以下、実施例、比較例、調製例および参考例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1 システインタグを有するレクチンの作製
実施例1では、大腸菌を用いて、システインを含むオリゴペプチドからなる担体固定化用タグ(以下、システインタグ)を付加したレクチンを作製した。
(1)プラスミドpET−BC2LCNcysの作製
以下(a)から(e)記載の方法により、配列番号3に示したレクチンのアミノ酸配列をコードした配列番号4のポリヌクレオチドを作製した。
(a)以下の試薬組成および反応条件にて、1段階目のPCR反応を行った。
(試薬組成、総反応液量:50μL)
・0.025unit/μL PrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ製)
・各30nM 配列番号5から28に示したプライマー
・酵素に付属する緩衝液
(反応条件)
・サーマルサイクラーを用い、98℃・10秒間、55℃・5秒間、72℃・60秒間のPCR反応を5サイクル実施した。
(b)次に、(a)の反応液を用いて、以下の試薬組成および反応条件にて、2段階目のPCR反応を行った。
(試薬組成、総反応液量:50μL)
・0.025unit/μL PrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ製)
・各500nM 配列番号29と30に示したプライマー
・1μL 1段階目のPCR反応液
・酵素に付属する緩衝液
(反応条件)
・サーマルサイクラーを用い、98℃・10秒間、55℃・5秒間、72℃・60秒間のPCR反応を30サイクル実施した。
(c)2段階目のPCR反応後の(b)の反応液をアガロースゲル電気泳動で泳動後、目的物に相当する0.5kbpのバンドを切り出し、そこからゲル抽出キットを用いてPCR産物を精製した。
(d)前記(c)で得られたPCR産物を、制限酵素NcoIとXhoIで二重消化し、消化後のDNAをプラスミドpET−28(+)の制限酵素NcoI−XhoIサイトに、DNA Ligation Kit ver.2.1(タカラバイオ製)を用いてライゲーションしてプラスミドを調製後、大腸菌BL21(DE3)へ形質転換し、組換え大腸菌BL21(DE3)/pET−BC2LCNcysを得た。
(e)前記(d)で得られた組換え大腸菌BL21(DE3)/pET−BC2LCNcysを培養し、集菌したのち、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン製)を用いてプラスミドpET−BC2LCNcys(5.6kbp)を得た。当該方法で得られたプラスミドpET−BC2LCNcysに挿入されているレクチンをコードする塩基配列を分析した結果、塩基配列は設計どおりであることを確認した。
(2)大腸菌を用いたレクチンの作製
前記(1)で得られた組換え大腸菌BL21(DE3)/pET−BC2LCNcysより、以下(f)から(j)記載の方法で、システインタグを付加したレクチンを作製した。
(f)組換え大腸菌BL21(DE3)/pET−BC2LCNcysを、30μg/mLのカナマイシンを添加したLB/Km液体培地に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行った。培養液の濁度(O.D.600)が0.6になるように植菌後、37℃で培養した。
(g)前培養液を30μg/mLのカナマイシンを添加したTB/Km液体培地1Lに接種し、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(O.D.600)が凡そ0.6になったところで、培養温度を20℃に切り替え、一晩培養した。
(h)培養終了後、培養液を氷冷したのち、遠心分離により集菌した。集めた菌体を20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)および1mMフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を添加したBugBuster Protein Extraction Reagent(メルク製)を用いて処理し、可溶性画分を150mL得た。
(i)前記(h)で得られた可溶性画分の溶液を、150mMの塩化ナトリウムと20mMイミダゾールを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で平衡化した担体(His・Bind Resin、メルク製、担体容積15mL)を充填したカラムに通液し、可溶性画分に含まれるシステインタグを付加したレクチンを吸着させた。担体に吸着したシステインタグを付加したレクチンを150mMの塩化ナトリウムと250mMイミダゾールを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)で溶出させることにより、目的のシステインタグを付加したレクチンを含む溶出液を50mL得た。
(j)前記(i)で得られたシステインタグを付加したフコース結合性レクチンを含む溶出液を、D−PBS(−)(和光純薬製)に対して透析することにより、目的のシステインタグを付加したレクチンのD−PBS(−)溶液を75mL得た。
得られたD−PBS(−)溶液中のシステインタグを付加したレクチン濃度を紫外線吸収法により測定し、280nmにおける吸光度が1.0の場合のシステインタグを付加したレクチン濃度を1.0mg/mLとして濃度を算出した結果、濃度は1.2mg/mLであった。
(3)システインタグを付加したレクチンの糖鎖への親和性評価
前記(2)で得られたシステインタグを付加したレクチンの糖鎖に対する結合性評価は、表面プラズモン共鳴法により行った。具体的には、Biacore T100機器(GEヘルスケア製)を用い、アナライトとしてシステインタグを付加したレクチン、固相としてHタイプ1型糖鎖(Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc)、Hタイプ3型糖鎖(Fucα1−2Galβ1−3GalNAc)またはルイスY型糖鎖(Fucα1−2Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAc)を用い、各糖鎖に対する結合性を測定した。センサーチップはデキストランがコートされたSensor Chip CM5(GEヘルスケア製)を使用し、デキストランにストレプトアビジン(和光純薬)をアミンカップリング法により固定した後、ビオチン標識された各糖鎖(Glycotech製)を添加し、ビオチンとストレプトアビジンの反応により糖鎖をセンサーチップ上に固定して作製した。
糖鎖親和性の測定はカイネティクス解析により行った。緩衝液はHBS−EP+を用い、結合反応は流速30μL/分、結合時間は6分間、解離時間は3分間とした。センサーチップの再生は25mMの水酸化ナトリウムを用い、流速30μL/分、再生時間15秒で行った。アナライトタンパク質の濃度は1〜100nMで行った。解析は解析ソフト(Biacore T100 Evaluation Software、version 1.1.1)を用いて行い、1:1 Bindingのフィッティングにより解離定数を算出した。システインタグを付加したレクチンの各糖鎖に対する結合性評価(解離定数)の結果を表1に示した。
調製例1 無孔ポリウレタン粒子の作製
窒素置換した1リットルの円筒状ガラスフラスコ中に、ポリカーボネートジオール(東ソー製、N−980、1,6−ヘキサンジオール系、数平均分子量=1,000、水酸基価=112.2mgKOH/g)450.0gと、分散媒としてのイソオクタン(東京化成製)600g、分散安定剤(東ソー製、N−5741)15.0gを秤量した。
次に、撹拌を開始して、ポリカーボネートジオールをイソオクタン中に懸濁・分散させた状態で、ヘキサメチレンジイソシアネート(東ソー製、HDI、数平均分子量=168.2、イソシアネート含量=49.96%)151.4gを加えて、90℃で3時間反応させた。
反応液を逐次分析し、末端イソシアネート基の濃度が3.2%に達した時点で、架橋剤としてフレーク状のトリメチロールプロパン(三菱化学製)40.3g(ポリカーボネートジオールのモル数に対して1.00倍のモル量に相当)を加え、90℃で、さらに3時間反応させた。その後、固形分を濾別し、ウェットケーキを500gのイソオクタンで3回洗浄・濾別した後に乾燥し、ポリウレタン樹脂の粒子600gを調製した。
この粒子を超音波リング付きの振動ふるいを用いて分級し、500μm〜710μmの範囲の粒子を320g回収した。レーザー回折式粒度分布計(マイクロトラック・ベル製、MT−3200II型、水分散で計測)で計測した、ポリウレタン樹脂粒子の平均粒径は580μm、粒度範囲は498〜704μmであった。以下、調製例1で作製したポリウレタン樹脂粒子を細胞吸着剤として評価する場合は、吸着剤B0とする。
調製例2 多孔性架橋セルロース粒子の作製
160.7gの5M NaOH水溶液と74.6gの尿素と103.7gの水を混合することで8重量%NaOH−22重量%尿素混合水溶液を調製した。調製した300mLのNaOH−尿素混合水溶液に24.0gの濾紙粉末(ADVANTEC製、Cタイプ)を添加したのち、15℃に冷却した振盪機内で2時間撹拌することにより透明な8%セルロース溶液を調製した。
次に室温にて、1L容ステンレスビーカーに0.85%のエチルセルロース(cP45グレード、関東化学製)を含む400mLのトルエン(関東化学製)からなる連続相を添加し、室温にて連続相を撹拌した状態でセルロース溶液を滴下し、セルロース溶液が連続相に分散したセルロース分散液を得た。
撹拌を30分間継続後、目的の粒径を持つセルロース液滴が生成したことを光学顕微鏡にて確認したのち、容器を氷冷し、溶液中の温度が4℃になってからさらに60分間、撹拌を継続した。次に分散液に200mLのメタノール(関東化学製)を20分間かけて滴下し、メタノール滴下終了後、さらに10分間撹拌を継続することでセルロースゲルを得た。得られたセルロースゲルをエタノール(関東化学製)と水で洗浄することにより未架橋8%セルロース粒子を約280mL得た。次に、得られた未架橋8%セルロース粒子をグラスフィルター上で吸引ろ過し、サクションドライしたセルロース粒子(177.1g)を得た。グラスフィルター上のセルロース粒子全量を1L容のガラス製フラスコに添加したのち、487.5gの25重量%硫酸ナトリウム水溶液を添加し、反応溶液を50℃に設定したオイルバス中、撹拌羽根を用いて30分間撹拌振盪したのち、585mgの水素化ホウ素ナトリウム(関東化学製)及び3.25mLの48%NaOH水溶液(関東化学製)及び4.10mLのエピクロロヒドリン(東京化成製)を添加した。その後、30分間隔で、初回添加量を含めて合計8回、3.25mLの48%NaOH水溶液及び4.10mLのエピクロロヒドリンを添加する操作を繰り返したのち、さらに17.5時間、反応を継続させることで未架橋8%セルロース粒子のエピクロロヒドリンによる架橋反応を進行させた。架橋反応終了後、溶液をグラスフィルター上で吸引ろ過し、ろ液が中性になるまで水で洗浄することにより目的の架橋7%セルロース粒子を得た。得られた架橋7%セルロース粒子をステンレス製標準ふるいにより湿式分級し、架橋8%セルロース粒子を150mL得た。前述のレーザー回折式粒度分布計で計測した、このセルロース粒子の水に湿潤した状態での平均粒径は220μm、粒度範囲は150〜250μmであった。以下、調製例2で作製したセルロース粒子を細胞吸着剤として評価する場合は、吸着剤C0とする。
実施例2 吸着剤A1の作製
実施例2では、担体として市販多孔性合成高分子系担体(トヨパールHW−40EC、東ソー製)を用い、実施例1で作製した担体固定化用システインタグを付加したレクチンを固定化するための官能基(マレイミド基)の導入およびレクチン固定化を行うことにより、細胞の吸着剤A1を製造した。
トヨパールHW−40EC(東ソー製)は水で懸濁したものをステンレス製標準ふるいにより150−250μmの粒度範囲に湿式分級したのち、グラスフィルターでろ過したものを使用した。なお、150−250μmに分級したトヨパールHW−40ECを細胞吸着剤として評価する場合は、吸着剤A0とする。水に湿潤した状態での吸着剤A0の平均粒径は180μm、粒度範囲は150〜250μmであった。
100mL容のテフロン(登録商標)製容器に5.0gのトヨパールHW−40ECと、予め調製した10.0mLのテトラエチレングリコールジグリシジルエーテル水溶液(ナガセケムテックス製デナコールEX−821から調製、濃度100mg/mL)を添加したのち、30℃の振盪機内で30分間振盪したのち、反応容器に104μL(156mg、1.87mmol)の48%(約18.1M)NaOH水溶液を添加し、30℃の振盪機内で8時間振盪することによりトヨパールHW−40ECのエポキシ化を行なった。反応終了後、反応液をグラスフィルター上でろ液が中性になるまで水で洗浄した。次に、濾別したエポキシ化トヨパールHW−40ECウェットケーキの全量を100mL容のテフロン(登録商標)製容器に添加し、10.0mLの0.5M エチレンジアミン水溶液(東京化成製エチレンジアミンから調製)を添加したのち、50℃の振盪機内で3時間振盪することによりエポキシ化トヨパールHW−40ECのアミノ化を行なった。反応終了後、反応液をグラスフィルター上でろ液が中性になるまで水で洗浄した。次に、濾別したアミノ化トヨパールHW−40ECウェットケーキの全量を100mL容のテフロン(登録商標)製容器に添加し、10.0mLの3−マレイミドプロピオン酸 N−スクシンイミジル/DMSO溶液(和光純薬製3−マレイミドプロピオン酸 N−スクシンイミジルから調製、濃度10mg/mL)を添加したのち、35℃の振盪機内で4時間振盪することによりアミノ化トヨパールHW−40ECのマレイミド化を行なった。反応終了後、反応液をグラスフィルター上で20mLのDMSOで3回、30mLの水で5回洗浄することにより、目的のマレイミド化トヨパールHW−40ECを調製した。
次にマレイミド化トヨパールHW−40ECへのレクチン固定化を行なった。レクチン固定化には、実施例1で作製したレクチンのD−PBS(−)溶液を濃縮したものを使用した。また、マレイミド化トヨパールHW−40ECは水で懸濁したものをグラスフィルターでろ過したものを使用した。
920μLのレクチン溶液(濃度9.75mg/mL)に、5.02mLのD−PBS(−)と60μLの0.1Mトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP、和光純薬製)水溶液を添加して、担体固定化用レクチン溶液を調製した。
100mL容のテフロン(登録商標)製容器に4.5gのマレイミド化トヨパールHW−40ECウェットケーキ(スラリー状態では6.0mLに相当)を添加したのち、6.0mLの固定化用緩衝液(0.2Mリン酸ナトリウム、0.5M塩化ナトリウム、20mM EDTA、pH7.4)を添加した。次に、6.0mLの担体固定化用レクチン溶液(レクチン仕込み濃度:1.5mg/mL−担体)を添加し、35℃で15時間振盪することによりマレイミド化トヨパールHW−40ECへのレクチン固定化を行い、吸着剤A1を作製した。レクチン固定化終了後、吸着剤A1をD−PBS(−)で洗浄し、Micro BCA Protein Assay Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いて洗浄液中のレクチン量を測定し、固定化反応前のレクチン仕込み量から回収レクチン量を差し引くことにより、1mL当りの吸着剤A1のレクチン固定化量を算出した結果、固定化量は0.23mg/mL−吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤A1の平均粒径は177μm、粒度範囲は150〜260μmであった。
実施例3 吸着剤A2の作製
実施例3では、担体として市販多孔性合成高分子系担体(トヨパールHW−40EC、東ソー製)を用い、実施例2とは異なる方法により担体へのマレイミド基の導入を行ったのち、レクチン固定化を行うことにより、細胞の吸着剤A2を製造した。
トヨパールHW−40EC(東ソー製)は水で懸濁したものをステンレス製標準ふるいにより150−250μmの粒度範囲に湿式分級したのち、グラスフィルターでろ過したものを使用した。次に、サクションドライしたトヨパールHW−40ECを100mL容のテフロン(登録商標)製容器に8.0g秤量し、予め調製した50mMのターシャリーブトキシカリウム(東京化成製、t−BuOK)水溶液を50.0mL追加し、25℃の振盪機内で1.0時間撹拌することで担体表面へ水酸基を導入した。このスラリーをグラスフィルターで水洗・濾別した。
さらに、濾別した担体を100mL容のテフロン(登録商標)製容器に全量秤量し、予め調製した360mMのグルタルアルデヒド水溶液(東京化成製から調製)を50.0mL追加し、25℃の振盪機内で1.0時間撹拌して反応させた。このスラリーをグラスフィルターで水洗・濾別した。
続いて、濾別した担体を100mL容のテフロン(登録商標)製容器に全量秤量し、予め調製した360mMのトリス(2−アミノエチル)アミン水溶液(東京化成製から調製)を50.0mL追加し、25℃の振盪機内で1.0時間撹拌して官能基をアミノ化した。このスラリーをグラスフィルターで水洗・濾別した。
引き続き、濾別した担体を100mL容のテフロン(登録商標)製容器に全量秤量し、予め調製した26.4mMのNaBH4水溶液(シグマアルドリッチ製から調製)を50.0mL追加し、25℃の振盪機内で12.0時間撹拌して還元反応させた。このスラリーをグラスフィルターで水洗・濾別した。
濾別した担体を100mL容のテフロン(登録商標)製容器に全量秤量し、予め18.8mMの濃度で調製したN−スクシンイミジル−3−マレイミドプロピオネート(和光純薬製)のDMSO溶液を50.0mL追加し、35℃の振盪機内で4.0時間撹拌し、担体にマレイミド基を導入した。このスラリーをグラスフィルターで水洗・濾別した。
次に実施例2と同様の方法でレクチン固定化を行うことにより、吸着剤A2を作製した。なお、レクチン固定化反応の前後における上清を採取し、Pierce 660nm Protein Assay Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いて上清に含まれるレクチン量を測定し、反応前後の差から、1mLの吸着剤A2あたりのレクチン固定化量を計算した結果、固定化量は0.20mg/mL−吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤A2の平均粒径は185μm、粒度範囲は150〜240μmであった。
実施例4 吸着剤B1の作製
担体として調製例1で作製した無孔ポリウレタン粒子(粒径:500〜710μm)を用いた以外は、実施例2と同様の方法で担体へのマレイミド基の導入およびレクチン固定化を行うことにより、吸着剤B1を作製した。1mL当りの吸着剤B1のレクチン固定化量を算出した結果、固定化量は0.15mg/mL−吸着剤であった。また、水に湿潤した状態での吸着剤B1の平均粒径は580μm、粒度範囲は498〜704μmであった。
実施例5 吸着剤B2の作製
担体として調製例1で作製した無孔ポリウレタン粒子(粒径:500〜710μm)を用いた以外は、実施例3と同様の方法で担体へのレクチン固定化用官能基の導入およびレクチン固定化を行うことにより、吸着剤B2を作製した。1mL当りの吸着剤B2のレクチン固定化量を算出した結果、固定化量は0.17mg/mL−吸着剤であった。また、水に湿潤した状態での吸着剤B2の平均粒径は580μm、粒度範囲は498〜704μmであった。
実施例6 吸着剤C1の作製
担体として調製例2で作製した架橋8%セルロース粒子(粒径:150〜250μm)を用いた以外は、実施例2と同様の方法で担体へのマレイミド基の導入およびレクチン固定化を行うことにより、吸着剤C1を作製した。1mL当りの吸着剤C1の1mL当りのレクチン固定化量を算出した結果、固定化量は1.13mg/mL−吸着剤であった。また、水に湿潤した状態での吸着剤C1の平均粒径は210μm、粒度範囲は150〜250μmであった。
調製例3 親水性高分子が固定されたトヨパールHW−40ECの作製−1
トヨパールHW−40EC(東ソー製)はステンレス製標準ふるいにより150−250μmの粒度範囲に湿式分級したのち、グラスフィルターでろ過したものを使用した。250mL容のテフロン(登録商標)製容器に10.0gのトヨパールHW−40EC、10.8mL(54mmol)の5M NaOH水溶液(関東化学製)、5.0mLの水を添加したのち、5.0g(54mmol)のエピクロロヒドリン(東京化成製)と5.0mLのジメチルスルホキシド(DMSO、関東化学製)の混合溶液を添加し、30℃の振盪機内で3時間振盪することによりトヨパールHW−40ECのエポキシ化を行なった。反応終了後、溶液をグラスフィルター上でろ液が中性になるまで水で洗浄した。エポキシ化したトヨパールHW−40EC全量を250mL容のテフロン(登録商標)製容器に添加し、15.0gの40重量%デキストラン水溶液(分子量40,000、東京化成製)を添加したのち、30℃の振盪機内で30分間振盪した。次に、反応容器に1.05mL(1.58g、19mmol)の48%NaOH水溶液を添加し、30℃の振盪機内でさらに18時間振盪することにより、エポキシ化トヨパールにHW−40ECにデキストランを固定した。反応終了後、溶液をグラスフィルター上でろ液が中性になるまで水で洗浄することにより、目的のデキストラン修飾トヨパールHW−40EC(DEX40トヨパールHW−40EC)を調製した。以下、調製例3で作製したDEX40トヨパールHW−40ECを細胞吸着剤として評価する場合は、吸着剤D0とする。なお、水に湿潤した状態での吸着剤D0の平均粒径は180μm、粒度範囲は150〜250μmであった。
実施例7 親水性高分子が固定された吸着剤D1の作製
調製例3で作製したDEX40トヨパールHW−40ECを用い、実施例2と同様の方法で担体へのマレイミド基の導入およびレクチン固定化を行うことにより、吸着剤D1を作製した。1mL当りの吸着剤D1のレクチン固定化量を算出した結果、固定化量は0.25mg/mL−吸着剤であった。また、水に湿潤した状態での吸着剤D1の平均粒径は180μm、粒度範囲は150〜250μmであった。
実施例8 吸着剤D2の作製
担体として調製例3で作製したDEX40トヨパールHW−40ECを用いた以外は、実施例3と同様の方法で担体へのレクチン固定化用官能基の導入およびレクチン固定化を行うことにより、吸着剤D2を作製した。1mL当りの吸着剤D2のレクチン固定化量を算出した結果、固定化量は0.12mg/mL−吸着剤であった。また、水に湿潤した状態での吸着剤D1の平均粒径は180μm、粒度範囲は100〜250μmであった。
調製例4 親水性高分子が固定されたトヨパールHW−40ECの作製−2
調製例3において、40重量%デキストラン水溶液(分子量40,000、東京化成製)の代わりに、30重量%デキストラン水溶液(分子量450,000〜650,000、シグマアルドリッチ製)を用いた以外は調製例3と同様の方法でデキストランを固定することにより、目的のデキストラン修飾トヨパールHW−40EC(DEX550トヨパールHW−40EC)を調製した。以下、調製例4で作製したDEX550トヨパールHW−40ECを細胞吸着剤として評価する場合は、吸着剤E0とする。
実施例9 親水性高分子が固定された吸着剤E1の作製
調製例4で作製したDEX550トヨパールHW−40ECを用い、実施例2と同様の方法で担体へのマレイミド基の導入およびレクチン固定化を行うことにより、吸着剤E1を作製した。1mL当りの吸着剤E1のレクチン固定化量を算出した結果、固定化量は0.41mg/mL−吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤E1の平均粒径は180μm、粒度範囲は150〜250μmであった。
実施例10 親水性高分子が固定された吸着剤E2の作製
担体として調製例4で作製したDEX550トヨパールHW−40ECを用いた以外は、実施例3と同様の方法で担体へのレクチン固定化用官能基の導入およびレクチン固定化を行うことにより、吸着剤E2を作製した。1mL当りの吸着剤E2のレクチン固定化量を算出した結果、固定化量は0.35mg/mL−吸着剤であった。なお、水に湿潤した状態での吸着剤E2の平均粒径は180μm、粒度範囲は150〜250μmであった。
調製例5 親水性高分子が固定されたポリウレタン粒子の作製
担体として調製例1で作製した無孔ポリウレタン粒子(粒径:500〜710μm)を用いた以外は、調製例3と同様の方法でデキストラン(分子量40,000、東京化成製)を固定することにより、目的のデキストラン修飾ポリウレタン粒子(DEX40ポリウレタン粒子)を調製した。以下、調製例5で作製したDEX40ポリウレタン粒子を細胞吸着剤として評価する場合は、吸着剤F0とする。なお、水に湿潤した状態での吸着剤F0の平均粒径は580μm、粒度範囲は498〜704μmであった。
実施例11 親水性高分子が固定された吸着剤F1の作製
調製例5で作製したDEX40ポリウレタン粒子を用い、実施例2と同様の方法で担体へのマレイミド基の導入およびレクチン固定化を行うことにより、吸着剤F1を作製した。1mL当りの吸着剤F1のレクチン固定化量を算出した結果、固定化量は0.12mg/mL−吸着剤であった。また、水に湿潤した状態での吸着剤F1の平均粒径は580μm、粒度範囲は498〜704μmであった。
調製例6 親水性高分子が固定されたセルロース粒子の作製
担体として調製例2で作製した架橋8%セルロース粒子(粒径:150〜250μm)を用いた以外は、調製例4と同様の方法でデキストラン(分子量450,000−650,000、シグマアルドリッチ製)を固定することにより、目的のデキストラン修飾セルロース粒子(DEX550セルロース粒子)を調製した。以下、調製例6で作製したDEX550セルロース粒子を細胞吸着剤として評価する場合は、吸着剤G0とする。なお、水に湿潤した状態での吸着剤G0の平均粒径は220μm、粒度範囲は150〜250μmであった。
実施例12 親水性高分子が固定された吸着剤G1の作製
調製例6で作製したDEX550セルロース粒子を用い、実施例2と同様の方法で担体へのマレイミド基の導入およびレクチン固定化を行うことにより、吸着剤G1を作製した。1mL当りの吸着剤G1のレクチン固定化量を算出した結果、固定化量は0.76mg/mL−吸着剤であった。
調製例1から6および実施例2から12で作製した吸着剤を表2にまとめた。
実施例13 吸着剤C1および吸着剤G1への細胞の吸着実験
「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有するヒト胎児性がん細胞であるNT2/D1細胞(ATCC−CRL−1973)およびEmbryonal Carcinoma Cells Cl.4/D3細胞(コスモバイオ製、以下2102Ep細胞と記載)の培養は、10%FBS(Biological Industries製)と抗生物質溶液(ペニシリン−ストレプトマイシン溶液、和光純薬製)を添加したD−MEM培地(High Glucose、和光純薬製)を用い、直径6cmのシャーレ(コーニング製)または直径10cmのシャーレ(コーニング製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有さないヒトバーキットリンパ腫細胞であるRamos細胞(JCRB9119)は、10%FBS(Biological Industries製)と抗生物質溶液(ペニシリン−ストレプトマイシン溶液、和光純薬製)を添加したRPMI 1640培地(和光純薬製)を用い、浮遊培養用シャーレ(住友ベークライト製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。
2.5mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き100μmのポリエステルメッシュフィルター(BioLab製)を装着したカラムを作製した。実施例6で作製した吸着剤C1および実施例12で作製した吸着剤G1を前述のMACSバッファで置換したのち、50%懸濁液を調製し、作製したカラムに1.0mLの50%懸濁液を添加し、吸着剤をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。
接着系細胞であるNT2/D1細胞および2102Ep細胞は、培養終了後にトリプシン−EDTA溶液(SIGMA製)で処理して剥離したのち、遠心分離により細胞を回収した。浮遊細胞であるRamos細胞は、培養終了後に遠心分離により細胞を回収した。回収した細胞をMACSバッファで懸濁したのち、35μmのセルストレーナー(コーニング製)で処理することによりシングルセル化し、その細胞密度をコールターカウンター(ベックマンコールター製)で測定した。吸着剤を充填したカラムに、細胞添加数が0.4〜0.5×10^6個(0.8〜1.0×10^6個/mL−吸着剤)となるように調製した細胞懸濁液を50μL添加したのち、カラムに1.0mLのMACSバッファを通液して吸着剤を洗浄し、針部からの流出液を別容器に回収した(以下、この細胞液を流出細胞液と記載する)。回収した流出細胞液中の細胞濃度をコールターカウンターで測定し、それぞれのカラムについて細胞の流出率(%)を「流出率(%)=シリンジカラムあたりの流出細胞数/導入細胞数」として算出した。
表3に吸着剤への各細胞の吸着実験の結果を示した。また、図1に、カラムから取り出した吸着剤G1に結合したNT2/D1細胞および2102Ep細胞と、NT2/D1細胞および2102Ep細胞が結合しなかった吸着剤G0の蛍光顕微鏡画像を示した。なお、蛍光顕微鏡画像の撮影は、上記操作で回収したNT2/D1細胞および2102Ep細胞を、血清を含まないD−MEM培地に懸濁したのち、蛍光染色試薬であるBCECF−AM(同仁化学研究所製)を添加し、5%CO2雰囲気下、37℃で静置することにより蛍光染色試薬を各細胞内に取り込ませた後、各細胞をMACSバッファで洗浄後、シャーレ上で各吸着剤と接触させ、吸着剤に結合しなかった各細胞をMACSバッファ洗浄したのち、シャーレを蛍光顕微鏡で観察することで行った。
表3の結果から、「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有するNT2/D1細胞および2102Ep細胞は吸着剤C1および吸着剤G1に強く結合するため流出率が低く、前記糖鎖を有さないRamos細胞は吸着剤C1および吸着剤G1に結合しないため流出率が高くなることが明らかとなった。
比較例1 吸着剤C0および吸着剤G0への細胞の吸着実験
調製例2で作製した吸着剤C0および調製例6で作製した吸着剤G0を用いた以外は、実施例13と同様の方法で、細胞の吸着実験を行った。表3の結果から、前記糖鎖を有さないRamos細胞および前記糖鎖を有するNT2/D1細胞と2102Ep細胞は、いずれもレクチンを固定化してない吸着剤C0および吸着剤G0には結合しないため、流出率が高くなることが明らかとなった。
参考例1 粒径の異なる担体への細胞の通液実験
「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有さないマウス骨髄腫細胞であるSP2/0−Ag14細胞(DSファーマバイオメディカル製、以下、SP2/0細胞と記載)を浮遊培養用シャーレ(住友ベークライト製)にてGIT培地(日本製薬製)で5%CO2雰囲気下、37℃で培養を行った。細胞を50mLチューブに回収後、1500rpm、5分間遠心分離し、上清を廃棄した。次に、細胞ペレットを前述のMACSバッファにて懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞洗浄操作を2回繰り返した後、MACSバッファで懸濁を行い、セルストレーナーで濾過することで凝集塊を除去してシングルセル化し、均一な1.0x10^7個/mLのSP2/0細胞懸濁液を調製した。
次に、5.0mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μmのメッシュフィルター(日本BD製 セルストレーナチューブ蓋のメンブレンを取り出して使用)を装着したカラムを作製した。粒径が100〜300μmのトヨパールHW−40EC(東ソー製)と、粒径が50〜150μmのトヨパールHW−40C(東ソー製)を前述のMACSバッファで置換したのち、50%懸濁液を調製し、作製したカラムに4.0mLの50%懸濁液を添加し、吸着剤をカラムに充填した(吸着剤容量:2mL)。また、コントロールとして、担体を充填しないカラムを用意した。
次に、それぞれのカラムを垂直に立てた状態で、上記の方法で調製した1.0x10^7/mLのSP2/0細胞懸濁液をシリンジカラム上部より200μLずつ、すなわち、1.0x10^6個/mL−吸着剤の条件でアプライした。次に、シリンジカラム上部よりMACSバッファを4mLアプライし、針部からの流出液を別容器に回収した(以下、この細胞液を流出細胞液と記載する)。回収した流出細胞液中の細胞濃度をコールターカウンターZ2シリーズ(ベックマンコールター製)で測定し、それぞれのカラムについて細胞の流出率(%)を「流出率(%)=シリンジカラムあたりの流出細胞数/導入細胞数」として算出した。細胞流出率を表4に示す。また、SP2/0細胞の細胞直径をコールターカウンターZ2シリーズ(ベックマンコールター製)で測定した結果を図2に示す。SP2/0細胞の平均細胞直径は11.0μM、分散度は11.9%であり、通常の動物細胞と同等の大きさであった。
表4の結果から、粒径が100〜300μmのトヨパールHW−40ECを充填したカラムに細胞を通液した場合、細胞流出率は約70%と高いことが明らかとなった。このことから、粒径が100〜300μmの担体および担体から作製される吸着剤は、一般的な大きさを持つ動物細胞が十分接触し、且つ、細胞が吸着剤の隙間を淀みなく通過するのに適した粒径であることが明らかとなった。また、理論上、粒径100〜300μmの真球状粒子を最密充填した場合、粒子間の隙間を通過可能な細胞の大きさは15.5〜46.5μmと見積もられ、本実施例の結果を裏付けるものであった。
一方、表4の結果から、粒径が50〜150μmのトヨパールHW−40Cを充填したカラムに細胞を通液した場合、細胞流出率は約30%となり、粒径が100〜300μmであるトヨパールHW−40ECに比べて低いことが明らかとなった。この結果の原因として、理論上、粒径が50〜150μmの真球状粒子を最密充填した場合、粒子間の隙間を通過可能な細胞の大きさは7.8〜23.3μmと見積もられることから、粒径が50〜150μmの粒子状担体および担体から作製される吸着剤では、担体および吸着剤間の隙間が狭いために、細胞の目詰まりが生じていることが考えられた。
実施例14 吸着剤A2および吸着剤B2への細胞の吸着実験
前述のSP2/0細胞およびRamos細胞を浮遊培養用シャーレ(住友ベークライト製)にてGIT培地(日本製薬製)で5%CO2雰囲気下、37℃で培養を行った。また、接着細胞培養用フラスコ(コーニング製、Falcon)にて、2102Ep細胞を実施例13と同様の手法で10%FBSと抗生物質溶液を添加したD−MEM培地を用い、5%CO2雰囲気下、37℃で培養を行った。
次に、以下の手順によりSP2/0細胞をCell Tracker Orange(Invitrogen製)、Ramos細胞をCell Tracker Green(同)、2102Ep細胞をCell Tracker GreenまたはCell Tracker Orangeで、それぞれ蛍光染色した。
まず、SP2/0細胞については、細胞を50mLチューブに回収後、1500rpm、5分間遠心分離し、上清を廃棄した。次に、細胞ペレットをD−PBSに懸濁し、再び、1500rpm、5分間遠心分離し、上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞ペレットを、Cell Tracker Orangeを無血清RPMI培地に終濃度10μMで溶解した液に懸濁し、培養シャーレに移し替え、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。次に細胞を50mLチューブに回収し、1500rpm、5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、GIT培地に懸濁し、5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養を行った。
また、Ramos細胞については、細胞を50mLチューブに回収後、1500rpm、5分間遠心分離し、上清を廃棄した。次に、細胞ペレットをD−PBSに懸濁し、再び、1500rpm、5分間遠心分離し、上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞ペレットを、Cell Tracker Greenを無血清RPMI培地に終濃度10μMで溶解した液に懸濁し、培養シャーレに移し替え、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。次に細胞を50mLチューブに回収し、1500rpm、5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、GIT培地に懸濁し、5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養を行った。
また、2102Ep細胞については、まずフラスコ中の培地を廃棄後、D−PBSを導入して細胞をリンス後、D−PBSを廃棄した。次にCell Tracker GreenまたはCell Tracker Orangeを無血清RPMI培地に終濃度10μMで溶解した液を導入し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。蛍光試薬液を廃棄後、10%FBS(Biological Industries製)と抗生物質溶液(ペニシリン−ストレプトマイシン溶液、和光純薬製)を添加したD−MEM培地(High Glucose、和光純薬製)を導入し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。次にD−MEM培地を廃棄した後、再び新しいD−MEM培地を導入し、5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養を行った。
次に細胞の回収と調製を以下の方法で行った。SP2/0細胞とRamos細胞については、まず細胞を50mLチューブに回収後、1500rpm、5分間遠心分離し、上清を廃棄した。次に、細胞ペレットを前述のMACSバッファにて懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞洗浄操作を2回繰り返した後、MACSバッファで懸濁を行い、セルストレーナーで濾過することで凝集塊を除去して、均一なSP2/0細胞懸濁液とRamos細胞懸濁液を調製した。2102Ep細胞については、培養フラスコ中のD−MEM培地を廃棄してD−PBSを導入した後、細胞をリンスしてD−PBS液を廃棄した。次に、適当量のAccutase(イノベーティブセルテクノロジー製)を導入し、数分間放置することで2102Ep細胞を剥離させ、50mLチューブへと回収した。細胞を遠心分離して沈降後、細胞ペレットを前述のMACSバッファにて懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞洗浄操作を2回繰り返した後、MACSバッファで懸濁を行い、セルストレーナーで濾過することで凝集塊を除去して均一な2102Ep細胞懸濁液を調製した。以上により、Cell Tracker Orangeで染色した2.0x10^7個/mLのSP2/0細胞、Cell Tracker Greenで染色した3.7x10^6個/mLのRamos細胞、Cell Tracker Greenで染色した2.0x10^7個/mLの2102Ep細胞、Cell Tracker Orangeで染色した3.7x10^6個/mLの2102Ep細胞の細胞懸濁液をそれぞれ得た。
次に、5.0mL容ファルコンピペット(コーニング製、Falcon)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μmのメッシュフィルター(日本BD製セルストレーナチューブ蓋のメンブレンを取り出して使用)を装着したカラムを作製した。実施例3で作製した吸着剤A2および実施例5で作製した吸着剤B2を前述のMACSバッファで置換したのち、50%懸濁液を調製し、作製したカラムに8.0mLの50%懸濁液を添加し、吸着剤をカラムに充填した(吸着剤容量:4mL)。
次に異なる蛍光色素で染色した細胞の混合液である、細胞混合液Xと細胞混合液Yを調製した。
・細胞混合液X:Cell Tracker Orangeで染色した2.0x10^7/mLのSP2/0細胞とCell Tracker Greenで染色した2.0x10^7/mLの2102Ep細胞を1:1で混合した細胞混合液。
・細胞混合液Y:Cell Tracker Greenで染色した3.7x10^6/mLのRamos細胞とCell Tracker Orangeで染色した3.7x10^6/mLの2102Ep細胞を1:1で混合した細胞混合液。
次に以下の手順で、各吸着剤を充填したカラムに細胞混合液およびキャリア液をアプライした。
・吸着剤A2を充填したカラム:
細胞混合液Yをピペット上部より400μL、すなわち、カラムあたりCell Tracker Greenで染色したRamos細胞7.4x10^5個とCell Tracker Orangeで染色した2102Ep細胞7.4x10^5個をアプライした。細胞液が浸透した後、MACSバッファを8mLをアプライした。
・吸着剤B2を充填したカラム:
細胞混合液Xをピペット上部より400μL、すなわち、カラムあたりCell Tracker Orangeで染色したSP2/0細胞4.0x10^6個とCell Tracker Greenで染色した2102Ep細胞4.0x10^6個をアプライし、細胞液が浸透した後、MACSバッファを8mLアプライした。
各カラム下部の針部より流出した細胞液は、それぞれ1mLずつのフラクションとして、合計で8mLの流出液をディープウェルプレート(サンプラテック製)に回収した。回収した流出細胞液はフルオロヌンク96穴蛍光検出用プレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)に100μLずつ分注し、プレートリーダーで励起波長492nmおよび励起波長541nmでの蛍光スキャンを行うことで、検出波長530nmおよび検出波長580nmでの蛍光強度をそれぞれ測定した。
また、Cell Tracker Greenで染色した3.7x10^6/mLのRamos細胞とCell Tracker Greenで染色した2.0x10^7/mLの2102Ep細胞の希釈系列をそれぞれ作製し、フルオロヌンク96穴蛍光検出用プレートに100μLずつ分注してプレートリーダーで励起波長492nm、検出波長530nmでの蛍光スキャンを行うことで、Cell Traker Greenで染色した細胞の細胞濃度と蛍光強度の検量線を作成した。同様に、Cell Tracker Orangeで染色した2.0x10^7/mLのSP2/0細胞、Cell Tracker Orangeで染色した3.7x10^6/mLの2102Ep細胞の希釈系列をそれぞれ作製し、フルオロヌンク96穴蛍光検出用プレートに100μLずつ分注してプレートリーダーで励起波長541nm、検出波長580nmでの蛍光スキャンを行うことで、Cell Tracker Orangeで染色した細胞の細胞濃度と蛍光強度の検量線を作成した。
このようにして得られた各フラクションの蛍光強度と検量線から、分取した各1mLずつのフラクション中に含まれる細胞数を算出した。
横軸をフラクション数、縦軸を細胞数とした場合の細胞分離クロマトグラムを図3(吸着剤A2)および図4(吸着剤B2)に示す。また、5mL流出分までの初期フラクションでのそれぞれの細胞の流出率(%)を「流出率(%)=カラムあたりの流出細胞数(5mL流出分まで)/導入細胞数」として算出したものを表5に示す。
図3および表5の結果から、吸着剤A2(BC2LCNレクチンを固定化したHW−40EC)にRamos細胞と2102Ep細胞の細胞混合物を通液した場合、Ramos細胞のみが流出しやすい傾向が認められ、5mL流出分までの初期フラクションでの細胞流出率はRamos細胞が61%、2102Ep細胞が8%となった。
また、図4および表5の結果から、吸着剤B2(BC2LCNレクチンを固定化したポリウレタン粒子)にSP2/0細胞と2102Ep細胞の細胞混合物を通液した場合、SP2/0細胞のみが流出しやすい傾向が認められ、5mL流出分までの初期フラクションでの細胞流出率はSP2/0細胞が51%、2102Ep細胞が12%となった。
これらの結果から、トヨパールHW−40ECまたはポリウレタン粒子いずれの吸着剤を用いた場合も、BC2LCNレクチンを固定化することで、複数の細胞の混合物から2102Ep細胞のみを選択的に吸着できることが明らかとなった。
比較例2 吸着剤A0および吸着剤B0への細胞の吸着実験
実施例2に記載の吸着剤A0および調製例1で作製した吸着剤B0を用い、以下の手順で各吸着剤を充填したカラムに細胞混合液およびキャリア液のアプライを行った。その他の方法については実施例14と同様の方法で細胞の吸着実験を行った。
・吸着剤A0を充填したカラム:
まず細胞混合液Yをピペット上部より400μL、すなわち、カラムあたりCell TrackerGreenで染色したRamos細胞7.4x10^5個とCell Tracker Orangeで染色した2102Ep細胞7.4x10^5個をアプライした。細胞液が浸透した後、MACSバッファを8mLアプライした。
・吸着剤B0を充填したカラム:
まず細胞混合液Xをピペット上部より400μL、すなわち、カラムあたりCell TrackerOrangeで染色したSP2/0細胞4.0x10^6個とCell Tracker Greenで染色した2102Ep細胞4.0x10^6個をアプライし、細胞液が浸透した後、MACSバッファを8mLアプライした。
横軸をフラクション数、縦軸を細胞数とした場合の細胞分離クロマトグラムを図5(吸着剤A0)と図6(吸着剤B0)に示す。また、5mL流出分までの初期フラクションでのそれぞれの細胞の流出率(%)を「流出率(%)=カラムあたりの流出細胞数(5mL流出分まで)/導入細胞数」として算出しものを表5に示す。
図5および表5の結果から、吸着剤A0(BC2LCNレクチンを固定化していないHW−40EC)にRamos細胞と2102Ep細胞の細胞混合物を通液した場合、両細胞とも流出しやすい傾向が認められ、5mL流出分までの初期フラクションでの細胞流出率はRamos細胞が66%、2102Ep細胞が61%となった。
また、図6および表5の結果から、吸着剤B0(BC2LCNレクチンを固定化していないポリウレタン粒子)にSP2/0細胞と2102Ep細胞の細胞混合物を通液した場合、両細胞とも流出しやすい傾向が認められ、5mL流出分までの初期フラクションでの細胞流出率はSP2/0細胞が69%、2102Ep細胞が82%となった。
これらの結果から、トヨパールHW−40ECまたはポリウレタン粒子のいずれの吸着剤を用いた場合も、BC2LCNレクチンを固定化しない場合は、複数の細胞の混合物から2102Ep細胞のみを選択的に吸着できないことが明らかとなった。
実施例15 吸着剤A1、A2、D1、E1への細胞の吸着実験
前述のRamos細胞と、「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有さないヒト慢性骨髄性白血病細胞であるK562細胞(JCRB0019)を浮遊培養用シャーレ(住友ベークライト製)にてGIT培地(日本製薬製)で5%CO2雰囲気下、37℃で培養を行った。
また、接着細胞培養用フラスコ(コーニング製、Falcon)にて、2102Ep細胞を前述と同様の10%FBSと抗生物質溶液を添加したD−MEM培地で5%CO2雰囲気下、37℃で培養を行った。
次に、Ramos細胞とK562細胞を実施例14と同様の手法でCell Tracker Greenで蛍光染色し、回収、洗浄、シングルセル化した後に細胞懸濁液を調製した。また、2102Ep細胞についても同様の手順により、Cell Tracker Orangeで蛍光染色した後に回収、洗浄、シングルセル化し、細胞懸濁液を調製した。それぞれ6.7x10^6個/mLのRamos細胞、7.0x10^6個/mLのK562細胞、6.0x10^6個/mLの2102Ep細胞の細胞懸濁液を得た。
次に、2.5mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μmのメッシュフィルター(日本BD製 セルストレーナチューブ蓋のメンブレンを取り出して使用)を装着したカラムを作製した。実施例2で作製した吸着剤A1、実施例3で作製した吸着剤A2、実施例7で作製した吸着剤D1および実施例9で作製した吸着剤E1を前述のMACSバッファで置換したのち、50%懸濁液を調製し、作製したカラムに1.0mLの50%懸濁液を添加し、吸着剤をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。
次にそれぞれのカラムを垂直に立てた状態で、上記の方法で調製したRamos細胞、K562細胞、2102Ep細胞の細胞懸濁液をカラム上部より100μLずつ、すなわち、Ramos細胞は1.3x10^6個/mL−吸着剤、K562細胞は1.4x10^6個/mL−吸着剤、2102Ep細胞は1.2x10^6個/mL−吸着剤の条件でアプライした。
次に、カラム上部よりMACSバッファを1mL導入し、針部からの流出液を別容器に回収した。(以下、この細胞液を流出細胞液と記載する)。実施例14と同様の手法での蛍光強度測定結果から、それぞれの流出細胞液中のRamos細胞、K562細胞、2102Ep細胞の流出率(%)を「流出率(%)=カラムあたりの流出細胞数/導入細胞数」として算出した。
各細胞の流出率を表6、Ramos細胞の細胞流出率のグラフを図7、K562細胞の細胞流出率のグラフを図8、2102Ep細胞の細胞流出率グラフを図9に示す。Ramos細胞を吸着剤A1、A2、D1、E1にアプライした場合の流出率はそれぞれ43%、52%、83%と96%であった。また、K562細胞を吸着剤A1、A2、D1、E1にアプライした場合の流出率はそれぞれ9%、7%、86%と99%であった。また、2102Ep細胞を吸着剤A1、A2、D1、E1にアプライした場合の流出率はそれぞれ12%、7%、9%と8%であった。
以上の結果から、親水性高分子であるデキストランを固定していない担体にBC2LCNレクチンを固定化した吸着剤A1、A2には、「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有さない細胞であるRamos細胞が約50〜60%結合し、前記糖鎖を有さない細胞であるK562細胞および前記糖鎖を有する2102Ep細胞が約90%結合することが明らかとなった。
一方、デキストランを固定した担体にBC2LCNレクチンを固定化した吸着剤D1、E1には、前記糖鎖を有さない細胞であるRamos細胞およびK562細胞は結合しないため、流出率は約80〜100%と高いが、前記糖鎖を有する細胞である2102Ep細胞は吸着剤D1および吸着剤E1に強く結合するため、流出率は10%以下と低くなることが明らかとなった。
比較例3 吸着剤A0への細胞の吸着実験
実施例2に記載の吸着剤A0を用いた以外は、実施15と同様の方法で、細胞の吸着実験を行った。各細胞の流出率を表6、Ramos細胞の細胞流出率のグラフを図7、K562細胞の細胞流出率のグラフを図8、2102Ep細胞の細胞流出率グラフを図9に示す。吸着剤A0に「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有する細胞である2102Ep細胞をアプライした場合の細胞流出率は69%であり、2102Ep細胞は吸着剤A0には結合しないため流出率が高くなることが明らかとなった。また、前記糖鎖を有さない細胞であるRamos細胞、K562細胞を吸着剤A0にアプライした場合の細胞流出率は、それぞれ85%、79%であり、2102Ep細胞の場合と同様に、Ramos細胞およびK562細胞も吸着剤A0には結合しないため、流出率が高くなることが明らかとなった。
実施例16 吸着剤D1、D2、E1、E2、F1への細胞の吸着実験
実施例14と同様の手法にて、Ramos細胞、K562細胞、2102Ep細胞のそれぞれを、Cell Tracker Greenでで蛍光染色し、回収、洗浄、シングルセル化して細胞懸濁液を調製した。これにより、1.1x10^7個/mLのRamos細胞、1.4x10^7個/mLのK562細胞、3.5x10^6個/mLの2102Ep細胞の細胞懸濁液を得た。
次に、2.5mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μmのメッシュフィルター(日本BD製 セルストレーナチューブ蓋のメンブレンを取り出して使用)を装着したカラムを作製した。実施例7で作製した吸着剤D1、実施例8で作製したD2、実施例9で作製した吸着剤E1、実施例10で作製したE2および実施例11で作製したF1を前述のMACSバッファで置換したのち、50%懸濁液を調製し、作製したカラムに1.0mLの50%懸濁液を添加し、吸着剤をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。
それぞれのカラムを垂直に立てた状態で、上記の方法で調製したRamos細胞、K562細胞、2102Ep細胞の細胞懸濁液をカラム上部より100μLずつ、すなわち、Ramos細胞は2.2x10^6個/mL−吸着剤、K562細胞は2.8x10^6個/mL−吸着剤、2102Ep細胞は7.0x10^5個/mL−吸着剤の条件でアプライした。
次に、カラム上部よりMACSバッファを1mL導入し、針部からの流出液を別容器に回収した。実施例14と同様の手法での蛍光強度測定結果からそれぞれの流出細胞液中のRamos細胞、K562細胞、2102Ep細胞の流出率(%)を「流出率(%)=カラムあたりの流出細胞数/導入細胞数」として算出した。
各細胞の流出率を表7、Ramos細胞の細胞流出率のグラフを図10、K562細胞の細胞流出率のグラフを図11、2102Ep細胞の細胞流出率グラフを図12に示す。Ramos細胞を吸着剤D1、D2、E1、E2、F1にアプライした場合の流出率はそれぞれ92%、104%、78%、102%、59%であった。K562細胞を吸着剤D1、D2、E1、E2、F1にアプライした場合の流出率はそれぞれ91%、98%、58%、86%、70%であった。2102Ep細胞を吸着剤D1、D2、E1、E2、F1にアプライした場合の流出率はそれぞれ1%、19%、2%、10%、34%であった。
以上の結果から、親水性高分子であるデキストランを固定した担体にBC2LCNレクチンを固定化した吸着剤D1、D2、E1、E2、F1には、「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有さない細胞であるRamos細胞およびK562細胞は結合しないため、流出率は約60〜100%と高いが、前記糖鎖を有する細胞である2102Ep細胞は吸着剤D1、D2、E1、E2、F1に強く結合するため、流出率は1〜35%以下と低くなることが明らかとなった。
また、BC2LCNレクチン固定化方法の異なる吸着剤を比較すると、2102Ep細胞の吸着について、吸着剤D1とE1は吸着剤D2とE2よりも流出率が低かったことから、レクチンを固定化する方法として、実施例3に記載の方法よりも実施例2に記載の方法で行うことにより、前記糖鎖を有する細胞の吸着能力が優れた吸着剤が作製できることが明らかとなった。
比較例4 吸着剤A0、B0、D0への細胞の吸着実験
実施例2に記載の吸着剤A0、調製例1で作製した吸着剤B0、調製例3で作製した吸着剤D0を用いた以外は、実施16と同様の方法で、細胞の吸着実験を行った。
各細胞の流出率を表7、Ramos細胞の細胞流出率のグラフを図10、K562細胞の細胞流出率のグラフを図11、2102Ep細胞の細胞流出率グラフを図12に示す。Ramos細胞を吸着剤A0、B0、D0にアプライした場合の流出率はそれぞれ93%、86%、104%であった。K562細胞を吸着剤A0、B0、D0にアプライした場合の流出率はそれぞれ91%、72%、86%であった。2102Ep細胞を吸着剤A0、B0、D0にアプライした場合の流出率はそれぞれ60%、63%、88%であった。以上の結果から、「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有する細胞である2102Ep細胞、前記糖鎖を有さない細胞であるRamos細胞およびK562細胞は、吸着剤A0、B0、D0に結合しないため、流出率が高くなることが明らかになった。
実施例17 吸着剤A2、D1、E1への細胞の吸着実験
実施例14と同様の手法にて2102Ep細胞をCell Tracker Greenで蛍光染色し、回収、洗浄、シングルセル化して、6.0x10^7個/mLの細胞濃度の2102Ep細胞懸濁液を調製した。
次に、2.5mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μmのメッシュフィルター(日本BD製 セルストレーナチューブ蓋のメンブレンを取り出して使用)を装着したカラムを作製した。実施例3で作製した吸着剤A2、実施例7で作製した吸着剤D1、実施例9で作製した吸着剤E1を前述のMACSバッファで置換したのち、50%懸濁液を調製し、作製したカラムに1.0mLの50%懸濁液を添加し、吸着剤をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。
次にそれぞれのカラムを垂直に立てた状態で、上記の方法で調製した2102Ep細胞をアプライ細胞量(A)=80μL、(B)=400μL、(C)=800μLの条件でアプライした。すなわち、アプライ細胞量(A)は9.6x10^6個/mL−吸着剤、アプライ細胞量(B)4.8x10^7個/mL−吸着剤、アプライ細胞量(C)は9.6x10^7個/mL−吸着剤の条件で2102Ep細胞をカラム上部にアプライした。
次に、カラム上部よりMACSバッファを、アプライ細胞量(A)のものについては3mL、アプライ細胞量(B)のものについては2.6mL、アプライ細胞量(C)のものについては2.2mL導入し、細胞液アプライ時の流出液とMACSバッファアプライ時の流出液を混合し、合計約3mLの細胞液としたのち、別容器に回収した。実施例14と同様の手法での蛍光強度測定結果から、2102Ep細胞の流出率(%)を「流出率(%)=カラムあたりの流出細胞数/導入細胞数」として算出した。
2102Ep細胞の細胞流出率を表8、グラフを図13に示す。HW−40ECにレクチンを固定化した吸着剤である吸着剤A2、D1、E1に細胞を通液した場合、アプライ細胞量が(A)と(B)の場合について流出率が約2割以下と良好な細胞吸着性を示したが、(C)の場合は6割以上の流出率となり、吸着剤あたりの吸着可能細胞数を超えたために細胞がオーバーフローした結果であると考えられた。また、この結果から算出した吸着剤1mLあたりの吸着細胞数の数値を表8、グラフを図14に示す。HW−40ECにレクチンを固定化した吸着剤である吸着剤A2、D1、E1の場合は、最大でそれぞれ3.9x10^7個/mL−吸着剤(吸着剤A2、アプライ細胞量(B))、3.9x10^7個/mL−吸着剤(吸着剤D1、アプライ細胞量(B))、3.7x10^7個/mL−吸着剤(吸着剤E1、アプライ細胞量(B))と、1mLの吸着剤あたり10^7個オーダーの細胞数が吸着可能であることが明らかとなった。
比較例5 吸着剤A0への細胞の吸着実験
吸着剤A0を用いた以外は、実施例17と同様の方法で細胞吸着実験を行った。2102Ep細胞の細胞流出率を表8、グラフを図13に示す。HW−40ECにレクチンを固定化していない吸着剤である吸着剤A0に細胞を通液した場合、いずれのアプライ細胞量でも流出率が8割以上となり、殆どの細胞が吸着されずに流出していることが示された。また、この結果をもとに算出した吸着剤1mLあたりの吸着細胞数の数値を表8、グラフを図14に示す。吸着剤A0の場合、1mLの吸着剤あたりの吸着細胞数は、アプライ細胞量が(A)の場合は1.6x10^6個/mL−吸着剤、アプライ細胞量が(B)の場合は3.3x10^6個/mL−吸着剤、アプライ細胞量が(C)の場合は6.2x10^6個/mL−吸着剤であり、10^6個オーダーの細胞数しか吸着できないことが明らかとなった。
実施例18 吸着剤D1への2102Ep細胞の吸着実験とFACS解析
接着細胞培養用フラスコ(コーニング製)にて、2102Ep細胞を前述の10%FBSと抗生物質溶液添加D−MEM培地で5%CO2雰囲気下、37℃で培養を行った。カラム通液試験実施日より1日前、2日前、3日前、4日前にそれぞれ継代した2102Ep細胞を準備しておき、カラム通液試験当日、それぞれの細胞をAccutaseで剥離回収することで、培養期間がそれぞれ1日目、2日目、3日目、4日目となるような2102Ep細胞を用意した。
次に、それぞれの培養日数で準備した2102Ep細胞の回収と調製を以下の方法で行った。まず培養フラスコにD−PBSを導入した後、細胞をリンスしてD−PBS液を廃棄した。次に、適当量のAccutase製を導入し、数分間放置することで2102Ep細胞を剥離させ、50mLチューブへと回収した。それぞれの細胞を1500rpm、5分間遠心分離して沈降後、細胞ペレットを前述のMACSバッファに懸濁し、再び遠心後上清を廃棄することで細胞洗浄を行った。MACSバッファに懸濁した2102Ep細胞をセルストレーナーで濾過することで、凝集塊の無い均一な2102Ep細胞懸濁液を得た。それぞれの細胞懸濁液は血球計算盤で細胞数をカウントした後、MACSバッファで希釈することで、各細胞懸濁液濃度を3.0x10^7/mLに調整した。
次に、2.5mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μmのメッシュフィルター(日本BD製 セルストレーナチューブ蓋のメンブレンを取り出して使用)を装着したカラムを作製した。実施例7で作製した吸着剤D1を前述のMACSバッファで置換したのち、50%懸濁液を調製し、作製したカラムに1.0mLの50%懸濁液を添加し、吸着剤をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。
次にそれぞれのカラムを垂直に立てた状態で、上記の方法で調製した3.0x10^7/mLの2102Ep細胞懸濁液をそれぞれ100μL、すなわち6.0x10^6個/mL−吸着剤の条件で2102Ep細胞をカラム上部にアプライした。
次に、カラム上部よりMACSバッファを1mL導入し、針部から流出した約1mLの細胞液を別容器に回収した。回収した流出細胞液は血球計算盤で細胞数をカウントし、「流出率(%)=カラムあたりの流出細胞数/導入細胞数」として、アプライした細胞数に対する比率である流出率をそれぞれ算出した。細胞流出率を表9、グラフを図15に示す。
吸着剤D1を充填したカラムでは2102Ep細胞の流出率は7%(培養日数1日の細胞)、12%(培養日数2日の細胞)、10%(培養日数3日の細胞)、17%(培養日数4日の細胞)と低く、吸着剤に2102Ep細胞が強く吸着されるために流出率が低いことが明らかとなった。
次に、以下の方法でフローサイトメトリー(日本BD製 BD FACSAria IIu、以下FACSと記載)により、各アプライ細胞と流出細胞のTRA−1−60陽性率、およびBC2LCNレクチン陽性率を測定した。まず各細胞液を遠心分離して細胞を沈降後、上清を廃棄して細胞ペレットをMACSバッファにて懸濁することで細胞の洗浄を行った。再び遠心分離して細胞を沈降した後、上清を廃棄して、細胞ペレットをMACSバッファ1mLに再懸濁した。Anti−TRA−1−60 PE(ノバスバイオロジカル製)を5μLおよびrBC2LCN−FITC(和光純薬製)を5μL添加し、室温で1時間反応した。蛍光試薬反応後、遠心分離して細胞を沈降した後、上清を廃棄して、細胞ペレットをMACSバッファ1mLに懸濁した。再び遠心分離して細胞を沈降した後、上清を廃棄して、細胞ペレットをMACSバッファ1mLに再懸濁することで、FACS測定用細胞サンプルとした。
各アプライ細胞と流出細胞をFACSで解析したドットプロットを図16に示す。横軸をFITCの蛍光強度、縦軸をPEの蛍光強度として解析を行った。図16中のQ1とQ2をTRA−1−60陽性の細胞集団、Q2とQ4をBC2LCNレクチン陽性の細胞集団とし、TRA−1−60陽性率(%)=(Q1+Q2)/(Q1+Q2+Q3+Q4)、BC2LCNレクチン陽性率(%)=(Q2+Q4)/(Q1+Q2+Q3+Q4)として陽性率の算出を行った。
陽性率解析結果を表10、TRA−1−60陽性率のグラフを図17、BC2LCNレクチン陽性率のグラフを図18に示す。TRA−1−60陽性率は培養日数による違いは見られず、全ての細胞集団で99%以上の高い値を示し、元々2102Ep細胞がAnti−TRA−1−60抗体と強い結合性を有することが明らかとなった。また、カラムにアプライした2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率はそれぞれ75%(培養日数1日の細胞)、60%(培養日数2日の細胞)、68%(培養日数3日の細胞)、59%(培養日数4日の細胞)であった。一方、回収した流出細胞のTRA−1−60陽性率は全ての細胞集団で99%以上の高い値であったが、BC2LCNレクチン陽性率はそれぞれ57%(培養日数1日の細胞)、45%(培養日数2日の細胞)、47%(培養日数3日の細胞)、39%(培養日数4日の細胞)であり、それぞれアプライした細胞と比べ1〜2割の陽性率低下が認められた。これらの結果から、BC2LCNレクチンを固定化した吸着剤D1に2102Ep細胞を通液した場合、アプライした2102Ep細胞の内、BC2LCNレクチン陽性率の高い細胞集団が吸着し、BC2LCNレクチン陽性率の低い細胞集団が流出していることが明らかとなった。
比較例6 吸着剤D0への2102Ep細胞の吸着実験とFACS解析
調製例3で作製した吸着剤D0を用いた以外は、実施例18と同様の方法で細胞吸着実験とFACS解析を行った。アプライする細胞は培養3日目の2102Ep細胞を用いた。細胞流出率を表9、グラフを図15に示す。レクチンを固定化していない吸着剤D0を充填したカラムでは2102Ep細胞の流出率は59%であり、吸着剤D0には2102Ep細胞が結合しないため、多くの細胞が流出していることが明らかとなった。
また、各アプライ細胞と流出細胞をFACSで解析したドットプロットを図16、陽性率解析結果の数値を表10、TRA−1−60陽性率のグラフを図17、BC2LCNレクチン陽性率のグラフを図18に示す。TRA−1−60陽性率はアプライ細胞も流出細胞も99%と高い陽性率を示した。また、BC2LCNレクチン陽性率についてはアプライ細胞で68%、流出細胞で67%とほとんど違いが認められなかった。これらの結果から、BC2LCNレクチンを固定化していない吸着剤D0に2102Ep細胞を通液した場合、2102Ep細胞が結合せず素通りするために、アプライ細胞と同じTRA−1−60陽性率、BC2LCN陽性率を持つ細胞が流出していることが明らかとなった。
実施例19 吸着剤D1、E1への2102Ep細胞およびスパイク細胞の吸着実験とFACS解析
実施例14と同様の手法にて、2102Ep細胞をCell Tracker Greenで蛍光染色し、回収、洗浄、シングルセル化して、、1.26x10^7個/mLの2102Ep細胞の細胞懸濁液を得た。また、実施例15と同様の手法にてK562細胞を回収、洗浄、シングルセル化して、1.16x10^7個/mLのK562細胞の細胞懸濁液を得た。
次に、2.5mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μmのメッシュフィルター(日本BD製 セルストレーナチューブ蓋のメンブレンを取り出して使用)を装着したカラムを作製した。実施例7で作製した吸着剤D1および実施例9で作製した吸着剤E1を前述のMACSバッファで置換したのち、50%懸濁液を調製し、作製したカラムに1.0mLの50%懸濁液を添加し、吸着剤をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。各吸着剤を充填したカラムは同じものを2本ずつ用意し、それぞれのカラムを垂直に立てた状態で、以下の方法で片方には2102Ep細胞を単独、もう片方には2102Ep細胞とK562細胞の混合細胞をアプライした。
(2102Ep細胞を単独でアプライの場合)
上記の方法で調製した2102Ep細胞を150μL、すなわち3.8x10^6個/mL−吸着剤の条件でアプライした。
(2102Ep細胞とK562細胞混合物をアプライの場合)
上記の方法で調製した2102Ep細胞500μLとK562細胞500μLの混合細胞液を調製した後、この細胞液を100μL、すなわち(1.3x10^6個の2102Ep細胞と1.2x10^6個のK562細胞)/mL−吸着剤の条件でカラム上部にアプライした(アプライ時の細胞比率は2102Ep:K562=52%:48%)。
次に、カラム上部よりMACSバッファを2mL導入し、針部から流出した約2mLの細胞液を別容器に回収した。実施例14と同様の手法での蛍光強度測定結果から、2102Ep細胞の流出率(%)を「流出率(%)=カラムあたりの流出細胞数/導入細胞数」として算出した。
細胞流出率の表11、グラフを図19に示す。2102Ep細胞を単独でアプライした場合、細胞流出率は19%(吸着剤D1)、4%(吸着剤E1)、K562細胞との混合細胞をアプライした場合、2102Ep細胞の細胞流出率は27%(吸着剤D1)、16%(吸着剤E1)であった。これらの結果から、2102Ep細胞、または2102Ep細胞とK562細胞との混合細胞を吸着剤D1および吸着剤E1を充填したカラムに通液した場合、吸着剤に2102Ep細胞が強く吸着されるために流出率が低くなることが明らかとなった。
次に、実施例18と同様の方法でFACSにて各流出細胞中の2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率、および、混合細胞の流出細胞中における2102Ep細胞の割合を解析した。
混合細胞をアプライした場合の各流出細胞をFACSで解析したドットプロットを図20に示す。図20中、Cell Tracker Orange陽性の細胞集団、すなわち2102Ep細胞をP3ゲート部分、また、Cell Tracker Orangeで染色されておらず、なおかつBC2LCNレクチン反応性を示さない細胞集団として、K562細胞をP2ゲート部分に設定した。混合細胞をアプライしたカラムにおける流出細胞中の2102Ep細胞の比率は、細胞比率(%)=P3/(P2+P3)として算出した。また、FITCの蛍光強度が低いQ1ゲートに含まれる細胞集団はBC2LCNレクチン陰性の細胞集団、FITCの蛍光強度が高いQ2ゲートに含まれる細胞集団はBC2LCNレクチン陽性の細胞集団とし、BC2LCNレクチン陽性率(%)=Q2/(Q1+Q2)として流出細胞中の2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率の算出を行った。
混合細胞をアプライしたカラムにおける流出細胞中の2102Ep細胞の比率を表11に示す。細胞アプライ時の細胞比率は2102Ep:K562=52%:48%であったが、流出細胞中の細胞比率は2102Ep:K562=13.8%:86.2%(吸着剤D1)、0.3%:99.7%(吸着剤E1)となり、流出細胞中に含まれる2102Ep細胞の割合が極度に低下していることが確認された。以上の結果から、HW−40ECにBC2LCNレクチンを固定化した吸着剤D1および吸着剤E1に混合細胞を通液した場合、「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有する細胞である2102Ep細胞のみが選択的に吸着分離できることが確認された。
また、流出細胞中の2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率解析結果の数値を表11、グラフを図21に示す。アプライした2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率は53%であったが、2102Ep細胞を単独でアプライした場合の流出した2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率は23%(吸着剤D1)、BC2LCNレクチン陽性細胞数が僅少のため定量不能(吸着剤E1)、K562細胞との混合細胞をアプライした場合の流出した2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率は27%(吸着剤D1)、BC2LCNレクチン陽性細胞数が僅少のため定量不能(吸着剤E1)と、BC2LCNレクチン陽性率の大きな低下が認められた。また、表11に示した2102Ep細胞の流出率と流出細胞中の2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率との相関を図22に示す。細胞流出率と流出細胞のBC2LCNレクチン陽性率には相関が認められ、細胞流出率が低いほど流出細胞中の2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率も低いことが確認され、吸着剤D1および吸着剤E1を充填したカラムに通液した場合、BC2LCNレクチン陽性率の高い細胞集団が吸着剤と強く結合し、吸着されていることが明らかとなった。
比較例7 吸着剤D0への2102Ep細胞およびスパイク細胞の吸着実験とFACS解析
調製例3で作製した吸着剤D0を用いた以外は、実施例19と同様の方法で細胞吸着実験とFACS解析を行った。細胞流出率を表11、グラフを図19に示す。2102Ep細胞を単独でアプライした場合、細胞流出率は100%、K562細胞との混合細胞をアプライした場合、2102Ep細胞の細胞流出率は82%であった。これらの結果から、2102Ep細胞、または2102Ep細胞とK562細胞との混合細胞を、吸着剤D0を充填したカラムに通液した場合、吸着剤に2102Ep細胞がほとんど吸着していないことが明らかとなった。
また、混合細胞をアプライした場合の流出細胞をFACSで解析したドットプロットを図20、流出細胞中の2102Ep細胞とK562細胞の細胞比率を表11に示す。細胞アプライ時の細胞比率は2102Ep:K562=52%:48%であったが、流出細胞中の細胞比率は2102Ep:K562=37.7%:62.3%となり、流出細胞中に含まれる2102Ep細胞の割合の顕著な減少は認められなかった。以上の結果から、吸着剤D0に混合細胞を通液した場合、2102Ep細胞のみを選択的に吸着分離できないことが確認された。また、流出細胞中の2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率解析結果の数値を表11、グラフを図21に示す。アプライした2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率は53%であったが、2102Ep細胞を単独でアプライした場合の流出した2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率は54%、K562細胞との混合細胞をアプライした場合の流出した2102Ep細胞のBC2LCNレクチン陽性率は47%と、BC2LCNレクチン陽性率の大きな低下は認められなかった。
これらの結果から、BC2LCNレクチン固定化を行っていない吸着剤である吸着剤D0を充填したカラムに通液した場合、2102Ep細胞が結合せず素通りするために、アプライ細胞と同じBC2LCNレクチン陽性率を持つ細胞が流出していることが明らかとなった。
実施例20 吸着剤E1への201B7細胞およびスパイク細胞の吸着実験とFACS解析
接着細胞培養用シャーレ(コーニング製)にて、ヒトiPS細胞株である201B7細胞(特許実施許諾契約およびMTA契約を締結後、京都大学CiRAより分譲)のフィーダーフリー培養を行った。
まずiMatrix−511(ニッピ製)をD−PBSに3μg/mLで希釈した溶液を調製し、シャーレに導入して4℃で一晩以上放置することで、シャーレ培養面へのiMatrix−511のコーティングを行った。コーティングを行ったシャーレのiMatrix−511溶液を廃棄した後、iPS細胞培養用培地であるStemFit AK02N培地(味の素製)を導入しリンス後、凍結バイアルより解凍した201B7細胞をロックインヒビター Y−27632(和光純薬製)を10μM添加した同培地に懸濁して播種した。一晩培養後、Y−27632を含むStemFit AK02N培地を廃棄し、Y−27632を含まないStemFit AK02N培地へと培地交換を行った。その後、シャーレは毎日StemFit AK02N培地にて培地交換を行い、適当な細胞密度になったところで、細胞回収と継代を行った。細胞回収については以下のようにして行った。まず、シャーレにD−PBSを導入し細胞をリンスした後、D−PBSを廃棄する操作を2回繰り返して細胞を洗浄後、CTS TrypLE Select Enzyme(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)とVersene Solution(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1:1で混合した剥離溶液を導入して5%CO2雰囲気下、37℃で1分間放置した。細胞が丸く剥がれつつあるのを確認した後、剥離溶液を廃棄、10μM Y−27632を含むStemFit AK02N培地を導入し、セルスクレ―バーで細胞を剥離し、50mLチューブ中に回収した。回収した細胞の細胞数は血球計算盤でカウントし、Y−27632を含むStemFit AK02N培地にて、10^4〜10^5/mLの濃度で播種し、Y−27632を含まないStemFit AK02N培地にて適当な細胞密度になるまで培養を継続した。また、前述のK562細胞を浮遊培養用シャーレ(住友ベークライト製)にてGIT培地(日本製薬製)で同様に5%CO2雰囲気下、37℃で培養を行った。
次に、201B7細胞を以下の手順でCell Tracker Orangeで蛍光染色した。まず、シャーレ中の培地を廃棄後、D−PBSを導入して細胞をリンス後、D−PBSを吸引廃棄した。次にCell Tracker Orangeを無血清RPMI培地に終濃度20μMで溶解した液を導入し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。蛍光試薬液を廃棄後、StemFit AK02N培地を導入し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。培地を廃棄後、StemFit AK02N培地を導入し、5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養した。
次にそれぞれの細胞の回収と調製を以下の方法で行った。201B7細胞については、まず、シャーレにD−PBSを導入し細胞をリンスした後、D−PBSを廃棄する操作を2回繰り返して細胞を洗浄後、CTS TrypLE Select Enzyme(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)とVersene Solution(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を1:1で混合した剥離溶液を導入して5%CO2雰囲気下、37℃で1分間放置した。細胞が丸く剥がれつつあるのを確認した後、剥離溶液を廃棄、StemFit AK02N培地を導入し、セルスクレ―バーで細胞を剥離し、50mLチューブ中に回収した。また、K562細胞についてはシャーレから直接50mLチューブへと回収を行った。それぞれの細胞を遠心分離して沈降後、細胞ペレットを前述のMACSバッファにて懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞洗浄操作を2回繰り返した後、最終的に、数mLのMACSバッファに懸濁した201B7細胞とK562細胞をそれぞれセルストレーナーで濾過することで凝集塊を除去し、5.0x10^6個/mLの201B7細胞と6.0x10^6個/mLのK562細胞の細胞懸濁液を得た。
次に、2.5mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μmのメッシュフィルター(日本BD製 セルストレーナチューブ蓋のメンブレンを取り出して使用)を装着したカラムを作製した。実施例9で作製した吸着剤E1を前述のMACSバッファで置換したのち、50%懸濁液を調製し、作製したカラムに1.0mLの50%懸濁液を添加し、吸着剤をカラムに充填した(吸着剤容量:500μL)。各吸着剤を充填したカラムは同じものを5本用意し、それぞれのカラムを垂直に立てた状態で、以下の方法で1本には201B7細胞を単独、残り4本には混合比率を変えた201B7細胞とK562細胞の細胞混合物をアプライした。
(201B7細胞を単独でアプライの場合)
上記の方法で調製した5.0x10^6個/mLの201B7細胞を100μL、すなわち1.0x10^6個/mL−吸着剤の条件でアプライした。
(201B7細胞とK562細胞の細胞混合物をアプライの場合)
下記混合比率(i)〜(iv)の条件で細胞混合物を調製し、カラムへアプライした。
混合比率(i)
201B7細胞とK562細胞をそれぞれ18%:82%の細胞数比率で混合したものを調製し、(4.0x10^5個の201B7細胞と1.8x10^6個のK562細胞)/mL−吸着剤の条件でカラム上部にアプライした。
混合比率(ii)
201B7細胞とK562細胞をそれぞれ47%:53%の細胞数比率で混合したものを調製し、(1.0x10^6個の201B7細胞と1.1x10^6個のK562細胞)/mL−吸着剤の条件でカラム上部にアプライした。
混合比率(iii)
201B7細胞とK562細胞をそれぞれ78%:22%の細胞数比率で混合したものを調製し、(1.6x10^6個の201B7細胞と4.6x10^5個のK562細胞)/mL−吸着剤の条件でカラム上部にアプライした。
混合比率(iv)
201B7細胞とK562細胞をそれぞれ10%:90%の細胞数比率で混合したものを調製し、(4.4x10^5個の201B7細胞と4.1x10^6個のK562細胞)/mL−吸着剤の条件でカラム上部にアプライした。
次に、カラム上部よりMACSバッファを2mL導入し、針部から流出した細胞液約2mLを別の容器に回収した。回収した流出細胞液はフルオロヌンク96穴蛍光検出用プレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)に100μLずつ分注し、プレートリーダーで励起波長541nm、検出波長580nmで蛍光スキャンを行い、検出波長580nmでの蛍光強度を測定した。また、調製した5.0x10^6個/mLの201B7細胞溶液の希釈系列を作製し、同様にフルオロヌンク96穴蛍光検出用プレートに100μLずつ分注して蛍光スキャンを行うことで、細胞濃度定量用の検量線を作成した。流出細胞液の蛍光強度と検量線よりそれぞれの流出細胞液中の201B7細胞濃度を定量し、201B7細胞の流出率(%)を「流出率(%)=カラムあたりの流出細胞数/導入細胞数」として算出した。
201B7細胞の細胞流出率を表12、グラフを図23に示す。201B7細胞を単独でアプライした場合、流出率は7.9%と、良好な201B7細胞の吸着を示した。また、201B7細胞とK562細胞との混合細胞をアプライした場合も同様に、細胞混合比率(i)でアプライしたものについては流出率4.7%、細胞混合比率(ii)でアプライしたものについては流出率9.7%、細胞混合比率(iii)でアプライしたものについては流出率11.4%、細胞混合比率(iv)でアプライしたものについては流出率13.0%と良好な201B7細胞の吸着性を示した。これらの結果から、201B7細胞、または201B7細胞とK562細胞との混合細胞を、吸着剤E1を充填したカラムに通液した場合、吸着剤に201B7細胞が強く吸着されるために流出率が低くなることが明らかとなった。
また、以下の方法でFACSにて、各流出細胞中の201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率、および、201B7細胞とK562細胞との混合細胞をアプライした場合における流出細胞中の201B7細胞の割合を解析した。まず各細胞液を遠心分離して細胞を沈降後、上清を廃棄して細胞ペレットをMACSバッファにて懸濁することで細胞の洗浄を行った。再び遠心分離して細胞を沈降した後、上清を廃棄して、細胞ペレットをMACSバッファ1mLに再懸濁した。rBC2LCN−FITC(和光純薬製)5μLを添加し、室温で1時間反応した。蛍光試薬反応後、遠心分離して細胞を沈降した後、上清を廃棄して、細胞ペレットをMACSバッファ1mLに再懸濁した。再び遠心分離して細胞を沈降した後、上清を廃棄して、細胞ペレットをMACSバッファ1mLに再懸濁することで、FACS測定用細胞サンプルとした。
混合細胞をアプライした場合の各流出細胞をFACSで解析したドットプロットを図24に示す。図24中、Cell Tracker Orange陽性の細胞集団、すなわち201B7細胞をQ1とQ2ゲート部分、また、Cell Tracker Orangeで染色されておらず、なおかつBC2LCNレクチン反応性を示さない細胞集団として、K562細胞をQ3ゲート部分に設定した。混合細胞をアプライしたカラムにおける流出細胞中の201B7細胞の比率は、細胞比率(%)=(Q1+Q2)/(Q1+Q2+Q3)として算出した。また、FITCの蛍光強度が低いQ1ゲートに含まれる細胞集団はBC2LCNレクチン陰性の細胞集団、FITCの蛍光強度が高いQ2ゲートに含まれる細胞集団はBC2LCNレクチン陽性の細胞集団とし、201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率(%)=Q2/(Q1+Q2)として流出細胞中の201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率の算出を行った。
混合細胞をアプライしたカラムにおける流出細胞中の201B7細胞の比率を表12に示す。細胞アプライ時の細胞比率は細胞混合比率(i)でアプライしたものについては201B7:K562=18%:82%、細胞混合比率(ii)でアプライしたものについては201B7:K562=47%:53%、細胞混合比率(iii)でアプライしたものについては201B7:K562=78%:22%、細胞混合比率(iv)でアプライしたものについては201B7:K562=10%:90%であったが、流出細胞中の細胞比率は、細胞混合比率(i)でアプライしたものについては201B7:K562=0.08%:99.92%、細胞混合比率(ii)でアプライしたものについては201B7:K562=0.25%:99.75%、細胞混合比率(iii)でアプライしたものについては201B7:K562=0.71%:99.29%、細胞混合比率(iv)でアプライしたものについては201B7:K562=0.10%:99.90%であり、流出細胞中に含まれる201B7細胞の割合が極度に低下していることが確認された。以上の結果から、親水性高分子が固定されたトヨパールHW−40ECにBC2LCNレクチンを固定化した吸着剤E1に混合細胞を通液した場合、「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有する細胞である201B7細胞のみが選択的に吸着分離できることが確認された。
また、流出細胞中の201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率解析結果を表12、グラフを図25に示す。アプライした201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率は96%であったが、201B7細胞を単独でアプライした場合の流出した201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率は55%、K562細胞との混合細胞をアプライした場合の流出した201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率は、BC2LCNレクチン陽性細胞数が僅少のため定量不能(細胞混合比率(i)、細胞混合比率(ii)、細胞混合比率(iv))、77%(細胞混合比率(iii)と、BC2LCNレクチン陽性率の大きな低下が認められた。表12に示した201B7細胞の流出率とFACSで解析した各流出細胞中の201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率との相関を図26に示す。細胞流出率と流出細胞のBC2LCNレクチン陽性率には相関が認められ、細胞流出率が低いほど流出細胞中の201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率も低いことが確認され、吸着剤E1を充填したカラムに通液した場合、BC2LCNレクチン陽性率の高い細胞集団が吸着剤と強く結合し、吸着されていることが明らかとなった。
比較例8 吸着剤D0への201B7細胞およびスパイク細胞の吸着実験とFACS解析
吸着剤D0を用いた以外は、実施例20と同様の方法で細胞吸着実験とFACS解析を行った。
201B7細胞の細胞流出率を表12、グラフを図23に示す。201B7細胞を単独でアプライした場合、流出率は100%と、201B7細胞が吸着されずに流出していることが明らかとなった。また、201B7細胞とK562細胞との混合細胞をアプライした場合も同様に、細胞混合比率(i)でアプライしたものについては流出率89.3%、細胞混合比率(ii)でアプライしたものについては流出率78.2%、細胞混合比率(iii)でアプライしたものについては流出率100.0%、細胞混合比率(iv)でアプライしたものについては流出率84.4%と201B7細胞が吸着されずに流出していることが明らかとなった。これらの結果から、201B7細胞、または201B7細胞とK562細胞との混合細胞を、吸着剤D0を充填したカラムに通液した場合、吸着剤に201B7細胞が吸着されないことが明らかとなった。
混合細胞をアプライした場合の各流出細胞をFACSで解析したドットプロットを図24、混合細胞をアプライしたカラムにおける流出細胞中の201B7細胞の比率を表12に示す。細胞アプライ時の細胞比率は細胞混合比率(i)でアプライしたものについては201B7:K562=18%:82%、細胞混合比率(ii)でアプライしたものについては201B7:K562=47%:53%、細胞混合比率(iii)でアプライしたものについては201B7:K562=78%:22%、細胞混合比率(iv)でアプライしたものについては201B7:K562=10%:90%であったが、流出細胞中の細胞比率は、細胞混合比率(i)でアプライしたものについては201B7:K562=11%:89%、細胞混合比率(ii)でアプライしたものについては201B7:K562=33%:67%、細胞混合比率(iii)でアプライしたものについては201B7:K562=69%:31%、細胞混合比率(iv)でアプライしたものについては201B7:K562=6%:94%であり、細胞アプライ時の細胞比率と大きく変わらないことが確認された。以上吸着剤D0に混合細胞を通液した場合、201B7細胞のみを選択的に吸着分離できないことが確認された。
また、流出細胞中の201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率解析結果の数値を表12、グラフを図25に示した。アプライした201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率は96%であり、201B7細胞を単独でアプライした場合の流出した201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率は97%、K562細胞との混合細胞をアプライした場合の流出した201B7細胞のBC2LCNレクチン陽性率は、細胞混合比率(i)でアプライしたものについては97%、細胞混合比率(ii)でアプライしたものについては95%、細胞混合比率(iii)でアプライしたものについては93%、細胞混合比率(iv)でアプライしたものについては95%であり、BC2LCNレクチン陽性率の大きな低下は認められなかった。
これらの結果から、BC2LCNレクチンを固定化していない吸着剤である吸着剤D0を充填したカラムに通液した場合、201B7細胞が結合せず素通りするために、アプライ細胞と同じBC2LCNレクチン陽性率を持つ細胞が流出していることが明らかとなった。
実施例21 吸着剤E1へのNHDF細胞と2102Ep細胞のスパイク細胞の吸着実験
「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有さない正常ヒト皮膚線維芽細胞であるNHDF細胞(PromoCell製)の培養は、線維芽細胞増殖培地2(PromoCell製)を用い、直径15cmのシャーレ(コーニング製)に細胞を播種し、5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。また、「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有する細胞である2102Ep細胞を、実施例14と同様の手法で接着細胞培養用フラスコ(コーニング製、Falcon)にて、10%FBSと抗生物質溶液を添加したD−MEM培地を用い、5%CO2雰囲気下、37℃で培養を行った。
次に、以下の手順によりNHDF細胞をCell Tracker Greenで蛍光染色した。まずフラスコ中の培地を廃棄後、D−PBSを導入して細胞をリンス後、D−PBSを廃棄した。次にCell Tracker Greenを無血清RPMI培地に終濃度10μMで溶解した液を導入し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。蛍光試薬液を廃棄後、線維芽細胞増殖培地2を導入し、5%CO2雰囲気下、37℃で1時間培養した。次に線維芽細胞増殖培地2を廃棄した後、再び新しい線維芽細胞増殖培地2を導入し、5%CO2雰囲気下、37℃で一晩培養を行った。また、実施例14と同様の手法で2102Ep細胞をCell Tracker Orangeで蛍光染色した。
次に、以下の手順によりNHDF細胞の回収、洗浄、シングルセル化を行った。まず、培養フラスコ中の線維芽細胞増殖培地2を廃棄してD−PBSを導入した後、細胞をリンスしてD−PBS液を廃棄した。次に、適当量のAccutase(イノベーティブセルテクノロジー製)を導入し、数分間放置することでNHDF細胞を剥離させ、50mLチューブへと回収した。細胞を遠心分離して沈降後、細胞ペレットを前述のMACSバッファにて懸濁し、再度遠心分離して上清を廃棄することで細胞を洗浄した。細胞洗浄操作を2回繰り返した後、MACSバッファで懸濁を行い、セルストレーナーで濾過することで凝集塊を除去して2.7x10^6個/mLの均一なNHDF細胞懸濁液を調製した。また、実施例14と同様の手法にて、2102Ep細胞を回収、洗浄、シングルセル化して、1.7x10^7個/mLの2102Ep細胞懸濁液を得た。
次に、このようにして調製した2.7x10^6個/mLのNHDF細胞懸濁液2.0mLと1.7x10^7個/mLの2102Ep細胞懸濁液600μLを混合し、スパイクテスト用のNHDF細胞と2102Ep細胞の混合細胞液を調製した。
次に、2.5mL容シリンジ(テルモ製)と注射針(テルモ製、22G)の間に目開き40μmのメッシュフィルター(日本BD製 セルストレーナチューブ蓋のメンブレンを取り出して使用)を装着したカラムを2本作製した。実施例9で作製した吸着剤E1を前述のMACSバッファで置換したのち、50%懸濁液を調製し、作製したカラムにそれぞれ2.0mL、4.0mLの50%懸濁液を添加し、吸着剤をカラムに充填した(吸着剤容量:それぞれ1.0mL、2.0mL)。
次にそれぞれのカラムを垂直に立てた状態で、上記の方法で調製したNHDF細胞と2102Ep細胞の混合細胞液を100μL、すなわちカラムあたり2.1x10^5個のNHDF細胞と3.9x10^5個の2102Ep細胞の条件で、カラム上部にアプライした。
次にカラム上部より、吸着剤容量が1.0mLのカラムにはMACSバッファを2.0mL、吸着剤容量が2.0mLのカラムにはMACSバッファを4.0mL導入し、針部からの流出液(それぞれ2.0mlと4.0ml)を別容器に回収した。実施例14と同様の手法での蛍光強度測定結果からそれぞれの流出細胞液中のNHDF細胞、2102Ep細胞の流出率(%)を「流出率(%)=カラムあたりの流出細胞数/導入細胞数」として算出した。
NHDF細胞および2102Ep細胞の細胞流出率を表13、細胞流出率のグラフを図27に示す。NHDF細胞と2102Ep細胞の混合細胞液を吸着剤E1にアプライした場合の、NHDF細胞の流出率はそれぞれ71%(吸着剤容量:1.0mL)、82%(吸着剤容量:2.0mL)であり、一方2102Ep細胞の流出率はそれぞれ19%(吸着剤容量:1.0mL)、15%(吸着剤容量:2.0mL)であった。以上の結果から、トヨパールHW−40ECにBC2LCNレクチンを固定化した吸着剤E1にNHDF細胞および2102Ep細胞の混合細胞液を通液した場合、「Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖」を有する細胞である2102Ep細胞のみが選択的に吸着分離できることが確認された。
比較例9 吸着剤A0へのNHDF細胞と2102Ep細胞のスパイク細胞の吸着実験
実施例2に記載の吸着剤A0を用いた以外は、実施例21と同様の方法で細胞吸着実験を行った。NHDF細胞および2102Ep細胞の細胞流出率を表13、細胞流出率のグラフを図27に示す。NHDF細胞と2102Ep細胞の混合細胞液を吸着剤A0にアプライした場合の、NHDF細胞の流出率はそれぞれ106%(吸着剤容量:1.0mL)、101%(吸着剤容量:2.0mL)、2102Ep細胞の流出率はそれぞれ91%(吸着剤容量:1.0mL)、84%(吸着剤容量:2.0mL)であった。HW−40ECにBC2LCNレクチンを固定化していない吸着剤である吸着剤A0にNHDF細胞および2102Ep細胞の混合細胞液を通液した場合、NHDF細胞および2102Ep細胞の両者共に吸着剤に結合せず素通りするために流出率が高くなり、細胞が選択的に吸着分離できないことが確認された。