JP3674015B2 - 尿素窒素の測定方法およびその測定用キット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料中の尿素窒素を測定するための方法および試薬に関する。さらに詳しくは、本発明は高濃度の尿素窒素を含む試料においても測定が可能であり、さらに試料中に含まれるポリオールの影響を受けないことを特徴とする尿素窒素の測定方法およびその測定用試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
生体試料等に存在する尿素窒素量は、腎不全等の腎機能障害や肝硬変等の肝障害により変動することが知られており、その測定は医学的診断や病態の解明を行う上で、さらには種々の治療の経過を判定する上で重要な指標である。近年、尿素窒素の測定方法はその正確性、特異性からウレアーゼ反応によって尿素を加水分解し、生じるアンモニアにα−ケトグルタル酸(以下、α−KGという)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(以下、NADHという)またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(以下、NADPHという)およびグルタミン酸脱水素酵素(以下、GLDHという)を作用させ、NADHまたはNADPHの減少量を紫外部の吸収変化としてとらえ測定する方法(以下この方法をウレアーゼ−GLDH法と略す)が広く普及している。
【0003】
また、自動分析装置が年々目覚ましく進歩していることもあり、短時間で測定結果が得られ、かつ試料中の干渉物質の影響の少ない反応速度法による尿素窒素測定法が望まれている。
【0004】
ところで反応速度法は、ウレアーゼの尿素に対するKm値が測定系における尿素濃度より十分大きい場合に可能となり高濃度の尿素を測定できる。ウレアーゼのKm値は通常、反応速度法で測定するときには小さすぎる場合が多いため、Km値をみかけ上大きくするために阻害剤を加えることがある。このような阻害剤を用いる尿素窒素測定方法としては、ウレアーゼ阻害剤としてホウ酸またはその塩を用いる方法(特公平03−65160)が知られており、この方法によれば、高濃度の尿素を正確に測定できる。ホウ酸は、その性質から酵素中の糖鎖との相互作用によりキレート様錯体を形成し、その結果、阻害作用が現れるものと考えられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが上記のウレアーゼ阻害剤としてホウ酸またはその塩を用いる方法においては、試料中にマンニトール等のポリオールが存在する場合、ホウ酸がポリオールとキレート錯体を形成し、ウレアーゼの阻害作用が実質的に働かなくなるため、尿素窒素の測定において測定値の上昇が認められ、正確な測定が不可能となるという問題点があった。実際、臨床領域においては脳圧降下剤、利尿剤としてマンニトール製剤が使用される場合が多々あり、マンニトールは生体内ではほとんど代謝されず糸球体で容易にろ過され、また尿細管で再吸収もされないためほぼ全量が尿中に濃縮された形で排出される。この場合のマンニトール濃度は、20%すなわち200mg/mlにも及ぶものと推定される。このため、マンニトール含有試料中の尿素窒素を測定するに際し上記の現象が大きな問題となる。
【0006】
かかる問題に鑑み、本発明の目的は、マンニトール等のポリオール含有試料や高濃度の尿素窒素を含む試料においても尿素窒素を正確に測定できる方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは公知方法の欠点を解決するため、ホウ酸に代わる新たなウレアーゼ阻害剤について鋭意検討した結果、反応速度法を用いたウレアーゼ−GLDH法による尿素窒素の定量において、阻害剤としてスルフヒドリル化合物を存在させることが問題解決に有効であることを見出し、本発明を完成させた。これによりウレアーゼのKm値を増大させることで高濃度の尿素窒素が測定可能となり、かつ上記マンニトール等のポリオールの影響も回避可能となった。
【0008】
すなわち本発明は、試料中の尿素をウレアーゼで加水分解させ、その分解により生じるアンモニアに、α−ケトグルタル酸(α−KG)及び、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(NADPH)の存在下、グルタミン酸脱水素酵素(GLDH)を作用させ、その作用によるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(NADPH)の減少の速度を測定することにより前記尿素由来の尿素窒素を測定する方法において、スルフヒドリル化合物をウレアーゼと共に存在させることを特徴とする尿素窒素の測定方法(以下、本発明の方法という)を第一の要旨とする。
【0009】
また、本発明は、構成成分として
i)α−ケトグルタル酸(α−KG)、
ii)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(NADPH)、
iii)グルタミン酸脱水素酵素(GLDH)、
iv)スルフヒドリル化合物及び
v)ウレアーゼ
を含む尿素窒素測定用キット(以下、本発明のキットという)を第二の要旨とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明においては、尿素窒素を測定する方法ならびに尿素窒素測定用試薬の調製は、試薬にスルフヒドリル化合物をウレアーゼと共に用いる以外は、慣用されている技術を通常そのまま使用することができる。例えばウレアーゼおよびスルフヒドリル化合物を作用させる前に、前処理として試料中に存在するアンモニアを消去させることもできる。
【0011】
本発明の方法においては測定の精度を高めるために、尿素窒素測定の前に、α−KG及び、NADH又はNADPHの存在下、GLDHを作用させることにより、予め試料中のアンモニアを消去しておくことが好ましい。なお、アンモニアを消去するための試薬構成は、尿素窒素を測定する試薬構成と重複するので、尿素窒素を測定するときにそのまま、アンモニアを消去するための試薬構成を使用することができる。
【0012】
本発明の方法において試料とは、尿素成分を含むものであれば特に限定されないが、例えば血漿、血清、尿、又はそれらの希釈液等を例示できる。
【0013】
本発明の方法において使用することができるスルフヒドリル化合物としては、チオグリセロール、チオリンゴ酸、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、3−メルカプトプロピオン酸、チオフェノール、システイン、N−アセチルシステイン、還元型グルタチオン、ジチオスレイトール、ジチオエリスリトール等が挙げられる。スルフヒドリル化合物としては、チオグリセロールが好ましい。チオグリセロールは、臭いが少なく、さらに、安定性が良いからである。
【0014】
スルフヒドリル化合物の濃度は、化合物の種類、試料の種類、測定条件その他の要因により適宜調整すべきであるが、通常0.1〜1000mM、好ましくは1〜500mM、特に好ましくは10〜500mMの範囲である。
【0015】
本発明の方法で使用するα−KG、NADHもしくはNADPH、GLDH、ウレアーゼの各濃度は、試料中に予め存在するアンモニア量および測定すべき尿素量により変動するが、適当な濃度を適宜選択することができる。例えばα−KG量は通常0.1〜50mM、好ましくは1〜30mMの範囲である。またNADHもしくはNADPH量は通常0.05〜5mM、好ましくは0.1〜1mMの範囲であり、測定時の吸光度限界を超えない程度の範囲で選択すればよい。GLDHは、由来は特に限定されないが牛肝臓由来や細菌由来のものが好ましい。GLDHの使用濃度は0.1〜100単位/ml、好ましくは0.5〜70単位/mlの範囲である。ウレアーゼは、由来は特に限定されないがナタマメ由来や細菌由来のものがあげられ、その使用濃度は0.1〜100単位/ml、好ましくは0.5〜50単位/ml程度であり、スルフヒドリル化合物の添加量との関係に基づき適当な濃度を選択すべきである。
【0016】
本発明の方法においては、尿素窒素測定時のpHは、通常pH6〜10、好ましくはpH7〜10の範囲に調整する。なお、pHの調整は、通常緩衝液によって行い、ここで使用できる緩衝液としては、トリス緩衝液、塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、イミダゾール緩衝液、ジエタノールアミン緩衝液、トリエタノールアミン緩衝液;HEPES等のグッド緩衝液等が挙げられる。
【0017】
以上のように本発明は、尿素窒素量をNADHもしくはNADPHの減少速度を指標として測定する反応速度法であるため、測定に要する時間は短く、かつ紫外部吸収をもつ試料中の干渉物質等の影響をほとんど受けない。その上スルフヒドリル化合物は試料と混合してもウレアーゼ阻害作用は影響を受けず、高濃度の尿素まで正確に定量できる。さらにマンニトール等のポリオール含有試料においてもウレアーゼ阻害作用は失われないため、従来では正確な結果が得られなかったマンニトール含有試料においても、正確な尿素窒素測定が可能であり、臨床検査等において極めて有用な方法である。
【0018】
次に、本発明の尿素窒素測定用キットは、その構成成分として
i)α−ケトグルタル酸(α−KG)、
ii)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(NADPH)、
iii)グルタミン酸脱水素酵素(GLDH)、
iv)スルフヒドリル化合物及び
v)ウレアーゼ
を含むものである。
【0019】
ここで、それぞれの構成成分の由来、使用濃度等は、本発明の方法の説明において詳述したとおりであり、ここでは省略する。
【0020】
本発明のキットは、通常、緩衝液、α−KG、NADHまたはNADPH、GLDHを含む第一試薬と、緩衝液、α−KG、ウレアーゼ、スルフヒドリル化合物を含む第二試薬とからなっているのが好ましい。最初に第一試薬と試料を混合することにより、試料中に予め存在するアンモニアを消去することができ、正確な尿素窒素測定が可能となるからである。
【0021】
【実施例】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。
【0022】
実施例1
第一試薬として、
トリス緩衝液 100mM
α−KG 12mM
NADPH 0.3mM
GLDH 10U/ml
を含み、かつpH8.2の水溶液を用いた。
【0023】
第二試薬として、
トリス緩衝液 100mM
α−KG 12mM
ウレアーゼ 10U/ml
チオグリセロール 400mM
を含み、かつpH8.2の水溶液を用いた。
【0024】
試料として、尿素窒素濃度50mg/dlの試料M0およびマンニトール20%を含む尿素窒素50mg/dlの試料M5を調製した。さらに試料M5をM0で希釈し、マンニトール濃度が各々4、8、12、16%であり、かつ尿素窒素濃度50mg/dlの試料を調製し、それぞれ試料M1、M2、M3、M4とした。
【0025】
吸光度測定は、日立7150形自動分析装置を使用して行い、上記試料M0〜M512μlに、第一試薬300μlを加えて37℃で5分間加温し、続いて第二試薬75μlを加えて、340nmにて単位時間あたりの吸光度変化を測定した。試料中の尿素窒素濃度はあらかじめ作成した検量線より求めた。結果を表1および図1に示す。
【0026】
比較例1
実施例1で使用した第二試薬の成分中、チオグリセロールの代わりにホウ酸75mMを用いた以外は、実施例1と同様に操作して、尿素窒素濃度を求めた。結果を表1および図1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
図1中、実施例1の測定結果は−○−で、比較例1の測定結果は−●−で示し、縦軸に尿素窒素濃度(mg/dl)、横軸にマンニトール濃度(%)を示す。
【0029】
表1及び図1の結果から、ウレアーゼ−GLDH法において、ウレアーゼ阻害剤として、チオグリセロールを用いた場合(実施例1)は、ウレアーゼ阻害剤としてホウ酸を用いた場合(比較例1)と比べ、試料中のマンニトールの影響を受けず、尿素窒素濃度を正確に測定できることがわかる。
【0030】
実施例2
実施例1の本発明の方法と、現在信頼性が高いとされ臨床検査等に一般的に使用されている前記特公平3−65160号公報記載の、ウレアーゼ阻害剤としてホウ酸を用いた方法(公知方法)との相関性を調べるため、ポリオールを含まない血清を試料としてそれぞれ尿素窒素測定を行った。その結果、図2に示す通り、本発明の方法は上記公知方法と極めて有意な相関性が認められた。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、反応速度法による尿素窒素測定時に誤差を与えるマンニトール含有試料においても、正確に測定が可能であり、また高濃度の尿素窒素の測定ができる。したがって、臨床検査に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1および比較例1におけるマンニトールの尿素窒素測定結果に与える影響を示す図である。
【図2】図2は、本発明の方法(縦軸)と、公知方法(横軸)との尿素窒素測定結果における相関性を示す図である。
Claims (2)
- 試料中の尿素をウレアーゼで加水分解させ、その分解により生じるアンモニアに、α−ケトグルタル酸(α−KG)及び、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(NADPH)の存在下、グルタミン酸脱水素酵素(GLDH)を作用させ、その作用によるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(NADPH)の減少の速度を測定することにより前記尿素由来の尿素窒素を測定する方法において、チオグリセロールをウレアーゼと共に存在させることを特徴とする尿素窒素の測定方法。
- 構成成分として
i)α−ケトグルタル酸(α−KG)、
ii)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(NADPH)、
iii)グルタミン酸脱水素酵素(GLDH)、
iv) チオグリセロール及び
v) ウレアーゼ
を含む尿素窒素測定用キット。
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