JP3701357B2 - ドレープ性シミュレーション方法およびドレープ性シミュレーション装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、衣服の製造工程における型紙の設計や衣服の試作などで重要視される布のドレープ性のシミュレーション方法およびシミュレーション装置に関する。本発明のシミュレーション方法およびシミュレーション装置は、アパレル産業における衣服のデザインを始め、テキスタイル産業や繊維業界における織物のデザインなどに利用される。
【0002】
【従来の技術】
アパレル産業において、衣服の製造は、おおむね図1に示す工程で行われている。近年、衣服の製造のコスト低減や期間の短縮などを目的に、衣服形状のシミュレーションを始めとする各種のシミュレーションやアパレルCADが利用されている。特に、アパレルCADは衣服の型紙の設計であるパターンメイキングP2、グレーディングP7、マーキングP8に利用され、大きな成果をあげている。
【0003】
アパレルCADを活用して衣服の設計をするためには、設計の基になる衣服の性質に関するデータが必要である。重要な衣服の性質の一つとしてドレープ性がある。ドレープ性とは、布の垂れ下がり状態で発生するゆるやかなひだの形状のことである。
【0004】
衣服のデザインP1や、デザイン画から型紙を作成するパターンメイキングP2において、実際に使用する布のドレープ性を把握することは非常に重要な問題である。通常は、布のドレープ性を把握するために衣服の製造に使用する布を事前に入手し、ドレープ・テストなどの様々な試行により、そのドレープ性を調べている。しかしながら実際には、衣服のデザインP1やパターンメーキングP2の段階で事前に実際に使用する布を入手することが困難な場合があり、経験と勘でドレープ性を推定することが多い。
【0005】
布のドレープ性は、その布の力学的な物理特性によって定まると考えられる。そこで、布を微小要素に分割して考え、布の力学的な物理特性をもとに、布の微小要素間の力の釣り合いなどを計算することによって、布のドレープ性を推定する方法が研究されている。また、そのような計算を衣服の製造工程に有効に活用するために、計算した布のドレープ形状を視覚的に表示する装置の開発が待ち望まれている。
【0006】
従来の技術として、フックの法則などの物理法則にしたがって布の微小要素に対して力学的計算を行い、布の静的形状とドレープ形状とをシミュレートする方法がある。例えば、繊維高分子研究所報告第142号(1984)「コンピュータによるドレープ現象の構造解析」、「面要素を用いた衣服の立体性の予測法」、特開昭63−303106号公報「衣類の着用状態を予測表示する方法」などがある。これらの従来技術では、シミュレーション方法として有限要素法を用いている。
【0007】
布を構造物の一種と考えた場合、布は様々な特徴を有する。構造物としての布は非常に自由度が大きいため、構造物としての布が変形をする際には、その変形は極めて3次元的な大変形となりやすい。布は縦糸と横糸とが交互に交差するように組み立てられており、縦糸と横糸とを結びつけている力は摩擦力(内部摩擦力)である。したがって、構造物としての布は内部摩擦力でその構造が保たれているといえる。一方、布と同じような薄肉構造物である金属箔やプラスチックフィルムでは、その構造は分子レベルの結合力で保たれている。したがって、布の形状予測計算と金属箔等の形状予測計算とを同一のシミュレーション方法で行うことは妥当ではなく、布の形状予測計算は布の上記の構造上の特徴を考慮したうえで行う必要がある。
【0008】
従来のシミュレーション方法では、布の形状モデルを格子状に離散化し、各格子点ごとにその各格子点の振る舞いを表す方程式を立て、その方程式の数値解を求める手法を採用している。
【0009】
布の形状を求める計算に用いる布の形状の計算モデルとして、静的モデルと動的モデルとがある。
【0010】
静的モデルでは、布に加えられた力、初期形状、および布の力学的特性値から、衣服形状が一意的に定まると仮定する。しかし、布は形状履歴のある非線形な特性および多安定性を有しているので、布を使った衣服の形状は、布の形状変形の過程に依存する。静的モデルではこの過程を考慮できないので、実際の衣服形状をシミュレートすることが難しい。
【0011】
一方、動的モデルでは、衣服の形状の変形過程のすべてをシミュレートすることができる。また、衣服の形状のシミュレートだけでなく、外部からの操作で衣服を人体に着付けるシミュレーションや、着付けた衣服の形を整えるシミュレーションも可能になる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
布の変形状況を算出できる動的モデルとして、TerzopoulosとFleischerによる、”Deformable models”,The Visual Computer,Vol.4,pp.306−331,(1988)に示されるモデルがある。Terzopoulosらの動的モデルは、時間軸に沿って布の変形を計算するためのモデルであるが、シミュレーションを行う者が様々なパラメータを経験に基づいて与えなければならない。また、シミュレーションに際して、布の物理特性を入力することができない。このため、Terzopoulosらの動的モデルを用いたシミュレーション結果は布の物理特性を反映しないため正確ではなく、アニメーションへの利用などのように、正確さが特に必要とされない用途においてのみ有効である。
【0013】
衣服のシミュレーションにおいては、布の形状を表す有限個の微小要素を設定する必要がある。微小要素の数が多ければ多いほど実際の布形状を正確に表現することが可能になる。しかしながら、微小要素が多いと計算に多大な時間がかかり、シミュレーションが実用的ではなくなる。そこで実際には、シミュレーションを行う者は、限られた時間内で計算を行うために、数少ない微小要素でシミュレーションを行っている。そのため、実用的に実際の布の変形を正確にシミュレートすることは困難である。
【0014】
上記で示した動的モデルの他にもいくつかの動的モデルが提案されているが、いずれの動的モデルを使用しても、正確なシミュレーションを行うためには長大な時間を必要とする。さらに、いずれの動的モデルにおいても、非線形な布特性を取り込むことができないという課題がある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高速で正確なドレープ性シミュレーション方法およびドレープ性シミュレーション装置を提供することである。
【0016】
本発明のドレープ性シミュレーション装置は、布に対して力が加わった場合における該布の形状を、該布の表面に沿った横糸の方向にM分割するとともに縦糸の方向にN分割して得られるM×N個の格子状の微小要素を有する前記布の計算モデルに基づいて、該布のドレープ性をシュミレーションするドレープ性シミュレーション装置であって、あらかじめ与えられた第1の時刻での前記各微小要素を代表する第1の格子点の位置に基づいて、ベクトル量で表される力が加えられた場合における該第1の時刻から微小時間経過後の第2の時刻での前記各第1の格子点の位置をそれぞれ計算する計算手段と、該第1の時刻における前記各第1の格子点の位置と前記各第1の格子点にてそれぞれ代表される前記各微小要素にそれぞれ隣接する第2の微小要素を代表する第2の格子点の位置との間の距離である第1の距離と、該第2の時刻における前記各第1の格子点の位置と前記各第2の格子点の位置との間の距離である第2の距離との差の絶対値をそれぞれ求めて、求められた各絶対値があらかじめ定めた微小距離以下であるか否かを判定する判定手段と、該第2の距離と該第1の距離とがあらかじめ定めた微小距離以下になるまで該第2の時刻での前記各第1の格子点の位置を修正計算する修正計算手段とを備え、該修正計算手段によって得られる前記各第1の格子点の位置に基づいて前記計算モデルの形状を求めて、前記布のドレープ性をシュミレーションすることを特徴とする。
【0017】
本発明のドレープ性シミュレーション方法は、前記ドレープ性シミュレーション装置によるシミュレーション方法であって、前記計算手段が、あらかじめ与えられた第1の時刻での前記各第1の格子点の位置に基づいて、ベクトル量で表される力が加えられた場合における該第1の時刻から微小時間経過後の第2の時刻での前記各第1の格子点の位置を計算するステップと、前記判定手段が、該第1の時刻における前記各第1の格子点と前記各第1の格子点にそれぞれ隣接する第2の格子点との間の距離である第1の距離と、該第2の時刻における前記各第1の格子点と前記第2の格子点との間の距離である第2の距離との差の絶対値をそれぞれ求めて、求められた各絶対値があらかじめ定めた微小距離以下であるか否かを判定するステップと、前記修正計算手段が、該第2の距離と該第1の距離とがあらかじめ定めた微小距離以下になるまで該第2の時刻での前記各第1の格子点の位置を修正計算するステップとを包含し、前記修正計算手段によって得られる前記各第1の格子点の位置に基づいて前記計算モデルの形状を求めて、前記布のドレープ性をシュミレーションすることを特徴とする。
【0018】
前記第2の距離と前記第1の距離との差の絶対値があらかじめ定めた微小距離以下になるまで前記第2の時刻での前記第1の格子点の位置を修正するステップが、該第2の距離と該第1の距離との差の標準偏差を求めるステップと、該標準偏差があらかじめ定めた値以下になるまで該第2の時刻での前記各第1の格子点の位置を修正するステップとを包含してもよい。
【0019】
前記ベクトル量で表される力は、前記計算モデルに作用する外力と該計算モデルの曲げ回復力との合力であってもよい。
【0020】
【発明の実施の形態】
始めに、以下の説明において用いる座標系および変数の記述方法を説明する。以下の説明において種々のベクトル量を使用するが、その表記方法は太字あるいは[ベクトル]と表すことにする。例えば、ベクトル量の力Fは、
【0021】
【数1】
【0022】
と表すことにする。
【0023】
計算モデルの任意の点iを表すために、図2に示すように、3次元の全体座標系の原点からの微小要素の位置を表す位置ベクトルをr[ベクトル]とする。布の表面に沿った横糸の方向をu方向とし、縦糸の方向をv方向として、布の表面に沿った物体座標系をu軸およびv軸により定める。
【0024】
本発明によるドレープ性シミュレーション方法は図3のフローチャートに従って行われる。
【0025】
まず、布の計算モデルをu軸方向にM分割し、v軸方向にN分割することで、M×Nの数の格子(微小要素)に分割する(ステップS1)。以下、各格子はその格子を代表する点で表す。任意の点を点iと表し、i点と近接する点NN={1,2,・・・,8}のうち任意の点を点aと表す。また、i点とu軸方向およびv軸方向に隣り合う点をMM={1,2,3,4}と表す。布の動的変形計算モデルとしては、例えば、坂口、美濃、池田による「仮想服飾環境PARTY−動的変形可能な布のための数値計算法−」電子情報通信学会論文誌,vol.J77−D−II,No.5,pp.912−921(1994)に示されるようなモデルを用いる。
【0026】
布の物理特性に関しては、引っ張り特性、曲げ特性、せん断特性および自重が重要である。本発明によるシミュレーション方法では、布はいたるところで伸びないと仮定する。この仮定により、シミュレーション計算において引っ張り特性およびせん断特性を無視することができる。さらに、伸び率の計算に必要な内力の計算をも省略することができる。したがって、シミュレーションの計算を簡単化することができる。
【0027】
布の形状を予測するシミュレーションにおいて、静的モデルに対しては力の釣り合いを表す連立方程式を解く方法が採られるのに対し、動的モデルでは連立微分方程式を数値積分によって解く方法が採られる。この数値積分によって解く方法では、数値計算における布の自由度は計算モデルの分割要素数nと布のおかれている空間の次元の積に等しく、一般的には3nの自由度がある。布の動きを正確にシミュレートするためには、分割数を1000個程度にしなければならず、計算に必要な剛体マトリックスはn×n次元となり、10の7乗程度の計算になる。スーパーコンピュータを用いればこのような計算は不可能ではないが、スーパーコンピュータを使用することは計算コストがかかりすぎて実用的ではない。そこで、大規模な連立微分方程式を、拘束条件を付加することで、複数の独立な運動方程式に変換して解く。
【0028】
ユークリッド空間(x,y,z)で格子点の座標をr[ベクトル]と表記すると、
【0029】
【数2】
【0030】
であり、布の運動方程式は、
【0031】
【数3】
【0032】
と表される。μは格子点iが代表する質量、Caは空気抵抗定数、Ccは布の内部摩擦係数、tは時間である。F[ベクトル]は布表面の法線方向の力であり、布の変形に関与する外部力である。布に作用する力の総和をFsum[ベクトル]、布表面の単位法線ベクトルをn[ベクトル]とすると、外部力F[ベクトル]は、
【0033】
【数4】
【0034】
と表すことができる。布の表面に沿った方向の力は無視する。なぜなら、布が伸びないと仮定しているために、布の表面に沿った方向に作用する力は布の内力と釣り合って作用しないからである。
【0035】
Fsum[ベクトル]は外力Fext[ベクトル]および曲げ回復力Fbnd[ベクトル]の合力となるので、
【0036】
【数5】
【0037】
である。外力Fext[ベクトル]は重力だけであると仮定して、
【0038】
【数6】
【0039】
である。曲げ回復力Fbndについては後述する。以上がステップS2である。
式(2)の運動方程式を解くに際して、制約条件は、
【0040】
【数7】
【0041】
である。laはi点と、i点と近接するa点との間の時刻tにおける距離であり、la0はi点と、i点と近接するa点との間の時刻0における距離(初期長さ)である(図4参照)。ラグランジュの未定係数を導入し、式(2)および式(6)を式(7)の制約なし問題に変換する(ステップS3)。
【0042】
【数8】
【0043】
式(7)を解く際に、初期状態として制約条件が満たされている状態(伸びがまったくない状態)を想定する。このときには式(7)は式(8)となる。
【0044】
【数9】
【0045】
式(8)を式(9)および式(10)の差分スキームを用いて解くことで式(11)が得られる。
【0046】
【数10】
【0047】
【数11】
【0048】
二次以上の項が計算結果に与える影響は微小なので、二次以上の項は無視して、時刻t+△tの位置座標r(t+△t)[ベクトル]を式(12)のように表す(ステップS4)。
【0049】
【数12】
【0050】
実際には、時刻tから時刻t+△tまでの布の運動が起こると、図5に示すような布の伸びが発生する。
【0051】
本発明のよるシミュレーション方法では、上記の運動によって引き起こされる伸びを最小にするように、v(t+△t)の修正を行う(ステップS5)。
【0052】
式(11)のv(t+△t)を初期値としてm回の修正が行われたベクトルをv(m)と記述する。したがって、m回の修正が行われた位置ベクトルはr(m)[ベクトル]=r(t)[ベクトル]+v(m)[ベクトル]△tと表される。
【0053】
上記の修正は、式(13)に示されるベクトルにしたがって行われる。
【0054】
【数13】
【0055】
la(m)はm回の修正時におけるi点とi点に近接するa点との間の距離であり、da(m)[ベクトル]はi点からa点へ向かう単位方向ベクトルである。
【0056】
【数14】
【0057】
速度ベクトルの修正は式(16)により行う。γは修正のステップ幅である。
【0058】
【数15】
【0059】
式(16)による修正をla(m)=la0になるまで繰り返すことが原則ではあるが、実際にはla(m)とla0がほとんど等しいとみなせる程度まで繰り返せば十分である。以下、修正計算の方法を説明する。
【0060】
△la=la(m)−la0とし、誤差の標準偏差SDを式(17)および(18)により計算する。
【0061】
【数16】
【0062】
SD<εeになるまで計算を繰り返す(R1)。つまり、SD<εeが収束の判定条件である(ステップS6)。εeは布の伸び率に関係する閾値であり、伸びやすい布ほど大きな値となる。
【0063】
上記の修正が行われた後の運動方程式は式(19)で表される。
【0064】
【数17】
【0065】
Fcon[ベクトル]は制約力(伸びに対する抵抗力)に相当する。伸びの回復力が本質的にバネの力のように振動を伴うのに対し、Fcon[ベクトル]は振動をも制御する力である。
【0066】
シミュレーションはあらかじめ定めた時刻Tまで行う。したがって、計算の時刻tが時刻Tに達するまで、上記の計算を繰り返す(R2)。計算の時刻tがTに等しくなった場合に、シミュレーションは終了する(ステップS7およびS8)。
【0067】
上記のシミュレーションにおいて、外部力F[ベクトル]を計算するために曲げ回復力Fbnd[ベクトル]を与えなければならない。そのために、定式化された布の曲げ特性が必要である。
【0068】
布の物理特性を測定する手法の一つとして、繊維業界ではKES(Kawabata's Evaluation System for fabric)法が広く用いられている。この方法は、川端季雄,”風合い評価の標準化と解析”,風合い計量と規格化研究委員会,日本繊維機械学会,1980.に示されている。以下、KES法の曲げ特性の測定方法および測定結果を定式化する方法の一例を説明する。
【0069】
長さ2.5cm、幅1cmの布に対して、その両端を把時し±2.5(1/cm)の曲率を与える曲げ試験を行い、固定端での回転モーメントを測定する。図6から明らかなように、曲がり角度θaは式(20)により計算される。
【0070】
【数18】
【0071】
・は内積を、N[ベクトル]は点iの法線ベクトルを、da[ベクトル]は点iから点aに向かう単位方向ベクトルを表す。点iと点aから定まる曲率をηa、点iと点a間の距離をlaとすると、ηaは式(21)のように表される。
【0072】
【数19】
【0073】
曲率ηaから点iにおける曲げモーメントMを式(22)および式(23)により求める。
【0074】
【数20】
【0075】
Waは試料の幅であり、Saは点iと点aを代表する面積である。φaは曲げ回復特性を表す関数であり、履歴に従うヒステリシスな関数である。曲げモーメントは布の法線方向のせん断力として作用するので、式(24)で計算する。
【0076】
【数21】
【0077】
式(20)〜(24)を用いて、図7に示すような曲げ試験の測定結果から布の曲げ回復力Fbnd[ベクトル]を得ることができる。
【0078】
KES法はもともと布の風合いを定量化する目的で開発された方法であり、数値計算に利用するために考慮しなければならないことが二つある。第一に、布の異方性である。数値計算では布のあらゆる方向の特性値が必要である。しかし、KES法では縦糸方向と横糸方向の特性しか測定されない。そこで、縦糸方向と横糸方向以外の方向についても測定をする必要がある。この際、最小の測定項目の追加で全方向の特性値を計算できることが望ましい。第二に、履歴である。KES法では測定の折り返し点が、曲げ特性では曲率±2.5(1/cm)となっているために、それ以外の折り返し点からの履歴曲線は計算によって求めなければならない。
【0079】
一般的に、布の力学的特性には異方性がある。KES法で測定しているせん断特性はバイアス方向の引っ張り特性と等価であるために、引っ張り特性の異方性を計算すればせん断特性を測定する必要はない。布の異方性は、布固有の”くせ”を表現する重要な布力学特性の一つである。異方性については、直交異方性板理論をあてはめると、任意角度Θの特性が式(25)および式(26)により補間計算できる。
【0080】
【数22】
【0081】
したがって、実験により、縦糸方向および横糸方向の他にバイアス方向の特性が得られれば、異方性を計算により求めることができる。実際のところは布の異方性は複雑であり、バイアス方向としてu軸方向となす角の角度が45度の方向に加えて135度の方向の特性も測定することが好ましい。
【0082】
KES法により得られる測定結果は履歴曲線で表される。しかし、上述したように、測定結果だけでは測定した折り返し点からの履歴曲線しか得られず、任意の折り返し点からの履歴は計算により求めなければならない。履歴曲線は布の内部摩擦に関係すると考えられている。しかしながら、実際のところは内部摩擦と履歴曲線の関係はよく解明されておらず、履歴曲線の補間計算については適切な理論体系すらない。履歴の計算方法はいささか経験的な方法に頼らざるを得ない。
【0083】
曲げ特性の履歴は実際のところ多様である。曲げ特性が図8(a)に示すような単純な紡錘型曲線のときには、任意の折り返し点で相似の履歴曲線を描くように仮定できるようにみえる。しかし、この仮定は図8(b)に示すようなスリップ型の特性の場合にはあてはまらない。また、折り返しの履歴曲線とは別に初期曲線も考える必要がある。初期曲線については、式(27)の経験式を用いる。
【0084】
【数23】
【0085】
ηは曲率であり、Moは残留モーメント、Bは履歴曲線の傾き(曲げ剛性定数)を表す。
【0086】
曲げ特性の定式化においては、以下の仮定を行う。
【0087】
(a)曲げ特性曲線はすべて紡錘型曲線で近似することができる。
【0088】
(b)任意折り返し点からの履歴曲線の形は初期曲線と良く似た形になる。
【0089】
仮定(a)にもとづいて、KES法で得られる曲げ特性曲線から最小二乗法により、曲げ剛性と残留モーメントを算出し曲げ特性に関する測定値を近似する。仮定(b)にもとづいて、初期曲線を近似する関数をアフィン変換し、任意の折り返し点からの履歴曲線とする。具体的には、任意の折り返し点からの履歴曲線を式(28)で計算する。
【0090】
【数24】
【0091】
ηtは折り返し点の曲率であり、Mtは折り返し点のモーメントである。このようにして計算した履歴曲線を図9に示す。
【0092】
次に、図10および図11を参照しながら、本発明によるドレープ性シミュレーション装置50を説明する。
【0093】
本発明によるドレープ性シミュレーション装置50は、キーボードやマウスなどの入力装置21、シミュレーション結果を表示するディスプレイなどの表示装置22、データを記憶する記憶装置23、および演算を行う演算装置24を有する。
【0094】
操作者は操作手段100を介して、計算モデルの分割数や格子の形状などの計算に必要な情報を信号I1として、計算モデル構成手段200に伝達する。
【0095】
計算モデル構成手段200において構成された計算モデルの各々の要素点(格子点)に対し、運動方程式構築手段301において運動方程式が構築される。外部力の計算に必要な曲げ回復力は、曲げ回復力データ部305から、前述の方法などによって実験結果を定式化したデータに基づいて与えられる。運動方程式に対して、操作者が操作手段100を介して、シミュレーションの種類に応じて適宜修正を加えることも可能である。
【0096】
運動方程式構築手段301において構築された運動方程式は位置座標計算手段302に送られ、各微小要素の位置座標が計算される。計算は前述した方法で行われ、位置座標修正手段303で、時刻tから時刻t+△tまでの要素点間の変位が最小になるように位置座標の修正が行われる。繰り返し計算は前述の収束条件が満たされるまで繰り返される。収束判定は収束判定手段304で行われる。シミュレーションに要求されるシミュレーションの正確さと計算時間とに応じて、操作者が操作手段100を介して収束判定手段304に信号I5を伝達し、収束条件を変更することも可能である。
【0097】
シミュレーション結果は表示手段400で表示される。シミュレーション結果を衣服のデザインなどに有効に活用するためには、デザイナー等が所望する方法でシミュレーション結果を表示する必要がある。ドレープ性シミュレーション装置50では、操作者は操作手段100を介して表示制御手段401に信号I7を伝達することにより、表示部402に所望の表示方法でシミュレーション結果を表示することができる。このような構成により、マウス等の入力装置によって、画像中に示されるポインタを動かすことで、画像中の生地の一端を捕まえたり動かしたりする操作が可能である。このような操作により、ドレープ形状の変化をシミュレートすることができる。他に、生地を切断する操作、生地同士を縫製する操作、布を必要な個所に固定する操作などもシミュレートすることができる。また、以下に示すような布地のドレープ性の確認を行うこともできる。まず、本装置の画面上のメニューでドレープチェックを選択すると、ディスプレイにはドレープテスト台と円形の生地が仮想的な3次元空間におかれている状況が描画される。次に、必要な生地の物理特性のデータを呼び出し、ドレープ形成を実行することでドレープ形成過程が順次計算され、順次アニメーション表示が行われる。
【0098】
演算手段300で行われた計算結果や表示手段400で表示されたシミュレーション結果はデータ記憶手段500に記憶される。操作者はデータ記憶手段500に記憶されたデータに基づき、任意の時間にシミュレーション結果を観察することができる。
【0099】
本発明のドレープ性シミュレーション装置を用いたシミュレーション結果と実験の結果との対比について説明する。実験に用いた布は綿、ポリエステル、羊毛である。図12の初期形状および格子を有する計算モデルを使用してシミュレーションを行った。格子は正方格子に近似した形状に構成し、布の計算モデル全体を64×8に分割した。図13に布の曲げ特性の異方性についてのシミュレーション結果を、図14に布の曲げ特性の履歴についてのシミュレーション結果を示す。図15に自由落下開始から1.0秒後のドレープ形状のシミュレーション結果と実験結果とを示す。計算は、Ca+Cc=0.2(dyn・cm/sec)、△t=0.002(秒)の条件で行った。計算時間は30秒であり、本発明のドレープ性シミュレーション方法またはドレープ性予測計算装置を使用することにより、布のドレープ性を高速かつ正確にシミュレートすることができるようになった。
【0100】
【発明の効果】
以上のように、本発明のドレープ性シミュレーション方法およびドレープ性シミュレーション装置では、シミュレーションの計算において引っ張り特性およびせん断特性を無視し、シミュレーションの計算を簡単化することができる。その結果、高速で正確なドレープ性予測シミュレーションが可能となった。さらに、非線形な布特性も計算することができるようになった。
【0101】
衣服の設計は、デザイナとパタンナとの共同作業であり、両者の意思疎通は試作された衣服を観察し、意見交換を行うことでなされる。本発明のドレープ性シミュレーション方法またはドレープ性シミュレーション装置を用いることにより、生地のドレープ性を正確に予測することができるので、デザイナとパタンナとの意思疎通が活発に行われ、創造性に富んだ衣服の設計を効率的に進めることができるようになった。衣服の製造のコスト低減や期間の短縮などが可能になった。
【0102】
本発明のドレープ性シミュレーション方法またはドレープ性シミュレーション装置を利用することにより、事前に入手困難な生地のドレープ性を予測することができるようになった。また、衣服に必要なドレープ性をあらかじめ計算しておくことで、衣服の試作を行わずに、多くの種類の生地のなかから最も適した生地を選択することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】衣服の製造工程を示す図である。
【図2】座標系の説明図である。
【図3】本発明のドレープ性シミュレーション方法を用いたシミュレーションのフローチャートである。
【図4】時刻0と時刻tの計算モデルを示す図である。
【図5】計算モデル上での布の伸びを説明する図である。
【図6】曲げ回復力の説明図である。
【図7】曲げ回復特性の説明図である。
【図8】曲げ特性のタイプの説明図である。
【図9】曲げ特性の履歴補間方法の説明図である。
【図10】本発明のドレープ性シミュレーション装置の概略構成図である。
【図11】本発明のドレープ性シミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【図12】計算モデルの初期形状と格子の説明図である。
【図13】曲げ異方性の計算結果を示す図であり、(a)は綿の場合、(b)はポリエステルの場合、(c)は羊毛の場合を示す。
【図14】曲げ特性の履歴の計算結果を示す図であり、(a)は綿の場合、(b)はポリエステルの場合、(c)は羊毛の場合を示す。
【図15】自由落下開始から1.0秒後のドレープ形状のシミュレーション結果と実験結果とをディスプレイ上に表示した中間調画像を表す写真であり、上段が実験結果、下段がシミュレーション結果である。(a)は綿の場合、(b)はポリエステルの場合、(c)は羊毛の場合である。
【符号の説明】
10 計算モデルの格子
21 入力装置
22 表示装置
23 記憶装置
24 演算装置
50 ドレープ性シミュレーション装置
100 操作手段
200 計算モデル構成手段
300 演算手段
400 表示手段
500 データ記憶手段
Claims (4)
- 布に対して力が加わった場合における該布の形状を、該布の表面に沿った横糸の方向にM分割するとともに縦糸の方向にN分割して得られるM×N個の格子状の微小要素を有する前記布の計算モデルに基づいて、該布のドレープ性をシュミレーションするドレープ性シミュレーション装置であって、
あらかじめ与えられた第1の時刻での前記各微小要素を代表する第1の格子点の位置に基づいて、ベクトル量で表される力が加えられた場合における該第1の時刻から微小時間経過後の第2の時刻での前記各第1の格子点の位置をそれぞれ計算する計算手段と、
該第1の時刻における前記各第1の格子点の位置と前記各第1の格子点にてそれぞれ代表される前記各微小要素にそれぞれ隣接する第2の微小要素を代表する第2の格子点の位置との間の距離である第1の距離と、該第2の時刻における前記各第1の格子点の位置と前記各第2の格子点の位置との間の距離である第2の距離との差の絶対値をそれぞれ求めて、求められた各絶対値があらかじめ定めた微小距離以下であるか否かを判定する判定手段と、
該第2の距離と該第1の距離とがあらかじめ定めた微小距離以下になるまで該第2の時刻での前記各第1の格子点の位置を修正計算する修正計算手段とを備え、
該修正計算手段によって得られる前記各第1の格子点の位置に基づいて前記計算モデルの形状を求めて、前記布のドレープ性をシュミレーションすることを特徴とするドレープ性シミュレーション装置。 - 請求項1に記載のドレープ性シミュレーション装置によるシミュレーション方法であって、
前記計算手段が、あらかじめ与えられた第1の時刻での前記各第1の格子点の位置に基づいて、ベクトル量で表される力が加えられた場合における該第1の時刻から微小時間経過後の第2の時刻での前記各第1の格子点の位置を計算するステップと、
前記判定手段が、該第1の時刻における前記各第1の格子点と前記各第1の格子点にそれぞれ隣接する第2の格子点との間の距離である第1の距離と、該第2の時刻における前記各第1の格子点と前記第2の格子点との間の距離である第2の距離との差の絶対値をそれぞれ求めて、求められた各絶対値があらかじめ定めた微小距離以下であるか否かを判定するステップと、
前記修正計算手段が、該第2の距離と該第1の距離とがあらかじめ定めた微小距離以下になるまで該第2の時刻での前記各第1の格子点の位置を修正計算するステップとを包含し、
前記修正計算手段によって得られる前記各第1の格子点の位置に基づいて前記計算モデルの形状を求めて、前記布のドレープ性をシュミレーションすることを特徴とするドレープ性シミュレーション方法。 - 前記第2の距離と前記第1の距離との差の絶対値があらかじめ定めた微小距離以下になるまで前記第2の時刻での前記第1の格子点の位置を修正するステップが、
該第2の距離と該第1の距離との差の標準偏差を求めるステップと、
該標準偏差があらかじめ定めた値以下になるまで該第2の時刻での前記各第1の格子点の位置を修正するステップと、
を包含する請求項2記載のドレープ性シミュレーション方法。 - 前記ベクトル量で表される力は、前記計算モデルに作用する外力と該計算モデルの曲げ回復力との合力である、請求項2記載のドレープ性シミュレーション方法。
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