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JP2019170393A - iPS細胞の作製方法 - Google Patents

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JP2019170393A JP2019113463A JP2019113463A JP2019170393A JP 2019170393 A JP2019170393 A JP 2019170393A JP 2019113463 A JP2019113463 A JP 2019113463A JP 2019113463 A JP2019113463 A JP 2019113463A JP 2019170393 A JP2019170393 A JP 2019170393A
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憲三朗 谷
Kenzaburo Tani
憲三朗 谷
貴史 平本
Takashi Hiramoto
貴史 平本
竹田 誠
Makoto Takeda
誠 竹田
舞乃 田原
Maino TAHARA
舞乃 田原
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Abstract

【課題】安全性が高く、かつ広範囲の細胞に対して効率よく遺伝子を導入できるiPS細胞の作製方法を提供する。【解決手段】iPS細胞の作製方法は、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたM遺伝子および1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたH遺伝子を含み、F遺伝子を欠損している、第1の分節されたゲノムと第2の分節されたゲノムとに分節された麻疹ウイルス由来のゲノムを有するウイルスベクターを細胞に感染させる感染工程を含み、第1の分節されたゲノムは、第1のリーダー配列、N遺伝子、P遺伝子、M遺伝子、第1のトレーラー配列および少なくとも1つのリプログラム因子をコードする遺伝子を含み、第2の分節されたゲノムは、第2のリーダー配列、H遺伝子、L遺伝子、第2のトレーラー配列および少なくとも1つのリプログラム因子をコードする遺伝子を含む。【選択図】図1

Description

本発明は、iPS細胞の作製方法に関する。
採取および投与における侵襲性が低いため、血液細胞は再生医療などの治療用細胞として、最も臨床応用されている。特に造血幹細胞および造血前駆細胞は、過去約30年にわたって造血器を中心とした悪性腫瘍の治療法に用いられ、現在も一般治療法に用いられている。これらに加えて、リンパ球、NK細胞、NKT細胞および樹状細胞などの血液細胞は、悪性腫瘍細胞に対する免疫細胞療法として臨床試験が進められてきている。
さらに近年、遺伝子を改変した血液細胞を用いた遺伝子治療に関して、重症先天性疾患または悪性腫瘍に対して臨床試験が進められてきている。特にT細胞受容体あるいはキメラ抗原受容体遺伝子を導入した遺伝子改変T細胞療法は、悪性腫瘍に対する顕著な治療効果が期待できる新規治療法として注目されている。
現在、T細胞への遺伝子導入には、レンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターが使用されている。しかし、レンチウイルスベクターおよびレトロウイルスベクターの場合、ゲノムDNAへの挿入によるゲノム毒性が問題である。
これに対し、ゲノムDNAへの挿入の可能性が低い遺伝子導入法として、アデノウイルスベクターを使用する方法、さらには、mRNAおよびプラスミドなどを用いる非ウイルス系ベクターを使用する方法が知られている。しかし、アデノウイルスベクターおよび非ウイルス系ベクターでは、導入効率が極めて低く、使用できる細胞種が限られている。
ゲノムDNAへの挿入の可能性が低い遺伝子導入法として、センダイウイルスベクターも知られている。例えば、特許文献1には、F遺伝子を欠損させて、2次的な感染性ウイルス粒子を放出しないように改変したセンダイウイルスベクターが開示されている。また、特許文献2には、細胞のリプログラミングに関する遺伝子を搭載したセンダイウイルスベクターが開示されている。
センダイウイルスと同じパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)に属する麻疹ウイルスは、免疫細胞および上皮細胞に極めて高い感染力を保持したウイルスである。特許文献3には、複数に分節されたゲノムを保持し、少なくとも1つの分節ゲノムが宿主内で発現可能な外来遺伝子を含む麻疹ウイルスが開示されている。
特許第3602058号公報 国際公開第2010/008054号 国際公開第2007/007921号
T細胞に遺伝子を導入する場合、上記特許文献1および特許文献2に開示されたセンダイウイルスベクターでは、センダイウイルスベクターの作製が比較的困難なうえ、センダイウイルスが残存しやすく、取り除くのが困難であるという不都合がある。また、センダイウイルスの本来の宿主ではないヒトに対して、センダイウイルスベクターがどのような影響を及ぼすのか知見が少なく、安全性の面で実際の臨床利用には躊躇せざるを得ない。
また、アデノウイルスベクターと同様に、上記特許文献1および特許文献2に開示されたセンダイウイルスベクターならびに上記特許文献3に開示された麻疹ウイルスでは、遺伝子の導入効率を上げるため、遺伝子導入に先立ちT細胞を刺激して活性化させる必要がある。このため、T細胞の活性化によるT細胞の分化が誘起されることが懸念され、ナイーブT細胞および未分化B細胞などへの遺伝子導入が困難である。
上記のように従来のウイルスベクターでは、ヒトへの使用における安全性が十分に担保されておらず、効率よく遺伝子を導入できる細胞が限定されている。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、安全性が高く、かつ広範囲の細胞に対して効率よく遺伝子を導入できるiPS細胞の作製方法を提供することを目的とする。
本発明に係るiPS細胞の作製方法は、
1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたMタンパク質をコードする遺伝子および1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたHタンパク質をコードする遺伝子を含み、Fタンパク質をコードする遺伝子を欠損している、第1の分節されたゲノムと第2の分節されたゲノムとに分節された麻疹ウイルス由来のゲノムを有するウイルスベクターを細胞に感染させる感染工程を含み、
前記第1の分節されたゲノムは、
第1のリーダー配列、Nタンパク質をコードする遺伝子、Pタンパク質をコードする遺伝子、前記Mタンパク質をコードする遺伝子、第1のトレーラー配列および少なくとも1つのリプログラム因子をコードする遺伝子を含み、
前記第2の分節されたゲノムは、
第2のリーダー配列、前記Hタンパク質をコードする遺伝子、Lタンパク質をコードする遺伝子、第2のトレーラー配列および少なくとも1つのリプログラム因子をコードする遺伝子を含む。
この場合、前記細胞は、
血液細胞である、
こととしてもよい。
また、前記血液細胞は、
造血幹細胞である、
こととしてもよい。
また、前記血液細胞は、
ナイーブT細胞、幹細胞様記憶T細胞または未分化B細胞である、
こととしてもよい。
本発明によれば、安全性が高く、かつ広範囲の細胞に対して効率よく遺伝子を導入できる。
6遺伝子を搭載した非伝播型の麻疹ウイルスベクターの分節されたゲノムの構成を示す図である。 図1に示す麻疹ウイルスベクタープラスミドの構成を示す図である。 麻疹ウイルスベクターを導入したBJ細胞および活性化T細胞の蛍光画像を示す図である。 麻疹ウイルスベクターに搭載した遺伝子の発現解析の結果を示す図である。 麻疹ウイルスベクターおよびセンダイウイルスベクターの各血球系細胞への導入効率を示す図である。 麻疹ウイルスベクターおよびセンダイウイルスベクターの臍帯血由来T細胞への導入効率を示す図である。 麻疹ウイルスベクターとセンダイウイルスベクターの末梢血由来T細胞の各分画への導入効率を示す図である。 BJ細胞より樹立した多能性幹細胞(iPS細胞)のコロニーの位相差図および蛍光画像を示す図である。 T細胞より樹立したiPS細胞の初代コロニーの位相差図および蛍光画像を示す図である。 BJ細胞由来iPS細胞の未分化マーカーの発現を示す図である。 RT−PCR法による未分化マーカーおよびウイルス由来遺伝子の発現解析の結果を示す図である。 in vitroにおける三胚葉系分化誘導解析の結果を示す図である。 奇形腫形成試験による三胚葉系分化能の解析結果を示す図である。 BJ細胞由来iPS細胞の核型解析の結果を示す図である。 基底状態のiPS細胞の形態を示す図である。
本発明に係る実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
まず、実施の形態1について詳細に説明する。本実施の形態に係るウイルスベクターは、パラミクソウイルス科に属するウイルス由来のゲノムを含む。
パラミクソウイルス科に属するウイルス(以下、単に「ウイルス」ともいう)は、(−)鎖RNAゲノムを有するRNAウイルスである。ウイルスとしては、麻疹ウイルス(Measles virus)、センダイウイルス(Sendai virus)、ニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus)、おたふくかぜウイルス(Mumps virus)、1型パラインフルエンザウイルス(Parainfluenza virus 1)、2型パラインフルエンザウイルス(Parainfluenza virus 2)、3型パラインフルエンザウイルス(Parainfluenza virus 3)、5型パラインフルエンザウイルス(Parainfluenza virus 5、Simian virus 5)、メタニューモウイルス(Metapneumo virus)、RSウイルス(Respiratorysyncytial virus)、牛疫ウイルス(Rinderpest virus)、およびジステンパーウイルス(Distemper virus)が挙げられる。上記パラミクソウイルス科に属するウイルスは、好適には、麻疹ウイルスである。
パラミクソウイルス科に属するウイルスのゲノムは、非分節の一本鎖RNAで、3’末端にリーダー配列(Le)と、5’末端にトレーラー配列(Tr)と、を有する。リーダー配列とトレーラー配列との間には、ウイルスを構成する機能性タンパク質をコードする各種遺伝子が配置されている。リーダー配列はプロモーター活性を有する。トレーラー配列はアンチゲノムの場合にプロモーター活性を有する。
機能性タンパク質をコードする主な遺伝子は、Nタンパク質をコードする遺伝子(N遺伝子)、Pタンパク質をコードする遺伝子(P遺伝子)、Mタンパク質をコードする遺伝子(M遺伝子)、Fタンパク質をコードする遺伝子(F遺伝子)、Hタンパク質をコードする遺伝子(H遺伝子)ならびにLタンパク質をコードする遺伝子(L遺伝子)である。ゲノムにおける6つの遺伝子各々の両末端には、転写開始配列および転写終結配列という転写の制御配列がある。
Nタンパク質は、ウイルスのゲノムに対して5’末端から順に整然と並んで結合し、ゲノムRNAを包装する。Pタンパク質は、RNA依存性RNAポリメラーゼの小サブユニットとして機能し、ウイルスのゲノムの転写複製に関与する。なお、P遺伝子からは、RNA編集(RNA editing)機構などによりVタンパク質およびCタンパク質などのアクセサリータンパク質が合成されることがある。Lタンパク質は、RNA依存性RNAポリメラーゼの大サブユニットとして機能し、Pタンパク質とともにウイルスのゲノムの転写複製に関与する。
Mタンパク質は、ウイルス粒子の構造を内側から支えるマトリックスタンパク質である。Fタンパク質は、細胞融合に関与しており、ウイルスに病原性をもたらす。Hタンパク質は、ウイルス受容体結合タンパク質である。Hタンパク質は、野生型のウイルスが感染のための受容体としてのSLAM(Signaling lymphocyte activation module)またはNectin4に結合する。SLAMおよびNectin4は、限られた細胞種のみで発現しているため、ウイルスの宿主域を限定している。
パラミクソウイルス科に属するウイルス由来のゲノムとは、上記機能性タンパク質をコードする遺伝子を有しており、感染細胞において増幅され得るゲノムを意味する。
本実施の形態に係るウイルスベクターに含まれる上記ゲノムでは、H遺伝子およびFタンパク質の両方が改変されている。H遺伝子の改変は、例えば、H遺伝子の欠損である。H遺伝子を欠損させることで、Hタンパク質の発現を消失させることができる。また、H遺伝子の改変は、Hタンパク質の1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加される変異であってもよい。
より具体的には、H遺伝子の改変は、例えば、Hタンパク質の390番目のアスパラギンのイソロイシンへの置換(N390I)、416番目のアスパラギンのアスパラギン酸への置換(N416D)、446番目のトレオニンのセリンへの置換(T446S)、481番目のアスパラギンのチロシンへの置換(N481Y)および492番目のグルタミン酸のグリシンへの置換(E492G)である。これらの置換によって、Hタンパク質は、SLAMおよびNectin4に加え、ほぼすべての細胞において発現が認められるmembrane co-factor protein(CD46)に結合できる。
H遺伝子を改変することで、野生型のHタンパク質に対して、Hタンパク質の構造または機能を変化させることができる。上述のようにHタンパク質はウイルス受容体結合タンパク質であるため、当該ウイルスベクターは、H遺伝子の改変によって、SLAMおよびNectin4以外の分子を受容体として利用できる。すなわち、H遺伝子を改変することで、ウイルスベクターの感染できる細胞種を増加させることができる。
F遺伝子の改変は、例えば、F遺伝子の欠損である。F遺伝子を欠損させることで、Fタンパク質の発現を消失させることができる。例えば、麻疹ウイルスのゲノムを用いた場合、Fタンパク質を欠損させたウイルスベクターは、特殊な細胞株(Vero/SLAM/F細胞)を除く他の細胞内で病原性をもったウイルスを産生できない。このため、上記特殊な細胞株に感染させない限り、当該ウイルスベクターの伝播性を消失させることができる。
F遺伝子の改変は、Fタンパク質の1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加される変異であってもよい。当該変異によって、野生型のFタンパク質に対して、Fタンパク質の構造または機能を変化させればよい。
また、上記ゲノムにおけるMタンパク質をコードする遺伝子が、Mタンパク質の1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加される変異を有してもよい。変異の例として、Mタンパク質の64番目のプロリンのセリンへの置換(P64S)および89番目のグルタミン酸のグリシンへの置換(E89G)が挙げられる。Mタンパク質はウイルス粒子の構造を内側から支えるマトリックスタンパク質であるため、Mタンパク質に変異を導入することで、ウイルス粒子形成能を向上させ、さらに細胞融合能を低下させることができる。
本実施の形態に係るウイルスベクターに含まれる上記ゲノムは、外来遺伝子を有する。このため、当該ウイルスベクターは、外来遺伝子を発現させることができる。外来遺伝子は、限定されないが、例えば、ウイルス、細菌および寄生虫などの病原性を惹起する各種タンパク質をコードする遺伝子、各種サイトカインをコードする遺伝子、各種ペプチドホルモンをコードする遺伝子、および細胞のリプログラミング因子をコードする遺伝子などが挙げられる。また、外来遺伝子として、GFP(Green Fluorescent Protein)またはEGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)をコードする遺伝子などのレポーター遺伝子を挿入してもよい。
外来遺伝子の数は、特に限定されないが、好適には2〜6個である。具体的に例示される外来遺伝子として、リプログラミング因子であるOCT3/4、SOX2およびKLF4などが挙げられる。もちろんその他のリプログラミング因子であるL−MYCおよびPIN1などが外来遺伝子としてゲノムにさらに挿入されてもよい。
上記機能性タンパク質をコードする遺伝子および外来遺伝子のゲノムにおける配置は、リーダー配列とトレーラー配列との間であれば特に限定されない。ゲノムにおける上記機能性タンパク質をコードする遺伝子の相互の位置関係は、野生型のウイルスのゲノムにおける並び順などの位置とは無関係に、任意に決定することができる。
本実施の形態に係るウイルスベクターに含まれる上記ゲノムは、複数に分節されてもよい。分節とは、ゲノムRNAが、複数本のRNAに断片化されることを意味する。つまり、複数に分節されたゲノムは、1つのゲノムとして機能する一組のRNA群である。分節されたゲノムの本数は、限定されないが、最大で6本であることが好ましく、特に好ましくは2本である。
この場合、分節されたゲノム各々は、リーダー配列とトレーラー配列とを有する。好ましくは、分節されたゲノム各々の一端にリーダー配列が配置され、他端にトレーラー配列が配置される。この場合、分節された各ゲノムのリーダー配列とトレーラー配列との間に、上記の機能性タンパク質をコードする遺伝子のいずれか、および外来遺伝子が配置される。
機能性タンパク質をコードする遺伝子および外来遺伝子は、複数に分節されたゲノムの1本に挿入されてもよいし、2本以上に挿入されてもよい。複数個の外来遺伝子を発現させる場合は、複数に分節されたゲノムの1本に、複数個の外来遺伝子のすべてが挿入されてもよいし、あるいは、複数に分節されたゲノムの2本以上に、それぞれ1個以上の外来遺伝子が挿入されることで、全体として複数個の外来遺伝子が挿入されてもよい。複数に分節されたゲノムの1本に複数個の外来遺伝子が挿入される場合、その個数は、上記機能性タンパク質をコードする遺伝子の発現効率が著しく低下しない範囲内であれば限定はされない。
複数に分節されたゲノムにおける外来遺伝子の配置は、特に限定されない。例えば、麻疹ウイルスのゲノムを2本に分節し、F遺伝子を欠損させて、リプログラミング因子を外来遺伝子として挿入した場合、第1の分節されたゲノムには、3’末端から5’末端に向かって、リーダー配列、OCT3/4、N遺伝子、P遺伝子、改変されたM遺伝子、SOX2、トレーラー配列の順に配置され、第2の分節されたゲノムには、3’末端から5’末端に向かって、リーダー配列、KLF4、改変されたH遺伝子、L遺伝子、トレーラー配列の順に配置される。外来遺伝子としてL−MYCおよびPIN1をさらに挿入する場合、好適には、SOX2とトレーラー配列との間にL−MYCを、H遺伝子とL遺伝子との間にPIN1を挿入すればよい。
H遺伝子、F遺伝子およびM遺伝子を除く上記機能性タンパク質をコードする遺伝子は、野生型ウイルスのゲノムに含まれる各遺伝子の塩基配列と完全に同一でなくとも、転写および複製における活性が野生型の活性と同等かそれ以上であれば、変異が導入されたものであってもよい。機能性タンパク質をコードする遺伝子は、例えば、転写および複製における活性が天然型の各タンパク質と同等またはそれ以上であれば、1もしくは数個、例えば1〜15個、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜5個)のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸からなるタンパク質をコードする塩基配列であってもよい。当該変異型のタンパク質と天然型のタンパク質とのアミノ酸配列の相同性は、例えば、90〜100%であることが好ましいが、転写および複製における活性が、保持されていれば、アミノ酸の相同性は、例えば、40〜90%であってもよい。
上記のリプログラミング因子をコードする遺伝子およびEGFPをコードする遺伝子を外来遺伝子として有する分節されたゲノムの好適な例を図1に示す。2本の当該分節されたゲノムでは、Hタンパク質にN390I、N416D、T446S、N481YおよびE492Gの変異が加わるようにH遺伝子が改変され(H8)、さらにF遺伝子が欠損している。また、Mタンパク質にP64SおよびE89Gの変異が加わるようにM遺伝子が改変されている(M6489)。なお、P遺伝子はP/V/Cとして示されている。
当該ウイルスベクターは、細胞感染能および伝播力を有している。細胞感染能とは、宿主となる細胞への接着能および膜融合能を保持することで、細胞内にウイルス内部のゲノムなどを導入し得る能力である。また、伝播力とは、細胞内に導入されたゲノムを複製し、感染性粒子またはそれに準ずる複合体を形成して、当該ゲノムを別の細胞に伝播し得る能力である。
本実施の形態に係るウイルスベクターは、公知のウイルスベクターの作製方法で作製できる。例えば、当該ウイルスベクターは、ウイルスのゲノムゲノムに対応するcDNAを用いて、あるいは、ウイルスのゲノムを用いて、ウイルス粒子の再構成を行うことにより、作製することができる。ここで、ウイルス粒子の再構成とは、ウイルスのゲノムを人工的に作製し、試験管内または細胞内において、もとのウイルスまたは組換えウイルスを作製することを意味する。
いずれの方法においても、通常は、ウイルスからゲノムを単離し、逆転写反応などによりゲノムのcDNAを作製する。続いて、ゲノムを分節する場合は、公知の遺伝子組み換え技術および核酸増幅法などにより、当該cDNAを複数のcDNAに断片化したうえで、外来遺伝子の挿入などの操作を施す。断片化の方法は、ゲノムから作製したcDNAの塩基配列などに基づいて結果的に複数のcDNA断片が調製される方法であればよく、限定はされない。
ゲノムから作製したcDNAの塩基配列に基づく調製方法としては、例えば、ゲノムから作製したcDNA中の所定の領域を鋳型としてPCR法などで増幅断片を得る方法が挙げられる。所定の領域は、発現させるゲノムの構造を考慮して適宜設定することができ、限定はされない。所定の領域は、ウイルスの機能性タンパク質をコードする各遺伝子断片をそれぞれ個別に増幅できるように設定することが好ましい。このように領域を設定した場合は、得られた各遺伝子の増幅断片を、所望の種類、個数、並び順(位置)で結合させることで、cDNA断片を調製することができる。
分節されたゲノムに外来遺伝子を挿入するには、別途調製した外来遺伝子を含むDNA断片を、上述の分節化したcDNA中に、公知の遺伝子組み換え技術を用いて挿入すればよい。図1に示すN遺伝子を含む第1の分節されたゲノムに対応するcDNAの塩基配列およびH遺伝子を含む第2の分節されたゲノムに対応するcDNAの塩基配列は、それぞれ配列番号1および配列番号2に示される。
ウイルス粒子の再構成には、調製されたcDNA断片を含むDNA、好ましくはプラスミドDNA、または、cDNAを予めin vitroで転写したRNAを用いればよい。
一般に、パラミクソウイルス科に属するウイルスのゲノムまたはそのアンチゲノムを裸のRNAのまま宿主細胞内に導入しても、RNA依存性RNAポリメラーゼの鋳型とはならない。鋳型となるには、当該RNA依存性RNAポリメラーゼによるRNA合成反応の初期段階において、Nタンパク質、Pタンパク質およびLタンパク質が存在し、これらタンパク質とゲノムRNAとの複合体(RNP複合体)の形成が必要である。そのため、ウイルスベクターを再構成するには、Nタンパク質、Pタンパク質およびLタンパク質を併せて発現させるか、あるいは、Nタンパク質、Pタンパク質およびLタンパク質を発現し得る宿主を用いることが望ましい。これに加え、上記ウイルスベクターに含まれるRNAのF遺伝子を欠損させた場合は、Fタンパク質も発現し得る宿主を用いるのが好ましい。
上記ウイルスベクターは、例えば、ウイルスのNタンパク質、Pタンパク質およびLタンパク質を発現する宿主内に、上記ゲノムまたはそのcRNAを導入することで作製できる。また、ウイルスのNタンパク質、Pタンパク質およびLタンパク質を発現する宿主内に、上記ゲノムまたはそのcRNAの鋳型となるcDNAを含むDNAと、当該DNAの転写ユニットと、を導入してもよい。この他、宿主内に、上記ゲノムまたはそのcRNAの鋳型となるcDNAを含むDNAと、ウイルスのN遺伝子を含むDNAと、ウイルスのP遺伝子を含むDNAと、ウイルスのL遺伝子を含むDNAと、これらDNAの転写ユニットと、を導入してもよい。
上記宿主が発現するNタンパク質、Pタンパク質およびLタンパク質としては、これらの天然型のタンパク質の活性と同等またはそれ以上であれば、完全に同一のものでなくてもよく、例えば、1もしくは数個、例えば1〜15個、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸からなるタンパク質であってもよいし、あるいは、他のウイルス由来またはアミノ酸配列が大きく異なる全く別のタンパク質であってもよい。
上記宿主は、上記機能性タンパク質および外来遺伝子が発現し得る細胞であれば、特に限定はされず、例えば、培養された哺乳動物または鳥類の細胞、鶏卵などが挙げられる。具体的に、培養細胞としては、例えば、BHK−T7/9細胞、CHO、293細胞、B95a、サル細胞COS−7、Vero、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞、LLCMK2、MDCK、MDBK、CV−1、HeLa、HepG2、P19、F9、PClZ、BAF3、Jurkat、ヒトPBMCN、MT−4、Molt−4、NIH3T3、L929、Vero/hSLAM、CHO/hSLAM、A549/hSLAM、HeLa/hSLAM、293T、BHKおよびニワトリ胚繊維芽細胞などを用いることができる。また、Sf9細胞、Sf21細胞などの昆虫細胞を用いることもできる。
上記転写ユニットとしては、例えば、所定のDNA依存性RNAポリメラーゼを発現する組換えワクシニアウイルス、所定のDNA依存性RNAポリメラーゼ遺伝子を含むDNAなどが好ましい。
また、上記製造方法で得られるウイルスベクターは、他の細胞との共培養などにより選択的かつ効率的に増殖させることができる。例えば、麻疹ウイルスを用いたウイルスベクターの場合、上記製造方法で得られた再構成したウイルスベクターを含む培養細胞を、あらかじめ培養しておいたVero/SLAM/F細胞上に播き、共培養することにより、ウイルスベクターが感染および増殖したVero/SLAM/F細胞の巨細胞を得ることができる。
より具体的には、例えば、麻疹ウイルスベクターを作製する場合、図1に示す分節されたゲノムに対応する2つのプラスミドを、必要に応じて機能性タンパク質をコードする遺伝子を含む他のプラスミドとともに、適切な細胞に導入すればよい。その後、細胞を回収し、Vero/SLAM/F細胞上へ播種し、出現した巨細胞を採取すれば、麻疹ウイルスベクターを取得できる。麻疹ウイルスベクターを、新たなVero/SLAM/F細胞に感染させ、増幅させてから麻疹ウイルスベクターを放出させてもよい。この場合、遠心分離によってウイルスを含む上清をウイルス液として回収できる。
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るウイルスベクターは、H遺伝子が改変されているため、多様な細胞種に感染でき、すなわち宿主域を拡げることができる。また、当該ウイルスベクターは、F遺伝子が改変されているため、細胞感染能をもつウイルスの産生を防ぐことができ、伝播性を消失させることで安全性を向上させることができる。また、上記ウイルスベクターは、複製過程のすべてが細胞質内で行われ、DNA合成を伴わないため、ゲノム毒性の懸念がなく、極めて安全性が高い。
なお、本実施の形態に係るウイルスベクターに含まれるゲノムは、複数に分節されてもよいこととした。こうすることで、複数の外来遺伝子またはサイズの大きい遺伝子を搭載することができる。また、分節されたゲノム各々は、リーダー配列とトレーラー配列とを有してもよいこととした。パラミクソウイルス科に属するウイルスでは、下流(5’側)の遺伝子ほど発現が低くなる特徴的な遺伝子発現のパターンが知られているが、分節されたゲノム各々がリーダー配列とトレーラー配列とを有することで、分節されたゲノム各々にポリメラーゼが作用することができ、各遺伝子の発現量を高めることができる。また、宿主において複数の外来遺伝子を同時に発現させることができる。さらに、ゲノムを2本に分節することで、タンパク質の発現効率を高く維持するのに好適なゲノムのサイズになる。もちろん分節されていない1本のゲノムでも同様な機能を発揮できる。
なお、本実施の形態では、分節されたゲノム上のMタンパク質をコードする遺伝子が、Mタンパク質の1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加される変異を有してもよいこととした。こうすることで、当該ウイルスベクターの細胞に対する遺伝子導入効率および安全性をさらに高めることができる。
また、本実施の形態では、ウイルスが麻疹ウイルスであってもよいこととした。麻疹ウイルスは、免疫細胞に対する強い指向性を有するため、上記ウイルスベクターによれば、B細胞、T細胞および顆粒球に対しても高効率に遺伝子導入が可能である。さらに、上記ウイルスベクターは、下記実施例に示すように、活性化していないナイーブT細胞、セントラル記憶T細胞、エフェクター記憶T細胞およびB細胞さらには造血幹細胞を含む血液細胞にも極めて高効率に遺伝子導入が可能である。また、麻疹ウイルスは、本来ヒトを宿主とするので、ヒトへの影響に関する知見が蓄積されているため、安全面に配慮しながら適切に使用することができる。
なお、本実施の形態では、外来遺伝子の例として、OCT3/4、SOX2およびKLF4を挙げた。本実施の形態に係るウイルスベクターのゲノムとして麻疹ウイルスのゲノムを用いた場合、リプログラミング因子をコードする遺伝子を搭載した当該ウイルスベクターによって、従来法では、作製が非常に困難な基底状態のiPS細胞を作製することができる。
なお、本実施の形態に係るウイルスベクターに含まれるRNAは、ウイルスが本来有するゲノムと同様に(−)鎖RNAの他に、必要に応じて、(+)鎖RNAであってもよい。
別の実施の形態では、上記ウイルスベクターに含まれるゲノムの作製に好適なコンストラクトが提供される。該コンストラクトは、パラミクソウイルス科に属するウイルス由来の、3’末端にリーダー配列が、5’末端にトレーラー配列がそれぞれ配置された複数に分節されたゲノムの鋳型となる核酸を含み、当該分節されたゲノムにおけるHタンパク質をコードする遺伝子およびFタンパク質をコードする遺伝子の両方が改変されている。
上記核酸は、上述の分節された各ゲノムに基づいて作製されたcDNAまたはcRNAであってもよい。例えば、当該核酸は、分節された各ゲノムに対応する複数のcDNAまたはプラスミドDNAであってもよい。
例えば、麻疹ウイルスのゲノムを2本に分節し、F遺伝子を欠損させた場合、上記コンストラクトは、3’末端から5’末端に向かって、リーダー配列、N遺伝子、P遺伝子、M遺伝子およびトレーラー配列の順に配置されたゲノムに対応するcDNAと、3’末端から5’末端に向かって、リーダー配列、H遺伝子、L遺伝子およびトレーラー配列の順に配置されたゲノムに対応するcDNAを含む。
当該コンストラクトは、従来の遺伝子工学における遺伝子組み換え技術を用いて、容易に外来遺伝子を挿入することができる。当該コンストラクトを上記のようにウイルス粒子の再構成に用いることで、上記分節された各ゲノムを含むウイルスベクターが効率よく作製できる。
当該コンストラクトは、従来の形質転換または形質感染技術を介して原核細胞または真核細胞に導入され得る。例えば、当該発現コンストラクトをプラスミドの形態で各種細胞に導入することができる。
なお、上記コンストラクトが含む核酸は、パラミクソウイルス科に属するウイルスのゲノム由来の、3’末端にリーダー配列が、5’末端にトレーラー配列がそれぞれ配置された複数に分節されたゲノムのcRNAであってもよい。また、上記コンストラクトは、パラミクソウイルス科に属するウイルス由来の、3’末端にリーダー配列が、5’末端にトレーラー配列が配置されたゲノムの鋳型となる核酸を含み、当該ゲノムにおけるHタンパク質をコードする遺伝子およびFタンパク質をコードする遺伝子の両方が改変されていてもよい。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。本実施の形態に係る細胞は、上記実施の形態1に係るウイルスベクターによって外来遺伝子が導入されたものである。
ウイルスベクターは、公知の方法で細胞に感染させることができる。例えば、細胞を含む培養液にウイルスベクターを添加し、室温において1,200×gで45分間、遠心すればよい。この他、ウイルスベクターを細胞に感染させる方法として、電気穿孔法、リポフェクション法、ヒートショック法、PEG法、リン酸カルシウム法およびDEAEデキストラン法などの各種ウイルスを細胞に感染させる方法が挙げられる。
細胞は、特に限定されないが、ヒトの体細胞、線維芽細胞、血液細胞の他、サルの体細胞などである。細胞としては、B細胞、活性化した、または活性化していないT細胞、顆粒球、造血幹細胞を含む血液細胞などが好適である。特に好適な細胞は、ナイーブT細胞、幹細胞様記憶T細胞または未分化B細胞である。細胞に外来遺伝子を導入する際の当該ウイルスベクターの力価は、とくに限定されないが、MOI(multiplicity of infection)が1〜100、好ましくは3〜20、より好ましくは5〜10である。
少なくともOCT3/4、SOX2およびKLF4を外来遺伝子として含む上記ウイルスベクターで外来遺伝子を導入された細胞は、未分化マーカーを発現し、三胚葉系分化能を有するiPS細胞に誘導される。上記ウイルスベクターで遺伝子を導入することで、基底状態のiPS細胞も誘導できる。
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る細胞は、上記ウイルスベクターによって遺伝子が導入されるので、所望の複数の外来遺伝子を、同時に長期にわたって発現することができる。また、遺伝子導入の対象としてナイーブT細胞、幹細胞様記憶T細胞または未分化B細胞、さらには造血幹細胞を選択できるため、本実施の形態に係る細胞は、遺伝子を改変した血液細胞を用いた遺伝子治療、特に遺伝子改変T細胞療法に極めて有用である。
また、当該細胞は、OCT3/4、SOX2およびKLF4を含む上記ウイルスベクターで外来遺伝子を導入され、基底状態のiPS細胞に誘導される。基底状態のiPS細胞は、増殖効率がより高く、単細胞で播種しても増殖できるため、大量作製と容易な保存が可能になる。また、基底状態であるため、広範囲の細胞種に分化させることができる。
なお、本実施の形態に係る細胞の用途は、外来遺伝子に応じて様々である。細胞に導入する外来遺伝子をT細胞受容体遺伝子またはキメラ抗原受容体遺伝子とすることで、悪性腫瘍に対するT細胞療法に利用できる。また、外来遺伝子としてT細胞にZnフィンガーヌクレアーゼなどを導入してCCR5遺伝子を破壊(遺伝子編集)することで、HIV/AIDSに対する治療に利用できる。アデノシンデアミナーゼ(ADA)などの酵素欠損症の患者の細胞に酵素をコードする遺伝子を導入することで、酵素欠損症の治療も可能である。
なお、別の実施の形態では、iPS細胞の作製方法が提供される。当該iPS細胞の作製方法は、上記実施の形態2に係るウイルスベクターを細胞に感染させる感染工程を含む。該細胞は、血液細胞であってもよく、活性化(刺激)していない免疫細胞、好適にはナイーブT細胞である。当該iPS細胞の作製方法は、基底状態のiPS細胞の作製方法を包含する。
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
(細胞培養)
下記実施例における細胞培養は以下のように行った。マウス胎児繊維芽細胞(MEF細胞)、Vero/SLAM細胞、線維芽細胞株であるBJ細胞は、Dulbecco’s modified eagle’s medium(DMEM)(ナカライテスク社製)に10%の牛胎児血清(FBS)(Hyclone社製)を含有させた培養液で培養した。Vero/SLAM/F細胞は、DMEMに0.5mg/mLのG418(ナカライテスク社製)およびFBSを7.5%で含有させた培養液で培養した。
BHK−T7/9細胞はα改変minimum essential medium eagle(α−MEM)(Life Technologies社製)に、600μg/mLのHygromycin B(ナカライテスク社製)および10%FBSを含有させた培養液で培養した。健常人の末梢血由来血液細胞は、RPMI1640(ナカライテスク社製)に10%FBSを含有させた培養液で培養した。臍帯血由来または健常人由来T細胞は、RPMI1640に10%FBSを含有させた培養液、該培養液に175 IU/mLのヒト組み換えIL−2(Peprotech社製)をさらに添加した培養液、またはKBM502培養液(コージンバイオ社製)で培養した。臍帯血由来造血幹細胞は、Stemspan培養液(VERITAS社製)に、ヒト組み換えSCF、ヒト組み換えFlt−3Lおよびヒト組み換えTPO(すべてPeprotech社製)を添加した培養液で培養した。
すべてのprimed型のiPS細胞は、ヒトES細胞維持培養液でMEF細胞上において培養した。ヒトES細胞維持培養液の組成は、DMEM/F12(ナカライテスク社製)に、20%KSR(Life Technologeis社製)、2−mercaptoethanol(Sigma社製)、2mM L−glutamine(ナカライテスク社製)、1% non−essential amino acids(ナカライテスク社製)、4ng/mL basic FGF(Peprotech社製)である。
基底状態のiPS細胞は、混合培養液でMEF細胞上において培養した。当該混合培養液の組成は、DMEM /F12に、20% KSR、2−mercaptoethanol、2mM L−glutamine、1% non−essential amino acids、1μM CHIR99021(Militenyi Biotec社製)、1μM PD0325901(Militenyi Biotec社製)、1,000 units/mLのヒト組み換えLIF(ナカライテスク社製)である。
(実施例1:非伝播型遺伝子改変麻疹ウイルスベクターの構築)
非伝播型遺伝子改変麻疹ウイルスベクターは、麻疹ウイルスを構成する機能性タンパク質をコードする遺伝子を含む2つのプラスミド(MV−HL−K−Pin1−EGFPおよびMV−NPM−OSM)と、ウイルス合成を助ける4つのプラスミド(pCITE−IC−N、pCITE−IC−PΔC、pCITEko−9301B−L、pCA7−IC−F)とを、以下のように、パッケージ細胞としてBHK−T7/9細胞にSLAM遺伝子および麻疹ウイルスのF遺伝子を導入したVero/SLAM/F細胞と共培養することにより産生した。外来遺伝子として、iPS細胞の作製に使用されるOCT3/4遺伝子、SOX2遺伝子、L−MYC遺伝子、KLF4遺伝子およびPIN1遺伝子と、レポーター遺伝子としてEGFP遺伝子を挿入した。
まず、Hタンパク質にN390I、N416D、N481Y、E492Gの変異、およびMタンパク質にP64S、E89Kの変異が挿入されるように、麻疹ウイルス株MV−IC323−EGFPにおける野生型のH遺伝子およびM遺伝子を、遺伝子組換えにて改変した。
続いて、図2に示すように、MV−NPM−OSMプラスミドは、上記変異を挿入したMV−IC323−EGFPのEGFP遺伝子をOCT3/4遺伝子に、F遺伝子をSOX2遺伝子に、H遺伝子およびL遺伝子をL−MYC遺伝子に組み換えることにより作製した。一方、MV−HL−K−Pin1−EGFPプラスミドは、上記変異を挿入したMV−IC323−EGFPのN遺伝子、P遺伝子、M遺伝子およびF遺伝子をKLF4遺伝子に組み換え、L遺伝子とH遺伝子との間にPIN1遺伝子を挿入することで作製した。
MV−NPM−OSMプラスミドおよびMV−HL−K−Pin1−EGFPプラスミドと、4つのプラスミド(pCAG−T7−IC−F、pCITE−IC−N、pCITE−IC−PΔC、pCITE−ko−9301B−L)とを用いて、BHK−T7/9細胞に遺伝子導入した。2日後に細胞をディッシュより回収し、Vero/SLAM/F細胞上へ播種し、2日後に巨細胞を採取し、麻疹ウイルスベクターを回収した。回収した麻疹ウイルスベクターを、新たなVero/SLAM/F細胞に感染させ、増幅後、細胞を回収した。回収した細胞をDMEMに再懸濁し、凍結融解を繰り返すことによって、細胞内から培養液に麻疹ウイルスベクター(MVV)を放出させた。その後、遠心分離によって上清のみをウイルス液として回収し、分注後、−80℃で保存した。力価はVero/SLAM細胞に当該ウイルス液を添加し、2日後に、フローサイトメトリー法でGFP陽性細胞の割合を解析し、決定した。
(実施例2:非伝播型遺伝子改変麻疹ウイルスベクターの評価)
実施例1で作製したMVVを活性化T細胞あるいはBJ細胞を用いて評価した。活性化T細胞は、健常人由来末梢血をKBM502培養液中でDynabeads(登録商標) Human T−Activator Cd3/CD28(Life Technologies社製)を用いて、5日間刺激することで作製した。より詳細には、5×10個の各細胞を12ウェルプレートに播種し、力価に応じた量のウイルス液を添加した。次に、遠心法(室温、1,200×g、45分)にて遺伝子導入後、PBSで一度洗浄し、培養液を交換した。2日後、フローサイトメトリー法にて活性化T細胞のGFP陽性細胞における5つの遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF4、L−MYCおよびPIN1の発現を解析した。また、BD Cytofix/Cytoperm(商標) Fixation/Permeabilization Kit(BD社製)を用いて外来遺伝子由来のタンパク質の発現を解析した。使用した抗体は、抗OCT3/4抗体、抗SOX2抗体、抗KLF4抗体(以上すべてSanta cruz社製)、抗MYC抗体および抗PIN1抗体(以上すべてR&D社製)である。
(結果)
図3は、BJ細胞および活性化T細胞の蛍光画像を示す。両細胞ともに蛍光が認められた。したがって、MVVは、BJ細胞および活性化T細胞に遺伝子を導入することが確認できた。
図4は、活性化T細胞のGFP発現を解析した結果を示す。MVVを用いて、活性化T細胞に遺伝子導入し、導入後3日目での、GFP陽性細胞における上記5つの遺伝子の発現を解析した。この結果より、EGFP遺伝子に加え、5つの遺伝子すべてが同時に発現していることが確認できた。
(実施例3:非伝播型遺伝子改変麻疹ウイルスベクターによる遺伝子導入とその解析)
同意を得た健常人より末梢血または臍帯血を10mL程度採取し、リンパ球分離液(ナカライテスク社製)を用いて単核球を分離した。同時に、NHCl、KHCOおよびEDTA(すべてナカライテスク社製)で調製した溶血剤で1ml程度の末梢血または臍帯血を溶血した。これらの方法で回収した血液細胞に、遠心法(室温、1,200×g、45分)でMVVを用いて遺伝子導入を行った(MOI=5)。遺伝子導入後、PBS(−)(PBSタブレット(タカラバイオ社製)を純水で溶解し、オートクレーブ滅菌を実施して調製)で洗浄後、培養液を交換した。2日後、細胞を回収しフローサイトメトリー法でGFPの発現を指標に各血球系譜の遺伝子導入率および各細胞系譜における麻疹ウイルス受容体の発現を解析した。
比較対照群として、GFP遺伝子を搭載したセンダイウイルスベクター(SeV)(PlasmEx(登録商標)−AG;医学生物学研究所より入手)に対して、MVVと同様の方法で遺伝子導入を行った。各血球系譜の解析に使用した抗体は、単球系:APC−Cy7標識抗CD14抗体(Bio legend社製)、PE標識抗CD11b抗体(BD社製)、好中球系:PerCP−Cy5.5標識抗Cd15抗体(Bio legend社製)、B細胞系:APC−Cy7標識抗CD19抗体(Bio legend社製)、T細胞系:APC標識抗CD3抗体(Bio legend社製)、APC−Cy7標識抗CD4抗体(Bio legend社製)、PE−Cy7標識抗CD8抗体(Bio legend社製)、APC標識抗CD45RA(Bio legend社製)、PE標識抗CD197抗体(Bio legend社製)、NK細胞:PE−Cy7標識抗CD56抗体(Bio legend社製)である。使用したウイルス受容体に対する抗体は、PE標識抗CD46抗体(eBioscience社製)、PE標識抗CD150抗体(Bio legend社製)、およびPE標識抗Nectin4抗体(R&D社製)である。なお、単球はCD14かつCD11bと定義した。B細胞はCD19かつCD3と定義した。T細胞はCD3かつCD19と定義した。好中球はCD15と定義した。NK細胞はCD3かつCD19かつCD56と定義した。
(結果)
図5は、末梢血由来の各血球系細胞のGFP陽性率を示す。単球においては両ベクターともに高い遺伝子導入率を認めたが、B細胞、T細胞および好中球においてMVVは、SeVと比較し高い遺伝子導入効率を認めた。
図6は、臍帯血由来の活性化していないT細胞のGFP陽性率を示す。SeVは、MOI=10でも遺伝子が導入されなかったのに対して、MVVは、MOI=5で高い遺伝子導入効率を示した。
T細胞をCD45RAおよびCCR7(CD197)にて分画し、各分画における遺伝子導入効率を検討した。図7に示すように、抗原に暴露される前のナイーブT細胞および幹細胞様記憶T細胞分画(CD45RA highかつCD197 high)、および抗原の再暴露によって増殖するセントラル記憶T細胞分画(CD45RA lowかつCD197 high)およびエフェクター記憶T細胞分画(CD45RA lowかつCD197 low)において、MVVによる高効率な遺伝子導入が確認できた。一方、CD8細胞の結果から、エフェクターT細胞分画(CD45RA highかつCD197 low)では、MVVによる遺伝子導入の効率化は確認されなかった。
上記結果により、センダイウイルスベクターを含む従来法では遺伝子導入が困難であったナイーブT細胞および幹細胞様記憶T細胞に対して、MVVによる高効率な遺伝子導入が可能であることを示している。したがって、本実施例に係るMVVは、遺伝子改変T細胞を用いる遺伝子治療、特に遺伝子改変T細胞療法において革新的な治療用ベクターとなる可能性を強く示唆した。また、MVVは、初代培養B細胞に対しても高効率に遺伝子を導入できた。
(実施例4:非伝播型遺伝子改変麻疹ウイルスベクターを用いたiPS細胞の樹立)
BJ細胞にMVVを用いて遠心法(室温、1,200×g、45分)で遺伝子導入を行い(MOI=5)、PBSで洗浄後培養液交換を行った。遺伝子導入後7日目に、BJ細胞をMEF細胞上に播種し、37℃、5%COインキュベーター内にて一日培養し、翌日、培地をヒトES細胞維持培養液に交換した。その後1日おきに培養液を交換しながら37℃、5%COインキュベーター内にて培養し、遺伝子導入後27日目にヒトES細胞様のコロニーを分取した(図8参照)。
また、健常人の末梢血由来単核球をKBM502培養液中においてDynabeads(登録商標) Human T−Activator Cd3/CD28を用いて刺激し、37℃、5%COインキュベーター内で培養した。培養後5日目に細胞を回収し、MVVを用いてリプログラミング因子を遠心法(室温、1,200×g、45分)で遺伝子導入し、細胞を翌日MEF細胞上に播種し37℃、5%COインキュベーター内で培養した。培養開始後20日目にES細胞様のコロニー(図9参照)を回収し、新鮮なMEF細胞上に播種した。
BJ細胞から樹立した上記iPS細胞に対して免疫抗体染色法およびRT−PCR法を実施し、未分化マーカーの発現を確認した。免疫抗体染色法はヒトiPS細胞を4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝溶液(ナカライテスク社製)を用いて4℃で、30分間固定し、0.1%トリトンX−100(ナカライテスク社製)で処理後、5%スキムミルク(ナカライテスク社製)でブロッキングした。一次抗体として抗NANOG抗体(R&D社製)、抗OCT3/4抗体、抗SSEA−4抗体、抗Tra−1−60抗体および抗Tra−1−81抗体(すべてSanta cruz社製)を用いて4℃で一晩、二次抗体(anti−goat InG(Life Technologies社製))で、室温30分間で染色を行った。アルカリフォスファターゼ染色には、Alkaline Phospatase Detection kit(Merck Millipore社製)を用いた。
RT−PCR法では、BJ細胞から樹立した上記iPS細胞よりRNAをRNeasy mini kit(Quiagen社製)を用いて抽出し、相補鎖DNA(cDNA)を、SuperScript III First−Strand Synthesis System for RT−PCR(Life Technologies社製)を用いて合成した。その後、Takara ExTaq polymerase(タカラバイオ社製)を用いて増幅反応を行い、1.5%アガロースゲル(ナカライテスク社製)を用いて電気泳動を行った。RT−PCR法で用いたプライマーの塩基配列は、Endo OCT3/4に対して配列番号3および配列番号4、Endo SOX2に対して配列番号5および配列番号6、Endo KLF4に対して配列番号7および配列番号8、Endo MYCに対して配列番号9および配列番号10、NANOGに対して配列番号11および配列番号12、TERTに対して配列番号13および配列番号14、DNMT3Bに対して配列番号15および配列番号16、MV−N proteinに対して配列番号17および配列番号18、MV−L proteinに対して配列番号19および配列番号20、ならびにβ−ACTINに対して配列番号21および配列番号22である。
in vitro胚様体形成法による三胚葉系分化誘導を検討した。BJ細胞から樹立した上記iPS細胞をMEFよりES細胞解離液(Collagenase IV(Life Technologies社製)、0.25%トリプシン(Life Technologies社製)およびKSRの混合液)を用いて解離し、ヒトES細胞維持培養液中に再懸濁し、非接着性の6ウェルプレートに播種し、37℃、5%COインキュベーター内にて培養した。翌日、浮遊細胞を回収し、basic FGFを添加していないヒトES細胞維持培養液中に再懸濁し、37℃、5%COインキュベーター内で培養した。培養開始14日目に細胞を回収し、0.25%トリプシン/EDTA混合液(ナカライテスク社製)を用いて細胞を解離させ、0.1%ゼラチン溶液(ナカライテスク社製)を用いてコーティングしたディッシュに播種し、7日間37℃で、5%COインキュベーター内で培養した。
免疫抗体染色法を用いてBJ細胞から樹立した上記iPS細胞の三胚葉系分化を確認した。使用した抗体は、抗alpha−fetoprotein抗体(R&D社製)、抗vimentin抗体(Santa cruz社製)および抗nestin抗体(Santa cruz社製)を用いた。
BJ細胞から樹立した上記iPS細胞に関して奇形腫形成試験を行った。1×10個のiPS細胞を免疫不全マウス(実験動物中央研究所より入手)の精巣内に注入し、9〜13週後、奇形腫を取り出した。その後、20%ホルマリン(和光純薬工業社製)で奇形腫組織を固定し、ヘマトキシリン−イオジン染色を行った。また、BJ細胞から樹立した上記iPS細胞の核型解析を行った(Chromocenter社)。
(結果)
図10に示すように、未分化の細胞で発現するアルカリフォスファターゼ、NANOG、OCT3/4、SSEA−4、Tra−1−60およびTra−1−81の発現をiPS細胞で確認した。RT−PCR法の結果を図11に示す。iPS細胞の各サンプルでは、遺伝子導入したOCT3/4、SOX2、KLF4およびL−MYCの発現が確認された。また、未分化マーカーであるNANOG、TERTおよびDNMT3Bの発現も確認された。なお、麻疹ウイルス由来のNタンパク質およびLタンパク質の発現は見られなかった。さらに、上記iPS細胞の三胚葉系分化を確認した(図12参照)。
奇形腫形成試験の結果、図13に示すように、三胚葉系分化能が確認された。このことから、BJ細胞から樹立した上記iPS細胞の多分化能が示された。当該iPS細胞は、図14に示すように、46本の染色体を有し、核型が正常であった。
(実施例5:基底状態(ground state)のiPS細胞の樹立と分化誘導および解析)
理化学研究所より入手した臍帯血由来CD34陽性細胞を解凍し、StemspanにSCF、TPO、Flt3Lを添加した培養液を用いて37℃、5%COインキュベーター内にて培養した。翌日、MVVを用いて遠心法(室温、1,200×g、45分)で遺伝子導入を行い、上記培養液で2日間培養した。3日目においてMEF細胞上に播種し、4日目に培養液をヒトES細胞維持培養液に交換した。その後、1日おきに培養液を交換しながら37℃、5%COインキュベーター内にて培養を継続した。遺伝子導入後14日目において出現したコロニー(図15参照)を採取し、0.25%トリプシン/EDTA混合溶液で単細胞に解離し、MEF細胞上に播種し、37℃、5%COインキュベーター内にて培養した。
(結果)
図15に示すように、基底状態のiPS細胞を樹立できた。基底状態のiPS細胞は、4日おきに0.25%トリプシン/EDTA混合溶液を用いて単細胞まで解離させ継代したところ、Y−27632を使用せずに10継代以上でもコロニー形態を維持できた。また、培養液をヒトES細胞維持培養液に交換し、MEF細胞の播種濃度を薄くすることでヒトES細胞様コロニーの出現も確認できた。
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態および変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内およびそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
本発明は、血液細胞への遺伝子導入のためのウイルスベクターおよびコンストラクトに好適である。このため、本発明は、免疫療法、特にT細胞療法への応用が期待される。また、本発明は、多能性幹細胞の作製にも好適であるため、分化誘導により得られる組織細胞を用いた再生医療に加え、難病疾患患者由来の細胞から樹立したiPS細胞を用いた疾患解析および創薬研究などに応用できる。さらには血液細胞を対象としたゲノム編集技術への応用も可能である。

Claims (4)

  1. 1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたMタンパク質をコードする遺伝子および1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたHタンパク質をコードする遺伝子を含み、Fタンパク質をコードする遺伝子を欠損している、第1の分節されたゲノムと第2の分節されたゲノムとに分節された麻疹ウイルス由来のゲノムを有するウイルスベクターを細胞に感染させる感染工程を含み、
    前記第1の分節されたゲノムは、
    第1のリーダー配列、Nタンパク質をコードする遺伝子、Pタンパク質をコードする遺伝子、前記Mタンパク質をコードする遺伝子、第1のトレーラー配列および少なくとも1つのリプログラム因子をコードする遺伝子を含み、
    前記第2の分節されたゲノムは、
    第2のリーダー配列、前記Hタンパク質をコードする遺伝子、Lタンパク質をコードする遺伝子、第2のトレーラー配列および少なくとも1つのリプログラム因子をコードする遺伝子を含む、
    iPS細胞の作製方法。
  2. 前記細胞は、
    血液細胞である、
    請求項1に記載のiPS細胞の作製方法。
  3. 前記血液細胞は、
    造血幹細胞である、
    請求項2に記載のiPS細胞の作製方法。
  4. 前記血液細胞は、
    ナイーブT細胞、幹細胞様記憶T細胞または未分化B細胞である、
    請求項2に記載のiPS細胞の作製方法。
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