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JP3624672B2 - 無水結晶マルチトールの連続的製造方法及び製造装置 - Google Patents

無水結晶マルチトールの連続的製造方法及び製造装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、安定な無水結晶マルチトールの連続的な全量方式(全糖方式とも呼ばれる)による製造方法及び製造装置に関するものであり、具体的には、マルチトール含有水溶液を加温濃縮する工程、マルチトール濃縮液に種結晶を添加混合し種結晶含有過飽和物(マスキット)を生成する工程、及び高温加湿下で結晶化を進行する結晶熟成工程などを連続的に行うことによって短時間で安定な無水結晶マルチトールを製造するための方法及び装置に関する。本発明で言う無水結晶マルチトールとは、実質的に非吸湿性または難吸湿性の結晶マルチトールであればよく、無水結晶マルチトール以外に、ソルビトール、マルトトリイトール、マルトテトライトール等の糖アルコールまたはグルコース、フラクトース等の糖質を含有する含蜜結晶であってもよい。
【0002】
【従来の技術】
元来マルチトール結晶は吸湿性が高く、非吸湿性の結晶粉末を製造する方法については、随分研究されてきた。例えば特公昭63−2439号公報には無水結晶マルチトール又は無水結晶マルチトール含蜜結晶の製造方法が紹介されている。その方法の詳細は次の通りである。晶出用マルチトール溶液は、過飽和度が1.05〜1.5程度で、具体的に述べれば、純度65%以上のマルチトールを濃度約65〜95%水溶液とし、45〜95℃の比較的高温の過飽和マルチトール溶液を助晶缶にとり、これに種晶を0.1〜20%共存せしめて、ゆっくり攪拌しつつ徐冷し晶出を促してマスキットを得る。晶出したマスキットから無水結晶マルチトール及びそれを含有する含蜜結晶を採取する方法は、分蜜方法、ブロック粉砕方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法など公知の方法を利用することができる。
【0003】
例えば、分蜜方法は、通常マスキットをバスケット型遠心分離機にかけ、無水結晶マルチトールと蜜とを分離する方法で、必要により該結晶に少量の冷水をスプレーして洗浄することも容易であり、より高純度の非吸湿性無水結晶マルチトールを製造するのに好適である。噴霧乾燥の場合には濃度70〜85%、晶出率25〜60%程度のマスキットを高圧ポンプでノズルから噴霧し、結晶粉末が溶融しない温度(例えば60〜100℃)の熱風で乾燥し、次いで30〜60℃の温風で約1〜20時間熟成すれば非吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。また、ブロック粉砕方法は、通常、水分5〜15%、晶出率10〜60%程度のマスキットを0.5〜5日間静置して全体をブロック状に晶出固化させ、これを粉砕または切削などの方法によって破砕し乾燥すれば、非吸湿性または難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。マルチトール水溶液を常法に従い水分5%未満に加熱濃縮して溶融状態とした過飽和マルチトール溶液に種結晶をマルチトールの融点以下の温度で混捏し、これを各種の形状に成形して非吸湿性または難吸湿性の含蜜結晶を得ることもできる。
【0004】
以上のような製法が前記公報の明細書に記載されており、また、実施例には、マルチトール溶液を濃度80%に濃縮した後、助晶缶にとり無水結晶マルチトールの粉末種晶1%を加えて50℃とし、ゆっくり攪拌しつつ徐冷して、3日間を要して20℃まで下げ、バスケット型遠心分離機で分蜜し、無水結晶マルチトールを得る方法(実施例2)、マルチトール溶液を濃度88%に濃縮した後、助晶缶にとり、無水結晶マルチトールの粉末結晶2%を加えて50℃とし、ゆっくり攪拌しながら2時間保った後、バットにとり、20℃で4日間静置して晶出固化させ、次いで切削型粉砕機で粉砕し、乾燥して無水結晶マルチトール含蜜結晶粉末を得る方法(実施例3)、マルチトール溶液を濃度80%に濃縮した後、助晶缶にとり無水結晶マルチトール含有含蜜結晶粉末を2%加えて、50℃からゆっくり攪拌しつつ徐冷し、晶出率35%のマスキットを得、高圧ポンプにて150kg/cmの圧にて1.5mm口径ノズルより乾燥搭上より噴霧し、これと同時に85℃の熱風を乾燥塔の上部より送風して底部に設けた移送金網コンベア上に捕集し、コンベアの下より40℃の熱風を送りつつ移動金網コンベア上に捕集した結晶粉末を乾燥塔外に徐々に移動させ、40分を要して取り出した結晶粉末を熟成塔に充填して10時間熟成させ、結晶化と乾燥を完了させ、無水結晶マルチトール含蜜結晶粉末を得る方法(実施例4)が具体的に示されている。しかし、これらの方法はいずれもマルチトールの結晶化あるいは熟成に長時間を要するため、装置の簡略化や連続化が困難であることが欠点である。
【0005】
また、特公平7−14953号公報においても、マルチトール含蜜結晶の製造方法が開示されている。この方法では、マルチトール水溶液を、細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機に連続的に供給し、種結晶の存在下で連続的に冷却・混練してマルチトールマグマを生成させた後、押し出しノズルから連続的に押出すことによってマルチトール含蜜結晶を製造している。この方法では連続化には成功しているが、細長い冷却ゾーンを有する押し出し機を用いており、高濃縮を行うためには粘度の関係上必然的に高温になるが、その濃縮液を冷却しながら過飽和度を上げて結晶の生成を進行させており、冷却下で種結晶を添加・混練してマルチトールマグマを生成させ、押し出しノズルから排出する工程となっている。
【0006】
しかし、冷却を伴うと高濃縮のマルチトール水飴は冷却による温度低下で非常な高粘性となるため、混練を行うためには大きな動力を必要とし、ランニングコストの上昇につながる。また、製造のために複数のゾーン(即ち原料を導入する冷却・混練ゾーン、種結晶添加混合ゾーン、種結晶添加後の冷却・混練ゾーン(マルチトールマグマ生成ゾーン)など)を必要としているため、設備的にも大きくなり、また冷却を行うために粘度が上昇し、動力の負荷も大きくなる。従って、工業生産のために装置を大型化することが困難なことも予想される。また、粉末の最終製品とする場合は、押し出しノズルから種々の形で排出されるマルチトールマグマを粗粉砕・熟成・乾燥といった工程を必要とすることもあり、その場合はさらに製造に長時間を必要とすることとなり、製造コストの増加原因となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
甘味糖質等の工業生産では生産コストの低減が、極めて重要な意味をもっている。このためには全工程が連続化でき、操作に要する人件費を大幅に節減できることが望ましく、さらに、副生成物が伴わない全量結晶化方法で、かつ製品が吸湿性等の点で安定である方法が要求される。
【0008】
糖質の結晶化は、濃縮により過飽和溶液とする工程、結晶晶出に都合の良い温度に維持し、種結晶を加えて助晶する工程、更に結晶を成長させるための熟成工程、必要とあらばそのものを粉砕篩別する工程をすべて連続化することが望まれる。そのためには、各工程が短時間に終了するような条件を見つけださねばならない。
【0009】
本発明者等は先に特公平5−79316号公報に開示したようにβ−含水結晶マルトースの製造法を開発し、続いて特開平6−277100に開示したように無水結晶α−マルトースの連続的全量結晶化方法を開発し、工業化に成功したが、さらに無水結晶マルチトールの連続的製造法の開発に取り組んできた。
【0010】
そして、従来の特公昭63−2439号公報記載の方法の欠点である、結晶熟成に長時間かかる点を解決できれば連続化が可能となり、生産コストを大幅に低減できると考えて、この点について検討を続けた。具体的には、無水マルチトール含有液を濃縮する工程、これに適量の種結晶を混合して種結晶含有過飽和物(マスキット)とする工程、及びこのマスキット中の結晶化を完了させる結晶熟成工程について連続化を目標に種々検討を加えてきた。
【0011】
原料液をその無水マルチトールについて過飽和とするための濃縮方法としては薄膜式の濃縮装置を使用することにより希望の濃縮度にすることができる。問題は結晶化をいかに短時間に完了させるかである、結晶を完結させるために長時間を要するような条件では、連続化しても装置の容量が大きくなって装置的に、また経済的に実用的ではない。本発明者等は先に無水結晶α−マルトースの全量結晶化法の連続化に成功したが、これに比べて無水結晶マルチトールの方が晶出しやすいことを見いだした。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者等はマルチトール結晶化の全工程について、如何に時間的に短縮できるかを検討した結果、まず結晶晶出については種結晶を短時間に均一に混合することが必要であることを見出した。この点について一般的には冷却によって過飽和度を上げることを結晶晶出の条件としている例が多いが、本発明者等は高濃度の濃縮液として高温度に加温して粘度を下げることにより、均一に短時間で種結晶を分散させた方が好都合であることを発見した。また、本発明者等はマルチトール水溶液中のマルチトール濃度を一定濃度以上に濃縮することと、晶出後の結晶熟成工程の環境を制御することで、結晶化時間が大幅に短縮でき容易に連続化が可能となることも発見した。
【0013】
本発明はかかる知見に基づき、工程として濃縮装置を用いた加温濃縮工程、高温下で種結晶を添加混合する種結晶添加混合工程、及び結晶化を完結化させる結晶熟成工程等から成り立ち、かつこれらの各工程で特定の操作条件を採用したことを特徴とする。
【0014】
即ち、本発明は下記工程を含む無水結晶マルチトールの連続的製造方法である:
(i)マルチトールを主成分とするマルチトール含有水溶液を連続的に加温濃縮して高濃度の濃縮液にする加温濃縮工程;
(ii)この濃縮液に80℃以上の加温下にて種結晶を添加混合して種結晶含有マスキットを生成する種結晶添加混合工程;
(iii) このマスキットを温度及び湿度を調節した雰囲気内で崩壊・混合・撹拌・移送させて結晶化を進行する結晶熟成工程。
【0015】
また、本発明は下記手段を含む無水結晶マルチトールの連続的製造装置である:
(i)マルチトール含有水溶液を連続的に加温濃縮して高濃度の濃縮液にするための加温濃縮手段;
(ii)80℃以上の温度に維持しながら、この濃縮液に種結晶を添加混合して結晶含有率40w/w%以上の種結晶含有マスキットを生成するための種結晶添加混合手段;
(iii) このマスキットを温度70〜100℃及び絶対湿度50〜300gH O/Kg乾燥空気の雰囲気内で崩壊・混合・攪拌・移送させて結晶化を進行するための結晶熟成手段。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明で用いるマルチトール水溶液を調製する方法は特に限定されず、従来公知のいずれの方法も採用することができる。マルチトール水溶液はマルチトール純度80w/w%以上であることが好ましく、例えば▲1▼糊化または液化澱粉にβアミラーゼを作用させ、生成するマルトースを高分子デキストリンから分離し、高純度マルトースを採取する方法(特公昭56−11437号公報、特公昭56−17078号公報)、▲2▼イソアミラーゼ、プルラナーゼなどの澱粉枝切り酵素とβ−アミラーゼを糊化あるいは液化澱粉に作用させて高純度マルトースを得る方法、▲3▼これらの方法で得られる高純度マルトースに含まれるマルトトリオースなどの夾雑糖類を、特開昭58−23799号公報などに開示されている塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラム分画法により夾雑糖類を除去するなどの方法によりマルトース純度を更に高める方法などで得られた高純度マルトースに、触媒としてラネーニッケルを添加して水素添加を行うことによって得られたマルチトール水溶液を利用することができる。また、マルチトール水溶液を各種分画法(例えば特公平2−11599号公報)により高純度マルチトールとして用いることもできる。
【0017】
以下、本発明の各工程ごとにその最適条件について詳細に説明する。
まず、濃縮工程では遠心薄膜式濃縮装置や竪型薄膜式連続濃縮装置といった薄膜式の連続濃縮機等を使用することが好ましいが、これらに限定されるものではない。これらの濃縮装置を用いてマルチトール濃度を調節する。ここで言うマルチトール濃度とは、濃縮液中の純粋なマルチトールの重量百分率を示すものであって[マルチトール濃度=濃縮液固形分濃度×マルチトール純度;例えば95w/w%固形分濃度のマルチトール水溶液のマルチトール純度が96w/w%とすると、マルチトール濃度としては95×0.96=91.2w/w%となる]、本発明ではこの濃度を78〜98w/w%とすることが好ましい。
【0018】
つまりこのマルチトール濃度はマルチトール水溶液中のマルチトール純度が低い場合には高濃縮が必要であり、高純度のマルチトール溶液では濃縮度が低くても可能であるということを意味している。しかし、実際的にはマルチトール純度が80w/w%以下となるようなものでは、マルチトール濃度を78w/w%以上とするためには濃縮度を98w/w%程度にまで濃縮しなければならず、その場合にはその高粘性のために、製造上もまた結晶化速度の点でも非常に遅くなり本発明の目的と反する。このときの固形分濃度の測定は、カールフィッシャー法により水分(w/w%)を測定し、100より水分(w/w%)を減じて固形分濃度(w/w%)とした。また、含水率(乾物基準)もカールフィッシャー法により水分を測定して算出した。マルチトール純度は常法により高速液体クロマトグラフ法で分析した。
【0019】
次に種結晶添加混合工程であるが、ここでは濃縮液に加温下にて種結晶を短時間で充分分散させ、且つその混合分散工程中の粘性上昇を抑えるために高温の維持が必要である。また、この工程中に実質的に水分の蒸発が無いことが好ましい。水分の蒸発により濃縮が進むと高粘度となり装置的に非常に大きな駆動力を必要として好ましくなく、また種結晶の混合分散性が悪くなり結果として結晶熟成工程での晶出時間が長くなるという点からも過度の濃縮は好ましくない。通常マスキットの含水率は少なくとも3w/w%以上であることが好ましい。
【0020】
また、この工程では、温度の低下による粘度の上昇によって混合分散性が悪くなるのを防止するためにジャケットによる加温装置が必要であり、短時間に種結晶を分散混合させるために低粘性を維持することが重要である。このために装置としては一般に高粘度物質や膠質物に少量の粉体を練り込む時に用いられている容器固定型、水平軸または水平複軸型で、リボン式、スクリュウ押出式、セルフクリーニング式、パドル式等の密閉型連続混練機で加温装置が付いているものが好ましい。また混合・混練り目的に使用されるニーダー、混合機と言われる装置の中から連続化に適したものを適宜選択して用いることもできる。
【0021】
種結晶の供給は、種結晶混合機の入り口で結晶粉末を定量的に連続或いは間欠的に供給する方法、及び種結晶混合機の出口から結晶化の進んだマスキットの一部を、種結晶混合機の入り口に逆戻りさせる方法によって行うことができる。この場合当然ながら温度が低下しないような配慮が必要である。種結晶は無水結晶マルチトールおよび含蜜無水結晶マルチトールを用いて行う。この含蜜結晶中の無水結晶マルチトール含量は、結晶化速度を支配するので重要な要素であり、当然高い方が結晶化速度が速くなる。種結晶の添加量は0.1w/w%以上あれば良く、多くなれば容積が増えてそれだけ生産能力に影響するが、結晶析出速度に幾分関係するから、本発明の目的である短時間連続化のために装置全体をコンパクトにしたい時は、濃縮液固形物に対して5〜30w/w%の添加が好ましい。
【0022】
種結晶混合機中を通過している間は、まず種結晶が濃縮液中に短時間に均一に分散することが第一であり、次の結晶熟成工程に向けての結晶晶出を誘導している間は、マスキット中の水分が実質的に蒸発してはならない。一般的な方法(例えば特公昭63−2439号公報や特公平7−14953号公報等)では、結晶晶出のためには温度を冷却して過飽和度を調整して結晶を析出させて晶出工程としているが、本発明では濃縮度を高くし、むしろ晶出温度を高温に維持して粘性を低くし、機械的な攪拌により種結晶が充分分散するようにすることで極めて短時間で本工程を終えるようにしている。種結晶添加混合工程では特に温度を高温、好ましくは80℃以上に維持することが特徴である。なお、種結晶添加混合工程を終了して次の工程に移る時点でのマスキット中の結晶の含有率は少なくとも40w/w%以上であることが必要である。
【0023】
次は本発明の最重要点である結晶の熟成工程である。種結晶を混合したマスキットは混合後数分で晶出が始まり、白色固形状の塊(マスキット)となる。結晶熟成工程ではこの塊を高温度一定湿度の雰囲気下で崩壊・攪拌・混合・移送させることで結晶化が進行しながら結晶熟成機出口に達する。ここで用いる結晶熟成機は連続式のニーダー形式で内部空間を有するものが好都合で内容物の崩壊・混合・攪拌・移送が可能な装置を用いなければならない。装置は内容物が前方に移送されるような構造のものが好ましく、特に内容物が塊となった場合にこれを出来るだけ細かく崩壊し、均一に混合攪拌できるような形式になっているような構造のものが好ましい。
【0024】
この工程では例えば2軸パドル式の一種である、内容物の崩壊・混合・攪拌・移送が可能な装置を用いることができ、その装置の内部には2本の互いに内側に向かって噛み合う回転する回転軸が付設され、その回転軸の周囲には、パドルが少しづつ位置をずらして、相対する軸のパドル同士が互いに噛み合うように配置して付設されている。このパドルの機能は、内容物を前方に移送するのみならず、固まっているマスキットがあればこれを崩壊して塊内部の水分を蒸散させる役割をしている。
【0025】
本発明では結晶熟成機内部の雰囲気を温度70〜100℃、絶対湿度を50〜300gHO/kg 乾燥空気に制御することが好ましい。このためには、結晶熟成機がこのような雰囲気を保つように温度と湿度を調節した加熱加湿空気を内部に送り込むことができることが必要である。この工程ではマスキツト内部の結晶化が進行すると共に水分が幾分蒸発して含水率3w/w%以下に減少する。結晶化の初期に急速に乾燥しすぎると(例えば含水率1w/w%以下)、結晶化の進行が著しく遅くなり本発明の目的を達成できない。
【0026】
また、上記の結晶熟成機内部の雰囲気は、高温度時には比較的高絶対湿度、低温度時には比較的低絶対湿度とすることが好ましい。着色性や結晶化速度を加味すると、結晶熟成機内部に85〜95℃、100〜200gHO/kg 乾燥空気に調節した加湿熱風を供給することが最も好ましい。絶対湿度を300gHO/kg 乾燥空気としても結晶の熟成は進行するが、その表面は一部濡れたようになり、結晶熟成完了品の含水率が高くなり乾燥が必要になる。加熱加湿空気の調整法は一般に用いられる方法が採用でき、例えば加熱された熱風に2流体ノズルで当該湿度に見合う水分を噴霧すれば良い。
【0027】
ここでのこの結晶熟成機内部空間の雰囲気調整の目的は、前工程で結晶晶出の条件としてマルチトール濃度78〜98w/w%の範囲とすることで結晶化が促進したように、この熟成工程中において結晶化の進行に伴い、実質的にはマルチトールの無水結晶が晶出するのであるから、その他の非結晶部分だけをみると水分が高くなり固形分濃度が下がることになる。この濃度低下した結晶以外の部分のマルチトール濃度を78〜98w/w%の範囲に維持することで、さらに結晶熟成の促進が図られる。そのマルチトール濃度上昇のためには更に乾燥濃縮が必要であるが、ただ乾燥熱風を供給しただけでは、急速に水分が蒸発して引き飴状となり結晶化が著しく遅くなる。
【0028】
そこで本発明では、この制御された加湿熱風によりこの結晶熟成機内部雰囲気を好適な温湿度の条件とすることで結晶熟成工程中における結晶化の進行に見合った乾燥速度が得られ、極めて短時間で無水結晶マルチトールおよび含蜜無水結晶マルチトール粉末を得ることが可能となった。これは、糖質の一般的な結晶化促進方法である冷却により過飽和度を上げて結晶を析出させようとするこれまでの方法とは大きく異なる点である。
【0029】
この熟成工程中において混合・攪拌・崩壊は必須であり、静置の条件下で加湿熱風を供給すると表面が溶けたような状態となり、結晶化の進行が遅く長時間を要してしまう。これはベルトコンベア様のもので移送しながらその雰囲気をこのような温度、湿度の条件にしても結晶化の進行が遅いことからも混合・攪拌・崩壊の必要性が確認される。更に乾燥工程が必要とあらばこの熟成工程で用いた装置に加熱乾燥空気を送り込み、含水率1w/w%以下にすることでより安定な無水結晶マルチトールおよび含蜜無水結晶マルチトールが得られる。
【0030】
【実施例】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
まず、本発明の工程において重要な加温濃縮、種結晶添加混合、結晶熟成の三工程の条件決定に関する実験例を以下に記述する。
【0032】
過去の無水結晶マルトースの工業化の経験から、短時間連続化を目的とし、機械装置の条件等を考慮して、種結晶添加混合工程を約15分、結晶熟成工程を約30分、両工程を少なくとも1時間以内で終了することを目標にして、諸条件を決定することにした。安定な無水結晶マルチトールを得るために、種結晶添加混合工程は工程終了時の結晶含有率が40w/w%以上になることを目標にし、また結晶熟成工程は製品の融点が120℃以上、好ましくは130℃以上になることを目標にした。
【0033】
実験例 1
後述する実施例に記載した種結晶混合機を用いて、濃縮液固形分に対して10w/w%の種結晶を連続的に添加混合し、110℃で15分間の種結晶添加混合工程後のマスキットの結晶含有率を測定した。
表1は、マルチトール純度の異なる試料を濃縮液濃度を変えてマルチトール濃度を変化した場合、種結晶添加混合工程において排出されたマスキットの結晶含有率についての結果である。
【0034】
【表1】
Figure 0003624672
【0035】
この結果から、種結晶混合晶出工程に供給する濃縮液はマルチトール濃度として78w/w%以上必要であり、マルチトール純度としては80w/w%以上が要求されることがわかる。これらの条件を満足すると、種結晶混合機排出品は結晶含有率40w/w%以上になり、このことによって次工程の結晶熟成工程も短時間で終了し、本発明の目的とする工程の短時間連続化が可能となる。
【0036】
実験例 2
次に結晶熟成工程について結晶熟成機中の雰囲気(温度、湿度)と熟成終了品の融点との関係を調べた。
マルチトール純度93w/w%のマルチトール溶液をマルチトール濃度87.4w/w%まで濃縮し、これを実施例に記載した種結晶混合機に120℃で供給し、純度98w/w%のマルチトール結晶を種結晶として濃縮液固形分に対して10w/w%添加し、種結晶混合機にて15分間混合し、結晶含有率48w/w%のマスキットを得た。また、同様の方法で結晶含有率38w/w%のマスキットも得た。これらを結晶熟成機に連続的に供給し、その時の雰囲気の温度と湿度を変化させて30分間熟成後の排出品の融点を測定した。その結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
Figure 0003624672
【0038】
製品の融点は、無水マルチトール結晶化の一つの指標となりマルチトール純度93w/w%のこの条件では融点120℃以上の製品は吸湿性が低く、製品の合格基準として120℃以上を熟成の終了点とした。
【0039】
この結果から、結晶熟成機供給時のマスキットの結晶含有率が38w/w%のものでは融点120℃以上のものは得られず、また雰囲気の絶対湿度量は、80℃と比較的低い温度の時は50〜150gHO/kg 乾燥空気の条件で融点120℃以上が得られたが、高湿度ほど融点がやや低くなることがわかる。また、90℃では100〜200gHO/kg 乾燥空気、95℃では200〜300gHO/kg 乾燥空気で高融点のものが得られ、これより高湿度または低湿度では目的のものが得られないことがわかる。このことから結晶熟成機内部の雰囲気は、70〜100℃、絶対湿度50〜300gHO/kg 乾燥空気に制御し、この範囲内では低温ほど低湿度、高温ほど高湿度に保つ必要があることが明らかになった。
【0040】
実施例 1
常法によりコーンスターチを原料とし、澱粉懸濁液を加熱糊化後、細菌α−アミラーゼで液化し、次いで大豆β−アミラーゼとプルラナーゼ(いずれもナガセ生化学製)とを用いて糖化を行い、得られた糖化液を減圧濃縮機を用いて60w/w%に濃縮し、Na型カチオン交換樹脂でクロマト分離(特公平5−2320号公報)して得たマルトース溶離区分(マルトース94.0w/w%、グルコース1.7w/w%、マルトトリオース2.2w/w%、その他オリゴ糖2.1w/w%;固形分31w/w%)を常法に従いラネーニッケル触媒を用いて水素添加を行い、マルチトールを主成分とするマルチトール溶液(マルチトール93.0w/w%、ソルビトール2.5w/w%、マルトトリイトール2.6w/w%、その他の糖アルコール1.9w/w%)を図1に記載の要領で薄膜式連続濃縮装置を用いて含水率6.4w/w%、マルチトール濃度として87.0w/w%の濃縮液を得た。その時の濃縮液温度は130℃で粘度0.25Pa・sであった。この濃縮液を熱時に種結晶混合機に連続的に供給しながら、濃縮液固形分に対して10w/w%の無水結晶マルチトール粉末(純度95w/w%)を種結晶として定量フィーダーを用いて添加を行った。この種結晶混合機はジャケットを約110℃(142kPa)の蒸気で保温し高温に維持した。滞留時間は15分でその排出品は含水率6.0w/w%で結晶含有率は48w/w%であった。次に、この種結晶混合機の排出品を連続的に結晶熟成機に供給し、その結晶熟成機内部の雰囲気を温度90±2℃、絶対湿度130gHO/ kg乾燥空気に調整した加湿熱風を結晶熟成機内部空間50lに対して1500l/分の流量で常時供給し、結晶熟成機内部の雰囲気はほとんど調整した加湿熱風の条件となるようにした。
【0041】
結晶熟成機は、長さ1400mm、幅250mm、内容積100lのジャケット付きの、2軸パドル式の一種の混合・崩壊・移送可能な装置を用いた。内部には2本の互いに内側に向かって噛み合うように回転する回転軸が付設され、その回転軸の周囲には、パドルが、少しづつ位置をずらして、相対する軸のパドル同士が互いに噛み合うように配置して付設されており、このパドルの機能は、内容物を前方へ移送するのみならず、固まっているマスキットがあれば、これを崩壊して塊内部の水分を蒸散させる役割をしており、回転数は30rpmであった。
【0042】
この結晶熟成機内部において種結晶混合機から排出されたマスキットは上記の雰囲気条件に保たれた結晶熟成機内部を前方へ移送されながら塊は崩壊されて、水分は結晶化速度に見合って適度に蒸散し、約30分の滞留の後排出品は含水率1.6w/w%の結晶品が得られた。これを粉砕して10メッシュパスの粉末とした。その融点は138℃と高く、常温度で放置しても吸湿性の少ない極めて安定な粉末であった。以上の濃縮工程以降の全工程を約1時間以内の極めて短時間で行うことができ、連続生産にも好適である。
【0043】
実施例 2
実施例1と同様の方法で得られたマルチトール溶液(マルチトール92.0w/w%、ソルビトール2.3w/w%、マルトトリイトール3.3w/w%、その他の糖アルコール2.4w/w%)を2重効用罐を用いて固形分濃度50w/w%まで濃縮し、次いで、薄膜式の連続濃縮装置に供給し、含水率4.2w/w%、マルチトール濃度として88.1w/w%の濃縮液を得た。このときの濃縮液の温度は139℃、粘度1.4Pa・sであった。この濃縮液を種結晶混合機に熱時に連続的に供給すると同時に種結晶として含蜜無水結晶マルチトール粉末(純度93w/w%)を濃縮液固形分に対して20w/w%を加えながら15分の滞留で晶出を行い、含水率4.0w/w%、結晶含有率45.3w/w%のものが得られた。これを連続的に実施例1と同様に結晶熟成工程に供給して熟成を行った。その熟成条件は温度90℃、絶対湿度180gHO/kg 乾燥空気の加湿熱風を実施例1と同一の流量条件で供給した。実質的に結晶熟成機内部はこの雰囲気条件で熟成を行い、滞留時間約45分を要して得られた結晶品は、含水率0.7w/w%であった。さらに粉砕機により10メッシュパスの粉末を得た。その製品は融点134℃の安定な結晶含有粉末であった。濃縮工程以後の全工程を約75分の短時間で終了し、連続生産にも優位に応用できる。
【0044】
実施例 3
実施例1と同様にして得られたマルチトール溶液(マルチトール93.2w/w%、ソルビトール2.2w/w%、マルトトリイトール3.0w/w%、その他糖アルコール1.6w/w%;固形分30w/w%)を薄膜式連続濃縮装置を用いて含水率5.2w/w%、マルチトール濃度として88.4w/w%の濃縮液を得た。これを熱時に連続的に含蜜無水結晶マルチトール粉末を種結晶として濃縮液固形分に対して10w/w%添加しながら、ジャケットを95℃の熱水循環により高温維持した種結晶混合機に供給し、約15分の滞留の後、含水率4.9w/w%、結晶含有率46.5w/w%のマスキットを得た。これを実施例1と同様の結晶熟成機に連続的に供給し、温度98℃、絶対湿度250gHO/kg乾燥空気に制御した加湿熱風を供給し、その条件に維持した雰囲気下で結晶熟成を行い、約30分の滞留の後、含水率1.8w/w%の結晶品を得た。次にこれを粉砕機により10メッシュパスの粉末とし、熱風乾燥機にて80℃で30分の乾燥を行って含水率0.6w/w%の結晶粉末を得た。これは融点137℃の極めて安定な結晶粉末であった。濃縮工程以後の全工程を90分の短時間で終了し、連続生産に優位に応用できる。
【0045】
比較例 1
実施例1で使用した装置を用いて、特公平7−14953号に記載の方法に準じて比較実験を行った。すなわち実施例1と同様のマルチトール水溶液を使用し、供給液の濃縮度及び温度を実施例1は87.0w/w%、130℃であったのを、該公報の実施例に従って93.8w/w%、98℃として種結晶混合機に供給し、60℃まで冷却したときに種結晶を約26w/w%加えて混合しマルチトールマグマとしたが、冷却の過程で粘度がかなり高くなり、混合、移送が本発明の実施例のごとく円滑には進まず、種結晶の混合がかなり不均一な状態で結晶熟成機に導かれた。結晶熟成機の内部でさらに冷却して約40℃としたが、結晶晶出と温度低下によって粘度がさらに上昇し、混合、崩壊、移送が順調には行われず、マグマは塊となり、移送が円滑に行われずに機械攪拌動力に対する負荷が大きくなり、最終的には機械の運転を停止した。内容物を取り出してステンレス性バットに手でできるだけ細かくして広げて、60℃の恒温機中に約1時間放置し、結晶の熟成を待った。一応無水結晶は得られたが、その融点は118℃であまり好ましいものとは言えず、また工業的に連続操作のできる可能性は全く認められなかった。このことから冷却による過飽和として結晶晶出させる方法は、機械装置に多大の負荷がかかり、規模を拡大して行うには適していないと判断した。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明(実施例1)の製造工程を示したものである。

Claims (8)

  1. 下記工程を含む無水結晶マルチトールの連続的製造方法:
    (i)マルチトールを主成分とするマルチトール含有水溶液を連続的に加温濃縮して高濃度の濃縮液にする加温濃縮工程;
    (ii)この濃縮液に80℃以上の加温下にて種結晶を添加混合して種結晶含有マスキットを生成する種結晶添加混合工程;
    (iii) このマスキットを温度及び湿度を調節した雰囲気内で崩壊・混合・撹拌・移送させて結晶化を進行する結晶熟成工程。
  2. 前記(i)加温濃縮工程において、マルチトールの純度80w/w%以上の水溶液をマルチトール濃度78〜98w/w%の濃縮液にすることを特徴とする請求項1記載の無水結晶マルチトールの連続的製造方法。
  3. 前記(ii)種結晶添加混合工程において、種結晶の添加量が濃縮液の固形物に対して5〜30w/w%であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか記載の無水結晶マルチトールの連続的製造方法。
  4. 前記(ii)種結晶添加工程の終了時の種結晶含有マスキットの結晶含有率が40w/w%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の無水結晶マルチトールの連続的製造方法。
  5. 前記(iii)結晶熟成工程において、雰囲気を温度70〜100℃、絶対湿度50〜300gHO/Kg乾燥空気に調節することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の無水結晶マルチトールの連続的製造方法。
  6. 雰囲気を温度85〜95℃、絶対湿度100〜200gHO/Kg乾燥空気に調節することを特徴とする請求項5記載の無水結晶マルチトールの連続的製造方法。
  7. 前記(iii)結晶熟成工程終了後に得られた無水結晶マルチトールの融点が120℃以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の無水結晶マルチトールの連続的製造方法。
  8. 下記手段を含む無水結晶マルチトールの連続的製造装置:
    (i)マルチトール含有水溶液を連続的に加温濃縮して高濃度の濃縮液にするための加温濃縮手段;
    (ii)80℃以上の温度に維持しながら、この濃縮液に種結晶を添加混合して結晶含有率40w/w%以上の種結晶含有マスキットを生成するための種結晶添加混合手段;
    (iii) このマスキットを温度70〜100℃及び絶対湿度50〜300gHO/Kg乾燥空気の雰囲気内で崩壊・混合・撹拌・移送させて結晶化を進行するための結晶熟成手段。
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