以下、添付図面を参照しつつ、本発明の標本搬送装置、標本画像システム及び標本分析システムの実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
〔標本分析システム〕
本発明の一実施形態に係る標本搬送装置を含む標本分析システムANは、図1に示されるように、塗抹標本作製装置10と、標本搬送装置100と、標本画像撮像装置200とを備えている。塗抹標本作製装置10で作製され、標本搬送装置100に供給された塗抹標本スライドは、標本搬送装置100により標本画像撮像装置200に供給される。塗抹標本作製装置10、標本搬送装置100及び標本画像撮像装置200により、血液等の検体が塗抹された塗抹標本スライドの作製から検体の撮像までの一連の動作を自動的に行うことができる。なお、本明細書では、塗抹標本作製装置10及び標本搬送装置100により塗抹標本システムSが構成される。また、標本搬送装置100及び標本画像撮像装置200により構成されるシステムないし装置を標本画像撮像システムIと称する。この標本画像撮像システムIは、後述する実施形態では、それぞれが独立した標本搬送装置100及び標本画像撮像装置200で構成されているが、標本搬送装置100及び標本画像撮像装置200を一体化した装置として構成することも可能である。例えば、共通のケーシング内に各装置の要部を収納することもできる。塗抹標本作製装置10と標本画像撮像システムIとで標本分析システムが構成される。
なお、本明細書においては、図1に示すX方向を左右方向、Y方向を前後方向、Z方向を上下方向として説明する。また、図1においては下側を前側とし、上側を後側としており、塗抹標本作製装置10が標本搬送装置100の右側部に配置され、標本画像撮像装置200の前側に標本搬送装置100が配置されている。標本搬送装置100は、その一部が標本画像撮像装置200の前側にオーバーラップして配置されている。また、本明細書においては、左右方向と言う意味で「横」と記載することがあり、前後方向という意味で「縦」と記載することがある。
〔塗抹標本作製装置〕
本実施形態に係る塗抹標本作製装置10は、被験者の検体である血液をスライドガラス上に塗抹し、乾燥及び染色等の処理を施すことにより塗抹標本スライド11を作製する装置である。塗抹標本スライド11は、図2に示されるように、長方形状のガラス製の板材からなり、その中央部11aに検体が塗抹される。塗抹標本スライド11の長手方向の一端部である上部には、後述する識別情報の印字領域であるフロスト部12が設けられている(図2の(a)参照)。フロスト部12は、合成樹脂等をコーティングすることにより、印字可能な処理が施された領域である。本明細書では、塗抹標本作製装置10における検体の塗抹処理が完了したものだけでなく、塗抹処理を行うために塗抹標本作製装置10に供給される、フロスト部12が設けられたスライドガラスも塗抹標本スライド11と称する。
フロスト部12に印字ないし印刷される識別情報には、図2の(b)に示されるように、検体識別情報mと、撮像要否識別情報nとが含まれる。検体識別情報mは、検体番号、日付、受付番号、被験者の氏名等の検体を識別するための情報であり、バーコード、文字、記号等の形態でフロスト部12に印字される。撮像要否識別情報nは、標本画像撮像装置200の撮像対象となる検体であるか否かを識別するための情報である。標本画像撮像装置200の撮像対象となる検体であるか、又は、顕微鏡による目視の検査対象となる検体であるかは、検査を受け付けるときに予めホストコンピュータに入力することができる。撮像要否識別情報nは、検体識別情報mとともに、例えば一つのバーコード内に含ませることもできる。一方、検体識別情報mとは別に撮像要否識別情報nをフロスト部12に印字することもできる。後者の場合、撮像要否識別情報nとしては、検体識別情報mで使用されていない文字や記号等を用いることが望ましい。撮像要否識別情報nの例としては、例えば、アルファベットのA、B、C等の種々の文字や、▲、●、■、◆等の種々の記号をあげることができるが、これらに限定されるものではない。検体識別情報mにアルファベットが使われている場合でも区別がつくよう、アルファベットの文字を2つ重ねたり、結合させたりした記号を撮像要否識別情報nとして用いてもよい。なお、検体識別情報mは、通常は検体を識別するための情報であるが、この検体識別情報mに基づいて当該検体の撮像が必要であるか否かを外部のホストコンピュータに問い合わせ、ホストコンピュータから得た結果に基づいて塗抹標本スライド11が撮像対象であるか否かを判断することも可能である。したがって、この検体識別情報mも、本発明における「標本画像撮像装置による撮像の要否に関する識別情報」に含まれる。
塗抹標本作製装置10は、図1又は図3に示されるように、染色槽20と、移送部30と、洗浄槽40と、乾燥槽50と、送風ユニット60と、スライド供給部82と、印刷部83と、塗抹部84と、乾燥部85と、スライド保管部86とを備えている。染色槽20、洗浄槽40、乾燥槽50及び送風ユニット60が、塗抹標本作製装置10における染色部81を構成している。本実施形態では、塗抹部84、染色部81及び乾燥部85により、検体をスライドに塗抹して塗抹標本スライド11を作製する。塗抹標本作製装置10は、さらに、染色槽20及び洗浄槽40に対してそれぞれ染色液13及び洗浄液14を供給し、また排出するための流体回路部70と、移送部30及び送風ユニット60等の動作の制御を行うための制御部80とを備えている。制御部80は、図示しないCPUやメモリ等を備えたコンピュータである。
スライド供給部82は、検体を塗抹する前の未使用の塗抹標本スライド11を多数収納している。スライド供給部82は、塗抹前の塗抹標本スライド11を一枚ずつ印刷部83に供給する。印刷部83は、塗抹標本スライド11の印字領域であるフロスト部12に、検体識別情報や撮像要否識別情報等の各種情報を印字することができる。印刷部83は、印字した塗抹標本スライド11を塗抹部84に移送する。
塗抹部84は、図示しない検体吸引機構により検体を吸引して、印刷部83から送られてきた塗抹標本スライド11の中央部11aに検体を塗抹する。塗抹部84は、塗抹処理後の塗抹標本スライド11を乾燥部85に移送する。
乾燥部85は、検体が塗抹された塗抹標本スライド11を塗抹部84から受け取り、検体が塗抹された中央部11aを乾燥させる機能を有する。
染色部81では、乾燥部85で乾燥された検体塗抹済みの塗抹標本スライド11に対して、各染色槽20a,20b,20c,20d,20e及び各洗浄槽40a,40bでそれぞれ染色処理及び洗浄処理が行われる。その後、乾燥槽50で乾燥処理が行われる。塗抹標本スライド11の染色が完了すると、染色済みの塗抹標本スライド11はスライド保管部86に送られる。これらの各部間の塗抹標本スライド11の移送は、移送部30により行われる。
染色槽20は容器形状に形成されており、検体が塗抹された塗抹標本スライド11を浸すことができるように、その内部に染色液が溜められる。また、洗浄槽40も容器形状に形成されており、染色された塗抹標本スライド11を浸すことができるように、その内部に洗浄液が溜められる。本実施形態に係る塗抹標本作製装置10では、3つの染色槽20a,20b,20c、洗浄槽40a、2つの染色槽20d,20e、及び洗浄槽40bがY軸方向に沿って順に配置されており、これらの槽は一つの槽として合成樹脂で一体形成されている。なお、染色槽20及び洗浄槽40の数は、染色処理の内容や工程数等に応じて適宜選定すればよく、本発明において特に限定されない。
染色槽20及び洗浄槽40内には、それぞれ仕切り部21、41が設けられている。塗抹標本スライド11は、隣接する仕切り部21の間、又は、隣接する仕切り部41の間に挿入され、これら仕切り部21、41により保持又は位置決めされる。
移送部30は、検体が塗抹された塗抹標本スライド11を把持して移送するために設けられている。移送部30は、染色槽20内又は洗浄槽40内に塗抹標本スライド11を1枚ずつ出し入れできるように構成されている。このように塗抹標本スライド11を1枚ずつ出し入れするための移送部30の構成としては、種々の構成を採用することができる。本実施形態では、図3に示されるように、水平方向(X方向及びY方向)及び上下方向(Z方向)に移動可能であり、塗抹標本スライド11を把持するためのハンド部31を含む3軸直交ロボットを採用している。ハンド部31としては、例えば、塗抹標本スライド11を挟んで掴むことができる開閉機構や、塗抹標本スライド11の所定部位を負圧により吸着して掴む吸引機構を用いることができる。
移送部30は第1移送部30a及び第2移送部30bを備えている。第1移送部30a及び第2移送部30bは、いずれも染色槽20及び洗浄槽40の上方(Z1方向)に配置される。第1移送部30a及び第2移送部30bは、移動機構32によって互いに独立して水平方向(X方向及びY方向)に移動することができる。
移動機構32は、Y方向のY軸レール33a及びY軸スライダ33bと、X方向のX軸レール34a及びX軸スライダ34bと、Y軸モータ33c及びX軸モータ34cとを含んでいる。Y軸モータ33c及びX軸モータ34cとしては、例えばステッピングモータやサーボモータを採用することができる。
Y軸スライダ33bは、Y軸レール33aの下面側(Z2方向)に取り付けられ、Y軸レール33aに沿って移動可能である。Y軸モータ33cは、図示しない伝達機構を介してY軸スライダ33bをY方向に移動させる。伝達機構としては、例えばベルト‐プーリ機構や、ラック‐ピニオン機構等を用いることができる。
X軸レール34aは、Y軸スライダ33bの下面に固定されている。X軸スライダ34bは、X軸レール34aの下面側(Z2方向)に取り付けられ、X軸レール34aに沿って移動可能である。X軸モータ34cは、図示しない伝達機構を介してX軸スライダ34bをX方向に移動させる。
Y軸スライダ33b、X軸レール34a、X軸スライダ34b、X軸モータ34c及びY軸モータ33cは、それぞれ一対設けられている。一対のX軸スライダ34bの下面側に、それぞれ第1移送部30a及び第2移送部30bが取り付けられている。第1移送部30a及び第2移送部30bは、個別のX軸レール34aに沿って互いに独立してX方向に移動可能である。また、第1移送部30a及び第2移送部30bは、共通のY軸レール33aに沿って互いに独立してY方向に移動可能である。
第1移送部30a及び第2移送部30bの構成は共通している。第1移送部30a及び第2移送部30bは、それぞれハンド部31を昇降させるためのZ軸モータ35aと、伝達機構35bとを備えている。Z軸モータ35aは、伝達機構35bを介してハンド部31を昇降させることができる。
ハンド部31は、一対の把持板31aを備えている。ハンド部31は、一対の把持板31aによって、一枚の塗抹標本スライド11を厚さ方向に挟んで把持することができる。一対の把持板31aは、塗抹標本スライド11の表面側と裏面側とにそれぞれ接触して塗抹標本スライド11を把持する。一対の把持板31aのうち、裏面側の把持板31aが塗抹標本スライド11を厚さ方向に移動可能である。把持板31aの移動は、例えばエアシリンダ、モータ、ソレノイド等のアクチュエータを用いて行うことができる。
乾燥槽50は、染色槽20及び洗浄槽40の配列方向であるY方向に沿って染色槽20及び洗浄槽40と略一列となるように配置されている。乾燥槽50は、染色処理及び洗浄処理が施された塗抹標本スライド11を乾燥させるために設けられている。乾燥槽50は、仕切り部51により複数に仕切られており、隣接する仕切り部51間に塗抹標本スライド11を保持させることができる。乾燥槽50の内部には、空気通路(図示せず)が形成されており、この空気通路に送風ユニット60が接続されている。
送風ユニット60は、乾燥槽50内に保持された塗抹標本スライド11に温風を供給するために設けられている。空気を温めるためのヒータ61が、送風ユニット60と乾燥槽50との間に設けられている。
染色、洗浄及び乾燥処理が終了した塗抹標本スライド11は、移送部30によりスライド保管部86に移送される。スライド保管部86は、標本収容具であるスライドマガジン90を搬送するマガジン搬送部91を備えている。スライドマガジン90は、染色済みの塗抹標本スライド11を複数保持することができる。スライドマガジン90は、図4に示されるように、上面が開口した箱型形状を呈しており、内部に仕切り部90aが設けられている。仕切り部90aは、対向する長手方向の壁90bの内面に形成されている。一方の壁90bの内面に形成された仕切り部90aと、対向する他方の壁90bの内面に形成された仕切り部90aとは対向する位置に形成されている。本実施形態におけるスライドマガジン90には、10枚の塗抹標本スライド11を収容することができる。
スライドマガジン90のベース部90cには、後述する標本搬送装置100のガイドレール145と係合する三角形状の切欠き90dが形成されている。この切欠き90dは、図5に示されるように、スライドマガジン90の長手方向の壁90bを正面にしてスライドマガジン90を見たときに三角形状を呈する切欠きであり、ベース部90cの短辺の長さ方向全体に亘って形成されている。
マガジン搬送部91は、複数の空の状態のスライドマガジン90を貯留することができるマガジン搬入路92、複数の塗抹標本スライド11が収納されたスライドマガジン90を貯留することができるマガジン搬出路93、及びマガジン搬入路92からマガジン搬出路93に渡る横送り機構94を含んでいる。マガジン搬送部91では、ユーザが空のスライドマガジン90をマガジン搬入路92の投入部Dにセットすると、スライドマガジン90が標本収納位置95の方向へ自動的に搬送される。
乾燥槽50による乾燥処理が終了した塗抹標本スライド11を移送部30が掴み上げ、標本収納位置95に配置されたスライドマガジン90の空いた収納部分に塗抹標本スライド11が収納される。収納部分が満杯になったスライドマガジン90は、横送り機構94によってマガジン搬入路92からマガジン搬出路93へと横移送される。マガジン搬出路93に横移送されたスライドマガジン90は、手前側に自動的に搬送される。最も手前側に搬送されたスライドマガジン90は、横送り部130によって標本搬送装置100の第2供給領域であるマガジンバッファ領域131に移送される。
〔標本搬送装置〕
標本搬送装置100は、複数の塗抹標本スライド11を収容した、標本収容具であるスライドマガジン90を搬送するための標本収容具搬送部140と、標本収容具搬送部140により搬送されたスライドマガジン90に収容された塗抹標本スライド11を取り出し、取り出した塗抹標本スライド11を、後述する搬送ケース152にいれて標本画像撮像装置に供給するための標本移送部170とを備えている。
本実施形態における標本収容具搬送部140は、前後2列の搬送部、すなわち標本搬送装置100の後側の第1搬送部141と、第1搬送部141の前側の第2搬送部142とを有している。第1搬送部141及び第2搬送部142は、いずれもベルト143と、当該ベルト143を駆動させる駆動部144とを備えたベルトコンベヤを含んでおり、スライドマガジン90をX2方向に搬送する(図1及び9参照)。
第1搬送部141及び第2搬送部142は、図1に示されるように、スライドマガジン90の状態により、4つの領域に区分けすることができる。すなわち、第1搬送部141及び第2搬送部142は、第1供給領域であるマガジンバッファ領域131、第2供給領域であるマガジンセット領域132、第1収納領域である第1マガジン収納領域133、及び第2収納領域である第2マガジン収納領域134に区分けすることができる。これら4つの領域のうち、マガジンセット領域132及び第2マガジン収納領域134が第2搬送部142に属する。また、マガジンバッファ領域131及び第1マガジン収納領域133が第1搬送部141に属する。第1マガジン収納領域133及び第2マガジン収納領域134は、標本収容具であるスライドマガジン90を貯留するための貯留部を構成している。
塗抹標本作製装置10による塗抹処理が完了した塗抹標本スライド11を収納した、第1標本収容具としてのスライドマガジン90は、横送り部130によってマガジンバッファ領域131に移送される。第1マガジン収納領域133は、標本画像撮像装置200による撮像対象となる塗抹標本スライド11がピックアップされ、顕微鏡による目視の検査対象となる塗抹標本スライド11だけを収納した、第1標本収容具としてのスライドマガジン90が貯留される領域である。マガジンセット領域132は、ユーザによりセットされる空の状態のスライドマガジン90が配置される領域である。第2マガジン収納領域134は、標本画像撮像装置200による撮像が終了した塗抹標本スライド11を収納したスライドマガジン90が貯留される領域である。なお、本実施形態では、ユーザによりアクセス可能であり、当該ユーザにより作製された塗抹標本スライド11を収容したスライドマガジン90がセットされる割込み標本収容具セット領域135が、前記マガジンバッファ領域131の左側部分に位置している。すなわち、標本収容具が搬送される搬送経路であって、塗抹標本作製装置10から標本収容具を受け取る位置であるマガジンバッファ領域131から、後述する識別情報取得部により識別情報が取得される位置までの間に割込み標本収容具セット領域135が位置している。
第2搬送部142は、ユーザによりマガジンセット領域132にセットされた、第2標本収容具としての空のスライドマガジン90を標本収納位置Aまで搬送する。この標本収納位置Aで標本画像撮像装置200による撮像が終了した塗抹標本スライド11が、第2標本収容具としてのスライドマガジン90内に順次収容される。標本収納位置Aのスライドマガジン90が一杯になると、第2搬送部142は、塗抹標本スライド11で一杯になったスライドマガジン90を標本収納位置Aから第2マガジン収納領域134に搬送する。その後、マガジンセット領域132の左端にある空の状態のスライドマガジン90が第2搬送部142により標本収納位置Aに搬送される。
一方、第1搬送部141は、塗抹標本作製装置10から受け取り、マガジンバッファ領域131に配置されている、第1標本収容具としてのスライドマガジン90を標本ピックアップ位置Pまで搬送する。この標本ピックアップ位置Pで、後述するように、塗抹標本スライド11が標本移送部170のハンドリング部120により順にピックアップされる。ピックアップされた塗抹標本スライド11は、標本画像撮像装置200による撮像対象となる塗抹標本スライド11と、標本画像撮像装置200による撮像対象とならない塗抹標本スライド11とに選別される。塗抹標本スライド11の選別が終了したスライドマガジン90は、標本ピックアップ位置Pから第1マガジン収納領域133に搬送される。第1マガジン収納領域133に位置するスライドマガジン90には、標本画像撮像装置200による撮像対象とならない塗抹標本スライド11だけが収納されている。この塗抹標本スライド11は、顕微鏡による目視の検査対象とされる。
本実施形態では、複数の塗抹標本スライド11を収容したスライドマガジン90が塗抹標本作製装置10から標本ピックアップ位置Pに搬送される。塗抹標本スライド11には、標本画像撮像装置200による撮像対象となるものと、撮像対象とならないものとがある。したがって、標本ピックアップ位置Pに搬送されるスライドマガジン90には、通常、2種類の塗抹標本スライド11が混入している。しかし、混入している場合であっても、本実施形態では、標本画像撮像装置200による撮像が終了した塗抹標本スライド11と、標本画像撮像装置200による撮像とはならなかった塗抹標本スライド11とは、別々のスライドマガジン90、すなわち第1標本収容具としてのスライドマガジン90と第2標本収容具としてのスライドマガジン90に収容され、別々の領域に貯留される。標本画像撮像装置200による撮像時には解像度を向上させるために、塗抹標本スライド11に塗抹された血液等の検体にイマージョンオイルが塗布されることがある。撮像が終了した塗抹標本スライド11は、撮像前の塗抹標本スライド11が収容されたスライドマガジン90とは別のスライドマガジン90に収容されるため、撮像前の塗抹標本スライド11がイマージョンオイルによって汚されることを抑制することができる。そのため、撮像対象とならなかった塗抹標本スライド11の目視観察を行う場合に、ユーザは、オイルで汚れていない塗抹標本スライド11が収容されたスライドマガジン90を第1マガジン収納領域133から取り出して目視観察を実施でき、塗抹標本スライド11の取り扱いを向上させることができる。
第2マガジン収納領域134に位置するスライドマガジン90内には標本画像撮像装置200による撮像が終了した塗抹標本スライド11が収納されている。上述したように撮像時には塗抹標本スライド11にイマージョンオイルが塗布されることがあるため、塗抹標本スライド11に塗布されたオイルがスライドマガジン90に付着することがある。このため、前側の列で使用するスライドマガジン90と、後側の列で使用するスライドマガジン90とを区分けすることが望ましい。前側の列にオイルで汚れる可能性があるスライドマガジン90を使用し、後側の列にオイルで汚れる可能性がないスライドマガジン90を使用することが望ましい。この場合、マガジンセット領域132には、撮像が終了した塗抹標本スライド11が収納され第2マガジン収納領域134に配置されているスライドマガジン90であって、その後当該塗抹標本スライド11の処理が終了して空になったスライドマガジン90がセットされる。一方、第1マガジン収納領域133に位置し、顕微鏡による目視の検査のために収納されていた塗抹標本スライド11が取り出された後の空のスライドマガジン90が塗抹標本作製装置10のマガジン搬入路92の投入部Dにセットされる。このようにスライドマガジン90を使い分けることで、当該スライドマガジン90の洗浄を効率よく行うことができる。具体的に、第2マガジン収納領域134に配置されるスライドマガジン90は、オイルで汚れる可能性が高いので洗浄の頻度を多く設定することが望ましい。一方、第1マガジン収納領域133に配置されるスライドマガジン90は、オイルで汚れる可能性がないので洗浄の頻度を少なく設定することができる。前側の列で使用するスライドマガジン90と、後側の列で使用するスライドマガジン90とは、例えば色を変えるなどして容易に区別できるようにすることができる。
本実施形態におけるマガジンバッファ領域131は、前述したように、ユーザによりアクセス可能な領域である割込み標本収容具セット領域135を有している。割込み標本収容具セット領域135は、マガジンバッファ領域131の左側の端部領域、すなわちマガジンバッファ領域131のうち標本ピックアップ位置P側の領域に位置している。割込み標本収容具セット領域135は、通常はスライドマガジン90が存在していない領域である。塗抹標本作製装置10からマガジンバッファ領域131に供給されたスライドマガジン90は、順次左側、すなわち標本ピックアップ位置P側に第1搬送部141により搬送される。
しかし、塗抹標本作製装置10ではなくユーザがマニュアルで作製した塗抹標本スライド11を標本画像撮像装置200で撮像し、検体を分析する場合がある。塗抹標本作製装置10で塗抹標本スライド11を作製するためには一定量の検体が必要であるが、例えば幼児等の被験者では当該一定量の検体を採取することが難しいことがある。このような場合は、塗抹標本スライド11を塗抹標本作製装置10で自動的に作製することができないので、ユーザが被験者から採取した検体を用いてマニュアルで塗抹標本スライド11を作製する。また、標本画像撮像装置200による検体の分析を急ぎたい場合に、ユーザが被験者から採取した検体を用いてマニュアルで塗抹標本スライド11を作製することも考えられる。
割込み標本収容具セット領域135は、このようにマニュアルで作製された塗抹標本スライド11を収容したスライドマガジン90がセットされる領域である。割込み標本収容具セット領域135にセットされたスライドマガジン90は、第1搬送部141により標本ピックアップ位置Pに搬送される。
マニュアルで作製された塗抹標本スライド11を収容したスライドマガジン90がセットできるように、割込み標本収容具セット領域135は、通常は、スライドマガジン90が存在しないように設定されている。
図6は、割込み標本収容具セット領域135が位置する第1搬送部141の部分斜視説明図である。第1搬送部141は、前述したように、ベルト143と、当該ベルト143を駆動させる駆動部144(図9参照)とを備えたベルトコンベヤを含んでいる。ベルト143は、スライドマガジン90の搬送方向(X2方向)に沿って一対設けられている。図6では、分かりやすくするために一方のベルト(後側のベルト)143aだけが図示されている。一対のベルト143の幅方向のほぼ中央には、スライドマガジン90の移動をガイドするガイドレール145が設けられている。ガイドレール145の上方向(Z1方向)の端部である先端部145aは先細形状を呈している。より詳細には、先端部145aの横断面の形状は、前述したスライドマガジン90のベース部90cに形成された三角形状の切欠き90dに対応する三角形状である。スライドマガジン90は、そのベース部90cの切欠き90d内にガイドレール145の先端部145aを収容し当該先端部145aにガイドされながら搬送される。
一対のベルト143の幅方向の内側には、検知部190が設けられている。検知部190は、一対の板状の揺動片191を有している。各揺動片191は一対のベルト143の幅方向の内側に設けられている。各揺動片191は、共通の軸192周りに揺動可能である。各揺動片191の上方向(Z1方向)の端部である先端部191aは、スライドマガジン90の搬送方向X2に向け上昇する傾斜面191bを有している。各揺動片191は、スライドマガジン90と接触していない状態では、図示しないばねによって、先端部191aが上を向くように付勢されている(図6参照)。検知部190は、スライドマガジン90の搬送方向X2を基準として割込み標本収容具セット領域135の直前の位置に設けられている。
一対の板状の揺動片191の中間位置(ベルト143の幅方向の中間位置)には、スライドマガジン90の移動を停止させることができるストッパー193が設けられている。ストッパー193は、図7に示されるように、ガイドレール145の長手方向に沿った一部を切り取った形状を呈する本体部193aと、本体部193aの下端からベルト143の幅方向に延びるベース部193bとを備えている。本体部193aの上方向(Z1方向)の端部である先端部193a1の横断面の形状は、ガイドレール145の先端部145aと同じ先細形状を呈している。通常、ストッパー193はガイドレール145とほぼ同一直線上に位置している。したがって、ストッパー193の本体部193aの先端部193a1は、スライドマガジン90の切欠き90dに収容されるので、当該スライドマガジン90は、ストッパー193に妨げられることなく当該ストッパー193上を通過することができる。ストッパー193の本体部193aには切欠き193cが形成されている。切欠き193cは、本体部193aの長手方向中央よりやや端部寄りの位置に形成されている。切欠き193cはスライドマガジン90のベース部90cの長フレーム90c1を収容可能な大きさに形成されている。
揺動片191は、スライドマガジン90が当該揺動片191を通過する際に、スライドマガジン90のベース部90cの先頭側の長フレーム90c1が揺動片191の傾斜面191bと接触することで、前記ばねによる付勢力に抗して下方に押し下げられる。ベース部90cの先頭側の長フレーム90c1が揺動片191の傾斜面191bを通過すると、当該長フレーム90c1と傾斜面191bとの接触状態が解消されるので、揺動片191はばねの作用により元の位置、すなわち先端部191aが上を向いた状態に復帰する。このとき、先端部191aは、スライドマガジン90のベース部90cの凹所90e内に位置している。また、ベース部90cの後方側(搬送方向(X2方向)を基準として、ベース部90cの後方側)の長フレーム90c1は、ストッパー193の切欠き193c内に位置している。この状態から、スライドマガジン90がさらに標本ピックアップ位置Pに向けて移動すると、ベース部90cの後方側の長フレーム90c1が揺動片191の傾斜面191bと接触することで、当該揺動片191が下方に押し下げられる。そして、スライドマガジン90がさらに標本ピックアップ位置Pに向けて移動してベース部90cの後方側の長フレーム90c1が揺動片191の傾斜面191bを通過すると、長フレーム90c1と傾斜面191bとの接触状態が解消される。その結果、揺動片191はばねの作用により元の位置、すなわち先端部191aが上を向いた状態に復帰する。このように、揺動片191は、1つのスライドマガジン90が当該揺動片191を通過するごとに2度上下に揺動する。揺動片191が、下方に押し下げられた状態にあるのか、又は、その先端部191aが上を向いた状態にあるのかは、例えば光センサやマイクロスイッチなどで検知することができる。
ストッパー193によるスライドマガジン90の停止動作は、例えば以下のようにして行うことができる。かかる停止動作は、標本搬送装置100の制御部110により制御することができる。
(1)制御部110は、一度下方に押し下げられた揺動片191がばねの作用により元の位置、すなわち先端部191aが上を向いた状態(以下、このような状態を「中間状態」という)にあるか否かを判断する。この中間状態では、揺動片191の先端部191aは、スライドマガジン90のベース部90cの凹所90e内に位置している。揺動片191が中間状態にあると判断されると、制御部110は、標本ピックアップ位置P及び割込み標本収容具セット領域135にスライドマガジン90が位置しているか否かを判断する。標本ピックアップ位置Pにも前述した揺動片191を有する検知部190と同様のセンサが設けられている。かかるセンサからの信号により、標本ピックアップ位置Pにおける揺動片191が中間状態にあるか否かを判断することができる。スライドマガジン90に収容されている塗抹標本スライド11の選別が完了するまでは、当該スライドマガジン90は標本ピックアップ位置Pに停止させられる。一方、割込み標本収容具セット領域135には、図8に示されるように、光センサ部194が設けられている。図示しない発光部から放射されて光ビーム195は、受光部194aにより受光される。かかる受光部194aと発光部とで光センサ部194が構成されている。ユーザによりマニュアルで作製した塗抹標本スライド11を収容したスライドマガジン90が割込み標本収容具セット領域135に配置されると、発光部から受光部194aへの光ビーム195が遮断される。これにより、割込み標本収容具セット領域135にスライドマガジン90が存在することを検知することができる。
(2)制御部110は、標本ピックアップ位置P及び割込み標本収容具セット領域135のいずれかにスライドマガジン90が位置していると判断すると、図示しない駆動機構によりストッパー193を一対のベルト143の幅方向、すなわちY方向(図1参照)にスライドさせる。このようにストッパー193をスライドさせると、当該ストッパー193の位置がスライドマガジン90のベース部90cの切欠き90dから幅方向(Y方向)にずれてしまうので、ベルト143が駆動したとしても、ストッパー193の切欠き193cの縁面193c1aがスライドマガジン90の後方側の長フレーム90c1にあたるので、スライドマガジン90の搬送方向への移動は当該ストッパー193により停止される。
マガジンバッファ領域131におけるストッパー193と同様の機構が、標本ピックアップ位置P及び標本収納位置Aにも設けられている。したがって、塗抹標本作製装置10からマガジンバッファ領域131に供給されたスライドマガジン90を標本ピックアップ位置P側に搬送するためにベルト143を駆動させた場合でも、標本ピックアップ位置Pにおけるスライドマガジン90に収容されている塗抹標本スライド11の選別が完了するまでは、当該標本ピックアップ位置Pに位置するスライドマガジン90はストッパーにより停止されたまま、マガジンバッファ領域131に位置するスライドマガジン90だけがベルト143により搬送される。換言すれば、本実施形態では前述したストッパーを採用しているので、必要なスライドマガジン90だけを搬送させることができる。搬送が不要なスライドマガジン90は、ストッパー193により移動を禁止されつつ駆動するベルト143上をスライドすることになる。
標本移送部170は、図9に示されるように、第1搬送部141及び第2搬送部142の上方(Z1方向)に設けられている。標本移送部170は、前述した塗抹標本作製装置10における移送部30と同様に塗抹標本スライド11を把持して移送するために設けられている。標本移送部170は、スライドマガジン90内に塗抹標本スライド11を1枚ずつ出し入れできるように構成されている。このように塗抹標本スライド11を1枚ずつ出し入れするための標本移送部170の構成としては、種々の構成を採用することができる。本実施形態では、図9に示されるように、水平方向(Y方向)及び上下方向(Z方向)に移動可能であり、塗抹標本スライド11を把持するためのハンドリング部120を含む2軸直交ロボットを採用している。ハンドリング部120としては、例えば、塗抹標本スライド11を挟んで掴むことができる開閉機構や、塗抹標本スライド11の所定部位を負圧により吸着して掴む吸引機構を用いることができる。
標本移送部170は、移動機構171によって水平方向(Y方向)に移動可能である。移動機構171は、Y軸レール172と、当該Y軸レール172と係合するY軸スライダ173と、Y軸モータ174とを含んでいる。Y軸モータ174としては、例えばステッピングモータやサーボモータを採用することができる。Y軸モータ174は、ベルト‐プーリ機構からなる伝達機構を介してY軸スライダ173をY方向に移動させる。
標本移送部170は、ハンドリング部120を昇降させるためのZ軸モータ175と、伝達機構176とを含んでいる。Z軸モータ175は、伝達機構176を介してハンドリング部120を昇降させることができる。
ハンドリング部120は、図10に示されるように、一対の把持板121a,121bを備えている。ハンドリング部120は、一対の把持板121a,121bによって、一枚の塗抹標本スライド11を厚さ方向に挟んで把持することができる。一対の把持板121a,121bは、塗抹標本スライド11の表面側と裏面側とにそれぞれ接触して塗抹標本スライド11を把持する。一対の把持板121a,121bのうち、裏面側の把持板121bが塗抹標本スライド11を厚さ方向に移動可能である。把持板121bの移動は、モータ124により行うことができる。なお、モータ以外に、例えばエアシリンダ、ソレノイド等のアクチュエータを用いて行うこともできる。
一対の把持板121a,121bのうち塗抹標本スライド11の表面側(フロスト部12が設けられている側)の把持板121aには開口122が形成されている。開口122の形成位置及び形状は、一対の把持板121a,121bにより把持された塗抹標本スライド11におけるフロスト部12に印字された撮像要否識別情報を後述するカメラで撮像できるように選定されている。本実施形態では、略矩形状の開口122が塗抹標本スライド11の表面側の把持板121aに形成されている。一対の把持板121a,121bは、塗抹標本スライド11におけるフロスト部12のうち撮像要否識別情報が印字された部分以外のフロスト部12を把持する。
本実施形態に係る標本搬送装置100は、標本移送部170により取り出された塗抹標本スライド11に付与された識別情報を取得するための識別情報取得部を更に備えている。標本移送部170のZ軸モータ175等の機構を収容するケーシング177の内面には、図10に示されるように、識別情報取得部である撮像部180が設けられている。この撮像部180は、標本移送部170のハンドリング部120により取り上げられた塗抹標本スライド11の撮像要否識別部と対向する位置に設けられている。撮像部180としては、例えばカメラを用いることができる。識別情報取得部として、撮像部180の代わりにバーコードリーダーを用いてもよい。
撮像部180は、塗抹標本スライド11の表面側の把持板121aに形成された開口122から外部に露出する撮像要否識別情報を撮像することができる。本実施形態では、撮像要否識別情報としてアルファベットの「A」がフロスト部12に印字されており、この「A」という撮像要否識別情報が開口122から外部に露出している。撮像された画像データは、標本搬送装置100の制御部110に送信される。送信された画像データは、制御部110の撮像判定部112によって、ハンドリング部120により取り上げられている状態の塗抹標本スライド11が標本画像撮像装置200の撮像対象であるか否か判定される。
図11は、撮像対象の塗抹標本スライド11であるか否かの判定手順を示すフローチャートである。まず、ステップS1において、標本ピックアップ位置Pにあるスライドマガジン90からハンドリング部120により取り上げられた塗抹標本スライド11のフロスト部12の画像が撮像される。塗抹標本スライド11の画像は、撮像部180によって、塗抹標本スライド11の表面側の把持板121aに形成された開口122から外部に露出しているフロスト部12を撮像することで得られる。撮像された画像は、標本搬送装置100の制御部110に送信される。
ついで、ステップS2において、制御部110により、取得された画像の前処理であるグレーススケール変換が行われる。本実施形態では、標本画像撮像装置(DI)200による撮像の要否の判定だけでなく、ハンドリング部120によって塗抹標本スライド11が把持されているか否かの判定も行っている。塗抹標本作製装置10のハンド部31が塗抹標本スライド11を把持し損ねた場合等に、スライドマガジン90の一部に塗抹標本スライド11が収納されていないスペースができることが考えられる。また、緊急で目視検査をする必要があり、ユーザが途中で塗抹標本スライド11を引き抜いた場合に、同じくスライドマガジン90の一部に塗抹標本スライド11が収納されていないスペースができることが考えられる。
ついで、ステップS3において、制御部110は、フロスト部12のうち開口122を通して外部に露出している領域の輝度値が予め記憶されている閾値以上であるか否かの判定を行う。一対の把持板121のうち塗抹標本スライド11の裏面側の把持板121bの表面であって、塗抹標本スライド11の表面側の把持板121aと対向する面は、フロスト部12が取り得る輝度値よりも輝度値が低い色、例えば黒色に着色されている。黒色でなくてもこげ茶などであってもよい。このため、仮に塗抹標本スライド11が一対の把持板121で把持されていない状態で撮像部180により開口122から露出している部分を撮像すると、得られる画像の輝度値は低い値である。塗抹標本スライド11のフロスト部12に撮像要否識別情報が印字されていると、開口122を介して外部に露出している当該撮像要否識別情報が印字されたフロスト部12の部分は、黒色よりは明るい。したがって、前記低い値の輝度値より大きい値を閾値に設定し、この閾値と得られる輝度値とを比較することで、塗抹標本スライド11の有無を判定することができる。ステップS3において、制御部110は、得られた輝度値が閾値以上であると判定すると、ステップS4に処理を進める。一方、制御部110は、得られた輝度値が閾値よりも小さいと判定すると、判定手順を終了させる。ステップS3では、取得した画像の明るさの程度を示す輝度値を利用した画像処理を行っている。ステップS3において塗抹標本スライド11が把持されていないと判定されると、標本移送部170は、例えばロータリーエンコーダを用いて位置確認をし、当該標本移送部170の原点位置に戻ることなく、次の塗抹標本スライド11を移送できるようにすることができる。
ステップS4において、制御部110は、取得された画像のパターン処理を行い、当該画像のパターンが、予め記憶されている、標本画像撮像装置(DI)による撮像対象であるパターンと一致しているか否かの判定を行う。取得された画像のパターンが標本画像撮像装置による撮像対象であるパターンと一致していると判定されると、制御部110は、ステップS5へ処理を進め、ハンドリング部120に把持されている塗抹標本スライド11を標本画像撮像装置200に搬送する。一方、取得された画像のパターンが標本画像撮像装置による撮像対象であるパターンと一致しないと判定されると、制御部110は、ステップS6へ処理を進める。
ステップS6において、制御部110は、取得された画像のパターンが、予め記憶されている、標本画像撮像装置による撮像対象ではないパターンと一致するか否かの判定を行う。取得された画像のパターンが標本画像撮像装置による撮像対象ではないパターンと一致していると判定されると、制御部110は、ステップS7へ処理を進め、ハンドリング部120に把持されている塗抹標本スライド11をスライドマガジン90の元の位置に返却する。一方、取得された画像のパターンが標本画像撮像装置による撮像対象ではないパターンと一致しないと判定されると、制御部110は、ステップS5へ処理を進め、ハンドリング部120に把持されている塗抹標本スライド11を標本画像撮像装置200に搬送する。本実施形態では、ユーザが用手法で作製した塗抹標本スライド11も標本画像撮像装置200で処理したいため、撮像要否識別情報が、撮像要の情報なのか、撮像否の情報なのか不明の場合は、標本画像撮像装置200による撮像対象としている。ユーザが用手法で作製した塗抹標本スライド11の場合は、フロスト部12に印字がなかったり、鉛筆などで患者情報がメモされていたりするためである。このように、撮像対象ではないパターンと一致しない塗抹標本スライド11は標本画像撮像装置200に搬送されるため、ステップS4の処理は省いてもよい。
標本画像撮像装置200による撮像対象であると判定された塗抹標本スライド11は、標本移送部170によって、後述する標本受け渡し位置Wまで移送され、当該標本移送部170を構成する水平移動機構123によって標本画像撮像装置200まで搬送される。
図1に示されるように、水平移動機構123は、標本受け渡し位置Wと、標本画像撮像装置200の標本受渡部205との間で塗抹標本スライド11を左右方向に移動させるための機構である。水平移動機構123は、標本受け渡し位置Wにおいて標本移送部170から塗抹標本スライド11を受け取って、標本画像撮像装置200の標本受渡部205へ向けて左方向に移動し、撮像済みの塗抹標本スライド11を標本受渡部205から受け取って、標本受け渡し位置Wに向けて右方向に移動する搬送ユニット150を備えている。
搬送ユニット150は、図12に示されるように、基台151と、搬送ケース152と、横移動部153とを有している。基台151は、標本搬送装置100の装置フレーム(図示せず)によって図1に示される標本受け渡し位置Wと標本画像撮像装置200における標本受渡部205との間を左右方向に移動可能に支持されている。横移動部153は、ベルトコンベアからなり、左右一対のプーリ154に巻き掛けられたベルト155と、一方のプーリ154を駆動する駆動モータ156等からなる。また、基台151の上部には左右一対の支持片151aが設けられ、この支持片151aに左右方向の軸心を有する支軸157が架設されている。
搬送ケース152は、塗抹標本スライド11を収容可能なように当該塗抹標本スライド11の形状に合わせて形成された収容具として機能し、撮像前の塗抹標本スライド11を収容する第1標本収容部161と、撮像済みの塗抹標本スライド11を収容する第2標本収容部162とを有している。搬送ケース152の左右の壁部材159には、それぞれ前方に延びる連結腕159aが設けられている。連結腕159aの先端部は、支軸157に回動自在に連結されている。したがって、搬送ケース152は、支軸157を中心として上下(前後)に揺動可能であり、この揺動によって、第1,第2標本収容部161,162の開口を後方に向けた水平姿勢(基準姿勢)と、前記開口を上方に向けた起立姿勢とに姿勢変更可能である。換言すれば、搬送ケース152は、塗抹標本スライド11の塗抹面が略垂直方向を向いた状態(塗抹標本スライド11が実質的に水平となる水平姿勢)と、前記塗抹面が水平方向(垂直方向と交差する方向の一態様)を向いた状態(起立姿勢)とに姿勢変更が可能である。
搬送ユニット150の搬送ケース152は、図13~14に示されるように、姿勢変更機構165によって姿勢変更される。この姿勢変更機構165は、標本受け渡し位置Wに位置している搬送ユニット150の搬送ケース152の下側に挿入される操作バー165aと、この操作バー165aを上下に移動ないし回動させる回動機構である駆動部165bとを備えている。駆動部165bは、駆動モータとリンク部材等から構成することができる。そして、駆動部165bによって操作バー165aを移動させると、搬送ケース152が支軸157を支点に上下に揺動又は回動し、前述した水平姿勢と起立姿勢とのいずれかの姿勢をとる。なお、支軸157にはねじりコイルバネからなる付勢部材166(図12参照)が装着されており、この付勢部材166によって搬送ケース152は下方へ揺動する方向(水平姿勢となる方向)へ付勢されている。
移送部30のハンドリング部120によってスライドマガジン90から抜き取られた塗抹標本スライド11は、ハンドリング部120を下降させることで、標本受け渡し位置Wにある搬送ユニット150の搬送ケース152の第1標本収容部161内に挿入される。このとき、搬送ケース152は、姿勢変更機構165によって起立姿勢とされ、第1標本収容部161および第2標本収容部162の開口が上方を向いた状態となる。
図13に示されるように、標本受け渡し位置Wにおいて搬送ユニット150の搬送ケース152に塗抹標本スライド11が挿入され、搬送ケース152が姿勢変更機構165によって水平姿勢に姿勢変更されると、横移動部153(図12参照)が作動して塗抹標本スライド11を収容した搬送ケース152を左方向(矢印x4)へ移動させる。これにより、搬送ケース152は、標本画像撮像装置200の標本受渡部205に位置付けられる(図13(a)参照)。
標本画像撮像装置200は、塗抹標本スライド11を移動させるための搬送部206を備えており、この搬送部206が、標本受渡部205まで移動した搬送ケース152から塗抹標本スライド11を取り出す(図13(b)参照)。取り出された塗抹標本スライド11は、搬送部206によってオイル塗布部207まで搬送され、このオイル塗布部207で必要に応じて当該塗抹標本スライド11に塗抹されている血液等の検体にオイルが塗布される。その後、塗抹標本スライド11は、搬送部206によって撮像部201(図1参照)にまで搬送され、この撮像部201において検体の画像が撮像される。撮像された画像データは制御部202に送信され、制御部202において細胞の特徴抽出処理や識別分類処理、及び、血球画像の切り出し、血球の自動分類、血球種ごとの計数等の所定の処理が行われる。撮像された画像データや分析結果は、表示モニター203に表示したり、図示しないプリンタ等を介して出力したりすることができる。制御部202は、標本搬送装置100の制御部110と、通信部204、111を介して接続されており、相互に連携した動作を行うために情報の送受信が可能である。
撮像済み(検査済み)の塗抹標本スライド11は、搬送部206によって標本受渡部205に戻され、待機している搬送ケース152に戻される。このとき、撮像済みの塗抹標本スライド11は、搬送ケース152の第2標本収容部162に挿入される(図13(c)参照)。そして、搬送ケース152は、右方向(矢印x6)に搬送され(図14(a)参照)、再びに標本受け渡し位置Wに位置付けられる。その後、搬送ユニット150の搬送ケース152が姿勢変更機構165によって水平姿勢から起立姿勢に姿勢変更される(図14(b)参照)。
標本受け渡し位置Wにおいて起立姿勢にされた搬送ケース152の第2標本収容部162内の塗抹標本スライド11は、標本移送部170のハンドリング部120により取り上げられ、標本収納位置Aに待機しているスライドマガジン90内に収納される。
なお、図13~14を用いて説明した搬送ケース152の動作例では、標本画像撮像装置200の標本受渡部205まで移動した搬送ケース152は、塗抹標本スライド11を搬送部206に渡した後、撮像済みの塗抹標本スライド11が搬送部206によって搬送されるまで、その場で待機している(図13の(b)~(c)参照)。標本画像撮像装置200による塗抹標本スライド11の撮像及び分析には、通常、2分間程度必要である。そこで、塗抹標本スライド11を搬送部206に渡した搬送ケース152をすぐに標本受け渡し位置Wに戻し、当該標本受け渡し位置Wで次の分析対象となる塗抹標本スライド11を受け取り、標本受渡部205に戻しておくことで、待機時間を短縮して分析効率を向上させることができる。この場合は、標本受け渡し位置Wで待機している搬送ケース152の第2標本収容部162にまず撮像済みの塗抹標本スライド11が搬送部206により収容され、ついで搬送ケース152の第1標本収容部161内の次の分析対象となる塗抹標本スライド11が搬送部206により取り出される。
〔その他の変形例〕
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施形態では、標本搬送装置の撮像判定部が、塗抹標本スライドが標本画像撮像装置による撮像対象であるか否かの判定を行っているが、標本搬送装置の撮像部で撮像した画像データをホストコンピュータに送信し、塗抹標本スライドが標本画像撮像装置による撮像対象であるか否かの判定を当該ホストコンピュータで行うこともできる。
また、前述した実施形態では、ハンドリング部によりスライドマガジンから取り上げられた塗抹標本スライドが撮像対象でないと判断された場合、元のスライドマガジンに戻しているが、元のスライドマガジンとは異なる他のスライドマガジンに収容することもできる。この他のスライドマガジンは、最初から第1マガジン収納領域に配置されていてもよく、また、撮像対象でないと判断された塗抹標本スライドが所定数収容された後に、第1マガジン収納領域に移動させてもよい。
また、前述した実施形態では、塗抹標本作製装置の印字部により塗抹標本スライドに識別情報を付与しているが、本発明は、これに限定されるものではなく、他の手段で塗抹標本スライドに識別情報を付与することができる。例えば撮像対象となる塗抹標本スライドの色と撮像対象でない非撮像対象の塗抹標本スライドとの色を変えることもできる。この場合は、色自体が識別情報を構成する。また、塗抹標本作製装置の印字部によるのではなく、予め撮像要否の識別情報が印刷されている塗抹標本スライドを用いることもできる。さらに、塗抹標本スライドに印字する場合以外に、識別情報が印字されたシール等を塗抹標本スライドに貼付することもできる。
また、前述した実施形態では、撮像済みの塗抹標本スライドが収容されたスライドマガジンと、撮像対象でない塗抹標本スライドが収容されたスライドマガジンとが、それぞれ別のマガジン収納領域に貯留されているが、撮像済みの塗抹標本スライドと、撮像対象でない塗抹標本スライドとが別のスライドマガジンに収容されていればよく、撮像済みの塗抹標本スライドが収容されたスライドマガジンと、撮像対象でない塗抹標本スライドが収容されたスライドマガジンとが同じマガジン収納領域に貯留されてもよい。
なお、前述した実施形態では、スライドマガジンから引き出され、標本画像撮像装置での撮像が終了した塗抹標本スライドは、元のスライドマガジンの上方を通過して、別のスライドマガジンに収容される。撮像済みの塗抹標本スライドが元のスライドマガジンの上方を通過する際に、撮像済みの塗抹標本スライドからイマージョンオイルがスライドマガジンに落下することを防止するため、スライドマガジンの上方を覆うカバーを設けてもよい。たとえば、塗抹標本スライドをスライドマガジンから引き出すためにハンドリング部が下降するにつれて、カバーがスライドマガジンの上方から水平方向に離れるように移動し、塗抹標本スライドを把持したハンドリング部がスライドマガジンに対して上昇するにつれて、カバーがスライドマガジンの真上に近づくように移動する連動機構を設けてもよい。
具体的には、図15に示すように、標本搬送装置100を構成してもよい。
図15に示すように、標本搬送装置100は、ハンドリング部120と、液体受部178とを備える。また、標本搬送装置100は、Y軸モータ174と、Z軸モータ175とを備える。ハンドリング部120は、Y軸モータ174およびZ軸モータ175により移動されて、塗抹標本スライド11を収容するスライドマガジン90に、標本画像撮像装置200による撮像済みの塗抹標本スライド11を保持して搬送する。液体受部178は、ハンドリング部120の下方に配置され、Y軸モータ174およびZ軸モータ175によりハンドリング部120とともに移動して、塗抹標本スライド11から落下する液体を受ける。ハンドリング部120とともに液体受部178が移動されるので、塗抹標本スライド11の移送中に塗抹標本スライド11から落下する液体を液体受部178により受けることができる。これにより、塗抹標本スライド11の移送経路によらず、塗抹標本スライド11から落下する液体が装置に付着するのを抑制することができる。
[液体受部の詳細な構成]
以下、図16以降を参照して、図15に示した標本搬送装置100の液体受部178の好ましい実施形態の構成について具体的に説明する。
標本搬送装置100には、図16に示すように、標本移送部170が設けられている。また、標本搬送装置100には、移動機構171と、Y軸レール172と、Y軸スライダ173(図17参照)と、Y軸モータ174と、Z軸モータ175と、伝達機構176とが設けられている。また、標本搬送装置100には、液体受部178が設けられている。また、標本移送部170は、ハンドリング部120を含む。ハンドリング部120は、一対の把持板121aおよび121bを有する。
伝達機構176は、プーリ176aおよび176bと、ベルト176cと、複数のプーリ176dと、ベルト176eとを含む。液体受部178は、トレイ部178aを含む。トレイ部178aには、凸部178bが設けられている。また、レール178cと、スライダ178dとが第2支持部171bに設けられている。
ハンドリング部120は、塗抹標本スライド11を保持して搬送する。具体的には、ハンドリング部120は、塗抹標本スライド11を把持して保持し、搬送する。ハンドリング部120は、一対の把持板121aおよび121bにより、一枚の塗抹標本スライド11を厚さ方向に挟んで把持することができる。また、ハンドリング部120は、モータ124の駆動により、一対の把持板121aおよび121bを相対移動させる。つまり、モータ124の駆動により一対の把持板121aおよび121bの対向する距離が変更される。これにより、一対の把持板121aおよび121bにより塗抹標本スライド11を把持したり離したりすることができる。なお、モータ124以外に、例えばエアシリンダ、ソレノイド等のアクチュエータを用いてもよい。また、塗抹標本スライド11を、把持以外により保持してもよい。たとえば、塗抹標本スライド11を吸着して保持してもよいし、下方から支持することにより保持してもよい。
移動機構171は、第1支持部171aと、第2支持部171bとを含む。第1支持部171aは、標本搬送装置100に固定的に設けられている。また、第1支持部171aは、第2支持部171bを水平方向に移動可能に支持している。具体的には、第1支持部171aは、第2支持部171bを前後方向(Y方向)に移動可能に支持している。第1支持部171aは、垂直平面状に延びる平板形状を有している。また、第1支持部171aには、Y軸レール172と、Y軸モータ174とが取り付けられている。また、第1支持部171aには、プーリ174aおよび174bと、ベルト174cとが設けられている。
第2支持部171bは、Y軸レール172に沿って、Y方向に移動可能である。具体的には、第2支持部171bに設けられているY軸スライダ173が、Y軸レール172に移動可能に係合している。また、第2支持部171bは、Y軸モータ174の駆動により、Y軸レール172に沿ってY方向に移動する。つまり、Y軸モータ174の駆動によりベルト174cが駆動し、ベルト174cの駆動に伴って、ベルト174cに接続された第2支持部171bがY方向に移動する。第2支持部171bは、垂直平面状に延びる平板形状を有している。また、第2支持部171bには、ハンドリング部120と、Z軸モータ175と、伝達機構176と、液体受部178とが設けられている。また、第2支持部171bには、レール175a(図17参照)と、プーリ176dと、ベルト176eと、レール178cとが設けられている。
第2支持部171bは、ハンドリング部120を上下方向(Z方向)に移動可能に支持している。具体的には、ハンドリング部120に接続されているスライダ175b(図17参照)が、レール175aに移動可能に係合している。また、ハンドリング部120は、Z軸モータ175の駆動により、レール175aに沿ってZ方向に移動する。つまり、Z軸モータ175の駆動によりベルト176eが駆動し、ベルト176eの駆動に伴って、ベルト176eに接続されたハンドリング部120がZ方向に移動する。
また、第2支持部171bは、液体受部178のトレイ部178aを水平方向に移動可能に支持している。具体的には、第2支持部171bは、液体受部178のトレイ部178aを前後方向(Y方向)に移動可能に支持している。トレイ部178aに接続されているスライダ178d(図17参照)が、レール178cに移動可能に係合している。また、トレイ部178aは、Z軸モータ175の駆動により、レール178cに沿ってY方向に移動する。つまり、Z軸モータ175の駆動によりベルト176eが駆動し、ベルト176eの駆動に伴って、ベルト176eに接続されたトレイ部178aがZ方向に移動する。
つまり、液体受部178は、ハンドリング部120の上下方向の移動に連動して、水平方向に移動する。具体的には、液体受部178のトレイ部178aは、ハンドリング部120の下方向の移動に連動して、水平方向に移動して、ハンドリング部120の下降位置から退避する。また、トレイ部178aは、ハンドリング部120の上方向の移動に連動して、水平方向に移動して、ハンドリング部120の下方に位置される。これにより、ハンドリング部120を下方向に移動した場合に、ハンドリング部120が保持する塗抹標本スライド11にトレイ部178aが干渉しないように退避させることができる。また、ハンドリング部120を上方向に移動した場合にハンドリング部120が保持する塗抹標本スライド11の下方にトレイ部178aを迅速に移動させることができる。これらの結果、塗抹標本スライド11から落下する液体が他の部分に付着するのを効果的に抑制しながら、塗抹標本スライド11を移す動作に支障が生じるのを抑制することができる。
また、トレイ部178aを水平方向に移動させる駆動部と、ハンドリング部120を上下方向に移動させる駆動部は、共通のZ軸モータ175である。これにより、駆動部を別個に設ける場合に比べて部品点数を減少させることができる。また、駆動部を共通化することにより、ハンドリング部120の上下方向の移動とトレイ部178aの水平方向の移動とを容易に連動させることができる。
Y軸レール172は、Y方向に延びるように配置されている。Y軸レール172は、ハンドリング部120および液体受部178が設けられた第1支持部171aのY方向の移動をガイドする。
Y軸モータ174は、プーリ174aを回転させる。プーリ174aおよびプーリ174bは、Y方向に離間して設けられてる。プーリ174aおよびプーリ174bには、ベルト174cが巻き掛けられている。ベルト174cには、第2支持部171bが接続されている。なお、第2支持部171bをY方向に移動させる機構は、モータおよびベルト・プーリ機構に限られない。たとえば、リニアモータ機構、ボールネジ機構により、第2支持部171bをY方向に移動させてもよい。
Z軸モータ175は、プーリ176aを回転させる。プーリ176aおよびプーリ176bは、Y方向に離間して設けられてる。プーリ176aおよびプーリ176bには、ベルト176cが巻き掛けられている。また、プーリ176aの直径は、プーリ176bの直径よりも小さい。これにより、Z軸モータ175の回転が減速されてプーリ176bに伝達される。プーリ176bには、ベルト176eも巻き掛けられている。ベルト176eは、プーリ176bのほかに、複数のプーリ176dに巻き掛けられている。ベルト176eは、T字形状に巻き掛けられている。つまり、ベルト176eは、ハンドリング部120が接続され、上下方向に延びる部分と、トレイ部178aが接続され、水平方向に延びる部分とを有している。つまり、図17に示すように、連動機構としてのベルト176eは、液体受部178およびハンドリング部120の両方に接続されている。液体受部178は、ベルト176eの水平方向に延びる水平部分1761eに接続されている。また、ハンドリング部120は、ベルト176eの上下方向に延びる上下部分1762eに接続されている。
ベルト176eの駆動により、ハンドリング部120と、トレイ部178aを連動して移動させる。具体的には、ハンドリング部120の下方向の移動に連動して、トレイ部178aが後方向へ移動する。また、ハンドリング部120の上方向の移動に連動して、トレイ部178aが前方向へ移動する。なお、ハンドリング部120をZ方向に移動させ、トレイ部178aをY方向に移動させる機構は、モータおよびベルト・プーリ機構に限られない。たとえば、リニアモータ機構、ボールネジ機構により、ハンドリング部120をZ方向に移動させ、トレイ部178aをY方向に移動させてもよい。また、ハンドリング部120とトレイ部178aとを共通のベルトにより連動して移動させなくてもよい。たとえば、個別に駆動機構を設けて、制御により連動して移動させてもよい。
トレイ部178aは、上方から落下する液体を受けることが可能である。具体的には、トレイ部178aは、底部178eと側部178fとを有する凹形状に形成されている。トレイ部178aの側部178fは、浅く形成されている。たとえば、トレイ部178aの側部178fは、塗抹標本スライド11の幅方向よりも小さい高さを有する。これにより、作業者が容易に底部178eにアクセスすることができるので、トレイ部178aに溜まった液体を拭き取る際の作業を容易に行うことが可能である。また、トレイ部178aは、X方向に見て、L字形状を有している。これにより、トレイ部178aのY方向の長さを大きくすることができるので、ユーザがトレイ部178aに対してアクセスしやすくすることができる。また、トレイ部178aは、金属により形成されている。たとえば、トレイ部178aは、アルミニウム合金により形成されている。これにより、トレイ部178aを樹脂により形成する場合に比べて、耐油性を向上させることが可能である。また、トレイ部178aの上端は、ベルト176eに接続されている。
また、トレイ部178aの底部178eには、複数の凸部178bが設けられている。凸部178bは、底部178eに対して上方に突出するように形成されている。複数の凸部178bは、塗抹標本スライド11の幅よりも小さい間隔を隔てて配置されている。これにより、何らかの要因によって塗抹標本スライド11がトレイ部178aに落ちた場合でも、底部178eに貼りつくのを抑制することが可能である。ここで、凸部178bが無い場合、底部178eと塗抹標本スライド11とが面接触するので、底部178eに溜まった液体により、塗抹標本スライド11が底部178eに貼りついてしまう。従って、凸部178bを設けることにより、塗抹標本スライド11がトレイ部178aに落下した場合でも、トレイ部178aから塗抹標本スライド11を容易に取り除くことが可能である。
レール178cは、Y方向に延びるように配置されている。レール178cは、トレイ部178aが取り付けられたスライダ178dのY方向の移動をガイドする。
[標本移送部および液体受部の移動]
図17~図22を参照して、標本移送部170および液体受部178の移動について説明する。
標本移送部170による塗抹標本スライド11の移送について説明する。まず、標本移送部170のハンドリング部120は、図17に示すように、標本画像撮像装置200による撮像前の塗抹標本スライド11を収容する第1標本収容具901の上方の位置に移動する。その後、ハンドリング部120は、図18に示すように、第1標本収容具901に収容された塗抹標本スライド11を把持する位置に下降する。これにより、ハンドリング部120により、塗抹標本スライド11が把持される。そして、ハンドリング部120は、図17に示すように、第1標本収容具901の上方の位置に上昇する。
その後、ハンドリング部120は、図19に示すように、搬送ケース152の上方に移動する。その後、ハンドリング部120は、図20に示すように、搬送ケース152に向かって下降し、搬送ケース152内に撮像前の塗抹標本スライド11を収容する。そして、ハンドリング部120が上昇し、搬送ケース152により塗抹標本スライド11が標本画像撮像装置200に向けて搬送される。
塗抹標本スライド11の撮像後、搬送ケース152により塗抹標本スライド11が返送されると、ハンドリング部120は、図19に示すように、搬送ケース152の上方に移動する。その後、ハンドリング部120は、図20に示すように、下降して搬送ケース152内に保持された塗抹標本スライド11を把持する。
その後、ハンドリング部120は、図21に示すように、撮像前の塗抹標本スライド11が収容された第1標本収容具901の上方位置を経由して、標本画像撮像装置200による撮像済みの塗抹標本スライド11を収容する第2標本収容具902の上方位置に移動する。その後、ハンドリング部120は、図22に示すように、第2標本収容具902に向かって下降し、第2標本収容具902内に撮像後の塗抹標本スライド11を収容する。そして、ハンドリング部120が上昇する。
標本移送部170は、撮像後の塗抹標本スライド11を第1標本収容具901の上方を通過させて第2標本収容具902に搬送するように構成されている。これにより、第1標本収容具901の上方を通過する際にも、塗抹標本スライド11から落下する液体を液体受部178により受けることができるので、撮像前の塗抹標本スライド11が配置された第1標本収容具901に液体が落下して付着するのを効果的に抑制することができる。