JP3706218B2 - 芳香族ポリカーボネートの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、芳香族ポリカーボネートの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、芳香族ポリカーボネートは、耐熱性、耐衝撃性、透明性などに優れたエンジニアリングプラスチックスとして、多くの分野において幅広く用いられている。この芳香族ポリカーボネートの製造方法については、従来種々の研究が行われ、その中で、芳香族ジヒドロキシ化合物、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという。)とホスゲンとの界面重縮合法が工業化されている。
【0003】
しかしながら、この界面重縮合法においては、有毒なホスゲンを用いなければならないこと、副生する塩化水素や塩化ナトリウム及び、溶媒として大量に用いる塩化メチレンなどの含塩素化合物により装置が腐食すること、ポリマー物性に悪影響を及ぼす塩化ナトリウムなどの不純物や残留塩化メチレンの分離が困難なことなどの問題があった。
【0004】
一方、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとから、芳香族ポリカーボネートを製造する方法としては、例えば、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートを溶融状態でエステル交換し、副生するフェノールを抜き出しながら重合する溶融法が以前から知られている。溶融法は、界面重縮合法と異なり、溶媒を使用しないなどの利点がある一方、重合が進行すると共にポリマーの粘度が上昇し、副生するフェノールなどを効率よく系外に抜き出す事が困難になり、重合度を上げにくくなるという本質的な問題があった。
【0005】
従来、芳香族ポリカーボネートを溶融法で製造するための重合器としては、種々の重合器が知られている。撹拌機を備えた竪型の攪拌槽型重合器を用いる方法は一般に広く知られている。しかしながら、竪型の撹拌槽型重合器は小スケールでは容積効率が高く、シンプルであるという利点を有し、効率的に重合を進められるが、工業的規模では、上述したように重合の進行と共に副生するフェノールを効率的に系外に抜き出す事が困難となり重合速度が極めて低くなるという問題を有している。
【0006】
すなわち、大スケールの竪型の撹拌槽型重合器は、通常、蒸発面積に対する液容量の比率が小スケールの場合に比べて大きくなり、いわゆる液深が大きな状態となる。この場合、重合度を高めていくために真空度を高めていっても、撹拌槽の下部は液深があるために実質上高い圧力で重合される事になり、フェノール等は効率的に抜けにくくなるのである。
【0007】
この問題を解決するため、高粘度状態のポリマーからフェノール等を抜き出すための工夫が種々なされている。例えば特公昭50−19600号公報では、ベント部を有するスクリュー型重合器を用いる方法、特公昭52−36159号公報では、噛合型2軸押出機を用いる方法、また特公昭53−5718号公報では、薄膜蒸発型反応器、例えばスクリュー蒸発器や遠心薄膜蒸発器等を用いる方法が記載されており、さらに特開平2−153923号公報では、遠心薄膜型蒸発装置と横型撹拌重合槽を組み合わせて用いる方法が具体的に開示されている。また特開平7−2925097号公報には、多孔板から自由落下させながら重合させる方法で、着色のない高品質の芳香族ポリカーボネートを高い重合速度で製造できることが示されており、ワイヤに沿わせて落下させながら重合させる方法も記載されている。該公報には、重合系内に不活性ガスを少量供給する実施例も記載されている。
【0008】
溶融法で芳香族ポリカーボネートを製造する際、不活性ガス存在下で重合を実施する方法については広く知られている。例えば米国特許第2964297号及び第3153008号明細書には、酸化的な二次反応を避けるために、減圧下、不活性ガスを使用してエステル交換法により芳香族ポリカーボネートを製造する方法が記載されており、製造する芳香族ポリカーボネートに対して少量の不活性ガスが重合器内に供給されている。一方、フェノール等を重合系外に抜き出すために大量の不活性ガスを使用する方法として、特開平6−206997号公報には、オリゴカーボネート溶融物をオリゴカーボネート1kg当たり1m3以上の不活性ガスと共に常圧または加圧下で加熱管を通過させることで芳香族ポリカーボネートを製造させる方法が記載されている。しかしながら、大量の不活性ガスを用いて芳香族ポリカーボネートを製造する方法は、重合に使用された不活性ガスを繰り返し重合に使用する場合、不活性ガス中の芳香族モノヒドロキシ化合物を分離する必要が生じ、大きな分離設備が必要となる。
【0009】
本発明者等は、特願平8−21003号において、不活性ガス流通下の空間中でガイドに沿わせて落下させながら重合させる際に、不活性ガス中に含まれる芳香族モノヒドロキシ化合物の不活性ガスに対する分圧比の範囲を特定し、不活性ガスの回収設備が過大にならない方法を提案した。本発明者等は、少量の不活性ガスを使用して重合速度を著しく高めて機械的物性にも優れた高品質のポリカーボネートを製造する方法についてさらに検討を進めた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
不純物や残留塩化メチレンの分離の問題のない溶融法により芳香族ポリカーボネートを製造する際、着色のない機械的物性にも優れた高品質の芳香族ポリカーボネートを高い重合速度で、大量の不活性ガスを使用することなく、工業的に好ましい手段で製造する方法を提供する事である。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を進めた結果、特定の方法を用いることにより少量の不活性ガスでその目的を達成できる事を見いだし、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) 芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートから、溶融法により芳香族ポリカーボネートを製造する方法において、少なくとも1基の重合器が複数の不活性ガス供給口を有し、該重合器に供給する溶融ポリマー1kgに対して不活性ガスを0.0001〜0.1Nm3 の範囲で、複数の不活性ガス供給口から上記重合器に供給して減圧下で重合することを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法。
(2) 複数の不活性ガス供給口を有する重合器が、支持体に沿ってポリマーを溶融流下せしめて重合を進行させる重合器であることを特徴とする上記(1)の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
【0012】
従来、不活性ガスを用いてフェノール等を効率的に抜き出して芳香族ポリカーボネートを製造しようとする場合、通常、重合器の空間部に1個の不活性ガス供給口から不活性ガスが供給されており、溶融ポリマー中に不活性ガスを供給する場合には多量の不活性ガスを用いて常圧もしくは加圧下で重合する方法が知られているにすぎなかった。驚くべき事に、少量の不活性ガスを重合器1基当たりに複数備えられた不活性ガス供給口から供給して減圧下で重合することにより、1個の供給口から不活性ガスを供給する場合に比べて格段に重合速度が高められ、かつ引張伸度のような機械的な物性にも優れた芳香族ポリカーボネートが得られる事が明らかとなった。この理由については明らかではないが、不活性ガスを複数の供給口から供給して混合することにより、減圧条件下での溶融ポリマーの表面状態が均一化され重合速度を高めると共に、得られる芳香族ポリカーボネートも均一な機械的物性に優れたポリマーになるものと推定される。
【0013】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明において、芳香族ジヒドロキシ化合物とは、次式で示される化合物である。
HO−Ar−OH(式中、Arは2価の芳香族基を表す。)。
2価の芳香族基Arは、好ましくは例えば、次式で示されるものである。
−Ar1 −Y−Ar2 −
(式中、Ar1 及びAr2 は、各々独立にそれぞれ炭素数5〜70を有する2価の炭素環式又は複素環式芳香族基を表し、Yは炭素数1〜30を有する2価のアルカン基を表す。)。
【0014】
2価の芳香族基Ar1 、Ar2 において、1つ以上の水素原子が、反応に悪影響を及ぼさない他の置換基、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基などによって置換されたものであっても良い。
【0015】
複素環式芳香族基の好ましい具体例としては、1ないし複数の環形成窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を有する芳香族基を挙げる事ができる。
2価の芳香族基Ar1 、Ar2 は、例えば、置換又は非置換のフェニレン、置換又は非置換のビフェニレン、置換または非置換のピリジレンなどの基を表す。ここでの置換基は前述のとおりである。
【0016】
2価のアルカン基Yは、例えば、下記化1で示される有機基である。
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、R1 、R2 、R3 、R4 は、各々独立に水素、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、環構成炭素数5〜10のシクロアルキル基、環構成炭素数5〜10の炭素環式芳香族基、炭素数6〜10の炭素環式アラルキル基を表す。kは3〜11の整数を表し、R5 およびR6 は、各Xについて個々に選択され、お互いに独立に、水素または炭素数1〜6のアルキル基を表し、Xは炭素を表す。また、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、R6 において、一つ以上の水素原子が反応に悪影響を及ぼさない範囲で他の置換基、例えばハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等によって置換されたものであっても良い。)
このような2価の芳香族基Arとしては、例えば、下記化2で示されるものが挙げられる。
【0019】
【化2】
【0020】
(式中、R7 、R8 は、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、環構成炭素数5〜10のシクロアルキル基またはフェニル基であって、mおよびnは1〜4の整数で、mが2〜4の場合には各R7 はそれぞれ同一でも異なるものであってもよいし、nが2〜4の場合には各R8 はそれぞれ同一でも異なるものであってもよい。)
さらに、2価の芳香族基Arは、次式で示されるものであっても良い。
−Ar1 −Z−Ar2 −
(式中、Ar1 、Ar2 は前述の通りで、Zは単結合又は−O−、−CO−、−S−、−SO2 −、−SO−、−COO−、−CON(R1 )−などの2価の基を表す。ただし、R1 は前述のとおりである。)
このような2価の芳香族基Arとしては、例えば、下記化3に示されるものが挙げられる。
【0021】
【化3】
【0022】
(式中、R7 、R8 、mおよびnは、前述のとおりである。)
本発明で用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物は、単一種類でも2種類以上でもかまわない。芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的な例としてはビスフェノールAが挙げられる。
本発明で用いられるジアリールカーボネートは、下記化4で表される。
【0023】
【化4】
【0024】
(式中、Ar3 、Ar4 はそれぞれ1価の芳香族基を表す。)
Ar3 及びAr4 は、1価の炭素環式又は複素環式芳香族基を表すが、このAr3 、Ar4 において、1つ以上の水素原子が、反応に悪影響を及ぼさない他の置換基、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基などによって置換されたものであっても良い。Ar3 、Ar4 は同じものであっても良いし、異なるものであっても良い。
【0025】
1価の芳香族基Ar3 及びAr4 の代表例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ピリジル基を挙げる事ができる。これらは、上述の1種以上の置換基で置換されたものでも良い。
好ましいAr3 及びAr4 としては、それぞれ例えば、下記化5に示されるものなどが挙げられる。
【0026】
【化5】
【0027】
ジアリールカーボネートの代表的な例としては、下記化6で示される。
【0028】
【化6】
【0029】
(式中、R9 及びR10は、各々独立に水素原子、炭素数1〜10を有するアルキル基、炭素数1〜10を有するアルコキシ基、環構成炭素数5〜10のシクロアルキル基又はフェニル基を示し、p及びqは1〜5の整数で、pが2以上の場合には、各R9 はそれぞれ異なるものであっても良いし、qが2以上の場合には、各R10は、それぞれ異なるものであっても良い。)
このジアリールカーボネート類の中でも、非置換のジフェニルカーボネートや、ジトリルカーボネート、ジ−t−ブチルフェニルカーボネートのような低級アルキル置換ジフェニルカーボネートなどの対称型ジアリールカーボネートが好ましいが、特にもっとも簡単な構造のジアリールカーボネートであるジフェニルカーボネートが好適である。
【0030】
これらのジアリールカーボネート類は単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとの使用割合(仕込比率)は、用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートの種類や、重合温度その他の重合条件によって異なるが、ジアリールカーボネートは芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、通常0.9〜2.5モル、好ましくは0.95〜2.0モル、より好ましくは0.98〜1.5モルの割合で用いられる。
【0031】
本発明の方法で得られる芳香族ポリカーボネートの数平均分子量は、通常500〜100000の範囲であり、好ましくは2000〜30000の範囲である。
本発明の芳香族ポリカーボネートは、上記のような芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとから、触媒の存在下もしくは非存在下で、加熱しながら溶融状態でエステル交換反応にて重縮合する方法であり、その重合器には特に制限はない。例えば、攪拌槽型反応器、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型攪拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器、支持体に沿ってポリマーを溶融落下せしめて重合を進行させる重合器を用い、これらを単独もしくは組み合わせた重合器が用いられる。支持体に沿ってポリマーを溶融流下せしめて重合を進行させる重合器は、攪拌軸を有しないため、攪拌駆動部からの空気の混入がなく、メンテナンスも容易である点で好ましい。また支持体に沿ってポリマーを溶融流下せしめて重合を進行させる重合器は、1基当たり複数備えられた不活性ガス供給口からの不活性ガスの導入による重合速度向上効果も他のタイプの重合器に比べて大きいことが明らかとなった。この理由については明らかでないが、支持体に沿ってポリマーを溶融流下せしめて重合を進行させる重合器は、他のタイプの重合器に比べて芳香族モノヒドロキシ化合物の蒸発面積が相対的に大きく、不活性ガスが蒸発面の状態を変えることによる重合速度向上効果が大きくなるためと考えられる。この場合支持体としては、平面状、円柱状、円錐状、鎖状等種々の形状のものが可能である。支持体が中空になっており、支持体の外側にポリマーを落下させながら重合し、中空部に加熱媒体を入れる方法や、支持体の中空部にポリマーを落下させながら重合し、支持体の外側に加熱媒体を入れる方法等も可能である。
【0032】
重合の初期に芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートから竪型攪拌槽を用いて重合して溶融ポリマーを製造し、その溶融ポリマーを表面更新型二軸混練反応器、二軸横型攪拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器、支持体に沿ってポリマーを溶融落下せしめて重合を進行させる重合器等を用いて重合する方法等は、本発明の好ましい態様の一つである。なお、本発明において重合器に供給する溶融ポリマーとは、芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートの溶融混合物、又は芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートから製造された重合途中の溶融物であって、溶融ポリマー供給口における溶融ポリマーを意味する。
【0033】
本発明の芳香族ポリカーボネートの製造方法においては、少なくとも1基の重合器が複数の不活性ガス供給口を有し、該不活性ガス供給口から不活性ガスを供給して重合することが必要である。該重合器には特別制限はなく、例えば、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型攪拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器、支持体に沿ってポリマーを溶融落下せしめて重合を進行させる重合器等の全ての重合器を用いることができるが、支持体に沿ってポリマーを溶融流下せしめて重合を進行させる重合器であることが好ましい。
【0034】
本発明においては、重合器に供給する溶融ポリマー1kgに対して不活性ガスを0.0001〜0.1Nm3 の範囲で、重合器1基当たりに複数備えられた不活性ガス供給口から重合器に供給して減圧下で重合を行う。不活性ガスの具体例としては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素や低級炭化水素ガス等が挙げられ、特に好ましいのは窒素である。不活性ガスの量は重合器に供給する溶融ポリマー1kgに対して0.0001Nm3 より少ない場合は、重合速度を高める効果が小さく、0.1Nm3 より多い場合は不活性ガスから芳香族モノヒドロキシ化合物等を分離するための設備が大きくなりすぎ、工業的に好ましくない。重合器に供給する溶融ポリマー1kgに対する不活性ガス供給量のより好ましい量は0.0001〜0.08Nm3 の範囲であり、更に好ましい量は0.0002〜0.06Nm3 の範囲である。また、1基の重合器に備えられる不活性ガス供給口の数は通常2〜1000個、好ましくは3〜500個、更に好ましくは4〜100個である。供給口の数が1個の場合には、不活性ガスによって重合速度を高める効果が小さく、又得られる芳香族ポリカーボネートの引張伸度も供給口が2個以上の場合に比べ低くなる。また、不活性ガス供給口が1000個より多くなる場合には、設備が大きく複雑になる点で好ましくない。不活性ガス供給口の位置は、重合器の気相中、溶融ポリマー液相中のいずれでも構わないが、気相中に供給する場合は重合器の外周部に備えられたノズルや、重合器内に挿入されたノズルを供給口とすることが好ましい。加熱した不活性ガスを重合器に供給することは本発明の好ましい態様である。
【0035】
本発明において、重合は減圧下で実施される。好ましい圧力は、製造する芳香族ポリカーボネートの種類や分子量、重合温度等によっても異なるが、例えばビスフェノールAとジフェニルカーボネートから芳香族ポリカーボネートを製造する場合、数平均分子量が1000以下の範囲では、6660Pa(50mmHg)〜53280Pa(400mmHg)の範囲が好ましく、数平均分子量が1000〜2000の範囲では、400Pa(3mmHg)〜6660Pa(50mmHg)の範囲が好ましく、数平均分子量が2000以上の範囲では、2670Pa(20mmHg)以下、特に1330Pa(10mmHg)以下が好ましく、更に400Pa(3mmHg)以下が好ましい。
【0036】
エステル交換反応は、触媒を加えずに実施する事ができるが、重合速度を高めるため、必要に応じて触媒の存在下で行われる。重合触媒としては、この分野で用いられているものであれば特に制限はないが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物類;水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウムなどのホウ素やアルミニウムの水素化物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第四級アンモニウム塩類;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウムなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水素化合物類;リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カルシウムメトキシドなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属のアルコキシド類;リチウムフェノキシド、ナトリウムフェノキシド、マグネシウムフェノキシド、LiO−Ar−OLi、NaO−Ar−ONa(Arはアリール基)などのアルカリ金属及びアルカリ土類金属のアリーロキシド類;酢酸リチウム、酢酸カルシウム、安息香酸ナトリウムなどのアルカリ金属及びアルカリ土類金属の有機酸塩類;酸化亜鉛、酢酸亜鉛、亜鉛フェノキシドなどの亜鉛化合物類;酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリフェニル、(R1 R2 R3 R4)NB(R1 R2 R3 R4)または(R1 R2 R3 R4)PB(R1 R2 R3 R4)で表されるアンモニウムボレート類またはホスホニウムボレート類(R1、R2、R3、R4は前記化1の説明通りである。)などのホウ素の化合物類;酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、テトラアルキルケイ素、テトラアリールケイ素、ジフェニル−エチル−エトキシケイ素などのケイ素の化合物類;酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、ゲルマニウムエトキシド、ゲルマニウムフェノキシドなどのゲルマニウムの化合物類;酸化スズ、ジアルキルスズオキシド、ジアルキルスズカルボキシレート、酢酸スズ、エチルスズトリブトキシドなどのアルコキシ基またはアリーロキシ基と結合したスズ化合物、有機スズ化合物などのスズの化合物類;酸化鉛、酢酸鉛、炭酸鉛、塩基性炭酸塩、鉛及び有機鉛のアルコキシドまたはアリーロキシドなどの鉛の化合物;第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、第四級アルソニウム塩などのオニウム化合物類;酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモンの化合物類;酢酸マンガン、炭酸マンガン、ホウ酸マンガンなどのマンガンの化合物類;酸化チタン、チタンのアルコキシドまたはアリーロキシドなどのチタンの化合物類;酢酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ジルコニウムのアルコキシド又はアリーロキシド、ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウムの化合物類などの触媒を挙げる事ができる。
【0037】
触媒を用いる場合、これらの触媒は1種だけで用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、これらの触媒の使用量は、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常10-8〜1重量%、好ましくは10-7〜10-1重量%の範囲で選ばれる。
本発明の方法を達成する重合器や配管の材質に特に制限はなく、通常ステンレススチールやニッケル、グラスライニング等から選ばれる。
【0038】
本発明は、スケールアップが容易であり、100トン/年以上、好ましくは1000トン/年以上、更に好ましくは10000トン/年以上の工業プロセスにおいて、特に好ましく利用されるものである。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下に、実施例を挙げて説明する。
なお、分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した数平均分子量(以下、Mnと略す。)である。カラーは、280℃で射出成形して得られた厚み3.2mmの試験片を用いてCIELAB法により測定し、黄色度をb* 値で示した。引張伸度は、280℃で射出成形して得られた厚み3.2mmの試験片を用いて、ASTM D638に準じて測定した。
【0040】
【実施例1】
図1(a)、(b)に示すような、複数の円柱状支持体4を有する重合器7を用いて反応を行った。図1(a)は重合器の鉛直方向の断面図、図1(b)は重合器の水平方向の断面図である。この重合器7は、内径0.5m、太さ1mm、長さ8mのSUS316L製円柱状支持体4を70本備えており、重合器10に供給された溶融ポリマーは分散板3により各支持体4に均一に分配される。重合器下部には不活性ガス供給口5(5′)が4個備えられており、重合器上部には真空ベント口6が備えられている。重合器7の外側はジャケットになっており、熱媒で加温されている。
【0041】
この重合器に、ビスフェノールAとジフェニルカーボネート(対ビスフェノールAモル比1.05)から製造した、Mn6000の芳香族ポリカーボネートの溶融ポリマーを溶融ポリマー供給配管1より50kg/hrの流量で連続的に供給し、260℃、圧力67Pa(0.5mmHg)の条件で、排出口から芳香族ポリカーボネートを連続的に抜き出しながら重合を行った。4個の不活性ガス供給口5(5′)からは、窒素を各70ノルマルリットル/hr、合計280ノルマルリットル/hrで供給した。50時間後に排出口から排出された芳香族ポリカーボネートはMn11700であり、良好なカラー(b* 値3.3)であった。また、引張伸度は98%であった。溶融ポリマー1kgに対する窒素の量は0.0056Nm3 である。結果を表1にまとめて示す。
【0042】
【実施例2〜4】
不活性ガスの供給口の数が異なる他は実施例1と全く同様の種々の重合器を用い、実施例1と全く同様に芳香族ポリカーボネートを製造した。結果をまとめて表1に示す。
【0043】
【比較例1】
不活性ガスの供給口の数が異なる他は実施例1と全く同様の種々の重合器を用い、実施例1と全く同様に芳香族ポリカーボネートを製造した。結果をまとめて表1に示す。
【0044】
【実施例5〜9】
窒素の流量が異なる他は実施例1と全く同様に芳香族ポリカーボネートを製造した。結果をまとめて表1に示す。
【0045】
【比較例2〜3】
窒素の流量が異なる他は実施例1と全く同様に芳香族ポリカーボネートを製造した。結果をまとめて表1に示す。
【0046】
【実施例10】
窒素に変えてアルゴンを各供給口から70ノルマルリットル/hr、合計280ノルマルリットル/hr供給する以外は、実施例1と全く同様に芳香族ポリカーボネートを製造した。50時間後に排出口から排出された芳香族ポリカーボネートのMnは11600であり、良好なカラー(b*値3.3)であった。
【0047】
【実施例11〜12】
実施例1と同様の装置を用い、供給する溶融ポリマーのMn、重合温度、圧力、溶融ポリマー供給配管へのガス供給口2からの窒素供給量を種々変化させて芳香族ポリカーボネートを製造した。結果をまとめて表2に示す。
【0048】
【比較例4】
窒素供給量を変化させる以外は、実施例12と全く同様に芳香族ポリカーボネートを製造した。結果をまとめて表2に示す。
【0049】
【実施例13】
不活性ガスの供給口の数が異なる他は実施例11と全く同様の重合器を用い、実施例11と全く同様に芳香族ポリカーボネートを製造した。結果をまとめて表2に示す。
【0050】
【比較例5】
不活性ガスの供給口の数が異なる他は実施例11と全く同様の重合器を用い、実施例11と全く同様に芳香族ポリカーボネートを製造した。結果をまとめて表2に示す。
【0051】
【実施例14】
回転直径0.4mの攪拌軸を2本有する内容積1.5m3、長さ4mの横型攪拌槽に、実施例12と同様の溶融ポリマーを連続的に供給して重合を行った。溶融ポリマーの供給量、重合温度、及び重合圧力は実施例12と全く同じにした。攪拌軸の回転数は15rpmである。重合器の上部に備えた4個の不活性ガス供給口から、窒素を実施例12と同量供給した。50時間後に重合器から排出された芳香族ポリカーボネートのMnは10100であり、b*値は3.6、引張伸度は91%であった。溶融ポリマー1kgに対する窒素の量は0.0008Nm3であ。
【0052】
【比較例6】
窒素を供給しない以外は、実施例14と全く同様にして芳香族ポリカーボネートを製造した。50時間後に排出口から排出された芳香族ポリカーボネートのMnは8700であり、b*値は4.0で着色しており、引張伸度は80%であった。
【0053】
【実施例15】
ビスフェノールAのかわりに1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンから製造したMn6000の溶融ポリマーを用いる以外は、実施例1と全く同様の条件で反応を行った。50時間後に排出口から排出された芳香族ポリカーボネートはMn11100であり、良好なカラー(b*値3.3)であり、引張伸度は94%であった。溶融ポリマー1kgに対する窒素の量は0.0056Nm3である。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【発明の効果】
本発明によって、着色のない機械的物性に優れた高品質の芳香族ポリカーボネートを、高い重合速度で、大量の不活性ガスを使用することなく工業的に好ましい手段で製造する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いることのできる重合器の一例の(a)鉛直方向の断面模式図であり、(b)不活性ガス供給口における水平方向の断面模式図である。
【符号の説明】
1. 溶融ポリマー供給口
2. 重合器底部の溶融ポリマー
3. 分散板
4. 円柱状支持体
5、5’不活性ガス供給口
6. 真空ベント口
7. 重合器
8. 排出ポンプ
9. 排出口
Claims (7)
- 芳香族ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートから、溶融法により芳香族ポリカーボネートを製造する方法において、少なくとも1基の重合器が複数の不活性ガス供給口を有し、該重合器に供給する溶融ポリマー1kgに対して不活性ガスを0.0001〜0.1Nm3 の範囲で、複数の不活性ガス供給口から上記重合器に供給して減圧下で重合することを特徴とする芳香族ポリカーボネートの製造方法。
- 複数の不活性ガス供給口を有する重合器が、支持体に沿ってポリマーを溶融流下せしめて重合を進行させる重合器であることを特徴とする請求項1記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
- 不活性ガスが窒素であることを特徴とする請求項1または2に記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
- 芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、ジアリールカーボネートが0.9〜2.5モルの使用割合(仕込比率)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
- 重合時の圧力が、6660Pa(50mmHg)〜53280Pa(400mmHg)の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
- 重合時の圧力が、400Pa(3mmHg)〜6660Pa(50mmHg)の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
- 重合時の圧力が、2670Pa(20mmHg)以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネートの製造方法。
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