(一実施形態)
以下、本発明によるモータ制御装置を図面に基づいて説明する。一実施形態によるモータ制御装置を図1〜図12に示す。図1および図2に示すように、シフトレンジ切替システムであるシフトバイワイヤシステム1は、モータ10、シフトレンジ切替機構20、パーキングロック機構30、および、モータ制御装置としてのシフトレンジ制御装置40等を備える。
モータ10は、図示しない車両に搭載される電源としてのバッテリ45から電力が供給されることで回転し、シフトレンジ切替機構20の駆動源として機能する。図3および図4に示すように、モータ10は、ステータ101、ロータ103、および、巻線組11を有する。巻線組11は、U相コイル111、V相コイル112およびW相コイル113を有し、ステータ101の突極102に巻回される。コイル111〜113は、結線部115で結線される。結線部115は、グランドに接続される。本実施形態のモータ10は、スイッチトリラクタンスモータ(以下、「SRモータ」)であって、比較的コイル111〜113のインダクタンスが大きい。
ロータ103は、ステータ101に相対回転可能に設けられ、コイル111〜113の通電相を切り替えることで回転駆動される。本実施形態では、ステータ101の突極数が12、ロータ103の突極数が8である。
図2に示すように、回転角センサとしてのエンコーダ13は、モータ10のロータ103の回転位置を検出する。エンコーダ13は、磁気式のロータリーエンコーダであって、ロータ103と一体に回転する磁石と、磁気検出用のホールIC等により構成される。エンコーダ13は、ロータ103の回転に同期して、所定角度ごとにA相およびB相のパルス信号を出力する。本実施形態では、A相信号およびB相信号は、電気角60°ごとにハイ、ローが切り替わり、A相信号とB相信号との位相が電気角30°ずれて出力されるように構成されている(図8等参照)。したがって、本実施形態のエンコーダ13の分解能は、電気角で30°であり、電気角1周期中において12カウントされる。
減速機14は、モータ10のモータ軸と出力軸15との間に設けられ、モータ10の回転を減速して出力軸15に出力する。これにより、モータ10の回転がシフトレンジ切替機構20に伝達される。出力軸15には、出力軸15の角度を検出する出力軸センサ16が設けられる。出力軸センサ16は、例えばポテンショメータである。
図1に示すように、シフトレンジ切替機構20は、ディテントプレート21、および、ディテントスプリング25等を有し、減速機14から出力された回転駆動力を、マニュアルバルブ28、および、パーキングロック機構30へ伝達する。ディテントプレート21は、出力軸15に固定され、モータ10により駆動される。本実施形態では、ディテントプレート21がディテントスプリング25の基部から離れる方向を正回転方向、基部に近づく方向を逆回転方向とする。
ディテントプレート21には、出力軸15と平行に突出するピン24が設けられる。ピン24は、マニュアルバルブ28と接続される。ディテントプレート21がモータ10によって駆動されることで、マニュアルバルブ28は軸方向に往復移動する。すなわち、シフトレンジ切替機構20は、モータ10の回転運動を直線運動に変換してマニュアルバルブ28に伝達する。マニュアルバルブ28は、バルブボディ29に設けられる。マニュアルバルブ28が軸方向に往復移動することで、図示しない油圧クラッチへの油圧供給路が切り替えられ、油圧クラッチの係合状態が切り替わることでシフトレンジが変更される。ディテントプレート21のディテントスプリング25側には、マニュアルバルブ28を各レンジに対応する位置に保持するための4つの凹部22が設けられる。凹部22は、ディテントスプリング25の基部側から、D(ドライブ)、N(ニュートラル)、R(リバース)、P(パーキング)の各レンジに対応している。
ディテントスプリング25は、弾性変形可能な板状部材であり、先端にディテントローラ26が設けられる。ディテントローラ26は、凹部22のいずれかに嵌まり込む。ディテントスプリング25は、ディテントローラ26をディテントプレート21の回動中心側に付勢する。ディテントプレート21に所定以上の回転力が加わると、ディテントスプリング25が弾性変形し、ディテントローラ26が凹部22を移動する。ディテントローラ26が凹部22のいずれかに嵌まり込むことで、ディテントプレート21の揺動が規制され、マニュアルバルブ28の軸方向位置、および、パーキングロック機構30の状態が決定され、自動変速機5のシフトレンジが固定される。
パーキングロック機構30は、パーキングロッド31、円錐体32、パーキングロックポール33、軸部34、および、パーキングギア35を有する。パーキングロッド31は、略L字形状に形成され、一端311側がディテントプレート21に固定される。パーキングロッド31の他端312側には、円錐体32が設けられる。円錐体32は、他端312側にいくほど縮径するように形成される。ディテントプレート21が逆回転方向に揺動すると、円錐体32が矢印Pの方向に移動する。
パーキングロックポール33は、円錐体32の円錐面と当接し、軸部34を中心に揺動可能に設けられる、パーキングロックポール33のパーキングギア35側には、パーキングギア35と噛み合い可能な凸部331が設けられる。ディテントプレート21が逆回転方向に回転し、円錐体32が矢印P方向に移動すると、パーキングロックポール33が押し上げられ、凸部331とパーキングギア35とが噛み合う。一方、ディテントプレート21が正回転方向に回転し、円錐体32が矢印NotP方向に移動すると、凸部331とパーキングギア35との噛み合いが解除される。
パーキングギア35は、図示しない車軸に設けられ、パーキングロックポール33の凸部331と噛み合い可能に設けられる。パーキングギア35と凸部331とが噛み合うことで、車軸の回転が規制される。シフトレンジがP以外のレンジであるNotPレンジのとき、パーキングギア35はパーキングロックポール33によりロックされず、車軸の回転は、パーキングロック機構30により妨げられない。また、シフトレンジがPレンジのとき、パーキングギア35はパーキングロックポール33によってロックされ、車軸の回転が規制される。本実施形態では、シフトレンジがPレンジであって、車速が所定速度(例えば5km/h)以下のとき、パーキングロック機構30により車軸がロックされる。
図2に示すように、シフトレンジ制御装置40は、モータドライバ41、および、制御部としてのECU50等を有する。図4に示すように、モータドライバ41は、スイッチング素子411〜413を有する。スイッチング素子411〜413は、例えばMOSFETが用いられるが、IGBT等を用いてもよい。
U相スイッチング素子411は、U相コイル111に接続される。U相スイッチング素子411のオンにより、U相コイル111への通電が許容され、オフによりU相コイル111への通電が遮断される。V相スイッチング素子412は、V相コイル112に接続される。V相スイッチング素子412のオンにより、V相コイル112への通電が許容され、オフによりV相コイル112への通電が遮断される。W相スイッチング素子413は、W相コイル113に接続される。W相スイッチング素子413のオンにより、W相コイル113への通電が許容され、オフによりW相コイル113への通電が遮断される。本実施形態では、各相への通電位相差が120°にてスイッチング素子411〜413のオンオフ作動が制御される。
モータドライバ41とバッテリ45との間には、モータリレー42が設けられる。モータリレー43がオンされている。モータリレー42のオンオフ作動を制御することで、バッテリからモータ10側への通電の許容または禁止が切り替えられる。
図2に示すように、ECU50は、マイコン等を主体として構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。ECU50における各処理は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
ECU50は、ドライバ要求シフトレンジ、ブレーキスイッチからの信号および車速等に基づいてモータ10の駆動を制御することで、シフトレンジの切り替えを制御する。また、ECU50は、車速、アクセル開度、および、ドライバ要求シフトレンジ等に基づき、変速用油圧制御ソレノイド6の駆動を制御する。変速用油圧制御ソレノイド6を制御することで、変速段が制御される。変速用油圧制御ソレノイド6は、変速段数等に応じた本数が設けられる。本実施形態では、1つのECU50がモータ10およびソレノイド6の駆動を制御するが、モータ10を制御するモータ制御用のモータECUと、ソレノイド制御用のAT−ECUとを分けてもよい。以下、モータ10の駆動制御を中心に説明する。
ECU50は、角度演算部51、速度演算部52、目標設定部55、および、駆動制御部56等を有する。角度演算部51は、エンコーダ13から出力されるA相信号およびB相信号の立ち上がりおよび立ち下がりエッジをカウントする。エンコーダ13のパルスエッジのカウント値であるエンコーダカウント値θenは、ロータ103の回転位置に応じた値であって、「ロータの回転角度」に対応する。
本実施形態では、ロータ103が機械角で3.75°正方向に回転すると、エンコーダカウント値θenが+1され、機械角で3.75°逆方向に回転すると、エンコーダカウント値θenが−1される。図3にて説明した通り、モータ10は、ステータ101の突極数が12、ロータ103の突極数が8の3相モータであるので、機械角3.75°は、電気角30°に対応する。機械角と電気角とは換算可能であるので、以下、通電角度等は、電気角にて説明する。
速度演算部52は、エンコーダ13から出力されるA相信号およびB相信号に基づき、モータ回転数Nを演算する。モータ回転数Nは、例えば単位rpm等で表される単位時間あたりの回転数であって、「モータ回転速度」と捉えることができる。
目標設定部55は、シフトスイッチ等に基づくドライバ要求シフトレンジ、車速、および、ブレーキスイッチからの信号等に基づき、目標シフトレンジを設定する。また、目標設定部55は、目標シフトレンジに応じ、モータ角度目標値θcmdを設定する。
駆動制御部56は、エンコーダカウント値θenがモータ角度目標値θcmdとなる回転位置にてモータ10が停止するように、フィードバック制御等により、モータ10の駆動を制御する。図12に示すように、本実施形態では、モータ角度目標値θcmdとエンコーダカウント値θenとの差の絶対値である角度偏差Δθが第1角度判定閾値θth1より大きい領域を加速領域とし、回転速度を加速させる、或いは、比較的早い回転速度を維持する。角度偏差Δθが第2角度判定閾値θth2より大きく、第1角度判定閾値θth1以下の領域を減速領域とし、回転速度を減速させる。角度偏差Δθが第2角度判定閾値θth2以下の領域を停止領域とし、固定相通電により、ロータ103を停止させる。第1角度判定閾値θth1は、モータ角度目標値θcmdにてロータ103を停止させられるように、モータ10の性能等に応じて任意に設定される。第2角度判定閾値θth2は、モータ10を停止させる制御範囲に応じて設定される。
図5は、スイッチング素子411〜413のオンオフ制御および電流波形を示している。以下、V相を例に説明するが、U相およびW相についても同様である。以下、電気角1周期において、スイッチング素子411〜413をオンにする角度範囲を通電オン角度θon、スイッチング素子411〜413をオフにする角度範囲を通電オフ角度θoffとする。
図5(a)は、モータ回転数Nが第1回転数N1(例えば1000rpm)であって、
通電オン角度θonが電気角180°のときのスイッチング状態および電流波形を示している。図5(b)は、モータ回転数Nが第1回転数N1より大きい第2回転数N2(例えば2000rpm)であって、通電オン角度θonが電気角180°のときのスイッチング状態および電流波形を示している。図5(c)は、モータ回転数が第2回転数N2であって、通電オン角度θonが電気角240°のときのスイッチング状態および電流波形を示している。
図5(a)および図5(b)に示すように、通電オン角度θonを同じにした場合、モータ回転数Nが大きくなるほど、通電時間が短くなる。例えば、第2回転数N2が第1回転数N1のx倍であれば、第2回転数N2での通電時間は、第1回転数N1での通電時間の(1/x)倍となる。
コイル112には、インダクタンスがあるため、電流の立ち上がりには遅れが生じる。そのため、モータ回転数Nが大きくなり、通電時間が短くなると、電流が立ち上がりきる前にスイッチング素子412がオフされて通電が終了する虞がある。このような状態になると、電流が流れにくくなるため、トルクが不足し、加速度が低下する。
そこで本実施形態では、図5(c)に示すように、モータ回転数Nが大きい場合、スイッチング素子412をオンにする電気角範囲を大きくし、通電時間を長くすることで、通電量を確保し、トルク低下を抑制している。本実施形態では、3相のうちの少なくとも1相をオフにする期間を確保すべく、最大で電気角240°まで通電オン角度θonを大きくする。ただし、モータ回転数Nが小さいときに通電オン角度θonを大きくしすぎると、ブレーキ力が大きくなりトルクが低下するため、モータ回転数Nに応じた適合が必要である。
本実施形態のモータ制御処理を図6のフローチャートに基づいて説明する。この処理は、要求シフトレンジが切り替わったとき、駆動制御部56にて所定の周期で実行される。以下、ステップS10の「ステップ」を省略し、単に記号「S」と記す。他のステップも同様である。
S10では、駆動制御部56は、モータ角度目標値θcmdとエンコーダカウント値θenとの差の絶対値である角度偏差Δθが第1角度判定閾値θth1より大きいか否かを判断する。角度偏差Δθが第1角度判定閾値θth1より大きいと判断された場合(S10:YES)、S30へ移行し、加速制御を行う。角度偏差Δθが第1角度判定閾値θth1以下であると判断された場合(S10:NO)、S20へ移行する。
S20では、駆動制御部56は、角度偏差Δθが第2角度判定閾値θth2より大きいか否かを判断する。角度偏差Δθが第2角度判定閾値θth2より大きいと判断された場合(S20:YES)、S40へ移行し、減速制御を行う。角度偏差Δθが第2角度判定閾値θth2以下であると判断された場合(S20:NO)、S50へ移行し、固定相通電による停止制御を行う。
加速制御処理を図7のフローチャートに基づいて説明する。S301では、駆動制御部56は、モータ回転数Nが第1速度判定閾値Nth1以下か否かを判断する。第1速度判定閾値Nth1は、任意に設定可能であって、例えば1000rpmである。モータ回転数Nが第1速度判定閾値Nth1以下であると判断された場合(S301:YES)、S303へ移行する。モータ回転数Nが第1速度判定閾値Nth1より大きいと判断された場合(S301:NO)、S302へ移行する。
S302では、駆動制御部56は、モータ回転数Nが第2速度判定閾値Nth2以下か否かを判断する。第2速度判定閾値Nth2は、第1速度判定閾値Nth1より大きい任意の値に設定可能であって、例えば1500rpmである。モータ回転数Nが第2速度判定閾値Nth2以下であると判断された場合(S302:YES)、S305へ移行する。モータ回転数Nが第2速度判定閾値Nth2より大きいと判断された場合(S302:NO)、S307へ移行する。
モータ回転数Nが第1速度判定閾値Nth1以下である場合に移行するS303では、駆動制御部56は、回転位相に対する通電相の位相進み量Ksを0とする。位相進み量Ksは、ロータ103の位置に応じた最適なトルクが出るタイミングにてコイル111〜113に通電されるように設定されている。S304では、駆動制御部56は、通電オン角度θonを180°とする。
モータ回転数Nが第1速度判定閾値Nth1より大きく、第2速度判定閾値Nth2以下である場合に移行するS305では、駆動制御部56は、位相進み量Ksを+1とする。S306では、駆動制御部56は、通電オン角度θonを210°とする。
モータ回転数Nが第2速度判定閾値Nth2より大きい場合に移行するS307では、駆動制御部56は、位相進み量Ksを+2とする。S308では、駆動制御部56は、通電オン角度θonを240°とする。
減速制御処理を図8のフローチャートに基づいて説明する。S401では、駆動制御部56は、モータ回転数Nが第3速度判定閾値Nth3以下か否かを判断する。第3速度判定閾値Nth3は、任意に設定可能であって、例えば1000rpmである。本実施形態では、第1速度判定閾値Nth1と第3速度判定閾値Nth3とが等しいが、異なっていてもよい。モータ回転数Nが第3速度判定閾値Nth3より大きいと判断された場合(S401:NO)、S403へ移行する。モータ回転数Nが第3速度判定閾値Nth3以下であると判断された場合(S401:YES)、S402へ移行する。
S402では、駆動制御部56は、モータ回転数Nが第4速度判定閾値Nth4以下か否かを判断する。第4速度判定閾値Nth4は、第3速度判定閾値Nth3より小さい任意の値に設定可能であって、例えば300rpmである。モータ回転数Nが第4速度判定閾値Nth4より大きいと判断された場合(S402:NO)、S405へ移行する。モータ回転数Nが第4速度判定閾値Nth4以下であると判断された場合(S402:YES)、S406へ移行する。
モータ回転数Nが第3速度判定閾値Nth3より大きい場合に移行するS403では、駆動制御部56は、位相進み量Ksを−4とする。S404では、駆動制御部56は、通電オン角度θonを240°とする。
モータ回転数Nが第4速度判定閾値Nth4より大きく、第3速度判定閾値Nth3以下である場合に移行するS405では、駆動制御部56は、位相進み量Ksを−3とする。モータ回転数Nが第4速度判定閾値Nth4以下である場合に移行するS406では、駆動制御部56は、位相進み量Ksを0とする。
S405またはS406に続いて移行するS407では、駆動制御部56は、通電オン角度θonを180°とする。すなわち本実施形態では、減速制御においては、モータ回転数Nが第3速度判定閾値Nth3より大きいとき、通電オン角度θonを240°にすることで急減速制御を行い、モータ回転数Nが第3速度判定閾値Nth3以下のとき、通電オン角度θonを180°にすることで、ソフトランディング制御とする。本実施形態では、第4速度判定閾値Nth4は通電オン角度θonの切り替えには用いていない。また、第4速度判定閾値Nth4以外の速度判定閾値は、位相進み量Ksの切り替えと、通電オン角度θonの切り替えとに共通に用いられているが、位相進み量Ksを切り替える判定閾値と通電オン角度θonを切り替える判定閾値とは異なっていてもよい。
通電オン角度θonを、図9〜図11に基づいて説明する。図9〜図11では、電気角を横軸とし、上段から、エンコーダ13のA相信号、B相信号、U相スイッチング素子411のオンオフ状態、V相スイッチング素子412のオンオフ状態、W相スイッチング素子のオンオフ状態を示している。通電オン角度θonおよび通電オフ角度θoffは、V相について記載した。
図9は、加速制御時のモータ回転数Nが第1速度判定閾値Nth1以下の場合、または、減速制御時のモータ回転数Nが第3速度判定閾値Nth3以下の場合である低速領域での通電パターンである。低速領域では、通電オン角度θon=180°、通電オフ角度θoff=180°にてスイッチング素子411〜413のオンオフ作動を制御する。本実施形態では、エンコーダ13の1カウントが30°であるので、低速領域では、スイッチング素子411〜413を、エンコーダカウント値θenの6カウント分をオン、6カウント分をオフにする。低速領域では、コイル111〜113のうちの2相に通電されている2相通電区間と1相に通電されている1相通電区間とが等しい。通電オン角度θonおよび通電オフ角度θoffを180°とすることで、低速領域にて最大トルクを出力することができる。
図10は、加速制御時のモータ回転数Nが第1速度判定閾値Nth1より大きく、第2速度判定閾値Nth2以下の場合である中速領域での通電パターンである。中速領域では、通電オン角度θon=210°、通電オフ角度θoff=150°にてスイッチング素子411〜413のオンオフ作動を制御する。すなわち中速領域では、スイッチング素子411〜413を、エンコーダカウント値θenの7カウント分をオン、5カウント分をオフにする。中速領域では、2相通電区間が1相通電区間よりも長くなる。
図11は、加速制御時のモータ回転数Nが第2速度判定閾値Nth2より大きい場合、または、減速制御時のモータ回転数Nが第3速度判定閾値Nth3より大きい場合である高速領域での通電パターンである。高速領域では、通電オン角度θon=240°、通電オフ角度θoff=120°にてスイッチング素子411〜413のオンオフ作動を制御する。すなわち高速領域では、スイッチング素子411〜413を、エンコーダカウント値θenの8カウント分をオン、4カウント分をオフにする。高速領域では、電気角1周期の全ての区間が2相通電区間であり、1相通電区間がない。すなわち、本実施形態のように、通電オン角度θonを長くすることは、2相通電区間を長くしている、と捉えることもできる。なお、各相での通電オン角度θonを240°より長くすると、3相通電の状態が生じてしまうため、通電オン角度θonの最大値は240°とする。
減速制御では、減速開始時において通電オン角度θonを240°とすることで、急ブレーキがかかり、急減速するため、図10に示す中速領域の制御は行わない。すなわち、本実施形態では、加速制御時と減速制御時とで、通電オン角度θonの切替回数が異なっている。詳細には、減速制御時における通電オン角度θonの切替回数は、加速制御時における通電オン角度の切替回数より少ない。本実施形態では、減速制御時における通電オン角度θonの切替回数は1回であり、加速制御時における通電オン角度θonの切替回数は2回である。
本実施形態のモータ駆動制御を説明するタイムチャートを図12に示す。図12では、共通時間軸を横軸とし、上段にモータ角度、下段にモータ回転数を示す。モータ回転数については、本実施形態を実線、モータ回転数Nによらず通電オン角度θonを180°としたときの参考例を一点鎖線で示す。
図12に示すように、時刻t1にて要求シフトレンジが切り替わると、要求シフトレンジに応じたモータ角度目標値θcmdが設定され、モータ10の駆動が開始される。モータ10の駆動初期は、加速制御を行う。モータ回転数Nが第1速度判定閾値Nth1となる時刻t2までの期間において、通電オン角度θon=180°にてモータ10の駆動を制御する。また、モータ回転数Nが第1速度判定閾値Nth1より大きく、第2速度判定閾値Nth2以下の時刻t2から時刻t3の期間において、通電オン角度θon=210°にてモータ10の駆動を制御する。モータ回転数Nが第2速度判定閾値Nth2より大きい時刻t3以降、通電オン角度θon=240°にてモータ10の駆動を制御する。
時刻t4にて、モータ角度目標値θcmdとエンコーダカウント値θenとの角度偏差Δθが第1角度判定閾値θth1以下になると、加速制御から減速制御に移行する。時刻t4から、モータ回転数Nが第3速度判定閾値Nth3以下となる時刻t5までの期間において、通電オン角度θon=240°にてモータ10の駆動を制御する。すなわち本実施形態では、時刻t3から時刻t5までが高速回転領域であって、通電オン角度θon=240°とすることで、常時2相に通電される。すなわち本実施形態では、第2速度判定閾値Nth2および第3速度判定閾値Nth3が「高速回転判定閾値」に対応する。
モータ回転数Nが第3速度判定閾値Nth3以下となった時刻t5から、固定相通電制御を開始する時刻t7までの期間において、通電オン角度θon=180°にてモータ10の駆動を制御する。また、時刻t2、t3、t4、t5、t6にて、位相進み補正量Ksを変更する。
時刻t7にて、角度偏差Δθが第2角度判定閾値θth2以下になると、減速制御から固定相通電による停止制御に移行する。そして、固定相通電を所定の通電継続時間に亘って継続した後、モータ10への通電をオフにする。
本実施形態では、高速回転時の通電オン角度θonを大きくすることで電流を流れやすくし、トルクを向上させている。また、エンコーダ13の信号タイミングに基づいて通電オン角度θonを設定しているので、複雑な角度演算が不要であり、例えば線形補間等により通電オン角度θonを演算する場合等と比較し、演算負荷を低減可能である。
また、減速制御において、高速回転時の通電オン角度θonを大きくすることで、急ブレーキをかけることが可能であるので、図12中に矢印Yで示すように、通電オン角度θonを常に180°とする参考例と比較して、加速制御を行う期間を長くすることができる。また、加速側の性能も上がっているため、最高速度を大きくすることができる。エンコーダカウント値θenの変化量は、回転数×時間、すなわち実線または一点鎖線で囲まれる面積に対応しているため、最高速度が高まり、かつ、加速期間が長くなることで、モータ角度目標値θcmdに到達するまでの時間を短縮することができる。
以上説明したように、本実施形態のシフトレンジ制御装置40は、ステータ101、ステータ101に巻回されるコイル111〜113、および、ステータ101に対して回転可能に設けられるロータ103を有するモータ10の駆動を制御するものであって、モータドライバ41と、ECU50と、を備える。モータドライバ41は、コイル111〜113の各相に対応して設けられるスイッチング素子411〜413を有する。
ECU50は、角度演算部51、速度演算部52、および、駆動制御部56を有する。角度演算部51は、ロータ103の回転位置を検出するエンコーダ13の検出値に基づいてエンコーダカウント値θenを演算する。速度演算部52は、エンコーダ13の検出値に基づいてロータ103の回転速度であるモータ回転数Nを演算する。駆動制御部56は、ロータ103が停止している状態からロータ103を回転させ、設定される目標回転位置であるモータ角度目標値θcmdにてロータ103が停止するようにモータ10の駆動を制御する。
駆動制御部56は、ロータ103の回転速度が相対的に大きいほど、コイル111〜113の各相に通電される電気角1周期中の角度範囲である通電オン角度θonが大きくなるように、スイッチング素子411〜413のオンオフ作動を制御する。これにより、電流の立ち上がりの遅れに起因する高速回転時のトルク不足を抑制することができる。また、減速制御時において、ブレーキに必要な時間を短縮可能であるので、モータ10の位置制御に要する時間を短縮可能であって、応答性の向上に寄与する。
回転角センサであるエンコーダ13は、ロータリーエンコーダであって、通電オン角度θonは、エンコーダ13の分解能に応じて段階的に切り替えられる。これにより、複雑な演算が不要となり、ソフトウェアでの設定が容易となる。
モータ10は、3相モータであって、駆動制御部56は、回転速度が高速回転判定閾値より大きい高速回転領域において、常時2相に通電されるように通電オン角度θonを設定する。本実施形態では、高速回転判定閾値は、加速制御時と減速制御時とで異なっている。具体的には、加速制御時の高速回転判定閾値である第2速度判定閾値Nth2と、減速制御時の高速回転判定閾値である第3速度判定閾値Nth3とは異なっている。そして、モータ回転数Nが第2速度判定閾値Nth2を超えてから、第3速度判定閾値Nth3を下回るまでの高速回転領域において、通電オン角度θonを240°とすることで、常時2相通電としている。なお、通電オン角度θonは、厳密に240°ではなくてもよく、例えば制御誤差やデッドタイム程度のずれは許容されるものとし、通電相の切り替えに伴って一時的に1相通電状態となることは許容されるものとする。高速回転時において、通電オン角度θonを最大化し、常時2相通電とすることで、通電量を確保できるので、トルクを向上することができる。
シフトレンジ制御装置40は、モータ10の駆動を制御することでシフトレンジを切り替えるシフトバイワイヤシステム1に適用され、モータ角度目標値θcmdは、要求シフトレンジに応じて設定される。これにより、応答性よく、適切にシフトレンジを切り替えることができる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、モータはSRモータである。他の実施形態では、モータは、SRモータに限らず、DCブラシレスモータ等、どのようなモータであってもよい。また、モータドライバの構成も、通電オン角度を変更可能などのような回路構成としてもよい。上記実施形態では、モータは、3相モータである。他の実施形態では、モータの相数は、3に限らず、例えば4相モータ等であってもよい。また、上記実施形態では、巻線組は1組である。他の実施形態では、巻線組を2組以上設けてもよい。
上記実施形態では、回転角センサは、エンコーダであって、分解能は電気角で30°である。他の実施形態では、エンコーダの分解能は異なっていてもよい。また、分解能に応じ、通電オン角度の切り替え回数が上記実施形態と異なっていてもよい。上記実施形態では、加速制御と減速制御とで、通電オン角度の切り替え回数が異なっている。他の実施形態では、加速制御時と減速制御時とで、通電オン角度の切り替え回数が等しくてもよい。また、通電オン角度の切り替え判定に係る速度判定閾値は、加速制御時と減速制御時とで同じでもよいし、異なっていてもよい。他の実施形態では、回転角センサは、ロータリーエンコーダに限らず、レゾルバ等、どのようなものを用いてもよい。また、ロータの回転速度は、モータ回転数に替えて、回転角速度[deg/s]等を用いてもよい。出力軸センサについても、ポテンショメータ以外のものを用いてもよいし、出力軸センサを省略してもよい。
上記実施形態では、ディテントプレートには4つの谷部が設けられる。他の実施形態では、谷部の数は4つに限らず、いくつであってもよい。例えば、ディテントプレートの谷部の数が2つであって、PレンジとNotPレンジとを切り替えるものとしてもよい。また、シフトレンジ切替機構やパーキングロック機構等は、上記実施形態と異なっていてもよい。
上記実施形態では、モータ軸と出力軸との間に減速機が設けられる。減速機の詳細について、上記実施形態では言及していないが、例えば、サイクロイド歯車、遊星歯車、モータ軸と略同軸の減速機構から駆動軸へトルクを伝達する平歯歯車を用いたものや、これらを組み合わせて用いたもの等、どのような構成であってもよい。また、他の実施形態では、モータ軸と出力軸との間の減速機を省略してもよいし、減速機以外の機構を設けてもよい。
上記実施形態では、モータ制御装置は、シフトバイワイヤシステムに適用され、車両のシフトレンジ切替機構を駆動するモータを制御する。他の実施形態では、モータ制御装置をシフトバイワイヤシステム以外の装置に適用してもよい。以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。