JP3747456B2 - アミノ酸組成が改良されたトランスジェニック植物の作出法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、遊離アミノ酸含量が増強されたトランスジェニックトマトの作製方法、作製されたトランスジェニックトマトに関する。より具体的には、本発明は、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、スレオニン、アラニン、ヒスチジンおよびグルタミン酸の少なくとも1つを高蓄積するトランスジェニックトマトの作製方法およびその方法により作製されたトランスジェニックトマトに関する。
【0002】
【従来の技術】
植物に特定の遺伝子を導入し形質転換させる技術が世界で初めて報告されたのは土壌細菌、Agrobacterium tumefaciensを用いてタバコに遺伝子を導入した研究であり、その後多くの有用農業形質を付与した作物が作出され、植物に有用成分を作らせる試みも行われてきた。このようなトランスジェニック植物作成技術を用いた植物育種法は、交配等による従来の伝統的な育種に代わるものとして有望視されている。その中で窒素同化に関する植物の特性改良の研究も進められてきており、特にアミノ酸は窒素代謝産物の中でも果実、根菜類の根、種子などにおいて重要な成分であり、また食味にも大きく影響を与えることから盛んに研究が行われてきている。
【0003】
アミノ酸の生合成に関する研究としては、例えば、大腸菌由来DHDPS遺伝子をタバコに導入し、遊離リジンが200倍上昇したという報告(米国特許第5258300号、Molecular Genetics Res.& Development)、AK遺伝子の導入により遊離リジンが増加したという報告(EP485970,WO9319190)、AS遺伝子をタバコに導入し、Asn含量が100倍上昇したという報告(WO 9509911,Univ New York,WO 901533, Univ Rockfeller)、アントラニル酸合成酵素をイネに導入しトリプトファン含量が90倍上昇したという報告(WO 9726366,DEKALB Genetic Corp)がなされている。遺伝子導入の対象となる植物はタバコ、シロイヌナズナ等のモデル植物に限られず、トマトなどの果実をもつ植物も利用されている。例えば、トマトについては1986年にアグロバクテリウム法を用いて形質転換体が作出され(S.McCormick,J.Niedermeyer,J.Fry,A.Barnason,R.Horsch and R.Fraley,Plant Cell Reports,5,81−84(1986);Y.S.Chyi,R.A.Jorgenson,D.Goldstern,S.D.Tarksley and F.Loaiza−Figueroe,Mol.Gen.Genet.,204,64−69(1986))、それ以来形質転換系の改良がなされてきている。また、アミノ酸生合成、窒素同化に関与する遺伝子は上述の他にも多数知られており、アスパラギナーゼ、GOGAT等が含まれ、これらの塩基配列も報告されている。
【0004】
ここで、特にα−アミノ酸の一種であるグルタミン酸は、一般にタンパク質中に広く分布し、調味用途として使用されているトマトのうま味成分や、ダイズではその醸造食品(例えば、醤油、ミソなど)中のうま味成分は、いずれもグルタミン酸であることが知られており、高等植物では窒素代謝の最初の段階で合成されることが知られている。また、グルタミン酸より生じたグルタミン、アスパラギンが篩管を経由して各組織に分配されその他のアミノ酸合成、タンパク質合成に用いられることが分かっている。植物においては、スクロースやアミノ酸などの光合成産物の輸送経路である篩管には高濃度に存在する例が報告されている(茅野充男ら、植物栄養・肥料学p125(1993))が、可食部分に高濃度に含まれる例としては、トマト果実に0.25g/100gf.w.程度含まれる例(ときめき2号、日本食品工業学会誌、第39巻、p64−67(1992))が知られている。しかしながら、グルタミン酸の場合は、ソース器官での生合成能が向上できたとしてもアミノ基供与の出発物質であり、前述のように種々の生合成経路で代謝されるため、植物体中でグルタミン酸を高濃度に蓄積させるのは容易ではない。
【0005】
交配育種、遺伝子操作を問わず、これまでグルタミン酸の濃度を植物体の可食部分中で飛躍的に高めるのに成功した例は出願人の知る限り見当たらない。例えば、GDH(グルタミン酸デヒドロゲナーゼ)遺伝子を導入したトランスジェニック植物が作製されており、大腸菌由来グルタミン酸デヒドロゲナーゼGDH(NADP−GDH)を除草剤フォスフィノスリシン耐性付与を目的としてタバコとトウモロコシに導入したところ、根でグルタミン酸含量が1.3〜1.4倍増加したことが報告されており(Lightfoot Davidら、CA2180786(1996)、この報告では、タバコの根において、14.7mg/100gf.w.であったグルタミン酸含量が20.6mg/100gf.w.に、トウモロコシの根において16.2mg/100gf.w.であったグルタミン酸含量が19.1mg/100gf.w.に増大した。これ以外にも、GDH遺伝子の利用について記載された報告はあるが、実施例は示されていない(WO9509911、クロレラ由来のα、β−サブユニット(WO9712983))。またグルタミン酸族アミノ酸についての分析値も示されていない。
【0006】
無機窒素を有機体に同化する第一段階は、上述したように主にグルタミンを生成するためのグルタミン酸へのアンモニアの取り込みであり、これはグルタミンシンテターゼ酵素(GS)により触媒される。次いで、このグルタミンは、α−ケトグルタル酸とから、グルタミン酸シンターゼ(GOGAT)に触媒され、2分子のグルタミン酸が生成される。このGS/GOGAサイクルが、植物における窒素同化の主要な経路と考えられている(文献:MiflinおよびLea,1976,Phytochemistry,15;873−885)。一方、アンモニアの取り込みがGSにより触媒される経路以外の代謝経路により進行する事が知られている(Knight and Langston−Unkefer,1988,Science,241:951−954)。即ち、グルタミン酸を生成するためのα−ケトグルタル酸へのアンモニアの取り込みであり、これはグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)により触媒される。しかし、植物のGDHは、アンモニアに対して高いKm値を有しており、一方、アンモニアは毒性があり、細胞内アンモニアは通常低濃度であるため、正常な生育条件下でのこの窒素同化経路の役割については未だ充分には明らかにされていないが、ある研究では、細胞内のアンモニウム濃度が正常レベルを越えて上昇した時の窒素同化に寄与しているとの報告がある(Knight and Langston−Unkefer、前掲)。
【0007】
合成されたグルタミン酸は、さらに別のアミノ酸、アスパラギンやアラニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、バリン、セリン、チロシン、プロリン、γ−アミノ絡酸(GABA)等の合成に利用される。特に、トマトの果実やシュガービートの根等の貯蔵器官にはGABAが多量に蓄積されていることが知られており、グルタミン酸が消費されていると考えられる。GABAの蓄積は細胞内の酸性や低温、ヒートショックなどの環境ストレスによって誘導されることが知られている(StreeterおよびThimpson,Plant Physiol,1972,49,572−578:Reggianiら,Plant Cell Physiol,1988,29;981−987:Menengusら、1989,Plant Physiol,90;29−32:Robertsら、1992,Plant Physiol 98;480−487:Shelpら、1995,Plant Physiol 94;219−228:Aurisanoら、1995,Plant Cell Physiol 36;1525−1529:Wallaceら、1990,Plant Physiol 75;170−175:Mayerら、Plant Physiol,94;796−810)。GABAはグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)の触媒によりグルタミン酸から合成される。GADの活性は細胞内のCaイオン濃度やカルモジュリンによって調節されており(Lingら、1994,Plant Cell,6;1135−1143:Sneddenら、1995,Plant Physiol,108;543−549:Araziら、1995,Plant Physiol,108;551−561:Sneddenら、1996,J.Biol.Chem,271;4148−4153)、様々なストレスによって細胞内のCaイオン濃度が誘導的に変化し、その結果GAD活性が急速に高められると考えられている。このため、GABAは植物細胞におけるシグナル伝達物質としての働きも期待されているが、詳細についてはほとんど分かっていない。
【0008】
Petuniaで初めてGADをコードする遺伝子が単離され(Baumら,1995,J Biol Chem,268;19610−19617)、その後、トマト(Gallegoら、1995,Plant Mol Biol,27;1143−1151)やArabidopsis(Zikら、1998,Plant Mol Biol,37;967−975)からもGAD遺伝子が単離された。いずれの場合もC末端に30−32アミノ酸からなるカルモジュリン結合サイトが共通に存在している。しかし、その遺伝子発現の器官は植物によって異なっており、Petuniaでは花弁と花で、トマトでは果実で、ArabidopsisではGAD1遺伝子が根で、GAD2遺伝子が植物体全体で発現していることが報告されている。
Gideonら(EMBO,15;2988−2996,1996)は、カルモジュリンによる発現調節機能について研究を行う目的で、Petuniaより単離されたGAD遺伝子をタバコに導入し形質転換体を作出した。この報告によれば、GAD遺伝子全長をセンス方向に導入した場合とカルモジュリン結合サイトを除き、同様にセンス方向に導入した場合の形質転換体について調査を行った結果、GABAが増加し、グルタミン酸が減少した。その増減の程度はカルモジュリン結合サイトを除いた場合のほうが著しく、また、植物の背丈が低くなり、形態的差異も観察されたことが報告されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、植物の貯蔵器官の遊離アミノ酸含量、特に根、種子などの植物の可食部分における遊離アミノ酸、特にグルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、スレオニン、アラニンおよびヒスチジンの少なくとも1つの蓄積を増強する方法、および、遊離アミノ酸が高度に蓄積されたトランスジェニック植物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、窒素の同化および利用に関わる主要な酵素の発現レベルおよび/または細胞特異的な発現バランスを変化させた植物およびその作製方法を提供することによって達成される。このような植物は、窒素同化または利用酵素をコードする1以上の遺伝子を適切な制御配列と共に導入し、これを過剰発現または発現抑制することによって作製される。
特に、本発明により、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)遺伝子をアンチセンス方向に植物に導入し、その発現を変えることによって遊離アミノ酸を高度に蓄積するトランスジェニック植物、特にグルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、スレオニン、アラニンおよびヒスチジンの少なくとも1つを高度に蓄積する植物が得られる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明は、植物における窒素代謝の遺伝子操作に関する。特に、本発明は、果実、根菜類の根、種子など有用植物の可食部分の遊離アミノ酸、特にうま味成分であるグルタミン酸の高蓄積を図るために窒素同化および利用に関与する酵素の発現量を変化させることに関する。これらの酵素はその発現が増強され、あるいは修飾され、あるいは抑制され、所望の性質を有する植物が作製される。
本発明において使用される標的遺伝子の一つのグループは、グルタミン酸のGABAへの代謝に関係する酵素をコードする遺伝子群である。標的遺伝子としては例えば、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)が挙げられる。操作は植物を本明細書に記載された核酸構築物で形質転換することにより行うことができる。形質転換された植物またはそれらの子孫は所望の改変された酵素を発現し、相当するmRNAの発現変化、窒素同化または利用能の変化、および/または植物の遊離アミノ酸含量増加についてスクリーニングされる。
【0011】
簡単には本発明の方法は以下の手順を含み、また本発明のトランスジェニック植物はこのような方法によって作製されたトランスジェニック植物である:
a)目的とする遺伝子をクローニングするステップ;
b)得られた遺伝子を必要により適切なベクターへ適切な方向に挿入し、再クローニングするステップ;
c)植物細胞へ上記ベクターを導入し、形質転換体を得るステップ;
d)得られた形質転換体を植物体へ再生させ栽培するステップ;
【0012】
本発明の実施態様の一つにおいては、窒素同化または利用酵素をコードする1個または数個の遺伝子配列またはそのアンチセンス配列が強力な構成的プロモーター制御下に置かれ、植物体中で過剰発現される。
本発明の別の実施態様においては、窒素同化または利用酵素の発現パターンが改変される。このような発現パターンの改変は、例えば、
a)酵素をコードする遺伝子配列またはそのアンチセンス配列が所望の発現パターンを有するプロモーター(例えば、器官特異的または生育ステージ特異的発現パターンを示すプロモーター)に機能し得る状態で結合されているトランスジーン、
b)酵素をコードする遺伝子配列またはそのアンチセンスmRNAの好ましいパターンでの発現を活性化する修飾調節遺伝子、
c)好ましいパターンで発現するように修飾された調節領域を有する、1コピーの天然遺伝子のアンチセンス配列、
の少なくとも1つを用いて植物を遺伝子操作することによって達成され得る。
【0013】
本発明のさらに別の実施態様においては、窒素同化または利用経路において改変された酵素または異なる型の酵素が発現される。この型の実施態様には、宿主植物の窒素同化または利用酵素の触媒作用とは異なる触媒作用を有する対応酵素をコードする、植物細胞中で発現可能な遺伝子構築物を作製し、これにより植物を遺伝子操作することが含まれる。
このような手段をとることにより、増強された遊離アミノ酸を含有する植物が得られる。
このような植物を育成するために伝統的な作物育種法では大きな分離集団のスクリーニングを必要とし、多大の時間を要するところ、本発明によれば、こうした労力を回避し時間を節約することができる。
【0014】
以下は本明細書において使用される用語および略語の定義である。
35S = カリフラワーモザイクウイルスプロモーター
GAD = グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)
GDH = グルタミン酸デヒドロゲナーゼ
遺伝子融合体= 異種遺伝子が連結されたプロモーターを含む遺伝子構築物
(前記プロモーターは異種遺伝子の転写を調節する)
異種遺伝子 = 遺伝子構築において、異種遺伝子はその遺伝子が自然に連結されていないプロモーターに連結されていることを意味する。異種遺伝子は、前記プロモーターを寄与する生物からのものであってもよく、またそうでなくてもよい。
PCR =ポリメラーゼ連鎖反応
【0015】
本発明に使用できる窒素同化または利用酵素遺伝子には既に述べたような種々の遺伝子が含まれるが、グルタミン酸を蓄積させるために利用できる好ましい遺伝子の例のひとつとして、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)遺伝子が挙げられる。GAD遺伝子が使用される場合は、アンチセンス方向で発現される。
本発明の好ましい実施態様の一つにおいては、トマト由来GAD遺伝子をコードする配列をアンチセンス方向に連結された強力な構成植物プロモーターであるカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーターをコードする組換え構築物を用いて、トマト植物を遺伝子工学的に操作される。GAD遺伝子の発現が抑制された系統は、対照の非形質転換トマトよりも遊離アミノ酸含量の増加、特にグルタミン酸含量の増加(2倍)が見られた。
【0016】
本発明に使用し得る核酸構築物は当業者に公知の方法を使用して作成し得る。
構築物を単離し、特性決定する方法、あるいは、その操作および構築物それ自体を作るのに使用しうる組換えDNA法については、Sambrookら、Molecular cloning−Laboratory manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Pressのような出典を参考にし得る。所望の成分の塩基配列が知られているような場合には生物起源からそれを単離するのではなく合成することが有利なこともある。また、塩基配列全体、あるいは部分的に知られている場合には、所望の核酸断片を増幅することもできる。この様な場合当業者はCaruthersら、1980,Nuc.Acids.Res.Symp.Ser.7:215−233及びChow及びKempe,1981,Nuc.Acids.Res.9:2807−2817のような文献を参考にすることができる。その他の場合、所望の成分はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅により有利に生産しうる。PCR法については、当業者は、Gelf and,1989,PCR技術、DNA増幅に関する原理及び応用、H.A.Erlich編集、ストックトンプレス,N.Y.、分子生物学における現行のプロトコル、2巻、15章、Ausubelら編集、ジョンウイリイ&サンズ,1988を参考にし得る。
【0017】
本発明に使用される遺伝子構築物は、一般に、目的遺伝子の他に植物細胞内で機能する適切なプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子ターミネーターのような適切なターミネーター、その他の発現制御に有用なエレメント、および、形質転換体を選抜するための適切なマーカー遺伝子、例えばカナマイシン耐性、G418耐性、ハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性遺伝子を含んでいる。この構築物に含まれるプロモーターは構成的プロモーターであっても器官特異的若しくは生育ステージ特異的であってもよく、使用する宿主、遺伝子、必要とする発現量、発現させるべき器官、生育ステージ等に応じて選択することができる。
本発明によれば、窒素同化または利用酵素をコードする遺伝子のアンチセンスmRNAの過剰発現を示す植物は、所望の酵素をコードする配列のアンチセンス配列に連結された植物プロモーターを含む遺伝子構築物で植物細胞を形質転換することにより作製することができる。本発明の好ましい実施態様において、関連プロモーターは強力かつ非器官特異的または非生育ステージ特異的プロモーター(例えば、多くまたは全ての組織中で強く発現するプロモーター)である。この様な強力な構成的プロモーターの例として、CaMV35Sプロモーターが挙げられる。
【0018】
本発明の別の実施態様において、器官特異的または生育ステージ特異的プロモーターを所望の酵素をコードする配列に結合させた遺伝子構築物で植物を操作するのが有利なことがある。例えば、光合成組織及び器官中の発現が所望される場合は、リブロースビスフォスフェートカルボキシラーゼ(RuBisCO)遺伝子又は葉緑体a/b結合蛋白質(CAB)遺伝子のプロモーターが使用しうる。種子中の発現が所望される場合は、種々の種子貯蔵蛋白質遺伝子のプロモーターを使用することができ、果実中での発現が所望される場合は、果実特異的プロモーター(例えばトマトの2A11)を使用することができ、塊茎中での発現が所望される場合は、塊茎貯蔵蛋白質遺伝子のプロモーター(例えばポテトのパタチン)を使用することができる。
【0019】
本発明の更に別の実施態様において、誘導プロモーターを所望の酵素をコードする配列に結合させた遺伝子構築物で植物を形質転換する事が有利であり得る。この様なプロモーターの例は多岐にわたる。例えば、熱ショック遺伝子、防御応答遺伝子(例:フェニルアラニンアンモニアリアーゼ遺伝子)、傷害応答遺伝子(例:ヒドロキシプロリンに富む細胞壁蛋白質遺伝子)、化学誘導遺伝子(例:ニトレート還元酵素遺伝子、キチナーゼ遺伝子)、暗所誘導遺伝子(例:アスパラギンシンテターゼ遺伝子(CoruzziおよびTsai、US5,256,558)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0020】
本発明の組換え核酸構築物は、その構築物の伝達追跡のための選択可能なマーカーを含んでもよい。例えば、細菌中で伝達される構築物は抗生物質耐性遺伝子、例えばカナマイシン、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、またはクロラムフェニコール対する耐性を与える遺伝子を含むことが好ましい。構築物を伝達するのに適したベクターとして、プラスミド、コスミド、バクテリオファージまたはウイルスが挙げられる。加えて、組換え構築物は、これらの構築物により形質転換された植物細胞の単離、同定または追跡のための植物で発現し得る選択可能なマーカー遺伝子又はスクリーニング可能なマーカー遺伝子を含んでも良い。選択可能なマーカーとして、抗生物質耐性(例えば、カナマイシンまたはハイグロマイシンに対する耐性)、または除草剤耐性(例えば、スルフォニル尿素、フォスフィノスリシン、またはグリフォゼートに対する耐性)を与える遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。スクリーニング可能なマーカーとして、β−グルクロニダーゼをコードする遺伝子(Jefferson,1987,Plant Mol.Biol.Rep 5:387−405)、ルシフェラーゼをコードする遺伝子(Owら、1986,Science 234:856−859)、アントシアニン色素産生を調節するB及びC1遺伝子産物(Goffら、1990,EMBO J,9:2517−2522)が挙げられるがこれらに限定はされない。
【0021】
本発明に使用できる遺伝子導入法は特に限定されず、植物細胞あるいは植物体への遺伝子導入法として当業者に知られるいずれの方法を使用してもよい。例えば、本発明の実施態様の一つにおいて、アグロバクテリウムが遺伝子構築物を植物に導入するのに用いられる。この様な形質転換は2成分アグロバクテリウムT−DNAベクター(Bevan,1984,Nuc.acid Res.12:8711−8721)、および同時培養操作(Horschら、1985,Science,227:1229−1231)を使用することが望ましい。一般に、アグロバクテリウム形質転換系が双子葉植物を操作するのに使用される(Bevansら、1982,Ann.Rev.Genet.,16:357−384;Rogersら、1986,Methods Enzymol.,118:627−641)。アグロバクテリウム形質転換系はまた単子葉植物および植物細胞を形質転換するのに使用することもできる(Hernalsteenら、1984, EMBO J.,3:3039−3041;Hoykass−Van Slogterenら、1984,Nature,311:763−764;Grimsleyら、987,Nature,325:167−1679;Boultonら、1989,Plant Mol.Biol.,12:31−40;Gouldら、1991,Plant Physiol.,95:426−434)。植物を形質転換するためにアグロバクテリウム系を利用する場合は、組換えDNA構築物は植物細胞に導入すべきDNA配列に隣接する位置に、T−DNA領域の少なくとも右ボーダー配列を更に含む。好ましい実施態様においては、移入される配列は左右のT−DNAボーダー配列の間に挿入される。この様なT−DNAをベースとする形質転換ベクターの適切な設計及び構築は当業者に公知である。
【0022】
別の実施態様において、組換え核酸構築物を植物および植物細胞に導入する為の種々の別法を使用することができる。別の遺伝子導入法および形質転換方法として、裸のDNAの、カルシウム、ポリエチレングリコール(PEG)またはエレクトロポレーション介在性取り込みによるプロトプラスト形質転換(Paszkowskiら、1984,EMBO J.,3:2717−2722;Potrykusら、1985,Mol.Gen.Genet.,199:169−177;Frommら、1985,Proc.Nat.Acad.Sci.USA,82:5824−5828;Shimamotoら、1989,Nature,338:274−276)が挙げられる。本発明によれば、多種の植物及び植物細胞系が本発明の核酸構築物および上記の形質転換方法を使用して本明細書に記載された所望の生理学的特性につき操作しうる。これらの方法は、標的が単子葉植物または植物細胞である場合に特に有益である。好ましい実施態様において、操作のための標的植物および植物細胞として、トマト、ポテト、ビート、ダイズ、アラビドプシス、トウモロコシ、小麦、イネ、サトウキビ等が挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましいのはトマトである。
【0023】
本発明によれば、本明細書に開示されたような遺伝子構築物を、プロトプラスト、組織培養細胞、組織及び器官外殖体、花粉、胚ならびに植物全体を含むがこれらに限定されない種々の植物細胞型に導入および操作することにより所望の植物が得られる。本発明の実施態様において、操作された植物体は下記のアプローチおよび方法に従って形質転換体につき選択又はスクリーニングされる。次に単離された形質転換体を植物個体に再生させてもよい。植物細胞、組織または器官から植物個体に再生するための方法は、多くの植物種において当業者に公知である。
【0024】
形質転換された植物細胞、カルス、組織または植物は、形質転換に用いた遺伝子構築物に存在するマーカー遺伝子によりコードされた形質につき選択又はスクリーニングする事により同定され、単離することができる。例えば、形質転換遺伝子構築物が耐性を与えるような抑制量の抗生物質または除草剤を含む培地で操作された植物体を生育させることにより、選択を行うことができる。更に形質転換された植物細胞および植物は、本発明の組換え核酸構築物に存在しうる可視のマーカー遺伝子(例えば、β−グルクロニダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、B遺伝子またはC1遺伝子)の活性につきスクリーニングする事により同定しうる。この様な選択方法およびスクリーニング方法は当業者に公知である。
【0025】
また、本発明の遺伝子構築物を含む植物または植物細胞形質転換体を同定するために物理的方法および生化学的方法が使用しうる。そのような方法として、
1)組換えDNAインサートの構造を検出および測定するためのサザン分析またはPCR増幅;
2)遺伝子構築物のRNA転写産物を検出および測定するためのノーザンブロット、S1 RNase保護、プライマー伸長PCR増幅または逆転写酵素PCR(RT−PCR)増幅;
3)遺伝子構築産物が蛋白質である場合は、蛋白質ゲル電気泳動、ウエスタンブロット、免疫沈殿、またはエンザイムイムノアッセイが挙げられるが、これらに限定されない。これらのアッセイ方法は全て当業者に公知である。
【0026】
本発明によれば、改良された成分特性を有する植物を得るため、形質転換された植物を所望の生理学的変化に関してスクリーニングしてよい。例えば、GAD酵素の発現抑制に関して操作した場合、形質転換された植物は、所望の組織および生育段階でGAD酵素の発現が所望のレベルに低下した植物について試験されるであろう。次に、所望の生理学的変化、例えば、GADの発現低下を示す植物を、所望の成分変化について引き続きスクリーニングすることができる。
本発明によれば、窒素同化プロセスまたは利用プロセスの変化で操作された植物は、改良された成分特性、すなわち、遊離アミノ酸、特に、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、スレオニン、アラニン、ヒスチジン高含有、とりわけうま味成分であるグルタミン酸高含有を示しうる。この様な改良された特性を有する操作された植物および植物系統は、植物の遊離アミノ酸含量を測定する事により同定しうる。この分析のための操作および方法は当業者に公知である。
本発明によって得られる植物は、遊離アミノ酸含量において対照植物(非形質転換植物)に対して増加した植物である。好ましい実施態様において、所望の植物は、その果実、根、種子等の可食部分での遊離アミノ酸含量、とりわけうま味成分であるグルタミン酸含量が2倍以上の増加を示し、全遊離アミノ酸含量も最大約3倍程度まで増加する。グルタミン酸以外のアミノ酸に関しては、特に、アスパラギン酸、アスパラギン、アラニン、セリン、スレオニンおよびヒスチジンの増加が著しい。本発明によってアミノ酸組成が改良され得る植物種は特に限定されないが、グルタミン酸を主要なうま味成分とするトマトが特に好ましい。
【0027】
【実施例】
本発明は、トマト由来GAD遺伝子をコードする配列をアンチセンス方向に連結された強力な構成植物プロモーターであるカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーターをコードする組換え構築物を用いて、トマト植物を遺伝子工学的に操作した以下の実施例により具体的かつ詳細に説明される。
実施例1.トマト由来GAD遺伝子の単離
70%エタノール(30秒)、2%次亜塩素酸ナトリウム(15分)を用いて表面殺菌したトマト種子を、植物ホルモンを含まないMS寒天培地(MurashigeおよびSkoog,1962,Physiol.Plant.,15:473−479)に植え、16時間日長、25℃で1週間培養し、無菌植物を得た。得られた幼植物の根よりTotal RNAを調製した。
【0028】
Total RNAはPoly(A)Quick mRNA Isolation Kit(Stratagene社)を用いてmRNAを精製した後、First−Strand cDNA Synthesis Kit(Amersham Pharmacia Biothech社)を用いてFirst−Strand cDNAを作成した。作成したFirst−Strand cDNAをテンプレートに用いてPCR反応を行ったPCR反応条件は94℃−3分;94℃−45秒、59℃−30秒、72℃−90秒、35サイクル;72℃−10分とし、パーキンエルマー社のPCR system 2400を用いて行った。用いたプライマーを表−1に示した。得られたPCR産物はTA−Cloning Kit(Invitrogen社)を用いてクローニングした。目的サイズの遺伝子がクローニングできた6種のプラスミッドについてシークエンサー(ABI社377A)を用いて塩基配列を決定し、既知のGAD遺伝子(Gallegoら、1995,Plant Mol Biol,27;1143−1151)との相同性について調査した。得られたクローンのうち、T−gad−19遺伝子の塩基配列を配列番号1に示した。
【0029】
【表1】
<配列表フリーテキスト>
配列番号2および3:GAD特異的プライマー
配列番号4および5:Nos−PromoterからNPTII間を増幅するためのPCRプライマー
【0030】
その結果、既知のトマトGAD遺伝子の塩基配列(Gallegoら,1995,Plant Mol Biol,27;1143−1151)と完全に一致するものは無かったが、調査したクローンの中でT−gad−19遺伝子(配列番号1)が最も相同性が高く85%の相同性を有していた。アンチセンス法の機能として果たし得る可能性があると判断し、T−gad−19遺伝子を用いることとした。
【0031】
実施例2.トマトGAD遺伝子(T−gad−19)のTiプラスミッド(pM AT037)へのサブクローニング
PCR2.1ベクターにクローニングしたトマト由来T−gad−19遺伝子は,植物形質転換用ベクターである、Tiプラスミッド(pMAT037)(MatsuokaおよびNakamura,1991,Proc Natl Acad.Sci USA,88:834−838)にサブクローニングした、始めにPCR2.1ベクター中の制限酵素XbaIおよびHindIIIを用いて切り出し、pUC18のマルチクローニングサイト上XbaIおよびHindIII部位に置換した。さらに制限酵素KpnIおよびHindIIIで切り出し、pMAT037のCaMV35Sプロモーター後のマルチクローニングサイト中の制限酵素KpnIおよびHindIIIサイトに導入し、E.coli DH5αにトランスフォーメーションした。anti−T−gad−19遺伝子を導入したTiプラスミッドは、アグロバクテリウム、EHA101株に形質転換し(図1)、トマトに感染させるために用いた。
【0032】
実施例3.トマトの子葉へのアグロバクテリウム感染による形質転換体の作製
トマト(栽培品種,ミニトマト)の種子を70%エタノール(30秒)、2%次亜塩素酸ナトリウム(15分)を用いて表面殺菌した後、植物ホルモンを含まないMS寒天培地に置床し、16時間日長、25℃で1週間培養した。得られた無菌幼植物より子葉を切り取り、2mg/lゼアチンと0.1mg/lインドール酢酸を加えたMS寒天培地(再分化培地、9cmシャーレ使用)に置床し2日間同条件で培養した。anti−T−gad−19遺伝子を含むアグロバクテリウム(EHA101)はYEP培地(表−2)で一晩培養したものを感染に用いた。2日間培養した子葉を滅菌シャーレに集め、アグロバクテリウム液を加え感染させた。滅菌したろ紙を用いて余分なアグロバクテリウム液を子葉から取り除き、アグロバクテリウムの急激な増殖を防ぐため、先に用いたシャーレ培地に滅菌ろ紙を敷き,その上に感染させた子葉を乗せ、24時間共存培養させた。その後、子葉は50mg/lカナマイシン、500mg/lクラフォランを含むMS再分化培地(選抜培地)に移し、形質転換体の選抜を行った。再分化したshootは、新しい選抜培地に移し再選抜を行った。緑色で旺盛に生育したshootは茎の部分で切り取り、植物ホルモンを含まないMS培地(発根培地、試験管)に移した。発根した再分化植物は順次土壌に馴化させた。
【0033】
【表2】
【0034】
実施例4.導入遺伝子の確認
anti−T−gad−19遺伝子を含むアグロバクテリウムを感染させて得られた選抜個体4個体と、目的遺伝子を含まないTiプラスミッドのみのアグロバクテリウムを感染させて得られた植物3個体、さらにアグロバクテリウムで処理しないで、子葉より直接再分化させた植物体2個体からそれぞれTotal DNAを本田らの方法に従い抽出した(HondaおよびHirai,1990,Jpn J Breed 40,339−348)。抽出したDNAは、RAase処理、フェノール/クロロホルム処理、さらにPEG沈殿させ精製した。0.01μg/μlになるように希釈し、PCR用のテンプレートとした。PCRはTiプラスミッドのT−DNA上のNPTII遺伝子からNos−Promoter中の配列を元に約1.0kbpの増幅産物が得られるようなプライマー(表−1.b)を用いてPCR反応を行った。反応条件は,94℃−1分、55℃−1分、72℃−2分、35サイクルで行った。PCR産物は1%アガロースゲルを用いて電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色した。
anti−T−gad−19遺伝子を含むアグロバクテリウムを感染させた個体、およびプラスミッド遺伝子を含むアグロバクテリウムを感染させた個体において、予想されるバンドサイズである約1.0kbpのバンドが確認され、非形質転換体には検出されなかった(図2)。これらの結果より、得られた形質転換植物に各々の遺伝子が導入されていることが示唆された。
【0035】
実施例5.遊離アミノ酸の抽出と定量
実施例4で得られた形質転換植物の開花後6週目の果実を収穫し、−80℃に保存した。果実は約1/6にカットし、重さを測定した後、乳鉢に入れ液体窒素で凍らせすりつぶした。さらに3mlの80%エタノールを加え、丁寧にすりつぶした後、遠心チューブに移し、80℃で20分間インキュベートした。10,000rpmで20分間遠心し、上澄を新しいチューブに移し、残ったペレットに2mlの80%エタノールを加え、再度乳鉢ですりつぶし、80℃で20分間インキュベートした。遠心後、澄をチューブに移し、先の上澄と併せ、80%エタノールを用いて総量を5mlに調製した。良く混合した後、20μl取り乾燥させた後、0.02N塩酸に溶解した。0.45μmのフィルターでろ過し、分析用サンプルとした。アミノ酸分析は日立高速アミノ酸分析計(L−8800)を用いて行った。GADアンチセンス遺伝子を導入した形質転換トマトのアミノ酸分析結果を非形質転換トマトおよびTiプラスミッドのみ導入したトマトのアミノ酸分析結果とともに表3に示した。
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
調査した形質転換体4株のうち、アミノ酸含量、特にグルタミン酸含量がコントロールに比べて2倍以上増加した株はGAD−1およびGAD−2であった。また、それらの系統は他のアミノ酸含量、特にアスパラギン、アスパラギン酸、セリン、スレオニン、アラニンおよびヒスチジンも増加していた(表3)。GAD−1およびGAD−2のグルタミン酸含量はコントロールに比べてそれぞれ2.02倍および2.06倍であった。また、グルタミン含量も6.95倍、3.10倍であり、γ−アミノ酪酸含量が6.42倍2.29倍とかなり増加していた(図3)。
【0039】
実施例6.anti−T−gad−19遺伝子導入トマトの後代分析
1)ノーザン分析
形質転換当代(T0)植物の腋芽の葉組織よりTolalRNAをフェノール/SDS法により抽出した。20μgのTotal RNAをホルムアルデヒド−アガロースゲル(1.0%)を用いて電気泳動後、ナイロンメンブランにトランスファーした。DIG−Labeling and Detection Kit(Roche Molecular Biochemicals)を用いて、ノーザンハイブリダイゼーションを行った。プローブとしてT−gad−19遺伝子を用いた。
その結果、anti−T−gad−19遺伝子導入系統No.1,2系統にハイブリダイズしたバンドのシグナルは非形質転換体にハイブリダイズしたバンドのシグナルより弱いため、形質転換体では内在性のGAD遺伝子の発現が減少していることが示唆された(図4)。しかし、No.1系統由来の種子は発芽しなかったため、後代の分析ができなかった。
【0040】
2)T1世代の選抜
アグロバクテリウム法により遺伝子導入を行ったトマト形質転換植物(T0世代)より得られた種子を、80%エタノールで30秒,2%次亜塩素酸ナトリウムで15分間表面殺菌した後、カナマイシン350mg/lを加えたMS寒天培地に無菌播種した。1ヵ月後、生育の良い植物の選抜を行った結果、anti−T−gad−19遺伝子導入系統No.2より耐性個体GAD2−2−1,GAD2−2−2,GAD2−2−3,GAD2−3−1が選抜できた。株当たりの果実数を増加させるため、屋外の閉鎖系温室で栽培を行った。栄養条件を同じにするため、馴化時に1kgの培養土(パワーソイル,サカタのタネ)に移植した後は、追肥を行わなかった。
【0041】
3)果実中のアミノ酸含量の測定
第一果房の開花後6週目の果実3個を分析に用いた。 果実に80℃に熱した80%エタノールを重量の3倍量加え、乳鉢ですりつぶした後、再度80℃で20分間加熱した。7,000rpmで遠心して、上清を回収した後、再度80%エタノールを加え、80℃に加温した。エタノールによる抽出を3回行い、総量を80%エタノールで100mlに合わせた。良く混合した後、抽出液200μlをエッペンドルフチューブに取り、乾燥させ、200μlの滅菌水に溶かした。エチルエーテル200μl加え混合後、12,000rpmで遠心し、エーテル層を取り除いた。水層を再度乾燥させた後、200μlの0.02NHClに溶解し、0.45μmのろ過フィルターを用いてろ過したろ液をサンプルとし、日立高速アミノ酸計測器(L−8800)を用いて分析を行った。
結果は3個の果実の平均値を示した。anti−T−gad−19遺伝子導入系統No.2の後代GAD2−2−1,GAD2−2−2,GAD2−2−3,GAD2−3−1のグルタミン酸含量が非形質転換体に比べて、それぞれ、1.3倍、1.8倍,3.0倍、1.8倍増加していた(表4、図5)。グルタミン酸以外のアミノ酸では、アラニンの増加が顕著であり、アスパラギン酸、アスパラギン含量が増加した系統も見られた。全遊離アミノ酸含量も非形質転換体と比較して最大3.2倍増加した。
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
【表7】
【0045】
【発明の効果】
本発明により、遊離アミノ酸を高濃度に含有する植物が得られ、付加価値の高い原料作物および食品素材、特に付加価値の高いトマトが提供される。本発明により全遊離アミノ酸含量が最大3倍程度まで増加し、特にグルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、スレオニン、アラニンおよびヒスチジンの少なくとも1つの含量の高い作物が提供され、これらのアミノ酸の後添加の必要のない付加価値の高い原料作物が提供される。また、本発明により、高濃度にグルタミン酸を蓄積したもの、すなわち、うま味の優れた食品素材が提供される。
さらに、本発明により、そのような遊離アミノ酸を高度に蓄積する植物を育種するための期間が大幅に短縮される。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】T−gad−19遺伝子のTiプラスミッド(pMAT037)へのアンチセンス方向クローニング。
35SPro:CaMV 35Sプロモーター、Term:ターミネーター
【図2】トマト由来GADアンチ配列、anti−T−gad−19遺伝子を導入した形質転換体のPCRによる解析結果を示したものである(NPTII特異的プライマー使用、94℃−1分間、55℃−1分間、72℃−2分間、35サイクル)。各サンプルの表記は表3と対応する:非形質転換トマト(Cont−1、Cont−2);プラスミッドpMAT037を導入した形質転換トマト;アンチセンスGAD遺伝子を導入した形質転換トマト(GAD−1、GAD−2、GAD−6−2、GAD−11)。
【図3】anti−T−gad−19遺伝子を導入した形質転換体(GAD−1,GAD−2,GAD−6−2)のアミノ酸含量の比較をグラフに示したものである(グルタミン酸−Glu、グルタミン−Gln、γ−アミノ酪酸−GABA、リジン−Lys)。
【図4】anti−T−gad−19遺伝子を導入した形質転換体のノーザン分析の結果を示したものである。それぞれ、20μgの全RNAを使用した。レーン1:非トランスジェニックトマト、レーン2、3:それぞれanti−T−gad−19 no.1,no.2。
【図5】anti−T−gad−19遺伝子を導入した形質転換トマトの後代(T1)における果実中のアミノ酸含量を比較したグラフである。GAD2−2−1、GAD2−2−2、GAD2−2−3、GAD2−3−1は、それぞれアンチセンスGAD遺伝子を導入した形質転換トマトである。測定個体数はそれぞれ3個体とした(n=3)。
Claims (9)
- 同条件で栽培した天然の同種の植物と比べて、可食部分の1以上の遊離アミノ酸をより多く蓄積するトランスジェニック植物を作出する方法であって、配列番号1に記載の配列のアンチセンス配列および前記アンチセンス配列を発現させ得る制御配列を含む遺伝子構築物で植物を形質転換し、該遺伝子構築物に連結されたマーカー遺伝子により付与された形質に基づいて前記形質転換植物を選択または同定し、1以上の遊離アミノ酸をより多く蓄積する前記形質転換植物をスクリーニングし、1以上の遊離アミノ酸をより多く蓄積する前記形質転換植物を選別することを含む、前記方法。
- 遺伝子構築物が、植物の構成的プロモーターに機能しうる状態で連結された配列番号1に記載の配列のアンチセンス配列を含むものである、請求項1記載の方法。
- 遊離アミノ酸が、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、スレオニン、アラニン、ヒスチジンおよびグルタミン酸からなる群より選ばれる、請求項1または2に記載の方法。
- 遊離アミノ酸の一つが遊離グルタミン酸である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- トランスジェニック植物がトランスジェニックトマトであり、可食部分が果実である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により作出されたトランスジェニック植物およびその子孫植物。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により作出された、果実中の全遊離アミノ酸含量が天然の同種植物の2倍以上に増加したトランスジェニック植物およびその子孫植物。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により作出された、果実中の遊離グルタミン酸含量が天然の同種植物の2倍以上に増加したトランスジェニック植物およびその子孫植物。
- 請求項6〜8のいずれか1項に記載のトランスジェニック植物またはその子孫植物の種子であって、配列番号1記載の配列のアンチセンス配列を有する核酸を含有する前記種子。
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