JP3644633B2 - 自転車用変速制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、変速制御装置、特に、複数の変速段を有し駆動手段によりシフトアップ及びシフトダウンが可能な自転車用変速装置を変速制御するための自転車用変速制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
複数の変速段を有する変速装置を装着した自転車が知られている。変速装置には外装変速機構と内装変速機構とがある。外装変速機構は、たとえば後輪に装着された複数のスプロケットを有する小ギアと、スプロケットのいずれかにチェーンを掛け替えるディレーラとを有し、内装変速機構は、後輪に内装された内装変速ハブを有している。これらの変速装置は、変速ケーブルを介してハンドル等に取り付けられた変速レバーに接続されている。この種の変速装置が装着された自転車では、変速レバーの手動操作により、走行状態に応じて最適な変速段を選択できる。
【0003】
しかし、変速レバーはハンドルのブレーキレバーの近くに配置されていることが多く、減速時にはブレーキレバーの操作と変速レバーの操作とを同時に行う必要が生じ変速操作を行いにくい。そこで、変速段の切換を自転車の走行状態(たとえば車速やクランク回転数)に応じて自動的に行う変速制御装置が開発されている。従来、自転車の車速は、自転車の車輪に装着された磁石をリードスイッチにより検出し、たとえば磁石をひとつ装着した場合には、1回転当たり1つずつ発生する検出パルスの間隔と車輪の直径とにより求められている。そして、変速制御装置では、自転車の変速段に応じてシフトアップ速度しきい値及びシフトダウン速度しきい値の2つの速度しきい値を設定している。ここで、シフトアップしきい値は、それより一つギア比が大きい変速段のシフトダウンしきい値より少し高い値に設定されている。そして、検出された速度がシフトアップ速度しきい値を超えるとシフトアップし、シフトアップ後にシフトダウン速度しきい値より下がるとシフトダウンする制御が行われている。このような制御を行うことで変速が頻繁に生じるチャタリング現象を防止できる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来の構成では、車速を車輪1回転当たり1回程度と比較的少ない頻度で検出している場合には、シフトアップとシフトダウンとで異なる速度で変速タイミングの制御を行っているのでチャタリングを防止しやすい。しかし、実際の速度との対応を向上させる目的でたとえば磁石を回転方向に複数個車輪に設けたりして車輪1回転当たりの車速の検出頻度を増やすと、無駄な変速が頻繁に行われるおそれがある。具体的には、たとえば路面の細かな凹凸や石などの障害物による一瞬の速度低下でもその車速の低下を検出できるので、ライダーの意に反してシフトダウンし、その後速度が元に戻るとシフトアップすることがある。このような連続的なシフト動作が起こると、その速度を維持するために必要なペダル踏力が頻繁に変化してライダーのペダリングをギクシャクさせて、自転車の走行を不安定にするおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、車速などの走行状態を頻繁に検出してもライダーの意に反したシフトダウンを抑えることができる自転車用変速制御装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
発明1に係る自転車用変速制御装置は、ギア比が異なる複数の変速段を有し検出される走行状態に応じて駆動手段によりシフトアップ及びシフトダウンが可能な自転車用変速装置を変速制御するための装置であって、しきい値設定手段と、第1制御手段とを備えている。しきい値設定手段は、複数の変速段に応じた走行状態の第1シフトダウンしきい値と第1シフトダウンしきい値より走行状態が低い第2シフトダウンしきい値とを設定する手段である。第1制御手段は、走行状態を検出する都度、検出結果が現在の変速段に応じた第1及び第2シフトダウンしきい値を下回ったか否かを判定し、ひとつの検出結果が第1シフトダウンしきい値を下回ったと判定した後、それに続く1又は複数の走行状態の検出結果の全てが第1シフトダウンしきい値を下回っていれば、小さいギア比の変速段に変速し、かつ走行状態が第2シフトダウンしきい値を下回ったと判定すれば、それ以前の検出結果の判定結果にかかわらず小さいギア比の変速段に変速するように駆動手段を制御する手段である。
【0007】
この変速制御装置では、走行状態の連続した検出結果と変速段毎の第1及び第2シフトダウンしきい値とを検出の都度比較して、検出結果が第1及び第2シフトダウンしきい値を下回ったか否かを判定する。そして、ひとつの検出結果が第1シフトダウンしきい値を下回ったと判定した後、それに続く1又は複数の走行状態の検出結果の全てが第1シフトダウンしきい値を下回っていれば、小さなギア比の変速段に変速するように駆動手段を制御する。また、ひとつの検出結果が第2シフトダウンしきい値を下回ったと判定した場合には、それ以前の検出結果の判定結果にかかわらずただちに小さなギア比の変速段に変速するように駆動手段を制御する。ここでは、検出された走行状態が第1シフトダウンしきい値より下がったとき、ただちにシフトダウンするのではなく、それに続く1又は複数の検出結果全てが第1シフトダウンしきい値を下回っていると判定すると小さいギア比の変速段にシフトダウンする。そして、全ての検出結果のうちひとつでも第1シフトダウンしきい値を下回っていないと判断すると、その変速段を維持する。また、ひとつの検出結果が第2シフトダウンしきい値を下回ったと判定した場合、ただちに小さいギア比の変速段にシフトダウンする。したがって、走行状態を頻繁に検出しても軽くなる方向(小さいギア比への変速方向)の変速動作が頻繁に行われにくくなり、ライダーの意に反したシフトダウンを抑えることができる。しかも、ライダーの疲労や急坂の登坂などにより走行状態が急激に落ちて第2シフトダウンしきい値を下回った場合には迅速にシフトダウンされるので、ライダーが疲れにくくなる。
【0008】
発明2に係る自転車用変速制御装置は、発明1に記載の装置において、しきい値設定手段は、複数の変速段に応じた走行状態の第1シフトアップしきい値をさらに設定し、走行状態の連続した複数の検出結果が現在の変速段に応じた第1シフトアップしきい値を超えたか否かを少なくとも一度判定し、走行状態が第1シフトアップしきい値を超えたと判定したとき、大きいギア比の変速段に変速するように駆動手段を制御する第2制御手段をさらに備える。この場合には、重くなる方向のシフトアップは、第1シフトアップしきい値を超えたと判定するとただちに行われるので、ライダーの負担を軽減できる。
【0009】
発明3に係る自転車用変速制御装置は、発明2に記載の装置において、第2制御手段は、走行状態の連続した複数の検出結果が現在の変速段に応じた前記第1シフトアップしきい値を超えたか否かをその都度判定し、ひとつの検出結果が第1シフトアップしきい値を上回ったと判定した後、それに続く1又は複数の走行状態の検出結果の全てが第1シフトアップしきい値を超えていると判定したとき、大きいギア比の変速段に変速するように駆動手段を制御する。ここでは、検出された走行状態が第1シフトアップしきい値を超えたとき、ただちにシフトアップするのではなく、それに続く1又は複数の検出結果のうち少なくともひとつでも第1シフトアップしきい値を超えていないと判定するとシフトアップせずにその変速段を維持する。そして、全ての検出結果が第1シフトアップしきい値を超えているときだけ、大きいギア比の変速段にシフトアップするように駆動手段を制御する。したがって、走行状態を頻繁に検出しても重くなる方向の変速動作が頻繁に行われにくくなりライダーの意に反したシフトアップを抑えることができる。
【0010】
発明4に係る自転車用変速制御装置は、発明3に記載の装置において、しきい値設定手段は、第1シフトアップしきい値より走行状態が高い第2シフトアップしきい値をさらに設定し、第2制御手段は、走行状態の検出結果が第2シフトアップしきい値を超えたか否かをも判定し、走行状態が第2シフトアップしきい値を超えたと判定したとき、それ以前の連続した複数の検出結果の判定結果にかかわらずギア比の大きい変速段に変速するように駆動手段を制御する。この場合には、第1シフトアップしきい値より高い第2シフトアップしきい値をさらに走行状態が超えたときには、複数回の検出結果を待つことなくただちに変速されるので、軽い下り坂などの走行状態が上がったときには迅速にシフトアップがなされる。
【0011】
発明5に係る自転車用変速制御装置は、発明1に記載の装置において、しきい値設定手段は、複数の変速段に応じた走行状態のシフトアップしきい値をさらに設定し、走行状態の検出結果が現在の変速段に応じたシフトアップしきい値を超えた後、第1所定時間経過までに走行状態の検出結果がシフトアップしきい値を超えているか否かを少なくとも一度判定し、走行状態がシフトアップしきい値を超えていると判定したとき、大きいギア比の変速段に変速するように駆動手段を制御する第2制御手段をさらに備える。この場合には、検出された走行状態がシフトアップしきい値を超えたとき、ただちにシフトアップするのではなく、所定時間経過までに検出結果がシフトアップしきい値を超えていないと判定するとシフトアップせずにその変速段を維持する。そして、所定時間経過までの検出結果の全てがシフトアップしきい値を超えていると判定したときだけ、大きいギア比の変速段にシフトアップするように駆動手段を制御する。したがって、走行状態を頻繁に検出しても重くなる方向の変速動作が頻繁に行われにくくなりライダーの意に反したシフトアップを抑えることができる。
【0012】
発明6に係る自転車用変速制御装置は、発明1から5のいずれかに記載の装置において、第1制御手段は、走行状態のひとつの検出結果が第1シフトダウンしきい値を下回ってから自転車のクランクが半回転以上回転する間の1又は複数回の走行状態の検出結果により判定する。この場合には、クランクの回転変動による速度の脈動周期がクランクの半回転となるので、脈動周期以上の間の検出結果で判定することにより脈動の影響を受けることなく変速制御できる。
【0013】
発明7に係る自転車用変速制御装置は、発明1から6のいずれかに記載の装置において、検出される走行状態は自転車の車速である。この場合には、車速を検出して変速制御しているので、車速に応じた変速制御を行える。
【0014】
発明8に係る自転車用変速制御装置は、発明7に記載の装置において、車速は、自転車の車輪に連動して回転する交流発電機からのパルスにより検出される。この場合には、別に車輪の回転を検出するためのセンサや検出子を設けることなく車速の検出が可能になる。しかも、発電機の極数に応じた車速信号が得られるので、車輪の一回転あたり複数の車速信号が得られ、精度のよい変速制御を行える。また、複数の車速信号が得られても無駄な変速制御が行われにくくなる。
【0015】
発明9に係る自転車用変速制御装置は、発明1から6のいずれかに記載の装置において、検出される走行状態は、自転車のクランク数である。この場合には、クランク回転数を一定に保つように変速制御できるので、ライダーは一定幅のクランク回転数で効率よくペダルをこぐことができる。
【0016】
発明10に係る自転車用変速制御装置は、発明1から9のいずれかに記載の装置において、駆動手段は、自転車用変速装置に設けられ、電力により作動する電動部品であり、第1制御手段は、駆動手段を電気的に制御する。この場合には、駆動手段がモータやソレノイドなどの電力により作動する電動部品であるので、電気的に制御できる。
【0017】
発明11に係る自転車用変速制御装置は、発明10に記載の装置において、駆動手段を作動させるための電力は、前記交流発電機から供給される。この場合には、電池などの別の電源が不要になり電源を管理する煩わしさから解放される。
【0018】
発明12に係る自転車用変速制御装置は、発明10に記載の装置において、駆動手段を作動させるための電力は、自転車に搭載される電池から供給される。この場合には、電池により駆動手段を駆動するので、汎用の電池により駆動手段を簡単に作動させることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
〔構成〕
図1において、本発明の一実施形態を採用した自転車は軽快車であり、ダブルループ形のフレーム体2とフロントフォーク3とを有するフレーム1と、ハンドル部4と、駆動部5と、発電ハブ12が装着された前輪6と、3段変速の内装変速ハブ10が装着された後輪7と、前後のブレーキ装置8(前用のみ図示)と、内装変速ハブ10を手元で操作するための変速操作部9とを備えている。
【0020】
フレーム1には、サドル11やハンドル部4を含む各部が取り付けられている。
【0021】
ハンドル部4は、フロントフォーク3の上部に固定された、ハンドルステム14とハンドルステム14に固定されたハンドルバー15とを有している。ハンドルバー15の両端にはブレーキ装置8を構成するブレーキレバー16とグリップ17とが装着されている。右側のブレーキレバー16には変速操作部9が装着されている。
【0022】
変速操作部9は、図2に示すように、右側(前輪用)のブレーキレバー16に一体で形成された操作パネル20と、操作パネル20の下部に左右に並べて配置された2つの操作ボタン21,22と、操作ボタン21,22の上方に配置された操作ダイヤル23と、操作ダイヤル23の左方に配置された液晶表示部24とを有している。操作パネル20の内部には変速操作を制御するための変速制御部25(図3)が収納されている。
【0023】
操作ボタン21,22は、三角形状の押しボタンである。左側の操作ボタン21は低速段から高速段への変速を行うためのボタンであり、右側の操作ボタン22は高速段から低速段への変速を行うためのボタンである。操作ダイヤル23は、2つの変速モードとパーキング(P)モードとを切り換えるためのダイヤルであり、3つの停止位置P,A,Mを有している。ここで変速モードは、自動変速(A)モードと手動変速(M)モードとであり、自動変速モードは、発電ハブ12からの車速信号により内装変速ハブ10を自動変速するモードである。手動変速モードは、操作ボタン21,22の操作により内装変速ハブ10を変速するモードである。パーキングモードは、内装変速ハブ10をロックして後輪7の回転を規制するモードである。液晶表示部24には、現在の走行速度も表示されるとともに、変速時に操作された変速段が表示される。
【0024】
変速制御部25は、CPU,RAM,ROM,I/Oインターフェイスからなるマイクロコンピュータを備えている。変速制御部25には、図3に示すように、発電ハブ12と、内装変速ハブ10の動作位置を検出する、たとえばポテンショメータからなる動作位置センサ26と、操作ダイヤル23と、操作ボタン21,22とが接続されている。また、変速制御部25には、バッテリーからなる電源27と、モータドライバ28と、液晶表示部24と、記憶部30と、他の入出力部とが接続されている。電源27は、乾電池などの一次電池やリチウム水素電池などの二次電池を用いることができ、変速制御部25やモータドライバ28に電力を供給する。
【0025】
発電ハブ12は、たとえば28極の交流発電機であり、車速に応じた交流信号を前輪6の1回転で14回発生する。この発電ハブ12からの交流信号により、変速制御部25は車速Sを検出する。このため、車速Sは、前輪6の1回転で14回検出することができ、磁石とリードスイッチとを用いた車速検出方法より細かく車速を検出できる。したがって、変速制御をよりリアルタイムに実行できる。
【0026】
モータドライバ28には内装変速ハブ10を駆動する変速モータ29が接続されている。記憶部30は、たとえばEEPROM等の書換え可能な不揮発メモリで構成され、そこにはパーキングモードで使用する暗証や速度検出に使用するタイヤ径等の各種のデータが記憶されている。また、図4に示すように、自動変速モード時の速度と各変速段との関係(しきい値)が記憶されている。変速制御部25は、各モードに応じて変速モータ29を制御するとともに、液晶表示部24を表示制御する。
【0027】
図4に自動変速モード時のそれぞれの速度しきい値の一例をそれぞれ示す。ここで、本実施形態では、シフトダウンのためのしきい値は第1シフトダウンしきい値D1と第2シフトダウンしきい値D2の高速及び低速の2つのしきい値を用意している。ここで、第1シフトダウンしきい値D1でシフトダウンする場合には、第1シフトダウンしきい値D1を下回った後、それに続く1又は複数の検出速度の全てが第1シフトダウンしきい値D1を下回った場合に、その時点でシフトダウンする。また、検出された速度が第2シフトダウンしきい値D2を下回った場合は、それ以前の検出速度にかかわらずただちにシフトダウンを行う。
【0028】
また、各変速段のシフトアップ及びシフトダウンのしきい値はクランク回転数を基準に設定している。シフトアップしきい値Uは、クランク回転数が65rpmのときの速度で設定し、第1シフトダウンしきい値D1は、クランク回転数が42.5rpmのときの速度で設定し、第2シフトダウンしきい値D2は、クランク回転数が30rpmのときの速度で設定している。
【0029】
図4において、自動変速モードにおいては、1速のときのシフトアップしきい値U(1)は、たとえば12km/h、2速のときのシフトアップしきい値U(2)は、たとえば16.4km/hである。3速のときの第1シフトダウンしきい値D1(3)は、たとえば14.6km/h、第2シフトダウンしきい値D2(3)は、たとえば10.3km/h、2速のときの第1シフトダウンしきい値D1(2)は、たとえば10.7km/h、第2シフトダウンしきい値D2(2)は、たとえば7.6km/hである。
【0030】
このようにしきい値を設定した場合、第1シフトダウンしきい値D1によるシフトダウンのときの判定に要する時間をクランク18(後述)の半回転の周期より長くするのが望ましい。判定時間を半回転周期より長くすることにより、クランク18の速度変動による脈動を考慮して変速制御を行うことができ、クランク18の半回転の間に生じる脈動の影響を受けにくくなる。そこで、第1シフトダウンしきい値D1の設定に用いたクランク回転数の周期とそれを考慮した判定時間を図5に示す。ここでは、第1シフトダウンしきい値D1の場合、42.5回転を基準に設定し、周期は回転数の逆数であるので、クランク18の半回転の周期は0.71秒である。また、第2シフトダウンしきい値D2の場合は1秒である。
【0031】
ここで、内装変速ハブ10の1速,2速,3速のギア比をそれぞれ0.733,1,1.360とし、クランク18に装着されたフロントスプロケット(図示せず)と、後輪7に装着されたリアスプロケット(図示せず)のそれぞれの歯数を33歯,16歯とすると、クランク回転数と車輪の回転数との増速比は、1速,2速,3速でそれぞれ、1.51,2.06,2.81になる。したがって、発電ハブ12からの車速信号Sが前輪6の1回転当たり14回出力されるので、それがクランク18の半回転を超えるためには、3速のときには20回、2速のときには15回、それぞれ連続した車速Sの検出結果によりシフトダウンするか否かを判断する。このときの最小判定時間が脈動周期を超えればよいことになる。この最小判定時間は、第1シフトダウンしきい値D1近くで走行しているときであるので、3速のとき0.72秒となり、2速のとき、0.74秒となる。
【0032】
駆動部5は、図1に示すように、フレーム体2の下部(ハンガー部)に設けられ、フロントスプロケットが装着されたクランク18と、リアスプロケットが装着された内装変速ハブ10と、両スプロケットに掛け渡されたチェーン19とを有している。内装変速ハブ10は、3つの変速段とロック位置とを有する3段変速ハブであり、変速モータ29により3つの変速位置とロック位置との合計4つの位置に切り換えられる。このロック位置で、内装変速ハブ10の回転が規制される。この内装変速ハブ10のギア比は、前述したようにたとえば、0.733,1,1.360である。
【0033】
〔変速動作〕
変速及びロック操作は、変速操作部9の操作ダイヤル23によるモード選択及び操作ボタン21,22による変速操作により変速モータ29を動作させることにより行われる。
【0034】
図6〜図8は、変速制御部25の制御動作を示すフローチャートである。
電源が投入されると、図6のステップS1で初期設定を行う。ここでは、速度算出用の周長データが、たとえば26インチ径にセットされ、変速段が2速(VP=2)にセットされ、さらに各種のフラグがリセットされる。
【0035】
ステップS2では、操作ダイヤル23がパーキング(P)モードにセットされたか否かを判断する。ステップS3では、操作ダイヤル23が自動変速(A)モードにセットされたか否かを判断する。ステップS4では、操作ダイヤル23が手動変速(M)モードにセットされたか否かを判断する。ステップS5では、タイヤ径入力等の他の処理が選択されたか否かを判断する。
【0036】
操作ダイヤル23がP位置に回されパーキング(P)モードにセットされた場合には、ステップS2からステップS6に移行する。ステップS6では、パーキング(P)処理を実行する。操作ダイヤル23がA位置に回され自動変速モードがセットされた場合には、ステップS3からステップS7に移行する。ステップS7では、図7に示す自動変速(A)処理を実行する。操作ダイヤル23がM位置に回され手動変速モードがセットされた場合には、ステップS4からステップS8に移行する。ステップS8では、図8に示す手動変速(M)処理を実行する。他の処理が選択された場合にはステップS5からステップS9に移行し、選択された処理を実行する。
【0037】
ステップS6のパーキング(P)処理では、内装変速ハブ10のロック状態を解除するための暗証を登録する暗証登録処理やロック状態を解除するための暗証入力及び照合を行う暗証入力処理などの処理を操作ボタン21,22の操作に応じて実行する。
【0038】
ステップS7の自動変速(A)処理では、車速Sに応じた変速段に動作位置VPをセットする。ここでは、図7のステップS11で、判定フラグDFがセット(DF=1)されているか否かを判断する。この判定フラグDFは、後述するステップS25でセットされるフラグであり、第1シフトダウンしきい値D1によりシフトダウンする際にクランク18の半回転分の検出結果の経過を判定するためにセットされるフラグである。判定フラグDFがすでにセットされている場合には、ステップS12に移行して車速検出回数を示すカウント変数Nを1つだけ増加する。このカウント変数Nによりクランク半回転以上の時間が経過したか否かを判断する。判定フラグDFがセットされていない場合にはステップS12をスキップする。ステップS13では、動作位置センサ26の動作位置VPを取り込む。ステップS14では、発電ハブ12からの速度信号により自転車の現在の車速Sを取り込む。ステップS15では、取り込んだ現在の車速Sが図4に示したような動作位置センサ26の動作位置VPに応じたシフトアップしきい値U(VP)を超えているか否かを判断する。ステップS16では、取り込んだ現在の車速Sが動作位置センサ26の動作位置VPに応じた第1シフトダウンしきい値D1(VP)を下回っているか否かを判断する。検出された車速Sが第1シフトダウンしきい値D1(VP)より高くかつシフトアップしきい値U(VP)より低い場合には、ステップS16からステップS17に移行し、第1シフトダウンしきい値D1(VP)によるシフトダウンの判定をキャンセルするために判定フラグDFをリセットしてメインルーチンに戻る。
【0039】
現在の車速Sが図4に示した現在の変速段に応じたシフトアップしきい値U(VP)を超えた場合にはステップS15からステップS18に移行する。たとえば、変速段が2速のとき(VP=2)、車速Sが16.4km/hより速くなるとこの判断が「Yes」となる。ステップS18では、第1シフトダウンしきい値D1(VP)によるシフトダウンの判定をキャンセルするために判定フラグDFをリセットする。ステップS19では、変速段が3速か否かを判断する。3速のときはそれ以上シフトアップできないので、やはり何も処理せずにステップS16に移行する。ただし、3速のときのシフトアップしきい値は、255と通常では考えられない速度であるので通常はこのルーチンは通らない。3速未満のときには、ステップS20に移行し、変速段を1段シフトアップするために動作位置VPを1つ上げてステップS16に移行する。これにより、変速モータ29が大きいギア比になるように動作して内装変速ハブ10が1段シフトアップする。
【0040】
現在の車速Sが、図4に示した現在の変速段に応じた第1シフトダウンしきい値D1(VP)を下回っている場合にはステップS16からステップS21に移行する。たとえば、変速段が2速のとき(VP=2)、車速Sが10.7km/hを下回るとこの判断が「Yes」となる。ステップS21では、現在の車速Sが、図4に示した現在の変速段に応じた第2シフトダウンしきい値D2(VP)を下回っているか否かを判断する。この実施形態では、検出された車速Sが第2シフトダウンしきい値D2(VP)を下回っている場合には、それ以前の検出結果にかかわらず、ただちにシフトダウンする。このため、この判断がYesの場合には、ステップS22に移行し、変速段が1速か否かを判断する。1速のときは何も処理せずにメインルーチンに移行する。2速以上のときには、ステップS23に移行し、変速段を1段シフトダウンするために動作位置VPを1つ下げてメインルーチンに移行する。これにより、変速モータ29が小さいギア比になるように動作して内装変速ハブ10が1段シフトダウンする。
【0041】
このように、第1シフトダウンしきい値D1(VP)より低速側に設定された第2シフトダウンしきい値D2(VP)からさらに車速が下がったときには、ただちに変速されるので、ライダーの疲労や上り坂を登るなどの原因で車速が下がったときには迅速にシフトダウンがなされ、ライダーの負担を軽減できる。
【0042】
検出された車速Sが第2シフトダウンしきい値D2(VP)より速い場合には、ステップS21からステップS24に移行する。ステップS24では、判定フラグDFがすでにセットされているか否かを判断する。これにより、検出された車速Sが第1シフトダウンしきい値D1(VP)より遅くかつ第2シフトダウンしきい値D2(VP)より速いことが初めて検出されたか否かを判断している。判定フラグDFがまだセットされていない場合には、ステップS25に移行して判定フラグDFをセットする。ステップS26では、カウント変数Nに0をセットする。ステップS27では、各変速段における判定回数N(VP)を最大カウント数Nmにセットし、メインルーチンに戻る。この判定回数N(VP)は、最初にすでにステップS16で1回判定しているので、図5に示す判定回数から1を引いた回数であり、たとえば3速のときには19であり、2速のときは14である。
【0043】
判定フラグDFがセットされている場合には、つまり、すでに検出された車速Sが第1シフトダウンしきい値D1(VP)より遅くかつ第2シフトダウンしきい値D2(VP)より速いことが検出されている場合には、ステップS24からステップS28に移行する。ステップS28では、カウント数Nが最大カウント数Nmに達したか、つまり、検出された車速Sが第1シフトダウンしきい値D1(VP)より遅くかつ第2シフトダウンしきい値D2(VP)より速いことを検出してから、それに続く検出結果の車速SがNm回続いて第1シフトダウンしきい値D1(VP)より遅くかつ第2シフトダウンしきい値D2(VP)より速いか否かを判断している。まだ、カウント数Nが最大カウント数Nmに達していない場合には、メインルーチンに戻る。カウント数Nが最大カウント数Nmに達した場合には、ステップS28からステップS29に移行し、判定フラグDFをリセットする。ステップS30では、最大カウント数Nmを0にセットし、ステップS22に移行する。そして、ステップS23で変速段を1段シフトダウンするために動作位置VPを1つ下げてメインルーチンに移行する。これにより、変速モータ29が小さいギア比になるように動作して内装変速ハブ10が1段シフトダウンする。
【0044】
ここでは、検出された車速Sが第1シフトダウンしきい値D1(VP)より下がったとき、ただちにシフトダウンするのではなく、それに続く1又は複数の車速Sの全てが第1シフトダウンしきい値D1(VP)を下回り、かつ第2シフトダウンしきい値D2(VP)を上回っていると判定したときだけシフトダウンする。そして、全ての検出結果のうちひとつでも第1シフトダウンしきい値D1(VP)を下回っていない判定するとシフトダウンせずに変速段を維持する。したがって、走行状態を頻繁に検出しても軽くなる方向(小さいギア比への変速方向)の変速動作が頻繁に行われにくくなり、ライダーの意に反したシフトダウンを抑えることができる。
【0045】
ステップS10の手動変速処理では、操作ボタン21,22の操作により1段ずつ変速する。図8のステップS41で、動作位置センサ26の動作位置VPを取り込む。ステップS42では、操作ボタン21が操作されたか否かを判断する。ステップS43では、操作ボタン22が操作されたか否かを判断する。操作ボタン21が操作されるとステップS42からステップS44に移行する。ステップS44では、現在の動作位置VPにより3速か否かを判断する。現在の変速段が3速ではない場合にはステップS45に移行し、動作位置VPを1段シフトアップする。現在の変速段が3速の場合にはこの処理をスキップする。
【0046】
操作ボタン22が操作されるとステップS43からステップS46に移行する。ステップS46では、現在の動作位置VPにより1速か否かを判断する。現在の変速段が1速ではない場合にはステップS47に移行し、動作位置VPを1つだけ低速段側に移行して1段シフトダウンする。現在の変速段が1速の場合にはこの処理をスキップする。
【0047】
図9に、自動変速処理において従来例と本実施例とにおける変速動作を比較したグラフを示す。図9では縦軸に速度を、横軸に時間をそれぞれとっている。本発明に係る自動変速処理では、図9(a)に示すように、たとえば変速段が3速のときに第1シフトダウンしきい値D1(3)(たとえば14.6km/h)を下回ると、それから判定回数N(3)回(たとえば20回)の連続した検出結果が第1シフトダウンしきい値D(3)を下回っているか否かをステップS16,S24,S28で判断する。図9(a)の場合には、ハッチングで示す領域で車速Sが第1シフトダウンしきい値D1(3)を下回っていないので、図6のステップS16での判断が「No」になり、この場合には3速から2速へのシフトダウンがキャンセルされ、シフトダウンは行われない。
【0048】
そして、車速Sがシフトアップしきい値U(2)を超えた後、再度第1シフトダウンしきい値D1(3)を下回ると、それから判定回数N(3)回の連続した検出結果が第1シフトダウンしきい値D(3)を下回っているか否かを再度、ステップS16,S24,S28で判断する。今度は、N(3)回の全ての検出結果が第1シフトダウンしきい値D(3)を下回っているので、N(3)回の検出が終わると、3速から2速へのシフトダウンが実行される。
【0049】
一方、従来の場合には、図9(b)に示すように、第1シフトアップダウン値D1(3)を下回ると、3速から2速へシフトダウンし、2速のシフトアップしきい値U(2)(たとえば16.4km/h)になると再度3速にシフトアップされる。そして、再び3速の第1シフトダウンしきい値D1(3)を下回ると2速にシフトダウンされるというライダーの意に反した頻繁なシフトアップがなされる。
【0050】
このように、本発明による変速制御では、シフトダウン時に変速段毎の判定回数N(VP)の経過中に第1シフトダウンしきい値D1(VP)を下回っているか否かを判断してシフトダウンするか否かを決めているので、頻繁に車速信号を取り込んでもライダーの意に反したシフトタウンを防止できる。このため、スムーズな変速動作を実現でき、変速動作の違和感が少なくなる。
【0051】
また、第1シフトダウンしきい値D1(VP)を超えても直ぐにはシフトダウンしないので、減速の度合いが大きくなるほど実際にシフトダウンする速度が遅くなり、シフトダウンしきい値が減速の度合いに応じて変化するようになる。
【0052】
さらに、第1シフトダウンしきい値D1(VP)より低速側の第2シフトダウンしきい値D2(VP)をさらに車速が下回ったときには、複数回の検出結果を待つことなくただちに変速されるので、ライダーの疲労や上り坂を登るなどの原因で車速が下がったときには迅速にシフトダウンがなされる。このため、ライダーへの負担をさらに少なくできる。
【0053】
〔他の実施形態〕
(a) 前記実施形態では変速装置として3段変速の内装変速ハブを例に説明したが、変速段の数や変速装置の形態は前記実施形態に限定されない。たとえば、変速装置としては複数のスプロケットとディレーラとからなる外装変速機構の制御にも本発明を適用できる。
【0054】
(b) 前記実施形態ではモータで駆動される変速装置を例に説明したが、ソレノイドや電気・油圧・空圧シリンダ等の他のアクチュエータで駆動される変速装置の制御にも本発明を適用できる。
【0055】
(c) 前記実施形態では、走行状態として車速を用いたが、クランクの回転数を用いてもよい。この場合、図10に示すように、自転車のギアクランク18に磁石等の検出子113を装着し、自転車のフレーム体2に検出子113の回転を検出するたとえばリードスイッチからなる回転検出器112を装着してクランク回転数を検出すればよい。このとき、検出子113及び/又は回転検出器を多数設けてもよい。また、図11に示すように、変速段に応じてクランク回転数の上限及び下限をしきい値として設定すればよい。図11では各変速段で同じ値を設定しているがそれぞれ異ならせてもよい。そして、図7に示す動作と同様に自動変速モードで、第1シフトダウンしきい値D1(VP)(ステップS16)を下回りかつ第2シフトダウンしきい値D2(VP)(ステップS21)を下回わっていないクランク回転数になるとそれに連続するクランク回転数の検出結果が判定回数の間に全て第1シフトダウンしきい値D1(VP)を下回っているか否かを判断し、全ての検出結果が下回っている場合にはシフトダウンし、ひとつでも下回っていない場合にはシフトダウンをキャンセルするように制御すればよい。
【0056】
(d) 前記実施形態では、シフトアップしきい値を超えるとただちにシフトアップしたが、シフトダウンと同様に所定回数の判定を待ってシフトアップしてもよい。この場合、第1及び第2シフトアップしきい値U1(VP),U2(VP)を用いてもよいし、第1シフトアップしきい値U1(VP)だけを用いてもよい。
【0057】
図12にこの場合の自動変速モード時のそれぞれの速度しきい値の一例をそれぞれ示す。ここでも図4と同様なシフトダウンのためのしきい値は第1シフトダウンしきい値D1と第2シフトダウンしきい値D2の高速及び低速の2つのしきい値を用意するとともに、あらたに、第1シフトアップしきい値U1と第2シフトアップしきい値U2とを用意している。この例では、第1シフトアップしきい値U1は、1速,2速でそれぞれ11.1km/h,15.1km/hであり、第2シフトアップしきい値U2は、1速,2速でそれぞれ13.9km/h,18.9km/hであり、第1シフトアップしきい値U1よりそれぞれ高速側に設定されている。ここで、第1シフトアップしきい値U1でシフトアップする場合には、第1シフトアップしきい値U1を超えた後、それに連続する検出速度が全て第1シフトアップしきい値U1を超えた場合に、その時点でシフトアップする。また、検出された速度が第2シフトアップしきい値U2を超えた場合はただちにシフトアップを行う。
【0058】
また、各変速段のシフトアップ及びシフトダウンのしきい値はクランク回転数を基準に設定している。第1及び第2シフトアップしきい値U1,U2は、クランク回転数がそれぞれ60rpm,75rpmのときの速度で設定し、第1及び第2シフトダウンしきい値D1,D2は、クランク回転数がそれぞれ42.5rpm,30rpmのときの速度で設定している。
【0059】
図12において、自動変速モードにおいては、1速のときの第1シフトアップしきい値U1(1)は、たとえば11.1km/h、2速のときの第1シフトアップしきい値U1(2)は、たとえば15.1km/hである。また、第2シフトアップしきい値U2は1速,2速の場合それぞれ13.9km/h,18.9km/hあり、シフトダウンしきい値は図4と同様である。
【0060】
このようにしきい値を設定した場合、第1シフトアップしきい値U1によるシフトアップのときの判定に要する時間をクランク18の半回転の周期より長くするのが望ましい。判定時間を半回転周期より長くすることにより、クランク18の速度変動による脈動を考慮して変速制御を行うことができ、クランク18の半回転の間に生じる脈動の影響を受けにくくなる。そこで、第1シフトアップしきい値U1の設定に用いたクランク回転数の周期とそれを考慮した判定時間を図13に示す。ここでは、第1シフトアップしきい値U1の場合、60回転を基準に設定し、周期は回転数の逆数であるので、クランク18の半回転の周期は0.50秒である。また、第2シフトダウンしきい値D2の場合は0.40秒である。
【0061】
ここで、内装変速ハブ10のギア比及びフロント及びリアスプロケットの歯数が同じであるとすると、前述したようにクランク回転数と車輪の回転数との増速比は、1速,2速,3速でそれぞれ、1.51,2.06,2.81になる。したがって、発電ハブ12からの車速信号Sが前輪6の1回転当たり14回出力されるので、それがクランク18の半回転を超えるためには、1速のときには11回、2速のときには15回、それぞれ連続した車速Sの検出結果によりシフトアップするか否かを判断する。このときの最小判定時間が脈動周期を超えればよいことになる。たとえば、第1シフトアップしきい値U1を平均速度とした場合の判定時間は、1速のとき0.52秒となり、2速のときも、0.52秒となる。
【0062】
このように設定された第1及び第2シフトアップしきい値U1(VP),U2(VP)を用いた自動変速処理の一例を図14に示す。図14において、ステップS11からステップS30までは、図7に示す実施形態とほぼ同様なため説明を省略する。なお、ステップS11で判定フラグDFがセットされていない場合には、ステップS32に移行する。ステップS32では、シフトアップのための判定フラグUFがすでにセットされているか否かを判断する。この判定フラグUFは、シフトダウンのための判定フラグDFと同様なフラグであり、後述するステップS41でセットされるフラグである。この判定フラグUFは、第1シフトアップしきい値U1によりシフトアップする際にクランク18の半回転分の経過を判定するためにセットされるフラグである。判定フラグUFがすでにセットされている場合には、ステップS33に移行し、シフトアップのための車速検出回数を示すカウント変数Mを1つだけ増加しステップS13に移行する。このカウント変数Mによりクランク半回転以上の時間が経過したか否かを判断する。判定フラグUFがセットされていない場合にはステップS33をスキップしてステップS13に移行する。
【0063】
また、ステップS17では、判定フラグDFに加えて判定フラグUFもリセットする。さらに、ステップS16で検出された車速Sが第1シフトダウンしきい値D1(VP)を下回ったと判断するとステップS31に移行し、第1シフトアップしきい値U1(VP)によるシフトアップの判定をキャンセルするために判定フラグUFをリセットする。
【0064】
現在の車速Sが図12に示した現在の変速段に応じた第1シフトアップしきい値U1(VP)を超えた場合にはステップS15からステップS35に移行する。たとえば、変速段が2速のとき(VP=2)、車速Sが15.1km/hより速くなるとこの判断が「Yes」となる。ステップS35では、第1シフトダウンしきい値D1(VP)によるシフトダウンの判定をキャンセルするために判定フラグDFをリセットする。ステップS36では、現在の車速Sが、図12に示した現在の変速段に応じた第2シフトアップしきい値U2(VP)を超えているか否かを判断する。この実施形態では、検出された車速Sが第2シフトアップしきい値U2(VP)を超えている場合には、それ以前の検出結果にかかわらず、ただちにシフトアップする。このため、この判断がYesの場合には、ステップS37に移行し、変速段が3速か否かを判断する。3速のときは何も処理せずにメインルーチンに移行する。2速以下のときには、ステップS38に移行し、変速段を1段シフトアップするために動作位置VPを1つ上げてメインルーチンに移行する。これにより、変速モータ29が大きいギア比になるように動作して内装変速ハブ10が1段シフトアップする。
【0065】
このように、第1シフトアップしきい値U1(VP)より高速側に設定された第2シフトアップしきい値U2(VP)からさらに車速が上がったときには、ただちに変速されるので、車速が急激に上がったときには迅速にシフトアップがなされ、ライダーの負担を軽減できる。
【0066】
検出された車速Sが第2シフトアップしきい値U2(VP)より遅い場合には、ステップS36からステップS40に移行する。ステップS40では、判定フラグUFがすでにセットされているか否かを判断する。これにより、検出された車速Sが第1シフトアップしきい値U1(VP)より速くかつ第2シフトアップしきい値U2(VP)より遅いことが初めて検出されたか否かを判断している。判定フラグUFがまだセットされていない場合には、ステップS41に移行して判定フラグUFをセットする。ステップS42では、カウント変数Mに0をセットする。ステップS43では、各変速段におけるシフトアップのための判定回数M(VP)を最大カウント数Mmにセットし、ステップS16に移行する。この判定回数N(VP)も前記実施形態と同様に、図13に示す判定回数から1を引いた回数であり、たとえば2速のときには14であり、1速のときは10である。
【0067】
判定フラグUFがセットされている場合には、つまり、すでに検出された車速Sが第1シフトアップしきい値U1(VP)より速くかつ第2シフトアップしきい値U2(VP)より遅いことが検出されている場合には、ステップS40からステップS44に移行する。ステップS44では、カウント数Mが最大カウント数Mmに達したか、つまり、検出された車速Sが第1シフトアップしきい値U1(VP)より速くかつ第2シフトアップしきい値U2(VP)より遅いことを検出してから、それに続く検出結果の車速SがMm回続いて第1シフトアップしきい値D1(VP)より速くかつ第2シフトダウンしきい値D2(VP)より遅いか否かを判断している。まだ、カウント数Mが最大カウント数Mmに達していない場合には、ステップS16に移行する。カウント数Mが最大カウント数Mmに達した場合には、ステップS44からステップS45に移行し、判定フラグUFをリセットする。ステップS46では、最大カウント数Mmを0にセットし、ステップS37に移行する。現在の変速段が3速ではない場合にはステップS38で変速段を1段シフトアップするために動作位置VPを1つ上げてステップS16に移行する。これにより、変速モータ29が大きいギア比になるように動作して内装変速ハブ10が1段シフトアップする。
【0068】
ここでは、検出された車速Sが第1シフトアップしきい値U1(VP)を超えたとき、ただちにシフトアップするのではなく、それに続く1又は複数の車速Sの全てが第1シフトアップしきい値U1(VP)を超え、かつ第2シフトアップしきい値U2(VP)を下回っていると判定したときだけシフトアップする。そして、全ての検出結果のうちひとつでも第1シフトアップしきい値U1(VP)を超えていない判定するとシフトアップせずに変速段を維持する。したがって、走行状態を頻繁に検出しても重くなる方向(大きいギア比への変速方向)の変速動作が頻繁に行われにくくなり、ライダーの意に反したシフトアップを抑えることができる。
【0069】
(e) シフトアップのしきい値をひとつだけ用い、検出された車速Sがシフトアップしきい値Uを超えたとき、ただちにシフトアップするのではなく、所定時間経過の間に一度でもシフトアップしきい値を超えていない場合にシフトアップせずに所定時間の間で全ての検出結果がシフトアップしきい値を超えているときだけ、ギア比の大きい変速段にシフトアップするようにしてもよい。この場合の制御動作を図15に示す。
【0070】
図15において、ステップS11〜S17の動作及びステップS21〜S30までの動作は図7と同様なため説明を省略する。
【0071】
現在の車速Sが図4に示した現在の変速段に応じたシフトアップしきい値U(VP)を超えた場合にはステップS15からステップS51に移行する。たとえば、変速段が2速のとき(VP=2)、車速Sが16.4km/hより速くなるとこの判断が「Yes」となる。ステップS51では、第1シフトダウンしきい値D1(VP)によるシフトダウンの判定をキャンセルするために判定フラグDFをリセットする。ステップS52では、ステップS15での判断結果から所定時間T1経過したか否かを判断する。所定時間T1経過していない場合にはステップS53に移行し、車速Sを再度読み込む。ステップS54では、再度取り込んだ現在の車速Sが現在の変速段のシフトアップしきい値U(VP)を超えているか否かを判断する。シフトアップしきい値U(VP)を車速Sが超えていない場合には、何も処理せずにステップS16に移行する。車速Sがシフトアップしきい値U(VP)を超えている場合には、ステップS52に戻り、ステップS15での判断結果から所定時間T1経過しているか否かを再度判断する。
【0072】
所定時間T1経過したと判断すると、ステップS52からステップS55に移行する。ステップS55では、変速段が3速か否かを判断する。3速のときはそれ以上シフトアップできないので、やはり何も処理せずにステップS16に移行する。ただし、3速のときのシフトアップしきい値は、255と通常では考えられない速度であるので通常はこのルーチンは通らない。3速未満のときには、ステップS56に移行し、変速段を大きいギア比の方向に1段シフトアップするために動作位置VPを1つ上げてステップS16に移行する。これにより、変速モータ29が動作して内装変速ハブ10が1段シフトアップする。
【0073】
このように、シフトアップ時に所定時間T1の経過中にシフトアップしきい値U(VP)を超えているか否かを判断してシフトアップするか否かを決めているので、頻繁に車速信号を取り込んでもライダーの意に反したシフトアップを防止できる。このため、スムーズな変速動作を実現でき、変速動作の違和感が少なくなる。
【0074】
(f) 前記実施形態では、電源27から電力を変速モータ29や変速制御部25の電源として用いたが、図16に示すように、発電ハブ12から供給された電力を電源として用いてもよい。
【0075】
(g) 前記各実施形態における、実施手順を示すフローチャートやしきい値などはあくまでも一例であり、本発明の実施のための手段として別のアルゴリズムや別のしきい値を用いてもよい。
【0076】
【発明の効果】
本発明によれば、検出された走行状態が第1シフトダウンしきい値より下がったとき、ただちにシフトダウンするのではなく、それに続く1又は複数の検出結果全てが第1シフトダウンしきい値を下回っていると判定すると小さいギア比の変速段にシフトダウンする。そして、全ての検出結果のうちひとつでも第1シフトダウンしきい値を下回っていないと判断すると、その変速段を維持する。また、ひとつの検出結果が第2シフトダウンしきい値を下回ったと判定した場合、ただちに小さいギア比の変速段にシフトダウンする。したがって、走行状態を頻繁に検出しても軽くなる方向(小さいギア比への変速方向)の変速動作が頻繁に行われにくくなり、ライダーの意に反したシフトダウンを抑えることができる。しかも、ライダーの疲労や急坂の登坂などにより走行状態が急激に落ちて第2シフトダウンしきい値を下回った場合には迅速にシフトダウンされるので、ライダーが疲れにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態が採用された自転車の側面図。
【図2】 そのハンドル部分の斜視図。
【図3】 制御系の構成の一例を示すブロック図。
【図4】 しきい値の一例を示す図。
【図5】 しきい値と判定時間の関係の一例を示す図。
【図6】 変速制御処理のメインルーチンのフローチャートの一例。
【図7】 自動変速処理のフローチャートの一例。
【図8】 手動変速処理のフローチャートの一例。
【図9】 変速動作時の車速と変速段の関係を示すグラフ。
【図10】 他の実施形態の図1に相当する図。
【図11】 他の実施形態の図4に相当する図。
【図12】 さらに他の実施形態の図4に相当する図。
【図13】 その図5に相当する図。
【図14】 その図7に相当するフローチャート。
【図15】 さらに別の実施形態の図7に相当するフローチャート。
【図16】 さらに他の実施形態の図3に相当する図。
【符号の説明】
10 内装変速ハブ
12 発電ハブ
25 変速制御部
26 動作位置センサ
29 変速モータ
Claims (12)
- ギア比が異なる複数の変速段を有し検出される走行状態に応じて駆動手段によりシフトアップ及びシフトダウンが可能な自転車用変速装置を変速制御するための自転車用変速制御装置であって、
前記複数の変速段に応じた前記走行状態の第1シフトダウンしきい値と前記第1シフトダウンしきい値より走行状態が低い第2シフトダウンしきい値とを設定するしきい値設定手段と、
前記走行状態を検出する都度、検出結果が現在の変速段に応じた前記第1及び第2シフトダウンしきい値を下回ったか否かを判定し、ひとつの検出結果が前記第1シフトダウンしきい値を下回ったと判定した後、それに続く1又は複数の走行状態の検出結果の全てが前記第1シフトダウンしきい値を下回っていれば、小さいギア比の変速段に変速し、かつ前記走行状態が前記第2シフトダウンしきい値を下回ったと判定すれば、それ以前の検出結果の判定結果にかかわらず小さいギア比の変速段に変速するように前記駆動手段を制御する第1制御手段と、
を備えた自転車用変速制御装置。 - 前記しきい値設定手段は、前記複数の変速段に応じた前記走行状態の第1シフトアップしきい値をさらに設定し、
前記走行状態の連続した複数の検出結果が現在の変速段に応じた前記第1シフトアップしきい値を超えたか否かを少なくとも一度判定し、前記走行状態が前記第1シフトアップしきい値を超えたと判定したとき、大きいギア比の変速段に変速するように前記駆動手段を制御する第2制御手段をさらに備える、請求項1に記載の自転車用変速制御装置。 - 前記第2制御手段は、前記走行状態を検出する都度、検出結果が現在の変速段に応じた前記第1シフトアップしきい値を超えたか否かを判定し、ひとつの検出結果が前記第1シフトアップしきい値を超えたと判定した後、それに続く1又は複数の走行状態の検出結果の全てが前記第1シフトアップしきい値を超えていれば、大きいギア比の変速段に変速するように前記駆動手段を制御する、請求項2に記載の自転車用変速制御装置。
- 前記しきい値設定手段は、前記第1シフトアップしきい値より走行状態が高い第2シフトアップしきい値をさらに設定し、
前記第2制御手段は、前記走行状態の検出結果が前記第2シフトアップしきい値を超えたか否かをも判定し、前記走行状態が前記第2シフトアップしきい値を超えたと判定したとき、それ以前の検出結果の判定結果にかかわらず大きいギア比の変速段に変速するように前記駆動手段を制御する、請求項3に記載の自転車用変速制御装置。 - 前記しきい値設定手段は、前記複数の変速段に応じた前記走行状態のシフトアップしきい値をさらに設定し、
前記走行状態の検出結果が現在の変速段に応じた前記シフトアップしきい値を超えた後、第1所定時間経過までに走行状態の検出結果が前記シフトアップしきい値を超えているか否かを少なくとも一度判定し、前記走行状態が前記シフトアップしきい値を超えていると判定したとき、大きいギア比の変速段に変速するように前記駆動手段を制御する第2制御手段をさらに備える、請求項1に記載の自転車用変速制御装置。 - 前記第1制御手段は、前記走行状態のひとつの検出結果が前記第1シフトダウンしきい値を下回ってから前記自転車のクランクが半回転以上回転する間の1又は複数回の前記走行状態の検出結果全てが前記第1シフトダウンしきい値を下回っているか否かを判定する、請求項1から5のいずれかに記載の自転車用変速制御装置。
- 検出される前記走行状態は、前記自転車の車速である、請求項1から6のいずれかに記載の自転車用変速制御装置。
- 前記車速は、前記自転車の車輪に連動して回転する交流発電機からのパルスにより検出される、請求項7に記載の自転車用変速制御装置。
- 検出される前記走行状態は、前記自転車のクランクの回転数である、請求項1から6のいずれかに記載の自転車用変速制御装置。
- 前記駆動手段は、前記自転車用変速装置に設けられ、電力により作動する電動部品であり、
前記第1制御手段は、前記駆動手段を電気的に制御する、請求項1から9のいずれかに記載の自転車用変速制御装置。 - 前記駆動手段を作動させるための電力は、前記交流発電機から供給される、請求項10に記載の自転車用変速制御装置。
- 前記駆動手段を作動させるための電力は、前記自転車に搭載される電池から供給される、請求項10に記載の自転車用変速制御装置。
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