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JP3625821B6 - ナノコンポジット磁石およびその製造方法 - Google Patents

ナノコンポジット磁石およびその製造方法 Download PDF

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本発明は、各種モータやアクチュエータに好適に使用されるナノコンポジット磁石およびその製造方法に関し、特に、R2Fe14B型結晶構造を有する化合物の硬磁性相とα−Feなどの軟磁性相を含むナノコンポジット磁石に関している。
近年、家電用機器、OA機器、および電装品等において、より一層の高性能化と小型軽量化が要求されている。そのため、これらの機器に使用される永久磁石については、磁気回路全体としての性能対重量比を最大にすることが求められており、例えば残留磁束密度Brが0.5T(テスラ)以上の永久磁石を用いることが要求されている。しかし、従来の比較的安価なハードフェライト磁石によっては、残留磁束密度Brを0.5T以上にすることはできない。
現在、0.5T以上の高い残留磁束密度Brを有する永久磁石としては、粉末冶金法によって作製されるSm−Co系磁石が知られている。Sm−Co系磁石以外では、粉末冶金法によって作製されるNd−Fe−B系焼結磁石や、液体急冷法によって作製されるNd−Fe−B系急冷磁石が高い残留磁束密度Brを発揮することができる。前者のNd−Fe−B系焼結磁石は、例えば特許文献1に開示されており、後者のNd−Fe−B系急冷磁石は例えば特許文献2に開示されている。
しかしながら、Sm−Co系磁石は、原料となるSmおよびCoのいずれもが高価であるため、磁石価格が高いという欠点を有している。
Nd−Fe−B系磁石の場合は、安価なFeを主成分として(全体の60重量%〜70重量%程度)含むため、Sm−Co系磁石に比べて安価ではあるが、その製造工程に要する費用が高いという問題がある。製造工程費用が高い理由のひとつは、含有量が全体の10原子%〜15原子%程度を占めるNdの分離精製や還元反応に大規模な設備と多大な工程が必要になることである。また、粉末冶金法による場合は、どうしても製造工程数が多くなる。
これに対し、液体急冷法によって製造されるNd−Fe−B系急冷磁石は、溶解工程→液体冷却工程→熱処理工程といった比較的簡単な工程で得られるため、粉末冶金法によるNd−Fe−B系磁石に比べて工程費用が安いという利点がある。しかし、液体急冷法による場合、バルク状の永久磁石を得るには、急冷合金から作製した磁石粉末を樹脂と混ぜ、ボンド磁石を形成する必要があるので、成形されたボンド磁石に占める磁石粉末の充填率(体積比率)は高々80%程度である。また、液体急冷法によって作製した急冷合金は、磁気的に等方性である。
以上の理由から、液体急冷法を用いて製造したNd−Fe−B系急冷磁石は、粉末冶金法によって製造した異方性のNd−Fe−B系焼結磁石に比べてBrが低いという問題を有している。
Nd−Fe−B系急冷磁石の特性を改善する手法としては、特許文献3に記載されているように、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Ti、V、およびCrからなる群から選択された少なくとも1種の元素とを複合的に添加することが有効である。このような元素の添加によって、保磁力HcJと耐食性とが向上するが、残留磁束密度Brを改善する有効な方法は、ボンド磁石の密度を向上すること以外に知られていない。また、Nd−Fe−B系急冷磁石中に6原子%以上の希土類元素が含まれる場合、多くの先行技術によれば、溶湯の急冷速度を高めるため、ノズルを介して冷却ロールに溶湯を噴射するメルトスピニング法が使用されている。
Nd−Fe−B系急冷磁石の場合、希土類元素の濃度が比較的に低い組成、すなわち、Nd3.8Fe77.219(原子%)の近傍組成を持ち、Fe3B型化合物を主相とする磁石材料が提案されている(非特許文献1)。この永久磁石材料は、液体急冷法によって作製したアモルファス合金に対して結晶化熱処理を施すことにより、軟磁性であるFe3B相および硬磁性であるNd2Fe14B相が混在する微細結晶集合体から形成された準安定構造を有しており、「ナノコンポジット磁石」と称されている。このようなナノコンポジット磁石については、1T以上の高い残留磁束密度Brを有することが報告されているが、その保磁力HcJは160kA/m〜240kA/mと比較的低い。そのため、この永久磁石材料の使用は、磁石の動作点が1以上になる用途に限られている。
また、ナノコンポジット磁石の原料合金に種々の金属元素を添加し、磁気特性を向上させる試みがなされているが(特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7)、必ずしも充分な「コスト当りの特性値」は得られていない。これは、ナノコンポジット磁石において実用に耐えられる大きさの保磁力が得られていないため、実使用において充分な磁気特性を発現できないためである。
また、アモルファス生成能に優れたLaを原料合金に添加し、その原料合金の溶湯を急冷することによってアモルファス相を主相とする急冷凝固合金を作製した後、結晶化熱処理でNd2Fe14B相およびα−Fe相の両方を析出・成長させ、いずれの相も数十nm程度の微細なものとする技術が報告されている(非特許文献2)。この論文は、Tiなどの高融点金属元素の微量添加(2at%)が磁石特性を向上させることと、希土類元素であるNdの組成比率を9.5at%よりも11.0at%に増加させることがNd2Fe14B相およびα−Fe相の両方を微細化する上で好ましいことを教示している。上記高融点金属の添加は、硼化物(R2Fe233やFe3B)の生成を抑制し、Nd2Fe14B相およびα−Fe相の2相のみからなる磁石を作製するために行なわれている。このナノコンポジット磁石用の急冷合金は、ノズルを用いて合金溶湯を高速で回転する冷却ロールの表面に噴射するメルトスピニング法で作製される。メルトスピニング法による場合、極めて速い冷却速度が得られるため、非晶質の急冷合金を作製するのに適している。
上記の問題を解決するため、希土類元素濃度が10原子%より少なく、硼素濃度が10原子%を超える組成範囲において、Tiを添加することによって合金溶湯の急冷時にα−Feの析出を抑制し、その結果、R2Fe14B型結晶構造を有する化合物の体積比率を向上させたナノコンポジット磁石が開発され、本出願人により、特許文献8に開示されている。
また、特許文献9および10は、ナノコンポジット磁石に添加し得る多数の元素(Al、Si、V、Cr、Mn、Ga、Zr、Mb、Mo、Ag、Hf、Ta、W、Pt、Au、Pb)を記載している。
特開昭59−46008号公報 特開昭60−9852号公報 特開平1−7502号公報 特開平3-261104号公報 特許第2727505号公報 特許第2727506号公報 国際公開公報WO003/03403 特開2002−175908号公報 特許2002−285301号公報 特許第3297676号明細書 R. Coehoorn等、J. de Phys, C8,1988, 669〜670頁 W.C.Chan, et.al. "THE EFFECTS OF REFRACTORY METALS ON THE MAGNETIC PROPERTIES OF α−Fe/R2Fe14B-TYPE NANOCOMPOSITES", IEEE, Trans. Magn. No. 5, INTERMAG. 99, Kyongiu, Korea pp.3265-3267, 1999
特許文献8に開示されているナノコンポジット磁石では、Tiの働きにより、硬磁性相の粒界に微細な軟磁性相が分散した新規な構成が実現している。しかしこの種のナノコンポジット磁石よりも更に希土類濃度の低い組成領域では、硼素濃度を10原子%よりも少なくしない限り、優れた磁石特性を発揮するナノコンポジット磁石は得られていなかった。
一方、希土類元素濃度および硼素濃度のいずれもが10原子%を下回る組成の場合、合金溶湯の粘度が上昇するという問題と、急冷合金組織を微細化しにくいという問題がある。合金溶湯の冷却方法(液体急冷法)には、比較的高速で冷却ロールを回転させるメルトスピニング法と、比較的低速で冷却ロールを回転させるストリップキャスト法とがあり、ストリップキャスト法は、冷却速度が比較的遅く、厚めの急冷合金薄帯が得られるため、量産化に適した液体急冷法であると言われている。
しかしながら、希土類元素濃度を7原子%以下に低減したナノコンポジット磁石をストリップキャスト法のような比較的冷却速度の低い液体急冷法で量産化するには、硼素濃度が10原子%を超えるような組成にする必要がある。にもかかわらず、希土類元素を4〜7原子%、硼素濃度を10〜15原子%とする組成範囲では、「Ti」添加または「Ti+Nb」添加がない場合、モータなどに使用する際に実用上必要となる400kA/m以上の保磁力HcJが得られないだけでなく、減磁曲線の角形性が悪いナノコンポジット磁石しか得られなかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、希土類元素が相対的に少なくとも、硼素が相対的に多い組成において、優れた磁石特性を発揮するナノコンポジット磁石を提供することにある。
本発明のナノコンポジット磁石は、組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-w-n(B1-ppxyTizwn(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、Rは希土類金属元素、Mは、Al、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Nb、Zr、Mo、Ag、Ta、およびWからなる群から選択された1種以上の元素)で表現され、組成比率(原子比率)x、y、z、w、n、m、およびpが、それぞれ、10<x≦15原子%、4≦y<7原子%、0.5≦z≦8原子%、0.01≦w≦6原子%、0≦n≦10原子%、0≦m≦0.5、および0.01≦p≦0.5を満足し、かつR2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相と、軟磁性相とを含み、保磁力および最大磁気エネルギー積の少なくとも一方は、Vが添加されていない状態に比べて1%以上向上している。
好ましい実施形態において、TiおよびVの添加によって前記R2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相の体積比率が40%以上である。
好ましい実施形態において、前記R2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相の平均粒径は10nm以上200nm以下のサイズを有し、前記軟磁性相の平均粒径は1nm以上100nm以下である。
好ましい実施形態において、前記軟磁性相は、α−Feおよび強磁性鉄基硼化物を含んでいる。
本発明のナノコンポジット磁石用急冷凝固合金の製造方法は、組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-w-n(B1-ppxyTizwn(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、Rは希土類金属元素、Mは、Al、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Nb、Zr、Mo、Ag、Ta、およびWからなる群から選択された1種以上の元素)で表現され、組成比率(原子比率)x、y、z、w、n、m、およびpが、それぞれ、10<x≦15原子%、4≦y<7原子%、0.5≦z≦8原子%、0.01≦w≦6原子%、0≦n≦10原子%、0≦m≦0.5、および0.01≦p≦0.5を満足する合金の溶湯を用意する工程と、前記溶湯を急冷することによって、急冷凝固合金を作製する工程とを含む。
好ましい実施形態において、前記溶湯の急冷は、ストリップキャスト法を用いて行う。
本発明のナノコンポジット磁石粉末の製造方法は、組成式が(Fe1-mm-x-y-z-w-n(B1-ppxyTizwn(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、Rは希土類金属元素、Mは、Al、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Nb、Zr、Mo、Ag、Ta、およびWからなる群から選択された1種以上の元素)で表現され、組成比率(原子比率)x、y、z、w、n、m、およびpが、それぞれ、10<x≦15原子%、4≦y<7原子%、0.5≦z≦8原子%、0.01≦w≦6原子%、0≦n≦10原子%、0≦m≦0.5、および0.01≦p≦0.5を満足する急冷凝固合金を用意する工程と、前記急冷凝固合金に対して熱処理を施し、R2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相と、軟磁性相とを含むナノコンポジット磁石合金を作製する工程と、前記ナノコンポジット磁石合金を粉砕する工程とを含む。
本発明のナノコンポジット磁石の製造方法は、組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-w-n(B1-ppxyTizwn(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、Rは希土類金属元素、Mは、Al、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Nb、Zr、Mo、Ag、Ta、およびWからなる群から選択された1種以上の元素)で表現され、組成比率(原子比率)x、y、z、w、n、m、およびpが、それぞれ、10<x≦15原子%、4≦y<7原子%、0.5≦z≦8原子%、0.01≦w≦6原子%、0≦n≦10原子%、0≦m≦0.5、および0.01≦p≦0.5を満足し、かつR2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相と、軟磁性相とを含み、保磁力および最大磁気エネルギー積の少なくとも一方は、Vが添加されていない状態に比べて1%以上向上しているナノコンポジット磁石の粉末を用意する工程と、前記粉末を成形してナノコンポジット磁石を作製する工程とを含む。
本発明によれば、TiおよびVの同時添加により、従来は充分に優れた磁気特性を示すナノコンポジット磁石が製造できなかった組成範囲で、実用的で量産可能なナノコンポジット磁石を製造することが可能となる。
本発明では、硼素の量を比較的多くしても、V添加により、Tiおよび硼素の化合物生成を抑制することができるため、合金溶湯の粘度上昇を避け、ストリップキャスト法によるα−Fe/R2Fe14B系ナノコンポジット磁石の量産に道が開かれる。
本発明者は、4〜7原子%の希土類元素と10〜15原子%の硼素および炭素を含有する組成領域の合金に対し、TiおよびVを同時添加することにより、減磁曲線の角形性に優れたナノコンポジット磁石を作製できることを見い出して、本発明を想到するに至った。前述の特許文献9および10は、多数の添加元素を記載しているが、TiおよびVの同時添加による予期せぬ効果については何も記載していない。
Tiの添加は、本出願人が特許文献8に開示している通り、合金溶湯を急冷する過程でα−Feの析出・成長を抑制する効果を発揮する。このようなTi添加の結果として、R2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相の体積比率が50%を超え、硬磁性相の粒界に軟磁性相が分散または薄く存在する構造が実現する。
このようにTiの添加には優れた効果があるが、特許文献8に開示したナノコンポジット磁石の磁化を更に高めるために希土類元素量を低減すると、磁石特性が劣化することがわかった。なお、R2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相と、α−Feや鉄基硼化物からなる軟磁性相とが同一金属組織中に混在し、これらの構成相が交換相互作用によって磁気的に結合しているナノコンポジット磁石においては、磁化を増加させるためには、希土類元素の濃度を低下させ、それによってα−Feの体積比率を増加させることが有効であると考えられている。この理由は、α−Feの飽和磁化がR2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相の飽和磁化よりも高いためである。
しかし、Tiを添加した組成系で、希土類元素の濃度を7原子%以下に低減すると、添加Tiの量を増加しない限り、400kA/m以上の保磁力HcJが達成されないだけでなく、減磁曲線の角形性も悪く、良好な磁気特性が得られないという問題が生じることがわかった。一方、このような問題を解決するためにTiの添加量を単純に増加させてゆくと、今度は、Tiと硼素とが結合した非磁性化合物が多く析出し、かえって磁石特性が劣化するという問題が生じた。
そこで、本発明者は、希土類元素量を7原子%以下に低減し、かつ、硼素濃度を相対的に高めた組成範囲において、Tiと他の金属元素とを同時に添加する種々の実験を行った結果、TiおよびVを同時添加することにより、磁化の高い鉄基硼化物やα−Feの体積比率を増加させつつ、ストリップキャスト法での製造が可能なナノコンポジット磁石を得ることに成功した。
本発明のナノコンポジット磁石は、組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-w-n(B1-ppxyTizwnで表現され、R2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相と、軟磁性相とを含んでいる。ここで、TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、Rは希土類金属元素、Mは、Al、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Nb、Zr、Mo、Ag、Ta、およびWからなる群から選択された一種以上の元素である。そして、組成比率(原子比率)x、y、z、w、n、m、およびpは、それぞれ、以下の関係式を満足している。
10<x≦15原子%、
4≦y<7原子%、
0.5≦z≦8原子%、
0.01≦w≦6原子%、
0≦n≦10原子%、
0≦m≦0.5、および
0.01≦p≦0.5。
本発明によれば、TiおよびVの同時添加により、保磁力および最大磁気エネルギー積の少なくとも一方が、V添加のない状態に比べて1%以上向上する。また、TiおよびVの添加により、R2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相の体積比率が40%以上となる。最終的に得られる組織において、R2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相の平均粒径は10nm以上200nm以下のサイズを有し、前記軟磁性相の平均粒径は1nm以上100nm以下である。
本発明の好ましい実施形態では、ストリップキャスト法のような液体急冷法により、Fe、B、C、R(Yを含む1種以上の希土類金属元素)、TiおよびVを必須元素として含有する鉄基合金溶湯を好ましくは減圧雰囲気中で冷却し、それによって微細なR2Fe14B型化合物相を含む急冷合金を作製する。そして、その後に必要に応じて急冷合金に対する熱処理を行ない、急冷合金中に残存していた非晶質を結晶化させる。
ストリップキャスト法は、冷却ロールの表面に合金溶湯を接触させ、合金溶湯を冷却することにより、急冷合金の薄帯を作製する方法である。本発明では、従来のストリップキャスト法に比べて高速で回転する冷却ロールによって合金溶湯の急冷・凝固を行う。ストリップキャスト法は、ノズルオリフィスを用いて合金溶湯を冷却ロールの表面に噴射するメルトスピニング法に比べて、冷却速度は低いが、幅が広くて比較的厚い急冷合金薄帯を作製できるため、量産性に優れている。なお、本発明のナノコンポジット磁石は、ノズルを用いて溶湯を冷却ロールに噴射するメルトスピニング法によって作製することも可能である。
本発明によれば、α−Feの析出・成長を抑制する機能を持つTiを添加しながら、希土類元素濃度を低く設定し、かつVを添加することにより、最終的に、磁化の高いα−Feや鉄基硼化物が適切な量で存在するナノコンポジット磁石組織が得られる。TiおよびVの働きにより、合金溶湯の冷却速度を遅くしても、R2Fe14B型化合物相やα−Fe相の粗大化を抑制できるため、熱処理後であっても、R2Fe14B型化合物相の平均粒径を10nm以上200nm以下とし、かつ、平均粒径が1nm以上100nm以下のα−Fe相などの軟磁性相が分散した高性能のナノコンポジット磁石を得ることができる。
従来、R2Fe14B型化合物相およびα−Feから構成されるタイプのナノコンポジット磁石は、飽和磁化の高いα−Feの体積比率が5〜50%と高いため、優れた磁化を発揮するが、硼素濃度が本発明の範囲よりも低く、ストリップキャスト法のように冷却速度が遅い場合は、結晶粒径が粗大化してナノコンポジット磁石特性が劣化する傾向があった。しかし、本発明によれば、硼素濃度が10原子%を超えている高い値を持つため、ストリップキャスト法で優れたナノコンポジット磁石特性を量産することが可能となる。
本発明では、希土類元素の濃度を低くしながら、TiおよびVの添加により、R2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相の体積比率を可能な限り増大させる一方で、磁化の高い軟磁性相の粗大化を抑制しつつ、その体積比率をある程度大きくすることにより、減磁曲線の角形性を向上させている。磁化の増加は、TiおよびVの働きにより、急冷凝固合金中に存在する硼素リッチな非磁性アモルファス相から強磁性鉄基硼化物などの硼化物相を生成し、結晶化熱処理後に残存する非磁性アモルファス相の体積比率を減少させることにも寄与していると考えられる。
本発明では、合金組成、合金の冷却速度、および熱処理温度などの製造条件を調節することにより、R2Fe14B型化合物相の飽和磁化と同等、または、それよりも高い飽和磁化を有する鉄基硼化物やα−Feを生成することが可能になる。生成される軟磁性相は、α−Fe(飽和磁化2.1T)やFe236(飽和磁化1.6T)などである。ここで、R2Fe14Bの飽和磁化は、RがNdの場合に約1.6Tである。
なお、本明細書における「アモルファス相」とは、原子配列が完全に無秩序化した部分によってのみ構成される相だけではなく、結晶化の前駆体や微結晶(サイズ:数nm以下)、または原子クラスタを部分的に含んでいる相をも含むものとする。具体的には、X線回折や透過電子顕微鏡観察によって結晶構造を明確に同定できない相を広く「アモルファス相」と称することにする。そして、X線回折や透過電子顕微鏡観察によって結晶構造を明確に同定できる構造を「結晶相」と称することとする。
本発明者の実験によれば、TiおよびVを同時添加した場合だけ、TiおよびCrや、TiおよびZrを添加した場合に比べて磁化の低下が生じず、減磁曲線の角形性が特に良好なものとなった。これらのことから、磁化の低い硼化物の生成を抑制する上でTiおよびVの添加が重要な働きをしていると考えられる。
なお、TiおよびNbを同時添加した場合は、磁化は低下しなかったが、保磁力が低下するという問題があった。
このようにTiおよびVを同時添加した場合のみ、希土類元素が4〜7原子%、硼素濃度が10〜15原子%の組成範囲で、優れたナノコンポジット磁石特性を得ることが可能になる。
本発明では、充分な量の硼素が含まれるだけではなく、炭素を必須元素として含有している。このため、溶湯の動粘性が5×10-62/秒以下となり、溶湯流れがスムーズ化され、かつ、溶湯と冷却ロールとの間の密着性が向上するという効果が得られる。このため、冷却ロールでの抜熱効果が向上し、冷却ロールの回転速度が低い場合でも良好なナノコンポジット磁石が作製できるようになる。
このため、本発明の好ましい実施形態では、ノズルオリフィスによる溶湯の流量制御を行わずに溶湯をシュート(案内手段)から直接に冷却ロール上へ注ぐストリップキャスト法を用いることが可能となる。これは、ノズルオリフィスを用いるメルトスピニング法による場合と比較して、生産性が高く、製造コストが低い。このようにR−Fe−B系希土類合金の溶湯をストリップキャスト法によっても達成可能な冷却速度範囲でアモルファス化するには、通常、B(硼素)を10原子%以上添加する必要がある。このようにBを多く添加した場合は、急冷合金に対して結晶化熱処理を行った後も、B濃度の高い非磁性のアモルファス相が金属組織中に残存し、均質な微細結晶組織が得られない。その結果、強磁性相の体積比率が低下し、磁化の低下を招来する。しかしながら、本発明のようにTiおよびVを同時添加すると、上述した現象が観察されるため、磁化の高い鉄基硼化物が生成され、磁化が向上する。
[組成の限定理由]
BおよびCの合計の組成比率xが10原子%以下になると、急冷時の冷却速度が102℃/秒〜105℃/秒程度と比較的遅い場合、R2Fe14B型結晶相とアモルファス相とが混在する急冷合金を作製することが困難になり、その後に熱処理を施しても高い保磁力が得られない。また、組成比率xが10原子%以下になると、高い磁化を示す鉄基硼化物が生成されなくなる。このため、xは10原子%を超えることが必要である。一方、組成比率xが15原子%を超えると、結晶化熱処理後も残存するアモルファス相の体積比率が増し、同時に、構成相中で最も高い飽和磁化を有するα−Feの存在比率が減少するため、残留磁束密度Brが低下してしまう。以上のことから、組成比率xは10原子%を超え、15原子%以下となるように設定することが好ましい。より好ましい組成比率xの範囲は11原子%を超え、14原子%以下である。
BおよびCの全体に対するCの比率pは、原子比率で、0.01以上0.5以下の範囲にあることが好ましい。C添加の効果を得るには、Cの比率pが0.01よりも少ないと、C添加の効果がほとんど得られない。一方、pが0.5よりも大きくなりすぎると、粗大なα−Fe相の生成量が増大して、磁気特性が劣化するという問題が生じる。比率pの下限は、0.02であることが好ましく、pの上限は0.25以下であることが好ましい。比率pは0.05以上0.15以下であることが更に好ましい。
Rは、希土類元素(Yを含む)の群から選択された1種以上の元素である。LaまたはCeが存在すると、R2Fe14B相のR(典型的にはNd)がLaやCeで置換され、保磁力および角形性が劣化するため、LaおよびCeを実質的に含まないことが好ましい。ただし、微量のLaやCe(0.5原子%以下)が不可避的に混入する不純物として存在する場合、磁気特性上、問題はない。従って、0.5原子%以下のLaやCeを含有する場合は、LaやCeを実質的に含まないといえる。
Rは、より具体的には、PrまたはNdを必須元素として含むことが好ましく、その必須元素の一部をDyおよび/またはTbで置換してもよい。Rの組成比率yが全体の4原子%未満になると、保磁力の発現に必要なR2Fe14B型結晶構造を有する化合物相が充分に析出せず、高い保磁力HcJを得ることができなくなる。また、Rの組成比率yが7原子%以上になると、アモルファス生成能が低下するとともに、α−Fe相やFe−B相などの軟磁性相の生成量が減少して磁化の低下を招く。故に、希土類元素Rの組成比率yは4原子%以上7原子%未満の範囲に調節することが好ましい。より好ましいRの範囲は5原子%以上6原子%未満である。
Tiの添加は、合金溶湯の急冷中に硬磁性相を軟磁性相よりも早くに析出・成長させるという効果を発揮するとともに、保磁力HcJおよび残留磁束密度Brの向上および減磁曲線の角形性の改善に寄与し、最大エネルギー積(BH)maxを向上させる。
Tiの組成比率zが全体の0.5原子%未満になると、Ti添加の効果が充分に発現しない。一方、Tiの組成比率zが全体の8原子%を超えると、結晶化熱処理後も残存するアモルファス相の体積比率が増すため、残留磁束密度Brの低下を招来しやすい。以上のことから、Tiの組成比率zは0.5原子%以上8原子%以下の範囲とすることが好ましい。より好ましいzの範囲の下限は1.0原子%であり、より好ましいzの範囲の上限は6原子%である。更に好ましいzの範囲の上限は5原子%である。
また、Cおよび/またはBから構成されるQの組成比率xが高いほど、Q(例えば硼素)を過剰に含むアモルファス相が形成されやすいので、Tiの組成比率zを高くすることが好ましい。TiはBに対する親和性が強く、硬磁性相の粒界に濃縮される。Bに対するTiの比率が高すぎると、Tiは粒界にではなく、R2Fe14B化合物中に入り込み、磁化を低下させる可能性がある。また、Bに対するTiの比率が低すぎると、被磁性のBリッチアモルファス相が多く生成されてしまう。実験によれば、0.05≦z/x≦0.4を満足させるように組成比率を調節することが好ましく、0.1≦z/x≦0.35を満足させることがより好ましい。更に好ましくは0.13≦z/x≦0.3である。
Vは、優れた磁石特性を得るために必要なTiの添加量を少なくする効果を発揮する。このため、Tiと硼素との化合物の生成を抑制できるので、磁化を向上させるとともに、溶湯粘度を下げるという効果も得られる。この結果、ストリップキャスト法での急冷処理が容易になる。
Vの組成比率wが0.01原子%未満では、このようなV添加効果が得られず、また、6原子%を超えると、V−Fe−B系化合物が析出するため、磁石特性が劣化するという問題が生じる。このため、組成比率wは、0.01原子%以上6原子%以下に設定されることが好ましい。組成比率wのより好ましい範囲は、0.1原子%以上4原子%以下であり、更に好ましい範囲は、0.5原子%以上2原子%以下である。
種々の効果を得る為、金属元素Mを添加しても良い。Mは、Al、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Nb、Zr、Mo、Ag、Ta、およびWからなる群から選択された1種以上の元素である。実験によると、TiおよびVを添加したことにより得られる効果は、上記の金属元素Mを添加しても、その量が10原子%を超えない量であれば、大きく阻害されることはなかった。
Feは、上述の元素の含有残余を占めるが、Feの一部をCoおよびNiの1種または二種の遷移金属元素(T)で置換しても所望の硬磁気特性を得ることができる。Feに対するTの置換原子数比率mが0.5を超えると、0.7T以上の高い残留磁束密度Brが得られない。このため、置換原子数比率mは0以上0.5以下の範囲に限定することが好ましい。なお、Feの一部をCoで置換することによって、減磁曲線の角形性が向上するとともに、R2Fe14B相のキュリー温度が上昇するため、耐熱性が向上する。置換原子数比率mの好ましい範囲は0.05以上0.4以下である。
次に、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
(実施形態1)
まず、本発明の第1の実施形態を説明する。
本実施形態では、図1に示すストリップキャスティング装置を用いて急冷凝固合金を製造する。酸化しやすい希土類元素RやFeを含む原料合金の酸化を防ぐため、不活性ガス雰囲気中で急冷合金の作製を実行する。不活性ガスとしては、ヘリウムまたはアルゴン等の希ガスや窒素を用いることができる。なお、窒素は希土類元素Rと比較的に反応しやすいため、ヘリウムまたはアルゴンなどの希ガスを用いることが好ましい。
図1のストリップキャスティング装置は、内部を不活性ガス雰囲気での減圧状態にすることができる不図示のチャンバ内に配置される。このストリップキャスティング装置は、合金原料を溶解するための溶解炉11と、溶解炉11から供給される合金溶湯12を急冷・凝固させるための冷却ロール13と、溶解炉11から冷却ロール13に溶湯12を導くシュート(案内手段)14とを備えている。
溶解炉11は、合金原料を溶融することによって作製した溶湯12をシュート14に対して略一定の供給量で供給することができる。この供給量は、溶解炉11を傾ける動作を制御することなどによって、任意に調節することができる。
冷却ロール13は、その外周面が銅などの熱伝導性の良好な材料から形成されており、例えば、直径30cm〜100cmで幅が15cm〜100cmの寸法を有する。冷却ロール13は、不図示の駆動装置によって所定の回転速度で回転することができる。この回転速度を制御することによって、冷却ロール13の周速度を任意に調節することができる。このストリップキャスティング装置による冷却速度は、冷却ロール13の回転速度などを選択することにより、約103℃/秒〜約105℃/秒の範囲で制御可能である。
シュート14の溶湯を案内する面は、水平方向に対して角度(傾斜角度)αで傾斜し、シュート14の先端部と冷却ロールの表面との距離は数mm以下に保たれる。そして、シュート14は、その先端部と冷却ロール13の中心とを結ぶ線が鉛直方向に対して角度α(0°≦α≦90°)を形成するように配置される。角度αは、10°≦α≦55°の関係を満足することが好ましい。
シュート14の傾斜角度βは、1°≦β≦80°であることが好ましく、5°≦β≦60°の関係を満足することが更に好ましい。
シュート14上に供給された溶湯12は、シュート14の先端部から冷却ロール13の表面に対して供給され、冷却ロール13の表面に溶湯のパドル6を形成する。シュート14は、溶解炉11から所定の流量で連続的に供給される溶湯12を一時的に貯湯するようにして流速を遅延し、溶湯12の流れを整流することができる。シュート14に供給された溶湯12における溶湯表面部の流れを選択的に堰き止めることができる堰き止め板を設ければ、整流効果を更に向上させることができる。シュート14を用いることによって、冷却ロール13の胴長方向(軸線方向:紙面に垂直)において、一定幅にわたって略均一な厚さに広げた状態で、溶湯12を供給することができる。シュート14の溶湯案内面の傾斜角度βを調節することにより、溶湯供給速度を微調整できる。溶湯は、その自重により、シュート14の傾斜した案内面を流れ、水平方向に平行な運動量成分をもつ。シュート14の傾斜角度βを大きくするほど、溶湯の流速は速くなり、運動量も大きくなる。
シュート14は、上記の機能に加え、冷却ロール13に達する直前の溶湯12の温度を調整する機能をも有する。シュート14上における溶湯12の温度は、液相線温度よりも100℃以上高い温度であることが望ましい。溶湯12の温度が低すぎると、急冷後の合金特性に悪影響を及ぼすTiB2などの初晶が局所的に核発生し、これが凝固後に残存してしまうことがあるからである。また、溶湯温度が低すぎると、溶湯粘度が上昇し、スプラッシュが発生しやすくなる。シュート14上での溶湯温度は、溶解炉11からシュート14に注ぎ込む時点での溶湯温度やシュート14自体の熱容量などを調節することによって制御することができるが、必要に応じてシュート加熱装置(図1において不図示)を設けても良い。
本実施形態におけるシュート14は、冷却ロール13の外周面に対向するように配置された端部において、冷却ロールの軸線方向に沿って所定の間隔だけ離して設けられた複数の排出部を有している。この排出部の幅(溶湯の1つの流れの幅)は、好適には0.5cm〜10.0cmに設定され、より好適には0.7cm〜4.0cmに設定される。本実施形態では、排出部における各溶湯流れの幅は1cmに設定されている。なお、溶湯の流れの幅は、上記排出部の位置から離れるにつれ、横方向に広がる傾向がある。シュート14に複数の排出部を設け、複数の溶湯流れを形成する場合は、隣接する溶湯流れが相互に接触しないようにすることが好ましい。
シュート14上に供給された溶湯12は、冷却ロール13の軸線方向に沿って、各排出部の幅と略同一幅を有して冷却ロール13と接触する。その後、冷却ロール13に所定の出湯幅で接触した溶湯12は、冷却ロール13の回転に伴って(冷却ロール13に引き上げられるようにして)ロール周面上を移動し、この移動過程において冷却される。なお、溶湯漏れを防止するために、シュート14の先端部と冷却ロール13との間の距離は、3mm以下(特に0.4〜0.7mmの範囲)に設定されることが好ましい。
隣接する排出部間の間隙は、好適には1cm〜10cmに設定される。このようにして冷却ロール13の外周面における溶湯接触部(溶湯冷却部)を複数の箇所に分離すれば、各排出部から排出された溶湯を効果的に冷却することができる。結果として、シュート14への溶湯供給量を増加させた場合にも所望の冷却速度を実現することができる。
なお、シュート14の形態は、上記形態に限られず、単一の排出部を有するものであってもよいし、出湯幅がより大きく設定されていてもよい。また、シュート14の先端部分(底部)に管状の開口部を設け、管状開口部を介して溶湯12を冷却ロール13の表面に供給するようにしても良い。
回転する冷却ロール13の外周面上で凝固された合金溶湯12は、薄帯状の凝固合金15となって冷却ロール13から剥離する。本実施形態の場合、複数の排出部の各々から流れ出た溶湯が所定幅の帯となり、凝固する。剥離した凝固合金15は、不図示の回収装置において破砕され、回収される。
このように、ストリップキャスト法は、メルトスピニング法のようにノズルを用いておらず、ノズル径による噴射スピードの制約やノズル部での凝固による溶湯詰まりなどの問題がないので、大量生産に適している。また、ノズル部の加熱設備や溶湯ヘッド圧を制御する為の圧力制御機構も必要でないため、初期設備投資やランニングコストを小さく抑えることができる。
また、メルトスピニング法では、ノズル部分の再利用が不可能なため、加工コストの高いノズルを使い捨てにしなければならなかったが、ストリップキャスト法ではシュートを繰り返し使用することが可能であるのでランニングコストが安価である。
更に、ストリップキャスト法によれば、メルトスピニング法に比べ、遅い速度で冷却ロールを回転させ、また、合金出湯量を多くできるため、急冷合金薄帯を厚くすることができる。
シュート14の形状や、溶湯排出部の幅と本数、溶湯供給速度などを適切に選択することによって、得られる薄帯状急冷合金の厚さ(平均値)及び幅が適正範囲内に調節できる。薄帯状急冷合金の幅は、15mm〜80mmの範囲であることが好ましい。また、薄帯状合金の厚さは、薄すぎると嵩密度が低くなるので回収困難となり、厚すぎると溶湯のロール接触面と自由面(溶湯表面)とで冷却速度が異なり、自由面の冷却速度が十分に得られないため好ましくない。このため、薄帯状合金の厚さが50μm以上250μm以下となるようにすることが好ましく、60μm以上200μm以下となるようにすることがより好ましい。急冷合金の厚さの更に好ましい範囲は、70μm以上90μm以下である。また、ボンド磁石の充填密度を考慮すると、急冷合金の厚さは80μmを超えることが好ましい。このときの急冷雰囲気は、10〜101.2kPaの減圧状態に設定することが好ましい。
なお、本発明のナノコンポジット磁石は、ストリップキャスト法以下の液体急冷法(メルトスピニング法やアトマイズ法など)によって作製することも可能である。
[熱処理]
本実施形態では、熱処理をアルゴン雰囲気中で実行する。好ましくは、昇温速度を5℃/秒〜20℃/秒として、550℃以上850℃以下の温度で30秒以上20分以下の時間保持した後、室温まで冷却する。この熱処理によって、残存アモルファス相中に準安定相の微細結晶が析出・成長し、ナノコンポジット組織構造が形成される。
なお、熱処理温度が550℃を下回ると、熱処理後もアモルファス相が多く残存し、急冷条件によっては、保磁力が充分なレベルに達しない場合がある。また、熱処理温度が850℃を超えると、各構成相の粒成長が著しく、残留磁束密度Brが低下し、減磁曲線の角形性が劣化する。このため、熱処理温度は550℃以上850℃以下が好ましいが、より好ましい熱処理温度の範囲は570℃以上820℃以下である。
熱処理は、合金の酸化を防止するため、ArガスやN2ガスなどの不活性ガス雰囲気中か流気中で行なうことが好ましい。また、0.1kPa以下の真空中で熱処理を行なってもよい。
本発明の場合、最終的にα−Fe、Fe3B、Fe236のような軟磁性相が存在していても、軟磁性相の平均結晶粒径が硬磁性相の平均結晶粒径よりも小さいため、軟磁性相と硬磁性相とが交換相互作用によって磁気的に結合し、優れた磁気特性が発揮される。
熱処理後におけるNd2Fe14B型化合物相の平均結晶粒径は、単軸結晶粒径である300nm以下となる必要があり、10nm以上200nm以下であることが好ましく、10nm以上150nm以下であることが更に好ましい。これに対し、強磁性の鉄基硼化物相やα−Fe相の平均結晶粒径が100nmを超えると、各構成相間に働く交換相互作用が弱まり、減磁曲線の角形性が劣化するため、(BH)maxが低下してしまう。通常、これらの相は1nmよりも小さな直径をもつ析出物とはならず、数nmの大きさの析出物となる。以上のことから、硼化物相やα−Fe相などの軟磁性相の平均結晶粒径は1nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上50nm以下であることがより好ましい。更に好ましくは、5nm以上30nm以下である。また、交換スプリング磁石として優れて性能を発揮するには、Nd2Fe14B型化合物相の平均結晶粒径は、軟磁性相の平均結晶粒径よりも大きいことが好ましい。
なお、熱処理前に急冷合金の薄帯を粗く切断または粉砕しておいてもよい。熱処理後、得られた磁石を微粉砕し、磁石粉末(磁粉)を作製すれば、その磁粉から公知の工程によって種々のボンド磁石を製造することができる。ボンド磁石を作製する場合、鉄基希土類合金磁粉はエポキシ樹脂やナイロン樹脂と混合され、所望の形状に成形される。このとき、ナノコンポジット磁粉に他の種類の磁粉、例えばSm−Fe−N系磁粉やハードフェライト磁粉を混合してもよい。
上述のボンド磁石を用いてモータやアクチュエータなどの各種の回転機を製造することができる。
本発明の方法により得られた磁石磁末を射出成形ボンド磁石用に用いる場合、平均粒度が200μm以下になるように粉砕することが好ましく、より好ましい粉末の平均粒径は30μm以上150μm以下である。また、圧縮成形ボンド磁石用に用いる場合は、粒度が300μm以下になるように粉砕することが好ましく、より好ましい粉末の平均粒径は30μm以上250μm以下である。更に好ましい範囲は50μm以上200μm以下である。
(実施例1)
下記の表1に示す組成を有し、総量が600グラム(g)となるように純度99.5%以上のB、C、Fe、Co、Ti、V、およびNdを秤量し、アルミナ製坩堝に投入した。その後、これらの合金原料を高周波加熱によって圧力70kPaのアルゴン(Ar)雰囲気中で溶解し、合金溶湯を作製した。 溶湯温度が1500℃に到達した後、水冷した銅製鋳型上に鋳込み、平板状の合金を作製した。その後、総量が15グラムとなるように秤量し、底部に直径0.8mmのオリフィスを有する石英坩堝内に投入した。これを、圧力1.33〜47.92kPaのArガス雰囲気中で高周波加熱により溶解し、1350℃の溶湯を形成した。この溶湯の湯面をArガスによって加圧して、室温のAr雰囲気中で冷却ロール噴射し、急冷凝固合金を作成した。冷却ロールの表面周速度は10m/秒に設定し、冷却ロール表面とノズル選択位置との間隔を0.7mmとした。この結果、幅2〜3mm、厚さ20〜50μmの連続した急冷凝固合金薄帯(リボン)が得られた。
Figure 0003625821
ここで、No.1〜4の試料が本発明の実施例であり、No.5〜8の試料が比較例である。
次に、この急冷凝固合金をAr雰囲気中において、600〜800℃の温度域に6〜8分保持した後、室温まで冷却した。こうして得られた試料について、VSMを用いて磁気特性を測定した。測定結果を表2に示す。
Figure 0003625821
表2からわかるように、実施例では、磁化が向上し、減磁曲線の角形性も良くなった結果、最大磁気エネルギー積(BH)maxが比較例よりも向上した。特にNo.1の試料とNo.5の試料は、V添加の有無以外の点で等しい条件で作成されたものであるので、両者を比較すると、No.1の試料における残留磁束密度および最大磁気エネルギー積のいずれもがNo.5の試料に比べて1%以上向上していることがわかる。
図2は、熱処理(700℃、6分)を行った後における粉末XRDのグラフを示している。グラフは、上から順番に、試料A(Nd5.8Fe75.7121Ti41.5)、試料B(Nd9Fe7312.61.4Ti4)、および試料C(Nd4.5Fe7318.5Co2Cr2)関するデータを示している。
試料Aは、本発明の実施例であり、グラフから、他の試料に比べてα−Feの強度ピークが顕著に観察されることがわかる。試料Aは、Nd2Fe14B(硬磁性相)およびα−Fe(軟磁性相)を主たる構成相として含む「α−Fe/R2Fe14B系ナノコンポジット磁石」であるが、これら以外の相にFe233(軟磁性相)も含んでいる。
一方、試料Bは、Fe3Bなどの鉄基硼化物がNd2Fe14B(硬磁性相)の粒界に存在する構造のナノコンポジット磁石である。また、試料Cは、Fe3Bの体積比率が大きな「Fe3B/Nd2Fe14B系ナノコンポジット磁石」である。
本発明によるナノコンポジット磁石は、各種モータやアクチュエータに好適に使用される。
本発明において好適に使用されるストリップキャスト装置の構成例を示す図である。 本発明の実施例および比較例に関する粉末XRDを示すグラフである。
符号の説明
11 溶解炉
12 合金溶湯
14 シュート(溶湯の案内手段)
13 冷却ロール
15 急冷合金

Claims (6)

  1. 組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-w-n(B1-ppxyTizwn(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、Rは希土類金属元素、Mは、Al、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Nb、Zr、Mo、Ag、Ta、およびWからなる群から選択された1種以上の元素)で表現され、組成比率(原子比率)x、y、z、w、n、m、およびpが、それぞれ、
    10<x≦15原子%、
    4≦y<7原子%、
    0.5≦z≦8原子%、
    0.01≦w≦6原子%、
    0≦n≦10原子%、
    0≦m≦0.5、および
    0.01≦p≦0.5
    を満足し、かつ
    2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相と、軟磁性相とを含み、
    前記硬磁性相の平均粒径は10nm以上200nm以下のサイズを有し、前記軟磁性相の平均粒径は1nm以上100nm以下であり、
    前記軟磁性相は、α−Feおよび強磁性鉄基硼化物を含み、
    保磁力および最大磁気エネルギー積の少なくとも一方は、Vが添加されていない状態に比べて1%以上向上しているナノコンポジット磁石。
  2. 前記R2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相の体積比率が40%以上である、請求項1に記載のナノコンポジット磁石。
  3. 組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-w-n(B1-ppxyTizwn(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、Rは希土類金属元素、Mは、Al、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Nb、Zr、Mo、Ag、Ta、およびWからなる群から選択された1種以上の元素)で表現され、組成比率(原子比率)x、y、z、w、n、m、およびpが、それぞれ、
    10<x≦15原子%、
    4≦y<7原子%、
    0.5≦z≦8原子%、
    0.01≦w≦6原子%、
    0≦n≦10原子%、
    0≦m≦0.5、および
    0.01≦p≦0.5
    を満足する合金の溶湯を用意する工程と、
    前記溶湯を急冷することによって、急冷凝固合金を作製する工程と、
    を含むナノコンポジット磁石用急冷凝固合金の製造方法。
  4. 前記溶湯の急冷は、ストリップキャスト法を用いて行う、請求項3に記載の製造方法。
  5. 組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-w-n(B1-ppxyTizwn(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、Rは希土類金属元素、Mは、Al、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Nb、Zr、Mo、Ag、Ta、およびWからなる群から選択された1種以上の元素)で表現され、組成比率(原子比率)x、y、z、w、n、m、およびpが、それぞれ、
    10<x≦15原子%、
    4≦y<7原子%、
    0.5≦z≦8原子%、
    0.01≦w≦6原子%、
    0≦n≦10原子%、
    0≦m≦0.5、および
    0.01≦p≦0.5
    を満足する急冷凝固合金を用意する工程と、
    前記急冷凝固合金に対して熱処理を施し、R2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相と、軟磁性相とを含むナノコンポジット磁石合金を作製する工程と、
    前記ナノコンポジット磁石合金を粉砕する工程と、
    を含み、
    前記硬磁性相の平均粒径は10nm以上200nm以下のサイズを有し、前記軟磁性相の平均粒径は1nm以上100nm以下であり、前記軟磁性相は、α−Feおよび強磁性鉄基硼化物を含むナノコンポジット磁石の粉末を形成する、ナノコンポジット磁石粉末の製造方法。
  6. 組成式が(Fe1-mm100-x-y-z-w-n(B1-ppxyTizwn(TはCoおよびNiからなる群から選択された1種以上の元素、Rは希土類金属元素、Mは、Al、Si、Cr、Mn、Cu、Zn、Ga、Nb、Zr、Mo、Ag、Ta、およびWからなる群から選択された1種以上の元素)で表現され、組成比率(原子比率)x、y、z、w、n、m、およびpが、それぞれ、
    10<x≦15原子%、
    4≦y<7原子%、
    0.5≦z≦8原子%、
    0.01≦w≦6原子%、
    0≦n≦10原子%、
    0≦m≦0.5、および
    0.01≦p≦0.5
    を満足し、かつ
    2Fe14B型結晶構造を有する硬磁性相と、軟磁性相とを含み、前記硬磁性相の平均粒径は10nm以上200nm以下のサイズを有し、前記軟磁性相の平均粒径は1nm以上100nm以下であり、前記軟磁性相は、α−Feおよび強磁性鉄基硼化物を含み、保磁力および最大磁気エネルギー積の少なくとも一方は、Vが添加されていない状態に比べて1%以上向上しているナノコンポジット磁石の粉末を用意する工程と、
    前記粉末を成形してナノコンポジット磁石を作製する工程と、
    を含む、ナノコンポジット磁石の製造方法。
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