JP3768854B2 - プラズマジェット発生装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、プラズマジェット発生装置に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、高密度プラズマを細いノズルからジェット状に噴出させ、被加工物の材料を選ばず、被加工物の局所部位に溶断、エッチング、薄膜堆積などの加工、表面処理を高速で行うプラズマジェット発生装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
従来より、プラズマジェットは、被加工物に溶断、エッチング、薄膜堆積等の加工および表面処理を行うのに有用とされており、また有害物質の高温処理等他の様々な分野で利用されている。
【0003】
このようなプラズマジェットに関し、現在、直径2mm以下の精細プラズマジェットを発生させるには、直流アーク放電を用いる方法がよく知られている。しかしながら、直流アーク放電を用いる方法は、電極が劣化しやすいこと、反応性ガスの使用ができないこと、基板が導体に限定されることなどの様々な問題を有している。また、その他のプラズマ発生装置として知られている、無電極方式の高周波誘導結合式熱プラズマ発生装置に関しては、口径が大きく、大電力の入力が必要になることが知られており、大電力を入力する結果として生成する多量の熱の制御が困難であるため、微小面積にプラズマを照射できるものはこれまで存在していなかった。
【0004】
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、高密度プラズマを細いノズルからジェット状に噴出させ、被加工物の局所部位に溶断、エッチング、薄膜堆積などの加工、表面処理を高速で行うことのできる、新しいプラズマジェット発生装置を提供することを課題としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、まず第1には、放電管と、放電管の長さ方向の一部の周囲に巻回配置されたソレノイドアンテナと、該ソレノイドアンテナにプラズマを発生させるための電力を供給する電源を備えた高周波誘導結合式のプラズマジェット発生装置であって、放電管のプラズマ出力側の端部に放電管よりも内径の小さいノズルを有し、放電管の内径が5mm以下で放電が可能な大きさであり、且つ前記電源として30〜300MHzのVHF帯の高周波電源を用いて駆動されることを特徴とする無電極方式のプラズマジェット発生装置を提供する。
【0006】
第2には、第1の発明のプラズマジェット発生装置において、放電管の内径の下限が1.0mmであることを特徴とするプラズマジェット発生装置を提供する。
【0007】
第3には、第1または第2の発明のプラズマジェット発生装置において、ノズルの内径が2mm以下であることを特徴とし、第4には、第1ないし第3のいずれかの発明のプラズマジェット発生装置において、ノズルの内径の下限が0.4mmであることを特徴とするプラズマジェット発生装置を提供する。
【0008】
さらに、第5には、第1ないし第4のいずれかの発明のプラズマジェット発生装置において、放電管が石英管から成ることを特徴とするプラズマジェット発生装置を提供する。
【0009】
また、第6には、第1ないし第5のいずれかの発明のプラズマジェット発生装置において、ノズルがセラミックスから成ることをも特徴とするプラズマジェット発生装置を提供する。
【0010】
また、第7には、第1ないし第6のいずれかの発明のプラズマジェット発生装置において、プラズマジェットと反応性ガスを被加工物の局所部位に照射し、エッチング、膜堆積などの加工、表面処理を行うようになしたことを特徴とするプラズマジェット発生装置を提供する。
【0011】
第8には、第1ないし第6のいずれかの発明のプラズマジェット発生装置において、大気圧で動作させるようになしたことを特徴とするプラズマジェット発生装置を提供する。
【0012】
さらに第9には、第1ないし第6のいずれかの発明のプラズマジェット発生装置において、放電開始時にアンテナ付近に高電界を印加するための補助高圧電源を有することを特徴とするプラズマジェット発生装置を提供する。
【0013】
【発明の実施の形態】
この出願の発明のプラズマジェット発生装置は、放電管と、放電管付近に配置されたアンテナおよびその電源から構成される高周波誘導結合式のプラズマ発生装置であって、放電管の一端に放電管よりも内径の小さいノズルを有し、放電管の内径を5mm以下として小型化し、またノズルの内径を2mm以下とすることから、生成するプラズマの体積を小さくしてプラズマ生成に必要な電力を低減することができる。尚、ノズルの内径dと放電管内径Dの比d/Dは1〜1/100の範囲とする。
【0014】
上記のように狭い放電管でのプラズマ生成では放電管壁での電子の損失が問題となるため、交番電界中での電子の捕捉効率を高めるために最適な周波数領域であるVHF帯(30−300MHz)の高周波をアンテナに印加することで低電力でのプラズマ生成が可能となる。このとき、アンテナとしてソレノイドアンテナを用いることができる。
【0015】
この結果、発生する総熱量は抑えられ、高密度プラズマを細いノズルの先端からジェット状に噴出させることのできる無電極方式の高周波誘導結合式のプラズマジェット発生装置が実現できる。
【0016】
また、この発明のプラズマジェット発生装置においては、放電管を石英管から成るものとし、放電管よりも内径の小さいノズルを、石英と比べて熱に強いアルミナや窒化ケイ素等のセラミックスから成るものとすることでノズルを長時間使用することができる。
【0017】
尚、ノズルの先端と放電管中心部の距離は短い方がエネルギー損失は抑えられるが、距離が長い場合(15cm程度)であっても動作させることは可能である。
【0018】
さらにまた、この発明のプラズマジェット発生装置は、プラズマジェットと反応性ガスを被加工物の局所部位に照射し、エッチング、膜堆積などの加工、表面処理を行うことができる。つまり、反応性ガスが使用可能なため反応性ガスの作用により被加工物に対する加工において、加工精度を高めることができ、また加工速度を増大させることができるなど様々な効果を得ることができる。
【0019】
さらにこの発明のプラズマジェット発生装置は大気圧で動作させることが可能なため真空排気装置が無くとも動作させることができる。
【0020】
また、このプラズマジェット発生装置に、放電開始時にアンテナ付近に高電界を印加するのための補助高圧電源を加えることも可能である。補助高圧電源として、たとえば市販のテスラコイルと言われる一種の高圧パルス電源をアンテナ付近で動作させてアンテナ付近にパルス放電電流を流すことによって放電のトリガーとすることができる。
【0021】
以下、添付した図面に沿って実施例を示し、この出願の発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0022】
【実施例】
<実施例1>
まず、図1のような小型化した高周波誘導結合式のプラズマジェット発生装置(1)を試作した。外径3mm、内径1.5mmの石英管から成る放電管(2)に、冷却水(3)を内部に通すことで水冷可能な外径2.5mmの銅管を3巻きし、ソレノイドアンテナ(4)とした。放電管(2)の一端よりアルゴンガス(5)を導入し、放電管(2)の他端に配置されたノズル(6)を介して大気圧に開放し、VHF電源(9)から100MHzのVHF帯の高周波を、マッチング回路(7)を介してソレノイドアンテナ(4)に印加するとフレーム状に伸びたプラズマジェット(8)を生成することができた。
【0023】
次に放電管(2)とノズル(6)の長さおよび形状がプラズマジェット(8)に及ぼす影響を調べるため、発光分光法を用いて電子密度、励起温度を測定した。
【0024】
VHF電源(9)の電力が5−500Wの範囲であり、且つアルゴンガス(5)の流量が0.2−15リットル/分の範囲のとき、アルゴンプラズマジェット(8)を生成することができ、電力とガス流量を増加させると、プラズマジェット長は最大15mmまで伸びた。
【0025】
VHF電源(9)の電力を200Wで一定とし、ガス流量を変化させて電子密度の空間分布を測定した。その結果を図2に示す。
【0026】
図2のグラフに示しているように、ソレノイドアンテナ(4)直下(X=7mm)では、ガス流量6−10リットル/分で電子密度は1015cm-3以上となった。ガス流量を増加させると壁への熱伝導が抑制され高密度になること、またソレノイドアンテナ(4)直下の高密度部が下流域に広がることが確認された。X=25mmのジェット部分の電子密度はソレノイドアンテナ(4)直下(X=7mm)の約半分になる。以降のプラズマ計測は特に断らなければX=25mmの位置で行った。
【0027】
次にプラズマジェット(8)の径を絞るためのピンチノズルの効果について検討した。図3におけるグラフは、図3の挿し絵に示す(A)ノズルなしと、(B)ノズル有りの場合のガス流量による電子密度の変化を示す。どちらの場合もガス流量が増加すると電子密度が上昇する傾向にあり、ノズル(6)を内径0.2mmに絞った場合はさらに流速が増すため、電子密度は急激に増加した。流速の効果以外に、ノズル有りの場合、ノズル(6)の部分ではプラズマの体積が小さくなるため、エネルギー密度が増大するので電子密度が上昇するとも考えられる。さらに電子密度の電力依存を調べたところ、図4に示しているように、ガス流量を2リットル/分で一定にすると、(B)ノズル有りの場合は(A)ノズルなしの場合に比べ電子密度が約2倍になり、約300Wでは、1015cm-3程度の高密度が得られた。
【0028】
また励起温度の電力依存を調べたところ、図5に示しているように、(B)ノズル有りの場合が(A)ノズルなしの場合に比べて高く、5000−6000Kになった。この値は、サハの式から予測されるアルゴンプラズマの電子密度と温度の関係に矛盾しない。
【0029】
長時間の装置稼動の際には石英管を細くひきのばして加工したノズルは熱により軟化しやすいため、ノズルはアルミナや窒化珪素などのセラミックスを用いる方が実用的である。実際に、長さ20mm、内径0.4mmφのセラミックノズルを使用することで、高密度、高安定プラズマジェットを長時間生成することが可能になった。
【0030】
本装置を高精密プラズマ溶断に適用した例の写真を図6に示す。図6(A)に示すように厚さ30μmのステンレススチール薄板(10)に電力50Wで5秒間アルゴンプラズマジェット(8)を照射し、図6(B)に示すように開口径0.4mmφの円形穴(11)を加工できた。また、プラズマジェット(8)下で被加工物であるステンレススチール薄板(10)を水平方向に移動させることで、ステンレススチール薄板(10)を切断することができた。
<実施例2>
反応性ガス雰囲気中でプラズマジェットを被加工物に照射するために試作した実験装置を図7に示す。プラズマジェット発生装置(1)はVHF電力供給のための3巻きソレノイドアンテナ(4)と外径3.0mm、内径1.0mmの石英管から成る放電管(2)とその末端に配置された内径0.4mmのセラミックス製ノズル(6)から構成され、プラズマジェット発生装置(1)の真下に備え付けられたSUS製容器(12)内に精細なプラズマジェット(8)を噴出する。プラズマジェット(8)直下の基板ステージ(13)は水平面内可動となっている。容器(12)内は大気圧であり、真空排気装置が無くとも動作できることは実用上大きな利点である。
【0031】
VHF電源(9)の電力250W、 放電管へのアルゴンガス(5)流量9リットル/分で精細プラズマジェット(8)を発生させ、シリコン基板(14)上に3分間照射した。微量のSF62cc/分の添加の有無による加工形状の違いを、レーザー顕微鏡を用いて観察した結果を図8に示す。
【0032】
図8(A)に示しているようにアルゴンガスのみでは蒸発により物理的エッチングが起こるため加工面の荒れが激しく、加工深さは10μm以下であった。一方、図8(B)に示しているようにSF6添加では化学的エッチングの効果により加工面は平滑で、プラズマジェット(8)の径にほぼ等しい0.5mmの径で等方的に深さ30μmの凹型形状が得られた。シリコンのエッチング速度はSF6の添加量とともに増大した。さらにシリコン基板(14)に13.56MHzの基板バイアスを印加し、プラズマ中のイオンをシリコン基板(14)上に加速して照射するとエッチング速度が増大し、1分間で1mm以上の加工深さが得られた。
【0033】
SF6のようなエッチング反応をもたらすガスの変わりにメタンガスのような薄膜堆積の原料となるガスを導入すると、プラズマジェット(8)がシリコン基板(14)に照射される局所面積にのみ薄膜堆積が起こった。また、エッチングや薄膜堆積を行いながら、シリコン基板(14)をプラズマジェット(8)下で移動させることにより、2次元あるいは3次元の任意形状を直接シリコン基板(14)上に加工することができた。
【0034】
図7に示す実験装置に補助高圧電源を加えた実験装置を図9に示す。図9では、高圧パルス電源(16)をソレノイドアンテナ(4)付近で動作させてソレノイドアンテナ(4)付近にパルス放電電流を流すことによって放電のトリガーとしている。尚、図9は基板ステージ(13)にプラズマ中のイオンを加速して照射するための高周波電源(15)およびマッチング回路(7)が備えられた図となっている。
【0035】
【発明の効果】
以上のようにこの出願の発明によれば、低電力の高周波放電により精細な高密度プラズマジェットの発生が可能であり、直流放電の場合とは異なり、金属、セラミックス、プラスチックなど被加工物の材料を選ばず、局所部位への高速ドライエッチングや成膜などの精密加工を施すために実用的なプラズマジェット発生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の高周波誘導結合式の精細プラズマジェット発生装置の模式図である。
【図2】この発明のプラズマジェット発生装置内の電子密度の空間分布を測定した結果である。
【図3】この発明のプラズマジェット発生装置において、ノズルなしとノズル有りの場合の構造を示す図および電子密度のガス流量依存性を示すグラフである。
【図4】この発明のプラズマジェット発生装置において、ノズルなしとノズル有りの場合における電子密度の電力依存性を示すグラフである。
【図5】この発明のプラズマジェット発生装置において、ノズルなしとノズル有りの場合における励起温度の電力依存性を示すグラフである。
【図6】この発明のプラズマジェット発生装置を高精密プラズマ溶断に適用した例を示す写真である。
【図7】反応性ガス雰囲気中でプラズマジェットを被加工物に照射するために試作した実験装置である。
【図8】SF6添加有無の場合にプラズマジェットを照射したシリコン基板表面のレーザー顕微鏡像である。
【図9】図7の実験装置に、高圧パルス電源を加えた実験装置である。
【符号の説明】
1 プラズマジェット発生装置
2 放電管
3 冷却水
4 ソレノイドアンテナ
5 アルゴンガス
6 ノズル
7 マッチング回路
8 プラズマジェット
9 VHF電源
10 ステンレススチール薄板
11 円形穴
12 容器
13 基板ステージ
14 シリコン基板
15 高周波電源
16 高圧パルス電源
Claims (9)
- 放電管と、放電管の長さ方向の一部の周囲に巻回配置されたソレノイドアンテナと、該ソレノイドアンテナにプラズマを発生させるための電力を供給する電源を備えた高周波誘導結合式のプラズマジェット発生装置であって、放電管のプラズマ出力側の端部に放電管よりも内径の小さいノズルを有し、放電管の内径が5mm以下で放電が可能な大きさであり、且つ前記電源として30〜300MHzのVHF帯の高周波電源を用いて駆動されることを特徴とする無電極方式のプラズマジェット発生装置。
- 請求項1のプラズマジェット発生装置において、放電管の内径の下限が1.0mmであることを特徴とするプラズマジェット発生装置。
- 請求項1または請求項2のプラズマジェット発生装置において、ノズルの内径が2mm以下であることを特徴とするプラズマジェット発生装置。
- 請求項1ないし請求項3のいずれかのプラズマジェット発生装置において、ノズルの内径の下限が0.4mmであることを特徴とするプラズマジェット発生装置。
- 請求項1ないし請求項4のいずれかのプラズマジェット発生装置において、放電管が石英管から成ることを特徴とするプラズマジェット発生装置。
- 請求項1ないし請求項5のいずれかのプラズマジェット発生装置において、ノズルがセラミックスから成ることを特徴とするプラズマジェット発生装置。
- 請求項1ないし請求項6のいずれかのプラズマジェット発生装置において、プラズマジェットと反応性ガスを被加工物の局所部位に照射し、エッチング、膜堆積などの加工、表面処理を行うようになしたことを特徴とするプラズマジェット発生装置。
- 請求項1ないし請求項6のいずれかのプラズマジェット発生装置において、大気圧で動作させるようになしたことを特徴とするプラズマジェット発生装置。
- 請求項1ないし請求項6のいずれかのプラズマジェット発生装置において、放電開始時にアンテナ付近に高電界を印加するための補助高圧電源を有することを特徴とするプラズマジェット発生装置。
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