図1は、実施例1に係る燃料電池システムの構成を示す概略図である。燃料電池システムは、燃料電池車両又は定置用燃料電池装置などに用いられ、要求電力に応じて電力を出力する発電システムである。なお、以下の実施例では、燃料電池システムが車両に搭載されている場合を例に説明する。図1のように、燃料電池システム100は、第1燃料電池スタック1(以下、第1FCスタック1と称す)及び第2燃料電池スタック2(以下、第2FCスタック2と称す)と、制御ユニット20と、カソードガス配管系30及び40と、アノードガス配管系50及び70と、を備える。なお、燃料電池システム100は、冷媒配管系も備えるが、ここでは図示及び説明を省略する。
第1FCスタック1及び第2FCスタック2は、反応ガスとして水素(アノードガス)と空気(カソードガス)の供給を受けて発電する固体高分子形燃料電池である。第1FCスタック1及び第2FCスタック2は、複数のセルが積層されたスタック構造をしている。図2は、セルの断面図である。図2のように、セル10は、膜電極ガス拡散層接合体15(以下、MEGA(Membrane Electrode Gas diffusion layer Assembly)と称す)と、MEGA15を挟持するアノードセパレータ16a及びカソードセパレータ16cと、を含む。MEGA15は、アノードガス拡散層14a及びカソードガス拡散層14cと、膜電極接合体13(以下、MEA(Membrane Electrode Assembly)と称す)と、を含む。
MEA13は、電解質膜11と、電解質膜11の一方の面に設けられたアノード触媒層12aと、他方の面に設けられたカソード触媒層12cと、を含む。電解質膜11は、例えばスルホン酸基を有するフッ素系樹脂材料又は炭化水素系樹脂材料で形成される固体高分子膜であり、湿潤状態において良好なプロトン伝導性を有する。アノード触媒層12a及びカソード触媒層12cは、例えば電気化学反応を進行する触媒(白金又は白金−コバルト合金など)を担持するカーボン担体(カーボンブラックなど)と、スルホン酸基を有する固体高分子であって湿潤状態で良好なプロトン伝導性を有するアイオノマーと、を含む。
アノードガス拡散層14a及びカソードガス拡散層14cは、ガス透過性及び電子伝導性を有する部材によって形成され、例えば炭素繊維又は黒鉛繊維などの多孔質の繊維部材によって形成される。アノードセパレータ16a及びカソードセパレータ16cは、ガス遮断性及び電子伝導性を有する部材によって形成され、例えばステンレス鋼、アルミニウム、又はチタンなどの金属部材、或いは、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密性カーボンなどのカーボン部材によって形成される。アノードセパレータ16aとアノードガス拡散層14aとが接する面にはアノードガス流路17aが形成され、カソードセパレータ16cとカソードガス拡散層14cとが接する面にはカソードガス流路17cが形成される。また、カソードセパレータ16cのアノードセパレータ16aと接する側の面には冷媒流路18が形成される。
例えば、第2FCスタック2を構成する複数のセル10それぞれの電解質膜11の膜厚は、第1FCスタック1を構成する複数のセル10それぞれの電解質膜11の膜厚よりも厚くなっている。一例として、第1FCスタック1は厚みが10μmの電解質膜11を有する複数のセル10が積層され、第2FCスタック2は厚みが20μmの電解質膜11を有する複数のセル10が積層されている。なお、第2FCスタック2を構成する複数のセル10の全ての電解質膜11が、第1FCスタック1を構成する複数のセル10の全ての電解質膜11よりも厚い場合に限られる訳ではない。第2FCスタック2を構成する複数のセル10の電解質膜11の平均膜厚が、第1FCスタック1を構成する複数のセル10の電解質膜11の平均膜厚よりも厚い場合であればよい。なお、複数のセル10の電解質膜11の平均膜厚は、複数のセル10それぞれの電解質膜11の膜厚の合計を複数のセル10の積層数で割って求めることができる。
第1FCスタック1は、第2FCスタック2に比べて、電解質膜11の厚みが薄いため、プロトンの移動抵抗が小さく、発電性能が向上している。すなわち、第1FCスタック1は、第2FCスタック2に比べて、発電時の電流−電圧特性(I−V特性)が良好であり、発電時の発熱量が少なく、発電効率が良好である。一方、第2FCスタック2は、第1FCスタック1に比べて、電解質膜11が厚いため、反応ガスの電解質膜11を介したクロスリーク量が少なくなり、燃料消費量が少なく抑えられている。
なお、第1FCスタック1のセル10と第2FCスタック2のセル10では、電解質膜11の厚み以外のスペック(例えば触媒の塗布量及びセパレータの形状など)は、同じでもよいし、異なっていてもよいが、実施例1では同じ場合を例に説明する。電解質膜11の厚み以外のスペックが同じである場合は、第1FCスタック1のセル10と第2FCスタック2のセル10とを同じ製造工程で製造できると共に、部品の種類を少なくできるため、コストを低減できる。また、第1FCスタック1と第2FCスタック2のセル10の積層枚数は、同じでもよいし、異なっていてもよいが、実施例1では同じである場合を例に説明する。例えば、第1FCスタック1と第2FCスタック2のセル10の積層枚数は共に200枚となっている。また、実施例1では、第1FCスタック1は、第2FCスタック2に比べて、最大出力電力が大きくなっている。
図1のように、制御ユニット20は、発電制御部21として機能する。制御ユニット20には、アクセルペダル66の開度(すなわち、運転者によるアクセルペダル66の踏み込み量)を検出するアクセルペダルセンサ67からアクセル開度信号が送信される。発電制御部21は、アクセル開度信号に基づいて要求電力を算出し、算出した要求電力に応じて以下に説明する燃料電池システム100の各構成を制御して第1FCスタック1及び第2FCスタック2の発電を制御する。ここで、アクセル開度に基づいて、まずFCスタックを含む燃料電池システム100全体への要求電力が算出される。燃料電池システム100が二次電池を備える場合には、二次電池の充電状態を検出し、二次電池が充放電する電力を考慮して、FCスタック全体への要求電力を算出してもよい。
カソードガス配管系30は、第1FCスタック1にカソードガスを供給し、第1FCスタック1で消費されなかったカソード排ガスを排出する。カソードガス配管系30は、カソードガス配管31、エアコンプレッサ32、開閉弁33、カソード排ガス配管34、及び調圧弁35を備える。カソードガス配管31は、第1FCスタック1のカソード入口に接続される配管である。エアコンプレッサ32は、カソードガス配管31を介して第1FCスタック1のカソードと接続されていて、外気を取り込んで圧縮した空気をカソードガスとして第1FCスタック1に供給する。制御ユニット20は、エアコンプレッサ32の駆動を制御することにより、第1FCスタック1に供給する空気の流量を制御する。開閉弁33は、エアコンプレッサ32と第1FCスタック1の間に設けられていて、カソードガス配管31における空気の流れに応じて開閉する。例えば、開閉弁33は、通常閉じた状態にあり、エアコンプレッサ32から所定圧力を有する空気がカソードガス配管31に供給されたときに開く。カソード排ガス配管34は、第1FCスタック1のカソード出口に接続される配管であり、カソード排ガスを燃料電池システム100の外部へと排出する。調圧弁35は、カソード排ガス配管34におけるカソード排ガスの圧力を調整する。
カソードガス配管系40は、第2FCスタック2にカソードガスを供給し、第2FCスタック2で消費されなかったカソード排ガスを排出する。カソードガス配管系40は、カソードガス配管41、エアコンプレッサ42、開閉弁43、カソード排ガス配管44、及び調圧弁45を備える。カソードガス配管41、エアコンプレッサ42、開閉弁43、カソード排ガス配管44、及び調圧弁45は、カソードガス配管系30のカソードガス配管31、エアコンプレッサ32、開閉弁33、カソード排ガス配管34、及び調圧弁35と同様の機能を有する。したがって、制御ユニット20は、エアコンプレッサ42の駆動を制御することにより、第2FCスタック2に供給する空気の流量を制御する。
アノードガス配管系50は、第1FCスタック1にアノードガスを供給し、第1FCスタック1で消費されなかったアノード排ガスを排出する。アノードガス配管系50は、アノードガス配管51、開閉弁52、レギュレータ53、インジェクタ54、アノード排ガス配管55、気液分離器56、アノードガス循環配管57、循環ポンプ58、アノード排水配管59、及び排水弁60を備える。アノードガス配管51は、水素タンク65と第1FCスタック1のアノード入口とを接続する配管である。水素タンク65は、アノードガス配管51を介して第1FCスタック1のアノードと接続していて、タンク内に充填された水素を第1FCスタック1に供給する。開閉弁52、レギュレータ53、及びインジェクタ54は、アノードガス配管51にこの順序で上流側から設けられている。開閉弁52は、制御ユニット20からの指令により開閉し、水素タンク65からインジェクタ54の上流側への水素の流入を制御する。レギュレータ53は、インジェクタ54の上流側における水素の圧力を調整するための減圧弁である。インジェクタ54は、制御ユニット20によって設定される駆動周期及び開弁時間に応じて、弁体が電磁的に駆動する電磁駆動式の開閉弁である。制御ユニット20は、インジェクタ54の駆動周期及び/又は開弁時間を制御することにより、第1FCスタック1に供給される水素の流量を制御する。
アノード排ガス配管55は、第1FCスタック1のアノード出口と気液分離器56とを接続する配管であり、発電反応に用いられることのなかった未反応ガス(水素及び窒素など)を含むアノード排ガスを気液分離器56へと誘導する。気液分離器56は、アノード排ガスに含まれる気体成分と水分とを分離し、気体成分についてはアノードガス循環配管57へと誘導し、水分についてはアノード排水配管59へと誘導する。アノードガス循環配管57は、アノードガス配管51にインジェクタ54よりも下流で接続されている。アノードガス循環配管57には循環ポンプ58が設けられている。気液分離器56によって分離された気体成分に含まれる水素は、循環ポンプ58によってアノードガス配管51へと送り出される。循環ポンプ58は、制御ユニット20からの指令に応じて駆動する。アノード排水配管59は、気液分離器56によって分離された水分を燃料電池システム100の外部へと排出するための配管である。排水弁60は、アノード排水配管59に設けられていて、制御ユニット20からの指令に応じて開閉する。
アノードガス配管系70は、第2FCスタック2にアノードガスを供給し、第2FCスタック2で消費されなかったアノード排ガスを排出する。アノードガス配管系70は、アノードガス配管71、開閉弁72、レギュレータ73、インジェクタ74、アノード排ガス配管75、気液分離器76、アノードガス循環配管77、循環ポンプ78、アノード排水配管79、及び排水弁80を備える。アノードガス配管71、開閉弁72、レギュレータ73、インジェクタ74、アノード排ガス配管75、気液分離器76、アノードガス循環配管77、循環ポンプ78、アノード排水配管79、及び排水弁80は、アノードガス配管系50のアノードガス配管51、開閉弁52、レギュレータ53、インジェクタ54、アノード排ガス配管55、気液分離器56、アノードガス循環配管57、循環ポンプ58、アノード排水配管59、及び排水弁60と同様の機能を有する。したがって、制御ユニット20は、インジェクタ74の駆動周期及び/又は開弁時間を制御することにより、第2FCスタック2に供給される水素の流量を制御する。
図3は、実施例1に係る燃料電池システムの電気的構成を示す概略図である。燃料電池システム100は、上述した制御ユニット20などに加え、FDC81a及び81b、インバータ82、モータジェネレータ83、BDC84、バッテリ85、並びにスイッチ86a及び86bを備える。
FDC81a及び81bは、DC/DCコンバータである。FDC81aは、第1FCスタック1の出力電圧を変圧してインバータ82及びBDC84に供給する。FDC81bは、第2FCスタック2の出力電圧を変圧してインバータ82及びBDC84に供給する。BDC84は、DC/DCコンバータである。バッテリ85は、充放電可能な二次電池である。BDC84は、バッテリ85からの直流電圧を調整してインバータ82に出力でき、第1FCスタック1及び第2FCスタック2からの直流電圧及びインバータ82により直流に変換されたモータジェネレータ83からの電圧を調整してバッテリ85に出力可能である。インバータ82は、DC/ACインバータであり、第1FCスタック1及び第2FCスタック2とバッテリ85とから出力される直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータ83に供給する。モータジェネレータ83は車輪68を駆動する。スイッチ86a及び86bは、制御ユニット20からの指令に応じて開閉し、第1FCスタック1及び第2FCスタック2とモータジェネレータ83及びバッテリ85などとの電気的接続及び非接続を切り換える。
制御ユニット20は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及び記憶部などを備えるマイクロコンピュータを含んで構成されるECU(Electronic Control Unit)である。記憶部は、例えばHDD(Hard Disk Drive)又はフラッシュメモリなどの不揮発性メモリである。制御ユニット20は、燃料電池システム100の各構成を統合的に制御して、燃料電池システム100の運転を制御する。
制御ユニット20は、アクセルペダル66の開度を検出するアクセルペダルセンサ67からアクセル開度信号を取得し、取得したアクセル開度信号から第1FCスタック1及び第2FCスタック2を含むFCスタック全体への要求電力を算出する。そして、制御ユニット20は、算出した要求電力に応じて第1FCスタック1及び第2FCスタック2へのガス供給流量並びにFDC81a及び81bのデューティ比などを制御して、第1FCスタック1及び第2FCスタック2の発電を制御する。このように、制御ユニット20は、アクセル開度信号からFCスタック全体への要求電力を算出し、算出した要求電力に応じて第1FCスタック1及び第2FCスタック2の発電を制御する発電制御部21として機能する。
発電制御部21は、例えばエアコンプレッサ32及び42などを制御することで第1FCスタック1及び第2FCスタック2に供給されるカソードガスの供給流量を制御し、インジェクタ54及び74並びに循環ポンプ58及び78などを制御することで第1FCスタック1及び第2FCスタック2に供給されるアノードガスの供給流量を制御する。また、発電制御部21は、第1FCスタック1及び第2FCスタック2を発電させるときにはスイッチ86a及び86bをON(接続状態)にし、第1FCスタック1及び第2FCスタック2の発電を休止させるときにはスイッチ86a及び86bをOFF(非接続状態)にする。なお、実施例1においては、FDC81a及び81bとは別に独立してスイッチ86a及び86bを備える構成を例示したが、これに限定されない。例えば、FDC81a及び81bがスイッチング素子を備え、制御ユニット20がFDC81a及び81bのスイッチング素子を制御することにより、第1FCスタック1及び第2FCスタック2とモータジェネレータ83及びバッテリ85などとの電気的接続及び非接続を切り換えてもよい。
図4は、実施例1における発電制御を示すフローチャートである。図4のように、制御ユニット20は、アクセルペダルセンサ67から送出される、開度がゼロでないアクセル開度信号を取得するまで待機する(ステップS10)。制御ユニット20は、開度がゼロでないアクセル開度信号を取得した後(ステップS10:Yes)、アクセル開度信号に基づいて要求電力を算出する(ステップS12)。例えば、制御ユニット20は、記憶部に記憶されたアクセル開度信号と要求電力との相関を示すマップなどを参照し、取得したアクセル開度信号からFCスタック全体に対する要求電力を算出する。
次いで、制御ユニット20は、算出した要求電力が所定の閾値未満であるか否かを判断する(ステップS14)。閾値は、一例としてアイドル運転時か否かを判定する値であり、例えば制御ユニット20の記憶部に記憶されている。制御ユニット20は、ステップS14で要求電力が所定の閾値未満であると判断した場合(ステップS14:Yes)、燃料電池システム100の各構成を制御して、第1FCスタック1の発電を休止させ、第2FCスタック2で要求電力が充足するように第2FCスタック2を発電させる(ステップS16)。このとき、制御ユニット20は、スイッチ86bをONにして第2FCスタック2とモータジェネレータ83とを電気的に接続させるとともに、スイッチ86aはOFFにして第1FCスタック1とモータジェネレータ83との電気的接続を遮断する。制御ユニット20は、エアコンプレッサ42及びインジェクタ74などを駆動して、要求電力を充足させるための発電に必要な量の空気及び水素が第2FCスタック2に供給されるようにする。また、制御ユニット20は、エアコンプレッサ32及びインジェクタ54などの駆動を停止して第1FCスタック1に空気及び水素の両方が供給されないようにしてもよいし、第1FCスタック1へのエアコンプレッサ32などによる空気の供給及びインジェクタ54などによる水素の供給のいずれか一方を停止するようにしてもよい。第1FCスタック1に空気又は水素のいずれか一方が供給されて第1FCスタック1内に空気及び水素がある場合でも、第1FCスタック1とモータジェネレータ83とを電気的に接続するスイッチ86aがOFFになっているため、第1FCスタック1は発電しない。
制御ユニット20は、ステップS14で要求電力が所定の閾値以上であると判断した場合(ステップS14:No)、燃料電池システム100の各構成を制御して、要求電力を充足するように第1FCスタック1及び第2FCスタック2の両方を発電させる(ステップS18)。すなわち、制御ユニット20は、エアコンプレッサ32及びインジェクタ54などを駆動して、第1FCスタック1に空気及び水素が供給されるようにする。また、制御ユニット20は、エアコンプレッサ42及びインジェクタ74などを駆動して、第2FCスタック2に空気及び水素が供給されるようにする。このとき、制御ユニット20は、スイッチ86a及び86bをONにして第1FCスタック1及び第2FCスタック2とモータジェネレータ83とを電気的に接続させる。
次いで、制御ユニット20は、アクセルペダルセンサ67から開度がゼロではないアクセル開度信号を取得し続けているか判断する(ステップS20)。制御ユニット20は、開度がゼロではないアクセル開度信号を取得している場合(ステップS20:Yes)、ステップS12に戻る。一方、制御ユニット20は、開度がゼロでないアクセル開度信号を取得しなくなった場合(ステップS20:No)、すなわち開度がゼロのアクセル開度信号を取得した場合、第1FCスタック1及び第2FCスタック2の発電を休止させ(ステップS22)、発電制御を終了する。
実施例1によれば、複数のセル10に含まれる電解質膜11の平均膜厚が第1の厚み(例えば10μm)である第1FCスタック1と、複数のセル10に含まれる電解質膜11の平均膜厚が第1の厚みよりも厚い第2の厚み(例えば20μm)である第2FCスタック2と、を備える。制御ユニット20は、図4のように、FCスタック全体に対する要求電力が所定の閾値未満では、第1FCスタック1の発電を休止しつつ第1FCスタック1に対する水素及び空気の少なくとも一方の供給を停止するとともに第2FCスタック2を発電させる。制御ユニット20は、要求電力が所定の閾値以上では、少なくとも第1FCスタック1を発電させる。これによる効果を図5を用いて説明する。
図5は、実施例1における発電制御を説明するための図である。図5のように、FCスタック全体に対する要求電力が所定の閾値未満の場合には、第2FCスタック2を発電させ、第1FCスタック1の発電を休止させる。要求電力が所定の閾値以上の場合には、第1FCスタック1と第2FCスタック2の両方を発電させる。
このように、要求電力が所定の閾値未満と小さい場合には、第1FCスタック1の発電を休止させ、第2FCスタック2を発電させている。第1FCスタック1は、電解質膜11の膜厚が比較的薄いため、プロトンの移動抵抗が小さくて発電性能が高いが、その一方で反応ガスのクロスリーク量が多くなってしまう。一方、第2FCスタック2は、電解質膜11の膜厚が比較的厚いため、プロトンの移動抵抗が大きくなり発電性能は低くなってしまうが、反応ガスのクロスリーク量は少なくなる。要求電力が所定の閾値未満の場合は高出力が求められていないため、第1FCスタック1の発電は休止させて、反応ガスのクロスリーク量の少ない第2FCスタック2を発電させる。反応ガスがクロスリークすると、水素と空気中の酸素とが反応して、発電中であっても発電休止中であっても、燃料ガスが消費される。実施例1では、第1FCスタック1の発電を休止し且つ第1FCスタック1への水素と空気の少なくとも一方のガス供給を停止しているため、第1FCスタック1ではガス供給が停止された反応ガスと他方の反応ガスとの反応が終了した後には燃料ガスが消費されない。したがって、クロスリーク量が多い第1FCスタック1の発電を休止して第1FCスタック1での燃料消費が抑制されるとともに、クロスリーク量の少ない第2FCスタック2で発電を行うため、燃料電池システム100全体での燃料ガスの消費量を少なく抑えることができる。また、要求電力が所定の閾値以上に大きくなった場合には、少なくとも第1FCスタック1を発電させる。第1FCスタック1はプロトンの移動抵抗が小さく発電性能が高いため、高い出力が得られるためである。したがって、実施例1によれば、高出力の実現と燃料消費量の低減との両立を図ることができる。
なお、第1FCスタック1の発電を休止させている間は、第1FCスタック1への反応ガスの供給量などを調整して、第1FCスタック1内のガス圧が発電時よりも小さくなるような制御をしてもよい。これにより、クロスリークによる燃料消費量の増大を効果的に抑制できる。
第1FCスタック1は、第2FCスタック2に比べて、電解質膜11の膜厚が薄くて発電効率が良いため、最大出力電力を大きくできる。しかしながら、電解質膜11以外のスペック(例えば、触媒の塗布量、セパレータの形状、及びセルの積層枚数など)が同じである場合は、第1FCスタック1と第2FCスタック2の出力特性の差はあまり大きくない。このような場合、要求電力が所定の閾値以上のときには第1FCスタック1と第2FCスタック2の両方を発電させる場合が好ましい。例えば、要求電力が所定の閾値以上の場合に第1FCスタック1のみを発電させる場合、第1FCスタック1を高負荷で発電させる状況になる場合がある。これに対し、第1FCスタック1と第2FCスタック2の両方を発電させることで、第1FCスタック1のみを発電させる場合に比べて、それぞれを低負荷で発電させることができる。よって、第1FCスタック1と第2FCスタック2を良好な発電効率によって発電させることができる。
第1FCスタック1を構成する複数のセル10それぞれの電解質膜11の厚みは略同じである場合が好ましい。同様に、第2FCスタック2を構成する複数のセル10それぞれの電解質膜11の厚みは略同じである場合が好ましい。これにより、スタック内での発電性能のばらつきを抑えることができる。なお、略同じとは、製造誤差程度の違いは同じであるとするものである。また、第2FCスタック2を構成する複数のセル10の電解質膜11の膜厚(例えば平均膜厚)は、第1FCスタック1を構成する複数のセル10の電解質膜11の膜厚(例えば平均膜厚)に比べて、1.5倍以上である場合が好ましく、2倍以上である場合がより好ましく、2.5倍以上である場合が更に好ましい。これにより、第1FCスタック1では大きな出力電力を効果的に得つつ、第2FCスタック2ではクロスリーク量を効果的に低減させることができる。
実施例1では、第1FCスタック1と第2FCスタック2のセル10の積層枚数が同じである場合を例に示したが、実施例2では、第1FCスタック1のセル10の積層枚数が第2FCスタック2のセル10の積層枚数よりも多い場合について説明する。例えば、第1FCスタック1のセル10の積層枚数は300枚、第2FCスタック2のセル10の積層枚数は50枚となっている。これにより、第1FCスタック1の最大出力電力を第2FCスタック2の最大出力電力よりも十分に大きくすることができる。なお、第1FCスタック1の出力電力を大きくするために、第1FCスタック1は、第2FCスタック2と比べて、触媒の塗布量を多くしてもよいし、セパレータのガス流路の形状を圧力損失が小さくなるような形状としてもよい。
実施例2に係る燃料電池システムの構成は実施例1の図1と同じであり、電気的構成は実施例1の図3と同じであるため説明を省略する。図6は、実施例2における発電制御を示すフローチャートである。図7は、実施例2における発電制御を説明するタイムチャートである。図6のように、制御ユニット20は、アクセルペダルセンサ67から送出される、開度がゼロではないアクセル開度信号を取得するまで待機する(ステップS30)。制御ユニット20は、開度がゼロでないアクセル開度信号を取得した後(ステップS30:Yes)、アクセル開度信号に基づいてFCスタック全体に対する要求電力を算出する(ステップS32)。
次いで、制御ユニット20は、算出した要求電力が第1閾値未満であるか否かを判断する(ステップS34)。第1閾値として、例えば第2FCスタック2の最大出力電力の50%以上且つ100%以下の値を用いることができる。第1閾値は、例えば制御ユニット20の記憶部に記憶されている。なお、第1閾値は、第2FCスタック2の初期状態における最大出力電力から決定してもよいし、第2FCスタック2の運転後に所定のタイミングで取得した最大出力電力から決定してもよい。
制御ユニット20は、ステップS34で要求電力が第1閾値未満であると判断した場合(ステップS34:Yes)、燃料電池システム100の各構成を制御して、第1FCスタック1の発電を休止させ、第2FCスタック2で要求電力が充足するように第2FCスタック2を発電させる(ステップS36)。このとき、制御ユニット20は、スイッチ86bをONにして第2FCスタック2とモータジェネレータ83とを電気的に接続させるとともに、スイッチ86aはOFFにして第1FCスタック1とモータジェネレータ83との電気的接続を遮断する。制御ユニット20は、エアコンプレッサ42及びインジェクタ74などを駆動して、要求電力を充足させるための発電に必要な量の空気及び水素が第2FCスタック2に供給されるようにする。また、制御ユニット20は、エアコンプレッサ32及びインジェクタ54などの駆動を停止して第1FCスタック1に空気及び水素の両方が供給されないようにしてもよいし、第1FCスタック1へのエアコンプレッサ32などによる空気の供給及びインジェクタ54などによる水素の供給のいずれか一方を停止するようにしてもよい。第1FCスタック1に空気又は水素のいずれか一方が供給されて第1FCスタック1内に空気及び水素がある場合でも、第1FCスタック1とモータジェネレータ83とを電気的に接続するスイッチ86aがOFFになっているため、第1FCスタック1は発電しない。
ステップS34及びS36の制御を行うことで、図7のように、FCスタック全体への要求電力が第1閾値未満までの間の時間では、第2FCスタック2の発電によって要求電力が充足される。
制御ユニット20は、ステップS34で要求電力が第1閾値未満ではないと判断した場合(ステップS34:No)、要求電力が第1閾値以上且つ第2閾値未満であるか否かを判断する(ステップS38)。第2閾値は、例えば制御ユニット20の記憶部に記憶されている。
制御ユニット20は、ステップS38で要求電力が第1閾値以上且つ第2閾値未満であると判断した場合(ステップS38:Yes)、燃料電池システム100の各構成を制御して、要求電力を充足するように第1FCスタック1及び第2FCスタック2の両方を発電させる(ステップS40)。すなわち、制御ユニット20は、エアコンプレッサ32及びインジェクタ54などを駆動して、第1FCスタック1に空気及び水素が供給されるようにする。また、制御ユニット20は、エアコンプレッサ42及びインジェクタ74などを駆動して、第2FCスタック2に空気及び水素が供給されるようにする。このとき、制御ユニット20は、スイッチ86a及び86bをONにして第1FCスタック1及び第2FCスタック2とモータジェネレータ83とを電気的に接続させる。これにより、図7のように、要求電力が第1閾値以上且つ第2閾値未満の間の時間では、第1FCスタック1の発電及び第2FCスタック2の発電の両方によって要求電力が充足される。
制御ユニット20は、ステップS38で要求電力が第1閾値以上且つ第2閾値未満ではないと判断した場合(ステップS38:No)、要求電力が第2閾値以上且つ第2閾値よりも大きい第3閾値未満であるか否かを判断する(ステップS42)。第3閾値として、例えば第1FCスタック1の最大出力電力の70%以上且つ100%以下の値を用いることができる。第3閾値は、例えば制御ユニット20の記憶部に記憶されている。なお、第3閾値は、第1FCスタック1の初期状態における最大出力電力から決定してもよいし、第1FCスタック1の運転後に所定のタイミングで取得した最大出力電力から決定してもよい。
第1FCスタック1は、第2FCスタック2に比べて、セル10の積層枚数が多いことから最大出力電力が十分に大きい。したがって、第1閾値を第2FCスタック2の最大出力電力で規定し、第3閾値を第1FCスタック1の最大出力電力で規定することで、第3閾値を第1閾値よりも大きくすることができる。
制御ユニット20は、ステップS42で要求電力が第2閾値以上且つ第3閾値未満であると判断した場合(ステップS42:Yes)、燃料電池システム100の各構成を制御して、第2FCスタック2の発電を休止させ、第1FCスタック1で要求電力が充足するように第1FCスタック1を発電させる(ステップS44)。このとき、制御ユニット20は、スイッチ86aをONにして第1FCスタック1とモータジェネレータ83とを電気的に接続させるとともに、スイッチ86bはOFFにして第2FCスタック2とモータジェネレータ83との電気的接続を遮断する。制御ユニット20は、エアコンプレッサ32及びインジェクタ54などを駆動して、要求電力を充足させるための発電に必要な量の空気及び水素が第1FCスタック1に供給されるようにする。また、制御ユニット20は、エアコンプレッサ42及びインジェクタ74などの駆動を停止して、第2FCスタック2に空気及び水素が供給されないようにしてもよいし、エアコンプレッサ42及びインジェクタ74などを駆動して第2FCスタック2に空気及び水素が供給されるようにしてもよい。第2FCスタック2に空気及び水素が供給されても、第2FCスタック2とモータジェネレータ83とを電気的に接続するスイッチ86bがOFFになっているため、第2FCスタック2は発電しない。これにより、図7のように、要求電力が第2閾値以上且つ第3閾値未満の間の時間では、第1FCスタック1の発電によって要求電力が充足される。ここで、第2FCスタック2の発電を休止するときは、必ずしもエアコンプレッサ42などによる空気の供給とインジェクタ74などによる水素の供給のどちらか一方を停止しなくてもよい。第2FCスタック2は、電解質膜11の膜厚が厚くクロスリーク量が少ないため、水素と空気の両方のガスが供給され続けていても、燃料ガスの消費量の増加は抑制される。
なお、要求電力が第1閾値以上且つ第2閾値未満の場合に第1FCスタック1及び第2FCスタック2の両方を発電させているのは、第2FCスタック2のみで要求電力を充足させる第1閾値未満のときと、第1FCスタック1のみで要求電力を充足させる第2閾値以上のときと、の切り替えのためである。したがって、要求電力が第1閾値以上且つ第2閾値未満の場合では、要求電力の増加に対して、第1FCスタック1は出力電力が徐々に増加し、第2FCスタック2は出力電力が徐々に減少するようにすることが好ましい。なお、第1FCスタック1及び第2FCスタック2に十分な量の反応ガスを供給しつつスイッチ86a及び86bをOFFすることで第1FCスタック1及び第2FCスタック2の発電を休止させる場合には、スイッチ86a及び86bをONすることで第1FCスタック1及び第2FCスタック2の出力電力を急激に増加させることができる。この場合、第2閾値は設定しなくてもよい。
制御ユニット20は、ステップS42で要求電力が第3閾値以上であると判断した場合(ステップS42:No)、要求電力を充足するように第1FCスタック1及び第2FCスタック2の両方を発電させる(ステップS46)。すなわち、制御ユニット20は、エアコンプレッサ32及びインジェクタ54などを駆動して、第1FCスタック1に空気及び水素が供給されるようにする。また、制御ユニット20は、エアコンプレッサ42及びインジェクタ74などを駆動して、第2FCスタック2に空気及び水素が供給されるようにする。このとき、制御ユニット20は、スイッチ86a及び86bをONにして第1FCスタック1及び第2FCスタック2とモータジェネレータ83とを電気的に接続させる。これにより、図7のように、要求電力が第3閾値以上の時間では、第1FCスタック1の発電及び第2FCスタック2の発電の両方によって要求電力が充足される。
次いで、制御ユニット20は、アクセルペダルセンサ67から開度がゼロではないアクセル開度信号を取得し続けているか判断する(ステップS48)。制御ユニット20は、開度がゼロではないアクセル開度信号を取得している場合(ステップS48:Yes)、ステップS12に戻る。一方、制御ユニット20は、開度がゼロでないアクセル開度信号を取得しなくなった場合(ステップS48:No)、すなわち開度がゼロのアクセル開度信号を取得した場合、第1FCスタック1及び第2FCスタック2の発電を休止させ(ステップS50)、発電制御を終了する。
図8は、実施例2における発電制御を説明するための図である。図8のように、FCスタック全体に対する要求電力が第1閾値未満の場合には、第2FCスタック2を発電させ、第1FCスタック1の発電を休止させる。要求電力が第2閾値以上且つ第3閾値未満の場合には、第1FCスタック1を発電させ、第2FCスタック2の発電を休止させる。要求電力が第1閾値以上且つ第2閾値未満及び第3閾値以上の場合には、第1FCスタック1と第2FCスタック2の両方を発電させる。
実施例2によれば、制御ユニット20は、FCスタック全体に対する要求電力が第1閾値(所定の閾値)未満では第1FCスタック1の発電を休止し且つ第2FCスタック2を発電させ、要求電力が第1閾値以上では少なくとも第1FCスタック1を発電させる。これにより、実施例1と同じ理由から、高出力の実現と燃料消費量の低減との両立を図ることができる。
また、第1FCスタック1及び第2FCスタック2のいずれか一方の発電を休止させている間は、休止しているFCスタック内のガス圧が発電時よりも小さくなるような制御をしてもよい。これにより、クロスリークによる燃料消費量の増大を効果的に抑制できる。
また、実施例2によれば、第1FCスタック1の最大出力電力は、第2FCスタック2の最大出力電力よりも十分に大きく、例えば1.5倍以上となっている。例えば、第1FCスタック1と第2FCスタック2の最大出力電力が同じである場合、要求電力が第1FCスタック1の最大出力電力と第2FCスタック2の最大出力電力の合計である合計最大電力の50%よりも大きい場合では第1FCスタック1と第2FCスタック2の両方を発電させることになる。すなわち、第1FCスタック1及び第2FCスタック2各々単独での発電によって要求電力を充足できるのは、要求電力が合計最大電力の50%以下の場合である。これに対し、第1FCスタック1が第2FCスタック2よりも最大出力電力が十分に大きい場合には、要求電力が合計最大電力の50%を超えた場合でも第1FCスタック1単独での発電によって要求電力を充足できる。よって、第1FCスタック1及び第2FCスタック2の少なくとも一方が単独で発電する時間を長くすることができ、換言すれば、第1FCスタック1及び第2FCスタック2の少なくとも一方が発電を休止する時間を長くすることができる。よって、第1FCスタック1及び第2FCスタック2の少なくとも一方の発電時の電位変動による劣化を抑制することができ、第1FCスタック1及び第2FCスタック2の少なくとも一方の耐久性を向上させることができる。
実施例1及び実施例2では、燃料電池システムに2つの燃料電池スタックが備わる場合を例に説明したが、3つ以上の燃料電池スタックが備わる場合でもよい。この場合、3つ以上の燃料電池スタックのうちの2つの燃料電池スタックが実施例1及び実施例2で説明した第1FCスタック1及び第2FCスタック2に相当する場合であればよい。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。