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JP2020098848A - 半導体素子接合部材 - Google Patents

半導体素子接合部材 Download PDF

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Abstract

【課題】最高動作温度が300℃に達する半導体デバイスと、該半導体デバイスが載置される電極基板等と接合するために使用可能な半導体素子接合部材を提供する。【解決手段】半導体素子11と該半導体素子11が載置される基板12を接合する半導体素子接合部材であって、Ag、Cu、及びAuのうちの少なくとも1種類とSnとを主成分とし、融点が500℃以上である合金102からなり、内部に、総体積が全体の5パーセント以上40パーセント以下である複数の空隙101を有し、-40℃への冷却と300℃への加熱を300回繰り返すヒートサイクルテストを行った後の熱伝導率が120W/m・K以上、電気伝導率が50%IACS以上である半導体素子接合部材10。【選択図】図1

Description

本発明は、半導体素子と基板とを接合するために用いられる半導体素子接合部材に関する。
近年、HV(Hybrid Vehicle)車に続き、世界各国で電気自動車(EV: Electric Vehicle)が普及しつつある。こうしたなか、SiC半導体デバイスを使用した小型、高性能、かつ安価な絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT: Insulated Gate Bipolar Transistor)モジュールの研究開発が進められている。
第1世代のIGBTモジュールでは、当初、絶縁回路基板としてDBC(Direct Bonded Cupper。絶縁性のセラミック基板に、導電性の優れたCuを回路層として接合したもの。)が検討されたが、より厳しい使用環境で使用することが可能なDBA(Direct Bonded Aluminum。セラミック基板に、導電性の優れたAlを回路層として接合したもの。)が用いられるようになった。その後、放熱基板とサーマルグリスを省略し、DBAと冷却器をAlパンチングメタルで接合した構造を採ることで、第1世代のIGBTモジュールに比べて熱抵抗を30%低減した第2世代のIGBTモジュールが実用化された。第1世代のIGBTモジュール及び第2世代のIGBTモジュールのように、半導体デバイスの片面に放熱経路(以下、「熱路」という。)を設ける構造は、片面冷却構造と呼ばれる。
第3世代のIGBTモジュールは、半導体デバイスの両面にCu薄板をハンダ付けした両面冷却構造を有しており、Si4N3セラミック(以下、「SINセラミック」と記載する。)により半導体デバイスが絶縁され、絶縁樹脂接着剤(絶縁グリス)により冷却器と接合される。こうした新しい構造を採ることにより、第1世代のIGBTモジュールに比べて熱抵抗を65%低減し、第2世代のIGBTモジュールに比べて熱抵抗を50%低減した、優れた冷却性を有するIGBTモジュールが実用化された。
第3世代のIGBTモジュールで用いられる、半導体デバイスからの放熱経路は、電極基板、冷却器のラジエータ、及びSINセラミックの板材を接合した簡素な構成のものである。半導体デバイスと半導体デバイスと電極基板等の基板の接合は、ダイボンディング(あるいはダイアタッチ、チップボンディング)と呼ばれる。また、ダイボンディングに用いられる材料はダイボンド材料と呼ばれる。電極基板、冷却器のラジエータ、及びSINセラミックの板材は樹脂接着剤で接合される。これらの部材で構成される熱路は両面冷却構造と片面冷却構造を問わず使用可能であることから、IGBTモジュールの熱路として将来にわたって広く用いられるものと考えられる。
本発明者は、IGBTモジュールにおける放熱効率を高めるべく、Cu電極の熱抵抗を低減した(Cuよりも熱伝導率が高い)、金属とダイヤモンドを主成分とする放熱電極基板を提案している(特許文献1)。また、放熱基板や電極と冷却器を接合するために用いられる高熱伝導性絶縁樹脂複合部材も提案している(特許文献2)。この高熱伝導性絶縁樹脂複合部材は、ダイヤモンドやセラミックを絶縁樹脂材料中に配置してなる主層と、該主層の表裏面に配置した保護接合層を有している。従来の樹脂接着剤とセラミックからなる絶縁部材に代えて、この高熱伝導性絶縁樹脂複合部材を用いることにより、熱抵抗を大幅に低減することができる。
国際公開第2018/190023号 特許第6384979号公報
守田俊章,"Agナノ粒子を用いた高耐熱低熱抵抗Pbフリー接合技術とパワー半導体モジュール実装への展開",2008年12月,大阪大学大学院工学研究科 関東経済産業局、アルファーデザイン株式会社,平成26年度戦略的基盤技術高度化支援事業「次世代パワー半導体のための金属微粉末を用いた低温焼結接合技術と製造装置の開発」研究開発成果等報告書平成27年3月
特許文献1及び2において本発明者が提案した放熱基板及び高熱伝導性絶縁樹脂複合部材を用いることによりIGBTモジュールにおける熱路の熱抵抗が低減される。しかし、主要な熱路には、これらのほか、半導体デバイスと基板(例えば電極基板)を接合するダイボンドも含まれる。最高動作温度が300℃に達する半導体デバイスを搭載してIGBTモジュールを更に小型化及び高性能化するには、ダイボンド材料の熱抵抗を低減する必要がある。また、半導体デバイスの動作時の信頼性も求められる。
従来のIGBTモジュールでは、最高動作温度が150℃程度であるSi半導体デバイスがDBAに搭載されている。半導体デバイスの材料であるSiの線膨張係数は4.5ppm/Kである。また、DBAの線膨張係数は7ppm/Kである。従来、半導体デバイスと絶縁回路基板を接合するダイボンド材料に柔らかいハンダを用いることによって、半導体デバイスの動作時に生じる、半導体デバイスと絶縁回路基板の線膨張係数の差に起因する熱応力を緩和している。
このように、従来、半導体デバイスと電極基板を接合する際には、溶融させたハンダを両者の間に流し込んで接合(溶融接合)している。こうして形成したハンダのダイボンドは、外周のハンダのメニスカス状態を確認したり、ハンダの内部をX線や超音波により測定することによってボイド等の欠陥を確認したりすることで信頼性が確保できることから、長く用いられてきた。ハンダのメニスカス状態とは、ハンダが接合部の外周に流れ出た状態をいう。
電極の熱抵抗を低減するためにDBAに代えてCu電極基板を使用すると、線膨張係数は17ppm/Kと大きくなる。そして、Siの半導体デバイスとCu電極の場合の線膨張係数差も12.5ppm/Kと大きくなる。そのため、最高動作温度が高くなるとハンダ等のダイボンド材料では両者の間に生じる熱応力を緩和することが難しくなる。
ここで、従来用いられている代表的なハンダや他の接合材のいくつかを概説する。
(Sn系ハンダ)
車載用のIGBTモジュールでは、Pbフリーである、Sn系のハンダ(Snを主成分とするハンダ)、例えばSnCu系(融点228℃)、SnAg系(融点221℃)、SnAgCu系(融点219℃)、SnSb系(融点240℃)のハンダが用いられている。また、これらのSn系のハンダにNiボールを充填してダイボンドの厚さを調整したものも用いられている。しかし、これらのいずれも、融点が300℃未満である。また、熱伝導率が60W/m・K以下と低い。さらに、電気伝導率も25%IACS以下と極めて低い。この値は、電気炉で発熱材として用いられるWの電気伝導率30%IACSより低い。なお、IACS(International Annealed Copper Standard)とは、焼鈍標準軟銅(体積抵抗率: 1.7241×10-2μΩm)の電気伝導率を100%IACSとして、各種材料の電気伝導率を表したものである。Snの融点は234℃、熱伝導率は66ppm/m・K、電気伝導率15%IACSである。そのため、Snを主成分として含む上記Sn系のハンダでは最高動作温度が300℃に達する半導体デバイスから放出される熱を放出したり、そうした半導体デバイスと電極の接合に用いたりすることは難しい。
(Au系ハンダ)
Sn系ハンダよりも耐熱性が高い、Auと添加材の共晶を利用したハンダも用いられている。しかし、添加剤としてSiを含むAuSiのハンダは、融点が370℃であるものの脆く、また、熱伝導率が53W/m・K、電気伝導率が22%IACS、といずれも低い。添加剤としてGeを含むAuGeのハンダも、融点が356℃であるものの脆く、熱伝導率が44W/m・K、電気伝導率が17%IACS、といずれも低い。加えて、これらのAu系ハンダは高価であり、特に寸法が大きい半導体デバイスを接合する材料として使用するには不向きである。
(Ag蝋材)
上記の他に、耐熱性が高いAg蝋材で半導体デバイスと電極を接合するという方法もある。Ag蝋材は熱伝導率と電気伝導率が高いという点で良好な特性を有する。しかし、Ag蝋材の融点は一般に600℃以上であり、Ag蝋材を用いて半導体デバイスと電極を溶融接合しようとすると、半導体デバイスが熱により破損するという問題がある。
(ナノAg)
大学、研究機関、企業等では、上記のSn系ハンダ、Au系ハンダ、及びAg蝋材に代わる新たな材料を、パワー半導体のIGBTモジュールやLEDのダイボンディングに用いる試みがなされている。例えば非特許文献1では、ナノサイズのAg粒子(酸化銀の還元等により生成されるものを含む)やフレーク状のAg粒子等が、その表面活性によりバルク材料の融点よりも低い温度で焼結(低温焼結)されるという、低温融合現象を利用することが提案されている。ナノAgの低温融合現象を利用して焼結した焼結体はバルク材料の融点まで溶融しない。この方法では、300℃程度の低温で、次第にナノAg粒子同士が結合して二次粒子が形成されていく。二次粒子が形成されると、それ以上、低温のままでは焼結しないため、焼結体の顕微鏡像には二次粒子間の粒界が明確に現れる。
非特許文献1では、ナノAgをダイボンド材料として用いたパワー半導体モジュールについて、-40℃への冷却と125℃への加熱を繰り返したヒートサイクルテストの結果から、ダイボンド材料としてハンダを用いる場合と同程度の信頼性が得られるとされている。しかし、非特許文献1に記載されているような低温下では、ナノAg粒子から成長した二次粒子が焼結されず、内部に明確なナノ粒子の粒界やボイドが存在する。そのため、十分な強度を得ることができず、300℃に達するヒートサイクルテストを行うと粒界を起点とする割れや欠けが生じやすい。従って、最高動作温度が300℃に達する半導体デバイスを接合するダイボンド材料として用いることは難しい。また、非特許文献2に記載されているように、高価な材料である、取り扱いが困難である、ダイボンドを厚くすることが難しい、接合強度が均一でない、といった問題もある。
(Ag3Sn合金)
非特許文献2では、AgとSnの微細な粉末の混合物について、上記同様に低温融合現象を利用して焼結したAg3Snをダイボンド材料として用いることが検討されている。こうして作製されたAg3Snにはボイドが少なく、焼結後の融点(以下、これを「再融点」と呼ぶ。)も480℃と高い。また、熱伝導率は約70W/m・Kであり、従来のハンダの熱伝導率(60W/m・K以下)よりも高い。さらに、高いダイシェア強度(半導体デバイスと電極基板の接合強度)が得られるという報告もある。しかし、非特許文献2に記載の材料では粒界に脆いAg3Sn粒子が凝集しており、ヒートサイクルテスト(後述)において粒界を起点とする割れや欠けが生じやすい。また、半導体デバイスや基板との接合部が剥離しやすいことから、ダイボンド材料として用いることは難しい。
このように、さまざまなダイボンド材料の開発が進められているが、現状では最高動作温度が300℃に達する半導体デバイスを接合するダイボンド材料やダイボンディング技術は未だ確立されていない。また、従来のダイボンド材料の特性評価の多くは材料単体を評価したものであり、必ずしも半導体デバイスを電極基板等に接合された実装時の状態を考慮したものではない。
本発明が解決しようとする課題は、最高動作温度が300℃に達する半導体素子と電極基板等の基板を接合するために用いることができる半導体素子接合部材を提供することである。
(目標特性)
最高動作温度が300℃に達する半導体デバイスから発せられる熱を十分に放出するには、最高動作温度が150℃である半導体デバイスのダイボンドの熱伝導率(ハンダの熱伝導率は60W/m・K以下)の2倍以上の熱伝導率、即ち120W/m・K以上の熱伝導率を有することが求められる。また、半導体デバイスは動作時に局所的に熱が発生する場合があることから、動作時の信頼性を確保するために、ダイボンドの耐熱温度は500℃以上であることが好ましい。従来のIGBTモジュールにおいて、電気伝導率に起因する問題は未だ顕在化していないが、半導体デバイス(チップ)に流れる電流が100A、200A、300Aと大きくなるにつれて、半導体デバイスとの接合部で発生するジュール熱が電流値の二乗及び電気抵抗値に比例して大きくなっていくことを考慮すると、電気伝導率が50%IACS以上であることが好ましい。
(評価)
半導体デバイスを構成する主な材料の線膨張係数は、Siが4.1ppm/K、SiCが4.5ppm/K、GaNが3.2-5.6ppm/K、といずれも小さい。一方、代表的な電極材料であるCuの熱伝導率は17ppm/Kと大きい。従って、半導体デバイスと電極基板を接合するダイボンドは、両者の線膨張係数の差に起因して半導体デバイスの動作時に生じる大きな熱応力を緩和可能なものでなければならない。従来、ダイボンドの開発では、耐熱性や融点の特性以外に、300℃で所定時間保持して割れや欠けなどが生じないかのテスト、あるいは常温でのダイシェア試験(せん断強度測定)を行うことで、実装時の特性評価に代えていた。一部では、これらと併せ、-40℃への冷却と250℃への加熱を繰り返し行い、割れや欠けが生じないかを確認する試験(ヒートサイクルテスト)も行われてきた。本発明では、後述するようにSiC半導体デバイスと電極の接合面にそれぞれNiめっき層を設けてダイボンディングすることを想定している。従って、IGBTモジュールへの実装を想定したテストを行うには、上記接合層を設けた状態で-40℃への冷却と300℃への加熱を繰り返すヒートサイクルテストを行うことにより実装時の特性を判断する必要がある。また、このヒートサイクルテストを行った後でも、上述の熱伝導率及び電気伝導率を有することが求められる。
(製品形態)
半導体デバイスの大きさや性能に応じてダイボンド材料に求められる特性は異なるが、ダイボンドが薄すぎると半導体デバイスと電極の間に生じる熱応力を十分に緩和することができない場合がある。一方、ダイボンドが厚すぎると平行度や寸法精度を高めることが難しくなり、特性にばらつきが生じやすくなる。これらの点を考慮すると、ダイボンドの厚さは0.01mm以上0.3mm以下とすることが好ましい。
(製造履歴)
従来の接合例には接合時のピーク温度が350℃程度に達するものも存在するが、半導体デバイスの破損を確実に防止するには接合時の最高温度が300℃以下であることが好ましい。IGBTモジュールに実装される半導体デバイスにかかる圧力の限界値(半導体デバイスの破壊が生じない圧力の最大値)については、特に具体的な値が報告されたものはないが、半導体デバイスの接合時に印加する圧力は5MPa以下とすることが好ましく、できるだけ低いことが好ましい。
(検討事項1:材質の決定)
本発明者は、ダイボンドの検討にあたり、まず、バルク材料の融点よりも低い温度で焼結可能であり、また-40〜350℃でのヒートサイクルテスト後にも十分な熱伝導率と電気伝導率を有することが期待される材料である、Ag(融点961℃、熱伝導率105ppm/m・K、電気伝導率110%IACS)系の材料を調査した。溶解法で製造されるAg蝋の1つであるBAg-18(JIS規格。Agの含有率:60質量パーセント、Cuの含有率:30質量パーセント、Snの含有率:10質量パーセント)の融点(固相線温度)は約671℃である。その熱伝導率を測定したところ、215W/m・K、電気伝導率は57%IACSであった。これらはいずれも目標値を超えている。バルク材料の溶融温度(融点)は671℃と高いものの、AgとSnからなるAg3Snの加圧焼結法における低温融合現象(非特許文献2)を利用すれば解決できると考えた。ここでいう低温融合現象は、AgとSnの状態図に見られるように、Snの含有率が高くなるにつれて融点がバルク材料のAgの融点から低下する現象をいう。この低温融合現象を利用した方法を、本願明細書では「低温加圧焼結法」と呼ぶ。なお、ここでいう低温融合現象は、ナノAgにおいて見られるような、粒子の表面活性に起因する低温融合現象とは異なる。
Agの融点は961℃、Snの融点は232℃、Cuの融点は1083℃である。従って、これらの含有比を適宜に変更することにより接合時の溶融温度を下げることができる。しかし、AgにSnを混合すると大きく熱伝導率が低下することが知られている。また、非特許文献2に記載されているように、加圧焼結法で作製された60Ag40Sn(Agの含有率:60重量パーセント、Snの含有率:40重量パーセント)のAg3Sn合金の熱伝導率は70W/m・Kと低く、BAg-18の熱伝導率(215W/m・K)とは大きく隔たりがある。さらに、溶解法で作製された60Ag40Sn(Agの含有率:60重量パーセント、Snの含有率:40重量パーセント)の熱伝導率は83W/m・Kと低い。一方、90Ag10Sn(Agの含有率:60重量パーセント、Snの含有率:40重量パーセント)の熱伝導率は310W/m・Kと非常に高かった。
こうしたこと踏まえて10種類の混合粉末材料(いずれも平均粒径2μm)を、SiC半導体デバイス(片面にNiめっき層を設けたもの)と電極(片面にNiめっき層を設けたもの)の間に配置し、真空雰囲気において300℃で1MPa又は5MPaの加圧下で10分間保持することにより、SiC半導体デバイスと電極の間に厚さ0.2mmのダイボンドを形成した試料1〜10を作製した。そして、実装状態での使用の適否を確認するために、それぞれの再溶解温度を測定し、続いてヒートサイクルテストを行って合否を判定した。そして、再溶解温度とヒートサイクルテストの結果から試料1〜10の信頼性を確認した。表1に試料1〜10の組成、加圧条件、再溶解温度、及びヒートサイクルテストの結果を示す。
Figure 2020098848
試料1−3では内部に多数のボイド(空隙)が存在していたにもかかわらず、ヒートサイクルテストにおいて割れや欠けが生じなかった。本発明者は、この結果は、車載用の第2世代のIGBTモジュールにおいて放熱基板を省略する際にDBA(線膨張係数が7ppm/K)とAl合金(線膨張係数が21ppm/K)からなる冷却器(ラジエータ)をAlハンダにより接合するとAl板では接合面が剥離した一方、Alパンチング板(Al板材に多数の貫通孔を形成したもの)では接合面の剥離が生じなかったという事実、つまり、Alパンチング板に形成されている貫通孔(空隙)が応力を緩和した、という事実と共通していると考えた。また、従来、ハンダやAg3Sn合金では問題とされてきたボイドやパンチングメタルの貫通孔等の空隙が、接合部材間の線膨張係数差から生じる熱応力を緩和する効果があることに気づいた。そして、条件を種々に変更しつつ半導体素子接合部材を作製及び評価した結果を検討し、本発明に想到した。
上記検討から得られた本発明は、半導体素子と該半導体素子が載置される基板を接合する半導体素子接合部材であって、
Ag、Cu、及びAuのうちの少なくとも1種類とSnとを主成分とし、融点が500℃以上である合金からなり、
内部に、総体積が全体の5パーセント以上40パーセント以下である複数の空隙を有し、
-40℃への冷却と300℃への加熱を繰り返すヒートサイクルテストを300回行った後の熱伝導率が120W/m・K以上、電気伝導率が50%IACS以上であることを特徴とする。
本発明に係る半導体素子接合部材は、Ag、Cu、及びAuのうちの少なくとも1種類とSnとを主成分とする、融点が500℃以上である合金により構成されることから、動作時の温度が300℃あるいはそれ以上となる半導体デバイスを接合する材料として十分な耐熱性を有している。
また、その内部に総体積が全体の5パーセント以上、40パーセント以下の複数の空隙を有しており、これらの空隙によって半導体素子接合部材の変形が許容され、半導体デバイスと電極基板等の基板の線膨張係数の差により生じる熱応力が緩和される。なお、空隙の割合が5体積パーセント未満であると熱応力を緩和する効果が十分でなく、40体積パーセントを超えると材料そのものが破断しやすくなる。なお、空隙の形状や数は被接合物の使用環境や製造工程などに応じて適宜に決めればよいが、1個の空隙の大きさは、該空隙を同体積の球に近似したときにその直径が0.1mm以上3mm以下の範囲であることが好ましい。0.1mmよりも小さいと、応力を緩和する効果が低下しやすい。また3mmよりも大きいと空隙の位置で熱抵抗が増大しやすくなる。1個の空隙の大きさは、より好ましくは0.2mm以上2mm以下である。
さらに、-40℃への冷却と300℃への加熱を300回繰り返すヒートサイクルテストを行った後の熱伝導率が120W/m・K以上、電気伝導率が50%IACS以上であることから、半導体デバイスの動作時に発生する熱を効率よく放出することができ、また、半導体素子接合部材に過剰なジュール熱が発生することもない。本発明に係る半導体素子接合部材は、これらの要件を有するため、動作時の最高温度が300℃に達する半導体デバイスと、該半導体デバイスが載置される基板の接合に用いることができる。
本発明に係る半導体素子接合部材は、Snの含有率が2重量パーセント以上20重量パーセント以下であることが好ましい。本発明者がSnの含有率を種々に設定して行った試験の結果によれば、貫通孔を複数設けたAg板材に、Snの含有率が全体の2重量パーセントから20重量パーセントの範囲となるように調整した大きさのSnの板材を重ね、Snの融点以上(例えば300℃)に加熱したあと0.5〜5MPaの圧力を印加することにより、Ag板材の表面で溶融したSnをAgと合金化したところ、融点が500℃以上である等の上記の要件を満たす半導体素子接合部材を得ることができた。本願明細書ではこの方法を「溶融反応法」と呼ぶ。Ag、Cu、あるいはAuとSnの状態図から分かるように、Snの含有率を20重量パーセント以下と低くすると共晶物の生成が抑制される。粒界に共晶物が存在していると亀裂の起点になりやすい。Snの含有率を上記範囲内とすることにより、粒界に共晶物が存在しにくくなる。これにより、亀裂の発生を抑え、耐久性を高くすることができる。一方、Snの含有率が2重量パーセント未満であると、前記低温融合現象(Snの含有率が高くなるにつれて融点がバルク材料のAgの融点から低下する現象)が十分に現れにくく、低温で半導体素子接合部材を作製することが困難になる。なお、作製時に印加する圧力等の条件によって、作製後の半導体素子接合部材の特性は異なる。上記Snの含有率の範囲及び作製時の圧力条件は一例であって、上記特性を満たす限りにおいて適宜に変更することができる。
本発明に係る半導体素子接合部材を用いることにより、最高動作温度が300℃に達する半導体デバイスと、該半導体デバイスが載置される電極基板等とを接合することができる。また、本発明に係る半導体素子接合部材では、必ずしも高価なナノAgを使用しなくても良い。更に、これまでハンダ接合で培った技術や設備が使用できる。
ハンダでは、一般に、5%以上の空隙(ボイド)が存在すると、ヒートサイクルテストにおいてボイドが起点となり、粒界に存在する、強度が低い共晶合金の部分を亀裂が連鎖して破壊される。また、Ag3Snでも、ボイドが存在するとヒートサイクルテストにおいてボイドが起点となり、粒界に存在する、強度が低いAg3Sn共晶合金の部分を亀裂が連鎖しして破壊される。ナノAgの場合、一次粒子はバルク材のAgの融点よりも低温で焼結されるが、焼結により形成された二次粒子はバルク材のAgの融点よりも低い温度では焼結しないため、粒界が発生する。このようなボイドが存在すると、ヒートサイクルテストにおいてボイドが起点となり、強度が低い二次粒子の亀裂が連鎖して破壊される。
従来のダイボンドでは、ボイド等の空隙があると、そこが起点となり亀裂が連鎖して破壊され、ヒートサイクルが合格できないと問題があったため、ボイド等の空隙を極力減らす研究開発が行われてきた。しかし、本発明者が見出した知見によれば、ボイド等の空隙があっても合金の強度が十分に高ければヒートサイクルテストに合格し、また、ヒートサイクルテスト後にも熱伝導率や電気伝導率に関する所要の特性を有する。
今回の発明は、これまでボイド等の欠陥をなくすという従来の材料開発とは逆の発想に基づくものであり、ボイドを強固な材料で取り囲むことによってボイドが欠陥の起点とならないようにすることで、ボイドを熱応力の緩和に利用したものである。
本発明に係る半導体素子接合部材の一実施例により半導体デバイスと電極部材を接合した状態の構成図。
本発明に係る半導体素子接合部材は上記の通りであるが、その技術的思想はより一般化することができる。具体的には、本発明の技術的思想は、半導体素子と該半導体素子が載置される基板を接合する半導体素子接合部材を、
第1金属と、該第1金属よりも融点が低い第2金属を主成分とし、該第2金属の含有率が2重量パーセント以上、20重量パーセント以下である、融点が500℃以上である合金からなり、
内部に、総体積が全体の5パーセント以上40パーセント以下である複数の空隙を有し、
-40℃への冷却と300℃への加熱を300回繰り返すヒートサイクルテストを行った後の熱伝導率が120W/m・K以上、電気伝導率が50%IACS以上である
という要件を満たすものとすること、と表現することができる。
本発明に係る半導体素子接合部材の実施例を説明する。本実施例の半導体素子接合部材10は、いわゆるダイボンドであって、図1に示すように、半導体デバイス11を電極基板12等の基板と接合するために用いられる。本実施例の半導体素子接合部材10は、合金101の内部に空隙(ボイド)102を所定の割合で設けたものである。なお、図1では、第1金属の板材に設けた貫通孔に第2金属を導入することにより作製した場合の半導体素子接合部材10の構造、即ち、ボイド102が図の上下方向に並ぶ例を記載したが、ボイド102は合金101の内部にランダムに位置してもよい。また空隙(ボイド)の大きさや形状が一定である必要はない。また、必ずしも半導体素子接合部材10の全体にわたって空隙(ボイド)102が均一に分布している必要はなく、例えば動作時に応力が大きくなりやすい場所がある場合には、その場所に多くの空隙を集中的に配置してもよい。
(第1金属の芯材)
芯材は、例えばAg、Cu、Au、及びそれらの合金のうちの1乃至複数である、第1金属から構成する。第1金属には融点、熱伝導率、電気伝導率が高い金属を用いる。第1金属には、特にAgを好適に用いることができる。一方、Cuを用いることによりAgの使用量を減らして安価に半導体素子接合部材を作製することができる。使用時の形状は板状、粉末状のいずれであってもよい。板状のものを用いると、高強度の半導体素子接合部材を作製することができ、また作製自体も容易になる。粉末状のものを用いると、半導体素子接合部材の内部に形成される空隙(ボイド)を均一に分布させることができる。
板状のものを用いる場合、例えば厚さ0.02〜0.3mmのものを用いることができる。また、板状のものを用いる場合には、得ようとする半導体素子接合部材の内部に形成する空隙(ボイド)率に応じた大きさ及び数の孔を予め開けておく。穿孔は、例えばレーザ加工、ドリル加工、エッチング加工、パンチング加工により行うことができる。
粉末状のものを用いる場合、例えば粒径が10nm〜0.3mmの範囲のものを用いることができる。使用する粉末の大きさは均一であってもよく、あるいは異なる粒径の混合粉末であってもよい。芯材として目的が果たせれば加圧焼結法や含浸法、芯材の作製方法は限定されない。作製方法の詳細は後述するが、例えば、水素雰囲気において900℃で加熱焼結することによりボイドを含んだ芯材を作製することができる。
(第2金属)
上記芯材に含浸させる金属(上記第2金属に相当)であり、例えばSnを好適に用いることができる。半導体素子接合部材の作製時に印加する圧力によって異なるが、第2金属の割合は、得ようとする半導体素子接合部材の2重量パーセント以上、20重量パーセント以下の範囲内とするとよい。これにより、ヒートサイクルテストにおいて問題が生じず、また所要の特性を得ることができる。また、第1金属と第2金属以外に、添加金属としてZn、Sb、Ni、Mn、Ti、In、Mo、Si、V、Ge及びLiのうちの1乃至複数を更に含んでいてもよい。
(被接合部材)
被接合部材の一方は半導体デバイスであり、他方は該半導体デバイスを載置する基板(たとえば電極基板)である。従来、これらをハンダにより接合する際には、接合面にNi、Pt、Co等からなる金属層を設けている。IGBTモジュールでは厚さ2μm程度のNi層を設けることが多い。また、電極基板や放熱基板の接合面には、Niのほか、Ti、W、Co等からなる金属層を設けることもある。さらに、Ag蝋材により接合する場合には、Ag蝋材との反応を防止するためにNi、Pt、Co等からなる金属層が設けられることがある。多くの場合、Ni系のめっきである電解Niめっき、無電解のNi-P、Ni-Bなどが用いられる。その他、上記各層の上に、Ag、Au、Cu、Zn等の、1乃至複数のめっき層が設けられることもある。本発明に係る半導体素子接合部材により半導体デバイスと基材を接合する際にも、上記同様に各層を適宜に用いることができる。
(合金化と接合の工程)
ダイボンドには、半導体デバイスと基板を接合するだけでなく、の熱を冷却器にダイボンドで伝達することも求められる。そのためには被接合部材との接合性と熱の伝達性が高い必要がある。AgとSnを主成分とし、内部に空隙を設けた合金構造とすることによって、この目的を達成した。この合金の製作には加圧焼結法、溶浸法、Ag板に溶融したSnを反応させる方法(以下、「Ag板Sn反応法」と呼ぶ。)等、様々な方法があるが上記の目的を達成できれば製造方法は限定されない。また、単一の方法だけでなく、複数の方法組み合わせてもよい。
加圧焼結法は、Ag、Sn等の混合粉末を使用し、Snを溶かして加圧しながら合金化しつつ、半導体デバイスと冷却器を接合するものである。また、溶浸法は、Agのスケルトンの上下にSnを置きSnを溶かして合金化しながら半導体デバイスと冷却器を接合するものであり、低い加圧力で目標を達成することができる。さらに、Ag板Sn反応法は、上下に配置したSnを溶かしAgと反応させて合金化しつつ、半導体デバイスと冷却器を接合するものであり、最も高い強度のAgSn合金が得られる。また、低い加圧力で目標を達成することができる。また、合金の表面を平滑化したり被接合物との接合性を向上したりするために、作成した合金の表面に1乃至複数の、Ag又は/及びSnからなるメッキ層を設けてもよい。
板状の第1金属を用いる場合には、例えば芯材の上下に第2金属の板材を配置したり、芯材の表面に第2金属をめっき処理したりすることにより第2金属を配することができる。また、粉末状の第1金属を用いる場合には、第1金属の粉末と第2金属の粉末を混合して焼結し、混合粉末のスケルトンを作製してもよい。これにより効果的に第2金属を第1金属にSnを含浸させることができる。また、半導体デバイスの接合面及び/又は基板(電極基板等)の接合面に第2金属をめっきし、芯材の上下にそれらを配置してもよい。なお、半導体デバイスの接合面及び/又は基板の接合面に第2金属をめっきする前の段階で、該接合面にNi、Ag、Ti等からなる1乃至複数のめっき層が形成されていてもよい。特に、Niめっき層を形成しておくことによりAgSn合金との接合性を高めることができる。
金属の接合、反応、焼結、含浸等を行う際には、温度、圧力、保持時間等の条件を最適化し、接合状態が良好な合金を作製することが基本であり、本実施例においても同様である。含浸法により第1金属と第2金属を主成分とする合金を作製する場合、溶融して第2金属が毛細管現象によって第1金属からなるスケルトンの孔に流入するため、含浸時の荷重は半導体デバイスの自重程度で十分である。溶解した第2金属が第1金属の孔に入り込むとその孔の表面から第1金属が徐々に溶解し、第1金属の芯材の内部に第2金属が含浸する。芯材の表面でも同様に、第1金属が徐々に溶解して第2金属が含浸していく。また、高い精度で厚さを制御する場合には圧力を印加すればよい。一方、過剰な圧力を印加すると半導体素子が損傷する等の心配があることから、印加する圧力は5MPa以下とすることが好ましく、0.5から4.0Mpa範囲であることがより好ましい。含浸により溶融した第2金属が芯材を構成する第1金属と反応して合金化し、これによって半導体デバイスと電極基板が高強度でダイボンディングされる。また、第1金属と第2金属の混合粉末を用いた場合にも第2金属の溶融により合金化し、これによって半導体デバイスと電極基板が高強度でダイボンディングされる。
本実施例の半導体素子接合部材の融点を500℃以上としているのは、半導体デバイスの動作時に局所的に熱が発生する場合があるためである。また、AgSn合金の場合、融点が500℃以下である合金では粒界に脆いAg3Sn粒子が凝集し、ヒートサイクルテストにおいて割れや欠け等の損傷が生じたり、熱伝導率等の特性が低下したりするという問題も生じる。AgとSnの状態図から分かるように、また後述する実施例と比較例に示すとおり、AgSn合金の場合、Snの含有率が2wt%以上20wt%以下であれば、低温融合現象を利用して上述した所要の特性を有する半導体素子接合部材が得られる。
ダイボンディングは、真空雰囲気、非酸化雰囲気、窒素雰囲気、水素雰囲気、水素窒素囲気等で行うことができる。Snの融点は235℃であるが、Agと反応させて合金化することによって、AgSn合金の再融点は500℃以上になる。
(評価1:信頼性)
本実施例は、半導体デバイスの自重を加えつつSnを溶融させて合金化した。その過程で、Snの一部が外周に出てくるため、その状態を管理することで接合の信頼性を確保した。
(評価2:耐熱評価)
試験片を500℃に加熱し、接合部の溶解の有無を確認した。接合部に溶解が見られないものを合格とした。また、接合部に溶解が見られなかったものについて、ヒートサイクルテストを行った。
(評価3:ヒートサイクルテスト)
後述の各実施例では、最高動作温度300℃の半導体デバイスの接合を想定したヒートサイクルテストを行った。ヒートサイクルテストでは、12mm四方、厚さ0.3mmのSiC半導体デバイスの接合面にNiとSnのめっき処理を施したものと、30mm四方、厚さ1.5mmのCu電極基板の接合面にNiとSnのめっき処理を施したものとを両面に配し、それぞれの接合面を厚さ0.2mmのダイボンドで接合したものを使用した。そして、-40℃への冷却と300℃への加熱を100回繰り返す毎に、接合部の状態を確認するというテストを、計3回(即ち、冷却と加熱を合計300回)行った。ヒートサイクルテストにおいて割れや欠けなどの問題が生じなかったものを合格、割れや欠けが生じたものを不合格とした。
(評価4:熱伝導率)
ヒートサイクルテストに合格したもの(以下、「合格品」と呼ぶ。)からレーザ加工機により直径10mm、厚さ2.0mmの試験片を切り出し、熱伝導測定器(アドバンス理工社製 FTC-RT)を用いたレーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。また、この試験片とは別に、直径10mm、厚さ2.0mmのSiC比較片(片面にNiめっき層を設けたもの)及びCu比較片(片面にNiめっき層を設けたもの)を作製して上記同様に熱伝導率を測定した。そして、試験片の熱伝導率をSiC比較片及びCu比較片の熱伝導率と比較することにより試験片に含まれる半導体素子接合部材(ダイボンド)の熱伝導率を求めた。この評価では、熱伝導率120W/m・Kを基準とし、これ以上の熱伝導率を有するものを合格とした。
(評価5:電気伝導率)
SiCは半導体であり、ヒートサイクルテストに使用した試験片(SiC半導体デバイスとCu電極基板を接合したもの)のままでは電気伝導率を測定することが難しい。そこで、熱伝導率が120W/m・K以上であった試験片について、SiC半導体デバイスと同程度の線膨張係数(4.5ppm/K)を有するWの板材をSiC半導体デバイスに代えて使用した、電気伝導率測定用の試験片を作製した。そして、上記同様のヒートサイクルテストを行ったあと、電気伝導率を測定した。なお、SiC半導体デバイスを用いた試験片における合格品に対応する電気伝導率測定用の試験片は、いずれもヒートサイクルテストに合格した。
電気伝導率の測定時には、レーザ加工機により直径10mm、厚さ2.0mmの試験片を切り出し、電気伝導率測定装置((株)ナプソン社製 RT70V)を用いた四端子法により電気伝導率を測定した。また、この試験片とは別に、直径10mm、厚さ2.0mmのW比較片(片面にNiめっき層を設けたもの)及びCu比較片(片面にNiめっき層を設けたもの)を作製して上記同様に電気伝導率を測定した。そして、試験片の電気伝導率をW比較片及びCu比較片の電気伝導率と比較することにより、試験片の電気伝導率を求めた。この評価では、電気伝導率50%IACSを基準とし、これを以上の電気伝導率を有するものを合格とした。なお、電気伝導率の測定において広く用いられている、渦電流をシグマテスターで測定する方法も検討したが、本実施例の試験片のように、内部が複数の異なる構造体である場合の電気伝導率の測定には適さないと判断して四端子法により電気伝導率を測定した。
次に、実施例1〜15の作製手順を説明する。各パラメータの値は実施例2に関する値を記載している。実施例1及び3〜15は、後掲の表2に示すように、適宜パラメータの値を変更して作製した。
(実施例1〜15の作製手順)
工程1:12mm四方、厚さ0.2mmのAg板材に、レーザ加工により、直径0.36mmの貫通孔を1mm四方につき1個開けたもの(以下、芯材と呼ぶ。)を作製した。
工程2:30mm四方、厚さ1.5mmのCu板材の一方の表面(接合面)に厚さ2μmのNiめっき層を設け、その中央に、12mm四方、厚さ0.009mmのSnめっき層を設けたもの(以下、これを電極基板と呼ぶ)を作製した。
工程3:12mm四方、SiC板材の一方の表面(接合面)に厚さ2μmのNiめっき層を設け、さらにその上に厚さ0.009mmのSnめっき層を設けたもの(以下、これを半導体デバイス板と呼ぶ)を作製した。
工程4:電極基板、芯材、及び半導体デバイス板を順に重ねた積層体を作製した。
工程5:積層体を真空雰囲気で300℃に加熱した後、300℃に保持し1MPaの圧力を印加し、5分間保持し徐冷した。
工程6:上記処理により半導体デバイス板と電極基板を接合したものについて、耐熱試験、ヒートサイクルテスト、熱伝導率の測定、及び電気伝導率の測定を行った。
下記の表2に記載のボイド率について、以下、説明する。なお、分かりやすくするために、ここでは、芯材の大きさを1mm四方として説明する。
実施例1ではボイド率が5vol%、Snの含有率が3.7wt%(5vol%)である。
1mm四方、厚さ0.2mmの板材に10vol%のボイドを形成すると、Agの体積は1mm×1mm×0.2mm×0.9=0.18mm3、重量は1.888μg(Agの密度:10.49g/cm-3)となる。実施例1では、電極基板と半導体デバイス板のそれぞれの接合面に0.005mm厚さのSn層を形成し、Snの体積を1mm×1mm×0.005mm×2=0.01mm3、重量を0.073μg(Snの密度:7.31g/cm-3)とする。AgとSnの体積の合計は0.19mm3、重量の合計は1.961μgとなる。ここで、Snの含有率は0.01/0.19=0.052(5.2vol%)、0.073/1.961=0.037(3.7wt%)となる。
芯材に形成されているボイドの体積は1mm×1mm×0.2mm×0.1=0.02mm3である。これに、体積0.01mm3のSnが導入されてAgSn合金が形成されることから、最終的に残存するボイドは0.01mm3となる。従って、ボイドを含む体積が0.2mm3である半導体素子接合部材の内部のボイド率は5vol%となる。
以上のとおり、Snの含有率が3.7wt%(5vol%)、ボイド率が5vol%の半導体素子接合部材を作製するには、1mm四方、厚さ0.2mmの板材に10%のボイドを形成し、厚さ0.005mmのSn層を形成すれば良いことが分かる。板材に形成するボイドを円柱形の貫通孔と近似すると、径が0.36mmである貫通孔を1mm四方につき1個、設ければよいことが分かる。
実施例2ではボイド率が10vol%、Snの含有率が7.2wt%(10vol%)である。
1mm四方、厚さ0.2mmの板材に19vol%のボイドを形成すると、Agの体積は1mm×1mm×0.2mm×0.81=0.162mm3、重量は1.699μg(Agの密度:10.49g/cm-3)となる。実施例2では、電極基板と半導体デバイス板のそれぞれの接合面に0.009mm厚さのSn層を形成し、Snの体積を1mm×1mm×0.009mm×2=0.018mm3、重量を0.132μg(Snの密度:7.31g/cm-3)とする。AgとSnの体積の合計は0.18mm3、重量の合計は1.831μgとなる。ここで、Snの含有率は0.018/0.18=0.1(10.0vol%)、0.132/1.831=0.072(7.2wt%)となる。
芯材に形成されているボイドの体積は1mm×1mm×0.2mm×0.19=0.038mm3である。これに、体積0.018mm3のSnが導入されAgSn合金が形成されることから、最終的に残存するボイドは0.02mm3となる。従って、ボイドを含む体積が0.2mm3である半導体素子接合部材の内部のボイド率は10vol%となる。
以上のとおり、Snの含有率が7.21wt%(10vol%)、ボイド率が10vol%の半導体素子接合部材を作製するには、1mm四方、厚さ0.2mmの板材に19vol%のボイドを形成し、厚さ0.009mmのSn層を形成すれば良いことが分かる。このボイドを円柱形の貫通孔と近似すると、径が0.35mmである貫通孔を1mm四方につき1個、設ければよいことが分かる。
ここでは、実施例1及び2についてのみ詳述したが、他の実施例(及び比較例)についても上記同様の方法で貫通孔の径を決めればよい。なお、実施例9の芯材(表2に記載のAgCu)は、Agを30重量パーセント、Cuを70パーセント含んだ合金である。また、本実施例では、空隙の割合を先に決めておき、使用する材料の大きさや、予め形成する貫通孔の大きさを決定したが、作成後の半導体素子接合部材が有する空隙(ボイド)の割合は、種々の計測によって評価することができる。例えば、半導体素子接合部材の断面を電子顕微鏡等により撮影し、その断面に現れている空隙の割合を代表値として半導体素子接合部材が有する空隙の割合を評価したり、あるいは合金完成度(空隙がない合金の理論密度と作製した半導体素子接合部材の密度の比)から半導体素子接合部材が有する空隙の割合を評価したりすることができる。
作製した実施例1〜15とそれらの評価結果、及び比較のために作製した比較例1〜9とそれらの評価結果を表2に示す。比較例1では半導体デバイス及び電極基板と接合することができず、また、比較例6では粉末が焼結されなかったため、いずれも試験片を作製することができなかった。また、比較例2〜5、7〜9では試験片を作製することはできたが、500℃に加熱すると接合部に溶解が見られたため、ヒートサイクルテストを行わなかった。一方、実施例1〜15ではいずれも、500℃に加熱しても接合部に溶融は見られず、またヒートサイクルテスト後の熱伝導率が120W/m・K以上、電気伝導率が50%IACS以上となった。
Figure 2020098848
以上、説明したように、上記各実施例の半導体素子接合部材は、最高動作温度が300℃に達する半導体デバイスを基板に接合する際に求められる要件を満たしている。従来、半導体素子接合部材の内部のボイドは欠陥であるとみなされ、ボイドのない材料開発が進められてきたが、本発明によって、ボイドが熱応力の緩和に有効であることが見出された。
上記実施例はいずれも具体的な実施形態の例示であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。例えば、作製時に印加する圧力等の条件によって、作製後の半導体素子接合部材の特性が異なることから、上記の各実施例におけるSnの含有率の範囲及び作製時の圧力条件は、半導体素子接合部材に求められる所要の特性を満たす限りにおいて適宜に変更することができる。
また、この半導体素子接合部材はパワー半導体モジュール垂直通電型のIGBTの電極基板(通電)との接合以外の平面通電型の半導体分野(通信、演算、メモリ、レーザ、LED、センサー等)のモジュールの放熱基板(無通電)においても好適に使用することができる。また、IGBTモジュールにおいてもSiC半導体デバイス以外の、Si、GaN、GaAs等の半導体デバイスを搭載した使用が可能である。今後の半導体モジュールの小型高性能化やコストダウンに大きく貢献できるものである。さらに、本願明細書では、半導体モジュールを中心に説明したが、半導体パッケージについても同様に本発明に係る半導体素子接合部材を用いることができる。
10…半導体素子接合部材
101…芯材
102…ボイド
11…半導体デバイス
12…電極基板

Claims (4)

  1. 半導体素子と該半導体素子が載置される基板を接合する半導体素子接合部材であって、
    Ag、Cu、及びAuのうちの少なくとも1種類とSnとを主成分とし、融点が500℃以上である合金からなり、
    内部に、総体積が全体の5パーセント以上40パーセント以下である複数の空隙を有し、
    -40℃への冷却と300℃への加熱を300回繰り返すヒートサイクルテストを行った後の熱伝導率が120W/m・K以上、電気伝導率が50%IACS以上である
    ことを特徴とする半導体素子接合部材。
  2. Snの含有率が、全体の2重量パーセント以上20重量パーセント以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子接合部材。
  3. 請求項1又は2に記載の半導体素子接合部材を含む半導体モジュール。
  4. 請求項1又は2に記載の半導体素子接合部材を含む半導体パッケージ。
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