JP3592416B2 - 眼内物質の測定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、励起光学系から眼球に可視から近赤外領域の単色化された又は単一波長の励起光ビームを照射し、眼球から発生する散乱光と蛍光の少なくとも一方を含む測定光を受光光学系で検出して眼内物質を測定する装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
眼球に励起光を照射し、眼球からの散乱光や螢光から情報を得る方法として、眼内の螢光を測定することにより blood−ocular barrier の機能を定量的に検索する検査法として、ガラス体フルオロフォトメトリ(VFP)が行われている。糖尿病の診断やインシュリン投与の必要性の判断には血糖値を測定しなければならない。血液を採取して血糖値を測定する方法は正確ではあるが、患者に苦痛を与え、検査に手間がかかり、時間も要する。
【0003】
そこで、眼球からの光学的な情報に基づいて眼内物質を非侵襲に測定する種々の方法も検討されている。例えば、眼球に励起光を照射し、そこから得られる情報に基づいて血糖値を測定する方法が検討されている。そのような方法の1つは、水晶体に励起光を照射し、その後方散乱光を受光して分光器やダイクロイックビームスプリッタを用いてそれを螢光とレーリ光に分離し、螢光強度をレーリ光強度で正規化した値から糖尿病を診断しうる情報を求め、それに基づいて糖尿病や白内障その他の病気の診断を行う方法である(米国特許第5,203,328号参照)。
【0004】
他の方法では、水晶体による赤外吸収又は可視光の屈折率を測定し、それに基づいて水晶体中の血糖値を求める(特開昭51−75498号公報参照)。さらに他の方法では、角膜と水晶体の間に満たされている房水に平面偏光を照射し、その偏光軸の回転角を測定し、又は屈折率を測定することにより血糖値を求める(米国特許第3,963,019号参照)。
他の生体物質としてコレステロール値を求める方法も提案されている。そこでは、房水に励起光を照射し、そこからの散乱光強度や散乱体であるタンパク質の移動度を測定することによってコレステロール値を求める(米国特許第4,836,207号参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これまで検討されている方法では眼球のガラス体、水晶体、房水などからの情報が中心となっている。しかし、本発明者は、角膜からの情報には眼球の他の部分からの情報では得られない特異的な性質のあることを見出している(第19回角膜カンファレンス、プロクラム・抄録集、122「糖尿病網膜症患者の角膜自然蛍光に与える血糖値変化の影響」参照)。
そこで、本発明は角膜からの光学的な情報を選択的に取り出すことによって、病気の診断に有効な種々の眼内物質を測定する装置を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の測定装置は、眼球軸を固定するために励起光学系の光源とは別の可視光を発生する眼球軸固定用の光源を備えてその光源からの光ビームを眼球に入射させる眼球軸固定用光学系を備えており、眼球を測定用の所定の位置に固定し眼球軸を測定用の方向に固定した状態で、励起光ビームが角膜のみに入射し水晶体にも房水にも入射しないように角膜上で受光光学系の光軸と交わり、眼球軸と約40〜90°をなす位置関係に配置された励起光学系と、励起光学系の光軸とは空間的に異なった受光軸をもち、角膜から発生する測定光を他の眼球部分から発生する測定光と区別して導くためのスリット、光ファイバレンズアレイ又はレンズからなる光学素子、及びその光学素子により導かれた角膜から発生する測定光の光路上に配置された光電変換素子を少なくとも有する光検出器を備えた受光光学系とを備えており、励起光学系から角膜に励起光ビームを照射し、角膜から発生する測定光を他の部分から発生する光と区別して受光光学系で検出して眼内物質を測定するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
受光光学系は眼球から発生する測定光を分光する分光手段をさらに備えていることが好ましい。分光手段は、例えば角膜から発生する測定光を他の眼球部分から発生する測定光と区別して導く光学素子と光検出器との間に備えられ、光検出器はその分光手段により分光された測定光を検出するように配置される。分光手段が波長分散型でない場合には、上記の光学素子の光入射側に配置することもできる。
【0008】
測定時は眼球軸を特定の方向、例えば受光光学系の光軸方向又はその光軸方向と一定の角度を保つように固定するために、励起光学系の光源とは別に、可視光を発生する眼球軸固定用の光源を備えてその光源からの光ビームを眼球に入射させる眼球軸固定用光学系がさらに設けられている。
眼球軸固定用光学系は、眼内物質を測定しようとする眼球側に設けてもよく、眼内物質を測定しない他方の眼球側に設けてもよい。
眼球軸を固定しない場合には、眼球軸が測定に適した所定の方向になったときに測定を行なうことができるようになっていることが好ましい。そのために、眼球の方向を監視するモニタとしてCCD固体撮像装置などの二次元固体撮像素子を設け、その二次元固体撮像素子により受光光学系の光検出器の出力を取り込むことができるようにしてもよい。
【0009】
本発明では励起光ビームが水晶体に入射しないように励起光学系を配置する。眼球を測定用の所定の位置に固定し眼球軸を測定用の方向に固定した状態で、励起光学系の光軸が角膜上で眼球軸と交わるように励起光ビームを入射させる場合には、入射光ビームが瞳孔を経て水晶体に入射しないようにするために、眼球軸と交わる角度を約40〜90°に設定する。瞳孔の大きさは個人差があるので、その角度の下限値の約40°は被検者により変動するが、励起光ビームが水晶体に入射しないようにする下限の角度の意味である。
【0010】
受光光学系の光検出器としては、単一の光電変換素子、CCDセンサやフォトダイオードアレイなどの一次元固体撮像素子、及びCCD固体撮像装置などの二次元固体撮像素子のいずれも用いることができる。
光検出器が一次元固体撮像素子である場合には、一次元固体撮像素子は励起光学系の光軸と受光光学系の受光軸とを含む平面内で受光光学系の受光軸と所定の角度をなす直線に沿って光電変換素子が配列されるように配置し、角膜から発生する測定光を他の眼球部分から発生する測定光から区別して導く光学素子により、励起光学系の光軸と受光光学系の光軸とを含む平面が眼球と交差する位置と一次元固体撮像素子の光電変換素子の位置とを対応づけることができる。
【0011】
そのような光学素子は、スリット、光ファイバレンズアレイ又はレンズにより構成することができる。スリットは、受光光学系の光軸に平行で励起光学系の光軸と受光光学系の光軸とを含む平面に直交する方向の複数の薄板を、励起光学系の光軸と受光光学系の光軸とを含む平面内の受光光学系の光軸と直交する方向に配列して実現することができる。光ファイバレンズアレイは収束性ロッドレンズアレイやセルフォックレンズアレイとも呼ばれ、光ファイバを受光光学系の光軸に平行に配置し、励起光学系の光軸と受光光学系の光軸とを含む平面内で受光光学系の光軸と直交する方向に配列したものである。レンズは眼球軸付近の角膜上の像を光検出器上に結像させるものである。
【0012】
この場合、分光手段としては眼球上の位置と一次元固体撮像素子の光電変換素子の位置との対応関係を維持したままで分光できることが必要であり、そのような分光手段としてはFT(フーリエ変換型分光器)、フィルタ、AOTF(音響光学フィルタ)を採用することができ、一次元固体撮像素子と光学素子との間に配置する。
【0013】
光検出器が一次元固体撮像素子である場合には、その入射側に設けられた光学素子により、入射光と眼球上の位置とを対応ずけることができ、眼球のどの部分からの情報であるかを識別することができて、眼内物質をより正確に測定することができる。
【0014】
光検出器が一次元固体撮像素子である場合で、角膜上で励起光学系の光軸と受光光学系の光軸とが交差する点から発生する光のみを受光する場合には、FT、AOTF又は回折格子を一次元固体撮像素子と組み合わせ、1点からの測定光をその一次元固体撮像素子の光電変換素子の配列方向に波長分散させることによって、分光した多波長を同時に検出できるポリクロメータを構成することができる。
【0015】
光検出器が単一の光電変換素子である場合、光検出器としてはフォトダイオードを用いることができる。この場合、受光光学系には角膜上で励起光学系の光軸と受光光学系の光軸とが交差する点から発生する光のみを光検出器に入射させる光学素子を設ける。そのような光学素子はスリット、光ファイバレンズアレイ又はレンズにより構成することができる。分光手段としてはFT(フーリエ変換型分光器)、フィルタ、AOTF(音響光学フィルタ)のほか、分散型回折格子も用いることができる。
【0016】
光検出器が二次元固体撮像素子である場合、受光光学系の光学素子は励起光学系の光軸と受光光学系の受光軸とを含む平面が眼球と交差する位置と二次元固体撮像素子の一列の光電変換素子配列上の位置とを対応づけることができる。そのような光学素子もスリット、光ファイバレンズアレイ又はレンズにより構成することができる。この場合の分光手段は、光電変換素子配列と直交する方向に波長分散させて分光する多チャンネル分光器とすることができ、眼球上の複数の位置から発生した測定光をそれぞれ独立して分光して検出することができる。
また、光検出器が二次元固体撮像素子である場合には、眼球から発生した測定光を検出するとともに、眼球の方向を監視するモニタの機能も兼ねることができる。
【0017】
励起光学系から眼球に照射される励起光ビームは、可視から近赤外領域の単色化された又は単一波長のビームである。そのような励起光ビームを発生させる励起光学系の一例は、タングステンランプやハロゲンランプのように連続した波長の励起光を発生する白熱ランプの光源と、その光源からの光を単色化するフィルタなどの波長選択手段とを備えている。その励起光を励起光学系の光軸に沿った平行光とする場合には励起光学系にさらにスリットを備えている。
【0018】
他の励起光学系の例は、可視から近赤外領域の単一波長の励起光を発生するレーザ装置を光源として備えたものである。レーザ装置として半導体レーザを使用した場合は、ビームが発散するので、励起光を励起光学系の光軸に沿った平行光とするためにレンズやスリットが必要となる。半導体レーザが複数の波長光を発振する場合は特定の波長光を選択する光学フィルタなどの波長選択手段が必要になる。
【0019】
受光する光がラマン散乱光や螢光である場合、励起光ビームが単色光又は単一波長光である場合にはデータ処理が容易になる。また励起光が近赤外光である場合には目が瞳孔反応をしないため、散瞳剤を投与する必要がなく、測定が容易になる。励起光ビームを平行光とすることにより、角膜の微小部を測定したり、面積積分を行なう上で好都合である。
励起光ビームを角膜の1点のみに照射する場合には、励起光を角膜上に集光させる集光レンズを励起光学系に設ければよい。
【0020】
励起光学系の励起光ビームの光軸にビームスプリッタが設けられ、そのビームスプリッタにより取り出された励起光の一部が光検出器の一部の光電変換素子又は他の光検出器に入射され、その光電変換素子又は光検出器の出力により眼球からの測定光を受光した光検出器の出力が補正されるようにすれば、励起光の変動があっても散乱光や蛍光を正確に測定することができるようになる。
【0021】
励起光学系及び受光光学系を、顔面に装着できるゴーグル状構造物内に一体的に収納することができ、その場合には、測定を手軽に行うことができる。
そのゴーグル状構造物内には、受光光学系により測定されたデータを含む情報を外部のデータ処理装置へ出力できる伝送回路をさらに設けることができる。測定データを伝送する伝送回路は無線、有線、光パルスなど種々の手段により実現することができる。
【0022】
測定される眼内物質の第1は糖類であり、そのうち、グルコースに対しては励起波長からのシフト波数にして420〜1500cm−1又は2850〜3000cm−1、好ましくは420〜450cm−1,460〜550cm−1,750〜800cm−1,850〜940cm−1,1000〜1090cm−1,1090〜1170cm−1,1200〜1300cm−1,1300〜1390cm−1,1400〜1500cm−1又は2850〜3000cm−1にあるラマン散乱ピークを用いて定量することができる。グルコース(ブドウ糖)は血糖ともよばれ、糖尿病の診断や病態の推移を知る上で最も重要な情報を与えるものである。
【0023】
他の糖類についても測定することができる。例えば、イノシトールに対しては励起波長からのシフト波数にして400〜1500cm−1又は2900〜3050cm−1、好ましくは400〜500cm−1,700〜900cm−1,1000〜1100cm−1,1200〜1500cm−1又は2900〜3050cm−1にあるラマン散乱ピークを用いて定量することができる。
【0024】
フルクトースに対しては励起波長からのシフト波数にして550〜1500cm−1又は2900〜3050cm−1、好ましくは550〜620cm−1,650〜700cm−1,780〜870cm−1,900〜980cm−1,1000〜1150cm−1,1200〜1300cm−1,1400〜1480cm−1又は2900〜3050cm−1にあるラマン散乱ピークを用いて定量することができる。
【0025】
ガラクトースに対しては励起波長からのシフト波数にして400〜1500cm−1又は2850〜3050cm−1、好ましくは450〜550cm−1,630〜900cm−1,1000〜1180cm−1,1200〜1290cm−1,1300〜1380cm−1,1400〜1500cm−1又は2850〜3050cm−1にあるラマン散乱ピークを用いて定量することができる。
ソルビトールに対しては励起波長からのシフト波数にして380〜1500cm−1又は2700〜2960cm−1、好ましくは388〜488cm−1,749〜862cm−1,933〜1120cm−1,1380〜1464cm−1又は2731〜2960cm−1にあるラマン散乱ピークを用いて定量することができる。
【0026】
測定される眼内物質の第2は脂質であり、そのうちのレシチン(ホスファチジルコリン)に対しては450〜650nmの蛍光スペクトルのスペクトル強度又はその範囲内の適当な波長範囲のスペクトルの積算値を用いて定量することができる。
【0027】
測定される眼内物質の第3はビリルビンであり、励起波長からのシフト波数にして500〜540cm−1,670〜710cm−1,900〜980cm−1,1220〜1300cm−1,1310〜1330cm−1,1400〜1500cm−1又は1550〜1670cm−1にあるラマン散乱ピークを用いて定量することができる。
【0028】
測定される眼内物質の第4は糖化タンパクであり、そのうちの糖化アルブミンに対しては640〜850nmの蛍光スペクトルのスペクトル強度又はその範囲内の適当な波長範囲のスペクトルの積算値を用いて定量することができる。
【0029】
測定される眼内物質の第5はAGE(Advanced Glycated End Product)である。AGEについても同様に測定し、定量することができる。AGEは後期段階生成物とよばれ、アミノ酸、ペプチド、タンパク質などのアミノ基が還元糖のカルボニル基と反応する非酵素的糖化反応(グリケーション)の後期段階の生成物であり、糖尿病性慢性合併症による臓器障害と関連するものとして注目されている物質である。
測定される眼内物質の第6は糖化クリスタリンである。糖化クリスタリンについても同様に測定し、定量することができる。
これらの眼内物質は体内に存在している物質である。それに対し、眼球からの蛍光を測定する従来の方法では、fluorescein−Naを静脈に注射した後に行なうのが一般的である。本発明はそのような対外から注入された蛍光物質を測定する装置としても利用することができる。そこで、測定される眼内物質の第7は対外から注入された蛍光物質であり、そのような蛍光物質としてfluorescein−Naを挙げることができる。
【0030】
測定される眼内物質が糖類、脂質、ビリルビン、糖化タンパク、AGE、糖化クリスタリンなどからの少なくとも2種類の物質である場合には、それらの物質に選択されたシフト波数のラマン散乱光のピーク強度もしくはピーク面積、又は螢光のスペクトル強度もしくは適当な波長範囲の積算値が用いられ、それらの複数の測定値から多変量解析によりそれぞれの物質の測定値を求めることができる。
【0031】
多変量解析演算では、主成分回帰分析法(PCR法)や部分最小二乗法(PLS法)などの多変量回帰分析法を用いてデータ解析を行なう。多変量回帰分析法では、一度に多くのスペクトル強度を用いて回帰分析することができるので、単回帰分析に比べて高い精度の定量分析が可能である。重回帰分析はもっとも多用されているが、多数の試料が必要であり、各波数でのスペクトル強度同士の相関が高い場合にはその定量分析精度は低くなる。一方、多変量回帰分析法であるPCR法は複数の波数域でのスペクトル強度を互いに無関係な主成分に集約させることができ、さらに不必要なノイズデータを削除することができるので、高い定量分析精度が得られる。またPLS法は主成分の抽出の際に試料濃度のデータも利用することができるので、PCR法と同様に高い定量分析精度を得ることができる。多変量回帰分析に関しては『多変量解析』(中谷和夫著、新曜社)を参考にできる。
【0032】
種々の変動要因により複雑に変動するスペクトルから必要な情報を引き出すには、コンピューターによるデータ処理が大いに役立つ。代表的な処理法は市販の近赤外装置等に装備されている処理用ソフトウェアにも収容されている。また市販のソフトウェアとしてCOMO社のアンスクランバーなどがある。代表的な処理法とは上に挙げた重回帰分析やPLS法、主成分回帰分析法等である。
【0033】
定量分析に適用するデータ処理の大きな流れは、▲1▼キャリブレーションモデルの作成、▲2▼キャリブレーションモデルの評価、▲3▼未知試料の定量である。
キャリブレーションを行なうには、適当な数の検量線作成用試料を充分な精度で測定する必要がある。得られたスペクトルは必要に応じて前処理を行なう。代表的な前処理としては、スペクトルの平滑化や微分、正規化があり、いずれも一般的な処理である。
【0034】
次に、キャリブレーションは、スペクトルデータと目的特性の分析値との間の数学的関係式、すなわちモデルを構築する処理である。モデルの作成は、検量線作成用試料の分析値とスペクトルデータを用い、統計的手法によって行われる。
【0035】
作成された検量線の未知試料に対する予測の精度を正しく評価するため、評価用試料により、未知試料に対する測定誤差が求められる。検量線の精度が不充分であると判定されたときは、必要に応じて処理法の種類やパラメーターの変更など行い、検量線の修正を行なう。
精度が充分であると認められた検量線は、未知試料の分析に際し、スペクトルデータから目的特性の値を予測する関係式として使用され、未知試料濃度の定量に用いられる。
【0036】
【実施例】
図1は本発明の測定装置の基本となる構成を概略的に表わしたものである。2は眼球を表わしており、ガラス体4の前方に水晶体6があり、最前方に角膜8がある。角膜8と水晶体6の間には透明な液の房水10が満たされている。水晶体6と角膜8の間には虹彩11があり、虹彩11の中央開口部が瞳孔である。3は眼球軸を表わしている。
【0037】
励起光学系12はタングステンランプなどの白熱ランプを光源14として備えており、励起光学系12の光軸16上には光源14から発生する励起光を集光させるレンズ18、励起光から狭い波長範囲を取り出して単色化する光学フィルタ20が設けられている。光学フィルタ20は複数枚、図の例では3枚が配置されており、所望の励起光ビーム波長に応じて切り換えることができるようになっている。光学フィルタ20とレンズ18の間に設けられたスリット22と、光学フィルタ20よりも出射側に設けられた複数枚のスリット24によって励起光ビームを0.1〜2mmの直径の細い平行ビームに調整している。
【0038】
一方、受光光学系30はその受光軸31が励起光学系の光軸16とは空間的に異なり、角膜8上で励起光学系の光軸16と交わる位置に配置されている。励起光学系の光軸16と受光光学系の受光軸31とのなす角θは、励起光ビームが瞳孔を経てレンズ体6に入射しないように設定されており、眼球軸3が受光光学系の光軸31と一致するように眼球が固定されたときには、その角θは40〜90°である。図1の例ではθは45°である。
【0039】
眼球軸3が受光光学系の光軸31と一致するように、眼球軸3を固定するために、可視光を発生する光源32と、その光源32からの光を細い光束にするスリット33と、スリット33により調整されたビームを光軸31上に乗せて眼球2に入射させるためのハーフミラー34とを備えた光学系が設けられている。
【0040】
受光光学系31は、その光軸32上に光検出器としてCCDセンサ又はフォトダイオードアレイなどの一次元固体撮像素子35が配置されている。一次元固体撮像素子35は一列に配列されたCCD光電変換素子配列を備え、その光電変換素子配列の方向は、励起光学系の光軸16と受光光学系の光軸31とを含む平面内で受光光学系の光軸31と直交する直線に沿った方向である。一次元固体撮像素子35の光電変換素子配列のピッチは、例えば125μmである。
【0041】
一次元固体撮像素子35の光入射側には、角膜8から発生する測定光を他の眼球部分から発生する測定光から区別して光検出器35に入射させうる光学素子として、スリット36が配置されている。スリット36は、受光光学系の光軸31に平行で励起光学系の光軸16と受光光学系の光軸31とを含む平面に直交する方向の複数の薄板を、励起光学系の光軸16と受光光学系の光軸31とを含む平面内の受光光学系の光軸31と直交する方向に配列したものであり、励起光学系の光軸16と受光光学系の光軸31とを含む平面が眼球と交差する位置と一次元固体撮像素子35の光電変換素子の位置とを対応づける。スリット36は、そのピッチが一次元固体撮像素子35の光電変換素子ピッチと対応していることが好ましく、スリット36の深さDは5〜30mmである。
【0042】
スリット36と一次元固体撮像素子35の間にはFT、フィルタ又はAOTFなどの分光手段37が配置されており、眼球2からの測定光を分光できるようになっている。FT、フィルタ又はAOTFなどの分光手段37は、記号37’で示されるようにスリット36への測定光入射側に配置してもよい。
【0043】
図1の測定装置の動作を説明する。励起光ビームが角膜8から房水10に入射し、角膜8及び房水10から発生した散乱光及び螢光の測定光は、スリット36によって光軸31に平行な成分のみが分光手段37を経て分光されて一次元固体撮像素子35に入射する。スリット36が設けられていることによって一次元固体撮像素子35の光電変換素子の位置と眼球2での測定光発生位置とが対応し、どの位置からの情報であるかを識別することができる。特に、光軸31上のCCD光電変換素子の検出信号は角膜8から発生した散乱光及び螢光に関する情報であり、眼内物質の測定に重要な情報を含んでいる。他の場所のCCD光電変換素子による検出信号には房水10からの散乱光及び螢光が含まれている。
【0044】
分光手段37として回折格子を用いることもできる。スリット36によって角膜上の1点からの光を測定する場合には、スリット36を透過した光を回折格子に導いて波長分散させ、その分散方向に光電変換素子が配列されるように一次元固体撮像素子35を配置すれば、ポリクロメータとなって、角膜上の1点からの光を分光して多波長にわたって同時に検出することができる。
【0045】
光検出器として二次元固体撮像素子を用いた場合には、分光手段37として多チャンネル分光器を用いることができる。この場合、対応スリット36を経てその分光器に入射する1列の測定光が眼球上の位置と対応したものとなる。分光器への入射する測定光の配列方向と直交する方向に波長分散させることにより、眼球上の複数の位置からの測定光を同時に分光しそれぞれの多波長にわたって同時に検出できるようになる。
【0046】
図2は、角膜から発生する測定光を他の眼球部分から発生する測定光から区別して光検出器に入射させうる光学素子として、図1のスリット36に代わる他の例を示したものである。(A)は光ファイバレンズアレイ40を用いたものであり、その光ファイバのビッチも一次元固体撮像素子35の光電変換素子ビッチに対応したものであることが好ましい。(B)はレンズ42を用いたものである。レンズ42により角膜8上の像が一次元固体撮像素子35上に結像され、角膜及び房水での測定光発生位置が一次元固体撮像素子35上では逆方向に配列される。
受光光学系30の光検出器としては、一次元固体撮像素子35に代えて単一の光電変換素子からなるフォトダイオードを用いることもできる。
【0047】
図3は光源強度の変動を補正する手段を備えた構成例を表わしたものである。励起光学系の光軸16上にハーフミラー44が配置され、励起光の一部が一次元固体撮像素子35の一部の光電変換素子に直接入射される。その励起光ビームを受光した光電変換素子35aの検出信号により一次元固体撮像素子35の他の部分の光電変換素子が受光した角膜その他の部分からの検出信号を割算して正規化することにより、光源強度の変動分を補正して正確な測定値を得ることができる。
【0048】
図4は一実施例であり、図1の構成において、励起光学系の光軸16と受光光学系の光軸31とのなす角θを90°としたものである。この場合、励起光ビームは角膜8のみを照射することができ、受光光学系では角膜8からの散乱光と螢光などの測定光のみを受光して、角膜8からの情報のみを得ることができる。
【0049】
図5は本発明をゴーグル状構造物内に一体化した実施例を表わしたものであり、(A)は内部の光学系の配列を示す平面図、(B)は内部の光学系の配列を示す受光光学系側の側面図、(C)は眼球側からみた斜視図である。ゴーグル状構造物50内には図4に示されたような励起光学系12と受光光学系30が配置されている。励起光学系12では励起光源として小型化に有利な半導体レーザを用いる。また、光源の駆動や光検出器の駆動を行い、光検出器が検出した信号を外部へ伝送する伝送回路などもゴーグル状構造物50内に備えている。制御部52はそのような駆動部や伝送回路を含んだものである。
【0050】
図6から図13により、本発明で測定しようとする眼内物質のラマン散乱スペクトル及び螢光スペクトルの例を示す。いずれも励起光は632.8μmのHe−Neレーザ光である。
【0051】
図6はグルコースのラマン散乱スペクトルであり、励起波長からのシフト波数にして420〜450cm−1,460〜550cm−1,750〜800cm−1,850〜940cm−1,1000〜1090cm−1,1090〜1170cm−1,1200〜1300cm−1,1300〜1390cm−1,1400〜1500cm−1及び2850〜3000cm−1の位置にピークが存在する。それらのピークの中心波数は、438cm−1,530cm−1,776cm−1,917cm−1,1087cm−1,1103cm−1,1298cm−1,1373cm−1,1461cm−1及び2907cm−1である。
【0052】
図7はイノシトールのラマン散乱スペクトルであり、励起波長からのシフト波数にして400〜500cm−1,700〜900cm−1,1000〜1100cm−1,1200〜1500cm−1及び2900〜3050cm−1の位置にピークが存在する。それらのピークの中心波数は、443.852cm−1,864.743cm−1,1074.37cm−1,1468.06cm−1及び2995.59cm−1である。
【0053】
図8はフルクトースのラマン散乱スペクトルであり、励起波長からのシフト波数にして550〜620cm−1,650〜700cm−1,780〜870cm−1,900〜980cm−1,1000〜1150cm−1,1200〜1300cm−1,1400〜1480cm−1及び2900〜3050cm−1の位置にピークが存在する。それらのピークの中心波数は、599.093cm−1,688.482cm−1,802.175cm−1,963.9821cm−1,1074.37cm−1,1267.38cm−1,1468.06cm−1及び2995.59cm−1である。
【0054】
図9はガラクトースのラマン散乱スペクトルであり、励起波長からのシフト波数にして450〜550cm−1,630〜900cm−1,1000〜1180cm−1,1200〜1290cm−1,1300〜1380cm−1,1400〜1500cm−1及び2850〜3050cm−1の位置にピークが存在する。それらのピークの中心波数は、495.884cm−1,864.743cm−1,1062.17cm−1,1267.38cm−1,1362.38cm−1,1468.06cm−1及び2976.02cm− 1である。
【0055】
図10はソルビトールのラマン散乱スペクトルであり、励起波長からのシフト波数にして388〜488cm-1,749〜862cm-1,933〜1120cm-1,1380〜1464cm-1及び2731〜2960cm-1の位置にピークが存在する。それらのピークの中心波数は、438cm-1,821cm-1,1414cm-1,1600cm-1付近及び2893cm-1である。
【0056】
図11は糖化アルブミンの蛍光スペクトルであり、640〜850nmにピークをもっている。濃度が61.1%、33.3%、24.8%の水溶液試料を測定したものであり、高濃度のものほどスペクトル強度が大きくなっている。
【0057】
図12はジタウロビリルビンのラマン散乱スペクトルであり、励起波長からのシフト波数にして500〜540cm−1,670〜710cm−1,900〜980cm−1,1220〜1300cm−1,1310〜1330cm−1,1400〜1500cm−1及び1550〜1670cm−1の位置にピークが存在する。それらのピークの中心波数は、520cm−1,688cm−1,940cm−1,1250cm−1,1320cm−1,1445cm−1及び1615cm−1である。
図13はレシチンの蛍光スペクトルであり、450〜650nmにピークをもっている。
【0058】
【発明の効果】
本発明では角膜のみに励起光を照射し、角膜からの散乱光や蛍光を他の眼球部分からの散乱光や蛍光から区別して検出できるように励起光学系と受光光学系とを配置したので、角膜からの光学的な情報を基にして眼内物質を測定することができ、糖尿病その他の病気の診断などに有益な情報を非侵襲に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基本となる測定装置の構成を示す概略平面断面図である。
【図2】同測定装置におけるスリット36に代わる光学素子を示した概略平面断面図であり、(A)は光ファイバレンズアレイを用いたもの、(B)はレンズを用いたものである。
【図3】光源強度の変動を補正する手段を備えた測定装置を示す概略平面断面図である。
【図4】励起光学系の光軸と受光光学系の光軸とのなす角を90°とした一実施例を示す概略平面断面図である。
【図5】光学系をゴーグル状構造物内に一体化した実施例を表わしたものであり、(A)は内部の光学系の配列を示す平面図、(B)は内部の光学系の配列を示す受光光学系側の側面図、(C)は眼球側からみた斜視図である。
【図6】グルコースのラマン散乱スペクトルを示す図である。
【図7】イノシトールのラマン散乱スペクトルを示す図である。
【図8】フルクトースのラマン散乱スペクトルを示す図である。
【図9】ガラクトースのラマン散乱スペクトルを示す図である。
【図10】ソルビトールのラマン散乱スペクトルを示す図である。
【図11】糖化アルブミンの蛍光スペクトルを示す図である。
【図12】ジタウロビリルビンのラマン散乱スペクトルを示す図である。
【図13】レシチンの蛍光スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
2 眼球
3 眼球軸
12 励起光学系
14 励起光源
16 励起光学系の光軸
18 レンズ
20 光学フィルタ
22,24 スリット
30 受光光学系
31 受光光学系の光軸
32 眼球軸固定用光源
35 一次元固体撮像素子
36 スリット
40 光ファイバレンズアレイ
42 レンズ
46 ハーフミラー
50 ゴーグル状構造物
Claims (21)
- 励起光学系から眼球に可視から近赤外領域の単色化された又は単一波長の励起光ビームを照射し、眼球から発生する散乱光と蛍光の少なくとも一方を含む測定光を受光光学系で検出して眼内物質を測定する装置において、
眼球軸を固定するために前記励起光学系の光源とは別の可視光を発生する眼球軸固定用の光源を備えてその光源からの光ビームを眼球に入射させる眼球軸固定用光学系を備えており、
前記励起光学系は、眼球を測定用の所定の位置に固定し眼球軸を測定用の方向に固定した状態で、励起光ビームが角膜のみに入射し水晶体にも房水にも入射しないように角膜上で前記受光光学系の光軸と交わり、眼球軸と約40〜90°をなす位置関係に配置されたものであり、
前記受光光学系は励起光学系の光軸とは空間的に異なった受光軸をもち、角膜から発生する測定光を他の眼球部分から発生する測定光と区別して導くためのスリット、光ファイバレンズアレイ又はレンズからなる光学素子、及びその光学素子により導かれた角膜から発生する測定光の光路上に配置された光電変換素子を少なくとも有する光検出器を備えていることを特徴とする測定装置。 - 前記受光光学系は眼球から発生する測定光を分光する分光手段をさらに備え、前記光検出器はその分光手段により分光された測定光を検出するものである請求項1に記載の測定装置。
- 眼球の方向を監視するモニタとして二次元固体撮像素子が設けられており、その二次元固体撮像素子により前記受光光学系の光検出器の出力を取り込むことができるようにした請求項1又は2に記載の測定装置。
- 前記受光光学系の光検出器が眼球の方向を監視するモニタとしても使用される二次元固体撮像素子である請求項3に記載の測定装置。
- 前記受光光学系の光検出器は、前記励起光学系の光軸と受光光学系の受光軸とを含む平面内の一直線に沿って複数の光電変換素子が配列された固体撮像素子である請求項1から4のいずれかに記載の測定装置。
- 受光光学系の光検出器は受光光学系の受光軸上に配置された単一の光電変換素子であり、受光光学系の前記光学素子は角膜上で励起光学系の光軸と受光光学系の受光軸とが交差する点から発生する光のみを前記光検出器に入射させる請求項1から4のいずれかに記載の測定装置。
- 前記分光手段はフーリエ変換型分光器、フィルタ、又は音響光学フィルタである請求項2に記載の測定装置。
- 受光光学系の光検出器は一次元又は二次元の固体撮像素子であり、受光光学系の前記光学素子は角膜近傍で励起光学系の光軸と受光光学系の受光軸とが交差する点から発生する光のみを導くものであり、前記分光手段はその光を前記固体撮像素子の光電変換素子配列方向に波長分散させて分光する分光器である請求項2に記載の測定装置。
- 励起光学系から眼球に照射される励起光ビームは励起光学系の光軸に沿った平行光である請求項1から8のいずれかに記載の測定装置。
- 励起光学系には励起光ビームを角膜に集光させる集光光学系が設けられている請求項1から8のいずれかに記載の測定装置。
- 励起光学系の励起光ビームの光軸にビームスプリッタが設けられ、そのビームスプリッタにより取り出された励起光の一部が光検出器の一部の光電変換素子又は他の光検出器に入射され、その一部の光電変換素子又は他の光検出器の出力により、眼球からの測定光を受光した光検出器の出力が補正される請求項1から10のいずれかに記載の測定装置。
- 励起光学系及び受光光学系が、顔面に装着できるゴーグル状構造物内に一体的に収納されている請求項1から11のいずれかに記載の測定装置。
- 前記ゴーグル状構造物内には、受光光学系により測定されたデータを含む情報を外部のデータ処理装置へ出力できる伝送回路がさらに設けられている請求項12に記載の測定装置。
- 測定される眼内物質は糖類であり、
グルコースに対しては励起波長からのシフト波数にして420〜1500cm-1又は2850〜3000cm-1にあるラマン散乱ピークを用いて定量がなされ、
イノシトールに対しては励起波長からのシフト波数にして400〜1500cm-1又は2900〜3050cm-1にあるラマン散乱ピークを用いて定量がなされ、
フルクトースに対しては励起波長からのシフト波数にして550〜1500cm-1又は2900〜3050cm-1にあるラマン散乱ピークを用いて定量がなされ、
ガラクトースに対しては励起波長からのシフト波数にして400〜1500cm-1又は2850〜3050cm-1にあるラマン散乱ピークを用いて定量がなされ、
ソルビトールに対しては励起波長からのシフト波数にして380〜1500cm-1又は2700〜2960cm-1にあるラマン散乱ピークを用いて定量がなされる請求項1から13のいずれかに記載の測定装置。 - 測定される眼内物質が脂質であり、
レシチンに対しては450〜650nmの蛍光スペクトルのスペクトル強度又はその範囲内の適当な波長範囲のスペクトルの積算値を用いて定量がなされる請求項1から13のいずれかに記載の測定装置。 - 測定される眼内物質がビリルビンであり、励起波長からのシフト波数にして500〜540cm-1,670〜710cm-1,900〜980cm-1,1220〜1300cm-1,1310〜1330cm-1,1400〜1500cm-1又は1550〜1670cm-1にあるラマン散乱ピークを用いて定量がなされる請求項1から13のいずれかに記載の測定装置。
- 測定される眼内物質が糖化タンパクであり、
糖化アルブミンに対しては640〜850nmの蛍光スペクトルのスペクトル強度又はその範囲内の適当な波長範囲のスペクトルの積算値を用いて定量がなされる請求項請求項1から13のいずれかに記載の測定装置。 - 測定される眼内物質が糖類、脂質、ビリルビン及び糖化タンパクからなる群に含まれる少なくとも2種類の物質であり、それらの物質に選択されたシフト波数のラマン散乱光のピーク強度もしくはピーク面積、又は螢光のスペクトル強度もしくは適当な波長範囲の積算値が用いられ、それらの複数の測定値から多変量解析によりそれぞれの物質の測定値が求められる請求項1から13のいずれかに記載の測定装置。
- 測定される眼内物質が糖化タンパク最終産物AGEである請求項1から13のいずれかに記載の測定装置。
- 測定される眼内物質が糖化クリスタリンである請求項1から13のいずれかに記載の測定装置。
- 測定される眼内物質は体外から注入された蛍光物質である請求項1から13のいずれかに記載の測定装置。
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