JP3702382B2 - NF−κB活性化阻害剤 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はジフェニルジスルフィドまたはジフェニルトリスルフィド誘導体を有効成分とするNF−κB活性化阻害剤に関するものであって、特に滑膜細胞の増殖を抑制することにより、リウマチ等の炎症性または自己免疫性疾患の治療剤として有用な薬物を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
遺伝子の発現は、遺伝子上の特異塩基配列を認識するDNA結合タンパクである転写調節因子によって制御されている。転写調節因子の一つとして知られている核因子(nuclear factor)κB(本明細書全体を通して、NF−κBと略記する)は、免疫グロブリン(Ig)κ鎖遺伝子のエンハンサーに結合するB細胞特異的な核因子として同定され、その後、各種サイトカインや受容体の遺伝子上流のプロモーター領域に結合することで、これらの遺伝子の発現誘導に関与し、免疫応答や炎症性疾患の病態形成において重要な役割を果たしていることが明らかとなってきている。NF−κBは、p50およびp65タンパク質に代表されるRelファミリーサブユニットの複合体で、通常、細胞質内では制御サブユニットであるIκBタンパク質と結合して存在している。しかし、細胞に一定の刺激が加えられるとIκBが修飾を受けて、NF−κBが複合体から遊離され活性化される。このように活性化されたNF−κBが、核内へ移行し、ゲノムDNA上の特異塩基配列と結合することで遺伝子の発現誘導に関与していることが知られている。
【0003】
また、NF−κB活性化を阻害する薬物についての研究もなされており、非ステロイド系薬物であるアスピリンやサリチル酸ナトリウムが高濃度でNF−κBの活性化阻害作用を有していること(Science,265,956(1994))、プリン系化合物であるキサンチン誘導体がNF−κBの活性化阻害作用を有していること(特開平9−227561号公報)、および、ステロイド系薬物であるデキサメタゾンがIκBの産生を誘導してNF−κBの活性化阻害作用を有していることが報告されている(Science,270,283(1995),ibid.,270,286(1995))。
【0004】
さらに、NF−κBは、慢性関節リウマチ(以下、RAと略記する)の病態において重要な組織障害性因子と考えられるメタロプロテアーゼ、一酸化窒素またはIL−6等の炎症性サイトカインの転写を促進することが知られており、RA患者におけるサイトカインの上昇等の病態形成に深くかかわっていることが報告されている(最新医学,51(12),2313(1996))。例えば、RA患者の滑膜組織においてNF−κBの活性化が見られることやin vitroで滑膜細胞をリポポリサッカロイド(以下、LPSと略記する)、腫瘍壊死因子α(以下、TNFαと略記する)やインターロイキン−1β(以下、IL−1βと略記する)で刺激するとNF−κBが活性化され、滑膜細胞の増殖が誘導されることが報告されている(Science,265,956(1994);Arthritis Rheum.,38,1762(1995),ibid.,39,197(1996);Biochem.Mol.Biol.Int.,37,827(1995))。さらに、NF−κBの活性化はN−アセチル−L−システイン N−acetyl−L−cysteine(以下、NACと略記する)のような抗酸化剤により抑制されることが知られており、NACを投与することによってNF−κBの活性化を阻害しTNFαによって誘導される滑膜細胞の増殖を抑制することが報告されている(臨床免疫,29(29),169(1997))。
【0005】
ところで、本発明に係る一般式[I] で示される化合物の基本的構造は、2個のフェニル環が各々少なくとも1個のアミノ基と少なくとも1個の低級アルコキシ基を置換基として有し、その2個のフェニル環がジスルフィドまたはトリスルフィドを介して結合しているものである。以下、化学構造の観点から従来の技術について説明する。
【0006】
【化3】
一般式[I]においてnが2で、R1およびR2がアミノ基、R3およびR4がメトキシ基である1,1’−ビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)ジスルフィドは、米国特許3649284号公報に加熱可能な感光剤として有用な化合物として開示されているが、医薬としての用途は何等開示されていない。また、ジフェニルジスルフィド誘導体が特開平8−253454号公報にTNFα遊離抑制またはIL−1β産生抑制作用を有し、RAまたは敗血症治療剤として有用な化合物であることが開示されている。しかし、特開平8−253454号公報に具体的に開示されている化合物は、フェニル環が特定の置換基、即ち、ピリジルアミノ基またはベンズイミダゾリル基等を有するものであって、本発明における一般式[I]で示される化合物についての具体的開示はない。また、特開平8−253454号公報にはNF−κBの活性化阻害作用については何等記載されていない。
【0007】
ジフェニルトリスルフィド誘導体についてもいくつかの合成研究が報告されている。例えば、1,1’−ビス(2−アミノフェニル)トリスルフィドの合成は、J.Heterocycl.Chem.,7(3),687(1970)に報告されており、また、1,1’−ビス(2−アミノ−4−メチルフェニル)トリスルフィドは、ベンゾチアゾリジン誘導体の合成中間体として報告されている(J.Med.Chem.,14(3),248(1971))。しかしながら、これらの報告には、医薬としての用途は何等開示されていない。
【0008】
また、上記の公知化合物は、各フェニル環の置換基がアミノ基とアミノ基、またはアミノ基とメチル基であるトリスルフィドであり、一般式[II]で表されるジフェニルトリスルフィド誘導体は文献未知の新規化合物である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようにNF−κBの活性化は、RA等の自己免疫性の疾患の病態形成に深くかかわっており、NF−κBの活性化を阻害する薬物はRA等の治療に有用であることが期待される。ところが、NF−κBの活性化阻害剤についての研究はそれほどなされておらず、NF−κBの活性化を効果的に阻害する薬物を見いだすことは非常に興味のある課題である。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、NF−κBの活性化を効果的に阻害する薬物を見いだすべく鋭意研究した結果、一般式[I]で示されるジフェニルジスルフィド誘導体およびジフェニルトリスルフィド誘導体が優れたNF−κB活性化阻害作用を有することを見い出した。さらに、一般式[II]で示される新規化合物の合成研究を行い、それらの化合物も優れたNF−κB活性化阻害作用を有することを見い出した。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、下記一般式[I]で表される化合物またはその塩類を有効成分とするNF−κB活性化阻害剤および下記一般式[II]で示される新規化合物またはその塩類に関するものである。
【0012】
【化4】
【0013】
[式中、R1 およびR2 はアミノ基を示す。R3 およびR4 は同一または異なる低級アルコキシ基を示す。nは2または3を示す。]
【0014】
[式中、R1 およびR2 はアミノ基を示す。R5 およびR6 は同一または異なる低級アルコキシ基を示す。nは3を示す。]
【0015】
上記化合物の好ましい例として下記のものが挙げられる。
【0016】
・上記一般式[I]においてR1およびR2がアミノ基を示す化合物またはその塩類。
【0017】
・上記一般式[I]においてR3およびR4が低級アルコキシ基を、特に好ましくはメトキシ基を示す化合物およびその塩類。
【0018】
特に好ましい化合物の具体例としてビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)ジスルフィド(式[III])もしくはビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)トリスルフィド(式[IV])またはそれらの塩類が挙げられる。
【0019】
【化6】
【0020】
【化7】
【0021】
上記一般式[II]で示される新規化合物の好ましい化合物の例として下記のものが挙げられる。
【0022】
・上記一般式[II]においてR1およびR2がアミノ基を示す化合物およびその塩類。
【0023】
・上記一般式[II]においてR5およびR6がメトキシを示す化合物およびその塩類。
【0024】
特に好ましい化合物の具体例として下記式[IV]で示されるビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)トリスルフィドおよびその塩類が挙げられる。
【0025】
【化8】
【0026】
上記の塩類とは、医薬として許容される塩類であればよく、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等が挙げられる。また、上記化合物は溶媒和、例えば水和物等の形態をとっていてもよい。
【0027】
一般式[I]で表されるジフェニルジスルフィドまたはジフェニルトリスルフィド誘導体(以下、本化合物という)の有用性を調べるべく、本化合物のNF−κB活性化阻害作用について検討した。詳細については後述の薬理試験の項で示すが、本化合物は、NF−κBの活性化に対して強い阻害作用を示すことを見いだした。また、RA患者においては滑膜細胞の異常増殖が観察されるが、この滑膜細胞の増殖を抑制することができればRAの治療に有効な薬物となり得る。そこで本化合物についての滑膜細胞増殖抑制作用についても検討した結果、本化合物が滑膜細胞の増殖に対し強い抑制作用を示すことを見いだした。これらの結果より、本化合物はNF−κBの活性化が関与する幅広い疾患や滑膜の細胞増殖を伴う疾患、例えば、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、ベーチェット病、結節性動脈周囲炎、潰瘍性大腸炎、活動性慢性肝炎、糸球体腎炎などを初めとする各種自己免疫疾患;変形性関節症、通風、アテローム硬化症、乾癬、アトピー性皮膚炎、肉芽腫を伴う肺疾患、各種脳炎など炎症症状が病態の基本となっている難治性各種疾患、エンドトキシンショック、敗血症、炎症性大腸炎、糖尿病、急性骨髄芽球性白血病、肺炎、心臓移植、脳脊髄炎、食欲不振、急性肝炎、慢性肝炎、薬物中毒症、肝障害、アルコール性肝炎、ウイルス肝炎、黄疸、肝硬変、肝不全、心房粘液腫、キャスルマン症候群、多発性骨髄腫、レンネルトTリンパ腫、メサンギウム増殖性腎炎、腎細胞癌、サイトメガロウイルス性肺炎、サイトメガロウイルス性網膜症、アデノウイルス性感冒、アデノウイルス性眼炎、エイズなどの疾患の治療および予防に有用であることが期待される。
【0028】
薬理試験の結果として、一般式[I]で表される化合物の内、R1およびR2がアミノ基である化合物、いわゆる活性本体についてのみ例示したが、これらの化合物は勿論プロドラッグの形態でも投与できる。即ち、アミノ基を各種保護基で保護した形態で投与することもできる。また、製剤化における安定性向上を目的として、アミノ基を各種保護基で保護することもできる。即ち、本発明においてアミノ基は、当業者が容易に考え得る保護基で保護されていてもよいのは当然である。
【0029】
本化合物は経口でも、非経口でも投与することができる。投与剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、注射剤等が挙げられ、汎用されている技術を用いて製剤化することができる。例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の経口剤であれば、乳糖、結晶セルロース、デンプン、植物油等の増量剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルシウム、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、シリコン樹脂等のコーティング剤、ゼラチン皮膜剤などを必要に応じて加えればよい。
【0030】
本化合物の投与量は症状、年令、剤型等によって適宜選択できるが、経口剤であれば通常1日あたり0.1〜5000mg、好ましくは1〜1000mgを1回または数回に分けて投与すればよい。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の製造例および本発明の薬理試験の結果を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0032】
【実施例】
[合成例]
1,1’−ビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)ジスルフィド・二塩酸塩(化合物1)および1,1’−ビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)トリスルフィド(化合物2)
【化9】
【0033】
【化10】
【0034】
硫化ナトリウム・9水和物(48.0g)と硫黄(6.41g)を水(20ml)に懸濁し、還流下1時間撹拌する。得られた懸濁液に80℃で3−ニトロ−4−クロロアニソール(18.8g)のエタノール(50ml)溶液をゆっくり滴下する。反応液を3時間還流後、水(50ml)を加え、氷冷下、1晩撹拌する。析出する結晶を濾取し(結晶1とする)、母液を酢酸エチルで抽出する。有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥する。有機層を減圧濃縮し得られる残留物にn−ヘキサンを加え濾過し、さらに濾液にエタノールを加え濾過する。濾液を減圧濃縮し、得られる残留物をエタノール(70ml)に溶解し、氷冷下、4N塩化水素/酢酸エチル(10ml)を滴下する。析出する結晶を濾取して、標記化合物1(5.31g(収率27%))を得る。一方、先に得た結晶1を酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥する。有機層を減圧濃縮し、得られる結晶をn−ヘキサンで再結晶し、標記化合物2(4.92g(29%))を得る。
【0035】
1,1’−ビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)ジスルフィド・二塩酸塩(化合物1)
mp 188.8〜190.9℃
IR(Film,cm−1)2782,2587,1612,1553,1485,1315,1245,1050
【0036】
1,1’−ビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)トリスルフィド(化合物2)
mp 150.2〜150.6℃
IR(Film,cm−1)3450,3355,1602,1559,1253,1215,1053,826
【0037】
[製剤例]
本化合物は汎用される技術を用いて製剤化することが出来る。以下に製剤処方例を示す。
【0038】
カプセル剤
処方 150mg中
本化合物 5mg
乳糖 145mg
【0039】
顆粒剤
処方 100mg中
本化合物 30mg
マンニトール 46.5mg
ポリビニルピロリドンK−30 7mg
オイドラギットRL 15mg
トリアセチン 1.5mg
【0040】
[薬理試験]
(慢性関節リウマチ由来滑膜細胞の調製)
ヒト慢性関節リウマチ患者の手術(人工関節置換術、滑膜切除術等)時に得た滑膜組織より、後藤等の方法(J.Clin.Invest.,80,786(1987))に従って滑膜細胞(以下、RASCと略記する)を得る。
【0041】
HamF−12培地(日研生物医学研究所製)にRASC(1mg/ml)、10%ウシ胎仔血清、2−メルカプトエタノール(55μM)、ペニシリンG(100U/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)を加えて懸濁させる。このRASCの懸濁液を37℃、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス下で培養し、付着細胞を継代培養して実験に用いる。
【0042】
(被験化合物溶液の調製)
化合物1または化合物2のジメチルスルフォキシド溶液(1×10−1M)を、HamF−12培地に加え、終濃度10、30および100μMの被験化合物溶液を調製する。
【0043】
(緩衝液Aの調製)
HEPES(10mM、pH7.8)、塩化カリウム(10mM)、塩化マグネシウム(2mM)、エチレンジアミン四酢酸(0.1mM)、フェニルメチルスルホニルフルオライド(0.1mM)、アプロチニン(100KIU/ml)およびジチオトレイトール(1μM)を所定の濃度となるように混合し緩衝液Aを調製する。
【0044】
(緩衝液Bの調製)
HEPES(50mM、pH7.8)、塩化カリウム(10mM)、塩化ナトリウム(300mM)、エチレンジアミン四酢酸(0.1mM)、PMSF(0.1mM)、アプロチニン(100KIU/ml)、DTT(1μM)およびGlycerol(10%(v/v))を所定の濃度となるように混合し緩衝液Bを調製する。
【0045】
(Owen’s試薬の調製)
(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルフォニル)−2H−テトラゾリウム(以下、MTSと略記する)とフェナジンメトスルフェートを20:1の割合で混合し、該試薬を調製する。
【0046】
(NF−κB活性化阻害効果の測定)
継体培養したRASCをリン酸緩衝生理食塩液(以下、PBSと略記する)で洗浄し、これにトリプシン/エチレンジアミン四酢酸(1ml)を加え室温で数分間反応させた。RASCを遠心管に移し、10%ウシ胎仔血清を含有するHamF−12培地(8ml)を加え、2000rpmで5分間遠心分離した。上清を取り除いた後、回収したRASCに10%ウシ胎仔血清を含有するHamF−12培地(1ml)を加え懸濁させ、懸濁液中の細胞数を1×106cells/mlに調製した。これを37℃、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス下で1晩インキュベートした後、上清を各濃度の被験化合物溶液(1ml)に交換した。1時間後にNF−κB活性化試薬であるリポポリサッカライド(以下、LPSと略記する)を10μg/ml添加した。これを37℃、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス下、1時間インキュベートした。核タンパクの抽出は、藤沢等の方法(ARTHRITIS & RHEUMATISM,39,194(1997))に従い行った。すなわち、回収したRASC(1×106個)をPBSで洗浄し、緩衝液A(0.4ml)に懸濁し、これにNP−40(25μl)を加え15分間氷冷した。14000rpmで30分間遠心分離し、回収したRASC核分画を緩衝液B(50μl)に懸濁し30分間氷冷した。これを15000rpmで5分間遠心分離し、上清を回収し核タンパクとした。このようにして得られた1〜10μgの核タンパクと[γ−32P]ATPを用いたリン酸化ラベリング法によりラベリングしたNF−κBプローブを室温にて20分間反応させた後、4%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を実施し、活性化したNF−κBを検出した(EMSA法)。この結果を図1に示す。
【0047】
尚、上記操作において被験化合物溶液を用いず操作したものをコントロール(無処置例)とした。
【0048】
(滑膜細胞増殖抑制効果の測定)
継代培養したRASCをPBSで洗浄し、これにトリプシン/エチレンジアミン四酢酸(1ml)を加え室温で数分間反応させた。RASCを遠心管に移し、10%ウシ胎仔血清を含有するHamF−12培地(8ml)を加え、2000rpmで5分間遠心分離した。上清を取り除いた後、回収したRASCに10%ウシ胎仔血清を含有するHamF−12培地(1ml)を加え懸濁させ、懸濁液中の細胞数を1×105cells/mlに調製した。これを96穴カルチャープレートに100μlずつ分注(1×104cells/well)し、37℃にて、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス下で1晩インキュベートした。上清を新しいHamF−12培地(0.1ml)に交換し、37℃にて、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス下で2日間インキュベートした。上清を各濃度の被験化合物溶液(0.1ml)に交換し、1時間後に滑膜細胞増殖促進試薬であるLPS(10μg/ml/well)を添加した。37℃にて、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス下、2日間インキュベートした。これにOwen’s試薬(20μl)を加え、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス雰囲気下で4時間インキュベートした後、マイクロプレートリーダーにて吸光度(OD490)を測定した。吸光度の値から式1に従い阻害率を算出した結果を表1および表2に示す。
【0049】
表1は化合物1を用いた結果を示し、表2は化合物2を用いた結果を示す。
【0050】
【式1】
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
[実験評価の基準および考察]
1.EMSA法を用い、化合物1および化合物2のNF−κBの活性化阻害効果の検討をした結果を図1に示した。阻害活性はX線フィルムへのNF−κB結合DNA検出位置における感光の濃淡により評価した。濃度が薄いものほどNF−κBの活性化が阻害されていることを示す。化合物1および化合物2をRASCに作用させたところLPSで誘発したNF−κBの活性化を100μMの濃度で完全に抑制した。さらに、コントロール(無処置例)と比較してもNF−κBの活性化抑制効果が見られた。
【0054】
2.滑膜細胞増殖抑制効果を検討した結果を表1および表2に示した。化合物1および化合物2が、LPSで誘発した滑膜細胞の増殖に対し、10μM以上の濃度で有意な抑制効果を示した。
【0055】
【発明の効果】
上記薬理試験の結果より、本発明は優れたNF−κB活性化阻害作用、および、優れた滑膜細胞増殖抑制効果を有しており、NF−κBの活性化が関与する幅広い疾患や滑膜の細胞増殖を伴う疾患、例えば、リウマチ等の炎症性または自己免疫性の疾患の治療剤として優れたものであることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 X線フィルムへのNF−κB結合DNA検出位置における感光の濃淡によりNF−κBの活性化の度合を示す電気泳動の写真である。
【発明の属する技術分野】
本発明はジフェニルジスルフィドまたはジフェニルトリスルフィド誘導体を有効成分とするNF−κB活性化阻害剤に関するものであって、特に滑膜細胞の増殖を抑制することにより、リウマチ等の炎症性または自己免疫性疾患の治療剤として有用な薬物を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
遺伝子の発現は、遺伝子上の特異塩基配列を認識するDNA結合タンパクである転写調節因子によって制御されている。転写調節因子の一つとして知られている核因子(nuclear factor)κB(本明細書全体を通して、NF−κBと略記する)は、免疫グロブリン(Ig)κ鎖遺伝子のエンハンサーに結合するB細胞特異的な核因子として同定され、その後、各種サイトカインや受容体の遺伝子上流のプロモーター領域に結合することで、これらの遺伝子の発現誘導に関与し、免疫応答や炎症性疾患の病態形成において重要な役割を果たしていることが明らかとなってきている。NF−κBは、p50およびp65タンパク質に代表されるRelファミリーサブユニットの複合体で、通常、細胞質内では制御サブユニットであるIκBタンパク質と結合して存在している。しかし、細胞に一定の刺激が加えられるとIκBが修飾を受けて、NF−κBが複合体から遊離され活性化される。このように活性化されたNF−κBが、核内へ移行し、ゲノムDNA上の特異塩基配列と結合することで遺伝子の発現誘導に関与していることが知られている。
【0003】
また、NF−κB活性化を阻害する薬物についての研究もなされており、非ステロイド系薬物であるアスピリンやサリチル酸ナトリウムが高濃度でNF−κBの活性化阻害作用を有していること(Science,265,956(1994))、プリン系化合物であるキサンチン誘導体がNF−κBの活性化阻害作用を有していること(特開平9−227561号公報)、および、ステロイド系薬物であるデキサメタゾンがIκBの産生を誘導してNF−κBの活性化阻害作用を有していることが報告されている(Science,270,283(1995),ibid.,270,286(1995))。
【0004】
さらに、NF−κBは、慢性関節リウマチ(以下、RAと略記する)の病態において重要な組織障害性因子と考えられるメタロプロテアーゼ、一酸化窒素またはIL−6等の炎症性サイトカインの転写を促進することが知られており、RA患者におけるサイトカインの上昇等の病態形成に深くかかわっていることが報告されている(最新医学,51(12),2313(1996))。例えば、RA患者の滑膜組織においてNF−κBの活性化が見られることやin vitroで滑膜細胞をリポポリサッカロイド(以下、LPSと略記する)、腫瘍壊死因子α(以下、TNFαと略記する)やインターロイキン−1β(以下、IL−1βと略記する)で刺激するとNF−κBが活性化され、滑膜細胞の増殖が誘導されることが報告されている(Science,265,956(1994);Arthritis Rheum.,38,1762(1995),ibid.,39,197(1996);Biochem.Mol.Biol.Int.,37,827(1995))。さらに、NF−κBの活性化はN−アセチル−L−システイン N−acetyl−L−cysteine(以下、NACと略記する)のような抗酸化剤により抑制されることが知られており、NACを投与することによってNF−κBの活性化を阻害しTNFαによって誘導される滑膜細胞の増殖を抑制することが報告されている(臨床免疫,29(29),169(1997))。
【0005】
ところで、本発明に係る一般式[I] で示される化合物の基本的構造は、2個のフェニル環が各々少なくとも1個のアミノ基と少なくとも1個の低級アルコキシ基を置換基として有し、その2個のフェニル環がジスルフィドまたはトリスルフィドを介して結合しているものである。以下、化学構造の観点から従来の技術について説明する。
【0006】
【化3】
一般式[I]においてnが2で、R1およびR2がアミノ基、R3およびR4がメトキシ基である1,1’−ビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)ジスルフィドは、米国特許3649284号公報に加熱可能な感光剤として有用な化合物として開示されているが、医薬としての用途は何等開示されていない。また、ジフェニルジスルフィド誘導体が特開平8−253454号公報にTNFα遊離抑制またはIL−1β産生抑制作用を有し、RAまたは敗血症治療剤として有用な化合物であることが開示されている。しかし、特開平8−253454号公報に具体的に開示されている化合物は、フェニル環が特定の置換基、即ち、ピリジルアミノ基またはベンズイミダゾリル基等を有するものであって、本発明における一般式[I]で示される化合物についての具体的開示はない。また、特開平8−253454号公報にはNF−κBの活性化阻害作用については何等記載されていない。
【0007】
ジフェニルトリスルフィド誘導体についてもいくつかの合成研究が報告されている。例えば、1,1’−ビス(2−アミノフェニル)トリスルフィドの合成は、J.Heterocycl.Chem.,7(3),687(1970)に報告されており、また、1,1’−ビス(2−アミノ−4−メチルフェニル)トリスルフィドは、ベンゾチアゾリジン誘導体の合成中間体として報告されている(J.Med.Chem.,14(3),248(1971))。しかしながら、これらの報告には、医薬としての用途は何等開示されていない。
【0008】
また、上記の公知化合物は、各フェニル環の置換基がアミノ基とアミノ基、またはアミノ基とメチル基であるトリスルフィドであり、一般式[II]で表されるジフェニルトリスルフィド誘導体は文献未知の新規化合物である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようにNF−κBの活性化は、RA等の自己免疫性の疾患の病態形成に深くかかわっており、NF−κBの活性化を阻害する薬物はRA等の治療に有用であることが期待される。ところが、NF−κBの活性化阻害剤についての研究はそれほどなされておらず、NF−κBの活性化を効果的に阻害する薬物を見いだすことは非常に興味のある課題である。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、NF−κBの活性化を効果的に阻害する薬物を見いだすべく鋭意研究した結果、一般式[I]で示されるジフェニルジスルフィド誘導体およびジフェニルトリスルフィド誘導体が優れたNF−κB活性化阻害作用を有することを見い出した。さらに、一般式[II]で示される新規化合物の合成研究を行い、それらの化合物も優れたNF−κB活性化阻害作用を有することを見い出した。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、下記一般式[I]で表される化合物またはその塩類を有効成分とするNF−κB活性化阻害剤および下記一般式[II]で示される新規化合物またはその塩類に関するものである。
【0012】
【化4】
【0013】
[式中、R1 およびR2 はアミノ基を示す。R3 およびR4 は同一または異なる低級アルコキシ基を示す。nは2または3を示す。]
【0014】
[式中、R1 およびR2 はアミノ基を示す。R5 およびR6 は同一または異なる低級アルコキシ基を示す。nは3を示す。]
【0015】
上記化合物の好ましい例として下記のものが挙げられる。
【0016】
・上記一般式[I]においてR1およびR2がアミノ基を示す化合物またはその塩類。
【0017】
・上記一般式[I]においてR3およびR4が低級アルコキシ基を、特に好ましくはメトキシ基を示す化合物およびその塩類。
【0018】
特に好ましい化合物の具体例としてビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)ジスルフィド(式[III])もしくはビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)トリスルフィド(式[IV])またはそれらの塩類が挙げられる。
【0019】
【化6】
【0020】
【化7】
【0021】
上記一般式[II]で示される新規化合物の好ましい化合物の例として下記のものが挙げられる。
【0022】
・上記一般式[II]においてR1およびR2がアミノ基を示す化合物およびその塩類。
【0023】
・上記一般式[II]においてR5およびR6がメトキシを示す化合物およびその塩類。
【0024】
特に好ましい化合物の具体例として下記式[IV]で示されるビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)トリスルフィドおよびその塩類が挙げられる。
【0025】
【化8】
【0026】
上記の塩類とは、医薬として許容される塩類であればよく、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等が挙げられる。また、上記化合物は溶媒和、例えば水和物等の形態をとっていてもよい。
【0027】
一般式[I]で表されるジフェニルジスルフィドまたはジフェニルトリスルフィド誘導体(以下、本化合物という)の有用性を調べるべく、本化合物のNF−κB活性化阻害作用について検討した。詳細については後述の薬理試験の項で示すが、本化合物は、NF−κBの活性化に対して強い阻害作用を示すことを見いだした。また、RA患者においては滑膜細胞の異常増殖が観察されるが、この滑膜細胞の増殖を抑制することができればRAの治療に有効な薬物となり得る。そこで本化合物についての滑膜細胞増殖抑制作用についても検討した結果、本化合物が滑膜細胞の増殖に対し強い抑制作用を示すことを見いだした。これらの結果より、本化合物はNF−κBの活性化が関与する幅広い疾患や滑膜の細胞増殖を伴う疾患、例えば、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症、ベーチェット病、結節性動脈周囲炎、潰瘍性大腸炎、活動性慢性肝炎、糸球体腎炎などを初めとする各種自己免疫疾患;変形性関節症、通風、アテローム硬化症、乾癬、アトピー性皮膚炎、肉芽腫を伴う肺疾患、各種脳炎など炎症症状が病態の基本となっている難治性各種疾患、エンドトキシンショック、敗血症、炎症性大腸炎、糖尿病、急性骨髄芽球性白血病、肺炎、心臓移植、脳脊髄炎、食欲不振、急性肝炎、慢性肝炎、薬物中毒症、肝障害、アルコール性肝炎、ウイルス肝炎、黄疸、肝硬変、肝不全、心房粘液腫、キャスルマン症候群、多発性骨髄腫、レンネルトTリンパ腫、メサンギウム増殖性腎炎、腎細胞癌、サイトメガロウイルス性肺炎、サイトメガロウイルス性網膜症、アデノウイルス性感冒、アデノウイルス性眼炎、エイズなどの疾患の治療および予防に有用であることが期待される。
【0028】
薬理試験の結果として、一般式[I]で表される化合物の内、R1およびR2がアミノ基である化合物、いわゆる活性本体についてのみ例示したが、これらの化合物は勿論プロドラッグの形態でも投与できる。即ち、アミノ基を各種保護基で保護した形態で投与することもできる。また、製剤化における安定性向上を目的として、アミノ基を各種保護基で保護することもできる。即ち、本発明においてアミノ基は、当業者が容易に考え得る保護基で保護されていてもよいのは当然である。
【0029】
本化合物は経口でも、非経口でも投与することができる。投与剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、注射剤等が挙げられ、汎用されている技術を用いて製剤化することができる。例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の経口剤であれば、乳糖、結晶セルロース、デンプン、植物油等の増量剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルシウム、低置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、マクロゴール、シリコン樹脂等のコーティング剤、ゼラチン皮膜剤などを必要に応じて加えればよい。
【0030】
本化合物の投与量は症状、年令、剤型等によって適宜選択できるが、経口剤であれば通常1日あたり0.1〜5000mg、好ましくは1〜1000mgを1回または数回に分けて投与すればよい。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の製造例および本発明の薬理試験の結果を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0032】
【実施例】
[合成例]
1,1’−ビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)ジスルフィド・二塩酸塩(化合物1)および1,1’−ビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)トリスルフィド(化合物2)
【化9】
【0033】
【化10】
【0034】
硫化ナトリウム・9水和物(48.0g)と硫黄(6.41g)を水(20ml)に懸濁し、還流下1時間撹拌する。得られた懸濁液に80℃で3−ニトロ−4−クロロアニソール(18.8g)のエタノール(50ml)溶液をゆっくり滴下する。反応液を3時間還流後、水(50ml)を加え、氷冷下、1晩撹拌する。析出する結晶を濾取し(結晶1とする)、母液を酢酸エチルで抽出する。有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥する。有機層を減圧濃縮し得られる残留物にn−ヘキサンを加え濾過し、さらに濾液にエタノールを加え濾過する。濾液を減圧濃縮し、得られる残留物をエタノール(70ml)に溶解し、氷冷下、4N塩化水素/酢酸エチル(10ml)を滴下する。析出する結晶を濾取して、標記化合物1(5.31g(収率27%))を得る。一方、先に得た結晶1を酢酸エチルで抽出し、有機層を水、飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥する。有機層を減圧濃縮し、得られる結晶をn−ヘキサンで再結晶し、標記化合物2(4.92g(29%))を得る。
【0035】
1,1’−ビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)ジスルフィド・二塩酸塩(化合物1)
mp 188.8〜190.9℃
IR(Film,cm−1)2782,2587,1612,1553,1485,1315,1245,1050
【0036】
1,1’−ビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)トリスルフィド(化合物2)
mp 150.2〜150.6℃
IR(Film,cm−1)3450,3355,1602,1559,1253,1215,1053,826
【0037】
[製剤例]
本化合物は汎用される技術を用いて製剤化することが出来る。以下に製剤処方例を示す。
【0038】
カプセル剤
処方 150mg中
本化合物 5mg
乳糖 145mg
【0039】
顆粒剤
処方 100mg中
本化合物 30mg
マンニトール 46.5mg
ポリビニルピロリドンK−30 7mg
オイドラギットRL 15mg
トリアセチン 1.5mg
【0040】
[薬理試験]
(慢性関節リウマチ由来滑膜細胞の調製)
ヒト慢性関節リウマチ患者の手術(人工関節置換術、滑膜切除術等)時に得た滑膜組織より、後藤等の方法(J.Clin.Invest.,80,786(1987))に従って滑膜細胞(以下、RASCと略記する)を得る。
【0041】
HamF−12培地(日研生物医学研究所製)にRASC(1mg/ml)、10%ウシ胎仔血清、2−メルカプトエタノール(55μM)、ペニシリンG(100U/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)を加えて懸濁させる。このRASCの懸濁液を37℃、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス下で培養し、付着細胞を継代培養して実験に用いる。
【0042】
(被験化合物溶液の調製)
化合物1または化合物2のジメチルスルフォキシド溶液(1×10−1M)を、HamF−12培地に加え、終濃度10、30および100μMの被験化合物溶液を調製する。
【0043】
(緩衝液Aの調製)
HEPES(10mM、pH7.8)、塩化カリウム(10mM)、塩化マグネシウム(2mM)、エチレンジアミン四酢酸(0.1mM)、フェニルメチルスルホニルフルオライド(0.1mM)、アプロチニン(100KIU/ml)およびジチオトレイトール(1μM)を所定の濃度となるように混合し緩衝液Aを調製する。
【0044】
(緩衝液Bの調製)
HEPES(50mM、pH7.8)、塩化カリウム(10mM)、塩化ナトリウム(300mM)、エチレンジアミン四酢酸(0.1mM)、PMSF(0.1mM)、アプロチニン(100KIU/ml)、DTT(1μM)およびGlycerol(10%(v/v))を所定の濃度となるように混合し緩衝液Bを調製する。
【0045】
(Owen’s試薬の調製)
(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルフォニル)−2H−テトラゾリウム(以下、MTSと略記する)とフェナジンメトスルフェートを20:1の割合で混合し、該試薬を調製する。
【0046】
(NF−κB活性化阻害効果の測定)
継体培養したRASCをリン酸緩衝生理食塩液(以下、PBSと略記する)で洗浄し、これにトリプシン/エチレンジアミン四酢酸(1ml)を加え室温で数分間反応させた。RASCを遠心管に移し、10%ウシ胎仔血清を含有するHamF−12培地(8ml)を加え、2000rpmで5分間遠心分離した。上清を取り除いた後、回収したRASCに10%ウシ胎仔血清を含有するHamF−12培地(1ml)を加え懸濁させ、懸濁液中の細胞数を1×106cells/mlに調製した。これを37℃、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス下で1晩インキュベートした後、上清を各濃度の被験化合物溶液(1ml)に交換した。1時間後にNF−κB活性化試薬であるリポポリサッカライド(以下、LPSと略記する)を10μg/ml添加した。これを37℃、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス下、1時間インキュベートした。核タンパクの抽出は、藤沢等の方法(ARTHRITIS & RHEUMATISM,39,194(1997))に従い行った。すなわち、回収したRASC(1×106個)をPBSで洗浄し、緩衝液A(0.4ml)に懸濁し、これにNP−40(25μl)を加え15分間氷冷した。14000rpmで30分間遠心分離し、回収したRASC核分画を緩衝液B(50μl)に懸濁し30分間氷冷した。これを15000rpmで5分間遠心分離し、上清を回収し核タンパクとした。このようにして得られた1〜10μgの核タンパクと[γ−32P]ATPを用いたリン酸化ラベリング法によりラベリングしたNF−κBプローブを室温にて20分間反応させた後、4%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を実施し、活性化したNF−κBを検出した(EMSA法)。この結果を図1に示す。
【0047】
尚、上記操作において被験化合物溶液を用いず操作したものをコントロール(無処置例)とした。
【0048】
(滑膜細胞増殖抑制効果の測定)
継代培養したRASCをPBSで洗浄し、これにトリプシン/エチレンジアミン四酢酸(1ml)を加え室温で数分間反応させた。RASCを遠心管に移し、10%ウシ胎仔血清を含有するHamF−12培地(8ml)を加え、2000rpmで5分間遠心分離した。上清を取り除いた後、回収したRASCに10%ウシ胎仔血清を含有するHamF−12培地(1ml)を加え懸濁させ、懸濁液中の細胞数を1×105cells/mlに調製した。これを96穴カルチャープレートに100μlずつ分注(1×104cells/well)し、37℃にて、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス下で1晩インキュベートした。上清を新しいHamF−12培地(0.1ml)に交換し、37℃にて、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス下で2日間インキュベートした。上清を各濃度の被験化合物溶液(0.1ml)に交換し、1時間後に滑膜細胞増殖促進試薬であるLPS(10μg/ml/well)を添加した。37℃にて、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス下、2日間インキュベートした。これにOwen’s試薬(20μl)を加え、空気95%および二酸化炭素5%の混合ガス雰囲気下で4時間インキュベートした後、マイクロプレートリーダーにて吸光度(OD490)を測定した。吸光度の値から式1に従い阻害率を算出した結果を表1および表2に示す。
【0049】
表1は化合物1を用いた結果を示し、表2は化合物2を用いた結果を示す。
【0050】
【式1】
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
[実験評価の基準および考察]
1.EMSA法を用い、化合物1および化合物2のNF−κBの活性化阻害効果の検討をした結果を図1に示した。阻害活性はX線フィルムへのNF−κB結合DNA検出位置における感光の濃淡により評価した。濃度が薄いものほどNF−κBの活性化が阻害されていることを示す。化合物1および化合物2をRASCに作用させたところLPSで誘発したNF−κBの活性化を100μMの濃度で完全に抑制した。さらに、コントロール(無処置例)と比較してもNF−κBの活性化抑制効果が見られた。
【0054】
2.滑膜細胞増殖抑制効果を検討した結果を表1および表2に示した。化合物1および化合物2が、LPSで誘発した滑膜細胞の増殖に対し、10μM以上の濃度で有意な抑制効果を示した。
【0055】
【発明の効果】
上記薬理試験の結果より、本発明は優れたNF−κB活性化阻害作用、および、優れた滑膜細胞増殖抑制効果を有しており、NF−κBの活性化が関与する幅広い疾患や滑膜の細胞増殖を伴う疾患、例えば、リウマチ等の炎症性または自己免疫性の疾患の治療剤として優れたものであることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 X線フィルムへのNF−κB結合DNA検出位置における感光の濃淡によりNF−κBの活性化の度合を示す電気泳動の写真である。
Claims (7)
- R1 およびR2 がアミノ基で、R3 およびR4 が低級アルコキシ基である請求項1記載のNF−κB活性化阻害剤。
- ビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)ジスルフィドもしくはビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)トリスルフィドまたはその塩類を有効成分とするNF−κB活性化阻害剤。
- 請求項1記載の一般式[I] で示される化合物またはその塩類を有効成分とする滑膜細胞増殖抑制剤。
- R1 およびR2 がアミノ基で、R5 およびR6 が低級アルコキシ基である請求項6記載の化合物またはその塩類。
- ビス(2−アミノ−4−メトキシフェニル)トリスルフィドまたはその塩類。
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