本発明の実施形態に係るダイカストマシンの射出装置の要部構成を示す模式図。
図1の射出装置の制御系の構成を示すブロック図。
図1の射出装置における速度、圧力及び面積に係る記号の定義を示す模式図。
P−Q2線図の例を示す模式図。
ゲート流出係数の実測値の一例を示す図。
図1の射出装置が実行する処理の手順の一例を示すフローチャート。
図6のステップST3のサイクル処理の詳細の一例を示すフローチャート。
図1の射出装置における射出速度及び射出圧力の経時変化を説明するための模式図。
図9(a)〜図9(c)は図1の射出装置の作用を確認するための実験の結果を示す図。
<射出装置の構成>
図1は、本発明の実施形態に係るダイカストマシンDC1の射出装置1の要部構成を示す模式図である。なお、以下では、紙面の左右方向(後述するプランジャ5の前後進方向)を前後方向ということがある。
ダイカストマシンDC1は、金型101内(キャビティ107)に溶湯(溶融状態の金属材料)を射出し、その溶湯を金型101内で凝固させることにより、ダイカスト品(成形品)を製造するものである。金型101は、例えば、固定金型103及び移動金型105を含んでいる。
具体的には、ダイカストマシンDC1は、例えば、金型101の開閉及び型締めを行う不図示の型締装置と、型締めされた金型101の内部に溶湯を射出する射出装置1と、ダイカスト品を固定金型103又は移動金型105から押し出す不図示の押出装置と、これらを制御する制御装置とを有している。射出装置1以外の構成は、基本的に従来の種々の構成と同様でよく、説明は省略する。
射出装置1は、例えば、キャビティ107に連通するスリーブ3と、スリーブ3内の溶湯をキャビティ107へ押し出すプランジャ5と、プランジャ5を駆動する駆動部10と、駆動部10を制御する制御装置11とを有している。これらの構成は、例えば、以下のとおりである。
スリーブ3は、例えば、固定金型103に挿通された筒状部材である。プランジャ5は、スリーブ3内を前後方向に摺動可能なプランジャチップ5aと、プランジャチップ5aに固定されたプランジャロッド5bとを有している。スリーブ3の上面に形成された給湯口3aから溶湯がスリーブ3内に供給され、プランジャチップ5aがスリーブ3内をキャビティ107に向かって摺動する(前進する)ことにより、溶湯はキャビティ107に射出される。
駆動部10は、プランジャ5に連結された射出シリンダ7と、射出シリンダ7に対する作動液(例えば油)の供給等を行う液圧装置9とを有している。
射出シリンダ7は、例えば、いわゆる直結形の増圧式シリンダによって構成されている。具体的には、例えば、射出シリンダ7は、シリンダ部13と、シリンダ部13の内部を摺動可能な射出ピストン15及び増圧ピストン17と、射出ピストン15に固定され、シリンダ部13から延び出るピストンロッド19とを有している。
シリンダ部13は、例えば、射出シリンダ部13aと、射出シリンダ部13aの後端(ピストンロッド19の延び出る側とは反対側)に接続された増圧シリンダ部13bとを有している。射出シリンダ部13a及び増圧シリンダ部13bは、例えば、内部の断面形状が円形の筒状体である。射出シリンダ部13aは、例えば、径が長手方向において一定である。増圧シリンダ部13bは、例えば、射出シリンダ部13a側の小径シリンダ部13baと、その反対側に位置し、小径シリンダ部13baよりも径が大きい大径シリンダ部13bbとを有している。小径シリンダ部13baは、例えば、射出シリンダ部13aよりも径が小さく、大径シリンダ部13bbは、例えば、射出シリンダ部13aよりも径が大きい。
射出ピストン15は、射出シリンダ部13a内に配置されている。射出シリンダ部13aの内部は、射出ピストン15により、ピストンロッド19が延び出る側のロッド側室13rと、その反対側のヘッド側室13hとに区画されている。ロッド側室13r及びヘッド側室13hに選択的に作動液が供給されることにより、射出ピストン15は射出シリンダ部13a内を前後方向に摺動する。
増圧ピストン17は、小径シリンダ部13baを摺動可能な小径ピストン部17aと、大径シリンダ部13bbを摺動可能な大径ピストン部17bとを有している。大径シリンダ部13bbの内部は、大径ピストン部17bにより、小径シリンダ部13ba側の前側室13fと、その反対側の後側室13gとに区画されている。
従って、前側室13fの圧抜きを行うと、小径ピストン部17aのヘッド側室13hにおける受圧面積と、大径ピストン部17bの後側室13gにおける受圧面積との差に起因して、増圧ピストン17は、後側室13gの作動液から受ける圧力よりも高い圧力をヘッド側室13hの作動液に加えることが可能である。これにより、射出シリンダ7は、増圧機能を発揮する。
射出シリンダ7は、プランジャ5に対して同軸的に配置されている。そして、ピストンロッド19は、プランジャ5にカップリング(符号省略)を介して連結されている。シリンダ部13は、不図示の型締装置などに対して固定的に設けられている。従って、射出ピストン15のシリンダ部13に対する移動により、プランジャ5はスリーブ3内を前進又は後退する。
液圧装置9は、例えば、作動液を貯留するタンク21と、タンク21の作動液を送出可能なポンプ23と、蓄圧された作動液を放出可能な速度アキュムレータ25A及び増圧アキュムレータ25B(以下、両者を区別せずに、単にアキュムレータ25ということがある。)と、これら及び射出シリンダ7を互いに接続する複数の流路(第1流路27A〜第6流路27F)と、当該複数の流路における作動液の流れを制御する複数のバルブ(第1バルブ29A〜第5バルブ29E)とを有している。
図1では、図示の都合上、複数個所にタンク21及びポンプ23を示している。実際には、これらの複数のタンク21及びポンプ23は、一のタンク21及び一のポンプ23に統合されていてよい。
タンク21は、例えば、開放タンクであり、大気圧下で作動液を保持している。タンク21は、ポンプ23及びアキュムレータ25を介して射出シリンダ7に作動液を供給し、また、射出シリンダ7から排出された作動液を収容する。
ポンプ23は、不図示の電動機によって駆動され、作動液を送出する。ポンプは、ロータリポンプ、プランジャポンプ、定容量ポンプ、可変容量ポンプ、1方向ポンプ、双方向(2方向)ポンプ等の適宜な方式のものとされてよい。ポンプ23を駆動する電動機も、直流モータ、交流モータ、誘導モータ、同期モータ、サーボモータ等の適宜な方式のものとされてよい。ポンプ23(電動機)は、ダイカストマシンDC1の稼働中において常時駆動されてもよいし、必要に応じて駆動されてもよい。ポンプ23は、アキュムレータ25に対する作動液の供給(アキュムレータ25の蓄圧)、及び、射出シリンダ7に対する作動液の供給に寄与する。
アキュムレータ25は、その圧力(以下、ACC圧ということがある。)を調整できるものであれば、適宜な構成とされてよい。例えば、アキュムレータ25は、重量式、ばね式、気体圧式(空気圧式含む)、シリンダ式又はプラダ式のものである。図示の例では、アキュムレータ25は、シリンダ式のものであり、シリンダ部31と、シリンダ部31を液体室31aと気体室31bとに区画するピストン33とを有している。液体室31aには作動液を収容可能であり、気体室31bには気体(例えば空気又は窒素)が充填される。液体室31aに作動液が供給され、ピストン33が気体室31b側へ移動することにより、気体室31bの気体が圧縮され、アキュムレータ25は蓄圧される。また、その気体の圧力を利用して、液体室31aから作動液が放出される。
速度アキュムレータ25A及び増圧アキュムレータ25Bは、互いに異なる構成であってもよいし、互いに同一の構成であってもよいし、いずれがより高圧に蓄圧可能な構成(容量)であってもよい。好ましくは、増圧アキュムレータ25Bは、速度アキュムレータ25Aよりも高圧に蓄圧可能な構成である。また、成形サイクルの、作動液の放出前において(アキュムレータ25の運用において)、いずれが他方よりも高く蓄圧されてもよい。好ましくは、成形サイクルにおいて、増圧アキュムレータ25Bは、速度アキュムレータ25Aよりも高圧に蓄圧される。
増圧アキュムレータ25Bは、速度アキュムレータ25Aよりも大きな力(圧力×断面積)をプランジャ5(ピストン15)に対して付与可能であればよい。例えば、本実施形態のように射出シリンダ7が増圧式のものである場合においては、増圧アキュムレータ25Bが後側室13g及び増圧ピストン17を介してヘッド側室13hに付与する圧力が、速度アキュムレータ25Aがヘッド側室13hに付与する圧力よりも高ければよい。具体的には、例えば、前側室13fの圧力を0とし、小径ピストン部17aのヘッド側室13hにおける受圧面積をA1、大径ピストン部17bの後側室13gにおける受圧面積をA2とした場合、増圧アキュムレータ25Bの圧力は、速度アキュムレータ25Aの圧力のA1/A2倍よりも大きければよい。
第1流路27Aは、ポンプ23と速度アキュムレータ25A(その液体室31a)とを接続している。これにより、例えば、ポンプ23から速度アキュムレータ25Aへ作動液を供給して速度アキュムレータ25Aを蓄圧することができる。
第2流路27Bは、ポンプ23と増圧アキュムレータ25B(その液体室31a)とを接続している。これにより、例えば、ポンプ23から増圧アキュムレータ25Bへ作動液を供給して増圧アキュムレータ25Bを蓄圧することができる。
第3流路27Cは、速度アキュムレータ25A(その液体室31a)とヘッド側室13hとを接続している。これにより、例えば、速度アキュムレータ25Aからヘッド側室13hへ作動液を供給して、射出ピストン15を前進させることができる。
第4流路27Dは、増圧アキュムレータ25B(その液体室31a)と後側室13gとを接続している。これにより、例えば、増圧アキュムレータ25Bから後側室13gへ作動液を供給し、増圧ピストン17によってヘッド側室13hの作動液を加圧することができる。
第5流路27Eは、ロッド側室13rとタンク21とを接続している。これにより、例えば、射出ピストン15の前進に伴ってロッド側室13rから排出される作動液をタンク21に収容することができる。
第6流路27Fは、前側室13fとタンク21とを接続している。これにより、例えば、前側室13fを圧抜きし、増圧ピストン17による増圧作用を得ることができる。
なお、図1では、液圧装置9の有する代表的な流路を例示しており、実際には、液圧装置9は不図示の他の流路を有している。例えば、液圧装置9は、射出ピストン15を後退させるために、ポンプ23からロッド側室13rに作動液を供給する流路を有している。
図示した若しくは不図示の複数の流路は、例えば、鋼管、可撓性のホース又は金属ブロックにより構成されている。複数の流路は、適宜に一部が共通化されてよい。例えば、図1の例では、第1流路27A及び第3流路27Cは、速度アキュムレータ25A側の一部が共通化され、第2流路27B及び第4流路27Dは、増圧アキュムレータ25B側の一部が共通化され、第5流路27E及び第6流路27Fは、タンク21側の一部が共通化されている。
第1バルブ29Aは、第1流路27Aに設けられており、例えば、ポンプ23から速度アキュムレータ25Aへの作動液の供給の許容及び禁止、並びに速度アキュムレータ25Aからタンク21への作動液の排出の許容及び禁止に寄与する。第1バルブ29Aは、例えば、方向制御弁により構成されており、より具体的には、例えば、スプリング及び電磁石によって駆動される4ポート3位置切換弁により構成されている。第1バルブ29Aは、例えば、一の位置(例えば中立位置)では、速度アキュムレータ25Aと、タンク21及びポンプ23との間の流れを禁止し、他の一の位置では、ポンプ23から速度アキュムレータ25Aへの流れを許容するとともに速度アキュムレータ25Aからタンク21への流れを禁止し、さらに他の一の位置では、ポンプ23から速度アキュムレータ25Aへの流れを禁止するとともに速度アキュムレータ25Aからタンク21への流れを許容する。
なお、ポンプ23、タンク21及び第1バルブ29Aは、速度アキュムレータ25Aの加減圧を行ってその圧力を調整する加減圧部30を構成している。
第2バルブ29Bは、第2流路27Bに設けられており、例えば、ポンプ23から増圧アキュムレータ25Bへの作動液の供給の許容及び禁止、並びに増圧アキュムレータ25Bからタンク21への作動液の排出の許容及び禁止に寄与する。その構成は、例えば、上述の第1バルブ29Aと同様でよく、上記の第1バルブ29Aについての説明は、速度アキュムレータ25Aを増圧アキュムレータ25Bに読み替えることにより、第2バルブ29Bについての説明とされてよい。
第3バルブ29Cは、第3流路27Cに設けられおり、例えば、速度アキュムレータ25Aからヘッド側室13hへの作動液の供給の許容及び禁止に寄与する。第3バルブ29Cは、例えば、パイロット式の逆止弁により構成されており、パイロット圧が導入されていないときは、速度アキュムレータ25Aからヘッド側室13hへの作動液の流れを許容するとともに、その反対方向の流れを禁止し、パイロット圧が導入されているときは、双方の流れを禁止する。
第4バルブ29Dは、第4流路27Dに設けられており、例えば、増圧アキュムレータ25Bから後側室13gへの作動液の供給の許容及び禁止に寄与する。第4バルブ29Dは、例えば、ロジックバルブにより構成されており、パイロット圧が導入されているときは閉じられ、パイロット圧が導入されていないときは開かれる。
第5バルブ29Eは、第5流路27Eに設けられており、例えば、ロッド側室13rからタンク21への作動液の流量の制御に寄与する。この流量の制御により、射出ピストン15の前進速度が制御される。すなわち、第5バルブ29Eは、いわゆるメータアウト回路を構成している。第5バルブ29Eは、例えば、圧力変動があっても流量を一定に保つことができる圧力補償付流量調整弁により構成されている。また、第5バルブ29Eは、例えば、サーボ機構の中で使用され、入力信号に応じて流量を無段階に変調できるサーボバルブによって構成されている。
なお、メータアウト回路に代えて、又は加えて、メータイン回路が設けられてよい。例えば、速度アキュムレータ25Aとヘッド側室13hとの間に、第5バルブ29Eと同様の構成の流量制御弁が設けられてよい。
図1では、液圧装置9の有する代表的なバルブを例示しており、実際には、液圧装置9は不図示の他のバルブを有している。例えば、液圧装置9は、ポンプ23からロッド側室13rへの作動液の供給を許容及び禁止するためのバルブを有している。
制御装置11は、例えば、特に図示しないが、CPU、ROM、RAM及び外部記憶装置等を含んで構成されている。制御装置11は、予め記憶しているプログラムに従って、入力された信号に基づいて各部を制御するための制御信号(制御指令)を出力する。なお、制御装置11は、射出装置1の制御装置として構成されていてもよいし、射出装置1の動作だけでなく、不図示の型締装置及び不図示の押出装置の動作も制御する、ダイカストマシンDC1の制御装置として構成されていてもよい。また、そのハードウェアは、複数の位置(複数の筐体)に分散されていてもよいし、一纏まりにされていてもよい。
制御装置11に信号を入力するのは、例えば、オペレータの入力操作を受け付ける入力装置35、速度アキュムレータ25Aの圧力を検出する速度ACC圧力センサ37A、増圧アキュムレータ25Bの圧力を検出する増圧ACC圧力センサ37B、ヘッド側室13hの圧力を検出するヘッド側圧力センサ39H、ロッド側室13rの圧力を検出するロッド側圧力センサ39R、プランジャ5(ピストンロッド19)の位置を検出する位置センサ41である。制御装置11が信号を出力するのは、例えば、オペレータに情報を表示する表示装置43、ポンプ23を駆動する不図示の電動機(厳密にはそのドライバ)、各種のバルブ(図示したバルブ又は図示したバルブに対するパイロット圧を制御するバルブ)である。
入力装置35及び表示装置43は、適宜な構成とされてよく、一部又は全部が一体的に構成されていてもよい。例えば、入力装置35及び表示装置43は、タッチパネルと機械スイッチとを含んで構成されてよい。入力装置35は、例えば、低速射出速度、高速射出速度及び鋳造圧力等の成形条件を設定するための操作、並びに成形サイクルの開始を射出装置1に指示するための操作を受け付ける。
速度ACC圧力センサ37A及び増圧ACC圧力センサ37Bは、気体室31bの圧力を検出するものであってもよいし、液体室31aの圧力を検出するものであってもよく、図1では、前者を例示している。これらの圧力センサは、抵抗式、静電容量式、振動式等の適宜な方式のものとされてよい。
ヘッド側圧力センサ39H及びロッド側圧力センサ39Rは、溶湯をキャビティ107に射出するときにプランジャ5が溶湯に加える圧力(射出圧力)等のプランジャ5が溶湯に加える圧力を間接的に検出するものである。これらの圧力センサが検出した作動液の圧力を溶湯の圧力に換算する式については後述する。これらの圧力センサは、抵抗式、静電容量式、振動式等の適宜な方式のものとされてよい。
位置センサ41は、例えば、シリンダ部13に対するピストンロッド19の位置を検出し、プランジャ5の位置を間接的に検出する。位置センサ41の構成は適宜なものとされてよい。例えば、位置センサ41は、ピストンロッド19に固定的に設けられ、ピストンロッド19の軸方向に延びる不図示のスケール部とともに磁気式又は光学式のリニアエンコーダを構成するものであってもよいし、ピストンロッド19に固定された部材との距離を計測するレーザー測長器によって構成されてもよい。位置センサ41、又は制御装置11は、検出位置の微分値であるプランジャ5の速度を取得(検出)することも可能である。
図2は、射出装置1の制御系の構成を示すブロック図である。
制御装置11のCPUがROM及び/又は外部記憶装置に記憶されているプログラムを実行することによって、制御装置11には、各種の動作を行う複数の機能部(11a〜11d)が構成される。複数の機能部の動作は、例えば、以下のとおりである。
射出制御部11aは、低速射出、高速射出及び増圧等の射出に係る動作を実現するために、入力装置35及びセンサ(例えば位置センサ41)からの信号に基づいて、液圧装置9に制御信号を出力する。
圧力算出部11bは、入力装置35からの信号に基づいて速度アキュムレータ25Aが保持すべき圧力を算出する。また、圧力算出部11bは、この圧力の算出に際して必要な係数等(例えば後述するゲート流出係数)を射出圧力センサ(39H、39R)の検出値等に基づいて算出する。
圧力制御部11cは、速度アキュムレータ25Aの圧力(速度ACC圧力センサ37Aの検出圧力)が圧力算出部11bにより算出された圧力になるように液圧装置9に制御信号を出力する。
表示制御部11dは、圧力算出部11bにより算出された圧力を表示装置43に表示させるために表示装置43に制御信号を出力する。
<射出装置の基本動作の概略>
以上の構成を有する射出装置1の基本動作の一例の概略を説明する。
(低速射出)
まず、不図示の型締装置によって固定金型103及び移動金型105の型締めが完了し、溶湯がスリーブ3に供給されると、制御装置11は、比較的低速でプランジャ5を前進させる。これにより、溶湯による空気の巻き込みが抑制されつつ、スリーブ3内の溶湯がキャビティ107へ向かって押し出されていく。このときの射出速度(低速射出速度)は適宜に設定されてよいが、例えば、1m/s未満である。
具体的には、制御装置11は、例えば、ポンプ23からヘッド側室13hへ作動液を供給するように、又は速度アキュムレータ25Aからヘッド側室13hへ作動液を供給するように液圧装置9を制御する。ロッド側室13rの作動液は、例えば、タンク21に排出され、又は不図示の流路を介してヘッド側室13hに還流される。プランジャ5の速度は、例えば、位置センサ41の検出値に基づいて、ポンプ23の回転制御(ポンプ23からヘッド側室13hへ作動液を供給する場合)、不図示のメータイン回路、及び/又はメータアウト回路(第5バルブ29E)によりフィードバック制御される。
(高速射出)
プランジャ5が所定の高速切換位置に到達したことが位置センサ41によって検出されると、制御装置11は、比較的高速でプランジャ5を前進させる。これにより、例えば、溶湯の凝固に遅れずに速やかに溶湯がキャビティ107に充填される。このときの射出速度(高速射出速度)は適宜に設定されてよいが、例えば、1m/s以上である。
具体的には、制御装置11は、例えば、低速射出において速度アキュムレータ25Aからヘッド側室13hへ作動液を供給していなかったときは、第3バルブ29Cを開いてアキュムレータ25からヘッド側室13hへの作動液の供給を許容する。また、例えば、低速射出において既に速度アキュムレータ25Aからヘッド側室13hへ作動液を供給していたときは、メータイン回路を構成する不図示のバルブ及び/又はメータアウト回路を構成する第5バルブ25Eの開度を大きくする。ロッド側室13rの作動液は、例えば、タンク21に排出され、又は不図示の流路を介してヘッド側室13hに還流される。プランジャ5の速度は、例えば、位置センサ41の検出値に基づいて、不図示のメータイン回路、及び/又はメータアウト回路(第5バルブ29E)によりフィードバック制御される。
(減速、増圧及び保圧)
高速射出の結果、キャビティ107に溶湯が充填されると、溶湯の圧力は上昇し、プランジャ5は減速する。この際、溶湯等の慣性力によって溶湯の圧力は一時的かつ比較的急激に上昇し、いわゆるサージ圧が発生する。なお、サージ圧が発生する前の適宜な時期に、不図示のメータイン回路、及び/又はメータアウト回路(第5バルブ29E)により減速制御が行われてもよい。
プランジャ5の減速と概ね同時に、制御装置11は、第4バルブ29Dを開く。これにより、増圧アキュムレータ25Bから後側室13gに作動液が供給され、増圧ピストン17による増圧作用が生じる。その結果、キャビティ107内の溶湯の圧力は上昇していく。ロッド側室13r及び前側室13fは、例えば、タンク21への作動液の排出が許容されている。そして、溶湯の圧力は一定の大きさ(終圧、狭義の鋳造圧力)に収束する。別の観点では、プランジャ5が溶湯から受ける力と、増圧アキュムレータ25Bが作動液を介してプランジャ5に付与する力とが釣り合う。
増圧ピストン17によってヘッド側室13hの作動液が加圧され始めるタイミングは、サージ圧の発生後が好ましく、また、サージ圧の発生からのずれが大きくならないことが好ましい。制御装置11が第4バルブ29Dを開くための制御信号を出力するタイミングは、当該タイミングから実際に増圧が開始されるまでの時間遅れを考慮して適宜に設定されてよい。例えば、出力タイミングは、位置センサ41が検出するプランジャ5の速度が所定の閾値を下回ったとき、又はロッド側圧力センサ39R及びヘッド側圧力センサ39Hにより検出される射出圧力が所定の閾値を超えたときとされてよい。閾値は、射出装置1の製造者によって設定されてもよいし、オペレータによって設定されてもよい。
第3バルブ29Cは、ヘッド側室13hの圧力上昇に伴って自閉する。ただし、第3バルブ29Cは、パイロット圧が導入されて閉じられてもよい。この場合の閉じるタイミングは、意図していない減速が生じない範囲で適宜に設定されてよく、また、サージ圧の発生前であってもよいし、サージ圧の発生後であってもよい。
溶湯の圧力が終圧に至った後、増圧アキュムレータ25Bから後側室13gへ圧力が継続して付与されることにより、溶湯の圧力は一定に保たれる。すなわち、保圧される。
そして、溶湯が凝固すると、不図示の型締装置による型開き、不図示の押出装置によるダイカスト品の金型からの押し出し、及び、ロッド側室13rに作動液が供給されることによるプランジャ5の後退等が行われる。
<バリ抑制方法の概要>
バリが発生する主要な要因としては、既に述べたようにサージ圧の発生が挙げられる。具体的には、サージ圧が、型締力を超えたり、金型101の隙間及びサージ圧発生時点の溶湯表面の凝固厚さ等によって決定されるバリ吹き限界圧力を超えたりすることによってバリが発生する。サージ圧は、溶湯等の慣性力によって生じ、サージ圧発生時の圧力の上昇量は、概ね(高速)射出速度の2乗に比例して増加することから、一般には、サージ圧発生前に減速を行うことによって低減されている。
本実施形態では、端的に言えば、速度アキュムレータ25Aの圧力を低くすることによってサージ圧を低くする。従来の構成においても、アキュムレータの圧力は、オペレータ等によって調整可能である。ただし、同一の射出速度であっても、速度アキュムレータ25Aの圧力を低くすることによってサージ圧を低くできることまで理解しているオペレータは少ない。
1つのアキュムレータによって高速射出及び増圧の双方を行う場合(1つのアキュムレータによってヘッド側室13hへの作動液の供給と後側室13gへの作動液の双方を行う場合)、アキュムレータの圧力を下げると、高速射出終了から終圧に至るまでの溶湯の圧力の変化(昇圧曲線。ここではサージ圧は除く。)も影響を受ける。従って、そのような1つのアキュムレータの圧力を低くすると、所望の品質が得られなくなるおそれがある。しかし、本実施形態では、速度アキュムレータ25Aと増圧アキュムレータ25Bとを設け、増圧は増圧アキュムレータ25Bによって行うことから、速度アキュムレータ25Aの圧力の設定が昇圧曲線に及ぼす影響は小さい、又は無い。
また、速度アキュムレータ25Aの圧力を低くし過ぎれば、所望の高速射出速度を実現することができなくなる。そこで、本実施形態では、P−Q2線図などを用いて、所望の高速射出速度を実現するための必要最小限の圧力を算出し、その必要最小限の圧力に速度アキュムレータ25Aの圧力を設定する。なお、P−Q2線図は、一般には、金型の条件がマシン(射出装置1)の条件を超えていないことを確認するためのものであり、本実施形態のような用いられ方はしない。
<必要最小限の圧力の算出方法>
上記のような所望の(高速)射出速度を実現する必要最小限の圧力の算出方法について説明する。
(記号の定義)
図3は、必要最小限の圧力の算出方法を説明するに際して必要な記号の定義を示している。具体的には、以下のとおりである。
Ag:金型101のゲート面積
Pg:金型101のゲートにおける溶湯の圧力
Vg:金型101のゲートにおける溶湯の速度
Ap:プランジャチップ5aの先端面積
P:スリーブ3における溶湯の圧力
V:スリーブ3における溶湯の速度
Q:スリーブ3又はゲートにおける溶湯の流量
Pt:Q=0のときのP
Ar:射出ピストン15のロッド側室13rにおける受圧面積
Pr:ロッド側室13rの圧力
Ah:射出ピストン15のヘッド側室13hにおける受圧面積
Ph:ヘッド側室13hの圧力
なお、金型101のゲートは、キャビティ107(製品部)とスリーブ3との間で最も断面積が小さくなっている部分である。Ap、Ar及びAhは、プランジャ5又は射出ピストン15の進退方向において流体(溶湯又は作動液)から圧力を受ける面積(投影面積)であり、基本的に部材表面の凹凸に影響されない。Vは、プランジャ5の速度と等価であり、また、射出速度Vということがある。Qは、スリーブ3とゲートとの間の連続性から両者において共通である。速度アキュムレータ25Aの圧力は、速度アキュムレータ25Aとヘッド側室13hとが接続されている状態においては、Phとみなせる。
(P−Q2線図の概要)
図4は、P−Q2線図の例を示す模式図である。
P−Q2線図においては、溶湯の流量の2乗Q2が横軸にとられ、溶湯の圧力Pが縦軸にとられる。そして、金型101に関して成立するQ2とPとの関係を示すダイラインLDと、射出装置1に関して成立するQ2とPとの関係を示すマシンラインLMとが引かれる。
ダイラインLDは、例えば、原点を通り、傾きが正の1次関数である。その傾きは、金型101の形状(寸法)等によって決定される。
また、マシンラインLMは、例えば、切片を有する傾きが負の1次関数である。その傾き及び切片は、射出装置1の条件によって決定される。そして、速度アキュムレータ25Aの圧力が小さくなると、2点鎖線の線LM′で示すように、マシンラインLMは、原点側へ移動する。
本実施形態とは異なり、一般には、P−Q2線図は、以下のように用いられる。まず、アキュムレータの圧力が十分に大きい値に設定され、その条件下でマシンラインLMが求められる。また、金型条件が設定され、ダイラインLDが求められる。次に、射出速度V等が設定されると流量の2乗Q2(Q1 2とする)が求まることから、ダイラインLD上においてQ1 2に応じた点Pn1が求められる。その求められた点Pn1がマシンラインLMよりも原点側にあれば、その射出速度Vは実現可能と判断される。
本実施形態では、上記とは逆に、マシンラインLMを後から求める。具体的には、まず、射出速度Vを設定し、その射出速度Vに対応するダイラインLD上の点Pn1を求める。そして、この点Pn1を通るマシンラインLM(線LM′)を求める。速度アキュムレータ25Aの圧力が、求めたマシンラインLM(線LM′)に対応する圧力よりも小さくなると、マシンラインLMが原点側へ移動して点Pn1を下回り、設定された射出速度Vを実現できなくなる。従って、点Pn1を通るマシンラインLMを求めることによって、速度アキュムレータ25Aの圧力について、設定された射出速度Vを実現する必要最小限の圧力が求められることになる。
そのようにして必要最小限の圧力を求めるための具体的な計算式は、以下のとおりである。
(ダイラインの基礎式)
溶湯の圧力及び速度等をベルヌーイの式に当て嵌めると、下記式が成り立つ。
Pg/(ρg)+Vg 2/(2g)+Zg
=P/(ρg)+V2/(2g)+Zp
=C(const) (1)
なお、ρは溶湯の密度であり、gは重力加速度である。Zg及びZpはゲート及びスリーブ3における鉛直方向高さである。
ここで、一般に、Zg−Zp≒0、V≪Vg、かつPg≒0であるので、Zg、Zp、V及びPgを省略して、下記式を得ることができる。
P=ρVg 2/2 (2)
この(2)式がダイラインの基礎式である。
(マシンラインの基礎式)
上記のように(1)式においてZpは省略できるから、(1)式のスリーブ3に係る部分(2行目及び3行目)から下記式が得られる。
P=C′−ρV2/2 (3)
ただし、C′=ρgCである。
ここで、境界条件を考える。溶湯のキャビティ107への充填が完了すると、プランジャ5が停止するから、Q=0(V=0)となる。その一方で、溶湯の圧力は、鋳造圧力Ptになる。ただし、ここでいう鋳造圧力Ptは、増圧シリンダ部13b、増圧ピストン17及び増圧アキュムレータ25Bを設けずに、速度アキュムレータ25Aからヘッド側室13hへの作動液の供給のみによって射出を行った場合の鋳造圧力である。すなわち、単動圧による鋳造圧力である。
上記の境界条件Q=0かつP=Ptを(3)式に代入すると、C′=Ptとなる。これを(3)式に代入すると、下記式が得られる。
P=Pt−ρV2/2 (4)
この(4)式がマシンラインの基礎式である。
(P−Q2線図における式)
スリーブ3とゲートとの連続の式は、以下のようになる。
Q=CgAgVg=ApV (5)
ここで、Cgは、ゲート流出係数であり、端的に言えば、流体力学における流量係数において、代表長さの2乗の値としてゲート断面積を用いたものに相当する。
理論的にはQ=AgVgであるが、ゲートは、断面積が急激に減少する部分であることから、理論値と実際の値との乖離が比較的大きい。そこで、(5)式では、補正係数であるゲート流出係数CgをAgVgに乗じている。ゲート流出係数Cgの値としては、一般的に、金型101の形状等によらずに平均的な値(例えば0.6程度)が用いられている。
上記の(5)式から、下記式が得られる。
Vg=Q/(CgAg) (6)
V=Q/Ap (7)
上記の(6)式をダイラインの基礎式(2)に代入すると、下記に示す、P−Q2線図におけるダイラインの式が得られる。
P=ρQ2/(2Cg 2Ag 2) (8)
また、上記の(7)式をマシンラインの基礎式(4)に代入すると、下記に示す、P−Q2線図におけるマシンラインの式が得られる。
P=Pt−ρQ2/(2Ap 2) (9)
上記の(8)式に示されているように、ダイラインの式では、Pは、Q2を独立変数とし、原点を通る一次関数であり、その傾きは、ρ、Cg及びAgによって決定される。上記の(9)式に示されているように、マシンラインの式では、Pは、Q2を独立変数とし、P切片の値をPtとする負の傾きの一次関数であり、傾きはρ及びApによって決定される。なお、Q2切片の値Q0 2(図4)は、空打ちのときの流量の2乗に相当する。
(必要最小限の圧力を算出する計算式)
上記の(9)式のPtは、単動圧における鋳造圧力であるから、基本的に速度アキュムレータ25Aの圧力(ヘッド側室13hの圧力Ph)に比例する。従って、速度アキュムレータ25Aの圧力を小さくすると、マシンラインのP切片の値は小さくなり、図4を参照して説明したように、マシンラインLMは原点側へ移動する。
一方、ベルヌーイの式からも理解されるように、P−Q2線図において、原点側は力学的エネルギーが低い側である。従って、所望の射出速度Vによって流量Qが決定され、ダイラインLD上の点が求められたときに、この点がマシンラインLMを原点とは反対側へ超えてしまうと、その射出速度Vは射出装置1において実現不可能ということになる。逆に、所望の射出速度Vに対応する点がマシンラインLMから原点側にあれば、その射出速度Vは射出装置1において実現可能ということになる。
従って、所望の射出速度VによってダイラインLD上の点(座標(Qc2,Pc)とする)が決定されたときに、この点を通るマシンラインLMのP切片であるPtは、速度アキュムレータ25Aにおける圧力が所望の射出速度Vを実現するための必要最小限の圧力であるときの溶湯の圧力ということになる。そして、このPtをPhに換算することによって、速度アキュムレータ25Aにおける必要最小限の圧力を求めることができる。その具体的な計算式は、例えば、以下のとおりである。
まず、射出速度Vを流量Qに換算する。その換算式は、(5)式と重複するが、以下のとおりである。
Q=ApV (10)
次に、下記式により流量Qから単動圧の鋳造圧力Ptを算出する。下記式は、(8)式及び(9)式においてPを消去しつつPtについて解くようにこれらの式を変形することによって得られる。
Pt=ρQ2/(2Cg 2Ag 2)+ρQ2/(2Ap 2) (11)
次に、鋳造圧力Ptをヘッド側室13hの圧力Phに換算し、これにより、速度アキュムレータ25Aの最小限の圧力Pminを得る。その換算式は、以下のとおりである。
Pmin=Pt・Ap/Ah (12)
なお、上記(1)では、Pr=0として計算している。ただし、充填完了時にメータアウト回路によって減速が行われる場合等においては、下記式が用いられてもよい。
Pmin=(Pt・Ap+PrAr)/Ah (13)
この場合のPrは適宜に設定されてよい。
このように、最小限の圧力Pminを算出する計算式は、(10)式〜(12)式の3つの式を含んでおり、制御装置11(圧力算出部11b)は、この計算式を計算する。なお、計算式は、実質的にこの3つの式を含んでいればよい。すなわち、(10)式の(11)式への代入、及び(11)式の(12)式(又は(13)式)への代入のうち少なくとも1つが行われることにより、計算式は整理された形とされていてもよい。
例えば、計算式は、以下のように整理されていてもよい。
Pmin=ρV2/2×(1+Ap 2/(Cg 2Ag 2)) (14)
上記(14)式では、流量Q及びマシンラインのP切片である鋳造圧力Ptが現れていないが、実質的に(10)式〜(12)式を含んでいる。
(ゲート流出係数)
上記の(11)式(又は(14)式)から理解されるように、最小限の圧力Pminの算出には、ゲート流出係数Cgが必要である。
図5は、ゲート流出係数の実測値の一例を示す図である。図5において、横軸は射出速度V(m/s)を示し、縦軸はゲート流出係数(無次元量)を示している。プロットされたマークは、ゲート厚み(Tg(mm))毎に異なる形状で示されている。
この図に示されているように、ゲート流出係数は、金型101の形状及び寸法によって変化する。また、ゲート流出係数は、射出速度Vを流量Qに変換するときの補正係数という趣旨からすれば、射出速度Vによらず一定であるはずであるが、現実には、射出速度Vの変化によって変化する。
一般には、ゲート流出係数は、金型101形状等によらずに平均的な値が用いられている。本実施形態でもそのような平均的な値が用いられてよいが、好ましくは、実測によって金型101及び射出速度に応じた値が求められ、そのゲート流出係数が用いられることが好ましい。
具体的には、(7)式及び(8)式から得られる下記式において、射出速度V及び溶湯の圧力Pを代入することによって、ゲート流出係数の実測値が得られる。
Cg=√((ρAp 2V2)/(2PAg 2)) (15)
射出速度Vの値としては、例えば、射出速度の目標値、又は位置センサ41によって測定された射出速度の実測値が用いられてよい。なお、一般に、射出速度は、フィードバック制御されており、射出速度の目標値と実測値との差は比較的小さい。
また、溶湯の圧力Pは、ヘッド側圧力センサ39H及びロッド側圧力センサ39Rによって射出シリンダ7における作動液の圧力が検出されることによって間接的に測定される。
具体的には、メータアウト回路が設けられていない、又は使用されていない場合においては、ヘッド側圧力センサ39Hによって検出されたヘッド側室13hの圧力Phを用いて、下記式により溶湯の圧力Pの実測値が求められる。
P=Ph×Ah/Ap (16)
また、メータアウト回路が使用されている場合においては、ヘッド側圧力センサ39Hによって検出されたヘッド側室13hの圧力Phと、ロッド側圧力センサ39Rによって検出されたロッド側室13rの圧力Prとを用いて、下記式により溶湯の圧力Pの実測値が求められる。
P=(PhAh−PrAr)/Ap (17)
上述の(15)式に代入される射出速度V及び圧力Pは、例えば、高速射出中におけるものである。なお、射出速度V及び圧力Pとして実測値を用いる場合においては、高速射出中における所定の時点の実測値を用いてもよいし、高速射出中の所定の期間における平均値を用いてもよい。なお、理想的には、両者は同一である。
ゲート流出係数Cgは、試運転において実測値が求められ、その後の全ての成形サイクルにおいて一定の値がPminの算出に用いられてもよいし、成形サイクル毎に実測値が求められ、その実測値が次の成形サイクルにおけるPminの算出に用いられてもよい。また、2以上の所定数の成形サイクル毎にゲート流出係数の実測値が求められ、その実測値がその後の所定数の成形サイクルに用いられてもよい。その他、ゲート流出係数Cg(ひいては最小限の圧力Pmin)は、適宜な時期に算出されてよい。ゲート流出係数の実測値(ひいては最小限の圧力Pmin)は、1つの成形サイクルにおける測定結果に基づいて求められてもよいし、複数の成形サイクルにおける測定結果の平均値に基づいて求められてもよいし、1つ又は所定数の成形サイクル毎に実測値を求める場合においては測定結果の移動平均に基づいて求められてもよい。
(最小限の圧力の補正、又は最小限の圧力に基づく目標圧力の算出)
ベルヌーイの式は、非粘性・非圧縮等の種々の仮定のもとで成立する式である。また、ベルヌーイに式に基づいて上述した各種の式を求めるに際しても、種々の仮定をしている。従って、上述の計算式に基づいて算出した理論上の最小限の圧力Pminと、実際の最小限の圧力Pminとの間にはずれがある。そのようなずれを解消するための補正がなされ、その補正後の最小限の圧力Pminが実現されるように速度アキュムレータ25Aの圧力が調整されてよい。
また、算出した理論上の最小限の圧力Pminが実際の最小限の圧力Pminを下回ると、所望の射出速度を実現できないことになる。従って、理論上の最小限の圧力Pminに対して、所定の余裕量を考慮したものを補正後の最小限の圧力Pmin(別の考え方では、最小限の圧力Pminに基づく、速度アキュムレータ25Aの目標圧力)としてもよい。
補正(余裕量の加味を含む)は、例えば、適宜な補正係数を乗じるもの、及び/又は適宜な補正定数を加算するものであってよい。そのような補正係数及び/又は補正定数は、射出装置1の製造者によって設定されてもよいし、オペレータによって設定されてもよいし、試運転又は成形サイクルで検出された射出速度及び射出圧力等に基づいて制御装置11が算出して設定してもよい。
また、速度アキュムレータ25Aの圧力は、作動液の放出に伴って低下する。その低下量を考慮してもよい。例えば、(14)式から得られる補正前の最小限の圧力Pminを作動液の射出後の圧力とし、射出前の圧力の目標値を、最終的に求めるべき最小限の圧力Pminとすると、例えば、以下のような補正を行ってよい。
速度アキュムレータ25Aが図1で例示したようにシリンダ式のものである場合、気体室31bの圧力と体積との積は、ピストン33の移動前後で概ね一定とみなすことができる。従って、例えば、ピストン33が液体室31a側の駆動源に位置するときの圧力及び体積をP0及びV0、射出前の圧力及び体積をP1及びV1、射出後の圧力及び体積をP2及びV2とすると、下記式が成り立つ。
P0×V0=P1×V1=P2×V2 (18)
V0は、速度アキュムレータ25Aの構成によって決定される。P0は、例えば、液体室31aの作動液を全放出したときの気体室31bの圧力を速度ACC圧力センサ37Aによって検出することなどにより得ることができる。従って、射出後の圧力P2として補正前の最小限の圧力Pminを用いると、射出後の体積V2(=V0×P0/P2)が求まる。
射出前の体積と射出後の体積との差Vd(=V2−V1)は、低速射出及び高速射出においてヘッド側室13hに供給される作動液の量に相当する。この量は、低速射出及び高速射出におけるプランジャ5の前進距離、並びに射出ピストン15の受圧面積Ahによって決定され、また、理想的には、一の金型101に対して繰り返される成形サイクルについて固定値である。従って、この作動液の量と、射出後の体積V2とから射出前の体積V1(=V2−Vd)が求まる。
そして、上述のように、P0及びV0は得られているから、補正後の最小限の圧力Pminとしての射出前の圧力P1(=P0×V0/V1)が求まる。
なお、このような計算をせずに、上述した余裕量を加味する考え方で、速度アキュムレータ25Aにおける射出前後の圧力変化を考慮してもよい。
(アキュムレータの圧力の調整方法)
速度アキュムレータ25Aの圧力の調整方法は、例えば、液体室31aにおける作動液の給排によって行われる。ただし、気体室31bのガス量(質量)を調整することによって速度アキュムレータ25Aの圧力が調整されてもよい。
(処理の手順の一例)
図6は、上記のような動作を実現するために、射出装置1(制御装置11)が実行する処理の手順の一例を示すフローチャートである。この処理は、例えば、射出装置1に電源が投入されたときに開始される。
ステップST1では、制御装置11は、オペレータによる入力装置35に対する操作に基づいて種々の成形条件を設定する。このときに設定する成形条件には、例えば、射出速度V(低速射出速度及び高速射出速度)、低速射出から高速射出への切替位置、及び増圧アキュムレータ25Bによって増圧したときの終圧が含まれる。
ステップST2では、制御装置11は、入力装置35に対して成形サイクルの開始を指示する操作が行われたか否か判定する。そして、制御装置11は、肯定判定のときはステップST3に進み、否定判定のときは待機する。
ステップST3では、制御装置11は、1回の成形サイクルを行うための処理を行う。
ステップST4では、制御装置11は、成形サイクルの繰り返しを終了する条件が満たされたか否か判定する。例えば、ステップST1で設定されたサイクル数に到達したか否か、又は入力装置35に対して成形サイクルを終了するための操作がなされたか否か判定する。そして、制御装置11は、肯定判定のときはステップST4に進み、否定判定のときはステップST3に戻って成形サイクルを繰り返す。
図7は、ステップST3のサイクル処理の詳細の一例を示すフローチャートである。ただし、この図では、成形サイクルのうち、射出に係る部分で、かつ本実施形態の特徴に係る部分のみを図示している。
ステップST11では、制御装置11は、その成形サイクルが初回であるか否か判定する。そして、そして、制御装置11は、肯定判定のときはステップST12に進み、否定判定のときはステップST13に進む。
ステップST12では、制御装置11は、ゲート流出係数Cgの値として、予め制御装置11が保持している初期値(例えば射出装置1の製造者が制御装置11に記録させた値)、又はステップST1でオペレータが設定した初期値を設定する。成形サイクルを行わなければ、ゲート流出係数Cgの実測値を求めることはできないことからである。
ステップST13では、制御装置11は、射出速度Vの値(ステップST1で設定された目標値、又は先の成形サイクルにおける実測値)、及び先の成形サイクルにおける溶湯の圧力Pの実測値を用いて(15)式を計算し、ゲート流出係数Cgの実測値を算出する。そして、制御装置11は、その算出した実測値をゲート流出係数Cgの値として設定する。なお、(15)式における、ρ、AP及びAgの値は、例えば、ステップST1等においてオペレータによって予め制御装置11に記録されている。
ステップST14では、制御装置11は、射出速度Vの値(例えばステップST1で設定された目標値)、及びステップST12又はST13で設定したゲート流出係数Cgの値を用いて、(10)式〜(12)式(又は(14)式)を計算し、最小限の圧力Pminを算出する。なお、これらの式における、ρ、AP及びAgの値は、上述のように、予め制御装置11に記録されている。また、最小限の圧力Pminが適宜に補正されてよいことは既に述べたとおりである。
なお、特に図示しないが、ステップST14の後、制御装置11は、算出した最小限の圧力Pminを表示装置43に表示させてもよい。
ステップST15では、制御装置11は、速度アキュムレータ25Aの圧力PACCが最小限の圧力Pminと等しいか否か判定する。なお、この等しいか否かの判定は、具体的には、例えば、圧力PACCと圧力Pminとの差が所定の範囲内に収まっているか否かの判定である。所定の範囲は、射出装置1の製造者によって設定されてもよいし、オペレータによって設定されてもよい。そして、制御装置11は、肯定判定のときはステップST19に進み、否定判定のときはステップST16に進む。
ステップST16では、制御装置11は、速度アキュムレータ25Aの圧力PACCが最小限の圧力Pminよりも低いか否か判定する。そして、制御装置11は、肯定判定のときはステップST17に進み、否定判定のときはステップST18に進む。
ステップST17では、制御装置11は、速度アキュムレータ25Aを加圧して圧力PACCを上昇させる。具体的には、例えば、ポンプ23から速度アキュムレータ25Aの液体室31aに作動液を供給する。
ステップST18では、制御装置11は、速度アキュムレータ25Aを減圧して圧力PACCを低下させる。具体的には、例えば、速度アキュムレータ25Aの液体室31aの作動液をタンク21に排出する。
ステップST17又はステップST18の後、制御装置11は、ステップST15に戻る。従って、速度アキュムレータ25Aは、その圧力PACCが最小限の圧力Pminになるまで加圧又は減圧が繰り返される。
成形サイクルが繰り返されて射出動作が安定してくると、前回の成形サイクルと今回の成形サイクルとで最小限の圧力Pminは同等となる。一方、速度アキュムレータ25Aの圧力PACCは、射出のための作動液の放出によって低くなる。従って、射出動作が安定すると、ステップST15〜ST18は、射出によって低下した圧力を回復させる動作になる。
上記のような圧力PACCが圧力Pminになったか否かの判定と加圧又は減圧とを繰り返す制御においては、ステップST17及びST18における加圧量又は減圧量は一定値とされてよい。また、判定と加圧又は減圧とを繰り返す制御に代えて、又は加えて、圧力PACCと最小限の圧力Pminとの差に応じた加圧量又は減圧量で圧力調整が行われてもよい。
ステップST19では、制御装置11は、低速射出を行うための制御を行う。具体的には、例えば、制御装置11は、ポンプ23又は速度アキュムレータ25Aからヘッド側室13hへ作動液を供給するとともにプランジャ5の速度がステップST1で設定された低速射出速度になるように液圧装置9を制御する。
ステップST20では、制御装置11は、位置センサ41の検出するプランジャ5の位置が所定の切替位置に到達したか否か判定する。そして、制御装置11は、肯定判定のときはステップST21に進み、否定判定のときは低速射出を継続する。
ステップST21では、制御装置11は、高速射出を行うための制御を行う。具体的には、例えば、制御装置11は、速度アキュムレータ25Aからヘッド側室13hへ作動液を供給するとともにプランジャ5の速度がステップST1で設定された高速射出速度になるように液圧装置9を制御する。
なお、速度アキュムレータ25Aの圧力PACCは、ステップST1で設定された高速射出速度を実現可能な最小限の圧力Pminとされているから、理論的には、メータアウト回路及び/又はメータイン回路等による速度制御をしなくても、射出速度は、設定された高速射出速度になる。ただし、理論値と実際の値との差があることから、現実的には、速度制御が必要になる。
ステップST22では、制御装置11は、増圧開始条件が満たされたか否か判定する。そして、制御装置11は、肯定判定のときはステップST23に進み、否定判定のときは高速射出を継続する。
ステップST23では、制御装置11は、増圧を行うための制御を行う。具体的には、例えば、制御装置11は、増圧アキュムレータ25Bから後側室13gへ作動液を供給するように液圧装置9を制御する。
なお、ステップST19〜ST23は射出制御部11aの動作に対応し、ステップST11〜ST14は圧力算出部11bの動作に対応し、ステップST15〜ST18は圧力制御部11cの動作に対応している。
(射出速度及び射出圧力の例)
図8は、本実施形態の射出装置1における射出速度V及び射出圧力Pの経時変化を説明するための模式図である。
横軸は、時間tを示し、縦軸は、射出速度V及び射出圧力Pを示している。線Ln1は、本実施形態及び比較例における射出速度Vの経時変化を示している。線Ln2は、比較例における射出圧力Pの経時変化を示している。線Ln3は、本実施形態における射出圧力Pの経時変化を示している。ただし、線Ln3は、一部が線Ln2に重なっており、その重なりにおいては線Ln2のみを示している。ここでいう比較例は、速度アキュムレータ25Aの圧力の設定方法を除いては、本実施形態と同様のものである。
比較例及び本実施形態における射出速度Vは、射出の初期においては、低速射出速度VLとされ、その後、高速射出速度VHとされる。そして、溶湯がキャビティ107にある程度充填されると(時点t1)、射出速度Vは急激に低下し、溶湯が略充填されるとプランジャ5は略停止する(時点t2)。
比較例における射出圧力Pは、低速射出においては比較的低い圧力PLであり、その後、高速射出の開始に伴って圧力PLに比較して相対的に高い圧力PHとなる。そして、溶湯がキャビティ107にある程度充填されると(時点t1)、射出圧力Pは急激に上昇し、溶湯が略充填されるとサージ圧(PS)が発生する(時点t2)。その後、射出圧力Pは、増圧がなされることにより、上昇していき、一定値(終圧)になる。
本実施形態における射出圧力Pは、低速射出及び高速射出においては、概ね比較例と同様である。射出中の圧力は、(3)式から理解されるように射出速度Vに大きく依存しており、また、射出速度Vは、設定された射出速度になるようにフィードバック制御されることにより本実施形態と比較例とで同等であることからである。
その後、本実施形態においても、溶湯がキャビティ107にある程度充填されると(時点t1)、射出圧力Pは急激に上昇し、溶湯が略充填されるとサージ圧が発生する(時点t2)。ただし、その大きさは、比較例におけるサージ圧(PS)よりも小さい。これは、サージ圧(ここでは圧力0を基準とする)は、溶湯の有する動圧と溶湯にかかる静圧とを含んでいるところ、速度アキュムレータ25Aの圧力が低く設定されていることによって、溶湯にかかる静圧が低くされることからである。
一方、本実施形態においても、比較例と同様に、増圧アキュムレータ25Bによって増圧がなされるから、サージ圧発生後の昇圧曲線は、概ね比較例と同様になる。すなわち、速度アキュムレータ25Aの圧力を低く設定したことは、昇圧曲線に大きな影響を及ぼさない。
(実験結果の例)
実験により上述した理論が正しいことを確認した。具体的には、増圧アキュムレータ25Bを用いずに射出を行い、そのときの射出速度V及び射出圧力Pを測定した。そして、速度アキュムレータ25Aの圧力を種々設定して、速度アキュムレータ25Aの圧力が射出速度V及び射出圧力P(サージ圧)に及ぼす影響を確認した。
図9(a)〜図9(c)は実験の結果を示す図である。これらの横軸及び縦軸は、図8と同様である。各図において、線Ln11は射出速度Vの経時変化を示し、線Ln12は射出圧力Pの経時変化を示している。各図の速度アキュムレータ25Aの射出前の圧力は、以下のとおりである。
図9(a):7.5MPa
図9(b):10.0MPa
図9(c):13.5MPa
これらの図より、速度アキュムレータ25Aの圧力は、射出速度V、並びに低速射出及び高速射出における射出圧力Pにさほど影響を及ぼさないことが確認できる。その一方で、速度アキュムレータ25Aの圧力を小さくすることによって、サージ圧を小さくできることが確認できる。
なお、これらの図は、サージ圧が収まった後の圧力が互いに異なっているが、これは、上述のように増圧アキュムレータ25Bによる増圧を行っていないことによるものである。従って、増圧アキュムレータ25Bによる増圧を行えば、サージ圧が収まった後の圧力は、図示の圧力よりも高い値で、図面相互で同等となる。
以上のとおり、本実形態に係る射出装置1は、スリーブ3内の成形材料を金型101内へ押し出すプランジャ5を駆動する駆動部10と、成形条件を設定する操作を受け付ける入力装置35と、入力装置35を介して設定された成形条件に基づいて駆動部10を制御する制御装置11と、を有している。駆動部10は、プランジャ5に連結されている射出シリンダ7と、射出シリンダに作動液を供給可能な速度アキュムレータ25Aと、プランジャ5に伝達される駆動力を生じる増圧駆動源(本実施形態では増圧アキュムレータ25B)と、を有している。制御装置11は、射出制御部11a及び圧力算出部11bを有している。射出制御部11aは、成形サイクルにおいて、速度アキュムレータ25Aから射出シリンダ7へ作動液を供給することによって高速射出を行い、その後、増圧駆動源(増圧アキュムレータ25B)の駆動力によって増圧を行うように駆動部10を制御する。圧力算出部11bは、入力装置35を介して設定された成形条件としての高速射出速度に基づいて、速度アキュムレータ25Aの圧力について、高速射出速度を実現する必要最小限の圧力Pminを算出する。
従って、既に述べたように、速度アキュムレータ25Aの圧力を低く設定してサージ圧を下げる一方で、増圧アキュムレータ25Bによって生じる駆動力によって昇圧特性を維持できる。制御装置11が必要最小限の圧力Pminを算出することから、その算出結果を制御装置11によって自動的に利用し、又はオペレータを介して手動で利用することによって、入力装置35を介して設定された高速射出速度を実現するためのACC圧力を過不足なく設定することができる。算出された必要最小限の圧力Pminと、現実の必要最小限の圧力Pminとの間にはずれがあることが予想される。しかし、ACC圧力が比較的高く設定されている現状に比較すれば、十分な効果が期待される。
また、本実施形態では、射出装置1は、速度アキュムレータ25Aを加圧及び減圧可能な加減圧部30(タンク21、ポンプ23及び第1バルブ29A)と、速度アキュムレータ25Aの圧力を検出可能な速度ACC圧力センサ37Aと、を更に有している。制御装置11は、成形サイクルにおいて、射出前に、速度ACC圧力センサ37Aの検出する圧力が必要最小限の圧力Pminに基づく目標圧力(必要最小限の圧力Pmin自体を含む)になるように加減圧部30を制御する圧力制御部11cを更に有している。
従って、圧力算出部11bによって算出された必要最小限の圧力Pminが自動的に速度アキュムレータ25Aの圧力に反映される。その結果、オペレータの負担が軽減される。また、成形サイクルにおいてゲート流出係数の実測値を求め、その求めた実測値を必要最小限の圧力Pminに利用する場合においては、迅速に実測値を速度アキュムレータ25Aの圧力の調整に反映させることができる。
以上の実施形態において、ダイカストマシンDC1は成形機の一例であり、溶湯は成形材料の一例であり、増圧アキュムレータ25Bは増圧駆動源の一例であり、ヘッド側圧力センサ39H、又はヘッド側圧力センサ39H及びロッド側圧力センサ39Rの組み合わせは射出圧力センサの一例である。必要最小限の圧力Pminは、必要最小限の圧力自体であるが、必要最小限の圧力に基づく目標圧力の一例でもある。
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
成形機は、ダイカストマシンに限定されない。例えば、成形機は、他の金属成形機であってもよいし、プラスチック射出成形機であってもよいし、木粉に熱可塑性樹脂等を混合させた材料を成形する成形機であってもよい。また、射出装置は、横型締横射出に限定されず、例えば、縦型締縦射出、横型締縦射出、縦型締横射出であってもよい。作動液は、油に限定されず、例えば水でもよい。
射出装置は、射出及び増圧を含む全工程を液圧によって行うものに限定されない。すなわち、射出装置は、全液圧式でなく、いわゆるハイブリッド式であってもよい。例えば、低速射出は、電動機の駆動力が作動液を介さずにプランジャに伝達されることによって行われてもよい。また、例えば、増圧は、電動機の駆動力が作動液を介さずにプランジャに伝達されることによって行われてもよいし、電動機の駆動力が作動液を介さずに増圧ピストン17に伝達されることによって行われてもよい。
上記の説明から理解されるように、増圧駆動源は、増圧アキュムレータ25Bに限定されず、例えば、電動機であってもよい。増圧駆動源が速度アキュムレータ25Aとは別に設けられる限り、速度アキュムレータの圧力の調整が昇圧曲線に及ぼす影響を低減できるからである。増圧駆動源は、実施形態においても言及したように、速度アキュムレータが射出シリンダを介してプランジャに付与する力(圧力×断面積)よりも大きな力をプランジャに付与可能であればよい。
射出シリンダは、増圧式のものに限定されず、単動式(単胴式)のものであってもよい。すなわち、射出シリンダは、実施形態の射出シリンダ7のうち射出シリンダ部13a及び射出ピストン15のみを有するものであってもよい。ただし、この場合、増圧駆動源の駆動力を大きくする必要がある。例えば、増圧駆動源が単動式の射出シリンダのヘッド側室13hに作動液を供給する増圧アキュムレータである場合においては、増圧アキュムレータは、速度アキュムレータよりも高圧に蓄圧される必要がある。また、直結形の増圧式の射出シリンダは、増圧シリンダ部13bの小径シリンダ部13baが射出シリンダ部13aと同径(別の観点では小径シリンダ部13baが設けられていない)ものであってもよい。また、増圧式の射出シリンダは、直結形のものに限定されず、射出シリンダ部13aと増圧シリンダ部13bとが互いに離間するとともに流路によって接続されているものであってもよい。また、増圧式の射出シリンダにおいて、ロッド側室と前側室とは接続されていなくてもよい。
実施形態では、制御装置11が液体室31aにおける作動液の給排を行って、速度アキュムレータ25Aの圧力の調整を行った。しかし、速度アキュムレータ25Aの圧力の調整は、気体室31bにおけるガスの給排によってなされてもよいし、また、オペレータによってなされてもよい。
オペレータが速度アキュムレータ25Aの圧力の調整を行う態様では、例えば、制御装置11(表示制御部11d)は算出した最小限の圧力Pmin又は最小限の圧力Pminに基づく目標圧力(最小限の圧力Pmin自体が目標圧力の場合もある)を表示装置43に表示させ、それを見たオペレータが圧力を調整するための操作を射出装置1に対して行う。この操作は、入力装置35に対するものであってもよいし、直接にバルブを操作するようなものであってもよい。
実施形態では、ゲート流出係数は、初回の成形サイクルを除いて、基本的に実測値が求められた。ただし、ゲート流出係数は、全ての成形サイクルで、金型の形状等によらない平均的な値(例えば0.6程度)が用いられてもよい。この場合、速度アキュムレータ25Aの目標圧力(最小限の圧力Pmin)は、成形サイクル前に1回だけ算出すればよい。なお、ゲート流出係数の実測値の算出(ひいては速度アキュムレータ25Aの目標圧力の算出)が、成形サイクル毎に行われなくてもよいことは既に述べたとおりである。
設定された射出速度(高速射出速度)を実現する必要最小限の圧力を算出する方法は、P−Q2線図の考え方を利用するものに限定されない。例えば、金型限界速度の考え方を利用するものであってもよい。金型限界速度(Vpc)は、あるゲート断面積の金型においてその成形システムが実現できる射出速度の上限であり、速度アキュムレータの圧力(PACC)を用いて下記式で表わされる。
Vpc=17.4×√(Ag 2AhPACC/Ap 3)
上式において、Vpcとして、高速射出速度を用いてPACCを逆算すれば、必要最小限の圧力を求めることができる。なお、この式もベルヌーイの定理に基づいている。
また、実施形態では、計算式の計算によって必要最小限の圧力を算出したが、データベースに基づいて必要最小限の圧力が算出(特定)されてもよい。例えば、ゲート断面積の大きさを複数に区分し、その区分毎に、射出速度と必要最小限の圧力とを対応付けたマップを用意してもよい。このようなマップは、理論と実験とを総合的に考慮して作成することができる。