JP3581333B2 - 超音波パルスのエコー高さを利用した配管内面腐食の形状寸法の推定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超音波パルスのエコー高さを用いた配管内面の自動腐食検査技術に関する。すなわち、超音波探傷法による配管内面の自動腐食検査において、反射面から得られるエコー高さから局部腐食の形状、位置、及び大きさを推定し、短時間で高精度な配管劣化診断を行うための技術を提供する。
【0002】
【従来の技術】
超音波探傷法による自動腐食検査において、局部腐食の要素である形状と大きさを推定するための技術はいくつか提案されているが、形状判別については特別な超音波探触子を使用するため装置が高価になることや、予め多種の形状とエコー情報との対応関係を求めておかなければならないなどの問題があり、大きさ推定については形状による反射率の変化を考慮していないため推定値の精度が低いなどの問題がある。
【0003】
従来例1:DGS法「新非破壊検査便覧」(社)日本非破壊検査協会編、(日刊工業新聞社発行)では、傷の寸法が傷の位置での超音波ビーム幅より小さくビームに垂直に位置する場合には、傷の面積と欠陥エコー高さが比例するので、最大エコー高さを測定してDGS線図を用いた傷寸法(円形等価寸法)の推定ができる。基準とする反射源のエコー高さには、試験体の底面エコー高さ、あるいは標準試験片か対比試験片の標準穴のエコー高さが用いられる。
この従来技術では、傷の寸法が超音波ビーム幅より大きいものについては欠陥エコー高さと傷寸法の相関がなくなるため推定できないという問題点がある。
【0004】
従来例2:デシベルドロップ法および閾値法「新非破壊検査便覧」(社)日本非破壊検査協会編、(日刊工業新聞社発行)では、傷の寸法が傷の位置での超音波ビーム幅より大きい場合、探触子を移動して得られる欠陥エコーについて、最大エコー高さからDeデシベルだけ低い高さ以上のエコー高さが現れる探触子の移動距離を、欠陥の大きさとする方法がデシベルドロップ法、エコー高さがある閾値以上に現れる探触子の移動距離を、欠陥の大きさとする方法を閾値法という。
この従来技術では、腐食形状と大きさによって測定位置と欠陥エコー高さとの関係が異なるため、統一のDe値や閾値では測定精度にばらつきを生じるという問題点がある。
【0005】
従来例3:ウェーブレット変換を用いた配管腐食診断システム「日本機械学会論文集C編、64巻625号、1998年9月、No.97−0912」では、3種類の人工腐食を施した基準配管において腐食位置より得られるエコーデータから、ウェーブレット変換により各反射源からのエコーを抽出し、欠陥エコー高さを横軸に、底面エコー高さを縦軸に取った座標にプロットし、線形分離によって腐食形状ごとに領域分割をする。そのグラフ(腐食平面)を用いて得られるエコーデータの欠陥エコー高さと底面エコー高さから形状の分類を行う。
この従来技術では、予め既知の人工腐食配管で腐食平面を作成しておく必要があること、腐食の大きさが超音波のビーム径を超える場合の分類について検討が不十分である、などの問題点がある。
【0006】
特開2001−4602号「超音波探傷方法および装置」では、収束型超音波探触子を用いて被検査材の微小欠陥を検出し、欠陥の種類を判別するに際し、探触子にアレイ探触子を用いて各振動子を選択的に動作させることで大きな振動子径と小さな振動子径の2種類の探触子で探傷を行い、両方の振動子で検出される欠陥を気泡とし、大径の探触子では検出できるが小径の探触子では検出できない欠陥を非金属介在物と判定し、エコー高さ情報のみで欠陥を弁別する。これは気泡と非金属介在物の音圧反射率の違いを利用しており、音圧反射率の大きい気泡は大径と小径の探触子両方で検出されるが、音圧反射率の小さい非金属介在物は、振動子径が小さい、すなわちある収束角度以下の探触子で探傷すると検出されないかエコー高さが小さいことを利用している。
この従来技術では、アレイ探触子を特別の仕様にあわせて製作しなければならず、入手が困難で高価だという問題点がある。
【0007】
特開平11−118776号「扇形走査式超音波検査装置」は、アレイ探触子により扇型に走査する超音波検査装置を用いて、超音波ビームの指向方向に対応する色又は濃淡に階調化された画像で欠陥を表示することにより、欠陥の種類を判別する方法である。扇形走査式アレイ探触子は、ビームの指向方向に反射されたエコーのみを検出できるので、受信回路部では得られたエコー信号の指向方向を検出することができる。したがって、エコーの指向方向に応じてエコー信号の像を色又は濃淡に階調化しこれを表示することによって、色パターンから欠陥の種類を判別することができる。色パターンは、予め欠陥の種類がわかっている試験片を探傷することによって得られるので、欠陥に応じた色パターンを記憶しておき、得られるエコー信号の像と比較することにより欠陥の種類を自動的に判別することができる。
この従来技術では、アレイ探触子を特別の仕様にあわせて製作しなければならず入手が困難で高価になることと、予め欠陥に応じた色パターンを用意しておく必要があるという問題点がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、配管内面の腐食を調べる超音波探傷法において腐食の形状と寸法に依存しない寸法推定を可能とする方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、短時間で高精度な配管劣化診断を行う方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、市販されている探触子を利用して低コストで配管劣化診断を行う方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述した目的を達成するため、本発明は、
A 超音波パルス反射法によって配管内面の局部腐食の位置を推定する方法
B 超音波パルス反射法で得られる欠陥エコー高さと欠陥エコーの多重エコー高さによって配管内面の局部腐食の形状を推定する方法
C 超音波パルス反射法で得られる底面エコー高さによる反射の減少量によって局部腐食の存在を認識する方法
D 超音波パルス反射法で得られる欠陥エコー高さと底面エコー高さの比を用いることによって配管内面の局部腐食の大きさを推定する方法、を提供する。
【0010】
より具体的には、本発明では市販の超音波探触子を使用し、
A 欠陥エコー高さを用いて局部腐食の位置を推定する技術
B 欠陥エコー高さと多重エコー高さから局部腐食の形状を推定する技術
C 底面エコー高さによる反射量を用いて微小な腐食の存在を確認する技術
D 欠陥エコー高さと底面エコー高さの比から局部腐食の大きさを推定する技術、を提供する。
【0011】
まず最初に、超音波探傷法によって配管表面を等間隔で格子状にエコーデータをサンプリングして、代表的な3種類の局部腐食形状(潰食、孔食、溝食)を模擬した人工腐食を推定する。
A 腐食位置の推定方法
腐食中心位置においては欠陥エコー高さが極大となるので、全測定データについて欠陥エコー高さの極大値探索を行うことにより腐食中心位置を推定する。
B 腐食形状の推定方法
反射面の形状によってエコーの散乱程度が異なるので、形状により欠陥エコー高さ及びその多重エコー高さは異なる。そこでまず閾値処理により2つのエコー高さから潰食を分類する。そして腐食の広がり方の違いを利用して孔食と溝食を分類する。
【0012】
C 局部腐食の存在確認方法
腐食の存在により超音波ビーム内の配管内面の面積が減少するため、底面エコー高さが腐食がない場合に比べて小さくなる。これを利用して微小な腐食の存在を確認できる。
D 腐食の大きさの推定方法
形状によるエコー高さへの影響を考慮し、大きさを評価するパラメータとして、r=(1+f)/(1+b)、ここでfは欠陥エコー高さ、bは底面エコー高さ、を用いる。これを腐食位置から配管軸方向及び円周方向それぞれに隣接する測定点におけるエコーデータについて計算し各方向の和Ra、Rcの相加平均Rをもって大きさを評価する。各腐食形状について求めた腐食大きさとパラメータとの関係を利用して任意の腐食の大きさを推定する。
【0013】
【作用】
本発明による腐食の推定方法によれば、
1 予め比較用のデータを用意しておく必要がない
2 多重エコー高さを用いることにより大きい腐食に対しても分類が可能
3 市販の垂直探触子によって実現できるため、低コストで実施できる
4 局部腐食の存在を確認できる
5 腐食の形状と寸法に依存しない寸法推定が可能
6 予め用意した人工腐食について腐食形状ごとに欠陥エコー高さと腐食の大きさとの関係を求め、その関係から寸法を推定するので精度にばらつきや変動がない
7 局部腐食の位置を推定できる、などの作用効果が得られる。
以下、本発明による好適な実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1〜10は、本発明を適用した例として、超音波探傷法のパルス反射法の垂直法によって、配管表面を等間隔で格子状にエコーデータをサンプリングする場合のデータ処理方法を扱う。配管内面に発生する代表的な局部腐食のモデル形状として、図1に示す3種類を推定の対象とした。(a)が平底穴型(または潰食)、(b)が丸底穴型(または孔食)、(c)がV溝型(または溝食)である。腐食形状の推定には、腐食中心位置におけるデータとその点を中心として配管軸方向及び周方向に連続する測定点におけるデータを使用する。そのため、配管を全面測定して得られたデータから腐食中心位置におけるデータを抽出する必要がある。
【0015】
A 局部腐食の位置の推定方法
腐食の中心位置においては欠陥エコー高さが極大となるので、全測定データについて欠陥エコー高さの極大値探索を行いそのデータを腐食中心位置におけるデータとする。ここで、配管軸方向に連続する測定点において欠陥エコー高さがほとんど変化しない場合は、欠陥エコー高さが閾値以内である測定点列の中央の点を腐食中心位置とする。
【0016】
B 局部腐食の形状推定方法
図2に反射面によるエコーの名称を、図3にエコーデータをそれぞれ示す。超音波パルスが各腐食に入射されると、図4に示すように腐食形状の違いからエコーの散乱の程度が異なる。その結果、局部腐食の頂部で反射される超音波のエネルギー量は(a)の平底穴型が最も大きく、そのため欠陥エコーの高さは(a)平底穴型の場合が他の2つに比べて高くなる。したがって、欠陥エコーのエコー高さを用いて(a)平底穴型かそれ以外かの推定ができる。しかし、(b)丸底穴型であっても、腐食サイズが大きくなると球面の曲率も大きくなるので、反射時の散乱が減少し欠陥エコー高さが大きくなり、(a)平底穴型との区別が困難になる。そこで図3に示す多重エコーの高さを利用する。
多重エコーは伝播による減衰と反射時の散乱によりエコー高さが減少するが、(a)平底穴型に比べて(b)丸底穴型は散乱が大きいため多重エコー高さが小さくなる。よって欠陥エコー高さに加えて多重エコー高さを推定のパラメータとすることによって、曲率の大きな(b)丸底穴型についても(a)平底穴型の腐食と区別することができる。
【0017】
次に(b)丸底穴型と(c)V溝型との区別は、腐食の広がり方の違いを利用する。(c)V溝型は溝状腐食を想定したものであり、配管軸方向に細長く生成されるため、配管軸方向に連続測定した場合、欠陥エコー高さがほとんど変化しないエコーデータが観測される。そこで、腐食中心位置における欠陥エコー高さと、中心位置から連続する測定点における欠陥エコー高さの差が閾値以内である測定点の個数を、配管軸方向と周方向それぞれについてカウントし、個数の比が1対2以上である場合を(c)V溝型、1対2未満である場合を(b)丸底穴型と推定する。
【0018】
C 局部腐食の存在確認方法
上述のように、欠陥エコー高さを利用することによって、局部腐食形状を推定することができる。しかし、腐食サイズが小さい場合、欠陥エコーが観測されないことがあり、腐食検査においては局部腐食を見落としてしまうことが考えられる。そこで欠陥エコーが観測されない場合、底面エコー高さを利用して腐食の存在を確認する。
エコー高さは入射方向に垂直な反射源の面積に依存する。図5のように超音波の伝播域内に腐食が存在すると、底面エコーの反射源となる配管内面の面積が減少するので、底面エコー高さは腐食が存在しない場合に比べて小さくなる。したがって欠陥エコーが観測されない微小な腐食でも底面エコー高さを観測することで腐食の存在を確認することができる。
【0019】
D 腐食の大きさの推定方法
上述のように、エコー高さは入射方向に垂直な反射面の面積に依存する。よって欠陥エコー高さに腐食の大きさを関係付けることは可能である。しかし、腐食が大きくなり超音波のビーム径を超過してしまうと、欠陥エコー高さは変化しなくなってしまう。また、(b)丸底穴型や(c)V溝型の腐食においては、欠陥エコーが小さく腐食の大きさによるエコー高さの変化が顕著に現れにくい。そこで、欠陥エコー高さと底面エコー高さの比を用いて腐食サイズの指標とする。ここでは、エコー高さの比rを、r=(1+f)/(1+b)、と定義する。ここでfは欠陥エコー高さ、bは底面エコー高さ、とする。分母と分子に1を加えているのは、どちらかの欠陥エコーが観測されない場合、つまりエコー高さが0になる場合でも、もう一方のエコー高さの変化がrに反映されるようにするためである。
【0020】
しかしこれを腐食中心位置で算出するだけでは、大きい腐食の場合にパラメータの値が変化しなくなることの解決にはならない。そこで図6に示すように、配管軸方向と周方向それぞれについて腐食位置を中心に腐食が存在する範囲、つまり前述の腐食形状推定方法により正常状態(底面エコー高さに変化がない)と推定される点までの間にある測定点においてrをそれぞれ算出し、それぞれの方向について下記の式から和Ra、Rcを求め、さらに求められた2つの値の相加平均Rをもって腐食の大きさを表すパラメータとする。
【0021】
【数2】
ここで、Ra、Rcはそれぞれ配管軸方向、周方向のrの合計を表す。また、m,nはそれぞれの方向における腐食が存在する範囲内の測定点の個数を表す。このRを予め形状と大きさが既知である腐食について求め、Rに対する腐食の大きさを形状ごとにプロットし、最小2乗法により直線近似して得られる式を用いて大きさの推定を行う。
ここで(c)V溝型腐食については周方向の幅WをRcのみで推定する。軸方向長さは、形状推定の際に求めた周方向と軸方向の比(2以上)と測定ピッチの積とする。
【0022】
上記の方法をまとめて、自動で腐食形状の推定を行うためのフローチャートを図7に示す。この中で使用されている閾値L1からL4は、超音波探傷器の設定や探触子など測定器の設定によって異なるため、予めキャリブレーションをして決定する。
【0023】
【実施例】
サイズ50Aの鋼管の内面に表1に示すような大きさの人工腐食を機械加工により施した。深さHはすべて2mmとする。これを用いて腐食の大きさのパラメータRa,Rc,及びRを求めた。図8から図10にパラメータとその近似式を示す。そして別の50A鋼管の内面に3種類の人工腐食を施して、軸方向と周方向にそれぞれ1mmピッチで格子状にエコーデータを測定した。それらのデータについて上述の方法により腐食の形状と大きさを推定した。人工腐食のサイズとその推定結果を表2に示す。これらの結果は、オンサイトで短時間に求められる。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【発明の効果】
以上詳細に説明した如く、本発明による腐食の推定方法によれば、配管内面の局部腐食の位置、形状、存在が短時間で高精度に求められるので、
(1)配管劣化診断が低コストで正確に行うことができる
(2)適切なリニューアル提案ができる
(3)定期検査によって腐食原因の推定ができる
(4)配管寿命予測が正確にできる、などの利点が得られ、その技術的効果には極めて顕著なものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】超音波探傷で検出する局部腐食のモデル形状を表す概略図である。
【図2】反射面におけるエコーの種類を表す概略図である。
【図3】超音波探傷で検出するエコーデータを表すグラフである。
【図4】超音波エコーの散乱の状態を表す概略図である。
【図5】超音波探傷の探触子による超音波ビーム径を表す概略図である。
【図6】超音波探傷で検出する軸方向と周方向の腐食状態を表す概略図である。
【図7】本発明による推定方法の工程を表す流れ図である。
【図8】腐食のパラメータと腐食の大きさを推定する近似直線のグラフである。
【図9】腐食のパラメータと腐食の大きさを推定する近似直線のグラフである。
【図10】腐食のパラメータと腐食の大きさを推定する近似直線のグラフである。
Claims (2)
- 超音波探傷法によって配管内面の腐食状態を自動的に検査し腐食を推定する方法であって、
等間隔で格子状に超音波エコーデータをサンプリングして、代表的な3種類の局部腐食形状として潰食、孔食、溝食を模擬した人工腐食のデータを予め用意し、
超音波探触子による測定を行い、
前記人工腐食のデータによってあらかじめ設定した閾値処理により欠陥エコー高さとその多重エコー高さの2つのエコー高さから潰食を分類し、さらに欠陥エコー高さの広がりを閾値処理によって分類し腐食の広がり方の違いから孔食と溝食を分類することを特徴とする腐食の推定方法。
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