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JP3542227B2 - 免疫試薬 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、N−カルボキシメチルリジン(以下CMLとも略す)に対する抗体、またはN−カルボキシメチルリジン残基を有するペプチドもしくはタンパク質(以下CM化物とも略す)に対する抗体から成る糖尿病、糖尿病合併症の診断試薬、或いは糖尿病治療薬、糖尿病合併症治療用の薬剤の薬効評価試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
血液中のタンパク質はグルコースと非酵素的に反応して糖化され、糖化タンパク質となることが知られている。該糖化反応はメイラード反応と呼ばれ、前期段階と後期段階の二つの反応に分けられる。前期段階の反応は、タンパク質の側鎖アミノ基やN末端アミノ基と糖のカルボニル基が反応し、シッフ塩基を経由してアマドリ転位化合物を生成するまでとされている。該前期段階反応生成物としては、例えば、ヘモグロビンA1Cや糖化アルブミン等が知られており、糖尿病の臨床マーカーとして用いられているのは周知の事実である。
【0003】
前期段階反応の後、2つの方向に変化することが知られている。1つは、酸素と遷移金属が関与するアマドリ転位化合物の酸化的開裂であり、もう1つは、蛍光性、褐色変化、或いは分子内および分子間架橋形成を伴うメイラード反応後期生成物(以下AGEと略す)の生成である。該AGEは複数の化合物の集合体と考えられており、定性、定量は蛍光強度の測定或いは抗原抗体反応により行われている。
【0004】
近年、該後期段階反応が生体内で起こり、血管障害合併症の発症に関与していると報告された(Monnier,V.M.,et al,New England Journal of Medicine,vol314,p403,1986)。特に、糖尿病患者に於いては後期段階反応で生成したAGEが、糖尿病合併症の発症と進展に関与するものとして注目されるようになった。現在、AGEの構造の1つとして2−フロイル−4(5)−(2−フラニル)−1H−イミダゾル、ピラリン、ペントシジン、クロスリンA&Bが提唱されているが、AGEの基本構造については、まだ不明な点が多いのが現状である。
【0005】
一方、アマドリ転位化合物の酸化的開裂の結果生じるものとしてCMLが同定され(Ahmed,M.U.,et al,Journal of Biological Chemistry,vol261,p4889,1986)、老人や糖尿病患者のレンズタンパク質、皮膚コラーゲン等に存在していることが報告されている(Dunn,J.A.,et al,Biochemistry,vol30,p1205,1991)。また、牛血清アルブミン(以下BSAと略す)を構成しているリジンの側鎖アミノ基の水素がカルボキシメチル基(以下CM基と略すこともある)で置換された修飾タンパク質は、レンズタンパク質中のAGEと抗AGE抗体との反応を強く阻害するとの報告もある(Reddy,S.,et al,Biochemistry,vol34,p10872,1995)。しかし、これらにおいては、レンズタンパク質や皮膚コラーゲンといった、臨床検査で用いることが困難なものを被検体としているという欠点があった。更に,これらはCMLやCM基で置換されたBSAに対する抗体で免疫学的に直接測定したものではないため、操作が煩雑で測定に長時間を要していた。更にまた、CMLやCM化物と糖尿病、糖尿病合併症の関連性は不明であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、血液や血清、尿など臨床検査に被検体として多用されている体液を用いて、CMLもしくはCM化物を免疫学的に直接的、且つ簡単に測定できる糖尿病、又は糖尿病合併症用免疫試薬を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、CMLに対する抗体もしくはCM化物に対する抗体(以下両者を併せて抗CM抗体とも言う)を用いることによって、一般的に臨床検査に供される生体成分を被検体として、CMLもしくはCM化物を簡単に定量することが可能になること、更に、CMLもしくはCM化物は糖尿病又は糖尿病合併症と関連があることを見い出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明は、N−カルボキシメチルリジン残基を有するヘモグロビンに対する抗体を用いた糖尿病又は糖尿病合併症用免疫試薬である。
【0009】
以下、本発明の免疫試薬について詳細に述べるが、下記物質、製法に限定されるものではない。
【0010】
本発明のN−カルボキシメチルリジンとは、リジンの側鎖アミノ基の水素がカルボキシメチル基で置換されたリジン、並びにα−アミノ基がt−ブトキシカルボニル基やトシル基等で修飾されたリジンやα−カルボキシル基がメチルエステルやエチルエステル等で修飾されたリジン等のリジン誘導体の側鎖アミノ基の水素がカルボキシメチル基で置換されたものを言う。
【0011】
側鎖アミノ基の水素をカルボキシメチル基で置換するには、公知の方法が何ら制限なく使用される。例えば、リジンのα−アミノ基をt−ブトキシカルボニル基やベンジルオキシカルボニル基等の保護基で保護した後に、水素化ホウ素ナトリウムや水素化シアノホウ素ナトリウム等の水素化物還元剤の存在下で、該リジンとグリオキシル酸をpH7以上で反応させればよい。
【0012】
本発明に用いる上記CMLに対する抗体とは、側鎖アミノ基の水素がカルボキシメチル基で置換されたリジン、或いは側鎖アミノ基の水素がカルボキシメチル基で置換されたリジン誘導体と特異的に結合する抗体を意味する。該抗体を作成するための抗原、即ち免疫原は、側鎖アミノ基の水素がカルボキシメチル基で置換されたリジン或いはリジン誘導体であれば良いが、該リジン或いはリジン誘導体は免疫応答を誘導する能力が非常に弱いため、抗体を作成するにあたり、ヘモシアニン、牛血清アルブミン、β−ガラクトシダーゼ等、従来知られているキャリアータンパク質にCMLを結合させたものを免疫原とする方が好ましい。該リジン或いはリジン誘導体のキャリアータンパク質への結合には、通常、本目的で行われている方法が何ら制限なく用いられる。
【0013】
本発明のN−カルボキシメチルリジン残基を有するペプチド又はタンパク質とは、N−カルボキシメチルリジン残基を有するペプチド又はタンパク質を言う。ペプチドは、天然ペプチド、合成ペプチドのいずれであってもリジンを有していれば良く、又、アミノ酸数が2〜9個のオリゴペプチドであってもアミノ酸数が10個以上のポリペプチドであっても良い。タンパク質は、アルブミン、グロブリン、プロラミン等の単純タンパク質であっても、糖タンパク質、リンタンパク質、リポタンパク質、金属タンパク質等の複合タンパク質であってもリジンを有していれば良い。該CM化物を作製するには、リジンを有するペプチド又はタンパク質のリジン側鎖のアミノ基の水素をカルボキシメチル基で置換すれば良い。該置換には、公知の方法が何ら制限なく使用される。例えば「新生化学実験講座1、タンパク質4」(日本生化学会編、第13〜16頁、東京化学同人、1991年3月20日発行)に記されている還元アルキル化法のように、グリオキシル酸とリジンを有するタンパク質をホウ酸緩衝液やリン酸緩衝液等の水溶液に溶解し、水素化ホウ素ナトリウムや水素化シアノホウ素ナトリウム等の水素化物還元剤の存在下でpH7〜10で反応させればよい。これより低いpHだと水素化物還元剤が不安定になり、これより高いpHだとペプチドやタンパク質が変性する恐れがある。
【0014】
本発明に用いる上記CM化物に対する抗体とは、N−カルボキシメチルリジン残基を有するペプチド又はタンパク質に特異的に結合する抗体を意味する。該抗体を作製するための抗原、即ち免疫原は、N−カルボキシメチルリジン残基を有するペプチド又はタンパク質であれば良い。
【0015】
かかる抗原を用いて作製する抗体は、その由来を特に限定されるものではなく、ウサギ、ヤギ、マウス、モルモットなどの宿主動物に抗原を免疫して得られた抗血清、腹水液等を、そのままか或いは従来公知の方法である塩析法、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ、電気泳動等で精製してポリクローナル抗体として用いることができる。更に、抗原で感作した哺乳動物の脾細胞やリンパ節細胞等の抗体産生細胞とミエローマ細胞を融合して得たハイブリドーマから調製したモノクローナル抗体を、そのままか或いは従来公知の方法である塩析法、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ、電気泳動等で精製して用いることができる。
【0016】
このようにして得られる抗体は、該抗体分子自体を抗CM抗体として使用しても良く、或いはこれらの抗体を酵素処理して得られるFab、Fab’、F(ab’)2といった抗体の活性フラグメント(抗体の抗原認識部位を含む部分)を抗CM抗体として使用しても良い。
【0017】
本発明の免疫試薬とは、抗CM抗体又は生体成分に対する抗体或いは検体中の抗原を不溶性担体に担持し、検体中の抗原或いは抗CM抗体と接触させることによって起こる抗原抗体反応を、比色、発光、蛍光等を利用して検出する標識免疫測定試薬、不溶性担体の凝集等を利用して検出する免疫凝集試薬を言う。
【0018】
定性試薬としては、ラテックス凝集試薬、マイクロタイター試薬等が、定量試薬としては、ラジオイムノアッセイ試薬、エンザイムイムノアッセイ試薬、蛍光イムノアッセイ試薬、ラテックス定量試薬等を、それぞれ例示できる。
【0019】
抗CM抗体又は生体成分に対する抗体、或いは検体中の抗原を担持する不溶性担体の形状としては、使用目的に応じて適宜の形状を選択すればよく、例えば、ビーズ状、テストプレート状、球状、ディスク状、チューブ状、フィルター状等が例示できる。また、その材質としては、通常の免疫測定法用担体として用いられるもの、例えば、ガラス、多糖類又はその誘導体、シリカゲル、多孔性セラミックス、金属酸化物、赤血球、プロピレン、スチレン、アクリルアミド、アクリロニトリル等の合成樹脂、又はこれらに公知の方法によりスルホン基、アミノ基などの反応性官能基を導入したものが挙げられる。
【0020】
不溶性担体への抗CM抗体又は生体成分に対する抗体、或いは検体中の抗原の固定化法は、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、架橋法等の公知の方法が何ら制限なく使用できる。
【0021】
不溶性担体に担持する抗体には、抗CM抗体又は生体成分に対する抗体が用いられる。該生体成分に対する抗体としては、アルブミンに対する抗体やヘモグロビンに対する抗体、γ−グロブリンに対する抗体、低密度リポタンパク質に対する抗体、トランスフェリンに対する抗体、赤血球膜タンパク質に対する抗体等が例示できる。かかる生体成分に対する抗体は、1種類の生体成分に対する抗体だけを用いても、或いは2種類以上の生体成分に対する抗体を用いても良い。不溶性担体に生体成分に対する抗体を担持した場合は、検体中の抗原を接触させた後に、抗CM抗体を接触させれば良い。不溶性担体に抗CM抗体を担持した場合は、検体中の抗原を接触させた後に、再度、抗CM抗体を接触させれば良い。
【0022】
標識免疫測定試薬におけるCML又はCM化物の測定の基本操作は、通常の検定法、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)法、酵素免疫測定(EIA)法等に従うことができる。これら各検定法における操作、手順等は、一般に採用されているそれらと特に異ならず、公知の非競合法、競合法、サンドイッチ法等に準じることができる。
【0023】
例えば、抗CM抗体又は生体成分に対する抗体、或いは検体中の抗原を不溶性担体に0.01〜1000μg/cmの割合で担持し、0.001〜1000μgの検体中の抗原、或いは抗CM抗体を接触させて測定に供する。抗CM抗体又は生体成分に対する抗体を不溶性担体に担持した場合には、上記したように、検体中の抗原を接触させた後、更に抗CM抗体を接触させる。不溶性担体に担持されていない当該抗CM抗体は、標識剤で標識されたものを使用することが好ましい。
【0024】
該標識剤としては、放射性ヨード、放射性炭素等の放射性物質、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミン等の蛍光物質、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ等の酵素等をそれぞれ例示できる。かかる方法にて得られた抗原抗体反応生成物は比色、蛍光、発光等を利用して検出される。
【0025】
免疫凝集試薬におけるCML又はCM化物の測定の基本操作は、通常の検定法、例えば赤血球凝集反応法、受身凝集反応法、免疫比蝋法、免疫比濁法等に従うことができる。これら各検定法における操作、手順等は、一般に採用されているそれらに準じることができる。
【0026】
例えば、粒子状の不溶性担体1g当たり0.001〜100mgの抗CM抗体を上記方法にて担持した粒子(以下、感作粒子と略す)を、0.001〜15重量%となるように水性媒体に分散させて免疫試薬の有効成分として使用すればよい。抗体を担持する不溶性担体の粒径は、抗原抗体反応後の凝集の起こり易さや凝集の判別のし易さなどの観点から平均粒径が0.05〜10μmの不溶性担体を使用するのが好適である。かかる方法にて作成した感作粒子を検体中の抗原と接触させ、該感作粒子の凝集の度合を測定する。粒子の凝集の度合は、目視、光学的測定等従来の方法が制限なく使用できる。
【0027】
上記各種免疫測定法を利用して、本発明の糖尿病または糖尿病合併症用免疫試薬は、糖尿病、糖尿病合併症用診断試薬、或いは糖尿病治療用、糖尿病合併症治療用の薬剤の薬効評価試薬として有益に用いられる。
【0028】
診断試薬として用いる場合は、抗CM抗体を用いて検体中の抗原、即ち特定の生体成分に含まれるCMLもしくはCM化物の割合を測定する。該生体成分としては、例えば血液、尿、リンパ液、羊水、随液、唾液等の体液、皮膚コラーゲン、レンズタンパク質、動脈、腎臓等の組織等が挙げられるが、臨床検査に被検体として多用されている体液を用いる方がより好ましい。
【0029】
薬効評価試薬として用いる場合は、糖尿病治療薬または糖尿病合併症治療薬の投与によって、特定の生体成分に含まれるCMLもしくはCM化物の割合の減少度を測定する。
【0030】
【発明の効果】
CMLもしくはCM化物を含むヒト血清アルブミンをウサギに免疫する通常の方法によって、CMLもしくはCM化物に対する抗体を得た。この抗体はin vitroで作成した各種糖化タンパク質と有意に反応したが、非修飾化物とは反応しなかった。更に、該抗体はヒト由来のヘモグロビンとも反応し、それは健常者に比べて糖尿病患者や糖尿病合併症患者の方が有意に強く反応することが明らかになった。また、CMLもしくはCM化物に対する抗体とAGEは免疫交差性を示した。糖尿病患者では健常者に比べて、高い酸素ストレス下に置かれていることが種々の研究結果より明らかになっており、糖化反応と酸化反応によって生成するCMLもしくはCM化物は、糖尿病合併症の発症や進行を診断する新しい指標として有用性の高いものである。
【0031】
本発明の、CMLもしくはCM化物に対する抗体を用いた免疫試薬を使用することにより、体液や組織を被検体として糖尿病、糖尿病合併症の診断を容易に行うことが可能になった。更に、本発明によって完成した診断試薬を糖尿病治療用、糖尿病合併症治療用の薬剤の薬効評価に利用することもできる。
【0032】
【実施例】
以下に本発明をより具体的に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0033】
実施例1
(1) CM化物の調製
CM化物を調製するために、タンパク質の側鎖アミノ基の水素をカルボキシメチル基に置換した(以下、この操作をカルボキシメチル化とも言う)。
【0034】
pH9に調整した1mg/mlのヒト血清アルブミン(Fraction V、シグマ社製)1mlに、pH9に調整した1mgの水素化シアノホウ素ナトリウムを含む0.25Mのグリオキシル酸(シグマ社製)1mlを混合し、0℃で1時間放置した。対象として、グリオキシル酸を添加しないこと以外は同様の方法でヒト血清アルブミンを処理した。
【0035】
アミノ基の水素のカルボキシメチル基への置換を確認するために、作製したアミノ基の水素がカルボキシメチル基へ置換されたヒト血清アルブミン(以下置換ヒト血清アルブミンと略す)の未反応アミノ基をトリニトロベンゼンスルホン酸(以下TNBSと略す)を用いて定量した。また、対象としてグリオキシル酸処理をしていないヒト血清アルブミンのアミノ基を定量した。前記試料0.5mlを0.1Mの四ほう酸ナトリウムを含む0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液0.5mlに各々加えた。次いで、再結晶化し、希塩酸で洗浄した1.1MのTNBSを20μl加え、攪拌した。30分後に1.5mMの亜硫酸ナトリウムを含む98.5mMのリン酸二水素ナトリウムを2ml加えて反応を停止させ、420nmの吸光度を測定した。併せて、作製した置換ヒト血清アルブミンまたはグリオキシル酸処理をしていないヒト血清アルブミンを含まないこと以外は同様の方法で、TNBSによる反応を行い、吸光度を測定したところ、作製した置換ヒト血清アルブミンのそれは0.03、グリオキシル酸処理をしていないヒト血清アルブミンのそれは1.25、作製した置換ヒト血清アルブミンおよびグリオキシル酸処理をしていないヒト血清アルブミンを含まない試料のそれは0.03であり、置換ヒト血清アルブミンのカルボキシメチル化率は100%であった。
【0036】
かかる方法で作製された置換ヒト血清アルブミンは、20mMリン酸緩衝液(pH7.4)で4℃にて2日間透析され、未反応のグリオキシル酸や水素化シアノホウ素ナトリウムを除去した後に、CM化物に対する抗体の作成に供された。
【0037】
(2) CM化物に対する抗体の作成
体重が2kg以上のウサギに、作成したCM化物を抗原として以下の要領で免疫した。
【0038】
2mg/mlになるように調製した該抗原溶液0.5mlに、フロイントの完全アジュバント0.5mlを加えたものをウサギの耳静脈に注射した。その後、2週間おきに2mg/mlの該抗原0.25mlにフロイントの不完全アジュバント0.25mlを加えたものを追加免疫した。この間、CM化物に対する抗体が産生されたか否かを確認するために、2週間に1回ウサギの外縁耳静脈から部分採血した。6週間後、CM化物に対する抗体が産生されたことを酵素免疫測定(ELISA)法で確認し、全採血した。
【0039】
(3) アフィニティ精製カラムの作成
25mlのアフィゲル15(バイオラッド社製)を75mlの10mM酢酸緩衝液(pH4.5)で洗浄した後、10mg/mlのヒト血清アルブミン溶液を62.5ml加え、室温で1時間緩やかに攪拌した。次いで、未反応のヒト血清アルブミンを濾過にて除去し、1Mのエタノールアミンを30ml加え、室温で緩やかに攪拌し、未反応のN−ヒドロキシサクシイミドエステルをブロッキングした。該ヒト血清アルブミンを固定化した支持体をカラムに詰め、280nmの吸光度が0になるまでイオン交換水で洗浄した。更に、0.15Mの塩化ナトリウムを含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)でカラムを平衡化した。
【0040】
(4) CM化物に対する抗体のアフィニティ精製
作成したCM化物に対する抗体を1mg/mlになるように0.15Mの塩化ナトリウムを含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)で希釈したものを、100mg程度になるように該アフィニティ精製カラムにアプライした。次いで、280nmの吸光度が0になるまで前記リン酸緩衝液を流速0.5ml/minで流した。カラムに結合しなかった抗体をCM化物に対する抗体として回収した。280nmの吸光度が0になったところでリン酸緩衝液から0.1Mのグリシン緩衝液(pH3.0)に換え、カラムに結合している抗体を溶離させ、0.15Mの塩化ナトリウムを含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)でカラムを平衡化し、回収した抗体を再度カラムにアプライし、カラムに結合しなかった抗体を回収した。この操作を、更に1回繰り返し、ビオチン標識用の抗体に供された。
【0041】
(5) CM化物に対する抗体のビオチン標識
精製した抗体のビオチン標識はプロテインビオチレーションシステム(ギブコ社製)を用いて行った。
【0042】
精製したCM化物に対する抗体を1.5mg/mlになるように0.15Mの塩化ナトリウムを含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)で希釈または濃縮した溶液に、0.05Mになるように炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.0)を加えた。次いで、該抗体溶液6.7mlに、説明書に従って作成した50mg/mlのCAB−NHSエステル溶液26μlを加え、室温で1時間緩やかに攪拌し、0.11Mになるように塩化アンモニウムを加えて反応を停止させた。その後、本キットに付属のカラムで抗体溶液を脱塩した。更に、キット付属のAvidin/HABAで導入されたビオチンのモル数を計算したところ、CM化物に対する抗体1モルに対してビオチンは14モル結合していた。
【0043】
(6) CM化物に対する抗体の抗原特異性
ビオチンを標識したCM化物に対する抗体の抗原特異性は競合法ELISAにて確認した。
【0044】
1μg/mlとなるように0.15Mの塩化ナトリウムを含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.4)(以下PBSと略す)で希釈したCM化物に対する抗体に、作成したCM化物をそれぞれ0.1,1,10,100μg/mlとなるように添加した。この溶液を37℃で1時間放置し、CM化物で阻害された抗体溶液として使用した。
【0045】
CM化物の調製と同様の方法で、α−トシル−リジンメチルエステル(以下tosyl−lysと略す)(シグマ社製)より作成したカルボキシメチルtosyl−lys(以下CM−tosyl−lys)と略す)を調製した。該CM−tosyl−lysを1μg/mlのCM化物に対する抗体溶液に、それぞれ0.1,1,10,100μg/mlとなるように添加した。この溶液を37℃で1時間放置し、CM−tosyl−lysで阻害された抗体溶液として使用した。
【0046】
競合法ELISAを行うにあたり、作成したCM化物を1μg/mlとなるようにPBSで希釈した。次いで、上記希釈したCM化物溶液を96穴イムノプレート(NUNC社製)に1ウェル当たり100μlアプライし、37℃で1時間放置し、該CM化物をイムノプレートに固定した。1時間後、該CM化物溶液を除去し、0.5%のゼラチンを含むPBSを1ウェル当たり100μlアプライし、37℃で1時間放置し、CM化物が固定されていない部分をブロッキングした。1時間後、該ゼラチン溶液を除去し、PBSで3回洗浄した後、上記濃度のCM化物で阻害された抗体溶液、又は上記濃度のCM−tosyl−lysで阻害された抗体溶液を1ウェル当たり100μlアプライし、37℃で1時間放置した。その後、PBSで3回洗浄し、1μg/mlのアルカリホスファターゼで標識された抗ウサギIgG抗体溶液(コスモバイオ社製)を1ウェル当たり100μlアプライし、37℃で1時間放置した。更に、PBSで3回洗浄し、アルカリホスファターゼ基質キット(バイオラッド社製)を用いて能書に従い調製した基質溶液を1ウェル当たり100μlアプライした。室温で5分間放置した後、0.4Mの水酸化ナトリウム溶液を1ウェル当たり100μl加え、アルカリホスファターゼの反応を停止させ、405nmの吸光度を測定した。結果を図1に示す。この結果から、作成したCM化物に対する抗体は、CM化物のみならず、CM−tosyl−lysでもCM化物とCM化物に対する抗体の抗原抗体反応が阻害されたことから、CMLとも反応性を示すことが示唆された。
【0047】
(7) 糖尿病患者由来血液中のCM化物の測定
合併症を発症していない糖尿病患者10人よりEDTA−2Kを含む真空採血管にて採血した血液50μlを、250μlの生理食塩水で1回洗浄した後、1mlの精製水を加え溶血させたものを被検体とした。該患者の平均年齢は61.3歳であった。
【0048】
被検体中のCM化物の測定はドットブロッティング法にて行った。ヘモグロビン濃度をシアンメトヘモグロビン法にて測定した後、該ヘモグロビンが500ngとなるようにドットブロッティング装置(バイオラッド社製)を用いてPVDF膜(バイオラッド社製)に吸着させた。該膜を0.2%のTween20を含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)に室温で1時間浸せきし、該膜を取り出し、前記ビオチン標識した1μg/mlのCM化物に対する抗体溶液を5ml加えた。室温で1時間のインキュベーションの後に、0.05%のTween20を含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)50mlで該膜を3回洗浄した。次いで、該膜にアビジン−ペルオキシダーゼ標識ビオチン複合体溶液(ベクタステインABCキット:フナコシ社製)を5ml加え、室温で1時間のインキュベーションした。0.05%のTween20を含む20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)50mlで該膜を3回洗浄した後、ECLウエスタンブロッティング検出試薬(アマシャム社製)を2ml加えた。該膜における発光強度の検出は、バイオラッドGS−363モレキュラーイメージャーを用いて行った。
【0049】
対象として市販のヘモグロビン(シグマ社製)を被検体として上記と同様の方法にてCM化物の測定を行った。該市販ヘモグロビンの発光強度を100として、上記糖尿病患者由来のヘモグロビンの発光強度を表示した。測定結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
Figure 0003542227
【0051】
実施例2 糖尿病合併症患者由来血液中のCM化物の測定
実施例1で糖尿病患者由来血液の代わりに、糖尿病の他に腎症または網膜症を併発している糖尿病合併症患者由来血液を被検体としたこと以外は、実施例1の方法に従って被検体中のCM化物の測定を行った。該患者の平均年齢は60.4歳であった。測定結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
Figure 0003542227
【0053】
比較例1
実施例1で糖尿病患者由来血液の代わりに、糖尿病ではない健常者由来の血液を被検体としたこと以外は、実施例1の方法に従って被検体中のCM化物の測定を行った。該健常者の平均年齢は61.2歳であった。測定結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
Figure 0003542227
【0055】
健常者群と実施例1で測定した糖尿病患者群の発光強度の間には、統計学的に差があることを検証した。即ち、「差がない」と考えられる確率を計算し、その確率が非常に小さいから「差がある」という手順を取り、統計学的に検証した(Macintosh統計マニュアル、長田 理、1995年2月10日発行、真興交易医書出版部)。該検証にはウェルチのt検定を用いた。その結果、「差がない」と考えられる確率は5%未満で、糖尿病患者群の発光強度と健常者群の発光強度の間には有意に差があった。このことは、糖尿病患者由来の血液には、健常者由来の血液よりも、有意にCM化物が多いことを意味する。
【0056】
また、健常者群と実施例2で測定した糖尿病合併症患者群の発光強度の間に差があるか否かをウェルチのt検定にて検証したところ、「差がない」と考えられる確率は5%未満で、糖尿病合併症患者群の発光強度と健常者群の発光強度の間には有意に差があった。このことは、糖尿病合併症患者由来の血液には、健常者由来の血液よりも、有意にCM化物が多いことを意味する。
【図面の簡単な説明】
【図1】作製したCM化物に対する抗体の抗原特異性を競合法ELISAにて調べた結果を示す図である(縦軸が405nmの吸光度、横軸が各阻害剤の添加量)。

Claims (1)

  1. N−カルボキシメチルリジン残基を有するヘモグロビンに対する抗体を用いた糖尿病又は糖尿病合併症用免疫試薬。
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