JP3711503B2 - 遊星歯車装置と、これを用いたエンジン始動装置用減速機 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、径の異なる大小2つの歯車からなるプラネットギヤを用いた複式遊星歯車装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
径の異なる大小2つの歯車が連続して同軸で形成されるプラネットギヤを用いた遊星歯車装置の例として、機械工学全書1120「歯車の設計・製作(1)」(大河出版、昭和46年5月発刊)の39ページに記載の航空機用遊星歯車減速機があげられる。この様な複式遊星歯車減速機は既に公知の技術であり、図5に示すような構成である。すなわち、前記複式遊星歯車減速機は、入力軸1と、該入力軸1と一体をなし負荷側軸端部に形成されたサンギヤ2と、大径歯車4と小径歯車5が連続して同軸で形成され前記入力軸1の外周に挿入されたキャリヤ7にピン8で片持ち支持されたプラネットギヤ3と、前記サンギヤ2と同軸線上に対向して配置されたキャリヤ軸9と、該キャリヤ軸9と同心で形成され前記プラネットギヤ3の小径歯車5と噛み合っているインターナルギヤ6とを含んでなり、前記複式遊星歯車減速機は、前記サンギヤ2と前記プラネットギヤ3の大径歯車4が噛み合って、キャリヤが固定され、インターナルギヤ6の回転が出力となるスター型である。
【0003】
また、上記と別の従来例として、単段2KーH(1)型プラネタリー遊星歯車減速機(以下、単段2KーH型という)をエンジン始動装置に用いた例があり、図6に該例の全体図を示す。エンジン始動装置12は、モータ10を高速回転させ、単段2KーH型19を設けることによって小型軽量化を図っている。前記単段2KーH型19は、モータ10の回転子であるアーマチャ11と一体をなす入力軸1の負荷側に設けられたサンギヤ2と、前記入力軸1と同軸線上に対向して配置されたキャリヤ軸9と、該キャリヤ軸9の外周に同心で挿入されたキャリヤ7と、前記キャリヤ軸9を軸受にて指示しているブラケットに固定されたインターナルギヤ6と、前記キャリヤ7に圧入されたピン8Bで片持ち支持され前記サンギヤ2と前記インターナルギヤ6にそれぞれ噛み合っているプラネットギヤ3とを含んで構成され、モータ10を起動し回転させれば、入力軸1のサンギヤ2が回転し、これによりプラネットギヤ3は自転しながらサンギヤ2の周りを公転する。このプラネットギヤ3の公転運動は前記インターナルギヤ6を介してキャリア7と一体化された前記キャリア軸9に出力される。
【0004】
複式遊星歯車減速機をキャリヤが回転するプラネタリー型として用いると、前記単段2KーH型と比較して、歯車の半径方向を大きくすることなく大きな減速比が得られることや、大小2つの歯車のモジュールを異なるように設計しても問題ないことから強度設計が容易であるという長所がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の長所を利用して、従来技術である図5の様な複式遊星歯車減速機を前記単段2KーH型の代わりに図6の様なエンジン始動装置に採用すると、複式遊星歯車減速機ではプラネットギヤをキャリアに固定されたピンによって片持ち支持する方式をとっているため、ピンの長さが、単段2KーH型におけるピン8Bよりも長くなる。そのためピンとキャリアの結合部に大きな曲げ応力が生じてピンを破損し、減速機の機能停止を招く恐れがある。
【0006】
また、減速比を大きくとろうとするとプラネットギヤの大径歯車と小径歯車の歯数を大径歯車は多く、小径歯車は少なくしなければならない。そのためピンの直径は小径歯車の歯元円直径よりも小さくしなくてはならなくなり、ピンに強度上十分な径を与えることができなくなる。また、エンジン始動装置においては、モータの小型軽量化を図るため、減速比の向上が求められている。しかし、エンジン始動装置の外径は、モータの径に合わせて決定されており、モータの外径よりも大きな径の減速機では意味がない。そこで減速機の半径方向の大きさは拡大することなくより大きな減速比が得られるような減速機が求められている。またコスト的な問題からも、現在採用されている単段2KーH型と比較して同様もしくはそれ以下の部品点数であり、組立の容易なものであることが望まれている。
【0007】
本発明の目的は、プラネタリー型複式遊星歯車の増減速比を向上させ、さらに、部品点数を削減し、遊星歯車装置を容易に組立できるものとすることである。
【0008】
上記課題は、第1の回転軸に設けられたサンギヤと、大径歯車と小径歯車を有し前記サンギヤに一方の歯車が噛み合わされるプラネットギヤと、プラネットギヤを公転自由に支持するキャリアと、プラネットギヤの他方の歯車に噛み合わされるインターナルギヤと、キャリアに連結された第2の回転軸とを備えた遊星歯車装置において、プラネットギヤは、前記大径歯車と前記小径歯車の間に軸受部を設けて同軸で少なくとも径方向の周辺部分が同一部材により一体成型され、軸受部の径が小径歯車の歯先円直径よりも大きく形成されてなり、キャリアは、プラネットギヤの軸受部を自転自由に支持する軸受穴を有することで達成される。
【0009】
【作用】
複式遊星歯車装置におけるプラネットギヤの大径歯車と小径歯車の間に軸受部を設けることにより、従来技術で用いられていた小径歯車の歯元円直径に規制されたピンがなくなるため、増減速比の向上ができ、また、部品点数も削減でき、プラネットギヤに生じる曲げ応力は従来と同じである。また、キャリヤに形成された軸受穴に前記軸受部を嵌合し大径歯車と小径歯車を片持ち支持することで組立が容易となる。
【0010】
【実施例】
本発明の第1の実施例であるプラネタリー型複式遊星歯車減速機(以下、複式遊星歯車減速機という)を図1及び図2に示す。複式遊星歯車減速機は、入力軸1と、該入力軸1と同軸をなし負荷側に一体形成されたサンギヤ2と、連続して同軸で形成された大径歯車4Aと小径歯車5Aからなりその間に直径が前記小径歯車5Aの歯先円直径よりも大きい径をもつ軸受部13Aが設けられているプラネットギヤ3Aと、連続して同軸で形成された大径歯車4Bと小径歯車5Bからなりその間に直径が前記小径歯車5Bの歯先円直径よりも大きい径をもつ軸受部13Bが設けられているプラネットギヤ3Bと、連続して同軸で形成された大径歯車4Cと小径歯車5Cからなりその間に直径が前記小径歯車5Cの歯先円直径よりも大きい径をもつ軸受部13Cが設けられているプラネットギヤ3Cと、前記小径歯車5A、5B及び5Cに干渉することなく前記軸受部13A、13B及び13Cにそれぞれ挿入される軸受14A、14B及び14Cと、前記入力軸1と同軸線上に対向して配置されたキャリア軸9と、該キャリア軸9と一体化され前記軸受14A、14B及び14Cを嵌合する軸受穴15A、15B及び15Cが設けられたキャリア7と、図示しないケーシングに固定されたインターナルギヤ6とを含んで構成されている。
【0011】
前記プラネットギヤ3A、3B及び3Cは、前記サンギヤ2の外周の空間を周方向に三等分された位置に前記入力軸1の軸線方向と並行となるように配置され、前記プラネットギヤ3A、3B及び3Cそれぞれの大径歯車4A、4B及び4Cと前記サンギヤ2が噛み合い、前記プラネットギヤ3A、3B及び3Cそれぞれの小径歯車5A、5B及び5Cと前記インターナルギヤ6が噛み合っている。
【0012】
上記の構成の実施例では、減速比をあげるために小径歯車5A、5B及び5Cの歯数が少なくなった場合でも、キャリア7に回転力を伝える軸受部13A、13B及び13Cの直径を大きくとることができるためにプラネットギヤ3A、3B及び3Cの強度を十分に持たせることができる。また部品点数では従来技術である単段の2KーH(1)型遊星歯車減速機と比べ、プラネットギヤを支持するピンを省略しているのでコストを低減し、かつ減速比を向上することができる。
【0013】
また、キャリア軸9の直径が、プラネットギヤの小径歯車5A、5B及び5Cとの干渉を避けるために、キャリア7の軸受穴15A、15B及び15Cの共通内接円の直径以下になり、強度的にもたない場合が生じる。この場合は図2に示すように、キャリア軸9の直径をキャリア7の軸受穴15A、15B及び15Cの共通内接円の直径より大きくし、かつ、キャリア7の軸受穴15A、15B及び15Cを軸受14A、14B及び14Cに嵌合したときに、キャリア軸9が小歯車5A、5B及び5Cと干渉する部分16を削除する様な構造としてもよい。キャリア軸9を前記構造とすることで、出力軸であるキャリア軸9のねじり強度を高めることが可能となり、より大きなトルクを伝えることができる。
【0014】
また、本実施例において、前記プラネットギヤ3A、3B及び3Cは燒結金属を一体成型して製作されているが、該プラネットギヤ3A、3B及び3Cを製作段階において含油させることにより、軸受部13A、13B及び13Cに潤滑性を持たせることができ、キャリア7の軸受穴15A、15B及び15Cと直接摺動させることが可能となる。このため軸受14A、14B及び14Cを省略し、部品点数を削減できコストダウンができる。また、伝達トルクが小さいときはプラネットギヤ3A、3B及び3Cに潤滑性のある高分子材料を用いてもよい。
【0015】
また、本実施例において、図3に示すように、プラネットギヤ3の軸をなす中心部分の部材22にクロムモリブデン鋼等の鋼材を使用し、前記中心部材22以外の周辺部分の部材21に燒結金属もしくは高分子材料を使用して一体成型して製作してもよい。プラネットギヤ3を前記構造とすれば、大きいトルクが伝達される場合において、大径歯車4A、4B及び4Cと小径歯車5A、5B及び5Cに働く力の差から生じる曲げ応力によってプラネットギヤ3A、3B及び3Cが破壊されることを防ぐことができる。
【0016】
本実施例ではサンギヤを入力軸とし、キャリア軸から出力する減速機として説明したが、本発明の遊星歯車は減速機だけでなく増速機及び差動機構としても用いることができる。また、減速機としては大径歯車4がサンギヤ2と噛み合い、小径歯車5がインターナルギヤ6と噛み合っている方が減速比をあげることができるが、小径歯車5がサンギヤ2と噛み合い、大径歯車4がインターナルギヤ6と噛み合っていてもよい。また軸受14A、14B及び14Cにすべり軸受を用いているが、転がり軸受を用いてもよく、プラネットギヤ3の数も3個としているが1個以上であればよい。
【0017】
本発明の第2の実施例であるプラネタリー型複式遊星歯車を減速機としてエンジン始動装置12に用いたものを図4に示す。本実施例の駆動部と減速機部の構成を以下に述べる。駆動部であるモータ10と、該モータ10の回転子であるアーマチャ11と、該アーマチャ11と一体化している入力軸1と、該入力軸1と同軸で一体化され負荷側に設けられたサンギヤ2と、連続して同軸で形成された大径歯車4と小径歯車5の間に軸受部13が設けられ前記入力軸1の軸方向と平行して前記大径歯車4が前記サンギヤ2と噛み合うように配置され燒結金属を一体成型して製作されたプラネットギヤ3と、小径歯車5の歯先円直径よりも大きい直径とした前記軸受部13に小歯車5に干渉することなく挿入された軸受14と、前記サンギヤ2の同軸線上に対向して配置され前記入力軸1をエンジン始動装置12の反負荷側のエンドブラケット17とともに軸受支持し前記プラネットギヤ3の軸受14を挿入する軸受穴15が設けられたキャリア7と、該キャリア7と一体化されギヤケース18のノーズ部とギヤケース18に固定されたブラケット20によって軸受支持されているキャリア軸9と、小径歯車5と噛み合ってブラケット20に固定されたインターナルギヤ6とを含んで構成されている。
【0018】
上記構成により、減速比をあげるためにプラネットギヤ3の小径歯車5の歯数が少なくなった場合でも、キャリア7に回転力を伝える軸受部13の直径を大きくとることができるためにプラネットギヤ3の強度を十分に持たせることができる。また部品点数では従来技術である単段の2KーH(1)型遊星歯車減速機と比べプラネットギヤ3を支持するピン8Bを省略できるためコストを低減し、かつ減速比を向上することができる。
【0019】
また、燒結金属を一体成型して製作されたプラネットギヤ3を作成段階において含油させる様にしてもよい。これにより軸受部13に潤滑性を持たせることができ、キャリア7の軸受穴15と直接摺動させることが可能となる。このため軸受14を省略し、コストダウンを図ることができる。さらに伝達トルクが小さいときはプラネットギヤ3に潤滑性のある高分子材料を用いることができる。
【0020】
また、プラネットギヤ3がクロムモリブデン鋼等の鋼材を中心部材とし、他を燒結金属もしくは高分子材料で一体成型して製作しても良い。このような構造とすると、大トルクが伝達される場合において、大径歯車4および小径歯車5に働く力の差から生じる曲げ応力によってプラネットギヤ3が破壊されることを防ぐことができる。
【0021】
上記実施例では、複式遊星歯車を減速機としてエンジン始動装置12に用いたものであるが、この他にも、家庭用電化製品(例えば、洗濯機など)や、OA機器などにも用いることができる。
【0022】
【発明の効果】
本発明によれば、プラネタリー型複式遊星歯車の増減速比を向上させることができ、部品点数も削減でき、遊星歯車を容易に組立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例である複式遊星歯車減速機の斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施例であるキャリア軸のねじり強度を高めた複式遊星歯車減速機の斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施例であるプラネットギヤの内部断面斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施例であるエンジン起動装置の断面図である。
【図5】従来の複式スター型遊星歯車の断面図である。
【図6】従来の2KーH(1)型プラネタリー遊星歯車減速機を備えたエンジン起動装置の断面図である。
【符号の説明】
1 入力軸 2 サンギヤ
3 プラネットギヤ 4 大径歯車
5 小径歯車 6 インターナルギヤ
7 キャリア 8 ピン
9 キャリア軸 10 モータ
11 アマチュア 12 エンジン起動装置
13 軸受部 14 軸受
15 軸受穴 16 キャリア軸の削除部
17 エンドカバー 18 ケーシング
19 単段プラネタリー遊星歯車 20 ブラケット
21 周辺部材 22 中心部材
Claims (5)
- 第1の回転軸に設けられたサンギヤと、大径歯車と小径歯車を有し前記サンギヤに一方の歯車が噛み合わされるプラネットギヤと、該プラネットギヤを公転自由に支持するキャリアと、前記プラネットギヤの他方の歯車に噛み合わされるインターナルギヤと、前記キャリアに連結された第2の回転軸とを備えた遊星歯車装置において、前記プラネットギヤは、前記大径歯車と前記小径歯車の間に軸受部を設けて同軸で少なくとも径方向の周辺部分が同一部材により一体成型され、前記軸受部の径が前記小径歯車の歯先円直径よりも大きく形成されてなり、前記キャリアは、前記プラネットギヤの前記軸受部を自転自由に支持する軸受穴を有することを特徴とする遊星歯車装置。
- 前記第2の回転軸の半径を、前記第2の回転軸の中心に最も近い前記キャリアの軸受穴の円縁から前記第2の回転軸の中心までの寸法より大きくし、前記軸受穴に前記プラネットギヤの軸受部を嵌合したとき、前記キャリア軸の前記プラネットギヤの軸受部と干渉する部分が削除されていることを特徴とする請求項1に記載の遊星歯車装置。
- 前記プラネットギヤが、含油された燒結金属もしくは高分子材料を用いて一体成型されていることを特徴とする請求項1または2のうち、いずれか1項に記載の遊星歯車装置。
- 前記プラネットギヤが、該プラネットギヤの軸中心部分に金属でできた部材を用い、前記金属でできた部材の周囲に燒結金属もしくは高分子材料を用いて成型されていることを特徴とする請求項1から3のうち、いずれか1項に記載の遊星歯車装置。
- 遊星歯車装置を用いるエンジン始動装置用減速機において、前記遊星歯車装置が請求項1から4のうち、いずれか1項に記載の遊星歯車装置であることを特徴とするエンジン始動装置用減速機。
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1993
- 1993-10-26 JP JP26731793A patent/JP3711503B2/ja not_active Expired - Fee Related
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