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JP3683711B2 - トラクショングリース組成物及びトラクションドライブ装置 - Google Patents

トラクショングリース組成物及びトラクションドライブ装置 Download PDF

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甲矢雄 内藤
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Koyo Seiko Co Ltd
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Koyo Seiko Co Ltd
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温での耐久性に優れたトラクションドライブ装置用トラクショングリース組成物及びそれを用いたトラクションドライブ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
圧接力を付与した一対のローラ間に高圧下で高粘度化する潤滑油の油膜を形成させ、一方のローラを駆動させることにより、もう一方のローラを油膜のせん断力による牽引力で回転させる原理を応用したトラクションドライブ機構は、無段変速機等の種々の装置に利用されており、多くの種類のものが存在する。
【0003】
図1は、このトラクションドライブ機構を用いた遊星ローラ型トラクションドライブ装置を模式的に示した断面図であり、(b)は(a)におけるA−A線断面図である。
【0004】
この遊星ローラ型トラクションドライブ装置10は、ハウジングを構成する固定軸11と、固定軸11の軸心に位置する太陽軸13と、固定軸11と太陽軸13との間に介装された複数の遊星ローラ14と、固定軸11と同軸の低速軸12と、低速軸12の端面に設けられ、遊星ローラ14を軸支するピン12aとを含んで構成され、この装置の内部には潤滑グリースが充填されている。
【0005】
そして、例えば、太陽軸13を動力源に連結すると、動力源での回転がより低速に減速され、トルクが増幅されて低速軸12に伝達され、一方、低速軸12を動力源に連結すると、動力源での回転がより高速に増速されて太陽軸13に伝達される。
【0006】
このような構成を有する遊星ローラ型トラクションドライブ装置10は、1)低騒音、低振動で回転が滑らかである、2)歯車に比べて高速回転が可能である、3)バックラッシが殆どなく高精度の回転が得られる、4)構造が単純であるために安価でコンパクトである、等の優れた特徴を有するため、工作機械その他の変速装置、自動車のパワーステアリングの駆動用等に用いられている。
【0007】
従来、この種のトラクションドライブ装置には、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン、ジベンジルトルエン水素化物等の合成ナフテンやアルキルベンゼン等を基油とする潤滑グリースが使用されていた。
【0008】
このトラクションドライブ装置は、常に圧接力を受けるため、温度が上昇し易く、特に、自動車のエンジンルーム内で使用した場合においては、エンジンの温度の影響により、その温度が例えば120℃近辺となる場合もある。
【0009】
しかし、この合成ナフテン等を基油とする潤滑グリースは、100℃以上の温度での基油の蒸発量が多く、最高使用温度限界は100℃程度であり、100℃を超えるような環境下での使用は困難であるという問題があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記に鑑み、例えば120℃近辺のような高温に至る幅広い温度領域における耐久性に優れ、かつ高い牽引力を示すトラクショングリース組成物、及びこのトラクショングリース組成物を用いたトラクションドライブ装置を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明のトラクショングリース組成物は、基油及び増稠剤を含有してなる遊星ローラ型トラクションドライブ装置に用いるトラクショングリース組成物であって、上記基油は、パーフルオロアルキルポリエーテル系オイルを含むものであり、上記増稠剤は、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂を含むものであり、上記パーフルオロアルキルポリエーテル系オイルは、内部に−CF(CF )CF O−構造を有するものであることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のトラクションドライブ装置は、上記トラクショングリース組成物を用いることを特徴とするものである。
以下、本発明を詳述する。
【0013】
本発明のトラクショングリース組成物は、基油及び増稠剤を含有してなる遊星ローラ型トラクションドライブ装置に用いるトラクショングリース組成物である。上記トラクショングリース組成物が用いられる遊星ローラ型トラクションドライブ装置は、通常、図1に示した構成を有するものであるが、その形式は特に限定されるものではなく、そのほかの形式のものであってもよい。この遊星ローラ型トラクションドライブ装置については、後で詳述する。
【0014】
上記基油は、トラクショングリース組成物の主成分を構成するオイルであり、パーフルオロアルキルポリエーテル(以下、「PFAE」という)系オイルを含む。
PFAE系オイルとは、2個の炭化水素残基が酸素原子と結合したR−O−R′で表されるアルキル化合物で、化合物中の末端基がすべてフッ素に置き替わったオイル状のものをいう。
【0015】
上記PFAE系オイルは、低蒸気圧、耐熱性等の優れた特性を有するものであり、種々の粘度や分子量を有するものが存在するが、本発明ではトラクションドライブ装置に用いられるため、動力伝達能力等が調整されたものが好ましく、このような観点から、40℃における動粘度が、50〜200mm2 /sであるものが好ましい。
【0016】
上記動粘度が50mm2 /s未満であると、動粘度が小さすぎるため、増稠剤を加えても動力伝達能力、すなわち牽引力が低く、一方、上記動粘度が200mm2 /sを超えると、動粘度が大きすぎるため、遊星ローラ型トラクションドライブ装置が円滑に回転しにくくなる。
【0017】
上記PFAE系オイルとしては特に限定されず、例えば、C37 O(CF2 CF2 CF2 O)a25 、F(CF(CF3 )CF2 O)b25 、C37 O(CF(CF3 )CF2 O)c25 、CF3 O(CF2 CF2 O)d (CF2 O)e CF3 、C37 O(CF(CF3 )CF2 O)f (CF2 O)g CF3 等が挙げられる。これらPFAE系オイルの分子量は、上記動粘度の範囲内となるようなものが好ましい。
【0018】
また、上記したPFAE系オイルの中では、特に、内部に−CF(CF3 )CF2 O−構造を有するF(CF(CF3 )CF2 O)b25 、C37 O(CF(CF3 )CF2 O)c25 、C37 O(CF(CF3 )CF2 O)f (CF2 O)g CF3 等が好ましい。
【0019】
上記増稠剤は、上記トラクショングリース組成物の動粘度を大きくし、その牽引力を増加させるために添加されるものであり、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という)系樹脂を含む。
上記PTFE系樹脂は、テトラフルオロエチレンの重合体であり、その分子量は10,000〜100,000が好ましい。
また、上記トラクショングリース組成物中の上記PTFE系樹脂の含有量は、上記トラクショングリース組成物の稠度が60回混和が265〜295(NLGI)グレードで2程度になる量が好ましい。
なお、NLGIとはNational Lubricating GreaseInstitute(米国グリース協会)のことである。
【0020】
上記トラクショングリース組成物中には、二硫化モリブデン、グラファイト等の極圧剤;亜硫酸ナトリウム等の防錆剤;PFAEの誘導体で、例えば、カルボン酸、スルホン酸等の酸基、リン酸エステル等のエステル基等を有する添加剤が含まれていてもよい。
【0021】
上記トラクショングリース組成物は、パーフルオロ化合物であるPFAE系オイル及びPTFE系樹脂を主成分とするものであり、PTFE系樹脂の添加により動粘度が調整されているので、トラクションドライブ装置に使用された場合、高い牽引力を示し、かつ、優れた酸化安定性、熱安定性、不燃性を示し、化学的に極めて安定で、不活性であるため、優れた耐久性を示す。
【0022】
また、上記トラクショングリース組成物を用いることにより、例えば120℃近辺の極めて高い温度領域で良好に上記トラクションドライブ装置を駆動させることができる。
従って、低騒音、低振動であると同時に、高精度で回転の制御が可能なトラクションドライブ装置を提供することができる。
【0023】
上記トラクショングリース組成物が用いられた本発明のトラクションドライブ装置としては特に限定されるものではなく、例えば、自動車用パワーステアリングの駆動用のトラクションドライブ装置、自動車等のエンジンを過給するスーパーチャージャーの駆動用のトラクションドライブ装置、自動車等のエンジンルーム内のエアコン用コンプレッサーやオルタネーター等の補機の駆動用のトラクションドライブ装置等が挙げられる。
【0024】
図2は、本発明のトラクションドライブ装置が用いられた電動パワーステアリングシステムの概要を示したブロック図である。
この電動パワーステアリングシステムは、トルクセンサ21、車速センサ22、コントロールユニット23、モータ24、クラッチ25、及び、トラクションドライブ装置26等を含んで構成されている。
【0025】
この電動パワーステアリングシステムにおいては、まず、ステアリングホイール28を操作すると、その操作トルクをトルクセンサ21が感知し、コントロールユニット23にトルク信号を発信する。コントロールユニット23では、このトルク信号を受け、車速センサ22より発信された車速信号に応じてモータ24への電流を制御する。この制御電流により駆動されたモータ24のトルクは、クラッチ25を介してトラクションドライブ装置26の太陽軸に伝達され、このトラクションドライブ装置26で充分に減速されることによりトルクが増幅され、低速軸を介してピニオン軸27に伝達される。そして、このピニオン軸27が駆動することによりラック29が移動し、タイヤの向きが変えられることになる。
【0026】
上記電動パワーステアリングシステムに使用されている本発明のトラクションドライブ装置26は、上記トラクショングリース組成物が用いられているほかは、図1に示した従来より用いられている装置と同様に構成されている。
【0027】
上記した自動車等のエンジンを過給するスーパーチャージャーにおいては、エンジンからベルトを介して伝達されたエンジンの回転が、本発明のトラクションドライブ装置により高速に増速されてインペラに伝えられ、インペラーにより圧縮された高圧空気が、吐出口からエンジンシリンダ等に供給される。このスーパーチャージャーでは、エンジンの回転を高速に増速するため、トラクションドライブ装置の低速軸がエンジン側に連結されている点が、上記電動パワーステアリングシステムと異なる。
【0028】
また、自動車等のエンジンルーム内においては、エンジンとエアコン用コンプレッサーやオルタネーター等の補機との間に、本発明のトラクションドライブ装置が介装され、エンジンからベルト等を介して伝達された回転を、変速して上記補機に伝達する。
【0029】
上記トラクションドライブ装置では、いずれの場合も、その内部が高温になり易く、120℃を越える場合も考えられるが、本発明においては、PFAE系オイルとPTFE系樹脂とを含む上記トラクショングリース組成物が用いられているため、−40〜150℃の極めて広い温度領域で良好に上記トラクションドライブ装置を駆動させることができる。また、低騒音、低振動であるとともに、高精度で回転の制御が可能なトラクションドライブ装置となる。
【0030】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0031】
図1に示した遊星ローラ型トラクションドライブ装置用のトラクショングリース組成物として、以下に示す組成物を使用し、すべり率と伝達トルクとの関係(図3)、及びグリース組成物単体による蒸発量と試験時間との関係(図4)よりその性能を調査した。
【0032】
表1に各実施例と比較例を示す。実施例1のトラクショングリース組成物は、基油として、F(CF(CF3 )CF2 O)b25 構造を有する40℃動粘度が60mm2 /sのPFAE系オイルが用いられ、増稠剤として、PTFEが添加された、60回混和稠度が280(NLGI)グレードで2の組成物であり、実施例2のトラクショングリース組成物は、基油として、F(CF(CF3 )CF2 O)b25 構造を有する40℃動粘度が160mm2 /sのPFAE系オイルが用いられ、増稠剤として、PTFEが添加された、60回混和稠度が280(NLGI)グレードで2の組成物である。
【0033】
【表1】
Figure 0003683711
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のトラクショングリース組成物は、パーフルオロアルキルポリエーテル系オイルを含む基油、及び、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂を含む増稠剤を含有しているので、高温における耐久性に優れ、良好にトラクションドライブ装置を駆動させることができる。
【0035】
また、本発明のトラクションドライブ装置は、上記トラクショングリース組成物を用いているので、上記の極めて広い温度領域で駆動させることができる。また、低騒音、低振動であるとともに、高精度で回転の制御が可能なトラクションドライブ装置となり、高温にさらされる自動車パワーステアリング、エンジンを過給するスーパーチャージャー、オルタネーターの補機の駆動用等のトラクションドライブ装置に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】トラクションドライブ機構の1種である遊星ローラ型トラクションドライブ装置を模式的に示した断面図であり、(b)は(a)におけるA−A線断面図である。
【図2】本発明のトラクションドライブ装置が用いられた電動パワーステアリングシステムの概要を示したブロック図である。
【図3】トラクションドライブ装置における本発明のグリース組成物の伝達トルクとすべり率の関係を示すグラフである。
【図4】本発明のグリース組成物単体での蒸発量と時間の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10 遊星ローラ型トラクションドライブ装置
11 固定軸
12 低速軸
12a ピン
13 太陽軸
14 遊星ローラ
26 トラクションドライブ装置

Claims (3)

  1. 基油及び増稠剤を含有してなる遊星ローラ型トランクションドライブ装置に用いるトランクショングリース組成物であって、
    前記基油は、パーフルオロアルキルポリエーテル系オイルを含むものであり、
    前記増稠剤は、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂を含むものであり、
    前記パーフルオロアルキルポリエーテル系オイルは、内部に−CF(CF )CF O−構造を有するものであることを特徴とするトランクショングリース組成物。
  2. パーフルオロアルキルポリエーテル系オイルは、40℃における動粘度が、50〜200mm/sである請求項1記載のトラクショングリース組成物。
  3. 請求項1又は2に記載のトランクショングリース組成物を用いることを特徴とするトラクションドライブ装置。
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