JP2017180580A - 駆動力伝達装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】回転体がいずれの方向に相対回転しても駆動力を伝達でき、スムーズに係合可能であって、且つ、がたつきが発生しにくい駆動力伝達装置を提供する。【解決手段】クラッチ機構2のカム機構28は、第1ヘッドボール23を径方向外方に移動させて第1ストラット22を回動させて、第1ストラット22の一端部22bと入力ギヤ20の第1係合部20a1とを係合させた後に、第2ヘッドボール26を径方向外方に移動させて第2ストラット25を回動させて、第2ストラット25の一端部25bと入力ギヤ20の第2係合部20a2とを係合させる。【選択図】図3
Description
本発明は、入力部材の回転を出力部材に伝達する伝達状態と伝達しない非伝達状態を切換自在な駆動力伝達装置に関する。
従来、駆動源からの駆動力が伝達され回転する筒状の入力軸から、その入力軸に挿入された筒状の出力軸に対し、ストラットとそのストラットを押圧するボールとで構成されたクラッチ機構を介して、回転を伝達する駆動力伝達装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載のクラッチ機構は、出力軸の周面に形成された開口部に配置された回動可能なストラットと、そのストラットを径方向内側から押圧自在なヘッドボールとで構成されている。このクラッチでは、ストラットがヘッドボールで押圧された際に、ストラットの一部が出力軸の外周面から突出して入力軸の内周面に形成された係合部に係合する。これにより、入力軸の回転が出力軸に伝達される。
このように構成されたクラッチ機構は、ヘッドボールでストラットが押圧されているときには、入力軸が出力軸に対して一方側に回転した場合にのみ入力軸から出力軸に回転を伝達するクラッチ(いわゆる、ワンウェイクラッチ)となっている。
そのため、このクラッチ機構を備えた駆動力伝達装置では、入力軸が出力軸に対して一方側に相対回転した場合には、入力軸は出力軸と一体的に回転し、他方側に相対回転した場合には、入力軸は出力軸に対して空転する。
ところで、特許文献1に記載のような従来のクラッチ機構において、入力軸が出力軸に対して他方側に相対回転した場合にも入力軸と出力軸とを一体的に回転可能とするためには、クラッチ機構に、既存のストラットとは異なる向きで入力軸と係合可能な新たなストラットと、その新たなストラットを押圧するためのヘッドボールとを設ければよい。
そのようにしていずれの方向にも回転を伝達する伝達状態といずれの方向にも回転を伝達しない非伝達状態とを切換可能に構成した場合、伝達状態とする際には、向きの異なる2つのストラットの間に入力軸の係合部を嵌め込むようにして係合する必要がある。そして、スムーズに係合させるためには、係合の際にストラットの係合部と入力軸の係合部との間に、十分なクリアランスが形成されるように構成する必要がある。
しかし、十分なクリアランスを確保するためにストラットと係合部との間隔を大きくすると、係合が完了した後の伝達状態においても、ストラットと係合部との間に大きな間隔が存在してしまい、騒音や振動の原因となるがたつきが発生してしまうおそれがあった。
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、一方の回転体が他方の回転体に対していずれの方向に回転しても駆動力を伝達でき、スムーズに係合可能であって、且つ、がたつきが発生しにくい駆動力伝達装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の駆動力伝達装置(2)は、筒状の第1回転体(20)と、前記第1回転体(20)に挿入され、前記第1回転体(20)に対して相対回転可能であり、周面に第1開口部(21a)及び第2開口部(21b)を有する筒状の第2回転体(21)と、前記第1開口部(21a)に配置され、前記第2回転体(21)の軸線方向に延びる軸線を軸として前記第2回転体(21)に回動可能に固定された第1ストラット(22)と、前記第1ストラット(22)の径方向内側に配置され、径方向に移動自在であり、径方向外方に移動した際に該第1ストラット(22)の一端部(22b)を押圧して該第1ストラット(22)を回動させて該一端部(22b)を径方向外方に移動させる第1押圧部材(23)と、前記第2開口部(21b)に配置され、前記第2回転体(21)の軸線方向に延びる軸線を軸として前記第2回転体(21)に回動可能に固定された第2ストラット(25)と、前記第2ストラット(25)の径方向内側に配置され、径方向に移動自在であり、径方向外方に移動した際に該第2ストラット(25)の一端部(25b)を押圧して該第2ストラット(25)を回動させて該一端部(25b)を径方向外方に移動させる第2押圧部材(26)と、前記第1押圧部材(23)及び前記第2押圧部材(26)を径方向に移動させるカム機構(28)とを備え、前記第1回転体(20)は、前記第1回転体(20)の内周面に形成され、前記第1ストラット(22)の一端部(22b)が径方向外方に移動した際に該一端部(22b)と係合して前記第1回転体(20)と前記第2回転体(21)とを一方側に一体的に回転させる第1係合部(20a1)と、前記第1回転体(20)の内周面に形成され、前記第2ストラット(25)の一端部(25b)が径方向外方に移動した際に該一端部(25b)と係合して前記第1回転体(20)と前記第2回転体(21)とを他方側に一体的に回転させる第2係合部(20a2)とを有し、前記カム機構(28)は、前記第1ストラット(22)の一端部(22a2)と前記第1係合部(20a1)とを係合させ、且つ、前記第2ストラット(25)の一端部(25b)と前記第2係合部(20a2)とを係合させた伝達状態にする際に、前記第1押圧部材(23)を径方向外方に移動させた後に、前記第2押圧部材(26)を径方向外方に移動させることを特徴とする。
このように、本発明の駆動力伝達装置では、第1回転体に形成された第1係合部と第2回転体に配置された第1ストラットの一端部とを係合させることによって、第1回転体と第2回転体とを、一体的に一方側に回転可能としている。一方で、第1回転体に形成された第2係合部と第2回転体に配置された第2ストラットの一端部とを係合させることによって、第1回転体と第2回転体とを、一体的に他方側に回転可能としている。
また、第1ストラットを回動させる第1押圧部材及び第2ストラットを回動させる第2押圧部材は、カム機構によって径方向に移動させられる。そのようにして移動させられた押圧部材によって、第1ストラット及び第2ストラットは押圧して回動させられ、第1係合部及び第2係合部に係合する。これにより、駆動力伝達装置は伝達状態となる。
そして、カム機構は、非伝達状態から伝達状態に切り換えるに際し、第1押圧部材を径方向外方に移動させた後(すなわち、第1ストラットを第1係合部に係合させた後)に、第2押圧部材を径方向外方に移動させる(すなわち、第1ストラットと向きの異なる第2ストラットを第2係合部に係合させる)。
これにより、第1ストラットによって係合部の位置が定められた後に、第2ストラットが係合することになる。そのため、2種類のストラットを同時に係合させる構成に比べ、係合の際に必要なストラットと係合部との間のクリアランスを小さくすることができる。その結果、クリアランスを大きくすることなく、スムーズな係合が可能となる。
したがって、本発明の駆動力伝達装置によれば、一方の回転体が他方の回転体に対していずれの方向に回転しても駆動力を伝達でき、スムーズに係合して伝達状態に切り換わることができ、また、伝達状態においては騒音や振動の原因となるがたつきの発生を抑制することができる。
また、本発明の駆動力伝達装置としては、前記カム機構(28)は、前記第2回転体(21)の内部に前記第2回転体(21)と同軸に配置され、前記第2回転体(21)に対して軸線方向に移動自在なカムロッド(28a)と、前記カムロッド(28a)を移動させるアクチュエータ(ACT)と、前記カムロッド(28a)が挿通され、前記カムロッド(28a)に対し軸線方向に相対移動可能な筒状のカムリング(28b)と、前記カムロッド(28a)に固定され、前記カムロッド(28a)に対する前記カムリング(28b)の相対位置が所定の位置となるように前記カムリング(28b)を軸線方向に付勢する付勢部材(28d)とを有し、前記カムリング(28b)の外周面には、前記カムリング(28b)が前記伝達状態に対応する位置に移動した際に前記第1押圧部材(23)及び前記第2押圧部材(26)を径方向外方に移動させるカム面(28b1,28b2)が形成されているように構成してもよい。
以下、図面を参照して、本実施形態に係る駆動力伝達装置について説明する。本実施形態は二輪駆動状態と四輪駆動状態とを切換自在な車両に、本発明の駆動力伝達装置をクラッチ機構として用いた実施形態である。しかし、本発明の駆動力伝達装置は、車両のクラッチ機構にのみ搭載されるものではなく、船舶等、他の乗り物や無人機等の駆動力伝達装置の他、種々の機構としても使用し得るものである。
まず、図1を参照して、車両Vの概略構成について説明する。
図1に示すように、車両Vは、ケース1と、駆動源(不図示)からの駆動力が伝達されるデファレンシャルギヤDGと、デファレンシャルギヤDGから伝達された駆動力によって、車両Vの前輪を駆動する駆動軸DSと、デファレンシャルギヤDGからの駆動力が伝達されるクラッチ機構2(駆動力伝達機構)と、クラッチ機構2から伝達された駆動力を後輪の駆動軸(不図示)に伝達するためのプロペラシャフトPSとを備えている。
デファレンシャルギヤDGは、複数の第1ベアリングBR1によって、ケース1に回転可能に軸支されている。また、クラッチ機構2は、複数の第2ベアリングBR2によって、ケース1に回転可能に軸支されている。また、プロペラシャフトPSは、複数の第3ベアリングBR3によって、ケース1に回転可能に軸支されている。
デファレンシャルギヤDGの外周面には、駆動源の駆動力が伝達される第1リングギヤDG1と、デファレンシャルギヤDGからの駆動力をクラッチ機構2に伝達するための第2リングギヤDG2とが設けられている。
次に、図2〜図4を参照して、クラッチ機構2について詳細に説明する。なお、図3において、デファレンシャルギヤDGの第2リングギヤDG2と噛合する入力ギヤ20の歯部の図示は省略している。
図2に示すように、クラッチ機構2は、リング状の入力ギヤ20(第1回転体)と、入力ギヤ20に挿入されており、入力ギヤ20に対して相対回転可能な筒状の出力軸21(第2回転体)とを備えている。
入力ギヤ20は、デファレンシャルギヤDGの第2リングギヤDG2と噛合している。そのため、入力ギヤ20には、第2リングギヤDG2を介して、駆動源からの駆動力が伝達される。
図3に示すように、出力軸21の周面には、内部まで連通する第1開口部21a及び第2開口部21bが、周方向に交互に並ぶようにして2つずつ形成されている。
第1開口部21aには、板状の第1ストラット22が配置されている。第1ストラット22の径方向内側には、径方向に移動自在な第1ヘッドボール23(第1押圧部材)及び第1テールボール24が配置されている。
図4に示すように、第1ストラット22は、出力軸21の軸線と平行な軸線方向に延在する一対の第1軸部22aと、軸線の一方側に位置する第1一端部22bと、軸線の他方側に位置する第1他端部22cとを有している。
第1一端部22bの端面は、後述する入力ギヤ20の第1係合部20a1と係合する係合端面22b1となっている。
なお、第1一端部22bの第1ヘッドボール23が当接する部分(具体的には、図4における左側の二点鎖線で示した円に対応する部分。)に、第1ヘッドボール23に対応するような窪みを設けてもよい。また、第1他端部22cの第1テールボール24が当接する部分(具体的には、図4における右側の二点鎖線で示した円に対応する部分。)に、第1テールボール24に対応するような窪みを設けてもよい。
そのような窪みを設ければ、第1ヘッドボール23や第1テールボール24が第1ストラット22に当接した際に、第1ストラット22に対して第1ヘッドボール23や第1テールボール24が滑ることが防止されるので、押圧力が無駄なく第1ストラット22に伝達されるようになる。
第1ストラット22は、第1軸部22aを軸として出力軸21に回動可能に固定されている。具体的には、図3に示すように、第1ヘッドボール23が径方向外方に向かって移動する際(図3Aの状態から図3Bの状態に変化する際)には、第1一端部22bが第1ヘッドボール23に押圧されて、第1ストラット22が一方側(図3では時計回り)に回動する。これにより、第1一端部22bが出力軸21の外周面から径方向外方に突出した状態になる。
一方、第1テールボール24が径方向外方に向かって移動する際(図3Bの状態から図3Aの状態に変化する際)には、第1他端部22cが第1テールボール24に押圧されて、第1ストラット22が他方側(図3では反時計回り)に回動する。これにより、第1一端部22b及び第1他端部22cが、出力軸21の第1開口部21aに収納された状態になる。
また、第2開口部21bには、板状の第2ストラット25が配置されている。第2ストラット25の径方向内側には、径方向に移動自在な第2ヘッドボール26(第2押圧部材)及び第2テールボール27が配置されている。
第2ストラット25は、第1ストラット22と同様の形状であり、出力軸21の軸線と平行な軸線方向に延在する一対の第2軸部25aと、軸線の一方側に位置する第2一端部25bと、軸線の他方側に位置する第2他端部25cとを有している。
第2ストラット25は、第2軸部25aを軸として出力軸21に回動可能に固定されている。具体的には、第2ヘッドボール26が径方向外方に向かって移動する際(図3Aの状態から図3Bの状態に変化する際)には、第2一端部25bが第2ヘッドボール26に押圧されて、第2ストラット25が他方側(図3では反時計回り)に回動する。これにより、第2一端部25bが出力軸21の外周面から径方向外方に突出した状態になる。
一方、第2テールボール27が径方向外方に向かって移動する際(図3Bの状態から図3Aの状態に変化する際)には、第2他端部25cが第2テールボール27に押圧されて、第2ストラット25が他方側(図3では時計回り)に回動する。これにより、第2一端部25b及び第2他端部25cが、出力軸21の第2開口部21bに収納された状態になる。
なお、クラッチ機構2では、押圧部材である第1ヘッドボール23及び第2ヘッドボール26として、球形の部材を用いている。これは、径方向への移動時の摺動抵抗や、第1ストラット22及び第2ストラット25へ当接する際の衝撃を低減するためである。しかし、押圧部材の形状は他の形状であってもよい。例えば、径方向に延びる柱状であってもよい。ただし、そのような柱状とする場合には、端部を球面とすることが好ましい。
また、クラッチ機構2では、出力軸21の第1開口部21a及び第2開口部21bと、それらに配置される第1ストラット22及び第2ストラット25と、それらを押圧するための第1ヘッドボール23、第1テールボール24、第2ヘッドボール26及び第2テールボール27を周方向に一列に並ぶように配置している。しかし、これらは後述する入力ギヤ20の第1係合部20a1及び第2係合部20a2に対応するように配置されていればよく、必ずしも周方向一列に並ぶように配置する必要はない。
第1ストラット22を回動させる第1ヘッドボール23及び第1テールボール24、並びに、第2ストラット25を回動させる第2ヘッドボール26及び第2テールボール27は、カム機構28によって、径方向に移動させられる。
図2に示すように、カム機構28は、出力軸21の内部に配置され、出力軸21と同軸に配置されたカムロッド28aと、ケース1に固定され、カムロッド28aの一端部に接続されているアクチュエータACTと、出力軸21の内部に配置され、カムロッド28aが挿通されている筒状のカムリング28bと、カムロッド28aの他端部の外周面に固定されているサークリップ28cと、カムリング28bとサークリップ28cとの間に配置されているコイルバネ28d(付勢部材)とを有している。
カムロッド28aは、一端部に接続されているアクチュエータACTからの駆動力によって、出力軸21に対して軸線方向に移動自在となっている。カムロッド28aの他端部は、他の部分よりも細く形成されており、その段差部分は、係止部28a1となっている。
カムリング28bは、カムロッド28aに対して軸線方向に相対移動可能となっている。カムリング28bは、出力軸21の第1開口部21a及び第2開口部21bの径方向内側に位置している。そのため、カムリング28bの外周面には、第1ヘッドボール23、第1テールボール24、第2ヘッドボール26及び第2テールボール27が当接している。
カムリング28bの外周面の第1ヘッドボール23及び第2ヘッドボール26と当接する部分には、第1カム面28b1が形成されている。一方、カムリング28bの外周面の第1テールボール24及び第2テールボール27と当接する部分には、第2カム面28b2が形成されている(図5参照)。
この第1カム面28b1及び第2カム面28b2によって、カムリング28bがカムロッド28aの移動に伴って出力軸21に対して軸線方向に相対移動した際には、第1ヘッドボール23、第1テールボール24、第2ヘッドボール26及び第2テールボール27は、径方向に移動する。
コイルバネ28dは、カムロッド28aに対するカムリング28bの相対位置が所定の位置(具体的には、カムロッド28aの係止部28a1によって係止される位置)となるように、カムリング28bを軸線方向一方側に付勢している。
なお、カム機構28では、カムリング28bを付勢する付勢部材としてコイルバネ28dを用いている。しかし、付勢部材は、コイルバネに限定されるものではない。例えば、皿バネやウェーブスプリングの他、ゴム等を用いてもよい。
ところで、図3に示すように、出力軸21が挿通されている入力ギヤ20の内周面には、出力軸21の第1開口部21a及び第2開口部21bに対応する数だけ、凹部20aが形成されている。
凹部20aの一方側の縁部は、第1係合部20a1となっている。第1係合部20a1には、第1ストラット22の第1一端部22bが出力軸21の外周面から突出した際(すなわち、図3Bの状態)に、第1ストラット22の第1一端部22bと係合する。このようにして係合することによって、入力ギヤ20の正転方向の回転が出力軸21にも伝達されるようになる。
一方、凹部20aの他方側の縁部は、第2係合部20a2となっている。第2係合部20a2には、第2ストラット25の第2一端部25bが出力軸21の外周面から突出した際(すなわち、図3Bの状態)に、第2ストラット25の第2一端部25bと係合する。このようにして係合することによって、入力ギヤ20の逆転方向の回転が出力軸21にも伝達されるようになる。
次に、図2、図3及び図5を参照して、クラッチ機構2の非伝達状態及び伝達状態について説明する。なお、図2、図3及び図5においては、図2A、図3A及び図5Aが非伝達状態を示し、図2B、図3B及び図5Bが伝達状態を示す。
ここで、非伝達状態とは、入力ギヤ20が出力軸21に対して、逆転方向及び正転方向のいずれの方向に相対回転した場合でも、入力ギヤ20の回転が出力軸21に伝達されない状態をいい、伝達状態とは、入力ギヤ20が出力軸21に対していずれの方向に相対回転した場合でも、入力ギヤ20の回転が出力軸21に伝達される状態をいう。
非伝達状態においては、図2Aに示すように、第1ヘッドボール23は、カム機構28のカムリング28bの第1カム面28b1に押圧されていないので、径方向に移動自在の状態となっている。一方、図5Aに示すように、第1テールボール24は、カム機構28のカムリング28bの第2カム面28b2に押圧されて、径方向外側の位置で固定されている。
そのため、図3Aに示すように、第1ストラット22は、第1テールボール24から加わる押圧力によって、第1一端部22bが出力軸21の外周面から突出しない状態で保持される。また、第1ヘッドボール23も、第1ストラット22を介して第1テールボール24から押圧力が加わり、径方向内側の位置に固定される。
同様に、第2ヘッドボール26は、カム機構28のカムリング28bの第1カム面28b1に押圧されていないので、径方向に移動自在の状態となっている。一方、第2テールボール27は、カム機構28のカムリング28bの第2カム面28b2に押圧されて、径方向外側の位置で固定されている。
そのため、第2ストラット25は、第2テールボール27から加わる押圧力によって、第2一端部25bが出力軸21の外周面から突出しない状態で保持される。また、第2ヘッドボール26も、第2ストラット25を介して第2テールボール27から押圧力が加わり、径方向内側の位置に固定される。
このように、第1ストラット22の第1一端部22b及び第2ストラット25の第2一端部25bが出力軸21の外周面から突出していない非伝達状態においては、入力ギヤ20と出力軸21とが係合しない。
そのため、入力ギヤ20の回転が出力軸21に伝わることはなく、入力ギヤ20と出力軸21とは相対回転自在となる。このとき、車両Vの後輪の駆動軸には駆動力が伝達されないので、車両Vは二輪駆動状態となる。
一方、伝達状態においては、図2Bに示すように、第1ヘッドボール23は、カム機構28のカムリング28bの第1カム面28b1に押圧されて、径方向外側の位置で固定されている。一方、図5Bに示すように、第1テールボール24は、カム機構28のカムリング28bの第2カム面28b2に押圧されていないので、径方向に移動自在の状態となっている。
そのため、図3Bに示すように、第1ストラット22は、第1ヘッドボール23から加わる押圧力によって、第1一端部22bが出力軸21の外周面から突出した状態となる。その結果、第1一端部22bは、入力ギヤ20の内周面に設けられた第1係合部20a1と係合する。
同様に、第2ヘッドボール26は、カム機構28のカムリング28bの第1カム面28b1に押圧されて、径方向外側の位置で固定されている。一方、第2テールボール27は、カム機構28のカムリング28bの第2カム面28b2に押圧されていないので、径方向に移動自在の状態となっている。
そのため、第2ストラット25は、第2ヘッドボール26から加わる押圧力によって、第2一端部25bが出力軸21の外周面から突出した状態となる。第2一端部25bは、入力ギヤ20の内周面に設けられた第2係合部20a2と係合する。
このように、第1ストラット22の第1一端部22b及び第2ストラット25の第2一端部25bが出力軸21の外周面から突出している伝達状態においては、入力ギヤ20と出力軸21とが係合する。すなわち、入力ギヤ20の正転側の回転は、第1一端部22bと第1係合部20a1との係合を介して、出力軸21に伝達される。一方、入力ギヤ20の逆転側の回転は、第2一端部25bと第2係合部20a2との係合を介して、出力軸21に伝達される。
そのため、入力ギヤ20の回転が出力軸21に伝わり、入力ギヤ20と出力軸21とは一体的に回転する。すなわち、入力ギヤ20の回転が出力軸21に伝達されるので、車両Vの後輪の駆動軸にも駆動力が伝達され、車両Vは四輪駆動状態となる。また、出力軸21の回転が入力ギヤ20の回転によって制限されるので、車両Vでエンジンブレーキが効くようになる。
次に、図3及び図6を参照して、非伝達状態から伝達状態に切り換える際における第1ヘッドボール23、第1テールボール24、第2ヘッドボール26及び第2テールボール27の動作について説明する。
クラッチ機構2では、非伝達状態から伝達状態に切り換える際に、第1ヘッドボール23、第1テールボール24、第2ヘッドボール26及び第2テールボール27を、それぞれを異なるタイミングで径方向に移動させている。すなわち、第1カム面28b1の形状及び第2カム面28b2の形状は、周方向において、第1ヘッドボール23、第1テールボール24、第2ヘッドボール26及び第2テールボール27に対応して軸線方向にずれた形状となっている。
具体的には、図3に示すように、まず、第1テールボール24が、第2カム面28b2による押圧が解除されることによって、径方向外方にある外側位置から径方向内方にある内側位置に移動可能となる(図6の時刻t1)。これにより、正転方向の回転を伝達するための第1ストラット22が回動可能となる。
次に、第1ヘッドボール23が、第1カム面28b1に押圧されることによって、内側位置から外側位置に移動を開始する(図6の時刻t2)。
また、第1ヘッドボール23が移動を開始するのと同時に、第2テールボール27が、第2カム面28b2による押圧が解除されることによって、外側位置から内側位置に移動可能となる(図6の時刻t2)。これにより、逆転方向の回転を伝達するための第2ストラット25が回動可能となる。
次に、第2ヘッドボール26が、第1カム面28b1に押圧されることによって、内側位置から外位置側に移動を開始する(図6の時刻t3)。
次に、第1テールボール24が、第1ストラット22の第1他端部22cに押圧されて、内側位置への移動を完了する(図6の時刻t4)。
次に、第1ヘッドボール23が、外側位置への移動を完了する(図6の時刻t5)。これにより、第1ストラット22の第1一端部22bが出力軸21から突出した状態となり、入力ギヤ20の第1係合部20a1と係合した状態となる。
また、第1ヘッドボール23の移動が完了するのと同時に、第2テールボール27が、第2ストラット25の第2他端部25cに押圧されて、内側位置への移動を完了する(図6の時刻t5)。
最後に、第2ヘッドボール26が、外側位置への移動を完了する(図6の時刻t6)。これにより、第2ストラット25の第2一端部25bが出力軸21から突出した状態となり、入力ギヤ20の第2係合部20a2と係合した状態となる。
以上のように、クラッチ機構2のカム機構28は、非伝達状態から伝達状態に切り換えるに際し、正転側の駆動力を伝達するための第1ヘッドボール23を径方向外方の外側位置に移動させた後に、逆転側の駆動力を伝達するための第2ヘッドボール26を径方向外方にある外側位置に移動させる。
すなわち、クラッチ機構2のカム機構28は、非伝達状態から伝達状態に切り換えるに際し、第1ストラット22を入力ギヤ20の第1係合部20a1に係合させた後に、第1ストラット22と向きの異なる第2ストラット25を入力ギヤ20の第2係合部20a2に係合させる。
これにより、第1ストラット22によって第1係合部20a1及び第2係合部20a2の形成されている入力ギヤ20の凹部20aの位置が定められた後に、第2ストラット25が係合することになる。
そのため、2種類のストラットを同時に係合させる構成に比べ、係合の際に必要なストラットと係合部との間のクリアランス(すなわち、第1ストラット22の第1一端部22bと第1係合部20a1との間隔、及び、第2ストラット25の第2一端部25bと第2係合部20a2との間隔)を小さくすることができる。その結果、クリアランスを大きくすることなく、スムーズな係合が可能となる。
したがって、クラッチ機構2によれば、入力ギヤ20が出力軸21に対していずれの方向に回転しても駆動力を伝達でき、スムーズに係合して伝達状態に切り換わることができ、また、伝達状態においては騒音や振動の原因となるがたつきの発生を抑制することができる。
ところで、出力軸21に対して入力ギヤ20が相対回転している状態で非伝達状態から伝達状態に切り換えようとした場合、切り換えのタイミングによっては、第1ストラット22の第1一端部22bや第2ストラット25の第2一端部25bが、入力ギヤ20の凹部20a以外の部分に当接して、第1ストラット22や第2ストラット25に意図しない負荷が加わってしまうおそれがある。
そこで、クラッチ機構2では、コイルバネ28dを用いて、カムリング28bの移動のタイミングを調整することによって、第1ストラット22及び第2ストラット25に意図しない負荷が加わってしまうことを防止している。
以下に、図2、図7及び図8を参照して、コイルバネ28dを用いた機構について説明する。
図2Aに示すように、非伝達状態では、コイルバネ28dは、カムロッド28aに対するカムリング28bの相対位置が所定の位置(具体的には、カムロッド28aの係止部28a1によって係止される位置)となるように、カムリング28bを軸線方向一方側に付勢している。
そのため、非伝達状態から伝達状態に切り換える際(すなわち、アクチュエータACTからの駆動力によってカムロッド28aが一方(図2Aにおいては左方向)に移動した際)に、第1ストラット22及び第2ストラット25が入力ギヤ20の凹部20aに対応する位置に存在している場合には、第1ヘッドボール23及び第2ヘッドボール26は外側位置に移動する。その結果、カムリング28bの移動は、第1ヘッドボール23及び第2ヘッドボール26によって阻害されない。
一方、非伝達状態から伝達状態に切り換える際に、図7に示すように、第1ストラット22及び第2ストラット25が入力ギヤ20の凹部20aに対応する位置に存在していなかった場合には、第1ヘッドボール23及び第2ヘッドボール26は入力ギヤ20の内周面に当接し内側位置で保持される。その結果、カムリング28bの移動は、第1ヘッドボール23及び第2ヘッドボール26によって阻害されることになる。
このとき、図8に示すように、コイルバネ28dは、圧縮状態となっており、カムリング28bを一方(図8においては左側)に付勢した状態となっている。
そのため、出力軸21に対して入力ギヤ20が相対回転し、入力ギヤ20の凹部20aが第1ストラット22及び第2ストラット25に対応する位置に移動した際(すなわち、第1ヘッドボール23及び第2ヘッドボール26が径方向に移動可能となった際(図3参照))に、第1ヘッドボール23及び第2ヘッドボール26は、コイルバネ28dの付勢力によって移動させられたカムリング28bに押圧されて、外側位置に移動することになる。
すなわち、クラッチ機構2は、このようにカムリング28bを付勢するコイルバネ28dを備えているので、非伝達状態から伝達状態に切り換える際に、第1ストラット22及び第2ストラット25が入力ギヤ20の凹部20aに対応する位置に存在していなかった場合には、アクチュエータACTからカムロッド28aに伝達される駆動力は、コイルバネ28dによって一時的に吸収されることになる。
したがって、クラッチ機構2によれば、切り換えのタイミングによらず、第1ストラット22や第2ストラット25に意図しない負荷が加わりにくい。
以上、図示の実施形態について説明したが、本発明はこのような形態に限られるものではない。
例えば、上記実施形態では、クラッチ機構2は、第1回転体である入力ギヤ20に、第2回転体である出力軸21を挿入する構成となっている。しかし、本発明の駆動力伝達装置は、そのような構成に限定されるものではなく、第1回転体に対して、第1回転体に挿入されている第2回転体から回転を伝達する構成であってもよい。
また、上記実施形態では、クラッチ機構2は、入力ギヤ20に対して正転側の回転を伝達する(すなわち、二輪駆動状態を四輪駆動状態にするための)第1ストラット22を係合させた後に、逆転側の回転を伝達する(すなわち、四輪駆動状態でエンジンブレーキを効かせるための)第2ストラット25を係合させている。
これは、クラッチ機構2が車両Vに搭載されるものであるので、二輪駆動状態から四輪駆動状態への切り換えが完了するまでの時間(応答性)が、四輪駆動においてエンジンブレーキが効くようになるまでの応答性よりも優先すべきものであるためである。すなわち、優先すべき方向の回転を伝達するストラットを、他のストラットに先立って係合させている。
そのため、車両以外のものに本発明の駆動力伝達装置を搭載する場合には、先に係合させるストラットは、優先すべき回転を伝達するストラットであれば、いずれの方向の回転を伝達するものであってもよい。
また、上記実施形態では、クラッチ機構2は、第1ストラット22及び第2ストラット25を押圧する部材として、押圧部材である第1ヘッドボール23及び第2ヘッドボール26の他に、第1テールボール24及び第2テールボール27を備えている。
これらの第1テールボール24及び第2テールボール27は、カムリング28bの第2カム面28b2と協働して、非係合状態において、第1ストラット22及び第2ストラット25並びに第1ヘッドボール23及び第2ヘッドボール26を、所定の位置に保持するためのものである。
しかし、本発明の駆動力伝達装置は、テールボールを備える構成に限定されるものではなく、テールボールを省略してもよい。なお、テールボールを省略した場合には、ヘッドボールの径方向における位置を制御する機構を設けることが好ましい。例えば、カムリングを磁石で形成するとともに、ヘッドボール及びストラットを磁性体で形成してもよい。
1…ケース、2…クラッチ機構(駆動力伝達装置)、20…入力ギヤ(第1回転体)、20a…凹部、20a1…第1係合部、20a2…第2係合部、21…出力軸(第2回転体)、21a…第1開口部、21b…第2開口部、22…第1ストラット、22a…第1軸部、22b…第1一端部、22b1…係合端面、22c…第1他端部、23…第1ヘッドボール(第1押圧部材)、24…第1テールボール、25…第2ストラット、25a…第2軸部、25b…第2一端部、25c…第2他端部、26…第2ヘッドボール(第2押圧部材)、27…第2テールボール、28…カム機構、28a…カムロッド、28a1…係止部、28b…カムリング、28b1…第1カム面、28b2…第2カム面、28c…サークリップ、28d…コイルバネ(付勢部材)、ACT…アクチュエータ、BR1…第1ベアリング、BR2…第2ベアリング、BR3…第3ベアリング、DG…デファレンシャルギヤ、DG1…第1リングギヤ、DG2…第2リングギヤ、DS…駆動軸、PS…プロペラシャフト、V…車両。
Claims (2)
- 筒状の第1回転体と、
前記第1回転体に挿入され、前記第1回転体に対して相対回転可能であり、周面に第1開口部及び第2開口部を有する筒状の第2回転体と、
前記第1開口部に配置され、前記第2回転体の軸線方向に延びる軸線を軸として前記第2回転体に回動可能に固定された第1ストラットと、
前記第1ストラットの径方向内側に配置され、径方向に移動自在であり、径方向外方に移動した際に該第1ストラットの一端部を押圧して該第1ストラットを回動させて該一端部を径方向外方に移動させる第1押圧部材と、
前記第2開口部に配置され、前記第2回転体の軸線方向に延びる軸線を軸として前記第2回転体に回動可能に固定された第2ストラットと、
前記第2ストラットの径方向内側に配置され、径方向に移動自在であり、径方向外方に移動した際に該第2ストラットの一端部を押圧して該第2ストラットを回動させて該一端部を径方向外方に移動させる第2押圧部材と、
前記第1押圧部材及び前記第2押圧部材を径方向に移動させるカム機構とを備え、
前記第1回転体は、前記第1回転体の内周面に形成され、前記第1ストラットの一端部が径方向外方に移動した際に該一端部と係合して前記第1回転体と前記第2回転体とを一方側に一体的に回転させる第1係合部と、前記第1回転体の内周面に形成され、前記第2ストラットの一端部が径方向外方に移動した際に該一端部と係合して前記第1回転体と前記第2回転体とを他方側に一体的に回転させる第2係合部とを有し、
前記カム機構は、前記第1ストラットの一端部と前記第1係合部とを係合させ、且つ、前記第2ストラットの一端部と前記第2係合部とを係合させた伝達状態にする際に、前記第1押圧部材を径方向外方に移動させた後に、前記第2押圧部材を径方向外方に移動させることを特徴とする駆動力伝達装置。 - 請求項1に記載の駆動力伝達装置であって、
前記カム機構は、前記第2回転体の内部に前記第2回転体と同軸に配置され、前記第2回転体に対して軸線方向に移動自在なカムロッドと、前記カムロッドを移動させるアクチュエータと、前記カムロッドが挿通され、前記カムロッドに対し軸線方向に相対移動可能な筒状のカムリングと、前記カムロッドに固定され、前記カムロッドに対する前記カムリングの相対位置が所定の位置となるように前記カムリングを軸線方向に付勢する付勢部材とを有し、
前記カムリングの外周面には、前記カムリングが前記伝達状態に対応する位置に移動した際に前記第1押圧部材及び前記第2押圧部材を径方向外方に移動させるカム面が形成されていることを特徴とする駆動力伝達装置。
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