JP3547945B2 - 有機エレクトロルミネッセンス素子 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ホール注入電極と電子注入電極との間に、少なくとも有機材料を用いた発光層とキャリア輸送層とが設けられてなる有機エレクトロルミネッセンス素子に係り、特に、発光層やキャリア輸送層における有機材料として広く利用できる新規なキレート化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、情報機器の多様化等にともなって、従来より一般に使用されているCRTに比べて消費電力が少なく容積の小さい平面表示素子のニーズが高まり、このような平面表示素子の一つとしてエレクトロルミネッセンス素子(以下、EL素子と略す。)が注目されている。
【0003】
そして、このようなEL素子は、使用する材料によって無機EL素子と有機EL素子とに大別される。
【0004】
ここで、無機EL素子は、一般に発光部に高電界を作用させ、電子をこの高電界中で加速して発光中心に衝突させ、これにより発光中心を励起させて発光させるようになっている。これに対し、有機EL素子は、電子注入電極とホール注入電極とからそれぞれ電子とホールとを発光部内に注入し、このように注入された電子とホールとを発光中心で再結合させて、有機分子を励起状態にし、この有機分子が励起状態から基底状態に戻るときに蛍光を発光するようになっている。
【0005】
そして、無機EL素子の場合には、上記のように高電界を作用させるために、その駆動電圧として100〜200Vと高い電圧を必要とするのに対して、有機EL素子の場合には、5〜20V程度の低い電圧で駆動できるという利点があった。
【0006】
また、上記の有機EL素子の場合には、発光材料である螢光物質を選択することによって適当な色彩に発光する発光素子を得ることができ、マルチカラーやフルカラーの表示装置等としても利用できるという期待があり、さらに低電圧で面発光できるために、液晶表示素子等のバックライトとして利用することも考えられた。
【0007】
そして、近年、このような有機EL素子について様々な研究が行なわれ、有機EL素子としては、ホール注入電極と電子注入電極との間にホール輸送層と発光層と電子輸送層とを積層させたDH構造と称される三層構造のものや、ホール注入電極と電子注入電極との間にホール輸送層と電子輸送性に富む発光層とが積層されたSH−A構造と称される二層構造のものや、ホール注入電極と電子注入電極との間にホール輸送性に富む発光層と電子輸送層とが積層されたSH−B構造と称される二層構造のものが開発されている。
【0008】
ここで、このような有機EL素子においては、発光層やキャリア輸送層における有機材料として、従来より様々な有機材料が使用されており、このような有機材料の一つとして、下記の化1に示すトリス(8−キノリノール)アルミニウムAlq3 等の一つの金属イオンに複数の配位子が配位されたキレート化合物が広く利用されていた。
【0009】
【化1】
【0010】
しかし、従来より使用されている種々のキレート化合物は、必ずしも十分な特性を有しているとはいえず、例えば、上記のAlq3 の場合、発光ピーク波長が520〜530nmと長く、その励起エネルギーが小さいため、このようなAlq3 を発光層のホスト材料として使用した場合、励起エネルギーの大きいペリレン等のドーパントを発光させることができない等の問題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、ホール注入電極と電子注入電極との間に、少なくとも有機材料を用いた発光層とキャリア輸送層とが設けられた有機EL素子における上記のような問題を解決することを課題とするものであり、発光層やキャリア輸送層における有機材料として、様々な用途に好適に利用できる新たなキレート化合物を提供することを課題とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】この発明における有機エレクトロルミネッセンス素子においては、上記のような課題を解決するため、ホール注入電極と電子注入電極との間に、有機材料を用いた発光層とキャリア輸送層とが設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子において、上記の発光層とキャリア輸送層の少なくとも一層に、2個以上の中心金属イオンにそれぞれ8−キノリノール誘導体とハロゲン元素とが配位結合により配位されているキレート化合物を含有させるようにした。
【0013】
ここで、この発明における有機EL素子において、発光層やキャリア輸送層に使用する2個以上の中心金属イオンにそれぞれ8−キノリノール誘導体とハロゲン元素とが配位結合により配位されているキレート化合物は、一般に用いられている一つの金属イオンに複数の配位子が配位したキレート化合物に比べて立体的な歪みが生じ、このようなキレート化合物を発光層に使用した場合には、一つの金属イオンに複数の配位子が配位したキレート化合物に比べて、その発光ピーク波長が短波長側にシフトして励起エネルギーが大きくなる。
【0014】
このため、このようなキレート化合物を発光層における発光材料に使用した場合には、短波長の発光が得られるようになり、また発光層におけるホスト材料に使用した場合には、励起エネルギーの大きいドーパントを発光させることもできるようになり、特に、特定のドーパントを用いた場合には、このキレート化合物がドーパントとエキサイプレックスを形成して、発光スペクトルの半値幅が増大し、ドーパントやこのキレート化合物による発光とは異なった発光が得られるようになる。
【0015】
ここで、上記のキレート化合物は、中心金属イオンを2個以上有し、さらに、この中心金属イオンにそれぞれ8−キノリノール誘導体とハロゲン元素とが配位結合により配位されておればよく、たとえば、下記の化2に示すように、2つの金属イオンMに対して、それぞれ8−キノリノール誘導体と、F,Cl,Br,Iから選択されるハロゲン元素Xとが配位結合により配位したキレート化合物が用いられる。
【0016】
【化2】
【0017】
ここで、上記の化2に示すキレート化合物においては、その金属イオンMとして、Al,Ga,Inから選択される周期律表第3族の金属が使用され、特に、上記のように金属イオンMを2個有するキレート化合物を構成する上では、この金属イオンMとしてGaを用いることが好ましい。
【0018】
また、このような金属イオンMに配位する8−キノリノール誘導体において、上記のRとしては、−Cn H2n+1(n=0〜10)、−N(Cn 2Hn+1 )(n=0〜10)、−O(Cn H2n+1)(n=0〜10)、−COO(Cn H2n+1)(n=0〜10)、エステル基、−CN、−X(XはF,Cl,Br,Iから選択されるハロゲン元素)、フェニル基から選択される置換基が用いられ、またこのRと8−キノリノールとによって芳香族環が形成されたものであってもよい。
【0019】
また、上記の金属イオンMにGaを用いた場合において、Gaを2個有するキレート化合物が形成されるようにするためには、8−キノリノール誘導体における2位や7位の位置に置換基Rを設け、この置換基RがGaに8−キノリノール誘導体が配位する際の立体障害となるようにし、Gaに3つの8−キノリノール誘導体が配位したキレート化合物が形成されるのを抑制することが好ましい。
【0020】
ここで、このように8−キノリノール誘導体の2位や7位に置換させる置換基Rとしては、例えば、メチル基,エチル基,プロピル基等を用いることができるが、このキレート化合物を発光材料として使用する場合に、十分な発光輝度が得られるようにするためには、この置換基Rとしてメチル基を用いることが好ましい。
【0021】
【実施例】
以下、この発明の実施例に係る有機EL素子を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0022】
(実施例1)
この実施例1における有機EL素子においては、図1に示すように、ガラス基板1上にITOで構成された透明なホール注入電極2を形成し、このホール注入電極2上に、下記の化3に示すN,N−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)で構成されて膜厚が500Åになったホール輸送層3と、下記の化4に示すように2つのガリウムイオンにそれぞれ9−メチル−8−キノリノールと塩素とが配位されたてなるGa2 Mq4 Cl2 で構成されて膜厚が500Åになった発光層4と、マグネシウム・インジウム合金(Mg:In=10:1)で構成されて膜厚が2000Åになった電子注入電極6とを積層させるようにした。
【0023】
【化3】
【0024】
【化4】
【0025】
ここで、この実施例1の有機EL素子を製造する方法を具体的に説明すると、先ずITOからなるホール注入電極2を表面に形成したガラス基板1を中性洗剤により洗浄した後、これをアセトン中で20分間、エタノール中で20分間それぞれ超音波洗浄し、さらに上記のガラス基板1を沸騰したエタノール中に約1分間入れて取り出した後、このガラス基板1をすぐに送風乾燥させた。
【0026】
次いで、このガラス基板1上に形成されたホール注入電極2の上に、前記のTPDを真空蒸着させてホール輸送層3を形成した後、このホール輸送層3上に前記のGa2 Mq4 Cl2 を真空蒸着させて発光層4を形成し、さらにこの発光層4上にマグネシウム・インジウム合金を真空蒸着させて電子注入電極6を形成した。なお、これらの真空蒸着は、何れも真空度6×10−6Torrで、基板温度を制御しないで行なった。
【0027】
そして、この実施例1の有機EL素子におけるホール注入電極を+、電子注入電極を−にして電圧を印加すると、電圧9Vで輝度が10490cd/m2 、色度座標x=0.281、y=0.487になった前記のGa2 Mq4 Cl2 による高輝度な緑色発光が得られた。
【0028】
(実施例2)
この実施例における有機EL素子においては、図2に示すように、ガラス基板1上にITOで構成された透明なホール注入電極2を形成し、このホール注入電極2上に、下記の化5に示すトリフェニルアミン誘導体(MTDATA)で構成されて膜厚が400Åになった第1ホール輸送層3aと、前記の化3に示したTPDで構成されて膜厚が100Åになった第2ホール輸送層3bと、前記の化4に示したGa2 Mq4 Cl2 からなるホスト材料に下記の化6に示すペリレンが3重量%ドープされて膜厚が200Åになった発光層4と、下記の化7に示す10−ベンゾ(h)キノリノール−ベリリウム錯体(BeBq2 )で構成されて膜厚が400Åになった電子輸送層5と、マグネシウム・インジウム合金(Mg:In=10:1)で構成されて膜厚が2000Åになった電子注入電極6とを真空蒸着法により積層させるようにした。
【0029】
【化5】
【0030】
【化6】
【0031】
【化7】
【0032】
そして、この実施例2の有機EL素子におけるホール注入電極を+、電子注入電極を−にして電圧を印加すると、電圧10Vで輝度が4500cd/m2 、色度座標x=0.300、y=0.385になった白色発光が得られた。なお、この発光スペクトルを図3に示した。
【0033】
ここで、上記のようにGa2 Mq4 Cl2 からなるホスト材料にペリレンをドープさせた発光層4を設けた場合において、ペリレンからの青色発光ではなく、白色発光が得られたのは、ペリレンとホスト材料であるGa2 Mq4 Cl2 がエキサイプレックスを形成し、発光スペクトルの半値幅が増大したためであると考えられる。
【0034】
(実施例3)
この実施例3の有機EL素子においては、上記の実施例2における有機EL素子において、発光層4を形成するにあたり、上記のGa2 Mq4 Cl2 からなるホスト材料に下記の化8に示すクマリン6を1重量%ドープさせるようにし、それ以外については、上記の実施例2の場合と同様にして有機EL素子を得た。
【0035】
【化8】
【0036】
そして、この実施例3の有機EL素子におけるホール注入電極を+、電子注入電極を−にして電圧を印加すると、電圧10Vで輝度が23000cd/m2 、色度座標x=0.232、y=0.611になったクマリン6による高輝度の緑色発光が得られた。なお、この場合には、クマリン6とホスト材料であるGa2 Mq4 Cl2 がエキサイプレックスを形成せず、Ga2 Mq4 Cl2 が通常のホスト材料として作用していることがわかった。
【0037】
(実施例4)
この実施例4における有機EL素子においては、図3に示すように、ガラス基板1上にITOで構成された透明なホール注入電極2を形成し、このホール注入電極2上に、前記の化5に示したMTDATAで構成されて膜厚が400Åになったホール輸送層3と、下記の化9に示すαNPDからなるホスト材料に下記の化10に示すルブレンが5重量%ドープされて膜厚が300Åになった発光層4と、前記の化4に示したGa2 Mq4 Cl2 で構成されて膜厚が400Åになった電子輸送層5と、マグネシウム・インジウム合金(Mg:In=10:1)で構成されて膜厚が2000Åになった電子注入電極6とを真空蒸着法により積層させるようにした。
【0038】
【化9】
【0039】
【化10】
【0040】
そして、この実施例4の有機EL素子におけるホール注入電極を+、電子注入電極を−にして電圧を印加すると、電圧12Vで輝度が27700cd/m2 、色度座標x=0.232、y=0.611になったルブレンによる高輝度の黄色発光が得られた。この結果、上記のGa2 Mq4 Cl2 は電子輸送材料としても優れた特性を示すことがわかった。
【0041】
【発明の効果】以上詳述したように、この発明における有機EL素子において、発光層やキャリア輸送層に使用する2個以上の中心金属イオンにそれぞれ8−キノリノール誘導体とハロゲン元素とが配位結合により配位されているキレート化合物は、一般に用いられている一つの金属イオンに複数の配位子が配位したキレート化合物に比べて立体的な歪みが生じており、このようなキレート化合物を発光層に使用した場合、一つの金属イオンに複数の配位子が配位したキレート化合物に比べて、その発光ピーク波長が短波長側にシフトして励起エネルギーが大きくなった。
【0042】
この結果、この発明における有機EL素子において、上記のキレート化合物を発光層における発光材料に使用すると、短波長の発光が得られるようになり、また発光層におけるホスト材料に使用した場合には、励起エネルギーの大きいドーパントを発光させることもできるようになった。また、上記のキレート化合物に対して特定のドーパントをドープさせると、このキレート化合物がドーパントとエキサイプレックスを形成して、発光スペクトルの半値幅が増大し、ドーパントやこのキレート化合物による発光とは異なった発光が得られるようになった。
【0043】
さらに、この発明における有機EL素子において、上記のキレート化合物をキャリア輸送層に使用した場合には、このキレート化合物によってキャリアを輸送させることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例1に係る有機EL素子の構造を示した概略説明図である。
【図2】この発明の実施例2及び3に係る有機EL素子の構造を示した概略説明図である。
【図3】この発明の実施例2の有機EL素子における発光スペクトルの状態を示した図である。
【図4】この発明の実施例4に係る有機EL素子の構造を示した概略説明図である。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 ホール注入電極
3 ホール輸送層
3a 第1ホール輸送層
3b 第2ホール輸送層
4 発光層
5 電子輸送層
6 電子注入電極
【発明の属する技術分野】
この発明は、ホール注入電極と電子注入電極との間に、少なくとも有機材料を用いた発光層とキャリア輸送層とが設けられてなる有機エレクトロルミネッセンス素子に係り、特に、発光層やキャリア輸送層における有機材料として広く利用できる新規なキレート化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、情報機器の多様化等にともなって、従来より一般に使用されているCRTに比べて消費電力が少なく容積の小さい平面表示素子のニーズが高まり、このような平面表示素子の一つとしてエレクトロルミネッセンス素子(以下、EL素子と略す。)が注目されている。
【0003】
そして、このようなEL素子は、使用する材料によって無機EL素子と有機EL素子とに大別される。
【0004】
ここで、無機EL素子は、一般に発光部に高電界を作用させ、電子をこの高電界中で加速して発光中心に衝突させ、これにより発光中心を励起させて発光させるようになっている。これに対し、有機EL素子は、電子注入電極とホール注入電極とからそれぞれ電子とホールとを発光部内に注入し、このように注入された電子とホールとを発光中心で再結合させて、有機分子を励起状態にし、この有機分子が励起状態から基底状態に戻るときに蛍光を発光するようになっている。
【0005】
そして、無機EL素子の場合には、上記のように高電界を作用させるために、その駆動電圧として100〜200Vと高い電圧を必要とするのに対して、有機EL素子の場合には、5〜20V程度の低い電圧で駆動できるという利点があった。
【0006】
また、上記の有機EL素子の場合には、発光材料である螢光物質を選択することによって適当な色彩に発光する発光素子を得ることができ、マルチカラーやフルカラーの表示装置等としても利用できるという期待があり、さらに低電圧で面発光できるために、液晶表示素子等のバックライトとして利用することも考えられた。
【0007】
そして、近年、このような有機EL素子について様々な研究が行なわれ、有機EL素子としては、ホール注入電極と電子注入電極との間にホール輸送層と発光層と電子輸送層とを積層させたDH構造と称される三層構造のものや、ホール注入電極と電子注入電極との間にホール輸送層と電子輸送性に富む発光層とが積層されたSH−A構造と称される二層構造のものや、ホール注入電極と電子注入電極との間にホール輸送性に富む発光層と電子輸送層とが積層されたSH−B構造と称される二層構造のものが開発されている。
【0008】
ここで、このような有機EL素子においては、発光層やキャリア輸送層における有機材料として、従来より様々な有機材料が使用されており、このような有機材料の一つとして、下記の化1に示すトリス(8−キノリノール)アルミニウムAlq3 等の一つの金属イオンに複数の配位子が配位されたキレート化合物が広く利用されていた。
【0009】
【化1】
【0010】
しかし、従来より使用されている種々のキレート化合物は、必ずしも十分な特性を有しているとはいえず、例えば、上記のAlq3 の場合、発光ピーク波長が520〜530nmと長く、その励起エネルギーが小さいため、このようなAlq3 を発光層のホスト材料として使用した場合、励起エネルギーの大きいペリレン等のドーパントを発光させることができない等の問題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、ホール注入電極と電子注入電極との間に、少なくとも有機材料を用いた発光層とキャリア輸送層とが設けられた有機EL素子における上記のような問題を解決することを課題とするものであり、発光層やキャリア輸送層における有機材料として、様々な用途に好適に利用できる新たなキレート化合物を提供することを課題とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】この発明における有機エレクトロルミネッセンス素子においては、上記のような課題を解決するため、ホール注入電極と電子注入電極との間に、有機材料を用いた発光層とキャリア輸送層とが設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子において、上記の発光層とキャリア輸送層の少なくとも一層に、2個以上の中心金属イオンにそれぞれ8−キノリノール誘導体とハロゲン元素とが配位結合により配位されているキレート化合物を含有させるようにした。
【0013】
ここで、この発明における有機EL素子において、発光層やキャリア輸送層に使用する2個以上の中心金属イオンにそれぞれ8−キノリノール誘導体とハロゲン元素とが配位結合により配位されているキレート化合物は、一般に用いられている一つの金属イオンに複数の配位子が配位したキレート化合物に比べて立体的な歪みが生じ、このようなキレート化合物を発光層に使用した場合には、一つの金属イオンに複数の配位子が配位したキレート化合物に比べて、その発光ピーク波長が短波長側にシフトして励起エネルギーが大きくなる。
【0014】
このため、このようなキレート化合物を発光層における発光材料に使用した場合には、短波長の発光が得られるようになり、また発光層におけるホスト材料に使用した場合には、励起エネルギーの大きいドーパントを発光させることもできるようになり、特に、特定のドーパントを用いた場合には、このキレート化合物がドーパントとエキサイプレックスを形成して、発光スペクトルの半値幅が増大し、ドーパントやこのキレート化合物による発光とは異なった発光が得られるようになる。
【0015】
ここで、上記のキレート化合物は、中心金属イオンを2個以上有し、さらに、この中心金属イオンにそれぞれ8−キノリノール誘導体とハロゲン元素とが配位結合により配位されておればよく、たとえば、下記の化2に示すように、2つの金属イオンMに対して、それぞれ8−キノリノール誘導体と、F,Cl,Br,Iから選択されるハロゲン元素Xとが配位結合により配位したキレート化合物が用いられる。
【0016】
【化2】
【0017】
ここで、上記の化2に示すキレート化合物においては、その金属イオンMとして、Al,Ga,Inから選択される周期律表第3族の金属が使用され、特に、上記のように金属イオンMを2個有するキレート化合物を構成する上では、この金属イオンMとしてGaを用いることが好ましい。
【0018】
また、このような金属イオンMに配位する8−キノリノール誘導体において、上記のRとしては、−Cn H2n+1(n=0〜10)、−N(Cn 2Hn+1 )(n=0〜10)、−O(Cn H2n+1)(n=0〜10)、−COO(Cn H2n+1)(n=0〜10)、エステル基、−CN、−X(XはF,Cl,Br,Iから選択されるハロゲン元素)、フェニル基から選択される置換基が用いられ、またこのRと8−キノリノールとによって芳香族環が形成されたものであってもよい。
【0019】
また、上記の金属イオンMにGaを用いた場合において、Gaを2個有するキレート化合物が形成されるようにするためには、8−キノリノール誘導体における2位や7位の位置に置換基Rを設け、この置換基RがGaに8−キノリノール誘導体が配位する際の立体障害となるようにし、Gaに3つの8−キノリノール誘導体が配位したキレート化合物が形成されるのを抑制することが好ましい。
【0020】
ここで、このように8−キノリノール誘導体の2位や7位に置換させる置換基Rとしては、例えば、メチル基,エチル基,プロピル基等を用いることができるが、このキレート化合物を発光材料として使用する場合に、十分な発光輝度が得られるようにするためには、この置換基Rとしてメチル基を用いることが好ましい。
【0021】
【実施例】
以下、この発明の実施例に係る有機EL素子を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0022】
(実施例1)
この実施例1における有機EL素子においては、図1に示すように、ガラス基板1上にITOで構成された透明なホール注入電極2を形成し、このホール注入電極2上に、下記の化3に示すN,N−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)で構成されて膜厚が500Åになったホール輸送層3と、下記の化4に示すように2つのガリウムイオンにそれぞれ9−メチル−8−キノリノールと塩素とが配位されたてなるGa2 Mq4 Cl2 で構成されて膜厚が500Åになった発光層4と、マグネシウム・インジウム合金(Mg:In=10:1)で構成されて膜厚が2000Åになった電子注入電極6とを積層させるようにした。
【0023】
【化3】
【0024】
【化4】
【0025】
ここで、この実施例1の有機EL素子を製造する方法を具体的に説明すると、先ずITOからなるホール注入電極2を表面に形成したガラス基板1を中性洗剤により洗浄した後、これをアセトン中で20分間、エタノール中で20分間それぞれ超音波洗浄し、さらに上記のガラス基板1を沸騰したエタノール中に約1分間入れて取り出した後、このガラス基板1をすぐに送風乾燥させた。
【0026】
次いで、このガラス基板1上に形成されたホール注入電極2の上に、前記のTPDを真空蒸着させてホール輸送層3を形成した後、このホール輸送層3上に前記のGa2 Mq4 Cl2 を真空蒸着させて発光層4を形成し、さらにこの発光層4上にマグネシウム・インジウム合金を真空蒸着させて電子注入電極6を形成した。なお、これらの真空蒸着は、何れも真空度6×10−6Torrで、基板温度を制御しないで行なった。
【0027】
そして、この実施例1の有機EL素子におけるホール注入電極を+、電子注入電極を−にして電圧を印加すると、電圧9Vで輝度が10490cd/m2 、色度座標x=0.281、y=0.487になった前記のGa2 Mq4 Cl2 による高輝度な緑色発光が得られた。
【0028】
(実施例2)
この実施例における有機EL素子においては、図2に示すように、ガラス基板1上にITOで構成された透明なホール注入電極2を形成し、このホール注入電極2上に、下記の化5に示すトリフェニルアミン誘導体(MTDATA)で構成されて膜厚が400Åになった第1ホール輸送層3aと、前記の化3に示したTPDで構成されて膜厚が100Åになった第2ホール輸送層3bと、前記の化4に示したGa2 Mq4 Cl2 からなるホスト材料に下記の化6に示すペリレンが3重量%ドープされて膜厚が200Åになった発光層4と、下記の化7に示す10−ベンゾ(h)キノリノール−ベリリウム錯体(BeBq2 )で構成されて膜厚が400Åになった電子輸送層5と、マグネシウム・インジウム合金(Mg:In=10:1)で構成されて膜厚が2000Åになった電子注入電極6とを真空蒸着法により積層させるようにした。
【0029】
【化5】
【0030】
【化6】
【0031】
【化7】
【0032】
そして、この実施例2の有機EL素子におけるホール注入電極を+、電子注入電極を−にして電圧を印加すると、電圧10Vで輝度が4500cd/m2 、色度座標x=0.300、y=0.385になった白色発光が得られた。なお、この発光スペクトルを図3に示した。
【0033】
ここで、上記のようにGa2 Mq4 Cl2 からなるホスト材料にペリレンをドープさせた発光層4を設けた場合において、ペリレンからの青色発光ではなく、白色発光が得られたのは、ペリレンとホスト材料であるGa2 Mq4 Cl2 がエキサイプレックスを形成し、発光スペクトルの半値幅が増大したためであると考えられる。
【0034】
(実施例3)
この実施例3の有機EL素子においては、上記の実施例2における有機EL素子において、発光層4を形成するにあたり、上記のGa2 Mq4 Cl2 からなるホスト材料に下記の化8に示すクマリン6を1重量%ドープさせるようにし、それ以外については、上記の実施例2の場合と同様にして有機EL素子を得た。
【0035】
【化8】
【0036】
そして、この実施例3の有機EL素子におけるホール注入電極を+、電子注入電極を−にして電圧を印加すると、電圧10Vで輝度が23000cd/m2 、色度座標x=0.232、y=0.611になったクマリン6による高輝度の緑色発光が得られた。なお、この場合には、クマリン6とホスト材料であるGa2 Mq4 Cl2 がエキサイプレックスを形成せず、Ga2 Mq4 Cl2 が通常のホスト材料として作用していることがわかった。
【0037】
(実施例4)
この実施例4における有機EL素子においては、図3に示すように、ガラス基板1上にITOで構成された透明なホール注入電極2を形成し、このホール注入電極2上に、前記の化5に示したMTDATAで構成されて膜厚が400Åになったホール輸送層3と、下記の化9に示すαNPDからなるホスト材料に下記の化10に示すルブレンが5重量%ドープされて膜厚が300Åになった発光層4と、前記の化4に示したGa2 Mq4 Cl2 で構成されて膜厚が400Åになった電子輸送層5と、マグネシウム・インジウム合金(Mg:In=10:1)で構成されて膜厚が2000Åになった電子注入電極6とを真空蒸着法により積層させるようにした。
【0038】
【化9】
【0039】
【化10】
【0040】
そして、この実施例4の有機EL素子におけるホール注入電極を+、電子注入電極を−にして電圧を印加すると、電圧12Vで輝度が27700cd/m2 、色度座標x=0.232、y=0.611になったルブレンによる高輝度の黄色発光が得られた。この結果、上記のGa2 Mq4 Cl2 は電子輸送材料としても優れた特性を示すことがわかった。
【0041】
【発明の効果】以上詳述したように、この発明における有機EL素子において、発光層やキャリア輸送層に使用する2個以上の中心金属イオンにそれぞれ8−キノリノール誘導体とハロゲン元素とが配位結合により配位されているキレート化合物は、一般に用いられている一つの金属イオンに複数の配位子が配位したキレート化合物に比べて立体的な歪みが生じており、このようなキレート化合物を発光層に使用した場合、一つの金属イオンに複数の配位子が配位したキレート化合物に比べて、その発光ピーク波長が短波長側にシフトして励起エネルギーが大きくなった。
【0042】
この結果、この発明における有機EL素子において、上記のキレート化合物を発光層における発光材料に使用すると、短波長の発光が得られるようになり、また発光層におけるホスト材料に使用した場合には、励起エネルギーの大きいドーパントを発光させることもできるようになった。また、上記のキレート化合物に対して特定のドーパントをドープさせると、このキレート化合物がドーパントとエキサイプレックスを形成して、発光スペクトルの半値幅が増大し、ドーパントやこのキレート化合物による発光とは異なった発光が得られるようになった。
【0043】
さらに、この発明における有機EL素子において、上記のキレート化合物をキャリア輸送層に使用した場合には、このキレート化合物によってキャリアを輸送させることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例1に係る有機EL素子の構造を示した概略説明図である。
【図2】この発明の実施例2及び3に係る有機EL素子の構造を示した概略説明図である。
【図3】この発明の実施例2の有機EL素子における発光スペクトルの状態を示した図である。
【図4】この発明の実施例4に係る有機EL素子の構造を示した概略説明図である。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 ホール注入電極
3 ホール輸送層
3a 第1ホール輸送層
3b 第2ホール輸送層
4 発光層
5 電子輸送層
6 電子注入電極
Claims (3)
- ホール注入電極と電子注入電極との間に、有機材料を用いた発光層とキャリア輸送層とが設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子において、上記の発光層とキャリア輸送層の少なくとも一層に、2個以上の中心金属イオンにそれぞれ8−キノリノール誘導体とハロゲン元素とが配位結合により配位されているキレート化合物が含有されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項1に記載した有機エレクトロルミネッセンス素子において、上記のキレート化合物における金属イオンが周期律表第3族の金属であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
- 請求項2に記載した有機エレクトロルミネッセンス素子において、上記のキレート化合物における金属イオンがGaであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
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