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JP2020059935A - セルロース繊維のスラリー - Google Patents

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JP2020059935A JP2018190495A JP2018190495A JP2020059935A JP 2020059935 A JP2020059935 A JP 2020059935A JP 2018190495 A JP2018190495 A JP 2018190495A JP 2018190495 A JP2018190495 A JP 2018190495A JP 2020059935 A JP2020059935 A JP 2020059935A
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Abstract

【課題】脱水性に優れるセルロース繊維のスラリーとする。【解決手段】セルロース繊維のスラリーは、セルロース繊維を主成分とし、セルロース繊維としてセルロースナノファイバーに加えてパルプを含み、リグニン含有量が10〜50質量%である。【選択図】なし

Description

本発明は、セルロース繊維のスラリーに関するものである。
セルロース繊維をナノレベルまで解繊して得られるセルロースナノファイバー(CNF)は、強度、弾性、熱安定性等に優れていることから、各種用途への活用が期待されている。セルロースナノファイバーの用途の1つとしては、セルロースナノファイバーのスラリーを乾燥、成形等して得られるセルロースナノファイバーの成形体等(以下、単に「成形体等」とも言う。)が存在する。例えば、特許文献1は、「蒸気透過手段を使用してなる型にCNF含有スラリーを充填し、CNF含有スラリーに荷重を加えると共に濃縮することを特徴とするCNFの成形方法」を提案している。同文献は、「乾燥条件の調整が容易で収縮やひび割れが無く安定的に高度な3次元構造のCNF成形物を高い生産性で得ることができるCNFの成形方法及びその成形方法によって得られるCNF成形体を提供することを目的とする」ものであるとしている。
しかしながら、同文献はCNF成型物の製造において使用する型や製造方法自体に着目して乾燥性を向上する発明であり、使用するセルロース繊維スラリーの脱水性等に着目するものではない。しかるに、セルロース繊維スラリーの脱水性等を改善することができれば、成形体等の乾燥性を向上することができるなどの利点がある。
特開2016−94683号公報
本発明が解決しようとする主たる課題は、脱水性に優れるセルロース繊維のスラリーを提供することにある。
上記課題を解決するために種々試験を行った中で、本発明者等は、以下のことを知見した。まず、セルロース繊維がセルロースナノファイバーのみであると、当該セルロース繊維のスラリーから成形体等を製造した場合において成形体等の機械的物性は優れることになるが、セルロース繊維スラリーの脱水性が悪いために生産性が悪いという問題がある。一方、セルロースナノファイバーにパルプを配合すると、成形体等の機械的物性をある程度維持しつつ脱水性を改善することができる。また、セルロース繊維のスラリーがリグニンを含む場合は、当該脱水性の改善効果が顕著に現れる。しかも、成形体等を所定の条件で加圧加熱すると、引張弾性率及び引張強度が向上する。そして、当該加圧加熱の条件は樹脂等の加工条件に近く、したがって、例えば、成形体等を用いて二次加工を施した際には、当該成形体等の機械的物性が低下することなく、逆に成形体等の物性が向上することになる。このような知見に基づいて想到するに至ったのが、次に示す手段である。
(請求項1に記載の手段)
セルロース繊維を主成分とし、
前記セルロース繊維としてセルロースナノファイバーに加えてパルプを含み、
リグニン含有量が10〜50質量%である、
ことを特徴とするセルロース繊維のスラリー。
(請求項2に記載の手段)
前記パルプがリグニン含有パルプである、
請求項1に記載のセルロース繊維のスラリー。
(請求項3に記載の手段)
前記セルロースナノファイバーの平均繊維径が10〜500nm、前記パルプの平均繊維径が10〜100μmであり、
前記パルプが前記セルロース繊維中において5〜70質量%を占める、
請求項1又は請求項2に記載のセルロース繊維のスラリー。
(請求項4に記載の手段)
前記セルロース繊維スラリー中におけるセルロース繊維の固形分濃度が1〜10質量%である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロース繊維のスラリー。
(請求項5に記載の手段)
加圧加熱(120℃、2MPa、5分間)して含水率10質量%以下、かつ密度1.0g/cm3のシートとした場合における引張弾性率が5〜20GPaであり、
再度の加圧加熱(180℃、2MPa、5分)した場合における引張弾性率が、再度の加圧加熱をする前の引張弾性率の1.0倍以上である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロース繊維のスラリー。
本発明によると、脱水性に優れるセルロース繊維のスラリーとなる。
次に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
本形態のセルロース繊維のスラリー(以下、単に「スラリー」とも言う。)は、セルロース繊維を主成分(好ましくは1質量%以上)とする。また、当該セルロース繊維は、セルロースナノファイバーに加えて所定の割合でパルプを含む。さらに、本形態のセルロース繊維のスラリーは、所定の割合でリグニンを含有する。
本形態のセルロース繊維のスラリーは、例えば、脱水、成形等することによって成形体等とすることができる。ただし、本形態のセルロース繊維のスラリーの用途は、成形体等に限定されず、例えば、3Dプリンターのインク原料などとしても利用することができる。以下、順に説明する。
(リグニン)
本形態においてリグニンは、セルロース繊維スラリーの脱水性を向上させる役割を果たす。この観点から、リグニンの含有量(率)は、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜40質量%、特に好ましくは20〜35質量%である。リグニンの含有量が10質量%を下回ると、セルロース繊維スラリーの脱水性が十分に向上しないおそれがある。
他方、リグニンの含有量が50質量%を上回ると、セルロースナノファイバーとパルプとの水素結合を阻害し、例えば、成形体等の物性等を低下させるおそれがある。
リグニンの含有量は、(リグニンの質量/セルロース繊維スラリー中の固形物(リグニンも含む)の質量)×100(%)を意味する。
リグニンは、リグニンをセルロースナノファイバーやパルプに別途添加し、混合することで上記含有量にすることも、セルロースナノファイバーの原料パルプやパルプとしてリグニン含有パルプを使用することで上記含有量にすることも、これら両者によることもできる。ただし、セルロースナノファイバーの原料パルプやパルプとしてリグニン含有パルプを使用する方が好ましい。リグニン含有パルプを使用すると、セルロース繊維の吸水性が低下し、もってセルロース繊維スラリーの脱水性が向上するものと考えられる。しかも、リグニン含有パルプにおいてはセルロース繊維自体とリグニンとが化学結合を介して繋がっているため、成形体等とした場合に高い機械的物性が得られる。
リグニンの含有量は、リグニン含有率試験方法(JAPAN TAPPI No.61(2000))に準拠して行うことで測定した値である
なお、リグニンは熱可塑性を有することが知られており(例えば、特開2012−236811号公報参照。)、融点(当該文献では融点160〜174℃とされている。)以上の温度で成形加工すると、溶融したリグニンが成形体等に行き渡ることで均質化し、全体としての機械的物性が向上するものと考えられる。
(セルロースナノファイバー)
本形態においてセルロースナノファイバーは、セルロース繊維の水素結合点を増やし、もって成形体等の強度を向上する役割を有する。セルロースナノファイバーは、原料パルプを解繊(微細化)することで得ることができる。
セルロースナノファイバーの原料パルプとしては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス・綿・麻・じん皮繊維等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、以上の各種原料は、例えば、セルロース系パウダーなどと言われる粉砕物の状態等であってもよい。
ただし、不純物の混入を可及的に避けるために、木材パルプを使用するのが好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、リグニンを別途添加するのでない場合は、リグニン含有パルプを使用するのが好ましいことは、前述したとおりである。
広葉樹クラフトパルプは、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。同様に、針葉樹クラフトパルプは、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。
機械パルプとしては、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
セルロース繊維スラリーの脱水性の観点からは、原料パルプとしてリグニンを含有するパルプを使用するのが好ましく、機械パルプを使用するのがより好ましく、BTMPを使用するのが特に好ましい。
セルロースナノファイバーの解繊に先立っては、化学的手法によって前処理することもできる。化学的手法による前処理としては、例えば、酸による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)等を例示することができる。
解繊に先立ってアルカリ処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの水酸基が一部解離し、分子がアニオン化することで分子内及び分子間水素結合が弱まり、解繊におけるセルロース繊維の分散が促進される。
アルカリ処理に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を使用することができる。ただし、製造コストの観点からは、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
解繊に先立って酵素処理や酸処理、酸化処理を施すと、セルロースナノファイバーの保水度を低く、結晶化度を高くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。この点、セルロースナノファイバーの保水度が低いと脱水し易くなり、セルロース繊維スラリーの脱水性が向上する。
原料パルプを酵素処理や酸処理、酸化処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解され、結果、微細化処理のエネルギーを低減することができ、繊維の均一性や分散性を向上することができる。繊維の分散性は、例えば、得られたスラリーから成形体を製造する場合等において、当該成形体の均質性に資する。ただし、前処理は、セルロースナノファイバーのアスペクト比を低下させるため、過度の前処理は避けるのが好ましい。
原料パルプの解繊は、例えば、ビーター、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、単軸混練機、多軸混練機、ニーダーリファイナー、ジェットミル等を使用して原料パルプを叩解することによって行うことができる。ただし、リファイナーやジェットミルを使用して行うのが好ましい。
原料パルプの解繊は、得られるセルロースナノファイバーの平均繊維径、平均繊維長、保水度、結晶化度、擬似粒度分布のピーク値、パルプ粘度、分散液のB型粘度が、以下に示すような所望の値又は評価となるように行うのが好ましい。
セルロースナノファイバーの平均繊維径(平均繊維幅。単繊維の直径平均。)は、好ましくは10〜500nm、より好ましくは15〜450nm、特に好ましくは20〜400nmである。セルロースナノファイバーの平均繊維径が10nmを下回ると、セルロース繊維スラリーの脱水性が悪化するおそれがある。また、セルロース繊維スラリーから成形体等を製造する場合においては、当該成形体が緻密になり過ぎ、乾燥性が悪化するおそれがある。
他方、セルロースナノファイバーの平均繊維径が500nmを上回ると、水素結合点の増加効果が得られないおそれがある。
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
セルロースナノファイバーの平均繊維径の測定方法は、次のとおりである。
まず、固形分濃度0.01〜0.1質量%のセルロースナノファイバーの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t−ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて3,000倍〜30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維径とする。
セルロースナノファイバーの平均繊維長(単繊維の長さ)は、好ましくは0.3〜2000μm、より好ましくは0.4〜200μm、特に好ましくは0.5〜20μmである。セルロースナノファイバーの平均繊維長が0.3μmを下回ると、セルロース繊維スラリーから成形体等を製造する場合において、脱水の過程で流出する繊維の割合が多くなり、また、成形体等の強度を担保することができなくなるおそれがある。
他方、セルロースナノファイバーの平均繊維長が2000μmを上回ると、繊維同士が絡み易くなり、また、セルロース繊維スラリーから成形体等を製造する場合において、当該成形体の表面性が悪化するおそれがある。
セルロースナノファイバーの平均繊維長は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
セルロースナノファイバーの平均繊維長の測定方法は、平均繊維径の場合と同様にして、各繊維の長さを目視で計測する。計測値の中位長を平均繊維長とする。
セルロースナノファイバーの保水度は、例えば90〜600%、好ましくは100〜300%、より好ましくは120〜280%である。セルロースナノファイバーの保水度が90%を下回ると、セルロースナノファイバーの分散性が悪化し、パルプと均一に混合することができなくなるおそれがある。
他方、セルロースナノファイバーの保水度が600%を上回ると、セルロースナノファイバー自体の保水力が高くなり、セルロース繊維スラリーの脱水性が悪化するおそれがある。
セルロースナノファイバーの保水度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
セルロースナノファイバーの保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
セルロースナノファイバーの結晶化度は、好ましくは45〜90%、より好ましくは50〜75%、特に好ましくは60〜70%である。セルロースナノファイバーの結晶化度が以上の範囲内であれば、セルロース繊維スラリーから成形体等を製造する場合等において、当該成形体等の強度を担保することができる。
セルロースナノファイバーの結晶化度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整することができる。
セルロースナノファイバーの擬似粒度分布曲線におけるピーク値は、1つのピークであるのが好ましい。1つのピークである場合、セルロースナノファイバーは、繊維長及び繊維径の均一性が高く、セルロース繊維スラリーの脱水性に優れる。
セルロースナノファイバーのピーク値は、例えば1〜100μm、好ましくは3〜80μm、より好ましくは5〜60μmである。
セルロースナノファイバーのピーク値は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
セルロースナノファイバーのピーク値は、ISO−13320(2009)に準拠して測定した値である。より詳細には、まず、粒度分布測定装置(株式会社セイシン企業のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を使用してセルロースナノファイバーの水分散液の体積基準粒度分布を調べる。次に、この分布からセルロースナノファイバーの中位径を測定する。この中位径をピーク値とする。
セルロースナノファイバーのパルプ粘度は、好ましくは1〜10cps、より好ましくは1〜9cps、特に好ましくは1〜8cpsである。パルプ粘度は、セルロースを銅エチレンジアミン液に溶解させた後の溶解液の粘度であり、パルプ粘度が大きいほどセルロースの重合度が大きいことを示している。パルプ粘度が以上の範囲内であれば、スラリーに脱水性を付与しつつ、成形体等としたときの機械的物性を保持できる。
解繊して得られたセルロースナノファイバーは、必要により、パルプと混合するに先立って水系媒体中に分散して分散液としておくことができる。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましい(水溶液)。ただし、水系媒体は、一部が水と相溶性を有する他の液体であってもよい。他の液体としては、例えば、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
セルロースナノファイバーの分散液(濃度1%)のB型粘度は、好ましくは10〜4000cps、より好ましくは15〜400cps、特に好ましくは20〜300cpsである。分散液のB型粘度を以上の範囲内にすると、パルプとの混合が容になり、また、セルロース繊維スラリーの脱水性が向上する。
セルロースナノファイバーの分散液のB型粘度(固形分濃度1%)は、JIS−Z8803(2011)の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定した値である。B型粘度は分散液を攪拌したときの抵抗トルクであり、高いほど攪拌に必要なエネルギーが多くなることを意味する。
(パルプ)
本形態においてパルプは、セルロース繊維スラリーの脱水性を向上する役割を有する。ただし、パルプは、セルロース繊維スラリーの保水度比及び自重脱水性が所定の範囲内になるように含ませるのが好ましい。このような限定を加えることで、セルロース繊維スラリーから成形体等を製造した場合において、当該成形体等の強度を担保することができる。なお、保水度及び自重脱水性の詳細については、後述する。
セルロースナノファイバー及びパルプの平均繊維径を特定の範囲とした場合において、セルロース繊維中におけるパルプの含有率は、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは5〜60質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。パルプの含有率が1質量%を下回ると、セルロース繊維スラリーの脱水性が十分に向上しないおそれがある。
他方、パルプの含有率が70質量%を上回ると、結果的にセルロースナノファイバーの含有率が減る結果、セルロース繊維の水素結合点が減少し、セルロース繊維スラリーから成形体等を製造した場合において、当該成形体等の強度が担保されないおそれがある。
パルプとしては、セルロースナノファイバーの原料パルプと同様のものを使用することができる。ただし、パルプとしては、セルロースナノファイバーの原料パルプと同じものを使用するのが好ましい。パルプとしてセルロースナノファイバーの原料パルプと同じものを使用すると、両者の親和性が向上し、結果、セルロース繊維スラリーや成形体等の均質性が向上する。
また、パルプとしては、セルロースナノファイバーの場合と同様にリグニンを含有するパルプを使用するのが好ましく、機械パルプを使用するのがより好ましく、BTMPを使用するのが特に好ましい。これらのパルプを使用すると、セルロース繊維スラリーの脱水性がより向上する。
パルプの平均繊維径(平均繊維幅。単繊維の直径平均。)は、好ましくは10〜100μm、より好ましくは10〜80μm、特に好ましくは10〜60μmである。パルプの平均繊維径が以上の範囲内であれば、パルプの含有率を前述した範囲内とすることで、セルロース繊維スラリーの脱水性がより向上する。
パルプの平均繊維径は、例えば、パルプの選定、軽い解繊等によって調整することができる。
パルプの平均繊維径の測定方法は、次のとおりである。
まず、固形分濃度0.01〜0.1質量%のパルプの水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t−ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて100倍〜1000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維径とする。
パルプのフリーネスは、好ましくは10〜800ml、より好ましくは20〜500ml、特に好ましくは30〜300mlである。パルプのフリーネスが800mlを上回ると、セルロース繊維スラリーの脱水性が十分に向上しないおそれがある。
他方、パルプのフリーネスが10mlを下回ると、セルロース繊維スラリーの脱水性が十分に向上しないおそれがあり、また、パルプ繊維自体の剛直性が低下し、成形体等を支持する繊維として機能しなくなるおそれがある。
パルプのフリーネスは、JIS P8121−2(2012)に準拠して測定した値である。
(セルロース繊維のスラリー)
セルロースナノファイバー及びパルプは、所定の割合で混合し、好ましくはパルプの含有率が前述した範囲内となるように混合し、もってセルロース繊維のスラリーとする。なお、セルロースナノファイバー及びパルプは、それぞれを分散液の状態で混合することもできる。
セルロースナノファイバー及びパルプの混合に際しては、水等の媒体を加える等して、セルロース繊維スラリー中におけるセルロース繊維の固形分濃度を調節すると好適である。セルロース繊維の固形分濃度は、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは1〜12質量%、特に好ましくは1〜10質量%である。セルロース繊維の固形分濃度が1質量%を下回ると、流動性が高く、例えば、セルロース繊維スラリーから成形体等を製造する場合等において、脱水の過程等でセルロース繊維が流出してしまうおそれが高くなる。
他方、セルロース繊維の固形分濃度が15質量%を上回ると、流動性が著しく低下し、加工性が悪化するため、例えば、成形体等を製造する工程において厚みのむらが発生し易くなり、均質な成形体等を得ることが困難になるおそれがある。
水等の媒体(水系媒体)は、全量が水であるのが好ましい。ただし、水系媒体は、一部が水と相溶性を有する他の液体であってもよい。他の液体としては、例えば、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
セルロース繊維のスラリーは、パルプの含有率を適宜調節することで、保水度比が0.50〜0.99となるようにするのが好ましく、0.55〜0.98となるようにするのがより好ましく、0.60〜0.97となるようにするのが特に好ましい。
以上に加えて、セルロース繊維のスラリーは、パルプの種類や含有率を適宜調節することで、自重脱水性が1.1〜3.0となるようにするのが好ましく、1.4〜2.8となるようにするのがより好ましく、1.5〜2.5となるようにするのが特に好ましい。
セルロース繊維スラリーの保水度比を0.50以上に、また、自重脱水性を3.0以下にすることで、セルロース繊維のスラリーから成形体等を製造した場合において、当該成形体等の強度を担保することができる。
セルロースナノファイバースラリー及びセルロース繊維スラリーの保水度は、以下の方法によって測定した値である。
まず、セルロースナノファイバーのスラリー(濃度2質量%)、又はセルロース繊維のスラリー(濃度2質量%)を遠心分離機(条件:3000G、15分)によって脱水し、得られた脱水物の質量を測定する。次に、当該脱水物を完全に乾燥し、得られた乾燥物の質量を測定する。そして、保水度(%)=(脱水物の質量−乾燥物の質量)/乾燥物の質量×100とする。
また、保水度比は、上記の保水度を基に次式に基づいて算出する。
(保水度比=セルロース繊維スラリーの保水度÷セルロースナノファイバースラリーの保水度)
保水度は一定の遠心力をかけた後にスラリーに残存する水量のことであり、保水度が低いほど脱水性が良好であることを示す。また、保水度比が低いほど、元々のセルロースナノファイバースラリーから保水度が減少したことを示し、脱水性が増加したことを示す。
一方、セルロース繊維スラリーの自重脱水性は、以下の方法によって測定した値である。
セルロース繊維のスラリーを吸水基材の上の金網(300メッシュ、幅10cm×長さ10cm×厚さ2mm)に塗工し、2分間放置する。そして、自重脱水性=2分間放置後の固形分濃度/塗工前の固形分濃度とする。
セルロース繊維のスラリーは、セルロースナノファイバー及びパルプの種類や含有比を調節する等して、加圧加熱(120℃、2MPa、5分間)して含水率10質量%以下、かつ密度1.0g/cm3のシートとした場合における引張弾性率が5〜20GPaとなるようにするのが好ましく、7〜18GPaとなるようにするのがより好ましく、9〜16GPaとなるようにするのが特に好ましい。引張弾性率が5GPaを下回ると、セルロース繊維スラリーから成形体等を製造した場合において、当該成形体等の強度を担保することができないおそれがある。
他方、引張弾性率が20GPaを上回ると、セルロース繊維スラリーの脱水性が不十分であるとされるおそれがある。
セルロース繊維のスラリーは、以上の加圧加熱の後に、再度の加圧加熱(180℃、2MPa、5分)した場合における引張弾性率が、再度の加圧加熱をする前の引張弾性率の1.0倍以上であるのが好ましく、1.1倍以上であるのがより好ましく、1.2倍以上であるのが特に好ましい。この点、通常のセルロース繊維スラリーから製造された成形体等は、再度の加圧加熱によって引張弾性率が低下するが、本形態のセルロース繊維スラリーから製造された成形体等は、再度の加圧加熱によって引張弾性率が向上する。
以上の引張弾性率は、JIS K7127:1999に準拠して測定した値である。試験片(シート)は、JIS−K6251で定める引張2号型ダンベル状とする。試験速度は、10mm/分とする。また、温度23℃、湿度50%の環境下で測定する。
セルロース繊維のスラリーは、セルロースナノファイバー及びパルプの種類や含有比を調節する等して、加圧加熱(120℃、2MPa、5分間)して含水率10質量%以下、かつ密度1.0g/cm3のシートとした場合における引張強度が10〜250MPaとなるようにするのが好ましく、20〜200MPaとなるようにするのがより好ましく、30〜150MPaとなるようにするのが特に好ましい。引張強度が10MPaを下回ると、セルロース繊維スラリーから成形体等を製造した場合において、当該成形体等の強度を担保することができないおそれがある。
以上の引張強度は、JIS K7127:1999に準拠して測定した値である。試験片(シート)は、JIS−K6251で定める引張2号型ダンベル状とする。試験速度は、10mm/分とする。また、温度23℃、湿度50%の環境下で測定する。
セルロース繊維のスラリーは、120℃での加圧加熱の後に、再度の加圧加熱(180℃、2MPa、5分)した場合における引張強度が、再度の加圧加熱をする前の引張強度の1.0倍以上であるのが好ましく、1.1倍以上であるのがより好ましい。この点、通常のセルロース繊維スラリーから製造された成形体等は、再度の加圧加熱によって引張強度が低下するが、本形態のセルロース繊維スラリーから製造された成形体等は、再度の加圧加熱によって引張強度が向上する。
再度の加圧加熱をしてシートを製造する場合において、セルロース繊維のスラリーは、シートの密度が、好ましくは0.8〜1.5g/m3、より好ましくは0.9〜1.4g/m3、特に好ましくは1.0〜1.3g/m3となるようにする。シートの密度が0.8g/m3を下回ると、水素結合点の減少を原因としてセルロース繊維スラリーから成形体等を製造した場合において、成形体等の強度が十分に担保されないおそれがある。
シートの密度は、JIS−P−8118:1998に準拠して測定した値である。
再度の加圧加熱をしてシートを製造する場合において、シートの引張破壊ひずみは、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、4%以下が特に好ましく、3%以下が最も好ましい。引用破壊ひずみが上記上限を超えると、ひずみが大きく用途が限られることがある。他方、一方、上記シートの引張破壊ひずみは、0%が最もよいが、例えば、1〜3%であっても許容される。
シートの引張破壊ひずみは、JIS K7127:1999に準拠し、温度23℃の環境下、試験片をJIS−K6251で定める引張2号型ダンベル状とし、試験速度を10mm/分として測定した値である。
(その他)
セルロース繊維のスラリーには、必要により、例えば、酸化防止剤、腐食防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、分散剤、消泡剤、スライムコントロール剤、防腐剤等の添加剤を添加することができる。
セルロース繊維のスラリーには、必要により、セルロースナノファイバーよりも平均繊維径の太いミクロフィブリル化セルロース(MFC)を混合することもできる。
次に、本発明の実施例について説明する。
セルロース繊維としてセルロースナノファイバー及びパルプを含むセルロース繊維のスラリーを作製し、保水度及び自重脱水性を調べる試験を行った。セルロースナノファイバーの原料パルプ及びパルプとしては、紙パルプであるLBKP又はBTMPを使用した。セルロースナノファイバーは、原料パルプ(LBKP又はBTMP、水分率98質量%)をリファイナーで予備叩解し、次いで高圧ホモジナイザーで解繊して得た。このセルロースナノファイバーは、濃度2質量%の水分散液であった。LBKPを用いて得られたセルロースナノファイバーは、平均繊維径30nm、保水度348%、結晶化度75%であった。BTMPを用いて得られたセルロースナノファイバーは、平均繊維径20nm、保水度270%、結晶化度66%であった。また、パルプは、LBKPの場合は平均繊維径20μm、フリーネス557mlであった。BTMPの場合は平均繊維径20μm、フリーネス50mlであった。セルロースナノファイバー及びパルプは、表1中に示す配合割合(乾燥重量)で混合した。セルロースナノファイバー及びパルプは、試験例毎に同品種のもの(LBKP同士又はBTMP同士)を使用した。
次に、得られたセルロース繊維のスラリーから厚さ100μmのシート(成形体)を作製し、当該成形体について引張弾性率及び引張強度を調べる試験を行った。具体的には、まず、セルロース繊維のスラリーから湿紙を作製し、この湿紙を加圧脱水及び加圧加熱して成形体を作製した。加圧脱水は、25℃、0.41MPaで5分間行った。また、加圧加熱は、120℃、2MPaで5分間行った。得られた成形体の密度は、1.0g/m3であった。
さらに、以上の加圧脱水及び加圧加熱で得られた成形体について、再度の加圧加熱を行い、引張弾性率を調べる試験を行った。再度の加圧加熱は、180℃、2MPaで5分間行った。
結果を表1に示した。なお、保水度、自重脱水性、引張弾性率、及び引張強度の測定方法は、前述したとおりである。
Figure 2020059935
(考察)
表1から、セルロース繊維としてセルロースナノファイバーに加えてパルプを含む場合においては、セルロース繊維スラリーの脱水性が向上することが分かる。しかも、この場合において、セルロースナノファイバーの原料パルプやパルプがリグニンを含有しないパルプ(LBKP)であるよりも、リグニンを含有するパルプ(BTMP)である方が、セルロース繊維スラリーの脱水性が向上し、しかも引張弾性率や引張強度も向上することが分かる。
本発明は、例えば、セルロース繊維成形体の原料、3Dプリンターの原料インク、各種構造体(例えば、建物の外壁や内壁等も含む。)用の原料や添加剤などとして使用することができるセルロース繊維のスラリーとして利用可能である。

Claims (5)

  1. セルロース繊維を主成分とし、
    前記セルロース繊維としてセルロースナノファイバーに加えてパルプを含み、
    リグニン含有量が10〜50質量%である、
    ことを特徴とするセルロース繊維のスラリー。
  2. 前記パルプがリグニン含有パルプである、
    請求項1に記載のセルロース繊維のスラリー。
  3. 前記セルロースナノファイバーの平均繊維径が10〜500nm、前記パルプの平均繊維径が10〜100μmであり、
    前記パルプが前記セルロース繊維中において5〜70質量%を占める、
    請求項1又は請求項2に記載のセルロース繊維のスラリー。
  4. 前記セルロース繊維スラリー中におけるセルロース繊維の固形分濃度が1〜10質量%である、
    請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロース繊維のスラリー。
  5. 加圧加熱(120℃、2MPa、5分間)して含水率10質量%以下、かつ密度1.0g/cm3のシートとした場合における引張弾性率が5〜20GPaであり、
    再度の加圧加熱(180℃、2MPa、5分)した場合における引張弾性率が、再度の加圧加熱をする前の引張弾性率の1.0倍以上である、
    請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロース繊維のスラリー。
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