JP3764132B2 - 特殊断面繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、従来の熱可塑性ポリマーからなる繊維の製造技術では形成し得なかった表面構造を有する繊維に関するものであって、熱可塑性繊維でありながら、衣料用素材として、天然絹繊維と同様のキシミ風合を有し、かつ深みのある色調の表現が可能な繊維であり、また、抗スナッギング性、高濡れ性等の特徴も有する繊維に関し、非衣料としては、優れたワイピング性や優れた研摩性を発揮することのできる繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、合成繊維、例えばポリエステル、ポリアミドのフィラメントからなる織物、編物、不織布等の繊維構造物は、その構成フィラメントの単繊維繊度や断面形状が単調であるため、綿、麻等の天然繊維に比較して風合や光沢が単調で冷たく、繊維構造物としても品位は低いものであるという認識があった。
これらの欠点を改良するために、従来から繊維横断面の異形化、捲縮加工、複合繊維等が種々試みられているが、未だに十分に目的を達成していないのが現状である。例えば、特開昭56-165015号公報、特開昭57-5921号公報、特開昭58-98425号公報、特開昭61-239010号公報などに示されているような易溶解性ポリマーとポリエステルの複合繊維を形成し、その後、後加工によりドライタッチでキシミ感のある風合や独特の光沢を織編物に付与させたり、あるいは特公昭51-7202号公報、特開昭58-70771号公報、特開昭62-133118号公報などに示されているように繊維長さ方向に斑を付与させて風合を改良させる方法、あるいは特公昭53-35633号公報、特公昭56-16231号公報などに示されているように合成繊維をフィブリル化させて風合を改良させる方法、特公昭45-18072号公報で提案されているごとく仮撚融着糸を作成し、麻様のシャリ感を付与させる方法、あるいは特開昭63-6123号公報のように混繊融着加工糸を作成する方法、あるいは特開昭63-6161号公報のようにフィブリル化させる方法など種々のものが提案されている。
【0003】
また、深みのある色調を得るために、繊維表面に微細なクレーター状の凹凸を形成すること(特公昭59-24233号公報)、繊維の長手方向に沿って連続したスリット状の溝を少なくとも5個、繊維表面に設けること(特開昭60-151313号公報)などが提案されている。
このような方法は、比較的繊維径の太い繊維に適用することはできるが、極細繊維にこのような方法を適用することは困難であった。すなわち、極細繊維表面に凹凸を設けたり、あるいはスリット状の溝を設けたりすると、元来繊維径が極めて細いために極細繊維が切断されやすくなり、所望の引張り強度を持つ極細繊維が得られにくいのである。また、極細繊維にこのような方法を適用しても、繊維径は細いので鮮明な色彩に染色することは困難である。
【0004】
従って、前記した方法は、比較的繊維径の太い繊維にしか適用することができないため、かかる方法では深みのある色調の織編物を得ることはできるが、「ピーチ感」のあるソフトな風合を有する織編物を得ることはできなかった。更に従来の比較的繊維径の太い繊維は、基本的に繊維の横断面が円形で、全体として滑らかな表面を持っているため、キシミ感のある触感を与えることができないという課題があった。また、構成繊維の表面に凹凸状あるいはスリット状の傷が存在しているため、繊維の剛性が低下し、得られる織編物に十分な張り腰を付与することが困難であった。
これら過去の多くの提案は、更に高品質なものを望む現代の消費者の要求を満たすには十分なレベルとはいえない状況となってきた。しかも従来のものは一つの要求性能を満たすものが多く、用途に応じた複数の要求を満たすものが得られていなかったのが実情であり、高度化されてきた現代の要望に満足に応えられる素材がないのが問題点となっていた。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等は、上述の従来技術の問題点に鑑み、衣料用素材として各種の要求性能(例えば、キシミ感、風合等)を発現し、非衣料用素材としても、例えば、優れたワイピング特性や研磨特性を発現する繊維形態を具現化すべく鋭意検討した結果、繊維表面に特定構造の溝を形成させることにより、衣料から非衣料まで幅広く利用可能な繊維となることを見出し本発明に到達した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、繊維の長さ方向に沿って、繊維表面に25個以上の溝を有する繊維であって、該繊維の横断面の重心点Gから繊維外周部の一番遠い点までの直線距離をAとするとき、該繊維の横断面の外周長Bが該直線距離Aの10倍以上になっており、該溝の巾Eは外周長Bの50分の1以下、かつ該溝の深さDは該溝の幅Eの3倍以上を有し、さらに該繊維の横断面の重心点Gから繊維外周部の一番近い点までの直線距離をCとしたときにA/(C+D)≧1.1の断面であることを特徴とする繊維である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の繊維の構造を図面により説明する。図1は本発明の繊維の一形態を示す写真である。図2は、本発明の繊維の横断面の形状を示す模式図である。
本発明において、第一の要件は、繊維横断面の重心点Gから繊維横断面の外周の一番遠い点までの直線距離をAとしたときに、繊維横断面の外周長BがAの10倍以上となっていることが重要である。外周長Bをこのように設定することにより、繊維の表面積が増え、衣料用素材として用いる場合には、繊維間の接触抵抗が増し、好ましいキシミ感が発現し、合成繊維でありながら天然絹繊維のような風合が発現する。
また、非衣料繊維素材として用いる場合にも、BがAの10倍以上となることにより、例えば、ワイパーとして格段のワイピング性が発現する。
さらに、本発明においては、用途に応じて繊維断面を図4〜図5に見られるような異形断面や中空断面にすることも可能である。
【0008】
上述した重心点Gからの直線距離Aに対する外周長Bの比は、好ましくは15倍以上、より好ましくは20倍以上、特に好ましくは30倍以上であることが好ましく、上限は特に制限されないが、好ましくは200倍以下、より好ましくは100倍以下である。
【0009】
なお、本発明において、繊維横断面の重心点Gは、繊維断面の拡大写真を用いてコンピュータ上でマスプロパティ計算によって求めることができる。また、単純な断面形状であれば拡大写真を繊維断面形状に沿って切り取り、例えば、針などの上に載せ、おおよそバランスする点を重心点Gとして簡便的に求め、そこより繊維外周の一番遠い点までの直線距離をAとしてもよい。また繊維外周長Bについても同上の拡大写真を用い、繊維断面の外周に沿って適当な糸を重ねてトータルの糸長を簡便的に外周長Bとし、AとBとの比を求めることができる。
【0010】
本発明の繊維の第二の要件は、繊維横断面の外周長Bの50分1以下の巾を持ち、かつ該巾3倍以上の深さを有する溝が繊維表面に多数存在していることである。かかる大きさの溝を繊維表面に形成させることにより、繊維集合体において単繊維間で接触した部分がかみ合い、会合状態を形成し、繊維間の接触抵抗が増え良好な抗スナッギング性が発現する。また、該溝構造を形成させることにより、良好なキシミ感が発現し衣料用素材として好適な繊維となる。
本発明においては、溝巾Eが外周長Bの50分の1以下の巾で、かつ溝の深さDを溝巾Eの3倍以上の深さとなるように設定することにより、繊維間接触の際に良好な会合状態が形成される。溝巾Eが外周長Bの50分の1を超える場合や、溝深さDが溝巾Eの3倍未満である場合は、良好な抗スナッギング性やキシミ感を得ることは困難である。かかる観点から、本発明においては、溝巾Cは外周長Bの100分の1以下、より好ましくは200分の1以下、さらに好ましくは、250分の1以下であることが好ましい。下限値は特に制限されないが、例えば、10000分の1以上であることが好ましい。
また、溝深さDは、溝巾Eの3倍以上であることが好ましく、上限としては30倍以下、より好ましくは20倍以下、特には15倍以下とすることが好ましい。
なお、溝巾Eと溝深さDとの比は、図2の拡大図で示しているように溝巾Eの直線部分の中心点から溝の一番深い点まで下した垂線の直線距離を溝深さDとして求めるものである。
本発明においては、前記第1の要件と第2の要件とが相俟って目的とする性能が相乗的に発現されるものである。
【0011】
本発明における第3の要件は、上記のような大きさの溝構造が繊維横断面に25個以上形成されていることである。溝数が25個未満の場合は、繊維間が接触した場合に発現する会合状態が十分でなく結果的に目的とする性能が十分に発揮されない。従って、溝の数は、より好ましくは45個以上である。溝の数の上限は特に制限されないが、好ましくは200個以下、より好ましくは150個以下、さらに好ましくは100個以下である。
【0012】
第4の要件は、本発明の繊維が、A/(C+D)≧1.1の断面を形成していることである。該繊維の横断面の重心点Gから繊維外周部の一番遠い点までの直線距離をAとし、繊維外周部の一番近い点までの直線距離をCとしたときにA/(C+D)≧1.1の扁平断面である。偏平断面にすることにより単繊維の表面積部分が増加し、接触面積・接触抵抗が増え、良好な抗スナッギング性やキシミ感や優れたワイピング性能を得ることができる。好ましくはA/(C+D)≧1.5以上、より好ましくは2.0以上である。偏平度の上限は特に制約されないが、強度の問題から好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。
【0013】
本発明の繊維を構成するポリマーは、基本的には熱可塑性ポリマーであれば使用することが可能であり、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系ポリマー、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなどのビニル系ポリマー、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリウレタンなどの縮合系ポリマー、ポリアリレート等の溶融液晶性ポリマーなどが適用可能であるが、好ましくは、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、重縮合系ポリマーの熱可塑性結晶性ポリマーが好適である。
【0014】
ポリマーの選択は、上記で例示したような各種ポリマーから基本的には使用目的に応じて選択すればよく、例えば、キシミ風合などの感性面の効果を要求する場合には、ポリエステル系ポリマーを用いることが好ましく、ワイピング性など非衣料分野に用いる場合には、状況に応じてポリプロピレン、ポリアミド等が好適である。また、半導体分野の研磨布等の用途に用いる場合は、ポリマーの融点及びガラス転移点が高く、耐薬品性の高い半芳香族ポリアミドあるいはポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート等を用いることが好適である。
【0015】
好適なポリマーの一つとして用いられるポリエステル系ポリマーについて詳しく説明すると、エチレンテレフタレート単位および/またはブチレンテレフタレート単位および/またはヘキサメチレンテレフタレート単位を主たる繰返し単位とするポリエステルが好適に使用でき、とくに、第3成分などを導入した共重合ポリエステルを用いる場合は、共重合ポリエステル中における共重合単位の割合が20モル%以下、より好ましくは10モル%以下であることが好ましく、その際の共重合単位の例としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸、5−アルカリ金属スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸:シュウ酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸:トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能性カルボン酸:またはそれらのエステル形成性成分に由来するカルボン酸単位:ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブタンジオール、エチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどから誘導される単位を上げることができる。そして共重合ポリエステルは前記した共重合単位の1種または2種以上を含んでいることができる。
【0016】
ポリエステル成分には、必要に応じて無機微粒子、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤及びその他の添加剤の1種または2種以上が含有されていてもよい。
無機微粒子の種類は、繊維を形成するポリエステルに対して劣化作用などをもたず、それ自体で安定性に優れる無機微粒子であればいずれも使用できる。本発明で有効に用い得る無機微粒子の代表例としては、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウムなどを挙げることができ、これらの無機微粒子は単独で使用しても、または2種以上を併用してもよい。
【0017】
さらに、本発明において無機微粒子の含有量は、ポリエステルの質量に基づいて0.02〜10.0質量%であることが好ましく、0.05〜5.0質量%であることがより好ましい。無機微粒子の含有量がポリエステルの質量に基づき0.02質量%未満であると延伸を行なうための加熱帯域の温度や糸条の走行速度、走行糸条にかかる張力などの僅かな変動を生じても、得られる繊維にループや毛羽、繊度斑などが発生するようになり、一方、無機微粒子の含有量が10.0質量%を越えると、繊維延伸工程で無機微粒子が走行糸条と空気の間の抵抗を過度なものにして、毛羽の発生、断糸の発生などにつながり工程が不安定になる。
【0018】
もう一つの好適なポリマーとして用いられるポリアミド系ポリマーについて述べると、脂肪族ポリアミドとしては、前述したナイロン6、ナイロン66、メタキシレンジアミンナイロン、ナイロン12を主成分とするポリアミドが好ましい。目的によっては融点又はガラス転移点が高いポリアミドを用いることもよく、その場合、熱可塑性を有する半芳香族系ポリアミドが好ましく用いられる。そのようなポリアミドとしては、例えば、ジカルボン酸とジアミン成分とからなり、ジカルボン酸成分の60モル%以上が芳香族ジカルボン酸で、ジアミン成分の60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミンであるポリアミドが挙げられる。
【0019】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸が好ましく、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジ安息香酸、4,4‘−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸を1種類、または2種類以上併用して使用することもできる。かかる芳香族ジカルボン酸の含有量はジカルボン酸成分の60モル%以上であることがこのましく、さらには75モル%以上であることが好ましい。
【0020】
上記芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸としてはマロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3−ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を挙げることができ、これらの酸は1種類のみならず2種類以上を用いることができる。なかでもポリマーのガラス転移点を上げるためにはジカルボン酸成分が100%芳香族ジカルボン酸であることとが好ましい。
さらにトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸を繊維化が容易な範囲内で含有させることもできる。
【0021】
また、ジアミン成分の60モル%以上は炭素数が6〜12の脂肪族アルキレンジアミンで構成されることが好ましく、かかる脂肪族アルキレンジアミンとしては、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の脂肪族ジアミンを挙げることができる。なかでも繊維化工程性と目的とする糸品質の点で1,9−ノナンジアミン単独または1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとの併用が好ましい。
この脂肪族アルキレンジアミンの含有量はジアミン成分の60モル%以上であることが好ましく、より好ましくは75モル%以上、とくに90モル%以上であることが、繊維化工程性と糸品質の点から好ましい。
【0022】
上述の脂肪族アルキレンジアミン以外のジアミンとしてはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルジアミン、トリシクロデカンジメチルジアミン等の脂環式ジアミン;p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミン、あるいはこれらの混合物を挙げることができ、これらは1種類のみならず2種類以上を用いることができる。
【0023】
本発明においては、その効果を損なわない範囲であれば、上記ポリアミド成分に銅化合物等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶加速度遅延剤を重合反応時またはその後の工程で添加することができる。特に熱安定剤としてヒンダードフェノール等の有機系安定剤、ヨウ化銅等のハロゲン化銅化合物、ヨウ化カリウム等のハロゲン化アルカリ金属化合物を添加すると、繊維化の際の溶融滞留安定性が向上するので好ましい。
また、必要に応じて前述したような無機微粒子を含有していてもよい。
【0024】
次に本発明の繊維の製造方法について説明する。図3の繊維の横断面写真は、本発明繊維を製造するための中間体繊維となる複合繊維の一例を示したものである。この例では、ポリマー成分Xよりなる繊維本体(図3)と、この成分Xよりも溶解性又は分解性の大きいポリマー成分Y(図3)とが繊維断面において複合されている。そしてこの複合繊維から成分Yを所定量溶解又は分解除去することにより、繊維本体は、くし状の断面を有する本発明の繊維となる。なお、くし状とは、例えば図2の模式図で示したような形状であることを意味している。
【0025】
繊維本体を形成しているポリマー成分Xとしては、ポリマー成分Yと比べて相対的に溶媒や薬剤に対して溶解又は分解しにくいものであれば、どのようなものでも採用できる。いま、両成分ともポリエステル系ポリマーを使用する場合、Y成分はX成分よりアルカリ溶解速度が5倍以上、好ましくは10倍以上速いポリエステルを用いることが好ましい。例えば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を1〜5モル%と、ポリアルキレングリコールを5〜30質量%と従来用いられているジオール成分及びジカルボン酸成分とを共重合してなる共重合ポリエステル等を採用することができる。
【0026】
本発明において、溝深さDのコントロールは、ポリマー成分Yの除去率を変更することや、溶解・分解速度の異なるポリマーの組み合わせを適切に設定することにより任意に可能である。溝巾Eのコントロールは、ポリマー成分Xとポリマー成分Yとの複合比率を変更したり、くさび部分の数を変更したノズル部品を使用することなどにより、任意にコントロールすることが可能である。
【0027】
ポリマー成分Yとしては、アルカリ溶解速度の速いポリエステルの代りに、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールを用いても本発明の繊維を得ることができる。用いるポリビニルアルコール重合体は、粘度平均重合度が200〜500、けん化度が90〜99.99モル%、融点が160〜230℃のポリビニルアルコールが好ましく、ホモポリマーであっても共重合体であってもよいが、溶融紡糸性、水溶性、繊維物性の観点からは、エチレン、プロピレンなど炭素数が4以下のα-オレフィンなどで0.1〜20モル%変成された共重合ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。この場合、図3で示すような複合繊維を製造した後、熱水処理をすることによりポリビニルアルコール成分を溶解除去し、本発明繊維を得ることができる。
また、本発明の中間体となる複合繊維は、ポリマー成分Xおよびポリマー成分Yの組み合わせさえ決定されれば、複合繊維化については従来公知の複合紡糸装置を用いて繊維化することが可能である。但し、溝の数を多くするほど安定した紡糸が困難になるので、紡糸パックの構造や紡糸条件などを慎重に設定することが好ましい。
【0028】
本発明においては、図2に示したようなくさび状の溝を多数形成させた断面形状の繊維とすること以外に、本発明の規定を満たす範囲内のものであれば、例えば、図4〜図5に示すような断面形状であってもよい。具体的には、仮撚捲縮加工等の高次加工により繊維断面が5角形、6角形に類似した形状に変化したものや、紡糸時に異形断面ノズルを用いることによって3葉形、T型や一孔中空、二孔中空以上の多孔中空等の中空形状など、各種の断面形状としても何ら差し支えない。
【0029】
本発明の繊維の単繊維繊度は特に制限されないが、0.5〜10dtexのものが好ましい。また、長繊維のみならず短繊維としても用いることができる。
以上のようにして得られる本発明の繊維は、各種繊維集合体(繊維構造物)として用いることができる。ここで繊維集合体とは、本発明の繊維単独よりなる織編物、不織布はもちろんのこと、本発明の繊維を一部に使用してなる織編物や不織布、例えば、天然繊維、化学繊維、合成繊維など他の繊維との交編織布、あるいは混紡糸、混繊糸として用いた織編物、混綿不織布などであってもよいが、織編物や不織布に占める本発明繊維の割合は10質量%以上、好ましくは30質量%以上であることが好ましい。また、編成、織成あるいは不織布となした後に、必要に応じて針布起毛等による起毛処理やその他の仕上加工を施すことは何ら差し支えない。
【0030】
本発明の繊維の主な用途は、長繊維では単独で又は一部に使用して織編物等を作成し、良好な風合を発現させた衣料用素材とすることができる。一方、短繊維では衣料用ステープル、乾式不織布および湿式不織布等があり、衣料用のみならず清掃用布帛、フィルター用素材、各種リビング資材、産業資材等の非衣料用途にも好適に使用することができる。また、繊維表面の微細な溝構造を有効に応用し、親水化処理された後の良好な吸収性を保持させた電池用セパレータ分野にも好適に使用することができる。
また本発明の繊維は、研磨材粒子の粒度に応じて溝巾がある程度に変化するため、半導体分野でのシリコンウエハー研摩材として好適に用いることが可能である。かかる溝構造を形成させることにより、微細な研摩剤微粒子を好適に担持させることが可能となる。
【0031】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%は断りのない限り質量に関するものである。
【0032】
実施例1
ポリマー成分Xとして固有粘度〔η〕が0.68(フェノール/テトラクロルエタン等重量溶媒中で30℃で測定)であり、平均粒子径0.04μmのシリカ粒子を3質量%含有するポリエチレンテレフタレートを用い、一方、ポリマー成分Yとして熱溶融性の変性ポリビニルアルコール(クラレ製、ケン化度:98.5、エチレン含有量8.0モル%、重合度:380)を用い、成分Xと成分Yとの複合比を3:1の質量比とし、それぞれを別々の押出し機で溶融させ、図3に示す横断面で成分Yで形成されるくさび形状を50個有する複合繊維を複合紡糸ノズルより吐出させた。ついで紡糸口金(偏平ノズル)より吐出された糸条を長さ1.0mの横吹付け型冷却風装置により糸条を冷却した後、連続して紡糸口金直下から1.3mの位置に設置した長さ1.0m、内径30mmのチューブヒーター(内壁温度180℃)に導入してチューブヒーター内で延伸した後、チューブヒーターから出てきた繊維に水を含まない制電剤成分と平滑剤成分からなる油剤を付与し、引き続いてローラーを介して4000m/分の引取り速度で巻き取って、111dtex/24フィラメントの複合繊維を製造した。
【0033】
繊維化工程性は良好で問題なかった。得られた複合繊維を経糸及び緯糸として、経糸密度90本/25.4mm、緯糸密度85本/25.4mmの平織物を作成した。この平織物に精練を施した後、浴比1:30の水溶液(液温100℃)中に浸漬し、所定の溝深さになるように成分Yを選択的に溶解除去した。
その後、下記の条件で染色を行ない、常法により乾燥仕上げ、セットを実施した。得られた織物はキシミ感が良好で、天然絹繊維織物に似た織物であった。
【0034】
【0035】
実施例2〜10
繊維の表面溝形状及び繊維の断面形状を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして繊維化並びに織物の作成、評価を行なった。なお、実施例10では、紡糸口金に偏平ノズル(三角ノズル)を使用して繊維化を行なった。いずれの場合も繊維化工程性は良好であり、得られた織物は、いずれもキシミ感を有し、優れた風合を有していた。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例11〜13
実施例11では、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を用い、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミン/2-メチル−1,8−オクタンジアミン(モル比=50/50)の脂肪族ジアミン成分を用い、これらを重合して得られる半芳香族ポリアミドをポリマー成分Xとして使用し、実施例12では、ポリエチレンナフタレート(クラレ製、〔η〕=0.75、融点270℃)を用い、実施例13ではポリフェニレンサルファイド(東レ製、銘柄A504×02、融点280℃)を用い、それぞれのポリマーの融点に応じて紡糸口金温度を変更したこと以外は、実施例1と同様に複合繊維を得た。次いで経糸密度150本/25.4mm、緯糸密度150本/25.4mmの平織物としたこと以外は実施例1と同様にして織物を得た。
また、研磨布としてのテストを実施した。直径500mmの下定盤に上記で得られた織物を感圧接着剤で貼り合せ、つづいて直径4インチのシリコンウエハ3枚を直径230mmの定盤にワックスで貼り合せた当該上定盤を研磨機に装着し、コロイダルシリカスラリー(ナルコ社製#2350)の20倍純水希釈物を、流量が1g/分となるように還流しつつ、研磨布を100rpmにて回転させ、1サイクル20分間の研磨を繰り返し行なった。研磨されたシリコンウエハを洗浄及び乾燥後、平面度測定装置で測定した結果、いずれも研磨後のウエハの平坦性は良好であった。
【0038】
実施例14〜16
実施例14は、ポリマーXとしてポリトリメチレンテレフタレート(クラレ製、〔η〕=0.82、融点230℃)を用い、実施例15はポリブチレンテレフタレート(三菱化成工業製、銘柄:ノバドゥール(登録商標)5010、融点224℃)を用い、実施例16はナイロン6(宇部興産株製、銘柄:1013BK、融点225℃)を用い、それぞれのポリマーの融点に応じて紡糸口金温度を変更したこと以外は、実施例1と同様にして複合繊維を得た。得られた繊維を33インチ22ゲージの丸編機を用いて、モックミラノリブ組織の編地を得た。その後、実施例1と同じ条件でアルカリ減量処理、仕上げ処理を施した。得られた編物でワイパーとして汚れのふきとり性を調べたところいずれも良好なワイピング性を示した。
【0039】
実施例17
ポリマー成分Xとしては、実施例1と同一のポリマーを用い、ポリマー成分Yとして分子量2000のポリエチレングリコール8質量%と5−ナトリウムスルホイソフタル酸を5モル%共重合した〔η〕0.52のポリエチレンテレフタレートを用い、紡糸油剤としては、水エマルジョン系のものを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で繊維化を実施し、同様の方法で織物を作成した。その後か性ソーダ20g/l、アルカリ熱水中で織物を40分間処理を実施し、ポリマー成分Yを溶解除去した。得られた織物はキシミ感を有する良好な風合を保持していることがわかった。
【0040】
比較例1〜4
表1に示す表面溝構造を形成させるように設定したこと以外は、実施例1と同様の方法で実施した。得られた織物は十分な良好な風合を有していなかった。
【0041】
比較例5,6
比較例5はポリマー成分Xとしてナイロン6を用い、表面構造を表1に示す構造に設定したこと以外は実施例16と同様に実施した。比較例6はポリマー成分Xとしてポリプロピレンを用い、表面構造を表1に示す構造に設定したこと以外は実施例17と同様に実施した。いずれも得られた編物を用いたワイピング性能は不十分なものであった。
【0042】
【発明の効果】
本発明の繊維は、表面溝構造に起因するさまざまな特徴を発揮し、衣料用途として用いる場合は、たとえば、良好なキシミ風合を有する繊維となり、また、非衣料用として用いる場合は優れたワイピング性、優れた研磨性を発揮する素材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の繊維の形態の一例を示す電子顕微鏡写真。
【図2】 本発明の繊維の横断面の一例を示す模式図およびその一部分の拡大図。
【図3】 本発明の繊維を得るための複合繊維の形態の一例を示す繊維断面写真。
【図4】 本発明の繊維の横断面の一例を示す模式図。
【図5】 本発明の繊維の横断面の一例を示す模式図。
【符号の説明】
A 本発明の繊維横断面の重心点Gから繊維外周部の一番遠い点までの距離
C 本発明の繊維横断面の重心点Gから繊維外周部の一番近い点までの距離
D 本発明の繊維横断面の溝の深さ
E 本発明の繊維横断面の溝の巾
G 本発明の繊維横断面の重心点
X 本発明の繊維のポリマー成分
Y 本発明の複合繊維の抽出除去ポリマー成分
Claims (2)
- 繊維の長さ方向に沿って、繊維表面に25個以上の溝を有する繊維であって、該繊維の横断面の重心点Gから繊維外周部の一番遠い点までの直線距離をAとするとき、該繊維の横断面の外周長Bが該直線距離Aの10倍以上になっており、該溝の巾Eは外周長Bの50分の1以下、かつ該溝の深さDは該溝の幅 E の3倍以上を有し、さらに該繊維の横断面の重心点Gから繊維外周部の一番近い点までの直線距離をCとしたときにA/(C+D)≧1.1の断面であることを特徴とする繊維。
- 熱可塑性ポリマーにより形成されている請求項1に記載の繊維。
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