以下、本発明に係る回転電機の実施形態について図1から図15を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機を回転軸に沿う方向から見た図である。
図2は、本発明の実施形態に係る回転電機を回転軸に直交する方向から見た図である。
図1および図2に示すように、本実施形態に係る回転電機1は、概略円柱形状の外観を有する。回転電機1は、筒状のステータ2と、ステータ2の軸方向の少なくともいずれか一方に配置され、隙間G1を隔ててステータ2に対面するアキシャルギャップロータ3と、ステータ2の径方向内側または外側に配置され、隙間G2を隔ててステータ2に対面するラジアルギャップロータ5と、を備えている。つまり、回転電機1は、いわゆるアキシャルギャップ型およびラジアルギャップ型の両方の構造を兼ね備えている。
なお、図1は、ステータ2の径方向内側に配置されるラジアルギャップロータ5を備える、いわゆるインナーロータ型の回転電機1の図である。また、図2は、ステータ2の軸方向の両方からステータ2を挟む一対のアキシャルギャップロータ3を備える回転電機1の図である。
また、回転電機1は、ステータ2の中心線に沿って配置される回転軸6を備えている。回転軸6は、ステータ2を挟む一対のアキシャルギャップロータ3を回転一体に支持している。また、回転軸6は、ステータ2の内部にラジアルギャップロータ5を回転一体に支持している。つまり、回転軸6は、アキシャルギャップロータ3およびラジアルギャップロータ5を回転一体に支持している。アキシャルギャップロータ3、ラジアルギャップロータ5、よび回転軸6は、ステータ2の中心線を中心に回転する。回転軸6は、ステータ2、またはステータ2、ラジアルギャップロータ5、およびアキシャルギャップロータ3を収容するケーシング7に軸受(図示省略)を介して回転可能に支持されている。
図3は、本発明の実施形態に係る回転電機のステータの斜視図である。
図4は、本発明の実施形態に係る回転電機のステータコアの斜視図である。
図1および図2に加えて図3および図4に示すように、本実施形態に係る回転電機1のステータ2は、円筒形状のステータコア11と、ステータコア11に設けられ、ステータコア11の周方向に等間隔で並ぶ複数のステータティース12と、ステータコア11またはステータティース12に巻かれる電機子コイル13と、を備えている。
ステータコア11は、高透磁率の磁性材料で製作されている。ステータコア11の中心線方向を臨む面、つまり天面および底面をアキシャル面と呼び、ステータコア11の径方向を臨む面、つまり内周面および外周面をラジアル面と呼ぶ。
複数、例えば12のステータティース12は、放射状に配置されている。ステータティース12は、ステータコア11と同じ材料で一体成型されている。隣り合う一対のステータティース12は、ステータスロットを画定している。換言すると、ステータスロットは、隣り合うステータティース12の側面に挟まれる空間である。
それぞれのステータティース12は、ステータコア11の2つのアキシャル面から突出する第一ティース部15と、ステータコア11のラジアル面から突出する第二ティース部16と、を備えている。第一ティース部15は、ステータコア11の厚みの中央部から外側および内側へ向かって狭まる略六角柱状の外観を有している。第二ティース部16は、第一ティース部15の内側の形状に整合してステータコア11の中心線に向かって狭まる台形状を有している。第二ティース部16は、ステータコア11の内周面を長手方向、つまりステータコア11の中心線に平行な方向へ延びている。
電機子コイル13は、三相交流電源(図示省略)に接続される。電機子コイル13は、ステータスロットに配置され、ステータコア11に巻かれている。U相、V相、およびW相のそれぞれに接続される電機子コイル13a、13b、13cが、例えば4極ずつ並列にトロイダル集中巻きされている。各相の電機子コイル13は、ステータティース12を両脇から挟んでいる。なお、電機子コイル13は、ステータティース12に巻かれていても良い。
ステータ2は、電機子コイル13に交流電力が通電することによって磁束を発生させ、その磁束をステータコア11のアキシャル面からアキシャルギャップロータ3に鎖交させ、ステータコア11のラジアル面からラジアルギャップロータ5に鎖交させる。ステータティース12は、電機子コイル13に交流電力が通電することによってラジアルギャップロータ5を回転させる磁束を発生する電磁石として機能する。
図5は、本発明の実施形態に係る回転電機のアキシャルギャップロータを回転軸に沿う方向から見た図である。
図6は、本発明の実施形態に係る回転電機のアキシャルギャップロータを回転軸に直交する方向から見た図である。
図1および図2に加えて図5および図6に示すように、本実施形態に係る回転電機1のアキシャルギャップロータ3は、非磁性部材21と、ステータコア11に対面し周方向に等間隔で並ぶ複数のアキシャルギャップロータティース22と、アキシャルギャップロータティース22に巻かれステータ2で発生する磁束に基づいて誘導電流を誘起させる誘導コイル23と、を備えている。
アキシャルギャップロータ3は、非磁性部材21、複数のアキシャルギャップロータティース22、および誘導コイル23を、例えば樹脂を硬化させて一体化したものである。
非磁性部材21は、非磁性金属(例えばアルミニウム)や樹脂のような非磁性材料で製作されている。非磁性部材21には、アキシャルギャップロータティース22が取り付けられ、複数のアキシャルギャップロータティース22の相対的な位置が定められている。非磁性部材21(および樹脂)によって、アキシャルギャップロータ3とラジアルギャップロータとの間、および、複数のアキシャルギャップロータティースの間の磁気抵抗が高められている。
複数、例えば8つのアキシャルギャップロータティース22は、第二次高調波成分を導くため放射状に配置されたセグメント構造を有している。アキシャルギャップロータティース22は、断面が概略台形の短尺な棒体であり、台形の短辺を径方向内側に配置し、台形の長辺を径方向外側に配置している。アキシャルギャップロータティース22は、高透磁率の磁性材料で製作されている。アキシャルギャップロータティース22は、回転軸6の中心線に平行な方向に延びている。
誘導コイル23は、アキシャルギャップロータティース22に集中巻きされている。誘導コイル23は、外部電源に非接続である。アキシャルギャップロータティース22毎に巻かれた誘導コイル23は、アキシャルギャップロータ3全体で直列に接続されている。なお、誘導コイル23は、全てのアキシャルギャップロータティース22に巻かれている必要はなく、アキシャルギャップロータティース22の少なくとも1つに巻かれていれば良い。
回転電機1は、ステータ2のアキシャル面の突極数(すなわち第一ティース部15の数)とアキシャルギャップロータ3の誘導コイル23のコア数との比を3:2に設定し、第二次空間高調波成分を効率的に界磁エネルギー源として活用する。
セグメント構造のアキシャルギャップロータティース22とラジアルギャップロータ5との間に非磁性部材21が介在しているため、第2次空間高調波成分はラジアルギャップロータ5の基本波磁束の磁路には干渉しない。
また、複数のアキシャルキャップロータティース22同士の間にも非磁性部材21および樹脂が介在しているため、基本波磁束の磁路を形成せず、第二次空間高調波成分のみの磁路を形成するため、アキシャル面におけるドラッグトルク(「ブレーキトルク」とも呼ばれる)を大幅に低減する。セグメント構造のアキシャルギャップロータティース22は、磁路を必要最小限にすることで、磁束の鎖交によって生じる鉄損を抑制する。
図7は、本発明の実施形態に係る回転電機の横断面図である。
なお、図7は、回転電機1の1/4周、すなわち90度の領域の横断面図であるが、他の領域も同様の構造を有する。
図1および図2に加えて図7に示すように、本実施形態に係る回転電機1のラジアルギャップロータ5は、ステータコア11に対面するラジアルギャップロータコア31と、ラジアルギャップロータコア31に設けられラジアルギャップロータコア31の周方向に等間隔で並ぶ複数のラジアルギャップロータティース32と、ラジアルギャップロータティース32のそれぞれに設けられる永久磁石33と、隣り合うラジアルギャップロータティース32の間に配置される磁路部材34と、磁路部材34に巻かれ誘導コイル23が誘起させた誘導電流が通電すると磁界を発生させる界磁コイル35と、を備えている。
ラジアルギャップロータ3およびアキシャルギャップロータ5は、一体成形され、または回転軸6を介して組み合わされ、回転一体化されている。
複数、例えば8つのラジアルギャップロータティース32は、放射状に配置されている。ラジアルギャップロータティース32は、ラジアルギャップロータ5の径方向外側に向かって延びている。ラジアルギャップロータティース32は、高透磁率の磁性材料で製作されている。ラジアルギャップロータティース32とステータティース12との数量は異なる。したがって、ステータコア11とラジアルギャップロータ5とが相対的に回転するとき、ラジアルギャップロータティース32の外周面はステータティース12の内周面に適宜、近接し、対面する。
隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32は、ロータスロットを画定している。ロータスロットは、隣り合うラジアルギャップロータティース32の側面に挟まれる空間である。
永久磁石33は、ラジアルギャップロータティース32に埋設されている。永久磁石33は、ラジアルギャップロータティース32毎に2つずつ配置されている。2つの永久磁石33は、一文字型に並んでいる。2つの永久磁石33の間には、ブリッジ部36が設けられている。なお、2つの永久磁石33は、V字型に配置されていても良い。
ラジアルギャップロータティース32は、永久磁石33よりもステータ2側に配置される先端部51を有している。先端部51は、永久磁石33と磁路部材34との間、および永久磁石33とステータティース12(第二ティース部16)との間に磁束を通す磁路である。先端部51は、ラジアルギャップロータティース32の突出端に相当する。ラジアルギャップロータティース32のうち、先端部51よりも根元側、つまり先端部51よりもステータ2から遠い側は、実質的に一様な幅寸法で延びている。先端部51は、ラジアルギャップロータ5の中心からの距離を半径とする円弧状の外周面を有している。また、先端部51は、永久磁石33よりも磁路部材34に向かって突出した形状を有している。具体的には、ラジアルギャップロータティース32の幅寸法よりも拡がってロータスロットに楔状に侵入する突出部51aを有している。
磁路部材34および界磁コイル35は、ロータスロットに配置されている。
磁路部材34は、高透磁率の磁性材料で製作されている。磁路部材34は、ラジアルギャップロータ5の回転中心と平行に延びている。磁路部材34は、隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32の先端部51の間を短絡する磁路(以下、単に「磁路」または「バイパス磁路」と言う)を形成する。
磁路部材34は、界磁コイル35が巻かれる基部61と、隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32のうち少なくとも一方の先端部51にむかって延びる突出部62と、を備えている。ラジアルギャップロータティース32の先端部51と磁路部材34の突出部62との間には、間隔G3が設けられている。
基部61は、界磁コイル35を巻き付けることが可能な板状の形状を有する。基部61は、ラジアルギャップロータ5の回転中心と平行に延び、かつ隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32の間に架け渡されるように、ラジアルギャップロータ5の周方向に延びている。
突出部62は、基部61の周方向側の端部からラジアルギャップロータティース32の先端部51へ向かって延びている。
ラジアルギャップロータティース32と磁路部材34との間隔G3は、ステータティース12(第二ティース部16)とラジアルギャップロータコア31との間隔G4よりも広い。間隔G3は、ラジアルギャップロータティース32の先端部51の突出部51aと、磁路部材34の突出部62との最短距離である。間隔G4は、ステータ2の第二ティース部16の最内周面と、ラジアルギャップロータティース32の先端部51の最外周面との最短距離であり、実質的にステータ2とラジアルギャップロータ5との隙間G2と同じである。
ラジアルギャップロータティース32と磁路部材34との間隔G3を、隙間(空気)で隔てる場合、磁路部材34は、ラジアルギャップロータコア31の軸方向におけるそれぞれの端部でラジアルギャップロータコア31に固定される。ラジアルギャップロータティース32と磁路部材34との間隔G3は、隙間ではなく、非磁性体、例えば樹脂で満たされていても良い。この場合、磁路部材34は、間隔G3を埋める樹脂でラジアルギャップロータコア31に固定される。
永久磁石33は、隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32においての磁極(N極、S極)を逆に向けて設置されている。換言すると、永久磁石33は、磁路部材34を挟んで隣り合うもの同士の極性が反対である。ラジアルギャップロータ5の全周においては、永久磁石33は、ラジアルギャップロータティース32毎に磁極(N極、S極)を交互に逆に向けて設置されている。ある1つのステータティース12(第二ティース部16)に着目すると、ラジアルギャップロータ5とステータ2とが相対回転するとき、永久磁石33のN極およびS極が、交互に繰り返しステータティース12(第二ティース部16)に対面する。
界磁コイル35は、磁路部材34の基部61に集中巻きされている。界磁コイル35は、隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32の間で磁路を短絡させる向きに巻かれている。また、界磁コイル35は、ラジアルギャップロータ5の径方向に向かって巻かれている。磁路部材34毎に巻かれた界磁コイル35は、ラジアルギャップロータ5全体で直列に接続されている。なお、界磁コイル35は、並列接続しても良いし、別回路を設ける構造としても良い。
図8は、本発明の実施形態に係る回転電機の誘電コイルおよび界磁コイルの回路図である。
図8に示すように、本実施形態に係る回転電機1は、誘導コイル23で発生する交流の誘導電流を直流の界磁電流にして界磁コイル35に供給する。回転電機1は、界磁コイル35に界磁電流を流し、磁路部材34を電磁石として機能させる。なお、誘導コイル23aは、例えばステータ2の軸方向の一方に配置されるアキシャルギャップロータ3の誘導コイル23であり、誘導コイル23bは、例えばステータ2の軸方向の他方に配置されるアキシャルギャップロータ3の誘導コイル23である。
誘導コイル23および界磁コイル35は、ダイオード71a、71bを介して接続されている。換言すると、誘導コイル23および界磁コイル35は、誘導回路および界磁回路として、外部の電源等の回路に接続されることのない閉回路内にダイオード71a、71bとともに組み込まれている。
この閉回路は、誘導コイル23で発生する交流の誘導電流を、ダイオード71a、71bを介して半波整流させて直流界磁電流に調整し、この後に合流させて界磁コイル35に供給する。
ダイオード71a、71bは、それぞれ180度位相差になるように結線され、誘導コイル23の誘導電流を反転させて半波整流出力する中性点クランプ型の半波整流回路を構成している。
上述したとおり、回転電機1は、トロイダル集中巻されるステータ2と、ステータ2のアキシャル面に配置され誘導コイル23を有するアキシャルギャップロータ3と、ステータ2のラジアル面に配置され界磁コイル35を有するラジアルギャップロータ5と、を備えている。このように構成される回転電機1は、ステータ2の電機子コイル13に通電することにより磁束を発生させる。この磁束は、ステータティース12のラジアル面から対面するラジアルギャップロータティース32の先端部51の外周面に鎖交する。回転電機1は、ステータティース12とラジアルギャップロータティース32との間で鎖交する磁束の磁路を最短にしようとするリラクタンストルク、および永久磁石33の磁気反発力ならびに磁石吸引力によるマグネットトルクによってラジアルギャップロータ5を回転させる。そして、回転電機1は、ラジアルギャップロータ5と一体回転する回転軸6から機械的エネルギーを出力する。
ところで、一般的な固定界磁形の永久磁石同期モータは、高回転で駆動するとき、永久磁石の磁束に起因する逆起電力(ステータ巻線誘導起電力、速度起電力とも言う)が増加する。そこで、逆起電力の電圧が電源電圧を超えないように、インバータを用いた電圧制限制御、いわゆる弱め磁束制御が行われる。この弱め磁束制御は、トルクに寄与しない磁束ベクトル方向に永久磁石の磁束を打ち消すベクトルを発生させる。したがって、弱め磁束制御は、モータの出力に寄与しない無駄なエネルギーを必要とし、効率を低下させる。また、弱め磁束制御は、ステータとロータとのギャップ中の磁束を大きく歪ませ、高調波成分を発生させ、鉄損を増加させ、電磁振動を増加させる。さらに、弱め磁束制御は、永久磁石に対向する逆磁界ベクトルを発生させて永久磁石の磁束を抑え込むため、比較的保磁力の高い磁石を必要とし、コストを増加させる。
本実施形態に係る回転電機1も、ステータティース12からラジアルギャップロータティース32に鎖交する磁束に高調波成分が重畳する。基本周波数の磁束に重畳する高調波成分は、基本周波数と異なる周期で時間的に変化しつつアキシャルギャップロータティース22にも鎖交する。
そこで、回転電機1は、ステータ2からアキシャルギャップロータ3に鎖交する磁束の高調波成分の磁束密度の変化を利用して、アキシャルギャップロータ3の誘導コイル23に誘導電流を発生させる。つまり、誘導コイル23は、第二次高調波成分を利用することによって、外部からの電力等を必要とすることなく、効率よく誘導電流を発生させる。この結果、回転電機1は、鉄損の原因となる高調波成分を自己励磁するためのエネルギーとして回収する。
図9および図10は、本発明の実施形態に係る回転電機の界磁コイルが生じさせる磁束の変化を概略的に示す図である。
なお、図9および図10は、ラジアルギャップロータ5に生じる磁束を矢印で表し、ステータ2に生じる磁束を省略して図示している。
図9は、回転電機1が低速で回転しているときの様子を示し、図10は、回転電機1が高速で回転しているときの様子を示している。
回転電機1は、誘導コイル23が発生させた誘導電流をダイオード71a、71bで整流し、この整流した誘導電流を界磁電流として界磁コイル35に流す。界磁コイル35は、界磁電流が流れることによって自己励磁し、磁路部材34、つまりバイパス磁路に磁極を形成する。誘導コイル23に発生する誘導起電力は、ファラデーの法則に基づき、回転電機1の回転速度の増加とともに増加する、つまり正の相関関係を有する。図9は回転電機1が低速で回転し誘導起電力が小さい状態を図示しているため、界磁電流(または界磁コイルの起電力)の図示を省略している。他方、図10は、回転電機1が低速で回転し誘導起電力が大きい状態を図示しているため、界磁電流(または界磁コイルの起電力)を図示している。誘導コイル23に発生する誘導起電力が回転電機1の回転速度の増加とともに増加するため、界磁コイル35は、回転電機1の回転速度の増加とともに磁路部材34の磁力を強め、隣り合うラジアルギャップロータティース32(32a、32b)に埋設される永久磁石33(33a、33b)の磁束をラジアルギャップロータ5内で短絡させ、ハルバッハ配列を形成する。この結果、回転電機1は、回転速度の変化に応じてステータ2に鎖交する磁束量を変化させる。換言すると、回転電機1は、回転速度の変化に応じてステータ2に鎖交する磁束量を可変させる。図9および図10は、磁路部材34の磁力による影響を矢印の太さで表している。回転電機1は、ステータ2に鎖交する磁束量を可変させるため、ステータ2に鎖交する磁束量を「φ」と表すとき、ステータ端子電圧V=電機子コイル巻数N×dφ/dtで表されるステータ端子電圧Vの増加を防ぐことができる。
したがって、回転電機1は、ステータ2に鎖交する磁束量を制御し、ステータ端子電圧Vの増加を防ぎ、ひいては弱め界磁制御を不要にできる。また、回転電機1は、弱め界磁制御に起因するモータ電磁振動を大幅に低減させる。そして、回転電機1は、高回転時における出力を増加させ、効率を向上させる。
また、回転電機1は、回転速度の増加に応じて磁路部材34の磁力を強め、この磁力を永久磁石33の磁束の短絡に利用するため、誘導起電力が増加する高回転域で特に好適である。
なお、アキシャルギャップロータ3およびラジアルギャップロータ5は、誘導コイル23と界磁コイル35とが電気的に接続されている限りにおいて、常に回転一体化されている必要はない。
次いで、本実施形態に係る回転電機1の他の例を説明する。なお、各例で説明する回転電機1A、1B、および1Cにおいて、図1から図10の回転電機1と同じ構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図11は、本発明の実施形態に係る回転電機の他の例の横断面図である。
図11に示すように、本実施形態に係る回転電機1Aは、ラジアルギャップロータ5の中心側から略一様な幅寸法で延びるラジアルギャップロータティース32Aと、磁路部材34Aと、を備えている。
ラジアルギャップロータティース32Aは、根元から突出端、つまり先端部51Aまでラジアルギャップロータ5の中心側から略一様な幅寸法で延びている。
磁路部材34Aは、誘導コイル23が巻かれる基部61と、隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32Aの先端部51Aにむかって延びる突出部62Aと、を備えている。磁路部材34Aの突出部62Aは、図7における先端部51の突出部51aを兼ねている。
図12は、本発明の実施形態に係る回転電機の他の例の横断面図である。
図12に示すように、本実施形態に係る回転電機1Bは、ラジアルギャップロータティース32Bと、磁路部材34Bと、を備えている。
磁路部材34Bは、誘導コイル23が巻かれる基部61を有する。
ラジアルギャップロータティース32Bは、磁路部材34Bの基部61に向かって延びる先端部51Bを有している。ラジアルギャップロータティース32Bの先端部51Bは、図7における磁路部材34の突出部62を兼ねている。
図13は、本発明の実施形態に係る回転電機の他の例の横断面図である。
図13に示すように、本実施形態に係る回転電機1Cは、ラジアルギャップロータ5の周方向において非対称なラジアルギャップロータティース32Cと、磁路部材34Cと、を備えている。
ラジアルギャップロータティース32Cは、ラジアルギャップロータ5の周方向においていずれか一方、図13では時計回りの方向に図11と同様な構造を有し、ラジアルギャップロータ5の周方向においていずれか他方、図13では反時計回りの方向に図12と同様な構造を有している。
磁路部材34Cは、ラジアルギャップロータ5の周方向においていずれか一方、図13では時計回りの方向に図12と同様な構造を有し、ラジアルギャップロータ5の周方向においていずれか他方、図13では反時計回りの方向に図11と同様な構造を有している。
ラジアルギャップロータティース32Cの時計回り方向の半分は、根元から突出端、つまり先端部51Cまでラジアルギャップロータ5の中心側から略一様な幅寸法で延びている。
磁路部材34Cの反時計回り方向の半分は、誘導コイル23が巻かれる基部61と、隣り合う一対のラジアルギャップロータティース32Cの先端部51Cにむかって延びる突出部62Cと、を備えている。磁路部材34Cの突出部62Cは、図7における先端部51の突出部51aを兼ねている。
磁路部材34Cの時計回りの半分は、誘導コイル23が巻かれる基部61を有する。
ラジアルギャップロータティース32Cの反時計回りの半分は、磁路部材34Cの基部61に向かって延びる先端部51Cを有している。ラジアルギャップロータティース32Cの先端部51Cは、図7における磁路部材34の突出部62を兼ねている。
図13の回転電機1Cは、図13における時計回りおよび反時計回りのいずれか一方にのみ回転させる場合に好適である。また、回転電機1Cは、正転と逆転との特性を変化させる場合にも好適である。
このように構成される本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、誘導コイル23と界磁コイル35とを別々のロータ(すなわち、アキシャルギャップロータ3、ラジアルギャップロータ5)に巻いているため、従来の回転電機のように誘導コイル23と界磁コイル35とを同一のロータに巻く場合に比べてそれぞれのコイルを巻く領域をより大きく確保することができる。このことは、誘導コイル23および界磁コイル35それぞれの巻き数を増加させ、空間高調波の利用効率を高める。
また、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、隣り合うラジアルギャップロータティース32、32A、32B、32Cの間に、永久磁石33の磁束のバイパス回路としての磁路部材34、34A、34B、34Cを配置しているため、ラジアルギャップロータティース32、32A、32B、32Cにフラックスバリアとしての空隙を設けてバイパス回路を形成する場合に比べ、永久磁石33を配置する場所を大きく確保することができる。なお、ラジアルギャップロータティース32、32A、32B、32Cにフラックスバリアを設けてバイパス回路を形成する場合には、より小さい永久磁石33を配置して界磁コイル35の配置場所を確保する代わりにより小さい永久磁石33を採用したり、同程度の大きさの永久磁石33を配置することでラジアルギャップロータティース32、32A、32B、32Cを周方向に幅広に確保する代わりに界磁コイル35の巻き数を減じたりしなければならなくなる。
さらに、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、界磁コイル35を磁路部材34、34A、34B、34Cに巻いているため、界磁コイル35を永久磁石に巻く場合に比べ、永久磁石の磁気抵抗がなく、界磁コイル35の磁束が通りやすく、効率的に磁束を発生させることができる。
さらにまた、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、ラジアルギャップロータティース32、32A、32B、32Cと磁路部材34、34A、34B、34Cとの間隔G3を有するため、磁路部材34、34A、34B、34Cに巻かれる界磁コイル35に生じる熱がラジアルギャップロータティース32、32A、32B、32Cに埋設される永久磁石33に伝わり難く、熱影響による永久磁石33の磁気特性の低下を防止できる。
また、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、ラジアルギャップロータティース32、32A、32B、32Cと磁路部材34、34A、34B、34Cとの間隔G3が、ステータティース12とラジアルギャップロータコア31との間隔G4よりも広いため、ラジアルギャップロータティース32、32A、32B、32Cと磁路部材34、34A、34B、34Cとの間の磁気抵抗が、ステータコア11とラジアルギャップロータコア31との磁気抵抗よりも大きい。このことは、界磁コイル35に流れる界磁電流が少ない低回転時において、磁路部材34、34A、34B、34Cを介する永久磁石33間の磁束の短絡を減じ、トルクの低下を抑制する。
さらに、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、ラジアルギャップロータ5の径方向に向かって巻かれる界磁コイル35を備えているため、極数の多いロータ、つまりラジアルギャップロータティース32、32A、32B、32Cが多く、ロータスロットの幅が狭いラジアルギャップロータ5であっても、界磁コイル35の占積率を高めることができる。
さらにまた、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、永久磁石33と電磁石になった磁路部材34、34A、34B、34Cとがハルバッハ配列になるため、界磁コイル35の磁束を永久磁石33の磁束に作用させやすい。
また、本実施形態に係る回転電機1、1A、1Cは、誘導コイル23が巻かれる基部61から隣接する一対のラジアルギャップロータティース32、32A、32Cのうち少なくとも一方の先端部51にむかって延びる突出部62、62A、62Cを有する磁路部材34、34A、34Cを備えることによって、界磁コイル35の配置の自由度を高めることができる。磁路部材34、34A、34Cは、ロータスロットの径方向における略中央に基部61を配置することで界磁コイル35の占積率を高めることができる。このとき、磁路部材34、34A、34Cの基部61とラジアルギャップロータティース32、32A、32Cの先端部51、51A、51Cとは、ラジアルギャップロータ5の径方向に離間してしまうことになる。そこで、回転電機1、1B、1Cは、磁路部材34、34B、34Cに突出部62を設けることによって、基部61とラジアルギャップロータティース32、32A、32Cの先端部51、51A、51Cとの離間距離、すなわち間隔G3を容易に調整することができる。
さらに、本実施形態に係る回転電機1、1B、1Cは、ラジアルギャップロータティース32、32B、32Cに永久磁石33よりも磁路部材34、34B、34Cに向かって突出した形状を有する先端部51、51B、51Cを有することによって、永久磁石33の磁束を磁束線に沿ったバイパス磁路に容易に形成できる。
図14は、本発明の実施形態に係る回転電機の他の例の横断面図である。
なお、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、図1から図13のようなステータ2の内側にラジアルギャップロータ5を配置するインナーロータ型に限られず、図14に示すように、ステータ2の外側にラジアルギャップロータ5を配置するアウターロータ型であっても良い。
この場合、回転電機1、1A、1B、1Cは、筒状のステータ2と、ステータ2の軸方向の少なくともいずれか一方に配置され、隙間G1を隔ててステータ2に対面するアキシャルギャップロータ3と、ステータ2の径方向外側に配置され、隙間G2を隔ててステータ2に対面するラジアルギャップロータ5と、を備えることになる。ステータ2の第二ティース部16は、第一ティース部15の外側の形状に整合してステータコア11の中心線に向かって狭まる台形状を有している。第二ティース部16は、ステータコア11の外周面を長手方向、つまりステータコア11の中心線に平行な方向へ延びている。ラジアルギャップロータティース32は、ラジアルギャップロータ5の径方向内側に向かって延びている。
また、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、非磁性部材21に代えて、または非磁性部材21とは別に、アキシャルギャップロータティース22と同一材料で形成されるアキシャルギャップロータコアを備えていても良い。この場合、アキシャルギャップロータコアとアキシャルギャップロータティース22とを一体形成でき、製造コストおよび製造工数を低減することができる。
また、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、アキシャルギャップロータ3の非磁性部材21および誘導コイル23と、ラジアルギャップロータ5のラジアルギャップロータコア31、界磁コイル35、永久磁石33、および磁路部材34とを入れ替えても良い。つまり、回転電機1、1A、1B、1Cのラジアルギャップロータ5は、非磁性部材21、ステータコア11に対面し周方向に等間隔で並ぶ複数のラジアルギャップロータティース32と、ラジアルギャップロータティース32に巻かれステータ2で発生する磁束に基づいて誘導電流を誘起させる誘導コイル23と、を有し、アキシャルギャップロータ3は、ステータコア11に対面するアキシャルギャップロータコア21と、アキシャルギャップロータコア21に設けられアキシャルギャップロータコア21の周方向に等間隔で並ぶ複数のアキシャルギャップロータティース22と、アキシャルギャップロータティース22のそれぞれに設けられる永久磁石33と、隣り合うアキシャルギャップロータティース22の間に配置される磁路部材34と、磁路部材34に巻かれ誘導コイル23が誘起させた誘導電流が流れると磁界を発生させる界磁コイル35と、を有するものであっても良い。この場合においても、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、非磁性部材21に代えて、または非磁性部材21とは別に、アキシャルギャップロータティース22と同一材料で形成されるアキシャルギャップロータコアを設けても良い。
図15は、本発明の実施形態に係る回転電機の他の例の界磁コイルが生じさせる磁束の変化を概略的に示す図である。
さらに、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、図10のように界磁コイル35の起磁力を、電機子コイル13および永久磁石33の磁束を弱める方向に利用するものに限られない。インバータの電源電圧に制約がなければ、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、図15に示すように従来技術のように、界磁コイル35の起磁力を、電機子コイル13および永久磁石33の磁束を強める方向に利用しても良い。この場合、界磁コイル35は、図10の場合の反対方向に巻かれる。
さらにまた、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、誘導コイル23と界磁コイル35とをアキシャルギャップロータ3とラジアルギャップロータ5とに分けて配置するものに限られない。本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、誘導コイル23と界磁コイル35とを兼用するコイルを、アキシャルギャップロータ3およびラジアルギャップロータ5のそれぞれに設けても良い。この場合、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、誘導コイル23および界磁コイル35を兼用するコイルを別々のロータ(すなわち、アキシャルギャップロータ3、ラジアルギャップロータ5)に巻いているため、従来の回転電機のように誘導コイル23と界磁コイル35とを同一のロータに巻く場合に比べてそれぞれのコイルを巻く領域をより大きく確保することができる。
また、本実施形態に係る回転電機1、1A、1B、1Cは、外部からアキシャルギャップロータ3およびラジアルギャップロータ5にエネルギーを入力する必要のない構造を有し、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載することが好適な性能を有している。
したがって、本発明に係る回転電機1、1A、1B、1Cによれば、誘導コイル23および界磁コイル35の巻き数を確保し易く、ひいては空間高調波成分をより効率的に利用することができる。