JP2020023774A - ヘルメット - Google Patents
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Abstract
Description
ただ、本出願人による技術革新への探究や挑戦はこれに留まらず、更なる飛躍を目指して邁進しているところである。実のところ、走行時に受ける風(空気)の流れや風圧により発生する揚力に対しては、ヘルメットの安定化にとって未だ解決可能な余地があるのではと考えているところである。
即ち、本発明に係るヘルメットは、着用者の頭部を覆ってヘルメット外形を形成すると共に着用者の前方視野を確保する前部開口が設けられて成る帽体に対して、前記前部開口よりも上部側となる頭頂部の左右方向中心部を起点として走行時の風が真正面からぶつかるようになる配置で立ち上がる段差部が設けられていることを特徴とする。
前記段差部は、前記帽体の前記頭頂部における左右方向中心部から左翼側及び右翼側の両端へ近づくほど徐々に前方へ突き出る左右対称の湾曲形を有すると共に、少なくとも前記頭頂部では前記帽体から浮き上がりつつ後方へ突き出す後縁を有して、全体でスポイラーを形成したものとすればよい。
図1乃至図3は、本発明に係るヘルメット1の第1実施形態を示している。このヘルメット1は、着用者の頭部を覆ってヘルメット外形を形成すると共に、着用者の前方視野を確保する前部開口が設けられて成る帽体(シェル)2を有したもので、帽体2の内側には、着用者の頭部と帽体2内面との間に緩衝用のライナー(図1〜3では省略した)などが設けられている。
また図2から明らかなように、スポイラー4を平面視すると左右対称形であり、左右方向の中央部に比べて左翼側及び右翼側では、それぞれの左右両端へ近づくほど徐々に前方
へ突き出るような湾曲形(内曲がりカーブ)に形成されている。
スポイラー4の湾曲形は、左翼側及び右翼側においてそれぞれカーブ中心を一箇所とする一定のカーブ形としてもよいが、中心位置を異ならせた複数のカーブ形や、カーブ半径を異ならせた複数のカーブ形を繋ぎ合わせたものとしてもよい。また、鈍角となる内曲がり角部を細かく繋ぎ合わせることによって、左翼側及び右翼側の全体が擬似カーブ状となるような多角の折れ線形に形成することも可能である。
図3(b)から明らかなように、スポイラー4の前縁は、走行時の風が真正面からぶつかるようになる段差部5として形成されている。この段差部5は、帽体2の前部開口よりも上部側となる頭頂部Pの左右方向中心部を起点(必ず設けられる位置)とする配置で設けられている。ここにおいて「真正面からぶつかる」とは、走行時の風に対して帽体2の球面状の外面に沿うような流れは除き、段差部5が最初にぶつかる存在であることを含んでいる。
スポイラー4は、この段差部5の立ち上がり位置(帽体2との接点)が、前記した帽体2の頭頂部P又はこの頭頂部Pよりも少し前方であったり反対に少し後方であったりするように配置するのがよい。
そのため、帽体2の頭頂部Pを具体的に特定することは適当ではない。また着用者の体形や帽体2の形状(デザイン)などによっても、帽体2の頭頂部Pは、その位置的な定義が異なる場合がある。頭頂部Pとスポイラー4の段差部5との位置関係の詳細については後述する。
とは言え、このような段差部5の正面角度が厳密に限定されるものではなく、例えば、
段差部5の下縁に対して上縁ほど前位となるような前傾角度や、反対に上縁ほど後位となるような後傾角度が、大きすぎない範囲(おおよそ前後それぞれに10度以下)で付されているようなものとしてもよい。
このような段差部5をスポイラー4に備えさせることにより、車両走行時に帽体2の前面から後面にかけて流れる風(空気流)は、段差部5にぶつかって跳ね上げ方向に向きを変えられ、そのぶん、ヘルメット1に空気抵抗を生じさせることになる。
それらの結果として、ヘルメット1を浮き上げようとする負圧を起き難く、また負圧を小さく抑えるようになる。これに伴い、ヘルメット1は、全体的に浮き上がり現象を防止されることになる。
図3(a)に示すように、本発明のヘルメット1において、走行時に帽体2がその前方から受ける風は、帽体2の上半面に付与された球面を経てスポイラー4に到達することで、スポイラー4前縁の段差部5により、若干、跳ね上げられるように向きを変えられ、少し盛り上がるような流線を描いた後、帽体2の後方へと流れて行くことが判る。
またこの流速域T2を取り巻くようにして更に少し遅い流速域T3が生じており、この流速域T3には、段差部5に対応する位置又はそれより若干前方であって且つ帽体2表面に沿うような配置で、更に遅くなる流領域が生じる挙動を示していることが認められた。
この図3(c)に示した圧力分布から、ヘルメット1に作用する負圧の発生域が可及的に狭く抑えられていると言うことができ、その結果、ヘルメット1に作用する揚力(浮き上がり作用)が抑えられたものであると判断することが可能である。
図4は比較例1のヘルメットW1の場合を示している。図4(a)に示すように、比較例1のヘルメットW1において、走行時に帽体2がその前方から受ける風は、帽体2の上半面に付与された球面を経てスポイラー4に到達しても、スポイラー4前縁に段差部がないことによって跳ね上げられることはなく、そのまま帽体2の後方へと流れて行くことが判る。
またこの流速域T1を取り巻くようにして生じる流速域T2、T3には、帽体2表面付近で流速域T3よりも更に遅くなるような流領域は認められなかった。
一方、図5は比較例2のヘルメットW2の場合を示している。図5(a)に示すように、比較例2のヘルメットW2において、走行時に帽体2がその前方から受ける風は、当然ながら、帽体2の上半面に付与された球面に沿ってそのまま帽体2の後方へと流れて行くことが判る。
また当然ながら流速域T2、T3などに、帽体2表面付近で流速域T3よりも更に遅くなるような流領域は認められなかった。
本発明のヘルメット1、比較例1のヘルメットW1、比較例2のヘルメットW2を使用してオートバイを高速走行させた着用者の感想として、ヘルメットW1,W2では速度が高速になるほど揚力が強く、運転に集中しにくい印象を持ったが、本発明のヘルメット1では、揚力を殆ど感じることがなく、運転に集中できたとの印象を得たとの回答を得ている。
次に本出願人は、スポイラー4に備えさせる段差部5の高さ(スポイラー4の前縁部の厚さ)について詳しく調べた。その結果、段差部5の高さは、帽体2の表面から0.5mm以上6.3mm以下とするのが好ましく、より好ましくは、2.0mm以上、5mm以下とするとの結論を得た。
本解析は、被験ヘルメットを着用した着用者(ライダー)が、ストレート(直線道路)をオートバイにより250km/hで走行した時を想定したものであって、実際にはヘルメット1に対して正面から69.4m/sの風を吹き付ける設定とした。
従って被験ヘルメット200には、「基本姿勢」の基準人頭模型100に設定される参照平面(水平面)HS、前後中央面(鉛直面)FAVS及び左右中央面(鉛直面)LRVSを帽体202の外面にも姿勢の基準として反映させることができる。
出し用に流用することができる。
また、「解析姿勢」は、250km/hの試験速度を勘案して、オートバイレースなどでライダーがライディングポーズをとるときの実際上のヘルメットの姿勢に近づけるために、「基本姿勢」から10.3度だけ前方へ傾けている。
このようなCdA値の増加傾向とLift値の減少傾向との関係を元に、段差部5の高さとして、前記したような好適な範囲(0.5〜6.3mmや2.0〜5.0mm)を選択するものとしてある。
これに対して、本発明に係るヘルメット1において段差部5の高さを6.3mmとした場合では、Lift値が約68Nに抑えられていることが判る。Lift値の違いを実際に体験した者らからの感想によれば、Lift値に10Nの差が開けば、ヘルメットの浮き上がり防止効果を明確に体感できるとされているので、十分満足できる値であることは容易に理解できる。
段差部5の高さを6.3mmとしたものと5.0mmとしたものとの比較において、6.3mmのものはCdA値が約0.040であり、5.0mmのものは約0.039であって、いずれも空気抵抗が極めて小さい範囲にあることを評価することができる。空気抵抗を小さくすることは、ヘルメットが後方へ引っ張られたりライダーの首あたりを支点としてヘルメット1が後方へ傾けられたりするのを防止するうえで重要な要素である。
とは言え、段差部5の高さを6.3mmとしたからといって、ヘルメットが後方へ引っ張られたりライダーの首あたりを支点としてヘルメット1が後方へ傾けられたりする現象が極端に悪化するというものではなく、それよりも浮き上がり防止作用が十分に体感できるというメリットがあるので、この点が段差部5の高さ上限を6.3mmとしてもよいとする理由である。
以上とすることで、浮き上がり防止作用を得られることが確認されている。このことから段差部5の高さ下限を0.5mm以上とする。また、段差部5の高さを2.0mm以上に高くすることにより、帽体2の形状を種々様々に変更させた場合(CdA値が許容範囲内で変化した場合を含む)にも対応して、確実な浮き上がり防止作用を得られることが確認されている。この点が段差部5の高さ下限を2.0mm以上としてもよいとする理由である。
オートバイレースでは、コースのストレート(直線道路)においてオートバイ性能が許す最高速度で走行する。この最高速度が300km/hを超えることも珍しくはない。そして、ストレートからコーナーへの突入時には、コーナーを曲がりきれるなかで最も速い速度(例えば200〜250km/h)まですばやく減速させる必要がある。
このため、多くのライダー達は、図16(a)で示すようなストレート走行中の前傾姿勢から、ストレートエンド(コーナー入口)では図16(b)に示すように上体を起こし、自らの身体で風を多く受けることによって走行抵抗を増やし、減速に有効活用している。
なお、オートバイの走行速度が仮に300km/hであったとしても、ヘルメットが受ける相対速度は、レース場の天候によって向かい風となっている場合には300km/hを超えている場合も当然に有り得る。
それ故、スポイラー4を備えない従来のヘルメットでは、ストレート走行時はもとより、コーナーへの突入時などに、ライダーの頭部に対するブレが最大となって運転に支障をきたすという感想が、ライダー達の間で強く起こっていたのである。
これらの工夫は大筋では問題解決に繋がっていたが、それでも解決できないものの一つとして、ヘルメットの浮き上がり問題が残っていたのである。
ところで、このような浮き上がり防止作用は、ライダーの体感(感想)によるところが大きく、全てのライダーにとって同じ感想が得られるというものではない。ライダーごとに感想が変わる要因としては、ヘルメット1における帽体2の形状やオートバイのフレーム形状、オートバイに取り付けるカウリングの形状(特に、スクリーンと呼ばれる風防部分の上縁高さ)をはじめとして、天候、風向き、風力、速度、路面状況、そして何より、ライダーの乗車癖(身体及び頭部の姿勢)や体形等々、実に多種多様である。
従って、これらの多く存在する各種条件に合わせて、レース当日になって使用するヘル
メット1(スポイラー4における段差部5の配置や形状が異なるもの)を、ライダーごとの判断によって臨機応変に選択するという使用方法が推奨されるところである。
そこで本出願人は、300km/hを超えるオートバイレースに参加できるようなプロフェッショナルの3人のライダーを選りすぐり、スポイラー4の段差部5を設けるべき最良の配置に関して、実際の走行試験を繰り返してもらったなかで、貴重な感想を得ることにした。
このことを裏付けるものとして、図17に示すような圧力分布図を示すことができる。この圧力分布図は前記した「解析姿勢」のときを想定して、汎用流体解析ソフトウエアを用いたRANS手法によって求めた。なお、解析は前記した「解析姿勢」を想定しているので、解析中の前後中央面FAVSは鉛直方向ではなく鉛直方向に対して10.3度だけ前方へ傾けたが、図17の圧力分布図では前後中央面FAVSは鉛直方向として図示したものである。
これらの負圧域のなかで、−1550Pa以下となる負圧域A,B(前後中央面FAVSの前方20度〜後方40度の範囲)に着目して、左右中央面(鉛直面)LRVSを中心とする左右対称形の段差部5を配置しておけば、ライダーの頭部を最も安定させるヘルメット姿勢(浮き上がり防止作用)が必ず存在するものであると結論付けたものである。
更には、プロフェッショナルのライダー達だけでなく一般のライダー達からも、100km/h程度で走行している際に、ストレートの走行時などにおいて、ヘルメット1が浮き上がり現象などを生じにくいものであるとの良い評価を得ている。
その他の構成や作用効果は第1実施形態と略同様であるので、同一作用を奏する部分に同一符号を付することによりここでの詳説は省略する。
例えば、各実施形態を説明するうえでは、オートバイへ乗車する際を説明したが、オートバイ乗車時以外の用途としても、本発明に係るヘルメット1は使用可能である。例えば、3輪バイク(サイドカー等も含む)や4輪バギー、F1カー等のレーシングカーといった車両への乗車時にあって、運転者用又はパッセンジャー用として使用することが可能である。その他、モータースポーツをはじめとするスポーツ全般において使用することも可能である。
てもよい。また、場合によっては、帽体2に対してスポイラー4(又は段差部5)を一体形成してもよい。
スポイラー4は、例えば左右両端部を帽体2の左右両脇に沿わせて下方へ垂下させるような形状としてもよい。なお、スポイラー4の前縁部を湾曲形に形成させることは限定されるものではなく、少なくとも帽体2の左右中央部の頭頂部Pに段差部5が設けられるものであればよい。そもそも、帽体2の左右中央部の頭頂部Pに段差部5を設けるのであれば、この段差部5がスポイラー4の一部を形成していること自体、限定されるものではない。
本発明のヘルメット1は、100km/hを超える速度下においてより一層高い効果が認められるものではあるが、100km/h以下の速度であっても従来との比較において十分な作用効果が得られるものであって、高速走行する場合などに使用することが前提とされるものではない。
2 帽体
3 シールド
4 スポイラー
5 段差部
P 頭頂部
100 基準人頭模型
200 被験ヘルメット
202 帽体
P 頭頂部
HS 参照平面(水平面)
FAVS 前後中央面(鉛直面)
LRVS 左右中央面(鉛直面)
W1 比較例1のヘルメット
W2 比較例2のヘルメット
Claims (4)
- 着用者の頭部を覆ってヘルメット外形を形成すると共に着用者の前方視野を確保する前部開口が設けられて成る帽体に対して、前記前部開口よりも上部側となる頭頂部の左右方向中心部を起点として走行時の風が真正面からぶつかるようになる配置で立ち上がる段差部が設けられていることを特徴とするヘルメット。
- 前記段差部は前記帽体から0.5mm以上6.3mm以下の高さを有して形成されていることを特徴とする請求項1記載のヘルメット。
- 前記段差部は、前記帽体の前記頭頂部における左右方向中心部から左翼側及び右翼側の両端へ近づくほど徐々に前方へ突き出る左右対称の湾曲形を有すると共に、少なくとも前記頭頂部では前記帽体から浮き上がりつつ後方へ突き出す後縁を有して、全体でスポイラーを形成したものであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のヘルメット。
- [JIS T 8133:2015]の[附属書B,C]に規定される基準人頭模型に、当該規定の[附属書A]に規定されるヘルメット装着方法に基づいて装着したヘルメットにおいて前記帽体の前後方向中央で起立する前後中央面を境として前方20度乃至後方40の範囲に、前記段差部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のヘルメット。
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