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JP2017104907A - 鋳包み部材及びアモルファス金属を接合材に用いた鋳包み部材の製造方法 - Google Patents

鋳包み部材及びアモルファス金属を接合材に用いた鋳包み部材の製造方法 Download PDF

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嘉雄 備前
耕平 奥村
Kohei Okumura
耕平 奥村
秀樹 山浦
Hideki Yamaura
秀樹 山浦
英也 山根
Hideya Yamane
英也 山根
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Abstract

【課題】 鋳造により製造される鋳包み部材において、被鋳包み材と鋳包み材との接合強度を確保できて、しかも容易かつ安価に製造可能な鋳包み部材及びその製造方法を提供する。【解決手段】 被鋳包み材が鋳包み材により鋳包まれている鋳包み部材であって、被鋳包み材と鋳包み材との間にFe、Ni、Al、Cu、Mo、Ti、Zr、Hf、Co、Mg、La、Pd、Ag、Au、Ptのうち1種以上の元素を含む接合層が存在し、被鋳包み材及び鋳包み材には、前記接合層に隣接して前記元素が拡散した拡散領域が存在する鋳包み部材とする。【選択図】 図1

Description

本発明は、鋳造により製造される鋳包み部材とその製造方法に関する。
従来、2つ以上の同種又は異種の材料を一体的に組み合わせて複合部材を製造する方法として、例えば、接着、ろう付け、溶接、摩擦圧接、焼結接合、焼きばめ、カシメ、圧着、圧入、螺子・ボルト・リベット等による締結、鋳包みなどにより接合する方法が知られている。
このうち鋳包みは、鋳包まれる被鋳包み材を鋳型に配置して、この鋳型に鋳包み材となる溶融金属を注湯して被鋳包み材と鋳包み材とを接触することで、両者を接合して一体化する方法である。なおここでいう鋳包みとは、鋳包み材が被鋳包み材の全面を完全に囲繞して包み込んで接合する形態に限定されず、鋳包み材が被鋳包み材の一部の表面と接触して接合する形態を含むものと定義する。
鋳包みによれば、通常の鋳造工程で中子を鋳型に設置するのと同様に、被鋳包み材を鋳型に設置して注湯するだけで接合が行われる。即ち鋳造工程が接合工程を兼ねていて鋳造と同時に、容易かつ安価に所望の複合部材を製造することができる。しかも鋳造工法によるので形状自由度が高く、複雑形状の複合部材を得ることができる。
しかし、鋳包みによる接合には利点ばかりでなく種々の問題点もある。鋳包みによる接合では、接合力の発現メカニズムとしては、(1)被鋳包み材に、凸部又は凹部を設けて鋳包むことで、被鋳包み材と鋳包み材とを相互に抱込ませるように嵌合することで機械的な接合力を得る場合と、(2)鋳包み材となる溶融金属の熱で被鋳包み材を局部的に溶融することで、両者の構成元素の原子レベルでの相互拡散により冶金的な結合力を得る場合とがある。
前者(1)の場合、被鋳包み材と鋳包み材とは凹部又は凸部において単に機械的に保持されて一体化しているにすぎず、両者の接合界面には隙間が存在している場合がある。そのため複合部材として使用した際に荷重が負荷されると接合界面の隙間から亀裂が発生しやすく、接合部の強度(接合強度)を確保できないという問題がある。また例えば、被鋳包み材と鋳包み材との間で熱交換が必要な複合部材の場合、接合部に隙間が存在すると両者間での熱伝達性が不足するなど必要な機能が得られないという問題がある。
接合部の強度を確保するためには、後者(2)のメカニズムにより被鋳包み材と鋳包み材とが、構成元素の相互拡散により融着して強固に接合(以下、拡散接合ということがある)する必要がある。しかしながら、鋳包みにおいて接合界面を完全に拡散接合することは容易ではない。その理由は、被鋳包み材の表面が酸化膜で覆われているためこれがバリアとなって、或いは鋳包み部材の溶融金属の温度が低いために、構成元素の拡散が不十分となるためと考えられる。その結果、被鋳包み材と鋳包み材とが十分に融着しないことから、接合部の所望の強度を得られないという問題がある。
被鋳包み材と鋳包み材とを融着して接合するには、接合界面で両者の材料を構成する元素が原子レベルで相互に拡散するような状態としなければならない。このためには、鋳包み材である溶融金属の熱を被鋳包み材に伝え、被鋳包み材を融点近傍まで加熱して両者の温度差を減少させて、また接合界面の温度を上昇させて接合する必要がある。
例えば、特許文献1には、鋳包みにおいて、被鋳包み材の体積に対して体積比で18倍以上の溶融金属を注湯して、溶融金属の熱を被鋳包み材に伝えることで、両者の温度差を減少し、また接合界面の温度を上昇することにより、被鋳包み材と鋳包み材とが密着した鋳包み部材を製造できるとの記載がある。しかしながら、特許文献1に記載の技術では、被鋳包み材に対して体積比18倍以上の溶融金属を必要とするため、注入歩留が極めて低く製造コストの増加が著しい。このため得られる複合部材が高価で、工業的な生産に適さないという問題がある。
被鋳包み材と鋳包み材との接合部の強度を確保するために、特許文献2には、被鋳包み材の表面の一部にろう材または自溶性合金を配置した後、被鋳包み材を鋳包み材で鋳包むことにより、鋳包み材の熱で溶融したろう材または自溶性合金が、被鋳包み材と鋳包み材の間の接合部に隈無く浸透し、良好に金属接合できるとの記載がある。特許文献2に記載の技術は、接合材として用いるろう材や自溶性合金がもつ濡れ性を利用して、これら接合材が溶融して被鋳包み材と鋳包み材との間の接合部に浸透することで両者を接合している。
しかしながら、ろう材や自溶性合金は、その表面及び内部には少なからず不純物である酸化物が存在する。酸化物を含んだろう材や自溶性合金では、鋳包みの際にこれらの酸化物がバリアとなって、構成元素の拡散が抑制されて、被覆層と鋳包み材との強い結合が得られない。また被鋳包み材と鋳包み材との間に酸化物が介在することになる。接合材は被鋳包み材と鋳包み材との接合媒体として機能するものであるから、接合材の表面や内部に不純物である酸化物が存在していたのでは、接合材自体が低強度となって接合強度が確保できないという問題を生じる。
また、特許文献2には、融剤としての作用を果たす自溶性合金として、例えば、融点降下元素としてBを含有したNi−Si−B系自溶性合金が例示されている。しかしながら、一般的なろう材や自溶性合金は結晶質金属からなるため、例え融点降下元素を含有しても融点は十分に低いとはいえず、これに起因して鋳包みの際の構成元素の拡散の程度は限定的であって、接合強度は必ずしも満足できるものとはいえない。
また、上記の特許文献2に記載された技術の他に、従来より被鋳包み材の表面にメッキ、溶射、肉盛溶接、メタライズなどを施して、自溶性合金などからなる被覆層を形成した後、鋳包み材となる溶融金属で鋳包む方法も知られている。しかし、被覆層の形成には、特殊な設備が必要で、施工工程も増えることから製造コストが上昇する。
また、被覆層と被鋳包み材は、両者を完全に融着させることは難しく、被覆層と被鋳包み材が冶金的に結合されていない場合もある。この場合、複合部材として使用した際に、荷重の負荷により、被覆層と被鋳包み材がその界面で剥離することがある。また、被覆層と被鋳包み材とが異材種で構成されているなど両者の熱膨張率に差異があると、鋳包みの際の溶融金属による加熱や冷却によって、或いは複合部材として使用した際の加熱冷却のヒートサイクルによって、両者の熱膨張差に起因して発生する熱応力により、被覆層と被鋳包み材がその界面で剥離することがある。被覆層と被鋳包み材の界面で剥離が生ずると鋳包み部材の接合強度が低下する。
また、メッキにより被覆層を形成する場合などは厚い被覆層を得ることが難しい。被覆層が薄いと溶融金属に触れただけで被覆層が流されたり、剥がれたり、或いは溶解して消滅して、鋳包み材との密着性を得るための接合材としての機能が失われてしまい有効な接合が得られない。
また、被覆層を形成する施工工程では、不純物である水素などのガス成分や酸化物を発生することがある。発生したガス成分や酸化物は被覆層の表面や内部に取り込まれることとなる。ガス成分を含んだ被覆層を形成した被鋳包み材を鋳包んだ場合、溶融金属の熱によって被覆層に含まれるガス成分がガス化して溶融金属中に放出されて接合部とその近傍にボイドなどのガス欠陥を発生し、被鋳包み材と鋳包み材との接合を阻害したり、複合部材の接合強度を低下させることがある。また、酸化物を含んだ被覆層では、前述したように、酸化物がバリアとなって、被覆層と鋳包み材との高い結合が得られないだけでなく、不純物である酸化物の存在により接合材自体が低強度となって接合強度が確保できないという問題を生じる。
上記のように、鋳包みにより被鋳包み材と鋳包み材とを接合する場合、従来の技術では何れの方法によっても、鋳包みのもつ容易かつ安価な接合方法という利点を生かして、しかも良好な接合強度を有する複合部材(以下、鋳包みにより得られる複合部材を「鋳包み部材」ということがある)が得られていないのが現状である。
特開平11−190350号公報 特開2001−18055号公報
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、鋳包みにおいて、被鋳包み材と鋳包み材との接合強度を確保できて、しかも容易かつ安価に製造可能な鋳包み部材及びその製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成されている。即ち、本発明の鋳包み部材は、被鋳包み材が鋳包み材により鋳包まれている鋳包み部材であって、被鋳包み材と鋳包み材との間にFe、Ni、Al、Cu、Mo、Ti、Zr、Hf、Co、Mg、La、Pd、Ag、Au、Ptのうち1種以上の元素を含む接合層が存在し、被鋳包み材及び鋳包み材には、前記接合層に隣接して前記元素が拡散した拡散領域が存在することを特徴とする。
本発明の鋳包み部材において、被鋳包み材及び鋳包み材に形成される拡散領域の長さは、4μm以上であることを特徴とする。
また、本発明の鋳包み部材の製造方法は、被鋳包み材を鋳包み材となる金属溶湯により鋳包んでなる鋳包み部材の製造方法であって、被鋳包み材の表面に接合材であるアモルファス金属を配置させた後、前記被鋳包み材を鋳型に設置し、前記鋳型に鋳包み材となる金属溶湯を注湯して、前記被鋳包み材と前記鋳包み材とを前記アモルファス金属が溶融、凝固した接合層を介して接合することを特徴とする。
本発明の鋳包み部材の製造方法は、前記アモルファス金属が、鋳包み材より融点の低い合金であって、Fe基合金、Ni基合金、Al基合金、Cu基合金、Mo基合金、Ti基合金、Zr基合金、Hf基合金、Co基合金、Mg基合金、La基合金、Pd基合金、Ag基合金、Au基合金、Pt基合金のうちの少なくとも1種の合金とすることができる。
本発明の鋳包み部材の製造方法は、前記被鋳包み材の表面に配置される前記アモルファス金属が、箔、膜、薄片、リボン、シート、ワイヤー、フィルムのうちの少なくとも1つの形態で配置することができる。
本発明によれば、アモルファス金属を接合材に用いることによって、被鋳包み材と鋳包み材との接合強度を確保できて、しかも容易かつ安価に製造可能な鋳包み部材及びその製造方法を提供することができる。
実施例の被鋳包み材と鋳包み材との接合部とその近傍の金属組織の光学顕微鏡写真を示す図である。 実施例の被鋳包み材と鋳包み材との接合部とその近傍のFE−SEM EDSによる組成分析結果を示す図である。 実施例の注湯後の鋳包み部材の断面を示す模式図である。
以下、本発明の実施の形態について、さらに詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施の形態により何ら限定されるものではない。
本発明の鋳包み部材は、2つ以上の同種又は異種の材料の組み合わせからなる複合部材である。即ち鋳包み部材を構成する被鋳包み材及び鋳包み材は、それぞれ同種又は異種の材質からなる材料を選択することができる。
被鋳包み材の材質としては、例えば、金属材料としては、鋼系金属、鉄系金属、アルミニウム系金属、銅系金属、ニッケル系金属、チタン系金属、焼結金属などを選択できる。また金属基複合材、セラミックスなどを選択してもよい。例えば、鋼系金属としては、炭素鋼、合金鋼、構造用鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、超耐熱合金、工具鋼、鋳鋼などを採用できる。
鋳包み材の材質としては、公知の鋳造工法で鋳造可能な材料であれば特に限定されず、鋳造用の鋼系金属、鉄系金属、アルミニウム系金属、銅系金属、ニッケル系金属、チタン系金属などを選択できる。例えば、鋳造用の鉄系金属としては、片状黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、可鍛鋳鉄、特殊鋳鉄などの鋳鉄を採用できる。
被鋳包み材と鋳包み材とは、一度の鋳包みで2つ以上の材料を鋳包むこともできる。例えば、被鋳包み材として炭素鋼及びステンレス鋼の2種類の材質を、鋳包み材として球状黒鉛鋳鉄の溶湯で鋳包んで3種の材料の組み合わせからなる複合部材とすることもできる。また、例えば、被鋳包み材として炭素鋼を、鋳包み材として片状黒鉛鋳鉄及び球状黒鉛鋳鉄の2種類の材質で鋳包んで3種の材料の組み合わせからなる複合部材とすることもできる。2種類の鋳包み材を鋳包む方法としては、例えば、鋳型に2つの湯口を形成して各湯口より異種の材料の鋳包み材の溶湯を注湯するという公知の手法を用いることができる。
本発明においてアモルファス金属は、被鋳包み材と鋳包み材の間に介在させて、接合部で固液共存相又は液相を形成して両者を拡散接合する、所謂、液相拡散接合を行うための接合材として用いる。接合部でアモルファス金属が固液共存相又は液相を形成するための熱は、鋳包み材となる金属溶湯から供給される。従って、アモルファス金属は、鋳包み材の融点よりも低い融点を有するものであることが必須の条件となる。
アモルファス金属は、従来の規則性を有する結晶構造を持った金属とは異なり、原子配列がランダムで規則性のない無秩序な組織(非晶質組織)から構成されている。本発明で接合材にアモルファス金属を用いたのは、非晶質組織で非平衡状態の準安定材料のため、熱に対して不安定で加熱により活性化しやすく、高温で優れた変形性、流動性、濡れ性、浸透性、拡散性などを発現することで、被鋳包み材及び鋳包み材との間で構成元素の原子レベルでの相互拡散を促進して両者を強固に接合一体化するという、接合材に必要な機能を備えているからである。
接合材であるアモルファス金属は、加熱すると温度上昇に伴い、アモルファス固相(ガラス状態)から、結晶相、固液共存相、液相と相変化が起こり、固液共存相又は液相において変形性や流動性を発現して、接合材と被鋳包み材との隙間を埋めるとともに、接合材が被鋳包み材の表面形状に倣ってその形状を転写して、接合材と被鋳包み材との接触面積を増大して密着性が向上する。また、固液共存相又は液相は活性となることから、被鋳包み材及び鋳包み材に対して濡れ性や浸透性を発揮するとともに、接合材であるアモルファス金属の構成元素が被鋳包み材及び鋳包み材に拡散する拡散現象を現出することにより接合強度の高い鋳包み部材が得られる。接合材の構成元素の拡散開始を早め、かつ拡散速度を大きくして、拡散接合をより促進するためには、接合材を低融点にするための融点降下元素、かつ鋳包みの際に被鋳包み材及び鋳包み材に拡散しやすい特性をもった拡散元素を含有したアモルファス金属を接合材に用いることが好ましい。
接合材としてアモルファス金属を用いる場合、高温での優れた変形性、流動性、濡れ性、浸透性、拡散性などの特性によって得られる効果の他に、アモルファス金属の有する特性によって次のような利点もある。即ち、結晶質金属である一般的なろう材や自溶性合金には表面や内部に少なからず酸化物が存在するが、アモルファス金属は表面や内部に酸化物が存在しないか、存在しても極めて僅かである。このため酸化物に起因する構成元素の拡散の抑制や接合材自体の強度低下といった不具合が抑えられて接合部の強度を確保できる。また、アモルファス金属の融点は、結晶質金属からなる一般的なろう材や自溶性合金の融点より低い。このため接合材をアモルファス金属とした場合には、鋳包み材の注湯温度を低下できるので、鋳包みで発生する被鋳包み材の熱劣化や熱変形が抑制され、これに起因した接合部の強度低下を防止できる。
次に具体的なアモルファス金属の材料について説明する。本発明で用いるアモルファス金属は、その組織の結晶構造が必ずしも体積率で100%非晶質でなくともよく、少なくとも体積率で50%の非晶質組織を有していれば接合材として使用できる。アモルファス金属は、例えば、体積率50%以上の非晶質組織と粒径100nm以下のナノ結晶粒子からなる結晶質組織とが混在した金属組織からなるものであってもよい。この場合、ナノ結晶粒子の粒径が小さくなるほど拡散接合が容易となることから、ナノ結晶粒子の粒径は1〜30nmであることが好ましく、1〜10nmであることがより好ましい。
より具体的にアモルファス金属は、Fe基合金、Ni基合金、Al基合金、Cu基合金、Mo基合金、Ti基合金、Zr基合金、Hf基合金、Co基合金、Mg基合金、La基合金、Pd基合金、Ag基合金、Au基合金、Pt基合金のうちの少なくとも1種の合金を選択できる。
アモルファス金属は、特に限定されるものではなく、鋳包み材の融点よりも低い融点を有するという条件を満たせば、被鋳包み材及び鋳包み材の材質に応じて適切な材質のものを選択すればよく、液相拡散接合法において用いられる市販のアモルファス金属箔のろう材などを用いることができる。例えば、被鋳包み材を炭素鋼とし、鋳包み材を鋳鉄とした場合、接合材はFe又はNiを主成分とした、融点が1000℃程度のFe基合金又はNi基合金のアモルファス金属を選択できる。このうちNi基合金のアモルファス金属としては、米国AWS BNiに規定されるようなNiを主成分として、これに適宜添加されるCr、Fe、C、Si、B、P、V、Mo及びWの何れか1種又は2種以上の元素と不可避的不純物とからなる組成の合金を、急冷凝固法で製造したアモルファス金属箔をあげることができる。
Ni基合金のアモルファス金属は、融点降下元素であるC、Si、B及びPの何れか1種又は2種以上が添加されたものが接合材として優れた融着性を発揮するので好ましい。上記元素のうち、特にBはアモルファス金属の融点を降下させる効果が大きく、拡散開始を早めるとともに、原子半径が小さいので拡散速度が大きく、被鋳包み材及び鋳包み材に速やかに拡散する作用がある。またBは、鉄系金属においてフェライト化促進元素であることから、鋳包み材を鋳鉄とした場合に接合部の鋳鉄が急冷によりチル(白銑組織)化することを抑制する。
本発明の鋳包み部材では、アモルファス金属中の構成元素である例えば、Niなどの拡散元素が鋳包み材及び被鋳包み材の金属組織中に拡散しつつ、アモルファス金属が等温凝固することで強固な接合を実現できる。溶融して固液共存相又は液相となったアモルファス金属が等温凝固するときの冷却速度は、非晶質組織を得るのに必要な急冷凝固での冷却速度よりも小さいため、アモルファス金属は、非晶質組織とはならずに結晶化した組織を有して、被鋳包み材と鋳包み材との間にアモルファス金属が溶融、凝固して、その構成元素を含んだ接合層として残存する。即ち、本発明の鋳包み部材は、被鋳包み材と鋳包み材との間にアモルファス金属であった構成元素の主成分の元素として、Fe、Ni、Al、Cu、Mo、Ti、Zr、Hf、Co、Mg、La、Pd、Ag、Au、Ptのうち1種以上の元素を含む接合層が存在する。接合層は、鋳包み前の接合材のアモルファス金属とは異なり、例えばNiなどの融点の高い元素を主体とした結晶質金属であって、強度や延性に優れた融着合金からなるので接合強度が確保される。
また、本発明の鋳包み部材において、被鋳包み材及び鋳包み材には、接合層に隣接して、アモルファス金属であった構成元素の主成分の元素として、Fe、Ni、Al、Cu、Mo、Ti、Zr、Hf、Co、Mg、La、Pd、Ag、Au、Ptのうち1種以上の元素が拡散した拡散領域が存在する。この拡散領域において接合層と被鋳包み材及び接合層と鋳包み材が強固に接合される。本発明の鋳包み部材は、接合材として優れた特性を有するアモルファス金属を用いることで拡散が促進されるので、接合層と被鋳包み材及び鋳包み材との界面にCなど特定の元素の濃化や析出を生ずることなく、被鋳包み材及び鋳包み材の構成元素が連続的に分布した接合層及び拡散領域からなる接合部が形成されて接合強度が向上する。
本発明の鋳包み部材において、被鋳包み材及び鋳包み材に形成される拡散領域の長さは、接合強度を確保するためにできるだけ長い方が好ましく、接合部の接合強度を確保するために拡散領域の平均長さとして4μm以上であることが好ましい。
拡散領域の平均長さは、以下の方法により算出した。まず、接合層と略直交する断面において、接合層をほぼ中央として直線長さ150〜300μmの測定領域についてエネルギー分散型X線分光法(EDS)により、アモルファス金属であった構成元素のうち主成分の元素(以下、主成分元素ということがある)の濃度に比例したX線カウント数(以下、カウント数ということがある)を線分析により測定する。次いで被鋳包み材及び鋳包み材について測定領域の両端を起点として接合層に向かって約30μmの区間の主成分元素のカウント数の平均値を算出して、夫々、被鋳包み材及び鋳包み材の母相のカウント数(以下、母相値という)と定義する。次に測定領域の全域に亘って、長さ方向の移動平均幅を1〜3μmとして、主成分元素のカウント数の移動平均値を算出する。移動平均値のうち、接合層の中央付近に現れるカウント数の最大値に対して30%のカウント数、即ち最大値に0.3を乗じたカウント数を接合層と拡散領域の界面のカウント数(以下、境界値という)と定義する。
上述の方法により算出したカウント数の母相値及び境界値は[母相値<境界値]の関係にあり、境界値を示す位置から母相値を示す位置までは、母相よりもアモルファス金属の主成分元素のカウント数が高い、即ちアモルファス金属であった構成元素の拡散領域とみなされる。そこで境界値の位置から母相値の位置までの区間の距離をもって拡散領域の長さと定義する。拡散領域の平均長さは、接合部の任意の3視野の拡散領域の長さを上述の方法により測定し、その平均値を求めて拡散領域の平均長さと定義した。
ここで、測定領域の両端を起点として接合層に向かって約30μmの区間のカウント数の平均値を算出して、夫々、被鋳包み材及び鋳包み材の母相値としたのは、アモルファス金属であった構成元素の拡散領域から十分に離れた領域であって、被鋳包み材及び鋳包み材の母相に対してアモルファス金属であった構成元素が拡散により到達していないと判断されるからである。
また、アモルファス金属の主成分元素のカウント数の移動平均値を算出した理由は、後述する実施例で図2に示すように各元素のX線カウントはなだらかな曲線ではなく、局部的に変化の激しい曲線となり元素の分布状態がつかみにくい。これは元素の濃度のバラツキや測定機器のバラツキによるためである。カウント数を移動平均することで、主成分元素の分布状態が平滑化されて拡散領域の把握が容易となる。移動平均幅を1〜3μmとしたのは、接合層の厚さが8〜20μm程度であることから、前述の境界値を算出するのに相応しい(小さすぎずかつ大きすぎない)移動平均幅として設定した。なお、移動平均幅は1〜3μmに限定されず、接合層の厚さや主成分元素の濃度のバラツキの周期などを勘案して設定することができる。
また、カウント数の移動平均の最大値に対して30%のカウント数を接合層と拡散領域の界面の境界値としたのは、顕微鏡による金属組織の観察結果から、接合層と被鋳包み材及び鋳包み材との境界が、カウント数の最大値に対して約30%のカウント数を示す位置にあるとの知見を得たことによる。接合層と拡散領域の界面の境界値はアモルファス金属の種類や構成元素、被鋳包み材及び鋳包み材の構成元素により異なると考えられるので、接合部の金属組織の観察により接合層と被鋳包み材及び鋳包み材との境界を特定した上で適宜設定することが好ましい。
後述する接合材としてNi基合金のアモルファス金属箔を用いた鋳包み部材の実施例において、アモルファス金属の主成分元素であるNiについて上述の方法により拡散領域の長さを算出したところ、被鋳包み材に形成された拡散領域の長さは4〜8μm程度であり、鋳包み材に形成された拡散領域の長さは8〜50μm程度であった。実施例の鋳包み部材では接合部の接合強度が確保されていることから、被鋳包み材及び鋳包み材に形成される拡散領域の平均長さとしては、少なくとも4μm以上あればよいと考えられる。被鋳包み材に形成される拡散領域の平均長さは5μm以上がより好ましく、6μm以上が最も好ましい。鋳包み材に形成される拡散領域の平均長さは10μm以上がより好ましく、15μm以上が最も好ましい。
次に、本発明の鋳包み部材の製造方法は、被鋳包み材と鋳包み材とをそれぞれ同種又は異種の材質からなる材料から選択して、被鋳包み材を鋳包み材となる金属溶湯により鋳包んでなる鋳包み部材の製造方法である。本発明の製造方法の特徴は、被鋳包み材の全表面のうち鋳包み材と接合したい所望の表面に、接合材であるアモルファス金属を配置させた後、このアモルファス金属を配置した被鋳包み材を鋳型に設置し、この鋳型に鋳包み材となる金属溶湯を注湯して、被鋳包み材と鋳包み材とをアモルファス金属が溶融、凝固した接合層を介して接合して鋳包み部材を得るものである。
本発明の製造方法を適用できる鋳造工法としては、鋳包み材を鋳鉄や鋳鋼とした場合には一般的な砂型鋳造を例示できるが、これに限らず鋳包み材の材種に応じて、例えば金型鋳造、重力鋳造、低圧鋳造、高圧鋳造、ダイカスト鋳造、溶湯鍛造等の公知の鋳造工法に適用できる。
被鋳包み材の表面に配置するアモルファス金属は、前述のとおり、鋳包み材より融点の低い合金であって、Fe基合金、Ni基合金、Al基合金、Cu基合金、Mo基合金、Ti基合金、Zr基合金、Hf基合金、Co基合金、Mg基合金、La基合金、Pd基合金、Ag基合金、Au基合金、Pt基合金のうちの少なくとも1種の合金を選択できる。被鋳包み材及び鋳包み材を鋼系金属、鉄系金属とした場合、接合材はFe又はNiを主成分とした、融点が1000℃程度のFe基合金又はNi基合金のアモルファス金属を用いることが好ましい。
被鋳包み材の表面に配置するアモルファス金属の形態としては、箔が好適であるがこれに限定されず、箔の他に、例えば、膜、薄片、リボン、シート、ワイヤー、フィルムのうちの少なくとも1つの形態で配置することもできる。配置の方法としては、被鋳包み材の表面に、例えば、箔を巻き付けてもよく、1枚の箔を載置してもよく、或いは複数の箔を積層して載置してもよい。複数の箔を積層する場合には、アモルファス金属の材質として2種類以上の材種からなる箔を積層して配置してもよい。また、異なる形態のアモルファス金属を積層して載置してもよく、例えば、箔の上にワイヤーを積層して配置してもよい。
配置したアモルファス金属の被鋳包み材への固定手段としては、例えば、針金結束、接着テープ・接着剤での接着、スポット溶接、圧着、ピン止め、鋲止めなどにより仮固定することができる。アモルファス金属の被鋳包み材への固定手段は、上記の方法に限定されるものではなく、金属溶湯の注湯までアモルファス金属を仮固定できる手段であれば、他の固定手段を採用してもよい。
なお、被鋳包み材とアモルファス金属とは、鋳型への設置の段階では必ずしも全面にわたって隙間なく密着している必要はなく、見かけ上、アモルファス金属が被鋳包み材の所望の表面に可能な限り隙間なく配置されていればよい。アモルファス金属を配置する部分(接合材と被鋳包み材との境界であって、鋳包み後に接合部となる部分)の被鋳包み材の形状は、平面視での形状としては角状、円状、環状及びそれらを組み合わせた形状など、また断面視での形状としては平面、段状、曲面及びそれらを組み合わせた形状など、任意の形状とすることができる。即ち、被鋳包み材の接合部の形状は、アモルファス金属を配置して仮固定できる形状であればいかなる形状でもよいことから、本発明の鋳包み部材は、鋳造による形状自由度を活かして任意形状の接合部をもった鋳包み部材とすることができる。
接合材であるアモルファス金属の厚さは、その厚さが極端に薄いと、被鋳包み材の表面に配置する際に破れやすく、また接合材が鋳包み材の金属溶湯に接触した際に、流されたり消滅して又は接合材と被鋳包み材及び鋳包み材との間で拡散元素による十分な相互拡散が得られず、接合強度の確保が期待できない。一方、アモルファス金属の厚さが過剰に厚いと、アモルファス金属は高い硬度と剛性を有し、しなやかさに欠けるため、被鋳包み材に配置する際に接合材と被鋳包み材の隙間が大きくなり過ぎて両者の密着性が不足するために、また厚さに起因して鋳包み材の金属溶湯の熱が被鋳包み材に伝達し難くなるために、接合材と被鋳包み材との間での相互拡散が不十分となって、接合強度を確保できない。アモルファス金属の厚さは、特に限定されないが、被鋳包み材、鋳包み材及びアモルファス金属の材質、サイズ、鋳包み材の溶湯温度等を考慮して決定することが好ましい。例えば、被鋳包み材を炭素鋼とし、鋳包み材を鋳鉄とし、接合材をNi基合金のアモルファス金属の箔とした場合は、アモルファス金属の厚さは20〜100μmが好適である。
次に、アモルファス金属を配置した被鋳包み材を鋳型に設置する。被鋳包み材の鋳型への設置は、通常の鋳造工程で中子を鋳型に設置するのと同様に実施すればよく、特段の方法は不要である。次いで、この鋳型に鋳包み材となる金属溶湯を注湯する。注湯された金属溶湯は、鋳型内を流動して接合材と接触し、さらに接合材を介して被鋳包み材と間接的に接触する。
金属溶湯と接触した接合材のアモルファス金属は、金属溶湯の熱により急速に加熱されて、短時間で結晶相を経て固液共存相又は液相となり変形性や流動性を発現することで、金属溶湯の鋳造ヘッド圧により被鋳包み材に向けて押圧されて、仮固定で生じていた接合材と被鋳包み材との隙間を埋めるとともに被鋳包み材の表面形状に倣ってその形状を転写する。これにより接合材と被鋳包み材は両者の接触面積が増大して密着性が向上する。
さらに固液共存相又は液相となったアモルファス金属は、被鋳包み材の表面を濡らすとともに、該表面の数十nmオーダーの微細な凹凸の隙間に浸透する。接合材と被鋳包み材の構成元素が相互拡散するためには、接合材と被鋳包み材とが密着して接触していなければならないが、上記したように溶融して固液共存相又は液相となったアモルファス金属により両者が隙間なく良好に密着するので、両者の構成元素が相互に拡散する液相拡散反応が促進される。また、液相である金属溶湯の鋳包み材と、固液共存相又は液相の接合材とは、ともに液相を含む同士なので液相拡散反応はよりスムーズに進行する。これにより接合材の構成元素が鋳包み材及び被鋳包み材に拡散し、一方、鋳包み材及び被鋳包み材の構成元素が接合材に拡散する。
その後、接合材と鋳包み材は、鋳型や被鋳包み材との接触により冷却して凝固する。このときアモルファス金属は、固液共存相又は液相からの等温凝固により結晶化する。上記したアモルファス金属の溶融、構成元素の拡散及び等温凝固により、被鋳包み材と鋳包み材とをアモルファス金属から転じた融着合金からなる接合層を介して強固に接合した鋳包み部材が形成される。
本発明によれば、接合材としてアモルファス金属を用いることで、アモルファス金属の有する高温での優れた変形性、流動性、濡れ性、浸透性、拡散性などの特性を利用して被鋳包み材と鋳包み材とが液相拡散接合されるので、接合材に結晶質金属からなる一般的なろう材や自溶性合金を用いて接合するよりも、良好な金属接合を実現できる。上記した本発明の鋳包み部材の製造方法を適用することによって、被鋳包み材と鋳包み材との接合強度を確保できて、しかも容易かつ安価に製造可能な鋳包み部材を得ることができる。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例により何ら限定されるものではない。
本実施例では、被鋳包み材を炭素鋼とし、鋳包み材を球状黒鉛鋳鉄とし、接合材にNi基合金のアモルファス金属箔を用いて異種材料を接合一体化したYブロックの鋳包み部材を複数作製した。得られた鋳包み部材について、接合部とその近傍について金属組織の観察、組成分析及び拡散領域の厚さ測定を実施するとともに、引張試験により接合強度を評価した。
被鋳包み材は、外径20mm、長さ20mmの丸棒の炭素鋼(S48C)を使用した。なお、被鋳包み材は、鋳包みに先立って、その表面の清浄化のための酸化膜除去、脱脂などの処理を施すことなく用いた。接合材のアモルファス金属は、質量比でSi4.5%、C0.06%、B3.2%、残部Ni及び不可避的不純物の組成を有する市販のNi基合金のアモルファス金属箔(日立金属株式会社製、商品名;MBF30(米国AWS BNi−3相当))を使用した。該アモルファス金属箔は、固相線温度(融点)984℃、液相線温度1054℃であって、鋳包み材の球状黒鉛鋳鉄の固相線温度約1145℃よりも低い融点を有する。該アモルファス金属箔は、厚さ約40μm、幅60mmの帯状であり、これを長さ65mmに切断して接合材とした。
次に、被鋳包み材の丸棒の両端を鋳包み材で鋳包んで接合することとし、被鋳包み材の表面を覆うように1枚のアモルファス金属箔を被鋳包み材の表面に巻き付けて載置した後、両者の外側に針金を1周巻回してアモルファス金属箔を被鋳包み材に結束することで、被鋳包み材の表面に接合材であるアモルファス金属箔を仮固定して配置した。なお、針金は、直径約1.2mmの市販の軟鋼鉄線を使用した。
次に、アモルファス金属箔を配置した被鋳包み材を、予め準備したCO法により造型した1インチYブロックとなるキャビティを画成した鋳型に設置した。その後、該鋳型に鋳包み材となる球状黒鉛鋳鉄(FCD450)の溶湯を約1300℃で注湯した。注湯後、球状黒鉛鋳鉄及びアモルファス金属箔を鋳放しで凝固、冷却した後、鋳型から離型して、炭素鋼と球状黒鉛鋳鉄とが接合一体化した鋳包み部材を取り出した。
図3は、実施例の注湯後の鋳包み部材の断面を示す模式図である。図3に示すように、被鋳包み材の炭素鋼3の表面に、接合材であるNi基合金のアモルファス金属箔2を図示しない針金で仮固定して配置した後、この炭素鋼3を鋳型5に設置し、この鋳型5に鋳包み材の球状黒鉛鋳鉄4の溶湯を注湯して、炭素鋼3を球状黒鉛鋳鉄4で鋳包んで接合した鋳包み部材1を形成した。なおアモルファス金属箔2を炭素鋼3に仮固定した針金は、注湯後に球状黒鉛鋳鉄4の熱により溶解して消滅した。
被鋳包み材と鋳包み材の接合状態を確認するために接合部付近の断面の金属組織を観察した。図1に実施例の被鋳包み材と鋳包み材との接合部とその近傍の金属組織の光学顕微鏡写真を示す。図1において中央より右側がフェライト及びパーライトからなる被鋳包み材の炭素鋼3、中央より左側がフェライト、パーライト及び黒鉛からなる鋳包み材の球状黒鉛鋳鉄4である。なお、接合層20と隣接する球状黒鉛鋳鉄4の金属組織はパーライトからなりチル(白銑組織)は観察されなかった。
図1の炭素鋼3と球状黒鉛鋳鉄4との間、即ち中央の白色の帯状部分がアモルファス金属箔2が溶融、凝固し、アモルファス金属箔2の構成元素を含んだ接合層20である。また、炭素鋼3及び球状黒鉛鋳鉄4の端面付近、即ち接合層20との界面近傍には、後述するように、接合層20と隣接してアモルファス金属箔2の構成元素が拡散した白色の拡散領域23、24が存在している。
図1からわかるように、本実施例の鋳包み部材1は、接合層20及び拡散領域23、24からなる接合部21で接合され、炭素鋼3、球状黒鉛鋳鉄4及び接合層20は、それぞれが接する界面に隙間がなく、連続的な組織を形成している。観察した断面において、接合層20は、炭素鋼3と球状黒鉛鋳鉄4との界面の全域に亘って厚さは約8〜20μmで均一かつ連続的に形成されていた。注湯前のアモルファス金属箔2の厚さ約40μmに対して、接合層20の厚さは約8〜20μmなので、アモルファス金属箔2の約50〜80%は液相となった後、消滅したものと考えられる。これは言い換えれば、アモルファス金属箔2が消滅するほど構成元素の原子レベルの相互拡散が促進されて、接合材と鋳包み材及び被鋳包み材との強固な接合が実現できたと言える。金属組織の観察結果から、炭素鋼3と球状黒鉛鋳鉄4とが接合層20を介して融着して隙間なく良好に接合していることが確認できた。
さらに接合が確実に行われていることを確認するため、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM:株式会社日立ハイテクノロジーズ製、商品名;SU−70)及びそれに装着したエネルギー分散型X線分析装置(EDS:アメテック株式会社製、EDAX Genesis)を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)により、接合層20付近であって接合層20と略直交する断面の組成分析及び拡散領域の厚さ測定を行った。組成分析の範囲は、図1で黒色の横線Lで示すように、接合層20をほぼ中央として、長さ150μmの領域について元素のX線カウントを測定した。図2に実施例の被鋳包み材と鋳包み材との接合部とその近傍のFE−SEM EDSによる組成分析結果を示す。図2は、所定位置における元素の分布状況を示す線図で、横軸は図1の横線Lの左端(球状黒鉛鋳鉄4)を起点として右端(炭素鋼3)までの距離を、縦軸はFe、Ni、Siについて、各元素のX線カウントを示している。また図2の上部欄外の符号により、接合層20、アモルファス金属箔2の構成元素であるNi、Siの拡散領域23、24、炭素鋼3及び球状黒鉛鋳鉄4の位置を示す。
図2によれば、アモルファス金属箔2の構成元素であるNi、Siは、炭素鋼3にはNi及びSiが拡散し、球状黒鉛鋳鉄4にはNiが拡散していることがわかる。一方、接合層20には、炭素鋼3及び球状黒鉛鋳鉄4の構成元素であるFeが拡散していることがわかる。より具体的には、炭素鋼3には、接合層20に隣接してその界面から炭素鋼3の内側に向かってNi及びSiの拡散領域23が存在し、球状黒鉛鋳鉄4には、接合層20に隣接してその界面から球状黒鉛鋳鉄4の内側に向かってNiの拡散領域24が存在する。
図1の横線Lで示す視野を含む3視野について、前述した算出方法により、長さ方向の移動平均幅を1μmとしてNiのX線カウント数の移動平均値から拡散領域の平均長さを求めた。その結果、被鋳包み材である炭素鋼3に形成された拡散領域23に対応するNiの拡散領域の平均長さは5μmであり、鋳包み材である球状黒鉛鋳鉄4に形成された拡散領域24に対応するNiの拡散領域の平均長さは18μmであった。
この組成分析結果から、アモルファス金属箔2と炭素鋼3及びアモルファス金属箔2と球状黒鉛鋳鉄4の間でそれぞれの材料の構成元素が相互拡散して、しかも接合部21の全体に亘って連続的に拡散していることが確認でき、これにより接合層20を介しての炭素鋼3と球状黒鉛鋳鉄4の液相拡散接合が確実に行われていることが確認できた。
鋳包み部材1の接合強度を評価するため、図3の破線Pで示す部位から、直径8mm、長さ約110mmの丸棒試験片を切り出し、これを電気式材料試験機(INSTRON社製、商品名;5500R)に取り付け、引張強さ(MPa)を測定した。引張試験の結果、本実施例の鋳包み部材1の引張強さは470MPaであって、鋳包み材の球状黒鉛鋳鉄4の有する引張強さと同等であった。また破断箇所は、接合部21内ではなく球状黒鉛鋳鉄4の内部であった。
なお、比較例として被鋳包み材の表面にアモルファス金属箔を配置しない、即ち接合材を用いない以外は、上記実施例と同様な構成と条件で、被鋳包み材を鋳包み材で鋳包んだ。比較例の接合強度を評価するため、丸棒試験片を切り出そうと切断加工したところ、被鋳包み材と鋳包み材とが両者の境界で容易に剥離した。比較例での鋳包み部材の接合強度はほぼ零であった。この結果から、本実施例の鋳包み部材1は、炭素鋼3と球状黒鉛鋳鉄4との鋳包みによる接合が良好に行われ接合強度が確保されていることが確認された。
本発明の鋳包み部材は、高温での優れた変形性、流動性、濡れ性、浸透性、拡散性などの特性を有するアモルファス金属を接合材に用いることで、被鋳包み材と鋳包み材とが液相拡散接合した良好な金属接合を実現できる。このため従来の一般的なろう材や自溶性合金などの結晶質金属からなる接合材を用いた鋳包み部材よりも高い接合強度を確保できるのみならず、熱伝達性なども含めた接合部に必要な品質の向上に寄与する。従って、本発明の鋳包み部材によれば、接合部の品質向上により、従来の結晶質金属の接合材を用いた鋳包み部材に替えて或いは従来は実現困難であった鋳包みによる接合など、適用範囲が拡大することが期待されるので、産業上の利用可能性は高い。
本発明の適用が想定される鋳包み部材の被鋳包み材と鋳包み材との組み合わせとしては、例えば、以下の用途が例示される。
(1)内燃機関部材における、カムシャフトのカム又は軸部(中空パイプを含む)とシャフト本体、ロッカーアームのチップとアーム本体、シリンダブロックのシリンダライナ又はクランクシャフト支持部又は給油パイプとブロック本体、シリンダヘッドのバルブシート又はバルブガイド又はプラグチューブ又はポートライナとヘッド本体、排気マニホルドのフランジ又はボス類とマニホルド本体、ターボチャージャ用ロータのロータ軸とインペラ、可変容量型ターボチャージャ用タービンハウジングのノズルリングとハウジング本体、ピストンのピストンリング溝(トレーガ)又は冠部(クラウン)とピストン本体、コネクティングロッドの軸芯とロッド本体、クランクシャフトの軸部(中空パイプを含む)又はバランサーウェイト部埋設材とクランクシャフト本体。
(2)車両等の車体部材、駆動系部材、懸架系部材、車軸系部材における、車体フレーム(センターピラー、サイドレール)のフレーム端部と接続・締結部、サスペンションメンバのクロスメンバとサイドメンバ、シフトフォークの爪部とフォーク本体、プロペラシャフトのシャフトとヨーク、ディファレンシャルのリングギアとデフケース、アクスルハウジングのアクスルチューブとハウジング本体、ステアリングナックルのスピンドル又はベアリング装着部又はベアリングアウタレースとナックル本体、リテーナのベアリング装着部又はベアリングアウタレースとリテーナ本体、ホイールハブのベアリング装着部又はベアリングアウタレースとハブ本体、ロードホイールのリム部とディスク部。
(3)ブレーキ部材における、ディスクブレーキロータのハブ取付部とディスク部、ディスクブレーキロータのパッドとの摺動部とロータ本体、ブレーキドラムのブレーキシューとの摺動部とドラム本体、キャリパボディのブリッジ部埋設材とボディ本体。
(4)水冷金型、油圧機器などの産業機械・機器における、水・油冷却又は給油の管路形成のための中空パイプと機械・機器本体。
(5)歯車における、歯部と軸部。
(6)冷凍、空調、給湯用機器における、スクロール圧縮機のスクロールラップとスクロール本体。
(7)複合圧延ロールにおける、内層と外層。
なお、本発明の鋳包み部材は、上記例示に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の鋳包みによる接合に適用可能であることは言うまでもない。要するに、アモルファス金属を接合材に用いて鋳包みにより接合可能であれば多くの産業分野の部材に適用できる。
また本発明の鋳包み部材の製造方法は、特殊な設備や工程が不要で、市販のアモルファス金属を利用して、通常の鋳造工程を経るだけで、鋳造と同時に容易かつ安価に接合強度を確保した鋳包み部材を得ることができるので、生産性、経済性に優れ、産業上有益な接合方法である。
1:鋳包み部材
2:アモルファス金属箔(接合材)
3:炭素鋼(被鋳包み材)
4:球状黒鉛鋳鉄(鋳包み材)
5:鋳型
20:接合層
21:接合部
23、24:拡散領域

Claims (5)

  1. 被鋳包み材が鋳包み材により鋳包まれている鋳包み部材であって、被鋳包み材と鋳包み材との間にFe、Ni、Al、Cu、Mo、Ti、Zr、Hf、Co、Mg、La、Pd、Ag、Au、Ptのうち1種以上の元素を含む接合層が存在し、被鋳包み材及び鋳包み材には、前記接合層に隣接して前記元素が拡散した拡散領域が存在することを特徴とする鋳包み部材。
  2. 前記拡散領域の平均長さが4μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の鋳包み部材。
  3. 鋳包み部材の製造方法であって、被鋳包み材の表面に接合材であるアモルファス金属を配置させた後、前記被鋳包み材を鋳型に設置し、前記鋳型に鋳包み材となる金属溶湯を注湯して、前記被鋳包み材と前記鋳包み材とを前記アモルファス金属が溶融、凝固した接合層を介して接合することを特徴とする鋳包み部材の製造方法。
  4. 前記アモルファス金属が、鋳包み材より融点の低い合金であって、Fe基合金、Ni基合金、Al基合金、Cu基合金、Mo基合金、Ti基合金、Zr基合金、Hf基合金、Co基合金、Mg基合金、La基合金、Pd基合金、Ag基合金、Au基合金、Pt基合金のうちの少なくとも1種の合金であることを特徴とする請求項3に記載の鋳包み部材の製造方法。
  5. 前記被鋳包み材の表面に配置される前記アモルファス金属が、箔、膜、薄片、リボン、シート、ワイヤー、フィルムのうちの少なくとも1つの形態で配置することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の鋳包み部材の製造方法。
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