JP3701118B2 - 無軸受回転機械 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転体を回転駆動する電動機作用と、回転体を磁気浮上制御する磁気軸受作用とを兼ね備えた無軸受回転機械に係り、特に回転子に電流路である二次導体を備えた誘導型回転子を用いた場合にも、安定した浮上制御が可能な無軸受回転機械に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、円筒型固定子内に円筒型回転子を組み込み、固定子に励磁巻線回路を配置して極数の異なる二種類の回転磁界を形成し、ここで回転子に回転力を与えると同時に、所定の半径方向位置に浮上保持する位置制御力を作用させる各種の無軸受回転機械が提案されている。
【0003】
これは、固定子に回転駆動用の巻線と位置制御用の巻線を備え、それぞれに三相交流電流を流すことにより、所定の関係の極数の異なる回転磁界を固定子と回転子の間の空隙に形成し、円筒型回転子に半径方向の磁気的吸引力を偏配するものである。
【0004】
係る無軸受回転機械において、固定子の巻線に電流を流すことによりm極の回転磁界とn極の回転磁界が生成される。以後、m極の回転磁界を駆動磁界、n極の回転磁界を位置制御磁界と呼ぶ。駆動磁界は通常の電動機のように回転子に回転駆動力を与えるために使用する。位置制御磁界は駆動磁界に重畳することにより、回転子に半径方向力を偏配することが可能となる。このため、回転子の半径方向浮上位置を磁気軸受と同様に自在に調整できる。m極とn極とは、
n=m±2
の関係を有することにより、上記浮上位置制御が可能となる。
【0005】
これにより、回転子を磁気的に吸引して、回転子に回転力を付与する電動機として機能すると共に、その浮上位置を制御して、固定子に対して非接触浮上支持が可能な磁気軸受として機能させることができる。このため、電動機の回転軸保持に従来必要とされていた磁気軸受を構成する電磁石ヨーク部分及び巻線が不要となり、回転機械の軸長を短縮して、軸振動からの高速回転の制限を少なくすることができる。また、回転機械を小型軽量化することができる。また、位置制御巻線の電流と駆動巻線の電流とにより生じる磁界分布の相乗的な作用により、磁気軸受に相当する動作を行えるので、従来の磁気軸受と比較してはるかに小さな電流で大きな制御力が生じ、大幅な省エネルギー化が可能である。
【0006】
固定子で生成される回転磁界により、回転子の二次導体に誘導電流を流して回転駆動力を付与する方式のひとつが誘導型回転子である。誘導型回転子にも種々の構造があるが、その代表的なものがかご型回転子である。これは回転子に低抵抗の金属導体棒(二次導体)を電流路として回転軸に平行に同心状に多数配置し、その両端において各金属導体棒を低抵抗の金属導体環(エンドリング)で接続することにより、回転子に電流路を設ける構造である。係る回転子においては、固定子巻線が形成する回転磁束を切ることにより、回転子の二次導体に誘導電圧が生じて誘導電流が流れる。固定子巻線により発生して二次導体に鎖交する磁束と、回転子の金属導体棒に流れる誘導電流の相互作用によりローレンツ力が発生して、誘導型回転子には回転駆動力が発生する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、無軸受回転機械においては、駆動磁界と位置制御磁界を固定子巻線電流(一次電流)により混在させて発生させるために、通常の誘導型回転子(かご型回転子)を用いた場合には、回転子電流路(二次導体)には双方の磁界によって誘導された電流が流れる。m極の回転磁界は回転子に回転駆動力を付与するために、原理上、誘導電流が流れなくては誘導電動機として機能しない。一方、n極の位置制御磁界による誘導電流が回転子電流路に流れた場合、固定子巻線が生成する磁界の他に、外乱として回転子電流が生成する磁界が発生するため、位置制御磁界は固定子の巻線電流が形成する磁界だけでは決まらず、安定な回転子の浮上制御ができなくなる。
【0008】
誘導型回転子を用いた場合には、回転子に付与される発生制御力は、固定子巻線電流分布によらず、固定子・回転子間の空隙に形成される制御磁束分布に依存する。したがって、直接的に空隙の磁束分布を検出し、回転子変位より演算される磁束分布指令値に、この検出値を追従させるように制御すれば、安定な浮上制御が達成される。
【0009】
磁束を検出する方法として、ホール素子や磁気抵抗素子等の半導体素子を用いる方法があるので、この半導体素子の複数を、回転子・固定子間の空隙に配置する、或いは固定子磁性材に埋め込むことにより、磁束分布を検出し制御に利用することが可能となる。しかしながら、このような半導体部品を使用した場合には、
(1)磁束測定部位の温度条件が検出素子の正常動作範囲外では、正確な磁束検出が不可能となる。また極度の温度環境においては、最悪素子の破壊につながる、
(2)検出素子を設置する空間を確保するために、固定子磁性材を切削加工しなくてはならない。この加工のため、磁束分布が本来の状態から変化し、正確な測定が不可能となる、
(3)固定子微小空間中に、検出素子用電気配線を施す必要があり、信頼性、機械的強度の観点より実用にそぐわない、
等の問題を有し、現実的ではない。
【0010】
回転子・固定子間の空隙の磁束分布を検出する方法として、上述の他に、固定子内の磁束経路に存在する巻線の端子電圧を測定、演算して磁束量を取り出す手法がある。これは、ファラデーの電磁誘導の原理により、巻線鎖交磁束変化量(微分量)と、その端子電圧が比例関係にあることを用いている。検出に利用する巻線のターン数をn、巻線鎖交磁束量をΦ、巻線面積をSで表すとき、巻線端子電圧VSCは、
【数1】
であり、これに磁束密度B=Φ/Sを代入し、s=d/dtを用いると
VSC=s・nSB
の関係を得る。このBからVSCへの伝達関数を以下GSCで表記する。
【0011】
検出される磁束密度信号をVOutで表すとき、VOutがBに比例する関係を得るためには、
【数2】
の演算が必要になる。上式の積分演算は、極低周波数では大きなゲインが必要であることを意味し、実現不可能である。実際的な解決方法として、カットオフ周波数fC,DC利得Aのローパスフィルタ(LPF)を不完全積分器として利用し、上式に近い動作をさせる。この不完全積分の伝達関数Gintは、
【数3】
であるから、検出磁束密度信号VOutと実際の磁束密度Bの伝達特性は、
【数4】
となる。これより巻線端子電圧を利用した磁束検出方法において、検出特性は利得2πfCnSA、カットオフ周波数fCのハイパスフィルタ(HPF)であることがわかる。これは長周期で変動する磁束の検出が不可能であることを意味する。
【0012】
検出可能な周波数領域下限を広げるには、上述したローパスフィルタ(LPF)のカットオフ周波数fcを小さくする必要があるが、
(1)アナログ回路によりローパスフィルタ(LPF)を作製した場合、
fcの低下に伴い、回路素子の時定数が増大し、回路が異常な動作をする。
(2)デジタル演算器によりローパスフィルタ(LPF)を実現した場合、
被検出磁束の変動が長周期であると、VSCの振幅が非常に小さい。この値をデジタル変換すると、量子化誤差が大きくなり、正確な演算は期待できない。
【0013】
このため、従来の手法では、磁束の低周波数変動を検出できず、低周波数領域での制御が困難であった。
【0014】
本発明は上述の事情に鑑みて為されたもので、構造が簡単で製作が容易なかご型回転子を用いた誘導機等においても、特に制御が難しい低周波数領域においても、安定した浮上位置制御が行える無軸受回転機械を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の無軸受回転機械は、固定子巻線にm極巻線電流を供給すると共にn極(但し、n=m±2)巻線電流を供給し、前記m極巻線電流により駆動磁界分布を形成すると共に、n極巻線電流により位置制御磁界分布を形成し、回転子に回転力を与えると同時に、該回転子の変位検出手段によって検出した該回転子の変位から前記n極の位置制御磁界分布を電力素子のオン・オフによりn極巻線電流を調整して該回転子を浮上位置指令値に従って磁気浮上する無軸受回転機械において、固定子歯部のそれぞれに配置された各巻線と、その端子電圧を積分演算する積分器とを備えた前記各巻線の磁束密度の検出手段と、該検出手段により検出された磁束密度分布から、m極磁束分布ベクトルおよびn極磁束分布ベクトルの検出値を演算する演算器と、周波数特性を低周波数領域まで検出できるように、前記演算器出力を入力、補正された検出値を出力とする伝達関数
G(s)=(s+2πfc)/(s+2πfc')
fc :補正前の磁束分布検出可能な周波数の下限
fc':補正後の磁束分布検出可能な周波数の下限
にて、検出値を補正する演算器と、発生制御力の指令値に基づいて位置制御磁束分布指令値を演算する演算器と、前記n極磁束分布ベクトルの補正された検出値と前記位置制御磁束分布指令値との偏差を減算出力する比較器とを備え、前記偏差がゼロとなるように前記電力素子のオン・オフにより前記n極巻線電流を調整し、検出したn極磁束分布ベクトルの補正値が、前記位置制御磁束分布指令値に追従するように制御することを特徴とする。
【0016】
上述した本発明によれば、巻線の端子電圧に生じる逆起電圧を積分することで、空隙中の実際の磁束分布を検出することができる。この検出された空隙の磁束分布は、回転子の誘導電流により変形されているので、本来の磁束分布となるように固定子巻線の電流分布を補正することにより、回転子の浮上位置制御に適正な磁束分布に追従することが可能となる。これにより、かご型等の回転子を使用しても、適正な回転子の浮上保持のための磁束分布を形成できるので、回転駆動と共に安定な浮上位置制御が可能となる。
【0017】
しかしながら、この積分演算は極低周波数では大きなゲインが必要であることを意味し、実現不可能であるので、カットオフ周波数fCのローパスフィルタ(LPF)を不完全積分器として利用している。このため、上述したように磁束の低周波数変動を検出できないという問題がある。このために、アナログ回路によるローパスフィルタ(LPF)をデジタル演算器で補正する手段を用いる。即ち、先のカットオフ周波数fCのローパスフィルタ(LPF)をアナログ回路で構成し、その出力Voutをデジタル演算器に入力する、デジタル演算器の伝達特性をGcomp(s)、出力をVout´で以下表記する。この構成の目的は、前出の磁束検出特性の式
【数5】
のfCを実質的に小さくするとことにある。
【0018】
デジタル演算器を用いた補正により、磁束検出特性
【数6】
を得るためには、Gcomp(s)は
【数7】
であればよい。これをデジタル演算器によって計算する。これによってfCをfC'低減することができ、低周波数範囲の制御領域を拡大することができる。
【0019】
尚、アナログ回路でGcomp(s)を実現した場合には、回路中電子部品の時定数が大きくなり、問題解決には至らない。
【0020】
また、前記伝達関数G(s)をデジタル演算機を用いて演算処理する。これにより、
G(s)=(s+2πfC)/(s+2πfC')
の演算が可能となり、低周波数領域の制御範囲を拡大できる。
【0021】
また、固定子・回転子間の空隙の磁束密度を検出する固定子に巻回された巻線として、サーチコイル(探り巻線)を使用することが好ましい。また、固定子・回転子間の空隙の磁束密度を検出する固定子に巻回された巻線として、回転子・固定子間の空隙に磁界を発生するための巻線そのものを使用するようにしてもよい。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態の説明の前提となる、従来用いられている一般的な無軸受回転機械の制御系の構成を示す図である。
回転子Rは固定子Sに設けられた2極駆動巻線が形成する2極回転磁界により回転駆動され、4極位置制御巻線が形成する4極回転磁界を重畳することにより、浮上位置が制御される。回転子Rの周囲には、回転子Rの回転速度を検出する回転速度検出器10と、回転子Rのx方向浮上位置及びy方向浮上位置を検出するギャップセンサ11x,11yがそれぞれ配置されている。
【0023】
速度制御系(2極回転磁界)は、速度指令値ω*が予め与えられ、これが回転速度検出器10で検出された実際の回転速度ωmと比較器20で比較される。そして、この偏差がPI(D)コントローラ21に入力され、その偏差がゼロとなるようにトルク分電流It*が出力される。一方で、励磁電流に相当する励磁分電流Io*が予め与えられる。そして、回転座標−固定座標変換演算器22により、入力された回転座標系の電流It*,Io*から、固定座標系の二相電流Ia*,Ib*が、回転角ωtについて図中に示す行列演算で求められる。
【0024】
そして、この固定座標系の二相電流Ia*,Ib*を二相三相変換回路23で三相電流Iu2 *,Iv2 *,Iw2 *に変換し、電力増幅器24で所定の電流値に電力増幅して、固定子Sの2極巻線に供給する。これにより回転子Rを速度指令値ω*で回転駆動する2極の回転磁界が形成される。
【0025】
一方で、位置制御系(4極回転磁界)の制御は、概略、次の通りである。
まず、ギャップセンサ11x,11yにより回転子Rの浮上位置を検出して、予め設定された浮上位置指令値x*,y*と、比較器25で比較する。そして、それぞれの偏差Δx,ΔyがそれぞれPI(D)コントローラ26に入力され、偏差をゼロとするための位置制御力指令値Fx*,Fy*が算出される。そして制御器27において、位置制御力指令値Fx*,Fy*から、回転角ωtについて図中に示す行列演算で回転座標系から固定座標系に変換した二相の制御電流指令値Iα*,Iβ*を出力する。そして、二相三相変換回路28で、三相の電流指令値Iu4 *,Iv4 *,Iw4 *に変換して、電力増幅器により4極の固定子巻線に所定の電流を供給する。固定子・回転子間の空隙中には4極浮上位置制御磁界が形成され、2極回転駆動磁界と重畳され、これにより回転子Rの浮上位置が制御される。
【0026】
しかしながら、制御器27で演算して得られる二相電流指令値Iα*,Iβ*は、回転子の電流路に流れる誘導電流(二次電流)を考慮せずに決定される。このため、かご型回転子等により回転子に誘導電流が流れると、磁束センサが検出した浮上位置に基づく二相電流指令値Iα*,Iβ*による磁束分布と、実際の固定子・回転子間の空隙中の磁束分布に差異が生じてしまう。この回転子電流路に生じる誘導電流により、浮上位置制御磁界分布が変形して、正常の浮上位置制御力を作用させられなくなることは上述した通りである。
【0027】
図2は、サーチコイルを付加した固定子の回転軸垂直断面を示す図である。上述したように磁束の検出に半導体センサを用いると種々の問題がある。このため、本実施の形態においては、図2に示すようにサーチコイルを配置して、この出力を積分することにより、磁束分布を求めるようにしている。固定子側には、24個のスロット(SL1〜SL24)を有し、その外側には図中、大きな丸印で示す4極巻線が、その内側には図中、小さな丸印で示す2極巻線が配置されている。
この2極巻線は、2極の駆動磁界を形成するための巻線であり、4極巻線は、4極の位置制御磁界を形成するための巻線である。固定子のスロット間の歯部には円周方向に等間隔に12個のサーチコイル(Sc1〜Sc12)が巻回されている。
【0028】
図3は、サーチコイル出力を積分する方式の無軸受回転機械の制御系の構成図である。尚、2極駆動巻線電流を制御する速度制御系は図1と全く同じなので省略している。位置制御系のみに着目した場合、図1の構成では、4極電流指令値Iu4 *,Iv4 *,Iw4 *を計算し、その指令値どおりに巻線に電流を通電することを目的としている。一方、本発明の一実施形態の図3の構成では、4極磁束分布指令値Bα*,Bβ*を演算し、その指令値どおりに磁束分布を形成するように回路構成されている。
【0029】
即ち、図2に示すように、電動機の回転子・固定子間空隙の磁束分布を測定するために、固定子歯部にサーチコイル(Sc1〜Sc12)が設けられている。また、その端子電圧を磁束密度に変換するアナログ回路による積分器31、演算した磁束密度より、2極磁束分布ベクトル、4極磁束分布ベクトルを得るための2極磁束分布演算器32、4極磁束分布演算器33等を有している。さらに位置制御磁束分布の指令値Bα*,Bβ*を、2極磁束分布演算器32の検出値Ba,Bbと、発生制御力の指令値Fx*,Fy*より磁束分布指令値Bα*,Bβ*を得るための位置制御磁束分布指令値演算器34を有している。更に、算出した4極磁束分布検出値Bα,Bβと4極巻線電流の低周波成分とを加算する演算器35とを備えている。
【0030】
サーチコイル(Sc1〜Sc12)の各々の端子電圧を積分器31によって積分処理することにより、サーチコイル(Sc1〜Sc12)が巻回された固定子歯部の磁束密度を得ることができる。便宜上、各サーチコイルの各部で得られる磁束密度をB1,B2,・・・,B12で表す。
【0031】
2極磁束密度分布ベクトル検出値(Ba,Bb)は検出された磁束密度B1〜B12を用いて、式(8)を用いて2極磁束分布演算器32により演算で求められる。
【数8】
【0032】
また、4極磁束密度分布ベクトル検出値(Bα,Bβ)は、同様に検出された磁束密度B1〜B12を用いて、4極磁束分布演算器33により式(9)を用いて演算で求められる。
【数9】
【0033】
得られた2極磁束密度分布ベクトル検出値(Ba,Bb)は、図3で示されるように力の指令値Fx*,Fy*と共に演算器34にて4極磁束分布の指令値(Bα*,Bβ*)の演算に用いられる。
4極磁束密度分布ベクトル検出値(Bα,Bβ)は、演算した指令値(Bα*,Bβ*)から比較器35により減算され、偏差(ΔBα,ΔBβ)を得る。
得られた2極磁束分布ベクトル検出値(Ba,Bb)は、制御力の指令値Fx*,Fy*と共に演算器34にて4極磁束分布の指令値(Bα*,Bβ*)の演算に用いられる。4極磁束分布ベクトル検出値(Bα,Bβ)は、演算した指令値(Bα*,Bβ*)か比較器35により減算され、偏差(ΔBα,ΔBβ)を得る。
【0034】
このようにして得た4極磁束分布の指令値と検出値の偏差信号(ΔBα,ΔBβ)を固定子の三相巻線に適合するように二相三相変換器39により相変換して、磁束密度分布の指令値ΔBu4 *,ΔBv4 *,ΔBw4 *を得る。この信号をヒステリシスコンパレータ40で符号判別し、三相インバータ42の各電力素子のオン−オフ制御信号とする。即ち、ΔBα,ΔBβがその符号が+であれば、インバータの供給電流は符号が−となる、つまり電流を減らす方向に作用させ、偏差がゼロとなるように調整する。これにより、固定子・回転子間空隙の磁束密度分布はその指令に遅滞なく追従し、結果として期待したとおりの位置制御磁束分布が生成可能となる。
【0035】
サーチコイルを用いた磁束検出方法は、不完全積分回路を使用するため、被検出磁束の直流分を検出できない。このため本実施形態においては、それに代わる量として4極巻線電流Iu4,Iv4,Iw4の低周波数成分を分別して帰還させる。
すなわち、4極巻線電流Iu4,Iv4,Iw4をCTで検出して、これを三相二相変換器で相変換し、ローパスフィルタ(LPF)で処理してから帰還させる。これにより、磁束検出感度の低い低周波成分を補うことができ、所要の磁束分布を回転子・固定子間の空隙に形成できる。
【0036】
しかしながら、上述の方法では、低周波数の磁束変動を捕捉できないため、制御不可能な領域を有することになる。例えば、回転駆動磁界が低速度で回転した場合には、サーチコイル各部の磁束変動が緩慢であるため、この状態の磁束分布を検出できなくなる。これは、回転子の回転速度が低速度では満足な浮上状態が達成不可能であることを意味する。以上の説明から明らかなように、磁束分布の検出可能な領域の下限を広げることが必須である。
【0037】
図4は、この点を解決した、本発明の一実施形態の無軸受回転機械の制御構成を示す図である。尚、2極駆動巻線電流を制御する速度制御系は図1とまったく同じなので省略している。位置制御系のみに着目した場合、図3に示す制御系と、図4に示す制御系との構成の差異は
(1)サーチコイル出力電圧はアナログ回路で構築した積分器に入力する、
(2)検出磁束分布演算結果をデジタル演算器43に取り込み、検出領域を広げる演算を行う、
点である。
【0038】
ローパスフィルタ(LPF)の構成で使用されるアナログ積分器31のカットオフ周波数fCのとき、デジタル演算器43での演算は、sパラメータを用いて表すと、
G(s)=(s+2πfC)/(s+2πfC')
なる伝達関数を実現している。ここで、fCはデジタル演算器なしでの検出周波数領域下限、fC'はデジタル演算器による補正を行ったときの検出周波数領域下限である。
【0039】
磁束分布の検出周波数領域は、従来ではこのカットオフ周波数fCに束縛されていた。これに対し本発明では、アナログ積分器31とデジタル演算器43の併用により、磁束分布の検出周波数下限をfC'に引き下げることが可能となる。アナログ積分器31の後段にデジタル演算器 (積分器)43を配置するのは次の理由による。
【0040】
(1)サーチコイル(Sc1〜Sc12)の端子電圧は、インバータ(電力増幅器)のスイッチング周波数成分が主であり、この周波数成分はデジタル演算器43のサンプリング周波数に比べ非常に高い。そのため、サーチコイル端子電圧を、直接デジタル演算器43に取り込んでも、正確な磁束演算は不可能である。アナログ積分器はローパスフィルタ(LPF)の構成なので、スイッチング周波数成分の電圧変動を除去する効果を持つ。これにより、アナログ積分器31の出力をデジタル演算器43の入力とすることで、インバータノイズの問題は消失する。
(2)デジタル演算器43が扱う信号の分解能は、A/D変換部、D/A変換部におけるビット数に依存する。このため、入力信号、あるいは出力信号の電圧レベルが極端に小さい場合は、量子化誤差が大きくなり正確な演算が不可能となる。デジタル演算器だけで積分器を構成すると、この問題により、検出可能な周波数領域が極端に狭くなる。サーチコイルの端子電圧をアナログ積分器31で最初に処理することにより、デジタル演算器43での量子化誤差が生じにくい電圧レベルになる。
(3)一般に、アナログ回路はデジタル演算器に比べ廉価である。無軸受回転機械の動作中、何らかの不具合が生じ、サーチコイル(Sc1〜Sc12)の端子電圧が通常あり得ない電圧を出力したとき、破壊されるのは安価なアナログ回路だけで済む。これにより、非常時の被害を最小限にとどめることができる。
【0041】
又、磁束密度信号(B1〜B12)を磁束分布信号Ba,Bb,Bα,Bβに変換後に、デジタル演算器43で信号処理するのは、演算処理の軽減を目的としている。即ち、図4の制御回路の構成ではデジタル演算器43は4系統用意すればよいが、磁束密度信号(B1〜B12)をデジタル演算器で補正する場合には、12系統のデジタル演算器を用意しなくてはならない。
【0042】
以上の説明から明らかなように、本発明はサーチコイルを利用した磁束分布検出方法における検出周波数範囲の拡大を実現した。これにより、従来不可能とされていた、長周期で変動する磁束分布の検出、制御を可能にした。この結果、無軸受回転機械の安定浮上可能な運転動作領域を、格段に広げることが可能となった。
【0043】
以上の説明は、便宜上、サーチコイルによる磁束検出方法を用いたが、固定子に巻回された駆動用巻線、及び位置制御用巻線による磁束検出方法にも同様に適用できる。又、上記図2に示す巻線の構成では、駆動磁界分布を形成する駆動巻線と、位置制御磁界分布を形成する位置制御巻線とに分割されたものを用いたが、所望の磁界分布を形成できる巻線であればいかなる形態でもかまわない。
【0044】
又、固定子に巻回されている巻線は三相中点結線の巻線を前提としているが、上述の磁束分布を生成できれば、その巻線分布は問題とならない。又m極の回転駆動磁界とn極の位置制御磁界が
m=n±2
の関係を有していればいかなる極数でも適用可能である。
【0045】
【発明の効果】
以上に説明したように本発明によれば、無軸受回転機械の目的である磁気浮上と回転駆動の両目的を、通常の広く普及している誘導電動機等の本来の位置制御磁束分布を変形させる回転子を用いて達成可能にした。これにより、複雑な電流路構造を有する回転子を用いる必要がなくなり、安価で堅牢な例えば一般的に用いられているかご型回転子を無軸受回転機械の回転子として使用でき、且つ、低周波数領域にも動作範囲を拡大できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】無軸受回転機械の制御系の一般的な構成を示すブロック図である。
【図2】無軸受回転機械の固定子巻線構造とサーチコイルの配置を示す説明図である。
【図3】サーチコイル出力を積分する方式の無軸受回転機械のブロック図である。
【図4】本発明の実施形態の無軸受回転機械の制御系の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
31 積分器
32 2極磁束分布演算器
33 4極磁束分布演算器
34 位置制御磁束分布指令値演算器
35 比較器
39 二相三相変換器
40 符号判定器
42 インバータ(電力増幅器)
43 デジタル演算器
R 回転子
S 固定子
Claims (4)
- 固定子巻線にm極巻線電流を供給すると共にn極(但し、n=m±2)巻線電流を供給し、前記m極巻線電流により駆動磁界分布を形成すると共に、n極巻線電流により位置制御磁界分布を形成し、回転子に回転力を与えると同時に、該回転子の変位検出手段によって検出した該回転子の変位から前記n極の位置制御磁界分布を電力素子のオン・オフによりn極巻線電流を調整して該回転子を浮上位置指令値に従って磁気浮上する無軸受回転機械において、
固定子歯部のそれぞれに配置された各巻線と、その端子電圧を積分演算する積分器とを備えた前記各巻線の磁束密度の検出手段と、
該検出手段により検出された磁束密度分布から、m極磁束分布ベクトルおよびn極磁束分布ベクトルの検出値を演算する演算器と、
周波数特性を低周波数領域まで検出できるように、前記演算器出力を入力、補正された検出値を出力とする伝達関数
G(s)=(s+2πfc)/(s+2πfc')
fc :補正前の磁束分布検出可能な周波数の下限
fc':補正後の磁束分布検出可能な周波数の下限
にて、検出値を補正する演算器と、
発生制御力の指令値に基づいて位置制御磁束分布指令値を演算する演算器と、
前記n極磁束分布ベクトルの補正された検出値と前記位置制御磁束分布指令値との偏差を減算出力する比較器とを備え、
前記偏差がゼロとなるように前記電力素子のオン・オフにより前記n極巻線電流を調整し、検出したn極磁束分布ベクトルの補正値が、前記位置制御磁束分布指令値に追従するように制御することを特徴とした無軸受回転機械。 - 前記伝達関数G(s)にて、検出値を補正する演算器は、デジタル演算器であることを特徴とした請求項1に記載の無軸受回転機械。
- 前記固定子歯部のそれぞれに配置された各巻線は、サーチコイル(探り巻線)であることを特徴とした請求項1に記載の無軸受回転機械。
- 前記固定子歯部のそれぞれに配置された各巻線として、前記回転子・前記固定子間の空隙に磁界を発生するための巻線を使用することを特徴とした請求項1に記載の無軸受回転機械。
Priority Applications (5)
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JP09697298A JP3701118B2 (ja) | 1998-03-26 | 1998-03-26 | 無軸受回転機械 |
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EP98122180A EP0920109B1 (en) | 1997-11-26 | 1998-11-26 | Bearingless rotary machine |
CN98125140A CN1218150A (zh) | 1997-11-26 | 1998-11-26 | 无轴承旋转机械 |
Applications Claiming Priority (1)
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Families Citing this family (2)
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CN111473049B (zh) * | 2020-04-17 | 2021-08-20 | 河海大学 | 一种实心定子磁悬浮励磁电流的控制方法 |
-
1998
- 1998-03-26 JP JP09697298A patent/JP3701118B2/ja not_active Expired - Lifetime
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