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JP2019217118A - 歯科用エンドミル - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、歯科用加工機の加工において、加工時間の高速化を図りながら、高精度かつ高精細な臼歯部の歯科修復物を得るためのエンドミル及び加工方法を提供する。【解決手段】本発明は、歯科用加工機に装着され、歯科用修復物を製作するための歯科用エンドミルであって、加工機に保持されるシャンク部と、刃を有する首下部と、シャンク部と首下部をつなぐ首部が一体に成形され、前記刃の直径である刃径は、前記シャンク部の直径であるシャンク径よりも小さく、前記首下部の長さである首下長は9mm以上11mm以下であり、前記刃径は1.8mm以上3.0mm以下であり、前記刃の長さである刃長は、前記刃径の50%以上であり、前記首下長の50%以下である、粗加工用歯科用エンドミルである。【選択図】図1

Description

本発明は、歯科用加工機において、被削材料から歯科修復物を切削加工で製作するためのエンドミルに関連する。
歯科分野において、齲蝕などにより喪失した歯質に対する治療としては、喪失した歯質の代替となる歯科修復物を製作し、それを患部に装着することで機能回復を行うことが一般的である。歯科修復物の種類は、1本の歯に対して装着されるクラウン、インレー、オンレーなどに加え、複数の歯に対して装着されるブリッジや連冠などがあり、特に臼歯部は、咬合圧が高く、ブラッシング不良が起こりやすいことから、歯科修復物を装着する可能性が高くなる。
従来、上記の歯科修復物は歯科医療従事者により手作業で作製されてきたが、近年、昼夜を問わず自動化及び大量生産が可能な歯科用のCNC多軸加工機(以降、歯科用加工機と記載)を製造装置とした製作方法が普及している。
歯科用加工機を用いた歯科修復物の製作方法は、ディスク状あるいはブロック状の被削材料を歯科用加工機に固定し、高速回転するスピンドルに工具を取り付け、歯科用CAMソフトウェア等で事前に作成された加工プログラムに基づいて工具を動作させることで被削材料を加工する。被削材料は様々な材料が用いられるが、特にハイブリッドセラミック、PMMA、PEEK、半焼結のジルコニア等が用いられる。
歯科用加工機で使用される工具は、ダイヤモンド粒子などの微細な砥粒を軟質金属などで結着させた研削工具と、螺旋形状の刃及び溝を有する切削工具の2種に分類され、特に切削工具は一般的にエンドミルと称される。
歯科用加工機の加工方式は、注水しながら加工を行う湿式タイプと、圧縮空気を噴き付けながら加工を行う乾式タイプに大別されるが、研削工具は加工時の摩擦熱が大きく、目詰まりしやすいため、実質湿式タイプでしか使用できない。一方、エンドミルは、研削工具と比較して摩擦熱が小さく湿式乾式両用のため、幅広い被削材料に適用可能であることから、歯科用加工機の工具として幅広く使用されている。
一方、歯科修復物は、患者ごと、部位ごと、症例ごとに形状、サイズ、歯冠長が異なる複雑かつ多様な形状を有しており、また歯科修復物を装着する部位に隣接する歯牙との位置関係や対合歯との咬合状態を適切に保つ必要があり、加えて喪失する前の解剖学的な形態を再現する必要があることから、高精度かつ高精細な品質が求められている。
歯科修復物に求められている高品質な加工物を得るためのエンドミルを用いた歯科修復物の加工方法としては、歯科用CAMソフトウェアにて歯科修復物の歯冠長方向が、被削材料の厚み方向に該当するように配置され、被削材料の厚み方向の一端からエンドミルを動作させたのち、被削材料を180度回転させて、被削材料の厚み方向の他端からもエンドミルを動作させる割り出し加工が最も一般的である。
割り出し加工の場合、歯科修復物の歯冠長が長いほど、エンドミルの刃が付与された部位である首下部も必然的に長くする必要がある。首下部が歯科修復物の歯冠長に対して十分な長さでない場合、意図した形態が得られなかったり、加工中の歯科修復物にエンドミルの首下部以外の部位が衝突して、歯科修復物の破損、エンドミルの折損が発生するなどの問題が発生する。
そのため、前述のとおり、患者ごと、部位ごと、症例ごとに形状、サイズ、歯冠長が異なる複雑かつ多様な形状の加工に対応するため、首下部の長いエンドミルが標準的に選択されることが一般的である。
しかしながら、首下部の長さが長くなると、切削抵抗が大きい場合、歯科修復物が意図した形状に加工できないという問題が発生する。これは、エンドミルの首下部が長いほど加工負荷による首下部の変形量が増大するため、被削材料に対してエンドミルが加工プログラムどおりに動作していないという状況に陥るためである。歯科修復物は、前述のとおり高精度かつ高精細な品質が必要不可欠であることから、加工負荷による変形を抑制する手段が必要である。
エンドミルの首下部の加工負荷による変形を抑制する簡便な手段として、加工スピードを遅くするという方法が一般的である。しかしながら、近年、一日に大量の歯科修復物を製作する技工所においては、加工時間の高速化も望まれていることから、加工スピードを遅らせることは好ましくない。
歯科用加工機で歯科修復物を製作するためのエンドミルとしては、特許文献1に示される半焼結ジルコニアなどの脆性材料を加工する際に発生しやすいチッピングを抑制するエンドミルが記載されている。
特許第5963946号
しかし、特許文献1に記載のエンドミルでは、切削抵抗の大きい材料から歯科修復物を加工する場合におけるエンドミル変形の抑制、及び加工時間の高速化を達成することはできない。また、加工に使用するエンドミルは1種類のみとしており、高精細な歯科用修復物を得るには不向きである。
前述のとおり、歯科修復物は臼歯部に装着されることが多いため、歯科修復物の切削加工においては臼歯部の歯科修復物を製作することが非常に多い。そのため、臼歯部の歯科修復物の加工において、加工時間を短縮すること、高速化した場合でもエンドミルの変形を抑制すること、高精度かつ高精細で品質の高い歯科修復物を得ることが求められている。
そこで本発明は、歯科用加工機の加工において、加工時間の高速化を図りながら、高精度かつ高精細な、特に臼歯部の歯科修復物を得るための歯科用エンドミル及び加工方法を提供することを課題とする。
また、歯科用エンドミルは、歯科修復物の加工を繰り返すことで刃部に摩耗等が発生し、切削性能が徐々に低下することにより、高精度かつ高精細な品質の歯科修復物が作製できなくなるため、歯科用エンドミルの耐久性は、歯科修復物の品質の精度に密接に関連する。また、切削性能が低下してしまった場合、新しい歯科用エンドミルに交換する必要があるが、この交換の頻度が少ない、即ち耐久性が高いことが求められる。よって本発明は、上記の課題に合わせて、耐久性の高い歯科用エンドミルを提供することも課題とする。
本発明は、歯科用加工機に装着され、歯科用修復物を製作するための歯科用エンドミルであって、加工機に保持されるシャンク部と、刃を有する首下部と、シャンク部と首下部をつなぐ首部が一体に成形され、前記刃の直径である刃径は、前記シャンク部の直径であるシャンク径よりも小さく、前記首下部の長さである首下長は9mm以上11mm以下であり、前記刃径は1.8mm以上3.0mm以下であり、前記刃の長さである刃長は、前記刃径の50%以上であり、前記首下長の50%以下である、粗加工用エンドミルである。

また、本発明は、粗加工用エンドミルで加工した加工面に対して使用する歯科用エンドミルであって、加工機に保持されるシャンク部と、刃を有する首下部と、シャンク部と首下部をつなぐ首部が一体に成形され、前記刃の直径である刃径は、前記シャンク部の直径であるシャンク径よりも小さく、前記刃径が0.9mm以上1.5mm以下であり、前記首下長が8.0mm以上10.0mm以下であり、前記刃の長さである刃長は、前記刃径の50%以上であり、前記首下長の50%以下である、仕上げ加工用エンドミルである。

加えて、本発明は仕上げ加工用エンドミルで加工した加工面に対して使用する歯科用エンドミルであって、加工機に保持されるシャンク部と、刃を有する首下部と、シャンク部と首下部をつなぐ首部が一体に成形され、前記刃の直径である刃径は、前記シャンク部の直径であるシャンク径よりも小さく、前記刃径が0.5mm以上0.8mm以下であり、
前記首下長が7.0mm以上9.0mm以下であり、前記刃の長さである刃長は、前記刃径の50%以上であり、前記首下長の50%以下である、微細加工用エンドミルである。
また、粗加工用エンドミルで加工した加工面に対して使用する歯科用エンドミルであって、加工機に保持されるシャンク部と、刃を有する首下部と、シャンク部と首下部をつなぐ首部が一体に成形され、前記刃の直径である刃径は、前記シャンク部の直径であるシャンク径よりも小さく、前記刃径が0.5mm以上0.8mm以下であり、前記首下長が7.0mm以上9.0mm以下であり、前記刃の長さである刃長は、前記刃径の50%以上であり、前記首下長の50%以下である、微細加工用エンドミルである。
本発明は、粗加工用エンドミルを有し、
仕上げ加工用エンドミル、または、微細加工用エンドミルのうち、少なくとも1種類以上を含むエンドミルセットである。
本発明は、歯科用加工機において歯科修復物を製作する加工方法であって、
粗加工用エンドミルを用いて加工する工程、
仕上げ加工用エンドミル、または、微細加工用エンドミルの少なくとも一種類以上を用いて加工する工程、を含む加工方法である。
また、本発明は、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯いずれか単冠の歯科修復物を加工する前記の加工方法である。また、被削材料がハイブリッドセラミックである、前記の加工方法である。
なお、本明細書において歯科修復物とは、患者に装着される最終形態を有するものだけではなく、歯科修復物の中間体の形態も含みうる。
本発明によれば、歯科用加工機において、被削材料から特に臼歯部の歯科修復物を切削加工にて製作する際、加工負荷による変形を抑制させることができる歯科用エンドミルが提供可能となる。
歯科修復物の概形形状加工に本発明の粗加工用エンドミルを用いること、仕上げ形状加工に本発明の仕上げ加工用エンドミルを用いること、また微細形状の加工に本発明の微細加工用エンドミルを使用することで、加工スピードを上げた場合でも、高精度な歯科修復物を得ることができる。また、本発明の粗加工用エンドミル、仕上げ加工用エンドミル、微細加工用エンドミルを組み合わせて加工することにより、短時間で特に高精度かつ高精細は歯科修復物を得ることができる。そして、本発明の歯科用エンドミルを用いた切削加工においては、加工負荷に対する変形量が少ないため、加工スピードを高速化させても精度が低下せず、加工時間を短縮することが可能となり、短時間で高精度かつ高精細な歯科修復物を得ることができる。
また、本発明にかかる歯科用エンドミルは、繰り返しの加工にも耐えうる優れた耐久性を有することも特徴である。
本発明の歯科用エンドミルは、加工する歯科修復物の種類を限定するものではないが、臼歯部の歯科補綴物、特に第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯いずれか単冠の歯科修復物を高精度かつ高速で加工する場合に極めて効果的であり、短時間で高精度かつ高精細な歯科修復物を製作することが可能となる。

本発明の歯科用エンドミルの構成を説明する図 本発明の歯科用エンドミルの刃の断面形状を説明する図 本発明の実施例における加工形状を示す図
以下、本発明の歯科用エンドミルについて、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の歯科用エンドミルの構成を説明する図であって、図2は本発明の歯科用エンドミルの刃の断面形状を説明する図である。ただし、本発明の歯科用エンドミルは、本明細書が参照する各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。
本発明の歯科用エンドミルは、歯科用加工機に装着するシャンク部1と、被削材料を切削加工する刃を有する首下部2と、首下部2とシャンク部1をつなぐ首部3からなり、首下部先端2−1から首下部2と首部3の境界までの長さを首下長L1、首下部先端2−1から首部方向(軸方向)に延びる刃の長さを刃長L2、刃の直径を刃径D1、シャンク部の直径をシャンク径D2とし、刃径D1がシャンク径D2より小さいことを特徴とするエンドミルである。
本発明の歯科用エンドミルは、材質を限定するものではなく、一般工業界で使用されているエンドミルと同様、高速度工具鋼(HSS)や超硬合金、サーメットなどを使用することができるが、超硬合金であることが好ましい。これにより加工負荷によるエンドミルの変形をより一層抑制させることができる。
首下部先端2−1の形状、即ちエンドミルの刃底形状は、フラットエンド、ラジアスエンド、ボールエンドが選択可能であるが、歯科修復物が自由曲面で構成されることから、半球状のボールエンド形状であることが好ましい。これにより、表面性状が滑らかな歯科修復物を得ることができる。
本発明の歯科用エンドミルの首下部2には、2〜4つ、より好適には2つの連続した螺旋形状の刃、及び刃と同数の連続した螺旋形状の溝(チップルーム)2−3を有することが好ましい。
また、上記刃及び溝の螺旋形状のねじれ角α1は、20°〜40°の範囲であることが好ましく、より好適なねじれ角α1は25°〜35°の範囲である。
これにより歯科修復物の切削加工において、切削性と切削屑の排出性のバランスが適切なエンドミルとすることができる。
本発明の歯科用エンドミルの首下部2には、使用する被削材料に応じて好適な表面処理を施すことができる。具体的には、被削材料がハイブリッドセラミックの場合はダイヤモンド微粒子コーティング、PMMAやPEEKの場合はDLCコーティングとすることが好ましい。
本発明の歯科用エンドミルは、シャンク径D2を限定するものではなく、使用する歯科用加工機に適応する直径とすることができるが、市販されている歯科用加工機のスピンドルの仕様を考慮すると、3mm、4mm及び6mmが好ましく選択される。
本発明の歯科用エンドミルのシャンク部終端1−1には、面取り又はフィレットを施しても良い。
また、本発明の歯科用エンドミルを複数種類の被削材料の切削工具として提供し、被削材料の種類ごとに実施形態を変える場合は、当該被削材料に適したシャンク部終端1−1の面取り又はフィレットの形状を変えることが好ましい。これにより、作業者はどの被削材料に対応したエンドミルなのかを容易に識別することができる。
本発明の歯科用エンドミルは、首下部先端2−1からシャンク部終端1−1までの全長L3を限定するものではなく、使用する歯科用加工機に最適な長さを選択することができるが、市販されている歯科用加工機のスピンドルの仕様及び動作範囲を考慮すれば、全長は40mm〜60mmの範囲であることが好ましく、より好適な全長は43mm〜52mmの範囲である。
本発明の歯科用エンドミルは、首下部2の刃が付与されていない移行部2−4の首径D3を、刃径D1よりもわずかに小さい直径とすることが好ましい。これにより移行部2−4が歯科用修復物の表面に接触することを防止することができる。移行部2−4の好適な首径D3は、刃径D1の−0.2mm以内の範囲である。
本発明の歯科用エンドミルは、首下部2とシャンク部1をつなぐ首部3の形状を限定するものではないが、首下部2とシャンク部1をスムーズにつなぐ円錐形状とすることが好ましい。これにより、加工負荷の応力を分散させることができる。
一般的にエンドミルの変形量は、一定の加工負荷(切削抵抗)に対して、首下長L1の3乗に比例し、刃径D1の4乗に反比例する。
よって、刃径D1を大きくすることによっても変形は抑制されるが、1つの歯科修復物に必要な加工エリア面積が大きくなり、被削材料を無駄にしてしまうことに加え、高精細な歯科修復物を得るには、刃径D1は小さい方が好適なことは自明であるため、各エンドミルにおいて刃径D1と首下長L1をバランスよく設定する必要がある。
また、エンドミルの変形は刃長L2にも影響される。刃長L2、即ち溝(チップルーム)2−3の長さが長くなれば、首下部2の体積が減少し構造体として細くなることから、首下部2の剛性は低下して変形しやすくなる。
ただし、刃長L2が短くなれば、即ち溝(チップルーム)2−3の長さが短くなれば、切削屑の排出性は低下し、加工不良やエンドミルの折損を引き起こす可能性がある。
そのため、首下部2の剛性と切削屑の排出性が両立できる適切な刃長L2とすることが求められる。
前述のとおり、歯科用加工機において高精度かつ高精細な臼歯部の歯科用修復物を製作する方法として、歯科修復物の加工工程を、概形形状の加工工程、微細形状の加工を除く仕上げ加工工程、微細形状の加工工程に分割し、各工程に最適な工具を使用して加工する方法が好適である。
各加工工程に好適な歯科用エンドミルの形状について、以下のとおり説明する。
被削材料の切削体積が最も多く、加工負荷が大きくなる概形形状の加工に使用する粗加工用エンドミルは、加工負荷による変形を抑制するという観点から、刃径D1が1.8mm以上3.0mm以下とする必要があり、加工エリア面積を最小限に抑えるという観点から、粗加工用エンドミルの最も好適な刃径D1は2.0mmである。
前述のとおり、エンドミルの首下長L1は、加工対象となる歯科修復物の歯冠長の長さに合わせて最適な長さとすることが重要である。
本発明者らは鋭意研究の結果、患者ごとに異なる形状を有する臼歯部の歯科修復物の歯冠長は、13.2mm以下となることを見出した。また、割り出し加工においては、前述のとおり被削材料の厚み方向に対して上下2方向からエンドミルを動作させる。
以上のことから、粗加工用エンドミルの首下長L1は、歯科修復物との衝突を避けるため、9.0mm以上必要であり、剛性担保の観点から、11.0mm以下であることが好ましい。
これにより、歯科修復物との衝突のリスクがなく、且つ加工負荷によるエンドミルの変形を抑制させることができる。衝突リスク回避と剛性のバランスの観点から、粗加工用エンドミルのより好適な首下長L1は、9.5mm以上10.5mm以下の範囲である。
粗加工用エンドミルの刃長L2は、切削屑の排出性担保の観点から、最低でも刃径D1の50%以上である必要があり、剛性担保の観点から、首下長L1の50%以下である必要がある。
これにより、切削屑の目詰まりによる歯科修復物の加工不良及び粗加工用エンドミルの折損を防止しつつ、剛性を維持することができる。
切削屑の排出性と剛性のバランスの観点から、粗加工用エンドミルのより好適な刃長L2は、首下長L1の25%以上35%以下の範囲である。
仕上げ加工用エンドミルは、粗加工用エンドミルによって歯科用修復物の概形形状を加工したのちに、微細形状を除く最終形状を加工するために用いられる。粗加工用エンドミルによる概形形状加工では比較的粗い表面性状となることから、効率よく表面を滑沢にし、微細形状以外を高精度に加工する必要があり、刃径D1は0.9mm以上1.6mm以下とすることが好ましく、より高精細な歯科用修復物を得るという観点から、仕上げ加工用エンドミルの最も好適な刃径D1は1.0mmである。
仕上げ加工用エンドミルの首下長L1は、歯科修復物との衝突を避けるため、8.0mm以上必要であり、剛性担保の観点から、10.0mm以下であることが好ましい。
これにより、粗加工用エンドミルと同様、歯科修復物との衝突のリスクがなく、且つ加工負荷によるエンドミルの変形を抑制させることができる。
衝突リスク回避と剛性のバランスの観点から、仕上げ加工用エンドミルの最も好適な首下長L1は、8.5mm以上9.5mm以下の範囲である。
仕上げ加工用エンドミルの刃長L2は、切削屑の排出性担保の観点から、最低でも刃径D1の50%以上である必要であり、剛性担保の観点から、首下長L1の50%以下であることが好ましい。これにより、切削屑の目詰まりによる歯科修復物の加工不良及び仕上げ加工用エンドミルの折損を防止しつつ、剛性を維持することができる。
切削屑の排出性と剛性のバランスの観点から、仕上げ加工用エンドミルのより好適な刃長L2は、首下長L1の30%以下であり、特に好ましくは12%以上22%以下の範囲である。
微細加工用エンドミルは、主に仕上げ加工用エンドミルでの仕上げ形状加工に続いて用いられる。仕上げ加工用エンドミルでは加工ができない微細形状を加工するための微細加工用エンドミルは、首下部2の折損リスクを極力抑えつつ、微細形状を意図した形態に再現するという観点から、刃径D1は0.5mm以上0.8mm以下であることが好ましく、微細形状をより高精細かつ緻密に再現するという観点から、微細加工用エンドミルの最も好適な刃径D1は0.6mmである。
微細加工用エンドミルの首下長L1は、歯科修復物との衝突を避けるため、7.0mm以上必要であり、剛性担保の観点から、9.0mm以下であることが好ましい。
これにより、粗加工用エンドミル及び仕上げ加工用エンドミルと同様、歯科修復物との衝突のリスクがなく、且つ加工負荷によるエンドミルの変形を抑制させることができる。
衝突リスク回避と剛性のバランスの観点から、微細加工用エンドミルのより好適な首下長L1は、7.5mm以上8.5mm以下の範囲である。
微細加工用エンドミルの刃長L2は、切削屑の排出性担保の観点から、最低でも刃径D1の50%以上である必要があり、剛性担保の観点から、首下長L1の50%以下であることが好ましい。
これにより、切削屑の目詰まりによる歯科修復物の加工不良及び微細加工用エンドミルの折損を防止しつつ、剛性を維持することができる。微細加工用エンドミルのより好適な刃長L2は、首下長L1の20%以下であり、特に好ましくは6%以上16%以下の範囲である。
本発明の歯科用エンドミルは、加工する歯科修復物の種類を限定するものではないが、臼歯部の歯科補綴物、特に第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯いずれか単冠の歯科修復物を高精度かつ高速で加工する場合に極めて効果的であり、短時間で高精度かつ高精細な歯科修復物を製作することが可能となる。
複数の歯に対して装着されるブリッジや連冠の場合、装着する歯との適合性に加えて、装着する各歯の相対的な位置精度も要求されることから、むやみに加工速度を高速化することにより、相対的な位置精度が失われ、意図したとおりに歯科修復物が装着できない場合がある。一方単冠の場合は、一つの歯に対して装着するものであるから、上記の相対的な位置精度は要求されず、装着する歯との適合性のみの担保で高精度な歯科修復物となり得る。
なお、上記単冠は、クラウン、コーピングの他、インレー、オンレーも含む。
また、上記単冠は、歯科用インプラント上に装着される歯科修復物も含む。
本発明の歯科用エンドミルは、被削材料の種類を限定するものではないが、特に被削材料がハイブリッドセラミックの場合に極めて効果的である。
その理由としては、ハイブリッドセラミックは、PMMAやワックスなどと比較して加工負荷が大きくなることから、本発明のエンドミルの変形の抑制効果をより一層有効に活かすことが可能だからである。
チタンやコバルトクロムなどの歯科用金属においても本発明の効果は有効であるが、金属材料の場合、加工スピードを高速化すると、エンドミルの摩滅が急速に進んでしまうことから、ハイブリッドセラミックと比較して本発明の効果は限定される。
本発明の歯科用エンドミルは、これまで説明した好適な実施形態以外の構成要素を限定するものではないが、刃底形状がボールエンド形状で被削材料がハイブリッドセラミックの場合、外周すくい角α2は、4°〜12°の範囲であることが好ましく、最も好適な外周すくい角α2は8°である。
また、第一外周逃げ角α3は、10°〜30°の範囲であることが好ましく、最も好適な第一外周逃げ角α3は20°である。これにより、ハイブリッドセラミックに対して切削性が高く、且つ耐久性の高いエンドミルとすることができる。
歯科用加工機における歯科修復物の加工時間の高速化を図る場合、本発明にかかる歯科用エンドミルを使用することが効果的である。
例えば、市販されている歯科修復物加工用の粗加工用エンドミルは、刃径が2.0mmで首下長が16.0mmであり、本発明にかかる粗加工用エンドミルの好適な実施形態である刃径2.0mmで首下長10.0mmと比較すると、同一の加工負荷において本発明の粗加工用エンドミルの変形量は、既存の粗加工用エンドミルの変形量の約25%に抑えられる。
以下に歯科修復物が単冠のクラウンの場合における、各加工工程の好適な加工工程を示す。
クラウンの外冠、及び内冠の最初の概形形状加工は、歯科修復物の歯冠長方向に対して一定のピッチごとに切削を行う等高線加工を行い、続いて3次元的にエンドミルを動作させる3Dステップ加工(3Dオフセット加工)を行うことがより好ましい。これにより、当該工程の加工効率がよく、加えて次の仕上げ形状加工工程におけるエンドミルの加工負荷を低減させることができる。
仕上げ形状加工は、クラウンの外冠、内冠、マージン部の形状を、それぞれ独立した3Dステップ加工を行うことが好ましい。これにより、高精度な歯科修復物を得ることができる。
微細形状加工は、クラウンの外冠、内冠、マージン部における仕上げ形状加工の加工残り部に対して、連続または独立した3Dステップ加工を行うことが好ましい。これにより、高精細な歯科修復物を得ることができる。
概形形状加工を構成する各加工工程を粗加工用エンドミルで行い、仕上げ形状加工を構成する加工工程を、仕上げ用エンドミルで行い、微細形状加工を構成する加工工程を微細加工用エンドミルで行い、これらを連続して行うことにより、高精度かつ高精細な歯科修復物を得ることができる。
前述のとおり、歯科用加工機にて歯科修復物を製作する場合、概形形状加工、仕上げ形状加工、微細形状加工の工程に分割し、それぞれの加工工程に最適な本発明にかかる好適な歯科用エンドミルを使用することで、高精度かつ高精細な歯科修復物を得ることができる。なお、本発明の歯科用エンドミルは、歯科用加工機が装着できるエンドミルが2種類のみであるなどの制限や、作業者が工具費用を節約したい場合等、必要に応じて粗加工用エンドミルと仕上げ加工用エンドミルの組合せとしてもよく、その場合、仕上げ加工用エンドミルは微細加工用エンドミルの役割を含むことができる。同様に、粗加工用エンドミルと微細加工用エンドミルの組合せとしてもよく、その場合、微細加工用エンドミルは、仕上げ加工用エンドミルの役割を含むことができる。
加工時間及び加工品の精度に関して、本発明の好適な実施形態の歯科用エンドミルと、市販されているエンドミルとを比較したデータを以下に示す。
(1) 加工精度確認試験
図3に示す臼歯部の歯科修復物の単冠クラウンを想定した外冠及び内冠を有する構造体に対して、松風社の歯科用CAMソフトウェア「GO2dental」を使用して下表に示す2種類の加工条件の加工プログラムを作成した。2種類の加工条件を表1および表2に示す。
歯科用加工機は、DGSHAPE社(旧Roland D.G.社)の「DWX-51D」を使用し、被削材料は松風社のCAD/CAM加工用ハイブリッドレジンブロックである「松風ブロック HC Sサイズ」を使用した。
各プログラムにおいて、市販されているエンドミルの組合せで加工した場合と、本発明の好適な実施形態の歯科用エンドミルの組合せで加工した場合の加工時間及び構造体の加工品の寸法精度を比較した。市販されているエンドミルの形状を表3に、本発明の歯科用エンドミルの形状を表4に示す。なお、寸法精度は、図3で示す6箇所に関して、デジタルノギスで計測した。
加工数は各加工条件、各エンドミルの組合せにおいて5個とした。
表1および表2に示す加工条件において、表3および表7に示すエンドミルを用いて加工した場合の寸法精度の結果を表8から表14(結果1から結果7)に示す。


日本工業規格[JIS B 0405 1991 普通公差-第一部:個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差]において、公差等級が精級で基準寸法区分が3mmを超え6mm以下の寸法に適応される普通公差は±0.05mmである。なお、同規格において、公差等級が精級で基準寸法区分が6mmを超え、30mm以下の寸法に適応される普通公差は±0.10mmであるが、前述のとおり、歯科修復物は高精度な品質を求められことから、本試験の測定寸法の評価指標として、±0.05mmを合格基準とする。
市販されているエンドミルの組合せ(セット1)においては、結果1に示すように加工条件1では、上記合格基準内であるが、結果2に示されるとおり、加工条件1よりも加工時間を高速化させた加工条件2では合格基準外となる箇所がある。即ち、セット1のエンドミルの組合せでは、加工条件2において高精度な加工が実施できない場合がある。
一方、本発明の好適な実施形態のエンドミルの組合せ (セット2)においては、結果3に記載のとおり加工条件1では合格基準内であることに加え、セット1で合格基準外となった加工条件2においても、結果4に示されるとおり加工条件1と同等の加工精度が得られている。即ち、セット2の本発明の歯科用エンドミルの組合せでは、加工条件1よりも加工時間を高速化させた、即ち加工負荷が大きい加工条件2であっても高精度な加工が実施可能である。
また、概形形状加工、仕上げ形状加工、微細形状加工の各工程において、本発明の好適な実施形態のエンドミルと、市販されているエンドミルを組み合わせて、表5〜7に示すセット3〜5とし、加工条件2で加工した結果を、結果5〜7に示す。結果5に示されているとおり、セット3を用いた場合には、加工条件2において合格基準外となる箇所があり、高精度な加工が実施できない場合がある。それと比較して、結果6、7に示されているとおり、セット4,5を用いた場合には、一部合格基準外となる箇所があったものの、セット1、セット3のエンドミルを用いた加工と比較すると、高精度な加工が可能であった。

以上の結果より、本発明にかかるエンドミルは、既存のエンドミルと比較して高精度な歯科用修復物を高速で加工できることが実証された。
(2) 耐久性確認試験
歯科用エンドミルの耐久性に関して、本発明の好適な実施形態の歯科用エンドミルと、市販されているエンドミルとを比較したデータを以下に示す。図3に示す臼歯部の歯科修復物の単冠クラウンを想定した外冠及び内冠を有する構造体に対して、松風社の歯科用CAMソフトウェア「GO2dental」を使用して下表に示す加工条件の加工プログラムを作成した。
歯科用加工機は、DGSHAPE社(旧RolandD.G.社)の「DWX-51D」を使用し、被削材料は松風社のCAD/CAM加工用ハイブリッドレジンブロックである「松風ブロックHCSサイズ」を使用した。
上記条件で市販されているエンドミルの組合せで繰り返し加工した場合と、本発明の好適な実施形態のエンドミルの組合せで繰り返し加工した場合の耐久性を比較した。最大繰り返し加工回数は200とした。
市販されているエンドミルからなるセット1では、26回の繰り返し加工前に微細加工用のエンドミルが破損した。一方、本発明の好適な実施形態であるエンドミルの組み合わせであるセット2では、200回加工終了後もいずれのエンドミルにも破損は生じず、非常に優れた耐久性を示すことが明らかになった。セット3においては、98回でエンドミルの破損が生じたものの、一定の耐久性を有することが明らかになった。セット4においては、100回の繰り返し加工にも破損せず、十分な耐久性を有していると考えられる。
セット2での耐久性確認試験における加工回数200回目の加工物構造体の寸法精度について表17に示す。
表17の結果は、加工時間及び加工品の精度に関する評価における加工物の寸法の合格基準である設計値の±0.05の範囲内である。以上の結果より、本発明にかかる歯科用エンドミルの組み合わせを使用した場合、特に優れた加工精度と耐久性の両方を達成できることを確認した。
本発明の歯科用エンドミルは、歯科用加工機の加工において、加工時間の高速化を図りながら、高精度かつ高精細な臼歯部の歯科修復物を得るためのエンドミル及び加工方法を提供できるため、歯科用加工機を用いた歯科修復物の製作において有用かつ汎用性があり、幅広く利用することができる。
1 シャンク部
2 首下部
3 首部
1-1 シャンク部終端
2-1 首下部先端
2-2 刃
2-3 溝
2-4 移行部
D1 刃径
D2 シャンク径
D3 首径
L1 首下長
L2 刃長
L3 全長
α1 ねじれ角
α2 外周すくい角
α3 第一外周逃げ角

Claims (8)

  1. 歯科用加工機に装着され、歯科用修復物を製作するための歯科用エンドミルであって、
    加工機に保持されるシャンク部と、
    刃を有する首下部と、
    シャンク部と首下部をつなぐ首部が一体に成形され、
    前記刃の直径である刃径は、前記シャンク部の直径であるシャンク径よりも小さく、
    前記首下部の長さである首下長は9mm以上11mm以下であり、
    前記刃径は1.8mm以上3.0mm以下であり、
    前記刃の長さである刃長は、前記刃径の50%以上であり、前記首下長の50%以下である、
    粗加工用エンドミル。
  2. 請求項1に記載の粗加工用エンドミルで加工した加工面に対して使用する歯科用エンドミルであって、
    加工機に保持されるシャンク部と、
    刃を有する首下部と、
    シャンク部と首下部をつなぐ首部が一体に成形され、
    前記刃の直径である刃径は、前記シャンク部の直径であるシャンク径よりも小さく、
    前記刃径が0.9mm以上1.5mm以下であり、
    前記首下長が8.0mm以上10.0mm以下であり、
    前記刃の長さである刃長は、前記刃径の50%以上であり、前記首下長の50%以下である、
    仕上げ加工用エンドミル。
  3. 請求項2に記載の仕上げ加工用エンドミルで加工した加工面に対して使用する歯科用エンドミルであって、
    加工機に保持されるシャンク部と、
    刃を有する首下部と、
    シャンク部と首下部をつなぐ首部が一体に成形され、
    前記刃の直径である刃径は、前記シャンク部の直径であるシャンク径よりも小さく、
    前記刃径が0.5mm以上0.8mm以下であり、
    前記首下長が7.0mm以上9.0mm以下であり、
    前記刃の長さである刃長は、前記刃径の50%以上であり、前記首下長の50%以下である、
    微細加工用エンドミル。
  4. 請求項1に記載の粗加工用エンドミルで加工した加工面に対して使用する歯科用エンドミルであって、
    加工機に保持されるシャンク部と、
    刃を有する首下部と、
    シャンク部と首下部をつなぐ首部が一体に成形され、
    前記刃の直径である刃径は、前記シャンク部の直径であるシャンク径よりも小さく、
    前記刃径が0.5mm以上0.8mm以下であり、
    前記首下長が7.0mm以上9.0mm以下であり、
    前記刃の長さである刃長は、前記刃径の50%以上であり、前記首下長の50%以下である、
    微細加工用エンドミル。
  5. 請求項1記載の粗加工用エンドミルを有し、
    請求項2記載の仕上げ加工用エンドミル、または、請求項3記載の微細加工用エンドミルのうち、少なくとも1種類以上を含むエンドミルセット。
  6. 歯科用加工機において歯科修復物を製作する加工方法であって、
    請求項1に記載の粗加工用エンドミルを用いて加工する工程、
    請求項2に記載の仕上げ加工用エンドミル、または、請求項3に記載の微細加工用エンドミルの少なくとも一種類以上を用いて加工する工程、
    を含む加工方法。
  7. 第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯いずれか単冠の歯科修復物を加工する、請求項6に記載の加工方法。
  8. 被削材料がハイブリッドセラミックである、請求項6または請求項7に記載の加工方法。
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