以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両制御装置について説明する。まず、図1及び図2を参照して、車両制御装置の構成について説明する。図1は車両制御装置の構成図であり、図2は車両制御装置の制御ブロック図である。
本実施形態の車両制御装置100は、これを搭載した車両1(図3等参照)に対して複数の運転支援モードにより、それぞれ異なる運転支援制御を提供するように構成されている。運転者は、複数の運転支援モードから所望の運転支援モードを選択可能である。
図1に示すように、車両制御装置100は車両1に搭載された、車両制御演算部(ECU)10と、複数のセンサ及びスイッチと、複数の制御システムと、運転支援モードについてのユーザ入力を行うための運転者操作部(図示せず)を備えている。複数のセンサ及びスイッチには、車室外を撮像するカメラ21、ミリ波レーダ22,車両の挙動を検出する車速センサ23,測位システム24,ナビゲーションシステム25、及び車車間通信システム26が含まれる。また、複数の制御システムには、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33が含まれる。
図1に示すECU10は、CPU,各種プログラムを記憶するメモリ,入出力装置等を備えたコンピュータにより構成される。ECU10は、運転者操作部(図示せず)から受け取った運転支援モード選択信号や設定車速信号、及び、複数のセンサ及びスイッチから受け取った信号に基づき、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33に対して、それぞれエンジンシステム,ブレーキシステム,ステアリングシステムを適宜に作動させるための要求信号を出力可能に構成されている。
カメラ21は、車両1の前方を撮像し、撮像した画像データを出力する。ECU10は、画像データに基づいて対象物(例えば、車両、歩行者、道路、区画線(車線境界線、白線、黄線)、交通信号、交通標識、停止線、交差点、先行車両、障害物等)を特定する。また、車両1の側方や後方を撮像する車室外カメラを設けることもできる。さらに、運転中の運転者を撮像する車室内カメラを車両に備えることもできる。
ミリ波レーダ22は、対象物(特に、先行車、駐車車両、歩行者、障害物等)の位置及び速度を測定する測定装置であり、車両1の前方へ向けて電波(送信波)を送信し、対象物により送信波が反射されて生じた反射波を受信する。そして、ミリ波レーダ22は、送信波と受信波に基づいて、車両1と対象物との間の距離(例えば、車間距離)や車両1に対する対象物の相対速度を測定する。なお、本実施形態においては、ミリ波レーダ22として、車両1の前方の対象物を検出する前方レーダ、側方の対象物の対象物を検出する側方レーダ、及び車両1の後方の対象物を検出する後方レーダが備えられている。また、ミリ波レーダ22に代えて、レーザレーダや超音波センサ等を用いて対象物との距離や相対速度を測定するように構成してもよい。また、複数のセンサを用いて、位置及び速度測定装置を構成してもよい。
車速センサ23は、車両1の絶対速度を検出するように構成されている。
測位システム24は、GPSシステム及び/又はジャイロシステムであり、車両1の位置(現在車両位置情報)を検出する。
ナビゲーションシステム25は、内部に地図情報を格納しており、ECU10へ地図情報を提供することができる。ECU10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、車両1の周囲(特に、進行方向前方)に存在する道路、交差点、交通信号、建造物等を特定する。地図情報は、ECU10内に格納されていてもよい。
車車間通信システム26は、車両と車両の間の通信システムであり、自車両と周辺を走行している車両との間で、車両の位置情報や、走行速度の情報、運転者による加減速や操舵等に関する操作情報等を交換するように構成されている。この車車間通信システム26により、自車両の走行経路上の比較的遠方に停車している、又は走行している車両の位置、速度、運転者による操作等の情報を取得することができる。
エンジン制御システム31は、車両1のエンジンを制御するコントローラである。ECU10は、車両1を加速又は減速させる必要がある場合に、エンジン制御システム31に対して、目標加減速度が得られるようにエンジン出力の変更を要求するエンジン出力変更要求信号を出力する。
ブレーキ制御システム32は、車両1のブレーキ装置を制御するためのコントローラである。ECU10は、車両1を減速させる必要がある場合に、ブレーキ制御システム32に対して、目標加減速度が得られるように車両1への制動力の発生を要求するブレーキ要求信号を出力する。
ステアリング制御システム33は、車両1のステアリング装置を制御するコントローラである。ECU10は、車両1の進行方向を変更する必要がある場合に、ステアリング制御システム33に対して、目標蛇角が得られるように操舵方向の変更を要求する操舵方向変更要求信号を出力する。
図2に示すように、ECU10は、入力処理部10a、周辺車両検出部10b、目標走行経路算出部10c、速度分布設定部10d、及び制御部10eとして機能する単一のCPUを備えている。なお、本実施形態では、単一のCPUが複数の上記機能を実行するように構成されているが、これに限らず、複数のCPUがこれら機能を実行するように構成することができる。
入力処理部10aは、各センサ、ナビゲーションシステム25、及び車車間通信システム26から入力された入力情報を処理するように構成されている。この入力処理部10aは、走行路面を撮像したカメラ21の画像を解析し、自車両が走行している走行車線(車線の両側の区画線)を検出する画像解析部として機能する。
周辺車両検出部10bは、ミリ波レーダ22、カメラ21、車車間通信システム26等からの入力情報に基づいて自車両の周辺を走行している周辺車両等を検出するように構成されている。
目標走行経路算出部10cは、ミリ波レーダ22、カメラ21、各センサ等からの入力情報に基づいて車両の目標走行経路を算出するように構成されている。
速度分布設定部10dは、周辺車両の周囲に許容可能な相対速度の上限値を規定した制限速度分布を設定する。例えば、速度分布設定部10dは、周辺車両検出部10bによって周辺に回避すべき車両が検出された場合に、周辺車両に対して自車両1が走行可能な許容相対速度の上限ラインの分布(制限速度分布)を設定する。なお、周辺車両検出部10bによって車両以外の回避すべき物標が検出された場合にも、速度分布設定部10dは、その周囲に制限速度分布を設定する。
さらに、制御部10eは、車両が走行可能な許容相対速度の上限ラインである制限速度分布を満足するように自車両の速度及び操舵を制御する。具体的には、制御部10eは、目標走行経路算出部10cによって算出された目標走行経路を、制限速度分布を満足するように補正して補正走行経路を算出する。次いで、制限速度分布を満足する補正走行経路の中から、所定の制約条件を満たす走行経路を選択する。さらに、制御部10eは、選択された走行経路の中から所定の評価関数が最小となる走行経路を最適な補正走行経路として決定するように構成されている。即ち、制御部10eは、制限速度分布、所定の評価関数及び所定の制約条件に基づいて補正走行経路を算出する。また、本実施形態においては、最適な補正走行経路を決定するための制約条件は、選択されている運転支援モードや、運転者による運転状況に基づいて、適宜設定される。なお、制約条件や評価関数を使用することなく、制御部10eが制限速度分布を満足する走行経路を生成するように本発明を構成することもできる。
さらに、制御部10eは、決定された最適な補正走行経路を走行すべく、少なくともエンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,又はステアリング制御システム33のいずれか1つ又は複数に対する要求信号を生成し、出力する。
次に、本実施形態による車両制御装置100が備える運転支援モードについて説明する。本実施形態では、運転支援モードとして、4つのモードが備えられている。即ち、運転者操舵モードである速度制限モードと、自動操舵モードである先行車追従モードと、運転者操舵モードである自動速度制御モードと、何れの運転支援モードも選択されていない場合に実行される基本制御モードが備えられている。
<先行車追従モード>
先行車追従モードは、基本的に、車両1と先行車との間に車速に応じた所定の車間距離を維持しつつ、車両1を先行車に追従走行させる自動操舵モードであり、車両制御装置100による自動的なステアリング制御,速度制御(エンジン制御,ブレーキ制御),障害物回避制御(速度制御及びステアリング制御)を伴う。
先行車追従モードでは、車線両端部の検出の可否、及び、先行車の有無に応じて、異なるステアリング制御及び速度制御が行われる。ここで、車線両端部とは、車両1が走行する車線の両端部(白線等の区画線,道路端,縁石,中央分離帯,ガードレール等)であり、隣接する車線や歩道等との境界である。ECU10に備えられた入力処理部10aは、この車線両端部をカメラ21により撮像された画像データから検出する。また、ナビゲーションシステム25の地図情報から車線両端部を検出してもよい。しかしながら、例えば、車両1が整備された道路ではなく、車線が存在しない平原を走行する場合や、カメラ21からの画像データの読取り不良等の場合に車線両端部が検出できない場合が生じ得る。
また、本実施形態では、先行車検出部としてのECU10は、カメラ21による画像データ、及びミリ波レーダ22のうちの前方レーダによる測定データにより、先行車を検出する。具体的には、カメラ21による画像データにより前方を走行する他車両を周辺車両として検出する。更に、本実施形態では、ミリ波レーダ22による測定データにより、車両1と周辺車両との車間距離が所定距離(例えば、400〜500m)以下である場合に、当該他車両が先行車として検出される。
なお、先行車追従モードにおいて、先行車(周辺車両)の有無、車線両端部の検出の可否にかかわらず、入力処理部10aによって回避すべき周辺物標が検出された場合には、目標走行経路が補正され、自動的に障害物(周辺物標)が回避される。
<自動速度制御モード>
また、自動速度制御モードは、運転者によって予め設定された所定の設定車速(一定速度)を維持するように速度制御する運転者操舵モードであり、車両制御装置100による自動的な速度制御(エンジン制御,ブレーキ制御)を伴うが、ステアリング制御は行われない。この自動速度制御モードでは、車両1は、設定車速を維持するように走行するが、運転者によるアクセルペダルの踏み込みにより設定車速を超えて増速され得る。また、運転者がブレーキ操作を行った場合には、運転者の意思が優先され、設定車速から減速される。また、先行車に追いついた場合には、車速に応じた車間距離を維持しながら先行車に追従するように速度制御され、先行車が存在しなくなると、再び設定車速に復帰するように速度制御される。
<速度制限モード>
また、速度制限モードは、車両1の車速が速度標識による制限速度又は運転者によって設定された設定速度を超えないように、速度制御する運転者操舵モードであり、車両制御装置100による自動的な速度制御(エンジン制御)を伴う。制限速度は、カメラ21により撮像された速度標識や路面上の速度表示の画像データをECU10が画像認識処理することにより特定してもよいし、外部からの無線通信により受信してもよい。速度制限モードでは、運転者が制限速度を超えるようにアクセルペダルを踏み込んだ場合であっても、車両1は制限速度までしか増速されない。
<基本制御モード>
また、基本制御モードは、何れの運転支援モードも選択されていないときのモード(オフモード)であり、車両制御装置100による自動的なステアリング制御及び速度制御は行われない。ただし、車両1が対向車等の周辺車両に衝突する可能性がある場合には、衝突を回避する制御が実行される。また、これらの衝突回避は、先行車追従モード,自動速度制御,速度制限モードにおいても同様に実行される。
次に、図3乃至図5を参照して、本実施形態による車両制御装置100により計算される複数の走行経路について説明する。図3乃至図5は、それぞれ第1走行経路〜第3走行経路の説明図である。本実施形態では、ECU10に備えられた目標走行経路算出部10cが、以下の第1走行経路R1〜第3走行経路R3を時間的に繰返し計算するように構成されている(例えば、0.1秒毎)。本実施形態では、ECU10は、センサ等の情報に基づいて、現時点から所定期間(例えば、3秒)が経過するまでの間の走行経路を計算する。走行経路Rx(x=1,2,3)は、走行経路上の車両1の目標位置(Px_k)及び目標速度(Vx_k)により特定される(k=0,1,2,・・・,n)。更に、各目標位置において、目標速度以外に複数の変数(加速度、加速度変化量、ヨーレート、操舵角、車両角度等)について目標値が特定される。
なお、図3乃至図5における走行経路(第1走行経路〜第3走行経路)は、車両1が走行する走行路上又は走行路周辺の物標(周辺車両、歩行者等の障害物)に関する周辺物標の検出情報を考慮せずに、走行路の形状,先行車の走行軌跡,車両1の走行挙動,及び設定車速に基づいて計算される。このように、本実施形態では、周辺物標の情報が計算に考慮されないので、これら複数の走行経路の全体的な計算負荷を低く抑えることができる。
以下では、理解の容易のため、車両1が直線区間5a,カーブ区間5b,直線区間5cからなる道路5を走行する場合において計算される各走行経路について説明する。道路5は、左右の車線5L,5Rからなる。現時点において、車両1は、直線区間5aの車線5L上を走行しているものとする。
(第1走行経路)
図3に示すように、第1走行経路R1は、道路5の形状に即して車両1に走行路である車線5L内の走行を維持させるように所定期間分だけ設定される。詳しくは、第1走行経路R1は、直線区間5a,5cでは車両1が車線5Lの中央付近の走行を維持するように設定され、カーブ区間5bでは車両1が車線5Lの幅方向中央よりも内側又はイン側(カーブ区間の曲率半径Lの中心O側)を走行するように設定される。
目標走行経路算出部10cは、カメラ21により撮像された車両1の周囲の画像データの画像認識処理を実行し、車線両端部6L,6Rを検出する。車線両端部は、上述のように、区画線(白線等)や路肩等である。更に、目標走行経路算出部10cは、検出した車線両端部6L,6Rに基づいて、車線5Lの車線幅W及びカーブ区間5bの曲率半径Lを算出する。また、ナビゲーションシステム25の地図情報から車線幅W及び曲率半径Lを取得してもよい。更に、目標走行経路算出部10cは、画像データから速度標識Sや路面上に表示された制限速度を読み取る。なお、上述のように、制限速度を外部からの無線通信により取得してもよい。
目標走行経路算出部10cは、直線区間5a,5cでは、車線両端部6L,6Rの幅方向の中央部を車両1の幅方向中央部(例えば、重心位置)が通過するように、第1走行経路R1の複数の目標位置P1_kを設定する。
一方、目標走行経路算出部10cは、カーブ区間5bでは、カーブ区間5bの長手方向の中央位置P1_cにおいて、車線5Lの幅方向中央位置からイン側への変位量Wsを最大に設定する。この変位量Wsは、曲率半径L,車線幅W,車両1の幅寸法D(ECU10のメモリに格納された規定値)に基づいて計算される。そして、目標走行経路算出部10cは、カーブ区間5bの中央位置P1_cと直線区間5a,5cの幅方向中央位置とを滑らかにつなぐように第1走行経路R1の複数の目標位置P1_kを設定する。なお、カーブ区間5bへの進入前後においても、直線区間5a,5cのイン側に第1走行経路R1を設定してもよい。
第1走行経路R1の各目標位置P1_kにおける目標速度V1_kは、原則的に、運転者が設定した速度、又は車両制御装置100によって予め設定された所定の設定車速(一定速度)に設定される。しかしながら、この設定車速が、速度標識S等から取得された制限速度、又は、カーブ区間5bの曲率半径Lに応じて規定される制限速度を超える場合、走行経路上の各目標位置P1_kの目標速度V1_kは、2つの制限速度のうち、より低速な制限速度に制限される。さらに、目標走行経路算出部10cは、車両1の現在の挙動状態(即ち、車速,加速度,ヨーレート,操舵角,横加速度等)に応じて、目標位置P1_k,目標車速V1_kを適宜に補正する。例えば、現車速が設定車速から大きく異なっている場合は、車速を設定車速に近づけるように目標車速が補正される。
(第2走行経路)
また、図4に示すように、第2走行経路R2は、先行車3(周辺車両)の走行軌跡を追従するように所定期間分だけ設定される。目標走行経路算出部10cは、カメラ21による画像データ,ミリ波レーダ22による測定データ,車速センサ23による車両1の車速に基づいて、車両1の走行する車線5L上の先行車3の位置及び速度を継続的に計算して、これらを先行車軌跡情報として記憶し、この先行車軌跡情報に基づいて、先行車3の走行軌跡を第2走行経路R2(目標位置P2_k、目標速度V2_k)として設定する。
(第3走行経路)
また、図5に示すように、第3走行経路R3は、運転者による車両1の現在の運転状態に基づいて所定期間分だけ設定される。即ち、第3走行経路R3は、車両1の現在の走行挙動から推定される位置及び速度に基づいて設定される。
目標走行経路算出部10cは、車両1の操舵角,ヨーレート,横加速度に基づいて、所定期間分の第3走行経路R3の目標位置P3_kを計算する。ただし、目標走行経路算出部10cは、車線両端部が検出される場合、計算された第3走行経路R3が車線端部に近接又は交差しないように、目標位置P3_kを補正する。
また、目標走行経路算出部10cは、車両1の現在の車速,加速度に基づいて、所定期間分の第3走行経路R3の目標速度V3_kを計算する。なお、目標速度V3_kが速度標識S等から取得された制限速度を超えてしまう場合は、制限速度を超えないように目標速度V3_kを補正してもよい。
次に、本実施形態による車両制御装置100における運転支援モードと走行経路との関係について説明する。本実施形態では、運転者が1つの運転支援モードを選択すると、選択された運転支援モードに応じて走行経路が選択されるように構成されている。
先行車追従モードの選択時には、車線両端部が検出されていると、先行車の有無にかかわらず、第1走行経路が適用される。この場合、設定された設定車速が目標速度となる。
一方、先行車追従モードの選択時において、車線両端部が検出されず、先行車が検出された場合、第2走行経路が適用される。この場合、目標速度は、先行車の車速に応じて設定される。また、先行車追従モードの選択時において、車線両端部が検出されず、先行車も検出されない場合、第3走行経路が適用される。
また、自動速度制御モードの選択時には、第3走行経路が適用される。自動速度制御モードは、上述のように速度制御を自動的に実行するモードであり、設定された設定車速が目標速度となる。また、運転者によるステアリングホイールの操作に基づいてステアリング制御が実行される。
また、速度制限モードの選択時にも第3走行経路が適用される。速度制限モードも、上述のように速度制御を自動的に実行するモードであり、目標速度は、制限速度以下の範囲で、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に応じて設定される。また、運転者によるステアリングホイールの操作に基づいてステアリング制御が実行される。
また、基本制御モード(オフモード)の選択時には、第3走行経路が適用される。基本制御モードは、基本的に、速度制限モードにおいて制限速度が設定されない状態と同様である。
次に、図6乃至図8を参照して、本実施形態によるECU10の制御部10eにおいて実行される走行経路補正処理について説明する。図6は走行経路の補正による障害物回避の説明図である。図7は周辺車両を回避する際の周辺車両と自車両との間の距離と、相対速度の許容上限値の関係を示す説明図であり、図8は車両モデルの説明図である。
図6では、車両1は走行路(車線)7上を走行しており、走行中又は停車中の車両3(周辺車両)とすれ違って、車両3を追い抜こうとしている。
一般に、道路上又は道路付近の障害物(例えば、先行車、駐車車両、歩行者等)とすれ違うとき(又は追い抜くとき)、車両1の運転者は、進行方向に対して直交する横方向において、車両1と障害物との間に所定のクリアランス又は間隔(横方向距離)を保ち、且つ、車両1の運転者が安全と感じる速度に減速する。具体的には、先行車が急に進路変更したり、障害物の死角から歩行者が出てきたり、駐車車両のドアが開いたりするといった危険を回避するため、クリアランスが小さいほど、障害物に対する相対速度は小さくされる。
また、一般に、後方から先行車に近づいているとき、車両1の運転者は、進行方向に沿った車間距離(縦方向距離)に応じて速度(相対速度)を調整する。具体的には、車間距離が大きいときは、接近速度(相対速度)が大きく維持されるが、車間距離が小さくなると、接近速度は低速にされる。そして、所定の車間距離で両車両の間の相対速度はゼロとなる。これは、先行車が駐車車両であっても同様である。
このように、運転者は、障害物と車両1との間の距離(横方向距離及び縦方向距離を含む)と相対速度との関係を考慮しながら、危険がないように車両1を運転している。
そこで、本実施形態では、図6に示すように、車両1は、車両1から検知される障害物(例えば、駐車車両3)に対して、障害物の周囲に(横方向領域、後方領域、及び前方領域にわたって)又は少なくとも障害物と車両1との間に、車両1の進行方向における相対速度についての許容上限値を規定する2次元分布(制限速度分布40)を設定するように構成されている。制限速度分布40では、障害物の周囲の各点において、相対速度の許容上限値Vlimが設定されている。このように、速度分布設定部10dは、周辺車両3からの距離に応じて複数の制限速度分布40を設定する。本実施形態では、すべての運転支援モードにおいて、障害物に対する車両1の相対速度が制限速度分布40内の許容上限値Vlimを超えることがないように走行経路の補正が実施される。また、後述するように、障害物の周囲に設定される制限速度分布40は、障害物が周辺車両である場合には、その周辺車両から車車間通信システム26を介して受信した情報に応じて異なるものが設定される。
図6から分かるように、制限速度分布40は、原則的に、障害物からの横方向距離及び縦方向距離が小さくなるほど(障害物に近づくほど)、相対速度の許容上限値が小さくなるように設定される。即ち、制限速度分布40は、同じ許容上限値を有する点を連結した複数の等相対速度線として設定される。等相対速度線a,b,c,dは、それぞれ許容上限値Vlimが0km/h,20km/h,40km/h,60km/hの制限速度分布40を示している。本例では、各制限速度分布40は、略矩形に設定されている。このように、速度分布設定部10dは、入力処理部10aによって回避すべき障害物(周辺物標)が認識された場合には、障害物に対して車両が走行可能な許容相対速度の上限ラインである制限速度分布40を設定する。そして、制御部10eは、この制限速度分布40を満足するように、目標走行経路算出部10cによって算出された目標走行経路を補正する。
なお、制限速度分布40は、必ずしも障害物の周囲全体にわたって設定されなくてもよく、少なくとも障害物の後方、及び、車両1が存在する障害物の横方向の一方側(図6では、車両3の右側領域)に設定されればよい。また、制限速度分布40は、左右非対称に設定されても良い。
図7に示すように、車両1が障害物に対して或る相対速度で走行する場合(図6の例では障害物である車両3は停車しているので、相対速度は車両1の絶対速度に等しい)において、許容上限値Vlimは、障害物からの距離に対して2次関数的に増加するように設定される。即ち、相対速度の許容上限値Vlim[km/h]は、障害物からの横方向のクリアランスXに対し、
Vlim=αk1(X−DX0)2、 (X≧DX0) (1)
Vlim=0 (X<DX0)
により設定される。
上記式(1)において、k1は、横方向のクリアランスXに対するVlimの変化度合いに関連するゲイン係数であり、障害物の種類等に依存して設定される。また、安全距離DX0も障害物の種類等に依存して設定することができる。一例として、本実施形態においては安全距離DX0=0.2[m]に設定されている。さらに、補正係数αは、障害物が周辺車両である場合において、その周辺車両から車車間通信システム26を介して受信された、周辺車両の運転者による操作情報等に応じて変更される係数である。補正係数αの設定については後述する。
また、式(1)に示すように、許容上限値Vlimは、障害物の横方向においては、クリアランスXがDX0(安全距離)までは0(ゼロ)km/hであり、DX0以上で2次関数的に増加する。即ち、安全確保のため、クリアランスXがDX0以下では車両1は許容される相対速度がゼロとなる。一方、クリアランスXがDX0以上では、クリアランスが大きくなるほど、車両1は大きな相対速度ですれ違うことが許容される。
一方、障害物の縦方向(車両1の進行方向)においては、相対速度の許容上限値Vlim[km/h]は、障害物までの進行方向の距離Yに対し、
Vlim=βk2(Y−DY0)2/Vs、 (Y≧DY0) (2)
Vlim=0 (Y<DY0)
により設定される。
上記式(2)において、Vs[km/h]は自車両1の走行速度であり、また、k2は進行方向の距離Y(障害物までの距離)に対するVlimの変化度合いに関連するゲイン係数であり、障害物の種類等に依存して設定される。また、安全距離DY0も障害物の種類等に依存して設定することができる。一例として、本実施形態においては安全距離DY0=2[m]に設定されている。さらに、補正係数α、βは、障害物が周辺車両である場合において、その周辺車両から車車間通信システム26を介して受信された、周辺車両の運転者による操作情報等に応じて変更される係数である。補正係数α、βの設定については後述する。
式(2)に表されているように、許容上限値Vlimは、自車両の進行方向(縦方向)においては、縦方向の距離YがDY0(安全距離)までは0(ゼロ)km/hであり、DY0以上で2次関数的に増加する。即ち、安全確保のため、障害物までの距離YがDY0以下では車両1に許容される相対速度がゼロとなる。一方、距離YがDY0以上では、距離Yが大きくなるほど、車両1は大きな相対速度で接近することが許容される。また、縦方向においては、許容上限値Vlimは、自車両1の走行速度Vsに反比例するように設定される。即ち、自車両1の走行速度Vsが高いほど自車両1の制動距離が長くなるので、これを考慮して、走行速度Vsが高くなると共に許容上限値Vlimを低下させている。これにより、自車両1の走行速度Vsが高くなるほど、同一の距離Yに対して許容される相対速度の上限値Vlimが低くなる。
なお、本実施形態では、横方向、縦方向とも、夫々VlimがX、Yの2次関数となるように定義されているが、これに限らず、他の関数(例えば、一次関数等)で定義されてもよい。また、図7を参照して、障害物の横方向の許容上限値Vlim、及び障害物の後方における縦方向の許容上限値Vlimについて説明したが、障害物の前方における縦方向を含むすべての径方向について同様に設定することができる。その際、係数k、安全距離D0は、障害物からの方向に応じて設定することができる。
なお、制限速度分布40は、種々のパラメータに基づいて設定することが可能である。パラメータとして、例えば、車両1と障害物の相対速度、障害物の種類、車両1の進行方向、障害物の移動方向及び移動速度、障害物の長さ、車両1の絶対速度等を考慮することができる。即ち、これらのパラメータに基づいて、係数k及び安全距離D0を選択することができる。
また、本実施形態において、障害物は、車両,歩行者,自転車,崖,溝,穴,落下物等を含む。更に、車両は、自動車,トラック,自動二輪で区別可能である。歩行者は、大人,子供,集団で区別可能である。
図6に示すように、車両1が走行路7上を走行しているとき、車両1のECU10に内蔵された入力処理部10aは、カメラ21からの画像データに基づいて障害物(車両3)を検出する。このとき、障害物の種類(この場合は、車両、歩行者)が特定される。
また、入力処理部10aは、ミリ波レーダ22の測定データ及び車速センサ23の車速データに基づいて、車両1に対する障害物(車両3)の位置及び相対速度並びに絶対速度を算出する。なお、障害物の位置は、車両1の進行方向に沿ったy方向位置(縦方向距離)と、進行方向と直交する横方向に沿ったx方向位置(横方向距離)が含まれる。
ECU10に内蔵された速度分布設定部10dは、検知したすべての障害物(図6の場合、車両3)について、それぞれ制限速度分布40を設定する。そして、制御部10eは、車両1の速度が制限速度分布40の許容上限値Vlimを超えないように走行経路の補正を行う。制御部10eは、障害物の回避に伴い、運転者の選択した運転支援モードに応じて適用された目標走行経路を補正する。
即ち、目標走行経路を車両1が走行すると、ある目標位置において目標速度が制限速度分布40によって規定された許容上限値を超えてしまう場合には、目標位置を変更することなく目標速度を低下させるか(図6の経路Rc1)、目標速度を変更することなく目標速度が許容上限値を超えないように迂回経路上に目標位置を変更するか(図6の経路Rc3)、目標位置及び目標速度の両方が変更される(図6の経路Rc2)。
例えば、図6は、計算されていた目標走行経路Rが、走行路7の幅方向の中央位置(目標位置)を60km/h(目標速度)で走行する経路であった場合を示している。この場合、前方に駐車車両3が障害物として存在するが、上述のように、目標走行経路Rの計算段階においては、計算負荷の低減のため、この障害物は考慮されていない。
目標走行経路Rを走行すると、車両1は、制限速度分布40の等相対速度線d,c,c,dを順に横切ることになる。即ち、60km/hで走行する車両1が等相対速度線d(許容上限値Vlim=60km/h)の内側の領域に進入することになる。したがって、制御部10eは、目標走行経路Rの各目標位置における目標速度を許容上限値Vlim以下に制限するように目標走行経路Rを補正して、補正後の目標走行経路Rc1を生成する。即ち、補正後の目標走行経路Rc1では、各目標位置において目標車速が許容上限値Vlim以下となるように、車両3に接近するに連れて目標速度が徐々に40km/h未満に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて目標速度が元の60km/hまで徐々に増加される。
また、目標走行経路Rc3は、目標走行経路Rの目標速度(60km/h)を変更せず、このため等相対速度線d(相対速度60km/hに相当)の外側を走行するように設定された経路である。制御部10eは、目標走行経路Rの目標速度を維持するため、目標位置が等相対速度線d上又はその外側に位置するように目標位置を変更するように目標走行経路Rを補正して、目標走行経路Rc3を生成する。したがって、目標走行経路Rc3の目標速度は、目標走行経路Rの目標速度であった60km/hに維持される。
また、目標走行経路Rc2は、目標走行経路Rの目標位置及び目標速度の両方が変更された経路である。目標走行経路Rc2では、目標速度は、60km/hには維持されず、車両3に接近するに連れて徐々に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて元の60km/hまで徐々に増加される。
目標走行経路Rc1のように、目標走行経路Rの目標位置を変更せず、目標速度のみを変更する補正は、速度制御を伴うが、ステアリング制御を伴わない運転支援モードに適用することができる(例えば、自動速度制御モード、速度制限モード、基本制御モード)。
また、目標走行経路Rc3のように、目標走行経路Rの目標速度を変更せず、目標位置のみを変更する補正は、ステアリング制御を伴う運転支援モードに適用することができる(例えば、先行車追従モード)。
また、目標走行経路Rc2のように、目標走行経路Rの目標位置及び目標速度を共に変更する補正は、速度制御及びステアリング制御を伴う運転支援モードに適用することができる(例えば、先行車追従モード)。
次に、ECU10に内蔵された制御部10eは、設定可能な補正走行経路の中から、センサ情報等に基づいて、最適な補正走行経路を決定する。即ち、制御部10eは、設定可能な補正走行経路の中から、所定の評価関数及び所定の制約条件に基づいて最適な補正走行経路を決定する。
ECU10は、評価関数J、制約条件及び車両モデルをメモリ内に記憶している。制御部10eは、最適な補正走行経路を決定するに際し、制約条件及び車両モデルを満たす範囲で、評価関数Jが極値をもつ最適な補正走行経路を算出する(最適化処理)。
評価関数Jは、複数の評価ファクタを有する。本例の評価ファクタは、例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、加速度変化量(縦方向及び横方向)、ヨーレート、車線中心に対する横位置、車両角度、操舵角、その他ソフト制約について、目標走行経路を補正した複数の走行経路の良否を評価するための関数である。
評価ファクタには、車両1の縦方向の挙動に関する評価ファクタ(縦方向評価ファクタ:縦方向の速度、加速度、加速度変化量等)と、車両1の横方向の挙動に関する評価ファクタ(横方向評価ファクタ:横方向の速度、加速度、加速度変化量、ヨーレート、車線中心に対する横位置、車両角度、操舵角等)が含まれる。
本実施形態においては、評価関数Jは、以下の式で記述される。
式中、Wk(Xk−Xrefk)2は評価ファクタ、Xkは補正走行経路の評価ファクタに関する物理量、Xrefkは目標走行経路(補正前)の評価ファクタに関する物理量、Wkは評価ファクタの重み値(例えば、0≦Wk≦1)である(但し、k=1〜n)。したがって、本実施形態の評価関数Jは、n個の評価ファクタの物理量について、目標走行経路(補正前)の物理量に対する補正走行経路の物理量の差の2乗の和を重み付けして、所定期間(例えば、N=3秒)の走行経路長にわたって合計した値に相当する。
本実施形態においては、目標走行経路を補正した走行経路の評価が高いほど評価関数Jは小さな値をもつので、評価関数Jが極小値となる走行経路が、制御部10eによって最適な補正走行経路として算出される。
制約条件は、補正走行経路が満足する必要がある条件であり、制約条件によって評価すべき補正走行経路を絞り込むことにより、評価関数Jによる最適化処理に要する計算負荷を減少させることが可能となり、計算時間を短縮することができる。
車両モデルは、車両1の物理的な運動を規定するものであり、以下の運動方程式で記述される。この車両モデルは、本例では図8に示す2輪モデルである。車両モデルにより車両1の物理的な運動が規定されることにより、走行時の違和感が低減された補正走行経路を算出することができると共に、評価関数Jによる最適化処理を早期に収束させることができる。
図8及び式(3)、(4)中、mは車両1の質量、Iは車両1のヨーイング慣性モーメント、lはホイールベース、lfは車両重心点と前車軸間の距離、lrは車両重心点と後車軸間の距離、Kfは前輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Krは後輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Vは車両1の車速、δは前輪の実舵角、βは車両重心点の横すべり角、rは車両1のヨー角速度、θは車両1のヨー角、yは絶対空間に対する車両1の横変位、tは時間である。
このように、制御部10eは、目標走行経路、制約条件、車両モデル等に基づいて、多数の走行経路の中から、評価関数Jが最小になる最適な補正走行経路を算出する。
次に、図9乃至図14を参照して、本実施形態の車両制御装置100における車両制御方法の処理フローを説明する。図9は運転支援制御の処理フローチャートであり、図10は制限速度分布設定処理の処理フローチャートである。
ECU10は、図9の処理フローチャートを所定時間(例えば、0.1秒)ごとに繰り返して実行している。まず、ECU10の入力処理部10aは、ステップS10において情報取得処理として、データ読み込みを実行する。情報取得処理において、ECU10は、測位システム24、ナビゲーションシステム25、及び車車間通信システム26から、現在車両位置情報、地図情報、周辺物標等に関する情報を取得し、カメラ21,ミリ波レーダ22,車速センサ23等からセンサ情報を取得する。なお、ステップS10において、加速度センサ,ヨーレートセンサ,運転者操作部(以上、図示せず)等からのセンサ情報も取得するように、本発明を構成することもできる。また、操舵角センサ,アクセルセンサ,ブレーキセンサ(以上、図示せず)等からスイッチ情報を取得するように本発明を構成しても良い。
また、ECU10は、スイッチ情報から、運転者による車両操作に関する車両操作情報(操舵角,アクセルペダル踏み込み量,ブレーキペダル踏み込み量等)を検出し、更に、スイッチ情報及びセンサ情報から、車両1の挙動に関する走行挙動情報(車速、縦加速度、横加速度、ヨーレート等)を検出する。
なお、周辺車両から車車間通信システム26を介して受信される情報には、周辺車両の運転者による加減速及び操舵に関する操作情報として、操舵角,アクセルペダル踏み込み量,ブレーキペダル踏み込み量等が含まれている。従って、車車間通信システム26は、周辺車両の運転者による操作情報を受信する操作情報受信部として機能する。さらに、周辺車両が運転支援装置や自動運転装置等の車両制御装置を搭載している場合には、この車両制御装置において設定されている現時点以後の走行経路に関する情報も、車車間通信システム26を介して受信される。
次に、ECU10は、ステップS11において、情報取得処理で取得した各種の情報を用いて所定の対象物検知処理を実行する。対象物検知処理において、ECU10は、現在車両位置情報、地図情報、車車間通信システム26からの情報並びにセンサ情報から、車両1の周囲及び前方エリアにおける走行路形状に関する走行路情報(直線区間及びカーブ区間の有無,各区間長さ,カーブ区間の曲率半径,車線幅,車線両端部位置,車線数,交差点の有無,カーブ曲率で規定される制限速度等)、走行規制情報(制限速度、赤信号等)、先行車軌跡情報(先行車の走行軌跡)を検出する。また、ECU10の周辺車両検出部10bは、対象物検知処理として、車車間通信システム26からの情報や、カメラ1等のセンサ情報から、周辺車両を含む周辺物標情報(走行経路上の障害物の有無、種類、大きさ、位置等)を検出する。従って、ステップS10、S11における処理は、自車両の周辺を走行している周辺車両を検出し、検出された周辺車両から、この周辺車両3の運転者による加減速及び/又は操舵に関する操作情報を、車車間通信システム26を介して受信する操作情報受信ステップとして機能する。
次に、ステップS12において、ECU10の速度分布設定部10dは、制限速度分布設定処理を実行する。即ち、速度分布設定部10dは、ステップS11において周辺車両検出部10bによって検出された周辺車両等の周辺物標の周囲に、図6に示す制限速度分布40を設定する。従って、ステップS12における処理は、周辺車両3の周囲に許容可能な相対速度の上限値を規定した制限速度分布40を設定する速度分布設定ステップとして機能する。
次いで、ステップS13においては、ECU10の目標走行経路算出部10cが、ステップS11において検知された走行路情報を使用して、図3乃至図5に示す目標走行経路を算出する。さらに、制御部10eは、算出された目標走行経路を、制限速度分布40を満足するように補正して、走行軌跡及びこれに沿う走行速度を規定した補正走行経路を算出する。
さらに、ステップS14において、ECU10の制御部10eは、ステップS13において算出された補正走行経路上を走行するように、該当する制御システム(エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33)へ要求信号を出力する。具体的には、ECU10は、算出された補正走行経路によって特定されるエンジン,ブレーキ,操舵の目標制御量に応じて、要求信号を生成して出力する。従って、ステップS13、S14における処理は、設定された制限速度分布を満足するように自車両の速度及び/又は操舵を制御する制御ステップとして機能する。
次に、図10乃至図14を参照して、図9に示すフローチャートのステップS12において実行される制限速度分布設定処理を説明する。
図10は、図9に示すフローチャートのサブルーチンとして実行される制限速度分布設定処理のフローチャートである。また、図11は周辺車両が急ブレーキをかけた場合における相対速度の許容上限値の変化を示す図であり、図12は、この場合における制限速度分布40の変化を示す図である。また、図13は周辺車両が車線変更を行った場合における相対速度の許容上限値の変化を示す図であり、図14は、この場合における制限速度分布40の変化を示す図である。
まず、図10のステップS21においては、図9のステップS10において車車間通信システム26を介して取得された、自車両1の前方を走行する周辺車両の運転者による操作情報に基づいて、周辺車両の挙動を推定する。例えば、周辺車両の運転者がブレーキペダルを所定量以上踏込んでいる場合には、運転者が急ブレーキをかけ、周辺車両は急減速すると推定することができる。或いは、運転者が所定量以上ステアリングホイールを回転させている場合には、周辺車両はコーナーを曲がるか、車線変更を行うと推定することができる。また、周辺車両が運転支援装置や自動運転装置等の車両制御装置を搭載している場合には、この車両制御装置において設定されている走行経路に関する情報から、周辺車両が車線変更等を行うことが推定できる。
なお、車車間通信システム26は、自車両1周辺の、走行又は停車している車両から所定の時間間隔で、周辺車両の運転者による操作情報を繰り返し受信している。この時間間隔は十分に短いため、例えば、運転者が急ブレーキをかけた場合において、周辺車両が実際に減速し始め、これを自車両1のカメラ21やミリ波レーダ22によって検出するよりも早期に周辺車両の減速を検知することができる。
ステップS22においては、自車両1の前方を走行している周辺車両の運転者が急ブレーキをかけたか否かが判断される。本実施形態においては、車車間通信システム26を介して取得された周辺車両のブレーキペダルの踏込量が所定量以上である場合に、急ブレーキがかけられたと判断される。或いは、周辺車両に備えられたブレーキアクチュエータに対する制御信号に基づいて、周辺車両における急ブレーキの有無を判断しても良い。
急ブレーキがかけられた場合にはステップS23に進み、ここでは、相対速度の許容上限値Vlimを算出する上記式(2)の補正係数βの値が変更される。なお、図10に示すフローチャートの処理が開始される際、デフォルトとして補正係数の値はα=1、β=1に夫々設定されている。即ち、本実施形態においては図11の左側のグラフに示すように、通常時においては補正係数β=1であり、相対速度の許容上限値Vlimは周辺車両までの距離Yの増加と共に所定のスロープで2次関数的に増加する。これに対し、前方の周辺車両において急ブレーキがかけられたと推定された場合には、補正係数β=0.8に変更され、図11の右側のグラフに示すように、距離Yの増加に対して相対速度の許容上限値Vlimが2次関数的に増加するスロープが緩やかなものに変更される。
このように、速度分布設定部10dは、車車間通信システム26によって受信された操作情報に基づいて周辺車両3の走行挙動の変化を推定し、これに応じて制限速度分布を設定する。なお、本実施形態においては、周辺車両3の減速度が所定値未満である場合、及び周辺車両の操作情報が車車間通信システム26を介して得られない場合は「通常時」として処理され、補正係数はデフォルトのβ=1になる。
ステップS23において補正係数βの値を設定した後、ECU10における処理はステップS26に進む。ステップS26においては、設定された補正係数α、βの値(αの値はデフォルトのまま)に基づいて制限速度分布40が設定されて図10に示すフローチャートの1回の処理を終了し、ECU10における処理は図9に示すフローチャートに復帰する。
ステップS23において補正係数βの値が小さい値に変更されたことにより、ステップS26において設定される制限速度分布40は、図12の左側に示すものから、右側に示すものに変化する。即ち、制限速度分布40は、図12の左側に示す通常時(β=1)のものから、図12の右側に示すように、周辺車両3から後方に向けて走行方向に拡張されたものに変更される。これにより、自車両1の前方を走行する周辺車両3が所定量以上の減速をすると推定された場合に、制限速度分布40における走行方向の制限速度が低下される。なお、周辺車両3が所定量以上減速した場合でも、式(1)の補正係数αの値は変更されないため、制限速度分布40の横方向(自車両の走行方向に直角な方向)の幅は、通常時と同じである。
図12に示す例では、周辺車両3の後方、距離Y1の位置を自車両1が走行している場合、左側に示す通常時は制限速度が設定されない。これに対して、周辺車両3において急ブレーキがかけられて補正係数β=0.8に変更されると、図12の右側に示すように、自車両1は許容相対速度60km/hの上限ラインの内側に入り、相対速度が60km/hに制限される。このように、周辺車両3において急ブレーキがかけられると、周辺車両3からの同一の距離Y1に対して、許容される相対速度の上限値が低下される。
このように、本実施形態においては、前方の周辺車両3が所定量以上の減速をすると推定された場合に、許容する相対速度の上限値が低下されるので、自車両1が周辺車両3から十分に離れている状態で早期に相対速度が制限され、余裕を持って周辺車両3の急ブレーキに対処することができる。このため、前方の周辺車両3が急ブレーキをかけた場合に、運転者に与えられる不安感を軽減することができる。
一方、図10のステップS22において、急ブレーキがかけられていないと判断された場合には、ステップS24に進む。ステップS24においては、周辺車両3が車線変更をしようとしているか否かが判断される。本実施形態においては、車車間通信システム26を介して取得された周辺車両のステアリングホイールの回転角が所定量以上である場合に、周辺車両3の運転者が車線変更等をしようとしていると判断される。或いは、周辺車両3に車両制御装置が備えられている場合には、その車両制御装置で設定されている目標走行経路に基づいて、周辺車両3の車線変更等を判断しても良い。
周辺車両3が車線変更をしようとしている場合にはステップS25に進み、ここでは、相対速度の許容上限値Vlimを算出する上記式(1)の補正係数αの値が変更される。即ち、本実施形態においては図13の左側のグラフに示すように、通常時においては補正係数α=1であり、相対速度の許容上限値Vlimは周辺車両3との間の横方向のクリアランスXの増加と共に所定のスロープで2次関数的に増加する。これに対し、前方の周辺車両3が車線変更等をしようとしていると推定された場合には、補正係数α=0.8に変更され、図13の右側のグラフに示すように、クリアランスXの増加に対して相対速度の許容上限値Vlimが2次関数的に増加するスロープが緩やかなものに変更される。なお、本実施形態においては、周辺車両3のステアリングホイールの回転角が所定値未満である場合、及び周辺車両の操作情報が車車間通信システム26を介して得られない場合は「通常時」として処理され、補正係数はデフォルトのα=1になる。
ステップS25において補正係数αの値を設定した後、ECU10における処理はステップS26に進む。ステップS26においては、設定された補正係数α、βの値(βの値はデフォルトのまま)に基づいて制限速度分布40が設定されて図10に示すフローチャートの1回の処理を終了し、ECU10における処理は図9に示すフローチャートに復帰する。
ステップS25において補正係数αの値が小さい値に変更されたことにより、ステップS26において設定される制限速度分布40は、図14の左側に示すものから、右側に示すものに変化する。即ち、制限速度分布40は、図14の左側に示す通常時(α=1)のものから、図14の右側に示すように、周辺車両3の横方向(走行方向に直角な方向)に拡張されたものに変更される。これにより、自車両1の前方を走行する周辺車両3が車線変更すると推定された場合には、制限速度分布4における横方向の制限速度が低下される。なお、周辺車両3が車線変更すると推定された場合でも、式(2)の補正係数βの値は変更されないため、制限速度分布40の縦方向(自車両の走行方向)の長さ、通常時と同じである。
図14に示す例では、自車両1が周辺車両3の後方を走行しており、前方の周辺車両3を追い越そうとしている場合、左側に示す通常時では、自車両1は加速しながら走行車線を右側に変更することにより、周辺車両3との間の許容相対速度の超過を回避することができる。しかしながら、自車両1が車線変更を開始するのとほぼ同時に周辺車両3も車線変更を開始した場合、自車両1が車線変更してきた周辺車両3に接近してしまい、運転者に不安感が与えられる。これに対し、周辺車両3が車線変更しようとしていることが検知され、補正係数α=0.8に変更されると、図14の右側に示すように制限速度分布40が横方向に拡張される。これにより、周辺車両3を追い越そうとしている自車両1の目標走行経路(補正走行経路)が、周辺車両3の周囲の制限速度分布40の中に入るので、自車両1におけるこのような走行経路の設定が回避される。
このように、本実施形態においては、前方の周辺車両3が車線変更をすると推定された場合に、制限速度分布における横方向の制限速度が低下されるので、自車両1が周辺車両3を追い越す走行経路の設定が規制され、自車両1と周辺車両3の偶発的な接近を回避することができる。このため、自車両1が前方の周辺車両3とほぼ同時に車線変更をしようとした場合において、運転者に与えられる不安感を軽減することができる。
本発明の実施形態の車両制御装置によれば、速度分布設定部10dが車車間通信システム26によって受信された操作情報に基づいて周辺車両3の走行挙動の変化を推定し、これに応じて制限速度分布40が設定される。このため、周辺車両3の運転者が加減速や操舵の操作を行い、この操作が周辺車両3の走行挙動に現れた後でこれに対処するよりも早期に、周辺車両3の走行挙動の変化に応じた制限速度分布40を設定することが可能になり、急な減速や操舵を回避することができる。
また、本実施形態の車両制御装置によれば、周辺車両3からの距離に応じて複数の制限速度分布40(図6)が設定されるので、周辺車両3からの距離(X又はY)に伴い段階的に制限速度を設定することができる。このため、制限速度分布40を満足する滑らかな走行経路を設定することが可能になり、自車両1の乗り心地を良好にすることができる。
さらに、本実施形態の車両制御装置によれば、前方の周辺車両3が所定量以上の減速をすると推定された場合(図10のステップS22→S23)において、制限速度分布40における走行方向の制限速度が低下される(図12)ので、制限速度分布40を満足するために、自車両1の減速が早期に開始される。このため、制限速度分布40を満足するための制動等を緩やかに実行することができ、自車両の乗り心地を良好にすることができる。
また、本実施形態の車両制御装置によれば、前方の周辺車両が車線変更すると推定された場合において、制限速度分布40における横方向の制限速度が低下される(図14)。このように横方向における制限速度が低くなるため、車線変更しようとしている前方の周辺車両3を回避して追い越す走行経路が設定しにくくなり、自車両1の運転支援による無理な追い越しを規制することができる。
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した本発明の実施形態においては、前方の周辺車両3が所定量以上の減速をすると推定された場合に、補正係数βを1から0.8にステップ状に低下させている(図10のステップS23)が、変形例として、図15に示すように、補正係数βを直線的に低下させることもできる。即ち、この変形例では、通常時においては補正係数β=1であり、周辺車両3の減速度が所定値a1よりも大きくなると(所定の減速度a1よりも急激に減速すると)、補正係数βが直線的に小さな値に変更される。好ましくは、周辺車両3が車両の限界に近い減速度で急減速した場合に、補正係数βを0.5程度まで低下させる。
また、上述した本発明の実施形態においては、前方の周辺車両3が車線変更しようとしている場合において、制限速度分布40を周辺車両3の両側に横方向に拡張させている。これに対し、変形例として、図16に示すように、周辺車両3が車線変更しようとしている側のみ制限速度分布40を拡張するように本発明を構成することもできる。即ち、図16に示す例では、自車両1の前方を走行する周辺車両3が第1の方向である右方向に車線変更すると推定された場合に、制限速度分布40における右方向のみの制限速度を低下させている(右側の相対速度の許容上限値Vlimを算出する場合のみ補正係数αの値を小さくする。)。これにより、制限速度分布40の不要な拡張が回避され、幅広い目標走行経路(補正走行経路)の設定が可能になる。
さらに、上述した本発明の実施形態においては、図10に示すフローチャートのステップS22において急ブレーキがかけられたか否かが判断され、急ブレーキがかけられた場合にはステップS23が実行され、補正係数βのみが変更されていた。変形例として、急ブレーキがかけられた場合にも、周辺車両3が車線変更を行っているか否かを判断(図10のステップS24と同様の処理)するように本発明を構成することもできる。急ブレーキがかけられ且つ車線変更が行われている場合には、補正係数α及びβの両方を、小さな値に変更する。