以下、図示した実施例に基づいて本発明の金属キャスク溶接構造物の仮付溶接施工方法及び伝熱フィン付き金属キャスクについて説明する。なお、各実施例において、同一構成部品には同符号を使用する。
図1に、本実施例に係わる金属キャスク溶接構造物の構造を、図2に、図1中のA部を拡大した溶接構造をそれそれ示す。
該図において、内筒1は、その内部に放射性物質を有する複数の使用済燃料(図示せず)の集合体等を収納する容器であり、強度の高い炭素鋼等の鋼製の鋼材が用いられている。この内筒1の外側には、内筒1と同種材の鋼製の外筒2が内筒1を取り囲むように同軸状に配置されている(金属キャスク全体の強度及び剛性は、強度の高い鋼製の厚板の内筒1と外筒2及びこれらで形成する容器を密閉する複数の蓋(図示せず)等によって十分に確保されている)。内筒1の外面と外筒2の内面の間には、円周方向に略等間隔に、数十枚(所定枚数をN枚という)の伝熱フィン3が傾斜して配備されている。
これらN枚の伝熱フィン3は、熱伝導率の高い純銅等の銅製の銅板材が用いられており、銅製の伝熱フィン3を用いることで、使用済燃料集合体から発生する崩壊熱を内筒1及び外筒2の外側へ逃がすための除熱性能を高めることができると共に、軽量化及びコスト低減にも寄与することができる。
図2に示すように、N枚の伝熱フィン3の片方の各端面部には、内筒1側の各隅肉継手部5で溶接された内側溶接部(溶接ビード及びその溶接断面部)7が形成されており、また、他方の各端面部には、外筒2側の各隅肉継手部8で溶接された外側溶接部(溶接ビード及びその溶接断面部)10が形成されている。この伝熱フィン3の内側溶接部7及び外側溶接部10については、特に強度は要求されないが、収納し保管する物質の性質上、高い信頼性を確保する必要がある。
溶接すべきN枚の伝熱フィン3の各隅肉継手部5及び8の内筒1と伝熱フィン3、外筒2と伝熱フィン3とのそれぞれの角度θ1は、内筒1の外面又は外筒2の内面若しくは内筒1及び外筒2の両面に対して、θ1=120度±15度(105≦θ1≦135度)の範囲の広角に傾斜して形成されている。
また、N枚の伝熱フィン3が隣接する各空間4は、樹脂材等のレジン(図示せず)を充填配備する場所である。これらのレジンは、使用済燃料の集合体から法線状に放出される放射線を遮蔽する物質であり、溶接終了後に、N枚の伝熱フィン3の傾斜面に沿って、レジンが各空間4の内部にそれぞれ充填されるものである。伝熱フィン3を広角に傾斜して配備することで、溶接時の作業性が容易になると共に、伝熱フィン3の傾斜面に沿って充填されるレジンの傾斜配備によって、放射線の遮蔽性能を高めることができる。
本実施例における伝熱フィン3の両端面部を内筒1及び外筒2の両面に溶接する方法について、以下に説明する。
図3は、本実施例に係わる金属キャスク溶接構造物の仮付溶接を含む溶接施工方法の手順の概要を示すフローチャートであり、図4は、金属キャスク溶接構造物の仮付溶接を含む溶接施工方法の他の手順の概要を示すフローチャートである。
図3及び図4に示したフローチャートの主な相違点は、各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103及び各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の溶接工程110の施工内容を、内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105及び外筒2側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程112と、内筒1側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程106及び外筒2側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程113とに区分けしたことである。
例えば、図3に示すように、伝熱フィン3の溶接手順(その1)99では、溶接前にワイヤ溶着断面積Awを決定するワイヤ溶着断面積決定工程102と、所定枚数(N枚)の伝熱フィン3の片方端面部を内筒1側に各々突合せて隅肉継手部5をN箇所形成、又はN箇所形成すると共に仮付(例えば、仮付溶接)して仮組した後に、そのN箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nに繰り返し溶接する各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103及び内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105と、その後に行う内筒1側の検査工程107の終了後で、N枚の伝熱フィン3の他方の端面部を外筒2側に各々突合せて隅肉継手部8をN箇所形成、又はN箇所形成すると共に仮付溶接して仮組した後に、そのN箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに繰り返し溶接する各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110及びN箇所の溶接の繰り返し溶接工程112と、を備えている。
そして、隅肉継手部8をN箇所形成すると共に仮付溶接して仮組した後に、そのN箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに1パスずつ繰り返し溶接(連続溶接)することで、各隅肉継手部の仮組作業と溶接作業とをそれぞれ効率良く行うことができる。
一方、図4に示すように、伝熱フィン3の溶接手順(その2)100においては、溶接前にワイヤ溶着断面積Awを決定するワイヤ溶着断面積決定工程102の後に行う各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103では、内筒1側のN箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nに1パスずつ繰り返し溶接(連続溶接)する内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105と、1〜5箇所程度に分割した隅肉継手部に溶接すると共に、その溶接後の溶接部を検査するように、溶接と検査の両作業を繰り返す内筒1側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程106とに分けている。
例えば、少数単位に分割して溶接と検査を繰り返す内筒1側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程106では、所定枚数(N枚)の伝熱フィン3を内筒1の外面に取り付て隅肉継手部をN箇所形成、又はN箇所形成すると共に仮付溶接して仮組した後に、そのN箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nを予め1〜5箇所程度に分割し、その分割した1〜5箇所の隅肉継手部5−1〜5−5に1パスずつ溶接すると共に、その溶接部を検査するように、隅肉継手部の溶接と検査とを繰り返すようにしている。
一方、各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110では、内筒1側の場合と同様に、外筒2側のN箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに1パスずつ繰り返し溶接(連続溶接)する外筒2側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程112と、1〜5箇所程度に分割した隅肉継手部に1パスずつ溶接すると共に、その溶接部を検査するように、溶接と検査の両作業を繰り返す外筒2側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程113とに分けている。
例えば、溶接と検査を繰り返す外筒2側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程113では、内筒1側の場合と同様であり、外筒2側に形成したN箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nを予め1〜5箇所程度に分割し、その分割した1〜5箇所の隅肉継手部8−1〜8−5に1パスずつ溶接すると共に、その溶接部を検査するように、隅肉継手部の溶接と検査とを繰り返すようにしている。
このように、二通りある作業(連続溶接又は溶接と検査の繰り返し)の何れかを選択することで、溶接優先の作業効率向上又は検査優先の溶接品質向上を図ることができる。
一方、内筒1側の検査工程107及び外筒2側の検査工程114は、本溶接した各溶接部の品質を検査する工程である。
この内筒1側の検査工程107及び外筒2側の検査工程114は、各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103と内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105の終了後、又は各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103、内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105、各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110、外筒2側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程112の終了後の必要箇所に設けられている。更に、内筒1側の検査工程107及び外筒2側の検査工程114では、各溶接部の品質を各々検査すると共に、その検査で不合格となった溶接部分とその近傍部を補修する補修溶接工程109及び116を備えている。
また、溶接と検査との両作業を繰り返し行う場合の内筒1側の検査工程117及び外筒2側の検査工程120では、該当する溶接部に溶接ビードが良好に形成されているか否か、割れやアンダーカット等の欠陥があるか否か、溶接部ののど厚L1やビード高さH1や鋼側の溶込み深さc等を満足しているか否か等の溶接品質の検査、確認を行う。この溶接品質の検査を行う内筒1側の検査工程117及び外筒2側の検査工程120で不合格となった場合には、不合格の溶接部分とその近傍部を補修溶接工程119及び122で補修するようにしている。
これらの補修溶接工程109、116、119、122では、例えば、隅肉継手部を本溶接した時の溶接条件と略同一の補修溶接条件、又は補修溶接条件よりもMIG電圧や入熱量を増加した他の補修溶接条件を使用して、1パス肉盛して補修溶接することで、欠陥部(溶接不良部)を容易に消滅できるように肉盛補修することができる。
なお、銅と鋼異材継手の仮付方法については、別の実施例(図10〜図11、図14、図16〜図21)を用いて後述する。
最初に、溶接前に行うワイヤ溶着断面積決定工程102では、所定の隅肉継手部5に形成すべき内側溶接部7ののど厚L1が伝熱フィン3の板厚T1以上(L1≧T1)になるように、ワイヤ送り速度Wf又はワイヤ送り速度Wfとワイヤ径d及び所定の溶接速度Vからワイヤ溶着断面積Awを算出して決定する。
なお、内側溶接部7(又は外側溶接部10)ののど厚L1とは、図3及び図4のワイヤ溶着断面積決定工程102中の図に示すように、伝熱フィン3側の溶融底部から溶接ビード表面までの最小距離のことである。また、ワイヤ溶着断面積決定工程102の箇所に図示した隅肉継手部5の内側溶接部7は、内筒1の外面に伝熱フィン3の一方の端面部を溶接して形成することを想定して描いているが、外筒2の内面に伝熱フィン3の他方の端面部を溶接して他方の外側溶接部10を形成することも想定内であり、図2に示した溶接構造と同様であることから省略している。
図5は、本発明の実施例1に係わる金属キャスク溶接構造物の仮付溶接を含む溶接施工方法の更に他の手順の概要を示す他のフローチャートである。図3及び図4との主な相違点は、各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103及び各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110並びに本溶接部のワイヤ溶着断面積決定工程102の前に、伝熱フィン3の両端面部の各隅肉継手を仮付溶接して仮組する各隅肉継手の仮組工程(仮付溶接)101を設けたことである。
この各隅肉継手の仮組工程101では、鋼製の内筒1の外面と外筒2の内面との間の周方向に銅製の所定枚数(N枚)の伝熱フィン3の両方端面部を各々突合せて、広角形状の隅肉継手部を略等間隔に2N箇所形成すると共に、仮付溶接して仮組するようにしている。
また、本溶接前の隅肉継手部に仮付溶接を施工する場合には、内筒1側の各隅肉継手部を本溶接する各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103又は外筒2側の各隅肉継手部を本溶接する各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110、若しくは内筒1及び外筒2の各隅肉継手部を本溶接する第1及び第2の溶接工程103及び110の前工程に設けた他の仮組工程で、TIGアークによる仮付溶接を行って隅肉継手部を仮組するようにすることもできる。
このように、所定枚数(N枚)の伝熱フィン3を事前に仮付溶接して各隅肉継手を仮組することで、剛性及び拘束性の向上や仮組精度の向上が図れ、更に、本溶接工程(第1及び第2の溶接工程103及び110)で各伝熱フィン3の端面部(仮付有隅肉継手部)を本溶接する時に発生することがある溶接変形を抑制することができる。
なお、ワイヤ溶着断面積決定工程102については、図3及び図4で説明した通りである。また、仮付溶接の終了後に、仮付有隅肉継手部を本溶接する各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103、各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110では、既に仮組済みであるため、その仮付有隅肉継手部を各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103と各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110とに分けて順次に本溶接することになる。
一方、図5に示す各隅肉継手の仮組工程101、又は図3及び図4に示す仮組工程を含む各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103では、本溶接前に所定枚数(N枚)の伝熱フィン3を内筒1側に仮付溶接して仮組するようにしている。
例えば、図6に示すように、鋼製の内筒1の外面に所定枚数(N枚)の伝熱フィン3の片方の各端面部を突き合せて広角形状の各隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nを略等間隔に各々形成、又は各々形成すると共に仮付(例えば、仮付溶接)して仮組する。
図6中の右側に示すように、隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nを形成及び仮組する場合には、例えば、TIG溶接等の溶接法によって仮付溶接し、所定長さX1の仮付部(k1、k2・・・kp)を所定間隔(X2)毎に形成して隅肉継手部を仮組すると良い。
仮付溶接すべき仮付長さX1は、15mm以上50mm以下(15≦X1≦50mm)の範囲であり、仮付間の距離間隔X2は、200mm以上600mm以下(200≦X2≦600mm)の範囲にすると良い。
また、仮付個数nについては、本溶接すべき溶接線長さXwによって変化するが、例えば、溶接線長さXwを仮付間の距離間隔X2で略均等分割した数に開始側又は終了側の1つを加えた合計数にすれば、溶接線長さXw/距離間隔X2+1となり、仮付個数nを容易に決定することができる。
また、各仮付位置についても、溶接線の開始位置と、その開始位置から距離間隔X2毎の各位置と溶接線の終了位置とに決定すれば良い。
また、仮付溶接すべき継手母材の溶接線6−1、6−2・・・6−Nは、本溶接の場合と同程度であり、伝熱フィン3の端面角部から伝熱フィン3の表面側に溶接トーチをシフトさせる距離S2(第2の距離)は、1mm以上3mm以下(1≦S2≦3mm)の範囲にすると良い。
なお、仮付長さX1が15mmより短過ぎると、仮付長さ不足に伴う強度不足になり易く、反対に、50mmより長過ぎると、本溶接の施工時に仮付部を再溶融させて本溶接ビードを形成させるのに支障が生じ易い。また、仮付間の距離間隔X2が200mmより短過ぎると、仮付個数の増加及び仮付作業の時間増加に至り、反対に、600mmより長過ぎると、仮付個数不足に伴う強度不足になり易く、また、本溶接の施工時に反り変形が生じ易いので好ましくない。また、溶接トーチをシフトさせる距離S2が1mmより短過ぎると、仮付溶接中のアーク及び溶融プールが鋼側(内筒1側)に片寄り易くなることから、反対側の伝熱フィン3側の溶融不足やアンダーカット発生に伴う強度不足になり易い。一方、距離S2が3mmより長過ぎると、仮付溶接中のアーク及び溶融プールが伝熱フィン3側に片寄り易くなることから、反対側の内筒1側の溶融不足や不正ビードになり易いので好ましくない。
このようにして決定した仮付位置に所定長さ(X1)ずつ、所定間隔(X2)毎にTIG仮付溶接を行うことで、内筒1側の場合でも、所定長さずつの仮付部を容易にn個形成(k1、k2・・・kn)することができ、また、本溶接すべき溶接線の曲がりや反り変形が小さい隅肉継手部を容易に仮組製作することができる。また、本仮付方法による仮付によって金属キャスク溶接構造物の溶接組立及び製造を継続することもできる。
また、各隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nの所定位置にn個の仮付部を形成するためのTIG仮付溶接では、仮付溶接後の本溶接で使用予定の溶接ワイヤ及びシールドガスと同一成分のSiCuワイヤ及びArガスとHeガスとの混合ガスを使用すると良い。
また、仮付溶接すべき隅肉継手部5−1の溶接線6−1上を通過するように溶接トーチを配置し、溶接トーチの先端開口部から仮付すべき隅肉継手部5−1及びその近傍表面部に向かって混合ガスを流出させ、仮付開始位置にTIGアークを発生させ、給電無のSiCuワイヤをTIGアーク中及び溶融プール内に低速送給(TIGアーク中及び溶融プール内にTIG溶接で使用予定の溶接ワイヤの速度より遅い低速で送給)し、先行ワイヤ後続TIGアークの方向に溶接トーチを走行移動させ、隅肉継手部に所定長さのTIG仮付溶接を施工して仮付ビードを形成することで、所定の仮付長さX1の仮付ビード(k1、k2・・・kn)を良好に得ることができる。
また、SiCuワイヤを用いてTIG仮付溶接することで、銅と鋼との異材溶接であっても、銅と鋼及びSiとが固溶可能な状態で適度に混合し合って割れのない良好な仮付ビード及び仮付溶接断面部を得ることができる。更に、複数の仮付部を有する隅肉継手部の本溶接を行うことが可能となる。
なお、図6中には、伝熱フィン3を2枚のみ図示して他の部分を省略してあるが、溶接すべき所定枚数(N)の伝熱フィン3は、内筒1の外面の円周方向に略等間隔に傾斜配備されている。
図7は、図6に示した内筒側の隅肉継手部に本溶接した溶接部の形状を示す部分斜視図である。
内筒1側の本溶接では。外筒2は配備せずに、伝熱フィン3を内筒1の外面に傾斜配備して広角形状の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nを形成すると共に仮付して仮組した後に、TIG−MIG溶接トーチによる本溶接の先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はTIG溶接トーチによる本溶接のTIG溶接によって、1パスずつ順番に溶接施工して溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2、・・・7−Nを形成するようにしている。
このように、仮組(仮付溶接)後の各隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nの溶接線6−1、6−2・・・6−N上から本溶接を1パスずつ順番に溶接施工することで、十分な大きさを有するのど厚L1とビード高さH1及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、浅溶込みの溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2・・・7−Nを得ることができる。
また、各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103(本溶接工程)は、上述したように、仮組及び溶接すべき内筒1側の各隅肉継手を仮付溶接して仮組した後に本溶接する工程である。
図3、図4、図6及び図7に示したように、各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103では、所定枚数(N枚)の伝熱フィン3を内筒1の外面に取り付て隅肉継手部5をN箇所形成、又はN箇所形成すると共に仮付溶接して仮組し、その後に、仮付有継手部に本溶接を施工するようにしている。
仮組後の内筒1側の本溶接では、例えば、N箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nに1パスずつ繰り返し溶接(連続溶接)する内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105と、N箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nを予め1〜5箇所程度に分割し、その分割した1〜5箇所の隅肉継手部5−1、5−2、5−3、5−4、5−5を溶接して、その溶接部を検査するように、溶接と検査の両作業を繰り返す内筒1側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程106とに分けている。
内筒1側のN箇所の溶接(本溶接)の繰り返し溶接工程105では、パス毎に溶接すべきN箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nの各溶接開始位置から終了位置までの各溶接線(伝熱フィン3の下位表面に記した点線6−1、6−2・・・6−N)に対して、仮付溶接で使用した溶接ワイヤ及びシールドガスと同一成分のCuSiワイヤ及びArガスとHeガスとの混合ガスを用い、TIG−MIG溶接トーチによる本溶接の先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はTIG溶接トーチによる本溶接のTIG溶接によって、1パスずつ順番に溶接施工する。
このため、内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105では、例えば、溶接対象の継手(内筒1及び伝熱フィン3の両方)側を回転駆動装置等で回転移動させて、仮付溶接の場合と同様に、本溶接すべき隅肉継手部5−1の溶接線6−1を鉛直方向に姿勢変更した後に、溶接線6−1上に一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はTIG溶接トーチを下向姿勢で位置決めする。
伝熱フィン3の両端面部が平坦面形状の場合の溶接線は、端面角部から伝熱フィン3の表面側にワイヤ位置又はトーチ位置(電極位置含む)を所定距離だけシフトさせた位置であり、そのシフト量S1(第1の距離S1)は、0mm以上4mm以下(0≦S1≦4mm)の範囲で設定すると良い。また、下向姿勢の一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はTIG溶接トーチを、溶接開始位置から終了位置までの溶接線6−1上に沿って走行させながら1パス溶接して溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2を形成するようにすると良い。
このように、ワイヤ位置又はトーチ位置を伝熱フィン3側に所定距離S1だけシフトさせて本溶接することで、伝熱フィン3の加熱溶融が促進されると共に鋼側の溶込み深さcが抑制されるので、十分な大きさを有するのど厚L1とビード高さH1及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、浅溶込みの溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2を得ることができる。
溶接線6−1の1パス溶接が終了すれば、溶接トーチを回避移動させ、次の溶接線6−2の溶接では、継手側を再び回転移動させて、該当する溶接線6−2を鉛直方向に姿勢変更した後に、回避移動させていた溶接トーチを溶接線6−2上に沿って移動させて下向姿勢で位置決めを行う。溶接トーチを溶接線6−2上に沿って走行させながら1パス溶接すると良い。
このように、該当する隅肉継手部5の溶接線を姿勢変更する動作、溶接線上に溶接トーチを位置決めする動作、その溶接トーチを走行させながら溶接線上に1パス溶接を施工する動作、1パス溶接施工後に溶接トーチを回避させる動作等の一連の繰り返し動作を行うことで、所定枚数(N枚)の隅肉継手部の各溶接線6−1、6−2・・・6−Nに、図7に示すように、それぞれ溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2・・・7−Nを形成することができる。
なお、TIG−MIG溶接トーチによるTIG仮付溶接、仮付溶接後の本溶接の先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はTIG溶接トーチによるTIG仮付溶接については、別の実施例(図10〜図22)を用いて後述する。
一方、内筒1側の溶接(1〜5箇所)と、その溶接部の検査を繰り返す内筒1側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程106でも、溶接施工は同様であり、上述したように、下向姿勢の一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はTIG溶接トーチを溶接開始位置から終了位置までの溶接線6−1上に沿って走行させながら1パス溶接して、溶接ビード及び溶接断面部7−1を形成するようにすると良い。溶接後には内筒1側の検査工程117で溶接品質の検査を行い、また、この溶接品質の検査で不合格となった場合には、不合格の溶接部分及びその近傍部を補修溶接工程119で補修するようにしている。
CuSiワイヤを用いて先行TIGと後続MIGとの複合溶接溶接又はTIG溶接することで、銅と鋼との異材溶接であっても、銅と鋼及びSiとが固溶可能な状態で適度に混合し合って割れのない良好な溶接ビード及び溶接断面部(溶接部)を形成することができる。
例えば、Si及びMnは、CuやFeに対して溶け合う共晶型IIに属する物質であり、このため、Si及びMn入りのCuSiワイヤを用いて溶接施工することで、上述したように、銅と鋼及びSiが固溶可能な状態で適度に混合し合って割れのない良好な溶接部が得られる。
一方、熱伝導率が高い純銅製のCuワイヤを使用することも可能であるが、純銅製のCuワイヤの場合には、シリコン入りのCuSiワイヤと比べて、銅と鋼との異材溶接に対して溶接性及び溶接品質が劣ると共に、割れ感受性も高いことから本実施例の溶接方法には採用しなかった。
そして、本実施例では、溶接施工された各隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nの溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2・・・7−Nに、少なくとも溶接部ののど厚L1が伝熱フィン3の板厚T1以上(L1≧T1)に形成され、かつ、内筒1側の溶込み深さcが0.05mm以上6mm以下(0.05≦c≦6mm)に形成されている。好ましくは、溶込み深さcを0.05mm以上4mm以下(0.05≦c≦4mm)に形成すると良い。
これによって、内筒1側の各伝熱フィン3の溶接箇所に、十分な大きさを有するのど厚L1とビード高さH1及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、かつ、割れ等の欠陥がない品質良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。また、除熱性能の向上及び製造コスト低減にも寄与することができる。更に、溶接部の引張強度についても、100N/mm2以上の強度を確実に得ることができる。
上述したのど厚L1やビード高さH1が伝熱フィン3の板厚T1よりも小さ過ぎると、例えば、内筒1側から内側溶接部7を経由して伝熱フィン3側に熱を伝導するのに必要な熱伝導断面積が減少するため、除熱性能の向上に支障をきたすことになる。
そのため、溶接部ののど厚L1を伝熱フィン3の板厚T1以上(L1≧T1)、ビード高さH1を板厚T1以上(H1≧T1)に形成している。また、伝熱フィン3側のビード止端部に発生することがあるアンダーカット深さRを(0.1×T1)以下に抑制している。更に、内筒1側の溶込み深さcが深過ぎると、溶接部の断面積に対する鋼の溶融比率(希釈率)が増加するため、溶接部分の熱伝導率が減少すると共に、割れ感受性が高くなり易い。内筒1側(鋼側)の溶込み深さcが浅過ぎると、鋼側との接合不足によって引張強度が低下し易くなる。
そのため、上述したように、内筒1側の溶込み深さcを0.05mm以上6mm以下(0.05≦c≦6mm)に形成している。好ましくは溶込み深さcを0.05mm以上4mm以下(0.05≦c≦4mm)に形成すると良い。
一方、内筒1側の各伝熱フィン3を各隅肉継手の仮組工程を含む第1の溶接工程103(本溶接工程)で溶接する過程で発生することがあるアンダーカット過大やのど厚不足又はビード高さ不足等の溶接不良部、又は溶接後の内筒1側の検査工程107、117で検出されることがあるアンダーカット過大、のど厚不足又はビード高さ不足等の溶接不良部は、補修溶接(肉盛補修)する必要がある。
図3〜図5に示すように、内筒1側の検査工程107、117及び外筒2側の検査工程114、120では、溶接品質の合否判定を行うため、例えば、のど厚L1がL1<T1、又はビード高さH1がH1<T1、又はアンダーカット深さRがR>(0.1×T1)の時は、不合格(溶接不良)と判定し、また、L1≧T1、又はH1≧T1、又はR≦(0.1×T1)の時には、合格(溶接良好)と判定するようにしている。不合格判定の溶接不良部及びその近傍部は、補修溶接工程109、119で補修溶接を実施する。
例えば、不合格判定の溶接不良部を補修する場合には、第1の溶接工程103(本溶接工程)で使用した溶接トーチと同一又は同種のTIG−MIG溶接トーチ又はTIG溶接トーチ、同一成分のSiCuワイヤ及びシールドガス(ArガスとHeガスとの混合ガス)をそれぞれ使用すると共に、溶接工程103、110で施工した時の溶接方向と同一方向に、TIG−MIG溶接トーチ又はTIG溶接トーチを走行させ、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はTIG溶接によって、溶接不良部を有する溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2の上から肉盛するように、溶接不良部及びその近傍部に補修溶接を施工して溶接不良部を消滅させると共に、良好な補修溶接ビード(補修ビード)を形成するようにしている。
また、補修溶接工程109、119で溶接不良部を補修する場合には、各隅肉継手の仮組工程を含む第1の溶接工程103で使用した溶接条件と略同一の補修溶接条件、又は補修溶接条件よりもMIG電圧や入熱量を増加した他の補修溶接条件を使用し、各隅肉継手の仮組工程を含む第1の溶接工程103で形成された溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2の銅側のビード止端部から伝熱フィン3の表面側に所定距離だけシフトさせた位置の線上に、TIG−MIG溶接トーチ又はTIG溶接トーチを配置すると良い。
そして、溶接不良部及びその近傍部の線上を通過するようにTIG−MIG溶接トーチ又はTIG溶接トーチを走行させ、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はTIG溶接によって、溶接不良部を有する溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2の上から肉盛するように、溶接不良部及びその近傍部に補修溶接を施工して溶接不良部を消滅させると共に、良好な補修ビードを形成するようにしている。
このように補修溶接することで、のど厚不足又はビード高さ不足及びアンダーカット深さ過大等の溶接不良部を確実に消滅させることができ、品質良好な補修ビード及び補修断面部を得ると共に、除熱性能向上に寄与する大きな溶接のど厚及び熱伝導断面積を確保することができる。
次に、各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110(本溶接工程)は、仮組及び溶接すべき外筒2側の各隅肉継手を仮付溶接して仮組した後に本溶接する工程である。
図3及び図4に示すように、各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110では、各隅肉継手の仮組工程を含む内筒1側の第1の溶接工程103、内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105、内筒1側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程106の終了後又は内筒1側の検査工程107及び117の終了後に、外筒2側の各隅肉継手を仮組(仮付溶接)し、その後に、仮付有継手部に本溶接を施工するようにしている。
例えば、外筒2側の仮組では、図8に示すように、内筒1側に溶接済の伝熱フィン3の外周側に一体の円筒状の外筒2を配置して、所定枚数(N)の伝熱フィン3の他方の各端面部を突き合せて、広角形状の各隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nを略等間隔に各々形成、又は各々形成すると共に仮付溶接して仮組する。
なお、図5に示したように、本溶接工程の前工程で各隅肉継手部を仮組する専用の各隅肉継手の仮組工程101がある場合には、各隅肉継手の仮組工程101の中で、外筒2側の各隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nをそれぞれ仮付溶接して仮組すると良い。
図8中の右側に示すように、隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nを形成及び仮組する場合には、例えば、TIG溶接等の溶接法によって仮付溶接し、所定長さX1の仮付部(k1、k2・・・kp)を所定間隔(X2)毎に形成して前記隅肉継手部を仮組すると良い。
上述した内筒1側の場合と同様に、外筒2側の場合でも、仮付溶接すべき仮付長さX1は15mm以上50mm以下(15≦X1≦50mm)の範囲であり、仮付間の距離間隔X2は200mm以上600mm以下(200≦X2≦600mm)の範囲であると良い。
また、仮付個数nについては、本溶接すべき溶接線長さXwによって変化するが、例えば、溶接線長さXwを仮付間の距離間隔X2で略均等分割した数に開始側又は終了側の1つを加えた合計数にすれば、溶接線長さXw/距離間隔X2+1となり、仮付個数nを容易に決定することができる。また、各仮付位置についても、溶接線の開始位置と、その開始位置から距離間隔X2毎の各位置と溶接線の終了位置とに決定すれば良い。
このようにして決定した仮付位置にTIG仮付溶接を所定長さ(X1)ずつ、所定間隔(X2)毎に行うことで、内筒1側の場合と同様に、外筒2側の場合でも、所定長さずつの仮付部を容易にn個形成することができ、また、本溶接すべき溶接線の曲がりや反り変形が小さい隅肉継手部を容易に仮組製作することができる。また、上述したように、本仮付方法による仮付によって金属キャスク溶接構造物の溶接組立及び製造を継続することもできる。
なお、各隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nの所定位置にn個の仮付部を形成するためのTIG仮付溶接では、仮付溶接後の本溶接で使用予定の溶接ワイヤ及びシールドガスと同一成分のSiCuワイヤ及びArガスとHeガスとの混合ガスを使用すると良い。また、内筒1側の仮付溶接の場合と同様に、外筒2の場合でも、仮付溶接すべき隅肉継手部8−1の溶接線9−1上を通過するように溶接トーチを配置し、溶接トーチの先端開口部から仮付すべき隅肉継手部8−1及びその近傍表面部に向かって混合ガスを流出させ、仮付開始位置にTIGアークを発生させ、給電無のSiCuワイヤをTIGアーク中及び溶融プール内に低速送給(TIGアーク中及び溶融プール内にTIG溶接で使用予定の溶接ワイヤの速度より遅い低速で送給)し、先行ワイヤ後続TIGアークの方向に溶接トーチを走行移動させ、隅肉継手部に所定長さの仮付溶接を施工して仮付ビードを形成するTIG仮付溶接を施工して仮付ビードを形成することで、所定の仮付長さX1の仮付ビード(k1、k2・・・kn)を良好に得ることができる。
また、SiCuワイヤを用いてTIG仮付溶接することで、銅と鋼との異材溶接であっても、銅と鋼及びSiとが固溶可能な状態で適度に混合し合って割れのない良好な仮付ビード及び仮付溶接断面部を得ることができる。更に、複数の仮付部を有する隅肉継手部の本溶接を行うことが可能となる。
なお、図8中には、図6と同様に、伝熱フィン3を2枚のみ図示して他の部分を省略しているが、溶接すべき所定枚数(N)の伝熱フィン3は、内筒1及び外筒2の両面に略等間隔に傾斜配備されており、かつ、内筒1側の溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2・・・7−Nは既に形成済であり、継手側の姿勢を反転して図示している。
図9は、図8に示した外筒2側の隅肉継手部に本溶接した溶接部の形状を示す部分斜視図である。
外筒2側の本溶接では、伝熱フィン3を外筒2の内面に傾斜配備して広角形状の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nを形成すると共に、仮付して仮組した後に、内筒1側の場合と同様に、TIG−MIG溶接トーチによる本溶接の先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はTIG溶接トーチによる本溶接のTIG溶接によって、1パスずつ順番に溶接施工して溶接ビード及び溶接断面部10−1、10−2、・・・10−Nを形成するようにしている。
このように、仮組(仮付溶接)後の各隅肉継手部8−1、8−8・・・8−Nの溶接線上から本溶接を1パスずつ順番に溶接施工することで、十分な大きさを有するのど厚L1とビード高さH1及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、浅溶込みの溶接ビード及び溶接断面部10−1、10−2・・・10−Nを得ることができる。
また、各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110では、図3、図4、図8及び図9に示したように、外筒2側に隅肉継手部をN箇所形成、又はN箇所形成すると共に仮付溶接して仮組した後に、そのN箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに1パスずつ繰り返し溶接(連続溶接)する外筒2側のN箇所の溶接(本溶接)の繰り返し溶接工程112と、1〜5箇所程度の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに1パスずつ溶接すると共に、その溶接後の溶接部を検査するように溶接と検査の両作業を繰り返す外筒2側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程113とに分けている。
例えば、外筒2側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程112では、内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105の場合と同様に、パス毎に溶接すべきN箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nの各溶接開始位置から終了位置までの各溶接線(伝熱フィン3の下位表面に記した点線9−1、9−2・・・9−N)に対して、上述したように、仮付溶接で使用した溶接ワイヤ及びシールドガスと同一成分のCuSiワイヤ及びArガスとHeガスとの混合ガスを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はTIG溶接によって、1パスずつ順番に溶接施工する。
このため、内筒1側の場合と同様に、外筒2側の本溶接の場合でも、溶接対象の継手(内筒1と外筒2及び伝熱フィン3)側を回転駆動装置等で回転移動させて、仮付溶接の場合と同様に、本溶接すべき隅肉継手部8−1の溶接線9−1を鉛直方向に姿勢変更した後に、溶接線9−1上に、一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はTIG溶接トーチを下向姿勢で位置決めする。
上述したように、伝熱フィン3の両端面部が平坦面形状の場合の溶接線は、端面角部から伝熱フィン3の表面側にワイヤ位置又はトーチ位置(電極位置含む)を所定距離だけシフトさせた位置であり、そのシフト量S1は、0≦S1≦4mmの範囲で設定すると良い。下向姿勢の一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はMIG溶接トーチを、溶接開始位置から終了位置までの溶接線9−1上に沿って走行させながら1パス溶接して溶接ビード及び溶接断面部10−1を形成するようにすると良い。
このように、ワイヤ位置又はトーチ位置を伝熱フィン3側に所定距離だけシフトさせて溶接することで、伝熱フィン3の加熱溶融が促進されると共に鋼側の溶込み深さが抑制されるので、十分な大きさを有するのど厚L1とビード高さH1及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、浅溶込みの溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。
溶接線9−1の1パス溶接が終了すれば、溶接トーチを回避移動させ、次の溶接線9−2の溶接及びそれ以降の溶接線の溶接も同様であり、上述したように、該当する隅肉継手部の溶接線を姿勢変更する動作、溶接線上に溶接トーチを位置決めする動作、溶接トーチを走行させながら溶接線上に1パス溶接を施工する動作、1パス溶接施工後に溶接トーチを回避させる動作等の一連の繰り返し動作を行うことで、所定枚数(N枚)の隅肉継手部の各溶接線9−1、9−2・・・9−Nに、それぞれ溶接ビード及び溶接断面部10−1、10−2・・・10−Nを形成することができる。
一方、外筒2側の溶接(1〜5箇所)と、その溶接部の検査とを繰り返す外筒2側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程113でも、内筒1側の場合と同様であり、上述したように、下向姿勢の一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はTIG溶接トーチを、溶接開始位置から終了位置までの溶接線9−1上に沿って走行させながら1パス溶接して溶接ビード及び溶接断面部10−1を形成するようにすると良い。溶接後に外筒2側の検査工程120で溶接品質の検査を行い、また、この外筒2側の検査工程120で不合格となった場合は、不合格の溶接部分及びその近傍部を補修溶接工程122で補修するようにしている。
また、図3、図4及び図9に示したように、溶接施工された各隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nの溶接ビード及びその溶接断面部10−1、10−2・・・10−Nには、少なくとも溶接部ののど厚L1が伝熱フィン3の板厚T1以上(L1≧T1)、ビード高さH1が板厚T1以上(H1≧T1)に形成されており、また、アンダーカット深さRは(0.1×T1)以下に抑制されている。
これによって、上述した内筒1側の場合と同様に、外筒2側の各伝熱フィン3の溶接箇所でも、十分な大きさを有するのど厚L1とビード高さH1及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、かつ、割れ等の欠陥がない品質良好な溶接ビード及びその溶接断面部10−1、10−2・・・10−Nを得ることができる。
外筒2側の繰り返し溶接が終了した後の外筒2側の検査工程114では、内筒1側の溶接検査と同様に、外筒2側の各溶接部に溶接ビードが良好に形成されているか否か、割れやアンダーカット等の欠陥があるか否か、のど厚L1やビード高さH1や溶込み深さc等を満足しているか否か等の溶接品質の検査・確認を行う。合格(工程115)であれば、次工程の125へステップに進み、不合格の溶接箇所があれば、補修溶接工程116に進み、不合格の溶接箇所及び近傍を補修溶接するようにしている。
内筒1側の場合と同様に、外筒2側の溶接部に発生したアンダーカット過大、のど厚不足又はビード高さ不足等の溶接不良部は、補修溶接(肉盛補修)する必要がある。図3及び図4に示したように、外筒2側の検査工程114、120では、内筒1側の検査の場合と同様に、溶接品質の合否判定を行うため、例えば、のど厚L1がL1<T1、又はビード高さH1がH1<T1、又はアンダーカット深さRがR>(0.1×T1)の時は不合格(溶接不良)と判定し、不合格判定の溶接不良部及びその近傍部は、補修溶接工程116、122で補修溶接を実施する。
内筒1側の場合と同様に、不合格判定の溶接不良部を補修溶接工程116、122で補修する場合には、各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110(本溶接工程)で使用した溶接トーチと同一又は同種のTIG−MIG溶接トーチ又はTIG溶接トーチ、同一成分のSiCuワイヤ及びシールドガス(ArガスとHeガスとの混合ガス)をそれぞれ使用すると共に、各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110で施工した時の溶接方向と同一方向にTIG−MIG溶接トーチ又はTIG溶接トーチを走行させ、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はTIG溶接によって、溶接不良部を有する溶接ビード部の上から肉盛するように、溶接不良部及びその近傍部に補修溶接を施工して溶接不良部を消滅させると共に、良好な補修ビードを形成するようにしている。
また、補修溶接工程116、122で溶接不良部を補修する場合には、上述したように、各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110で使用した溶接条件と略同一の補修溶接条件、又は補修溶接条件よりもMIG電圧や入熱量を増加した他の補修溶接条件を使用し、各隅肉継手の仮組工程を含む外筒2側の第2の溶接工程110で形成された溶接ビード部の銅側のビード止端部から伝熱フィン3の表面側に所定距離だけシフトさせた位置の線上にTIG−MIG溶接トーチを配置する。
そして、溶接不良部及びその近傍部の線上を通過するようにTIG−MIG溶接トーチを走行させ、先行TIGと後続MIGとの複合溶接によって、溶接不良部を有する溶接ビード部の上から肉盛するように、溶接不良部及びその近傍部に補修溶接を施工して溶接不良部を消滅させると共に、良好な補修ビードを形成するようにしている。
このように補修溶接することで、上述したように、のど厚L1不足又はビード高さH1不足及びアンダーカット深さR過大等の溶接不良部を確実に消滅させることができ、品質良好な補修ビード及び補修断面部を得ると共に、除熱性能向上に寄与する大きな溶接のど厚及び熱伝導断面積を確保することができる。
図10及び図11は、本実施例1に係わる一体構造のTIG−MIG溶接トーチの概略構成及びトーチ配置を示すものである。
図10に示すように、一体構造のTIG−MIG溶接トーチ11の内部には、タングステン等の非消耗電極13、その非消耗電極13の先端部及び仮付部分に向けて第1のシールドガス14を流出させる第1のガス通路(図示せず)等を備えたTIGユニット12と、CuSiワイヤ等の消耗ワイヤ18(溶接ワイヤともいう)、その消耗ワイヤ18が挿通するワイヤ通路(図示せず)、消耗ワイヤ18の先端部及び仮部分に向けて第2のシールドガス19を流出させる第2のガス通路等を備えたMIGユニット17とが配備されている。
第1及び第2のシールドガス14及び19は、ガスの種類や成分を変更可能であるが、ここではArガスとHeガスとの混合ガスをシールドガスに使用している。銅と鋼との溶接にArガスとHeガスとの混合ガスを使用することで、純Arガスの場合と比べて、電位傾度が高く、溶接性や濡れ性等が優れており、品質良好な仮付部(又は溶接部)を得ることが容易となる。図示していないが、この他にも、TIG−MIG溶接トーチ11を循環水で冷却する水路が設けられている。
仮付溶接に使用する溶接トーチは、仮付溶接後の本溶接でも使用する溶接トーチと同一又は同種のTIG−MIG溶接トーチ11である。TIG−MIG溶接トーチ11は、仮付溶接(又は本溶接)すべき及び鋼製の内筒1と銅製の伝熱フィン3との隅肉継手部5の溶接線6に対して、走行移動可能なアーム駆動装置31−1で駆動される長尺アーム31の先端部に取付冶具(図示せず)を介して略下向姿勢に取付け、又は長尺アーム31の先端部に取付冶具及び左右、上下移動可能な2軸駆動テーブル(図示せず)を介して取付け、かつ、溶接線6上に配置されている。なお、20−1はTIG溶接電源15、MIG溶接電源20及びアーム駆動装置31−1を制御する溶接制御機器である。
また、走行移動可能な長尺アーム31の代わりに、多関節可動式の溶接ロボットを用い、この溶接ロボットの手首部にTIG−MIG溶接トーチ11を配置(取付)して、TIG−MIG溶接トーチ11を先行ワイヤ後続TIGアークの仮付方向25bに走行移動させながら、給電無の先行ワイヤと給電有のTIGアークによるTIG仮付溶接を行うようにすると良い。
なお、仮付溶接後にTIG−MIG溶接トーチ11を使用して仮付方向25bと逆方向に本溶接を行う先行TIGと後続MIGとの複合溶接については、図12及び図13を用いて後述する。
図10に示すように、非消耗電極13側のTIGユニット12は、仮付方向25bに前進角α1で傾斜配置され、また、消耗ワイヤ18側のMIGユニット17は、仮付方向25bに後退角α2で傾斜配置されている。先行MIG側(消耗ワイヤ18側)の後退角α2は、15〜60度の範囲にすると良い。好ましくは30〜60度の範囲に配置すると更に良い。他方の後続TIG側の前進角α1は、0〜45度の範囲にすると良い。好ましくは15〜30度の範囲に配置すると更に良い。
また、仮付溶接後に仮付方向25bと逆方向に本溶接する場合と同様に、非消耗電極13の先端部の延長線が継手母材の溶接線6と交差する位置から消耗ワイヤ18の先端部までの両電極間の距離間隔f1は、3〜9mmの範囲にすると良い。好ましくは4〜7mmの範囲に配置すると更に良い。また、継手母材の溶接線6から非消耗電極13の先端部までの電極高さf2は、3〜9mmの範囲にすると良い。好ましくは4〜7mmの範囲に配置すると更に良い。
このように、TIG−MIG溶接トーチ11を配置して溶接線上を仮付方向25bに走行移動及び溶接動作させることで、給電無の先行ワイヤと給電有の後続TIGアークによるTIG仮付溶接を安定に施工することが可能となる。
なお、TIGユニット12の前進角α1及びMIGユニット17の後退角α2が15度よりも小さ過ぎると、例えば、非消耗電極13と消耗ワイヤ18との距離間隔f1を所定範囲に接近させることができなくなり、また、給電無の消耗ワイヤ(溶接ワイヤ)18がTIGアーク中及び溶融プール内で溶融され難く不良ビードになり易い。一方、前進角α1及び後退角α2が上述した角度範囲よりも大き過ぎると、TIGアーク22の傾斜を大きくなり過ぎて不安定なアーク及び不規則なワイヤ溶融になって不良ビードになり易い。
従って、後続TIG側の前進角α1は、0〜45度の範囲にすると良いし、消耗ワイヤ18側の後退角α2は、15〜60度の範囲にすると良い。
また、非消耗電極13と消耗ワイヤ18との距離間隔f1の値が3mmよりも小さ過ぎると、例えば、消耗ワイヤ18がTIGアーク22に接近し過ぎ、給電無の消耗ワイヤ18先端部の溶滴がTIG側の非消耗電極13に付着して非消耗電極13を損傷させることがあり、また、不安定なワイヤ溶融によって溶融プール24の形成も不安定になり易い。
一方、非消耗電極13と消耗ワイヤ18との距離間隔f1が9mmよりも大き過ぎると、給電無の消耗ワイヤ(溶接ワイヤ)18がTIGアーク22中及び溶融プール24内で溶融され難く不良ビードになり易い。
従って、非消耗電極13の先端部の延長線が継手母材の溶接線6と交差する位置から消耗ワイヤ18の先端部までの両電極間の距離間隔f1は、3〜9mmの範囲にすると良い。更に、継手母材の溶接線6から非消耗電極13の先端部までの電極高さf2が3mmよりも小さ過ぎると、例えば、給電無の消耗ワイヤ18がTIGアーク22内及び溶融プール24内にで溶融され難く不良ビードになり易い。
一方、継手母材の溶接線6から非消耗電極13の先端部までの電極高さf2が9mmよりも大き過ぎると、給電無の消耗ワイヤ18が不安定な溶融状態、ワイヤ溶滴の巨大化及び不規則な溶滴移行で不良ビードになり易い。
従って、継手母材の溶接線6から非消耗電極13の先端部までの電極高さf2は、3〜9mmの範囲にすると良い。
図11に示すように、TIG溶接電源15は、給電ケーブル16−1、16−2を経由してTIGユニット12内の非消耗電極13と継手母材の内筒1との間に接続され、かつ、非消耗電極13側の極性を負極(マイナス)とし、内筒1側の極性を正極(プラス)として、TIGアーク22を仮付溶接箇所に発生させる。他方のMIG溶接電源(ワイヤ送給装置も含む)20は、給電ケーブル21−1、21−2を経由してMIGユニット17内の消耗ワイヤ18と継手母材の内筒1との間に接続されているが、給電無のままの消耗ワイヤ18をTIGアーク22中及び溶融プール24内に低速送給(TIGアーク中及び溶融プール内にTIG−MIG複合溶接又はTIG溶接で使用する溶接ワイヤの速度より遅い低速で送給)している。
そして、仮付溶接すべき溶接線6上を通過するようにTIG−MIGトーチを仮付方向25bに走行移動させながら、給電無の先行ワイヤと給電有の後続TIGアークによるTIG仮付溶接を施工して仮付ビードk1を形成するようにしている。
仮付溶接すべき継手母材の溶接線6は、上述したように、伝熱フィン3の端面角部から伝熱銅フィン表面側に溶接トーチをシフトさせる距離S2(第2の距離)は、1mm以上3mm以下(1≦S2≦3mm)の範囲にすると良い。
上述したように、溶接トーチをシフトさせる距離S2が1mmより短過ぎると、仮付溶接中のアーク及び溶融プールが鋼側(内筒1側)に片寄り易くなることから、反対側の伝熱フィン3側の溶融不足やアンダーカット発生に伴う強度不足になり易い。一方、距離S2が3mmより長過ぎると、仮付溶接中のアーク及び溶融プールが伝熱フィン3側に片寄り易くなることから、反対側の内筒1側の溶融不足や不正ビードになり易いので好ましくない。
また、図19で後述するが、仮付部にTIG仮付溶接すべきワイヤ溶着断面積Akについては、仮付溶接の終了後に施工する本溶接とのバランスの観点から、本溶接部のワイヤ溶着断面積Awよりも小さく(Ak<Aw)、かつ、15mm2以上29mm2以下(15≦Ak≦29mm2)の範囲にすると良い。好ましくは、仮付部のワイヤ溶着断面積Akを15≦Ak≦26mm2の範囲にすると更に良い。
従って、TIG−MIG溶接トーチ11を距離S2の範囲(1≦S2≦3mm)内に位置決めすると共に、仮付部のワイヤ溶着断面積Akを15≦Ak≦29mm2の範囲内に設定して、給電無の先行ワイヤと給電有の後続TIGアークによるTIG仮付溶接を施工することで、所定長さの仮付ビード及び仮付断面部(k1、k2)を良好に形成することができる。
図12及び図13は、実施例2として仮付溶接終了後の本溶接に使用するTIG−MIG溶接トーチの概略構成及びトーチ配置を示すものである。
本実施例と図10及び図11との主な相違点は、溶接方向25aが仮付方向25bと逆方向であること、TIG側の非消耗電極13からTIGアーク22を発生させると共に、MIG側から送給する消耗ワイヤ18に給電してMIGアーク23をTIGアーク22の後方近傍に発生させ、先行TIGアークと後続MIGアークによる複合溶接を溶接方向25aに施工することである。
即ち、同一又は同種のTIG−MIG溶接トーチ11及び同一成分の非消耗ワイヤ(SiCuワイヤ)を用いて、仮付には給電無の消耗ワイヤ18と給電有の後続TIGアーク22によるTIG仮付溶接、本溶接には先行TIGアーク22と後続MIGアーク23との複合溶接をそれぞれ施工できるようにしたことである。
図12に示すように、溶接トーチの構成は仮付の場合と同様であるが、溶接方向25aが仮付方向25bと逆方向であるため、非消耗電極13側のTIGユニット12は、溶接方向25aに後退角α1で傾斜配置され、また、消耗ワイヤ18側のMIGユニット17は、溶接方向25aに前進角α2で傾斜配置されている。仮付の場合と同様に、本溶接の場合には先行TIG側の後退角α1は、0〜45度の範囲にすると良いし、後続MIG側の前進角α2は、15〜60度の範囲にすると良い。後退角及び前進角の呼び名は逆転するが、α1及びα2の各値の範囲は、本溶接の場合でも仮付の場合でも同一にすることで、TIG−MIG溶接トーチ11の兼用使用が可能となり、寸法管理等も簡単にすることができる。
また、仮付の場合と同様に、非消耗電極13の先端部の延長線が継手母材の溶接線6と交差する位置から消耗ワイヤ18の先端部までの両電極間の距離間隔f1は、3〜9mmの範囲にすると良い。好ましくは、4〜7mmの範囲に配置すると更に良い。また、継手母材の溶接線6から非消耗電極13の先端部までの電極高さf2は、3〜9mmの範囲にすると良い。好ましくは、4〜7mmの範囲に配置すると更に良い。
このように、TIG−MIG溶接トーチ11を配置して溶接線上を走行移動及び溶接動作させることで、先行TIGアーク22と後続MIGアーク23との複合溶接を安定に施工することができ、また、仮付溶接に対しても、給電無の先行ワイヤと給電有の後続TIGアーク22によるTIG仮付溶接を容易に施工することができる。
なお、TIGユニット12の後退角α1及びMIGユニット17の前進角α2が15度よりも小さ過ぎると、例えば、非消耗電極13と消耗ワイヤ18との距離間隔f1を所定範囲に接近させることができなくなり、また、TIGアーク22とMIGアーク23で形成する1つの溶融プール24の形状が細長く不安定になり易い。
一方、後退角α1及び前進角+α2が上述した角度範囲よりも大き過ぎると、MIGアーク23によって溶融される消耗ワイヤ18の溶滴が、スパッタとなって先行TIG側方向に飛び散り易く、そのスパッタの一部が先行TIG側の非消耗電極13に付着して非消耗電極13を損傷させることがあり、また、ガスシールド性が低下し易いので好ましくない。
従って、先行TIG側の後退角α1は、0〜45度の範囲にすると良いし、後続MIG側の前進角α2は、15〜45度の範囲にすると良い。
また、非消耗電極13と消耗ワイヤ18との距離間隔f1の値が3mmよりも小さ過ぎると、例えば、TIGアーク22とMIGアーク23が接近し過ぎ、後続MIG側の消耗ワイヤ18から発生したスパッタの一部が先行TIG側の非消耗電極13に付着して非消耗電極13を損傷させることがあり、しかも、TIGアーク22とMIGアーク23の挙動も不安定になり易い。
一方、非消耗電極13と消耗ワイヤ18との距離間隔f1が9mmよりも大き過ぎると、TIGアーク22とMIGアーク23で形成する1つの溶融プール24の形状が細長く不安定になり易く、所望の溶接ビード及び溶接断面部が得られない場合がある。
従って、非消耗電極13の先端部の延長線が継手母材の溶接線6−1と交差する位置から消耗ワイヤ18の先端部までの両電極間の距離間隔f1は、3〜9mmの範囲にすると良い。
更に、継手母材の溶接線6から非消耗電極13の先端部までの電極高さf2が3mmよりも小さ過ぎると、例えば、TIGアーク22の短縮に伴うアーク電圧低下及び入熱減少等によって溶融不足が発生することがあり、また、非消耗電極13の先端部が溶融プール24の表面上に接近しているので、溶融プール24の挙動変化や飛散したスパッタの影響を受け易くなる。
一方、継手母材の溶接線6−1から非消耗電極13の先端部までの電極高さf2が9mmよりも大き過ぎると、TIGアーク22の延長に伴うアーク不安定化及び入熱増加等によって、伝熱フィン3が過剰に溶融されてアンダーカットの発生要因になることがあり、また、ガスシールド性も低下し易いので好ましくない。
従って、継手母材の溶接線6−1から非消耗電極13の先端部までの電極高さf2は、3〜9mmの範囲にすると良い。
図13に示すように、仮付溶接終了後の仮付有継手部(伝熱フィン3と内筒1との異材継手の隅肉継手部5)を本溶接工程で先行TIGアーク22と後続MIGアーク23との複合溶接によって本溶接する場合には、最初に、非消耗電極13側の極性を負極(マイナス)とし、内筒1側の極性を正極(プラス)として、シールドガス14の流出雰囲気内で、TIGアーク22を継手母材の溶接開始位置の溶接線6上に発生させる。
次に、他方の消耗ワイヤ18側の極性を正極(プラス)とし、内筒1側の極性を負極(マイナス)として、シールドガス19の流出雰囲気内で、MIGアーク23をTIGアーク22の後方近傍に発生させる。そして、先行TIG側の非消耗電極13を流れる第1の溶接電流Iaと、後続MIG側の消耗ワイヤ18(CuSiワイヤ)を流れる第2の溶接電流Ibとで生じる反発作用の磁力によって、相互に反発し合う2つのTIGアーク22及びMIGアーク23で1つの溶融プール24を形成させ、仮付有継手部の溶接線6上を通過するように溶接方向25aへ移動させながら、先行TIGと後続MIGとの複合溶接を施工して溶接ビード及び溶接断面部7−1を形成するようにしている。
第1の溶接電流Iaと第2の溶接電流Ibとの比(Ia/Ib)は、約0.8〜1.2の範囲に設定して出力させると良い。また、第1及び第2の溶接電流Ia及びIbは、両方共に直流電流を給電して、直流同士の2つのアークを形成するようにすると良い。
非消耗電極13を流れる第1の溶接電流Iaと、消耗ワイヤ18を流れる第2の溶接電流Ibとの比(Ia/Ib=0.8〜1.2)の範囲で直流同士の溶接電流Ia、Ibを出力させることで、相互に反発し合うTIGアーク22とMIGアーク23が略下向き方向に偏向した状態で持続されると共に、1つの溶融プール24を安定に形成することができる。また、消耗ワイヤ18の先端部からの溶滴が飛散することなく、溶融プール24内へ容易に溶滴移行し易くなり、良好な溶接ビード及び溶接断面部7を確実に得ることができる。
なお、非消耗電極13を流れる第1の溶接電流Iaと、消耗ワイヤ18を流れる第2の溶接電流Ibとの比(Ia/Ib)が小さ過ぎる場合又は大き過ぎる場合には、相互に反発し合うTIGアーク22とMIGアーク23に大きな偏差が生じるため、電流が大きい側のアーク力の影響により電流の小さい側のアーク挙動が不安定となって溶接不良になり易い。
一方、例えば、TIG側の極性を負極(マイナス)から正極(プラス)に反転させた場合は、溶接中にタングステン等の非消耗電極13が高温過熱によって激しく消耗するため、アーク挙動が不安定となって溶接不良になり易く、時間の長い溶接が困難となる。
また、TIGアーク22とMIGアーク23が相互に引き合う方向に偏向するため、MIG側の消耗ワイヤ18の溶滴が、TIG側の非消耗電極13に溶着して短時間で電極消耗が発生することもある。他方のMIG側の極性を正極(プラス)から負極(マイナス)に反転させた場合には、不安定なアーク挙動及びスパッタの発生を伴うため溶接不良になり易く、時間の長い溶接が困難となる。
また、本溶接すべき仮付有継手部の溶接線6は、仮付溶接の場合と同程度であり、伝熱フィン3の端面角部から伝熱フィン3の表面側にワイヤ位置又はトーチ位置(電極位置含む)を所定距離だけシフトさせた位置であり、その距離S1(第1の距離S1)は、S1=0〜4mm(0≦S1≦4mm)の範囲で設定すると良い。好ましくは1≦S1≦3mmの範囲にすると更に良い。
なお、シフト量S1が0mmより小さ過ぎると、ワイヤ位置又はトーチ位置が鋼側寄りになるため、溶接時のアーク及び溶融プールが鋼側寄りに形成されることから、鋼側の溶込み深さは増加し易くなるが、反対側の銅側(伝熱フィン3側)の溶融不足の影響で、溶接部のど厚L1及びビード高さH1が減少し、影響過大の場合にはのど厚不足又はビード高さ不足に至る可能性が高い。
一方、シフト量S1が4mmより大き過ぎると、溶接時のアーク及び溶融プールが伝熱フィン3側寄りに形成され易いため、溶接部のど厚L1及びビード高さH1は増加し易くなるが、伝熱フィン3の溶融過大による溶落ち、若しくは反対側の鋼側の溶融不足による接合不良(強度不足)に至る可能性が高い。
また、複数の仮付部(k1、k2・・・kn)を有する仮付有継手部の溶接線6を先行TIGと後続MIGとの複合溶接する場合には、本溶接部ののど厚L1及びビード高さH1等の品質確保(L1≧T1、H1≧)並びに仮付部とのバランスの観点から、本溶接すべきワイヤ溶着断面積Awは仮付部のワイヤ溶着断面積Akより大きく(Aw>Ak)なるように、MIGアーク23側の消耗ワイヤ18の送給速度を増加すると良い。例えば、ワイヤ溶着断面積Awを30mm2以上55mm2以下(30≦Ak≦55mm2)の範囲にすると良い。好ましくは、ワイヤ溶着断面積Awを30≦Ak≦50mm2の範囲にすると更に良い。
なお、ワイヤ溶着断面積Awが30mm2より小さ過ぎると、仮付部の上から本溶接した時に、仮付部を再溶融できずに溶接不足になったり、本溶接部ののど厚不足やビード高さ不足になったりする場合がある。また、ワイヤ溶着断面積Awが55mm2より大き過ぎると、のど厚L1及びビード高さH1等は確保できるが、MIG電流増加や入熱増加を伴うことから、溶融金属の垂れ下がりやアンダーカットが発生する場合がある。
従って、上述したように、シフトさせる距離S1を0≦S1≦4mmの範囲内にTIG−MIG溶接トーチ11を位置決めすると共に、ワイヤ溶着断面積Awを30≦Ak≦55mm2の範囲内に設定して先行TIGと後続MIGとの複合溶接を施工することで、溶接品質を満足する溶接ビード及び溶接断面部7−1を形成することができる。
図13中には、説明し易くするために中央付近の溶接線6上にTIGアーク22とMIGアーク23及び1つの溶融プール24を図示しているが、実際にTIGアーク22とMIGアーク23を発生させる箇所は、溶接すべき隅肉継手部5の溶接線6上の溶接開始位置である。
例えば、溶接対象の継手(内筒1及び伝熱フィン3)側を回転駆動装置等で回転移動させて、溶接すべき隅肉継手部5の溶接線6を鉛直方向に姿勢変更した後に、溶接線6−1上に一体構造のTIG−MIG溶接トーチ11を下向姿勢で位置決めする。その後、TIG−MIG溶接トーチ11を溶接線6上の溶接開始位置に停止させる。TIG−MIG溶接トーチ11内のTIGユニット12の先端開口部と、MIGユニット17の先端開口部との両方からArガスとHeガスとの混合ガスを溶接開始位置及びその近傍で流出させながら、先行TIGの非消耗電極13の先端部から電極負極(マイナス)のTIGアーク22を発生させ、その第1の溶接電流を定常値Iaまで到着させた直後又は所定時間経過後に、後続MIGの消耗ワイヤ18として送給するCuSiワイヤからワイヤ正極(プラス)のMIGアーク23を、TIGアーク22の後方近傍に発生させると共に、その第2の溶接電流Ibを定常値まで到達させ、相互に反発し合うTIGアーク22とMIGアーク23で1つの溶融プール24を形成させ、溶接開始位置に発生させた直後又は所定時間経過後に、TIG−MIG溶接トーチ11を走行させて、1つの溶融プール24を溶接線方向に移動させながら隅肉継手部5の溶接終了位置まで溶接するようにしている。
このように溶接施工することで、上述したように、隅肉継手部5の溶接開始位置から終了位置までの溶接線6上に良好な溶接ビード及び溶接断面部7を形成することができる。