JP3647107B2 - インクジェットプリンタ−用インク並びにこれを用いた印刷物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明はインクジェットプリンタ−用インクおよびこれを用いた印刷物に関し、さらに詳しくは、滲みが生ぜず、分散安定性、耐水性、耐光性、転写性および耐熱性に優れ、粒子の沈降がなくて保存安定性に優れた種々の色彩のインクジェットプリンタ−用インクと、このインクジェットプリンタ−用インクを用いた滲みがなくて、耐水性、耐光性、転写性および耐熱性に優れた印刷物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般に使用されている有色のインクジェットプリンタ−用インクは、種々の色彩を得るため主として有機染料が使用されている。また、この他、酸化チタンを顔料として用いた白色のインクジェットプリンタ−用インクや、有機染料と顔料を混合した黄色のインクジェットプリンタ−用インクなども実用化されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これら従来の有機染料を用いた有色のインクジェットプリンタ−用インクでは、下地がインクを吸収しやすいものである場合、インクジェットプリンタ−で印刷すると、使用する染料本来の性質によって、フェザ−リング現象と呼ばれるインクの滲みが発生し、画像の外観不良をもたらす。特に、インクジェットプリンタ−で微小な印刷が行われる場合、このフェザ−リングは致命的な欠点となり、さらに従来の有機染料は水に対する溶解性が大きいため、印刷物に水が触れたりすると画像の読み取りが困難となる。また、インクジェットプリンタ−での印刷物の用途が広範になってきているため、良好な耐光性を有することが求められる。
【0004】
また、酸化チタンを顔料として用いた白色のインクジェットプリンタ−用インクは、画像の滲みという問題は生じないが、顔料自体の比重が大きく分散安定性に劣るため、インク中で沈殿が生じてインクジェットプリンタ−機器内で目詰まりが生じやすく、これは有機染料と顔料を混合したインクジェットプリンタ−用インクの場合も同様で、実用上問題がある。
【0005】
この発明はかかる現状に鑑み種々検討を行った結果なされたもので、滲みが生ぜず、分散安定性、耐水性、耐光性、転写性および耐熱性に優れ、粒子の沈降がなくて保存安定性に優れた種々の色彩のインクジェットプリンタ−用インクを提供し、このインクジェットプリンタ−用インクを用いた滲みがなくて、耐水性、耐光性、転写性および耐熱性に優れた印刷物を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明のインクジェットプリンタ−用インクは、ガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子、あるいはガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の一部または全部が中空粒子である粒子に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子、もしくはガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の一部または全部が無機粒子表面にポリマ−を被覆した粒子核である粒子に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子を含んでいる。
【0007】
また、この発明のインクジェットプリンタ−用インクは、粘度(mPa・s)/ノズル口径(μm)の関係が0.01〜1で、レイノルズ数が10.5〜2100、Weber数が38.2〜3360で、粘度(mPa・s)/表面張力(mN・m-1)の関係が0.03〜1.0となるようにしている。
【0008】
さらに、この発明の印刷物は、ガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子、あるいはガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の一部または全部が中空粒子である粒子に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子、もしくはガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の一部または全部が無機粒子表面にポリマ−を被覆した粒子核である粒子に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子を含んでいる。
【0009】
【発明の実施の形態】
この発明のインクジェットプリンタ−用インクに含まれる粒子は、粒子核に色素および/または蛍光増白剤を吸着したものであることが好ましく、色素や蛍光増白剤が吸着された粒子核は、吸着された色素によって染料としての効果が充分に発揮される。また、粒子核がインク中に存在するため顔料としての性質を有し、インクジェットプリンタ−での印刷時に、滲み出しもない。さらに、印刷物を水にさらしても色素や蛍光増白剤が溶解することがなく優れた耐水性を有する。なお、色素および/または蛍光増白剤の吸着は、粒子核の表面のみでなく、粒子核中に含浸状態で吸着していてもよい。
【0010】
これに対し、単に粒子核と有機染料などの色素とがインク組成物中で混合されているときは、顔料としての性質がなく、インクジェットプリンタ−での印刷時に滲み出しが生じ、印刷物を水にさらしたりすると画像の読み取りが困難になる。これは、粒子核の乳化重合溶液に水溶性の染料を単に混合した場合も粒子核に吸着される染料が少なく、有機染料がほとんど溶媒中に溶解しているため同様で、有機染料を単独で使用する場合とほとんど異ならない。
【0011】
この発明における粒子核に色素および/または蛍光増白剤が吸着している場合と、これらが単なる物理的に混合している状態かどうかについては、室温で粒子を含むインクを固形分濃度が5%以下となるようにインクの分散溶媒で希釈し、5分間攪拌後、その分散液をペ−パ−フィルタ−で吸引ろ過し、フィルタ−に色が滲むかどうかによって容易に判断することができる。従って、この評価によりこの発明の吸着を定義することができる。
【0012】
また、粒子核に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子を単にインクとして用いる場合には、いかなる分子構造の粒子でも用いることができるが、インクジェットプリンタ−用インクとして使用する場合には、ガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核に色素および/または蛍光増白剤を吸着したものであることが必要であり、ガラス転移温度が30℃以上の粒子核であると、インクジェットプリンタ−で印刷される場合、印刷物の安定性がよく、最近のようにインクの乾燥性を早める目的で40℃付近までインクを加温して用いられ、熱に対する安定性が求められるときも良好な安定性が得られる。
【0013】
すなわち、プリント機器の系内ではインクの温度が30℃以上に上昇することがあり、さらに夏期にこのインクジェットプリンタ−用インクを保存した場合は、特に温度の上昇が著しく、かかる場合、粒子核はその原料の性質に起因して粘着性を示すようになり、インクの凝集を生ずるが、粒子核のガラス転移温度が30℃以上であれば、インクが高温となっても粘度上昇を起こすことがなく、保存安定性および耐熱性に優れるインクが得られる。また、粒子核の粘着性は画像を形成した後もみられるため、たとえば、紙に画像を形成した場合など、接触物に画像が転写することがあるが、粒子核のガラス転移温度が30℃以上であれば、画像が転写することもなく、画像形成後でも転写することのない保存安定性および耐熱性に優れるインクが得られる。
【0014】
なお、粒子核のガラス転移温度は30℃以上であれば、上記特性が十分に発現するため、30℃以上であれば特に制限されないが、粒子核の材質上30℃以上400℃以下が好ましく、30℃以上350℃以下がより好ましい。
【0015】
一方、単に粒子核のガラス転移温度を30℃以上にしても、インクジェットプリンタ用インクは再分散性が必要とされるため、粒子径が小さすぎると粒子間の凝集が生じ、このためインクの造膜という問題が生じることとなる。この発明者等の検討によれば、粒子径が30nm以上になると粒子間に溶剤が浸透しやすくなる結果、溶剤とのぬれ性が良好となり、造膜することのない再分散性に優れたインクジェットプリンタ用インクが得られることが明らかとなった。また、この発明の粒子核に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子は、30nm以上でも良好な分散安定性を示し、長期保存下でも粒子の沈降という問題が生ぜず、さらに、30nm以上であった場合、製造における粒子径のコントロールが容易で、かかる点でも好適なインクジェットプリンタ用インクを得ることができる。
【0016】
なお、粒子核は粒子径が大きくなるほど隠蔽性が向上するため、粒子径が大きければ大きいほど画像がより鮮明となり好ましいが、汎用性の点から30nm以上2μm以下が好ましく、30nm以上0.8μm以下がより好ましい。
【0017】
以上のように、この発明のインクジェットプリンタ用インクは、ガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の表面に色素および/または蛍光増白剤を吸着することにより、インクの滲みがなく、分散安定性、耐水性、耐光性、転写性および耐熱性に優れ、粒子の沈降がなくて保存安定性が良好となり、このインクを用いると、滲みがなくて、耐水性、耐光性、転写性および耐熱性に優れた画像を得ることができる。
【0018】
また、この発明の粒子核は、色素および/または蛍光増白剤を吸着できるものであれば上記特性を充分に発現できるため、粒子全体が有機物からなっている必要はなく、粒子表面が有機物からなっている粒子であれば足りる。従って、これらの粒子核を使用する場合、その一部または全部に中空粒子を用いることも可能であり、このような中空粒子は粒子中に溶媒を内包しているため、粒子径が大きくなっても比重が大きくならず、インク濃度を高くした場合でも、インクが造膜することなく再分散性に優れたインクを得ることができる。また、画像形成後では、中空粒子は光を照射したときの屈折率が粒子表面と内部で相違するため、隠蔽性をより向上することができる点からも好ましい。
【0019】
また、粒子核として、シリカ等の無機粒子表面にアクリル系、ビニル系、スチレン系等のポリマ−を被覆した微粒子も用いることができ、このような無機粒子にポリマ−を被覆した粒子は透明性が高いため、色素および/または蛍光増白剤を吸着した場合の発色性が高く、より鮮明な画像を形成することが可能となる。なお、無機粒子の場合、温度上昇とともに粘着性を示すようになるのは、無機粒子の表面に被覆されているポリマ−であるため、ポリマ−のガラス転移温度が30℃以上である必要がある。また、無機粒子表面にポリマ−を被覆した粒子は、粒子核の全部である必要はなく一部であっても好ましく使用される。
【0020】
このようなガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核、あるいはガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の一部または全部が中空粒子である粒子、もしくはガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の一部または全部が無機粒子表面にポリマ−を被覆した粒子核である粒子に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子は、ガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核、あるいはガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の一部または全部が中空粒子である粒子、もしくはガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の一部または全部が無機粒子表面にポリマ−を被覆した粒子核である粒子に、有色染料および/または蛍光増白剤を、塊状樹脂粉砕法、乳化重合法などで処理し、遊離した有色の染料および/または蛍光増白剤を粒子核被着して得られる。
【0021】
ここで、塊状樹脂粉砕法は、色素および/または蛍光増白剤を、粒子核、あるいは一部または全部が中空粒子である粒子核、もしくは一部または全部が無機粒子の表面をポリマ−で被覆した粒子核とともに溶融混合し、冷却した後得られた固形物を粉砕する方法であり、乳化重合法は、乳化重合して得られた前記の粒子核、あるいは一部または全部が中空粒子である粒子核、もしくは一部または全部が無機粒子の表面をポリマ−で被覆した粒子核の懸濁液に色素および/または蛍光増白剤を吸着する方法である。
【0022】
この発明のガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核としては、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、芳香族スルホンアミド樹脂などが好適なものとして使用され、具体例としては、日本ペイント社製;マイクロジェル、ローム&ハース社製;アクリルエマルション、日本合成ゴム社製;粒子核、三井石油化学社製;ケミパールなどが挙げられる。
【0023】
また、中空粒子としては、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステルなどが好適なものとして使用され、具体例としては、日本合成ゴム社製;中空粒子SX863(A)、SX864(B)、SX865(B)、ローム&ハース社製;中空粒子OP−62、OP84J、HP−91などが挙げられる。
【0024】
また、無機粒子表面にポリマ−を被覆した粒子としては、シリカ微粒子表面にビニル系、アクリル系、スチレン系等のポリマ−を被覆したものが好適なものとして使用され、具体例としては、日本触媒社製;オルガノシリカゾルCX−SZシリ−ズなどが挙げられる。
【0025】
さらに、色素としては、アントラキノン系、モノアゾ系、ジアゾ系、フタロシアニン系、トリアリルメタン系、メチン系、 ポリメチン系の染料などが好ましく使用される。また、蛍光増白剤も単独でまたはこれらの染料とともに好ましく使用される。
【0026】
染料の具体例としては、カラ−インデックスナンバ−(C.I.)で示されるC.I.Solvent Blue11、2、25、36、55、C.I.Solvent Red8、81、82、84、100、C.I.SolventYellow19、C.I.Solvent Black5、7、124などが挙げられる。
【0027】
また、蛍光増白剤の具体例としては、ミカホワイトACR、ミカホワイトATN、Kayaphor3BSなどが挙げられる。
【0028】
粒子核に吸着させる色素および/または蛍光増白剤の含有割合は、より充分な色彩を得るため、粒子核に対して0.001〜20重量%の範囲内であることが好ましい。
【0029】
このように、ガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核に色素および/または蛍光増白剤を吸着させた粒子、あるいはガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の一部または全部が中空粒子である粒子に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子、もしくはガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の一部または全部が無機粒子表面にポリマ−を被覆した粒子核である粒子に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子を使用したインクジェットプリンタ用インクは、ガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核に色素および/または蛍光増白剤を吸着させた粒子、あるいはガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の一部または全部が中空粒子である粒子に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子、もしくはガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上の粒子核の一部または全部が無機粒子表面にポリマ−を被覆した粒子核である粒子に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子を、結合剤樹脂および必要な場合溶剤とともに混合分散して調製される。
【0030】
ここで、結合剤樹脂としては、従来一般に使用されるものがいずれも使用され、たとえば、ポリビニルアルコ−ル、アクリル樹脂、ポリエチレンオキサイド、デンプン、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、カルボキシメチルセルロ−スなどが使用される。
【0031】
また、必要に応じて使用される溶剤としては、水、アルコ−ル、ケトン、エステル、エ−テル、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤などが単独でもしくは混合して使用される。
【0032】
このようにして調製されるインクジェットプリンタ用インクは、必要に応じて、分散剤、消泡剤、界面活性剤、保湿剤および電導性付与剤などが使用される。なお、この他、各種整色染料、蛍光染料などを併用してもよい。
【0033】
このようにして得られるインクジェットプリンタ−用インクは、粘度(mPa・s)/ノズル口径(μm)の関係が0.01〜1の範囲内にあり、レイノルズ数が10.5〜2100の範囲内で、Weber数が38.2〜3360の範囲内、さらに粘度(mPa・s)/表面張力(mN・m-1)の関係が0.03〜1.0の範囲内にあることが好ましい。
【0034】
ここで、インクジェットプリンタ−の中心となる原理は、インクジェット流の分裂による液滴の形成および液滴の飛行経路における電磁制御にあると考えられている。そして、液滴の形成は、Raileighの運動方程式で表され、最適なインクの流体力学特性はその解から得られるが、装置の設計条件からも各種の無次元数の構成指標として誘導され〔A.Kinoshita,印刷・情報記録研修会講座;講演要旨集(1987)〕、このような無次元数は種々あるが、インクに関するものとしてはレイノルズ数およびWeber数がある。
【0035】
そこで、この発明のインクジェットプリンタ−用インクを用いてレイノルズ数の検討を行ったところ、レイノルズ数はR=ρνlη-1〔但し、ρ:密度(g/cm3 )、ν:流速(m/s)l:ノズル口径(μm)η:粘性率(mPa・s)である。〕で表され、液滴の形成が可能で、インクが流動する範囲をレイノルズ数で示すと、10.5〜2100の範囲内である必要があり、本発明のインクジェットプリンタ−用インクは、レイノルズ数が前記の範囲を外れるとサテライト滴(メインインク滴ではない小粒径のインク滴)が不規則に形成されるとともに、インクの飛び散りなどが生じ、目的とする画像が形成されにくかった。
【0036】
また、より好ましいレイノルズ数の範囲として、ロットナンバ−や画像を印字し、その色彩が最も適切であったノズル口径を60μmに固定し、流速と粘度を変化させて印字実験を行ったところ、流速は10〜20m/sまで変化させることができ、粘度は2〜20mPa・sまで変化させることができた。これを図示すると、図1に示されるように曲面で表され、この場合、レイノルズ数は30〜630であることがわかる。
【0037】
次に、Weber数について調べたところ、Weber数はW=ρν2 lγ-1〔但し、ρ:密度(g/cm3 )、ν:流速(m/s)l:ノズル口径(μm)γ:表面張力(mN・m-1)である。〕で表され、インクの液滴形成や泡立ちを考慮するとWeber数は38.2〜3360の範囲内である必要があり、本発明のインクジェットプリンタ−用インクは、Weber数が前記の範囲をはずれるとインクの泡立ちがひどく印字できなかったり、印字可能であっても目的の画像形成が困難であった。
また、より好ましいWeber数の範囲として、先のレイノルズ数と同様にノズル口径を60μmに固定して検討を行ったところ、流速を10〜20m/s、表面張力を25〜55mN・m-1まで変化させることができた。これを図示すると、図2のように曲面で示され、この場合のWeber数は、110〜1010まで変化していることがわかる。
【0038】
また、インクジェットプリンタ−でインクを押し出して印刷するときの泡立ちは、表面エネルギ−だけで一義的に決まるものでなく、粘性と表面張力の関数を考慮する必要があり、この発明のインク組成物では粘度(mPa・s)/表面張力(mN・m-1)の関係が0.03〜1.0の範囲内にあると良好な印字が行えた。このため、この発明のインクジェットプリンタ−用インクは、粘度(mPa・s)/表面張力(mN・m-1)の関係が0.03〜1.0の範囲内にあるようにするのが好ましい。
【0039】
さらに、インクジェットプリンタ−のような小さなノズルよりインクを押し出す際には、インクの粘度が大きく関与するため、インク粘度とノズル口径の関係を考慮する必要があり、この発明のインクジェットプリンタ−用インクでは、粘度(mPa・s)/ノズル口径(μm)の関係が0.01〜1の範囲内にあると良好な印字が行えた。このためこの発明のインクジェットプリンタ−用インクでは、粘度(mPa・s)/ノズル口径(μm)の関係が0.01〜1の範囲内にあるようにするのが好ましい。
【0040】
【実施例】
次に、この発明の実施例について説明する。なお、この発明はこれら実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
また、以下に記載される「実施例1〜6」のうち、「実施例4〜6」が、本発明の特許請求の範囲に含まれるインクおよび印刷物の例を示したものであり、「実施例1〜3」は、本発明の特許請求の範囲には含まれない、参考例としてのインクおよび印刷物の例を示したものである。
実施例1
スチレン・アクリル酸エステル系樹脂の乳化重合溶液(固形分30重量%、粒子径100nm、ガラス転移温度30℃)100重量部に対して、1重量部のKayaset Yellow K−RLをエチルアルコ−ル1重量部に溶解した溶液を滴下し、攪拌後、1ミクロンのフィルタ−を通してろ過し、黄色の粒子分散液を得た。
この粒子分散液100重量部に対して、ジョンクリル61J(ジョンソンポリマ−社製;アクリルースチレン樹脂、固形分30重量%)を15重量部、水とエチルアルコ−ルの混合溶剤(水/エチルアルコ−ル=8/2)を20重量部添加し、ボ−ルミルで1時間混合分散して、黄色のインクジェットプリンタ−用インクを調製した。このインクのレイノルズ数は400、Weber数は686、粘度/ノズル口径は0.02、粘度/表面張力は0.085であった。
そして、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、インクジェットプリンタ−(日立製作所社製;GX−PA)で紙上に印刷し、印刷物を得た。
なお、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、吸着実験を行ったところ、フィルタ−にインクの滲みは見られなかった。吸着実験は、調製したインクジェットプリンタ−用インクを固形分5%になるようにインクの分散溶媒で希釈し、これをマグネチックスタ−ラ−で5分間攪拌した後、7ミクロンのペ−パ−フィルタ−(桐山濾紙社製;No.5C)を用いて吸引ろ過し、ろ過後のペ−パ−フィルタ−上にインクが確認されるかどうかで、色素または蛍光増白剤の吸着を調べて行った。
【0041】
実施例2
スチレン・アクリル酸エステル系樹脂の乳化重合溶液(固形分30重量%、粒子径50nm、ガラス転移温度40℃)100重量部に対して、KayasetRed K−BLを0.8重量部添加し、赤色の粒子分散液を得た。
この粒子分散液100重量部に対して、ジョンクリル61J(ジョンソンポリマ−社製;アクリルースチレン樹脂、固形分30重量%)を20重量部、水とエチルアルコ−ルの混合溶剤(水/エチルアルコ−ル=8/2)を20重量部添加し、ボ−ルミルで3時間混合分散して、赤色のインクジェットプリンタ−用インクを調製した。このインクのレイノルズ数は270、Weber数は486、粘度/ノズル口径は0.067、粘度/表面張力は0.1であった。
そして、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、インクジェットプリンタ−(日立製作所社製;GX−PA)で紙上に印刷し、印刷物を得た。
なお、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、実施例1と同様にして吸着実験を行ったところ、フィルタ−にインクの滲みは見られなかった。
【0042】
実施例3
スチレン・アクリル酸エステル系樹脂の乳化重合溶液(固形分30重量%、粒子径50nm、ガラス転移温度40℃)100重量部に対して、KayasetBlue K−FLを0.1重量部添加し、青色の粒子分散液を得た。
この粒子分散液100重量部に対して、ジョンクリル61J(ジョンソンポリマ−社製;アクリルースチレン樹脂、固形分30重量%)を10重量部、水とエチルアルコ−ルの混合溶剤(水/エチルアルコ−ル=8/2)を20重量部添加し、ボ−ルミルで3時間混合分散して、青色のインクジェットプリンタ−用インクを調製した。このインクのレイノルズ数は343、Weber数は400、粘度/ノズル口径は0.058、粘度/表面張力は0.0875であった。
そして、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、インクジェットプリンタ−(日立製作所社製;GX−PA)で紙上に印刷し、印刷物を得た。
なお、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、実施例1と同様にして吸着実験を行ったところ、フィルタ−にインクの滲みは見られなかった。
【0043】
実施例4
アクリル酸エステル系樹脂の中空粒子分散液(固形分30重量%、粒子径50nm、ガラス転移温度40℃)100重量部に対して、1重量部のミカホワイトATNを水1重量部に溶解した溶液を滴下し、この溶液を70℃まで昇温し、攪拌、ろ過して白色の粒子分散液を得た。
この粒子分散液100重量部に対して、ジョンクリル61J(ジョンソンポリマ−社製;アクリルースチレン樹脂、固形分30重量%)を20重量部、水とエチルアルコ−ルの混合溶剤(水/エチルアルコ−ル=8/2)を20重量部添加し、ボ−ルミルで3時間混合分散して、白色のインクジェットプリンタ−用インクを調製した。このインクのレイノルズ数は343、Weber数は400、粘度/ノズル口径は0.058、粘度/表面張力は0.0875であった。
そして、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、インクジェットプリンタ−(日立製作所社製;GX−PA)で紙上に印刷し、印刷物を得た。
なお、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、実施例1と同様にして吸着実験を行ったところ、フィルタ−にインクの滲みは見られなかった。
【0044】
実施例5
シリカ粒子の表面にアクリル系樹脂を被覆した粒子核の分散液(固形分20重量%、粒子径40nm、ガラス転移温度40℃)100重量部に対して、1重量部のKayaset Yellow K−RLを10重量部のメチルアルコ−ルに溶解した溶液を滴下し、攪拌、ろ過して黄色粒子の分散液を得た。
この粒子分散液100重量部に対して、Dispalon KS−860を10重量部とメチルエチルケトン70重量部を添加し、攪拌して黄色のインクジェットプリンタ−用インクを調製した。このインクのレイノルズ数は171、Weber数は960、粘度/ノズル口径は0.12、粘度/表面張力は0.28であった。
そして、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、インクジェットプリンタ−(日立製作所社製;GX−PA)で紙上に印刷し、印刷物を得た。
なお、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、実施例1と同様にして吸着実験を行ったところ、フィルタ−にインクの滲みは見られなかった。
【0045】
実施例6
アクリル酸エステル系樹脂の中空粒子分散液(固形分30重量%、粒子径30nm、ガラス転移温度30℃)100重量部に対して、0.8重量部のKayaset Red K−BLを3重量部のアセトンに溶解し、この溶液と1重量部のミカホワイトATNを混合した溶液を滴下し、この溶液を70℃まで昇温し、攪拌、ろ過して赤色の粒子分散液を得た。
この粒子分散液100重量部に対して、ジョンクリル61J(ジョンソンポリマ−社製;アクリルースチレン樹脂、固形分30重量%)を20重量部、水とエチルアルコ−ルの混合溶剤(水/エチルアルコ−ル=8/2)を20重量部添加し、ボ−ルミルで3時間混合分散して、赤色のインクジェットプリンタ−用インクを調製した。このインクのレイノルズ数は257、Weber数は840、粘度/ノズル口径は0.08、粘度/表面張力は0.17であった。
そして、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、インクジェットプリンタ−(日立製作所社製;GX−PA)で紙上に印刷し、印刷物を得た。
なお、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、実施例1と同様にして吸着実験を行ったところ、フィルタ−にインクの滲みは見られなかった。
【0046】
比較例1
スチレン・アクリル酸エステル系樹脂の乳化重合溶液(固形分8重量%、粒子径20nm、ガラス転移温度50℃)100重量部に対して、1重量部のDirect Pure Yellow 5Gを1重量部のエチルアルコ−ルに溶解した溶液を滴下し、攪拌後、1ミクロンのフィルタ−を通してろ過し、黄色の粒子分散液を得た。
この粒子分散液100重量部に対して、水とエチルアルコ−ルの混合溶剤(水/エチルアルコ−ル=8/2)を20重量部添加し、ボ−ルミルで1時間混合分散して、黄色のインクジェットプリンタ−用インクを調製した。
そして、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、インクジェットプリンタ−(日立製作所社製;GX−PA)で紙上に印刷し、印刷物を得た。
なお、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、実施例1と同様にして吸着実験を行ったところ、フィルタ−にインクの滲みが確認された。
【0047】
比較例2
ブチルアクリレ−トの乳化重合溶液(固形分30重量%、粒子径3ミクロン、ガラス転移温度20℃以下)100重量部に対して、Direct Brilliant Pink Bを0.8重量部添加し、ボ−ルミルで3時間混合分散して赤色のインクジェットプリンタ−用インクを調製した。
そして、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、インクジェットプリンタ−(日立製作所社製;GX−PA)で紙上に印刷し、印刷物を得た。
なお、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、実施例1と同様にして吸着実験を行ったところ、フィルタ−にインクの滲みが確認された。
【0048】
比較例3
1重量部のKayaset Cyan J−301を、グリセリン100重量部に添加して青色の溶液を得た。この溶液に水とエチルアルコ−ルの混合溶剤(水/エチルアルコ−ル=8/2)を10重量部添加し、青色のインクジェットプリンタ−用インクを調製した。
そして、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、インクジェットプリンタ−(日立製作所社製;GX−PA)で紙上に印刷し、印刷物を得た。
なお、このようにして得られたインクジェットプリンタ−用インクを用いて、実施例1と同様にして吸着実験を行ったところ、フィルタ−にインクの滲みが確認された。
【0049】
各実施例および各比較例で得られたインクジェットプリンタ−用インクおよび印刷物について、貯蔵安定性、耐光性、滲み性、再溶解性、転写性および耐水性を下記の方法で試験した。なお、粒子核のガラス転移温度は、Perkin−Elmer社製示差走査熱量計(DSC−7)を用い、粒子核の溶液を80℃で24時間乾燥固化した試料を、−20℃から5℃/minで昇温させて測定したものである。
【0050】
<貯蔵安定性>
各インクジェットプリンタ−用インクを、50℃の恒温槽中に100時間保存して、粒子の沈降を調べた。
【0051】
<耐光性>
各印刷物をフェ−ドメ−タ−で5時間照射し、変色を目視で観察して、変色がほとんどない場合を(◎)、わずかに変色する場合を(○)、変色する場合を(×)として評価した。
【0052】
<滲み性>
各印刷物の印字面の滲みを観察し、滲みが全くない場合を(◎)、滲みがない場合を(○)、滲みがある場合を(×)として評価した。
【0053】
<再溶解性>
各インクジェットプリンタ−用インクをPETフィルム上に滴下し、24時間室温で乾燥固化させて、これにpH11のアルカリ水を滴下し、瞬く間に再分散するものを(◎)、再分散するものを(○)、再分散しないものを(×)として評価した。なお、実施例5のみpH11のアルカリ水に代えてケトンを用いた。
【0054】
<転写性>
各印刷物を20枚重ね、これに5kgの加重をかけ、30℃の恒温槽に600時間保存し、転写しないものを(○)、転写するものを(×)として評価した。
【0055】
<耐水性>
各印刷物を水に1時間浸漬し、滲みの程度を目視で観察して、滲み出しがない場合を(◎)、わずかに滲む場合を(○)、滲む場合を(×)として評価した。下記表1はその結果である。
【0056】
【0057】
【発明の効果】
各実施例および比較例で得られたインクジェットプリンタ−用インクの吸着実験から、粒子核と色素を混合した比較例1および2では、粒子核に色素が吸着しておらず、単にこれらが物理的に混合している場合は、色素単体を使用した比較例3と同様に滲みを改善することができないことがわかる。
また、上記表1から明らかなように、実施例1〜6で得られたインクジェットプリンタ−用インクは、貯蔵安定性および再溶解性がよく、また、実施例1〜6で得られた印刷物は、いずれも比較例1〜3で得られた印刷物に比し、耐光性、滲み性、転写性および耐水性が良好で、この発明によれば、滲みが生ぜず、分散安定性、耐水性、耐光性、転写性および耐熱性に優れ、粒子の沈降がなくて保存安定性に優れた種々の色彩のインクジェットプリンタ−用インクが得られ、また、滲みがなくて、耐水性、耐光性、転写性および耐熱性に優れた印刷物が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のインクジェットプリンタ−用インクのレイノルズ数の解析結果の一例を示す図である。
【図2】この発明のインクジェットプリンタ−用インクのWeber数の解析結果の一例を示す図である。
Claims (8)
- ガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上、100nm未満の粒子核に色素(蛍光染料および700nm以上の赤外波長領域に蛍光を示す有機染料を除く)および/または蛍光増白剤(白色蛍光増白剤を除く)を吸着した粒子を含み、上記粒子核の一部または全部が中空粒子であることを特徴とするインクジェットプリンタ−用インク
- ガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上、100nm未満の粒子核に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子を含み、上記粒子核の一部または全部が無機粒子表面にポリマ−を被覆した粒子であることを特徴とするインクジェットプリンタ−用インク
- 粘度(mPa・s)/ノズル口径(μm)の関係が0.01〜1である請求項1または2に記載のインクジェットプリンタ−用インク
- レイノルズ数が10.5〜2100である請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェットプリンタ−用インク
- Weber数が38.2〜3360である請求項1〜4のいずれかに記載のインクジェットプリンタ−用インク
- 粘度(mPa・s)/表面張力(mN・m-1)の関係が0.03〜1.0である請求項1〜5のいずれかに記載のインクジェットプリンタ−用インク
- ガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上、100nm未満の粒子核に色素(蛍光染料および700nm以上の赤外波長領域に蛍光を示す有機染料を除く)および/または蛍光増白剤(白色蛍光増白剤を除く)を吸着した粒子を含み、上記粒子核の一部または全部が中空粒子であることを特徴とする印刷物
- ガラス転移温度が30℃以上で、粒子径が30nm以上、100nm未満の粒子核に色素および/または蛍光増白剤を吸着した粒子を含み、上記粒子核の一部または全部が無機粒子表面にポリマ−を被覆した粒子であることを特徴とする印刷物
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