JP3582340B2 - 車両推進用モータの出力制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気自動車等の車両の推進に使用されるモータ即ち車両推進用モータの出力を、所与の指令決定論理に従い決定した出力指令に基づき制御する出力制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、電気自動車では、二次バッテリやエンジン駆動発電機等の車載電力源から車両推進用モータに至る電力回路上にインバータやチョッパ等の電力変換回路を設ける。車両を推進するに際しては、車両操縦者によるアクセルペダル操作、ブレーキペダル操作、シフトレバー操作等に応じて車両推進用モータに対する出力指令を決定し、決定した出力指令に基づきこの電力変換回路の動作を制御することにより、車両推進用モータの出力を車両操縦者からの要求に相応した出力となるよう制御する。出力指令を決定する際には、アクセル開度等要求出力を示す情報と出力指令の値とを直接的又は間接的に対応づける指令決定論理に従う。この指令決定論理は、一般に、上述の電力変換回路の動作を制御する回路(例えばECU:電子制御ユニット)上に、数式やマップ等の形で搭載される。
【0003】
また、指令決定論理を複数種類搭載しこれらを切換使用する電動車両用制御装置も従来から知られている。例えば特開平4−299005号公報に記載されている装置では、エコノミーモードとパワーモードという2種類のモードが用意されており、車両操縦者がモード切換スイッチを操作すると、エコノミーモードからパワーモードへ或いはその逆へと、車両推進用モータの界磁電流対電機子電流の相関制御特性が切り換わる。ここでいう相関制御特性の切換が、いわば、複数の指令決定論理間の切換に相当している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ここに、上記公報に記載されているように指令決定論理をある種のものから他種のものへと単純に切り換える方法では、車両推進用モータに対する出力指令の値に急峻な変化が生じるおそれがある。この問題を解消しよりなめらかな切換を実現するには、指令決定論理を切り換える際にある程度の長さの過渡期間乃至遷移期間を設定し、その期間内で出力指令の値を漸増又は漸減させるようにすればよい。しかし、このように遷移期間中における出力指令の値を管理した場合、車両操縦者が何らかの必要でペダル或いはレバー操作を行ったとしてもその操作が車両推進用モータの出力にすぐには反映せず、従ってドライバビリティの悪化を招く結果となる。
【0005】
本発明は、この様な問題点を解決することを課題としてなされたものであり、ペダル操作、レバー操作等によって車両操縦者から与えられる要求出力に変化が生じたとき、指令決定論理の切換に係る遷移期間中でもその変化を直ちに車両推進用モータの出力に反映させられるようにすることにより、指令決定論理の切換機能をドライバビリティの悪化なしに提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この様な目的を達成するために、本発明は、車両を推進するためのモータに対する出力指令の値を、要求出力に応じかつ所与の指令決定論理に従い直接的又は間接的に決定し、この出力指令に基づきモータの出力を制御する出力制御装置において、上記指令決定論理に関する切換要求を検出する切換要求検出手段と、切換要求が検出された後少なくとも指令決定論理の切換が終了するまでの遷移期間中の複数の時点それぞれについて、その時点における要求出力に応じかつ切換元の指令決定論理に従い第1の出力指令値を、またその時点における要求出力に応じかつ切換先の指令決定論理に従い第2の出力指令値を、逐次決定する手段と、切換要求が検出された後少なくとも遷移期間が終了するまでの間、第1及び第2の出力指令値に基づき、かつ前時点における要求出力に対し現時点における要求出力が差を有していない限り前時点における出力指令の値に対し有意な変化を示すことがないよう、モータに対する現時点における出力指令の値を決定する指令除変手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明においては、指令決定論理(例えばマップや数式)に関する切換要求(例えば車両操縦者によるスイッチ操作)が検出されたとき、第1及び第2の出力指令値を決定しこれら第1及び第2の出力指令値に基づきモータに対する出力指令の値を決定する、という処理が行われる。この処理は、少なくとも、指令決定論理の切換が終了するまでの間即ち専ら切換先の指令決定論理によって出力指令の値が決定される状態になるまでの間(遷移期間中)は、繰り返して実行される。更に、第1及び第2の出力指令値に基づきモータに対する出力指令の値を決定するに際しては、前時点における出力指令の値に対し有意な変化を示すことがないように、出力指令の値の時間的変化に制限を課す。従って、本発明においては、指令決定論理の切換に伴う出力指令の値の急変が防止されなめらかな変化となる。更に、本発明においては、遷移期間中の各時点における要求出力に応じて、各時点毎に第1及び第2の出力指令値を決定する。従って、遷移期間中に要求出力に変化が現れたとき(例えば車両操縦者がアクセルペダルを踏み込んだとき)には、上述のように出力指令の値の時間的変化が制限されているにもかかわらず、要求出力の変化に伴う変化が出力指令の値に現れることとなり、ドライバビリティの悪化が生じない。なお、指令決定論理は、要求出力を出力指令の値に直接的に結びつけるものであってもよいし、間接的に結びつけるものであってもよい。
【0008】
本発明における指令除変手段は、遷移期間中の各時点において第1の出力指令値に所定値を加算し(又は第1の出力指令値から所定値を減算し)第2の出力指令値に漸近させていく構成としてもよい。この構成では、遷移期間中における出力指令値の増加又は減少速度が、第1及び第2の出力指令値の値の如何によらず一定になる。第1の出力指令値と第2の出力指令値の間の差の大小によらず十分な長さの遷移期間を確保しより滑らかな切換を実現するには、指令除変手段を、第1の出力指令値と第2の出力指令値とを加重加算しモータに対する出力指令の値を決定する手段を含む構成とする。この様にすれば、第1の出力指令値と第2の出力指令値の間の差が小さい場合(他の条件が同じであれば)モータに対する出力指令値の増加又は減少量が小さくなり、より滑らかな切換となる。
【0009】
より好ましくは、指令除変手段が加重加算に際して用いる重みを、その時間的変化量に制限を施しながら各時点毎に更新決定する。この様にすれば、第1の出力指令値と第2の出力指令値の間の差が大きい場合でもモータに対する出力指令値の増加又は減少速度を抑えることができ、モータに対する出力指令の値の変化が抑えられる。更により好ましくは、指令除変手段が加重加算に際して用いる重みを、車速に応じてかつ各時点毎に更新決定する。この様にすれば、例えば車速が低い領域では第1の指令決定論理、高い領域では第2の指令決定論理というような車速に応じた指令決定論理切換をあわせて実現でき、また車速の変化に応じて自動的にそれまでの指令決定論理から脱し他の指令決定論理に移行することが可能になる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態に関し図面に基づき説明する。
【0011】
(1)システム構成
図1に、本発明の一実施形態に係る電気自動車の概略構成を示す。この図に示す車両は、車載のバッテリ10の放電出力をインバータ12によって直流から三相交流へ電力変換し、インバータ12から得られる三相交流電力にて車両推進用の三相交流モータ14を駆動する構成を有している。モータ14のロータ軸は図示しない駆動輪に直接、即ちクラッチ、トルクコンバータ等の連結開閉部材を介さずに連結されているため、モータ14を駆動することによって直ちに車両を推進する力が生まれる。
【0012】
また、インバータ12における電力変換動作は、ECU等から構成される制御装置16によって制御されている。この制御装置16は、インバータ12と共にモータ14に係る出力制御装置を構成している。制御装置16は、図示しないアクセルペダル、ブレーキペダル及びシフトレバーの位置を示すアクセル開度率VA、ブレーキ踏力及びシフトポジションに係る信号を入力する。制御装置16は、後述のようにこれらの信号を利用してモータ14に対するトルク指令Trefを決定し、決定したトルク指令Trefに基づき生成した制御信号をインバータ12に与えその電力変換動作を制御することにより、トルク指令Trefに相応したトルク即ち車両操縦者のペダル操作等に応じた出力トルクを、モータ14にて発生させる。制御装置16は、更に、モータ14のロータに付設されているレゾルバ等の回転センサ18からロータ角度位置を示す信号を入力し、これをモータ回転数N等車速を示す情報に変換し、トルク指令Trefを決定する際等に利用する。この車速情報は、本実施形態では、更に、マップ混合比率Roff(後述)を決定する際にも使用される。
【0013】
図2に、制御装置16により所定周期で繰り返し実行されるトルク指令決定・出力手順を示す。この図に示す手順では、制御装置16は、まずアクセル開度率VA等車両各部にて発生した信号を入力し(100)、入力した信号に基づきモータ負荷率を演算決定し(104,108)、決定したモータ負荷率及びモータ回転数Nに基づきトルク指令Trefを決定し(106,110)、決定したトルク指令Trefに基づき制御信号を生成してインバータ12に与える(112)。
【0014】
また、この手順を実行するに際しては、制御装置16は、ステップ100にて入力したアクセル開度率VAやブレーキ踏力に基づきモータ14を力行させるべきかそれとも回生制動すべきかを判定・決定する(102)。上述のステップ104及び106は力行と判定したときに、ステップ108及び110は回生制動と判定したときに実行される。
【0015】
ステップ104及び108では、アクセル開度率VA又はブレーキ踏力とモータ負荷率とを対応づけるマップを、アクセル開度率VA(ステップ104の場合)又はブレーキ踏力(ステップ108の場合)によって参照することにより、モータ負荷率を決定する。図中、KAは力行時のモータ負荷率、KBは回生制動時のモータ負荷率である。また、ステップ106及び110では、モータ回転数Nと最大トルクTmax及び最小トルクTminとを対応づけるマップ200を、モータ回転数Nにて参照する。ステップ106では、この参照の結果得られる最大トルクTmaxにモータ負荷率KAを乗ずることにより、トルク指令Trefを決定する。ステップ110では、参照の結果得られる最小トルクTminにモータ負荷率KBを乗ずることにより、トルク指令Trefを決定する。
【0016】
(2)モータ負荷率KA決定手順の概要
本実施形態の特徴は、モータ14に係る出力制御装置特に制御装置16が、モータ負荷率KAを決定する際(104)実行する手順にある。図1に示されているスノースイッチ20は、雪道を登坂する際等に車両操縦者により操作されるスイッチであり、本実施形態におけるKA決定手順に関連している。
【0017】
まず、エンジンに比べモータは極低騒音であるから、その運転音を聴取することで運転状態を判別してアクセルペダルを操作する、という類の運転手法は、電気自動車では一般に困難である。他方で、既に述べたように、本実施形態に係る車両ではモータ14のロータ軸が駆動輪に直結している。従って、在来エンジン車両に比べた場合、アクセル操作に若干の難しさがある。この難しさは、平坦路や通常の路面状態下にある道路を走行する際には表だって現れない。しかし、雪が積もった坂道を登ろうとする際には、この難しさが現れてくる。即ち、雪道でアクセルペダルを踏み込みモータひいては駆動輪を回転させると、最初の回転により路上の雪が路面に固く押しつけられるため、それ以後はスリップしやすい路面状態になる。一旦この路面状態になると、走行特に登坂に難しさが生まれる。
【0018】
この現象に対する対策の一つとして本実施形態に係る車両で採用しているのは、スノースイッチ20の操作により力行時の指令決定論理を切り換える、という着想である。ここでいう指令決定論理とは、具体的にはステップ104においてアクセル開度率VAにて参照されるアクセル開度率対モータ負荷率マップ、より一般的に表現すれば、車両操縦者がモータ14に対して要求している出力即ち要求出力に応じてトルク指令Trefを直接的又は間接的に決定する際に使用されアクセル特性を定義する論理である。
【0019】
切換の対象となる指令決定論理即ちアクセル開度率対モータ負荷率マップの一例を、図3に示す。図3中、実線で示されているのはスノースイッチ20がオフしているときに支配的になるアクセル開度率対モータ負荷率マップであり、破線で示されているのはスノースイッチ20がオンしているときに支配的になるアクセル開度率対モータ負荷率マップである。実線のマップで定義されている特性は、例えば在来エンジン車両に搭載されているエンジンの特性を模擬した特性等、アクセルペダル操作に対する応答性即ち加速フィーリングを重視した特性にするのが好ましい。他方、破線のマップで定義されている特性は、雪の坂道を登るのに適する特性にする。具体的には、実線のマップに比べアクセル開度率VAに対するモータ負荷率KAの線形性を高くすると共に、アクセルペダル全開時(VA=100%のとき)のモータ負荷率KAを実線のマップに比べ低くすることにより(図中のδ。但し0<δ<100)、車両操縦者がアクセルペダル操作によってモータトルクをより好適にコントロールできるようにする。
【0020】
本実施形態では、更に、力行時の指令決定論理を切り換える手順に関し、いくつかの工夫を施している。
【0021】
まず、図3中で実線で示されているマップを参照して決定したときと、破線で示されているマップを参照して決定したときでは、アクセル開度率VAが同じであってもモータ負荷率KAは同じにならない。従って、スノースイッチ20が操作されるのに応じて直ちにマップ即ち指令決定論理を切り換えたとすると、図4において破線で示されるようにアクセル開度率KAやトルク指令Trefに急峻な変化が生じる。この変化を抑えよりなめらかな切換を実現するため、本実施形態では、図4にて実線で示されているように、トルク指令Trefの時間的変化に制限を施している。
【0022】
但し、スノースイッチ20の操作後マップ切換が終了するまでの遷移期間(図4参照)中、どのような原因によるものであってもモータ負荷率KAに時間的変化を許さないこととしてしまうと、不都合が生じる。例えば、スノースイッチ20が操作された後遷移期間が終わらないうちに車両操縦者がアクセルペダルを踏み込んだとき(又は踏み戻したとき)、遷移期間が終わらないうちはその踏み込み(又は踏み戻し)がモータトルクの発生・変化として現れないようでは、結局ドライバビリティが悪くなってしまう。そこで、本実施形態では、図5に示されているように、アクセル開度率VAの変化については直ちにモータ負荷率KAひいてはトルク指令Trefに反映させている。
【0023】
更に、アクセル開度率対モータ負荷率マップの切換がスノースイッチ20の操作のみに応じて行われるようにしたのでは、状況によっては不都合が生まれる。例えば図3に示したマップでは、破線で示されているスノースイッチオン時マップが、実線で示されているスノースイッチオフ時マップに比べ小さなモータ負荷率KAを与えている。即ち、スノースイッチ20がオンしている状態では、アクセル開度率VA及びモータ回転数Nが同じであれば、オフしている状態に比べ小さなモータトルクしか発生しない。従って、車両操縦者がスノースイッチ20をオンしたままオフし忘れていると、モータ14のパワー不足が生じる恐れがある。そこで、本実施形態では、車速具体的にはモータ回転数Nが上昇してきたら自動的にスノースイッチオフ時マップが支配的になるような制御を行っている(ソフトウエア的スイッチオフ制御)。言い換えれば、スノースイッチ20は車両操縦者が持っているマップ切換意志を制御装置16に伝える手段として使用されており、現在スノースイッチオン時マップとスノースイッチオフ時マップのいずれを支配的にさせるべきかに関しては、制御装置16内部でソフトウエア的に管理している。なお、車速がある程度高ければ、駆動輪が多少スリップしたとしても(即ち加速フィーリング重視のアクセル特性に従いモータトルクを制御したとしても)雪の坂道を登れることに、留意されたい。
【0024】
また、アクセル開度率対モータ負荷率マップの切換、この切換に伴うモータ負荷率KAの時間的変動の抑制、アクセル開度率VAの変化によるモータ負荷率KAの変化の許容、及びスノースイッチ20に関するソフトウエア的スイッチオフ制御といった特徴的構成・特徴的処理は、本実施形態では、スノースイッチオン時マップとスノースイッチオフ時マップの混合という手法によって又はこれをもとにして実現されている。
【0025】
ここでいう「混合」とは、スノースイッチオン時マップ(図3の例では破線)をアクセル開度率VAによって参照することによりモータ負荷率KAonを決定する処理と、スノースイッチオフ時マップ(図3の例では実線)をアクセル開度率VAによって参照することによりモータ負荷率KAoffを決定する処理とを、並行して又は相前後して実行し、その結果得られた2種類のモータ負荷率KAon及びKAoffを加重加算によって結合してモータ負荷率KAを求めることである。加重加算の際にモータ負荷率KAonに乗ぜられる重み1−Roffがモータ負荷率KAoffに乗ぜられる重みRoffより十分大きければスノースイッチオン時マップが支配的になり、逆に重み1−Roffが重みRoffより十分小さければスノースイッチオフ時マップが支配的になることから、本実施形態では、重みRoffを徐変させる操作をスノースイッチ20の操作に応じて開始させ、これによってアクセル開度率対モータ負荷率マップの実質的な切換やこの切換に伴うモータ負荷率KAの時間的変動の抑制を実現している。なお、以下の説明では、重みRoffをマップ混合比率と呼ぶ。
【0026】
更に、「混合」即ち加重加算の対象となる2種類のモータ負荷率KAon及びKAoffは、いずれも、アクセル開度率VAとモータ負荷率とを対応付けるマップを現在のアクセル開度率VAにて参照することにより、求められている。従って、アクセル開度率VAに変化が現れればモータ負荷率KAon及びKAoffにも変化が現れ、結果として一般にモータ負荷率KAひいてはトルク指令Trefにも変化が現れる。このように、遷移期間中に到来する複数の制御タイミング乃至制御周期毎にそのときのアクセル開度率VAに応じてモータ負荷率KAon及びKAoffを決めているため、本実施形態では、時々刻々と現れるアクセル開度率VAの変化をモータ負荷率KAにその変化として反映させることができる。
【0027】
更に、モータ回転数N即ち車速が上昇してきたときにスノースイッチ20がオフされていなくても自動的にスノースイッチオフ時用のアクセル開度率対モータ負荷率マップが支配的になるようにするというソフトウエア的スイッチオフ制御は、マップ混合比率Roffにモータ回転数Nに対する特性を持たせることにより実現している。より具体的には、モータ回転数Nが低いときにマップ混合比率Roffが小さくなり高いときに大きくなるようその内容が設定されているモータ回転数対マップ混合比率マップを、その時々のモータ回転数Nにて参照し、マップ混合比率Roffを決定することにより、ソフトウエア的スイッチオフ制御を実現している。また、この制御に際し、マップ混合比率Roffの変化に最小値ガードRminによる制限を課すことにより、モータ負荷率KAの変化を更に滑らかにしている。
【0028】
(3)モータ負荷率KA決定手順の流れ
図6に、本実施形態における制御装置16の動作のうち、モータ負荷率KAを決定するため図2中のステップ104にて呼び出されるルーチンの流れを示す。この図に示すルーチンでは、制御装置16は、まず最小値ガードRminを演算決定し(300)次にマップ混合比率Roffを演算決定する(302)。制御装置16は、シフトポジションがD又はBレンジである場合には(304)、マップ400Aを利用してモータ負荷率KAonを(306)、マップ400Bを利用してモータ負荷率KAoffを(308)、それぞれ決定し、そうでない場合(304)には、マップ400Cを利用してモータ負荷率KAonを(310)、マップ400Dを利用してモータ負荷率KAoffを(312)、それぞれ決定する。制御装置16は、モータ負荷率KAon及びKAoffを次の加重加算式
【数1】
KA=Roff・KAoff+(1−Roff)・KAon
により混合してモータ負荷率KAを求める(314)。
【0029】
図6の手順にて使用している4種類のマップ400A〜400Dは、いずれも、前述のアクセル開度率対モータ負荷率マップの類型である。各マップはアクセル開度率VAとモータ負荷率(KAon又はKAoff)の組合せを複数ポイント分含んでおり、ステップ306〜312においては、現在のアクセル開度率VAに近い少なくとも2ポイントからの(線形)補間によりモータ負荷率(KAon又はKAoff)を求める。また、マップ400Aは図3中の破線に相当するスノースイッチオン時用マップであり、マップ400Bは実線に相当するスノースイッチオフ時用マップである。マップ400C及び400Dもそれぞれスノースイッチオン時用又はスノースイッチオフ時用マップであるが、シフトポジションがD、B等でないときのみに使用すべくマップ400Bに比べ線形性が高いマップとしている。
【0030】
更に、ステップ300では、最小値ガードRminを決定すべく図7に示されているルーチンを呼び出す。このルーチンでは、制御装置16は、スノースイッチ20がオンしているかオフしているかを判定し(500)、オンしていれば最小値ガードRminを小さくする処理を(502)、オフしていれば大きくする処理を(504)、それぞれ実行する。具体的には、次の式
【数2】
Rmin←Rmin−KDKAon :スノースイッチオン時(502)
Rmin←Rmin+KDKAoff :スノースイッチオフ時(504)
ただし、KDKAon,KDKAoff:正の微小値(徐変量)
で示される処理を実行する。図7に示される手順は周期的に繰返し実行されるから、スノースイッチ20がオンしている場合ステップ502の繰返し実行によって最小値ガードRminは漸減していき、逆にスノースイッチ20がオフしている場合ステップ504の繰返し実行によって最小値ガードRminは漸増していく。制御装置16は、漸減の結果最小値ガードRminが0を下回ったときには(506)最小値ガードRminを0とし(508)、漸増の結果最小値ガードRminが100を上回ったときには(510)最小値ガードRminを100とする(512)。
【0031】
また、スノースイッチ20がオンしているかオフしているかを判定する前に、制御装置16は、シフトポジションがP、N等車両の走行を意図しないレンジに属しているか否か(514)及びアクセル開度率VAが所定時間T1以上に亘って0となっているか否か(516)を判定する。いずれかの条件が成立していれば、最小値ガードRminによるマップ混合比率Roffの制限を解除してもトルク急変等の支障は生じ得ないとみなせる。そこで、ステップ514及び516のいずれかの条件が成立している場合、制御装置16は、スノースイッチ20がオンしていれば(518)最小値ガードRminを0にし(520)、オフしていれば(518)100にすることにより(522)、最小値ガードRminによるマップ混合比率Roffの制限を実質的に解除する。
【0032】
また、マップ混合比率Roffを決定するためステップ302で呼び出されるルーチンでは、図8に示されるように、モータ回転数Nの絶対値即ち車速の絶対値にてマップ700が参照される(600)。マップ700はモータ回転数Nの絶対値乃至車速の絶対値をマップ混合比率Roffに対応付けるマップであり、図示の如く、低速域ではRoff=0(%)、高速域ではRoff=100(%)、その中間の速度領域では0(%)から100(%)へと徐々に遷移する速度特性をマップ混合比率Roffに与えている。制御装置16は、マップ700を参照することにより求めたマップ混合比率Roffを前述のステップ314にて使用する。但し、マップ混合比率Roffの変化を抑えるため、マップ混合比率Roffが最小値ガードRminを下回っている場合には(602)最小値ガードRminをマップ混合比率Roffとして(604)ステップ314を実行する。
【0033】
(4)他の実施形態
以上説明した実施形態では、マップの「混合」という手段を以て本発明を実施しているが、本発明はそれ以外の手段によっても実施できる。例えば、図9に示されている手順で制御状態が遷移するよう、本発明に係る出力制御装置を構成することもできる。
【0034】
図9中、800Aで示されているのはスノースイッチオフ時用のアクセル開度率対モータ負荷率マップが支配的な通常制御状態であり、800Cで示されているのはスノースイッチオン時用のアクセル開度率対モータ負荷率マップが支配的なスノーモード状態である。また、800Bで示されているのは通常制御状態800Aからスノーモード状態800Cへ移行する際にモータ負荷率KAを滑らかに変化させる制御が行われる特性変更開始状態であり、800Dで示されているのはスノーモード状態800Cから通常制御状態800Aへ移行する際にモータ負荷率KAを滑らかに変化させる制御が行われる特性変更終了状態である。
【0035】
通常制御状態800Aでは、スノースイッチオフ時用のアクセル開度率対モータ負荷率マップ(例えば図3中の実線)により決められる値KAoffが、トルク指令Trefを決めるためのモータ負荷率KAとして用いられている。また、特性変更開始状態800Bや特性変更終了状態800Dで用いられる積算用変数DKAは0にリセットされている。
【0036】
スノーモード状態800Cへの移行を始めるための条件が成立したとき(図1のシステムでいえばスノースイッチ20が車両操縦者により操作されかつそのときの車速(乃至モータ回転数N)の絶対値が所定値v1以下であるとき)、次の式
【数3】
DKA=DKA+KDKAon
KA=max(KAoff−DKA,KAon)
但し、max(・):最大値を求める関数
に示される処理即ちモータ負荷率KAを(アクセル開度率VAの変化による変化分を除けば)KDKAonずつ減少させていく処理が、KAoff−DKA<KAonの状態が所定時間T2以上続くか特性変更開始状態800Bが所定時間T3(但しT3はT2に比べ十分長い)以上続くかいずれかに至るまで、繰返し実行される。なお、モータ負荷率KAon及びKAoffが各時点のアクセル開度率VAに基づき逐次決定されること即ち図5に示されるようなアクセル操作に対する即応性がこれにより提供されていることに、留意されたい。その後のスノーモード状態800Cでは、スノースイッチオン時用のアクセル開度率対モータ負荷率マップ(例えば図3中の破線)により決められる値KAonが、トルク指令Trefを決めるためのモータ負荷率KAとして用いられている。また、積算用変数DKAは0にリセットされている。
【0037】
スノーモード状態800Cを終了させるための条件が成立したとき(図1のシステムでいえばスノースイッチ20が車両操縦者により操作されかつそのときの車速(乃至モータ回転数N)の絶対値が所定値v2以上であるとき)、次の式
【数4】
DKA=DKA+KDKAoff
KA=min(KAon+DKA,KAoff)
但し、min(・):最小値を求める関数
に示される処理即ちモータ負荷率KAを(アクセル開度率VAの変化による変化分を除けば)KDKAoffずつ増加させていく処理が、KAon+DKA>KAoffの状態が所定時間T4以上続くか特性変更終了状態800Dが所定時間T5(但しT5はT4に比べ十分長い)以上続くかいずれかに至るまで、繰返し実行される。
【0038】
このような手順によっても、前述した実施形態において得られていた機能乃至効果、即ち雪の坂道の登坂等の際のアクセルコントロール性の向上、指令決定論理の滑らかな切換、アクセル操作への即応性の維持、ソフトウエア的なスイッチオフ制御等を、実現することができる。
【0039】
(5)補遺
以上の実施形態ではマップを指令決定論理として用いていたが、数式を指令決定論理として使用することも可能である。また、アクセル開度率VAからモータ負荷率KAを決定しこのモータ負荷率KAとモータ回転数Nとからトルク指令Trefを決定するという手順を用いていたが、本発明を実施する際には、アクセル開度率VAとモータ回転数Nとからトルク指令Trefを決定するという手順を用いてもよい。その場合、“指令決定論理”に相当するのは、例えば、アクセル開度率VA、モータ回転数N及びトルク指令Trefを対応づける三次元のマップである。また、マップの「混合」を実現する手法として加重加算を示したが、単純な加重加算以外の手法を「混合」のため用いることもできる。
【0040】
また、本発明の適用対象は図1に示す車両には限定されない。例えば、交流モータではなく直流モータを車両推進用に使用する車両や、インバータではなくチョッパを使用する車両等にも、本発明を適用できる。更に、本発明の適用対象は、いわゆる純粋な電気自動車に限定されるものではない。例えば、駆動輪側からみてモータと並列に連結されているエンジン等の動力源を備えるパラレルハイブリッド車や、モータへ駆動電力を供給しかつバッテリを充電する手段として使用可能なエンジン駆動発電機等の電力源を備えるシリーズハイブリッド車や、パラレルハイブリッド車とシリーズハイブリッド車とを複合させた形態を有する車両にも、本発明を適用できる。
【0041】
加えて、本発明の適用対象は雪の坂道の登坂には限定されない。即ち、本発明は、搭載している複数の指令決定論理の間での切換・遷移が行われるような制御方法を採用している車両であれば適用できる。例えば、エンジンとモータが駆動輪側からみて並列に連結されているパラレルハイブリッド車において、エンジン側の運転状態に応じてモータ側の運転状態を切り換えるため、モータに係る指令決定論理を切り換えるようなケースにも、本発明を適用できる。また、共通のモータから各駆動輪にトルクを供給する四輪駆動車において、4個の駆動輪全てを駆動するモードとそのうち2個の駆動輪のみを駆動するモードとの切換のため、モータに係る指令決定論理を切り換えるようなケースにも、本発明を適用できる。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、指令決定論理に関する切換要求が検出されたとき、第1及び第2の出力指令値を決定し、前時点における出力指令の値に対し有意な変化を示すことがないよう出力指令の値の時間的変化に制限を課しながら、これら第1及び第2の出力指令値に基づきモータに対する出力指令の値を決定する、という処理を、少なくとも指令決定論理の切換が終了するまでの遷移期間中に繰り返して実行するようにしたため、指令決定論理の切換に伴う出力指令の値の急変を防止できなめらかな変化にすることができる。更に、遷移期間中の各時点における要求出力に応じて各時点毎に第1及び第2の出力指令値を決定するようにしたため、遷移期間中に要求出力に変化が現れたときには上述の制限にもかかわらず要求出力の変化に伴う変化が出力指令の値に現れることとなり、ドライバビリティの悪化を防止できる。
【0043】
更に、第1の出力指令値と第2の出力指令値とを加重加算しモータに対する出力指令の値を決定するようにすれば、第1の出力指令値と第2の出力指令値の間の差が小さい場合モータに対する出力指令値の単位時間当たり増加又は減少量が小さくなるため、モータ出力に関しよりなめらかな変化を実現できる。また、加重加算に際して用いる重みをその時間的変化量に制限を施しながら各時点毎に更新決定する様にすれば、第1の出力指令値と第2の出力指令値の間の差が大きい場合でもモータに対する出力指令値の増加又は減少速度を抑えることができ、モータに対する出力指令の値の変化が抑えられる。更には、加重加算に際して用いる重みを車速に応じてかつ各時点毎に更新決定する様にすれば、例えば車速が低い領域では第1の指令決定論理、高い領域では第2の指令決定論理というような車速に応じた指令決定論理切換をあわせて実現でき、また車速の変化に応じて自動的にそれまでの指令決定論理から脱し他の指令決定論理に移行することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実施するのに適する電気自動車のシステム構成を示すブロック図である。
【図2】制御装置の概略動作を示すフローチャートである。
【図3】アクセル開度率対モータ負荷率マップの一例を示す図である。
【図4】指令決定論理の切換に際しての処理を説明するためのタイミングチャートである。
【図5】指令決定論理の切換に際しての処理を説明するためのタイミングチャートである。
【図6】力行時のモータ負荷率を決定するルーチンを示すフローチャートである。
【図7】最小値ガードを決定するルーチンを示すフローチャートである。
【図8】マップ混合比率を決定するルーチンを示すフローチャートである。
【図9】他の実施形態における制御手順を示す制御状態遷移図である。
【符号の説明】
10 バッテリ、12 インバータ、14 モータ、16 制御装置、20 スノースイッチ、VA アクセル開度率、KA,KAon,KAoff モータ負荷率、Rmin 最小値ガード、Roff マップ混合比率、Tref トルク指令。
Claims (4)
- 車両を推進するためのモータに対する出力指令の値を、要求出力に応じかつ所与の指令決定論理に従い直接的又は間接的に決定し、この出力指令に基づき上記モータの出力を制御する出力制御装置において、
上記指令決定論理に関する切換要求を検出する手段と、
上記切換要求が検出された後少なくとも指令決定論理の切換が終了するまでの遷移期間中の複数の時点それぞれについて、その時点における要求出力に応じかつ切換元の指令決定論理に従い第1の出力指令値を、またその時点における要求出力に応じかつ切換先の指令決定論理に従い第2の出力指令値を、逐次決定する手段と、
上記切換要求が検出された後少なくとも上記遷移期間が終了するまでの間、上記第1及び第2の出力指令値に基づき、かつ前時点における要求出力に対し現時点における要求出力が差を有していない限り前時点における出力指令の値に対し有意な変化を示すことがないよう、上記モータに対する現時点における出力指令の値を決定する指令除変手段と、
を備えることを特徴とする出力制御装置。 - 請求項1記載の出力制御装置において、上記指令除変手段が、上記第1の出力指令値と上記第2の出力指令値とを加重加算し上記モータに対する出力指令の値を決定する手段を含むことを特徴とする出力制御装置。
- 請求項2記載の出力制御装置において、上記指令除変手段が、上記加重加算に際して用いる重みをその時間的変化量に制限を施しながら各時点毎に更新決定する手段とを含むことを特徴とする出力制御装置。
- 請求項2又は3記載の出力制御装置において、上記指令除変手段が、上記加重加算に際して用いる重みを車速に応じてかつ各時点毎に更新決定する手段を含むことを特徴とする出力制御装置。
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