JP3620673B2 - 銅系すべり軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は銅系すべり軸受に関するものである。さらに詳しく述べるならば本発明は、特に、エンジンクランク軸用メインメタル、コンロッド大端部メタル、トランスミッション用ブシュもしくはワッシャ、ピストンピンブシュ、カムブシュ、バランサ軸受(ブシュメタル)あるいはターボチャージャ用各種部品、例えば、フローティングブシュ、スラストワッシャ等の硫黄系添加剤を含有する潤滑油による潤滑下で使用されることがある部品用すべり軸受に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来上記摺動材料としては鉛青銅あるいはりん青銅などが使用されてきた。また、これらの銅合金の耐焼付性を向上させるために、P,AlなどのCuマトリックスを強化する元素を添加する、なじみ性が優れたBiなどを添加するなどの提案がなされ、それなりの成果を達成している。
【0003】
しかしながら、鉛青銅もしくはりん青銅は硫黄分が多い潤滑油中かつ/または高温で使用されると、表面に黒色の硫化銅が生成し、この硫化銅層は強度が弱くかつ母材に密着していないために容易に剥離し、この結果焼付もしくは異常摩耗を起こす。また腐食によって材料の強度劣化や疲労が起こる。さらに、潤滑油が少なく混合もしくは境界潤滑領域の摺動条件では鉛青銅及びりん青銅は容易に焼付を招く。
【0004】
上記した摺動材料と相手材の間を潤滑する潤滑油としては、エンジンオイル、トランスミッションオイル、ギヤオイル等があり、これらには硫黄系添加剤が添加されていることが多い。
【0005】
まず、ガソリンエンジンオイルには、エンジンオイルの酸化劣化を防止するためのジアルキルモノサルファイド、エンジンオイルの酸化により発生するスラッジを洗浄するスルフォネート系もしくはフェネート系金属洗浄剤、低粘度エンジンオイルの泡立ちを防止するジチオフォスフェートモリブデン化合物、ジチオカーバメイトモリブデン化合物等が添加される。上記のジアルキルモノサルファイドは基油の酸化により生成するハイドロパーオキサイドをイオン的に分解すると考えられている。しかしながら、これらの添加剤の副作用も指摘されており、例えば、金属系洗浄剤は硫酸灰分スラッジを生成するために使用量が制限されている。また、泡立ち防止剤も軸受メタルの性能に悪影響を及ぼすこともあると言われている。
【0006】
ディーゼルエンジンオイルにはすすによる摩耗対策としてZnDTP(ジアルキルジオりん酸亜鉛)が添加される。ロータリーエンジンオイルには、硫黄系極圧添加剤としては、硫化オレフィン、硫化油脂等が、また有機金属系摩耗防止剤としてはチオりん酸亜鉛、硫化モリブデンジチオカルバメートがそれぞれ添加される。
【0007】
トランスミッションオイル及びギアオイルには、硫黄系極圧添加剤として硫化オレフィン、硫化油脂等が、また有機金属系摩耗防止剤としてチオりん酸亜鉛、硫化モリブデンジチオカルバメート、及び/またはりん系摩耗防止剤としてりん酸エステルアミン塩などが添加されている。これらのオイル中の硫黄濃度は現在の市販油では0.37〜1.7%であり、またこれらの添加剤の量が多いと銅の腐食が起こると言われている。
【0008】
上記した各種潤滑油が劣化すると、銅系摺動材料は潤滑油による腐食の問題が起こることが知られており、その腐食対策として本出願人は次のような特許出願を行った。
【0009】
米国特許第4878768号:ディーゼルエンジンに使用されるすべり軸受のCu−Pb系焼結合金中のスケルトン内部の間隙に存在するPb相が劣化油により腐食するのを防止するためにInをPb相に添加する。
【0010】
特願平5−263242号:Zn−15%を超え40%以下、黒鉛−0.5〜6%、及びAl2 O3 ,SiO2 ,Fe3 Pの1種以上−0.5〜6%,残部Cuからなる焼結銅合金系摺動部材。この出願では劣化トランスミッションオイルが銅合金表面にCuSを形成することによる腐食を防止するために上記した量のZnを添加している。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
硫黄系添加剤を添加した潤滑油を用いかつ実機の使用条件をほぼ再現する条件で銅系摺動材料の摺動試験を本発明者等が行ったところ、潤滑油の全酸価が次のように著しく増大することが認められた。
【0012】
従来のケルメット及び本出願人が提案した対策を講じた銅系摺動材料はこのような条件下での耐食性が不十分であることが判明した。
特にピストンピンブシュ、オートマチックトランスミッションブシュ等のすべり軸受の使用環境は、きびしさが増して、使用温度の上昇が著しくなっており、油中の硫黄と銅が反応し硫化銅を形成し摩耗が進行し、あるいは高温になることにより油膜切れが生じ、焼付が発生する問題が生じている。
一方、本出願人が特願平7−439182号にて提案した、銅合金に5〜50%Ni及び0.1〜2%Agを添加する方法は有効な対策であったが、添加元素の総量が比較的多くまた高価な銀を使用するので、これに代わる方法を見出す必要があった。
【0013】
したがって、本発明は、硫黄系添加剤を添加した潤滑油であって劣化した潤滑油に対して抵抗性が優れた銅系摺動材料を開発することよりすべり軸受の性能を高めることを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本願発明に係る銅系すべり軸受は、裏金上に接着された銅系すべり軸受合金を含んでなる銅系すべり軸受材料において、前記銅系すべり軸受合金を被覆するCu−Mo系皮膜をさらに含み、該Cu−Mo系皮膜は、金属Moもしくは酸化Mo形態のMoを金属Mo換算で0.01〜5重量%を含有し、残部が実質的にCuからなることを特徴とするものである。
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0015】
本発明における銅系すべり軸受合金は、鉛青銅(JIS LBC3,LBC1,LBC6)、Cu−3.0%Sn−23.0%Pb−3.0%Fe系鉛青銅、銅鉛合金(JIS KJ4,LBC6),りん青銅、銀添加銅などの各種材料であってよい。これらの銅合金は軟鋼、構造用鋼などの裏金上に焼結、鋳造法などにより接着されている。またこれら銅合金の厚さは通常の範囲であってよい。このような銅合金を以下「ライニング」と称する。
【0016】
本発明が最も特徴とするところは、ライニングを被覆するCu−Mo系皮膜を鋳造、焼結、電気めっき、溶射、真空蒸着などの任意の方法で形成することによって、潤滑油中の硫黄に対する耐食性を著しく高めたところにある。すなわち、Cu自体は耐硫化腐食性が不良であるが微量の金属Mo及び/又は酸化Moを添加することによって、この性質が著しく改良される。この理由は以下のとおりであると考えられる。
【0017】
Moは空気混入潤滑油中で次式により酸化される。
Mo+O2 →MoO2 ・・・・・・・・・・・・(1)
上記により酸化されたMoO2 あるいは皮膜中に最初から酸化物形態で存在するMoO2 は次式により硫黄と反応する。
MoO2 +3S→MoS2 +SO2 ・・・・・・・・・・・・(2)
この反応は次式によるCuの硫化反応を抑制するために銅の腐食が抑えられ、また反応生成物であるMoS2 は低摩擦特性をもっているために摺動特性の向上にも寄与する。
Cu+S→CuS・・・・・・・・・・・・(3)
【0018】
本発明におけるCu−Mo系皮膜ではMoは金属形態で存在していてもよく、この場合は潤滑油中に溶解した空気中の酸素あるいは有機化合物に含まれる酸素と該皮膜がまず反応して耐硫化腐食性が高められる。またMoは本発明におけるCu−Mo系複合皮膜では最初から酸化物形態で存在していてもよく、また酸化物と金属が共存していてもよい。
【0019】
金属Mo及び/又は酸化Moの量がMo換算で0.01重量%未満であると、上記した耐硫化腐食性向上の効果が少なく、一方5.0重量%を超えると耐疲労性が低下するので、これらの含有量は0.01〜5.0重量%の範囲であることが必要である。より好ましい含有量は0.05〜2.0重量%である。
【0020】
本発明のCu−Mo系皮膜は、Pbを10重量%以下さらに含有することもできる。Pbは摺動特性を向上する面で好ましい元素であり、またMoより硫化物との反応性が少ないのでMoの反応を阻害しないからである。
【0021】
上記組成の残部はFe、S,Oなどの銅に通常含まれる不純物である。銅の純度は竿銅、電気銅、電解精製銅,OFHCなどいずれに該当するものであってもよい。なお、不純物として許容されるSはCuに対して殆ど固溶度がないために、Cu−S二次相として存在する。
【0022】
本発明に係るCu−Mo系皮膜は、さらに酸化Cuを金属Cu換算で0.01〜10重量%を含有することができる。
酸化Cuは潤滑油中で次のように反応すると考えられる。
2Cu2 O+S→ 4Cu+SO2 ・・・・・・・・・・(4)
この反応により潤滑油中のSはCu2 Oと反応するために、(3)式で金属Cuと反応するSが少なくなり結果的にCu−Mo系皮膜の耐硫化腐食性が高められる。酸化Cuの含有量が0.01%未満であると耐硫化腐食性向上の効果がなく、一方5重量%を超えると耐疲労性が低下する。好ましい酸化Cu含有量は0.05〜2.0重量%である。
【0023】
上記したCu−Mo系複合皮膜を焼結により製造する場合は、銅粉末とモリブデン粉末の混合粉、銅−モリブデン合金粉末、酸化銅などをライニング上に散布して、還元性雰囲気中で700〜1000℃で10〜30分間熱処理を行うことが好ましい。また、上記したモリブデン系粉末の一部または全部を酸化モリブデン粉末で置き換えることもできる。さらにライニング材料の粉末上に上記した粉末を二層に散布したものを同様の条件で焼結することも可能である。
【0024】
本発明のCu−Mo系複合皮膜を電気めっきにより製造する場合は、硫酸銅、硫酸及び0.01〜2.0mol/Lのモリブデン酸塩、例えばモリブデン酸ナトリウムを含有するめっき浴中にて1〜10A/dm2 の陰極電流密度にて行うめっきによることができる。即ち、上記範囲のモリブデン酸塩濃度範囲において請求項1のMo含有量を得ることができる。
上記しためっき浴は通常の硫酸銅系銅めっき浴に可溶なモリブデン酸ナトリウム(Na2 MoO4 ・2H2 O)を添加したものである。この系では陰極領域において浴の色が変色しており、これは6価のMoイオンの一部または全部が低級酸化物もしくは金属Moに還元されていることと関連すると考えられ、その結果得られるCuめっき皮膜中には金属モリブデンとモリブデン化合物もしくは金属モリブデンが複合する。電析した銅の一部は次式の反応でCu酸化物としてめっき皮膜に複合化される。2Cu+MoO3 →Cu2 O+MoO2 ・・・・・・・(5)及び/又は
2Cu+Mo2 O5 →Cu2 O+2MoO2 ・・・・・(6)
【0025】
Cu−Mo系皮膜を電気めっきにより形成する条件は、通常の硫酸銅系銅めっき浴に準じることができるが、電流密度は1〜10A/dm2 の範囲とする。
【0026】
上記した以外のめっき条件で好ましいものは下記のとおりである。
(1)めっき浴
硫酸銅(CuSO4 ・5H2 O)−100〜300g/L
硫酸(H2 SO4 )−20〜60g/L
(2)めっき条件
浴温−20〜40℃
陽極−銅板(可溶性電極)
めっき時間−1〜120分
pH−0.9〜1.0
【0027】
本発明のCu−Mo系皮膜はライニングの上に直接形成されるか、ライニングをショットブラスト等により粗面化し、その表面に形成される。あるいは、接着性を高めるためにライニングに一旦薄い純銅メッキ皮膜を形成した後にCu−Mo系皮膜が形成される。またCu−Mo系皮膜の上にはPb,Sn系オーバレイめっきを施して表面のなじみ性をさらに高めることが好ましい。このオーバレイの他に、MoS2 系、PTFE系、無機又は有機材料のコーティングを施してもよい。Cu−Mo系皮膜の厚さは0.1〜50μmであることが好しい。より好ましくは5〜15μmである。
【0028】
本発明のCu−Mo系皮膜は、添加剤として(ポリ)サルファイド(スルフィド)、スルフォネート、スルフィネート、スルフェネート、フェネート系,(ジ)チオフォスフェート化合物、チオケトン、チオアセタール、チオカルボン酸とその誘導体、スルホキシドとその誘導体、スルフォニル、スルフィニル、スルフェニル、ZnDTP等の化合物などを添加した潤滑油で潤滑される部品の保護のために使用することが好ましい。すなわち、これらの有機硫黄化合物は何れも摺動温度である80〜180℃において腐食性がある硫酸系酸(この酸の腐食性成分を(2)〜(4)式ではSと表している)に分解し、この酸との反応により銅合金表面の腐食が起こるが本発明による腐食減量が従来の1/2以下に減少し、かつ腐食が時間とともに一定になり増えないと言う顕著な傾向が認められる。
以下、実施例により本発明をより詳しく説明する。
【0029】
実施例1
以下の条件により電気めっきによりCu−Mo系皮膜を形成した。
条件A
硫酸銅(CuSO4 ・5H2 O)−200g/L
硫酸(H2 SO4 )−30g/L
モリブデン酸ナトリウム(Na2 MoO4 ・2H2 O)−24.2g/L
浴温−30℃
陽極−銅板
陰極−銅板
めっき時間−120分
pH−0.9〜1.1
条件B
硫酸銅(CuSO4 ・5H2 O)−200g/L
硫酸(H2 SO4 )−30g/L
モリブデン酸ナトリウム(Na2 MoO4 ・2H2 O)−48.4g/L
浴温−30℃
陽極−銅板
陰極−銅板
めっき時間−35分
pH−1.0
条件Aでは0.7%Mo及び2.0%Cu2 Oを含有する皮膜(厚さ50μm,図1においてCu−MoめっきA)が得られ、一方条件Bでは1.0%Mo及び2.8%Cu2 Oを含有する皮膜(厚さ10μm,図1においてCu−MoめっきB)が得られた。
【0030】
裏金鋼板(JIS SPCC)上に鉛青銅(JIS LBC1)をバイメタル状に接合した素材中に焼結によりMoを分散させた。焼結は、アトマイズ銅粉末(粒度180μm以下)とMo粉末(粒度63μm以下)を混合したものをライニング上に平均厚み1.2mmに散布し700℃〜1000℃の温度域を焼結領域とし還元性雰囲気に保たれた加熱炉内を5〜50分かけて通板して行った。なおアトマイズ銅粉には酸化銅が少量含まれていた。焼結後にロール加圧機のロールを焼結層を有するストリップを通過させることにりよりサイジングを行い、再び同様な条件で焼結を行った。その後再びサイジングを行い、厚みが0.6mmのMoを分散させた焼結層を形成した。その組成は0.5%Mo(図1においてCu−MoケルメットC)、および3.1%Mo(図1においてCu−MoケルメットD)が得られた。これらの焼結層及びそれを施さない比較材(Cu−PbケルメットE)の耐食性試験を以下の条件で行った。
【0031】
エンジンオイル(日本石油製HIDIESEL S−3)に空気を吹き込みかつ加熱して温度を180℃に保った。この条件のエンジンオイル中に供試材(寸法40×20×0.5mm)を吊り下げて腐食減量を測定した。その結果を図1に示す。
この図より比較材(Cu−PbケルメットE)に比べ本発明供試材の腐食減量(10−3kg/m2 )は著しく少ないことが明らかであり、特に0.3Ms程度までの試験時間では比較材も本発明供試材も腐食減量はほとんど同じであるが、その後前者は次第に多くなるが後者では飽和する傾向が見られ、また腐食生成物の剥離が認められなかったことは注目に値する。よって、微量のMo(MoO2 )及びCu2 Oの添加により腐食を初期の段階に留め、その進展を抑える効果が図1から認められ、この効果を軸受の耐硫化腐食防止に結びつけた本発明は自動車部品その他の部品の摺動技術改良の面で非常に有益である。
【図面の簡単な説明】
【図1】腐食試験の結果を示すグラフである。
Claims (5)
- 裏金上に接着された銅系すべり軸受合金を含んでなる銅系すべり軸受材料において、前記銅系すべり軸受合金を被覆するCu−Mo系皮膜をさらに含み、該Cu−Mo系皮膜は、金属Moもしくは酸化Mo形態のMoを金属Mo換算で0.01〜5重量%を含有し、残部が実質的にCuからなることを特徴とする銅系すべり軸受。
- 前記Cu−Mo系皮膜は、Pbを10重量%以下さらに含有することを特徴とする請求項1記載の銅系すべり軸受。
- 前記Cu−Mo系皮膜は、さらに酸化Cuを金属Cu換算で0.01〜10重量%含有することを特徴とする請求項1または2記載の銅系すべり軸受。
- 前記Cu−Mo系皮膜の厚さは0.1〜50μmであることを特徴とする請求項1から3までの何れか1項記載の銅系すべり軸受。
- 前記Cu−Mo系皮膜上になじみ性が優れたオーバレイ層を設けることを特徴とする請求項1から4までの何れか1項記載の銅系すべり軸受。
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