以下に本発明の好適な実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。
[インクジェットインク組成物]
インクジェットインク組成物は、インクジェット記録装置の吐出ノズルから液滴として吐出され、紙などの記録媒体に付着させて印刷物を作成するために用いられる。本実施形態では、水などを主な媒体として含む、水系のインクジェットインクを例に挙げて説明する。本実施形態に係るインクジェットインク組成物としての二次色インク(以降、単に「インク」ともいう。)は、色材としての染料の他、水、有機溶剤、界面活性剤などを含んでいる。以下、本実施形態のインクに含まれる上記の成分について説明する。
(染料)
本実施形態のインク組成物に含まれる染料のうち、一般式(1−1)で表されるマゼンタ染料における置換基を置換基群として定義し、具体例を挙げて説明する。
置換基群としては、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルまたはアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、アルキルまたはアリールスルフィニル基、アルキルまたはアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールまたはヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基、イオン性親水性基が例として挙げられる。これらの置換基はさらに置換されてもよく、さらなる置換基としては、上記の置換基群から選択される基を挙げることができる。
イオン性親水性基としては、スルホ基、カルボキシル基、チオカルボキシル基、スルフィノ基、ホスホノ基、ジヒドロキシホスフィノ基、4級アンモニウム基などが挙げられる。特に好ましくはスルホ基、カルボキシル基である。またイオン性親水性基はカチオンまたはアニオンを含んでいてもよく、カチオンまたはアニオンを含む状態を塩の状態と呼ぶ。カルボキシル基、ホスホノ基およびスルホ基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対カチオンの例には、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)および有機カチオン(例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラメチルグアニジウムイオン、テトラメチルホスホニウム)が含まれ、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が好ましく、ナトリウム塩またはナトリウム塩を主成分とする混合塩がさらに好ましく、ナトリウム塩が最も好ましい。
なお、本実施形態において、化合物が塩である場合には、水系インク中で塩はイオンに解離して存在している。
次に、一般式(1−1)で表されるマゼンタ染料について説明する。インクは、一般式(1−1)で表されるマゼンタ染料(以降、マゼンタ染料(1−1)ということもある。)と、染料基本骨格が対称構造を持ち、かつ最大吸収波長を500nmから560nmまでの範囲以外に持つ、イエロー染料、シアン染料のうちの1種以上と、を含む。
マゼンタ染料(1−1)は、特定の置換基を有するアミノ基を有する。作用機構は不明であるが、マゼンタ染料(1−1)がこのような構造を有することによって印刷物における、彩度、発色性、耐光性、耐オゾン性、耐湿性が向上する。
一般式(1−1)において、R1、R3、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、およびR20は、それぞれ独立に水素原子または置換基である。R1、R3、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、およびR20が置換基である場合、置換基としては、上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられる。
一般式(1−1)において、R1、R5、R6、およびR10は、原材料の入手および合成の容易さの観点から、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、カルボキシル基、またはハロゲン原子を表すことが好ましく、より好ましくは置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基であり、特に好ましくは置換もしくは無置換のアルキル基である。アルキル基としては、炭素数が1以上、6以下のアルキル基が好ましく、炭素数が1以上、3以下のアルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。また、各基が置換基を有する場合の置換基としては、上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられる。
一般式(1−1)において、R4およびR9は、原材料の入手および合成の容易さ、印刷物の耐光性、耐オゾン性、発色性、彩度の観点から、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアシルアミノ基、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニルアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ基、置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルウレイド基、置換もしくは無置換のアリールウレイド基、スルホ基、カルボキシル基、またはハロゲン原子であることが好ましく、より好ましくは水素原子、置換もしくは無置換のアシルアミノ基、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニルアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ基、置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルウレイド基、置換もしくは無置換のアリールウレイド基、またはスルホ基であり、特に好ましくは水素原子またはスルホ基である。また、各基が置換基を有する場合の置換基としては上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられる。
一般式(1−1)において、R3およびR8は、原材料の入手および合成の容易さの観点から、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のアシルアミノ基、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニルアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ基、置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ基、置換もしくは無置換のアルキルウレイド基、置換もしくは無置換のアリールウレイド基、スルホ基、カルボキシル基、またはハロゲン原子であることが好ましく、より好ましくは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、またはスルホ基であり、特に好ましくは置換もしくは無置換のアルキル基である。アルキル基としては、炭素数が1以上、6以下のアルキル基が好ましく、炭素数が1以上、3以下のアルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。また、各基が置換基を有する場合の置換基としては、上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられる。
一般式(1−1)において、R11、R14、R13、R16、R17、R18、R19およびR20は、原材料の入手および合成の容易さの観点から、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、またはスルホ基であることが好ましく、より好ましくは水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、またはスルホ基であり、特に好ましくは水素原子である。また、各基が置換基を有する場合の置換基としては、上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられる。
一般式(1−1)において、R12およびR15は、原材料の入手および合成の容易さの観点から、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、ハロゲン原子、またはスルホ基が好ましく、より好ましくは水素原子またはスルホ基である。また各基が置換基を有する場合の置換基としては、上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられる。
また、水への溶解性の観点から、一般式(1−1)において、R1、R3、R4、R5、R6、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、およびR20の少なくとも1つは、カルボキシル基、スルホ基、またはホスホノ基などのイオン性親水性基を有することが好ましい。これらのイオン性親水性基の対カチオンとしては、水素原子(プロトン)、アルカリ金属カチオン(リチウムイオン、ナトリウムイオン、またはカリウムイオン)、アンモニウムイオンなどが挙げられる。これらの中でも、合成の容易性(染料粉末としての取り扱いの容易さ)の観点から、アルカリ金属カチオンであることが好ましい。
一般式(1−1)において、R101およびR102はそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロ環基、置換もしくは無置換のアルキルスルホニル基、置換もしくは無置換のアリールスルホニル基、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、置換もしくは無置換のモノアルキルアミノカルボニル基、置換もしくは無置換のジアルキルアミノカルボニル基、置換もしくは無置換のモノアリールアミノカルボニル基、置換もしくは無置換のジアリールアミノカルボニル基、または置換もしくは無置換のアルキルアリールアミノカルボニル基である。
R101およびR102が置換もしくは無置換のアルキル基である場合のアルキル基としては、炭素数が1以上、6以下のアルキル基が好ましく、炭素数が1以上、3以下のアルキル基がより好ましく、メチル基またはエチル基がさらに好ましい。また、アルキル基が置換基を有する場合の置換基としては上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられ、アリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
R101およびR102が置換もしくは無置換のアリール基である場合のアリール基としては、炭素数が6以上、14以下のアリール基が好ましく、炭素数が6以上、10以下のアリール基がより好ましく、フェニル基がさらに好ましい。また、アリール基が置換基を有する場合の置換基としては上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられる。
R101およびR102が置換もしくは無置換のヘテロ環基である場合のヘテロ環基としてはトリアジン基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、またはチアジアゾリル基が好ましい。また、ヘテロ環基が置換基を有する場合の置換基としては上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられ、置換もしくは無置換のアミノ基、置換もしくは無置換のスルファモイル基が好ましい。
R101およびR102が置換もしくは無置換のアルキルスルホニル基である場合のアルキルスルホニル基としては、炭素数が1以上、6以下のアルキルスルホニル基が好ましく、炭素数が1以上、3以下のアルキルスルホニル基がより好ましく、メチルスルホニル基がさらに好ましい。また、アルキルスルホニル基が置換基を有する場合の置換基としては上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられる。
R101およびR102が置換もしくは無置換のアリールスルホニル基である場合のアリールスルホニル基としては、炭素数が6以上、14以下のアリールスルホニル基が好ましく、炭素数が6以上、10以下のアリールスルホニル基がより好ましく、フェニルスルホニル基がさらに好ましい。また、アリールスルホニル基が置換基を有する場合の置換基としては上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられ、カルボキシル基が特に好ましい。
R101およびR102が置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基である場合のアルコキシカルボニル基としては、−COOR201で表されることが好ましい。ここでR201は炭素数が1以上、6以下のアルキル基であり、炭素数が1以上、4以下のアルキル基が好ましく、イソプロピル基がより好ましい。また、アルコキシカルボニル基が置換基を有する場合の置換基としては上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられる。
R101およびR102が置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基である場合のアリールオキシカルボニル基としては、−COOR202で表されることが好ましい。ここでR202は炭素数が6以上、14以下のアリール基であり、炭素数が6以上、10以下のアリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。また、アリールオキシカルボニル基が置換基を有する場合の置換基としては上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられ、ニトロ基が特に好ましい。
R101およびR102が置換もしくは無置換のモノアルキルアミノカルボニル基である場合のモノアルキルアミノカルボニル基としては、−CONHR203で表されることが好ましい。ここでR203は炭素数が1以上、12以下のアルキル基であり、炭素数が1以上、10以下のアルキル基が好ましく、炭素数が1以上、6以下のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基、シクロヘキシル基がさらに好ましく、イソプロピル基が特に好ましい。また、モノアルキルアミノカルボニル基が置換基を有する場合の置換基としては上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられ、フェニル基、カルボキシル基、置換もしくは無置換のアミノ基、ヒドロキシル基が特に好ましい。
R101およびR102が置換もしくは無置換のジアルキルアミノカルボニル基である場合のジアルキルアミノカルボニル基としては、−CONR204R205で表されることが好ましい。ここでR204およびR205はそれぞれ独立に炭素数が1以上、10以下のアルキル基であり、炭素数が1以上、6以下のアルキル基が好ましく、メチル基、イソプロピル基がより好ましい。また、ジアルキルアミノカルボニル基が置換基を有する場合の置換基としては上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられ、カルボキシル基、アルキルオキシカルボニル基(好ましくは炭素数が2以上、6以下のアルキルオキシカルボニル基であり、より好ましくはエチルオキシカルボニル基)が特に好ましい。
R101およびR102が置換もしくは無置換のモノアリールアミノカルボニル基である場合のモノアリールアミノカルボニル基としては、−CONHR206で表されることが好ましい。ここでR206は炭素数が6以上、14以下のアリール基であり、炭素数が6以上、12以下のアリール基が好ましく、炭素数が6以上、10以下のアリール基がより好ましい。具体的には、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。また、モノアリールアミノカルボニル基が置換基を有する場合の置換基としては上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられ、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ホスホノ基、アルコキシ基(好ましくは炭素数が1以上、6以下のアルコキシ基であり、より好ましくはシクロヘキシルオキシ基)が特に好ましい。
R101およびR102が置換もしくは無置換のジアリールアミノカルボニル基である場合のジアリールアミノカルボニル基としては、−CONR207R208で表されることが好ましい。ここでR207およびR208はそれぞれ独立に炭素数が6以上、14以下のアリール基であり、炭素数が6以上、10以下のアリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。また、ジアリールアミノカルボニル基が置換基を有する場合の置換基としては上記の置換基群から選ばれる置換基が挙げられる。
R101およびR102は、印刷物の彩度、耐光性、耐オゾン性の観点から、好ましくは置換もしくは無置換のアルキルスルホニル基、置換もしくは無置換のアリールスルホニル基、置換もしくは無置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、置換もしくは無置換のモノアルキルアミノカルボニル基、置換もしくは無置換のジアルキルアミノカルボニル基、置換もしくは無置換のモノアリールアミノカルボニル基、または置換もしくは無置換のジアリールアミノカルボニル基であり、より好ましくは置換もしくは無置換のアルキルスルホニル基、置換もしくは無置換のアリールスルホニル基、置換もしくは無置換のモノアルキルアミノカルボニル基、置換もしくは無置換のジアルキルアミノカルボニル基、置換もしくは無置換のモノアリールアミノカルボニル基、または置換もしくは無置換のジアリールアミノカルボニル基であり、特に好ましくは置換もしくは無置換のモノアルキルアミノカルボニル基、置換もしくは無置換のジアルキルアミノカルボニル基、置換もしくは無置換のモノアリールアミノカルボニル基、または置換もしくは無置換のジアリールアミノカルボニル基である。
二次色インクにマゼンタ染料(1−1)を用いることにより、従来よりも少ない含有量で、すなわち低固形分量でも印刷物の発色性を確保することができ、吐出ノズルにおける目詰まりが発生しにくくなる。
二次色インクに含まれるマゼンタ染料(1−1)の含有量は、上述したように、インク全質量に対して、0.1質量%以上、2.4質量%以下である。好ましくは、1.0質量%以上、2.0質量%以下である。マゼンタ染料(1−1)の含有量を上記範囲とすることにより、発色性を確保すると共に、インク粘度の増大、および吐出ノズルなどにおけるインクの乾燥を抑えることができる。
二次色インクに使用する、染料基本骨格が対称構造を持ち、かつ最大吸収波長を500nmから560nmまでの範囲以外に持つイエロー染料としては、例えば、一般式(2−1)、一般式(2−2)で表される化合物などが挙げられ、これらのうちの1種以上を用いる。また、イエロー染料は、本発明の目的を達成できる限りにおいて、上記以外の、基本骨格が対称構造を持っているイエロー染料を含んでもよい。
(一般式(2−1)において、R
Y1、R
Y2、Y
1、およびY
2は、1価の基であり、X
1、X
2は、それぞれ独立にハメットのδp値0.20以上の電子吸引性基である。Z
1、Z
2はそれぞれ独立に、水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアラルキル基、置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロ環基である。Mは、水素原子またはカチオンである。)
(一般式(2−2)において、Qはハロゲン原子である。Mは、水素原子、アルカリ金属、NH
4である。x1は2以上、4以下の整数であり、y1は1以上、3以下の整数である。)
このようなイエロー染料としては、具体的には、例えば、C.I.(Color Index Generic Name)ダイレクトイエロー86、132、173、C.I.アシッドイエロー38、42、56、87、C.I.リアクティブイエロー84、208、HEXLなどが挙げられる。
イエロー染料に対するマゼンタ染料(1−1)の質量比が、イエロー染料を1としたとき、1.25以上、3.00以下であることが好ましい。これによれば、マゼンタ染料(1−1)の質量に対してイエロー染料の質量が1.25倍以上であることにより、色再現性を向上させることが出来る。マゼンタ染料(1−1)の質量に対してイエロー染料の質量が3.00倍以下であることにより、色再現性をより向上させることができ、さらに目詰まりを発生させにくい二次色インクを提供することが出来る。
二次色インクに使用する、染料基本骨格が対称構造を持ち、かつ最大吸収波長を500nmから560nmまでの範囲以外に持つシアン染料としては、一般式(3−1)、一般式(3−2)で表される化合物などが挙げられ、これらのうちの1種以上を用いる。また、シアン染料は、本発明の目的を達成できる限りにおいて、上記以外の、基本骨格が対称構造を持っているシアン染料を含んでもよい。
(一般式(3−2)において、破線で表される環A
1,A
2,A
3,A
4は、それぞれ独立にポルフィラジン環に縮環したベンゼン環または6員環の含窒素複素芳香環であり、含窒素複素芳香環の個数は、平均値で0.00を超えて3.00以下であり、残りはベンゼン環である。R
1は、炭素数が2以上、12以下のアルキレン基である。Xは、置換基として、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基、スルファモイル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、炭素数が1以上、6以下のアルコキシ基、アミノ基、炭素数が1以上、4以下の、モノアルキルアミノ基またはジアルキルアミノ基、炭素数が6以上、10以下の、モノアリールアミノ基またはジアリールアミノ基、炭素数が1以上、3以下のアルキルカルボニルアミノ基、ウレイド基、炭素数が1以上、6以下のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数が1以上、6以下の、アルキルスルホニル基またはアルキルチオ基よりなる群から選択される1種類または2種類以上の置換基を有してもよい、スルホアニリノ基、カルボキシアニリノ基、ホスホノアニリノ基、スルホナフチルアミノ基、カルボキシナフチルアミノ基またはホスホノナフチルアミノ基である。Rは、水素原子、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基、スルファモイル基、カルバモイル基、ヒドロキシ基、炭素数が1以上、6以下のアルコキシ基、アミノ基、炭素数が1以上、6以下の、モノアルキルアミノ基またはジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、炭素数が1以上、3以下のアルキルカルボニルアミノ基、ウレイド基、炭素数が1以上、6以下のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数が1以上、6以下のアルキルスルホニル基、またはアルキルチオ基である。基Fは、フェニル基または6員含窒素複素芳香環基であり、x2は、炭素数が1以上、6以下のアルキレン基であり、bは平均値で0.00以上、3.90未満であり、cは平均値で0.10以上、4.00未満であり、かつbおよびcの和は、平均値で1.00以上、4.00未満である。)
このようなシアン染料としては、具体的には、例えば、C.I.ダイレクトブルー10、12、15、106、151、152、158、162、164、166、167,190、199、231、C.I.リアクティブブルー171、204、C.I.アシッドブルー104などが挙げられる。
シアン染料に対するマゼンタ染料(1−1)の質量比が、シアン染料を1としたとき、1.00以上、1.50以下であることが好ましい。これによれば、マゼンタ染料(1−1)の質量に対してシアン染料の質量が1.00倍以上であることにより、色再現性を向上させることが出来る。マゼンタ染料(1−1)の質量に対してシアン染料の質量が1.50倍以下であることにより、色再現性をより向上させることができ、さらに目詰まりを発生させにくい二次色インクを提供することが出来る。
本実施形態において、マゼンタ染料(1−1)と混合して二次色インクとするために使用する染料は、上記の限りではない。染料の基本骨格が対称構造を持ち、かつ最大吸収波長を500nmから560nmまでの範囲以外に持つものであれば、上記以外の染料を使用してもよい。
そのような染料としては、具体的には、例えば、C.I.ダイレクトブラウン106、184、C.I.アシッドブラウン13、C.I.ダイレクトブラック19、29、122、C.I.アシッドブラック41、C.I.リアクティブレッド120,141、などが挙げられる。
二次色インクに対して、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクの基本色インクを組み合わせて、インクセットとして用いてもよい。インクセットとしては、上述した二次色インクの1種以上と、基本色インクの1種以上とを組み合わせてもよい。基本色インクには、公知の色材を用いることが可能である。公知の色材としては、染料または顔料が挙げられる。また、基本色インクに含まれる色材以外の成分は、以下に述べる二次色インクに用いる成分などが採用可能である。
(水)
水は、インクの主な媒体(溶媒)である。インクが記録媒体に付着されて印刷が施されると、水は記録媒体から乾燥によって蒸発飛散する。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水などの純水、ならびに超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものを用いることができる。また、紫外線照射や過酸化水素の添加などによって滅菌した水を使用すると、インクを長期間保存する場合に、カビやバクテリアの発生を抑制することができる。インクに含まれる水の含有量は、特に限定されないが、インクの全質量に対して、例えば、45質量%以上、好ましくは50質量%以上95質量%以下、さらには55質量%以上90質量%以下とすることが好ましい。
(有機溶剤)
インクには、有機溶剤を添加してもよい。有機溶剤を添加することにより、粘度、表面張力などのインクの物性や、記録媒体に付着させた際の乾燥、浸透などの挙動を制御することができる。有機溶剤としては、例えば、2−ピロリドン類、1,2−アルカンジオール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類などが挙げられる。これらは、1種単独または2種以上を用いることが可能である。
2−ピロリドン類とは、2―ピロリドン骨格を有する化合物のことをいう。2−ピロリドン類としては、例えば、置換基を有していない2−ピロリドンの他に、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどの置換基を有する化合物が用いられる。2―ピロリドン骨格における置換基は、炭素数が1以上、5以下の、飽和または不飽和の炭化水素基などの有機基が好ましい。これらの中でも、インクの保存安定性および凝集物の発生を抑制する効果に優れている、2−ピロリドンを用いることがより好ましい。
2−ピロリドン類を添加する場合の含有量は、インクの全質量に対して、0.9質量%以上、8.1質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、1.0質量%以上、8.0質量%以下である。2−ピロリドン類の含有量を上記の範囲内とすることにより、インクの粘度の増加を抑えて、インクの吐出安定性を向上させることができる。
1,2−アルカンジオール類としては、例えば、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオールなどが挙げられる。1,2−アルカンジオール類は、記録媒体に対するインクの濡れ性を高めて、均一に濡らす作用に優れている。そのため、滲みを抑えた印刷物を作製することができる。1,2−アルカンジオール類を添加する場合の含有量は、インクの全質量に対して、1質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,3−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリンなどが挙げられる。多価アルコール類をインクに添加することよって、インクジェットヘッドの吐出ノズル内におけるインクの乾燥固化を抑制して、吐出ノズルの目詰まりや吐出不良などを低減することができる。多価アルコール類を添加する場合の含有量は、インクの全質量に対して、2質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。なお、20℃では固体の多価アルコール類も、有機溶剤の多価アルコール類と同様な作用を有しており、同様に用いてもよい。20℃で固体の多価アルコール類としては、例えば、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。
グリコールエーテル類としては、例えば、アルキレングリコールモノエーテルやアルキレングリコールジエーテルなどが挙げられる。
アルキレングリコールモノエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。
アルキレングリコールジエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどが挙げられる。
グリコールエーテル類をインクに添加することよって、記録媒体に対する濡れ性や浸透速度を調整できるため、画像や模様などを鮮明に形成することができる。グリコールエーテル類を添加する場合の含有量は、インクの全質量に対して、0.05質量%以上、6質量%以下であることが好ましい。
上述した有機溶剤は、複数種を混合して用いてもよい。その場合、インクにおける有機溶剤の合計の含有量は、インクの全質量に対し、0.2質量%以上、30.0質量%以下であり、好ましくは、0.4質量%以上、20.0質量%以下であり、より好ましくは、0.5質量%以上、15.0質量%以下である。有機溶剤の合計の含有量を上記の範囲とすることにより、インクの粘度の増大の抑制、記録媒体に付着させた際の挙動(浸透および濡れ広がり)の調節、印刷時の吐出安定性の向上などが可能となる。
(界面活性剤)
インクには、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤は、インクの表面張力を低下させて、記録媒体に対する浸透性を高める機能を有している。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられ、これらのうちの少なくとも1種が採用可能である。
インクに界面活性剤を添加する場合の含有量は、インクの全質量に対し、0.01質量%以上、3.00質量%以下である。好ましくは、0.05質量%以上、2.00質量%以下であり、より好ましくは0.10質量%以上、1.00質量%以下であり、さらにより好ましくは、0.20質量%以上、0.50質量%以下である。界面活性剤の含有量を上記範囲とすることによって、起泡を抑えて印刷時の吐出安定性を確保すると共に、記録媒体に付着した際のインクの濡れ広がり(濡れ性)を向上させることができる。
ノニオン系界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などを用いることができる。これらの界面活性剤を用いることにより、比較的に少量の含有量で、記録媒体に対する濡れ性を向上させることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキシド付加物、2,4−ジメチル−5−デシン−4−オール、2,4−ジメチル−5−デシン−4−オールのアルキレンオキシド付加物、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オールなどのアルキレンオキシド付加物が挙げられる。
このようなアセチレングリコール系界面活性剤としては、市販品を用いてもよい。例えば、サーフィノール(登録商標)104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG−50、104S、420、440、465、485、SE、SE−F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上商品名、Air Products and Chemicals, Inc.社)、オルフィン(登録商標)B、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD−001、PD−002W、PD−003、PD−004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF−103、AF−104、AK−02、SK−14、AE−3(以上商品名、日信化学工業社)、アセチレノール(登録商標)E00、E00P、E40、E100(以上商品名、川研ファインケミカル社)などが挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、市販品が採用可能であり、例えば、メガファック(登録商標)F−479(商品名、DIC社)、BYK−340(商品名、BYK社)などが挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が採用可能である。ポリシロキサン化合物としては、特に限定されないが、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK−302、306、307、333、341、345、346、347、348(以上商品名、BYK社)、KF−351A、352A、353、354L、355A、615A、945、640、642、643、6020、6011、6012、6015、6017、X−22−4515(以上商品名、信越化学工業社)などが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸塩、石けん、α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、モノアルキルリン酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩、ポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテルリン酸エステル塩などが挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩化合物、N−メチルビスヒドロキシエチルアミン脂肪酸エステル塩酸塩などのアミン塩化合物が挙げられる。
両性界面活性剤としては、特に限定されないが、アルキルアミノ脂肪酸塩などのアミノ酸化合物が挙げられる。
上述した界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(その他の成分)
インクには、その他の成分として、pH調整剤、防腐剤、防かび剤、酸化防止剤、キレート剤、定着剤(樹脂微粒子)などの種々の添加剤を添加してもよい。
[インクの調製]
本実施形態のインクは、上述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過などを実施して不純物や異物などを除去することで調製する事が出来る。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネットスターラーなどの撹拌装置を備えた容器に、材料を順序添加して撹拌、混合する方法が用いられる。濾過の方法としては、遠心濾過、フィルター濾過などがある。
[インクの物性]
インクの25℃における表面張力は、10mN/m以上、40mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN/m以上、40mN/m以下であり、さらに好ましくは、20mN/m以上、35mN/m以下である。25℃における表面張力を、上記の範囲とすることにより、印刷を行う際に、吐出ノズルからのインクの吐出安定性が向上する。また、印捺物に高精細な画像などを形成することができる。なお、インクの表面張力は、例えば、自動表面張力計CBVP−Z(協和界面科学社)を用いて、25℃の環境下にて、白金プレートの一部をインクに浸漬させて測定することが可能である。
表面張力と同様な観点から、インクの20℃における粘度は、2mPa・s(ミリパスカル秒)以上、15mPa・s以下であることが好ましい。より好ましくは、2mPa・s以上、10mPa・s以下であり、さらに好ましくは、3mPa・s以上、6mPa・s以下である。なお、インクの粘度は、例えば、粘弾性試験機MCR−300(Pysica社)を用いて測定することが可能である。具体的には、インクの温度を20℃に調整し、Shear Rateを10から1000に上げ、Shear Rateが200のときの粘度を読み取ることにより測定される。
[インクジェット記録装置]
インクジェット記録装置について、図1を参照して説明する。インクジェット記録装置は、インクの液滴を吐出するインクジェット法によって、記録媒体などに液滴を着弾させて印刷を行う装置である。図1は、インクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図である。本実施形態では、インクジェット記録装置として、インクカートリッジがキャリッジに搭載されたオンキャリッジタイプのプリンターを例に挙げて説明する。なお、図1においては、各部材を認識可能な程度の大きさとするため、各部材の尺度を実際とは異ならせしめている。
図1に示すプリンター1は、いわゆるシリアルプリンターと呼ばれているものである。シリアルプリンターとは、所定の方向に移動するキャリッジにインクジェットヘッドが搭載されており、キャリッジの移動に伴ってインクジェットヘッドが移動しながら印刷を行うプリンターをいう。
プリンター1は、図1に示すように、インクジェットヘッド3、キャリッジ4、主走査機構5、プラテンローラー6、プリンター1全体の動作を制御する制御部(図示せず)を有している。キャリッジ4は、インクジェットヘッド3を搭載すると共に、インクジェットヘッド3に供給されるインクを収納するインクカートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fが着脱可能である。
主走査機構5は、キャリッジ4に接続されたタイミングベルト8、タイミングベルト8を駆動するモーター9、ガイド軸10を有している。ガイド軸10は、キャリッジ4の支持部材として、キャリッジ4の走査方向(主走査方向)に架設されている。キャリッジ4は、タイミングベルト8を介してモーター9によって駆動され、ガイド軸10に沿って往復移動が可能である。これにより、主走査機構5は、キャリッジ4を主走査方向に往復移動させる機能を有している。
プラテンローラー6は、印刷を行う記録媒体2を、上記主走査方向と直交する副走査方向(記録媒体2の長さ方向)に、搬送する機能を有している。そのため、記録媒体2は副走査方向に搬送される。また、インクジェットヘッド3が搭載されるキャリッジ4は、記録媒体2の幅方向と略一致する主走査方向に往復移動が可能であり、インクジェットヘッド3は記録媒体2に対して、主走査方向および副走査方向へ、相対的に走査が可能となっている。
インクカートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fは、独立した6つのインクカートリッジである。インクカートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fには、ブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクの基本色インク、本実施形態の二次色インクを複数種収納することができる。これらのインクは、インクカートリッジ7aからインクカートリッジ7fに個別に収納され、任意に組み合わせて用いることが可能である。図1では、インクカートリッジの数を6個としているが、これに限定されるものではない。インクカートリッジ7a,7b,7c,7d,7e,7fの底部には、各インクカートリッジに収納されたインクをインクジェットヘッド3へ供給するための供給口(図示せず)が設けられている。
インクジェットヘッド3は、記録媒体2と対向する面にノズル面(図示せず)を有している。ノズル面には、複数の吐出ノズル(図示せず)からなるノズル列(図示せず)が各色インクに対応して個別に配置されている。各色インクは、各インクカートリッジからインクジェットヘッド3に供給され、インクジェットヘッド3内のアクチュエーター(図示せず)によって、吐出ノズルから液滴として吐出される。吐出されたインクの液滴は記録媒体2に着弾し、画像、テキスト、模様、色彩などが記録媒体2に形成される。
ここで、インクジェットヘッド3では、アクチュエーター(駆動手段)として圧電素子を用いているが、この方式に限定されない。例えば、アクチュエーターとしての振動板を静電吸着により変位させる電気機械変換素子や、加熱によって生じる気泡によってインクを液滴として吐出させる電気熱変換素子を用いてもよい。
なお、本実施形態では、インクジェット記録装置としてオンキャリッジタイプのプリンター1を例に挙げたが、これに限定されない。例えば、インクカートリッジなどのインク収納容器が、キャリッジに搭載されない、オフキャリッジタイプのプリンターであってもよい。また、インクジェット記録装置は、上述したシリアルプリンターに限定されるものではなく、インクジェットヘッドが記録媒体2の幅と同等以上に広く形成され、インクジェットヘッドが移動せずに印刷を行うラインヘッドプリンターであってもよい。
記録媒体2は、印刷物の用途や印刷に用いるインクの種類に応じて適宜選択される。本実施形態のように水系インクを用いる場合の記録媒体2としては、例えば、水系インクの浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙(インクジェット専用紙)、アート紙、コート紙、キャスト紙などの紙類、天然繊維や化学繊維を用いた布帛などが挙げられる。本実施形態のインクは、水系の染料インクであることから、上述した記録媒体2の中でも、普通紙、インクジェット用紙(インクジェット専用紙)などに好適に用いることができる。
[インクジェット記録方法]
次に、プリンター1およびインクを用いた、インクジェット記録方法について説明する。
本実施形態のインクジェット記録方法は、インクを、記録媒体2へ付着させる工程を備えている。該工程では、プリンター1のインクジェットヘッド3から、記録媒体2に対してインク滴(インクの液滴)を吐出させる。このとき、インク滴を、所定のタイミングで間欠的に、かつ所定の質量で吐出させることにより、記録媒体2にインク滴を着弾、付着させ、所望の画像、文字、模様、色彩などのデザインが印刷される。これによって、印刷物が作製される。
以上に述べたように、本実施形態の二次色インクによれば、以下の効果を得ることができる。
従来よりも印刷物の色再現性および発色性が向上し、吐出ノズルでの目詰まりが発生しにくい二次色のインクを提供することが出来る。
マゼンタ染料(1−1)の発色性が高いため、従来よりも低い含有量で発色性を確保でき、インクジェットヘッド3(吐出ノズル)において目詰まりが発生しにくいインクを提供することができる。また、マゼンタ染料(1−1)を用いることにより、印刷物における、耐オゾン性、耐湿性などを向上させることができる。
マゼンタ染料(1−1)と、一般式(2−1)、一般式(2−2)で表されるイエロー染料などとを併用すると、イエロー領域の色域が拡大されて、色再現性を向上させることができる。
マゼンタ染料(1−1)と、一般式(3−1)、一般式(3−2)で表されるシアン染料などとを併用すると、シアン領域の色域が拡大されて、色再現性を向上させることができる。
基本骨格で対称構造を持つ染料を2つ以上混合することによって、染料分子同士が相互作用を持ち、染料分子間での隙間が減少し、会合性が向上する。この会合性の高いインクは、会合性の低い染料を使用したインク組成物と比較して、オゾン分子が介入しにくい。そのため、オゾン分子による染料分子の分解が抑制されて、印刷物の耐オゾン性能を向上させたインクを提供することができる。
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以降の評価は、特にことわりが無い場合は、温度25℃、相対湿度40%の環境下で行った。
[インク組成物の調製]
実施例および比較例のインクの組成を表1に示す。インクは、表1に記載の成分を任意の順序で混合し、30分以上混合し、必要に応じて濾過などを実施して不純物や異物などを除去することで調製することができる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネティックスターラーなどの撹拌装置を備えた容器に、材料を順次添加して撹拌、混合する方法が用いられる。濾過の方法としては、遠心濾過、フィルター濾過などが採用できる。なお、表1における数値の単位は、「質量%」である。
有機溶剤として、グリセリン、およびトリエチレングリコールモノブチルエーテル(表1中では、略称「TEGmBE」にて表記した。)を用いた。界面活性剤として、共にノニオン系(アセチレングリコール系)界面活性剤の、オルフィン(登録商標)E1010(商品名、日信化学工業社)、およびサーフィノール(登録商標)104PG−50(商品名、Air Products and Chemicals, Inc.社)(表中では、「104PG50」と表記した。)を用いた。イオン交換水は、実施例および比較例の各インクの全質量が100.0質量%となるように、調整して添加した。
ここで、実施例および比較例のインクには、以下に述べる染料を用いた。マゼンタ染料(1−1)として、下記一般式(a)で表されるマゼンタ染料(a)、マゼンタ染料(1−2)として、下記一般式(b)で表されるマゼンタ染料(b)、マゼンタ染料(1−3)として、下記一般式(c)で表されるマゼンタ染料(c)を用いた。
また、イエロー染料(2−1)として、下記一般式(d)で表されるイエロー染料(d)、イエロー染料(2−2)として、下記一般式(e)で表されるイエロー染料(e)を用いた。
また、シアン染料(3−1)として、下記一般式(f)で表されるシアン染料(f)、シアン染料(3−2)として、下記一般式(g)で表されるシアン染料(g)を用いた。
ここで、マゼンタ染料(b)、マゼンタ染料(c)について説明する。基本骨格に対称構造を持たないマゼンタ染料(1−2)と、染料基本骨格が対称構造を持ち、かつ最大吸収波長を500nmから560nmまでの範囲以外に持つイエロー染料、シアン染料のうち1種以上と、を混合して二次色インク組成物を調合する。また、マゼンタ染料(1−3)は基本骨格が対称構造だが、アントラピリジン骨格を持ち、発色性が低い。このマゼンタ染料(1−3)と、染料基本骨格が対称構造を持ち、かつ最大吸収波長を500nmから560nmまでの範囲以外に持つイエロー染料、シアン染料のうち1種以上と、を混合して二次色インク組成物を調合する。
(一般式(g)において、破線で表される環A
1,A
2,A
3は、それぞれ独立にポルフィラジン環に縮環したベンゼン環または6員環の含窒素複素芳香環であり、含窒素複素芳香環の個数は、平均値で0.00を超えて3.00以下であり、残りはベンゼン環である。bは平均値で0.00以上、3.90未満であり、cは平均値で0.10以上、4.00未満であり、かつbおよびcの和は、平均値で1.00以上、4.00未満である。)
[色再現性の評価試験]
色再現性の指標として、各インク組成物(実施例1〜8、および比較例1〜5)の、c*値を評価した。具体的には、まず、各インクの水による希釈溶液を作成して、分光特性を測定した。分光特性の測定には、紫外可視近赤外分光光度計V−770(日本分光社)を用いた。測定に際しては、イオン交換水などの水を用いて、質量比1000倍に溶解、希釈し、該化合物の希釈水溶液を調整し、これを光路長1cmの石英セルに充填し、透過モードにて測定を行った。インク組成物のL*a*b*値は、測定された分光特性から、分光光度計付属の色彩分析プログラムを用いて求めた。c*値を上記のように算出し、以下の基準にて判定し、評価結果を表2に記載した。
評価A:L*a*b*表色系のc*値が30以上。
評価B:L*a*b*表色系のc*値が20以上30未満。
評価C:L*a*b*表色系のc*値が20未満。
[評価用の印刷物の作製]
実施例および比較例のインクをそれぞれ充填したインクカートリッジを、インクジェットプリンターEP−10VA(商品名、セイコーエプソン株式会社製)に装着した。次に、色補正なしモードで、画像解像度600dpi(Dots Per inch)の印刷条件にて、写真用紙(インクジェット専用紙:セイコーエプソン株式会社製)にベタ印刷した。この印刷物を3時間乾燥させた後、評価用の印刷物とした。
[発色性評価]
発色性の指標として、各インクを用いた印刷物の、OD(Optical Density)値を評価した。測色器i1(商品名、X−Rite社)を用い、光源フィルター無し、光源D50、視野角2度の測定条件にて、各インクをベタ印刷した領域のOD値を測定した。また、以下の基準に従って該数値を評価し、その結果を、表2に記載した。
評価A:OD値が、1.90以上。
評価B:OD値が、1.70以上、1.90未満。
評価C:OD値が、1.70未満。
[耐オゾン性評価]
耐オゾン性の指標として、オゾン含有雰囲気下に印刷物を暴露して、OD値の変化を測定した。具体的には、上記発色性の評価に用いた初期のOD値が既知の印刷物を、23℃、相対湿度50%、オゾン濃度5ppmの雰囲気下に暴露した。一定時間ごとに印刷物を取り出し、発色性の評価と同様にしてODを測定した後、再び暴露することを繰り返して、OD値の減少の傾向を調査した。そのデータを、オゾン含有雰囲気下への暴露合計時間(以降、単に「暴露時間」ともいう。)とRODとについて、以下の基準に従って評価し、その結果を耐オゾン性評価として表2に記載した。
評価A:暴露時間80時間経過時までにRODが70%まで減少しない。
評価B:RODが70%まで減少するのが、暴露時間64時間以上、80時間未満。
評価C:RODが70%まで減少するのが、暴露時間64時間未満。
[耐湿性評価]
上記印刷方法にて文字(該インクで印字された文字、および、該インクで囲まれた白抜き文字)を含むパターンを印刷した。得られた印刷物を温度40℃、相対湿度85%に設定した恒温槽に7日間放置し、上記パターンにおける滲みの傾向を目視にて調査した。そのデータを、以下の基準に従って評価し、その結果を耐湿性評価として表2に記載した。
評価A:パターンにおける滲みがほとんど観察されない。
評価B:パターンにおける滲みが観察され、文字の輪郭が崩れている。
評価C:パターンにおける滲みが観察され、文字太り、および白抜き文字の全体が着色されている。
[目詰まり回復性評価]
吐出ノズルにおける目詰まり回復性を評価した。具体的には、各インクを充填したインクカートリッジを、インクジェットプリンターEP−10VA(商品名、セイコーエプソン株式会社製)に装着した。次いで、ヘッドクリーニングを実施したのち、ノズルチェックパターンを印刷して、全ての吐出ノズルが正常に吐出していることを確認した。このインクジェットプリンターを温度40℃、相対湿度25%の恒温槽に35日間放置した。上記の放置後、ノズルチェックパターンを印刷して吐出の状態を観察した。不吐出ノズルや、ドットのヨレ、細り、太りなどの吐出不良が発生していた場合は、ヘッドクリーニングを行って、全ての吐出ノズルが正常に吐出するまでヘッドクリーニングを繰り返した。全ての吐出ノズルが回復するのに要したヘッドクリーニングの回数を記録した。そのデータを、以下の基準に従って評価し、その結果を目詰まり回復性として表2に記載した。
評価A:吐出不良が発生しない、またはヘッドクリーニング回数が1回である。
評価B:ヘッドクリーニング回数が2回以上、5回以下である。
評価C:ヘッドクリーニング回数が6回以上である。
表2に示したように、色再現性評価では、実施例2、実施例5、実施例7、実施例8が「適」レベルに相当するB評価となり、その他の実施例が「好適」レベルに相当するA評価となった。これにより、全ての実施例において、色再現性が向上することが示された。
発色性評価では、実施例2、実施例5、実施例6が「適」レベルに相当するB評価となり、その他の実施例が「好適」レベルに相当するA評価となった。これにより、全ての実施例において、発色性が向上することが示された。
耐オゾン性評価では、実施例2が「適」レベルに相当するB評価となり、その他の実施例が「好適」レベルに相当するA評価となった。これにより、全ての実施例において、印刷物の耐オゾン性が向上することが示された。
耐湿性評価では、実施例5、実施例6が「適」レベルに相当するB評価となり、その他の実施例が「好適」レベルに相当するA評価となった。これにより、全ての実施例において、印刷物の耐湿性が向上することが示された。
目詰まり回復性評価では、実施例3、実施例4が「適」レベルに相当するB評価となり、その他の実施例が「好適」レベルに相当するA評価となった。これにより、全ての実施例において、目詰まり回復性が向上することが示された。
一方、比較例2、比較例4、比較例5では、対象構造を持つが発色性の低いマゼンタ染料(1−3)を使用しているため、色再現性評価、および印刷物の発色性評価が「不適」レベルに相当するC評価となり、色再現性、および印刷物の発色性を確保しにくいことが分かった。
また、比較例3では、マゼンタ染料(1−3)の含有量を6.00質量%としたため、発色性がB評価となった。しかし、これは発色性を確保できる固形分濃度(染料の含有量)のインク組成であり、目詰まり回復性評価が、「不適」レベルに相当するC評価となった。これにより、目詰まり回復性を確保しにくいことが分かった。
比較例1では、対象構造を持たないマゼンタ染料(1−2)を使用しているため、耐オゾン性評価が「不適」レベルに相当するC評価となり、耐オゾン性を確保しにくいことが分かった。