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JP2023037496A - 薬剤送達デバイスおよびその製造方法 - Google Patents

薬剤送達デバイスおよびその製造方法 Download PDF

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JP2023037496A JP2021144286A JP2021144286A JP2023037496A JP 2023037496 A JP2023037496 A JP 2023037496A JP 2021144286 A JP2021144286 A JP 2021144286A JP 2021144286 A JP2021144286 A JP 2021144286A JP 2023037496 A JP2023037496 A JP 2023037496A
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Takuya Miyazaki
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Barthelmes Kevin
清 池原
Kiyoshi Ikehara
亮 松元
Ryo Matsumoto
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Tokyo Medical and Dental University NUC
Kanagawa Institute of Industrial Science and Technology
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Abstract

【課題】ニードルが十分な力学的強度を有しつつ薬剤の送達への影響が抑制され、かつ、穿刺する際に十分な力学的強度を持つ薬剤送達デバイスを提供する。【解決手段】マイクロニードル10は、ベース100部と、ベース部100に支持された少なくとも1つのニードル110とを有する。ベース部100およびニードル110は、ポリマーからなる多孔質体と、多孔質体の空隙部分に充填された、薬剤を担持することができ、かつ薬剤の透過性を有するゲル組成物とを含む。【選択図】図1

Description

本発明は、薬剤を担持することのできるニードルを有する薬剤送達デバイスおよびその製造方法に関する。
薬剤を経皮的に投与するデバイスとしてマイクロニードルが知られている。マイクロニードルは、例えば特許文献1に開示されるように、投与する薬剤を担持した長さが1mm以下の複数のニードルをアレイ状に配列したパッチとして提供され、皮膚表面に貼付することでニードルを経由して薬剤が送達されるように構成される。そのため、マイクロニードルは、低侵襲的に、かつ長時間にわたって連続的に薬剤を投与できるという特徴を有している。
国際公開第2019/182099号
マイクロニードル型薬剤送達デバイスを皮膚に装着する際には、ニードルが皮膚に十分に突き刺さるように、デバイスを皮膚にしっかりと押し当てる必要がある。しかしながら、従来のマイクロニードル型薬剤送達デバイスは、主にベース部分(リザーバ部分)の強度が不十分なために、穿刺する際に加圧しにくいことがあった。また、従来のマイクロニードルは、ニードルが非常に微細であることから力学的強度が不足し、ニードルを皮膚に穿刺する際にニードルが折れたり座屈したりすることがあった。これを防止するため、ニードルを高い力学的強度を有する材料で構成したり、ニードルの表面を高い力学的強度を有する材料でコーティングしたりすることが考えられる。しかし一般に、力学的強度が高い材料は密な構造を有しているため、ニードルからの薬剤の放出量が減少するなど薬剤の送達能が低下する可能性があった。
本発明は、ニードルが十分な力学的強度を有しつつ薬剤の送達への影響が抑制され、かつ、穿刺する際の加圧を容易にするのに十分な力学的強度を持つ薬剤送達デバイスおよびその製造方法を提供することを目的の一つとする。
本発明の薬剤送達デバイスは、ベース部と、
前記ベース部に支持された少なくとも1つのニードルと、
を有し、
前記ベース部および前記ニードルは、ポリマーからなる多孔質体と、前記多孔質体の空隙部分に充填された、薬剤を担持することができ、かつ前記薬剤の透過性を有するゲル組成物とを含む。
本発明の薬剤送達デバイスの製造方法は、ベース部と、前記ベース部に支持された少なくとも1つのニードルとを有する薬剤送達デバイスの製造方法であって、
前記ベース部および前記ニードルに対応するキャビティを有する型を用いて、ポリマーからなる多孔質体を成型する工程と、
前記多孔質体の空隙部分に、薬液を担持することができ、かつ前記薬液の透過性を有するゲル組成物を充填する工程と、
を有する。
(用語の定義)
本明細書において、「生理的条件」とは、生体内と同等のpH、温度およびイオン組成に調整された水溶液を意味する。例えば、pHは、好ましくは1~9、さらに好ましくは7~8、温度は、好ましくは30~40℃、イオン組成は、塩化ナトリウム濃度が好ましくは100~200mMである。
また、本明細書において「約」という用語は、それに続く数値の前後10%の範囲を指すために使用される。すなわち、約30mol%は27mol%~33mol%の範囲を意味する。
本発明によれば、ニードルが十分な力学的強度を有しつつ薬剤の送達への影響が抑制され、かつ、穿刺する際に十分な力学的強度を持つ薬剤送達デバイスおよびその製造方法が提供される。
本発明の一形態によるマイクロニードルの模式的断面図である。 図1に示すマイクロニードルの製造に用いられる型の一形態の断面図である。 評価1においてPES濃度およびベンゼン濃度を変更してマイクロニードルを作製したときの、ニードルの成型性を示す光学顕微鏡写真である。 評価2においてベンゼン濃度を変更してマイクロニードルを作製したときの、ニードルの成型性を示す高額顕微鏡写真である。 評価3におけるポリマー多孔質体の走査型電子顕微鏡写真である。 評価4によるポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルの光学顕微鏡写真である。 評価5で測定されたニードルの力学的強度を表すグラフである。 評価6における、ポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルを貼付した後のマウスの皮膚表面の写真である。 評価7における、薬剤の放出性を示すグラフである。
図1を参照すると、ベース部100と、複数のニードル110とを有し、皮膚に貼付するパッチとして提供される、本発明の一実施形態によるマイクロニードル10が示されている。ベース部100は、複数のニードル110を支持するシート状の部分であり、これらニードル110を支持できる力学的強度を有し、かつ、皮膚に沿って変形できる程度の可撓性を有している。複数のニードル110がベース部100に支持されることで、複数のニードル110は、ニードルアレイとして構成される。ニードル110は、このマイクロニードル10が送達する薬剤を担持することができ、かつ、薬剤の透過性を有する、ゲル組成物を含む。
以下、マイクロニードル10についてより詳しく説明する。
[薬剤]
本発明に係る薬剤送達デバイスを用いて送達され得る薬剤としては、タンパク質、ペプチド、核酸、他の高分子ポリマー、低分子化合物などが挙げられるが、これらに限定はされない。薬剤は、疾患の治療剤、予防薬、ワクチン、栄養サプリメントなどであってもよい。特に好ましい薬剤は、インスリンである。様々な天然型インスリンあるいは改変インスリンが市販品の購入あるいは合成により利用可能となっている。インスリンとしては、例えば、ヒューマリン(登録商標)を使用してもよい。ヒューマリン(登録商標)は、イーライリリー社が販売しているヒト(遺伝子組換え)インスリンである。インスリン製剤には、速効型、中間型、持効型を含む各種製剤が開発されており、適宜選択して使用することができる。
[ベース部およびニードル]
ベース部100およびニードル110は、力学的強度を担うポリマー多孔質体と薬剤の担持および放出を担うゲル組成物とを有する。ゲル組成物は、ポリマー多孔質体の空隙を満たすように空隙中に存在し、これによって、ベース部100およびニードル110は、境界のない1つの部分として構成される。ベース部100の平面形状は、円形、楕円形および多角形など任意の形状であってよく、例えば矩形状とすることができる。以下に、ポリマー多孔質体およびゲル組成物について詳細に説明する。
(ポリマー多孔質体)
ポリマー多孔質体は、ベース部100においては、ニードル110を皮膚に穿刺(刺入ともいう)する際に皮膚から受ける反力によるベース部100の撓みが抑制されるような力学的強度を提供し、ニードル110においては皮膚に穿刺する際の折れや座屈が抑制されるような力学的強度を提供する。
ポリマー多孔質体を構成するポリマーとして、ポリエーテルスルホン(PES)やポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ乳酸、セルロースなどを挙げることができる。例えば、PESを用いた場合には、π-π相互作用や相分離により強固なゲルが形成され、共連続構造の間隙が形成されうる。ポリエーテルスルホンを用いたポリマー多孔質体は、例えば以下のようにして得ることができる。まず、原料ポリマーとなるポリエーテルスルホンをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)やジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの良溶媒である有機溶媒で所定の濃度となるように溶解したポリエーテルスルホン溶液(ポリマー溶液)を調製する。調製したポリエーテルスルホン溶液に、例えばベンゼンやトルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ペンタン、ジエチルエーテル、酢酸エチルなど、原料ポリマーの溶解度の小さい貧溶媒を添加する。このことによって、、貧溶媒中に有機溶媒が抽出されるとともにポリエーテルスルホン溶液中に貧溶媒が拡散し、原料ポリマーの濃度が高い層と原料ポリマーをほとんど含まない層に相分離が生じる。その後、メタノール洗浄等によって良溶媒、貧溶媒を共に除去することによって、ポリマー多孔質体が得られる。なお、相分離を例えば4℃といった低温下で行なうことによって、貧溶媒を添加せずにポリマー多孔質体を得ることも可能である。これは、低温下において原料ポリマーが沈殿することで相分離が惹起されるためであると考えられる。
ポリマー溶液を調製する際のポリマー濃度、および貧溶媒を添加する際の貧溶媒濃度は、使用するポリマー、使用する貧溶媒、および相分離条件等によって適宜定めることができる。例えば、ポリマーがポリエーテルスルホンであり、貧溶媒がベンゼンであり、かつ相分離温度が室温である場合、好ましいポリマー濃度は約15~約25wt%(例えば約20wt%)であり、好ましい貧溶媒濃度は約20~約35wt%(例えば約25wt%)である。ここで、ポリマー濃度は、良溶媒を添加したポリマー溶液中のポリマーのwt%とし、貧溶媒濃度は、良溶媒および貧溶媒を添加したポリマー溶液中の貧溶媒のvol%とする。
ポリマー多孔質体として、ポリマー粒子を焼結したポリマー焼結体を用いることもできる。ポリマー焼結体に用いるポリマーとしては、ポリエチレン(PE)を挙げることができる。粒子のサイズは、ベース部100およびニードル100の成型性に影響を及ぼさない限り限定されない。例えば、好ましい粒子のサイズの範囲としては、平均粒子径が10μm以上、または20μm以上であってよく、また、平均粒子径が300μm以下、200μm以下、100μm以下、または60μm以下であってよい。
多孔質体の気孔率は、ベース部100に必要とされる力学的強度およびベース部100が保持すべき薬剤の量に応じて任意に定めることができる。例えば、好ましい気孔率の範囲としては、20%以上、30%以上または40%以上であってよく、また80%以下、70%以下または60%以下であってよい。
ポリマー多孔質体は、親水性基を持つポリマーでコーティングされてもよい。これにより、ポリマー多孔質体の空隙へのゲル組成物の充填性が向上し、結果的にベース部100およびニードル110の形成性が高くなる。ポリマーがポリエーテルスルホンである場合、親水性基を持つポリマーのコーディングは、例えば、ポリマー多孔質体にプラズマを照射し、プラズマ照射後のポリマー多孔質体に、メタノールで希釈したアクリル酸を添加し、アクリル酸をグラフト重合することで、ポリエーテルスルホンの表面にポリアクリル酸膜が形成され、ポリマー多孔質体に親水性を付与することができる。プラズマ処理を行なうことによって、ポリエーテルスルホンの表面の汚染物質が除去され(洗浄)、また、プラズマによって形成されたラジカルのポリエーテルスルホン表面への衝突により表面層の分子鎖が部分的に切断されて新たな官能基が生成される(表面改質)。
ベース部100およびニードル110がポリマー多孔質体を有することで、この多孔質体を薬剤のリザーバとして利用し、薬剤を長期間(例えば7日間)にわたって放出することができるようになる。長期間にわたる薬剤の放出が可能なマイクロニードルは、血中グルコース濃度に応じて薬剤としてインスリンを投与するインスリン送達マイクロニードルとして好適に用いることができる。
(ゲル組成物)
ゲル組成物は、送達する薬剤に応じて、薬剤の透過性を有している限り、任意の成分を含むことができる。以下、マイクロニードル10を、薬剤としてインスリンを血中グルコース濃度に応じて送達するデバイスとして用いる場合に好ましいゲル組成物について説明する。
この種のゲル組成物として好ましいのは、フェニルボロン酸系単量体ユニットを含む共重合体を含むゲル組成物である。ゲル組成物は、具体的には後述するようにフェニルボロン酸系単量体を含む単量体混合物を共重合することで得られ、その結果、共重合体の架橋分子構造を有するゲルが得られる。本出願において、「単量体ユニット」は、単量体に由来する(共)重合体中の構造単位を意味し、以下の説明において「単量体」を「単量体ユニット」の意味で使用することもある。フェニルボロン酸系単量体とは、下記式:
Figure 2023037496000002
(式中、Xは置換基を示し、好ましくはFであり、nは1~4の整数を表す。)
で表されるフェニルボロン酸官能基を有する単量体を意味する。
インスリン送達マイクロニードルでは、以下に記載するような、フェニルボロン酸構造がグルコース濃度に依存して構造を変化させるメカニズムを利用する。
Figure 2023037496000003
水中で解離したフェニルボロン酸(以下、本明細書において「PBA」と表記することもある)は糖分子と可逆的に結合し、上記の平衡状態を保っている。グルコース濃度が高くなると結合して体積も膨張するが、グルコース濃度が低い場合には収縮する。ニードル110が皮膚に穿刺された状態では、血液と接触したゲル界面でこの反応が生じ、界面でのみゲルが収縮して本発明者等が「スキン層」と呼ぶ脱水収縮層を生じる。この性質をインスリンの放出制御のために利用する。
好適に使用可能なゲル組成物は、上記の性質を有するフェニルボロン酸系単量体ユニットを含む共重合体を含むゲル組成物である。ゲル組成物は、特に限定するものではないが、例えば特許第5696961号公報に記載されたものが挙げられる。
ゲル組成物の調製のために使用するフェニルボロン酸系単量体は、限定するものではないが、例えば下記の一般式で表される。
Figure 2023037496000004
[式中、RはHまたはCHであり、Fは独立に存在し、nが1、2、3または4のいずれかであり、mは0または1以上の整数である。]
上記のフェニルボロン酸系単量体は、フェニル環上の水素が、1~4個のフッ素で置換されたフッ素化フェニルボロン酸(以下、本明細書では「FPBA」と表記することもある)基を有し、当該フェニル環にアミド基の炭素が結合した構造を有する。上記構造を有するフェニルボロン酸系単量体は、高い親水性を有しており、またフェニル環がフッ素化されていることにより、pKaを生体レベルの7.4以下に設定し得る。さらに、このフェニルボロン酸系単量体は、生体環境下での糖認識能を獲得するのみならず、不飽和結合により後述するゲル化剤や架橋剤との共重合が可能となり、グルコース濃度に依存して相変化を生じるゲルとなり得る。
上記のフェニルボロン酸系単量体において、フェニル環上の1つの水素がフッ素で置換されている場合、F及びB(OH)の導入箇所は、オルト、メタ、パラのいずれであってもよい。
一般に、mを1以上としたときのフェニルボロン酸系単量体は、mを0としたときのフェニルボロン酸系単量体に比べて、pKaを低くすることができる。mは例えば20以下、好ましくは10以下、さらに好ましくは4以下である。
上記のフェニルボロン酸系単量体の一例としては、nが1、mが2であるフェニルボロン酸系単量体があり、これはフェニルボロン酸系単量体として特に好ましい4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(4-(2-acrylamidoethylcarbamoyl)-3-fluorophenylboronic acid、AmECFPBA)である。
ゲル組成物は、生体内において生体機能に有毒作用や有害作用が生じない性質(生体適合性)を有するゲル化剤と、上記のフェニルボロン酸系単量体と、架橋剤とから調製され得る。調製方法は、特に限定するものではないが、ゲル(共重合体)の主鎖となるゲル化剤、フェニルボロン酸系単量体、および架橋剤を、所定の仕込みモル比で含む単量体成分と混合し、単量体を重合反応させることにより、調製することができる。重合のために、必要に応じて重合開始剤を使用する。
ゲル組成物中に予めインスリンが含まれていることが好ましい。そのためには、インスリンが所定濃度で含まれたリン酸緩衝水溶液(PBS)等の水溶液中にゲルを浸すことにより、ゲル内にインスリンを拡散させることができる。次いで、水溶液中から取り出したゲルを、例えば塩酸中に所定時間浸すことで、ゲル本体の表面に薄い脱水収縮層(スキン層と呼ぶ)を形成することにより、ニードル110に薬剤を内包(ローディング)させることができる。
ゲル化剤と、フェニルボロン酸系単量体と、架橋剤との好適な比率は、生理的条件下でグルコース濃度に応じてインスリンの放出を制御可能な組成であれば良く、用いる単量体等によって変動するものであり、特に限定するものではない。本発明者等は既に、種々のフェニルボロン酸系単量体を種々の比率でゲル化剤および架橋剤と組み合わせてゲルを調製し、その挙動を検討している(例えば特許第5622188号公報を参照されたい)。当業者であれば、本明細書の記載および当分野で報告されている技術情報に基づいて、好適な組成のゲルを取得することが可能である。
ゲル化剤、フェニルボロン酸系単量体、および架橋剤から得られる共重合体によって形成されるゲル本体が、グルコース濃度に応答して膨張又は収縮し得るとともに、pKa7.4以下の特性を維持でき、ゲル状に形成することができれば、ゲル化剤/フェニルボロン酸系単量体の仕込みモル比を、適宜の数値に設定してゲルを調製することができる。
ゲル化剤としては、生体適合性を有し、かつゲル化し得る生体適合性材料であればよく、例えば生体適合性のあるアクリルアミド系単量体が挙げられる。具体的には、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAAm)、N,N-ジエチルアクリルアミド(DEAAm)等が挙げられる。
また、架橋剤としては、同じく生体適合性を有し、単量体を架橋できる物質であればよく、例えばN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、N,N’-メチレンビスメタクリルアミド(MBMAAm)その他種々の架橋剤が挙げられる。
好適な一実施形態では、ゲル組成物は、以下に示すように、N-イソプロピルメタクリルアミド(NIPAAm)、4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(AmECFPBA)、およびN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)を、適宜配合比で溶媒に溶解し、重合することによって得られるものである。重合は、常温および水性条件下で行うことができる。
Figure 2023037496000005
溶媒としては、単量体を可溶な任意の溶媒を用いることができる。そのような溶媒として、例えば、水、アルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、イオン液体およびそれらの1種以上の組み合わせが挙げられる。これらの中でもメタノール水溶液を溶媒として好ましく用いることができる。
このような溶媒に、ゲル化剤、PBAおよび架橋剤を溶解したプレゲル溶液を作製し、重合を行う。
上記のゲル組成物では、フェニルボロン酸系単量体がゲル化剤および架橋剤と共重合してゲル本体を形成している。このゲルにインスリンを拡散させるとともに、ゲル本体の表面を脱水収縮層で取り囲む構成とすることができる。この構成をニードル110に適用することで、例えばpKa7.4以下であり、温度35℃~40℃の生理的条件下において、グルコース濃度が高くなると、ニードル110を構成するゲルが膨張する。これに伴って、脱水収縮層が消失し、ゲル内のインスリンを外部へ放出させることができる。
一方、グルコース濃度が再び低くなると、膨張していたゲルが収縮して表面全体に再び脱水収縮層(スキン層)が形成され、ゲル内のインスリンが外部へ放出されることを抑制できる。
従って、このようなゲル組成物は、グルコース濃度に応答してインスリンを自律的に放出させることができる。
重合には、開始剤、促進剤などの触媒を用いることができる。開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム(APS)を用いることができる。促進剤としては、例えばテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を用いることができる。この場合、プレゲル溶液1mlごとに、10重量%の過硫酸アンモニウム6.2μlおよびテトラメチルエチレンジアミン12μlを加え、室温にて重合を行ったところ、10分以内にゲル化が開始された。
ゲル組成物は、フェニルボロン酸系単量体ユニットを含む共重合体にさらにシルクフィブロイン(SF)を含む複合ゲル組成物であってもよい。この複合ゲル組成物は、フェニルボロン酸系単量体を含む単量体混合物を、SFの存在下で共重合することで得られ、その結果、共重合体の架橋分子構造中にSFの分子がほぼ均一に分散分布している。
複合ゲル組成物に含まれるSFは、ベース部100にも使用できる。SFはニードル110に力学的強度を付与する。SFの量(固形分重量)は、マイクロニードルの力学的強度が好適な値となるように決めることができるが、単量体(フェニルボロン酸系単量体、ゲル化剤および架橋剤)の合計100重量部に対して、例えば10~90重量部とすることができ、好ましくは24~60重量部、より好ましくは40~60重量部である。単量体の合計に対するSFの重量分率を高くするほど複合ゲル組成物の力学的強度を高くすることができる。ただし、SFの重量分率を高くすると、それだけ単量体濃度が低くなる。単量体濃度が低すぎるとゲル組成物が形成されにくくなるので、ゲル組成物の形成が阻害されない範囲で単量体の合計に対するSFの重量分率を決定することが重要である。
好適な一実施形態では、複合ゲル組成物は、N-イソプロピルメタクリルアミド(NIPAAm)、4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(AmECFPBA)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)およびSFを、適宜配合比で溶媒に溶解してプレゲル溶液を調製し、これを重合することによって得られる。プレゲル溶液は、ゲル化剤、PBAおよび架橋剤を必要に応じて含んでいてもよい。重合は、SFの変性を避けるために、常温および水性条件下で行うことが好ましい。
なお、SFはゲル化しやすい性質を有するため、プレゲル溶液の調製に際しては、溶媒中にゲル化剤、PBAおよび架橋剤等を溶解させた後に、その溶液にSFをSF溶液の状態で添加するようにすることが好ましい。
溶媒としてメタノール水溶液を用いる場合、SF添加前のプレゲル溶液中のメタノールの体積%は、例えば、40体積%となるようなアルコール水溶液を用いることができる。この場合、SF添加後のプレゲル溶液中のメタノールの好ましい体積%は、3体積%~30体積%、より好ましくは5体積%~20体積%、最も好ましいのは8体積%である。また、溶媒としてエタノール水溶液を用いる場合、PBAはエタノール中での溶解度が低い。そのため、メタノール水溶液を用いる場合と比べて高い体積%、例えばSF添加前のプレゲル溶液中のエタノールの体積%が60体積%となるようにすることが好ましい。
ゲル組成物は、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(NHEAAm)のような水酸基を有する単量体を含んでいてもよい。これにより、温度変化に対する耐性を備えたゲル組成物が得られる。このようなゲル組成物は、以下の態様を含む。
下記一般式(1)
Figure 2023037496000006
[式中、RはH又はCHであり、Fは独立に存在し、nが1、2、3又は4のいずれかであり、mは0又は1以上の整数である。]で表されるフェニルボロン酸系単量体、及び下記一般式(2)
Figure 2023037496000007
[式中、R1はH又はCHであり、mは0又は1以上の整数であり、RはOH、1以上の水酸基で置換された飽和若しくは不飽和のC1-6アルキル基、1以上の水酸基で置換された飽和若しくは不飽和のC3-10シクロアルキル基、1以上の水酸基で置換されたNH、O及びSより選ばれる1~4個のヘテロ原子を含有するC3-12複素環式基、1以上の水酸基で置換されたC6-12アリール基、単糖基、又は多糖基である。]で表される単量体(以下、ヒドロキシル系単量体ともいう。)を含むゲル組成物。
上記一般式(2)の単量体は、分子内に水酸基を有している。特定の理論に拘束するものではないが、この水酸基は、ゲルの親水性を高めて、ボロン酸による疎水性を相殺するとともに、ゲル中のボロン酸に作用して、ゲルの過度な膨潤を防ぐ効果を有すると考えられる。mの上限は特に限定されないが、例えば20以下、好ましくは10以下、さらに好ましくは4以下である。
上記のヒドロキシル系単量体の一例としては、Rが水素であり、mが1であり、RがOHである単量体が挙げられ、これはヒドロキシル系単量体として特に好ましいN-ヒドロキシエチルアクリルアミド(N-(Hydroxyethyl)acrylamide、NHEAAm)である。特に、側鎖をメチルの代わりにエチルとすることで、側鎖の回転自由度を高め、分子間(ボロン酸側鎖との)架橋反応の効率を格段に向上させる効果がある。そのため、NHEAAmとすることにより、グルコース濃度に依存して相変化を生じる最適なゲルとなり得る。なお、他のヒドロキシル系単量体の例においては、Rは例えば、カテコール基あるいはグリコリル基等の糖誘導体であってもよい。単糖は例えばグルコースでありうる。
一般式(2)で表されるヒドロキシル系単量体は、ゲル組成物中に例えば、1mol以上、5mol%以上、10mol%以上、15mol%以上、20mol%以上、25mol%以上、30mol%以上、35mol%以上、40mol%以上、45mol%以上、50mol%以上、又は60mol%以上の割合で含まれることができる。また、一般式(2)で表されるヒドロキシル系単量体は、ゲル組成物中に例えば、90mol%以下、80mol%以下、70mol%以下、60mol%以下、50mol%以下、45mol%以下、40mol%以下、35mol%以下、30mol%以下、25mol%以下、又は20mol%以下の割合で含まれることができる。濃度範囲としては、一般式(2)で表されるヒドロキシル系単量体は、ゲル組成物中に例えば、10mol%~90mol%、15mol%~45mol%、20mol%~40mol%、又は25mol%~35mol%の範囲内の割合としてもよい。濃度範囲は、上記の上限と下限の任意の組み合わせにより特定されうる。好ましいヒドロキシル系単量体の割合は、約10mol%である。
ゲル組成物は、生体内において生体機能に有毒作用や有害作用が生じない性質(生体適合性)を有するゲル化剤と、上記のフェニルボロン酸系単量体と、上記のヒドロキシル系単量体と、架橋剤とから調製され得る。ゲルの調製方法は、特に限定するものではないが、先ず、ゲルの主鎖となるゲル化剤と、フェニルボロン酸系単量体と、ヒドロキシル系単量体と、架橋剤とを、所定の仕込みモル比で混合し、重合反応をさせることにより、調製することができる。重合のために、必要に応じて重合開始剤を使用する。
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)(ABCN)などの当業者に公知の開始剤を使用することができる。ゲル組成物に加える重合開始剤の割合は、例えば約0.1mol%とすることができる。
重合反応は、例えば、反応溶媒にジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて行うことができ、反応温度は、例えば60℃とすることができ、反応時間は、例えば24時間とすることができるが、これらの条件は、当業者であれば適宜調整することができる。
水酸基を有する単量体を含むゲル組成物の好適な一形態としては、例えば、ゲル化剤(主鎖)としてN-イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAAm)、フェニルボロン酸系単量体として4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(AmECFPBA)、ヒドロキシル系単量体としてN-ヒドロキシエチルアクリルアミド(NHEAAm)、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリルを、例えば、仕込みモル比62/27/11/5/0.1に調整したものが挙げられる。このように調整することで、正常血糖値(1g/L)近傍での温度依存性を大幅に軽減できる。しかしながら、これに限らず、ゲル化剤、フェニルボロン酸系単量体、ヒドロキシル系単量体及び架橋剤を含むゲル組成物によって形成できるゲル本体が、グルコース濃度に応答して膨張又は収縮し得るとともに、所望の温度耐性を示すことができれば、ゲル化剤/フェニルボロン酸系単量体/ヒドロキシル系単量体/架橋剤の仕込みモル比を、その他種々の数値に設定してゲルを調製してもよい。例えば、ゲル組成物は、N-イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAAm)、4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(AmECFPBA)、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(NHEAAm)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)を、約62/約27/約11/約5(mol%)の仕込みモル比で重合して調製したものであってもよい。
水酸基を有する単量体を含むゲル組成物の好適な他の形態としては、例えば、ゲル化剤(主鎖)としてN-イソプロピルメタクリルアミド(NIPMAAm)、フェニルボロン酸系単量体として4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(AmECFPBA)、ヒドロキシル系単量体としてN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(NHEAAm)、架橋剤としてN,N’-メチレンビス(アクリルアミド)(MBAAm)を、例えば、約60.7/約10.7/約23.8/約4.8の仕込みモル比で溶媒に添加し、これを重合開始剤として還元型開始剤を用いて重合して調製したものであってよい。例えば、ゲル組成物は、NIPMAAm、AmECFPBA、NHEAAm、MBAAmをそれぞれ、55~65mol%、8~12mol%、20~25mol%、2~8mol%の仕込みモル比で調製したものでありうる。還元型開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム(APS)を用いることができる。還元型開始剤を用いることにより、薬剤の放出挙動が優れる比較的緩いゲル組成物が形成される。重合には、促進剤、例えばテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を併用することもできる。溶媒としては、例えば、水とメタノールを4/6の体積比で混合した溶液を用いることができる。
Figure 2023037496000008
[ニードル]
(配置および形状)
ニードル110の長さは、ニードル110を皮膚に穿刺したときにニードル110が角質層に達する十分な長さを有していればよく、好ましくは5mm以下、より好ましくは1mm以下であってよい。ニードル110の数および配置は任意であってよい。例えば、複数のニードル110を、M×N(M、Nはそれぞれ1~30の整数)のマトリックス状に配列することができる。具体的な配置の一例としては、8mm×8mmの矩形領域中に、10×12本のニードル110が500μmピッチで配置される。ニードル110の形状は、皮膚に穿刺できる先端を有していれば任意であってよく、好ましくは円錐形状または角錐形状、例えばピラミッド形状とすることができる。
[ベース部およびニードルの形成]
ベース部100およびニードル110は、型を用いたマイクロモールディング技術を用いて一体的に形成することができる。型としては、例えば、図2に示すようなマイクロニードル型200を用いることができる。マイクロニードル型200は、ベース部100およびニードル110(図1参照)を合わせた形状に対応するキャビティ(凹部)201を有することができる。
このようなマイクロニードル型200を用いた場合のマイクロニードルの製造方法の一例を、ポリマー多孔質体がポリエーテルスルホンで構成される場合を例に挙げて以下に説明する。まず、ポリエーテルスルホンを所定の濃度となるように有機溶媒(例えばDMFに溶解させてポリエーテルスルホン溶液とし、これをマイクロニードル型200のキャビティ201に注入する。その後、マイクロニードル型に注入されたポリエーテルスルホン溶液に非溶媒(例えばベンゼン)を所定の濃度となるように添加する。これを、ポリエーテルスルホン溶液の相分離に十分な時間以上静置した後、マイクロニードル型200から取り出し、メタノール洗浄する。これによって、マイクロニードルの形状に成型されたポリマー多孔質体が得られる。得られたポリマー多孔質体には親水処理を施すことができる。
一方、ゲル組成物については、ゲル組成物を構成する単量体を含む単量体混合物を溶媒に溶解させた溶液(プレゲル溶液)を調製しておき、これをポリマー多孔質体に添加する。プレゲル溶液の添加によって、プレゲル溶液はポリマー多孔質体の空隙に浸入し、空隙にはプレゲル溶液が充填される。適宜方法により単量体混合物を重合することにより、プレゲル溶液はポリマー多孔質体の空隙に充填された状態でゲル組成物となる。これによって、ポリマー多孔質体とゲル組成物とが複合され、かつ、ベース部100およびニードル110が境界のない1つの部分として構成されたマイクロニードル10が製造される。
ポリマー多孔質体へのプレゲル溶液の添加は、例えば、ポリマー多孔質体をプレゲル溶液に浸漬し、その後、ポリマー多孔質体をプレゲル溶液から引き上げることによって行うことができる。ポリマー多孔質体をプレゲル溶液から引き出した後、単量体混合物を重合することによって、ポリマー多孔質の空隙にゲル組成物が充填されてポリマー多孔質とゲル組成物とが複合された構造体(マイクロニードル)を得ることができる。
キャビティ201へのポリエーテルスルホン溶液(およびプレゲル溶液)の充填に関して、ニードル110は非常に微細な構造を有するので、所望の形状のニードル110を形成するためには、ニードル110に対応するキャビティ201の部分の先端まで溶液を充填することが重要である。そのため、溶液の重合前に、遠心処理または真空処理を行なうことが好ましい。
遠心処理には、遠心分離機を利用することができる。より詳しくは、溶液を流し込んだマイクロニードル型200をファルコンチューブに入れ、遠心分離機を用いて遠心分離する。これにより溶液をキャビティ201の先端まで充填させることができる。
真空処理は、例えば、多孔質材料でマイクロニードル型200を構成し、そのマイクロニードル型200を減圧下に置いてマイクロニードル型200内の空気を除去した後、溶液をマイクロニードル型200に流し込むことによって行なうことができる。これによって、ニードル110に対応するキャビティ201の部分の先端まで溶液を充填させることができる。マイクロニードル型200を構成する多孔質材料としては、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いることができる。
遠心処理および真空処理のどちらの処理でも、得られるニードル110の形態に大きな差異は見られず、本発明においては遠心処理および真空処理のいずれも利用可能である。
[マイクロニードルの評価]
次に、マイクロニードルの評価について説明する。
(評価1)ポリエーテルスルホンでのニードルの成型性
<実験1>
ポリエーテルスルホン(PES)を30wt%のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に添加し、110℃で溶解させたPES溶液を調製した。調製したPES溶液をさらに、所定の濃度となるようにDMFで希釈した。希釈したPES溶液を、ポリジメチルシロキサン(PDMS)製の図2に示したようなベース部およびニードルに相当するキャビティ201を有するマイクロニードル型200に注入した。その後、マイクロニードル型200に注入した希釈PES溶液にベンゼン濃度が所定の濃度となるようにベンゼンを添加し、室温で24時間静置することによって成型体を得た。得られた成型体を、マイクロニードル型200ごとメタノール洗浄してベンゼンを除去した後、マイクロニードル型200から取り出して。ベース部およびニードルが一体に形成されたポリマー多孔質体のみからなるマイクロニードルを作製した。
以上の一連の処理を、DMFによる希釈後のPES溶液におけるPES濃度、およびベンゼン濃度を種々変更した複数種類のマイクロニードルを作製した。PES濃度は、15wt%、20wt%および25wt%、ベンゼン濃度は、20vol%、25vol%、30vol%および35wt%で行なった。
<結果>
作製した各マイクロニードルについて、光学顕微鏡を用いてニードルの形状観察を行なった。各マイクロニードルの顕微鏡写真を図3に示す。形状観察の結果、PES濃度については20wt%において成型性の高いマイクロニードルが得られた。これは、低濃度のPESではゲル化に不利である一方で、高濃度のPESでは高い粘度によりマイクロニードル型200のニードルに対応するキャビティの部分の先端までPES溶液が浸透しないためであると考えられる。また、ベンゼン濃度については、25wt%において成型性の高いマイクロニードルが得られた。これは、低濃度のベンゼンでは相分離を誘起できない一方で、高濃度のベンゼンではPES溶液がマイクロニードル型のニードルに対応するキャビティの部分の先端まで浸透する前に相分離が惹起され、PES溶液が沈殿するためであると考えられる。
(評価2)ベンゼンの有無によるニードルの成型性への影響
<実験2-1>
ポリエーテルスルホン(PES)を30wt%のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に添加し、110℃で溶解させたPES溶液を調製した。調製したPES溶液をさらに、PES濃度が20wt%となるようにDMFで希釈した。希釈したPES溶液を、ポリジメチルシロキサン(PDMS)製の図2に示したようなベース部およびニードルに相当するキャビティ201を有するマイクロニードル型200に注入した。その後、PES溶液を注入したマイクロニードル型200を4℃で24時間静置することによって成型体を得た。得られた成型体を、マイクロニードル型200ごとメタノール洗浄してベンゼンを除去した後、マイクロニードル型200から取り出して、ベース部およびニードルが一体に形成されたポリマー多孔質体のみからなるマイクロニードルを作製した。
<実験2-2>
実験2-1においてPES溶液をマイクロニードル型200に注入した後、ベンゼン濃度が所定の濃度となるようにベンゼンを添加し、4℃で24時間静置した以外は実験2-1と同様にしてマイクロニードルを作製した。ベンゼン濃度は5vol%および15vol%の2種類で行なった。
<結果>
作製した各マイクロニードルについて、光学顕微鏡を用いてニードルの形状観察を行なった。各マイクロニードルの顕微鏡写真を図4に示す。形状観察の結果、ベンゼン濃度0%においても成形性の高いマイクロニードルが得られた。これは、低温条件においてポリマーが沈殿することで相分離が惹起されるためであると考えられる。
(評価3)ポリマー多孔質体の多孔性
<実験3>
実験1において、PES濃度25wt%およびベンゼン濃度20vol%で作製したマイクロニードルを、走査型電子顕微鏡を用いて表面観察を行なった。
<結果>
走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。走査型電子顕微鏡による表面観察の結果、多孔質構造が形成されていることから、ベンゼンによる相分離が効率的に惹起されていることが示唆された。
(評価4)ポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルの成型性
<実験4>
ポリエーテルスルホン(PES)を30wt%のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に添加し、110℃で溶解させたPES溶液を調製した。調製したPES溶液をさらに、PES濃度が25wt%となるようにDMFで希釈した。希釈したPES溶液を、ポリジメチルシロキサン(PDMS)製の図2に示したようなベース部およびニードルに相当するキャビティ201を有するマイクロニードル型200に注入した。その後、マイクロニードル型200に注入した希釈PES溶液にベンゼン濃度が20vol%となるようにベンゼンを添加し、室温で24時間静置することによってポリマー多孔質体からなる成型体を得た。得られた成型体を、マイクロニードル型200ごとメタノール洗浄してベンゼンを除去した後、マイクロニードル型200から取り出した。
マイクロニードル型200から取り出した成型体にプラズマを照射し、成型体の表面改質を行なった。その後、アクリル酸を5%の濃度になるようにメタノールで希釈したアクリル酸溶液に成型体を浸漬し、60℃で1時間反応させることで成型体に親水性を付与した。プラズマ照射には、ヤマト科学株式会社製プラズマドライクリーナー(PDC210)を用い、出力300Wで15分間照射した。
その後、成型体をメタノール洗浄し、成型体にプレゲル溶液(モノマー濃度:3M、架橋剤密度:5%)を添加し、プレゲル溶液を重合させた。プレゲル溶液の重合後にプレゲル溶液を乾燥させることによって、ベース部およびニードルが一体に形成された、ポリマー多孔質体とゲル組成物とが複合したマイクロニードル(ポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードル)を作製した。
プレゲル溶液は、次のようにして調製した。ゲル化剤としてN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)、フェニルボロン酸系単量体として4-(2-アクリルアミドエチルカルバモイル)-3-フルオロフェニルボロン酸(AmECFPBA)、ヒドロキシル系単量体としてN-ヒドロキシエチルアクリルアミド(NHEAAm)、および架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAAm)をそれぞれメタノールと水の混合溶媒(メタノール/水=4/6、v/v)に溶解し、NIPAAm/AmECFPBA/NHEAAm/MBAAm=57.7/10.2/22.6/5.00の比で混合して混合溶液を得た。得られた混合溶液に、開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)および促進剤としてテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を添加し、プレゲル溶液を得た。
<結果>
作製したポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルを、光学顕微鏡を用いて形状観察を行なった。本実験でのマイクロニードルの顕微鏡写真を図6に示す。形状観察の結果、ゲル組成物が充填されたポリマー多孔質体においてもニードルの形状が維持されていることが確認された。
(評価5)ポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルの力学的特性
<実験5>
実験4と同様にして作製したポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルのニードルの力学的強度を、ボンドテスター(デイジ社製万能型ボンドテスター、型番:5000)により測定した。具体的には、マイクロニードルをボンドテスターに固定し、真空下でステンレスプローブをニードルの根元から200μmの位置にセットし、その後、ステンレスプローブを水平に動かすことによりニードルの降伏応力を測定し、その値をニードルの力学的強度の指標とした。
<参照実験5-1>
実験4において、ポリマー多孔質体からなる成型体を得る一連の工程およびその後のアクリル酸溶液による処理を省略し、プレゲル溶液をマイクロニードル型200に注入することによってマイクロニードルを作製した。つまり、本実験ではゲル組成物のみからなるマイクロニードルを作製した。作製したマイクロニードルについて、実験5と同様に力学的強度を測定した。
<参照実験5-2>
実験4において、ポリマー多孔質体からなる成型体とゲル組成物との複合を省略してマイクロニードルを作製した。つまり、本実験ではポリマー多孔質体のみからなるマイクロニードルを作製した。作製したマイクロニードルについて、実験5と同様に力学的強度を測定した。
<結果>
実験5、参照実験5-1および参照実験5-2による測定結果を図7にグラフで示す。
グラフにおいて、「Naked MNs」、「PES MNs」および「Hybrid MSs」は、それぞれ参照実験5-1、参照実験5-2および実験5による結果である。グラフより、実験5が、参照実験5-1および参照実験5-2よりも高い最大応力を示したことから、弾性の高いポリエーテルスルホンと粘性の高いゲル組成物が相乗的にマイクロニードルの力学的特性を高めたことが示唆された。
(評価6)ポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルの皮膚刺入性
<実験6>
実験4と同様にして作製したポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルをマウスの皮膚に1分間貼付し、トリパンブルー染色を実施して皮膚刺入性を可視化した。
<結果>
ポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルを貼付した後のマウスの皮膚表面の写真を図8に示す。マウスの皮膚表面にはトリパンブルー染色によるマイクロニードル由来の穴が確認された。このことから、ポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルは、優れた皮膚刺入性を有していることが確認された。
(評価7)ポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルの薬剤放出性
<実験7>
実験4と同様にして作製したポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルに、FITC標識インスリン溶液を100μL添加し、室温で24時間静置した。その後、FITC標識インスリン溶液を添加したポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルを低グルコース溶液(100mg/dL)または高グルコース溶液(500mg/dL)中で静置し、放出されたFITC標識インスリンを、蛍光光度計(販売元:サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、製品番号:NanoDrop3300)を用いて検出した。
<結果>
検出結果を図9にグラフで示す。グラフから、低グルコース溶液よりも高グルコース溶液において高濃度のFITC標識インスリンが検出されたことが分かる。このことから、ポリマー多孔質/ゲル組成物複合マイクロニードルはゲル特性を維持したままインスリンを担持できることが示唆された。
10 マイクロニードル
100 ベース部
110 ニードル
200 マイクロニードル型
201 キャビティ

Claims (13)

  1. ベース部と、
    前記ベース部に支持された少なくとも1つのニードルと、
    を有し、
    前記ベース部および前記ニードルは、ポリマーからなる多孔質体と、前記多孔質体の空隙部分に充填された、薬剤を担持することができ、かつ前記薬剤の透過性を有するゲル組成物とを含む、
    薬剤送達デバイス。
  2. 前記ポリマーはポリエーテルスルホンである請求項1に記載の薬剤送達デバイス。
  3. 前記多孔質体が、親水性基を持つポリマーでコーティングされている請求項2に記載の薬剤送達デバイス。
  4. 前記親水性基を持つポリマーはポリアクリル酸である請求項3に記載の薬剤送達デバイス。
  5. 前記前記ゲル組成物は、フェニルボロン酸系単量体ユニットを含む共重合体を含むゲル組成物である請求項1~4のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
  6. ベース部と、前記ベース部に支持された少なくとも1つのニードルとを有する薬剤送達デバイスの製造方法であって、
    前記ベース部および前記ニードルに対応するキャビティを有する型を用いて、ポリマーからなる多孔質体を成型する工程と、
    前記多孔質体の空隙部分に、薬液を担持することができ、かつ前記薬液の透過性を有するゲル組成物を充填する工程と、
    を有する薬剤送達デバイスの製造方法。
  7. 前記ポリマーはポリエーテルスルホンであり、
    前記多孔質体を成型する工程は、
    前記ポリエーテルスルホンを有機溶媒に溶解させたポリエーテルスルホン溶液を調製する工程と、
    前記ポリエーテルスルホン溶液にベンゼンを添加する工程と、
    前記ベンゼンを添加した前記ポリエーテルスルホン溶液を相分離させる工程と、
    を含む、
    請求項6に記載の薬剤送達デバイスの製造方法。
  8. 前記ポリエーテルスルホン溶液を調製する工程は、ポリエーテルスルホン濃度が15~25wt%となるように前記ポリエーテルスルホン溶液を調製することを含む、請求項7に記載の薬剤送達デバイスの製造方法。
  9. 前記ベンゼンを添加する工程は、ベンゼン濃度が20~35vol%となるように前記ベンゼンを添加することを含む、請求項7または8に記載の薬剤送達デバイスの製造方法。
  10. 前記ゲル組成物を充填する工程の前に、親水性基を持つポリマーで前記多孔質体をコーティングする工程をさらに有する、請求項6~9のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイスの製造方法。
  11. 前記多孔質体をコーティングする工程は、
    前記多孔質体にプラズマを照射することと、
    プラズマ照射後の前記多孔質体にアクリル酸を添加することと、
    前記アクリル酸をグラフト重合することと、
    を含む、請求項10に記載の薬剤送達デバイスの製造方法。
  12. 前記ゲル組成物を充填する工程は、
    前記ゲル組成物を構成する単量体を含む単量体混合物を溶媒に溶解させたプレゲル溶液を調製する工程と、
    前記多孔質体の空隙に前記プレゲル溶液が充填されるように前記プレゲル溶液を前記多孔質体に添加する工程と、
    前記プレゲル溶液を前記多孔質体に添加した後、前記単量体混合物を重合する工程と、
    を含む、請求項6~11のいずれか一項に記載の薬液送達デバイスの製造方法。
  13. 前記単量体混合物は、フェニルボロン酸系単量体を含む、請求項12に記載の薬剤送達デバイスの製造方法。


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