JP3545141B2 - 透明導電積層体およびこれを用いたタッチパネル - Google Patents
透明導電積層体およびこれを用いたタッチパネル Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気絶縁性の透明基材上に透明導電膜が形成されている透明導電積層体およびその製造方法、ならびに前記の透明導電積層体を利用したタッチパネルに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、パーソナルコンピュータ,ワードプロセッサ,電子手帳,携帯端末等においては、コンピュータ本体(主記憶装置)へデータ入力を行うための入力装置の1つとして、入力面に指やペン等によって単に荷重を加えるだけでデータ入力を行うことができるタッチパネル(タッチスクリーンを含む。以下同じ。)が多用されるようになってきている。このタッチパネルには種々の原理のものがあるが、その1つとして、抵抗膜方式のものがある。抵抗膜方式は導電部が透明であるため、視認性を損なわない上、構造が単純で誤動作が発生しにくいという利点を有している。抵抗膜方式のタッチパネルはアナログ型とデジタル型とに大別されるが、入力位置の検出感度の向上の要求に伴い、最近ではアナログ型が採用されつつある。
【0003】
アナログ型のタッチパネルでは、透明基材とこの透明基材上に平膜状に形成された透明電極膜(抵抗膜)とを備えた透明電極基板が2枚、前記の透明電極膜同士が対向するようにしてスペーサ等によって所定間隔に保たれつつ配置されており、2枚の透明電極基板のうちの一方が入力面側に位置している。そして、入力面側に位置している透明電極基板の外部から当該透明電極基板に荷重が加えられたときに透明電極膜同士が導通するように、これらの透明電極膜の各々は、当該透明電極膜の所定の位置に設けられた電極端子やリード線(取出し電極)を介して所定の駆動回路と電気的に接続されている。また、透明電極膜の各々は、比較回路,マイクロプロセッサー,アナログ/デジタル変換器等を用いた座標検出手段とも電気的に接続されている。
【0004】
このアナログ型のタッチパネルにおいては、入力面側に位置している透明電極基板の外部から荷重が加えられて透明電極膜同士が導通したときに、一方の透明電極膜における所定の端部から前記の導通が生じた箇所を経て他方の透明電極膜における所定の端部へ電流が流れるように回路が組まれている。そして、この回路における電気抵抗値は、前記の導通が生じた箇所、すなわち前記の荷重が加えられた箇所の位置座標に応じて変化することから、この電気抵抗値の変化に基づいて、前記の荷重が加えられた箇所の位置座標が座標検出手段によって検出される。
【0005】
このため、透明電極膜の抵抗値の経時変化を抑制することが重要である。特に、電子手帳や携帯端末等、温度変化の大きい環境下で使用されるタッチパネルには、電気抵抗の耐熱安定性が求められている。
【0006】
また、導通が生じた箇所を通じて流れた電流をもとに算出した電気抵抗値をもとにして位置座標が決定されることから、アナログ型のタッチパネルに使用される透明電極膜については、デジタル型のタッチパネルに使用される透明電極膜よりも高電気抵抗で、かつ、シート抵抗の均一性に優れていることが要求される。そして、アナログ型のタッチパネルについては、近年、入力精度の高精度化に対する要望が高まっており、これに伴って最近では当該タッチパネルの透明電極膜のシート抵抗は概ね800Ω/□以上であることが望まれるに至っている。
【0007】
ところで、携帯端末の液晶ディスプレーのカラー化が一般的になるに従って、カラーディスプレー上に設置されるタッチパネルの光透過率特性に対する要求も年々厳しくなってきている。すなわち、これまでは人間の視感度が高い領域である緑色波長域での光透過率が高ければよかったが、最近ではカラーディスプレイの視認性を損なわないようにとの理由から、可視域(波長380〜780nmの領域)全体に亘って平坦で、かつ高い光透過率を示すことが望まれるようになってきた。
【0008】
可視域全体に亘って平坦で、かつ高い光透過率を有する透明導電材料としては、従来より結晶質ITO膜が知られているが、当該ITO膜は、通常、比抵抗が8×10−4Ω・cm以下の透明導電膜となる。したがって、ITO膜を透明電極膜として用いて入力精度が向上したアナログ型のタッチパネルを得るためには、前記した望ましい抵抗値を勘案すると、ITO膜の膜厚を10nm程度と非常に薄くする必要がある。しかしながら、このように極めて薄い薄膜は耐久性に劣るばかりでなく、電気抵抗値の再現性も得られないため、実用に耐え得るものではない。このため、特にカラーディスプレイ上に設置して用いられるアナログ型のタッチパネルについては、その透明電極膜として、ITO膜に代わる新たな高電気抵抗膜の開発が望まれている。
【0009】
ITO膜よりも高電気抵抗の膜として、特開平6−349338号公報には、透明導電性の金属酸化物薄膜中に、TiO2 、ZnO等の特定の金属酸化物を特定量添加したものが開示されている。しかし、シート抵抗値、可視光の透過率とも十分とはいえない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、本発明の第1の目的は、高い比抵抗と高い透明性とを併せ持つ透明導電膜を備えた透明導電積層体およびその製造方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の第2の目的は、高い比抵抗と優れた耐熱安定性とを併せ持つ透明導電膜を備えた透明導電積層体およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
また、本発明の第3の目的は、高い入力精度と高い透明性とを併せ持つものを容易に得ることができるタッチパネルを提供することにある。
【0013】
また、本発明の第4の目的は、高い入力精度と優れた耐熱安定性とを併せ持つものを容易に得ることができるタッチパネルを提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の実状に鑑みて鋭意研究を行った結果、インジウム(In),亜鉛(Zn),チタン(Ti)および酸素(O)を構成元素とする特定組成の酸化物膜を特定の方法によって製膜することにより、高い比抵抗と高い透明性とを併せ持つ透明導電膜が得られることを見出し、また高い比抵抗と優れた耐熱安定性とを併せ持つ透明導電膜が得られることを見出し、更には、高い比抵抗、高い透明性、優れた耐熱安定性の三者を併せ持つ透明導電膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕.電気絶縁性の透明基材と、この透明基材上に形成された透明導電膜とを有し、前記透明導電膜が、インジウム(In),亜鉛(Zn),チタン(Ti)および酸素(O)を構成元素とし、インジウム(In)と亜鉛(Zn)の合計量に占めるインジウム(In)の原子比〔In/(In+Zn)〕が0.2〜0.9、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とチタン(Ti)の合計量に占めるチタン(Ti)の原子比〔Ti/(In+Zn+Ti)〕が0.022〜0.2である酸化物膜を酸素分圧1.0×10 −2 Pa以下で物理的気相蒸着法によって形成した後、この酸化物膜を酸素分圧10hPa以上の雰囲気下において60℃以上の温度条件でアニーリングして得られる透明導電膜であることを特徴とする透明導電積層体。
【0018】
〔2〕.電気絶縁性の透明基材上に、インジウム(In),亜鉛(Zn),チタン(Ti)および酸素(O)を構成元素とし、インジウム(In)と亜鉛(Zn)の合計量に占めるインジウム(In)の原子比〔In/(In+Zn)〕が0.2〜0.9、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とチタン(Ti)の合計量に占めるチタン(Ti)の原子比〔Ti/(In+Zn+Ti)〕が0.022〜0.2である酸化物膜からなる透明導電膜を酸素分圧1.0×10−2Pa以下で物理的気相蒸着法によって形成した後、この透明導電膜を酸素分圧10hPa以上の雰囲気下において60℃以上の温度条件でアニーリングすることを特徴とする透明導電積層体の製造方法。
【0019】
〔3〕.所定のパターンに形成された透明電極膜を有する2枚の透明電極基板を備え、前記2枚の透明電極基板が前記透明電極膜同士を対向させて所定間隔で配置されており、前記透明電極基板のうちの一方の外部から該透明電極基板に荷重を加えたときに前記透明電極膜同士が導通するタッチパネルにおいて、前記2枚の透明電極基板のそれぞれに形成されている透明電極膜のうちの少なくとも一方が、インジウム(In),亜鉛(Zn),チタン(Ti)および酸素(O)を構成元素とし、インジウム(In)と亜鉛(Zn)の合計量に占めるインジウム(In)の原子比〔In/(In+Zn)〕が0.2〜0.9、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とチタン(Ti)の合計量に占めるチタン(Ti)の原子比〔Ti/(In+Zn+Ti)〕が0.022〜0.2である酸化物膜を酸素分圧1.0×10 −2 Pa以下で物理的気相蒸着法によって形成した後、この酸化物膜を酸素分圧10hPa以上の雰囲気下において60℃以上の温度条件でアニーリングして得られる透明導電膜であることを特徴とするタッチパネル。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
まず本発明の透明導電積層体について説明すると、この透明導電積層体は、上述したように電気絶縁性の透明基材上に特定の酸化物膜からなる透明導電膜が形成されているものである。
【0023】
ここで、上記の透明基材は電気絶縁性を有し、かつ目的とする透明導電積層体の用途等に応じた所望の透明性を有するものであればよく、当該透明基材は有機材料および無機材料のいずれからなっていてもよい。
【0024】
本発明の透明導電積層体を後述する本発明のタッチパネル用の透明電極基板またはその材料として用いる場合には、タッチパネルをカラーディスプレイ上に設置したときにディスプレイの視認性が低下するのを抑制するうえから、当該透明導電積層体における可視光の平均透過率を概ね80%以上にすることが望ましい。そして、可視光の平均透過率が概ね80%以上である透明導電積層体を得るためには、上記の透明基材として可視光の平均透過率が概ね85%以上であるものを使用することが好ましい。
【0025】
このような透明基材の具体例としては、ポリカーボネート樹脂,ポリアリレート樹脂,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂,ポリエーテルサルホン樹脂,アモルファスポリオレフィン樹脂,ポリスチレン樹脂,アクリル樹脂等の透明高分子材料や、ソーダ石灰ガラス,鉛ガラス,硼硅酸ガラス,無アルカリガラス等のガラスからなるフィルム状物、シート状物または板状物が挙げられる。タッチパネル用の透明電極基板またはその材料としての透明導電積層体を得る場合には、上記の透明基材の中でも、可撓性およびコストの点からポリカーボネート樹脂,ポリアリレート樹脂,ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートが好ましく、なかでもポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0026】
なお、本発明でいう「可視光の平均透過率」とは、380〜780nmの波長域における分光透過率を波長1nm毎に求めたときの平均値を意味する。透明基材上に形成されている透明導電膜についての「可視光の平均透過率」は、例えば以下に示す、式〔1〕より求めることができる。
【0027】
【数1】
【0028】
上記の式〔1〕中、Ai(=log (100/Pi )−log (100/Qi ))は透明基材と透明導電膜とからなる積層体の吸光度から透明基材の吸光度を引いたものであり、透明導電膜単独での吸光度を表す。したがって、100×10−Ai は透明電膜単独での光透過率となる。この値を可視域である波長380〜780nmの範囲で1nm毎に測定したものの総和をサンプリング数401で除して、「可視光の平均透過率T」と定義した。
【0029】
なお、本発明でいう「電気抵抗(シート抵抗)変化率」とは、加熱前の電気抵抗(シート抵抗)をR0 、大気中、120℃で150時間加熱後の電気抵抗(シート抵抗)をRとした場合のR/R0 を指す。電気抵抗変化率が小さい(1に近い)場合には、このような性能の透明導電膜をタッチパネルに用いた場合、温度変化の大きい環境下でも長期間にわたって優れた入力安定性を示す。
【0030】
透明基材は、その片面または両面に必要に応じてガスバリア層、ハードコート層、反射防止層等が設けられていてもよい。ガスバリア層の具体例としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体,ポリビニルアルコール,ポリアクリロニトリル,ポリ塩化ビニリデン,ポリフッ化ビニリデン等からなるものが挙げられる。また、ハードコート層の具体例としては、チタン系またはシリカ系のハードコート剤や、ポリメチルメタクリレート,ポリフォスファゼン等の高分子材料からなるもの等が挙げられる。そして、反射防止層の具体例としては、フッ素系アクリルポリマー等の低屈折率ポリマー、MgF2 やCaF2 等の無機フッ化物、TiO2 ,SiO2 ,ZnO,Bi2 O3 ,Al2 O3 等の無機酸化物、およびこれらの積層体からなるもの等が挙げられる。
【0031】
上述した透明基材上に形成されている透明導電膜は、前述したように、インジウム(In),亜鉛(Zn),チタン(Ti)および酸素(O)を構成元素とし、インジウム(In)と亜鉛(Zn)の合計量に占めるインジウム(In)の原子比〔In/(In+Zn)〕が0.2〜0.9、チタン(Ti)の原子比〔Ti/(In+Zn+Ti)〕が0.022〜0.2である酸化物膜からなる。そして、この透明導電膜における可視光の平均透過率は94%以上であるか、および/または、電気抵抗変化率が0.9〜1.2である。
【0032】
上記の酸化物膜からなる透明導電膜は、その製造過程での不可避的な混入物を除き、上記の構成元素のみからなる。この酸化物膜(透明導電膜)は、上記の光学的特性、電気抵抗変化率および後述する程度の電気的特性を示すものであれば特に限定されるものではなく、例えば、非晶質でも、インジウム酸化物、亜鉛酸化物およびチタン酸化物の混合物でも、インジウム酸化物、亜鉛酸化物およびチタン酸化物の混晶でも、前記混晶とチタン酸化物との混合物でもよい。
【0033】
ただし、当該酸化物膜におけるインジウム(In)の原子比〔In/(In+Zn)〕は上記のように0.2〜0.9である。当該インジウム(In)の原子比が0.2未満では酸化物膜における波長400nm前後の吸収が大きくなり、「可視光の平均透過率94%以上」を満足し得なくなる。一方、前記インジウム(In)の原子比が0.9を超えると酸化物膜の耐熱安定性が低下し、このような酸化物膜をタッチパネルの透明電極膜として利用すると、長期間にわたって押圧位置を電位差として正確に検知できる、入力安定性に優れたタッチパネルを得ることが困難になる。そして、透明性および/または耐熱安定性に優れる透明導電膜をより安定的に得るためには、上記インジウム(In)の原子比が0.5〜0.9であることが好ましい。
【0034】
また、チタン(Ti)は酸化物膜の透明性を向上させるうえで有効な成分であると共に、酸化物膜の比抵抗を高めるうえでも有用な成分である。このチタン(Ti)の原子比〔Ti/(In+Zn+Ti)〕が0.022未満の酸化物膜では比抵抗が9.6×10−4Ω・cm未満となることから、酸化物膜の膜厚を実用に耐え得ると考えられる最小膜厚(約12nm)とした場合にはシート抵抗が800Ω/□未満となり、入力精度が向上したアナログ型のタッチパネルを得るための透明電極膜に要求される電気的特性(例えば、後記するシート抵抗値)を満足しなくなる。一方、チタン(Ti)の前記原子比が0.2を超える酸化物膜では、比抵抗が概ね2.0×10−1Ω・cmを超えるようになり、シート抵抗を10kΩ/□としてもその膜厚は200nmを超えるため光透過率の低下が避けられない。また、チタン(Ti)の前記原子比が0.022〜0.2の範囲を外れると、酸化物膜の電気抵抗変化率が0.9〜1.2の範囲から外れるようになり、耐熱安定性が低下する。そして、透明性および/または耐熱安定性に優れる透明導電膜をより安定的に得るためには、上記チタン(Ti)の原子比は0.030〜0.16であることが好ましい。
【0035】
一方、上述した組成を有する酸化物膜における可視光の平均透過率は、当該酸化物膜の組成および膜厚により異なってくるが、本発明の第1の目的を達成する透明導電積層体においては、94%以上とする。
前述したように、本発明の透明導電積層体を後述する本発明のタッチパネル用の透明電極基板またはその材料として用いる場合には、タッチパネルをカラーディスプレイ上に設置したときにディスプレイの視認性が低下するのを抑制するうえから、当該透明導電積層体における可視光の平均透過率を概ね80%以上にすることが望ましいわけであるが、上記組成の酸化物膜における可視光の平均透過率が94%以上であれば、可視光の平均透過率が概ね80%以上である透明導電積層体を得ることが容易になる。
【0036】
酸化物膜の膜厚は、酸化物膜の組成や目的とする透明導電積層体の層構成(例えば、透明基材が反射防止層を有しているか否か等)に応じて適宜選択可能である。透明基材上に形成した状態下における可視光の平均透過率が94%以上である酸化物膜は、その膜厚を概ね50nm以下とすることにより得ることが可能になり、その膜厚を概ね30nm以下とすることにより容易に得ることが可能になる。
【0037】
したがって、カラーディスプレイ上に設置したときでもディスプレイの視認性が低下するのを抑制することができるタッチパネルを本発明の透明導電積層体を利用して得ようとする場合には、当該透明導電積層体における上記酸化物膜の膜厚を50nm以下とすることが好ましく、30nm以下とすることがより好ましい。一方、上記酸化物膜の膜厚が12nm未満では実用に耐え得る透明導電膜を形成することが困難になるので、当該酸化物膜の膜厚は12nm以上とすることが好ましい。カラーディスプレイ上に設置したときでもディスプレイの視認性が低下するのを抑制することができるタッチパネルを本発明の透明導電積層体を利用して得ようとする場合には、上記の酸化物膜からなる透明導電膜の膜厚を12〜20nmとすることが特に好ましい。
【0038】
上述した酸化物膜からなる透明導電膜の形状は、目的とする透明導電積層体の用途等に応じて適宜選択可能である。例えば、透明導電膜をデジタル型のタッチパネルの透明電極膜として使用する場合、当該透明導電膜は、製膜時に所定のマスクを使用することによって、あるいは製膜後に所定のパターニングを行うことによって、所望の平行ストライプパターンに形成される。また、アナログ型のタッチパネルの透明電極膜として使用する場合、当該透明導電膜は、製膜時に必要に応じて所定のマスクを使用することによって、あるいは製膜後に必要に応じて所定のパターニングを行うことによって、1枚の平膜に形成される。
【0039】
前述した透明基材上に上述した酸化物膜からなる透明導電膜が形成されている本発明の透明導電積層体を用いて入力精度が向上したアナログ型のタッチパネルを作製しようとする場合には、酸化物膜(透明導電膜)のシート抵抗が概ね800〜10000Ω/□、好ましくは1000〜7500Ω/□、より好ましくは1000〜3000Ω/□、比抵抗が9.6×10−4〜5×10−2Ω・cm、より好ましくは1×10−3〜9×10−3Ω・cmとなるように当該酸化物膜(透明導電膜)の組成および膜厚を調整することが好ましい。
ここで、比抵抗(Ω・cm)とは、長さ1cm、断面積1cm2 のサンプルの持つ抵抗値であり、シート抵抗(Ω/□)とは、単位面積に対する面抵抗値である。そして、シート抵抗と膜厚(オングストローム)の積が比抵抗となる。
【0040】
本発明の透明導電積層体は、当該透明導電積層体を構成している透明導電膜(酸化物膜)のシート抵抗を容易に800Ω/□〜10kΩ/□と高くすることができるので、当該透明導電膜をタッチパネルの透明電極膜またはその材料、特にアナログ型のタッチパネルの透明電極膜またはその材料として利用することにより、入力精度が向上したタッチパネルを容易に得ることが可能である。また、本発明の第1の目的を達成する透明導電積層体を構成している透明導電膜(酸化物膜)における可視光の平均透過率は94%以上と高く、当該透明導電膜の透明性は高いので、透明導電積層体における可視光の平均透過率を容易に80%以上にすることができる。そして、可視光の平均透過率が概ね80%以上である透明導電積層体を利用してタッチパネル用の透明電極基板を作製すれば、カラーディスプレー上に設置した場合でもディスプレイの視認性を実質的に損なわないタッチパネルを得ることができる。
【0041】
一方、本発明の第2の目的を達成する透明導電積層体においては、透明導電膜(酸化物膜)の電気抵抗変化率が0.9〜1.2と小さく、耐熱安定性に優れるため、温度変化の大きい環境下で使用しても、長期間にわたって優れた入力安定性を示すタッチパネルを得ることができる。
【0042】
これらの理由から、本発明の透明導電積層体はタッチパネル、特にカラーディスプレー上に設置されるタイプのアナログ型のタッチパネルの構成部材またはその材料として好適である。
【0043】
次に、本発明の透明導電積層体の製造方法について説明する。上述した特性を有している本発明の透明導電積層体は、前述した透明基材上にスパッタリング法(反応性スパッタリング法を含む。以下同じ。),イオンプレーティング法,活性化蒸着法等の物理的気相蒸着法によって上記の酸化物膜からなる透明導電膜を形成することにより得ることができる。透明基材上に高い生産性の下に透明導電膜を形成するうえからは、スパッタリング法を適用することが好ましい。
【0044】
本発明の方法は、前述したように、電気絶縁性の透明基材上に、インジウム(In),亜鉛(Zn),チタン(Ti)および酸素(O)を構成元素とし、インジウム(In)と亜鉛(Zn)の合計量に占めるインジウム(In)の原子比〔In/(In+Zn)〕が0.2〜0.9、チタン(Ti)の原子比〔Ti/(In+Zn+Ti)〕が0.022〜0.2である酸化物膜からなる透明導電膜を低酸素分圧下に物理的気相蒸着法によって形成した後、この透明導電膜を酸素分圧10hPa以上の雰囲気下において60℃以上の温度条件でアニーリングすることを特徴とするものである。
【0045】
ここで、上記の透明基材は、本発明の透明導電積層体についての説明の中で既に述べたように電気絶縁性を有し、かつ目的とする透明導電積層体の用途等に応じた所望の透明性を有するものであればよく、当該透明基材は有機材料および無機材料のいずれからなっていてもよい。その具体例は、本発明の透明導電積層体についての説明の中で述べた通りである。また、透明基材上に形成する透明導電膜は上記の組成を有する酸化物膜からなるものであり、当該酸化物膜についての好ましい組成は、本発明の透明導電積層体についての説明の中で述べた通りである。
【0046】
本発明の方法では、上記の酸化物膜からなる透明導電膜を低酸素分圧下に物理的気相蒸着法によって形成するわけであるが、ここでいう「低酸素分圧下に物理的気相蒸着法によって形成する」とは、製膜後の酸化物膜を酸素分圧10hPa以上の雰囲気下において60℃以上の温度条件でアニーリングしたときに、当該酸化物膜における可視光の平均透過率が94%以上になるか、あるいは電気抵抗変化率が0.9〜1.2になる酸素分圧条件(酸素分圧が0Paの場合を含む。)の物理的気相蒸着法によって形成することを意味する。
【0047】
上記組成の酸化物膜を物理的気相蒸着法によって形成するにあたって製膜時の雰囲気における酸素分圧が高すぎると、上記条件のアニーリングを行っても可視光の平均透過率が94%以上の酸化物膜を得ることが困難になる。製膜時の雰囲気における酸素分圧は、目的とする光学特性の酸化物膜が得られるように、物理的気相蒸着法の種類,蒸着材料の組成,目的とする酸化物膜の組成等に応じて適宜選択される。例えば、酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして用いたスパッタリング法の場合には、製膜時の酸素分圧を概ね1.0×10−2Pa以下とすることにより、目的とする光学特性の酸化物膜を最終的に得ることができる。
【0048】
また、物理的蒸着法によって透明導電膜を形成させる際、導入ガス中に酸素を分圧として0〜1.0×10−2Pa含ませることにより、電気抵抗値について経時安定性に優れた透明導電膜を備えた透明導電積層体を得ることができる。これは、低酸素分圧下で得られた透明導電膜(酸化物膜)は、過度の酸素欠損状態にあるが、これを酸素分圧10Pa以上の雰囲気中で60℃以上の温度でアニーリニグすることで、酸素欠損状態が適度に解消され、電気的に安定な構造となるためと思われる。製膜時の酸素分圧が10−2Paを超えると、酸素欠損状態が不十分となるため、酸素侵入による伝導電子の捕獲が促進され、電気抵抗値の経時安定性が低下する可能性がある。このため、導入ガス中に含ませる酸素ガスは分圧として1.0×10−2Pa以下とすることが好ましく、5.0×10−3Pa以下とするのが更に好ましく、中でも1.0×10−4Pa以下とするのが好ましい。
【0049】
物理的気相蒸着法としてスパッタリング法を適用する場合、スパッタリングは1元であってもよいし、多元であってもよい。また、スパッタリングの方式としてはRFスパッタリング,DCスパッタリング等、各種の方式を適用することができるが、生産性や得られる酸化物膜の膜特性の観点から、工業的には一般的にDCスパッタリングが好ましい。DCスパッタリングのスパッタリング条件の一例を挙げるとすれば、以下のようになる。
【0050】
すなわち、スパッタリング時に真空槽内に導入するガス(導入ガス)はヘリウム(He)ガス,ネオン(Ne)ガス,アルゴン(Ar)ガス,クリプトン(Kr)ガス,キセノン(Xe)ガス,ラドン(Rn)ガス,窒素(N)ガス等からなる不活性ガス、または不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスとし、スパッタ時の雰囲気圧(スパッタ圧)は1×10−2Pa〜5Pa程度、ターゲット印加電圧(放電電圧)は1000V未満とする。また、製膜時の基板温度(透明基材の温度)は、透明基材の耐熱性に応じて、当該透明基材が熱により変形や変質を起こさない温度範囲内で適宜選択される。
【0051】
スパッタリング時の雰囲気圧(スパッタ圧)が1×10−2Pa未満ではプラズマの安定性が悪く、5Paを超えると得られる透明導電膜(酸化物膜)の基材への密着性が悪くなる。また、ターゲット印加電圧(放電電圧)が1000V以上では透明導電膜(酸化物膜)がプラズマによるダメージを受け、目的とする電気的特性(例えば、シート抵抗や比抵抗)を有する透明導電膜が得られなかったり、ターゲットが割れる等の問題が発生し易い。ターゲット印加電圧(放電電圧)の好ましい値は800V未満、さらに好ましくは500V未満である。高品質の透明導電膜を得るためにはターゲット印加電圧(放電電圧)をできるだけ低くすることが好ましいが、極端に低い場合には生産性の問題が生じてくる。したがって、ターゲット印加電圧(放電電圧)の最適値は、要求される透明導電膜の品質と生産性とを総合的に考慮したうえで適宜選択される。
【0052】
また、スパッタリングターゲットは、目的とする組成の透明導電膜(酸化物膜)を製膜することができさえすればメタルターゲットであってもよいし酸化物焼結体ターゲットであってもよいが、目的とする透明導電膜(酸化物膜)の組成に応じた酸化物焼結体ターゲットを用いることが好ましい。ここで、「目的とする透明導電膜(酸化物膜)の組成に応じた酸化物焼結体ターゲット」とは、目的とする組成の透明導電膜(酸化物膜)を得ることができる組成の酸化物焼結体ターゲットを意味する。当該酸化物焼結体ターゲットの組成は、スパッタ率および目的とする透明導電膜(酸化物膜)の組成に応じて適宜選択される。ただし、酸化物焼結体ターゲットの相対密度は80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上であり、更に好ましくは94%以上である。酸化物焼結体ターゲットの相対密度が80%未満である場合には、製膜速度が遅くなり、また、ターゲット自体およびそれから得られる膜が黒化しやすくなる。相体密度の高い酸化物焼結体ターゲットを得るためには、CIP(冷間静水圧)等で成型後にHIP(熱間静水圧)等により焼結することや、焼結助剤を用いることが好ましい。ここに相対密度とは、酸化物の組成から計算した理論密度に対する焼結体の実際の密度を面分率で示したものである。
【0053】
上述した酸化物焼結体ターゲットは、例えば次のようにして得ることができる。まず、酸化インジウムまたは焼成により酸化インジウムとなる化合物(例えば塩化インジウム、硝酸インジウム、酢酸インジウム、水酸化インジウム、インジウムアルコキシド等)と、酸化亜鉛または焼成により酸化亜鉛となる化合物(例えば塩化亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、水酸化亜鉛、亜鉛アルコキシド等)と、酸化チタンまたは焼成により酸化チタンとなる化合物(例えば塩化チタン、硝酸チタン、硫酸チタン等)とを所定量づつ秤量して混合する。次いで、得られた混合物を500〜1200℃で仮焼して仮焼物を得、この仮焼物をボールミル,ロールミル,パールミル,ジェットミル等で粉砕して、粒子径が0.01〜1.0μmの範囲内でかつ粒子径の揃った粉末を得る。なお、仮焼物の粉砕に先立って、当該仮焼物に100〜800℃で還元処理を施してもよい。また、必要に応じて、前記の粉末について更に仮焼、粉砕を所望回数繰り返してもよい。この後、得られた粉末を所望形状に加圧成形し、成形物を800〜1700℃で焼結する。このとき、必要に応じてポリビニルアルコール,メチルセルロース,ポリワックス,オレイン酸などを成形助剤として用いてもよい。このようにして焼結体を得ることにより、目的とする焼結体ターゲットを得ることができる。
【0054】
上述した物理的気相蒸着法によって透明基材上に形成される酸化物膜(透明導電膜)の形状は、本発明の透明導電積層体についての説明の中で既に述べたように、目的とする透明導電積層体の用途等に応じて適宜選択可能である。
【0055】
本発明の方法では、上述のようにして透明基材上に酸化物膜(透明導電膜)を形成した後、この透明導電膜を酸素分圧10hPa以上の雰囲気下において60℃以上の温度条件でアニーリングする。このアニーリングは、透明導電膜(酸化物膜)に酸素を導入することによって当該透明導電膜における可視光の平均透過率を向上させて、当該平均透過率を94%以上にするための処理である。また、透明導電膜の酸素欠損状態を適度に解消して、電気的に安定な構造とし、電気抵抗変化率(電気抵抗の経時変化率)を低減するための処理である。
【0056】
上記のアニーリング時の雰囲気における酸素分圧が10hPa未満では、可視光の平均透過率が94%以上の透明導電膜を得ることが困難になる。また、透明導電膜の酸素欠損状態の解消が不十分となり、電気抵抗の経時変化の低減が不十分となる。このときの酸素分圧の上限は、目的とする光学特性あるいは電気抵抗変化率を有する透明導電積層体が得られさえすれば特に限定されるものではなく、所有している設備の能力や許容される製造コスト等に応じて適宜選択可能であり、例えば10気圧あるいは10気圧を超える高圧とすることもできる。
【0057】
アニーリング時の雰囲気は酸素ガス雰囲気でもよいし、酸素以外の成分としてN2 ,He,Ar等の不活性ガスを含んでいるものであってもよい。また、アニーリング時の雰囲気の全圧は、目的とする光学特性あるいは電気抵抗変化率の透明導電積層体が得られさえすれば10hPa以上の範囲内で適宜選択可能である。したがって、当該アニーリングは大気中(酸素分圧は約204hPa)においても行うことができ、大気中で行うことが最も簡便である。なお、アニーリング時の雰囲気の全圧の上限は、上述した酸素分圧の上限と同様に、所有している設備の能力や許容される製造コスト等に応じて適宜選択可能であり、例えば10気圧あるいは10気圧を超える高圧とすることもできる。
【0058】
アニーリングの温度が60℃以上であれば、透明性向上(可視光の平均透過率向上)の効果並びに電気抵抗変化率の低減効果が現れ、これらの効果は高温でアニーリングするほど早く現れる。したがって、アニーリングの温度の上限は透明基材の変形の有無,透明導電膜の組成変化の有無,透明導電膜の物性(電気的特性や光学的特性)変化の程度,許容される製造コスト等を勘案して、透明基材の種類や透明導電膜の組成等に応じて適宜選択可能である。透明基材が有機高分子材料からなるものである場合には、当該透明基材の材質および透明導電膜の組成等により異なるが、透明基材の軟化点未満の温度(概ね80〜200℃)で15分〜5時間程度アニーリングすることが好ましい。また、透明基材がガラスからなるものである場合には、概ね80〜400℃で5分〜5時間程度アニーリングすることが好ましい。
【0059】
従来より、透明導電膜(ITO膜)の透明性を向上させるための手法として、製膜後の透明導電膜を酸化性または還元性雰囲気中でアニーリングする方法が提案されている(特開平1−100260号公報,特開平1−206514号公報および特開平2−221365号公報参照)。しかしながら、これらの方法では非晶質の透明導電膜(ITO膜)を製膜し、当該透明導電膜をアニーリング工程時に結晶化させることによってその透明性を向上させているため、透明性の向上と同時に透明導電膜自体の比抵抗が大きく低下する。その結果として、最終的に得られる透明導電膜の比抵抗はいずれの方法によっても8×10−4Ω・cm程度以下となる。そして、入力精度が向上したアナログ型のタッチパネルを得るための透明電極膜に要求される800Ω/□以上のシート抵抗を得るためには、その膜厚を10nm以下と極めて薄くしなければならないことから、耐久性の点で実用化に至っていない。
【0060】
これに対し、本発明の方法でアニーリングされる透明導電膜(酸化物膜)はインジウム(In),亜鉛(Zn),チタン(Ti)および酸素(O)を構成元素とする所定組成の酸化物膜であり、この透明導電膜(酸化物膜)について前述の条件のアニーリングを施した場合には、透明性向上の効果が得られると同時に、比抵抗9.6×10−4Ω・cm以上という電気的特性を得ることが可能である。そして、比抵抗が9.6×10−4Ω・cm以上であれば、その膜厚を実用に耐え得る最小膜厚(約12nm)とした場合でもシート抵抗は800Ω/□以上となることから、当該透明導電膜を透明電極膜として利用することにより、入力精度が向上したアナログ型のタッチパネルを得ることが可能になる。
【0061】
上述したアニーリングまで行うことにより、目的とする透明導電積層体を得ることができる。本発明の方法によれば、シート抵抗が800Ω/□〜10kΩ/□で可視光の平均透過率が94%以上である透明導電膜を備えた透明導電積層体あるいは電気抵抗変化率が0.9〜1.2である透明導電膜を備えた透明導電積層体を容易に得ることができるので、当該透明導電積層体をタッチパネルの透明電極基板またはその材料として用いることにより、入力精度が向上したアナログ型のタッチパネルを容易に得ることが可能になるのみならず、カラーディスプレイ上に配置した場合でも当該カラーディスプレイの表示が見やすいアナログ型のタッチパネルであって、長期にわたって入力精度が維持されるタッチパネルを容易に得ることが可能になる。
【0062】
また、本発明の方法によれば、目的とする電気的特性および光学的特性を有する透明導電積層体を再現性よく得ることが可能であり、電気抵抗値について経時安定性に優れた透明導電膜を備えた透明導電積層体を再現性よく得ることが可能である。
【0063】
次に、本発明のタッチパネルについて説明する。
本発明のタッチパネルは、前述したように、所定のパターンに形成された透明電極膜を有する2枚の透明電極基板を備え、前記2枚の透明電極基板が前記透明電極膜同士を対向させて所定間隔で配置されており、前記透明電極基板のうちの一方の外部から該透明電極基板に荷重を加えたときに前記透明電極膜同士が導通するタッチパネルであり、前記2枚の透明電極基板のそれぞれに形成されている透明電極膜のうちの少なくとも一方は、インジウム(In),亜鉛(Zn),チタン(Ti)および酸素(O)を構成元素とし、インジウム(In)と亜鉛(Zn)との合計量に占めるインジウム(In)の原子比〔In/(In+Zn)〕が0.2〜0.9、チタン(Ti)の原子比〔Ti/(In+Zn+Ti)〕が0.022〜0.2である酸化物膜からなり、該透明電極膜における可視光の平均透過率が94%以上であるか、あるいは電気抵抗変化率が0.9〜1.2であること、または前記の光線透過率と電気抵抗変化率の両方を満足することを特徴とするものである。
【0064】
すなわち、本発明のタッチパネルは、これを構成している上記2枚の透明電極基板のうちの少なくとも一方が、前述した本発明の透明導電積層体(所定形状の透明導電膜が形成されているもの。以下同じ。)によって形成されていることを特徴とするものである。
2枚の透明電極基板のうちの一方を本発明の透明導電積層体以外の透明導電積層体によって形成する場合、当該「本発明の透明導電積層体以外の透明導電積層体」を構成している透明導電膜(透明電極膜)としては、ITO膜や酸化錫膜等、透明性および電気抵抗の経時安定性に優れているものを用いることが好ましい。そして、入力精度が高く、かつ透明性の高いアナログ型のタッチパネルを得る場合には、2枚の透明電極基板のそれぞれを本発明の透明導電積層体によって形成することが好ましい。
【0065】
本発明の透明導電積層体によって形成されている透明電極基板における透明導電膜(透明電極膜)の膜厚は、本発明のタッチパネルをアナログ型のタッチパネルとする場合には、前述のように12〜30nmとすることが好ましく、12〜20nmとすることが特に好ましい。また、本発明の透明導電積層体によって形成されている透明電極基板における透明導電膜(透明電極膜)のシート抵抗は、その組成および膜厚を変えることにより適宜調整することができるが、本発明のタッチパネルをアナログ型のタッチパネルとする場合には、前述のように800Ω/□〜10kΩ/□とすることが好ましく、1000〜7500Ω/□とすることがより好ましく、1000〜3000Ω/□とすることが更に好ましい。
【0066】
本発明のタッチパネルは、当該タッチパネルを構成する2枚の透明電極基板のうちの少なくとも一方を前述した本発明の透明導電積層体によって形成することの他は、従来のタッチパネルと同様にして構成される。このとき、2枚の透明電極基板は、透明電極膜同士が対向するようにしてスペーサ等によって所定間隔に保たれつつ配置され、これらの透明電極基板のうちの一方が入力面側に位置する。そして、入力面側に位置している透明電極基板の外部から当該透明電極基板に荷重が加えたときに透明電極膜同士が導通するように、これらの透明電極膜の各々は、当該透明電極膜の所定の位置に設けられた電極端子やリード線(取出し電極)を介して所定の駆動回路と電気的に接続される。また、透明電極膜の各々は、比較回路,マイクロプロセッサー,アナログ/デジタル変換器等を用いた座標検出手段とも電気的に接続される。
【0067】
上述のようにして構成されるタッチパネルは、良好な視認性と誤作動の少なさの点より抵抗膜方式のタッチパネルとすることが好ましく、特に入力の自在性の点よりアナログ型のタッチパネルとすることが好ましい。
【0068】
本発明のタッチパネルにおけるデータ入力位置の検出原理は従来と同じであるが、当該タッチパネルを構成している2枚の透明電極基板のうちの少なくとも一方は、前述した本発明の透明導電積層体によって形成されたもの、すなわち、シート抵抗が800Ω/□〜10kΩ/□と高いものを容易に得ることができる酸化物膜によって透明電極膜が形成されたものである。このため、本発明のタッチパネルは、座標検出の際のデータ誤認が起こりにくく、確実なデータ入力を安定して行うことができるものを得ることが容易なタッチパネルである。
【0069】
さらに、本発明の第1の目的を達成する透明導電積層体を構成している透明導電膜における可視光の平均透過率は94%以上と高く、当該透明導電膜の透明性は高いので、この透明導電積層体によって形成された透明電極基板を少なくとも1つ備えている本発明のタッチパネルは、カラーディスプレイ上に設置した場合でもディスプレイの視認性を実質的に低下させないものを得ることが容易なタッチパネルである。
【0070】
また、本発明の第2の目的を達成する透明導電積層体を構成している透明導電膜における電気抵抗値の経時変化は少ないため、この透明導電積層体によって形成された透明電極基板を少なくとも1つ備えている本発明のタッチパネルは、長期にわたって確実なデータ入力を安定して行うことができる。
【0071】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
〔実施例1〜4および比較例1,5〕
電気絶縁性の透明基材として厚さ180μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下「PETフィルム」と略記する。)を用い、スパッタリングターゲットとして第1表に示す原子組成(酸素を除く。)の酸化物焼結体を用いて、下記条件の直流マグネトロンスパッタリングにより上記のPETフィルムに透明導電膜(酸化物膜)を製膜した後、下記条件のアニーリングを行って、第2表に示す原子組成(酸素を除く。)の透明導電積層体をそれぞれ得た。なお、透明導電膜の原子組成(酸素を除く。)は誘導結合高周波プラズマ(ICP)発光分光分析により求めた。
【0072】
スパッタリング装置 :HSM−552((株)島津製作所製)
ターゲットサイズ :直径4インチ,厚さ5mm
放電形式 :直流マグネトロン
放電電流 :0.2A
放電電圧 :400V
バックグラウンド圧力 :5.0×10−4Pa
導入ガス(雰囲気ガス):100%Arガス
プレスパッタ圧力 :1.4×10−4Pa
プレスパッタ時間 :5分
スパッタ圧力 :1.4×10−1Pa
スパッタ時間 :9秒
基板温度 :室温
アニーリング :空気中、150℃、1時間
【0073】
上述のようにして得られた各透明導電積層体について、透明導電膜の膜厚、可視光の平均透過率、シート抵抗、比抵抗、シート抵抗の標準偏差および耐熱安定性(電気抵抗変化率)をそれぞれ求めた。これらの結果を第3表に示す。
【0074】
なお、透明導電膜の膜厚は、測定専用のガラス基板(コーニング社製の#7059;厚さ1.1mm)を用いて上記の条件で別途製膜を行ったものについて、スローン社製のDEKTAK3030を用いた触針法により測定した。可視光の平均透過率は、(株)島津製作所製のUV−3100を用いて可視光の透過率を測定し、前記した式〔1〕により算出した。シート抵抗は、三菱油化社製のロレスタFPを用いた四探針法により測定した。そして、比抵抗は、透明導電膜の平面視上の中央部において測定したシート抵抗に、前記のガラス基板上に製膜した透明導電膜の膜厚を乗じることにより算出した。
【0075】
さらに、実施例毎および比較例毎に上記の条件でそれぞれ計5回、透明導電積層体の作製を行い、各透明導電積層体について実施例毎および比較例毎に透明導電膜のシート抵抗を測定してその標準偏差を求めた。これらの結果を第3表に併記する。また、耐熱安定性は、透明導電膜のシート抵抗値(R0)を上記のようにして求めた後、当該透明導電積層体を大気中120℃で150時間放置し、その後、透明導電膜のシート抵抗値(R)を求め、シート抵抗の変化率(R/R0)を算出して評価した。
【0076】
〔実施例5〕
スパッタリング時の導入ガスとして、98体積%のアルゴンと2体積%の酸素との混合ガス(酸素の分圧は2.8×10−3Pa)を用いた以外は、実施例3と同様にして透明導電積層体を作製した。酸化物焼結体ターゲットの組成、透明導電膜の組成および特性を第1表〜第3表に示す。
【0077】
〔実施例6〕
アニーリング条件を大気中120℃、3時間とした以外は、実施例3と同様にして透明導電積層体を作製した。酸化物焼結体ターゲットの組成、透明導電膜の組成および特性を第1表〜第3表に示す。
【0078】
〔実施例7〕
アニーリングを15hPaの酸素雰囲気で行った以外は、実施例3と同様にして透明導電積層体を作製した。酸化物焼結体ターゲットの組成、透明導電膜の組成および特性を第1表〜第3表に示す。
【0079】
〔比較例2〕
スパッタリング時の導入ガスとして、90体積%のアルゴンと10体積%の酸素との混合ガス(酸素の分圧は1.4×10−2Pa)を用いた以外は、実施例3と同様にして透明導電積層体を作製した。酸化物焼結体ターゲットの組成、透明導電膜の組成および特性を第1表〜第3表に示す。
【0080】
〔比較例3〕
アニーリングを実施しなかった以外は、実施例3と同様にして透明導電積層体を作製した。酸化物焼結体ターゲットの組成、透明導電膜の組成および特性を第1表〜第3表に示す。
【0081】
〔比較例4〕
アニーリングを5×10−2Paの酸素雰囲気で行った以外は、実施例3と同様にして透明導電積層体を作製した。酸化物焼結体ターゲットの組成、透明導電膜の組成および特性を第1表〜第3表に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
第3表に示したように、実施例1〜実施例7で作製した各透明導電積層体においては、当該透明導電積層体を構成している透明導電膜(酸化物膜)の可視光の平均透過率が94.0〜94.8%と高い一方で、その比抵抗も1.5×10−3〜6.7×10−3Ω・cmと高い。さらに、電気抵抗値の耐熱安定性(電気抵抗変化率)も1.0〜1.2と優れている。従って、これらの透明導電積層体を用いれば、カラーディスプレイ上に設置したときでもディスプレイの視認性を実質的に損なわず、かつ、優れた入力精度が長期間維持されるアナログ型のタッチパネルを得ることが可能になる。さらに、シート抵抗の標準偏差の値から明らかなように、実施例1〜実施例7で作製した各透明導電積層体は、所望の電気的特性を有するものを再現性よく得ることができるものである。
【0086】
これに対し、比較例1で作製した透明導電積層体においては、これを構成している透明導電膜の可視光の平均透過率は92.5%と低く、比抵抗は49.5×10−3Ω・cmと高い。従って、比較例1の透明導電積層体を用いて作製したアナログ型のタッチパネルは、透明性の面より実用に適さない。また、シート抵抗の標準偏差が大きいことから、比較例1で作製した透明導電積層体は所望の電気的特性を再現よく得ることが困難であることが確認された。
【0087】
また、比較例2の透明導電積層体においては、シート抵抗の標準偏差が大きく、所望の電気的特性を再現よく得ることが困難であることが確認された。また、電気抵抗値の耐熱安定性も1.8と変化が大きく、耐久性に劣る。
比較例3で作製した透明導電積層体においては、これを構成している透明導電膜の比抵抗が3.8×10−3Ω・cmと高いものの、当該透明導電膜の可視光の平均透過率は91.0%であり、透明性に劣る。当該透明導電膜の可視光の平均透過率が実施例3で作製した透明導電積層体における透明導電膜の可視光の平均透過率より劣っているのは、製膜後にアニーリングを実施しなかったことに起因しているものと推察される。
【0088】
比較例4で作製した透明導電積層体においては、これを構成している透明導電膜の比抵抗は3.6×10−3Ω・cmと高いものの、当該透明導電膜の可視光の平均透過率は91.5%であり、透明性に劣る。当該透明導電膜の可視光の平均透過率が実施例3で作製した透明導電積層体における透明導電膜の可視光の平均透過率より劣っているのは、酸素がほとんど存在しない雰囲気下でアニーリングを行なったことに起因しているものと推察される。
【0089】
比較例5で作製した透明導電積層体においては、これを構成している透明導電膜の可視光の平均透過率は98.8%と高いものの、シート抵抗の標準偏差が大きく、所望の電気的特性を再現よく得ることが困難である。また、電気抵抗値の耐熱安定性も7.0と変化が極めて大きく、耐久性に劣る。
【0090】
〔実施例8〕
透明基材としてポリアリレートフィルム(鐘ケ淵化学社製のエルメック)を用いた以外は実施例3と同様にして、透明導電積層体を得た。この透明導電積層体を構成している透明導電膜の原子組成は、実施例3で形成した透明導電膜の原子組成と同様であった。
上記の透明導電膜について、実施例1〜実施例7で求めたと同じ項目を実施例1〜実施例7と同様にして求めた。これらの結果を第4表に示す。
【0091】
〔実施例9〕
透明基材としてポリエーテルサルホンフィルム(住友ベークライト社製のスミライトFS−5300)を用いた以外は実施例3と同様にして、透明導電積層体を得た。この透明導電積層体を構成している透明導電膜の原子組成は、実施例3で形成した透明導電膜の原子組成と同様であった。
上記の透明導電膜について、実施例1〜実施例7で求めたと同じ項目を実施例1〜実施例7と同様にして求めた。これらの結果を第4表に示す。
【0092】
〔実施例10〕
透明基材としてポリカーボネートフィルム(帝人社製のアモレックス)を用いた以外は実施例3と同様にして、透明導電積層体を得た。この透明導電積層体を構成している透明導電膜の原子組成は、実施例3で形成した透明導電膜の原子組成と同様であった。
上記の透明導電膜について、実施例1〜実施例7で求めたと同じ項目を実施例1〜実施例7と同様にして求めた。これらの結果を第4表に示す。
【0093】
〔実施例11〕
透明基材として無アルカリガラス板(コーニング社製の#7059:厚さ1.1mm)を用いた以外は実施例3と同様にして、透明導電積層体を得た。この透明導電積層体を構成している透明導電膜の原子組成は、実施例3で形成した透明導電膜の原子組成と同様であった。
上記の透明導電膜について、実施例1〜実施例7で求めたと同じ項目を実施例1〜実施例7と同様にして求めた。これらの結果を第4表に示す。
【0094】
〔実施例12〕
アニーリング時の雰囲気を酸素ガスと窒素ガスの混合ガス雰囲気(酸素ガスの分圧=10hPa,窒素ガスの分圧=1100hPa)とした以外は実施例3と同様にして、透明導電積層体を得た。この透明導電積層体を構成している透明導電膜の原子組成は、実施例3で形成した透明導電膜の原子組成と同様であった。上記の透明導電膜について、実施例1〜実施例7で求めたと同じ項目を実施例1〜実施例7と同様にして求めた。これらの結果を第4表に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
第4表に示したように、実施例8〜実施例12で作製した各透明導電積層体においては、実施例1〜実施例7で作製した各透明導電積層体におけると同様に、当該透明導電積層体を構成している透明導電膜(酸化物膜)の可視光の平均透過率が94.1〜94.6%と高い一方で、その比抵抗も1.5×10−3〜2.1×10−3Ω・cmと高い。したがって、これらの透明導電積層体を用いれば、カラーディスプレイ上に設置したときでもディスプレイの視認性を実質的に損なわず、かつ、入力精度が向上したアナログ型のタッチパネルを得ることが可能になる。さらに、シート抵抗の標準偏差の値から明らかなように、実施例8〜実施例12で作製した各透明導電積層体は、所望の電気的特性を有するものを再現性よく得ることができるものである。また、電気抵抗値の耐熱安定性も1.1と優れている。
【0097】
〔実施例13〕(タッチパネルの製造)
(1)透明電極基板の作製
透明基材として2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの長尺物(サイズ:300mm×10m、厚さ125μm。以下「PETロール」という。)を用い、スパッタリングターゲットとして実施例1で用いたと同一組成の酸化物焼結体ターゲット(サイズ:5インチ×15インチ×5mm厚)を用いて、以下の要領で透明導電膜積層体を作製した。
【0098】
まず、PETロールを連続走行式DCマグネトロンスパッタリング装置に装着し、真空槽内を5×10−3Pa以下まで減圧した。次に、アルゴンガス(純度99.99%)を真空槽内圧力が2×10−1Paになるように導入し、スパッタリング出力を1.6W/cm2 (ターゲット印加電圧は400V)に、基板温度を20℃にそれぞれ設定して、プレスパッタを行った。プレスパッタ後、シャッターを開にして、100cm/分の走行速度でPETロールの片面に酸化物膜(透明導電膜)を製膜した。
【0099】
上述のようにして得た酸化物膜(透明電極膜)付きPETロールから、平面視上の大きさが16×16cmの酸化物膜付きPETフィルムを2枚切り出すことにより、透明導電積層体を2枚得た。そして、これらの透明導電積層体について、空気中,150℃,40分の条件でアニーリングを行って、目的とする透明導電積層体を2枚得た。
【0100】
上記の各透明導電積層体は膜厚15nmの透明導電膜を有しており、これらの透明導電膜の組成は実施例1で得た透明導電積層体における透明導電膜の組成と同様であった。また、各透明導電膜について、平面視上の中央部および四隅の計5点でのシート抵抗を実施例1と同様にして求めたところ、1000±15Ω/□と高電気抵抗でありながら均一性に優れていた。そして、各透明導電膜について可視光の平均透過率を実施例1と同様にして求めたところ、いずれの透明導電膜においても94%以上であった。また、この透明導電膜を空気中、120℃、150時間加熱の条件下で耐熱安定性試験を行ったところ、シート抵抗の変化率、R/R0 は1.0であった。
【0101】
(2)タッチパネルの作製
上記(1)で得た2枚の透明導電積層体をそれぞれ透明電極基板として用いて、図1によってその概略が示されるアナログ型のタッチパネルを以下のようにして作製した。
まず、一方の透明電極基板1を構成している透明電極膜(透明導電膜)2において互いに対向している1組の辺縁部上に、幅3mmの帯状を呈する電極端子3a,3bを銀ペースト(藤倉化成社製のD−550)によってそれぞれ設けた。また、他方の透明電極基板5を構成している透明電極膜(透明導電膜)6において互いに対向している1組の辺縁部上にも、同様にして幅3mmの帯状を呈する電極端子7a,7bをそれぞれ設けた。
【0102】
次に、透明電極基板1と透明電極基板5とを、透明電極膜(透明導電膜)2,6が互いに対向し、かつ、電極端子3a,3bを結ぶ方向と電極端子7a,7bを結ぶ方向とが平面視上直交するようにして貼り合わせた。このとき、SiO2 からなる粒径15μmの球状のスペーサー(図示せず。)を用いて、透明電極膜(透明導電膜)2,6間の距離が15μmとなるようにした。
【0103】
この後、透明電極膜(透明導電膜)2に設けた電極端子3a,3bと15Vの直流電源V1 とを、リード線10a,10bを介して接続した。このとき、リード線10aの途中にはスイッチS1 を介在させ、リード線10bの途中にはスイッチS2 を介在させた。また、透明電極膜(透明導電膜)6に設けた電極端子7a,7bと15Vの直流電源V2 とを、リード線11a,11bを介して接続した。このとき、リード線11aの途中にはスイッチS3 を介在させ、リード線11bの途中にはスイッチS4 を介在させた。
このようにして電極端子3a,3bと直流電源V1 、および電極端子7a,7bと直流電源V2 とを電気的に接続することにより、アナログ型のタッチパネル15が得られた。
【0104】
(3)タッチパネルの性能評価
上記(2)で作製したタッチパネル15のリード線10bの途中からアースをとり、リード線10bとリード線11aとの電位差を測定するための電圧計12(図1参照)を設置した後、スイッチS1 ,S2 およびS3 を閉にし、スイッチS4 を開にした。この状態下で、図1中に矢印Aで示すように、電極端子3aの長手方向の中心と電極端子3bの長手方向の中心とを結ぶ線に沿って、透明電極基板1の外側表面を電極端子3b側から電極端子3a側に向けて1.5mmおきに計100点、入力端の曲率半径が1mmの入力ペン13(図1参照)によって順次押圧し、このときの検出誤差を以下に示す式〔2〕によって求めた。
【0105】
【数2】
【0106】
上記の式〔2〕中、|Vn −Vn0|は測定電圧の理論電圧からのズレを示し、この値が小さいほど押圧位置の誤認が少ないタッチパネルが得られる。また、上記の式〔2〕中の|Vn+1 −Vn |は隣合う2つの押圧点での測定電圧の差を示し、この値がきいほど押圧位置の差を電位差として精度よく検出し易くなる。
前記のタッチパネルについてその検出誤差を上記の式〔2〕によって求めたところ、0.03であった。このことから、当該タッチパネルは入力精度の高いものであることが確認された。また、このタッチパネルの透明性は、透明電極膜(透明導電膜)における可視光の平均透過率が94%以上であることから、高い。したがって、カラーディスプレイ上に設置した場合でもディスプレイの視認性を実質的に損なわないものと推察される。更に、該透明電極膜(透明導電膜)における耐熱安定性(電気抵抗変化率)は1.0であったことから、耐久性に優れることが確認された。
【0107】
〔比較例6〕
まず、スパッタリングターゲットとして比較例5で用いたと同一組成の酸化物焼結体ターゲット(サイズ:5インチ×15インチ×5mm厚)を用い、かつ、PETロールの走行速度を200cm/分とした以外は実施例13(1)と同様にして、PETロールの片面に酸化物膜(透明導電膜)を製膜した。次に、実施例13(1)と同様に前記のPETロール(酸化物膜(透明導電膜)を製膜した後のもの)から2枚の透明導電積層体を切り出し、これらの透明導電積層体について実施例13(1)と同条件でアニーリングを行った。アニーリング後の各透明導電積層体について、実施例13(1)と同様にして透明導電膜のシート抵抗を測定したところ、1000±250Ω/□と均一性に劣ってた。
【0108】
この後、上記の透明導電積層体を用いて実施例13(2)と同様にしてアナログ型のタッチパネル作製し、その性能を実施例13(3)と同様にして評価した。その結果、検出誤差の値は0.88であった。この値は、押圧位置の違いによる電位差と測定電圧の理論値からのズレ(シート抵抗のバラツキ)とがほぼ同じであることを意味している。したがって、上記のタッチパネルでは押圧位置の違いを電気的に検出することが非常に困難であり、当該タッチパネルは入力精度の低いものであった。また、このタッチパネルについて、空気中、120℃で150時間加熱した後に、検出誤差を測定したところ、1.77と更に悪化していた。このため、耐熱安定性に劣ることが確認された。
【0109】
〔比較例7〕
まず、スパッタリングターゲットとして実施例3で用いたと同一組成の酸化物焼結体ターゲット(サイズ:5インチ×15インチ×5mm厚)を用い、かつ、スパッタリング時の導入ガスとして90体積%のアルゴンガスと10体積%の酸素ガスとの混合ガス(酸素ガスの分圧は2×10−2Pa)を用いた以外は実施例13(1)と同様にして、PETロールの片面に酸化物膜(透明導電膜)を製膜した。次に、実施例13(1)と同様に前記のPETロール(酸化物膜(透明導電膜)を製膜した後のもの)から2枚の透明導電積層体を切り出し、これらの透明導電積層体について実施例13(1)と同条件でアニーリングを行った。アニーリング後の各透明導電積層体について、実施例13(1)と同様にして透明導電膜のシート抵抗を測定したところ、2200±22Ω/□と均一性に優れていた。また、透明導電膜における可視光の平均透過率は、比較例2と同様に94%未満であった。
【0110】
この後、上記の透明導電積層体を用いて実施例13(2)と同様にしてアナログ型のタッチパネル作製し、その性能を実施例13(3)と同様にして評価した。その結果、検出誤差の値は0.18と入力精度は高いものの透明性については、透明電極膜(透明導電膜)における可視光の平均透過率が94%未満と劣るものであった。
【0111】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の透明導電積層体は高い比抵抗と高い透明性とを併せ持つ透明導電膜を備えており、当該透明導電積層体から形成された透明電極基板を備えている本発明のタッチパネルは、高い入力精度と高い透明性とを併せ持つものを得ることが容易なタッチパネルである。
【0112】
したがって、本発明によればカラーディスプレイ上に設置した場合でもディスプレイの視認性を実質的に損なわず、かつ、入力精度が向上したアナログ型のタッチパネルを容易に提供することが可能になる。
【0113】
本発明の透明導電積層体はまた、高い比抵抗と低い電気抵抗変化率とを併せ持つ透明導電膜を備えており、当該透明導電積層体から形成された透明電極基板を備えている本発明のタッチパネルは、高い入力精度が長期間安定的に維持される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例13で作製したアナログ型のタッチパネルの概略を示す斜視図である。
【符号の説明】
1,5…透明電極基板(透明導電積層体)、 2,6…透明電極膜(透明導電膜)、 3a,3b…電極端子、 7a,7b…電極端子、 13…入力ペン、15…アナログ型のタッチパネル。
Claims (3)
- 電気絶縁性の透明基材と、この透明基材上に形成された透明導電膜とを有し、前記透明導電膜が、インジウム(In),亜鉛(Zn),チタン(Ti)および酸素(O)を構成元素とし、インジウム(In)と亜鉛(Zn)の合計量に占めるインジウム(In)の原子比〔In/(In+Zn)〕が0.2〜0.9、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とチタン(Ti)の合計量に占めるチタン(Ti)の原子比〔Ti/(In+Zn+Ti)〕が0.022〜0.2である酸化物膜を酸素分圧1.0×10 −2 Pa以下で物理的気相蒸着法によって形成した後、この酸化物膜を酸素分圧10hPa以上の雰囲気下において60℃以上の温度条件でアニーリングして得られる透明導電膜であることを特徴とする透明導電積層体。
- 電気絶縁性の透明基材上に、インジウム(In),亜鉛(Zn),チタン(Ti)および酸素(O)を構成元素とし、インジウム(In)と亜鉛(Zn)の合計量に占めるインジウム(In)の原子比〔In/(In+Zn)〕が0.2〜0.9、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とチタン(Ti)の合計量に占めるチタン(Ti)の原子比〔Ti/(In+Zn+Ti)〕が0.022〜0.2である酸化物膜からなる透明導電膜を酸素分圧1.0×10−2Pa以下で物理的気相蒸着法によって形成した後、この透明導電膜を酸素分圧10hPa以上の雰囲気下において60℃以上の温度条件でアニーリングすることを特徴とする透明導電積層体の製造方法。
- 所定のパターンに形成された透明電極膜を有する2枚の透明電極基板を備え、前記2枚の透明電極基板が前記透明電極膜同士を対向させて所定間隔で配置されており、前記透明電極基板のうちの一方の外部から該透明電極基板に荷重を加えたときに前記透明電極膜同士が導通するタッチパネルにおいて、前記2枚の透明電極基板のそれぞれに形成されている透明電極膜のうちの少なくとも一方が、インジウム(In),亜鉛(Zn),チタン(Ti)および酸素(O)を構成元素とし、インジウム(In)と亜鉛(Zn)の合計量に占めるインジウム(In)の原子比〔In/(In+Zn)〕が0.2〜0.9、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とチタン(Ti)の合計量に占めるチタン(Ti)の原子比〔Ti/(In+Zn+Ti)〕が0.022〜0.2である酸化物膜を酸素分圧1.0×10 −2 Pa以下で物理的気相蒸着法によって形成した後、この酸化物膜を酸素分圧10hPa以上の雰囲気下において60℃以上の温度条件でアニーリングして得られる透明導電膜であることを特徴とするタッチパネル。
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