JP3643703B2 - 摩擦抵抗低減型船舶 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、航走中に船体に作用する摩擦抵抗の低減をはかった船舶に関する。
【従来の技術】
一般に、船舶が航走すると、その船体表面に沿って乱流境界層が発達し、船体表面に摩擦抵抗が作用する。この摩擦抵抗は、通常の船舶の場合、船体に作用する全抵抗の多くの部分を占めるため、船舶において摩擦抵抗の低減は重要な課題になっている。
【0002】
そして、従来から、船体の没水部表面を微細な気泡または気液混合水で覆うことにより、航走時に船体が水から受ける抵抗力を低減しようとする装置も開発されている。
【0003】
図9(a)〜(d)は従来の装置の概念を示しており、図9(a)に示すものでは船体外板9に直角に形成された小孔14から気泡18を放出して船体に添う流れ19に混入させるようになっているのに対し、図9(b)に示すものでは気泡放出用小孔14が船体外板9に対し斜め後方へ傾斜して形成されている。
【0004】
また、図9(c)に示すものでは船体外板9の小孔に嵌め込まれた多孔質部材8から船体外板9と直角をなす吹出し方向18に微細な気泡が放出されるのに対し、図9(d)に示すものでは気泡放出用多孔質部材8が船体外板9に対し斜め後方へ傾斜して設けられている。
【0005】
しかしながら、上述のような従来の船舶における摩擦抵抗軽減手段では、図10に示すように吹き出された後の気泡群21が船体外板9から遠ざかるように拡散して、境界層の厚さ16よりも外方へ流出してしまい、摩擦抵抗低減に有効な船体外板近傍の領域に気泡群を集中させることは難しい。
【0006】
また上述のような従来の手段では、摩擦抵抗低減に有効でない領域まで気泡が供給されるために、多くのエネルギが必要となり、効果的に摩擦抵抗を低減できるような省エネルギ装置は実用化されていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述のような事情に鑑み、水面下で気泡群を船体外板近傍に集中させることにより、必要な気体量を低減させ、微細な気泡を供給するためのエネルギを少なくして、省エネルギ効果の高い摩擦抵抗低減手段をもった船舶を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前述の課題を解決するため、本発明の摩擦抵抗低減型船舶は、水面下の船体外板に設けられた摩擦抵抗低減用気泡吹出口と、同気泡吹出口に接続された船内の圧縮気体源とをそなえ、上記気泡吹出口から吹出された気泡を船体外面に添わせるための気泡拡散防止用板部材が、同気泡吹出口の近傍で船体外面に対し隙間をあけるように配設されて、船体外面に支柱を介して取り付けられ、同板部材の船体外面に対する隙間が巡航時に水面下で船体外面上に発達する流体の境界層厚さ以下に設定されるとともに、同板部材の前端位置が上記気泡吹出口の近傍に設定され、且つ、同板部材の流れ方向における長さが上記境界層厚さ以下に設定されていることを特徴としている。
【0009】
また、本発明の摩擦抵抗低減型船舶は、上記の摩擦抵抗低減用気泡吹出口と気泡拡散防止用板部材とが、船体の前部および中間部にそれぞれ設けられたことを特徴としている。
【0010】
上述の本発明の摩擦抵抗低減型船舶では、その航走中に、気泡吹出口から船外に吹き出された気泡群は、水面下で船体外面に添う境界層の速度分布において、平均流速の遅い船体外面近傍位置に隙間をあけて設置された気泡拡散防止用板部材により、吹出直後においては船体外面から離れるのを防止される。
【0011】
また、吹出口から下流に流れていった後は、上記板部材の後流の影響により、同後流を境界として、同後流と船体外面との隙間の流体領域と、その外側の流体領域との間の運動量交換が少なくなるため、気泡群が拡散しにくくなり、船体外面近傍の気泡の密度を大きく保つことができる。
【0012】
さらに、上記気泡拡散防止用板部材は、境界層の速度分布領域において、平均流速の遅い位置に設置されているため、同板部材自体の抵抗は比較的少なくてすむようになる。
【0013】
そして、上記の気泡吹出口および気泡拡散防止用板部材が、船体の前部および中間部にそれぞれ設けられていると、船舶全体としての水流摩擦抵抗の低減効果が一層高められるようになる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面により本発明の実施形態について説明すると、図1は本発明の第1実施形態としての摩擦抵抗低減型船舶を示す側面図、図2は図1の船舶の底面図、図3は図1のA−A矢視拡大断面図であり、図4は図1〜3の船舶の要部の作用を示す説明図、図5(a),(b)は図4に示す要部における気泡吹出し方向の各例を示す断面図、図6(a)〜(d)は図4に示す要部における気泡拡散防止用板部材の断面形状の各例を示す断面図である。
【0015】
本発明の第1実施形態では、図1〜3に示すように、船尾にプロペラ2および舵3を有する船体1の前部において、船側4および船底5の船体外板9に、水面100よりも下方で船内101側から船外へ微細気泡を吹き出す摩擦抵抗低減用気泡吹出口13に、多孔質部材8a,8bが装着され、同多孔質部材8a,8bを船内側から覆う気体溜10a, 10bに、エア・コンプレッサのごとき圧縮気体源11が導管12を介し接続されている。
【0016】
また、図4に示すように、気泡吹出口13における多孔質部材8a,8bから、その吹出し方向18に吹き出された微細気泡群21を船体外板9に添わせるための気泡拡散防止用板部材6a,6bが、船体外面に対し隙間をあけるように配設されており、各板部材6a,6bは、図3に示すように、支柱7a,7bを介し船体外板9に結合されている。
【0017】
各部材6a,6bの船体外面に対する隙間は、この船舶の巡航時に水面下で船体外面上に発達する流体の境界層厚さ16(図4参照)以下に設定され、好ましくは境界層厚さ16の20%程度に設定される。
【0018】
なお境界層厚さ16は、気泡吹出口13や板部材6a,6bをもたない船体の設計船速における境界層厚さとして計算や水槽試験により求められる。
【0019】
図4および図5に示すように、各板部材6a,6bの前端位置は気泡吹出口13の近傍に設定され、また各板部材6a,6bの流れ方向における長さは境界層厚さ16よりも大きくならないように設定される。そして、図5(a),(b)に示すごとく、多孔質部材8による気泡吹出し方向18は、船体外板9と直角をなす方向のほか、斜め後方へ傾斜させた方向にしてもよい。
【0020】
また、各板部材6a,6bを総称して符号6で示し、同板部材の支柱7a,7bを総称して符号7で示せば、図6(a)〜(d)に示すように、支柱7で前後端を船体外板9上に支持される各板部材6の断面形状は、図6(a)の矩形断面や、図6(b)の円弧形断面、図6(c)で示す矩形断面の前後縁部を傾斜させた断面、図6(d)の翼型断面など、種々の形状とすることが可能である。
【0021】
そして、各板部材6の材質としては、防汚性の優れたもののほか、鋼板に防汚性の優れた塗装を施したものが採用される。
【0022】
上述の第1実施形態の摩擦抵抗低減型船舶では、図4に示すように、気泡吹出口の多孔質部材8a,8bから放出された微細気泡群21が、放出直後においては板部材6a,6bによって船体外板9から離れるのを防止される。そして、下流へ流れていく微細気泡群21は、板部材6a,6bからの後流20の遮蔽層としての働きにより拡散しにくくなり、これにより船体外板9の近傍の気泡密度が大きく保たれるようになる。
【0023】
したがって、少ない気体量で水面下の船体表面が微細な気泡群21で密接に覆われるようになり、このような微細気泡群21の存在により、船体外板9に作用する摩擦抵抗が確実に低減するようになる。
【0024】
また、板部材6a,6bは、境界層の速度分布領域において、平均流速の遅い位置に設置されているため、同板部材自体の抵抗は比較的少なくてすむようになる。
【0025】
図7,8に本発明の第2実施形態としての摩擦抵抗低減型船舶を示す。図7はその側面図、図8はその底面図であり、この第2実施形態も第1実施形態とほぼ同様に構成されるが、第2実施形態では、微細気泡群21を放出する多孔質部材8a,8bおよび微細気泡群21の拡散を防止するための板部材6a,6bが、船体1の前部に設けられるのみならず、船体1の中央部にも同様に微細気泡群を放出するための多孔質部材8c,8dおよび微細気泡群21の拡散を防止する板部材6c,6dが設けられている。
【0026】
これにより、この第2実施形態においても、多孔質部材8a,8bおよび気泡拡散防止用板部材6a,6bで第1実施形態と同様の作用効果が得られるとともに、船体1の中央部の多孔質部材8c,8dおよび気泡拡散防止用板部材6c,6dが設けられるため、船体1に作用する摩擦抵抗をより効果的に軽減できるようになる。
【0027】
また、多孔質部材8a〜8dの断面形状は、第1実施形態と同様に様々な形状としてよい。
【0028】
さらに、船体1中央部に設置される多孔質部材8c,8dおよび気泡拡散防止用板部材6c,6dは、1カ所だけでなく2カ所以上に増すようにしてもよい。 そして、多孔質部材8c,8dの気泡吹出し方向も、船体外板9に対し垂直方向に気泡を吹き出すだけでなく、流れの後方へ向けて斜め方向に気泡を吹き出すようにしてもよい。
【0029】
なお、上述の各実施形態では、各板部材6a〜6dが支柱7により船体外板9に支持されるものとされているが、各板部材6a〜6dを、船内に設置された油圧シリンダから船体外板9を水密に貫通するピストンロッドの先端で支持して、同油圧シリンダの制御により、船速に応じて各板部材6a〜6dと船体外面との隙間を調整できるようにしてもよい。このような構成では、停船時に各板部材6a〜6dを船体外板9に密着させることができる。
【0030】
また船体外板9に各板部材6a〜6dの格納用凹所を形成しておけば、各板部材6a〜6dの格納時に、その外面を隣接する船体外板面と面一にすることもできる。
【0031】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の摩擦抵抗低減型船舶によれば次のような効果が得られる。
(1) 航走中に気泡吹出口から船外に吹き出された気泡群は、境界層の速度分布において、上記気泡吹出口の近傍に前端位置を有するように且つ上記境界層の厚さ以下の長さを流れ方向に有するように設置された気泡拡散防止用板部材により、吹出直後においては船体外板から離れるのを防止される。また、吹出口から下流に流れていった後は、上記板部材の後流の影響により、同後流を境界として、同後流と船体外板との隙間の流体領域と、その外側の流体領域との間の運動量交換が少なくなるため、気泡群が拡散しにくくなり、船体外板近傍の気泡の密度を大きく保つことができる。
(2) 上記(1)項により、少ない気体量で水面下の船体表面が微細な気泡群で密接に覆われるようになり、このような微細気泡群の存在により、船体外板に作用する摩擦抵抗が確実に低減するようになる。また、気泡拡散防止用板部材は、境界層の速度分布領域において、平均流速の遅い位置に設置されているため、同板部材自体の抵抗は比較的少なくてすむようになる。
(3) 上記の気泡吹出口および気泡拡散防止用板部材が、船体の前部および中間部にそれぞれ設けられていると、船舶全体としての水流摩擦抵抗の低減効果が一層高められるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施形態としての摩擦抵抗低減型船舶を示す側面図である。
【図2】 図1の船舶の底面図である。
【図3】 図1のA−A矢視拡大断面図である。
【図4】 図1〜3の船舶の要部における作用の説明図である。
【図5】 図1〜3の船舶の要部における気泡吹出口と気泡拡散防止用板部材との配置関係を示すもので、(a)図はその一例を示す要部断面図、(b)図は他の例を示す要部断面図である。
【図6】 図5における気泡拡散防止用板部材の断面形状を示すのもで、(a)図はその矩形断面の場合を示す断面図、(b)〜(d)図は他の変形例を示す断面図である。
【図7】 本発明の第2実施形態としての摩擦抵抗低減型船舶を示す側面図である。
【図8】 図7の船舶の底面図である。
【図9】 従来の摩擦抵抗低減型船舶における気泡吹出部を示すもので、(a)図はその一例を示す要部断面図、(b)〜(d)図は他の例を示す要部断面図である。
【図10】 従来の摩擦抵抗低減型船舶の要部における作用の説明図である。
【符号の説明】
1 船体
2 プロペラ
3 舵
4 船側
5 船底
6,6a〜6d 気泡拡散防止用板部材
7,7a,7b 支柱
8,8a,8b 多孔質部材
9 船体外板
10a, 10b 空気溜め
11 圧縮気体源
12 導管
13 気泡吹出口
14 小孔
16 境界層厚さ
18 気泡の吹出し方向
19 流れの方向
20 気泡拡散防止用板部材の後流
21 微細気泡群
100 水面
101 船内
Claims (2)
- 水面下の船体外板に設けられた摩擦抵抗低減用気泡吹出口と、同気泡吹出口に接続された船内の圧縮気体源とをそなえ、上記気泡吹出口から吹出された気泡を船体外面に添わせるための気泡拡散防止用板部材が、同気泡吹出口の近傍で船体外面に対し隙間をあけるように配設されて船体外面に支柱を介して取り付けられ、同板部材の船体外面に対する隙間が巡航時に水面下で船体外面上に発達する流体の境界層厚さ以下に設定されるとともに、同板部材の前端位置が上記気泡吹出口の近傍に設定され、且つ、同板部材の流れ方向における長さが上記境界層厚さ以下に設定されていることを特徴とする、摩擦抵抗低減型船舶。
- 上記の摩擦抵抗低減用気泡吹出口と気泡拡散防止用板部材とが、船体の前部および中間部にそれぞれ設けられたことを特徴とする、請求項1に記載の摩擦抵抗低減型船舶。
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