以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る制動制御装置が適用された車1の構成を示す概略ブロック図である。図1に示すように、車1は、制動ECU(Electric Control Unit)2、ACC(Adaptive Cruise Control)−ECU3、車速センサ41、液圧ポンプ5、および液圧バルブ6を備えている。なお、車1はその他の構成も備えているが、図1においては記載を省略している。
ACC−ECU3は、アダプティブクルーズコントロールを実行するための電子制御を行うECUであり、CPUおよびメモリを備えたマイクロコンピュータによって実現されている。ACC−ECU3は、ミリ波レーダによる検出結果またはカメラによって撮像された画像などから、先行車との距離および相対速度などの情報を検出し、加速または減速の必要性を判断する。ACC−ECU3は、加速または減速が必要と判断した場合は、図示しないエンジンECUに指令を出力して、エンジンの出力を調整させる。また、ACC−ECU3は、減速が必要と判断し、エンジンの出力調整だけでは目標の速度に減速できない場合、制動ECU2に指令を出力して、ブレーキを作動させる。また、ACC−ECU3は、先行車が停車した場合、制動ECU2に指令を出力して、ブレーキを作動させて停車させる。
車速センサ41は、車1の車速を検出するセンサである。車速センサ41は、車輪の回転に同期したパルス信号を生成し、制動ECU2に出力する。制動ECU2は、車速センサ41から入力されるパルス信号の周波数に基づいて、車1の車速を算出する。なお、車速センサ41の検出信号(パルス信号)は、制動ECU2以外のECUに入力されてもよく、制動ECU2は、当該ECUが算出した算出値(車速)を入力されてもよい。
液圧ポンプ5は、制動ECU2からの増圧指令に応じて駆動し、ホイールシリンダのブレーキ液圧を増圧させることにより、制動力を増加させる。液圧ポンプ5は、電動モータを有している。電動モータは、増圧指令に応じた回転数で回転する。制動ECU2は、例えば緊急時などには、ブレーキ液圧を急速に増圧させるための増圧指令を出力する。当該増圧指令を入力された場合、液圧ポンプ5は、電動モータを最大回転数で回転させることで、ブレーキ液圧を急勾配で増圧させる。一方、制動ECU2は、緊急時など以外の通常時には、ブレーキ液圧をゆっくり増圧させるための増圧指令を出力する。当該増圧指令を入力された場合、液圧ポンプ5は、電動モータを所定の抑制回転数で回転させることで、ブレーキ液圧を緩勾配で増圧させる。最大回転数で電動モータを回転させると、液圧ポンプ5の作動音は大きくなる。したがって、制動ECU2は、緊急を要さない場合には、電動モータを抑制回転数で回転させて、作動音を抑制している。本実施形態において、抑制回転数は、低車速時(例えば0〜20km/h)には最大回転数の例えば10〜20%程度とし、高車速時(例えば50〜100km/h)には最大回転数の例えば20〜40%程度としている。低車速時には作動音がより気になるので、抑制回転数をより小さい回転数にすることで、作動音をより抑制している。
液圧バルブ6は、制動ECU2からの指令に応じて駆動し、ホイールシリンダのブレーキ液圧を調整する。液圧バルブ6は、制動ECU2からの減圧指令に応じて開放され、ホイールシリンダの液圧を減圧させることにより、制動力を減少させる。また、液圧バルブ6は、制動ECU2からの指令がないときは閉鎖され、ブレーキ液圧を保持する。
制動ECU2は、ブレーキを制御するための電子制御を行うものであり、CPUおよびメモリを備えたマイクロコンピュータによって実現されている。制動ECU2は、例えばVSC(Vehicle Stability Control)などの制御において、各車輪の制動力を個別に制御することで横滑りを防止する。なお、VSCの制御の詳細の説明は省略する。また、制動ECU2は、アダプティブクルーズコントロールの制御において、ACC−ECU3から入力される指令に基づいてブレーキ液圧の調整を行うことで、ブレーキを制御する。具体的には、制動ECU2は、ACC−ECU3から作動指令が入力された場合に、液圧ポンプ5を駆動させてブレーキ液圧を増圧させることでブレーキを作動させる。また、解除指令が入力された場合に、液圧バルブ6を開放させてブレーキ液圧を減圧させることでブレーキを解除する。本実施形態では、制動ECU2は、ブレーキを作動させて車1を停車させる場合、ブレーキ液圧を増圧させてブレーキを作動させ、停車直前にブレーキ液圧を減圧させて減速度を低下させるソフトストップ制御を行う。これにより、搭乗者に不快感をいだかせないスムーズな停車を実現する。制動ECU2は、現在の減速度を目標減速度に一致させるフィードバック制御を行うことで、ブレーキの制御を行う。
また、本実施形態では、制動ECU2は、ソフトストップ制御において減速度が低下し過ぎて、停車予定位置に停車できずに先行車へ衝突してしまうこと防止するためのアンカ制御を行う。具体的には、制動ECU2は、車1が停車予定位置から設定された所定距離だけ進んだときにブレーキ液圧を急増させて車1を急減速させる。さらに、本実施形態では、制動ECU2は、アンカ制御を行う蓋然性が高い場合に、アンカ制御に起因する不快感の抑制のために、プレアンカ制御を行う。プレアンカ制御は、アンカ制御を開始する前に、電動モータを所定の抑制回転数で回転させることで液圧ポンプ5を駆動させ、ブレーキ液圧を緩勾配でゆっくり増圧させる制御である。アンカ制御を行う蓋然性は、予測される走行距離がアンカ制御を開始させる距離以上であるか否かによって判断する。制動ECU2が本発明の「制動制御装置」に相当する。制動ECU2は、機能ブロックとして、減速度算出部21、目標減速度設定部22、調整部23、理論走行距離算出部24、予測走行距離算出部25、プレアンカ実施判断部26、実走行距離算出部27、および増圧部28を備えている。
減速度算出部21は、車1の車速の変化による現在の減速度を算出する機能ブロックである。減速度算出部21は、車速センサ41によって検出された車速の微分値を算出することで、車1の車速の変化による前後方向の減速度を算出する。減速度算出部21は、算出した減速度を目標減速度設定部22、調整部23、および予測走行距離算出部25に出力する。
目標減速度設定部22は、車1の目標減速度を設定する機能ブロックである。目標減速度設定部22は、ACC−ECU3から入力される作動指令に応じて、目標減速度を設定する。目標減速度設定部22が設定する目標減速度は、先行車との距離や設定車速などに応じて変化する。また、目標減速度設定部22は、車1の車速が所定速度V0以下になった以降は、ソフトストップ制御のための目標減速度を設定する。所定速度V0は、車1の減速度に応じて異なり、あらかじめ設定されたマップに基づいて決定される。目標減速度設定部22は、ソフトストップ制御の開始時に、車速センサ41が検出した現在の車速と、減速度算出部21が算出した現在の減速度と、あらかじめ設定されている最低減速度Gfと、あらかじめ設定されている停車までの時間とに基づいて、目標減速度の理想的な変化のためのプロファイルを設定する。本実施形態では、目標減速度の時間変化が正弦波曲線になるように設定される。そして、目標減速度設定部22は、当該プロファイルに応じた目標減速度を調整部23に出力する。また、目標減速度設定部22は、ソフトストップ制御を開始するときに、開始時の減速度を理論走行距離算出部24に出力する。
調整部23は、現在の減速度を目標減速度に一致させるフィードバック制御を行う機能ブロックである。調整部23は、減速度算出部21から入力される現在の減速度と、目標減速度設定部22から入力される目標減速度との差に基づいて、現在の減速度を目標減速度に近づけるためにブレーキ液圧を調整する。調整部23は、現在の減速度が目標減速度より小さい場合、液圧ポンプ5を駆動させることでブレーキ液圧を増圧させて、減速度を大きくする。一方、調整部23は、現在の減速度が目標減速度より大きい場合、液圧バルブ6を開放させることでブレーキ液圧を減圧させて、減速度を小さくする。液圧バルブ6の開度は、現在の減速度と目標減速度との差に応じて調整される。なお、調整部23が行うフィードバック制御の手法は限定されない。
理論走行距離算出部24は、ソフトストップ制御における走行距離(ソフトストップ制御の開始から終了により停車するまでの間に走行する距離)の理論値である理論走行距離を算出する機能ブロックである。理論走行距離算出部24は、ソフトストップ制御の開始時に、目標減速度設定部22から入力される減速度に基づいて、理論走行距離を算出する。本実施形態では、理論走行距離算出部24は、あらかじめ設定されたマップ(後述する図2参照)に基づいて、理論走行距離を設定する。なお、理論走行距離算出部24は、目標減速度設定部22から入力される減速度と、目標減速度のプロファイルとに基づいて理論走行距離を算出してもよい。理論走行距離算出部24は、算出した理論走行距離を、プレアンカ実施判断部26に出力する。
予測走行距離算出部25は、実際の減速度および車速に基づいて予測される、ソフトストップ制御の開始から停車までの走行距離である予測走行距離を算出する機能ブロックである。予測走行距離算出部25は、車速センサ41が検出した現在の車速と、減速度算出部21から入力される現在の減速度とに基づいて、予測走行距離を算出する。現時点までの走行距離は、現時点までの車速を積分することで算出され、現時点以降の走行距離は、現時点の減速度および車速と、目標減速度のプロファイルとに基づいて予測される。予測走行距離算出部25は、算出した予測走行距離を、プレアンカ実施判断部26に出力する。
プレアンカ実施判断部26は、プレアンカ制御を実施するか否かを判断する機能ブロックである。プレアンカ実施判断部26は、理論走行距離算出部24から理論走行距離を入力され、予測走行距離算出部25から予測走行距離を入力される。プレアンカ実施判断部26は、予測走行距離が理論走行距離より所定距離以上大きい場合、すなわち、予測走行距離から理論走行距離を減算した超過走行距離が所定距離以上の場合、プレアンカ制御を実施すると判断する。所定距離は、停車予定位置(ソフトストップ制御での理論的な停車位置)からアンカ制御を開始するまでの距離であり、ソフトストップ制御の開始時の減速度に応じてあらかじめ設定されている。プレアンカ実施判断部26は、あらかじめ設定されたマップに基づいて、所定距離を設定する。つまり、プレアンカ実施判断部26は、予測走行距離が理論走行距離より所定距離以上大きい場合、アンカ制御が実施される蓋然性が高いと推測し、プレアンカ制御を実施すると判断する。一方、プレアンカ実施判断部26は、予測走行距離が理論走行距離より所定距離まで大きくない場合、すなわち、予測走行距離が理論走行距離と所定距離とを加算した距離より小さい場合、アンカ制御が開始される前に停車するので、プレアンカ制御を実施する必要がないと判断する。プレアンカ実施判断部26は、判断結果を増圧部28に出力する。
実走行距離算出部27は、ソフトストップ制御の開始時点から現時点までの実際の走行距離である実走行距離を算出する機能ブロックである。実走行距離算出部27は、車速センサ41によって検出された車速を入力され、ソフトストップ制御の開始時点から現時点までの車速を積分することで、実走行距離を算出する。なお、実走行距離算出部27は、図示しない走行距離センサから入力される走行距離に基づいて、実走行距離を算出してもよい。実走行距離算出部27は、算出した実走行距離を増圧部28に出力する。
増圧部28は、プレアンカ制御およびアンカ制御のために、ブレーキ液圧を増圧させる機能ブロックである。増圧部28は、プレアンカ実施判断部26から判断結果を入力され、実走行距離算出部27から実走行距離を入力される。増圧部28は、プレアンカ実施判断部26がプレアンカ制御を実施すると判断した場合、実走行距離が第1距離以上になったときに、プレアンカ制御を開始する。具体的には、増圧部28は、液圧ポンプ5に、ブレーキ液圧をゆっくり増圧させるための増圧指令を出力する。当該増圧指令を入力された液圧ポンプ5は、電動モータを所定の抑制回転数で回転させることで、ブレーキ液圧を緩勾配で増圧させる。第1距離は、ソフトストップ制御の開始時の減速度によって異なり、あらかじめマップとして設定されている(後述する図2参照)。なお、増圧部28は、演算により第1距離を算出してもよい。また、増圧部28は、実走行距離が第2距離以上になったときに、アンカ制御を開始する。具体的には、増圧部28は、液圧ポンプ5に、ブレーキ液圧を急速に増圧させるための増圧指令を出力する。当該増圧指令を入力された液圧ポンプ5は、電動モータを最大回転数で回転させることで、ブレーキ液圧を急勾配で増圧させる。第2距離は、ソフトストップ制御の開始時の減速度によって異なり、あらかじめマップとして設定されている(後述する図2参照)。なお、増圧部28は、演算により第2距離を算出してもよい。
図2は、第1距離、第2距離、および理論走行距離のマップをイメージ化した図である。なお、実際には、第1距離のマップ、第2距離のマップ、および理論走行距離のマップは、それぞれ別に設定されている。図2では、説明の便宜上、1つのイメージ図として表している。図2においては、理論走行距離を設定するマップを示す曲線を実線で示し、第1距離を設定するマップを示す曲線を破線で示し、第2距離を設定するマップを示す曲線を一点鎖線で示している。なお、各マップは一例であり、図2に示したものに限定されない。
第1距離、第2距離、および理論走行距離は、ソフトストップ制御の開始時の減速度に対応して設定されている。図2の例によると、減速度がα3の場合、理論走行距離はDtであり、第1走行距離はD1であり、第2走行距離はD2である。また、プレアンカ実施判断部26が判断に使用する所定距離は、停車予定位置(ソフトストップ制御での理論的な停車位置)からアンカ制御を開始するまでの距離なので、図2における第2距離と理論走行距離との差に相当する。図2の例によると、減速度がα3の場合、所定距離は(D2−Dt)になる。なお、所定距離は、これに限られず、若干の余裕を持って、(D2−Dt)より小さい値が設定されてもよい。
例えば、ソフトストップ制御の開始時の減速度がα3の場合、プレアンカ実施判断部26は、予測走行距離が理論走行距離(Dt)より所定距離(D2−Dt)以上大きい場合、すなわち、予測走行距離が第2距離(D2)以上の場合に、プレアンカ制御を実施すると判断する。また、この場合、増圧部28は、実走行距離が第1距離(D1)以上になったときにプレアンカ制御を開始し、実走行距離が第2距離(D2)以上になったときに、アンカ制御を開始する。
図3は、制動ECU2が行うアンカ実施処理を説明するためのフローチャートの一例である。アンカ実施処理は、アンカ制御を実施するための処理であり、条件によってプレアンカ制御も実施される。制動ECU2は、ACC−ECU3から作動指令を入力されると、車1を減速させるために、ブレーキ液圧を調整する。そして、車速が所定速度V0以下になったときに、ソフトストップ制御処理を開始する。ソフトストップ制御処理では、目標減速度の理想的な変化のためのプロファイルが設定され、現在の減速度がプロファイルから読み出された目標減速度になるように、液圧バルブ6の開度が調整されて、フィードバック制御が行われる。アンカ実施処理は、ソフトストップ制御処理が開始されたときに開始される。
まず、理論走行距離が算出される(S1)。具体的には、理論走行距離算出部24が、目標減速度設定部22から入力される減速度に基づいて、理論走行距離を算出する。次に、予測走行距離が算出される(S2)。具体的には、予測走行距離算出部25が、車速センサ41が検出した現在の車速と、減速度算出部21から入力される現在の減速度とに基づいて、予測走行距離を算出する。次に、予測走行距離から理論走行距離を減算した超過走行距離が算出され(S3)、超過走行距離が所定距離以上であるか否かが判別される(S4)。具体的には、プレアンカ実施判断部26が、予測走行距離算出部25から入力される予測走行距離と理論走行距離算出部24から入力される理論走行距離とに基づいて超過走行距離を算出し、超過走行距離が所定距離以上であるか否かを判別する。
超過走行距離が所定距離以上の場合(S4:YES)、プレアンカ制御を実施すると判断され、実走行距離が算出される(S6)。具体的には、実走行距離算出部27が、車速センサ41によって検出された車速に基づいて、ソフトストップ制御の開始時点から現時点までの実走行距離を算出する。次に、実走行距離が第1距離以上であるか否かが判別される(S7)。実走行距離が第1距離未満である場合(S7:NO)、ステップS6に戻って、ステップS6〜S7が繰り返される。一方、実走行距離が第1距離以上である場合(S7:YES)、プレアンカ制御が開始され(S8)、ステップS9に進む。つまり、実走行距離が第1距離になるまで待って、実走行距離が第1距離になったときに、プレアンカ制御が開始される。具体的には、増圧部28が、プレアンカ実施判断部26がプレアンカ制御を実施すると判断している場合、実走行距離が第1距離以上になったときに、プレアンカ制御を開始する。
ステップS4において、超過走行距離が所定距離未満の場合(S4:NO)、ソフトストップ制御が終了したか否かが判別される(S5)。ソフトストップ制御が終了していない場合(S5:NO)、ステップS2に戻って、ステップS2〜S5が繰り返される。一方、ソフトストップ制御が終了した場合(S5:YES)、ソフトストップ制御が終了するまで超過走行距離が所定距離以上にならなかったので、プレアンカ制御を実施する必要がないと判断され、ステップS9に進む。
ステップS9では、実走行距離が算出される(S9)。次に、実走行距離が第2距離以上であるか否かが判別される(S10)。実走行距離が第2距離未満である場合(S10:NO)、ステップS9に戻って、ステップS9〜S10が繰り返される。一方、実走行距離が第2距離以上である場合(S10:YES)、アンカ制御が開始され(S11)、アンカ実施処理は終了される。つまり、実走行距離が第2距離になるまで待って、実走行距離が第2距離になったときに、アンカ制御が開始される。具体的には、増圧部28が、実走行距離が第2距離以上になったときに、アンカ制御を開始する。なお、ステップS9〜S10が繰り返されている間に車速が「0」になった場合、すなわち、実走行距離が第2距離になる前に車1が停車した場合、アンカ制御が実施されることなく、アンカ実施処理は終了される。
ソフトストップ制御処理およびアンカ実施処理の実行中に、ACC−ECU3から解除指令が入力された場合、ソフトストップ制御処理およびアンカ実施処理は終了される。この場合、制動ECU2は、液圧バルブ6を開放させて、ブレーキ液圧を減圧させる。なお、制動ECU2が行うアンカ実施処理は、上述したフローチャートに示すものに限定されない。
図4は、停車制御における車速等の変化を示すタイムチャートである。同図(a)は、破線で理論的な車速の時間変化を示し、実線で実際の車速の時間変化を示している。同図(b)は、ブレーキ液圧の時間変化を示している。同図(c)は、減速開始時(時刻t1)からの走行距離の時間変化を示している。破線は理論的な走行距離の時間変化を示し、実線は実際の走行距離の時間変化を示している。
図4においては、時刻t1において、減速のために目標減速度の上昇が開始され、目標減速度が所定値に達すると当該所定値に固定されている。これにより、ブレーキ液圧は、時刻t1から上昇して所定値で固定されている(図4(b)参照)。車速は、時刻t1から徐々に減少している(図4(a)参照)。
そして、時刻t2において、車速が所定速度V0以下になったことで、ソフトストップ制御が開始されている。図4のタイムチャートでは、図2に示すマップが設定されており、ソフトストップ制御の開始時の減速度がα3であった場合を示している。ソフトストップ制御では、目標減速度が、徐々に減少され、時刻t3で、所定の最低減速度Gfになるように設定されている。これにより、ブレーキ液圧も、徐々に減少され、時刻t3で、最低減速度Gfに対応する圧力Pfになっている。車速が理論的な車速の時間変化(図4(a)の破線参照)どおりに変化した場合は、走行距離の時間変化は図4(c)の破線に示すようになる。この場合、ソフトストップ制御終了時(時刻t3)における走行距離は、ソフトストップ制御開始時(時刻t2)における走行距離に理論走行距離Dtを加算したものになる。実際の車速が図4(a)の実線のように変化したので、走行距離は図4(c)の実線に示すように変化している。つまり、車速が理論上の車速より大きいまま推移したので、走行距離が理論上の走行距離よりも伸びて長くなっている。
図4の例では、ソフトストップ制御の途中(時刻t2〜t3)で、予測走行距離算出部25が算出した予測走行距離が、理論走行距離より所定距離以上大きくなったので、プレアンカ実施判断部26がプレアンカ制御を実施すると判断した場合を示している。
時刻t6において、ソフトストップ制御開始時(時刻t2)からの走行距離が、第1距離D1になったので(図4(c)参照)、プレアンカ制御が開始されている。これにより、ブレーキ液圧がゆっくり増圧され(図4(b)参照)、車速がゆっくり低下している(図4(a)参照)。
そして、時刻t4において、ソフトストップ制御開始時(時刻t2)からの走行距離が、第2距離D2になったので(図4(c)参照)、アンカ制御が開始されている。これにより、ブレーキ液圧が急速に増圧され(図4(b)参照)、車速が急低下して(図4(a)参照)、時刻t5で停車している。
時刻t4の時点で、ブレーキ液圧がある程度増圧されている(図4(b)参照)ので、
プレアンカ制御が実施されない場合(図9参照)に比べて、アンカ制御での増圧量は減少し、アンカ制御の実施時間も短くなっている。したがって、アンカ制御による搭乗者の不快感を抑制できる。また、時刻t4までに車速がある程度減速されている(図4(a)参照)ので、プレアンカ制御が実施されない場合(図9参照)に比べて、停車までの走行距離が短くなっている(図4(c)参照)。
なお、図4の例では時刻t4でアンカ制御が開始されているが、プレアンカ制御により、時刻t4に達する前に車速が「0」になった場合は、ソフトストップ制御開始時(時刻t2)からの走行距離が第2距離D2にならないので、アンカ制御が実施されない。
次に、第1実施形態に係る制動制御装置(制動ECU2)の作用効果について説明する。
本実施形態によると、予測走行距離算出部25は、実際の減速度および車速に基づいて予測される予測走行距離を算出する。そして、プレアンカ実施判断部26は、予測走行距離が理論走行距離より所定距離以上大きい場合、アンカ制御が実施される蓋然性が高いと推測し、プレアンカ制御を実施すると判断する。増圧部28は、プレアンカ実施判断部26がプレアンカ制御を実施すると判断した場合、実走行距離が第1距離以上になったときに、プレアンカ制御を開始する。プレアンカ制御では、液圧ポンプ5は、電動モータを所定の抑制回転数で回転させることで、ブレーキ液圧を緩勾配で増圧させる。これにより、アンカ制御の開始前に、液圧ポンプ5の作動音を抑制してブレーキ液圧をある程度増圧しておくことができる。プレアンカ制御によって停車した場合は、アンカ制御が実施されないので、アンカ制御に起因する不快感を搭乗者にいだかせることはない。また、プレアンカ制御の後にアンカ制御が行われる場合でも、ブレーキ液圧がある程度増圧されているので、増圧されていない場合と比較して、アンカ制御に起因する不快感を抑制することができる。
また、本実施形態によると、プレアンカ実施判断部26は、予測走行距離が理論走行距離より所定距離まで大きくない場合、アンカ制御が実施される蓋然性が低いと推測し、プレアンカ制御を実施する必要がないと判断する。この場合、増圧部28は、プレアンカ制御を実施しない。したがって、アンカ制御が実施されない場合まで、プレアンカ制御が実施されることを抑制できる。
また、本実施形態によると、目標減速度設定部22は、停車直前に目標減速度を小さくすることでブレーキ液圧を減圧して、減速度を低下させる制御(ソフトストップ制御)を行う。これにより、搭乗者に不快感をいだかせないスムーズな停車を実現することができる。さらに、目標減速度設定部22は、ソフトストップ制御における目標減速度のプロファイルを、目標減速度の時間変化が正弦波曲線になるように設定する。これにより、よりスムーズな停車を実現することができる。
また、本実施形態によると、制動ECU2は、低車速時には、液圧ポンプ5の電動モータを最大回転数の例えば10〜20%程度の抑制回転数で回転させて、ブレーキ液圧をゆっくり増圧させる。これにより、液圧ポンプ5の作動音を抑制することができる。したがって、液圧ポンプ5に廉価なポンプを用いている場合や、車両の遮音性が低い場合でも、搭乗者は、液圧ポンプ5の作動音が気にならない。
なお、本実施形態においては、増圧部28は、実走行距離が第1距離になったタイミングでプレアンカ制御を開始する場合について説明したが、プレアンカ制御を開始するタイミングはこれに限られない。例えば、増圧部28は、ソフトストップ制御が終了したタイミングでプレアンカ制御を開始してもよいし、プレアンカ実施判断部26がプレアンカ制御を実施すると判断したタイミングでプレアンカ制御を開始してもよい。プレアンカ制御を開始するタイミングが早いほど、アンカ制御が実施される可能性が低くなり、また、アンカ制御が実施された場合でも、ブレーキ液圧がより増圧されているので、アンカ制御に起因する不快感をより抑制することができる。
また、本実施形態においては、増圧部28が、プレアンカ制御を開始してからアンカ制御を開始するまで、電動モータを所定の抑制回転数で回転させる場合について説明したが、これに限られない。増圧部28は、プレアンカ制御において、抑制回転数を途中で変更してもよい。例えば、増圧部28は、実走行距離が第1距離以上になったときにプレアンカ制御を開始して、液圧ポンプ5に、電動モータを第1の抑制回転数(例えば、最大回転数の10%)で回転させる増圧指令を出力し、実走行距離が第1距離より大きく、第2距離より小さい第3距離以上になったときに、液圧ポンプ5に、電動モータを第1の抑制回転数より大きい第2の抑制回転数(例えば、最大回転数の20%)で回転させる増圧指令を出力してもよい。なお、抑制回転数の変更は2段階に限られず、3段階以上であってもよい。また、実走行距離に応じて抑制回転数を変更するのではなく、時間の経過に応じて抑制回転数を変更してもよい。これらの場合、実走行距離(経過時間)が延びるに従い、段階的に抑制回転数を大きくすることで、ブレーキ液圧の増圧の勾配を段階的に大きくすることができる。これにより、液圧ポンプ5の作動音、および、カックンブレーキを精度よく抑制することができる。
図5〜図8は、本開示の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態に係る制動制御装置が適用された車1の構成を示す概略ブロック図である。本実施形態に係る制動ECU2は、プレアンカ制御実施時の抑制回転数を可変にしている点で、第1実施形態に係る制動ECU2と異なる。
第2実施形態に係る制動ECU2は、回転数設定部29をさらに備えている。回転数設定部29は、プレアンカ制御実施時の抑制回転数を設定する機能ブロックである。回転数設定部29は、理論走行距離算出部24から理論走行距離を入力され、予測走行距離算出部25から予測走行距離を入力される。回転数設定部29は、予測走行距離から理論走行距離を減算した超過走行距離を算出し、算出した超過走行距離に応じて、プレアンカ制御実施時の抑制回転数を設定する。回転数設定部29は、あらかじめ設定されたマップに基づいて、抑制回転数を設定する。抑制回転数は、超過走行距離が大きいほど大きくなるように設定されている。回転数設定部29は、設定された抑制回転数を増圧部28に出力する。増圧部28は、プレアンカ制御実施時に出力する増圧指令で、抑制回転数を液圧ポンプ5に指示する。液圧ポンプ5は、電動モータを指示された抑制回転数で回転させることで、ブレーキ液圧の増圧の勾配を変化させる。これにより、超過走行距離が大きいほど、ブレーキ液圧の増圧の勾配が大きくなる。
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、本実施形態よると、回転数設定部29は、超過走行距離が大きいほど、プレアンカ制御実施時の抑制回転数を大きな値に設定する。したがって、超過走行距離が大きいほど、ブレーキ液圧の増圧の勾配が大きくなるので、アンカ制御の開始前に、ブレーキ液圧をより増圧しておくことができる。また、超過走行距離が大きいほど、ブレーキ液圧をより増圧することで、走行距離を抑制することができる。
<第3実施形態>
図6および図7は、第3実施形態に係る制動制御装置を説明するための図である。図6は、第3実施形態に係る制動制御装置が適用された車1の構成を示す概略ブロック図である。図7は、制動ECU2が行うアンカ実施処理を説明するためのフローチャートの一例である。本実施形態に係る制動ECU2は、プレアンカ制御の実施の必要性を判断しない点で、第1実施形態に係る制動ECU2と異なる。
第3実施形態に係る制動ECU2は、理論走行距離算出部24、予測走行距離算出部25およびプレアンカ実施判断部26を備えていない。第3実施形態に係る増圧部28は、プレアンカ制御の実施の必要性に関係なく、実走行距離が第1距離以上になったときに、プレアンカ制御を開始する。図7のフローチャートに示すように、第3実施形態に係るアンカ実施処理では、理論走行距離が算出された後(S1)、図3に示すステップS2〜S5が省略され、実走行距離が算出される(S6)。ステップS6〜S11は、図3に示す第1実施形態に係るアンカ実施処理と同様である。
本実施形態によると、増圧部28は、実走行距離が第1距離以上になったときに、プレアンカ制御を開始する。プレアンカ制御では、液圧ポンプ5は、電動モータを所定の抑制回転数で回転させることで、ブレーキ液圧を緩勾配で増圧させる。これにより、アンカ制御の開始前に、液圧ポンプ5の作動音を抑制してブレーキ液圧をある程度増圧しておくことができる。プレアンカ制御によって停車した場合は、アンカ制御が実施されないので、アンカ制御に起因する不快感を搭乗者にいだかせることはない。また、プレアンカ制御の後にアンカ制御が行われる場合でも、ブレーキ液圧がある程度増圧されているので、増圧されていない場合と比較して、アンカ制御に起因する不快感を抑制することができる。
<第4実施形態>
図8は、第4実施形態に係る制動制御装置が適用された車1の構成を示す概略ブロック図である。本実施形態に係る制動ECU2は、路面勾配および駆動力に応じてプレアンカ制御を開始するタイミングを変更する点で、第1実施形態に係る制動ECU2と異なる。
第4実施形態に係る車1は、加速度センサ42および回転数センサ43をさらに備えている。
加速度センサ42は、車1の前後方向に作用する加速度を検出するセンサである。加速度センサ42は、内部に備えるおもりの変位に応じた検出信号を制動ECU2に出力する。制動ECU2は、入力された検出信号に基づいて、加速度を算出する。なお、加速度センサ42の検出信号は、制動ECU2以外のECUに入力されてもよく、制動ECU2は、当該ECUが算出した算出値(加速度)を入力されてもよい。
回転数センサ43は、エンジン回転数を検出するセンサである。回転数センサ43は、例えばクランクシャフトの回転に同期したパルスを生成し、制動ECU2に出力する。制動ECU2は、回転数センサ43から入力されるパルス信号の周波数に基づいて、エンジン回転数を算出する。なお、回転数センサ43の検出信号は、制動ECU2以外のECUに入力されてもよく、制動ECU2は、当該ECUが算出した算出値(エンジン回転数)を入力されてもよい。
また、第4実施形態に係る制動ECU2は、勾配検出部71および駆動力算出部72をさらに備えている。
勾配検出部71は、車1が停車する道路の路面勾配を検出する機能ブロックである。勾配検出部71は、加速度センサ42によって検出された加速度、および、車速センサ41によって検出された車速に基づいて、車1の前後方向の路面勾配を検出する。勾配検出部71は、車1の前後方向の加速度から、車速の微分値である車速の変化による加速度成分を減算することで、重力による加速度成分を算出する。勾配検出部71は、重力による加速度成分に基づいて、車1の前後方向における傾斜を演算する。そして、演算結果を、車1の前後方向に平行である路面勾配として出力する。本実施形態では、勾配検出部71は、下り坂(車1の前が後より低い)の場合に路面勾配を正の値とし、登坂(車1の前が後より高い)の場合に路面勾配を負の値として出力する。なお、勾配検出部71は、車1の積荷による傾きや気温による加速度センサ42の誤差を補正して、路面勾配を検出してもよい。また、車1が傾斜センサを備え、勾配検出部71が傾斜センサの検出値に基づいて路面勾配を演算してもよい。勾配検出部71は、検出した路面勾配を増圧部28に出力する。
駆動力算出部72は、車1に発生する駆動力を検出する機能ブロックである。駆動力算出部72は、回転数センサ43によって検出されたエンジン回転数に基づいてトルクを算出し、トルクに応じた駆動力を算出する。アクセルを操作していなくても、例えばエアコンなどの使用によりエンジン回転数は変化する。エンジン回転数が変化すると、発生する駆動力も変化する。停車時のクリープ現象を発生させる駆動力を正確に検出するために、駆動力算出部72は、検出されたエンジン回転数から駆動力を算出している。駆動力算出部72は、算出した駆動力を増圧部28に出力する。なお、制動ECU2は、駆動力算出部72で駆動力を算出する代わりに、エンジンECUで算出された駆動力を用いてもよい。
増圧部28は、勾配検出部71から入力される路面勾配、および、駆動力算出部72から入力される駆動力に基づいて、マップから読み出した第1距離を変更する。具体的には、増圧部28は、路面勾配が大きいほど第1距離を小さな値に変更し、また、駆動力が大きいほど第1距離を小さな値に変更する。増圧部28は、例えば、路面勾配および駆動力に対応した係数を算出し、マップから読み出した第1距離に当該係数を乗算することで第1距離を変更する。第1距離の変更は、路面勾配が大きいほど、また、駆動力が大きいほど、図2における第1距離を示す曲線(破線)を下方にずらし、理論走行距離を示す曲線(実線)に近づけることを意味する。したがって、路面勾配が大きく、また、駆動力が大きくて、減速度が低減する状況ほど、より早いタイミングでプレアンカ制御が開始される。
本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、本実施形態よると、増圧部28は、勾配検出部71から入力される路面勾配が大きいほど、また、駆動力算出部72から入力される駆動力が大きいほど、マップから読み出した第1距離を小さな値に変更する。したがって、路面勾配が大きく、また、駆動力が大きくて、減速度が低減する状況ほど、より早いタイミングでプレアンカ制御が開始される。これにより、アンカ制御が実施される可能性が低くなり、また、アンカ制御が実施された場合でも、ブレーキ液圧がより増圧されているので、アンカ制御に起因する不快感をより抑制することができる。
なお、本実施形態においては、増圧部28が、勾配検出部71から入力される路面勾配、および、駆動力算出部72から入力される駆動力の両方に基づいて第1距離を変更する場合について説明したが、これに限られない。増圧部28は、路面勾配および駆動力のうちのいずれか一方に基づいて第1距離を変更してもよい。
本発明に係る制動制御装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る制動制御装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。