以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の一側面としてのインプリント装置1の構成を示す概略図である。インプリント装置1は、物品としての半導体デバイスなどの製造に使用され、モールドを用いて基板上にインプリント材のパターンを形成するリソグラフィ装置である。本実施形態では、インプリント装置1は、基板上に供給されたインプリント材とモールドとを接触させ、インプリント材に硬化用のエネルギーを与えることにより、モールドの凹凸パターンが転写された硬化物のパターンを形成する。
インプリント材には、硬化用のエネルギーが与えられることによって硬化する硬化性組成物(未硬化状態の樹脂と呼ぶこともある)が用いられる。硬化用のエネルギーとしては、電磁波、熱などが用いられる。電磁波としては、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される、赤外線、可視光線、紫外線などの光を用いる。
硬化性組成物は、光の照射によって、或いは、加熱によって硬化する組成物である。光の照射によって硬化する光硬化性組成物は、重合性化合物と光重合開始剤とを少なくとも含有し、必要に応じて、非重合性化合物又は溶剤を含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。
インプリント材は、スピンコーターやスリットコーターによって基板上に膜状に付与されてもよい。また、インプリント材は、液体噴射ヘッドによって、液滴状、或いは、複数の液滴が繋がって形成された島状又は膜状で基板上に付与されてもよい。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下である。
基板には、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂などが用いられ、必要に応じて、その表面に基板とは別の材料からなる部材が形成されていてもよい。具体的には、基板は、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスなどを含む。
インプリント装置1は、インプリント材の硬化法として光硬化法を採用している。インプリント装置1は、モールド11を保持するモールド保持部12と、基板13を保持する基板保持部14と、計測部15と、形状補正部16と、制御部17とを有する。更に、インプリント装置1は、基板上にインプリント材を供給するためのディスペンサを含む供給部、モールド保持部12を保持するためのブリッジ定盤、基板保持部14を保持するためのベース定盤なども有する。本実施形態では、モールド保持部12及び基板保持部14は、モールド11及び基板13の少なくとも一方を駆動する駆動部として機能する。また、形状補正部16及び熱補正部29は、モールド11及び基板13の少なくとも一方を変形させる変形部として機能する。
モールド11は、矩形の外形形状を有し、基板13(の上のインプリント材)に転写すべきパターン(凹凸パターン)が形成されたパターン面11aを有する。モールド11は、基板上のインプリント材を硬化させるための紫外線20を透過する材料、例えば、石英などで構成されている。また、モールド11のパターン面11aには、モールド側マーク18が形成されている。
モールド保持部12は、モールド11を保持する保持機構である。モールド保持部12は、例えば、モールド11を真空吸着又は静電吸着するモールドチャックと、モールドチャックを載置するモールドステージと、モールドステージを駆動する(移動させる)駆動系とを含む。かかる駆動系は、モールドステージ(即ち、モールド11)を少なくともz軸方向(基板上のインプリント材にモールド11を接触させる(押印する)際の方向(押印方向))に駆動する。また、かかる駆動系は、z軸方向だけではなく、x軸方向、y軸方向及びθ(z軸周りの回転)方向にモールドステージを駆動する機能を備えていてもよい。
基板13は、モールド11のパターンが転写される基板である。基板13には、供給部からインプリント材が供給(塗布)される。また、基板13の複数のショット領域のそれぞれには、基板側マーク19が形成されている。
基板保持部14は、基板13を保持する保持機構である。基板保持部14は、例えば、基板13を真空吸着又は静電吸着する基板チャックと、基板チャックを載置する基板ステージと、基板ステージを駆動する(移動させる)駆動系とを含む。かかる駆動系は、基板ステージ(即ち、基板13)を少なくともx軸方向及びy軸方向(モールド11の押印方向に直交する方向)に駆動する。また、かかる駆動系は、x軸方向及びy軸方向だけではなく、z軸方向及びθ(z軸周りの回転)方向に基板ステージを駆動する機能を備えていてもよい。
計測部15は、モールド11に設けられたモールド側マーク18と、基板13の複数のショット領域のそれぞれに設けられた基板側マーク19とを光学的に検出(観察)するスコープを含む。計測部15は、かかるスコープの検出結果に基づいて、モールド11と基板13との相対的な位置(位置ずれ)を計測して位置データを取得する。但し、計測部15は、モールド側マーク18と基板側マーク19との相対的な位置を検出することができればよい。従って、計測部15は、2つのマークを同時に撮像するための光学系を備えたスコープを含んでいてもよいし、2つのマークの干渉信号やモアレなどの相対位置を反映した信号を検知するスコープを含んでいてもよい。また、計測部15は、モールド側マーク18と基板側マーク19とを同時に検出できなくてもよい。例えば、計測部15は、内部に配置された基準位置に対するモールド側マーク18及び基板側マーク19のそれぞれの位置を求めることで、モールド側マーク18と基板側マーク19との相対的な位置を検出してもよい。
形状補正部16は、モールド11のパターンの形状と基板13のショット領域との形状とを一致させるために、基板13のショット領域ごとに、モールド11のパターンの形状と基板13のショット領域との形状の差(形状差)を補正する。形状補正部16は、本実施形態では、モールド11に対して、パターン面11aに平行な方向に力を与えてモールド11(パターン面11a)を変形させることで、パターン面11aの形状を補正する。例えば、形状補正部16は、図2に示すように、モールド11の側面を吸着する吸着部16aと、モールド11の側面に向かう方向及びモールド11の側面から遠ざかる方向に吸着部16aを駆動するアクチュエータ16bとを含む。吸着部16aは、モールド11の側面を吸着する機能を有していなくてもよく、モールド11の側面に接触する接触部材であってもよい。但し、形状補正部16は、モールド11に熱を与えてモールド11の温度を制御することでパターン面11aを変形させてもよい。
熱補正部29は、モールド11のパターン面11aを変形させるのではなく、基板上の所定の位置に一定強度の光を照射することで局所的に基板13を熱膨張させ、基板13のショット領域(基板13に形成されたパターン)の形状を補正する。熱補正部29は、モールド11を介して、基板13のショット領域に光30を照射し、高い自由度で、モールド11や基板13の熱膨張度合いの違いを利用してショット領域の形状を補正する。熱補正部29は、基板上の光30の照射位置を微小に変更することが可能な素子、例えば、DMD(Digital Micromirror Device)を含む。熱補正部29は、基板上の大きく変形させたい領域には、多くの光30が照射されるように、基板上のあまり変形させたくない領域には、光30があまり照射されないように、DMDを制御(調整)する。これにより、基板上に熱分布が生成されるため、基板13のショット領域を変形させることができる。
制御部17は、CPUやメモリなどを含み、インプリント装置1の全体(インプリント装置1の各部)を制御する。制御部17は、本実施形態では、インプリント処理及びそれに関連する処理を制御する。例えば、制御部17は、インプリント処理を行う際に、計測部15の計測結果に基づいて、モールド11と基板13とのアライメント(位置合わせ)を行う。また、制御部17は、インプリント処理を行う際に、形状補正部16によるモールド11のパターン面11aの変形量や熱補正部29による基板13のショット領域の変形量を制御する。この際、モールド11と基板13との相対位置を制御する位置制御と、モールド11及び基板13の少なくとも一方を変形させる形状制御との一部が並行して行われるように、モールド保持部12、基板保持部14、形状補正部16及び熱補正部29を制御する。
図3(a)及び図3(b)を参照して、モールド11と基板13とのアライメントに用いられるアライメントマークとしてのモールド側マーク18及び基板側マーク19について説明する。本実施形態では、基板13の1つのショット領域に6つのチップ領域が配置されているものとする。
図3(a)は、モールド11のパターン面11a、具体的には、パターン面11aの四隅に設けられたモールド側マーク18a乃至18hを示している。図3(a)を参照するに、横方向に長手方向を有するモールド側マーク18a、18b、18e及び18fは、x軸方向に計測方向を有するマークである。一方、縦方向に長手方向を有するモールド側マーク18c、18d、18g及び18hは、y軸方向に計測方向を有するマークである。また、図3(a)において、点線で囲まれた領域は、基板上の6つのチップ領域のそれぞれに転写すべきパターンが形成されたパターン領域11bを示している。
図3(b)は、基板13の1つのショット領域13aの周辺、具体的には、ショット領域13aの四隅に設けられた基板側マーク19a乃至19hを示している。図3(b)を参照するに、横方向に長手方向を有する基板側マーク19a、19b、19e及び19fは、x軸方向に計測方向を有するマークである。一方、縦方向に長手方向を有する基板側マーク19c、19d、19g及び19hは、y軸方向に計測方向を有するマークである。また、図3(b)において、ショット領域13aの内側の実線で囲まれた領域は、チップ領域13bを示している。
インプリント処理を行う際、即ち、モールド11と基板上のインプリント材とを接触させる際には、モールド11に設けられたモールド側マーク18a乃至18hのそれぞれと基板13に設けられた基板側マーク19b乃至19hのそれぞれとが近接することになる。従って、計測部15によってモールド側マーク18と基板側マーク19とを検出することで、モールド11のパターン面11aの位置及び形状と基板13のショット領域13aの位置及び形状とを比較することができる。モールド11のパターン面11aの位置及び形状と基板13のショット領域13aの位置及び形状との間に差(ずれ)が生じると、重ね合わせ精度が低下し、パターンの転写不良(製品不良)を招いてしまう。
図4(a)乃至図4(e)は、モールド11のパターン面11aの位置及び形状と基板13のショット領域13aの位置及び形状との間に生じるずれ(以下、「モールド11とショット領域13aとのずれ」と称する)を示す図である。モールド11とショット領域13aとのずれには、シフト、倍率ずれ、回転などが含まれる。基板側マーク19に対するモールド側マーク18の相対的な位置ずれ(位置ずれ量)を検出することで、モールド11とショット領域13aとのずれが、シフト、倍率ずれ及び回転のどれであるのかを推定することができる。
図4(a)は、モールド11とショット領域13aとのずれがシフトである場合を示している。モールド側マーク18が基板側マーク19から一方向にずれていることを検出した場合、モールド11とショット領域13aとのずれがシフトであると推定することができる。
図4(b)は、モールド11とショット領域13aとのずれが回転である場合を示している。モールド側マーク18のずれる方向がショット領域13aの上下左右で異なり、ショット領域内のある点を中心として円を描くようにずれている場合、モールド11とショット領域13aとのずれが回転であると推定することができる。
図4(c)は、モールド11とショット領域13aとのずれが倍率ずれである場合を示している。モールド側マーク18がショット領域13aの中心に対して一様に外部又は内部に向かってずれていることを検出した場合、モールド11とショット領域13aとのずれが倍率ずれであると推定することができる。
図4(d)は、モールド11とショット領域13aとのずれが台形ずれである場合を示している。モールド側マーク18がショット領域13aの中心に対して外部又は内部に向かってずれ、その方向がショット領域13aの上下又は左右で異なっていることを検出した場合、モールド11とショット領域13aとのずれが台形ずれであると推定することができる。また、モールド側マーク18がショット領域13aの中心に対して外部又は内部に向かってずれ、ずれ量がショット領域13aの上下又は左右で異なっていることを検出した場合、モールド11とショット領域13aとのずれが台形ずれであると推定することができる。
図4(e)は、モールド11とショット領域13aとのずれがねじれである場合を示している。モールド側マーク18のずれる方向がショット領域13aの上下又は左右で異なっていることを検出した場合、モールド11とショット領域13aとのずれがねじれであると推定することができる。
図4(c)乃至図4(e)に示したように、モールド11とショット領域13aとのずれが倍率ずれ、台形ずれ、ねじれなどである場合、制御部17は、形状補正部16によって、モールド11のパターン面11aの形状を変形させる。また、図示はしていないが、モールド11とショット領域13aとのずれが弓なり型、樽型、糸巻き型などである場合にも、制御部17は、形状補正部16によって、モールド11のパターン面11aの形状を変形させる。具体的には、制御部17は、モールド11のパターン面11aの形状が基板13のショット領域13aの形状となるように、形状補正部16によるパターン面11aの変形量を制御する。制御部17は、アクチュエータ16bの駆動量(即ち、モールド11に与える力)とパターン面11aの変形量との対応関係を表すデータを予め取得してメモリなどに格納している。制御部17は、計測部15の計測結果に基づいて、パターン面11aの形状をショット領域13aの形状に一致させるために必要となるパターン面11aの変形量(パターン面11aを変形させる度合い)を求める。そして、制御部17は、メモリに格納したデータから、求めたパターン面11aの変形量に対応するアクチュエータ16bの駆動量を求め、アクチュエータ16bを駆動する。
このように、インプリント装置1では、モールド11と基板13(ショット領域13a)とのアライメントやモールド11(パターン面11a)や基板13(ショット領域)の形状の補正を行いながら、基板上のインプリント材にモールド11のパターンを転写する。
図5を参照して、ダイバイダイアライメントによるモールド11と基板13との位置ずれの補正(モールド11と基板13との相対位置を制御する位置制御)について説明する。図5では、縦軸は、モールド11と基板13との相対位置を示し、横軸は、インプリント処理における時間を示している。インプリント処理は、基板上にインプリント材を供給する供給工程と、基板上のインプリント材とモールド11とを接触させる接触工程と、モールド11のパターンにインプリント材を充填する充填工程とを含む。更に、インプリント処理は、インプリント材を硬化させる硬化工程と、硬化したインプリント材からモールド11を引き離す離型工程とを含む。また、モールド11と基板13との位置ずれの補正とは、主に、モールド11と基板13との基板面に沿った方向(シフト)及び回転の相対位置合わせを意味している。
インプリント装置1では、基板上のインプリント材とモールド11とを接触させてモールド11のパターンにインプリント材が充填されてから、モールド11を介して基板上のインプリント材に紫外線20を照射してインプリント材を硬化させる。そして、基板上の硬化したインプリント材からモールド11を引き離すことでモールド11のパターンを転写する。インプリント装置1では、一般的に、生産性の低下を抑制するために、モールド11のパターンにインプリント材を充填する充填工程と並行して、ダイバイダイアライメントによるモールド11と基板13との位置ずれの補正を行う。
図5に示すように、基板上のインプリント材とモールド11とを接触させた後、計測部15で計測されたモールド11と基板13との相対的な位置に基づいて、モールド11と基板13とのずれが低減するように、基板保持部14又はモールド保持部12を駆動する。図5は、時間が経過するにつれて、モールド11と基板13との相対位置がゼロ(モールド11と基板13のショット領域とが完全に重なる位置)になるように、基板保持部14又はモールド保持部12を徐々に追い込み駆動している様子を示している。
モールド11と基板13との位置ずれの補正では、基板上のインプリント材とモールド11とを接触させる接触工程の初期に計測されたモールド11と基板13との相対的な位置のみに基づいて、モールド11と基板13との相対位置をゼロにすることも可能である。但し、図5に示すように、モールド11と基板13との相対的な位置の計測と基板保持部14又はモールド保持部12の駆動とを繰り返し、モールド11と基板13のショット領域とが完全に重なる位置に徐々に追い込むとよい。これにより、例えば、モールド11がモールド保持部12に対してずれたり、モールド側マーク18へのインプリント材の充填が遅れて計測部15の計測結果が騙されたりするなど、イレギュラーな状況にも対応することができる。従って、少ない時間でモールド11と基板13との位置ずれの補正を収束させることができる。
図6を参照して、形状補正部16によりモールド11のパターン面11aを変形させた場合や熱補正部29により基板13のショット領域を変形させた場合に生じるモールド11と基板13との相対位置の変化(相対位置ずれ成分)について説明する。図6は、モールド11のパターン面11aや基板13のショット領域を徐々に変形させる様子を示している。ここでは、モールド11と基板13のショット領域とのずれが弓なり型である場合を例に説明する。
ダイバイダイアライメントでは、一般的に、複数の計測点を計測した結果を用いて、モールド11と基板13との間のシフトや回転の相対位置合わせを行う。図6では、モールド11のパターン面11a又は基板13のショット領域の補正前(変形前)の形状を実線で示し、計測部15による4つの計測点の補正前の位置を白丸で示している。また、モールド11のパターン面11a又は基板13のショット領域の補正後(変形後)の形状を点線で示し、計測部15による4つの計測点の補正後の位置を黒三角で示している。
図6を参照するに、弓なり型のずれが生じている場合に、ダイバイダイアライメントを行うと、計測点でのモールド11と基板13との相対位置のみを用いるため、パターン面11aとショット領域との全体での重ね合わせに乖離が生じる。そこで、このようなダイバイダイアライメントに対して、モールド11のパターン面11aや基板13のショット領域の変形を加えることで、パターン面11aとショット領域との位置及び形状を重ね合わせることができる。
但し、モールド11のパターン面11aや基板13のショット領域を変形させると、モールド11と基板13との相対位置が変化する。従って、モールド11のパターン面11aや基板13のショット領域を変形させることに起因するモールド11と基板13との相対位置の変化を、ダイバイダイアライメントで考慮しておけば、モールド保持部12や基板保持部14の余計な駆動が不要となる。
また、モールド11と基板13との相対位置は、モールド11のパターン面11aや基板13のショット領域を変形させる形状制御の進行(進捗)に応じて、形状制御を行っている間の各時刻で変化する。従って、モールド11や基板13に関する形状制御に起因するモールド11と基板13との相対位置の変化は、固定のオフセットではなく、可変のオフセットとして考慮する必要がある。
更に、形状補正部16や熱補正部29からの入力に対して、モールド11のパターン面11aや基板13のショット領域の実際の変形が時間に対して線形的に変化するとは限らない。例えば、モールド11や基板13に関しては、ある閾値(変形量)を超えてから急激に変形する現象が多く確認されている。
本実施形態では、形状補正部16がモールド11の側面に力を加えるが、モールド11のパターン面11aにおいて線形的に変形する領域と非線形に変形する領域とが混在する場合やパターン面11aが非線形に変形する場合が存在する。また、熱補正部29に関しても、基板13の構造に依存して、閾値となる熱量を加える前後で時間に対するショット形状の変形が変わることがあるため、ショット領域が非線形に変形する場合が存在する。
なお、モールド11のパターン面11aや基板13のショット領域を変形させる形状制御は、パターン面11aとショット領域との形状差を表す形状差データを事前に取得し、かかる形状差データに基づいて行う場合もある。例えば、モールド側のパターン形状(パターン面11aの形状)を精密計測可能な外部計測器(インプリント装置外の計測装置)で計測し、その計測データを保存する。次に、基板側のパターン形状(ショット領域の形状)を精密計測可能な外部計測器で計測し、モールド側のパターン形状の計測データと基板側のパターン形状の計測データとを突き合わせる(比較する)ことによって、補正すべき形状差を捕捉してもよい。基板13の全数計測は、生産性を低下させる。そこで、同一行程で作成した基板13であれば形状が安定しているため、幾つかの基板13を抜き取って計測してもよい。この場合、インプリント工程前(マーク計測前)からパターン形状の補正量は把握しているため、インプリント工程前(マーク計測前)から補正を開始することができる。
このような場合にも、モールド11や基板13に関する形状制御に起因するモールド11と基板13との相対位置の時間的な変形を非線形成分として、モールド11と基板13との相対位置を制御する位置制御に対するオフセットとして考慮する必要がある。形状補正を先行して行う場合、形状補正と位置制御のタイミングを合わせて、オフセットを考慮する。この場合、形状補正の途中であるため、位置制御の初期オフセットとして加えるだけでも効果はある。もちろん、基板毎にインプリント装置内でモールド側のパターンと基板側のパターンとの形状差を計測してもよいが、高次の形状差を取得するためには多くの点数を計測する必要がある。必要な精度により、インプリント装置内計測と外部計測器計測を使い分けてもよいし、両者を使ってもよい。
図7を参照して、ダイバイダイアライメント(モールド11と基板13との相対位置を制御する位置制御)及びモールド11のパターン面11aや基板13のショット領域を変形させる形状制御のシーケンスの時間的な関係性について説明する。図7に示すように、事前に取得した形状差データに基づいて形状制御を行う場合、形状補正部16は、前のショット領域に対するインプリント処理(離型工程)が終了してから対象のショット領域に対する硬化工程が終了するまで、形状制御を行うことができる。また、熱補正部29は、基板13のショット領域とモールド11とが対向してから(接触工程を開始してから)硬化工程が終了するまで、形状制御を行うことができる。従って、形状制御のシーケンスの少なくとも一部は、ダイバイダイアライメントによる位置制御と並行して行われる。なお、計測部15による計測結果に基づいて形状制御を行う場合には、インプリント処理の開始後、計測部15が最初の計測を行ってから硬化工程が終了するまでの期間が形状制御を行う期間となる。
上述したように、モールド11のパターン面11aや基板13のショット領域を変形させると、モールド11と基板13との相対位置の変化、具体的には、シフト成分や回転成分の変化が生じる。モールド11と基板13との相対位置は、形状制御が終了するまで変化し続けるため、形状制御に起因するシフト成分や回転成分も硬化工程まで変化することになる。従って、計測部15の計測結果のみに基づいて位置制御を行うと、形状制御に起因するシフト成分や回転成分の変化が考慮されないことになる。このため、モールド11と基板13との相対的な位置の計測と基板保持部14又はモールド保持部12の駆動とを繰り返している間に、モールド11と基板13との相対位置を過剰に補正したり、補正が不十分になったりしてしまう。これにより、モールド11と基板13との相対位置を制御する位置制御に要する時間(相対位置合わせ時間)が長くなり、生産性の低下を招くことになる。
例えば、接触工程の初期におけるモールド11と基板13との相対位置が、形状制御で変化するモールド11と基板13との相対位置と等しければ、モールド保持部12や基板保持部14を駆動する必要はない。但し、従来技術では、接触工程の初期におけるモールド11と基板13との相対位置に基づいてモールド保持部12や基板保持部14を駆動することになるため、形状制御に起因するモールド11と基板13との相対位置の変化分を戻すことが必要となる。
本実施形態では、モールド11と基板13との相対位置を制御する位置制御とモールド11のパターン面11aや基板13のショット領域を変形させる形状制御との一部が並行して行われる場合でも、かかる位置制御を短時間で行うことが可能な技術を提供する。
モールド11のパターン面11aと基板13のショット領域との形状差を表す形状差データを取得する手法について説明する。同一工程で形成された基板間のショット形状の差が小さい場合には、基板13のショット領域を外部の計測器で事前に計測するとともに、モールド11のパターン面11aの形状も計測すれば、形状差データを求めることができる。また、インプリント処理を実際に行った結果から形状差データを求めることも可能である。ショット領域の形状の絶対値を求めるよりは、ショット領域の形状の相対値を求める方が簡便である。このようにして求めた形状差データを、インプリント装置1が有する記憶部に記憶させることで、基板13の各ショット領域に対してインプリント処理を行う際の形状補正量を指示することができる。このように、事前に求めた形状差データに基づいて形状制御を行う場合には、形状制御を行っている間の各時刻で変化するモールド11と基板13との相対位置(の時間変化)をシミュレーションで求めることができる。
また、同一工程で形成された基板間のショット形状の差が大きい場合には、各基板の各ショット領域に対して、計測部15でモールド側マーク18及び基板側マーク19を計測することで、形状差データを求めることができる。なお、形状制御を行っている間において、計測部15でモールド側マーク18及び基板側マーク19を計測することで、形状制御の進捗を管理することもできる。この際、計測部15が計測すべきマーク(計測点)の数は、形状制御で補正すべき形状の高次成分項目に応じて設定される。このように、計測部15でモールド側マーク18及び基板側マーク19を随時計測することで得られる結果に基づいて形状制御を行ってもよい。この場合、モールド11のパターン面11aや基板13のショット領域の変形を時間経過とともに小さくすることができるため、それらが非線形に変形する様子を求めることができる。また、計測部15の計測点が少ない場合であっても、モールド11のパターン面11aや基板13のショット領域の実際の変形と、事前のシミュレーション結果とを比較することで、それらが非線形に変形する様子を求めることができる。
制御部17は、形状差データに基づいて、形状補正部16や熱補正部29を制御する。具体的には、制御部17は、形状補正部16に対して、モールド11のどの部分にどの程度の力を加えるのかを指示する。また、制御部17は、熱補正部29に対して、形状差を補正するために必要な熱分布を求め、基板13のショット領域に照射する光30の照射量分布を設定する。この際、モールド11や基板13の変形に応じて形状制御を行っている間の各時刻で変化するモールド11と基板13との相対位置(シフト成分や回転成分)を求め、計測部15の計測結果やモールド11と基板13との相対的な目標位置に反映させる。これにより、モールド11と基板13との相対位置を制御する位置制御におけるモールド保持部12や基板保持部14の余計な駆動を抑制することができるため、位置制御を短時間で終了することができる。
本実施形態におけるインプリント装置1の動作例を説明する。制御部17は、モールド11と基板13との相対位置を制御する位置制御と、モールド11や基板13を変形させる形状制御との一部が並行して行われるように、モールド保持部12、基板保持部14、形状補正部16及び熱補正部29を制御する。位置制御では、例えば、接触工程において計測部15で取得された位置データと、モールド11と基板13との相対的な目標位置を表す目標位置データとに基づいて、モールド保持部12や基板保持部14を制御する。なお、位置データと、目標位置データとに基づいてモールド保持部12や基板保持部14を制御する工程は、複数回繰り返してもよい。ここでは、目標位置は、モールド11と基板13との相対的な位置ずれ量をゼロにするためのモールド11と基板13との相対位置を想定する。
形状制御におけるモールド11や基板13の変形に応じて、モールド11と基板13との相対位置も時間的に変化する。従って、形状制御を行っている間の各時刻で変化するモールド11と基板13との相対位置は、例えば、時間の関数f(t)として表すことができる。関数f(t)は、形状制御を行っている間に生じるモールド11と基板13との相対位置の変化を示し、形状制御を行っている間の各時刻で変化するモールド11と基板13との相対位置を表す時系列データでもある。かかる関数f(t)を、目標位置データに与える(加える)ことで、位置制御でのモールド保持部12や基板保持部14の駆動が必要最小限となる。また、かかる関数f(t)を、計測部15で取得される位置データに与えることで、同様の効果を得ることもできる。なお、モールド11と基板13との相対位置を表す時系列データのうち、位置制御の駆動開始後の時系列データを、目標位置データや位置データに与えてもよい。
関数f(t)は、モールド11のパターン面11aと基板13のショット領域との形状差から求められる形状補正量に基づいて予測されるモールド11と基板13との相対位置の変化を示している。関数f(t)は、形状補正部16や熱補正部29によりモールド11や基板13を変形させながら、計測部15によりモールド11と基板13との相対的な位置を計測して取得される位置データから求めることができる。また、このような実測ではなく、シミュレーションから関数f(t)を求めることも可能である。関数f(t)は、多項式による時刻tを変数とした近似曲線でもよいし、実測又はシミュレーションにより求めた結果をそのまま用いてもよい。ここでは、時間的に変化する値という意味で関数(f)と表しているが、形状制御に応じて変化する成分であるため、形状補正部16がモールド11に与える力や熱補正部29が基板13に与える光量(熱)やその積算量を変数としてもよい。
なお、従来技術と同様に、形状制御を行っている間に生じるモールド11と基板13との相対位置の変化を固定のオフセットとして目標位置データや位置データに与えると、その変化が計測部15で取得される位置データにも含まれてしまう。換言すれば、計測部15で取得される位置データに、形状制御を行っている間に生じるモールド11と基板13との相対位置の変化が二重に含まれることになる。このため、位置制御でのモールド保持部12や基板保持部14の駆動を必要最小限にすることができず、位置制御を短時間で行うことは困難である。
図8は、本実施形態における位置制御を実現するための制御構成の一例を示すブロック図である。図8では、モールド保持部12と基板保持部14とを一括して駆動部としている。制御部17は、データ演算部191と、入力部192と、差分演算部193とを含む。計測部15は、モールド11と基板13との相対位置を計測して位置データを取得し、かかる位置データを差分演算部193に入力する。
データ演算部191は、形状制御におけるモールド11や基板13の変形に応じて形状制御を行っている間の各時刻で変化するモールド11と基板13との相対位置を表す時系列データ(関数f(t))を求める。時系列データは、上述したように、形状補正部16や熱補正部29によりモールド11や基板13を変形させながら、計測部15によりモールド11と基板13との相対的な位置を計測して取得される位置データから求めることができる。また、時系列データは、上述したように、形状制御を行っている間の各時刻で非線形に変化するモールド11と基板13との相対位置、具体的には、モールド11と基板13との相対シフト量及びモールド11と基板13との相対回転量の少なくとも一方を表す。
入力部192は、データ演算部191で求められた時系列データを差分演算部193に入力する。なお、時系列データがインプリント装置1の記憶部に予め記憶されている場合には、入力部192は、かかる記憶部に記憶されている時系列データを差分演算部193に入力してもよい。
差分演算部193は、計測部15から入力された位置データと、目標位置データとの差である差分データを求めて、かかる差分データを駆動部のドライバに入力する。但し、本実施形態では、差分演算部193には、入力部192から時系列データが入力されている。従って、差分演算部193は、位置データと時系列データが加えられた目標位置データとの差、或いは、時系列データが加えられた位置データと目標位置データとの差を差分データとして求める。ドライバは、差分演算部193から入力された差分データに基づいて、モールド保持部12や基板保持部14の駆動部を駆動させる。
なお、差分演算部193に入力する時系列データは、接触工程の初期におけるモールド11と基板13との相対シフト量及びモールド11と基板13との相対回転量の少なくとも一方を含むとよい。これにより、モールド11と基板13との最終的な相対位置に近い位置から位置制御を行うことができるため、位置制御に要する時間を更に短くすることができる。
また、インプリント装置1では、基板上のインプリント材とモールド11とを接触させた状態で、モールド11や基板13を基板表面に平行な方向に駆動するため、モールド11と基板13との間に剪断力が発生する。剪断力の大きさは、基板上のインプリント材にモールド11を接触させる際の力(押印力)、インプリント材の粘性、モールド11のパターンの形状などの様々な要因に依存して決まる。剪断力が大きい場合には、モールド11と基板13との位置制御において、例えば、基板13を駆動することで基板13のショット領域が変形する。
図9(a)は、基板13を駆動する前のショット領域の形状を示し、図9(b)は、基板13を駆動した後のショット領域の形状を示している。図9(a)を参照するに、基板13を駆動する前のショット領域の形状は矩形である。図9(b)に矢印で示すように、ショット領域の中心付近はインプリント材との接触面積が大きいため、剪断力の影響が大きく、ショット領域の周辺はインプリント材との接触面積が小さいため、剪断力の影響が小さい。このような剪断力の大きさの差によって、基板13を駆動した後のショット領域は、弓なりの形状に変形する。このようなショット領域の形状の変形によっても、モールド11と基板13との相対位置(シフト成分や回転成分)が変化する。なお、基板13を駆動した後のショット領域の形状の変形は、モールド11や基板13の駆動方向や駆動距離などによって変わる。
一般的に、複数のマークを計測する場合、回転成分や倍率成分の計測精度を向上させるために、互いに離れているマーク、例えば、ショット領域の四隅に存在するマークを選択する。図9(b)に示されているように、白丸で示される4つのマークの位置の変化とショット領域の重心位置とが異なる位置になることがある。デバイスとしては、ショット領域の全体で平均的に重ね合わせ精度がよい方が、デバイスの性能が安定するため、モールド11のパターン面11aの重心位置と基板13のショット領域の重心位置とを一致させるとよい。
そこで、接触工程の初期でのモールド11と基板13との相対位置から求める相対駆動量と事前に取得した剪断力の関係とに基づいてショット領域の形状の変形を求め、それを考慮して位置制御を行うとよい。これは、目標位置データが表す目標位置を、モールド11と基板13との相対的な位置ずれ量を予め定められた量にするためのモールド11と基板13との相対位置に設定することを意味する。具体的には、目標位置データが表す目標位置を、モールド11のパターン面11aの重心位置と基板13のショット領域の重心位置とを一致させるためのモールド11と基板13との相対位置に設定する。これにより、図9(c)に示すように、モールド11と基板13との間に剪断力が発生する場合において、モールド11のパターン面11aの重心位置と基板13のショット領域の重心位置とを一致させることができる。
インプリント装置1を用いて形成した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは、各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサー、或いは、型などである。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMなどの揮発性又は不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAなどの半導体素子などが挙げられる。型としては、インプリント用のモールドなどが挙げられる。
硬化物のパターンは、上述の物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、レジストマスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入などが行われた後、レジストマスクは除去される。
次に、物品の具体的な製造方法について説明する。図10(a)に示すように、絶縁体などの被加工材が表面に形成されたシリコンウエハなどの基板13を用意し、続いて、インクジェット法などにより、被加工材の表面にインプリント材を付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材が基板上に付与された様子を示している。
図10(b)に示すように、インプリント用のモールド11を、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材に向け、対向させる。図10(c)に示すように、インプリント材が付与された基板13とモールド11とを接触させ、圧力を加える。インプリント材は、モールド11と被加工材との隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光をモールド11を介して照射すると、インプリント材は硬化する。
図10(d)に示すように、インプリント材を硬化させた後、モールド11と基板13を引き離すと、基板上にインプリント材の硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、モールド11の凹部が硬化物の凸部に、モールド11の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材にモールド11の凹凸パターンが転写されたことになる。
図10(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材の表面のうち、硬化物がない、或いは、薄く残存した部分が除去され、溝となる。図10(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材の表面に溝が形成された物品を得ることができる。ここでは、硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子などに含まれる層間絶縁用の膜、即ち、物品の構成部材として利用してもよい。
なお、本実施形態では、主に、基板13にインプリント材を塗布し、モールド11を接触させることで基板上にパターンを形成する形態について説明した。但し、本発明は、この形態に限定されるものではない。例えば、モールド11にインプリント材を塗布し、インプリント材を塗布したモールド11に基板13を接触させることで基板上にパターンを形成する形態であっても同様な効果を得ることができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。