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JP2020023774A - ヘルメット - Google Patents

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JP2020023774A
JP2020023774A JP2019137208A JP2019137208A JP2020023774A JP 2020023774 A JP2020023774 A JP 2020023774A JP 2019137208 A JP2019137208 A JP 2019137208A JP 2019137208 A JP2019137208 A JP 2019137208A JP 2020023774 A JP2020023774 A JP 2020023774A
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Takeshi Murakami
猛 村上
浩嗣 大田
Koji Ota
浩嗣 大田
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OGK KABUTO KK
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Abstract

【課題】走行時(殊に100km/hを超えるような高速走行時)に受ける風(空気)の流れや風圧により発生する揚力などに対し、更なる安定化が図れるようにする。【解決手段】着用者の頭部を覆ってヘルメット外形を形成すると共に着用者の前方視野を確保する前部開口が設けられて成る帽体2に対して、前記前部開口よりも上部側となる頭頂部Pの左右方向中心部を起点として走行時の風が真正面からぶつかるようになる配置で立ち上がる段差部5が設けられたものとする。【選択図】図1

Description

本発明は、車両への乗車時などに着用するヘルメットに関する。
ヘルメットを被って車両(主にオートバイ)を運転したときなどに、前方からの風によりヘルメットが後方へ引っ張られるのを防止するだけでなく、左右に揺すられるようになるのを防止するため、本出願人は嘗て、ヘルメット後部の左右対称位置に、縦方向及び後方へ延びるようなスタビライザを設けたヘルメットを特許出願し、特許されている(特許文献1)。
このようなスタビライザは、ヘルメットの外面に沿った空気流がヘルメットから剥離する点(剥離点)を可及的に後方へ移動させると共に、この剥離点で発生する渦を可及的に抑制したり小さくしたりすることに専念したものであった。
特許第4311691号公報
特許文献1に記載のヘルメットは、車両運転時(殊に100km/hを超えるような高速走行時)などに、着用者の頭部を左右方向で安定させる絶大な効果を奏するものであったので、安全面はもとより記録追求などの分野において比類の評価を得ている。
ただ、本出願人による技術革新への探究や挑戦はこれに留まらず、更なる飛躍を目指して邁進しているところである。実のところ、走行時に受ける風(空気)の流れや風圧により発生する揚力に対しては、ヘルメットの安定化にとって未だ解決可能な余地があるのではと考えているところである。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、走行時(殊に100km/hを超えるような高速走行時)に受ける風(空気)の流れや風圧により発生する揚力に対し、更なる安定化が図れるようにするヘルメットを提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係るヘルメットは、着用者の頭部を覆ってヘルメット外形を形成すると共に着用者の前方視野を確保する前部開口が設けられて成る帽体に対して、前記前部開口よりも上部側となる頭頂部の左右方向中心部を起点として走行時の風が真正面からぶつかるようになる配置で立ち上がる段差部が設けられていることを特徴とする。
前記段差部は、前記帽体から0.5mm以上6.3mm以下の高さを有して形成されたものとするのが好適である。
前記段差部は、前記帽体の前記頭頂部における左右方向中心部から左翼側及び右翼側の両端へ近づくほど徐々に前方へ突き出る左右対称の湾曲形を有すると共に、少なくとも前記頭頂部では前記帽体から浮き上がりつつ後方へ突き出す後縁を有して、全体でスポイラーを形成したものとすればよい。
[JIS T 8133:2015]の[附属書B,C]に規定される基準人頭模型に、当該規定の[附属書A]に規定されるヘルメット装着方法に基づいて装着したヘルメットにおいて前記帽体の前後方向中央で起立する前後中央面を境として前方20度乃至後方40の範囲に、前記段差部が設けられるようにするのが好適である。
本発明に係るヘルメットであれば、走行時(殊に100km/hを超えるような高速走行時)に受ける風(空気)の流れや風圧により発生する揚力などに対し、更なる安定化が図れるようになった。
本発明に係るヘルメットの第1実施形態を示した側面図である。 本発明に係るヘルメットの第1実施形態を示した平面図である。 本発明に係るヘルメットの第1実施形態における空力特性を示したものであって(a)は風(空気)の流れを模式化したものであり(b)は風速の分布を模式化したものであり(c)は圧力分布を模式化したものである。 本発明に係るヘルメットに対する比較例1の空力特性を示したものであって(a)は風(空気)の流れを模式化したものであり(b)は風速の分布を模式化したものであり(c)は圧力分布を模式化したものである。 本発明に係るヘルメットに対する比較例2の空力特性を示したものであって(a)は風(空気)の流れを模式化したものであり(b)は風速の分布を模式化したものであり(c)は圧力分布を模式化したものである。 本発明に係るヘルメットの第2実施形態を示した正面図である。 本発明に係るヘルメットの第2実施形態を示した背面図である。 本発明に係るヘルメットの第2実施形態を示した平面図である。 本発明に係るヘルメットの第2実施形態を示した底面図である。 本発明に係るヘルメットの第2実施形態を示した右側面図である。 本発明に係るヘルメットの第2実施形態を正面側から示した斜視図である。 本発明に係るヘルメットの第2実施形態を背面側から示した斜視図である。 [JIS T 8133:2015]の[附属書B,C]に規定される基準人頭模型に対して当該規定の[附属書A]に規定されるヘルメット装着方法に基づいたヘルメットの装着状態を示した側断面図である。 [JIS T 8133:2015]の[附属書B,C]に規定される基準人頭模型に対して当該規定の[附属書A]に規定されるヘルメット装着方法に基づいたヘルメットの装着状態を示した斜視図である。 スポイラーの段差の違いによるヘルメット全体のCdA値とLift値の変化を示したグラフである。 オートバイ走行時におけるライダーの乗車姿勢の違いを例示した側面図であって(a)はストレート走行時であり(b)はストレートエンド(コーナー入口)での減速時である。 ヘルメットに作用する空気流を要因とする負圧の発生状況を示した圧力分布図である。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至図3は、本発明に係るヘルメット1の第1実施形態を示している。このヘルメット1は、着用者の頭部を覆ってヘルメット外形を形成すると共に、着用者の前方視野を確保する前部開口が設けられて成る帽体(シェル)2を有したもので、帽体2の内側には、着用者の頭部と帽体2内面との間に緩衝用のライナー(図1〜3では省略した)などが設けられている。
帽体2が形成するヘルメット外形は、特に限定されるものではないが、本第1実施形態では着用者の頭頂から顎までを覆うフルフェースタイプであって、前記した前部開口(着用者の眼前)を覆うシールド3が上下に開閉自在となったものを例示している。なお、帽体2に採用する流麗な線形や凹凸形状をはじめ、換気用のシャッターなどの付属物の有無などは何ら限定されるものではない。
本発明に係るヘルメット1では、帽体2の頭頂部Pにスポイラー4が設けられている。図1から明らかなように、スポイラー4は側面視すると上面が偏平であり、少なくとも頭頂部P後縁が帽体2から浮き上がるようにしつつ後方へ向けて少し突出するようになっている。
また図2から明らかなように、スポイラー4を平面視すると左右対称形であり、左右方向の中央部に比べて左翼側及び右翼側では、それぞれの左右両端へ近づくほど徐々に前方
へ突き出るような湾曲形(内曲がりカーブ)に形成されている。
なお、スポイラー4の左右両端へ近づくように湾曲した部分は、前端を前方へ突き出させるにしたがい、帽体2の球面形体に沿って若干、斜め下方へも延び出すようになっている(図1参照)。
スポイラー4の湾曲形は、左翼側及び右翼側においてそれぞれカーブ中心を一箇所とする一定のカーブ形としてもよいが、中心位置を異ならせた複数のカーブ形や、カーブ半径を異ならせた複数のカーブ形を繋ぎ合わせたものとしてもよい。また、鈍角となる内曲がり角部を細かく繋ぎ合わせることによって、左翼側及び右翼側の全体が擬似カーブ状となるような多角の折れ線形に形成することも可能である。
このようにして採用されたスポイラー4の湾曲形は、着用者が正面を向いているときだけでなく左右方向へ首を振ったときでも、前方からの風がスポイラー4のどこかの前縁部に対して真正面からぶつかるようにすることを一応の目安として形成してある。
図3(b)から明らかなように、スポイラー4の前縁は、走行時の風が真正面からぶつかるようになる段差部5として形成されている。この段差部5は、帽体2の前部開口よりも上部側となる頭頂部Pの左右方向中心部を起点(必ず設けられる位置)とする配置で設けられている。ここにおいて「真正面からぶつかる」とは、走行時の風に対して帽体2の球面状の外面に沿うような流れは除き、段差部5が最初にぶつかる存在であることを含んでいる。
本第1実施形態では、スポイラー4に採用された湾曲形の全域にわたる前縁に沿って、段差部5が設けられたものとしてある。
スポイラー4は、この段差部5の立ち上がり位置(帽体2との接点)が、前記した帽体2の頭頂部P又はこの頭頂部Pよりも少し前方であったり反対に少し後方であったりするように配置するのがよい。
ここにおいて帽体2の「頭頂部P」とは、基本的には、ヘルメット1の安定化を図ろうとする速度域(設定する速度範囲)での走行時であって、且つ着用者によりヘルメット1に所定の前下がりの使用角が付与されていることを前提として、帽体2における左右方向の中心であり、且つ前後方向において最高位となる位置又はこの最高位置よりも少し前方であったり反対に少し後方であったりする位置を言うものとする。
ただし、ヘルメット着用者の乗車する車両が例えばオートバイである場合において、着用者(ライダー)は、上体を前傾姿勢にするのが基本としつつも、減速が必要な場合などでは上体を起こすこともある。また、これらの姿勢変更に加えて、殊に上体を前傾姿勢にしているときには着用者独自の判断や経験則などに基づいて頭部を更に前下がりにしたり、走行速度が高くなればなるほど着用者の前傾姿勢がより低くなって頭部をより大きく前下がりにしたりする。
更には、コーナーの走行時などに着用者が車体と一体となってコーナー内側へ傾く「リーンウイズ」の姿勢や、着用者がより深く傾く「リーンイン」の姿勢、反対に着用者が車体よりも起きている「リーンアウト」の姿勢を採ったときになどに、ヘルメット1の向きや角度は頻繁且つ複雑に変位することになる。
そのため、帽体2の頭頂部Pを具体的に特定することは適当ではない。また着用者の体形や帽体2の形状(デザイン)などによっても、帽体2の頭頂部Pは、その位置的な定義が異なる場合がある。頭頂部Pとスポイラー4の段差部5との位置関係の詳細については後述する。
段差部5は、側面視したときに起立方向に「直線的な面」を有したものとすればよい。この場合、「直線的な面」は、正面から受ける風に対して正対できるように垂直に切り立った角度とするのが好適である。ここで言う垂直の角度とは、段差部5が設けられる位置での帽体2の法線(接線に対して垂直の関係)となることもあるが、帽体2の形状や、着用者の個性により、必ずしも帽体2の形状との相関が成立するものではない。
なお、一応の目安として、路面との関係において鉛直方向になるようにすればよい、と言うこともできる。
とは言え、このような段差部5の正面角度が厳密に限定されるものではなく、例えば、
段差部5の下縁に対して上縁ほど前位となるような前傾角度や、反対に上縁ほど後位となるような後傾角度が、大きすぎない範囲(おおよそ前後それぞれに10度以下)で付されているようなものとしてもよい。
また、場合によっては、段差部5の正面を前方へ向けて半球状や多角の折れ線形などの凸となる立体形状を採用してもよいし、反対に、凹面カーブ形状や多角の折れ線形で凹むような凹となる立体形状を採用してもよい。
このような段差部5をスポイラー4に備えさせることにより、車両走行時に帽体2の前面から後面にかけて流れる風(空気流)は、段差部5にぶつかって跳ね上げ方向に向きを変えられ、そのぶん、ヘルメット1に空気抵抗を生じさせることになる。
また、風がヘルメット1から後方へ離れる際の起点となる剥離点は、段差部5を設けていない場合に比べれば前方へ移動することになる。そのため、段差部5を設けることにより、剥離点の後方側に小さな渦流が発生することになり、ヘルメット1における帽体2の頂上面を通過する風の速度を減速させることになる。
それらの結果として、ヘルメット1を浮き上げようとする負圧を起き難く、また負圧を小さく抑えるようになる。これに伴い、ヘルメット1は、全体的に浮き上がり現象を防止されることになる。
図3は、本発明に係るヘルメット1の空力特性を模式的に示したものである。この空力特性は、ヘルメット1を着用した着用者がオートバイにより250km/hで実走行することによって求めたものである。風の流れを示す流線や分布の区画を示す線は、汎用流体解析ソフトウエアを用いたRANS手法によって求めた。
図3(a)に示すように、本発明のヘルメット1において、走行時に帽体2がその前方から受ける風は、帽体2の上半面に付与された球面を経てスポイラー4に到達することで、スポイラー4前縁の段差部5により、若干、跳ね上げられるように向きを変えられ、少し盛り上がるような流線を描いた後、帽体2の後方へと流れて行くことが判る。
このとき、図3(b)に示すように、スポイラー4の後縁部上方を起点とする高速の流速域T1が小さな領域で認められ、そのまわりにこの流速域T1よりも少し遅い流速域T2がスポイラー4の前縁部、すなわち段差部5を基点とするように生じている。
またこの流速域T2を取り巻くようにして更に少し遅い流速域T3が生じており、この流速域T3には、段差部5に対応する位置又はそれより若干前方であって且つ帽体2表面に沿うような配置で、更に遅くなる流領域が生じる挙動を示していることが認められた。
そして、図3(c)に示すように、スポイラー4を中心として周辺よりも圧力の低い領域X(網掛けして示す領域)が認められたが、この領域Xは、スポイラー4の左方や右方、更にはスポイラー4の後方への帽体2表面に対しては、可及的に抑えられた範囲に派生するに留まっていた。
この図3(c)に示した圧力分布から、ヘルメット1に作用する負圧の発生域が可及的に狭く抑えられていると言うことができ、その結果、ヘルメット1に作用する揚力(浮き上がり作用)が抑えられたものであると判断することが可能である。
本出願人は、以上の結果を検証するため、スポイラー4の前縁部に段差部5を設けない比較例1のヘルメットW1と、スポイラー4自体を設けない比較例2のヘルメットW2とを用いて、いずれも同一条件のもとで比較試験を行った。
図4は比較例1のヘルメットW1の場合を示している。図4(a)に示すように、比較例1のヘルメットW1において、走行時に帽体2がその前方から受ける風は、帽体2の上半面に付与された球面を経てスポイラー4に到達しても、スポイラー4前縁に段差部がないことによって跳ね上げられることはなく、そのまま帽体2の後方へと流れて行くことが判る。
このとき、図4(b)に示すように、スポイラー4の後縁部上方を起点として生じる高速の流速域T1は、本発明のヘルメット1の場合(図3(b)参照)よりも大きくなっていることが判る。
またこの流速域T1を取り巻くようにして生じる流速域T2、T3には、帽体2表面付近で流速域T3よりも更に遅くなるような流領域は認められなかった。
そして、図4(c)に示すように、スポイラー4を中心として生じる圧力の低い領域X(網掛けして示す領域)は、スポイラー4の左方や右方でシールド3の後端部にまで派生し、スポイラー4の後方への帽体2表面に対しても、広い範囲に派生していた。
一方、図5は比較例2のヘルメットW2の場合を示している。図5(a)に示すように、比較例2のヘルメットW2において、走行時に帽体2がその前方から受ける風は、当然ながら、帽体2の上半面に付与された球面に沿ってそのまま帽体2の後方へと流れて行くことが判る。
また図5(b)に示すように、帽体2の頭頂部(本発明のヘルメット1においてスポイラー4における前縁部の段差部5が設けられる付近)では、本発明のヘルメット1では観測されなかった高速の流速域T0が確認されるに至った(速さの順番として表記すればT0>T1>T2>T3となる)。
また当然ながら流速域T2、T3などに、帽体2表面付近で流速域T3よりも更に遅くなるような流領域は認められなかった。
そして、図5(c)に示すように、スポイラー4を中心として生じる圧力の低い領域X(網掛けして示す領域)についても、スポイラー4の左方や右方、後方の全ての方向で広い範囲に派生していることが確認できた。
本発明のヘルメット1、比較例1のヘルメットW1、比較例2のヘルメットW2を使用してオートバイを高速走行させた着用者の感想として、ヘルメットW1,W2では速度が高速になるほど揚力が強く、運転に集中しにくい印象を持ったが、本発明のヘルメット1では、揚力を殆ど感じることがなく、運転に集中できたとの印象を得たとの回答を得ている。
このように、スポイラー4の前縁に段差部5を設けることについての有意性は確かめられた。
次に本出願人は、スポイラー4に備えさせる段差部5の高さ(スポイラー4の前縁部の厚さ)について詳しく調べた。その結果、段差部5の高さは、帽体2の表面から0.5mm以上6.3mm以下とするのが好ましく、より好ましくは、2.0mm以上、5mm以下とするとの結論を得た。
本出願人は、このような段差部5の好適な高さを突き止めるにあたり、段差部5の高さの違いによってヘルメット1全体のCdA値とヘルメット1に作用するLift値がどのように変化するかを、コンピューター上のシミュレーションにより求める解析を行った。
本解析は、被験ヘルメットを着用した着用者(ライダー)が、ストレート(直線道路)をオートバイにより250km/hで走行した時を想定したものであって、実際にはヘルメット1に対して正面から69.4m/sの風を吹き付ける設定とした。
図15に解析結果を示す。なお、CdA値は、スポイラー4を含んだヘルメット1の全体の前方投影面積(A)と空気抵抗(Cd)との積である。また、Lift値はヘルメット1に作用する浮き上がりの程度を示す数値である。解析は、Cradle社の解析ソフト「SCRYU−Tetra」を用いて行った。得られたLift値の単位はN(ニュートン)である。
本解析は、被験体とするヘルメット(本発明に係るヘルメット1及びスポイラー無しの比較ヘルメット:以下ではこれらを総じて「被験ヘルメット200」と言う)の姿勢を一定なものに統一させるために、図13及び図14に示す「基本姿勢」を基礎として、この「基本姿勢」を前方へ一定角度を傾ける姿勢(以下、「解析姿勢」と言う)を保持させるものとした。
「基本姿勢」は、[JIS T 8133:2015]の[附属書B,C]に規定される基準人頭模型100に対して、当該規定の[附属書A]に規定されるヘルメット装着方法を基準にして被験ヘルメット200の装着を行ったものである。
従って被験ヘルメット200には、「基本姿勢」の基準人頭模型100に設定される参照平面(水平面)HS、前後中央面(鉛直面)FAVS及び左右中央面(鉛直面)LRVSを帽体202の外面にも姿勢の基準として反映させることができる。
これにより、被験ヘルメット200にスポイラー4(段差部5)を設ける際の位置割り
出し用に流用することができる。
また、「解析姿勢」は、250km/hの試験速度を勘案して、オートバイレースなどでライダーがライディングポーズをとるときの実際上のヘルメットの姿勢に近づけるために、「基本姿勢」から10.3度だけ前方へ傾けている。
図15から明らかなように、CdA値の変位(一点鎖線)は、段差部5を高くすればするほど風を受けて空気抵抗が増大することを示しており、Lift値の変位(二点鎖線)は、段差部5を高くすればするほど浮き上がり作用が減少することを示している。
このようなCdA値の増加傾向とLift値の減少傾向との関係を元に、段差部5の高さとして、前記したような好適な範囲(0.5〜6.3mmや2.0〜5.0mm)を選択するものとしてある。
すなわち、高さの上限については次のようにする。図15中、段差部5の高さが6.3mmであるときのCdA値は0.04であるが、スポイラー4を備えない比較対象のヘルメットのなかで、旧タイプ(市場に流通している従来のヘルメット)とされるものにCdA値が同じ0.04のものがあった。このような比較対象ヘルメットでは、Lift値が90Nを遥に超えるもの(図15中にはプロットしていない)であり、浮き上がり防止効果を得ることは殆どできないものであった。
なお、比較対象ヘルメットの他のタイプには基準人頭模型100から脱げそうになるものも稀に見られた。このようなものでは、浮き上がりを生じた際に顎紐がライダーの首等を強く圧迫するなどしてライディングに向けた集中力の妨げになることも予測される。
これに対して、本発明に係るヘルメット1において段差部5の高さを6.3mmとした場合では、Lift値が約68Nに抑えられていることが判る。Lift値の違いを実際に体験した者らからの感想によれば、Lift値に10Nの差が開けば、ヘルメットの浮き上がり防止効果を明確に体感できるとされているので、十分満足できる値であることは容易に理解できる。
なお、本発明のヘルメット1において、段差部5の高さを5.0mmと小さくしたときでも、そのLift値はせいぜい74N程度であり、前記した比較対象ヘルメットはもとより、段差部5の高さを6.3mmとした本発明ヘルメット1よりも更に、浮き上がり防止効果を十分に抑制できていることが判る。
段差部5の高さを6.3mmとしたものと5.0mmとしたものとの比較において、6.3mmのものはCdA値が約0.040であり、5.0mmのものは約0.039であって、いずれも空気抵抗が極めて小さい範囲にあることを評価することができる。空気抵抗を小さくすることは、ヘルメットが後方へ引っ張られたりライダーの首あたりを支点としてヘルメット1が後方へ傾けられたりするのを防止するうえで重要な要素である。
図15によれば、段差部5の高さを5mmよりも大きくするとCdA値が明らかに増加傾向を強めることが判り、ヘルメット1が後方へ引っ張られたり傾けられたりする傾向も相応に増えるので、この点を重視する場合において、段差部5の高さ上限を5.0mmとするのが、より好ましいとする理由である。
とは言え、段差部5の高さを6.3mmとしたからといって、ヘルメットが後方へ引っ張られたりライダーの首あたりを支点としてヘルメット1が後方へ傾けられたりする現象が極端に悪化するというものではなく、それよりも浮き上がり防止作用が十分に体感できるというメリットがあるので、この点が段差部5の高さ上限を6.3mmとしてもよいとする理由である。
なお、段差部5の高さが5mm以内であれば、段差部5の高さをどのように変化させようともCdA値に極端な変位は生じないという興味深い知見を得ている。すなわち、段差部5の高さが5mmを超えないようにすれば、CdA値を増加させることなくLift値のみに着目しながら、段差部5の配置や形状などを種々、検討できることになると言う考察ができる。
一方で、高さの下限については次のようにする。すなわち、段差部5の高さを0.5mmより小さくしたのでは殆ど段差部5の存在意義が薄れ、Lift値も高く、浮き上がり防止作用として充分な効果を得られないことが判る。しかし段差部5の高さを0.5mm
以上とすることで、浮き上がり防止作用を得られることが確認されている。このことから段差部5の高さ下限を0.5mm以上とする。また、段差部5の高さを2.0mm以上に高くすることにより、帽体2の形状を種々様々に変更させた場合(CdA値が許容範囲内で変化した場合を含む)にも対応して、確実な浮き上がり防止作用を得られることが確認されている。この点が段差部5の高さ下限を2.0mm以上としてもよいとする理由である。
ここで、ヘルメット1の使用例の一つであるオートバイレースについて少し触れる。
オートバイレースでは、コースのストレート(直線道路)においてオートバイ性能が許す最高速度で走行する。この最高速度が300km/hを超えることも珍しくはない。そして、ストレートからコーナーへの突入時には、コーナーを曲がりきれるなかで最も速い速度(例えば200〜250km/h)まですばやく減速させる必要がある。
当然ながら、この減速に要する時間及び走行距離は、レース結果を大きく左右するものであることから、共に短ければ短いほどよいとされる。
このため、多くのライダー達は、図16(a)で示すようなストレート走行中の前傾姿勢から、ストレートエンド(コーナー入口)では図16(b)に示すように上体を起こし、自らの身体で風を多く受けることによって走行抵抗を増やし、減速に有効活用している。
ところが、この減速のためにライダーが上体を起こす瞬間は、前記したようにストレートを走行した際の最高速度が出ており、ライダーが着用するヘルメットがもろに風の影響を受けることになる。
なお、オートバイの走行速度が仮に300km/hであったとしても、ヘルメットが受ける相対速度は、レース場の天候によって向かい風となっている場合には300km/hを超えている場合も当然に有り得る。
これらの事情から、上体を起こしたライダーには、殊にヘルメットの頂上面を通過する風の影響により、ヘルメットを上方へ浮き上がらせるような外力(前記した揚力)や、ヘルメットを後方へ引っ張ったり或いはライダーの首あたりを支点としてヘルメットを後方へ傾けたりするような外力が複雑に発生して作用するものである。
それ故、スポイラー4を備えない従来のヘルメットでは、ストレート走行時はもとより、コーナーへの突入時などに、ライダーの頭部に対するブレが最大となって運転に支障をきたすという感想が、ライダー達の間で強く起こっていたのである。
なお、このような問題を解決するために、従来は、ヘルメットの帽体に採用する形状やヘルメットに取り付ける付属パーツとして、空気抵抗を減らす工夫や、ヘルメット頂上面を通過する空気流がヘルメット後方へ離れる際の剥離点を、ヘルメット頂上面から可及的に後方へ移動させる工夫を探ることに専念していたという事情があった。
これらの工夫は大筋では問題解決に繋がっていたが、それでも解決できないものの一つとして、ヘルメットの浮き上がり問題が残っていたのである。
このような事情に対し、本発明に係るヘルメット1では、前縁に段差部5を備えたスポイラー4を設けることにより、前記したようにLift値を抑制乃至解消して、確実な浮き上がり防止作用が得られている。
ところで、このような浮き上がり防止作用は、ライダーの体感(感想)によるところが大きく、全てのライダーにとって同じ感想が得られるというものではない。ライダーごとに感想が変わる要因としては、ヘルメット1における帽体2の形状やオートバイのフレーム形状、オートバイに取り付けるカウリングの形状(特に、スクリーンと呼ばれる風防部分の上縁高さ)をはじめとして、天候、風向き、風力、速度、路面状況、そして何より、ライダーの乗車癖(身体及び頭部の姿勢)や体形等々、実に多種多様である。
このように、使用する車両をオートバイとする場合には、それが故の多種多様の要素が存在しているので、これほど多くの要素の中から、スポイラー4の段差部5を帽体2の頭頂部P(図1参照)に対して、具体的にどのような配置にするかについては、全てに共通させるような限定事項を設けることは非常に難しいものとなる。
従って、これらの多く存在する各種条件に合わせて、レース当日になって使用するヘル
メット1(スポイラー4における段差部5の配置や形状が異なるもの)を、ライダーごとの判断によって臨機応変に選択するという使用方法が推奨されるところである。
すなわち、前記したような多種多様の要素が存在していたとしても、本発明に係るヘルメット1を使用すれば、ストレート走行時やストレートエンドでの減速時などにおいてライダーの頭部を最も安定させるヘルメット姿勢が必ず存在するわけであるから、ライダー側で、そのようなヘルメット姿勢を探り出すという使い方をすればよいことになる。
そこで本出願人は、300km/hを超えるオートバイレースに参加できるようなプロフェッショナルの3人のライダーを選りすぐり、スポイラー4の段差部5を設けるべき最良の配置に関して、実際の走行試験を繰り返してもらったなかで、貴重な感想を得ることにした。
このライダー達の感想に基づけば、帽体2に設定される前後中央面FAVS(前記した「基本姿勢」において基準人頭模型100から流用して設定したもの)を境として、前方20度〜後方40度の範囲に、スポイラー4の段差部5を設けるのがよいという結論に至った。
このことを裏付けるものとして、図17に示すような圧力分布図を示すことができる。この圧力分布図は前記した「解析姿勢」のときを想定して、汎用流体解析ソフトウエアを用いたRANS手法によって求めた。なお、解析は前記した「解析姿勢」を想定しているので、解析中の前後中央面FAVSは鉛直方向ではなく鉛直方向に対して10.3度だけ前方へ傾けたが、図17の圧力分布図では前後中央面FAVSは鉛直方向として図示したものである。
すなわち、帽体2の前後中央面FAVS付近には、頂上面や左右の側面にかけて−2200Paの負圧域Aが生じており、この負圧域Aを取り囲んで−1550Paの負圧域Bが生じている。また概要だけを記すと、負圧域Bのまわりには−900Paまで緩和された負圧域が生じていた。
これらの負圧域のなかで、−1550Pa以下となる負圧域A,B(前後中央面FAVSの前方20度〜後方40度の範囲)に着目して、左右中央面(鉛直面)LRVSを中心とする左右対称形の段差部5を配置しておけば、ライダーの頭部を最も安定させるヘルメット姿勢(浮き上がり防止作用)が必ず存在するものであると結論付けたものである。
なお、前記の感想を得たプロフェッショナルのライダー達からは、本発明に係るヘルメット1であれば、ストレートエンドでの減速時だけでなく、ストレートの走行時(着用者が伏せた姿勢となっているとき)であっても、ヘルメット1が浮き上がり現象などを生ずることなく、頭部を安定させてライディングができたとの高評価を得ている。
更には、プロフェッショナルのライダー達だけでなく一般のライダー達からも、100km/h程度で走行している際に、ストレートの走行時などにおいて、ヘルメット1が浮き上がり現象などを生じにくいものであるとの良い評価を得ている。
図6乃至図12は、本発明に係るヘルメット1の第2実施形態を示している。本第2実施形態が第1実施形態と最も異なるところは、スポイラー4が、円弧カーブだけではなく、左右両側に後方へ屈曲する部分を有して平面視M字状に形成されている点にある。
その他の構成や作用効果は第1実施形態と略同様であるので、同一作用を奏する部分に同一符号を付することによりここでの詳説は省略する。
ところで、本発明は、前記した各実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
例えば、各実施形態を説明するうえでは、オートバイへ乗車する際を説明したが、オートバイ乗車時以外の用途としても、本発明に係るヘルメット1は使用可能である。例えば、3輪バイク(サイドカー等も含む)や4輪バギー、F1カー等のレーシングカーといった車両への乗車時にあって、運転者用又はパッセンジャー用として使用することが可能である。その他、モータースポーツをはじめとするスポーツ全般において使用することも可能である。
スポイラー4は、帽体2とは別パーツとして形成した後、両面テープや接着剤などを用いて帽体2に接着してもよいし、加熱溶着や超音波溶接などによって帽体2に一体化させ
てもよい。また、場合によっては、帽体2に対してスポイラー4(又は段差部5)を一体形成してもよい。
スポイラー4は、例えば左右両端部を帽体2の左右両脇に沿わせて下方へ垂下させるような形状としてもよい。なお、スポイラー4の前縁部を湾曲形に形成させることは限定されるものではなく、少なくとも帽体2の左右中央部の頭頂部Pに段差部5が設けられるものであればよい。そもそも、帽体2の左右中央部の頭頂部Pに段差部5を設けるのであれば、この段差部5がスポイラー4の一部を形成していること自体、限定されるものではない。
スポイラー4は、帽体2の左右中心部に配置させる段差部5を備えたものであれば、左翼側の延び出し部や右翼側の延び出し部を備えさせることや、扁平な上面を備えさせること、帽体2から浮き上がるように後方へ突出させることなどは、特に限定されるものではない。
本発明のヘルメット1は、100km/hを超える速度下においてより一層高い効果が認められるものではあるが、100km/h以下の速度であっても従来との比較において十分な作用効果が得られるものであって、高速走行する場合などに使用することが前提とされるものではない。
1 ヘルメット
2 帽体
3 シールド
4 スポイラー
5 段差部
P 頭頂部
100 基準人頭模型
200 被験ヘルメット
202 帽体
P 頭頂部
HS 参照平面(水平面)
FAVS 前後中央面(鉛直面)
LRVS 左右中央面(鉛直面)
W1 比較例1のヘルメット
W2 比較例2のヘルメット

Claims (4)

  1. 着用者の頭部を覆ってヘルメット外形を形成すると共に着用者の前方視野を確保する前部開口が設けられて成る帽体に対して、前記前部開口よりも上部側となる頭頂部の左右方向中心部を起点として走行時の風が真正面からぶつかるようになる配置で立ち上がる段差部が設けられていることを特徴とするヘルメット。
  2. 前記段差部は前記帽体から0.5mm以上6.3mm以下の高さを有して形成されていることを特徴とする請求項1記載のヘルメット。
  3. 前記段差部は、前記帽体の前記頭頂部における左右方向中心部から左翼側及び右翼側の両端へ近づくほど徐々に前方へ突き出る左右対称の湾曲形を有すると共に、少なくとも前記頭頂部では前記帽体から浮き上がりつつ後方へ突き出す後縁を有して、全体でスポイラーを形成したものであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のヘルメット。
  4. [JIS T 8133:2015]の[附属書B,C]に規定される基準人頭模型に、当該規定の[附属書A]に規定されるヘルメット装着方法に基づいて装着したヘルメットにおいて前記帽体の前後方向中央で起立する前後中央面を境として前方20度乃至後方40の範囲に、前記段差部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のヘルメット。
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