本発明は、磁気記録媒体及びその製造方法並びに磁気記録装置に関し、特に高密度記録に好適な垂直磁気記録方式の磁気記録媒体及びその製造方法並びに磁気記録装置に関する。
近年、情報化社会の発展には目覚しいものがあり、文字情報のみならず音声及び画像情報を高速に処理することが可能になった。それらの情報を高速処理できる装置の1つとして、コンピュータ等に装着されている磁気記録装置がある。現在、この磁気記録装置では、記録密度を向上させつつ、小型化を図る方向に開発が進められている。
典型的な磁気記録装置では、複数の磁気ディスクがスピンドル上に回転可能に装着されている。各磁気ディスクは、基板とその上に形成された磁性膜(記録層)とからなり、情報の記録は、特定の磁化方向を有する磁区を記録層中に形成することにより行われる。
従来、磁気ディスクの記録層に記録される磁化の方向は記録層の面内方向であり、面内磁気記録方式と呼ばれる。面内磁気記録方式の磁気記録媒体における高密度記録化は、記録層の膜厚を薄くし、記録層を構成する磁性結晶粒の粒径を微小化させ、且つ、各磁性粒子間の磁気的相互作用を低減させることで達成することができる。しかしながら、結晶粒の微小化及び各結晶粒子間の磁気的相互作用の低減を図ることにより、記録されたビット(磁気マーク)の磁化の熱安定性が低下するという問題が生じた。
上記面内磁気記録方式における問題を解決するために提案されているのが、垂直磁気記録方式である。この方式では、記録層の膜面に対する残留磁化の垂直成分が面内成分より大きくなるような材料が用いられ、記録層に記録される磁化の方向を、基板に対して垂直方向にする。その結果、隣接ビット間は、静磁気的に安定で、且つ、記録遷移領域が鋭くなる。さらに記録層と基板の間に軟磁性材料で形成された層(軟磁性裏打ち層)を加えることで、情報を記録する際、記録層に印加される磁場を急峻にすることが可能になる。その結果、高い磁気異方性を有する材料への情報記録が可能になり、ビットの磁化の熱安定性を向上させることができるので、より高密度の記録が可能になる。
現在、面内磁気記録方式の磁気記録媒体の記録層にはCoPtCr基合金が使用されており(以下、このような媒体をCoPtCr基合金媒体と称す)、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体においても、面内磁気記録方式と同様に、記録層にCoPtCr基合金を用いた磁気記録媒体が主に研究されている。CoPtCr基合金媒体の特徴は、強磁性を有するCo濃度の高い結晶粒と、Cr濃度が高く非磁性の結晶粒界部とからなる2相分離構造をとり、非磁性の結晶粒界部によって結晶粒間の磁気的な相互作用を低減する。この効果により、高記録密度に必要な媒体の低ノイズ化を実現することができる。
しかしながら、さらなる高密度記録化に対応するためには、さらに結晶粒間の磁気的相互作用を低減させると同時に、ビットの磁気的な熱安定性をさらに高めることが要求される。その方法として、記録層に酸素を添加し、結晶粒界部を酸化させる方法がある。これは、スパッタリング法で記録層を形成する際に、ターゲット中に酸化物を添加する、もしくは、酸素ガス雰囲気中で記録層を形成することにより得られる(例えば、非特許文献1を参照)。これらの方法により形成された記録層内では、記録層の磁性結晶粒が酸化物に囲われた構造、いわゆるグラニュラー構造が形成される。このようなグラニュラー構造の記録層を有する磁気記録媒体は、酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体と呼ばれる。
酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体の場合、酸化物によって結晶粒間の分離を行うことができるため、酸化物を含まないCoPtCr基合金媒体のように加熱して相分離を行う必要がなくなる。それゆえ、酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体では、結晶粒の成長がより制御し易くなり、微小な結晶粒をより形成し易くなるという特徴がある。また、非特許文献1では、酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体の方が、酸化物を含まないCoPtCr基合金媒体より、結晶粒間の磁気的な相互作用を低減しながら結晶磁気異方性を向上させることができるので、高記録密度状態におけるS/N比(信号対雑音比)が高く、且つ、ビットの熱安定性を高めることができることが開示されている。
また、従来、面内磁気記録方式の磁気記録媒体においても、高密度記録時の媒体ノイズを低減させるために、グラニュラー構造の記録層を有する磁気記録媒体が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1では、下地層上に形成する記録層を酸化物等を含む複数の磁性層で構成し、記録層を構成する各磁性層の酸化物等の濃度を変化させることが開示されている。特許文献1の磁気記録媒体では、記録層のエピタキシャル成長及び記録再生特性の向上を両立するために、記録層内の最上層(下地層側とは最も反対側に設けられている磁性層)で酸化物濃度を増加させ、それより下の磁性層では酸化物濃度を減少させている。最上層の酸化物濃度を増加させることにより低ノイズ化を図り、それより下の磁性層では酸化物濃度を減少させることにより下地層と記録層との格子整合を向上させて、記録層内の結晶粒のエピタキシャル成長を助長させる。さらに、特許文献1には、記録層内の結晶粒のエピタキシャル成長を助長するために、記録層内の下層の磁性層にPt、Crを増減させたグラニュラー磁性膜を用いることが開示されている。
オイカワ(T.Oikawa)、他5名,「CoPtCr−SiO2垂直記録媒体の微構造と磁気特性(Microstructure and Magnetic Properties of CoPtCr-SiO2 perpendicular Recording Media)」,IEEE Trans.Magn.,vol.38,pp.1976−1978,2002
特開2002−208127号公報(第3−5頁、第1−2図)
本発明者らの検証実験によると、垂直磁気記録方式の酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体で、さらなる高記録密度化を図るために、記録層の酸化物濃度をさらに高めて結晶粒を一層微小化すると、磁気特性が劣化することが分かった。具体的には、酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体の膜面に対して垂直方向(磁化容易軸方向)の磁化曲線を測定したところ、記録層内の酸化物濃度が高くなりすぎると、磁化曲線の角型比が大幅に低下することが分かった。角型比の低い磁気記録媒体では、残留磁化状態で磁場印加方向に対して磁化が逆方向となる磁区(逆磁区)が記録層内に形成される。これにより、ランダムに記録された情報を再生する際に、媒体ノイズの低周波成分が大幅に増大し、ビットエラーレートが劣化する。それゆえ、垂直磁気記録方式の酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体において、さらなる高記録密度の要望に応えるためには、記録層の磁気特性の劣化を抑制することが要求される。
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、より優れた磁気特性を有し、且つ、低媒体ノイズの垂直磁気記録方式の磁気記録媒体及びその製造方法並びに磁気記録装置を提供することである。
本発明の第1の態様に従えば、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体であって、非磁性材料で形成された基板と、軟磁性材料で形成され、該基板上に形成された軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に形成された下地層と、酸化物を含有するCoPtCrを主体とする合金磁性材料で形成され、該下地層上に形成された記録層とを備え、該記録層が、酸化物含有率の異なる2つ以上の磁性層から形成されており、該記録層を構成する2つ以上の磁性層のうち、最も該下地層側に設けられた磁性層の該酸化物含有率が該記録層内で最も高いことを特徴とする磁気記録媒体が提供される。
本発明の磁気記録媒体は、垂直磁気記録方式の酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体である。酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体では、記録層中の酸化物含有率(以下、酸化物濃度ともいう)が、記録層内の結晶粒の大きさに影響を与える。酸化物濃度が高いほど、記録層の結晶粒の粒径は減少する。高記録密度帯域で低媒体ノイズ化を図るためには結晶粒の微小化が必須であるので、高記録密度帯域では記録層中の酸化物濃度は高いほうが良い。しかしながら、上述したように、酸化物濃度を高くしすぎると記録層の磁気特性が劣化するという問題が生じる。
そこで、本発明の垂直磁気記録方式の酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体では、記録層を酸化物濃度の異なる複数の磁性層から構成した。酸化物濃度のより低い磁性層では、結晶粒は大きくなり磁気特性は向上する。一方、酸化物濃度のより高い磁性層では、磁気特性は劣化するが結晶粒は微小化される。そして、本発明の磁気記録媒体のように酸化物濃度の低い磁性層と酸化物濃度の高い磁性層とを積層して記録層を形成すると、酸化物濃度の高い磁性層の磁気特性の劣化が酸化物濃度の低い磁性層の磁気特性により補われるので、本発明の記録層全体の磁化特性は、記録層を酸化物濃度の高い磁性層のみで形成した場合より向上する。その結果、記録層を酸化物濃度の異なる複数の磁性層から構成することにより磁気特性の劣化を抑制することができる。
また、垂直磁気記録方式の酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体で低媒体ノイズ化を図るためには、結晶粒の磁気特性が劣化しない範囲内で、記録層の結晶粒をできる限り微小にし且つ結晶粒の分散性を低減させること(結晶粒の配向性を向上させること)が必要である。そのためには、下地層上に記録層を形成する際に、初期に形成される磁性膜の結晶性が重要であり、その初期に形成される磁性膜では、より微小な結晶成長の核を形成する必要がある。
そこで、本発明の垂直磁気記録方式の酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体では、記録層を形成する複数の磁性層のうち、最も下地層側に形成された磁性層(以下、最下層ともいう)の酸化物濃度が記録層内で最も高くなるように形成した。最下層の酸化物濃度を最も高くすることにより、記録層の最下層の結晶粒を記録層内で最も微小化し、この微小な結晶粒を結晶成長の核として用いる。それゆえ、最下層上に、最下層の酸化物濃度より低い酸化物濃度を有する磁性層、すなわち、最下層の結晶粒より粒径の大きな結晶粒の磁性層を積層しても、その磁性層内の結晶粒は、最下層の微小な結晶粒上に成長するので、結晶配向性の優れた磁性層が形成される。その結果、記録層全体としても結晶配向性の十分優れた膜が形成される。なお、記録層内の最下層上に複数の磁性層を形成した場合、それらの磁性層間の酸化物濃度の大小関係は任意に設定し得る。
上述のことから、本発明の垂直磁気記録方式の磁気記録媒体では、記録層を酸化物濃度が異なる2つ以上の磁性層から形成し、且つ、それらの磁性層のうち下地層に最も近い磁性層の酸化物濃度を最も高くすることにより、磁気特性の向上と低媒体ノイズ化を両立させることができる。
ここで、本発明の垂直磁気記録方式の酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体における記録層の構造を、上述の特許文献1に開示されたような面内磁気記録方式の磁気記録媒体と比較しながらさらに詳細に説明する。
本発明の垂直磁気記録方式の酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体と同様に、特許文献1に開示された面内磁気記録方式の磁気記録媒体もまた酸化物等の濃度が異なる複数の磁性層で形成された記録層を有する。さらに、その記録層は、本発明の磁気記録媒体と同様に、グラニュラー構造の記録層である。本発明及び特許文献1の磁気記録媒体におけるグラニュラー構造の記録層に使用されるCoPtCrの結晶構造は、六方最密構造(以下、hcp構造と称す)であり、その磁化容易軸はc軸である。それゆえ、特許文献1に開示されたような面内磁気記録方式の磁気記録媒体では、記録層のc軸を記録層面内に配向させる必要があり、本発明のように垂直磁気記録方式の磁気記録媒体では、記録層のc軸を記録層面内に対して垂直に配向させる必要がある。
一般に、hcp構造の薄膜を形成した場合、その優先配向面は最密充填面である(001)面であるので、hcp構造の薄膜の磁化容易軸(c軸)が膜面に対して垂直方向に優先的に配向する。それゆえ、面内磁気記録方式の磁気記録媒体の記録層で、c軸を面内に配向させて結晶配向性を向上させるためには、記録層の下地層であるCr基合金の(211)面上に記録層が(10・0)面配向するように記録層のエピタキシャル成長を助長する必要がある。そこで、特許文献1に開示された面内磁気記録方式の磁気記録媒体では、上述したように、記録層を構成する複数の磁性層のうち、下層の酸化物濃度を低くすることにより記録層のエピタキシャル成長を助長している。さらに、特許文献1に開示された面内磁気記録方式の磁気記録媒体では、記録層の最上層の酸化物濃度を増大させることにより結晶粒の微小化を図り記録再生特性を向上させている。すなわち、特許文献1の面内磁気記録方式の磁気記録媒体では、記録層を構成する複数の磁性層において、下層の酸化物濃度を最上層の酸化物濃度より低くすることにより磁気記録媒体の磁化特性の向上と低媒体ノイズ化の両立を図っている。なお、特許文献1には、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体に関する開示はなされていない。
一方、本発明の垂直磁気記録方式の磁気記録媒体では、前述のように、hcp構造の薄膜形成時に優先配向する(001)面と、必要な記録層の配向面(c軸)とが一致するので、記録層を形成する際の結晶成長という点では、面内磁気記録方式より垂直磁気記録方式の方が有利である。それゆえ、垂直磁気記録方式の磁気記録媒体で磁化特性の向上と低媒体ノイズ化の両立を図るためには、記録層内の結晶成長に注意を払うより、むしろ記録層内の結晶粒径(酸化物濃度)と特性との関係に注意を払うことの方がより重要になる。本発明者らは、酸化物濃度の異なる2つ以上の磁性層から構成された記録層を有する種々の垂直磁気記録方式の磁気記録媒体を作製して検証実験したところ、記録層内の磁性層間の酸化物濃度の大きさの関係により、高密度記録帯域において、記録再生特性に差が生じることが分かった。具体的には、記録層の最下層の酸化物濃度が、その上に形成された磁性層の酸化物濃度より高い場合の磁気記録媒体の方が、その逆の酸化物濃度の関係を有する磁気記録媒体よりも記録再生特性が優れることが分かった。これは、記録層の最下層の酸化物濃度を、その上に形成された磁性層の酸化物濃度より高くすることにより、最下層内の結晶粒径が最も微小になり、その結晶粒を結晶成長の核として、最下層上に積層される磁性層の結晶粒が成長することにより、記録層全体の結晶配向性が向上するためであると考えられる。
本発明の磁気記録媒体では、上記記録層を構成する2つ以上の磁性層が、上記下地層側から上記酸化物含有率の高い順に積層されていることが好ましい。このような磁気記録媒体では、下地層側の磁性層に近づくほど、記録層を形成する磁性層内の結晶粒の大きさが小さくなる。
また、本発明の磁気記録媒体では、上記記録層が、上記下地層上に接して設けられていることことが好ましい。
本発明の磁気記録媒体では、上記記録層を構成する2つ以上の磁性層の酸化物含有率が、それぞれ5〜20mol%であることが好ましい。
本発明の磁気記録媒体では、上記記録層が、第1記録層及び第2記録層から形成され、第1記録層が上記下地層側に配置されており、第1記録層中の酸化物含有率A1と第2記録層中の酸化物含有率A2との間に、
5mol%≦A2<12mol%≦A1≦20mol%
の関係が成立することが好ましい。
CoPtCr合金材料で形成された記録層中の酸化物濃度を5mol%以上にすると、磁性粒子間の分離が進み、磁性粒子間の磁気的相互作用がより低減され、媒体ノイズも低減される。しかしながら、記録層中の酸化物濃度が12mol%以上になると、記録層内の結晶粒径が小さくなりすぎて磁気特性が劣化する。さらに、記録層中の酸化物濃度が20mol%を超えると、酸素が磁性結晶粒内に取り込まれ、著しく磁気特性が劣化してしまうので、記録層として必要な磁気特性をほとんど示さなくなる。
それゆえ、例えば、下地層上に、記録層を酸化物濃度の異なる2つの磁性層(第1記録層及び第2記録層)で形成し、第1記録層を下地層側に配置した場合、第1記録層の酸化物濃度A1と、第2記録層の酸化物濃度A2との間に、
5mol%≦A2<12mol%≦A1≦20mol%
なる関係が成立するように磁気記録媒体を作製することが好ましい。第1記録層の酸化物濃度A1は12mol%≦A1≦20mol%の範囲であるので、第1記録層の磁化特性は劣化するが、第1記録層内の結晶粒の粒径は微小化することができる。一方、第2記録層の酸化物濃度A2は5mol%≦A2<12mol%の範囲であるので、第1記録層より結晶粒は大きくなるが十分優れた磁化特性を得られる。そして、第2記録層を第1記録層上に形成することにより、第1記録層内の微小な結晶粒を結晶成長の核として第2記録層内の結晶粒が結晶成長するので、結晶配向性が向上し低媒体ノイズ化を図ることできる。また、第2記録層を第1記録層上に形成することにより、第1記録層の磁化特性の劣化が第2記録層の磁化特性により補われる。それゆえ、第1記録層の酸化物濃度A1と、第2記録層の酸化物濃度A2との間に上述のような関係が成立するように磁気記録媒体を作製することにより、低媒体ノイズ化を図りつつ磁化特性の劣化も抑制することができる。
本発明の磁気記録媒体では、上記記録層に含まれる酸化物が、Si酸化物であることが好ましい。また、記録層に含まれる酸化物に、Si酸化物以外では、Mg酸化物を用いても良い。ただし、Mg酸化物より、Si酸化物を用いた場合の方が微小な結晶粒を容易に得ることができるので、記録層に含まれる酸化物としてはSi酸化物が特に好ましい。
酸化物を含有するCoPtCr基合金媒体の記録層は、スパッタガスとしてアルゴンと酸素の混合ガスを用いることにより形成され、この混合比を適宣調節することにより、記録層中に所望の酸化物濃度で酸化物を分散した状態で導入することができる。また、スパッタガスにはアルゴンを用い、ターゲット中に含まれる酸化物量を調節することにより、CoPtCr基合金媒体の記録層中の酸化物濃度を変化させることも可能である。例えば、CoPtCrターゲット中に5〜20mol%でSiO2やMgOを混入したターゲットなどを用い得る。この方法では、酸化物濃度の調整が容易であり、形成された記録層中では、CoPtCr基合金磁性結晶粒の周りを酸化物であるSiO2やMgOが取り囲む構造になる。
本発明の磁気記録媒体では、上記記録層の膜厚が、8〜20nmであることが好ましい。高分解能で情報記録するためには、記録層に印加される記録磁界の勾配が急峻である磁界部分で記録することが好ましい。記録層の膜厚が厚すぎると、記録磁界の勾配があまり急峻でない磁界部分でも記録することになり、分解能が低下する恐れがある。それゆえ、記録層はある程度薄い方が好ましく、具体的には20nm以下であることが好ましい。また、記録層の膜厚が薄すぎると、記録磁区が磁気的に不安定になり、媒体として必要な磁気特性が得られなくなるので、記録層は8nm以上であることが好ましい。
また、本発明の磁気記録媒体では、下地層の形成材料としてCoCrRuを主体とする合金を用いることが好ましい。CoCrRuを主体とする合金で下地層を形成することにより、下地層上に形成される記録層の結晶性が一層向上し、その結果、より高い磁気特性を得ることができる。
本発明の磁気記録媒体では、軟磁性裏打ち層は、磁気ヘッドを用いて記録層に情報を記録再生する際に、磁気ヘッドから漏れ出した磁束を記録層に集束させる役割を持つ。軟磁性裏打ち層の形成材料としては、飽和磁化が大きく、保磁力が小さく、且つ、透磁率が高い軟磁性材料が好ましく、例えば、CoTaZr膜などが好ましい。また、この軟磁性裏打ち層の膜厚は、50〜500nmの範囲であることが好ましい。
本発明の第2の態様に従えば、磁気記録媒体の製造方法であって、基板上に、軟磁性裏打ち層を形成する工程と、該軟磁性裏打ち層上に、下地層を形成する工程と、該下地層上に、酸化物を含有するCoPtCrを主体とする合金磁性材料を用いて記録層を形成する工程とを含み、該記録層を形成する工程で、酸化物含有率の異なる2つ以上の磁性層で該記録層を形成し、該記録層を構成する2つ以上の磁性層のうち、最も該下地層側に形成される磁性層の酸化物含有率が該記録層内で最も高くなるように該記録層を形成することを特徴とする製造方法が提供される。
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、上記記録層を形成する工程で、上記記録層を構成する2つ以上の磁性層を上記下地層側から上記酸化物含有率の高い順に積層することが好ましい。
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、上記記録層を形成する工程で、スパッタリング法により上記記録層を形成することが好ましい。
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、上記記録層を形成する工程で、同一組成のスパッタターゲットを用い、RFスパッタリング法とDCスパッタリング法とを用いて、上記酸化物含有率の異なる2つ以上の磁性層を形成することが好ましい。
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、上記記録層を形成する工程で、スパッタリング法により上記下地層上に第1記録層及び第2記録層の順に積層して上記記録層を形成し、その際に同一組成のスパッタターゲットを用いて、第1記録層をRFスパッタリング法で形成し、第2記録層をDCスパッタリング法で形成することが好ましい。
本発明者らは、検証実験により、酸化物濃度の異なる複数の磁性層からなる記録層をスパッタリング法で形成する際、同一組成のスパッタターゲットを用いても、スパッタリング法を変えることにより、磁性層内の酸化物濃度を変化させることができることを見出した。具体的には、所定の組成を有するターゲットを用いて、RFスパッタリング法で酸化物を含有する磁性層を形成した場合、磁性層内の酸化物濃度がターゲットと同じであったのに対し、同じ組成のターゲットを用いてDCスパッタリング法で磁性層を形成した場合には、磁性層内の酸化物濃度がターゲットの酸化物濃度よりも低下することを見出した。これは、DCスパッタリング法を用いた場合には、ターゲット内の導電性の部分(金属部分)がRFスパッタリング法を用いた場合よりも優先的にスパッタリングされることによるものであると考えられる。
それゆえ、例えば、記録層を2つの磁性層(第1記録層及び第2記録層)で形成し、第1記録層を下地層側に形成した場合、第1記録層をRFスパッタリング法で形成し、第2記録層をDCスパッタリング法で形成することにより、第1記録層の酸化物濃度が第2記録層の酸化物濃度より高くなり、第1の態様で示した本発明の磁気記録媒体が得られる。このような製造方法を用いると、用意すべき酸化物濃度の異なるスパッタターゲットの数を減らすことが可能になる。
本発明の第3の態様に従えば、磁気記録媒体に情報を記録及び再生するための磁気記録装置であって、本発明の第1の態様に従う磁気記録媒体と、該磁気記録媒体に情報を記録する際に、該磁気記録媒体の記録層及び軟磁性裏打ち層と協同して磁気回路を形成する磁気ヘッドと、該磁気ヘッドを該磁気記録媒体に対して相対的に駆動するための駆動装置とを備えた磁気記録装置が提供される。
本発明の磁気記録媒体及びその製造方法によれば、下地層上に酸化物を含有するCoPtCrを主体とする合金磁性材料で形成された記録層を形成し、さらに、記録層を酸化物含有量の異なる2つ以上の磁性層で形成し、且つ、下地層に近い層ほど酸化物濃度が高くなるように記録層を形成するので、上述のように高い静磁気特性で、且つ、低媒体ノイズの高密度記録可能な垂直磁気記録方式の磁気記録媒体及びその製造方法を提供することができる。
以下に、本発明の磁気記録媒体及びその製造方法並びに磁気記録装置について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
実施例1で作製した磁気ディスクの概略断面図を図1に示した。この例で作製した磁気ディスク10は、図1に示すように、基板1上に、密着層2、軟磁性裏打ち層3、下地層4、第1記録層5a、第2記録層5b及び保護層6を順次積層した構造を有する。この例では、記録層5を第1記録層5a及び第2記録層5bの2層構造とした。
密着層2は、基板1とその上に積層された膜との剥離を防ぐための層であり、軟磁性裏打ち層3は、情報記録の際に記録層に印加される磁場を集束するための層である。下地層4は、第1記録層5a及び第2記録層5bの結晶配向性を向上させるための層である。第1記録層5a及び第2記録層5bは、情報が磁化情報として記録される層であり、第1記録層5a及び第2記録層5bの磁化方向は膜面に対して垂直方向である。すなわち、この例の磁気ディスクは垂直磁気記録方式の磁気ディスクである。保護層6は、基板1上に順次積層された層2〜5を保護するための層である。以下に、この例で作製した磁気ディスク10の作製方法を説明する。
基板1には直径2.5インチ(6.5cm)の円板状のガラス基板を用いた。その基板1上に、密着層2としてTi膜を、DCスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧0.28Pa、投入電力500Wとし、ターゲットにはTiを用いた。密着層2の膜厚は5nmとした。
次いで、密着層2上に、軟磁性裏打ち層3としてCoTaZr膜をDCスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧0.28Pa、投入電力400Wとし、ターゲットの組成はCo88Ta10Zr2(at%)とした。軟磁性裏打ち層3の膜厚は200nmとした。
次に、軟磁性裏打ち層3上に、下地層4としてCoCrRu膜をDCスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧4.2Pa、投入電力500Wとし、ターゲットの組成はCo55Cr25Ru20(at%)とした。下地層4の膜厚は20nmとした。
さらに、下地層4上に、第1記録層5aとしてCoPtCr−SiO2合金磁性膜をRFスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧4.2Pa、投入電力400Wとし、ターゲットの組成はCo70Pt20Cr10(at%)−SiO2(CoPtCr:SiO2=88:12mol%)とした。第1記録層5aの膜厚は5nmとした。
次いで、第1記録層5a上に、第2記録層5bとしてCoPtCr−SiO2合金磁性膜をRFスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧4.2Pa、投入電力400Wとし、ターゲットの組成はCo70Pt20Cr10(at%)−SiO2(CoPtCr:SiO2=95:5mol%)とした。第2記録層5bの膜厚は10nmとした。
最後に、第2記録層5b上に、保護層6としてアモルファスカーボン膜をDCスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧0.20Pa、投入電力300Wとし、保護層6の膜厚は3nmとした。
[比較例1]
比較例1の磁気ディスクでは、第1記録層5aを、Co70Pt20Cr10(at%)−SiO2(CoPtCr:SiO2=95:5mol%)の組成のターゲットを用いて形成し、第2記録層5bを、Co70Pt20Cr10(at%)−SiO2(CoPtCr:SiO2=88:12mol%)の組成のターゲットを用いて形成した。第1記録層5aの膜厚は10nm、第2記録層5bの膜厚は5nmとした。すなわち、比較例1の磁気ディスクでは、第1記録層5aの酸化物濃度を第2記録層5bの酸化物濃度より小さくした。それ以外は、実施例1と同様にして磁気ディスクを作製した。
[比較例2]
比較例2で作製した磁気ディスクの概略断面図を図2に示した。この例で作製した磁気ディスク20は、図2に示すように、基板1上に、密着層2、軟磁性裏打ち層3、下地層4、記録層7及び保護層6を順次積層した構造を有する。すなわち、この例では、記録層を単層で形成した。以下に、この例の磁気ディスク20の作製方法を説明する。
まず、基板1には直径2.5インチ(6.5cm)の円板状のガラス基板を用い、その基板1上に、密着層2としてTi膜を、DCスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧0.28Pa、投入電力500Wとし、ターゲットはTiとした。密着層2の膜厚は5nmとした。
次いで、密着層2上に、軟磁性裏打ち層3としてCoTaZr膜をDCスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧0.28Pa、投入電力500Wとし、ターゲットの組成はCo88Ta10Zr2(at%)とした。軟磁性裏打ち層3の膜厚は200nmとした。
次に、軟磁性裏打ち層3上に、下地層4としてCoCrRu膜をDCスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧0.28Pa、投入電力500Wとし、ターゲットの組成はCo55Cr25Ru20(at%)とした。下地層4の膜厚は10nmとした。
さらに、下地層4上に、記録層7としてCoPtCr−SiO2合金磁性膜をRFスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧4.2Pa、投入電力400Wとし、ターゲットの組成は、実施例1で作製した磁気ディスク10の第1記録層5aと同様に、Co70Pt20Cr10(at%)−SiO2(CoPtCr:SiO2=88:12mol%)とした。記録層7の膜厚は15nmとした。
最後に、記録層7上に、保護層6としてアモルファスカーボン膜をDCスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧0.20Pa、投入電力300Wとし、保護層6の膜厚は3nmとした。
[比較例3]
比較例3では、比較例2の記録層7を、Co70Pt20Cr10(at%)−SiO2(CoPtCr:SiO2=95:5mol%)の組成を有するターゲットを用いて形成した以外は比較例2と同様にして、磁気ディスクを作製した。
[磁化特性]
上記実施例1及び比較例1〜3で作製した磁気ディスクに対して、膜面垂直方向の磁化特性を測定した。各磁気ディスクから得られた磁化曲線を図3に示した。測定の結果、実施例1の磁気ディスクでは、保磁力が3.5kOe、角型比が1、及び、逆磁区発生磁場が−0.7kOeとなり、後述するように、実施例1及び比較例1〜3で作製した磁気ディスクの中では最も良好な静磁気録性が得られた。
比較例1の磁気ディスクでは、保磁力及び角型比の値は実施例1の磁気ディスクと同等の値が得られたが、磁化曲線の傾きα(保磁力近傍でのヒステリシスループの傾き)は、図3に示すように、比較例1の磁気ディスクの方(α=2.5)が実施例1で作製した磁気ディスク(α=2.2)より大きくなった。磁化曲線の傾きαは、記録層を形成する結晶粒間の磁気的相関に関連するパラメータであり、その値が1に近づく程結晶粒間の磁気的相関が低くなる。それゆえ、磁化曲線の傾きαの値が1に近づく程、記録層内の各結晶粒が個別に磁化反転するので、微小な磁区を形成することが可能になり、媒体のノイズを低減することができる。そのため、磁化曲線の傾きαはより小さい方が好ましい。
比較例2の磁気ディスクでは、磁化曲線の傾きαは1.8となり、図3に示すように、上記実施例1及び比較例1〜3で作製した磁気ディスクの中では、最も小さい値となったが、角型比が0.6となり、実施例1の磁気ディスクの角型比より小さくなった。
また、比較例3の磁気ディスクでは、角型比は1となり、また逆磁区発生磁場も−1.0kOeとなり良好な特性を示した。しかしながら、比較例3の磁気ディスクの磁化曲線の傾きαは4.0と非常に大きな値となる。これは、比較例3の磁気ディスクでは、単層で形成された記録層の酸化物濃度が低い(5mol%)ため、結晶粒間の磁気的な相互作用が強くなったためであると考えられる。
以上の結果から明らかなように、実施例1で作製した磁気ディスクのように、記録層を酸化物濃度の異なる複数の磁性層(実施例1では第1記録層及び第2記録層)で構成した磁気ディスクの方が、記録層を単層で形成した磁気ディスクより、良好な磁気特性が得られることが分かった。さらに、実施例1と比較例1との比較から、下地層側の磁性層(第1記録層)の酸化物濃度を下地層側とは反対側に設けられた磁性層(第2記録層)の酸化物濃度より高くすることにより、より優れた静磁気特性が得られることが分かった。
[記録再生特性]
次に、上記実施例1及び比較例1〜3で作製した磁気ディスクの保護層上に1nmの厚さの潤滑剤を塗布した後、それらの磁気ディスクを、それぞれ図4に示した磁気記録装置60内に装着して記録再生特性を評価した。ただし、図4の例では、実施例1で作製した磁気ディスク10を装着した場合の磁気記録装置60の概略図を示した。なお、図4(a)は磁気記録装置60の概略平面図であり、図4(b)は図4(a)中の破線A−A’における磁気記録装置60の概略断面図である。図4(b)に示すように、磁気ディスク10は回転駆動系のスピンドル52に同軸上に取り付けられ、スピンドル52により回転される。また、磁気記録装置60には、磁気ディスク10に対して相対的に磁気ヘッド53を駆動するための駆動装置54を備えている。
図4に示した磁気記録装置60で磁気ディスク10に情報を記録する際には、2.1Tの高飽和磁束密度を有する軟磁性膜を備えた薄膜磁気ヘッドを用い、情報を再生する際には、巨大磁気抵抗効果素子を有するスピンバルブ型磁気ヘッドを用いた。記録用の薄膜磁気ヘッド及び再生用のスピンバルブ型磁気ヘッドは一体化されており、図4では磁気ヘッド53として示した。この一体型磁気ヘッド53の位置は磁気ヘッド用駆動系54により制御される。磁気記録装置60の磁気ヘッド面と磁気ディスク面との距離は5nmに保った。
なお、この磁気記録装置60の磁気ヘッド53で磁気ディスク10に磁界を印加して情報を記録する際、磁気ディスク10の第1記録層5a及び第2記録層5b内では膜面に対して垂直方向の磁化を与えられ、且つ、軟磁性裏打ち層3内では膜面方向の磁化を与えられる。それにより、第1記録層5a、第2記録層5b及び軟磁性裏打ち層3と磁気ヘッド53とが協同して磁気回路が構成されている。
上記実施例1及び比較例1〜3で作製した磁気ディスクを、それぞれ図4の磁気記録装置に装着して磁気ディスクの記録再生特性を測定した。ここでは、信号対雑音比の指標となるSlf/Nd比(dB)の線記録密度依存性を評価した。ただし、Slfは線記録密度20kFCIの信号を記録した際の再生出力であり、Ndは線記録密度0、200、400、600及び800kFCIにおけるノイズレベルである。その結果を図5に示した。
図5から明らかなように、ここで測定した線記録密度範囲では、実施例1の磁気ディスクのSlf/Nd比が、比較例1〜3の磁気ディスクのいずれよりも大きくなった。また、実施例1の磁気ディスクのSlf/Nd比は線記録密度の増加に伴い減少するが、その減少の割合は比較例1〜3の磁気ディスクよりも小さくなることが分かった。すなわち、ここで測定した線記録密度範囲では、実施例1の磁気ディスクが比較例1〜3の磁気ディスクに比べて優れた記録再生特性を示すことが分かった。
比較例1の磁気ディスクでは、図5から明らかなように、測定した線記録密度の範囲内では実施例1の磁気ディスクよりも若干Slf/Nd比が低くなることが分かった。また、図5の結果から、次世代の記録方式である垂直磁気記録方式で重要となる高記録密度領域(600〜800kFCI)では、実施例1のように記録層内の下地層側の磁性層(第1記録層)の酸化物濃度を、下地層側とは反対側の磁性層(第2記録層)の酸化物濃度より高くした磁気ディスクの方がより良好な記録再生特性を得られることが分かった。これは次のような原因によるものと考えられる。
図3の磁化曲線に示されているように、比較例1の磁気記録媒体の磁化曲線の傾きα(保磁力近傍でのヒステリシスループの傾き)は実施例1の磁気ディスクよりも大きくなる。この磁化曲線の傾きαの差は、比較例1の磁気ディスクの方が、実施例1の磁気ディスクよりも、記録層内の結晶粒間の磁気的な相互作用が強いことに起因しているものと考えられる。記録層内の結晶粒間の磁気的な相互作用が強くなると、磁化反転過程における磁化の回転が理想的でなくなるため、磁化曲線の傾きαが大きくなる。高線記録密度領域では、この記録層内の結晶粒間の磁気的な相互作用の強さの違いがノイズの差として現れ、比較例1の磁気ディスクのSlf/Nd比が実施例1の磁気ディスクより低くなったものと考えられる。
比較例2の磁気ディスクでは、上述の磁化特性の測定結果から明らかなように、実施例1の磁気ディスクより角型比が悪いため、低線記録密度領域(図5中の0〜200kFCI)でSlf/Nd比が悪くなる。しかしながら、図5から明らかなように、線記録密度がある程度高くなると、一旦、Slf/Nd比が改善される特異な挙動を示した。これは、比較例2の磁気ディスクでは、磁化曲線の角型比が悪いので、低記録密度領域では記録層のビット内に逆磁区が発生してノイズが増大するが、線記録密度が高くなるに従って、ビット内に発生する逆磁区に起因するノイズも相対的に低減されるためであると考えられる。
また、比較例3の磁気ディスクでは、図5から明らかなように、線記録密度が約0kFCI付近の領域では、そのSlf/Nd比が実施例1の磁気ディスクのSlf/Nd比に近くなり、良好なSlf/Nd比を得ることができる。しかしながら、図5から明らかなように、線記録密度が高くなるとともに、Slf/Nd比が急激に低下することが分かった。これは、比較例3の磁気ディスクでは、記録層が単層で形成され且つ酸化物濃度が低い(5mol%)ので、記録層内の結晶粒間の磁気的な相互作用が強く、磁化反転単位が実施例1の磁気ディスクも大きくなるため、線記録密度が高くなるとともにSlf/Nd比が急激に低下するものと考えられる。
実施例2で作製した磁気ディスクでは、第1記録層5a及び第2記録層5bをスパッタリングにより形成する際に同一組成のターゲットとして用い、第1記録層5aは、RFスパッタリング法により形成し、第2記録層5bは、DCスパッタリング法により形成した。ターゲットの組成はCo70Pt20Cr10(at%)−SiO2(CoPtCr:SiO2=88:12mol%)である。第1記録層5aのスパッタリング条件は、ガス圧4.2Pa、投入電力400Wで、膜厚は5nmとした。一方、第2記録層5bのスパッタリング条件は、ガス圧4.2Pa、投入電力250Wで、膜厚は10nmとした。それ以外は、実施例1と同様にして磁気ディスクを作製した。
この例で作製した磁気ディスクの第1記録層5a及び第2記録層5bの酸化物濃度をオージェ電子分光分析で測定した。その結果を表1に示す。
表1から明らかなように、RFスパッタリング法で形成した第1記録層5aの酸化物濃度がターゲットの酸化物濃度と同じ値であったのに対し、DCスパッタリング法で形成した第2記録層5bの酸化物濃度はターゲットの酸化物濃度よりも低くなることが分かった。これは、DCスパッタリング法を用いた場合には、ターゲット内の導電性の部分(金属部分)がRFスパッタリング法を用いた場合よりも優先的にスパッタリングされることによるものであると考えられる。表1の結果から、第1記録層5a及び第2記録層5bをスパッタリングにより形成する際、同一組成のターゲットを用いても、スパッタリング法を変えることにより各記録層に含有される酸化物濃度を変えることができることが分かった。なお、DCスパッタリング法で形成する第2記録層5bの酸化物濃度は、成膜時の投入電力を変化させることにより適宜調整できる。それゆえ、実施例2の磁気ディスクの製造方法では、記録層を形成する際に酸化物濃度の異なる複数のスパッタターゲットを用意する必要がなくなる。
この例で作製した磁気ディスクに対しても、実施例1と同様に、保護層上に1nmの厚さの潤滑剤を塗布した後、磁気ディスクを、図4に示した磁気記録装置60内に装着して記録再生特性を評価した。ここでは、実施例1と同様にSlf/Nd比の線記録密度依存性を測定した。その結果を図6に示した。なお、図6には、比較のため実施例1の結果も記載した。図6から明らかなように、この例で作製した磁気ディスクのSlf/Nd比の線記録密度依存性は、ほぼ実施例1の測定結果と同じ記録再生特性が得られることが分かった。
実施例3で作製した磁気ディスクの概略断面図を図7に示した。この例で作製した磁気ディスク30は、図7に示すように、基板1上に、密着層2、軟磁性裏打ち層3、下地層4、第1記録層5a、第2記録層5b、第3記録層5c及び保護層6を順次積層した構造を有する。すなわち、この例では記録層5を3層構造とした。以下に、この例で作製した磁気ディスク30の作製方法を説明する。
まず、基板1には直径2.5インチ(6.5cm)の円板状のガラス基板を用い、その基板1上に、密着層2としてTi膜を、DCスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧0.28Pa、投入電力500Wとし、ターゲットはTiとした。密着層2の膜厚は5nmとした。
次いで、密着層2上に、軟磁性裏打ち層3としてCoTaZr膜をDCスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧0.28Pa、投入電力500Wとし、ターゲットの組成はCo88Ta10Zr2(at%)とした。軟磁性裏打ち層3の膜厚は200nmとした。
次に、軟磁性裏打ち層3上に、下地層4としてCoCrRu膜をDCスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧0.28Pa、投入電力500Wとし、ターゲットの組成はCo55Cr25Ru20(at%)とした。下地層4の膜厚は10nmとした。
さらに、下地層4上に、第1記録層5aとしてCoPtCr−SiO2合金磁性膜をRFスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧4.2Pa、投入電力400Wとし、ターゲットの組成はCo70Pt20Cr10(at%)−SiO2(CoPtCr:SiO2=88:12mol%)とした。第1記録層5aの膜厚は5nmとした。
次に、第1記録層5a上に、第2記録層5bとしてCoPtCr−SiO2合金磁性膜をRFスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧4.2Pa、投入電力400Wとし、ターゲットの組成はCo70Pt20Cr10(at%)−SiO2(CoPtCr:SiO2=92:8mol%)とした。第2記録層5bの膜厚は5nmとした。
次いで、第2記録層5b上に、第3記録層5cとしてCoPtCr−SiO2合金磁性膜をRFスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧4.2Pa、投入電力400Wとし、ターゲットの組成はCo70Pt20Cr10(at%)−SiO2(CoPtCr:SiO2=95:5mol%)とした。第3記録層5cの膜厚は5nmとした。
最後に、第3記録層5c上に、保護層6としてアモルファスカーボン膜をDCスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧0.20Pa、投入電力300Wとし、保護層6の膜厚は3nmとした。
この例で作製した磁気ディスクに対しても、実施例1と同様に、保護層上に1nmの厚さの潤滑剤を塗布した後、磁気ディスクを、図4に示した磁気記録装置60内に装着して記録再生特性を評価した。ここでは、実施例1と同様にSlf/Nd比の線記録密度依存性を測定した。その結果を図8に示した。なお、図8には、比較のため実施例1の結果も記載した。
図8から明らかなように、この例で作製した磁気ディスクのSlf/Nd比の線記録密度依存性は、測定した線記録密度範囲では、実施例1の測定結果より若干向上することが分かった。すなわち、この例で作製した磁気ディスクのように、記録層を3層構造にし、且つ、下地層側から順に酸化物濃度が高くなるように各層を形成することにより、実施例1に示したような2層構造の記録層を有する磁気ディスクより記録再生特性が若干向上することが分かった。この結果から、記録層を3層よりさらに多層化して、且つ、下地層側から順に酸化物濃度が高くなるように各層を形成することにより一層記録再生特性が向上することが予測される。
実施例4では、記録層に添加する酸化物として、SiO2の代わりにMgOを用いた。それ以外は実施例1と同様にして磁気ディスクを作製した。それゆえ、この例で作製した磁気ディスクの構造は図1に示した構造と同じである。この例で作製した磁気ディスクの第1記録層及び第2記録層の形成方法は以下の通りである。
下地層4上に、第1記録層5aとしてCoPtCr−MgO合金磁性膜をRFスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧4.2Pa、投入電力400Wとし、ターゲットの組成はCo70Pt20Cr10(at%)−MgO(CoPtCr:MgO=88:12mol%)とした。第1記録層5aの膜厚は5nmとした。
次いで、第1記録層5a上に、第2記録層5bとしてCoPtCr−MgO合金磁性膜をRFスパッタリングにより形成した。スパッタリング条件は、ガス圧4.2Pa、投入電力400Wとし、ターゲットの組成はCo70Pt20Cr10(at%)−MgO(CoPtCr:MgO=95:5mol%)とした。第2記録層5bの膜厚は10nmとした。
この例で作製した磁気ディスクに対しても、実施例1と同様に、保護層上に1nmの厚さの潤滑剤を塗布した後、磁気ディスクを、図4に示した磁気記録装置60内に装着して記録再生特性を評価した。ここでは、実施例1と同様にSlf/Nd比の線記録密度依存性を測定した。その結果を表2に示した。なお、表2には、比較のため実施例1と、記録層が単層構造である比較例2及び3の結果も記載した。
表2から明らかなように、実施例4で作製した磁気ディスクのSlf/Nd比は、測定した線記録密度範囲では、記録層を単層で形成した比較例2及び3の磁気ディスクより一層向上することが分かった。また、実施例4で作製した磁気ディスクのSlf/Nd比は、低線記録密度で、ほぼ実施例1と同様の値が得られた。しかし、線記録密度が高くなるに従い、実施例4の磁気ディスクのSlf/Nd比は、実施例1の磁気ディスクの値より若干低下することが分かった。これは、以下の原因によるものと考えられる。
実施例4及び実施例1の磁気ディスクの違いを調べるために、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて記録層の平面像を観察した。その結果、実施例1の記録層における平均結晶粒径が7nmであるのに対し、実施例4の記録層では平均結晶粒径が8.5nmとなり若干大きくなることが分かった。この粒径の差が、高密度記録時のビット遷移領域におけるノイズの差として現れ、実施例4の磁気ディスクの高記録密度領域の記録再生特性が、実施例1の磁気ディスクより若干劣化したものと考えられる。この結果から、記録層に含有する酸化物としては、MgOよりSiO2を用いた方が、結晶粒径がより微小になり、より好適であることが分かった。
上記実施例1〜4では、磁気ディスクの記録層として酸化物を含有するCoPtCr合金磁性膜を用いて形成した例を説明したが、本発明はこれに限定されない。酸化物を含有するCoPtCr合金磁性膜は結晶質であって、結晶粒内にCoを主成分とする合金で形成され、結晶粒間に酸化物を含む構造であれば良く、結晶質であるCo合金においては、六方最密充填構造(hcp構造)をとる限りにおいて、Cr及びPt以外に、Ta、Nb、Ti、Si、B、Pd、V、Mg、Gd等の元素、またはそれらの組み合わせを含んでいても良い。
上記実施例1〜4では、磁気ディスクの基板材料としてガラスを用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されない。基板材料は用途等により適宜に変更可能であり、例えば、アルミニウム、ポリカーボネードなどのプラスチック、あるいは、樹脂等を用いても良い。
上記実施例1〜4では、磁気ディスクの軟磁性裏打ち層としてCoTaZr膜を設けた例を用いて説明したが、本発明はこれに限定されない。軟磁性裏打ち層としては、CoTaZr膜が最も好適であるが、それ以外としては、例えば、FeTaC、FeTaN、FeAlSi、FeC、CoB、CoTaNb、NiFe、あるいは、それらの軟磁性膜とC膜の積層膜であっても良い。
上記実施例1〜4では、記録層として酸化物を含有したCoPtCr合金磁性膜を形成する際、CoPtCr合金に酸化物を混入したターゲットを用いることにより、記録層中の酸化物濃度を調整した例を説明したが、本発明はこれに限定されない。酸化物を含まないターゲットに対して酸化物とアルゴンの混合ガスを用いてスパッタを行い記録層中の酸化物濃度を調整しても良いし、また、スパッタガスとして酸化物とアルゴンの混合ガスを用い、さらに、CoPtCr合金に酸素を混入したターゲットを用いてスパッタすることにより記録層中の酸化物濃度を調整しても良い。なお、酸化物濃度の調整の容易さの点では、CoPtCr合金に酸化物を混入したターゲットを用いて記録層中の酸化物濃度を調整する方法が最も望ましい。
上記実施例1〜4では、記録層を形成する複数の磁性層において、複数の磁性層を下地層側から酸化物濃度の高い順に積層した例を説明したが、本発明はこれに限定されない。記録層を構成する複数の磁性層のうち、最も下地層側に設けられた磁性層(最下層)の酸化物濃度が、記録層内で最も高ければ良く、それ以外の磁性層間の酸化物濃度の大小関係は任意に設定し得る。例えば、実施例3に示したように(図7参照)、記録層が3層の磁性層(第1、2及び3記録層)から形成される場合に、第1、第2及び第3記録層の酸化物濃度をA1、A2及びA3とすれば、A2<A3<A1の関係が成立するように磁気ディスクを作製しても良く、同様の効果が得られる。
上記実施例1〜4では、基板上に下地層及び記録層を積層した磁気ディスクについて説明したが、本発明はこれに限定されない。下地層自体に記録層を支持する機能を有する場合には、基板を備えなくても良い場合がある。
本発明の磁気記録媒体及びその製造方法によれば、下地層上に酸化物を含有するCoPtCrを主体とする合金磁性材料で形成された記録層を形成し、さらに、記録層を酸化物濃度の異なる2つ以上の磁性層で形成し、且つ、下地層に近い層ほど酸化物濃度が高くなるように記録層を形成するので、高い静磁気特性で、且つ、低媒体ノイズの高密度記録可能な垂直磁気記録方式の磁気記録媒体を提供することができる。それゆえ、本発明の磁気記録媒体及びそれを備えた磁気記録装置は、次世代のより高記録密度の磁気記録媒体及び磁気記録装置として好適である。
図1は、実施例1で作製した磁気ディスクの概略断面図である。
図2は、比較例1で作製した磁気ディスクの概略断面図である。
図3は、実施例1及び比較例1〜3で作製した磁気ディスクの膜面に垂直な方向の磁化特性を表わした図である。
図4は、実施例1で作製した磁気ディスクを備えた磁気記録装置の概略図であり、図4(a)は平面図であり、図4(b)は図4(a)中のA−A’断面図である。
図5は、実施例1及び比較例1〜3で作製した磁気ディスクのSlf/Nd比の線記録密度依存性を表わした図である。
図6は、実施例1及び2で作製した磁気ディスクのSlf/Nd比の線記録密度依存性を表わした図である。
図7は、実施例3で作製した磁気ディスクの概略断面図である。
図8は、実施例1及び3で作製した磁気ディスクのSlf/Nd比の線記録密度依存性を表わした図である。
符号の説明
1 基板
2 密着層
3 軟磁性裏打ち層
4 下地層
5 記録層
5a 第1記録層
5b 第2記録層
5c 第3記録層
6 保護層
10,30 磁気ディスク
60 磁気記録装置
52 スピンドル
53 磁気ヘッド
54 磁気ヘッド駆動系