JP3757872B2 - 動力伝達用歯車、およびこれを備えた機器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、動力伝達用歯車、およびこれを備えた機器に関する
【0002】
【背景技術】
従来より、電子制御式機械時計(以下MGSと称する。)では、ゼンマイを動力源とした増速輪列が使用されている(特開平8−50186号公報)。したがって、歯車の歯面や回転軸のホゾ面などの他部材との接触面に大きな負荷がかかることから、材料には炭素鋼を使用し、焼き入れ等の熱処理により硬化することが行われている。さらに、四フッ化エチレン系樹脂等の固体潤滑材を付着させて、歯車等による動力の伝達効率を向上させている(特開2001−141840号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、PTFE等の固体潤滑剤は、粒子状であるため、自動車の部品等の大きな部材表面に付着させたときには、固体潤滑剤からなる潤滑層を比較的厚くできるので、表面の付着の分布を均一にすることに問題は生じなかった。
しかしながら、本出願人が、時計の歯車や回転軸等の小さな部品において固体潤滑材を塗布して潤滑層を形成したところ、母材の地肌同士の接触が起きたり、固体潤滑剤が剥離して摩耗が発生するという新たな問題が見出された。
【0004】
すなわち、時計の歯車のように、小型でかつ負荷が高い歯車や軸部においては、潤滑層もあまり厚く塗布できないため、図12に示すように、母材41、42表面では、固体潤滑剤51を付着させた際に固体潤滑剤の粒子を均一な分布とすることは困難であった。このため、固体潤滑剤の粒子が島状に固まり、均一に分布しないため、母材が露出した部分で母材同士の接触が起きたり、固体潤滑剤が剥離しやすくなり、母材が摩耗するという問題がある。
【0005】
上記問題を解決するために、本出願人が鋭意研究を重ねた結果、固体潤滑剤をその融点以上で融解させ、母材表面に付着させるという方法を考え出した。
しかしながら、固体潤滑剤を融解させるために加熱すると、焼き入れ等の熱処理により硬化させた母材の焼きがなまり、母材の硬度が減少してしまうという新たな問題が発生した。特に、固体潤滑剤は、例えば5年間等の長期間の使用により徐々に剥がれ、母材同士が接触するようになるが、母材表面の硬度が低下していると、摩耗が生じやすく、歯車や軸部の寿命が短くなってしまう。このような問題は、時計の歯車や軸部に限らず、他の部品と摺動等で接触する各種の金属部品においても共通した問題である。
【0006】
本発明の目的は、固体潤滑剤の付着強度を向上でき、かつ母材表面の硬度低下を防止できて摩耗の発生を抑えることができる金属部品、歯車装置、動力伝達装置およびこれらを備えた機器を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達するために、本発明の動力伝達用歯車は、窒化処理、浸炭窒化処理、および浸炭処理のいずれかによる表面硬化処理がなされた鋼材からなる母材と、前記母材の少なくとも他の部品に対して接触する接触面に固体潤滑材として付着された四フッ化エチレン系樹脂からなる潤滑層とを備えた動力伝達用歯車であって、前記潤滑層は、前記固体潤滑材をその融点以上でかつ、前記表面硬化処理の硬化温度よりも低い温度で融解して前記接触面に付着させて形成されていることを特徴とする。
表面硬化処理とは、焼き入れのように母材全体を硬化する処理ではなく、母材の表面層のみを硬化処理して、表面が母材内部に比べて硬くなるように処理することを意味する。
【0008】
このような本発明によれば、前記潤滑層は、前記固体潤滑材をこの固体潤滑材の融点以上でかつ、表面硬化処理の硬化温度よりも低い温度で融解して接触面に付着させて形成されていることにより、粒子状の固体潤滑剤を直接付着させた場合に比べ、固体潤滑剤の潤滑層を均一な分布とすることができる。このため、固体潤滑剤の付着強度を向上できて潤滑層を剥がれ難くでき、潤滑層による効果を長期間維持することができる。
また、母材の地肌が直接露出する部分が無いため、母材同士が接触することもない。このため、動力伝達用歯車の摩耗発生を抑えることができるとともに、摩擦損失を少なくでき、エネルギーロスの少ない効率的な駆動を行うことができる。
【0009】
また、前記母材は、前記固体潤滑材の融点よりも高い温度で表面硬化処理されているので、固体潤滑剤を融解させるために、その融点まで加熱しても、表面硬化処理した際の温度まで加熱されて母材表面の硬度が低下されることはない。このため、固体潤滑剤を融解させても母材表面の硬度は高い状態で維持することができる。従って、長期間の使用により、潤滑層が減少して母材同士が接触しても、その表面硬度が高い状態で維持されているので、摩耗なども発生せず、非常に長寿命の動力伝達用歯車とすることができる。
【0011】
本発明の動力伝達用歯車では、前記表面硬化処理は、窒化処理または浸炭窒化処理であることが好ましい。
ここで、窒化処理とは、鋼材等をアンモニアガスなど窒素を含む媒剤中で500℃程度に加熱し、鋼表面部の窒化鉄の硬化層を生成させて母材表面の硬度を向上させる方法である。窒化処理には、アンモニアガスを用いるガス法、シアン酸ソーダ等を用いる塩浴法、窒素をプラズマ状態にして鋼材に浸透させるプラズマ法などがある。
【0012】
浸炭窒化処理とは、900℃付近で、鉄鋼の表面層に炭素と窒素を同時に拡散させる方法である。この方法では、一般的には、低温域では窒素の拡散が進み,高温域では炭素の拡散が進む。また、浸炭窒化処理には、浸炭性ガスにアンモニアを添加して行うガス浸炭窒化法などがある。
【0013】
これによれば、前記表面硬化処理は、窒化処理または浸炭窒化処理であることにより、窒化処理では、母材表面部の窒化鉄の硬化層を生成させるので、表面の硬度を向上させることができる。また、浸炭窒化処理では、母材表面部の窒化鉄および炭素からなる硬化層を生成させるので、表面の硬度を向上させることができる。
また、窒化処理または浸炭窒化処理を行う温度以下、例えば、窒化処理は約500℃、浸炭窒化処理は約850℃で処理されるため、これらの温度以下の融点の固体潤滑材、例えば融点が約320℃程度の四フッ化エチレン系樹脂からなる潤滑層を得ることができる。
【0014】
本発明の動力伝達用歯車では、前記表面硬化処理は、浸炭処理であってもよい。
ここで、浸炭処理とは、加工性のよい鋼の表面部の炭素含有量を増加させるため,炭素を含む媒剤中で加熱する処理方法である。この方法には、コークス、木炭などによる固体浸炭、シアン化物による液体浸炭、一酸化炭素、メタンなどによるガス浸炭、さらに真空イオン浸炭がある。
【0015】
これによれば、前記表面硬化処理は、浸炭処理であることにより、浸炭処理後の材料は、表面は焼き入れにより、耐摩耗性が大きくなり、材料内部は硬化不能で柔軟な組織のままであるので靱性が高くなるという効果が得られる。
また、浸炭処理は、約1000℃の高温で行うので、四フッ化エチレン系樹脂等よりも融点の高い二硫化モリブデン等の固体潤滑材を用いることができるので、材料選択の幅が広がる。
【0016】
本発明の動力伝達用歯車では、前記母材の材質は、ステンレス鋼であることが好ましい。
これによれば、前記母材の材質は、ステンレス鋼であることにより、ステンレス鋼は、鉛を含有しないので、環境に優しい金属部品にすることができる。
また、ステンレスは、防錆性を有しており、メッキ加工をする必要がないから、メッキ液を使わないので、この点でも環境に優しい金属部品にすることができる。
【0017】
本発明の動力伝達用歯車では、前記ステンレス鋼は、マルテンサイト系ステンレス鋼であることが好ましい。
ここで、マルテンサイト系ステンレス鋼は、JIS規格では主にSUSの400番台に規定されており、針状の細かな組織から構成され、通常は強磁性体である。
【0018】
母材としてマルテンサイト系ステンレス鋼を用いれば、切削性に優れているので、母材を加工するバイトの寿命を延ばすことができる。
また、焼き入れ等の熱処理を行うことで、母材の硬度を調節することができるので、母材自身、すなわち母材の表面だけでなく、母材の内部も硬くすることができ、母材の変形に対して強度を向上させることができる。
【0019】
本発明の動力伝達用歯車では、前記ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼であってもよい。
ここで、オーステナイト系ステンレス鋼は、JIS規格では主にSUSの300番台に規定されている。
【0020】
母材としてオーステナイト系ステンレス鋼を用いれば、切削後の面粗度がよく、表面を滑らかに形成できるので、より一層均一な潤滑層を形成することができ、摩擦損失もより一層減少することができる。
また、ステンレス鋼の中でも特に耐食性に優れているので、錆等を防止することができる。
さらに、オーステナイト系ステンレス鋼は、一般に非磁性体であるので、この母材を、例えば、ロータなどの発電機付近の歯車に使用した場合に、磁束を引きつけず、発電機から発生する磁束の漏れが少なくなるから、発電機のステータに鎖交する磁束数が減少しないので、発電機の発電能力の劣化を招くことがない。また、時計外部からの磁力の影響を受けない、すなわち、耐磁性能も向上できる。
【0021】
本発明の動力伝達用歯車では、前記母材の表面硬化処理後に、少なくとも前記接触面を平滑にする研磨処理を行い、前記研磨処理を施された接触面の表面に、前記潤滑層が形成されていることが好ましい。
ここで、研磨処理を施す場所として、他の部品に対して接触する接触面が挙げられるが、具体的には、歯車の歯面、歯車の回転軸に設けられるホゾ部等が挙げられる。また、研磨処理としては、加工物を研磨剤と一緒に容器に入れ,回転または振動により、ばり、はみ出しおよびスケールなどを除去したり、洗浄するバレル研磨等が挙げられる。
歯車(かな、ともいう)やホゾ部を磨く際には、所定の研磨機を用いて行う。
【0022】
これによれば、前記母材の表面硬化処理後に、少なくとも前記接触面を平滑にする研磨処理を行うことにより、表面粗さの改善がなされているから、潤滑層の分布をより一層均一にすることができるとともに、仮に母材同士が接触した場合でも摩擦抵抗を減少させることができる。
【0023】
本発明の動力伝達用歯車では、前記母材の表面硬化処理後に、少なくとも前記接触面を硬化させるショットピーニングを行うことが好ましい。
ここで、ショットピーニングとは、ガラスビーズや小さな硬球を圧縮空気または遠心力を用いて高速で材料の表面に噴射し、スケール(錆び)を取り除いたり、表面仕上げを行う一種の冷間加工のことをいう。
これによれば、ショットピーニングにより、母材表面の凹凸やスケール等を取り除くので、母材表面の粗さおよび硬さの改善ができる。また、母材表面が、高低差の小さな凹凸(ディンプル)形状となるため、アンカー効果によって、潤滑層が残るため、使用により摩耗が進んでも、潤滑層が残りやすいという効果が得られる。
【0024】
本発明の動力伝達用歯車では、前記固体潤滑材として、四フッ化エチレン系樹脂が採用されている。
ここで、四フッ化エチレン系樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の他に、PFA(パーフルオロアルコキシ)、FEP(フルオリネーテッドエチレンプロピレン)、ETFE(エチレンテトラフルオロエチレン)などがある。A(パーフルオロアルコキシ)、FEP(フルオリネーテッドエチレンプロピレン)、ETFE(エチレンテトラフルオロエチレン)などが挙げられる。
【0025】
これによれば、前記固体潤滑材は、四フッ化エチレン系樹脂であることにより、その融点(約320℃)が窒化、浸炭または浸炭窒化処理を行う温度以下であるので、固体潤滑剤を融解するための加熱温度も比較的低くでき、そのうえ、表面硬化処理の硬化温度よりも低い温度で固体樹脂が溶融されるため、高温加熱による母材の硬度の劣化がなく、均一な潤滑層を得ることができる。
また、四フッ化エチレン系樹脂は化学的に安定しているから、変質をすることがないので、長期間使用することができる。
【0028】
前述の動力伝達用歯車および、この動力伝達用歯車の回転軸を備える歯車装置を構成すれば、歯車の噛み合い部分や回転軸の軸受部分における摩擦抵抗を減少でき、動力を伝達する際にも機械的エネルギの損失を減少できる。
ここで、動力伝達用歯車の回転軸のように、他の部品に対して摺動される摺動部品についても、本発明の動力伝達用歯車と同様に表面硬化処理および固体潤滑材の融解、付着処理を行うことが好ましく、これによって、前述の動力伝達用歯車と同様の作用・効果を享受することができる。
なお、動力伝達用歯車の回転軸とは、例えば、歯車等に貫通して固定され、軸受に対して摺動されるホゾを有するものが挙げられる。この回転軸の場合には、少なくともホゾの摺動面に表面硬化処理を施し、固体潤滑剤を融解して付着させればよい。
一方、動力伝達用歯車の場合には、少なくとも歯面に表面硬化処理を施し、固体潤滑剤を融解して付着させればよいが、回転軸が一体に形成された歯車の場合は、その回転軸のホゾの摺動面にも、表面硬化処理を施し、固体潤滑剤を融解して付着させるのが好ましい。
【0030】
本発明の機器は、前記動力伝達装置と、この動力伝達装置に動力を加える駆動源とを備えることを特徴とする。
ここで、駆動源としては、複数の歯車からなる動力伝達装置に機械的エネルギを供給できるものであればよく、例えば、ゼンマイ、ゴム、スプリング、重錘や、圧縮空気等の流体等の各種の機械的エネルギ源や、モーター等の電気的エネルギで作動されるものなどでもよい。要するに、動力源としては、手巻き、回転錘、位置エネルギ、気圧変化、風力、波力、水力、温度差、電力等の各種エネルギを利用して動力伝達装置に動力を加えることができるものであればよい。
【0031】
このような本発明の機器においては、動力を伝達時にエネルギのロスの少ない動力伝達装置を備えているので、機器の作動時の効率を向上でき、省エネルギー化が図れ、長時間作動可能な機器を提供することができる。
また、本発明の機器では、前記駆動源と、前記動力伝達用歯車とを備える時計であることが好ましい。
このような本発明によれば、動力伝達用歯車の噛み合い部分や歯車の回転軸の軸受部分における摩擦抵抗を減少できるので、駆動源による動力の伝達ロスの少ない時計を提供することができる。
【0032】
本発明の機器では、前記駆動源として用いられる機械的エネルギ源と、この機械的エネルギ源に連結されて動力伝達装置として用いられる増速輪列と、この増速輪列により駆動されるとともに電力を発生して電気的エネルギを出力する発電機と、前記輪列に結合された指針と、前記発電機から出力された電気的エネルギにより駆動されて前記発電機の回転周期を制御する回転制御装置とを備える電子制御式機械時計であることが好ましい。
これによれば、機械的エネルギの損失が少ないので、時計の動作の持続時間を長期化することができる。また、時計の持続時間が同じでよければ、機械的エネルギのロスが少ないから、機械的エネルギ源を小さくできる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る歯車装置を適用した電子制御式機械時計の要部を示す平面図であり、図2及び図3はその断面図である。
【0034】
[電子制御式機械時計の構造]
電子制御式機械時計は、ゼンマイ1a、香箱歯車1b、香箱真1c及び香箱蓋1dからなる香箱車1を備えている。ゼンマイ1aは、外端が香箱歯車1b、内端が香箱真1cに固定されている。香箱真1cは、地板2と輪列受3に支持され、角穴車4と一体で回転するように角穴ネジ5により固定されている。
角穴車4は、時計方向には回転するが反時計方向には回転しないように、こはぜ6と噛み合っている。なお、角穴車4を時計方向に回転しゼンマイを巻く方法は、機械時計の自動巻または手巻機構と同様であるため、説明を省略する。
【0035】
香箱歯車1bの回転は、歯車装置としての二番車107、三番車108、四番車109、五番車110および六番車111からなる増速輪列117を介して増速されて発電機120に伝達される。なお、香箱歯車1bの回転は7倍に増速され二番車107に伝達され、二番車107から三番車108へは8.0倍増速され、三番車108から四番車109へは7.5倍増速され、四番車109から五番車110へは6倍増速され、五番車110から六番車111へは10倍増速され、六番車111からロータ112へは8倍増速されている。
【0036】
増速輪列117の二番車107には筒かなが、筒かなには分針13が、四番車109には秒針14がそれぞれ固定されている。つまり、分針13、秒針14等の指針は、増速輪列117に結合されて輪列117の回転に伴い駆動される。
【0037】
なお、地板2、輪列受3および二番受7には、ルビー製の軸受が圧入されており、この軸受は、各歯車装置107〜111の回転軸を支持する。
【0038】
電子制御式機械時計の発電機120は、磁石およびコイルからなる電磁ブレーキ式の調速機であり、具体的にはロータ112、ステータ115、コイルブロック116を備えて構成されている。
【0039】
ロータ112は、ロータ磁石112a、ロータかな112b、ロータ慣性円板112cから構成される。ロータ慣性円板112cは、香箱車1からの駆動トルク変動に対しロータ112の回転速度変動を少なくするためのものである。
【0040】
コイルブロック116は、ステータの一部116cが一体とされた磁心116aにコイル116bを巻線したものである。ステータ115は、ステータ体115aにステータコイル115bを巻線したものであり、磁心116aの一部で構成されるステータ116cにロータ112を挟んで対向する側に配置され、ネジ121でコイルブロック116の他端および地板に固定されている。ここで、ステータ115と磁心116a、磁心116aに一体のステータ116cはPCパーマロイ等で構成されている。また、コイル116bは、出力電圧の変動を検出することでロータ112の回転を検出するように構成されている。
【0041】
図4には、本実施形態の電子制御式機械時計の構成を示すブロック図が示されている。
電子制御式機械時計は、機械的エネルギ源としてのゼンマイ1aと、ゼンマイ1aのトルクを発電機120に伝達する増速輪列117と、増速輪列117に連結されて時刻表示を行う時刻表示装置である指針118とを備えている。
【0042】
発電機120は、増速輪列117を介してゼンマイ1aによって駆動され、電力を発生して電気的エネルギを供給する。この発電機120からの交流出力は、整流回路125を通して昇圧、整流され、コンデンサ(蓄電装置)126に充電供給される。
【0043】
このコンデンサ126から供給される電力によってワンチップICで構成された回転制御装置150が駆動される。この回転制御装置150は、図4に示すように、発振回路151、ロータの回転検出回路152およびブレーキの制御回路153を備えて構成されている。
【0044】
発振回路151は、時間標準源である水晶振動子151Aを用いて発振信号(32768Hz)を出力し、この発振信号を所定の分周回路で分周し、基準信号fsとして制御回路153に出力している。
【0045】
回転検出回路152は、発電機120から出力される発電波形からロータの回転速度を検出し、その回転検出信号FG1を制御回路153へ出力する。
制御回路153は、基準信号fsに対する回転検出信号FG1の位相差等に基づいて発電機(調速機)120にブレーキ信号を入力し、調速している。
【0046】
本実施形態では、このような電子制御式機械時計において、各番車107〜111を本発明に係る歯車装置として適用している。従って、この電子制御式機械時計によって、増速輪列(動力伝達装置)を備えた機器が構成されている。
【0047】
[歯車装置の構造]
図5は、増速輪列117を構成する一歯車装置を示す拡大断面図である。
各歯車装置107〜111は、大歯車10と、この大歯車10の回転中心に取り付けられる回転軸30とを備え、この回転軸30には、大歯車10に比べて歯数の少ないかなである小歯車20が、大歯車10に対向するように一体成形される。
【0048】
各歯車装置107〜111のそれぞれの構成および製造方法は、略同様であるので、ここでは、三番車108を例に挙げて、歯車装置の構成および製造方法について説明する。
なお、三番車108以外のその他の歯車装置(二番車107、四番車109、五番車110、六番車111)については、その説明を省略する。
【0049】
大歯車10は、その厚さ(図中の上下方向の寸法)が0.14mmであって、そのモジュールが0.0776mm、歯数75枚のステンレス鋼の歯車である。
大歯車10の外周側(図中の左右端縁)には、隣接する他の歯車装置(四番車109)の小歯車20とかみ合って、自身の回転を伝達するための複数個の歯11が形成される。また、大歯車10の回転中心には、回転軸30が貫通して取り付けられる開口部12が形成されている。
【0050】
回転軸30は、ステンレス鋼によって形成され、棒状の本体31と、本体31の一端側に形成され、かつ本体31より径寸法の大きい支持体32と、この支持体32の一端側に形成され、かつ本体31よりも径寸法の小さい第1突出部33と、本体31の他端側に一体成形された小歯車20の他端側に形成され、かつ本体31よりも径寸法の小さい第2突出部36とを備える。
【0051】
小歯車20は、そのモジュールが0.0815mmに形成されたステンレス鋼製の歯車である。
小歯車20の外周側(図中の左右端縁)には、隣接するその他の歯車装置(二番車107)の大歯車10とかみ合って、その大歯車10の回転が伝達される複数個の歯21が形成される。
【0052】
支持体32は、小歯車20と略同じ径寸法を有し、大歯車10の開口部12に挿入される挿入部34と、大歯車10の表面10A(図中下側の面)に接触する接触部35とを備える。第1突出部33は、他端側に向かって突出するように形成され、その先端部分であるほぞ33Aは、0.1mmの径寸法を有するとともに、図示しない軸受けで支持されている。また、第2突出部36は、一端側に向かって突出するように形成され、その先端部分であるほぞ36Aは、0.1mmの径寸法を有するとともに、図示しない軸受けで支持されている。
【0053】
[歯車装置の回転軸の製造方法]
このような三番車108の回転軸30の製造手順について、図6を参照しながら、以下に説明する。
まず、図6(A)に示す母材がステンレス鋼である棒状部材40を旋盤等によって切削される。図6(B)に示すように、支持体32、挿入部34、第1突出部33および第2突出部36の他に、小歯車20、ほぞ33Aおよびほぞ36Aとなる部分を削りだす。なお、この切削工程では、小歯車20となる部分の外周には、まだ歯を形成しない(切削工程)。
【0054】
この後、歯割り加工によって、図6(C)に示すように、小歯車20となる部分の外周に歯21を削りだして小歯車20を形成する。なお、歯割り加工は、歯21と歯21との間の溝の輪郭を有した刃物で、1つ1つの歯を削りだしていく総型歯切り法による加工であってもよく、また、歯車型カッタ、ラック型カッタ、またはホブカッタ等の工具を用いて、歯21を削りだしていく創成歯切り法による加工であってもよい。
ここで、歯割り加工の際、その切削条件等によっては、小歯車20の歯21の端部、および歯21と歯21の間の溝の端部にかえりが生じる場合がある(歯割り工程)。
【0055】
歯割り工程が完了した後、回転軸30を1つ1つに切り落とし、これらの回転軸30に表面硬化処理を施す。ここで、本実施形態では、表面硬化処理として、窒化処理を採用している。なお、回転軸30を1つ1つに切り落とした際に、ほぞ33Aおよびほぞ36Aが形成される(図6(D)参照)。
窒化処理において、図6(D)に示すように、回転軸30をアンモニア中で加熱することにより、アンモニアから発生する窒素が回転軸30中に溶解し、母材であるステンレス鋼に含まれたCr等によって、回転軸30の表面に表面硬化層が形成される。
【0056】
このような窒化処理では、雰囲気ガスや、温度、処理時間等の種々の処理条件を任意に設定することによって、回転軸30の表面に形成される表面硬化層(窒化層)の厚みや表面硬度を任意に選択することができる。
【0057】
なお、窒化処理としては、ガス窒化、液体窒化、軟窒化等の方法を採用してもよい。ここで、表面硬化処理では、歯割り加工で生じたかえりも硬化されることとなり、かえりは、もともと小さく薄肉なので、脆くなって、回転軸30から折れ易くなっている(表面硬化処理工程)。
【0058】
その後、図6(E)に示すように、固体潤滑材としての四フッ化エチレン系樹脂である、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粉をパーフロロカーボン液等の分散媒に分散させ、回転軸30をこの分散液中に浸漬けして表面を塗布する。その後、大気中で加熱してPTFEをその融点以上で融解して、回転軸30の表面に付着させる。そして、付着させた固体潤滑材を空気中で、冷却し、回転軸30の表面に潤滑層が形成され、回転軸30が完成する(潤滑層形成工程)。
この潤滑層50は、図7に示すように、回転軸30の表面上に形成され、他の部材40の表面と回転軸30の表面が直接接触しないようになる(潤滑層形成工程)。
【0059】
なお、本第1実施形態における材料、処理条件等の具体的条件を以下の通りである。
ステンレス鋼:SUS301(オーステナイト系ステンレス鋼)、
ステンレス鋼の表面硬化処理前の全体の硬度:約200Hv、
窒化処理の条件:500℃、2時間、
【0060】
固体潤滑材:四フッ化エチレン系樹脂、中心粒径0.3μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、株式会社 喜多村 製 KD−400AS、
分散媒:パーフロロカーボン液、
分散液の比重:2.1〜2.2g/cm3、
固体潤滑材のコーティング条件:空気雰囲気中で360℃(PTFEの融点は320度であるためその融点以上の温度)、2時間、
以上のような条件で、表面効果処理した結果、ステンレス鋼の硬度は以下に述べる通りである。
ステンレス鋼の表面硬化処理(窒化処理)後の表面の硬度:約1000Hv
【0061】
[摩擦摩耗試験]
上記の手順で、板状のプレートを製造し、窒化処理が施されたプレートの表面に潤滑層が形成されたプレートの耐摩耗性を、摩擦摩耗試験の結果に基づいて、具体的に説明する。なお、この摩擦摩耗試験では、直径3/16inch(0.47625cm)のボールを1Nの荷重で上記プレート上に押しつけ、この状態でプレートを直線往復運動させ、このときのボールおよびプレート間に働く摩擦力を測定した。
【0062】
この摩擦力とボールの往復回数との関係をグラフとして示したものが図8である。この際、摩擦力は、当初一定FAであるが、あるボールの往復回数NAになると、急激に摩擦力が大きくなる。これは、プレート表面に形成された潤滑層が剥がれ始めていることを示している。このときのボールの往復回数NAを表1に示した。さらに、ボールを往復させると、潤滑層が摩耗していき、完全に潤滑層が剥がれて、プレートの表面とボールが直に接触すると摩擦力の増大が止まる。このときの摩擦力がFBであり、このときのボールの往復回数がNBである。以上の試験を行った結果を表1に示した(実施例1)。
【0063】
なお、PTFEを融解させずに直接、上記ステンレス鋼の表面に付着させたプレートにより、上記摩擦摩耗試験を行った例を比較例1とした。
また、PTFEをバインダ(接着剤等)を用いて上記ステンレス鋼の表面に付着させたプレートにより、上記摩擦摩耗試験を行った例を比較例2とした。
評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例1と比較して、比較例1、2は、急激に摩擦力が大きくなるボールの往復回数が小さいことがわかる。すなわち、PTFEを融解させて潤滑層を形成させた実施例1のほうが、潤滑層の摩耗量が少ないことがわかる。
つまり、PTFEを融解させて潤滑層を形成させたほうが、部品の高寿命化による長期信頼性向上が可能となる。また、実施例1と比較例2とを比較することにより、本実施形態の製造方法による金属部品は、従来の方法より約50%((1800÷1200−1)×100=50%)の耐久性が期待される。
【0066】
上述のような本実施形態によれば、次のような効果がある。
(1)潤滑層50は、固体潤滑材をこの固体潤滑材であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)の融点320℃以上でかつ、表面硬化処理(本実施形態では窒化処理)の硬化温度よりも低い温度で融解して形成されていることにより、固体潤滑剤を付着させた初期の状態における固体潤滑剤の潤滑層50を均一な分布とすることができる。このため、固体潤滑剤の付着強度を向上できて潤滑層50を剥がれ難くでき、潤滑層50による効果を長期間維持することができる。
(2)母材であるステンレス鋼の地肌が直接露出する部分が無いため、ステンレス鋼同士が接触することもない。このため、摩耗発生を抑えることができるとともに、例えば、回転軸30に用いた場合には、摩擦損失を少なくでき、エネルギーロスの少ない効率的な駆動を行うことができる。
(3)母材であるステンレス鋼は、固体潤滑材(PTFE)の融点よりも高い温度で表面硬化処理(窒化処理)されているので、固体潤滑剤を融解させるために、その融点まで加熱しても、表面硬化処理した際の温度まで加熱されてステンレス鋼表面の硬度が低下されることはない。このため、固体潤滑剤を融解させてもステンレス鋼表面の硬度は高い状態で維持することができる。従って、長期間の使用により、潤滑層50が減少してステンレス鋼同士が接触しても、その表面硬度が高い状態で維持されているので、摩耗なども発生せず、非常に長寿命である。
【0067】
(4)摺動部品である回転軸30のほぞ33Aおよびほぞ36A表面にも、窒化処理後、PTFEの潤滑層が形成されるので、摺動する部分の耐摩擦性を向上させることができる。
(5)小歯車20の歯21の表面にも、窒化処理後、PTFEの潤滑層が形成されるので、接触する部分である歯21の耐摩擦性を向上させることができる。
【0068】
(6)小歯車20等の材質は、ステンレス鋼であることにより、ステンレス鋼は、鉛を含有しないので、環境に優しい。また、ステンレス鋼は、防錆性を有しており、メッキ加工をする必要がないから、メッキ液を使わないので、環境に優しい。ステンレス鋼は、鉛を含有しないので、環境に優しい。また、ステンレスは、防錆性を有しており、メッキ加工をする必要がないから、メッキ液を使わないので、この点でも環境に優しい。
【0069】
(7)オーステナイト系ステンレス鋼は、切削後の表面が滑らかであるので、より一層均一な潤滑層50を形成することができる。また、耐食性に優れているので、錆等を防止することができる。さらに、一般に非磁性体であるので、ロータ112付近のロータかな112aに使用しているので、磁束を引きつけず、発電機から発生する磁束の漏れが少なくなるから、発電機120のステータ116cに鎖交する磁束数が減少しないので、発電機120の発電能力の劣化を招くことがない。また、外部からの磁力の影響を受けない、すなわち、耐磁性能も向上する。
【0070】
(8)固体潤滑材は、四フッ化エチレン系樹脂(PTFE)であることにより、その融点(約320℃)が窒化、浸炭または浸炭窒化処理を行う温度以下であるので、高温による母材であるステンレス鋼の硬度の劣化がなく、均一な潤滑層50を得ることができる。また、化学的に安定しているから、変質をすることがないので、長期間使用することができる。
【0071】
(9)機械的エネルギの損失が少ないので、時計の動作の持続時間を長期化することができる。また、時計の持続時間が同じでよければ、機械的エネルギのロスが少ないから、機械的エネルギ源を小さくできる。
【0072】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態を説明する。なお、以下の説明では既に説明した部分、部材と同一のものは同一符号を付してその説明を簡略する。
本発明の第2実施形態に係る電子制御式機械時計は、以下の点で第1実施形態に係る電子制御式機械時計と異なる。
【0073】
前記第1実施形態では、歯車装置として回転軸30を製造し、その製造方法は、図6に説明したように、(切削工程)、(歯割り工程)、(表面硬化処理工程)、(潤滑層形成工程)の順に実施して、製造しているのに対し、本第2実施形態では、(歯割り工程)後に、(熱処理工程)を実施している点で異なる。
【0074】
また、本実施形態では、前記第1実施形態では、ステンレス鋼として、オーステナイト系ステンレス鋼を用いているのに対し、本第2実施形態では、マルテンサイト系ステンレス鋼を実施している点で異なる。
【0075】
[歯車装置の回転軸の製造方法]
本実施形態の歯車装置の回転軸30を例に挙げた、製造方法を以下に述べる。まず、第1実施形態(図6参照)と同様に、母材がステンレス鋼である棒状部材を旋盤等によって切削する(切削工程)、回転軸の小歯車の歯を形成する(歯割り工程)を実施する。その後、本実施形態で新たに加わる、回転軸を加熱すなわち焼き入れにより回転軸の内部の硬度まで向上させる(熱処理工程)を行い、また第1実施形態と同様に(表面硬化処理工程)、(潤滑層形成工程)の順に行い回転軸30を製造する。
【0076】
熱処理工程は、図6(C)で(歯割り工程)まで実施された回転軸30を高温で加熱し、その後急冷する。この回転軸30のステンレス鋼の変態点以上の高温で加熱すると、ステンレス鋼の結晶系が変化し、その後急冷することにより、結晶間の結びつきが強くなり、表面だけでなく内部まで硬度が向上する。
【0077】
なお、本実施形態における材料、処理条件等の具体的条件を以下の通りである。
ステンレス鋼:SUS420J2(マルテンサイト系ステンレス鋼)、
ステンレス鋼の熱処理工程前の全体の硬度:約350Hv、
熱処理工程の条件:真空中で1050℃、5分間、その後、50℃の油に付けて窒素ガスで急冷する。
ステンレス鋼の熱処理工程後の全体の硬度:約580Hv、
窒化処理の条件:500℃、2時間、
【0078】
固体潤滑材:四フッ化エチレン系樹脂、中心粒径0.3μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、株式会社 喜多村 製 KD−400AS、
分散媒:パーフロロカーボン液、
分散液の比重:2.1〜2.2g/cm3、
固体潤滑材のコーティング条件:空気雰囲気中で360℃(PTFEの融点は320度であるためその融点以上の温度)、2時間、
【0079】
以上のような条件で、表面効果処理した結果、ステンレス鋼の硬度は以下に述べる通りである。
ステンレス鋼の表面硬化処理(窒化処理)後の表面の硬度:約1000Hv、
ステンレス鋼の表面硬化処理(窒化処理)後の全体の硬度:約580Hv、
ステンレス鋼の潤滑層形成工程後の表面の硬度:約1000Hv、
ステンレス鋼の潤滑層形成工程後の全体の硬度:約500Hv
【0080】
上述のような本実施形態によれば、前述の第1実施形態の効果に加えて次のような効果がある。
(10)ステンレス鋼は、マルテンサイト系ステンレス鋼であることにより、切削性に優れているので、ステンレス鋼を加工するバイトの寿命を延ばすことができる。また、焼き入れ等の熱処理を行うことで、ステンレス鋼の硬度を調節することができるので、ステンレス鋼自身、すなわちステンレス鋼の表面だけでなく、ステンレス鋼の内部も硬くすることができ、ステンレス鋼の変形に対して強度を向上させることができる。
(11)ステンレス鋼全体の硬度は、未処理の状態から熱処理工程を経て、350Hvから580Hv程度に向上する。この後の表面硬化処理(窒化処理)工程を経て、ステンレス鋼全体の硬度は、500Hvに減少するが、熱処理工程を経ていない場合の350Hvよりは、硬度が向上する。したがって、ステンレス鋼全体の硬度が向上し、表面とステンレス鋼内部との硬度の差が、小さくなり、曲げなどの塑性変形に対して強くなる。また、仮に回転軸30を使用して、表面の潤滑層が摩耗しても、表面硬化層が残っているので、軟質な回転軸30の母材であるステンレス鋼での接触を抑えることができる。
【0081】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態に係る電子制御式機械時計は、以下の点で第1実施形態に係る電子制御式機械時計と異なる。
【0082】
前記第1実施形態では、歯車装置として回転軸30を製造し、その製造方法は、図6に説明したように、(切削工程)、(歯割り工程)、(表面硬化処理工程)、(潤滑層形成工程)の順に実施して、製造しているのに対し、本第3実施形態では、図9に示すように、(表面硬化処理工程)後に、(研磨処理工程)を実施している点で異なる。
【0083】
[歯車装置の回転軸の製造方法]
本実施形態の歯車装置の回転軸30を例に挙げた、製造方法を以下に述べる。
まず、第1実施形態と同様に、母材がステンレス鋼である棒状部材を旋盤等によって切削する(切削処理工程)、回転軸の小歯車の歯を形成する(歯割り工程)を実施する。また第1実施形態と同様に(表面硬化処理工程)、その後、本実施形態で新たに加わる(研磨処理工程)(図9E)を行い、その後(潤滑層形成工程)(図9F、第1実施形態と同様である)の順に行い回転軸30を製造する。
【0084】
研磨処理工程は、図9(D)で(表面硬化処理工程)まで実施した後、所定の砥粒や、研磨剤とともに回転軸30をバレル80内に投入してかえり取りバレル処理を施してもよいが、後述するほぞ磨き、かな磨きを行うのがなおよい。
回転軸30の小歯車20の歯21、回転軸30のほぞ33Aおよびほぞ36A等は、ほぞ研磨処理装置60等によりの研磨が行われる(図10参照)。
【0085】
具体的には、ほぞ研磨処理装置60は、回転軸30のほぞ33Aおよびほぞ36Aを下側から支持する支持台61と、回転軸30の上側にあって、小歯車20の歯21と噛み合う歯62Aが形成されたドライビングホイール62と、ほぞ33Aおよびほぞ36Aを上側から圧するバニッシングホイール63とを備える。
【0086】
ドライビングホイール62は、軸62Bを中心にして矢印Aの方向に回転するものであり、歯62Aが小歯車20の歯21に噛み合って、小歯車20を矢印Bの方向に回転させる。なお、ドライビングホイール62と噛みあう歯は、小歯車20の歯21には限定されない。
【0087】
バニッシングホイール63は、軸63Bを中心にして矢印Cの方向にそれぞれ回転するものであり、超硬合金製の接触部63Aが、回転しているほぞ33Aおよびほぞ36Aの周面を上側から圧し、これにより、ほぞ33Aおよびほぞ36Aの周面を研磨する。
【0088】
次に、図11に示すように、ほぞ研磨処理がなされた回転軸30を、摺動面研磨処理装置70に取り付けて、三番カナ231Aの摺動面10Aに摺動面研磨処理を施し、回転軸30を完成させる。
【0089】
ここで、摺動面研磨処理装置70は、回転軸30を下側から支持する支持台71と、回転軸30の上側において、小歯車20の歯21と噛み合う歯72Aが形成されたホイール72とを備える。
【0090】
ホイール72は、軸72Bを中心にして矢印Dの方向に回転するものであり、その外周には、小歯車20の歯21の方向に対して、やや斜めにねじられた木製の歯72Aが形成されている。そして、この歯72Aは、小歯車20の歯21に噛み合うようになっている。
【0091】
ホイール72が矢印Dの方向へ回転することによって、回転軸30は、歯10,72A同士の噛み合いを介して、ウォームギアの様に連続的に矢印Eの方向へ回転する。この際、ホイール72の歯72Aの面は、歯21の摺動面に対してやや斜めに形成されているので、この歯72Aの面は、歯21の摺動面を圧しながら摺動し、摺動面を研磨する。
【0092】
なお、本実施形態における材料、処理条件等の具体的条件は、(研磨処理工程)を除き、第1実施形態と同様である。
ほぞ33Aおよびほぞ36Aの研磨を行ったことで、その表面粗さは、実施前のRa 200nmからRa 30nmまで改善され、小歯車20の歯21の研磨を行ったことで、その表面粗さは、実施前のRa 200nmからRa 10nmまで改善され、略鏡面状態になる。
研磨工程を行う順番は、硬化処理後に限定せず、歯割・切削後でもよいが、本実施形態のように硬化処理後が望ましい。
硬化処理後で表面硬度が高いと、研磨時に研磨剤が部品に突き刺さることが少なくなり、研磨剤が摺動部材に残留している場合には、残留する研磨剤によって摺動部が摩耗され、耐久性能を悪化させてしまうためである。
また、硬化処理によって表面が荒れる可能性があり、それを改善するためにも硬化処理後の研磨が望ましい。
【0093】
上述のような本実施形態によれば、前述の第1実施形態の効果に加えて次のような効果がある。
(12)回転軸30の表面を平滑にする研磨処理工程を実施することにより、表面粗さの改善がなされているから、潤滑層の分布をより一層、均一にすることができる。また、回転軸30の表面が平滑で、鏡面の状態になることにより、摩擦で潤滑層がなくなっても、母材同士が接触しても摩擦力は小さいので、機械的エネルギのロスを少なくできる。
【0094】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態に係る電子制御式機械時計は、以下の点で第3実施形態に係る電子制御式機械時計と異なる。
前記第3実施形態では、(研磨処理工程)でバレル処理により実施しているのに対し、本第4実施形態では、(研磨処理工程)の代わりに、ショットピーニングを実施している点で異なる。
【0095】
ショットピーニングは、1〜200μmの砂やガラスビーズを1〜5気圧の範囲で部品等に投射する方法である。本実施形態では、1μmのシリカを2気圧で投射した。
また、ショットピーニングの前に、第3実施形態に示す研磨を行ってもよい。部品の表面粗さがショットピーニングによって形成されるディンプルに対して荒れている場合には、ディンプルの効果がなくなるため、研磨によって表面粗さを改善しておくのがよい。
【0096】
上述のような本実施形態によれば、前述の第1実施形態の効果に加えて次のような効果がある。
(13)ショットピーニングにより、回転軸30の母材表面の凹凸やスケール等を取り除くので、母材表面の粗さおよび硬さの改善ができる。
また、高低差の小さな凹凸(デインプル)形状となるため、アンカー効果によって、潤滑層が残るため、使用により摩耗が進んでも、潤滑層が残りやすい。
【0097】
なお、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は、本発明に含まれるものである。例えば、表面硬化処理としては、前記各実施形態では、窒化処理を採用していたが、これに限られず、浸炭窒化処理や浸炭処理を採用してもよい。浸炭窒化処理では、母材表面部の窒化鉄および炭素からなる硬化層を生成させるので、表面の硬度を向上させることができる。また、浸炭処理では、炭素含有量が0.25重量%以下までの低炭素鋼に対して行われる処理で、浸炭処理後の材料は、表面は焼き入れにより、耐摩耗性が大きくなり、材料内部は硬化不能で柔軟な組織のままであるので靱性が高くなるという効果が得られる。
なお、窒化処理をする際に適用できる材料としては、3.0%以上のクロムを含む材質のものであればよく、ステンレススチール、クロムモリブデン鋼であればよい。
【0101】
【発明の効果】
本発明によれば、固体潤滑剤の付着強度を向上でき、かつ母材表面の硬度低下を防止できて摩耗の発生を抑えることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る歯車装置を適用した電子制御式機械時計の要部を示す平面図である。
【図2】前記実施形態の電子制御式機械時計の要部を示す断面図である。
【図3】前記実施形態の電子制御式機械時計の要部を示す断面図である。
【図4】前記実施形態の電子制御式機械時計の構成を示すブロック図である
【図5】前記実施形態の歯車装置を示す拡大断面図である。
【図6】前記実施形態における回転軸の製造過程を示す模式図である。
【図7】前記実施形態における母材と潤滑層を示す模式図である。
【図8】前記実施形態における摩擦摩耗試験の摩擦力とボールの往復回数の関係を示すグラフである。
【図9】本発明の第3実施形態に係る回転軸の製造過程を示す模式図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る回転軸のほぞ磨きの模式図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係る回転軸の歯車(かな)磨きの模式図である。
【図12】従来実施されていた方法により、母材上に付着された固体潤滑材を示す模式図である。
【符号の説明】
10 大歯車
20 小歯車
21 歯
30 回転軸
33A、36A ほぞ
35 接触部
50 潤滑層
107〜111 歯車装置
117 輪列
118 指針
120 発電機
150 回転制御装置
Claims (6)
- 窒化処理、浸炭窒化処理、および浸炭処理のいずれかによる表面硬化処理がなされた鋼材からなる母材と、
前記母材の少なくとも他の部品に対して接触する接触面に固体潤滑材として付着された四フッ化エチレン系樹脂からなる潤滑層とを備えた動力伝達用歯車であって、
前記潤滑層は、前記固体潤滑材をその融点以上でかつ、前記表面硬化処理の硬化温度よりも低い温度で融解して前記接触面に付着させて形成されていることを特徴とする動力伝達用歯車。 - 請求項1に記載の動力伝達用歯車において、
前記母材の表面硬化処理後に、少なくとも前記接触面を平滑にする研磨処理を行い、
前記研磨処理を施された接触面の表面に、前記潤滑層が形成されていることを特徴とする動力伝達用歯車。 - 請求項1に記載の動力伝達用歯車において、
前記母材の表面硬化処理後に、少なくとも前記接触面を硬化させるショットピーニングを行うことを特徴とする動力伝達用歯車。 - 請求項1から請求項3のいずれかに記載の動力伝達用歯車と、この歯車に動力を加える駆動源とを備えることを特徴とする機器。
- 請求項4に記載の機器において、
前記駆動源と、前記動力伝達用歯車とを備える時計であることを特徴とする機器。 - 請求項5に記載の機器において、
前記駆動源として用いられる機械的エネルギ源と、この機械的エネルギ源に連結されて動力伝達装置として用いられる増速輪列と、この増速輪列により駆動されるとともに電力を発生して電気的エネルギを出力する発電機と、前記輪列に結合された指針と、前記発電機から出力された電気的エネルギにより駆動されて前記発電機の回転周期を制御する回転制御装置とを備える電子制御式機械時計であることを特徴とする機器。
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