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JP2023082439A - 溶接方法および開先構造 - Google Patents

溶接方法および開先構造 Download PDF

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Abstract

【課題】手溶接が可能であり、熟練溶接工の技量が不要であり、かつ、エアアークガウジングすることなく、完全溶け込み溶接を行うことができる溶接方法および開先構造を提供する。【解決手段】本開示の溶接方法は、鋼材の開先をアーク溶接で溶接ワイヤを用い、エアアークガウジングすることなく、完全溶け込み溶接する溶接方法であって、105A以上150A以下の平均溶接電流で、開先を初層溶接する初層溶接工程S1と、初層溶接工程S1の後に開先を溶接する後溶接工程S2と、を備える。【選択図】図1

Description

本発明は、溶接方法および開先構造に関する。
熱風炉や高炉の鉄皮などの厚板構造物の突き合わせ溶接では、K形開先、X形開先などの両面開先が用いられている。この溶接作業では、開先の片側(表側)を溶接した後、反対側(裏側)からエアアークガウジングなどによってルート部の溶け込み不良部をはつり取る。その後、グラインダーなどで開先形状を整形および付着した炭素層を除去し、ルート部を完全に溶融させるように裏側から溶接する。ここで、エアアークガウジングは、JIS Z 3001-1:2018に規定されるように、炭素電極及び圧縮空気を用いて,アーク熱で溶かした金属を圧縮空気で連続的に吹き飛ばして金属表面に溝を掘るまたは溶接欠陥をはつり取る方法をいう。
エアアークガウジングでは、ガウジング用溶接電源、ガウジング用トーチ、ガウジング棒、エアーなどが必要である。また、エアアークガウジング後の開先は、表面の凹凸が大きい、表面に炭素層が付着するためそのまま溶接すると、割れが発生するもしくは硬化組織が析出するという不具合が発生する場合がある。そのため、通常はエアアークガウジング後の開先はグラインダーなどで研削、成型される。これらの作業は多大な時間がかかるため、エアアークガウジング工程そのものを無くすことが求められている。
エアアークガウジングがない溶接方法として、特許文献1には、先行溶接と後行溶接とにより両面開先継手をガウジングなしで完全溶込み溶接するガスメタルアーク溶接において、継手拘束のために開先面内に仮付け溶接を行う場合には、初層溶接の先行側の開先面内に仮付け溶接を行い、仮付けビードの有無にかかわらず、先行溶接側の溶接アークが開先ルートフェイスを貫通せず、かつ、開先ルート部が部分溶融するような溶接条件で先行側初層を溶接し、後行溶接では、溶込み深さが開先ルートフェイスの厚さ以上となるような溶接条件で溶接して、初層先行側と後行側の溶込みをラップさせることにより、ガウジングを行わずに開先ルート部の完全溶込みを得る方法が開示されている。
特許文献2には、先行溶接と後行溶接とにより両面開先継手をガウジングなしで完全溶込み溶接するガスメタルアーク溶接において、継手拘束のために初層溶接の先行側の開先面内に仮付け溶接を行い、先行溶接側の溶接アークが開先ルートフェイスを貫通せず、かつ、開先ルート部が溶融するような溶接条件で初層先行側を溶接し、後行溶接では、溶込み深さが開先ルートフェイスの厚さ以上となるような溶接条件で初層後行側を溶接して、初層先行側と初層後行側の溶込みをラップさせることにより、ガウジングを行わずに開先ルート部の完全溶込みを得るものであり、少なくとも初層先行側及び初層後行側の溶接方法には、アーク回転速度10Hz以上の高速回転アーク溶接方法を採用し、初層先行側のアーク回転速度は、初層後行側のアーク回転速度よりも速くするか、あるいは、少なくとも初層先行側及び初層後行側の溶接方法には、アーク揺動速度10Hz以上の高速揺動アーク溶接方法を採用し、初層先行側のアーク揺動速度は、初層後行側のアーク揺動速度よりも速くする方法が開示されている。
特許文献3には、レ型開先またはK型開先の溶接において、第1鋼板と第2鋼板の間で、溶接トーチを溶接進行方向の前方へ向かって第2鋼板のウィービング端まで移動させ、該ウィービング端から溶接進行方向に対して後方へ向かって第1鋼板のウィービング端まで移動させるウィービングを繰り返しながら、130~300Aの初期溶接ビードの溶接電流で初期溶接ビードを形成した後、表側から単層層盛り溶接し、さらに裏側に280~450Aの裏側溶接電流で単層または多層盛り溶接を行う方法が開示されている。
特開2008-43986号公報 特許第5626271号公報 特開2018-83202号公報
しかし、特許文献1の方法では、表側の初層溶接終了時において、ルートフェイスの残り深さを外観上判断することは困難である。そのため、後行溶接で開先ルート部を溶かしきれない可能性がある。開先加工精度が高い場合は問題ないが、開先加工精度を高くすると、コストが高くなるという問題がある。特許文献2の方法では、提示されている高速揺動アーク溶接方法は、人の手では行うことができないので、自動溶接装置(もしくは自動揺動装置)を用いることになる。熱風炉や高炉などの現地溶接においては、高所かつ狭所作業を伴うことなどから自動溶接装置をセットすることは、経済的に効率的ではないという問題がある。特許文献3の方法では、特殊なウィービング方法が必要となるので、高い技量を有する熟練工が必要となるという問題がある。
本発明は上記の事情を鑑みなされた発明であり、手溶接が可能であり、熟練溶接工の技量が不要であり、かつ、エアアークガウジングすることなく、完全溶け込み溶接を行うことができる溶接方法および開先構造を提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1> 本発明の一態様に係る溶接方法は、鋼材の開先をアーク溶接で溶接ワイヤを用い、エアアークガウジングすることなく、完全溶け込み溶接する溶接方法であって、105A以上150A以下の平均溶接電流で、前記開先を初層溶接する初層溶接工程と、前記初層溶接工程の後に前記開先を溶接する後溶接工程と、を備え、前記初層溶接工程にて、前記溶接方法が立向上進溶接である場合は、前記開先のルートギャップが2.5mm超であり、前記溶接方法が横向溶接である場合は、前記開先のルートギャップが2.8mm超であり、且つ、平均電圧が20.0V超である。
<2> 上記<1>に記載の溶接方法は、前記開先がX形またはK形であってもよい。
<3> 上記<1>または<2>に記載の溶接方法は、前記開先のルートフェイスは、0.8mm以上1.1mm以下であってもよい。
<4> 上記<1>乃至<3>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記初層溶接工程では、溶接ワイヤの先端が短絡した時に溶接電流を下げ、下げた後に前記溶接電流を上げ、前記先端の溶滴が前記開先に形成される溶融池に移行した時に前記溶接電流を下げてもよい。
<5> 上記<1>乃至<4>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記平均溶接電流は、105A以上130A未満であってもよい。
<6> 上記<4>に記載の溶接方法は、前記溶接方法は、立向上進溶接であり、前記開先は、X形であり、前記開先のベベル角は、25度以上35度以下であり、前記開先のルートギャップは、2.8mm以上6.5mm以下であり、前記開先の目違いは、0mm以上5.5mm以下であり、前記初層溶接工程にて、前記平均溶接電流は、105A以上140A以下であり、平均電圧は、16.0V以上18.0V以下であり、平均溶接速度は、7.5cm/min以上12.5cm/min以下であってもよい。
<7> 上記<6>に記載の溶接方法は、前記ルートギャップは、4.5mm以上6.5mm以下であってもよい。
<8> 上記<7>に記載の溶接方法は、前記ルートギャップは、4.5mm以上5.0mm以下であってもよい。
<9> 上記<6>乃至<8>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記後溶接工程にて、平均溶接電流は、120A以上140A以下であり、前記平均電圧は、19.0V以上23.0V以下であり、前記平均溶接速度は、9.0cm/min以上13.0cm/min以下であってもよい。
<10> 上記<4>に記載の溶接方法は、前記溶接方法は、横向溶接であり、前記開先は、K形であり、前記初層溶接される側の前記開先の角度は、40度以上50度以下であり、前記開先のルートギャップは、4.5mm以上6.3mm以下であり、前記初層溶接工程にて、前記溶接電流は、130A以上150A以下であり、平均電圧は、20.0V超23.5V以下であり、平均溶接速度は、12.0cm/min以上17.0cm/min以下であってもよい。
<11> 上記<10>に記載の溶接方法は、前記初層溶接される側とは反対側の前記開先の角度は、45度以上55度以下であってもよい。
<12> 上記<10>又は<11>に記載の溶接方法は、前記後溶接工程にて、平均溶接電流は、160A以上190A以下であり、平均電圧は、24.0V以上26.0V以下であり、平均溶接速度は、20.0cm/min以上48.0cm/min以下であってもよい。
<13> 上記<1>乃至<12>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記開先のルートフェイスは、0.9mm以上1.0mm未満であってもよい。
<14> 上記<1>乃至<13>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記溶接ワイヤは、フラックスコアードワイヤであってもよい。
<15> 上記<14>に記載の溶接方法は、前記溶接ワイヤは、炭素鋼ワイヤ、又は、ステンレスワイヤであってもよい。
<16> 上記<1>乃至<15>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記鋼材は、炭素鋼であってもよい。
<17> 上記<1>乃至<16>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記初層溶接工程及び前記後溶接工程にて、溶接トーチをウィービングしなくてもよい。
<18> 上記<1>乃至<17>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記初層溶接工程及び前記後溶接工程は、手作業により行われてもよい。
<19> 本発明の一態様に係る開先構造は、上記<1>に記載の溶接方法に用いられる鋼材の開先構造であって、前記鋼材の開先構造はX形又はK形であり、前記開先のルートフェイスは、0.9mm以上1.1mm以下であり、前記開先のルートギャップは、2.8mm以上6.5mm以下である。
本発明の上記態様によれば、手溶接が可能であり、熟練溶接工の技量が不要であり、かつ、エアアークガウジングすることなく、完全溶け込み溶接を行うことができる溶接方法および開先構造を提供することができる。
本発明の一実施形態に係る溶接方法の流れを説明するフローチャートである。 X形開先の模式図である。 X形開先において、溶接が終わった後の開先の状態を示す図である。 本発明の別の実施形態に係る溶接方法の流れを説明するフローチャートである。 K形開先の模式図である。 K形開先において、溶接が終わった後の開先の状態を示す図である。 実験例12の表側初層溶接後の断面観察写真である。 実験例10の全層溶接後の断面観察写真である。 実験例31の表側初層溶接後の断面観察写真である。 実験例32の全層溶接後の断面観察写真である。 立向上進溶接における初層溶接時の電流および電圧の時間変化を示す図である。 横向溶接における初層溶接時の電流および電圧の時間変化を示す図である。
本発明者らが、エアアークガウジング工程を省略できる溶接方法について鋭意検討したところ、初層溶接工程において、溶け込み不良や溶け落ちといった溶接欠陥を発生させないことが重要であることが分かった。具体的には、初層溶接工程において、平均溶接電流を特定の範囲に制御することで、溶け込み不良などの溶接欠陥を抑制できることが分かった。
本開示の溶接方法は、上記の知見に基づき、溶接条件を決定した。具体的には、本開示の溶接方法は、鋼材の両面開先をエアアークガウジングすることなく、アーク溶接によって完全溶け込み溶接する溶接方法であって、105A以上150A以下の平均溶接電流で、前記開先を初層溶接する初層溶接工程と、初層溶接工程の後に前記開先を溶接する後溶接工程と、を備える。また、本開示の溶接方法は、前記初層溶接工程にて、前記溶接方法が立向上進溶接である場合は、前記開先のルートギャップが2.5mm超であり、前記溶接方法が横向溶接である場合は、前記開先のルートギャップが2.8mm超であり、且つ、平均電圧が20.0V超である。本開示の溶接方法では、手溶接が可能である。ここで手溶接とは、JIS Z3001-1:2018に規定されるように、溶接トーチを溶接士が自身の手で操作して行う溶接のことをいう。すなわち溶接ワイヤの送給のみが自動で行われる半自動溶接(マグ溶接、ミグ溶接など)も手溶接に含まれる。そして、初層溶接時の平均溶接電流を特定の範囲に制御することで、熟練技量が無い場合でも、エアアークガウジングすることなく溶接することが可能である。以下、本開示の溶接方法について、立向上進溶接および横向溶接についての実施形態を例に挙げて説明する。
<第1実施形態>
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る溶接方法について説明する。図1は、本実施形態に係る溶接方法のフローチャートである。図1に記載の第1実施形態に係る溶接方法S10は、鋼材の開先を、溶接ワイヤを用いる消耗電極式アーク溶接で、エアアークガウジングすることなく、完全溶け込み溶接する溶接方法である。ここで、完全溶け込み溶接とは、JIS Z 3001-1:2018に規定されるように、継手の板厚全域にわたって完全に溶け込んだ溶接をいう。第1実施形態に係る溶接方法S10は、105A以上140A以下の平均溶接電流で、鋼材の開先を初層溶接する初層溶接工程S1と後溶接工程S2とグラインダー工程S3とを備える。後溶接工程S2は、第1後溶接工程S4と第2後溶接工程S5とを備える。ここでは、立向上進溶接を例に挙げて説明する。立向上進溶接とは、立向姿勢で下から上に向かって進む溶接を言う。ここで立向姿勢とは、JIS Z3001-1:2018に規定されるように、溶接面および溶接軸がほぼ鉛直である溶接線を側面から溶接する溶接姿勢をいう。本実施形態に係る溶接方法は、手溶接で行うことが好ましい。
(鋼材)
鋼材は、両面開先で完全溶け込み溶接を行う厚板であれば、特に限定されず、例えば、炭素鋼などが挙げられる。
立向上進溶接では、鋼材の開先は、例えば、JIS Z3001-1:2018に規定されるX形またはV形が挙げられる。本実施形態の溶接方法において、鋼材の開先は、X形が好ましい。図2は、X形開先の模式図である。以下、X形の開先構造を例に挙げて説明するが、ルートフェイスなどの各値はV形にも適用することができる。
本実施形態の溶接方法において、鋼材の開先のルートフェイスは、0.8mm以上1.1mm以下であることが好ましい。より好ましくは、ルートフェイスは0.9mm以上である。好ましくはルートフェイスは1.0mm以下である。さらに好ましくはルートフェイスは1.0mm未満である。通常、ルートフェイスは溶接時に溶け落ちないようにするために、厚く設定される。本実施形態の溶接方法では、溶接電流が、105A以上140A以下と低いため、開先のルートフェイスを0.8mm以上1.1mm以下とすることで、溶け落ちせずに確実に溶接することができる。ここで、ルートフェイスの寸法は図2のaとなる。開先のルートフェイスが0.8mm未満の場合、ルートフェイスが溶け落ちてしまう可能性がある。開先のルートフェイスが1.1mm超の場合、確実にルートフェイス部を溶かし込むことができない場合がある。
本実施形態の溶接方法において、鋼材の開先のベベル角は、25度以上、35度以下であることが好ましい。開先のベベル角が25度以上、35度以下とすることで、より溶接欠陥を低減することができる。開先のベベル角度は板単独の角度である。具体的には、開先のベベル角は図2において、θおよびθとなる。
本実施形態の溶接方法において、鋼材の開先のルートギャップは2.5mm超である。鋼材の開先のルートギャップは2.8mm以上、6.5mm以下であることが好ましい。開先のルートギャップが2.8mm以上、6.5mm以下とすることで、溶接欠陥をより低減することができる。開先のルートギャップが2.5mm以下となると、アークがルートフェイスの奥に届かなくなり欠陥が生じる場合がある。開先のルートギャップは、より好ましくは、4.5mm以上である。開先のルートギャップはより好ましくは6.0mm以下である。開先のルートギャップはさらに好ましくは5.0mm以下である。開先のルートギャップは図2中に、RGとして示される部分である。
本実施形態の溶接方法において、開先の目違いは0mm以上、5.5mm以下であることが好ましい。開先の目違いが0mm以上、5.5mm以下であると、溶接不良をより低減することができる。ここで、開先の目違いとは、溶接を行う母材間の基準面同士の食い違いをいう。具体的には、開先の目違いは、図2にMAとて示された部分である。
(初層溶接工程S1)
初層溶接工程S1では、105A以上140A以下の平均溶接電流で、上記の鋼材11,12の開先の表側を初層溶接する。初層溶接工程S1と第1後溶接工程S4と第2後溶接工程S5とを説明するために、溶接が終わった後の開先の模式図を図3に示す。初層溶接工程S1では、図3の初層21のみを形成する。その後、後述する第1後溶接工程S4で、2層目以降の表側の溶接を行う。裏側の溶接工程は、後述する第2後溶接工程S5で行う。以下、初層溶接工程S1について説明する。
本実施形態に係る溶接方法で用いるアーク溶接は、例えば、溶接トーチから消耗電極である溶接ワイヤを供給しながら溶接するガスシールドアーク溶接である。溶接ワイヤと鋼材11,12との間に電圧を印加することで溶接電流が流れアークが生じ、溶接を行うことができる。シールドガスとしては、COガス、Arガスおよび両ガスの混合ガスなどを用いることができる。
「溶接ワイヤ」
消耗電極である溶接ワイヤは特に限定されないが、溶接ワイヤはフラックスコア―ドワイヤが好ましい。フラックスコア―ドワイヤを用いることで、立向上進および横向姿勢での溶接をより容易に行うことができる。溶接ワイヤは炭素鋼ワイヤでもステンレスワイヤでも良い。熱風炉の鉄皮の溶接においては、応力腐食割れを防止するためにステンレス溶接ワイヤを用いることがある。
「平均溶接電流」
第1実施形態の初層溶接工程S1において、平均溶接電流は、105A以上140A以下であることが好ましい。平均溶接電流が105A未満の場合、ブローホール、溶け込み不良など溶接欠陥が発生しやすくなるので好ましくない。また、平均溶接電流が140A超の場合、溶け落ちが発生しやすくなるため好ましくない。平均溶接電流は120A以上が好ましい。平均溶接電流は140A以下であることが好ましい。平均溶接電流は130A未満であることがさらに好ましい。平均溶接電流は、溶接開始時から溶接終了時までの溶接電流値の平均を意味する。
「平均電圧」
初層溶接工程S1において、平均電圧は、16.0V以上18.0V以下が好ましい。平均電圧が16.0V以上18.0V以下であれば、ブローホールのような溶接欠陥をより低減することができる。平均電圧は、溶接開始時から溶接終了時までの電圧値の平均を意味する。
「平均溶接速度」
初層溶接工程S1において、平均溶接速度は、7.5cm/min以上12.5cm/min以下であることが好ましい。平均溶接速度が、7.5cm/min以上12.5cm/min以下であれば、ブローホール、溶け込み不良、溶け落ちのような溶接欠陥をより低減することができる。平均溶接速度は、溶接開始時から溶接終了時までの溶接速度の平均を意味する。
「極低電流制御」
初層溶接工程S1において、溶接ワイヤの先端が短絡した際に溶接電流を下げ、溶接電流を下げた後に溶接電流を上げ、溶接ワイヤの先端の溶滴が開先に形成される溶融池に移行した時に、溶接電流を下げるように電流を制御することが好ましい(極低電流溶接制御)。このように、電流波形を高速度で制御することで、溶け落ちの発生をより抑制することができる。トリム値、溶接ワイヤの送給速度などを調整することで、電流波形を調整することができる。このような制御方法としては、例えば、表面張力移行溶接方法などが挙げられる。
「平均ピーク電流」
上記の極低電流制御において、平均ピーク電流は平均溶接電流値+2A以上、平均溶接電流値+10A以下であることが好ましい。平均ピーク電流を平均溶接電流値+2A以上、平均溶接電流値+10A以下とすることで、溶接欠陥をより低減することができる。ピーク電流値のばらつきが小さいほど溶接欠陥を小さくできる。ここで、ピーク電流は、電圧のピークトップ間にある溶接電流値をいう。平均ピーク電流はピーク電流の平均値をいう。
「平均ベース電流」
上記の極低電流制御において、平均ベース電流は平均溶接電流値-5A以上、平均溶接電流値-2A以下であることが好ましい。平均ピーク電流を平均溶接電流値+2A以上、平均溶接電流値+10A以下とすることで、溶接欠陥をより低減することができる。ここで、ベース電流は、ベース電圧間にある溶接電流値をいう。平均ベース電流は、ベース電流の平均値をいう。
「ベース電流からピーク電流になるまでの平均時間」
ベース電流からピーク電流になるまでの平均時間は、1.0μs以上9.0μs以下であることが好ましい。ベース電流からピーク電流になるまでの平均時間は、1.0μs以上9.0μs以下であることで、溶接欠陥をより低減することができる。ベース電流からピーク電流になるまでの平均時間は、ベース電流からピーク電流になるまでの時間の平均値を意味する。
(第1後溶接工程)
第1後溶接工程S4では、表側溶接の二層目以降の層22を形成する。表側溶接は、初層溶接工程S1および第1後溶接工程S4からなる。第1後溶接工程S4では、例えば、初層溶接工程S1と同様にガスシールドアーク溶接で溶接する。シールドガスとしては、COガス、Arガスおよび両ガスの混合ガスなどを用いることができる。
「平均溶接電流」
第1後溶接工程S4において、平均溶接電流は、120A以上140A以下であることが好ましい。平均溶接電流が140A超の場合、溶け落ち等の溶接欠陥が発生する場合がある。
「平均電圧」
第1後溶接工程S4において、平均電圧は、19.0V以上23.0V以下が好ましい。平均電圧が19.0V以上23.0V以下であれば、ブローホールのような溶接欠陥をより低減することができる。
「平均溶接速度」
第1後溶接工程S4において、平均溶接速度は、9.0cm/min以上13.0cm/min以下であることが好ましい。平均溶接速度が、9.0cm/min以上13.0cm/min以下であれば、ブローホールのような溶接欠陥をより低減することができる。
(グラインダー工程)
グラインダー工程S3では、主にスラグ剥離を行う。グラインダー工程において、ビード形状形成のためのグラインダー掛けを行ってもよい。
(第2後溶接工程)
第2後溶接工程S5では、開先の裏側から溶接を行う(裏側溶接)。ここで、層23が形成される。第2後溶接工程S5では、例えば、初層溶接工程S1と同様にガスシールドアーク溶接で溶接する。シールドガスとしては、COガス、Arガスおよび両ガスの混合ガスなどを用いることができる。
「平均溶接電流」
第2後溶接工程S5において、平均溶接電流は、120A以上140A以下であることが好ましい。平均溶接電流が140A超の場合、溶け落ち等の溶接欠陥が発生する場合がある。
「平均電圧」
第2後溶接工程S5において、平均電圧は、19.0V以上23.0V以下が好ましい。平均電圧が19.0V以上23.0V以下であれば、ブローホールのような溶接欠陥をより低減することができる。
「平均溶接速度」
第2後溶接工程S5において、平均溶接速度は、9.0cm/min以上13.0cm/min以下であることが好ましい。平均溶接速度が、9.0cm/min以上13.0cm/min以下であれば、ブローホールのような溶接欠陥をより低減することができる。
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る溶接方法について説明する。第2実施形態の溶接方法は、横向溶接の例である。横向溶接とは、横向姿勢で行う溶接を言う。ここで横向姿勢とは、JIS Z3001-1:2018に規定されるように、溶接面がほぼ鉛直で溶接軸がほぼ水平な溶接線を横方向から溶接する溶接姿勢をいう。図4に記載の第2実施形態に係る溶接方法S10Aは、鋼材の開先を、エアアークガウジングすることなく、アーク溶接によって完全溶け込み溶接する溶接方法である。第2実施形態に係る溶接方法S10Aは、130A以上150A以下の平均溶接電流で、鋼材の開先を初層溶接する初層溶接工程S1Aと後溶接工程S2Aとグラインダー工程S3とを備える。後溶接工程S2Aは、第1後溶接工程S4Aと第2後溶接工程S5Aとを備える。
(鋼材)
鋼材は、両面開先で完全溶け込み溶接を行う厚板であれば、特に限定されず、例えば、炭素鋼などが挙げられる。
横向溶接では、鋼材の開先は、例えば、JIS Z3001-1:2018に規定されるK形またはレ形が挙げられる。本実施形態の溶接方法において、鋼材の開先は、K形が好ましい。以下、図5に示すようなK形の開先構造を例に挙げて説明するが、ルートフェイスなどの各値はレ形にも適用することができる。
第2実施形態の溶接方法において、鋼材11A,12Aの開先のルートフェイスは、0.8mm以上1.1mm以下であることが好ましい。より好ましくは、ルートフェイスは0.9mm以上である。さらに好ましくは、ルートフェイスは1.0mm以下である。特に好ましくは、ルートフェイスは1.0mm未満である。ルートフェイスは通常溶け落ちないようにするために、厚くする。本実施形態の溶接方法では、溶接電流が、130A以上150A以下と低いため、開先のルートフェイスを0.8mm以上1.1mm以下とすることで、溶け落ちせずに確実に溶け込み溶接することができる。ここで、ルートフェイスの寸法は図5のbとなる。開先のルートフェイスが0.8mm未満の場合、ルートフェイスが溶け落ちてしまう可能性がある。開先のルートフェイスが1.1mm超の場合、確実に溶け込み溶接することができない場合がある。
第2実施形態の溶接方法において、鋼材の開先の角度は、40度以上、50度以下であることが好ましい。開先の角度が40度以上、50度以下とすることで、より溶接欠陥を低減することができる。ここで、開先の角度は開先全体の角度を言う。具体的には、開先の角度は、X形開先では図2のθおよびθであり、K形開先では、図5のθ、θである。
第2実施形態の溶接方法において、初層溶接される側(表側)と反対側(裏側)の鋼材の開先の角度は、45度以上、55度以下であることが好ましい。裏側の開先の角度が45度以上、55度以下とすることで、より溶接欠陥を低減することができる。ここでは、表側の開先の角度はθであり、裏側の開先の角度はθである。
第2実施形態の溶接方法において、鋼材のK形開先のルートギャップは2.8mm超である。鋼材のK形開先のルートギャップは4.5mm以上、6.3mm以下であることが好ましい。K形開先のルートギャップが4.5mm以上、6.3mm以下とすることで、溶接欠陥をより低減することができる。K形開先のルートギャップが2.8mm以下となると、アークがルートフェイスの奥に届かなくなり欠陥が生じる場合がある。開先のルートギャップは好ましくは5.0mm以上である。開先のルートギャップはさらに好ましくは6.0mm以下である。K形の開先においてルートギャップは図5のRGAである。
(初層溶接工程S1)
第2実施形態の初層溶接工程S1Aでは、130A以上150A以下の平均溶接電流で、上記の鋼材11A,12Aの開先を初層溶接する。初層溶接工程S1Aと第1後溶接工程S4Aと、第2後溶接工程S5Aとを説明するために、溶接が終わった後の開先の模式図を図6に示す。初層溶接工程S1Aでは、図6の初層21Aのみを形成する。その後、後述する第1後溶接工程S4Aで、表側の溶接を行う。裏側の溶接工程は、後述する第2後溶接工程S5Aで行う。以下、初層溶接工程S1Aについて説明する。
第2実施形態に係る溶接方法で用いるアーク溶接は、例えば、溶接トーチから消耗電極である溶接ワイヤを供給しながら溶接するガスシールドアーク溶接である。溶接ワイヤと鋼材11A,12Aとの間に電圧を印加することで溶接電流が流れアークが生じ、溶接を行うことができる。シールドガスとしては、COガス、Arガスおよび両ガスの混合ガスなどを用いることができる。
「溶接ワイヤ」
消耗電極である溶接ワイヤは特に限定されないが、溶接ワイヤはフラックスコア―ドワイヤが好ましい。フラックスコア―ドワイヤを用いることで、立向上進および横向姿勢での溶接をより容易に行うことができる。溶接ワイヤは炭素鋼ワイヤでもステンレスワイヤでも良い。熱風炉の鉄皮の溶接においては、応力腐食割れを防止するためにステンレス溶接ワイヤを用いることがある。
「平均溶接電流」
初層溶接工程S1Aにおいて、平均溶接電流は、130A以上150A以下である。平均溶接電流が130A未満の場合、ブローホールのような溶接欠陥が発生する場合があるので好ましくない。また、平均溶接電流が150A超の場合、溶点が小さくなり母材につきにくくなるので好ましくない。平均溶接電流は135A以上が好ましい。平均溶接電流は145A以下であることが好ましい。なお、K形開先は第1実施形態のX形開先よりも熱容量が大きいため、平均溶接電流の値が大きくなる。平均溶接電流は、溶接開始時から溶接終了時までの溶接電流値の平均を意味する。
「平均電圧」
初層溶接工程S1Aにおいて、平均電圧は、20.0V超である。平均電圧は、20.0V超23.5V以下が好ましい。平均電圧が20.0V超23.5V以下であれば、ブローホールのような溶接欠陥をより低減することができる。平均電圧は、溶接開始時から溶接終了時までの電圧値の平均を意味する。
「平均溶接速度」
初層溶接工程S1Aにおいて、平均溶接速度は、12.0cm/min以上17.0cm/min以下であることが好ましい。平均溶接速度が、12.0cm/min以上17.0cm/min以下であれば、ブローホールのような溶接欠陥をより低減することができる。平均溶接速度は、溶接開始時から溶接終了時までの溶接速度の平均を意味する。
「極低電流制御」
初層溶接工程S1Aにおいて、溶接ワイヤの先端が短絡した際に溶接電流を下げ、溶接電流を下げた後に溶接電流を上げ、溶接ワイヤの先端の溶滴が開先に形成される溶融池に移行した時に、溶接電流を下げるように電流を制御することが好ましい(極低電流溶接制御)。このように、電流波形を高速度で制御することで、溶け落ちの発生をより抑制することができる。
「平均ピーク電流」
第2実施形態の極低電流制御において、平均ピーク電流は平均溶接電流値+2A以上、平均溶接電流値+10A以下であることが好ましい。平均ピーク電流を平均溶接電流値+2A以上、平均溶接電流値+10A以下とすることで、溶接欠陥をより低減することができる。ここで、ピーク電流は、電圧のピークトップ間にある溶接電流の最大値をいう。平均ピーク電流はピーク電流の平均値をいう。
「平均ベース電流」
第2実施形態の極低電流制御において、平均ベース電流は平均溶接電流値-5A以上、平均溶接電流値-2A以下であることが好ましい。平均ピーク電流を平均溶接電流値+2A以上、平均溶接電流値+10A以下とすることで、溶接欠陥をより低減することができる。ここで、ベース電流は、電圧ピークトップ間にある溶接電流の最小値をいう。平均ベース電流は、ベース電流の平均値をいう。
「ベース電流からピーク電流になるまでの平均時間」
ベース電流からピーク電流になるまでの平均時間は、1.0μs以上9.0μs以下であることが好ましい。ベース電流からピーク電流になるまでの平均時間は、1.0μs以上9.0μs以下であることで、溶接欠陥をより低減することができる。ベース電流からピーク電流になるまでの平均時間は、ベース電流からピーク電流になるまでの時間の平均値を意味する。
(第1後溶接工程)
第1後溶接工程S4Aでは、表側の二層目以降の層22Aを形成する(図6)。表側溶接は、初層溶接工程S1Aおよび第1後溶接工程S4Aからなる。第1後溶接工程S4では、例えば、初層溶接工程S1Aと同様にガスシールドアーク溶接で溶接する。シールドガスとしては、COガス、Arガスおよび両ガスの混合ガスなどを用いることができる。
「平均溶接電流」
第1後溶接工程S4Aにおいて、平均溶接電流は、160A以上190A以下であることが好ましい。平均溶接電流が190A超の場合、溶け落ち等の溶接欠陥が発生する場合がある。
「平均電圧」
第1後溶接工程S4Aにおいて、平均電圧は、24.0V以上26.0V以下が好ましい。平均電圧が24.0V以上26.0V以下であれば、ブローホールのような溶接欠陥をより低減することができる。
「平均溶接速度」
第1後溶接工程S4Aにおいて、平均溶接速度は、20.0cm/min以上48.0cm/min以下であることが好ましい。平均溶接速度が、20.0cm/min以上48.0cm/min以下であれば、ブローホールのような溶接欠陥をより低減することができる。
(グラインダー工程)
グラインダー工程S3では、スラグ剥離を行う。グラインダー工程において、ビード形状形成のためのグラインダー掛けを行ってもよい。
(第2後溶接工程)
第2後溶接工程S5Aでは、開先の裏側から層23Aを形成する。第2後溶接工程S5では、例えば、初層溶接工程S1Aと同様にガスシールドアーク溶接で溶接する。シールドガスとしては、COガス、Arガスおよび両ガスの混合ガスなどを用いることができる。
「平均溶接電流」
第2後溶接工程S5Aにおいて、平均溶接電流は、160A以上190A以下であることが好ましい。平均溶接電流が190A超の場合、溶け落ち等の溶接欠陥が発生する場合がある。
「平均電圧」
第2後溶接工程S5Aにおいて、平均電圧は、24.0V以上26.0V以下が好ましい。平均電圧が24.0V以上26.0V以下であれば、ブローホールのような溶接欠陥をより低減することができる。
「平均溶接速度」
第2後溶接工程S5Aにおいて、平均溶接速度は、20.0cm/min以上48.0cm/min以下であることが好ましい。平均溶接速度が、20.0cm/min以上48.0cm/min以下であれば、ブローホールのような溶接欠陥をより低減することができる。
以上、本実施形態に係る溶接法について、詳述した。なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。本実施形態に係る溶接方法は、初層溶接工程S1と後溶接工程S2において、溶接トーチをウィービングしなくてもよい。ここで、ウィービングとは、溶接棒を溶接方向に対して直角方向に交互に動かしながら溶接することをいう。本実施形態に係る溶接方法において、開先が熱風炉鉄皮の突き合わせ溶接部に設けられていてもよい。本開示の溶接方法に用いる開先構造は、X形又はK形の開先であり、かつ、開先のルートフェイスは、0.9mm以上1.1mm以下であり、開先のルートギャップは、2.8mm以上6.5mm以下であってもよい。初層溶接工程及び前記後溶接工程は、手作業により行ってもよい。
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した実施形態を適宜組み合わせてもよい。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(溶接条件)
試験体には、鋼種としてSM490A(溶接構造用圧延鋼材)を用いた。試験体の板厚22mmとし、試験体の長さ300mmとした。溶接ワイヤとして、JIS TS309L-FB1 (ワイヤ径1.2mmΦ)を用いた。100%COガスをシールドガスとして用い、ガス流量は20L/minとした。また、ウィービングなどの溶接トーチの特殊操作はせず、手溶接にて溶接を実施した。
立向溶接試験体の開先形状は、X形とした。立向溶接試験体において、ルートフェイス0.9~1.1mmとした。また、ベベル角度は、30度とした。開先角度は60°とした。)とし、ルートギャップを2.0mm以上7.0mm以下とした。また、目違いを5.5m以下とした。
横向溶接試験体の開先形状は、K形とした。横向溶接試験体において、ルートフェイス0.9~1.1mmとした。また、横向溶接試験体において、表側の開先角度45°とし、裏側開先角度50°とした。そして、ルートギャップを4.5mm以上7mm以下とした。
他の条件は、表1~4の通りとした。表3、4の電流の欄は、初層溶接時の平均溶接電流(単位:A)を示す。また、表3、4の電圧の欄は、初層溶接時の平均電圧(単位:V)を示す。表3、4の溶接速度の欄は、初層溶接時の平均溶接速度(単位:cm/min)を示す。表3,4の入熱量は、平均溶接電流(A)×平均電圧(V)×60/平均溶接速度(cm/min)から求めた初層溶接時の入熱量(J/cm)を示す。なお、表中のパスという単語は、溶接継手に沿って行う1回の溶接操作をいう。裏側溶接を行った実験例では、表側溶接を行った後、スラグを除去するために、グラインダー処理を行った。実施例10の初層から溶接完了までの溶接条件を表5に示す。実施例35の初層溶接から溶接完了までの溶接条件を表6に示す。なお、表5および表6の層の欄の記載は表側または裏側の何層目かを示す。例えば、表1なら表側の1層目を指し、裏2は、裏側の2層目を指す。層という単語は一つ又は二つ以上のパスから成る溶接金属の層をいう。パスという単語は、溶接継手に沿って行う1回の溶接操作をいう。表5、6の電流の欄は、溶接時の平均溶接電流(単位:A)を示す。また、表5、6の電圧の欄は、溶接時の平均電圧(単位:V)を示す。表5、6の溶接速度の欄は、溶接時の平均溶接速度(単位:cm/min)を示す。表5,6の入熱量は、溶接時の入熱量(J/cm)を示す。
(溶接評価方法)
溶接結果は、溶接欠陥が無い場合を良好とし、溶接欠陥が1個以上ある場合は、欠陥有り、溶け込みができていない場合を溶け込み不良とした。
Figure 2023082439000002
Figure 2023082439000003
Figure 2023082439000004
Figure 2023082439000005
Figure 2023082439000006
Figure 2023082439000007
本発明の平均溶接電流、ルートギャップ、および電圧を満足する実験例3~12、14~19、31、32、34、および35は、溶接結果が良好であった。図7に初層溶接後の実験例12の断面観察写真を示す。また、図8に全層溶接終了後の実験例10の断面観察写真を示す。図7および図8に示すように、X形開先を用い、本開示の溶接方法を用いた実験例10および12は、エアアークガウジングをせずに、溶け落ちなどが無い良好な溶接結果を得ることができた。同様に図9に初層溶接後の実験例31の断面観察写真を示す。また、図10に全層溶接終了後の実験例32の断面観察写真を示す。図9および図10に示すように、K形開先においても、エアアークガウジングをせずに、溶け落ちなどが無い良好な溶接結果を得ることができることが分かった。一方、平均溶接電流、ルートギャップ、および電圧の条件を外れる実験例1、2,13、20~30、および33は、溶接結果が劣位であった。
立向上進溶接で初層溶接した際の電流制御の一例(実験例14~19の溶接条件に該当)を示す。図11は、立向上進溶接における電流および電圧の時間変化を示す図である。図11の横軸は時間を示し、第1縦軸は溶接電流(A)を示し、第2縦軸は、電圧を示す。次に、図12に横向溶接で初層溶接した際の電流制御の一例(実験例31~35の溶接条件に該当)を示す。図12は、横向溶接における初層溶接時の電流および電圧の時間変化を示す図である。図12の横軸は時間を示し、第1縦軸は溶接電流(A)を示し、第2縦軸は、電圧を示す。図11の事例では、平均電流は108A、平均ピーク電流は、110A,平均ベース電流は105Aであった。また、ベース電流からピーク電流になるまでの平均時間は、4.7μsであった。図12の事例では、平均電流は126A、平均ピーク電流は、129A,平均ベース電流は123Aであった。また、ベース電流からピーク電流になるまでの平均時間は、4.9μsであった。表1~6、図11および12に示すように、短時間に電流を制御することで、初層溶接時に引く入熱量でも溶接不良を低減できることが分かった。また、本開示の溶接方法は、電流を設備の方で制御する方式であるので、熟練溶接工の技量が不要である。
本実験例は、炭素鋼材にステンレス溶接ワイヤで溶接した異材継手の例である。一般的に炭素鋼材にステンレス溶接ワイヤで溶接する異種継手の方が、炭素鋼材に炭素鋼溶接ワイヤで溶接する同種の溶接継手よりも難しい。そのため、炭素鋼材に炭素鋼溶接ワイヤで溶接を行う組み合わせでも本開示の溶接方法を適用することができると推定される。
本開示の溶接方法は、手溶接が可能であり、熟練溶接工の技量が不要であり、かつ、エアアークガウジングする必要が無いので、産業上の利用可能性が高い。
11 鋼材、12 鋼材、21 初層、 22,23 層
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1> 本発明の一態様に係る溶接方法は、鋼材の開先をアーク溶接で溶接ワイヤを用い、エアアークガウジングすることなく、完全溶け込み溶接する溶接方法であって、105A以上150A以下の平均溶接電流で、前記開先を初層溶接する初層溶接工程と、前記初層溶接工程の後に前記開先を溶接する後溶接工程と、を備え、前記初層溶接工程にて、前記溶接方法が立向上進溶接である場合は、前記開先のルートギャップが2.5mm超であり、前記溶接方法が横向溶接である場合は、前記開先のルートギャップが2.8mm超であり、且つ、平均電圧が20.0V超であり、前記開先のルートフェイスは、0.8mm以上1.1mm以下である
<2> 上記<1>に記載の溶接方法は、前記開先がX形またはK形であってもよい。
<3> 上記<1>または<2>に記載の溶接方法は、前記初層溶接工程では、溶接ワイヤの先端が短絡した時に溶接電流を下げ、下げた後に前記溶接電流を上げ、前記先端の溶滴が前記開先に形成される溶融池に移行した時に前記溶接電流を下げてもよい。
> 上記<1>乃至<>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記平均溶接電流は、105A以上130A未満であってもよい。
> 上記<>に記載の溶接方法は、前記溶接方法は、立向上進溶接であり、前記開先は、X形であり、前記開先のベベル角は、25度以上35度以下であり、前記開先のルートギャップは、2.8mm以上6.5mm以下であり、前記開先の目違いは、0mm以上5.5mm以下であり、前記初層溶接工程にて、前記平均溶接電流は、105A以上140A以下であり、平均電圧は、16.0V以上18.0V以下であり、平均溶接速度は、7.5cm/min以上12.5cm/min以下であってもよい。
> 上記<>に記載の溶接方法は、前記ルートギャップは、4.5mm以上6.5mm以下であってもよい。
> 上記<>に記載の溶接方法は、前記ルートギャップは、4.5mm以上5.0mm以下であってもよい。
> 上記<>乃至<>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記後溶接工程にて、平均溶接電流は、120A以上140A以下であり、前記平均電圧は、19.0V以上23.0V以下であり、前記平均溶接速度は、9.0cm/min以上13.0cm/min以下であってもよい。
> 上記<>に記載の溶接方法は、前記溶接方法は、横向溶接であり、前記開先は、K形であり、前記初層溶接される側の前記開先の角度は、40度以上50度以下であり、前記開先のルートギャップは、4.5mm以上6.3mm以下であり、前記初層溶接工程にて、前記溶接電流は、130A以上150A以下であり、平均電圧は、20.0V超23.5V以下であり、平均溶接速度は、12.0cm/min以上17.0cm/min以下であってもよい。
10> 上記<>に記載の溶接方法は、前記初層溶接される側とは反対側の前記開先の角度は、45度以上55度以下であってもよい。
11> 上記<>又は<10>に記載の溶接方法は、前記後溶接工程にて、平均溶接電流は、160A以上190A以下であり、平均電圧は、24.0V以上26.0V以下であり、平均溶接速度は、20.0cm/min以上48.0cm/min以下であってもよい。
12> 上記<1>乃至<11>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記開先のルートフェイスは、0.9mm以上1.0mm未満であってもよい。
13> 上記<1>乃至<12>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記溶接ワイヤは、フラックスコアードワイヤであってもよい。
14> 上記<13>に記載の溶接方法は、前記溶接ワイヤは、炭素鋼ワイヤ、又は、ステンレスワイヤであってもよい。
15> 上記<1>乃至<14>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記鋼材は、炭素鋼であってもよい。
16> 上記<1>乃至<15>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記初層溶接工程及び前記後溶接工程にて、溶接トーチをウィービングしなくてもよい。
17> 上記<1>乃至<16>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記初層溶接工程及び前記後溶接工程は、手作業により行われてもよい。
18> 本発明の一態様に係る開先構造は、上記<1>に記載の溶接方法に用いられる鋼材の開先構造であって、前記鋼材の開先構造はX形又はK形であり、前記開先のルートフェイスは、0.9mm以上1.1mm以下であり、前記開先のルートギャップは、2.8mm以上6.5mm以下である。
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
<1> 本発明の一態様に係る溶接方法は、鋼材の開先をアーク溶接で溶接ワイヤを用い、エアアークガウジングすることなく、完全溶け込み溶接する溶接方法であって、105A以上150A以下の平均溶接電流で、前記開先を初層溶接する初層溶接工程と、前記初層溶接工程の後に前記開先を溶接する後溶接工程と、を備え、前記初層溶接工程にて、前記溶接方法が立向上進溶接である場合は、前記開先のルートギャップが2.5mm超であり、前記溶接方法が横向溶接である場合は、前記開先のルートギャップが2.8mm超であり、且つ、平均電圧が20.0V超であり、前記開先のルートフェイスは、0.8mm以上1.1mm以下である。
<2> 上記<1>に記載の溶接方法は、前記開先がX形またはK形であってもよい。
<3> 上記<1>または<2>に記載の溶接方法は、前記初層溶接工程では、溶接ワイヤの先端が短絡した時に溶接電流を下げ、下げた後に前記溶接電流を上げ、前記先端の溶滴が前記開先に形成される溶融池に移行した時に前記溶接電流を下げてもよい。
<4> 上記<1>乃至<3>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記平均溶接電流は、105A以上130A未満であってもよい。
<5> 上記<3>に記載の溶接方法は、前記溶接方法は、立向上進溶接であり、前記開先は、X形であり、前記開先のベベル角は、25度以上35度以下であり、前記開先のルートギャップは、2.8mm以上6.5mm以下であり、前記開先の目違いは、0mm以上5.5mm以下であり、前記初層溶接工程にて、前記平均溶接電流は、105A以上140A以下であり、平均電圧は、16.0V以上18.0V以下であり、平均溶接速度は、7.5cm/min以上12.5cm/min以下であってもよい。
<6> 上記<5>に記載の溶接方法は、前記ルートギャップは、4.5mm以上6.5mm以下であってもよい。
<7> 上記<6>に記載の溶接方法は、前記ルートギャップは、4.5mm以上5.0mm以下であってもよい。
<8> 上記<5>乃至<7>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記後溶接工程にて、平均溶接電流は、120A以上140A以下であり、均電圧は、19.0V以上23.0V以下であり、均溶接速度は、9.0cm/min以上13.0cm/min以下であってもよい。
<9> 上記<3>に記載の溶接方法は、前記溶接方法は、横向溶接であり、前記開先は、K形であり、前記初層溶接される側の前記開先の角度は、40度以上50度以下であり、前記開先のルートギャップは、4.5mm以上6.3mm以下であり、前記初層溶接工程にて、前記平均溶接電流は、130A以上150A以下であり、前記平均電圧は、20.0V超23.5V以下であり、平均溶接速度は、12.0cm/min以上17.0cm/min以下であってもよい。
<10> 上記<9>に記載の溶接方法は、前記初層溶接される側とは反対側の前記開先の角度は、45度以上55度以下であってもよい。
<11> 上記<9>又は<10>に記載の溶接方法は、前記後溶接工程にて、平均溶接電流は、160A以上190A以下であり、平均電圧は、24.0V以上26.0V以下であり、平均溶接速度は、20.0cm/min以上48.0cm/min以下であってもよい。
<12> 上記<1>乃至<11>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記開先のルートフェイスは、0.9mm以上1.0mm未満であってもよい。
<13> 上記<1>乃至<12>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記溶接ワイヤは、フラックスコアードワイヤであってもよい。
<14> 上記<13>に記載の溶接方法は、前記溶接ワイヤは、炭素鋼ワイヤ、又は、ステンレスワイヤであってもよい。
<15> 上記<1>乃至<14>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記鋼材は、炭素鋼であってもよい。
<16> 上記<1>乃至<15>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記初層溶接工程及び前記後溶接工程にて、溶接トーチをウィービングしなくてもよい。
<17> 上記<1>乃至<16>のいずれか1つに記載の溶接方法は、前記初層溶接工程及び前記後溶接工程は、手作業により行われてもよい

Claims (19)

  1. 鋼材の開先をアーク溶接で溶接ワイヤを用い、エアアークガウジングすることなく、完全溶け込み溶接する溶接方法であって、
    105A以上150A以下の平均溶接電流で、前記開先を初層溶接する初層溶接工程と、
    前記初層溶接工程の後に前記開先を溶接する後溶接工程と、
    を備え、
    前記初層溶接工程にて、前記溶接方法が立向上進溶接である場合は、前記開先のルートギャップが2.5mm超であり、前記溶接方法が横向溶接である場合は、前記開先のルートギャップが2.8mm超であり、且つ、平均電圧が20.0V超であることを特徴とする溶接方法。
  2. 前記開先がX形またはK形である、ことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
  3. 前記開先のルートフェイスは、0.8mm以上1.1mm以下である、
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
  4. 前記初層溶接工程では、溶接ワイヤの先端が短絡した時に溶接電流を下げ、下げた後に前記溶接電流を上げ、前記先端の溶滴が前記開先に形成される溶融池に移行した時に前記溶接電流を下げる、
    ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の溶接方法。
  5. 前記平均溶接電流は、105A以上130A未満である、
    ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の溶接方法。
  6. 前記溶接方法は、立向上進溶接であり、
    前記開先は、X形であり、
    前記開先のベベル角は、25度以上35度以下であり、
    前記開先のルートギャップは、2.8mm以上6.5mm以下であり、
    前記開先の目違いは、0mm以上5.5mm以下であり、
    前記初層溶接工程にて、
    前記平均溶接電流は、105A以上140A以下であり、
    平均電圧は、16.0V以上18.0V以下であり、
    平均溶接速度は、7.5cm/min以上12.5cm/min以下である、
    ことを特徴とする請求項4に記載の溶接方法。
  7. 前記ルートギャップは、4.5mm以上6.5mm以下である。
    ことを特徴とする請求項6に記載の溶接方法。
  8. 前記ルートギャップは、4.5mm以上5.0mm以下である、
    ことを特徴とする請求項7に記載の溶接方法。
  9. 前記後溶接工程にて、
    平均溶接電流は、120A以上140A以下であり、
    前記平均電圧は、19.0V以上23.0V以下であり、
    前記平均溶接速度は、9.0cm/min以上13.0cm/min以下である、
    ことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の溶接方法。
  10. 前記溶接方法は、横向溶接であり、
    前記開先は、K形であり、
    前記初層溶接される側の前記開先の角度は、40度以上50度以下であり、
    前記開先のルートギャップは、4.5mm以上6.3mm以下であり、
    前記初層溶接工程にて、
    前記溶接電流は、130A以上150A以下であり、
    平均電圧は、20.0V超23.5V以下であり、
    平均溶接速度は、12.0cm/min以上17.0cm/min以下である、
    ことを特徴とする請求項4に記載の溶接方法。
  11. 前記初層溶接される側とは反対側の前記開先の角度は、45度以上55度以下である、請求項10に記載の溶接方法。
  12. 前記後溶接工程にて、
    平均溶接電流は、160A以上190A以下であり、
    平均電圧は、24.0V以上26.0V以下であり、
    平均溶接速度は、20.0cm/min以上48.0cm/min以下である、
    ことを特徴とする請求項10又は11に記載の溶接方法。
  13. 前記開先のルートフェイスは、0.9mm以上1.0mm未満である、
    ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の溶接方法。
  14. 前記溶接ワイヤは、フラックスコアードワイヤである、
    ことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の溶接方法。
  15. 前記溶接ワイヤは、炭素鋼ワイヤ、又は、ステンレスワイヤである
    ことを特徴とする請求項14に記載の溶接方法。
  16. 前記鋼材は、炭素鋼である、
    ことを特徴とする請求項1乃至15のいずれか1項に記載の溶接方法。
  17. 前記初層溶接工程及び前記後溶接工程にて、溶接トーチをウィービングしない、
    ことを特徴とする請求項1乃至16のいずれか1項に記載の溶接方法。
  18. 前記初層溶接工程及び前記後溶接工程は、手作業により行われる、
    ことを特徴とする請求項1乃至17のいずれか1項に記載の溶接方法。
  19. 請求項1に記載の溶接方法に用いられる鋼材の開先構造であって、
    前記鋼材の開先構造はX形又はK形であり、
    前記開先のルートフェイスは、0.9mm以上1.1mm以下であり、
    前記開先のルートギャップは、2.8mm以上6.5mm以下である、
    ことを特徴とする開先構造。
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