以下、本発明を適用した遺伝子解析システムを実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明をする。
図1は、本発明を適用した遺伝子解析システム1のシステム構成を示している。遺伝子解析システム1は、遺伝子解析用前処理キット2と、核酸分析用チップ(DNAチップ)3と、この核酸分析用チップ3が装着されるチップ測定装置4と、このチップ測定装置4と通信可能な携帯端末5と、携帯端末5に対して公衆通信網6を介して接続されるサーバ7と、公衆通信網6に対して接続される中央制御装置8とを備えている。
携帯端末5は、例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレット型端末、ウェアラブル端末、ノート型のパーソナルコンピュータ(PC)等であり、少なくともユーザの操作に基づいて公衆通信網6を介して通信可能なデバイスである。携帯端末5は、ユーザが携帯可能とすることにより、常時持ち運びを可能とするデバイスであるが、これに限定されるものではなく、デスクトップ型のPC等、あらゆる電子機器を含む概念である。
なお、この携帯端末5は、検診用アプリを公衆通信網6を介してダウンロードすることができる。これによりユーザは、この携帯端末5を操作することで検診用アプリを起動させて、自らの検診記録を確認したり、或いは今後の健康維持のための各種提案を確認することができる。以下の例では、この携帯端末5につき、スマートフォンを適用する場合を例にとり説明をする。
公衆通信網6は、携帯端末5、サーバ7、中央制御装置8を通信回線を介して接続されるインターネット網等である。この公衆通信網6につきいわゆる光ファイバ通信網で構成してもよい。また、この公衆通信網6は、有線通信網に限定されるものではなく、無線通信網で実現するようにしてもよい。
サーバ7には、所定のデータベースが構築されている。このデータベースには、公衆通信網6を介して送られてきた情報が蓄積される。また、このサーバ7は、携帯端末5からの要求に基づいて、この蓄積した情報を公衆通信網6を介して携帯端末5へと送信する。
中央制御装置8は、パーソナルコンピュータ等の電子機器で構成されており、公衆通信網6を介してサーバ7にアクセスし、これに蓄積された情報を分析する。またこの中央制御装置8は、医師等の専門家が操作してもよく、サーバ7に蓄積された情報を活用するようにしてもよい。この中央制御装置8によって情報分析されることにより得られた知見や、分析結果そのものを、公衆通信網6を介して携帯端末5へ送信するようにしてもよい。携帯端末5は、中央制御装置8から送られてきた各種情報を検診用アプリを介してユーザに表示させることができる。
遺伝子解析用前処理キット2は、大きく分類してプランジャ21と、採取用カートリッジ22と、前処理用本体23からなる。
プランジャ21は、採取用カートリッジ22内に挿入され、これに収容されている液体を押し出すために設けられている。プランジャ21は、内筒部211と、押し子212とを有している。内筒部211は、長手方向に向けて延長され、その延長端にゴム部213が設けられている。押し子212は、プランジャ21におけるゴム部213が設けられている延長端とは異なる他端側に設けられており、ユーザの指を押し当てて押圧することにより、内筒部211を採取用カートリッジ22内に挿入自在に構成されている。
採取用カートリッジ22は、図2に示すように収容容器220内に複数の粒状体223が充填されている。この粒状体223は、液体Lにより浸漬されている。また採取用カートリッジ22は、内側に向けて膨出させてなる内壁221と、収容容器220の底面に設けられた積層体26が更に設けられている。
粒状体223は、樹脂、セラミックス、金属等、いかなる材料で形成されていてもよい。この粒状体223は、金属で構成される場合にはダイカストからなるものであってもよいし、樹脂で構成される場合には、例えばポリスチレンで構成されていてもよい。また粒状体223は、これらの材料が2層構造で積層されていてもよく、例えばダイカストからなる金属性のコアの外殻に樹脂層がコーティングされていてもよい。
粒状体223は、球形状のビーズで構成される場合を例に挙げて説明をするが、これに限定されるものではなく、立方体、直方体を始めとするいかなる多面体で構成されていてもよいし、ランダムな立体的形状で構成されていてもよい。またこの粒状体223は、例えば、フック形状のような特異的な形状で構成されていてもよい。
粒状体223の表面には、更にリン酸カルシウムがコーティングされていてもよい。このリン酸カルシウムの層を通じて収容容器220のpHが中性に近づくように作用させることが可能となる。また、この粒状体223の表面には、例えばゼオライト、エマルジョンジェル、親水性ポリマー、アミノ酸物質の何れかの物質を被覆することにより、排泄物としての便や固形物を粒状体223に吸着させ、余分なものをフィルターで腰取りやすくすることが可能となる。
上述した構成からなる粒状体223が充填されている収容容器220内には、液体Lが予め注入されている。この液体の成分としては、例えば生体物質としてのゲノムDNAを抽出する対象となる採取物が便であれば、以下の表1に示される組成で構成するようにしてもよい。また、RNAを抽出する場合であれば、液体を表2に示される組成で構成するようにしてもよい。各成分組成の容量は、液体Lの全重量に対する重量%で表記するものとする。
ここでライシスバッファーは、糞便の酸化を防ぐための安定化物質であり、HCl、EDTA、NaCl、SDS等からなる。またDNaseバッファーは、ゲノムDNAの分解及び失活を防ぐための溶液であり、DNA分解阻害用としてDNase A(デオキシリボヌクレアーゼ)、EDTAを含む酢酸ナトリウム等からなる。DNase/RNase処理水は、DNA分解酵素であるDNase等を取り除いた水であり、DNA分解酵素と、RNA分解酵素を除去した水で構成されている。
対象となる採取物が血液や尿であれば、以下の表3に示される組成で構成するようにしてもよい。
また、RNAを抽出する場合であれば、液体を表4に示される組成で構成するようにしてもよい。
ここで調整バッファーは、血液の凝固を防ぐための安定化物質であり、EDTA、SDS等からなる。また緩衝液は、ゲノムDNAの分解及び失活を防ぐための溶液であり、クエン酸とリン酸水素二ナトリウムとを混合させて構成している。またDNase/RNase処理水は、DNA分解酵素であるDNase等を取り除いた水であり、DNA分解酵素と、RNA分解酵素を除去した水で構成されている。
対象となる採取物が唾液であれば、以下の表5に示される組成で構成するようにしてもよい。
また、RNAを抽出する場合であれば、液体を表6に示される組成で構成するようにしてもよい。
ここで緩衝液は、ゲノムDNAの分解及び失活を防ぐための溶液であり、クエン酸とリン酸水素二ナトリウムとを混合させて構成している。またDNase/RNase処理水は、DNA分解酵素であるDNase等を取り除いた水であり、DNA分解酵素と、RNA分解酵素を除去した水で構成されている。プロナーゼ溶液は、唾液に含まれるムチンというタンパク質の除去のための溶液であり、乳糖、ヒドロキシプロピルセルロース、プロナーゼ等からなる。
内壁221は、ゴム等を始めとした弾性体で構成されており、収容容器220の径方向に向けて弾性的に拡径、縮径自在に構成されている。この内壁221は、収容容器220の上端から下方に向けて内径が徐々に縮径化されてなり、ちょうど中段においてその内径が最も小さくなる。この内径が最も小さくなる中段では、内側に向けてさらに突出させた突出部222により囲まれる挿入口229が設けられている。この挿入口229から更に下方に向けてその内径が徐々に拡径するように形成されている。その結果、収容容器220は、この内壁221を介して挿入口229を境に上室220aと下室220bの2室に分かれることとなる。
この上室220aには、上述したプランジャ21の内筒部211が挿入可能とされている。下室220bには、粒状体223が充填され、更に液体Lが注入されている。この粒状体223、液体Lは、基本的には、下室220bに装入されているが、その一部が上室220aに溢れ出るものであってもよい。
この内壁221により形成される挿入口229は、その内径が狭小化する方向に向けて予め付勢されていてもよい。即ち、挿入口229は、図2中の矢印方向に向けて予め付勢されていてもよい。
ちなみに、内壁221の構成は、上述した構成に限定されるものではなく、内側に向けて膨出された形状とされていなくてもよい。即ち、この内壁221の内径が変化することなく、全て同一の内径となるように構成されていてもよい。
積層体26は、図3に示すように網状体224と、フィルム225の2層構造で構成されており、これらが互いに貼着されて構成されている。
網状体224は、例えばメッシュ構造又は縦糸と横糸とが編みこまれた網で構成されており、その網の目は、液体Lを通過可能な径で構成されている。但し、この網状体224は、その網の目が上述した粒状体223が通過不能な程度の径で構成されていることが必要となる。これにより、この網状体224につき液体Lが通過するものであっても、粒状体223の通過を防止し、ひいては粒状体223を保持することが可能となる。
フィルム225は、例えば樹脂製で構成されており、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート等の材料で構成されている。このフィルム225は、粒状体223は勿論のこと、液体Lの通過をも防止する機能を担うこととなる。
網状体224とフィルム225とは互いに接着されることで積層されていてもよいし、一体化されて積層されていてもよい。また、この網状体224とフィルム225の周端部のみが互いに取り付けられていてもよい。また、網状体224とフィルム225とは互いに接着されることで積層されている場合に限定されるものではなく、これらが互いに離間されていてもよい。
このような積層体26が収容容器220における下室220bの下端に取り付けられる。その結果、この積層体26は、収容容器220の底部としての役割を担うこととなる。積層体26を構成する網状体224、フィルム225の平面形態は、これが取り付けられる下室220bの平面視の形態に応じたものとなる。
前処理用本体23は、図4に示すように、カートリッジ収容部231と、このカートリッジ収容部231から下方に向けて延長されている分離部233とを有している。この分離部233は、第1フィルタ234と、この第1フィルタ234よりも下流側、換言すれば下側に設けられている第2フィルタ235とを有している。この分離部233の下端は、排出口236に連続し、この排出口236は、通常はキャップ237により封止されている。前処理用本体23は、例えばガラス、樹脂、金属、セラミックス等のいかなる材料により構成されていてもよい。
カートリッジ収容部231は、その周囲が周壁232により囲まれて構成されており、採取用カートリッジ22を挿入し、装着可能な形状とされている。
分離部233は、下方に向けて徐々に内径が小さくなるように構成されているが、これに限定されるものではなく、内径が全て同一とされていてもよい。分離部233は、カートリッジ収容部231から連続し、その下端に設けられた排出口236に至るまで液体を案内することができるような筒形状とされている。
分離部233内には、上から順に第1フィルタ234が設けられ、この第1フィルタ234から下側に向けて間隔をおいて第2フィルタ235が設けられている。
第1フィルタ234は、液体Lから少なくとも血清を分離することが可能な膜で構成されている。即ち、この第1フィルタ234を介して上側に隔てられている室R1と、下側に隔てられている室R2において、液体Lから分離した血清を室R1に滞留させ、血清が分離された液体Lを室R2へ透過させる役割を担うものとなる。
第1フィルタ234は、旭化成ケミカルズ株式会社製の「マイクローザMF」や富士システムズ株式会社製の「シリコーン中空糸」、Sarutrius Stedum Biotech製の「ザルトクリアデプスフィルター290-C4」等を用いるようにしてもよい。第1フィルタ234は、中空糸膜で構成され、膜の連続した組織間に形成された孔を介して液体Lから血清を分離することとなる。
第2フィルタ235は、液体Lから少なくともウィルス、菌を分離することが可能な膜で構成されている。具体的には、第2フィルタ235は、グラム陽性球菌、MRSA、SARS、インフルエンザウィルス等の各種ウィルスを分離することができる膜で構成されている。即ち、この第2フィルタ235を介して上側に隔てられている室R2と、下側に隔てられている室R3において、液体Lから分離したウィルス、菌を室R2に滞留させ、ウィルス、菌が分離された液体Lを室R3へ透過させる役割を担うものとなる。
第2フィルタ235は、旭化成ケミカルズ株式会社製の「マイクローザUF」や、Sarutrius Stedum Biotech製の「ザルトクリアデプスフィルター290-F7H」等を用いるようにしてもよい。第2フィルタ235の構成は必須ではなく、省略するようにしてもよい。
排出口236は、分離部233における室R3から連続するものであり、ウィルス、菌が分離された液体Lが送出されてくる。この排出口236は、下側に向けて管状に突出された先端に形成されていることにより、液体Lを核酸分析用チップ3に向けて注入する際の利便性を向上させることができる。
キャップ237は、通常はこの排出口236に取り付けられて、これを封止する。実際に液体Lを核酸分析用チップ3に向けて注入する際には、キャップ237を開けて、排出口236を開口させる。
ちなみに、この核酸分析用チップ3において、採取用カートリッジ22と、前処理用本体23とが互いに分離されて構成される場合に限定されるものではなく、これらが互いに一体化されて構成されていてもよい。また前処理用本体において第1フィルタ234、第2フィルタ235の構成は省略するようにしてもよく、かかる場合には、採取用カートリッジ22から液体を排出するための手段のみが少なくとも実装されていればよい。具体的には、採取用カートリッジ22と、前処理用本体23とを一体的に構成し、第1フィルタ234、第2フィルタ235の構成を省略することでそれが実現されることとなる。
次に核酸分析用チップ3の構成について説明をする。核酸分析用チップ3は、図5に示すように、空気ポンプ接続口31と、この空気ポンプ接続口31から連続するウォッシュ流路32と、サンプル注入口33と、このサンプル注入口33から連続するPCR流路34と、PCR流路34に近接させて設けられた電熱線35と、ウォッシュ流路32の下流の終端に設けられた開閉スイッチ36と、このウォッシュ流路32とPCR流路34の各下流を合流させた更に下流側に設けられたハイブリダイゼーション流路37と、ハイブリダイゼーション流路37の下流側に設けられた廃液保存リザーバー38と、この廃液保存リザーバー38に連続する排出口39とを備えている。
空気ポンプ接続口31は、図示しない空気ポンプが接続され、空気が送り込まれる。空気ポンプ接続口31に送り込まれた空気及び洗浄液は、ウォッシュ流路32へ導かれる。この空気ポンプ接続口31は、不使用時には図示しない蓋体により閉蓋されるものであってもよい。
ウォッシュ流路32は、空気及び洗浄液とを交互に流すための流路である。このような空気及び洗浄液を交互に流すためには、ウォッシュ流路32の入り口に二股分岐エアチューブを取り付ける。そして、分岐された一方のチューブから洗浄液を流し、分岐された他方にチューブからマイクロポンプを介して空気を送る。マイクロポンプから送る空気の気圧を高くすることで、洗浄液の間に空気が入り込むこととなり、空気及び洗浄液とが交互に流れることとなる。マイクロポンプから送る空気の量や気圧を周期的に変動させることによっても、これを実現することが可能となる。
この交互に流す空気及び洗浄液の間隔はいかなるものであってもよい。このウォッシュ流路32は、空気及び洗浄液とを交互に流す場合に限定されるものではない。即ち、ウォッシュ流路32は洗浄液のみを流すものであってもよい。なお、ウォッシュ流路32は、省略するようにしてもよい。
サンプル注入口33は、上述した前処理用本体23における排出口236の先端が接続可能とされている。このサンプル注入口33には、接続された排出口236を介して液体Lが注入される。サンプル注入口33は、不使用時には図示しない蓋体により閉蓋されるものであってもよい。サンプル注入口33は必ずしも前処理用本体23における排出口236の先端が接続可能とされている場合に限定されるものではない。かかる場合には、前処理用本体23における排出口236をサンプル注入口33から離間させた状態でその直上に位置させ、液体Lを当該サンプル注入口33に滴下させるようにしてもよい。即ち、このサンプル注入口33は、前処理用本体23における排出口236から液体Lを送り込むことが可能な構成であればいかなるものであってもよい。サンプル注入口33に送り込まれた液体Lは、PCR流路34へと導かれる。
PCR流路34は、液体Lを下流に向けて流す過程で、標的核酸における核酸断片を増幅させる。このPCR流路34の断面形態は、円形、多角形を始めいかなる形態とされていてもよいが、その径は1mm未満のミクロンオーダーで構成されていることが望ましい。その結果、このPCR流路34を通過する液体Lは、いわゆるマイクロ流体の状態となり、逆にこのようなマイクロ流体を流下させるPCR流路45は、いわゆるマイクロ流路の状態となる。なお、この液体Lをマイクロ流体の状態で下流に効率的に流せるようにするため、このPCR流路34が下流に進むにつれて徐々に高さが低くなるように設定されていてもよい。
PCR流路34は、いかなる経路とされていてもよいが、例えば図5に示すように所定の距離に亘り直進させた後にUターンをするように折り返され、その後再び逆方向に向けて所定の距離に亘り直進させた後にUターンをするように折り返され、これが繰り返されるものであってもよい。このとき、Uターンの回数はいかなる回数で設定されていてもよい。このようなPCR流路34の終端は、ウォッシュ流路32に合流することとなる。
なお、本発明においては、サンプル注入口33から注入させる液体中に殺菌成分、遺伝子検出用プライマー、ポリメラーゼ酵素を含有させる代わりに、このPCR流路34の内壁等においてこれらの物質を予めスプレー等で塗布しておくようにしてもよい。これにより、サンプル注入口33から注入させる液体中に殺菌成分、遺伝子検出用プライマー、ポリメラーゼ酵素を含有させることを省略することができ、液体を水等で構成してもよいこととなる。また、このような水で構成される液体からなる溶媒をサンプル注入口33から注入させた場合において、PCR流路34の内壁等において塗布された殺菌成分、遺伝子検出用プライマー、ポリメラーゼ酵素を溶解させることができることから、所期の核酸断片の増幅を実現できる。かかる場合においてPCR流路34内において乱流が生じて攪拌可能な構造とされていることが望ましい。またサンプル注入口33から注入させる液体中に殺菌成分、遺伝子検出用プライマー、ポリメラーゼ酵素を含有させることを省略するとともに、これらの殺菌成分、遺伝子検出用プライマー、ポリメラーゼ酵素を個別にサンプル注入口33から注入するようにしてもよい。
また、PCR流路内34の表面に表1又は表2の物質を予め塗布しておき、PCR流路34が乱流を起こし、撹拌可能となるような構造となっている場合において、溶液Lとその流路表面に塗布した物質を溶解させて混合させるようにしてもよい。これにより、DNA増幅またはcDNA合成によりRNAを検出するための処理をPCR流路34内にて行うことが可能となる。
電熱線35は、このPCR流路34の下に設けられている。この電熱線35は、その長手方向がPCR流路34の直進方向に対して直交する方向となるように延長されている。電熱線35は、その加熱温度が90〜95℃となるように設定されている。但し、この加熱温度は、これに限定されるものではなく、30〜150℃の間とされていればよい。この電熱線35は一列で構成される場合に限定されること無く複数列で構成されていてもよい。図5の例では、電熱線35の幅は5mmとし、互いに隣接する電熱線の間隔は5mmとしている。このような電熱線35上を通過するPCR流路45は、所定間隔で設けられた電熱線35に直交する方向に向けて通過した後に折り返されて更に各電熱線35上を通過し、更に折り返されて各電熱線35上を通過することを繰り返すこととなる。その結果、PCR流路34は電熱線35上において90〜95℃にて加熱された後、次の電熱線35上を通過するまでの間に冷却されて55℃程度まで温度が低下し、再び次の電熱線35が近づくにつれて温度上昇して90〜95℃まで加熱される。PCR流路34を流れる過程で、このような電熱線35を介した加熱と冷却が繰り返し起きることとなる。
開閉スイッチ36は、ウォッシュ流路32を開閉自在に構成することにより、当該ウォッシュ流路32からハイブリダイゼーション流路37へ流す洗浄液を制御する。この開閉スイッチ36の具体的構成としては、ウォッシュ流路32を樹脂製の管体で構成する一方、当該開閉スイッチ36の位置のみ弾性変形自在なフィルム製の管体で構成し、このフィルム製の管体に対して外圧を負荷するようにしてもよい。このような外圧を受けることでフィルム製の管体は縮径するように弾性変形することで、ウォッシュ流路32からの洗浄液の通過を抑えこむことができる。一方、フィルム製の管体に対して外圧を負荷しないようにすることで、そのフィルム製の管体は縮径せず、係る場合には洗浄液は開閉スイッチ36を通過してハイブリダイゼーション流路37へと流れることとなる。この外圧を加えるためには、例えば空気ポンプをこの開閉スイッチ36の配設箇所に設置し、フィルム製の管体に空気を送気することで外圧を負荷するようにしてもよい。
ハイブリダイゼーション流路37は、核酸プローブが予め底面に形成されている。ハイブリダイゼーション流路37では、検出対象である標的核酸と相補的な塩基配列を持つ核酸プローブが予め形成されている。
ハイブリダイゼーション流路37では、例えば排泄物からある採取物に基づいて解析を行う場合、腸内細菌叢における以下の菌(ビフィズス菌、乳酸菌、フィーカリ菌、痩せ菌、フラジリス菌、ブチリカム菌、エクオール産生菌、ウエルシュ菌、ソルデリー菌、ヌクリータム菌、セレウス菌、コプリ菌等)を同定する上で適した核酸プローブを配列させるようにしてもよい。
ハイブリダイゼーション流路37は、外部から照射される光が到達するようにするため、並びに外部に向けて発光が到達するようにするため、例えば光透過性の材料で構成されている必要があり、例えば透明性のプラスチック材料で構成されている。
廃液保存リザーバー38は、ハイブリダイゼーション流路37から標的核酸以外の核酸を含む廃液が流れてくる。廃液保存リザーバー38は、この廃液を一時的に貯蔵することができるような収容スペースからなる貯水タンクにより構成されている。
排出口39は、この廃液保存リザーバー38内に蓄積された廃液を排出するために設けられる。排出口39は、通常は図示しないキャップにより閉蓋されているが、これを開蓋することにより、廃液保存リザーバー38に蓄積されている廃液を排出することが可能となる。
次にチップ測定装置4の構成について説明をする。図6はチップ測定装置4のシステム構成図である。
チップ測定装置4は、制御ブロック46にそれぞれ接続されている照明部41、検出部42とを備えており、更にこの照明部41、検出部42に対して対面させるように設けられたチップマウンター43と、このチップマウンター43の背面側に設けられた放熱板45とを備えている。このチップマウンター43には上述した電熱線35が取り付けられている。チップマウンター43には、核酸分析用チップ3が着脱自在となるように取り付けられる。
図7は、この制御ブロック46のブロック構成を示している。制御ブロック46は、中央制御部61と、この中央制御部61に対してそれぞれ接続される通信部62、表示パネル63、空気ポンプ制御部64、電源化安定部65、操作部66、電熱線制御部67とを備えている。この中央制御部61には、検出部42、照明部41がそれぞれ接続されている。空気ポンプ制御部64には空気ポンプ91、センサ92が接続されている。電熱線制御部67には電熱線35が接続されている。
照明部41は、チップマウンター43に取り付けられた核酸分析用チップ3に対して光を照射する照明であり、例えばLED(青色LED等)で構成されている。この照明部41は、照射した光が核酸分析用チップ3におけるハイブリダイゼーション流路37に対して直接到達するように配置される。照明部41は、中央制御部61により、光の発光のON/OFF、発光強度、発光波長、発光時間等が制御される。
検出部42は、チップマウンター43に取り付けられた核酸分析用チップ3からの発光からなるハイブリダイズ信号を受光してこれを電気的な信号に変換し、中央制御部61に送信するためのデバイスである。検出部42は、例えば光電子倍増管やCCDイメージセンサ等を始めとした固体撮像素子で構成される。検出部42は、核酸分析用チップ3におけるハイブリダイゼーション流路37からの発光を直接受光できる位置に配置される。検出部42は、中央制御部61により、光の受光のON/OFF、受光時間等が制御される。
なお、この検出部42は、可視光領域の光を受光する場合に限定されるものではなく、赤外領域、近赤外領域、紫外領域の光も受光して測定するようにしてもよい。かかる場合において、この検出部42は、例えば浜松ホトニクス製の小型分光器(C12666MA/C12800MA)等を利用して、ハイブリダイゼーション流路37からの赤外領域、近赤外領域の光を吸収することで分子振動を測定し、物質の同定を行うようにしてもよい。またハイブリダイゼーション流路37からの紫外領域等の微小な光を検出するためには、この検出部42につき浜松ホトニクスの光電子増倍管(例:R11265U-200)を用いて測定を行うようにしてもよい。
チップマウンター43は、核酸分析用チップ3が載置可能な載置台と、これを着脱自在に固定できるように例えば磁石やアタッチメント等の固定器具が設けられている。チップマウンター43は、ハイブリダイゼーション流路37がちょうど照明部41、検出部42の方向に配向するように核酸分析用チップ3を固定可能に構成している。
放熱板45は、電熱線35の近傍に設けられており、電熱線35から発せられる熱を放熱しやすくするため、外側の表面積が大きくなるような凹凸が設けられた形状とされている。この放熱板45は、例えばアルミ等のような軽量で加工が容易な材料で構成されていることが望ましい。
電熱線制御部67は、中央制御部61による制御の下、電熱線35の温度が所定の範囲となるようにフィードバック制御を行う。
通信部62は、中央制御部61から送られてくる通信信号を無線信号に変換し、これをアンテナを介して携帯端末5へ送信することを制御する。また通信部62は、携帯端末5から送信されてくる無線信号を受信し、これを電気信号に変換して中央制御部61へと供給する役割も担う。この通信部62は、携帯端末5との間で無線信号の送受信を行うことを前提としているが、これに限定されるものではなく、携帯端末5を介さずに公衆通信網6と通信を行うようにしてもよい。また、通信部62は、無線通信により信号を送受信する場合に限定されるものではなく、有線通信にこれを代替してもよい。
表示パネル63は、例えば液晶表示パネル等で構成されており、ユーザに対して各種情報を表示するためのデバイスである。
操作部66は、ユーザ自身がこのチップ測定装置4を操作、制御するためのボタン、マウス、タッチパネル等で構成されている。この操作部66により入力された入力情報は中央制御部61に伝送され、中央制御部61は、その入力情報に基づいて各種制御を行うこととなる。ちなみに、この操作部66をタッチパネルにより構成する場合には、これを表示パネル63と一体的に構成するようにしてもよい。
電源安定化部65は、チップ測定装置4における制御ブロック46や電熱線35等の電源を安定させるための制御を行う。
中央制御部61は、チップ測定装置4全体を制御するための中央制御ユニットであり、例えばCPU(Central Processing Unit)を含むものである。中央制御部61は、操作部66を介してユーザの操作に応じて各種制御用の指令を各ユニットに対して伝達する。また中央制御部61は、照明部41対して発光のON/OFF、発光強度、発光波長、発光時間等を制御する。また、中央制御部61は、検出部42に対して、光の受光のON/OFF、受光時間等の制御を行う。中央制御部61は、検出部42がハイブリダイゼーション流路37から受光した受光情報が送られてくる。中央制御部61は、このような受光情報を表示パネル63に表示し、或いは通信部62を介して外部に送信する。中央制御部61は、開閉スイッチ36による開閉制御も行う。中央制御部61は、これらの各制御を図示しないROM等に格納されたプログラムに基づいて実行する。
空気ポンプ制御部64は、空気ポンプ接続口31に接続される空気ポンプ91を介した送気を制御する。この空気ポンプ制御部64による送気量や送気のタイミングは、例えば、センサ92による検知情報に基づいて制御されるものであってもよい。
センサ92は、例えばモーションセンサや赤外線センサ等で構成されており、ユーザの手の動きを検知し、これに基づいた検知情報を生成して空気ポンプ制御部64へ送信する。その結果、空気ポンプ制御部64による空気ポンプ91の送気制御は、ユーザの動きに基づいて実現することが可能となる。
空気ポンプ91は、外部から空気を吸い込むことで送気すべき空気を溜めておく空気タンクと、この空気タンクに溜められた空気を空気ポンプ接続口31を介してウォッシュ流路32へ供給するチューブとに分類できる。空気ポンプ91は、自動制御により動作する場合に限定されるものではなく、手動で空気ポンプ接続口31を介してウォッシュ流路32へ空気を送気するようにしてもよい。かかる場合には、空気ポンプ制御部64、センサ92の構成を省略することができる。
次に、本発明を適用した遺伝子解析システム1を用いて遺伝子を解析する方法について説明をする。
先ずユーザは、人体、排泄物、土壌の何れかから採取した採取物を採取する。ここでいう採取物の採取対象としては、人体であれば、血液、汗、唾液等であり、排泄物であれば便、尿である。
このような採取物を採取する際に、例えば綿棒等のような棒状体の先端に採取物を付着させる。次に図8に示すように、収容容器220内に複数の粒状体223を充填させ、液体Lを浸漬させた採取用カートリッジ22に、先端部94に採取物95が付着された棒状体9を挿入する。この棒状体9の先端部94は、綿棒のように若干太径化されていてもよいが、これに限定されるものではなく、全て同一径の棒状体であってもよい。
棒状体9をその先端部94から収容容器220内に挿入するにつれて、上端から下方に向けて徐々に縮径化された内壁221の内径を介して棒状体9の先端が挿入口229に向けて自然に案内されていくこととなる。この挿入口229からこの棒状体9の先端部94を更に下向きに押し下げることにより、先端部94が挿入口229の中に挿入されて下室220bに入り込むこととなる。このとき、棒状体9における先端部94よりも僅かに根本側に離間した根本部分において外側に突出させた突起部96を予め形成させるようにしてもよい。これにより、突起部96が挿入口229における突出部222に係止されることにより、棒状体9の押込み深さを適度な位置にコントロールすることができ、ひいては棒状体9を収容容器220内において押し込みすぎてしまい、積層体26まで到達してしまうのを防止することができる。更にこの棒状体9は突起部96の近傍において簡単に折って先端部94と容易に切り離すことができるように、予め折り目や切り溝等が形成されていてもよい。
内壁221により形成される挿入口229が、その内径が狭小化する方向に向けて予め付勢されていることにより、棒状体9の太径化された先端部94を挿入口229に押し込む過程において挿入口229を外側に押し広げつつこれを下室220b側に挿入させる動作を行うこととなる。そして、太径化された先端部94が完全に下室220b側に入り込んだ状態になると、一度押し広げられた挿入口229が再びその内径が狭小化する方向に向けて付勢される結果、この棒状体9の先端部94における根本部が挿入口229における突出部222が閉口されることとなる。その結果、ユーザからこの先端部94を直接視認することができない状態を作り出すことができる。このため、仮に採取物95が排泄物である場合、ユーザがこれを直接視認することができないことで、清潔な印象を持たせることが可能となる。
また、棒状体9を下室220bから引き抜く際には、その太径化された先端部94を挿入口229から押し出す過程において挿入口229を外側に押し広げつつこれを上室220a側に引っ張る動作を行うこととなる。このとき、先端部94に採取物95が付着していた場合、付勢力を受けた内壁221をこの採取物95に当てがわせることにより、当該採取物95を下室220b内に落とし込むことも可能となる。
更にこの内壁221により形成される挿入口229が、その内径が狭小化する方向に向けて予め付勢されていることにより、下室220bは密閉に近い状態とされているため、内部の液体Lや粒状体223を長持ちさせることが可能となる。
このようにして下室220bに入り込んだ棒状体9の先端部94の周囲は、粒状体223により囲まれている状態となっている。その結果、先端部94には、粒状体223が接触することとなるため、この先端部94に付着している採取物95も同様にこの粒状体223に接触することとなる。その結果、採取物95は、接触された粒状体223により拭き取られて採取されることとなる。この粒状体223は、液体Lに含浸されていることから、採取された採取物は液体Lに溶解していくこととなる。
なおユーザは、この棒状体9を下室220b内で攪拌するようにしてもよいし、上下に微震動させるようにしてもよい。これにより、先端部94に付着した採取物95が粒状体223に何度か接触させて擦れることとなり、採取物95をより効果的に拭き取ることで、液体Lにこれを溶解させることができる。
次にユーザは、採取物95が除去された後の先端部94を含む棒状体9を収容容器220から抜き取る。次に図9に示すように、前処理用本体23におけるカートリッジ収容部231に採取用カートリッジ22を装着する。その結果、この採取用カートリッジ22と前処理用本体23との装着時において、粒状体223が充填されている収容容器220と、第1フィルタ234とは、ちょうど積層体26を介して隔てられた状態となる。この状態において液体Lは、液体そのものが通過不能なフィルム225により保持されている状態となっている。
次に、このフィルム225に孔を開けることにより液体Lを前処理用本体23における分離部233側に流下させる。フィルム225に孔を開ける方法としてしてはいかなるものであってもよいが、例えば第1フィルタ234を介して上側に隔てられている室R1において長尺の針を複数本に亘り上向きに設置しておき、採取用カートリッジ22を装着したときにこの長尺の針がフィルム225に突き刺さり、フィルム225に開けられた孔から液体Lが前処理用本体23における分離部233側に流下していくこととなる。一方、粒状体223は、網状体224を通過することができないため、これに保持されることで分離部233に落下することはない。
図10は、液体Lにつきフィルム225を通過させ、前処理用本体23における分離部233側に流下させた状態を示している。液体Lは、最初に室R1に流下し、第1フィルタ234を通過することとなる。この第1フィルタ234では、膜の連続した組織間に形成された孔を介して液体Lから血清を分離させる。即ちこの血清は、室R1において蓄積されることとなり、血清が除かれた液体Lが第1フィルタ234を通過して室R2に流下することとなる。
室R2に流下した液体Lは、第2フィルタ235により少なくともウィルス、菌が分離されることとなる。ウィルス、菌が分離された液体Lのみが第2フィルタ235を通過し、室R3へと流下していくこととなる。
室R3に流下した液体を蓄積した後、ユーザは、キャップ237を開封すると共に、前処理用本体23における排出口236の先端を、核酸分析用チップ3におけるサンプル注入口33に接続する。その結果、このサンプル注入口33には、前処理用本体23における排出口236を介して液体Lが注入される。サンプル注入口33に送り込まれた液体Lは、PCR流路34へと導かれる。
PCR流路34へ導かれた液体Lは、この流路34の下流に向けて徐々に流下していくこととなる。このとき、液体Lは縮径化されたPCR流路34を流れることによるマイクロ流体の状態で、このPCR流路34を流れていくこととなる。液体Lは、このPCR流路34を流れる過程で、ポリメラーゼ連鎖反応を起こしていく。具体的には、PCR流路34が電熱線35上を流れているときには、90〜95℃で加熱されている状態であることから、この段階では核酸を熱変性し、2本鎖の核酸の水素結合が切断され、1本鎖の核酸に解離することとなる。
このような1本鎖の核酸を含む液体Lが電熱線35上を通り過ぎ、更に当該電熱線35から離間するにつれて温度は低下することとなる。この液体Lはプライマーを含有するものであることから、55℃程度まで温度が低くなると、1本鎖の核酸に対してプライマーと相補的な結合が生じる。
次に、このようなプライマーと相補的に結合した1本鎖の核酸を含む液体Lが徐々に電熱線35に近接してくるにつれて温度が再び上昇し始める。この温度上昇に応じてプライマーは伸長しはじめ、2本鎖の核酸となる。そして、再び液体Lが電熱線35上に到達し、温度が90〜95℃で加熱されることで変性が生じ、2本鎖の核酸の水素結合が切断され、1本鎖の核酸に解離することとなる。
液体LがPCR流路34を流れる過程で、上述したプロセスが繰り返し起きる結果、核酸断片を増幅させつつ下流へ流すことが可能となる。
液体Lは、このPCR流路34を出た後、ハイブリダイゼーション流路37へと導かれることとなる。液体Lがハイブリダイゼーション流路37を流れる段階においては、少なくとも、このハイブリダイゼーション流路37が照明部41からの照明光が到達している必要があり、またハイブリダイゼーション流路37からの発光が生じた場合に検出部42においてこれを検知できる状態に制御ブロック46における中央制御部61により予め制御されている必要がある。
ハイブリダイゼーション流路37では、仮に液体L中に標的核酸が含まれている場合に、これと当該核酸プローブとの間で安定な二重鎖を形成させることが可能となる。その結果、標的核酸のみがこの核酸プローブと相補的な二重鎖を形成させることでそのままこのハイブリダイゼーション流路37に留まることとなり、標的核酸以外の核酸は何れもこのハイブリダイゼーション流路37をそのまま流れていき、廃液保存リザーバー38へ送り込まれることとなる。
ハイブリダイゼーション流路37に残存した、この核酸プローブと結合した標的核酸の有無について、チップ測定装置4により同定していくこととなる。このハイブリダイゼーション流路37において行われるハイブリダイゼーションは周知のいかなる方法で行われるものであってもよい。例えば蛍光 in situ ハイブリダイゼーションを採用する場合には、蛍光物質や酵素などで標識した核酸プローブを使用し、標的核酸とハイブリダイゼーションさせることで発光されたハイブリダイズ信号を、蛍光顕微鏡としての検出部42で検出するようにしてもよい。
このようにして、ハイブリダイゼーション流路37においてハイブリダイゼーションを行っていくこととなる。このハイブリダイゼーション流路37においてより好適にハイブリダイゼーションを行っていくためには、温度、pH、陽イオンの濃度等が予め調製されている必要がある。温度の調整はペルチェ素子や電熱線等を使用するようにしてもよい。温度は例えば37℃程度、pHは7程度とされていてもよい。
なお、ハイブリダイゼーションの終了後、開閉スイッチ36を開けることでウォッシュ流路32からハイブリダイゼーション流路37へ洗浄液を流すようにしてもよい。これにより、この核酸分析用チップ3を利用して複数回に亘り核酸の同定を行うことが可能となる。ウォッシュ流路32から洗浄液を流す場合には、空気ポンプ制御部64を介して空気ポンプ91を動作させるとともに洗浄液を交互に流し込む。洗浄液は、このウォッシュ流路32を下流に向けて流れていき、そのままハイブリダイゼーション流路37へと流れていくこととなる。ハイブリダイゼーション流路37に到達した洗浄液は、残存している核酸を全て流してこれを廃液保存リザーバー38へと送り込む。
検出部42により、標的核酸の存在を示す発光を検出することができた場合、検出部42は、これを中央制御部61へと出力する。中央制御部61は、かかる検出結果を取得した上で、検出したデータを表示パネル63を介して表示し、或いは検出したデータを通信部62を介して携帯端末5へと送信する。
携帯端末5は、通信部62を介して上記データを受信した場合には、自身に格納されている検診用アプリを利用し、データの解析を行うことで核酸の同定を行い、遺伝子解析を行う。形態端末5は、解析結果をユーザに表示し、或いは今後の健康維持のための各種提案をユーザに表示する。また携帯端末5は、通信部62を介して受信した上記データを更に公衆通信網6に送信するようにしてもよい。公衆通信網6に送信された上記データは、サーバ7に格納される。このサーバ7に格納されたデータは、中央制御装置8によって分析され、また医師等によって確認される。更に中央制御装置8によって情報分析されることにより得られた知見や、分析結果は、公衆通信網6を介して携帯端末5へ送信される場合もある。
上述した構成からなる本発明によれば、ユーザは人体、排泄物、土壌の何れかから棒状体9により採取物を採取し、液体Lを浸漬させた採取用カートリッジ22に、先端部94に採取物95が付着された棒状体9を挿入する。他には、採取用カートリッジ22を前処理用本体23に装着する作業と、前処理用本体23における排出口236の先端を、核酸分析用チップ3のサンプル注入口33に接続するだけで、後は全て自動的に遺伝子解析が行われていくこととなる。
このため、医療について専門的知識の無いユーザであっても、極めて簡単な作業で遺伝子解析を自分自身で行うことが可能となる。
また遺伝子解析用前処理キット2と、核酸分析用チップ3と、チップ測定装置4は、何れも装置構成が複雑なものではないため、小型化を図ることも可能となり、自宅におけるセルフ検診に適した構造とされ、また安価で提供することができることから個人でも購入すること可能となる。
更に本発明によれば、採取した採取物から核酸を高効率に抽出することができ、また核酸の同定を高精度に行うべく、遺伝子解析用前処理キット2を通じて血清や菌、ウィルスを予め除去することができ、しかもこれらの操作につき特段の熟練、知識も必要なく極めて簡便に行うことができる。
また、ウォッシュ流路32から洗浄液をハイブリダイゼーション流路37に流すことでこれを洗浄することができ、核酸分析用チップ3を何度も繰り返して使用することができるためコストパフォーマンスにも大変優れた構成とされており、この洗浄作業も極めて簡便に行うことが可能となる。
また、上述の如き装置構成の簡略化、取扱容易性、コストパフォーマンスの向上を図りつつも、生化学検査の精度は従前のものと同レベルを維持することができることから、医療機関での同レベルの遺伝子解析を自宅にて実現することが可能となる。
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。粒状体223を弾性物質からなる表皮の中に液体Lを予め封入することで構成してもよい。係る場合には、収容容器220内において液体Lを含浸させることは必須とならない。採取物を先端に付着させた棒状体9が挿入された場合に、その先端を粒状体223に接触させることで当該採取物を採取することは上述と同様である。これに加えて、その棒状体9の先端により粒状体223の表皮を破くことで液体Lを流出させる。これにより棒状体9の先端をその流出させた液体Lに含浸させることが可能となる。
また、本発明を適用した遺伝子解析システム1は、図11、12に示すようなケース収容型で構成されていてもよい。このケース収容型の遺伝子解析システム1’の構成要素、部材は、上述した実施の形態と同様であるため、同一の符号を付して説明することにより以下での説明を省略する。
この図11は、ケース収容型の遺伝子解析システム1’の外観を示している。ケース収容型の遺伝子解析システム1’は、一端が図示しないヒンジにより接合され、その図示しないヒンジを回転中心としてケース100aとケース100bとが互いに開閉自在に構成されている。このケース100a、100bの上面には、持ち手101が設けられており、ロック機構102が設けられている。またケース収容型の遺伝子解析システム1’の外側には、ディスプレイ103、タッチパネル104が設けられていてもよい。因みにディスプレイ103は、表示パネル63に相当し、タッチパネル104は操作部66に相当する。
図12は、このケース100a、100bを展開した状態を示している。ケース100a側には、上述したチップ測定装置4が配設され、このチップ測定装置4には、パーソナルコンピュータ(PC)50が接続され、さらにこのPC50にはバッテリー105が接続されている。PC50は、バッテリー105から供給される電力により動作する。チップ測定装置4による測定結果がこのPC50に送られる。このPC50は、上述した携帯端末5と同様の機能を担う。
またケース100b側には、核酸分析用チップ3が配設され、さらにこの核酸分析用チップ3には前処理用本体23が接続される。核酸分析用チップ3は、ケース100a、100bを閉めた場合において、ちょうどチップ測定装置4と対面する位置に設けられている。これにより、上述した測定が可能となる。この核酸分析用チップ3におけるサンプル注入口33には、前処理用本体23における排出口236が直接接続され、液体Lが送られる構成となっている。前処理用本体23及び核酸分析用チップ3は、複数組に亘り配列されていてもよい。前処理用本体23は、サンプル導入口108から分岐チューブ111を介してサンプルが導入可能とされている。このサンプル導入口108の構成は、採取用カートリッジ22と同様である。この採取用カートリッジ22からの液体Lが分岐チューブ111を介して前処理用本体23に送られる。ちなみに、採取用カートリッジ22から分岐チューブ111へ液体Lを送液する際の動力は、ポンプ109を介して行うものとする。このケース100a、100b内部は、サンプル導入口108以外は強化プラスチックや強化保護フィルムで覆われていることで、検体の飛び散りを防止することができる。
このようなケース収容型の遺伝子解析システム1’によれば、スーツケース等のような大きさのケースにシステムをコンパクトにまとめることができる。また危険性が高いウィルスや病気(HIV、マールブルクウィルス、エボラウィルス、天然痘、ラッサ熱等)を特別な管理施設にその都度委託することなく迅速に測定できるため、世界的な伝染病の大流行等もいち早く察知し、被害拡大を押さえることができる。特にこのケース収容型の遺伝子解析システム1’によれば、採取物95が付着された棒状体9をサンプル導入口108に挿入するのみで残りは全自動で測定をすることができるため、操作性をより向上させることができ、しかも測定開始から終了まで一切人の手を触れずに処分も可能であるため衛生面においても優れたものとなる。
また、本発明によれば、核酸測定以外に、ペプチドやエクソソーム、バイオマーカー、抗体等の生体物質についても同様に測定することができる。かかる場合には、前処理用本体23における排出口236を介して注入さえた液体Lは、PCR流路34において核酸増幅が行われることなくそのままハイブリダイゼーション流路37へと流されることとなる。それ以外の工程は、何れも上述した実施の形態と同様である。即ち、ペプチドやエクソソーム、バイオマーカー、抗体等の生体物質についても同様に測定する場合には、PCR流路34の代替として、単に注入した液体Lをハイブリダイゼーション流路37へと流す注入流路とされていればよい。