JP3548451B2 - ピストンのピン孔構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンに用いられるピストンのピン孔構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、エンジンのピストンにあっては、コンロッド連結用のピストンピンが組み付けられており、そのピストンピンの両軸線方向端部が、ピストンの一対のピストンピン支持部に互いに同軸的に設けられた両ピン孔により支持されている。
【0003】
そのようなピストンにあっては、例えば実願平1−101026号明細書に記載されているように、ピン孔の内周面にピン孔(ピストンピン)の軸線方向に沿って軸線方向溝を形成して、潤滑油保持部が設けられている。また、通常ピストンピンはピン孔内周面に設けられたスナップリング溝に環状クリップとしてのスナップリングを取り付けて抜け止めされているが、メンテナンス時などにおいて取り外す必要が生じる場合があり、その際に工具を差し込むための凹設部としてのスナップリング溝逃がしが設けられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記凹設部は、工具を差し込む必要から軸線方向溝と比較して大きな深さで凹設されており、そのためピストンピン支持部における凹設部での剛性が低下する虞があるという問題がある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決して、ピストンピン抜け止め用の環状クリップを取り外すための凹設部を設けた場合でもピストンピン支持部の剛性低下を防止することを実現するために、本発明に於いては、ピン孔(2a)に挿通されたピストンピン(10)を抜け止めするための環状クリップ(13)を組み付けるための周方向溝(14)を当該ピン孔(2a)の内周面に設けたピストンのピン孔構造であって、
前記ピン孔(2a)の内周面に爆発工程時の応力低減用の軸線方向溝(12)が設けられ、前記環状クリップ(13)を半径方向内向きに変形させて取り外し得るように前記ピン孔(2a)の外端内周面に設けた凹設部(15)が、前記軸線方向溝(12)よりも深くかつその周方向幅が前記軸線方向溝(12)の周方向幅よりも小さいと共に、前記軸線方向溝(12)内に収まるように設けられていることを特徴とするピストンのピン孔構造。
【0006】
これによれば、軸線方向溝を設ける位置を利用して、その軸線方向溝に凹設部を一致させて設けることにより、凹設部を設けたことによる剛性低下を防止することができる。しかも、凹設部を介して、軸線方向溝に潤滑油を導くことができるためピン孔内の潤滑性を好適に向上し得る。
【0007】
また、凹設部を加工する際にその加工を切削加工した場合には凹設部の縁にバリが生じるが、凹設部が軸線方向溝内に収まり得ることから、上記バリがピン孔内周面からさらに内方に突出することを防止でき、バリ取りなどの追加工をする必要がない。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図面に示された具体例に基づいて本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0009】
図1は、本発明が適用されたエンジンのピストン1を示す正面図であり、図2は図1の矢印II−II線に沿って見た要部拡大断面図である。ピストン1には、ピストンヘッド1aと、ピストンヘッド1aの燃焼室側とは相反する裏面側に突設する一対のピストンピン支持部2(図2では一方のみを示す)とが設けられている。
【0010】
ピストンヘッド1aの外周面には、ビストンの軸線方向に互いに所定の間隔をあけて3本のリング溝3・4・5が設けられている。燃焼室側(図における上方)の2本のリング溝3・4にはそれぞれ圧力リング(図示せず)が装着され、オイルパン側(図における下方)のオイルリング溝としてのリング溝5にはオイルリング(図示せず)が装着される。
【0011】
図2に示されるように、ピストンピン支持部2にはピストンピン10を挿通し得る内径のピン孔2aが設けられており、両ビストンピン支持部2によりピストンピン10の両端部が支持される。そのピストンピン10の両ピストンピン支持部2間に露出する中間部にはコンロッド11の小端部が圧入固着されている。
【0012】
上記ピン孔2aには、軸線方向溝としてのブローチ溝12が、ピン孔2aの軸線方向に沿ってかつ図3に良く示されるように軸線方向から見て左右対称に設けられている。ブローチ溝12は、爆発工程時におけるスラスト荷重によるピストンピン10の圧縮変形を逃がすための応力低減用であり、しかもピン孔内に潤滑油を導く潤滑油供給用として用いられる。これらブローチ溝12は、ピン孔2aの内周面に対して比較的浅く形成されている。また、ピン孔2aのピストン外周面側には、ピン孔2aに挿通されたピストンピン10の抜け止めのための環状クリップとしてのサークリップ13を弾発的に嵌合して装着するための周方向溝からなるクリップ溝14が設けられている。
【0013】
そして、メンテナンス時などにピストンピン10を取り外す場合には、サークリップ13を工具にて半径方向内向きに変形させてクリップ溝14への嵌合を解除して取り外し得るようにするが、そのための工具差し込み孔としての凹設部15が、本発明によればピン孔2a外端の内周面に上記ブローチ溝12と一致して設けられている。すなわち、ピン孔2a外端の内周面に設けた凹設部15が、ピン孔2aの内周面に設けられた応力低減用かつ潤滑油供給用としてのピン孔2a(ピストンピン10)軸線方向に沿うブローチ溝(軸線方向溝)12と一致している。
【0014】
これにより、凹設溝15を軸線方向溝12とは別の位置に設けないため、ピン孔2aに設ける凹部(溝)の数を必要最小限とすることができ、凹設部15を設けたことによる剛性低下を防止することができる。また、上記したようにピストンピン10の圧縮変形を逃がすためのブローチ溝12は本来ピストンピン支持部2の剛性の高い部分に設けることから、工具を差し込み得るようにするべく比較的深く形成される凹設部15を設けても、その部分の剛性低下の影響は無視できるものである。したがって、凹設部15を設けることによるピストンピン支持部2の剛性低下をより一層防止し得ると共に、比較的深い凹設部15をブローチ溝12に合わせることにより、サークリップで潤滑油が遮られることなく、凹設部15を介して大量の潤滑油をピン孔2a内に導くことができ、潤滑性を向上し得る。
【0015】
さらに本図示例にあっては、凹設部15の周方向幅W1がブローチ溝12の周方向幅W2よりも小さくされている。これにより、凹設部15を切削加工した場合に凹設部15の縁にバリが発生しても、ブローチ溝12内に凹設部15が収められていることから、上記バリがピン孔2a内周面より半径方向内側に出ることを防止でき、バリ取り等の追加工を行わずに済む。すなわち、上記バリがピン孔2aのブローチ溝12内からピストンピン10の摺動面に出ることを防止できるので、バリ取りなどの追加工を行わずに済む。さらに、凹設部15を形成後、ブローチ溝12を形成すれば、上記バリも除去可能である。
【0016】
また、本発明による軸線方向溝(ブローチ溝12)は、本図示例の位置に限られるものではなく、ピン孔2aの周方向についてどの位置に設けられていても良いものであり、例えばピン孔2aの最下端部(クランクシャフト側)に設けられていても良い。いずれにしても、凹設部15が軸線方向溝(ブローチ溝12)と一致していれば良い。
【0017】
なお、本ピストン1にあっては、軽量化のためにシリンダヘッド1aの裏面側をできるだけ肉抜きしているが、その裏面を示す図4に示されるように、図における左右の外周面を形成する両スカート部1b間に、一対のピストンピン支持部2をそれぞれ通る一対の連結壁16を形成して剛性を確保している。そして、ピストン1には爆発工程時に図の矢印Pに示される向きからの大きなスラスト荷重が加わるため、連結壁16のスラスト荷重Pを受ける側(スラスト側)の厚さW3をピストンピン支持部2挟んで相反する側(反スラスト側)の厚さW4よりも厚くしている。これにより、必要最小限の肉厚の増加でピストン1の剛性を向上することができる。
【0018】
【発明の効果】
このように本発明によれば、凹設部を設けたことによる剛性低下を防止することができると共に、凹設部を介して軸線方向溝に潤滑油を導くことができるためピン孔内の潤滑性を好適に向上し得る。また、凹設部をブローチ溝内に収めるように形成することにより、凹設部を切削加工した場合に凹設部の縁にバリが生じても、上記バリがピン孔内周面からさらに内方に突出することを防止でき、バリ取りなどの追加工をする必要がない。さらに、剛性の高い部分に応力低減用として軸線方向溝を設け、凹設部を一致させることにより、凹設部を設けたことによる剛性低下をより一層防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用されたエンジンのピストン1を示す正面図。
【図2】図1の矢印II−II線に沿って見た要部拡大断面図。
【図3】図2の矢印III線から見たピン孔の拡大端面図。
【図4】図1の矢印IV線から見たピストン裏面図。
【符号の説明】
2a ピン孔
10 ピストンピン
12 ブローチ溝(軸線方向溝)
13 サークリップ(環状クリップ)
15 凹設部
Claims (1)
- ピン孔に挿通されたピストンピンを抜け止めするための環状クリップを組み付けるための周方向溝を当該ピン孔の内周面に設けたピストンのピン孔構造であって、
前記ピン孔の内周面に爆発工程時の応力低減用の軸線方向溝が設けられ、
前記環状クリップを半径方向内向きに変形させて取り外し得るように前記ピン孔の外端内周面に設けた凹設部が、前記軸線方向溝よりも深くかつその周方向幅が前記軸線方向溝の周方向幅よりも小さいと共に、前記軸線方向溝内に収まるように設けられていることを特徴とするピストンのピン孔構造。
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