0055】
金属錯体として、アセチルアセトンアルミ錯体に代えて下記の化合物を使用して分散液を調製した以外は、実施例1と同様の方法にて感熱性平版印刷版原版を作成した.
Figure 0003722343
【0056】
印刷性能評価
実施例1〜6で得られた平版印刷版原版を波長830nmの赤外線を発するLDレーザで像様に露光した。露光後得られた版を現像することなくそのまま印刷機(ハイデルSOR-M:ハイデルベルグ社製)に取り付けて印刷を行った。2000枚印刷を行ったが、配合した金属錯体の種類に関わらず、いずれも鮮明な印刷物が得られ、且つ、非画像部には汚れは見られなかった。
【0057】
【発明の効果】
本発明の平版印刷版原版によれば、熱により、または光熱変換により生じた熱により高感度で画像を形成することができ、赤外線レーザ又はサーマルヘッドを用ることにより、デジタルデータから直接製版可能であり、かつ画像露光後湿式現像処理やこすり等の特別な処理を必要としないという優れた効果を奏する。また、本発明の平版印刷版用の製造方法によれば、デジタルデータから直接製版可能であり、画像露光後湿式現像処理やこすり等の特別な処理を必要とせず、優れた特性の平版印刷版を製造することができる。

Claims (4)

  1. 支持体上に、(a)金属錯体化合物と、(b)熱の作用により該金属錯体化合物から生じた金属に配位可能でかつ親水性の基を分子内に2個以上有し、さらに主鎖間が架橋されている親水性高分子と、を含有する記録層を有する、感熱記録型平版印刷版原版。
  2. 前記記録層に、さらに(c)光熱変換物質を含有することを特徴とする請求項1に記載の感熱記録型平版印刷版原版。
  3. 前記記録層に、さらに(d)熱可塑性ポリマーを含有することを特徴とする請求項1に記載の感熱記録型平版印刷版原版。
  4. 支持体上に、(a)金属錯体化合物と、(b)熱の作用により該金属錯体化合物から生じた金属に配位可能でかつ親水性の基を分子内に2個以上有しさらに主鎖間が架橋されている親水性高分子と、(c)光熱変換物質と、を含有する記録層を有する感熱記録型平版印刷版原版に、赤外線レーザ光を画像状に露光することで、表面に疎水性領域を形成することを特徴とする平版印刷版の製造方法。
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