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JP3566930B2 - 大気環境中において変色を生じにくいチタンおよびその製造方法 - Google Patents

大気環境中において変色を生じにくいチタンおよびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、屋外用途(屋根、壁など)に使用される場合に、大気環境中において変色を生じにくいチタンおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
チタンは、大気環境において極めて優れた耐食性を示すことから、海浜地区の屋根、壁のような建材用途に用いられている。チタンが屋根材等に使用されはじめてから約10数年を経過するが、これまで腐食が発生したと報告された例はない。しかしながら使用環境によっては、長期間に渡って使用されたチタン表面が暗い金色に変色する場合がある。変色は極表面層に限定されることから、チタンの防食機能を損なうものではないが、意匠性の観点からは問題となる場合がある。変色を解消するには、チタン表面を硝フッ酸等の酸を用いてワイピングするか、研磨紙、研磨剤を用いた軽い研磨で変色部を除去する必要があり、屋根のごとく大面積なチタン表面を処理する場合には、作業性の観点から問題がある。
【0003】
チタンに変色が発生する原因については、未だに十分に解明されているわけではないが、大気中に浮遊するFe,C,SiO等がチタン表面に付着することによって発生する場合と、チタン表面の酸化チタンの膜厚が増加することによって発生する可能性が示唆されている。また変色を軽減する方法として、特開2000−1729号公報に開示されるように、チタン表面に100オングストローム以下の酸化膜を有し、かつ表面炭素濃度を30at%以下としたチタンを適用することが有効であると報告されている。
【0004】
しかしながら発明者らが、変色を防止するために日本各地において変色を生じたチタン製の屋根材の表面分析ならびに変色促進試験を用いて、変色に及ぼす酸化膜の厚さおよび表面の炭素濃度の影響を丹念に検討した結果、特開2000−1729号公報に記載の発明によっても変色が十分に防止されておらず、大気環境で使用されるチタンに発生する変色を抜本的に解決する手段は、現在まで存在していない状態にある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑み、チタンを屋根、壁材のような大気環境中で使用した場合に発生する変色を防止し、長期間に渡って意匠性が劣化することのない、大気環境中において変色を生じにくいチタンおよびその製造方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
発明者らが、日本各地において変色を生じたチタン製の屋根材の表面分析ならびに変色促進試験を用いて、変色に及ぼすチタン表面組成の影響を丹念に検討した結果、チタン表面の炭素濃度、あるいはチタン炭化物、チタン炭窒化物および窒化チタンの存在によってチタンの変色が促進されることを見出した。また、表面に比較的厚い酸化膜を形成することは、耐変色性を向上させるのに有効に作用することを見出した。
【0007】
本発明は、かかる知見を基に完成したものであって、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)最表面から100nmの深さの範囲における平均の炭素濃度が3.5 at %以上14at%以下であり、かつ、最表面に12〜40nmの酸化膜を有することを特徴とする大気環境中において変色を生じにくいチタン。
(2)表面のX線回折において、チタンの(110)ピーク強度X2 に対するTiCの (200)ピーク強度X1 の比(X1 /X2 )が、0.1以上0.18以下であり、かつ、最表面に12〜40nmの酸化膜を有することを特徴とする大気環境中において変色を生じにくいチタン。
(3)表面に干渉色を生ずる酸化膜を有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタン。
【0008】
(4)冷間圧延後、真空中あるいは不活性ガス中で焼鈍し、しかる後に、チタン表面を機械的あるいは化学的に1.5μm以上除去することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタンの製造方法。
(5)冷間圧延後、その表面を機械的あるいは化学的に0.5μm以上除去し、しかる後に、真空中あるいは不活性ガス中で焼鈍することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタンの製造方法。
(6)冷間圧延後、pHが11〜15のアルカリ溶液中にて電流密度0.05〜5A/cm2 の範囲で5秒以上の電解洗浄を行い、しかる後に、真空中あるいは不活性ガス中で焼鈍することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタンの製造方法。
(7)前記(4)乃至(6)のいずれか1項に記載の製造方法の後処理として、電解質溶液中で陽極酸化するか、もしくは大気中で加熱酸化する処理を、さらに行うこと特徴とする前記(3)に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタンの製造方法。
(8)前記(4)乃至(7)のいずれか1項に記載の製造方法において、表面を100〜550℃の水蒸気に10秒〜60分の間接触させる水蒸気処理を1回以上さらに行うことを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタンの製造方法。
(9)前記(8)に記載の製造方法において、前記水蒸気処理が製造工程の最終工程で行われることを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタンの製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
一口に大気環境と言っても、その環境は海浜から工業地帯、田園地帯と地域によって全く異なっており、チタンの変色に及ぼす環境因子が異なることが考えられる。また同じ地域においても、変色を生じるチタンと生じにくいチタンとがあり、チタン中の成分元素あるいは製造履歴の違いによる影響を受けている可能性が考えられる。
【0010】
本発明者らは、チタンの変色に及ぼすこのような環境の影響および材質要因を明らかにするため、日本各地において環境の異なる地域を選別し、各種の表面仕上げを施したチタンの曝露試験を実施すると共に、実際に変色を生じたチタン製屋根を取り外し、チタン表面の分析を実施した。
【0011】
このような検討を続けた結果、図1に示すように、チタンの変色は、チタン表面の炭素濃度の高いものほど生じやすいことを見いだした。図1は、沖縄で4年間の曝露試験を実施したチタン板の試験前後の色差の測定結果と、オージェ分光分析器を用いて計測したチタン表面より100nmの範囲の平均炭素量との関係を示したものである。また変色を促進する環境因子としては、酸性雨の影響が大きいことを明らかにした。
【0012】
本発明では、前記(1)に示すように、チタン表面の炭素濃度を規定するが、チタン表面に存在する炭素は、チタンが大気環境中で使用された際に、チタンの溶出速度を増加させ、その結果チタン表面の酸化チタンの膜厚が増加し、干渉色を生じ、着色を発生させると考えられることによる。炭素量については、図1に示したように、最表面から100nmの範囲における炭素量が14at%以下の領域で変色の発生が抑制されることから、炭素濃度は14at%以下にする必要がある。
【0013】
チタン中の炭素の固溶限は、700℃で約1at%であり、加圧中でチタンを溶解しない限り、変色を促進する量の炭素がチタン中に侵入することはない。チタン中へ炭素が侵入するのは、例えば冷延中に圧延油が分解しチタン表面に侵入し、さらに焼鈍あるいは真空焼鈍を実施される場合や、イオンスパッタリング、加速器、蒸着あるいは放電加工機等によってチタンの表面層に炭素が侵入する場合が当てはまる。
これらの場合においても、チタン表面への炭素の侵入が極めて表面層に限定されるならば、変色を促進するほどの影響はない。すなわち、炭素のチタン表面への侵入深さが極表面層に限定されれば(例えば10nm未満)、これらの表面層のチタンの溶出速度が増加したとしても、チタン酸化物を形成し、干渉作用によって着色することはないため、大きな問題とはならない。
【0014】
しかしながら、チタン表面での炭素の濃化層が数10nmを超える場合には、干渉作用によって着色を生じることになる。本発明では、表面より100nmの平均炭素濃度と変色との間に極めて良好な関係が得られることから、表面より100nmの範囲における平均の炭素濃度を14at%以下とすることによって耐変色性を飛躍的に向上させることができる。これに加えて、最表面に比較的厚い酸化膜を形成させることによって、さらに耐変色性を飛躍的に向上させることができる。
【0015】
このような特性を有する酸化膜の厚みは、少なくとも12nm以上は必要となる。12nm未満では十分な保護機能を発揮することができない。ただし、酸化膜厚みが40nmを超える場合は、酸化膜に作用する応力が増大し、部分的にクラックが発生して保護機能が低下するため、酸化膜厚みは40nm以下とする必要がある。最も望ましい酸化膜厚みは20〜30nmの範囲である。
【0016】
このようなチタン表面への炭素の侵入の有無は、オージェ分光分析装置を用いて測定することができる。すなわち、チタン表面より例えば5nmあるいは10nmの間隔でオージェ分析を行い、少なくとも100nm以上の深さまで測定を実施し、それらの平均値を用いて平均炭素濃度とすることができる。
【0017】
チタンの変色は炭素の存在によって促進されるが、炭素がチタンと結合してチタン炭化物を形成する場合においても、チタンの変色は促進される。このようなチタン炭化物は、多くの場合、TiCであるが、量的にはTiCより少ないものの、TiCあるいはTi(Cx N1−x )のように炭化物中のチタン濃度が高いものおよび窒素を含有するものも存在する。ただし、TiCが量的に最も多い炭化物であり、TiCの存在量を低減することによって、他のチタン炭化物およびチタン炭窒化物の存在量も低減することができる。これを定量的に把握するためには、前記(2)に規定するように、表面のX線回折において、チタンの(110)ピーク強度X2 に対するTiCの(200)ピーク強度X1 の比(X1 /X2 )が、0.18以下となるようにする。
【0018】
図2は、チタン表面からの情報が得られる薄膜X線回折装置を用いて、チタン表面のTiCの(200)のX線ピーク強度(X1 )と、金属チタンの(110)ピーク強度(X2 )との比(X1 /X2 )と実験室での変色促進試験における試験前後の色差との関係を求めたものである。TiCの存在比が0.18を超える場合に色差の値が増加する、すなわち変色が促進されていることが分かる。
【0019】
薄膜X線回折測定は、理学電機株式会社製のRINT1500を用いて行った。管球はCu製で(管電圧は50KV、管電流は150mA)、薄膜アタッチメントを用い、試料表面に対する入射角が0.5度の条件で測定を行った。広角ゴニオメーターの発散スリット、散乱スリットおよび受光スリットは、それぞれ0.40mm、8.00mmおよび5.00mmを用いた。またモノクロメーターを使用し、モノクロメーターの受光スリットは0.60mmとした。試験片は40回転/分の回転速度で面内回転し、走査速度が2度/分の条件で測定を行った。
以上のように、チタン表面でのチタン炭化物の析出量を低減することによって、チタンの耐変色性を大幅に向上させることが可能となる。
【0020】
チタン表面でのチタン炭化物の同定は、試験片表面を断面方向から透過電子顕微鏡観察することによっても行うことができる。ただしこの場合、変色の発生の有無とチタン炭化物の析出量、サイズとの定量関係を明らかにすることは、観察領域が局所に限られることもあって必ずしも容易ではない。従って本発明では、薄膜X線測定のように比較的広い面積の表面層を測定する手法を採用する。ただし、透過電子顕微鏡を用いてチタン表面の相当面積を観察し、チタン炭化物の析出が全く観察されない場合は、勿論優れた耐変色性を示す。
【0021】
大気環境中においてチタンが使用される形態として、チタン板あるいは帯の場合が多い。前記(4)においては、このような形態を取るチタンに関して変色しにくい製造法を開示する。通常、屋外用途に用いられるチタン板および帯は、冷間圧延によって所定の厚みにまで冷延され、その後650℃から850℃付近の温度域で焼鈍を受け、各種の加工ができるように素材の軟質化が図られる。このような製造工程を経て製造されるチタン板および帯は、冷間圧延油のチタン表面への残存に起因し、チタン表面に炭素が侵入してチタン板の変色を促進する場合がある。
【0022】
このような場合には、チタン表面近傍の炭素の濃化した領域およびチタン炭化物、チタン炭窒化物および窒化チタンが析出している領域を機械的あるいは化学的に除去することによって、チタンの耐変色性を大幅に向上することができる。
機械的な除去は、研磨あるいはブラスト等を用いて表面層を剥離させる方法が採用でき、また化学的な除去法については、チタンが溶出する酸性溶液中あるいはアルカリ溶液中にチタンを浸漬することによって達成できる。
ただし、機械的あるいは化学的な除去法にしろ、炭素の侵入している領域は1μmオーダーはあるため(チタン表面への炭素の侵入深さは熱処理温度、時間に依存する)、1.5μm以上の深さのチタンを除去することが不可欠となる。効率的にチタンを溶解させる方法としては、硝酸とフッ酸の混酸溶液中にチタンを浸漬する手法が特に好ましいものである。
【0023】
また、変色しにくいチタンの冷延・焼鈍板および帯を製造する工程において、冷間圧延後、素材の軟質化のために実施する焼鈍を真空中あるいは不活性ガスを封入した環境中で実施することは、チタンの酸化を低減することができ、その後の酸洗工程等を省くことができ、生産性の観点から好ましい製造方法である。
但し、冷間圧延工程によってチタン表面に形成された炭素の濃化領域およびチタン炭化物、チタン炭窒化物および窒化チタンの析出領域を機械的あるいは化学的な手法を用いて除去しない場合には、最終チタン冷延板あるいは帯の表面に炭素濃度の高い領域および上記の化合物の析出した領域が形成され、大気環境中において、これらのチタン板あるいは帯を使用した時にチタンの変色が促進される場合がある。
【0024】
このような場合には、前記(5)に記載のように、冷間圧延後に機械的な研磨あるいはブラスト等を用いて表面層を剥離させる方法が採用でき、また化学的な除去法については、チタンが溶出する酸性溶液中あるいはアルカリ溶液中にチタンを浸漬することによって達成できる。冷間圧延時のチタン表面での炭素の侵入深さであるが、前記(4)に示した焼鈍後に除去する場合と比較して、焼鈍時の炭素の拡散による侵入がないため、侵入深さは約0.5μmであり、少なくとも0.5μm以上の範囲のチタン表面を機械的あるいは化学的に除去することによって、真空中あるいは不活性ガス中で焼鈍されたチタン板あるいは帯の耐変色性を著しく向上することができる。
【0025】
前記(6)は、前記(5)に関わるものであり、冷間圧延されたチタン板あるいは帯について、脱脂と耐変色性の向上を一つの工程で同時に行うことによって生産性を大幅に向上させることを目的とするものである。脱脂は、通常アルカリ溶液中に浸漬あるいはアルカリ溶液をスプレーされることによって行われる場合が多い。ただし、耐変色の向上を図るためにチタン表面を溶解させるためには、単にアルカリ溶液中へ浸漬あるいはアルカリ溶液をスプレーするだけでは十分ではない。
【0026】
前記(6)に示すように、pHが11以上から15以下のアルカリ溶液中において電解洗浄することによって、目的とする脱脂とチタン表面を溶解させることができる。pHが11未満の場合、チタン表面に存在するTiOが安定に存在するため、チタン表面を効率的に溶解させることができない。またpHが15以上の場合、効率的にチタンを溶出させることはできるが、強アルカリの溶液を用いることは操業上好ましくないことと、溶液に浸漬するだけでチタン自体がかなりの速度で溶解するため、pH15を上限とする。
【0027】
電解条件は、チタンが(−)極となるときに有機分の除去が有効に行われ、またチタンが(+)極となる場合にチタンの溶解反応が促進されるため、極性は (+)から(−)へ、あるいは(−)から(+)へ変化することが好ましい。
電流密度については、少なくとも0.05A/cm以上の電流密度がないと、付着した有機分の除去およびチタンの溶解反応を生じさせることができない。また電解時間については、少なくとも5秒以上が必要となる。電流密度を高くすると、一般的には、必要とされる電気量は電流密度×時間で整理されることから、所用時間は少なくなるが、上記のような電解洗浄の場合、陽極では酸素発生、陰極では水素発生によってかなりの割合の電流が消費されることから、電流密度を高くした場合も、電解時間としては少なくとも5秒以上が必要となる。電流密度については、5A/cmを超えると、溶液の発熱が顕著となり操業上問題となることから、5A/cmを電解電流密度の上限とする。
【0028】
チタンは、チタン表面のチタン酸化物の厚みを変化させた干渉色を利用して各種の発色材を製造することができる。このような発色チタン材は、チタンの優れた耐食性と共に、意匠性を付与することができるため、耐食性と共に意匠性を必要とされる壁パネルあるいは屋根用素材として用いられている。発色チタン材は、大気酸化あるいは水溶液中での陽極酸化等の方法によって製造される。本発明の前記(3)とその製造方法である前記(7)は、酸化法あるいはアルカリ水溶液、酸性溶液中における陽極酸化によって製造される発色チタン材に関するものである。
【0029】
発色チタン材は、チタン表面に酸化チタン層が形成されているため、無垢のチタンと比較して大気環境中で使用された場合の耐変色性については優れていると考えられる。しかしながらこのような耐変色性に優れると考えられる発色チタン材も使用環境によっては、変色を生じる場合がある。発色チタンの変色は、無垢チタンの場合と同様に、酸化チタン層の下地に存在する炭素の濃化領域あるいはチタン炭化物、チタン炭窒化物および窒化チタンの析出によって促進される。従って、発色チタンの変色を防止する観点からも、酸化チタン層の下部に存在する炭素の濃化領域あるいはチタン炭化物の析出領域を除去することが重要となる。
【0030】
発色チタン材では、通常、干渉作用を利用して発色させるため、酸化膜の厚みは、数10nmから数100nmの範囲にあり、上述したようにチタン表面の炭素の侵入距離(μmのオーダー)に比較して小さい。従って、炭素の濃化したあるいはチタン炭化物、チタン炭窒化物および窒化チタンが表面に析出したチタンを出発材料として発色チタン材を製造する場合には、酸化チタン層の下地(金属チタン側)に炭素の濃化領域あるいはチタン炭化物の析出領域が残存するため、発色チタン材の耐変色性を低下させる。従って、酸化チタンの下地部分に存在する炭素の濃化領域あるいはチタン炭化物、チタン炭窒化物および窒化チタンを除去することによって発色チタン材の耐変色性を向上させることができる。
すなわち、前記(4)から(6)で示されるチタンあるいは製造方法に基づいて製造されたチタンを出発材料として、これを電解質溶液中に浸漬し、陽極電解するかあるいは大気中で加熱することによって、耐変色性に優れた発色チタンを得ることができる。
【0031】
また、前記(4)から(7)に従って製造されたチタンを、さらに少なくとも1回以上水蒸気処理することによって、耐変色性をさらに向上させることができる。水蒸気処理による耐変色性向上のメカニズムについては十分解明されていないが、チタン表面の不働態皮膜の欠陥部を修復しているものと推定している。その修復に水分子が密接に関与しているものと考えられる。
従って、水蒸気処理の温度としては、少なくとも100℃以上の温度が必要となる。100℃未満では、不働態皮膜の欠陥部の修復に必要な十分な熱エネルギーを得ることができない。ただし水蒸気温度が550℃を超えると、チタン表面の酸化膜が厚く成長して多孔質な皮膜となり、保護作用が低下するため好ましくない。
【0032】
なお処理時間については、上記の温度範囲においては反応がかなり速く進行すると考えられ、10秒以上水蒸気中にチタン材を保持するか、あるいは上記温度とした水蒸気をチタン材に吹き付けることによって水蒸気に接触させ、耐変色性を大幅に向上させることができる。ただし安定した結果を得るには、数分間保持あるいは吹き付けることが好ましい。なお、60分を超える水蒸気処理によって何ら耐変色性が劣化するものではないが、耐変色性の向上の効果がほぼ飽和することから、60分を上限とした。
【0033】
なお、水蒸気処理するにあたっての前処理に関しては特に規定しないが、有機汚れがチタン表面に残存していた場合は、水蒸気処理による効果が低減するため、適切な溶剤あるいは弱アルカリの脱脂剤を用いてチタン表面を処理する必要がある。ただし、このような前処理は何ら特別なものではなく、通常の脱脂工程で行われているものである。また水蒸気処理に用いる水についても、水道水等を用いることができる。ただし、水の含有成分の違いによっては試験結果に悪影響を及ぼす場合も考えられるため、淡水等をそのまま使用する場合には予備試験等を行い、良好な試験結果が得られない場合は水道水を用いた方が良い場合もあると思われる。
【0034】
【実施例】
表1は、最表面から100nmの範囲における平均の炭素濃度の異なるチタンを、溶液のpHが3の硫酸溶液中で60℃において2週間浸漬試験を実施した(酸性雨の影響)時の、試験前後のチタンの色差を測定し、変色に及ぼす炭素濃度の影響を検討した結果を示したものである。なお、色差の測定は、JIS Z 8730に準拠して求められる明度Lおよび色度a、bそれぞれの測定前後の差ΔL、Δa、Δbから、
色差ΔEab=[(ΔL+(Δa+(Δb1/2
に従って求めた。
【0035】
表1に示すように、これらのチタン材は表面の平坦な冷延材、粗度を高めたブラスト材等を含んでいるが、いずれの表面仕上げのチタン材においても、本発明法に従って表面での平均の炭素濃度を14at%以下とし、かつ最表面での酸化膜厚みを12〜40nmの範囲とすることによって、試験前後の色差が約5以下と優れた耐変色性を示すことが分かる。
【0036】
表面炭素濃度測定は、オージェ分光分析器を用いて測定しており、この計測では、固溶炭素およびチタン炭化物中の炭素を含む結果となっており、固溶炭素と炭化物中に含有される炭素とを分離することはできない。すなわち、表1に示したチタン表面の炭素濃度とは固溶炭素および炭化物中に含まれる炭素とを含む結果となっている。
【0037】
表2は、薄膜X線回折装置を用いて、表面のTiC量の異なるチタンについて、上述と同様な方法で、チタンの変色に及ぼすTiCの影響を調査した結果を示したものである。表2に示すように、TiCの存在量は、薄膜X線回折測定において、TiCに起因すると考えられる信号の積分強度を用いた。ただし、TiCに起因すると考えら得るX線のピークは、薄膜X線測定において純粋なピーク位置と若干異なっており、本発明において、TiCと記述している化合物は、化合物中に窒素を若干固溶することによって格子定数が変化した可能性が考えらえる。TiCに起因する信号強度が検出限界以下のゼロである本発明鋼は、色差が約5程度と極めて優れた耐変色性を示すことが分かる。
【0038】
表3は、0.6mmの厚さまで冷間圧延されたチタン帯をアルゴンガス中で焼鈍し、しかる後、かかるチタン帯を化学的溶解法および機械的な除去法によって表面層を表示した深さに除去した材料を、pH3の硫酸溶液中において変色促進試験を実施した時の、試験前後の色差の測定結果を示したものである。
表3に示すように、化学的および機械的な方法によって表面層を数μm除去したチタン帯は、除去していないチタン材と比較して色差の値は約5以下と、極めて優れた耐変色性を示すことが分かる。
【0039】
表4は、厚みが0.4mmまで冷間圧延されたチタン帯を硝弗酸溶液中に浸漬することによってチタン表面を数μm溶解させるか、機械研磨によって表面層を数μm除去したチタン帯をpHが3の硫酸溶液中で浸漬した時の、試験前後の色差の測定結果を示す。表4に示すように、このようなチタン帯は極めて優れた耐変色性を示すことが分かる。
【0040】
表5は、0.5mmの厚さまで冷延されたチタン帯をpHが9から15のアルカリ溶液中で、各種の電流密度条件で電解洗浄し、しかる後アルゴンガス中および真空中で640℃で8時間の焼鈍を行った後に、pHが3の60℃の硫酸溶液中で、14日間の浸漬試験を実施した時の、試験前後の色差を計測した結果を示したものである。表5に示すように、本発明法に従ってpHが11から15の溶液中で電解洗浄を実施した場合に、優れた耐変色性を示すことが分かる。
【0041】
表6は、1%の燐酸溶液中での陽極酸化法および大気加熱によって製造された発色チタンの処理前の最表面より100nmの範囲の平均の炭素濃度を、オージェ分光分析法を用いて測定した結果と、発色チタン材(金色と青色)の耐変色性を評価した結果を示したものである。
表6に示すように、本発明法に従って平均の炭素濃度を10at%以下にしたチタンを素材として製造された発色チタンは、pH3の硫酸溶液を用いた変色促進試験において、優れた耐変色性を示すことが分かる。
また表3〜6において、水蒸気処理を施したものは処理していないものと比べて更に優れた耐変色性を示している。
【0042】
【表1】
Figure 0003566930
【0043】
【表2】
Figure 0003566930
【0044】
【表3】
Figure 0003566930
【0045】
【表4】
Figure 0003566930
【0046】
【表5】
Figure 0003566930
【0047】
【表6】
Figure 0003566930
【0048】
【発明の効果】
以上示したように、本発明に従いチタン表面での炭素濃化あるいはチタン炭化物、チタン炭窒化物および窒化チタンの析出を抑制したチタンは、極めて優れた耐変色性を有しており、屋根あるいは壁パネルのような屋外環境での用途に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】表面炭素濃度の色差に対する影響を示す図である。
【図2】チタンの(110)ピーク強度X2 に対するTiCの(200)ピーク強度X1 の比(X1 /X2 )の色差に対する影響を示す図である。

Claims (9)

  1. 最表面から100nmの深さの範囲における平均の炭素濃度が3.5 at %以上14at%以下であり、かつ、最表面に12〜40nmの厚みの酸化膜を有することを特徴とする大気環境中において変色を生じにくいチタン。
  2. 表面のX線回折において、チタンの(110)ピーク強度X2 に対するTiCの(200)ピーク強度X1 の比(X1 /X2 )が、0.1以上0.18以下であり、かつ、最表面に12〜40nmの厚みの酸化膜を有することを特徴とする大気環境中において変色を生じにくいチタン。
  3. 表面に干渉色を生ずる酸化膜を有することを特徴とする請求項1または2に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタン。
  4. 冷間圧延後、真空中あるいは不活性ガス中で焼鈍し、しかる後に、チタン表面を機械的あるいは化学的に1.5μm以上除去することを特徴とする請求項1または2に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタンの製造方法。
  5. 冷間圧延後、その表面を機械的あるいは化学的に0.5μm以上除去し、しかる後に、真空中あるいは不活性ガス中で焼鈍することを特徴とする請求項1または2に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタンの製造方法。
  6. 冷間圧延後、pHが11〜15のアルカリ溶液中にて電流密度0.05〜5A/cm2 の範囲で5秒以上の電解洗浄を行い、しかる後に、真空中あるいは不活性ガス中で焼鈍することを特徴とする請求項1または2に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタンの製造方法。
  7. 請求項4乃至6のいずれか1項に記載の製造方法の後処理として、電解質溶液中で陽極酸化するか、もしくは大気中で加熱酸化する処理を、さらに行うこと特徴とする請求項3に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタンの製造方法。
  8. 請求項4乃至7のいずれか1項に記載の製造方法において、表面を100〜550℃の水蒸気に10秒〜60分の間接触させる水蒸気処理を1回以上さらに行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタンの製造方法。
  9. 請求項8に記載の製造方法において、前記水蒸気処理が製造工程の最終工程で行われることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の大気環境中において変色を生じにくいチタンの製造方法。
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